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特開2022-186150復旧支援装置および教師データ生成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186150
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】復旧支援装置および教師データ生成装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
H02J3/00 170
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094232
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚本 佳幸
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA10
5G066AB01
5G066AE05
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】事故時の系統状態が想定外であっても復旧手順を生成可能とする。
【解決手段】復旧支援装置100は、電力系統における事故が発生したときの系統状態を説明変数とし、当該事故の復旧手順を目的変数とする教師データ(教師データベース130参照)を用いて生成された機械学習モデル(学習モデル121参照)に基づいて、事故発生時の系統状態から復旧手順を出力する手順生成部(生成部113)を備える。なお、系統状態とは、例えば電力系統に備わる機器の入切(ON/OFF)状態である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統における事故が発生したときの系統状態を説明変数とし、当該事故の復旧手順を目的変数とする教師データを用いて生成された機械学習モデルに基づいて、事故発生時の系統状態から復旧手順を出力する手順生成部を備える
ことを特徴とする復旧支援装置。
【請求項2】
前記系統状態は、前記電力系統に備わる機器における接続のON/OFFの状態である
ことを特徴とする請求項1に記載の復旧支援装置。
【請求項3】
電力系統における事故が発生したときの系統状態を説明変数とし、当該事故の復旧手順を目的変数とする複数の教師データである元教師データを基に新たな教師データである新教師データを生成する教師データ生成部を備え、
前記元教師データに対応する事故は、前記電力系統における関連する事故である
ことを特徴とする教師データ生成装置。
【請求項4】
前記元教師データには、前記事故が発生した施設および時刻が関連付けられ、
前記元教師データの施設は、同一であり、
前記元教師データの時刻の差は、所定時間内である
ことを特徴とする請求項3に記載の教師データ生成装置。
【請求項5】
前記系統状態は、前記電力系統に備わる機器における接続のON/OFFの状態であり、
前記新教師データの、同一である前記事故が発生した施設に備わる機器における接続の状態は、前記元教師データの当該機器における接続状態の何れかがOFFであればOFFであって、全てがONであればONであり、
前記新教師データの前記復旧手順は、前記元教師データの復旧手順を連続して行う復旧手順である
ことを特徴とする請求項4に記載の教師データ生成装置。
【請求項6】
前記元教師データには、前記事故が発生した設備および時刻が関連付けられ、
前記元教師データの設備は、前記電力系統における所定の距離内の経路で接続され、
前記元教師データの時刻の差は、所定時間内である
ことを特徴とする請求項3に記載の教師データ生成装置。
【請求項7】
前記系統状態は、前記電力系統に備わる機器における接続のON/OFFの状態であり、
前記新教師データの、前記経路に含まれる機器における接続の状態は、前記元教師データの当該機器における接続状態の何れかがOFFであればOFFであって、全てがONであればONであり、
前記新教師データの前記復旧手順は、前記元教師データの復旧手順を連続して行う復旧手順である
ことを特徴とする請求項6に記載の教師データ生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統における事故からの復旧に係る復旧支援装置および教師データ生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統(単に系統とも記す)における事故(系統事故)から復旧する場合には、復旧手順を作成し、続いてこの復旧手順に従って開閉器の入切(開閉)操作を行って系統を切り替えて復旧する必要がある。電力系統監視制御システムは、電力系統の状態を監視・制御するシステムであって、系統事故発生時には復旧手順を作成し、作成した復旧手順を実行して復旧する機能を備えている。
