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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186159
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】被印刷体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20221208BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B32B27/30 A
H05K1/03 610H
H05K1/03 630C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094244
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】浅川 勝弘
(72)【発明者】
【氏名】縣 和哉
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AK25B
4F100AK42A
4F100AL05B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100CC01B
4F100CC02B
4F100CC03C
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EJ08B
4F100EJ422
4F100EJ522
4F100EJ542
4F100EJ862
4F100GB43
4F100JB04B
4F100JB06B
4F100JB13B
4F100JB14B
4F100JD14B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】従来よりも高精細な導電配線パターンを形成可能な被印刷体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る被印刷体10は、被印刷基材1と、前記被印刷基材の表面の少なくとも一部に形成された溶剤吸収層2とを備える被印刷体であって、前記溶剤吸収層は、その表面に塗布された導電ペーストに含まれる溶剤成分を吸収可能な樹脂層であり、ウレタン(メタ)アクリレート重合体と(メタ)アクリレートモノマーを含む樹脂組成物の硬化物である。溶剤吸収層2の表面には線幅が細い導電配線3を有する高精細の導電配線パターンを形成することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被印刷基材と、前記被印刷基材の表面の少なくとも一部に形成された溶剤吸収層と、を備える被印刷体であって、
前記溶剤吸収層は、その表面に塗布された導電ペーストに含まれる溶剤成分を吸収可能な樹脂層であり、ウレタン(メタ)アクリレート重合体と(メタ)アクリレートモノマーを含む樹脂組成物の硬化物である、被印刷体。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体と異なる(メタ)アクリル系樹脂を含む、請求項1に記載の被印刷体。
【請求項3】
前記溶剤吸収層の表面は撥水性を有し、前記表面に対する水の接触角θが60~90°である、請求項1又は2に記載の被印刷体。
【請求項4】
前記溶剤吸収層の表面は撥油性を有し、前記表面に対するエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの接触角θが4~20°である、請求項1~3の何れか一項に記載の被印刷体。
【請求項5】
前記溶剤吸収層の厚さが5~30μmである、請求項1~4の何れか一項に記載の被印刷体。
【請求項6】
被印刷基材の少なくとも一部の表面に樹脂組成物を塗布し、乾燥した後、活性エネルギー線を照射する又は加熱することにより、前記表面に前記樹脂組成物からなる溶剤吸収層を形成する工程を有し、
前記樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート重合体と、(メタ)アクリレートモノマーと、光重合開始剤又は熱重合開始剤と、を含む、被印刷体の製造方法。
【請求項7】
前記樹脂組成物は、前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体とは異なる(メタ)アクリル系樹脂をさらに含む、請求項6に記載の被印刷体の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂組成物は、鉱油をさらに含む、請求項6又は7に記載の被印刷体の製造方法。
【請求項9】
