(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186157
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】土留壁及び土留壁の施工方法
(51)【国際特許分類】
E02D 17/08 20060101AFI20221208BHJP
E02D 5/80 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
E02D17/08 A
E02D5/80 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094242
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 真輔
(72)【発明者】
【氏名】窪塚 大輔
【テーマコード(参考)】
2D041
2D044
【Fターム(参考)】
2D041GA01
2D041GB01
2D041GC11
2D044AA01
(57)【要約】
【課題】被圧された地下水による施工時の悪影響を抑制でき、シールド掘削機のカッターによって切削し易い土留壁及び土留壁の施工方法を提供することを目的とする。
【解決手段】土留壁100は、芯材11及び芯材11を埋めるソイルセメント12を有する地中連続壁10と、地中連続壁10を補強するアンカー20と、を備えている。アンカー20は、アンカー20を収容するアンカー用下孔20dの軸方向に沿って、ソイルセメント12に形成される予備孔20pに嵌る樹脂製ガイド管30に挿通されている。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯材及び前記芯材を埋めるソイルセメントを有する地中連続壁と、前記地中連続壁を補強するアンカーと、を備えた土留壁であって、
前記アンカーを収容するアンカー用下孔に対して同軸となるように前記ソイルセメントに形成された予備孔と、前記予備孔に嵌る樹脂製ガイド管と、を有し、
前記アンカーは、前記樹脂製ガイド管に挿通されている
ことを特徴とする土留壁。
【請求項2】
前記樹脂製ガイド管は、端部に平板部を有し、
前記平板部は、削孔用ケーシングパイプをガイドする口元管にボルトで接続される
ことを特徴とする請求項1に記載の土留壁。
【請求項3】
前記口元管は、前記口元管と前記削孔用ケーシングパイプとの間を封止可能な止水装置を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の土留壁。
【請求項4】
前記樹脂製ガイド管の内径は、100mm以上500mm以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の土留壁。
【請求項5】
前記樹脂製ガイド管は、繊維で補強されている
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の土留壁。
【請求項6】
前記アンカーは、受圧板を介して支持されており、
前記樹脂製ガイド管は、前記受圧板の背面側に配置されている
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の土留壁。
【請求項7】
前記樹脂製ガイド管は、前記芯材に取り付けられた滑止突起部で支持されている
ことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の土留壁。
【請求項8】
樹脂製ガイド管をソイルセメントに埋設した状態の土留壁を施工する工程と、
前記樹脂製ガイド管に、口元管を介して、前記樹脂製ガイド管と削孔用ケーシングパイプとの間を封止可能な止水装置を接合する工程と、
前記削孔用ケーシングパイプを、前記樹脂製ガイド管、前記口元管及び前記止水装置を通して、アンカー用下孔を削孔する工程と、を含む
ことを特徴とする土留壁の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土留壁及び土留壁の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネル等をシールド工法により施工する際、シールド掘削機の発進地点又は到達地点に、土留壁で補強された立坑を設けている。土留壁は、シールド掘削機のカッターによって切削し易くするため、例えば、硬質ウレタン樹脂をガラス繊維により強化した複合材で形成された鉛直に延びる芯材を、所定間隔で複数並べて、ソイルセメントで埋設して構築した地中連続壁とする場合がある。土留壁をアンカーで補強する場合、アンカーの材質を、芯材と同様に、シールド掘削機のカッターによって切削し易いものとしていた。