電力系統監視制御システムには、自動的に復旧手順を作成するものや、予め想定した事故後の状態とこれに対応した復旧手順とを登録しておき、事故発生時には事故後の状態が合致した復旧手順を呼び出すものがある。
【0003】
系統事故による復旧手順については、電力系統の運用者が過去の操作実績や事故時の系統状態を考慮して作成しており、必ずしも自動作成された復旧手順のとおりに復旧作業を行っているとは限らず、運用者による手順の修正や見直しが発生している。また、発生する事故が必ずしも想定したパターンと合致するとも限らない。現状では、運用マニュアルや運用者の経験を基に復旧手順を作成していることが多い。
【0004】
配電系統における事故発生後の復旧対策、過負荷地区の解消対策、配電系統の増設や系統変更に伴う計画的な工事対策などに係る配電系統変更計画の作成に関して特許文献1には「配電系統における作業手順を作成する開閉器作業手順自動作成装置と、該開閉器作業手順自動作成装置が作成した自動作成手順を熟練者により変更して模範手順を得る模範手順作成装置と、前記自動作成手順と前記模範手順を用いて機械学習を行い、前記開閉器作業手順自動作成装置が前記自動作成手順を作成するときの知見を得る機械学習装置とにより構成されたことを特徴とする配電系統負荷切替システム」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2020-028163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の配電系統負荷切替システムでは、配電系統における作業手順を作成する開閉器作業手順自動作成装置が作成した自動作成手順が存在することが前提となっている。
既存の電力系統監視制御システムにおける事故復旧手順生成機能として、事故発生後に事故区間を判定するための事故くくり時間を設け、その時間内の事故を復旧するための手順を自動で作成機能が存在する。しかし、この機能では常に直前の系統状態への復旧手順を作成するのみで、立て続けに事故が発生した場合には対応することができない。
【0007】
また、別のシステムにおける事故復旧手順生成機能では、予め検索条件となる事故時の系統状態と、その事故を復旧するための復旧手順とがデータベースに登録される。事故発生時には検索条件となる系統状態と一致した場合にのみ、復旧手順が表示される。この機能は、常に想定され登録済みの復旧手順を表示するのみで、想定外の事故についての復旧手順を表示することはできない。
【0008】
以上のことから、連続した事故を含め想定外の事故であってシステムが対応できない事故が発生したときには運用者による判断に基づいて復旧手順を作成している。このような事故の復旧手順は熟練者による経験や知識を必要とし、これらをロジック化やデータベース化することは困難である。
本発明はこのような背景を鑑みてなされたものであり、事故時の系統状態が想定外であっても復旧手順を生成可能とする復旧支援装置および教師データ生成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するため、本発明に係る復旧支援装置は、電力系統における事故が発生したときの系統状態を説明変数とし、当該事故の復旧手順を目的変数とする教師データを用いて生成された機械学習モデルに基づいて、事故発生時の系統状態から復旧手順を出力する手順生成部を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、事故時の系統状態が想定外であっても復旧手順を生成可能とする復旧支援装置および教師データ生成装置を提供することができる。上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る復旧支援装置の機能ブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る教師データベースのデータ構成図である。
図3】第1の実施形態に係る決定木を説明するための図である。
図4】第1の実施形態に係る復旧手順生成処理のフローチャートである。
図5】第1の実施形態の変形例に係る複数の教師データと学習モデルの関係を説明するための図である。
図6】第2の実施形態に係る復旧支援装置の機能ブロック図である。
図7】第2の実施形態に係る機器データベースのデータ構成である。
図8】第2の実施形態に係る教師データベースのデータ構成図である。
図9】第2の実施形態に係る教師データ生成処理のフローチャートである。
図10】第2の実施形態の変形例に係る復旧支援装置の機能ブロック図である。
図11】第2の実施形態の変形例に係る機器データベースのデータ構成である。
図12】第2の実施形態の変形例に係る教師データベースのデータ構成図である。
図13】第2の実施形態の変形例に係る教師データ生成処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪復旧支援装置の概要≫