前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体が60~70質量%、前記(メタ)アクリレートモノマーが25~35質量%、前記光重合開始剤又は前記熱重合開始剤が1~5質量%、鉱油が0.001~1質量%、溶剤は必要に応じて適量で含まれ、各成分の合計が100質量%である組成物を準備し、この組成物に前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体とは異なる(メタ)アクリル系樹脂を添加することにより、前記樹脂組成物を得る準備工程を有する、請求項6に記載の被印刷体の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂組成物の総質量に対する前記(メタ)アクリル系樹脂の含有量を、0.5~10質量%の範囲とする、請求項9に記載の被印刷体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被印刷体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
センサーシートやヒートシールコネクター等のデバイスには、印刷技術によって形成された導電配線パターンが使用されている。デバイスの高性能化や小型化のために導電配線の線幅を細くした導電配線パターンが求められている。例えば特許文献1には、スクリーン印刷にて被印刷基材に導電ペーストを塗布し、0.10~0.20mmピッチの導電配線を形成したヒートシールコネクター及びその製造方法が開示されている。
前記被印刷基材の表面に備えられた溶剤吸収部材に対してスクリーン印刷された導電ペーストは、スクリーンを通過する時点までは印刷性のよい低粘度を保持しており、その後、溶剤吸収部材に接した時点で瞬時に粘度が上がり、幅方向での導電ペーストのダレが抑止される。これにより鮮明な導電配線パターンを有するヒートシールコネクターが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平6-85333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示された技術では100μmよりも細い導電配線を備えた高精細な導電配線パターンを形成することは困難であった。
【0005】
本発明は、従来よりも高精細な導電配線パターンを形成可能な被印刷体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] 被印刷基材と、前記被印刷基材の表面の少なくとも一部に形成された溶剤吸収層と、を備える被印刷体であって、前記溶剤吸収層は、その表面に塗布された導電ペーストに含まれる溶剤成分を吸収可能な樹脂層であり、ウレタン(メタ)アクリレート重合体と(メタ)アクリレートモノマーを含む樹脂組成物の硬化物である、被印刷体。
[2] 前記樹脂組成物は、前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体と異なる(メタ)アクリル系樹脂を含む、[1]に記載の被印刷体。
[3] 前記溶剤吸収層の表面は撥水性を有し、前記表面に対する水の接触角θが60~90°である、[1]又は[2]に記載の被印刷体。
[4] 前記溶剤吸収層の表面は撥油性を有し、前記表面に対するエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートの接触角θが4~20°である、[1]~[3]の何れか一項に記載の被印刷体。
[5] 前記溶剤吸収層の厚さが5~30μmである、[1]~[4]の何れか一項に記載の被印刷体。
[6] 被印刷基材の少なくとも一部の表面に樹脂組成物を塗布し、乾燥した後、活性エネルギー線を照射する又は加熱することにより、前記表面に前記樹脂組成物からなる溶剤吸収層を形成する工程を有し、前記樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート重合体と、(メタ)アクリレートモノマーと、光重合開始剤又は熱重合開始剤と、を含む、被印刷体の製造方法。
[7] 前記樹脂組成物は、前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体とは異なる(メタ)アクリル系樹脂をさらに含む、[6]に記載の被印刷体の製造方法。
[8] 前記樹脂組成物は、鉱油をさらに含む、[6]又は[7]に記載の被印刷体の製造方法。
