(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186147
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】スポット溶接方法、及びスポット溶接用制御装置
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20221208BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/24 317
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094229
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】木許 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 麻人
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AA04
4E165AB02
4E165AB11
4E165AC01
4E165BB02
4E165BB13
4E165BB25
4E165CA02
4E165CA05
4E165CA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】電極の摩耗の程度に関わらず、所望サイズ及び形状のナゲットを安定的に形成することのできるスポット溶接方法を提供する。
【解決手段】溶接電極により接合予定部を第1の加圧力F1で加圧しながら第1の電流値C1を通電する第1のステップS1と、加圧力を第2の加圧力F2まで低下させながら、電流値C1よりも低い第2の電流値C2を通電する第2のステップS2と、加圧力F2で加圧しながら、C1よりも高い第3の電流値C3を通電する第3のステップS3と、F2で加圧しながら、C3よりも高い第4の電流値C4を通電する第4のステップS4とを少なくとも備えると共に、第2のステップS2の後でかつ第3のステップS3の前に、F2で加圧しながら、C2よりも大きな第5の電流値C5を通電し、然る後、C3よりも小さい第6の電流値C6にまで通電時の電流値を下げる第5のステップS5をさらに備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属板からなる部品の接合予定部を溶接電極で加圧した状態で通電することにより、前記接合予定部を溶接するスポット溶接方法であって、
前記溶接電極により前記接合予定部を第1の加圧力F1で加圧しながら第1の電流値C1を通電する第1のステップと、
前記溶接電極による加圧力を第1の加圧力F1からそれよりも低い第2の加圧力F2 まで低下させながら、第1の電流値C1よりも低い第2の電流値C2を通電する第2のステップと、
前記溶接電極により前記接合予定部を第2の加圧力F2で加圧しながら、第1の電流値C1よりも高い第3の電流値C3を通電する第3のステップと、
前記溶接電極により前記接合予定部を第2の加圧力F2で加圧しながら、第3の電流値C3よりも高い第4の電流値C4を通電する第4のステップとを少なくとも備えたインダイレクトスポット溶接方法において、
第2のステップの後でかつ第3のステップの前に、第2の加圧力F2で加圧しながら、第2の電流値C2よりも大きな第5の電流値C5を通電し、然る後、第3の電流値C3よりも小さい第6の電流値C6にまで通電時の電流値を下げる第5のステップをさらに備えることを特徴とする、スポット溶接方法。
【請求項2】
第5のステップにおける第5の電流値の通電時間を、第3のステップにおける通電時間よりも短く設定する請求項1に記載のスポット溶接方法。
【請求項3】
複数の金属板からなる部品の接合予定部を溶接電極で加圧した状態で通電することにより、前記接合予定部を溶接するスポット溶接装置に接続され、前記溶接電極の加圧力及び通電時の電流値を制御する制御装置であって、
前記溶接電極により前記接合予定部を第1の加圧力F1で加圧しながら、第1の電流値C1を通電する第1のステップと、
前記溶接電極による加圧力を第1の加圧力F1からそれよりも低い第2の加圧力F2まで低下させながら、第1の電流値C1よりも低い第2の電流値C2を通電する第2のステップと、