以下に本発明を実施するための形態(実施形態)における復旧支援装置を説明する。復旧支援装置は学習モデル(機械学習モデル)を用いて、事故発生後(事故が発生したとき)の電力系統の状態を入力とし、当該状態における復旧手順を出力する。学習モデルは、例えば決定木の学習モデルであって、事故発生後の電力系統の状態を説明変数とし当該状態における復旧手順を目的変数とする教師データを用いて訓練された機械学習モデルである。
このような復旧支援装置は、教師データに目的変数として含まれていない事故発生後の電力系統の状態(想定外の事故)に対しても、復旧手順を出力することができる。
【0013】
≪第1の実施形態:復旧支援装置の全体構成≫
図1は、第1の実施形態に係る復旧支援装置100の機能ブロック図である。復旧支援装置100はコンピュータであり、制御部110、記憶部120、および入出力部180を備える。入出力部180には、ディスプレイやキーボード、マウスなどのユーザインターフェイス機器が接続される。入出力部180が通信デバイスを備え、他の装置とのデータ送受信が可能であってもよい。また入出力部180にメディアドライブが接続され、記録媒体を用いたデータのやり取りが可能であってもよい。
【0014】
記憶部120は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)およびSSD(Solid State Drive)などの記憶機器を含んで構成される。記憶部120には、教師データベース130(後記する図2参照)、学習モデル121、およびプログラム128が記憶される。
学習モデル121は、例えば決定木の機械学習モデルであって、事故発生後(事故が発生したとき)の電力系統の状態を入力(説明変数)、当該状態における復旧手順を出力(目的変数)とする。プログラム128には、学習モデル121を訓練(学習)する学習処理や、学習モデルに基づいて事故発生後の電力系統の状態に対応した復旧手順を出力する処理(推測処理)の記述を含む。
【0015】
≪教師データ≫
図2は、第1の実施形態に係る教師データベース130のデータ構成図である。教師データベース130は例えば表形式のデータであって、1つの行(レコード、教師データ)は識別情報131、系統状態132、および復旧手順133の列(属性)を含む。
【0016】
識別情報131(図2ではID(identifier)と記載)は、個々の教師データの識別情報である。
系統状態132は、電力系統に含まれる開閉器や保護器などの機器の入切状態(開閉状態)を示す。系統状態132は、機器が入の状態であれば「ON」、切の状態であれば「OFF」である。
【0017】
復旧手順133は、事故発生後の電力系統の状態が系統状態132に示される機器の入切状態である場合の復旧手順を示す。復旧手順とは、電力系統に含まれる機器の入切操作の順番を示したものである。
図2において識別情報131が「32843」であるレコードは、事故発生後に機器1、機器2がOFFであり、機器3、機器NがONである場合の復旧手順は「手順A」である教師データを示している。
【0018】
教師データベース130に記憶される教師データは、実際に発生した事故における電力系統の状態である機器の入切状態、および復旧するために運用者作成した復旧手順の実績である。または、運用者の訓練のために模擬的に作成した事故時の電力系統の状態と、対応する復旧手順であってもよい。実績と模擬的に作成されたものの両方であってもよい。事故復旧の実績や訓練の事故パターンなど、日々蓄積されるデータを教師データとすることで、予測の精度向上が期待できる。教師データベース130には、同じ教師データが含まれてもよい。
【0019】
≪制御部≫
図1に戻って制御部110は、CPU(Central Processing Unit)を含んで構成され、データ取得部111、学習部112、および生成部113が備わる。データ取得部111は、入出力部180を介して取得した教師データを教師データベース130に格納する。
学習部112は、教師データベース130にある教師データを用いて機械学習モデルを訓練して学習モデル121を生成する。学習部112は、定期的に学習モデル121を生成してもよいし、教師データベース130が更新されるたびに学習モデル121を生成してもよい。
【0020】
生成部113(推測部)は、入出力部180を介して入力された事故発生後(事故が発生したとき)の電力系統の状態である機器の入切状態を基に、学習モデル121を用いて復旧手順を出力(推測、生成)する。以下では学習モデル121が決定木310(後記する図3参照)である場合を説明するが、機械学習技術としてはSVM(Support Vector Machine)やニューラルネットワークなど他の技術であってもよい。
【0021】
≪復旧手順生成処理≫