【0003】
アンカーの施工方法は、隣接する芯材の間にあるソイルセメント部にアンカー用下孔を削孔し、そのアンカー用下孔にアンカーを挿入し、その後、アンカーの一端部を土留壁の背後の地盤に定着させ、アンカーの他端部を、受圧板を介して芯材に支持させる工程を含んでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2-221515号公報
【特許文献2】特開平8-85942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アンカー用下孔の削孔位置の上部に透水性が低い層がある場合、アンカー用下孔を削孔すると、被圧された地下水が噴き出す等してアンカーの設置作業が困難となる場合があった。特に、アンカーが鋼製ではなく、樹脂と補強繊維で構成された軽量なものである場合、アンカーが地下水により押し戻される等することがあり、所定の位置への設置作業が困難であった。
また、被圧された地下水による施工時の悪影響に対応するため、止水ボックスを使って止水しながら、削孔とアンカー設置作業を行う手法があった(特許文献1又は特許文献2参照)。しかしながら、いずれも、鋼製土留壁に対する溶接又はボルト止めを伴う技術であって、そのままでは、繊維補強樹脂のような切削し易い材質で構築された土留壁へ適用できなかった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑み、なされたものであって、被圧された地下水による施工時の悪影響を抑制でき、シールド掘削機のカッターによって切削し易い土留壁及び土留壁の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は以下の形態を提案している。
【0008】
(1)本発明の一態様に係る土留壁は、芯材及び前記芯材を埋めるソイルセメントを有する地中連続壁と、前記地中連続壁を補強するアンカーと、を備えた土留壁であって、前記アンカーを収容するアンカー用下孔に対して同軸となるように前記ソイルセメントに形成された予備孔と、前記予備孔に嵌る樹脂製ガイド管と、を有し、前記アンカーは、前記樹脂製ガイド管に挿通されている。
【0009】
このような特徴で特定された本発明の土留壁によれば、シールド掘削機のカッターで切削し易くできる。また、アンカー用下孔の削孔時に、地盤(ソイルセメント)と樹脂製ガイド管の外面との間から被圧された地下水が噴き出すことを防ぐことができる。また、アンカー用下孔を削孔する地盤に被圧された地下水があっても、削孔用ケーシングパイプとアンカー用下孔から流出した水を止水装置に導くことができる。また、ソイルセメントの切端面に不陸があっても、ソイルセメントと樹脂製ガイド管との間からの水の流出を封止できる。よって、被圧された地下水による施工時の悪影響を抑制でき、シールド掘削機のカッターによって切削し易い土留壁を構築することができる。
【0010】
(2)上記(1)において、前記樹脂製ガイド管は、端部に平板部を有し、前記平板部は、削孔用ケーシングパイプをガイドする口元管にボルトで接続されてよい。
【0011】
このような特徴で特定された本発明の土留壁によれば、樹脂製ガイド管の平板部と口元管との間にOリングを挟んだ状態で、口元管を貫通し、雌ねじに螺合されたボルトで締め付けることで、樹脂製ガイド管と口元管との間のシール性を確保できる。
【0012】
(3)上記(2)において、前記口元管は、前記口元管と前記削孔用ケーシングパイプとの間を封止可能な止水装置を有してよい。
【0013】
このような特徴で特定された本発明の土留壁によれば、地盤から流出した水を、口元管を通して止水装置へ導くことができる。
【0014】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記樹脂製ガイド管の内径は、100mm以上500mm以下であってよい。
【0015】
このような特徴で特定された本発明の土留壁によれば、アンカー用下孔を削孔する際に、樹脂製ガイド管の円筒部の内側に、削孔用ケーシングパイプを挿通させることができる。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記樹脂製ガイド管は、繊維で補強されていてよい。