[9] 前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体が60~70質量%、前記(メタ)アクリレートモノマーが25~35質量%、前記光重合開始剤又は前記熱重合開始剤が1~5質量%、鉱油が0.001~1質量%、溶剤は必要に応じて適量で含まれ、各成分の合計が100質量%である組成物を準備し、この組成物に前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体とは異なる(メタ)アクリル系樹脂を添加することにより、前記樹脂組成物を得る準備工程を有する、[6]に記載の被印刷体の製造方法。
[10] 前記樹脂組成物の総質量に対する前記(メタ)アクリル系樹脂の含有量を、0.5~10質量%の範囲とする、[9]に記載の被印刷体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、従来よりも高精細な導電配線パターンを形成可能な被印刷体及びその製造方法を提供することができる。
【0008】
本発明は、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る被印刷体と、その表面に形成された導電配線とを厚さ方向に切断した断面図である。
図2】実施例で製造した導電配線パターンの一例の上面の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪被印刷体≫
本発明の第一態様は、被印刷基材と、前記被印刷基材の表面の少なくとも一部に形成された溶剤吸収層と、を備える被印刷体である。図1は被印刷体の厚さ方向の断面図の一例であり、例示する被印刷体10は、被印刷基材1とその片面の全体に形成された溶剤吸収層2を備え、溶剤吸収層2の表面に導電配線3が形成されている。
【0011】
(被印刷基材)
被印刷基材は、溶剤吸収層を支持する基材であればよく、例えば樹脂(高分子)成形体が挙げられる。樹脂成形体の形状は特に制限されず、例えばフィルム(シート)が挙げられる。被印刷基材を構成する材料としては、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ-1、4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリアリレート、液晶ポリマー等が挙げられる。
被印刷基材がフィルムである場合の厚さは、例えば1~100μmが挙げられる。
【0012】
(溶剤吸収層)
溶剤吸収層は、その表面に塗布された導電ペーストに含まれる溶剤成分を吸収可能な樹脂層である。被印刷基材がフィルムである場合、溶剤吸収層はフィルムの表面及び裏面のうち少なくとも一方に備えられる。溶剤吸収層は、フィルムの表面又は裏面の全体に備えられていてもよいし、任意の領域のみに備えられていてもよい。
溶剤吸収層の厚さは、例えば1μm~100μmが挙げられ、5μm~30μmが好ましい。好適な範囲であると、溶剤吸収層のひび割れを防止することができる。
【0013】
溶剤吸収層は、ウレタン(メタ)アクリレート重合体と(メタ)アクリレートモノマーを含む樹脂組成物の硬化物であることが好ましい。この硬化物であると、撥水性と撥油性を兼ね備え、塗布された導電ペーストが含む溶剤を適度に吸収して滲みを抑制し、割れや欠け等の不具合のない導電配線を細い線幅で形成することができる。
【0014】
一般に、ウレタンアクリレートとは、イソシアネート基とヒドロキシ基を反応させたウレタン結合を有する部分と、アクリル基(アクリロイル基:CH=CH-C(=O)-)とを有するオリゴマー又はモノマーをいう。ウレタンアクリレートが有するアクリル基同士が重合することにより、ウレタンアクリレート重合体が得られる。
【0015】
本態様のウレタン(メタ)アクリレート重合体は、ウレタンアクリレート重合体とウレタンメタクリレート重合体のうち少なくとも一方の重合体を意味する。
本態様のウレタン(メタ)アクリレート重合体の重合度は特に制限されず、一般的に使用されるウレタンアクリレート重合体と同程度の重合度が適用できる。その重合度の目安となる分子量は、例えば1万~100万が挙げられる。
【0016】
本態様の(メタ)アクリレートモノマーは、アクリレートモノマーとメタクリレートモノマーのうち少なくとも一方のモノマーを意味する。
本態様の(メタ)アクリレートモノマーは、アクリル基又はメタクリル基を有するモノマーであればよい。
【0017】
(樹脂組成物)
溶剤吸収層を形成する前記樹脂組成物は、例えば、前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体が60~70質量%、前記(メタ)アクリレートモノマーが25~35質量%、重合開始剤が1~5質量%、溶剤は必要に応じて適量で含まれ、各成分の合計が100質量%であるものが好ましい。この樹脂組成物を用いると、撥水性と撥油性を兼ね備え、塗布された導電ペーストが含む溶剤を適度に吸収して滲みを抑制し、割れや欠け等の不具合のない導電配線を細い線幅で形成することが可能な前記硬化物を容易に形成することができる。