図3は、第1の実施形態に係る決定木310を説明するための図である。決定木310は、学習部112が生成した学習モデル121である。決定木310のノード311~317は、機器または復旧手順を示す。機器のノード311,313,315~317から下に出るエッジは機器の状態が入(ON)であるか切(OFF)であるかで分かれる分岐を示す。
生成部113は、入力された実行発生後の電力系統の状態において決定木310のルートとなっているノード311に対応する機器Nの入切状態を取得し、入切に応じて下位のノードに進む。生成部113は、機器Nが入(ON)であればノード312に進み、機器Nが切(OFF)であればノード313に進む。
【0022】
ノード312は復旧手順のノードであるので、生成部113は当該ノードが示す復旧手順を出力して復旧手順生成処理(推測処理)を終了する。ノード313は機器のノードであるので当該機器の入切状態に応じて下位のノードに進む。生成部113は、このように機器の入切状態に応じて下位のノードを辿って最終的に復旧手順を出力して復旧手順生成処理を終了する。
【0023】
図4は、第1の実施形態に係る復旧手順生成処理のフローチャートである。
ステップS11において生成部113は、入力された実行発生後の電力系統の状態におけるルートに対応する機器の入切状態を取得する。決定木310(図3参照)においてルートとなるノード311は機器Nであり、生成部113は入力された実行発生後の電力系統の状態に含まれる機器Nの入切状態を取得する。
ステップS12において生成部113は、ステップS11またはステップS14で取得した機器の入切状態に応じて下位のノードを取得する。
【0024】
ステップS13において生成部113は、ステップS12で取得したノードが復旧手順のノードならば(ステップS13→YES)ステップS15に進み、復旧手順ではなく機器のノードならば(ステップS13→NO)ステップS14に進む。
ステップS14において生成部113は、ステップS12で取得した機器であるノードの入切状態を入力された実行発生後の電力系統の状態から取得して、ステップS12に戻る。
ステップS15において生成部113は、ステップS12で取得したノードが示す復旧手順を出力して復旧手順生成処理を終える。
【0025】
≪復旧支援装置の特徴≫
復旧支援装置100は学習モデル121に基づいて、事故発生後の電力系統の状態である機器の入切状態を入力とし、当該状態に対応する復旧手順を出力する。復旧支援装置100は、機器の入切状態に応じた復旧手順を出力する。
【0026】
従来技術では登録されている電力系統の状態には含まれない事故発生後の電力系統の状態に対しては復旧手順を出力できなかった。これに対して復旧支援装置100は、登録されていない(教師データベース130にある教師データに説明変数として含まれていない)事故発生後の電力系統の状態に対しても、復旧手順を出力することができる。
【0027】
≪第1の実施形態の変形例:複数の学習モデル≫
第1の実施形態のように学習モデルが1つの場合、予測結果が偏ることが想定される。例えばある電力系統において送電線Aおよび送電線Bがあり、事故で停電している電力系統があった場合に、この電力系統は送電線Aと送電線Bとの何れを使用して復旧できるものとする。教師データに含まれる多くの復旧手順では送電線Aを使用して復旧しており、送電線Bを使用する復旧手順は少ないとする。このような教師データを学習した学習モデルに基づいた場合に同様の事故の系統状態を入力すると、送電線Aを使用する復旧手順が出力され、送電線Bを使用した復旧手順は出力されないことが想定される。したがって、仮に送電線Bを使用して復旧したい状況であっても、復旧手順としては出力されない状況になる。
【0028】
このような問題に対して複数の教師データベースを用意しておき、復旧支援装置がそれぞれの教師データベースを用いて複数の学習モデルを生成して、それぞれの学習モデルに基づいて複数の復旧手順を生成(出力)するようにしてもよい。図5は、第1の実施形態の変形例に係る複数の教師データと学習モデルの関係を説明するための図である。以下、図5を参照しながら説明を進める。
複数の教師データベースの作成手順として、例えば以下のようなものがある。(1)過去の実績や特定のパターンを含む教師データベース342を用意する。(2)教師データベース342を複製して教師データベース344を作成する。(3)教師データベース344のなかで送電線Bを使用して復旧する教師データを複製して教師データの数を増やす。
【0029】
例えば教師データベース342のなかには、送電線Aを使用して復旧する教師データが10件、送電線Bを使用して復旧する教師データが3件あるとする。教師データベース344は、教師データベース342を複製した後に送電線Bを使用して復旧する教師データを複製して15件とする。復旧支援装置は、これらの教師データベース342,344を用いて学習モデル343,345をそれぞれ生成する。