前記溶接電極により前記接合予定部を第2の加圧力F2で加圧しながら、第1の電流値C1よりも高い第3の電流値C3を通電する第3のステップと、
前記溶接電極により前記接合予定部を第2の加圧力F2で加圧しながら、第3の電流値C3よりも高い第4の電流値C4を通電する第4のステップとが設けられるように加圧力及び電流値を制御するインダイレクトスポット溶接用制御装置において、
第2のステップの後でかつ第3のステップの前に、第2の加圧力F2で加圧しながら、第2の電流値C2よりも大きな第5の電流値C5を通電し、然る後、第3の電流値C3よりも小さい第6の電流値C6にまで通電時の電流値を下げる第5のステップがさらに設けられるように加圧力及び電流値を制御することを特徴とするスポット溶接用制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット溶接方法、及びスポット溶接用制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の車体の組立工程では、複数の鋼板に電極を当接させて通電することにより、鋼板同士の接触部を抵抗発熱により溶融させてナゲットを形成するスポット溶接が行われている。
【0003】
また、スポット溶接では、複数の鋼板間に所望サイズ及び形状のナゲットを形成するために、種々の通電パターンで通電を行うことが提案されている。例えば、特許文献1には、ナゲットを成長させる程度の高い電流値を維持する時間帯と、スパッタを発生させずに鋼板を軟化させる程度の低い電流値を維持する時間帯を交互に繰り返しながら、電流値を徐々に高くする通電パターンで通電を行うダイレクトスポット溶接方法が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、鋼板間の隙間(板隙とも称する。)の有無に関わらず、所望サイズ及び形状のナゲットを安定的に得ることを目的として、通電パターンに加えて、加圧力を所定のパターンで変化させながら通電するインダイレクトスポット溶接方法が提案されている。具体的には、第1のステップで、溶接電極により接合予定部を第1の加圧力で加圧しながら、溶接電極とアース電極との間に第1の電流値を通電し、第2のステップで、溶接電極による加圧力を第1の加圧力から第2の加圧力まで低下させながら、第1の電流値よりも低い第2の電流値を通電し、第3のステップで、溶接電極により接合予定部を第2の加圧力で加圧しながら、第1の電流値よりも高い第3の電流値を通電し、第4のステップで、溶接電極により接合予定部を第2の加圧力で加圧しながら、第3の電流値よりも高い第4の電流値を通電することにより、所望のナゲットを安定的に形成するインダイレクトスポット溶接方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-181621号公報
【特許文献2】特開2019-206024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この種のスポット溶接において、電極の継続使用に伴い電極の先端が摩耗することはよく知られている。ここで、実際の量産工程では、溶接対象となるワークの個体差やティーチングの個人差などの要因によって、電極の先端が歪な形状に摩耗(変形)することが起こり得る。このように電極の先端が歪な形状に変形すると、電極の加圧により形成される鋼板間の接触状態(特に加圧した部分の接触状態)が不安定になるため、この状態のままでナゲットの生成及び成長を促す本通電を実施すると、電極の新品時と比較して鋼板間の接触部分における電流密度が過大になり、溶け落ち、スパッタなどの溶接不良を生じるおそれが高まる。特に、板隙が存在する板組の場合には、上述した問題が一層顕著となる。特許文献2に記載の溶接方法は、同一の溶接条件で溶接を実施する限りにおいて、電極と鋼板との接触状態は一定、すなわち電極の先端形状が一定であることを前提としているため、電極先端の摩耗に伴う接触状態の変化に対応することのできる溶接方法を新たに構築する必要が生じる。
【0007】