【0018】
前記重合開始剤は、(メタ)アクリル基同士を重合させることが可能な公知の重合開始剤であり、紫外線等の活性エネルギー線によって重合を開始する光重合開始剤であってもよいし、加熱によって重合を開始する熱重合開始剤であってもよい。
【0019】
前記樹脂組成物には、鉱油がさらに含まれることが好ましい。鉱油の含有量は、前記樹脂組成物の総質量に対して、0.001~1質量%であることが好ましい。
【0020】
前記樹脂組成物には、前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体とは異なる(メタ)アクリル系樹脂がさらに含まれることが好ましい。ここで、(メタ)アクリル系樹脂とは、アクリル系樹脂及びメタクリル系樹脂のうち少なくとも一方を意味する。
前記(メタ)アクリル系樹脂は、ウレタン結合を有しないものが好ましく、表面調整剤として市販されているものを適用することができる。例えば、楠本化成株式会社のディスパロンOX-881が挙げられる。ディスパロンOX-881を構成するアクリル系樹脂は、キシレンに30質量%で溶解されたときに、無色~淡黄色透明を呈し、密度が0.892g/cm(20℃)、粘度が7.0cP(20℃)となるものである。
【0021】
前記樹脂組成物に前記(メタ)アクリル系樹脂を添加する場合、前記樹脂組成物の総質量に対する前記(メタ)アクリル系樹脂の含有量は、0.5~10質量%が好ましく、1~9質量%がより好ましく、2~8質量%がさらに好ましく、3~7質量%が特に好ましく、4~6質量%が最も好ましい。
上記範囲において濃度が高くなるほど、溶剤吸収層の水及びエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(EGBEA)に対する接触角が大きくなり、撥水性と撥油性を兼ね備え、塗布された導電ペーストが含む溶剤を適度に吸収して滲みを抑制し、割れや欠け等の不具合のない導電配線を細い線幅で形成することが可能な前記硬化物をより容易に形成することができる。
【0022】
(水の接触角)
本態様の溶剤吸収層の表面における水の接触角θは、60°以上が好ましく、70°以上がより好ましく、80°以上がさらに好ましい。水の接触角θの上限値は例えば90°以下でもよいし、88°以下でもよいし、85°以下でもよい。
ここで、水の接触角θは、後述するJIS規格に準拠した測定方法で6回測定したときの平均値とする。
水の接触角θが上記範囲であると、溶剤吸収層の表面が充分な撥水性を有し、塗布された導電ペーストが含む溶剤を適度に吸収して滲みを抑制し、割れや欠け等の不具合のない導電配線を細い線幅で形成することが可能な前記硬化物をより容易に形成することができる。
【0023】
(EGBEAの接触角)
本態様の溶剤吸収層の表面におけるエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(EGBEA)の接触角θは、4°以上が好ましく、7°以上がより好ましく、10°以上がさらに好ましく、11°以上が特に好ましい。EGBEAの接触角θの上限値は例えば20°以下でもよいし、18°以下でもよいし、15°以下でもよい。
ここで、EGBEAの接触角θは、後述するJIS規格に準拠した測定方法で6回測定したときの平均値とする。
EGBEAの接触角θが上記範囲であると、溶剤吸収層の表面が適度な撥油性を有し、塗布された導電ペーストが含む溶剤を適度に吸収して滲みを抑制し、割れや欠け等の不具合のない導電配線を細い線幅で形成することが可能な前記硬化物をより容易に形成することができる。
【0024】
≪被印刷体の製造方法≫
本発明の第二態様は、被印刷基材の少なくとも一部の表面に樹脂組成物を塗布し、乾燥した後、活性エネルギー線を照射する又は加熱することにより、前記表面に前記樹脂組成物からなる溶剤吸収層を形成する工程を有する、被印刷体の製造方法である。
【0025】
前記樹脂組成物は、ウレタン(メタ)アクリレート重合体と、(メタ)アクリレートモノマーと、光重合開始剤又は熱重合開始剤とを含む。前記樹脂組成物が含む各成分の説明は第一態様の説明と重複するので省略する。
【0026】
本態様の製造方法は、前記樹脂組成物を準備する工程を有していてもよい。例えば、前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体が60~70質量%、前記(メタ)アクリレートモノマーが25~35質量%、前記光重合開始剤又は前記熱重合開始剤が1~5質量%、鉱油が0.001~1質量%、溶剤は必要に応じて適量で含まれ、各成分の合計が100質量%である組成物を準備し、この組成物に前記ウレタン(メタ)アクリレート重合体とは異なる(メタ)アクリル系樹脂を添加することにより、前記樹脂組成物を得ることが好ましい。