送電線Aおよび送電線Bの何れを使用しても復旧可能な事故発生後の系統状態341を入力とする。すると学習モデル343を用いられた場合に出力される復旧手順346では送電線Aが使用され、学習モデル345を用いられた場合に出力される復旧手順347では送電線Bが使用されることになる。
【0030】
上記した複数の教師データベースの作成手順は、教師データベースを複製し、複製された教師データベースのなかの教師データを複製して、あるパターン(例えば送電線Bを使用するパターン)の教師データを増やす手法である。他にも、蓄積された教師データベースを分割するという手順や、特定の条件を満足する教師データを集めて新たな教師データベースを作成する手順などがある。
【0031】
学習モデルを複数備える場合に復旧支援装置が、入力の事故発生後の系統状態に対して、それぞれの学習モデルに基づいて複数の復旧手順を出力するようにしてもよい。複数の復旧手順が出力されることで、運用者はこの複数の復旧手順と現在の系統状態とを考慮して使用する復旧手順を選択することができ、状況に応じた復旧が可能となる。
学習モデルを複数備える復旧支援装置が複数の復旧手順を出力するときに、1つの同じ復旧手順を出力する学習モデルが多いほど評価が高く、上位に表示するように出力するようにしてもよい。
【0032】
≪第2の実施形態:復旧支援装置の全体構成≫
上記した複数の学習モデルの変形例は、複数の教師データベースが用意されるという前提である。復旧支援装置が教師データを生成する(教師データ数を増やす)ようにしてもよい。
図6は、第2の実施形態に係る復旧支援装置100Aの機能ブロック図である。以下では復旧支援装置100,100Aの相違点を説明する。
【0033】
≪第2の実施形態:機器データベース≫
記憶部120は機器データベース140(後記する図7参照)を備える。図7は、第2の実施形態に係る機器データベース140のデータ構成である。機器データベース140は表形式のデータであって、1つの行(レコード)は機器141、変電所142、および設備143の列(属性)を含む。機器141は、機器の名称または識別情報である。変電所142は、機器141が示す機器が設置されている変電所の名称または識別情報である。設備143は、機器141が示す機器を備える設備の名称または識別情報である。
【0034】
≪第2の実施形態:教師データベース≫
図8は、第2の実施形態に係る教師データベース130Aのデータ構成図である。教師データベース130(図2参照)と比較して、発生日時134、および発生箇所135の列(属性)が追加される。発生日時134は事故が発生した日時である。なお記載の都合上図8では事故が発生した時刻(時および分)のみを示している。発生箇所135は事故が発生した変電所を示す。
【0035】
≪第2の実施形態:教師データ生成処理≫
図6に戻って制御部110に備わる教師データ生成部114は、教師データベース130Aにある複数の教師データから新たな教師データを生成して教師データベース130Aに追加する。図9は、第2の実施形態に係る教師データ生成処理のフローチャートである。図9を参照しながら教師データ生成部114の動作を説明する。
【0036】
ステップS21において教師データ生成部114は、教師データベース130Aの教師データ(レコード)のなかで発生日時134が近く(所定の時間内)であって発生箇所135が同じである教師データの組を取得する。
ステップS22において教師データ生成部114は、ステップS21で取得した教師データの組ごとにステップS23~S29を繰り返す処理を開始する。
【0037】
ステップS23において教師データ生成部114は、教師データベース130Aに新しい教師データを追加する。当該教師データの列(属性)は、以下のステップS24~S29で更新される。
ステップS24において教師データ生成部114は、新しい教師データの発生日時134を教師データの組に含まれる発生日時134のなかで最早の時刻とする。新しい教師データの発生箇所135は、教師データの組に共通の発生箇所135とする。
【0038】
ステップS25において教師データ生成部114は、系統状態132に含まれる機器ごとにステップS26~S28を繰り返す処理を開始する。以下では繰り返す対象の機器を対象機器と記す。
ステップS26において教師データ生成部114は、対象機器(図7記載の機器141参照)が設置してある変電所142が、教師データの組に共通の発生箇所135と同じならば(ステップS26→YES)ステップS28に進み、異なるならば(ステップS26→NO)ステップS27に進む。
【0039】
ステップS27において教師データ生成部114は、対象機器の入切状態を教師データの組のなかで発生日時134が最早の教師データに含まれる対象機器の入切状態とする。
ステップS28において教師データ生成部114は、対象機器の入切状態を教師データの組に含まれる対象機器の何れかの入切状態が切(OFF)であれば切とし、何れもが入(ON)であれば入とする。