以上の事情に鑑み、本明細書では、電極の摩耗の如何によらず、所望サイズ及び形状のナゲットを安定的に形成することのできるスポット溶接方法を提供することを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題の解決は、本発明に係るスポット溶接方法によって達成される。すなわち、この溶接方法は、複数の金属板からなる部品の接合予定部を溶接電極で加圧した状態で通電することにより、接合予定部を溶接するインダイレクトスポット溶接方法であって、溶接電極により接合予定部を第1の加圧力F1で加圧しながら、第1の電流値C1を通電する第1のステップと、溶接電極による加圧力を第1の加圧力F1からそれよりも低い第2の加圧力F2まで低下させながら、第1の電流値C1よりも低い第2の電流値C2を通電する第2のステップと、溶接電極により接合予定部を第2の加圧力F2で加圧しながら、第1の電流値C1よりも高い第3の電流値C3を通電する第3のステップと、溶接電極により接合予定部を第2の加圧力F2で加圧しながら、第3の電流値C3よりも高い第4の電流値C4を通電する第4のステップとを備えたインダイレクトスポット溶接方法において、第2のステップの後でかつ第3のステップの前に、第2の加圧力F2で加圧しながら、第2の電流値C2よりも大きな第5の電流値C5を通電し、然る後、第3の電流値C3よりも小さい第6の電流値C6にまで通電時の電流値を下げる第5のステップをさらに備える点をもって特徴付けられる。
【0009】
本溶接方法における第1のステップでは、接合予定部を相対的に高い第1の加圧力F1で加圧することで、溶接電極と金属板との接触面積、及び金属板同士の接触面積を確保することができる。この状態で、低電流値C1を通電することにより、電流密度を抑えて金属板表面の溶融飛散を防止しながら、溶接電極と金属板との接触面積、及び金属板同士の接触面積を増大させることができる。
【0010】
第2のステップでは、加圧力をF1からF2まで低下させている間、電流値を抑えることで、加圧力がF2まで低下して安定するまでの時間を確保すると共に、溶接電極や金属板を適度に冷却あるいは保温してヒートバランス(通電抵抗による金属板の発熱と、溶接電極及び金属板表面からの放熱とのバランス)を調整する。これにより、その後の第3のステップにスムーズに移行することができる。
【0011】
第3のステップでは、低加圧力F2で加圧しながら、ナゲットを形成する電流値よりも低い電流値C3で通電することで、金属板を軟化させて金属板同士の接触面積を拡大し、スパッタの発生を防止できる。こうして、金属板同士の接触面積を確保した状態で、第4のステップで電流値C4まで上昇させることで、ナゲットを確実に形成することができる。
【0012】
また、本発明に係る溶接方法では、第2のステップの後でかつ第3のステップの前に、第2の加圧力F2で加圧しながら、第2の電流値C2よりも大きな第5の電流値C5を通電することによって、金属板の軟化又は部分的溶融により金属板間の接触状態が改善される。よって、金属板間の接触面積を拡大することができる。そして、上記通電後、所定の大きさ(第6の電流値C6)にまで電流値を下げることで、接触状態を維持して安定化を図ることができる。また、その後の第3のステップにスムーズに移行することができる。従って、上述した第3及び第4のステップによる作用効果を確実に享受することが可能となる。
【0013】
以上のように、高加圧力F1で加圧しながら低電流値C1を通電する第1のステップと、低加圧力F2で加圧しながら高電流値C4を通電する第4のステップとの間に、加圧力の変化(移行期間)に対応させて電流値を調整する上記の第2のステップ及び第3のステップを設けることで、板隙がある場合であっても、焼けやスパッタを発生させることなく、所望の大きさ及び形状のナゲットを安定して形成することができる。また、上述のように第2のステップと第3のステップの間に、電流値を一時的に高めるステップ(第5のステップ)を設けることにより、電極先端の摩耗の状態如何によらず、金属板間に安定した接触状態(十分な大きさの接触面積)を得ることができ、これにより良好なナゲットを安定的に形成することが可能となる。
【0014】
また、本発明に係るスポット溶接方法において、第5のステップにおける第5の電流値の通電時間を、第3のステップにおける通電時間よりも短く設定してもよい。
【0015】
このように通電時間を制限することにより、接触面積が必要以上に拡大する事態を回避すると共に、過剰に加熱された結果としての溶け落ちの発生を防止することができる。よって、接触状態(接触面積)の改善を不具合なく安定的に図ることが可能となる。
【0016】