【0017】
このような特徴で特定された本発明の土留壁によれば、アンカーによる支圧力に対する強度を確保し易くできる。
【0018】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記アンカーは、受圧板を介して支持されており、前記樹脂製ガイド管は、前記受圧板の背面側に配置されていてよい。
【0019】
このような特徴で特定された本発明の土留壁によれば、地盤からの水の流出を封止し易くできるとともに、削孔用ケーシングパイプをガイドでき、更に、アンカーの荷重を、受圧板を介して受けることができる。
【0020】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記樹脂製ガイド管は、前記芯材に取り付けられた滑止突起部で支持されていてよい。
【0021】
このような特徴で特定された本発明の土留壁によれば、アンカーの反力の鉛直成分による、樹脂製ガイド管の下方への移動を規制できる。
【0022】
(8)本発明の一態様に係る土留壁の施工方法は、樹脂製ガイド管をソイルセメントに埋設した状態の土留壁を施工する工程と、前記樹脂製ガイド管に、口元管を介して、前記樹脂製ガイド管と削孔用ケーシングパイプとの間を封止可能な止水装置を接合する工程と、
前記削孔用ケーシングパイプを、前記樹脂製ガイド管、前記口元管及び前記止水装置を通して、アンカー用下孔を削孔する工程と、を含む。
【0023】
これにより、口元管、止水装置及び止水装置に設けられたシール部により、削孔用ケーシングパイプと樹脂製ガイド管との間の隙間を通じて流出する水を封止できる。よって、被圧された地下水による施工時の悪影響を抑制できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、被圧された地下水による施工時の悪影響を抑制でき、シールド掘削機のカッターによって切削し易い土留壁を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係る土留壁の施工方法における予備孔掘削工程を示す説明図である。
【
図2】実施形態に係る土留壁の施工方法における樹脂製ガイド管設置工程を示す説明図である。
【
図3】実施形態に係る土留壁の施工方法における隙間シール工程を示す説明図である。
【
図4】実施形態に係る土留壁の施工方法における滑止突起部設置工程を示す説明図である。
【
図5】実施形態に係る土留壁の施工方法における口元管接合工程を示す説明図である。
【
図6】実施形態に係る土留壁の施工方法における止水装置取付工程及びアンカー下孔削孔工程を示す説明図である。
【
図7】実施形態に係る土留壁の施工方法におけるアンカー挿入工程を示す説明図である。
【
図8】実施形態に係る土留壁の施工方法における口元管除去工程を示す説明図である。
【
図9】実施形態に係る土留壁の施工方法におけるアンカー定着工程を示す説明図である。
【
図10】実施形態に係る樹脂製ガイド管の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、
図1から
図9を参照し、本発明の実施形態に係る土留壁100の一例について、土留壁100の施工方法の一例の説明に沿って説明する。
図1は、実施形態に係る土留壁100の施工方法における予備孔掘削工程S1を示す説明図である。
図2は、実施形態に係る土留壁100の施工方法における樹脂製ガイド管設置工程S2を示す説明図である。
図3は、実施形態に係る土留壁100の施工方法における隙間シール工程S3を示す説明図である。
図4は、実施形態に係る土留壁100の施工方法における滑止突起部設置工程S4を示す説明図である。
図5は、実施形態に係る土留壁100の施工方法における口元管接合工程S5を示す説明図である。
図6は、実施形態に係る土留壁100の施工方法における止水装置取付工程S6及びアンカー下孔削孔工程S7を示す説明図である。
図7は、実施形態に係る土留壁100の施工方法におけるアンカー挿入工程S8を示す説明図である。
図8は、実施形態に係る土留壁100の施工方法における口元管除去工程S9を示す説明図である。
図9は、実施形態に係る土留壁100の施工方法におけるアンカー定着工程S10を示す説明図である。
【0027】
(土留壁)