ステップS29において教師データ生成部114は、復旧手順133を教師データの組の復旧手順を発生日時134の順に連結した手順とする。
【0040】
図8に記載の教師データを例として図9に記載の教師データ生成処理を説明する。教師データ211,213は、発生日時134が「0000」と「0015」と近く(所定の時間内)、発生箇所135が「変電所PX」で同じであり、新しい教師データを生成する基となる教師データの組となる(ステップS21参照)。新しい教師データとして教師データ217が追加され(ステップS23参照)、その発生日時134は早い方の「0000」であって、発生箇所135は「変電所PX」である(ステップS24参照)。
【0041】
「機器11」は「変電所PX」に備わる(図7記載のレコード261参照)。教師データ211では「OFF」、教師データ213では「ON」であるため、新しい教師データ217の「機器11」は「OFF」となる(ステップS26→YES,ステップS28参照)。「機器12」は「変電所PX」に備わり、教師データ211,213では「OFF」であるため、新しい教師データ218の「機器12」は「OFF」となる。
【0042】
「機器21」「機器22」「機器31」「機器32」は「変電所PX」の機器ではなく、教師データ217のON/OFFは発生日時134が早い教師データ211のON/OFFとなる(ステップS26→NO,ステップS27参照)。
新しい教師データ217の復旧手順133は、発生日時134の順に、教師データ211の「手順A」を行い、続いて教師データ213の「手順C」を行う(図8では「手順A+C」と記載、ステップS29参照)。
【0043】
教師データ212,214は、発生日時134が「0010」と「0020」と近く(所定の時間内)、発生箇所135が「変電所PY」で同じであり、新しい教師データを生成する基となる教師データの組となる(ステップS21参照)。新しい教師データとして教師データ218が追加され(ステップS23参照)、その発生日時134は早い方の「0010」であって、発生箇所135は「変電所PY」である(ステップS24参照)。
【0044】
「機器22」は「変電所PY」に備わる(図7記載のレコード262参照)。教師データ212では「OFF」、教師データ214では「ON」であるため、新しい教師データ218の「機器22」は「OFF」となる(ステップS26→YES,ステップS28参照)。「機器21」は「変電所PY」に備わり、教師データ212,214では「ON」であるため、新しい教師データ218の「機器21」は「ON」となる。
【0045】
「機器11」「機器12」「機器31」「機器32」は「変電所PY」の機器ではなく、教師データ218のON/OFFは発生日時134が早い教師データ212のON/OFFとなる(ステップS26→NO,ステップS27参照)。
新しい教師データ218の復旧手順133は、発生日時134の順に、教師データ212の「手順B」を行い、続いて教師データ214の「手順D」を行う(図8では「手順B+D」と記載、ステップS29参照)。
【0046】
≪第2の実施形態:復旧支援装置の特徴≫
教師データ生成部114は、事故の発生日時が近く発生箇所が同じである既存の教師データから新しい教師データを生成する。このような関連(関係)がある既存の教師データの組から新たな教師データを生成することで、教師データ生成部114は連続して発生する事故に対応する復旧手順を含む教師データを生成する。延いてはこのような教師データを用いて生成された学習モデル121を用いることで復旧支援装置100Aは、連続して発生する事故に対応した復旧手順を出力することができるようになる。
【0047】
≪第2の実施形態の変形例≫
上記した第2の実施形態では、事故の発生日時が近く発生箇所が同じである既存の教師データから新しい教師データを生成する。他の関連(関係)がある既存の教師データから新しい教師データを生成するようにしてもよい。例えば、発生箇所(変電所)が同じでなくても電力系統上近い場合には関連のある事故と考えて、新しい教師データを生成する基となる教師データとしてもよい。
図10は、第2の実施形態の変形例に係る復旧支援装置100Bの機能ブロック図である。以下では復旧支援装置100Aとの相違点を説明する。
【0048】
≪第2の実施形態の変形例:機器データベース≫
記憶部120は機器データベース140(図7参照)に替えて機器データベース140B(後記する図11参照)を備える。図11は、第2の実施形態の変形例に係る機器データベース140Bのデータ構成である。機器データベース140と比較して、機器データベースBは設備143に替わり、上位接続144および下位接続145の列(属性)を備える。上位接続144は、電力系統において機器141の直接の上位にある設備である。下位接続145は、電力系統において機器141の直接の下位にある設備である。
【0049】