また、前記課題の解決は、本発明に係るスポット溶接用制御装置によっても達成される。すなわち、この制御装置は、複数の金属板からなる部品の接合予定部を溶接電極で加圧した状態で通電することにより、接合予定部を溶接するスポット溶接装置に接続され、溶接電極の加圧力及び通電時の電流値を制御する制御装置であって、溶接電極により接合予定部を第1の加圧力F1で加圧しながら、第1の電流値C1を通電する第1のステップと、溶接電極による加圧力を第1の加圧力F1からそれよりも低い第2の加圧力F2まで低下させながら、第1の電流値C1よりも低い第2の電流値C2を通電する第2のステップと、溶接電極により接合予定部を第2の加圧力F2で加圧しながら、第1の電流値C1よりも高い第3の電流値C3を通電する第3のステップと、溶接電極により接合予定部を第2の加圧力F2で加圧しながら、第3の電流値C3よりも高い第4の電流値C4を通電する第4のステップとが設けられるように加圧力及び電流値を制御するスポット溶接用制御装置において、第2のステップの後でかつ第3のステップの前に、第2の加圧力F2で加圧しながら、第2の電流値C2よりも大きな第5の電流値C5を通電し、然る後、第3の電流値C3よりも小さい第6の電流値C6にまで通電時の電流値を下げる第5のステップがさらに設けられるように加圧力及び電流値を制御する点をもって特徴付けられる。
【0017】
このように、本発明に係る制御装置においては、上述した溶接方法と同じように、高加圧力F1で加圧しながら低電流値C1を通電する第1のステップと、低加圧力F2で加圧しながら高電流値C4を通電する第4のステップとの間に、加圧力の変化(移行期間)に対応させて電流値を調整する上記の第2のステップ及び第3のステップを設けることで、金属板間に隙間がある場合であっても、焼けやスパッタを発生させることなく、所望の大きさ及び形状のナゲットを安定して形成することができる。また、上述のように第2のステップと第3のステップの間に、電流値を一時的に高めるステップ(第5のステップ)を設けることにより、電極先端の摩耗の如何によらず、金属板間に安定した接触状態(十分な大きさの接触面積)を得ることができ、これにより良好なナゲットを安定的に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明に係るスポット溶接方法、及びスポット溶接用制御装置によれば、電極の摩耗の如何によらず、所望サイズ及び形状のナゲットを安定的に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】複数の金属板からなる部品の接合予定部に対してインダイレクトスポット溶接を施す直前の状態を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す溶接電極の(a)使用開始時と(b)先端摩耗時における側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るスポット溶接方法の加圧通電パターンを示すグラフである。
【
図4】
図2(a)に示す状態の溶接電極を用いた場合における、
図3中の時刻Aにおける接合予定部周辺の断面図である。
【
図5】
図2(b)に示す状態の溶接電極を用いた場合における、
図3中の(A)時刻Aにおける接合予定部周辺の断面図、(B)時刻Bにおける接合予定部周辺の断面図、(C)時刻Cにおける接合予定部周辺の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係るスポット溶接方法、及びスポット溶接用制御装置の内容を図面に基づいて説明する。
【0021】
本実施形態では、自動車の車体の組立工程において行われるインダイレクトスポット溶接を例にとってその詳細な形態を説明する。この場合、溶接対象は、例えば
図1に示すような車体の骨格部品100となる。この骨格部品100は、
図1の紙面直交方向に延びるフレーム状の部品で、略平板状をなす第1の金属板1と、断面ハット形状をなす第2の金属板2と、第1の金属板1と第2の金属板2とで構成される中空部に配された断面ハット形状をなす第3の金属板3とで構成される。金属板1~3としては、例えば鋼板が使用され、具体的には軟鋼板、高張力鋼板(引張強度490MPa以上)、又は超高張力鋼板(引張強度980MPa以上)が使用される。
【0022】