本実施形態に係る土留壁100は、例えば、トンネル等をシールド工法により施工する際、不図示のシールド掘削機の発進地点又は到達地点に設けられた立坑を補強するための土留壁100に適用できる。シールド掘削機の発進地点又は到達地点に設けられた土留壁100は、一部を、アンカー20ごと、シールド掘削機のカッターによって切削されることにより、トンネルを構成する貫通孔を形成する。
【0028】
図9に示すように、土留壁100は、芯材11及び芯材11を埋めるソイルセメント12を有する地中連続壁10と、地中連続壁10を補強するアンカー20と、を備えている。
【0029】
地中連続壁10は、シールド掘削機のカッター(不図示)によって切削し易くするため、例えば、硬質ウレタン樹脂をガラス繊維により強化した複合材で形成された鉛直に延びる芯材11を、所定間隔で複数並べて、それらの芯材11を包んで繋げて、立坑の切端面100Sに沿って面状になるように、ソイルセメント12で埋設して構築されている。
また、地中連続壁10は、アンカー20で補強されている。
【0030】
アンカー20は、一端を土留壁100の背後にある地盤Gに定着されており、他端を土留壁100に支持されている。アンカー20は、例えば、紐状体又は棒状体の高強度の引張材である。アンカー20は、例えば、引張材の一端に、地盤Gに対してセメント等を介して固定されるパッカー等の定着体21を有している。アンカー20は、
図9に示すように、例えば、引張材20Tの他端に、受圧板70及びカラー22を貫通し、ナット23を螺合可能な雄ねじが形成されたアンカーヘッド20hを有している。アンカー20の材質は、芯材11と同様に、例えば、鋼製ではなく、繊維補強樹脂製であり、シールド掘削機のカッターによって切削し易いものとなっている。同様に、受圧板70の材質は、芯材11と同様に、例えば、鋼製ではなく、繊維補強樹脂製であり、シールド掘削機のカッターによって切削し易いものとなっている。このように、土留壁100は、土留壁100を構成する芯材11、アンカー20等を、鋼製とせず、樹脂製としたので、シールド掘削機のカッターによって切削し易いものとなっている。
【0031】
ここで、土留壁100は、アンカー20を収容するアンカー用下孔20dに対して同軸となるようにソイルセメント12に形成された予備孔20pと、予備孔20pに嵌る樹脂製ガイド管30と、を有している。そして、アンカー20は、樹脂製ガイド管30に挿通されている。
このように、土留壁100は、ソイルセメント12に形成される予備孔20p又はアンカー用下孔20dに嵌る樹脂製ガイド管30を有している。このため、シールド掘削機のカッターで切削し易くできる。また、予備孔20pを削孔する地盤Gに被圧された地下水があっても、予備孔20pと樹脂製ガイド管30との隙間が塞がれるので、アンカー用下孔20dを削孔するまで、樹脂製ガイド管30と切端面100Sとの隙間からの水の流出を封止できる。また、アンカー用下孔20dを削孔する地盤Gに被圧された地下水があっても、削孔用ケーシングパイプCとアンカー用下孔20dから流出した水を止水装置50(
図6及び
図7参照)に導くことができる。また、ソイルセメント12の切端面100S(立坑に露出する面)に不陸があっても、ソイルセメント12と樹脂製ガイド管30との間からの水の流出を封止できる。よって、被圧された地下水による施工時の悪影響を抑制でき、シールド掘削機のカッターによって切削し易い土留壁100とすることができる。
【0032】
(樹脂製ガイド管30)
図10は、実施形態に係る樹脂製ガイド管30の正面図である。
図11は、実施形態に係る樹脂製ガイド管30の断面図である。
図12は、
図11のB部詳細図である。
樹脂製ガイド管30は、例えば、塩化ビニル等の樹脂製である。樹脂製ガイド管30は、繊維で補強されていてよい。これにより、アンカー20による支圧力に対する強度を確保し易くできる。
樹脂製ガイド管30は、
図10から
図12に示すように、鍔付管部31と、Oリング32と、を備えている。
樹脂製ガイド管30は、芯材11に取り付けられた滑止突起部60で支持されていてよい。これにより、アンカー20の反力の鉛直成分による、樹脂製ガイド管30の下方への移動を規制できる。
【0033】
鍔付管部31は、中央に開口部311qを有する平板部311と、開口部311qに連通する円筒部312と、を有している。円筒部312の端部は、平板部311の開口部311qに対して、水密性を確保した状態で接合されて一体となっている。平板部311と円筒部312とは、例えば、融着又は溶接により接合されている。円筒部312の中心軸は、切端面100Sに対するアンカー用下孔20dの角度に応じて、平板部311の開口部311qの中心軸に対して、適宜、傾斜している。この場合、開口部311qの形状、及び、平板部311に接合される円筒部312の端面は、それぞれ、楕円形状になっている。