レコード268は、「機器32」の直接の上位に「変圧器Z」があって、直接の下位に「送電線X1」があることを示しており、「変圧器Z」-「機器32」-「送電線X1」という接続関係があることが解る。さらにレコード266,267を参照することで、「変圧器Z」-「機器32」-「送電線X1」-「機器11」-「変圧器X1」-「機器12」-「送電線X2」という接続関係があることが解る。このように機器データベース140Bは、機器を含め設備の接続関係を示しており、電力系統における設備間の距離が取得可能である。例えば「変圧器Z」と「送電線X2」との距離は6である。なお、接続関係のある機器を含めた設備の並びを電力系統上の経路とも記す。
【0050】
≪第2の実施形態の変形例:教師データベース≫
図12は、第2の実施形態の変形例に係る教師データベース130Bのデータ構成図である。教師データベース130A(図8参照)と比較して、代表事故設備136の列(属性)が追加される。代表事故設備136は事故が発生した設備を示す。
【0051】
≪第2の実施形態の変形例:教師データ生成処理≫
図10に戻って制御部110に備わる教師データ生成部114Bは、教師データベース130Bにある複数の教師データから新たな教師データを生成して教師データベース130Bに追加する。図13は、第2の実施形態の変形例に係る教師データ生成処理のフローチャートである。図13を参照しながら教師データ生成部114Bの動作を説明する。
ステップS41において教師データ生成部114Bは、教師データベース130Bの教師データ(レコード)のなかで発生日時134が近く(所定の時間内)であって代表事故設備136が電力系統において所定の距離内にある教師データの組を取得する。
【0052】
ステップS42~S49は、ステップS22~S29(図9参照)とそれぞれ同様である。ただしステップS44において教師データ生成部114Bは、発生箇所135をそれぞれの基となる教師データにおける発生箇所135の和とし、新しい教師データの代表事故設備136を空白とする。
またステップS46において教師データ生成部114Bは、対象機器が経路上にあれば(ステップS46→YES)ステップS48に進み、なければ(ステップS46→NO)ステップS47に進む。経路上にあるとは、電力系統における教師データの組に含まれる代表事故設備136を結ぶ経路があり(ステップS41参照)、当該経路の長さは所定の距離内であって、対象機器が当該経路上にあるということである。
【0053】
図12に記載の教師データを例として図13に記載の教師データ生成処理を説明する。教師データ221,223の代表事故設備136について、「変圧器X」と「送電線Z1」との電力系統における距離が所定の距離内にあり、「機器11」と「機器31」とは「変圧器X」および「送電線Z1」を接続する経路上にあるとする。すると、教師データ221,223は、発生日時134が「0000」と「0015」と近く、新しい教師データを生成する基となる教師データの組となる(ステップS41参照)。新しい教師データとして教師データ227が追加され(ステップS43参照)、その発生日時134は早い方の「0000」であって、発生箇所135は「変電所PX」および「変電所PZ」である(図12では「変電所PX,PZ」と記載、ステップS44参照)。
【0054】
「機器11」は代表事故設備136である「変圧器X」および「送電線Z1」を接続する経路上にある。教師データ221では「OFF」、教師データ223では「ON」であるため、新しい教師データ227の「機器11」は「OFF」となる(ステップS46→YES,ステップS48参照)。「機器31」も同様である。
【0055】
「機器12」「機器21」「機器22」「機器32」は経路上にはなく、教師データ227のON/OFFは発生日時134が早い教師データ221のON/OFFとなる(ステップS46→NO,ステップS47参照)。
新しい教師データ227の復旧手順133は、発生日時134の順に、教師データ221の「手順A」を行い、続いて教師データ223の「手順C」を行う(図12では「手順A+C」と記載、ステップS49参照)。
【0056】
教師データ222,224の代表事故設備136について、「変圧器Y」と「送電線Y1」との電力系統における距離が所定の距離内にあり、「機器21」と「機器22」とは「変圧器Y」および「送電線Y1」を接続する経路上にあるとする。すると、教師データ222,224は、発生日時134が「0010」と「0020」と近く、新しい教師データを生成する基となる教師データの組となる(ステップS41参照)。新しい教師データとして教師データ228が追加され(ステップS43参照)、その発生日時134は早い方の「0010」であって、発生箇所135は「変電所PY」である(ステップS44参照)。
【0057】