第1の金属板1と第2の金属板2のフランジ部2aとは、ダイレクトスポット溶接により予め溶接された既溶接点Q1を介して接合されている。第2の金属板2の底部2bと第3の金属板3のフランジ部3aとは、ダイレクトスポット溶接により予め溶接され既溶接点Q2を介して接合されている。
【0023】
第3の金属板3の天板部3bと第1の金属板1とが、本発明の一実施形態に係るインダイレクトスポット溶接方法により接合される。具体的には、第1の金属板1と第3の金属板3の天板部3bとの接合予定部Pを、厚さ方向一方側(
図1中上側)から溶接電極10 で加圧すると共に、骨格部品100の接合予定部Pと異なる部位にアース電極20を当接させた状態で両電極10,20間に通電することにより、接合予定部Pを溶接する。図示例では、第2の金属板2の底部2bに下方からアース電極20を当接させている。
【0024】
このインダイレクトスポット溶接方法は、上記の溶接電極10及びアース電極20を有するインダイレクトスポット溶接装置と、インダイレクトスポット溶接装置に接続され、溶接電極10の加圧力及び両電極10,20間の電流値を制御する制御装置30とを備えた設備で行われる。インダイレクトスポット溶接装置は、溶接電極10を軸線方向に駆動して金属板を加圧する加圧手段を備える。加圧手段としては、エアシリンダや電動シリンダを使用することができ、本実施形態ではエアシリンダが使用される。
【0025】
溶接電極10としては公知の形状をなす電極が使用可能であり、本実施形態では、
図2(a)に示すように、先端に平坦面11が設けられると共に、この平坦面11の外周側に連続してテーパ面12が設けられた形状の電極が用いられる。もちろん溶接電極10の先端の形状はこれに限らず、例えば部分球面状の先端を有する溶接電極を使用してもよい。
【0026】
本実施形態では、制御装置30からの指令により、
図3に示す加圧通電パターンに従って溶接が行われる。以下、この加圧通電パターンを詳しく説明する。
【0027】
(S1)第1のステップ
第1のステップS1では、溶接電極10で接合予定部Pを、相対的に高い第1の加圧力F1で加圧する。これにより、金属板1,3(3b)間の隙間を詰めて両金属板1,3を確実に接触させると共に、溶接電極10と第1の金属板1との接触面積、及び第1の金属板1と第3の金属板3(の天板部3b)との接触面積が確保される。この状態で、電極10 ,20間に、相対的に低い第1の電流値C1を通電することにより、電流密度を抑えて金属板1,3表面の溶融飛散を防止しながら、金属板1を軟化させて、溶接電極10と第1の金属板1との接触面積、及び第1の金属板1と第3の金属板3との接触面積を拡大することができる(
図4を参照)。
図4にハッチングで示す領域は接触部Mである。なお、本ステップS1において、接触部Mは、金属板1,3が相互に密着した状態をなす部分であってもよいし、金属板1,3の一部が溶融した部分であってもよい。何れの事象を発生させるかについては、本ステップS1における第1の電流値C1及び/又は第1の加圧力F1の調整により適宜選択可能である。
【0028】
(S2)第2のステップ
第2のステップS2では、まず溶接電極10に加圧力を付与する加圧手段に対して加圧力低下の指令を出す(
図3を参照)。このとき、加圧手段の構造上、指令を受けると同時に実際の加圧力がF1からF2まで瞬時に降下するのではなく、F1からF2まで例えば所定の勾配で徐々に低下する移行期間が必然的に設けられる。特に、本実施形態のように、溶接電極10の加圧手段としてエアシリンダを用いた場合、例えば電動シリンダを用いた場合と比べて加圧力変化のレスポンスが悪く、加圧力の降下に時間を要し、かつ加圧力の値が不安定になる。このように加圧力が不安定な状態で高電流値を通電すると、通電状態(電流密度)が不安定となり、溶接状態にばらつきが生じるおそれがある。
【0029】
そこで、第2のステップS2では、加圧力をF1からF2まで降下させながら、第1 のステップの電流値C1よりもさらに低い電流値C2で通電する。このように、加圧力が不安定な状態での投入熱量を抑えることで、溶接電極10及び金属板1,3を適度に冷却あるいは保温して接合予定部P周辺のヒートバランスを調整することができる。このとき、加圧力が降下している全期間で電流値を抑える(第2の電流値C2を維持する)ことが好ましく、図示例では、加圧力が降下している期間と電流値C2で通電する期間とが一致している。この第2のステップS2では、金属板1,3の接合予定部P周辺の状態はほとんど変化しない。