【0034】
平板部311は、Oリング32を嵌めるための円環状の環状溝311gと、を有している。
また、
図12に示すように、平板部311は、口元管40にボルト33で接続されている。詳細には、平板部311は、削孔用ケーシングパイプCをガイドする口元管40を着脱自在にするための雌ねじ部311fを有している。平板部311は、開口部311qの中心軸と同心円上に、等ピッチで、例えば、12個の雌ねじ部311fを有している。これにより、樹脂製ガイド管30の平板部311と口元管40との間にOリング32を挟んだ状態で、口元管40を貫通し、雌ねじ311fに螺合されたボルト33で締め付けることで、樹脂製ガイド管30と口元管40との間のシール性を確保できる。
【0035】
円筒部312の外径は、予備孔20p又はアンカー用下孔20dより小さく設定されている。これにより、円筒部312を、予備孔20p又はアンカー用下孔20dに挿入して嵌めることができる。円筒部312の内径は、削孔用ケーシングパイプCの外径より大きく設定されている。すなわち、樹脂製ガイド管30の内径は、100mm以上500mm以下である。これにより、アンカー用下孔20dを削孔する際に、円筒部312の内側に、削孔用ケーシングパイプCを挿通させることができる。
【0036】
Oリング32は、断面が円形状の環状体である。Oリング32は、平板部311に形成された環状溝311gに嵌っている。Oリング32は、樹脂製ガイド管30と口元管40との間に挟まれた状態で、環状溝311gに変形を拘束されつつ、弾性変形による口元管40のフランジに向く付勢力を維持してシール性を確保する。Oリング32の断面の直径は、環状溝311gの深さより大きくなっている。Oリング32は、例えば、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)製である。
【0037】
(口元管及び止水装置)
ところで、
図5に示すように、土留壁100の施工過程において、アンカー20を施工するため、切端面100Sに形成された予備孔20pに挿入された樹脂製ガイド管30の露出した平板部311に、口元管40を設置する(
図5から
図7参照)。
図6及び
図7に示すように、口元管40は、口元管40と削孔用ケーシングパイプCとの間を封止可能な止水装置50を有している。これにより、地盤Gから流出した水を、口元管40を通して止水装置50へ導くことができる。
【0038】
口元管40は、例えば、鋼製である。口元管40は、端部に、樹脂製ガイド管30にボルト33によって接続されるフランジを有している。フランジの面は、平坦である。口元管40は、樹脂製ガイド管30とフランジの間に、Oリング32を挟んだ状態で、樹脂製ガイド管30にボルト33によって接合される。
【0039】
止水装置50は、口元管40の端部に水密性を保って接続される第1管部51と、第1管部51に連なる第2管部52と、を備えている。
【0040】
第1管部51の一端は、口元管40に接続されている。第1管部51の他端は、開閉自在なシャッター部53を介して第2管部52に接続されている。
【0041】
シャッター部53は、自重で大きなたわみを生じず自立できる程度の剛性を有する板状体を、アンカー用下孔20dの軸方向に対して直交する方向に摺動自在に設けている。これにより、削孔用ケーシングパイプCを挿入する前はシャッター部53を閉じておくことで予備孔20pを通る地盤Gからの被圧水の流出を封止しておき、削孔用ケーシングパイプCを挿入するときは、シャッター部53を開けることができる。
【0042】
また、第1管部51は、適宜、止水装置50の内側の水を封止する閉状態又は排出できる開状態を切り替え自在なドレーンバルブ55を有している。
【0043】
第2管部52の一端は、シャッター部53を介して第1管部51に接続されている。第2管部52の他端は、ゴム等の可撓性材料で形成されたシール部54を有している。シール部54は、削孔用ケーシングパイプCの外径所定より小さい直径の開口を中央に有し、所定の厚みを有するゴム製の板体であってよい。このように、止水装置50は、シール部54を備えているので、アンカー用下孔20dの削孔時において、シール部54の内面が削孔用ケーシングパイプCの外面に密着し、削孔用ケーシングパイプCと止水装置50の内面との間を通る地盤Gから流れ出る水を封止できる。
【0044】