「機器22」は経路上にある。教師データ222では「OFF」、教師データ224では「ON」であるため、新しい教師データ228の「機器22」は「OFF」となる(ステップS46→YES,ステップS48参照)。「機器21」は経路上にあり、教師データ222,224では「ON」であるため、新しい教師データ228の「機器21」は「ON」となる。
【0058】
「機器11」「機器12」「機器31」「機器32」は経路上にはなく、教師データ228のON/OFFは発生日時134が早い教師データ222のON/OFFとなる(ステップS46→NO,ステップS47参照)。
新しい教師データ228の復旧手順133は、発生日時134の順に、教師データ222の「手順B」を行い、続いて教師データ224の「手順D」を行う(図12では「手順B+D」と記載、ステップS49参照)。
【0059】
≪第2の実施形態の変形例:復旧支援装置の特徴≫
教師データ生成部114Bは、事故の発生日時134が近く、代表事故設備136間に長さが所定の距離内である経路がある既存の教師データから新しい教師データを生成する。このような関連のある既存の教師データから新たな教師データを生成することで、教師データ生成部114Bは連続して発生する事故に対応する復旧手順を含む教師データを生成する。延いてはこのような教師データを用いて生成された学習モデル121を用いることで復旧支援装置100Aは、連続して発生する時刻に対応した復旧手順を出力することができるようになる。
【0060】
≪第2の実施形態の変形例:関連する事故≫
上記した第2の実施形態やその変形例において新しい教師データの基となる教師データには、発生箇所が同じ、または代表事故設備が電気系統上で所定の距離内にあるという関連があった。新しい教師データの基となる教師データは、当該教師データに対応する事故が電力系統における関連する事故であるという関連であってもよい。
上記した第2の実施形態やその変形例における新しい教師データの基となる教師データには、このような関連がある。他にも例えば、教師データに事故の発生日時、および事故が発生して不具合が生じている系統(接続関係のある機器を含めた設備の並び)が付与されているとする。発生時刻が近く、系統に重なりがある(同じ設備を含む)教師データを関連する事故と見なして、新しい教師データの基となる教師データとしてもよい。
【0061】
≪その他の変形例≫
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。復旧支援装置は、事故発生後の系統状態が入力され、当該系統状態に対応した復旧手順を出力する。復旧支援装置は、電力系統を監視・制御する電力系統監視制御システムに接続されており、電力系統監視制御システムから事故発生や系統状態を取得するようにしてもよい。さらに復旧支援装置は復旧手順を電力系統監視制御システムに出力し、電力系統監視制御システムが当該復旧手順に基づいて復旧処理を行うようにしてもよい。または、復旧支援装置は電力系統監視制御システムの一部として機能してもよい。
【0062】
上記した第2の実施形態では、復旧支援装置は、学習部、生成部、および教師データ生成部を備え、1つの装置が学習モデルを生成したり、復旧手順を出力したり、教師データから新たな教師データを生成したりしている。これらの機能部をそれぞれ別の装置が備えるようにしてもよい。例えば教師データ生成部を備える教師データ生成装置が生成した教師データを含む教師データベースを、学習部を備える学習装置に出力するようにしてもよい。学習装置は当該教師データベースを基に学習モデルを生成して、生成部を備える支援装置に出力してもよい。支援装置は学習モデルに基づいて、入力された事故発生後の系統状態に対応する復旧手順を出力するようにしてもよい。
【0063】
本発明はその他の様々な実施形態を取ることが可能であり、さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、省略や置換等種々の変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
100,100A,100B 復旧支援装置(教師データ生成装置)
111 データ取得部
112 学習部
113 生成部(手順生成部)
114,114B 教師データ生成部
130,130A,130B 教師データベース(教師データ)
134 発生日時(事故が発生した時刻)
135 発生箇所(事故が発生した施設)
136 代表事故設備(事故が発生した設備)
140,140B 機器データベース(設備データベース)
141 機器
142 変電所(事故が発生した施設)
143 設備
144 上位接続(設備)
145 下位接続(設備)
121 学習モデル(機械学習モデル)
128 プログラム
211~214,221~224 教師データ(元教師データ)
217,218,227,228 教師データ(新教師データ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13