【0030】
(S3)第3のステップ
そして、加圧手段の加圧力を検知する加圧力検知部(図示は省略)により、加圧力がF1からF2まで降下したことを検知したことを受けて、制御装置30は、電流値を上昇させる。本実施形態では、加圧力がF2まで降下した後、所定時間の経過後に電流値を上昇させる(
図3を参照) 。このとき、第2のステップS2の低電流値C2(正確には後述する第5のステップS5の低電流値C6)から、ナゲットを形成する本通電の電流値(次の第4のステップS4の電流値C4)まで電流値を一気に高めると、スパッタが発生するおそれがある。そこで、第3のステップS3では、低加圧力F2で加圧しながら、まずは本通電の電流値C4よりも低い電流値C3で通電することにより、金属板1,3を軟化させて金属板1,3間の接触面積の拡大を図る。
【0031】
(S4)第4のステップ
このようにして、金属板1,3同士の接触面積を確保した状態で、続く第4のステップS4で電流値をC3からC4まで上昇させて通電する(
図3を参照)。これにより、スパッタを発生させることなくナゲットの種(所望の大きさには至らないナゲット)を確実に形成することができる。例えば本実施形態では、図示は省略するが、第4のステップS 4で、金属板1,3間の接合予定部Pに環状のナゲットが形成される。
【0032】
(S5)第5のステップ
また、第2のステップS2の後で、第3のステップS3の前に、短時間の高電流値C5による通電を行うことで、金属板1,3間の接触状態の改善を図る。詳述すると、本実施形態の如きインダイレクトスポット溶接を繰り返し実施した場合、溶接電極10の先端が摩耗しその先端形状が歪に変化する事態が想定される。具体的には、
図2(a)に示すように、使用開始時には、中心軸に対して平坦面11が直交する向きに設けられた溶接電極10を、継続して繰り返し使用すると、
図2(b)に示すように、溶接電極10の先端が歪な形状に変形することがある。この図示例では、平坦面11の面積が使用開始時と比べて拡大すると共に、平坦面11が中心軸に対して大きく傾いた状態となる。
【0033】
このように平坦面11が中心軸に対して大きく傾いた状態の溶接電極10(
図2(b)を参照)を使用して
図1及び
図3に示す溶接を行った場合、例えば第2のステップS2終了の時点(
図3中時刻Aの時点)では、第1の金属板1と第3の金属板3の天板部3bとが片当たりした状態になって接触面積(接触部Mの面積)が
図4に示す溶接開始時と比べて減少する(
図5(a)を参照)など、接触状態が安定しない。このように、接触状態が不安定なままで以後の通電ステップ(第3及び第4のステップS3,S4)を実施すると、溶接電極10の使用開始時と比較して接触部Mにおける電流密度が過大になり、溶け落ち、スパッタなどの溶接不良を生じるおそれが高まる。
【0034】
以上の点に鑑み、第5のステップS5では、相対的に低い加圧力F2で加圧しながら、両電極10,20間に、第2の電流値C2よりも大きな第5の電流値C5を通電する。これにより、金属板1,3(3b)間の接触部Mが再加熱され、金属板1,3の軟化(接触部Mが溶融した部分を含む場合には当該既溶融部の再溶融)が促進される。その結果、接触面積を拡大することができる(
図5(b)を参照)。そして、上記通電後、所定の大きさ(第6の電流値C6)にまで電流値を下げる。これにより、拡大した接触部Mの状態を安定化させることができるので(
図5(c)を参照)、続く第3のステップS3に円滑に移行することが可能となる。
【0035】
なお、本ステップS5における第5の電流値C5は、例えばスパッタが発生しない程度の大電流であることが望ましく、
図3に示す電流値C1~C6の関係でいえば、第4のステップS4における第4の電流値C4よりも小さいことが望ましい。
【0036】
また、本ステップS5において、金属板1,3間の接触面積(接触部Mの面積)が必要以上に拡大する事態を回避し、又は過剰加熱に起因する溶け落ちを防止する観点からは、第5の電流値C5の通電時間を、第3のステップS3における通電時間よりも短く設定するのがよい。
【0037】
また、本ステップS5において、第5の電流値C5から第6の電流値C6まで電流値を下げる際、第6の電流値C6は、例えば第のステップS2における第2の電流値C2と同じもしくは±10%の範囲内に留めることが望ましい。