(土留壁の施工方法)
以下、本実施形態に係る土留壁100の施工方法を詳細に示す。
まず、
図1に示すように、地盤Gに、芯材11とソイルセメント12とを含む地中連続壁10を施工する。そして、地中連続壁10の側面を、立坑の切端面100Sとして露出させた土留壁100を施工する。
【0045】
(1)次に、削孔用ケーシングパイプCの先端に配備されたビットの外径より大きな外径のビットを有するドリルDにより、予備孔20pを削孔する(予備孔掘削工程S1)。予備孔20pの方向は、アンカー用下孔20dの軸方向と同じ方向にする。予備孔20pの内径は、口元パッカー34(
図2参照)が巻かれた最大外形寸法より大きくする。予備孔20pの長さは、樹脂製ガイド管30の円筒部312の長さより長くする。
【0046】
(2)次に、
図2に示すように、予備孔20pに、樹脂製ガイド管30を挿入する(樹脂製ガイド管設置工程S2)。これにより、樹脂製ガイド管30をソイルセメント12に埋設した状態の土留壁100を施工する。
詳細には、口元パッカー34をあらかじめ取り付けておいた樹脂製ガイド管30を用意する。口元パッカー34は、流体状の充填材を充填可能な環状の容器である。口元パッカー34は、例えば、充填材が充填されていない状態で薄く扁平になり、充填材が充填された状態で円形状の断面を有する樹脂製又は布製の袋体である。口元パッカー34は、あらかじめ、充填材が充填されておらず、萎んで容積が小さい状態で、円筒部312の周囲に巻かれている。口元パッカー34は、充填材の供給管(不図示)と連通している。供給管の供給口は、切端面100Sから露出している。
そして、口元パッカー34が取り付けられた樹脂製ガイド管30の円筒部312を予備孔20pの内側に嵌めて、樹脂製ガイド管30の平板部311を切端面100Sに当てるようにして配置する。
なお、口元パッカー34を用いず、樹脂製ガイド管30の平板部311とソイルセメントとの隙間をパテ等で埋めてもよい。
【0047】
(3)次に、
図3に示すように、口元パッカー34に、供給管を通じて、充填材を充填する(隙間シール工程S3)。なお、充填材は、供給時に流体状であればよい。すると、口元パッカー34は、膨らんで容積を増し、予備孔20pと樹脂製ガイド管30との間の隙間に馴染んで密着する。このようにして、全周に亘って平坦な内周面を有する予備孔20pと、全周に亘って平坦な外周面を有する樹脂製ガイド管30との隙間mが、口元パッカー34によって塞がれる。よって、切端面100Sに不陸があり、平板部311と切端面100Sとの間の隙間eが揃っていなくても、地盤Gから予備孔20p又はアンカー用下孔20dを通じた被圧水の流出を封止できる。
【0048】
(4)次に、
図4に示すように、滑止突起部60を設置する(滑止突起部設置工程S4)。滑止突起部60は、樹脂製ガイド管30の直下において、切端面100Sから立坑に向けて突出した状態で地中連続壁10に固定される。滑止突起部60は、芯材11又はソイルセメント12に、例えば、アンカーボルト等によって固定されている。滑止突起部60は、シールド掘削機のカッターによって切削可能な、例えば、樹脂製の素材で形成されている。滑止突起部60は、樹脂製ガイド管30の直下において、切端面100Sから立坑に向けて突出した状態で地中連続壁10に固定されているので、後工程で切端面100Sに対して斜めに施工されたアンカー20を緊張した際に、アンカー20を介して樹脂製ガイド管30に作用する鉛直下向きの分力を受けて、樹脂製ガイド管30が下方に移動しないようにできる。
なお、滑止突起部60を用いず、樹脂製ガイド管30を上方から吊った状態で保持してもよい。
【0049】
(5)次に、
図5に示すように、樹脂製ガイド管30に、Oリング32を取り付ける。そして、Oリング32を樹脂製ガイド管30と口元管40との間に挟んだ状態で、樹脂製ガイド管30に、ボルト33を用いて口元管40を取り付ける(口元管接合工程S5)。なお、Oリング32及びボルト33は、それぞれ、シールド掘削機のカッターによって切削可能な、例えば、樹脂製の素材で形成されている。
【0050】
(6)次に、
図6に示すように、口元管40に止水装置50を取り付ける(止水装置取付工程S6)。詳細には、樹脂製ガイド管30に、口元管40を介して、樹脂製ガイド管30と削孔用ケーシングパイプCとの間を封止可能な止水装置50を接合する。