【0038】
(S6)第6のステップ
以上のようにして、金属板1,3間の接触状態を改善した上で、第4のステップS4でナゲット(の種)を形成した後、第6のステップS6で、第2の加圧力F2で加圧しながら、両電極10,20間に、第4の電流値C4よりも低い第7の電流値C7を通電する(
図3を参照) 。図示例では、第7の電流値C7は、第3の電流値C3よりも低く、さらには第1の電流値C1よりも低くなるように設定される。一方で、第7の電流値C7は、第2の電流値C2よりも高くなるように設定される。この第6のステップS6における通電により、金属板1,3への投入熱量を抑えながら、第4のステップS4で加熱した金属板1,3の予熱を利用して、ナゲットの状態を安定化させつつ成長させることができる。これにより、例えば図示は省略するが、第4のステップS4で形成された環状のナゲットが内径側に成長し、中空部が埋められて略円盤状となる。
【0039】
以上より、第1の金属板1と第3の金属板3の天板部3bとの接合予定部Pに、所望の大きさ及び形状(特に、第3の金属板3への厚さ方向の溶け込み量)を有するナゲット が形成され、このナゲットを介して両金属板1,3が接合される。
【0040】
以上述べたように、本実施形態に係るインダイレクトスポット溶接方法によれば、高加圧力F1で加圧しながら低電流値C1を通電する第1のステップS1と、低加圧力F2で加圧しながら高電流値C4を通電する第4のステップS4との間に、加圧力の変化(移行期間)に対応させて電流値を調整する第2のステップS2及び第3のステップS3を設けることで、金属板1,3間に隙間がある場合であっても、焼けやスパッタを発生させることなく、所望の大きさ及び形状のナゲットを安定して形成することができる。また、上述のように第2のステップS2と第3のステップS3との間に、電流値を一時的に高めるステップ(第5のステップS5)を設けることにより、溶接電極10先端の摩耗の状態如何によらず、金属板1,3間に安定した接触状態(接触面積)を設けることができ、これにより良好なナゲットを安定的に形成することが可能となる。
【0041】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係るスポット溶接の良否判定方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0042】
例えば、上記実施形態では、ナゲットの形成及び成長に係るステップS3,S4として、それぞれ直前のステップS2(S3)における電流値C2,C6よりも電流値を高めた状態で通電を行うステップを設けた場合を例示したが、もちろんこれには限られない。例えば図示は省略するが、第4のステップS4の後に、第4のステップS4時の電流値C4よりも一段高い電流値を通電するステップをさらに設けてもよい。
【0043】
また、上記実施形態では、第4のステップS4の後に、第4のステップS4時の電流値(第4の電流値C4)よりも電流値を下げた状態で、第4のステップS4よりも長時間通電を行う第6のステップS6を設けた場合を例示したが、第6のステップS6は必須ではない。例えば第4のステップS4における通電時間を
図3等に例示の時間よりも長くして、当該ステップS4中に、所望サイズ及び形状のナゲットが形成される場合には、第6のステップS6を省略してもよい。
【0044】
また、上記実施形態では、インダイレクトスポット溶接に本発明を適用した場合を例示したが、ダイレクトスポット溶接にも本発明を問題なく適用できることはもちろんである。すなわち、本発明をダイレクトスポット溶接に適用した場合であっても、電極の摩耗の如何に関わらず、良好なナゲットを安定的に形成することが可能であるから、ダイレクト、インダイレクトの別なく本発明に係る加圧通電パターン(制御装置30)を適用することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1 第1の金属板
2 第2の金属板
2a フランジ部
2b 底部
3 第3の金属板
3a フランジ部
3b 天板部
10 溶接電極
11 平坦面
12 テーパ面
20 アース電極
30 制御装置
100 骨格部品
C1,C2,C3,C4,C5,C6,C7 電流値
F1,F2 加圧力
M 接触部
P 接合予定部
Q1,Q2 既溶接点