そして、止水装置50の端部の開口から、削孔用ケーシングパイプCを挿入して、口元管40及び樹脂製ガイド管30を通して、削孔用ケーシングパイプCの端部を予備孔20pの底まで到達させる。そこから、削孔用ケーシングパイプCの先端に配備されたビットによって更に削孔を進めて、地盤Gにアンカー用下孔20dを形成する(アンカー下孔削孔工程S7)。すなわち、削孔用ケーシングパイプCを、樹脂製ガイド管30、口元管40及び止水装置50を通して、アンカー用下孔20dを削孔する。この際、口元管40、止水装置50及び止水装置50に設けられたシール部54により、削孔用ケーシングパイプCと樹脂製ガイド管30との間の隙間kを通じて流出する水を封止できる。よって、被圧された地下水による施工時の悪影響を抑制できる。
【0051】
(7)次に、
図7に示すように、削孔用ケーシングパイプCの内側に、先端にパッカー等の定着体21を予め取り付けておいたアンカー20を通し、アンカー20の先端をアンカー用下孔20dの底まで到達させる。続いて、削孔用ケーシングパイプCをアンカー用下孔20dから抜き、定着体21を膨らます。又は、適宜、セメントペースト等をアンカー20の先端に充填して硬化させることにより、アンカー20の先端を地盤Gに固定する(アンカー挿入工程S8)。
【0052】
(8)次に、
図8に示すように、ボルト33を外して口元管40と樹脂製ガイド管30との接続を解除し、樹脂製ガイド管30から、口元管40及び止水装置50を取り外す(口元管除去工程S9)。
【0053】
(9)次に、
図9に示すように、アンカーヘッド20hに受圧板70及びカラー22を通した状態で、適宜、不図示の油圧ジャッキ等でアンカーヘッド20hを把持して、アンカー20の引張材20Tを緊張する(アンカー定着工程S10)。カラー22の受圧板70に接する端面は、アンカー用下孔20dの軸方向に応じて、ナット23を支持する支持面に対して傾斜している。この際、滑止突起部60があるので、受圧板70を樹脂製ガイド管30に固定しなくても、受圧板70の下方への移動を規制できる。そして、ナット23をアンカーヘッド20hに形成された雄ねじに螺合する。これにより、アンカー20によって、地中連続壁10が補強される。したがって、アンカー20は、受圧板70を介して支持されており、樹脂製ガイド管30は、受圧板70の背面側に配置されている。よって、地盤Gからの水の流出を封止し易くできるとともに、削孔用ケーシングパイプCをガイドでき、更に、アンカー20の荷重を、受圧板70を介して受けることができる。
このようにして、シールド掘削機のカッターによって切削可能な材料で、アンカー20で補強された地中連続壁10で構成された土留壁100を、施工時の被圧水の流出を封止しながら施工できる。よって、被圧された地下水による施工時の悪影響を抑制でき、シールド掘削機のカッターによって切削し易い土留壁100及び土留壁の施工方法を提供できる。
【0054】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、樹脂製ガイド管30の鍔付管部31を構成する平板部311は、中央に開口部311qを形成せずに、円筒部312の一端の開口を完全に塞ぐものであってもよい。これにより、削孔用ケーシングパイプCでアンカー用下孔20dを削孔するまでは、地盤Gから予備孔20pを通じて切端面100Sに流出する水を封止でき、アンカー用下孔20dの削孔時には、削孔用ケーシングパイプCで平板部311を簡単に破くことができる。なお、円筒部312の一端の開口を塞ぐ平板部311の中央に、地盤Gから流出する水を抜くためのバルブを設けてもよい。
【0055】
その他、本発明の趣旨に逸脱しない範囲で、前記実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、前記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0056】
10 地中連続壁
11 芯材
12 ソイルセメント
20 アンカー
20d アンカー用下孔
20h アンカーヘッド
20p 予備孔
20T 引張材
21 定着体
22 カラー
23 ナット
30 樹脂製ガイド管
31 鍔付管部
32 Oリング
33 ボルト
34 口元パッカー
40 口元管
50 止水装置
51 第1管部
52 第2管部
53 シャッター部
54 シール部
55 ドレーンバルブ
60 滑止突起部
70 受圧板
100 土留壁
100S 切端面
311 平板部
311f 雌ねじ部
311g 環状溝
311q 開口部
312 円筒部
C 削孔用ケーシングパイプ
D ドリル
e,k,m 隙間
G 地盤