【0027】
前記樹脂組成物を被印刷基材に塗布する方法は特に制限されず、例えば高分子フィルムに一般的な樹脂組成物を塗布してコーティングする公知方法を適用することができる。具体的には、前記樹脂組成物を各種コーターで塗布する方法、前記樹脂組成物に被印刷基材を浸漬して取り出す方法、被印刷基材に前記樹脂組成物を吹き付ける方法、前記樹脂組成物を被印刷基材に印刷する方法等が挙げられる。
【0028】
被印刷基材に塗布した前記樹脂組成物は、乾燥・硬化後の厚さを考慮した厚さの塗膜を形成する。塗膜に含まれる溶剤等の揮発成分を乾燥させる方法は特に制限されず、例えば、赤外線ヒーター、送風機等を用いて、熱や風により乾燥させる方法が挙げられる。また、自然に乾燥するのを待ってもよい。
【0029】
乾燥後の塗膜に光重合開始剤が含まれる場合には、UVや電子線等の活性エネルギー線を照射して、塗膜に含まれる(メタ)アクリル基同士を重合させ、塗膜を硬化させる。
活性エネルギー線を照射する方法は特に制限されず、アクリレートモノマーを含む樹脂組成物の塗膜に照射する公知方法を適用することができる。
【0030】
乾燥後の塗膜に熱重合開始剤が含まれる場合には、加熱して塗膜に含まれる(メタ)アクリル基同士を重合させ、塗膜を硬化させる。
加熱する方法は特に制限されず、アクリレートモノマーを含む樹脂組成物の塗膜を加熱して硬化させる公知方法を適用することができる。加熱温度及び時間は、使用する熱重合開始剤の種類に応じて適宜設定される。
【0031】
≪被印刷体の使用≫
本発明の被印刷体は溶剤吸収層を備えており、適度な撥水性と撥油性を兼ね備えているので、その表面に塗布された導電ペーストの溶剤を適度に吸収し、高精細な導電配線パターンを形成することができる。導電配線の線幅は、例えば30μm~70μmとすることができる。
【0032】
溶剤吸収層の表面に導電ペーストを塗布する方法としては、スクリーン印刷、グラビア印刷等の印刷法の他、ロールコーティング、バーコーティング、ナイフコーティング、スプレーコーティング、スピンコーティング等の各種コーター法、浸漬法等を適用してもよい。高精細な導電配線パターンを形成する観点から、印刷法が好ましく、スクリーン印刷がより好ましい。
【0033】
スクリーン印刷に使用するスクリーン版としては、例えば、線径10~50μmのステンレス等の鉄合金を平織、綾織したものや、ニッケルメッキなどにより格子状に形成した電鋳板を剛性のフレームに張ったものが挙げられる。高精細の導電配線パターンを形成するために、導電ペーストの通過を容易にする観点から開口率/紗厚の比は0.8以上が好ましく、1.5以上がより好ましい。また、開口率は30%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。
【0034】
前記導電ペーストの塗布厚は、例えば0.1μm~50μmの範囲で適宜調整すればよい。
【0035】
本発明の被印刷体に塗布される導電ペーストは、溶剤と、導電性粒子とを含む。
前記溶剤としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(EGBEA)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソブロビル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、エチルアミルケトン、イソブチルケトン、メトキシメチルペンタノン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、酢酸メチルセロソルブ、酢酸エチルセロソルブ、酢酸ブチルセロソルブ、酢酸メトキシブチル、酢酸メチルカルビトール、酢酸エチルカルビトール、酢酸ジブチルカルビトール、トリクロロエタン、トリクロロエチレン、n-ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、n-ブチルフェニルエーテル、プロピレンオキサイド、フルフラール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、アミルアルコール、シクロヘキサノール、ベンゼン、トルエン、キシレン、イソブロビルベンゼン、石油スピリット、石油ナフタ等から選択される1種以上を適用することができる。
【0036】
前記溶剤吸収層に対する適度な吸収性が得られることから、前記溶剤は、EGBEAを含むものが好ましい。EGBEAの含有量は、前記溶剤の総質量に対して60~100質量%が好ましく、80~100質量%がより好ましく、90~100質量%がさらに好ましい。なお、前記溶剤吸収層が前記溶剤の適度な吸収性を有すると、導電ペーストを塗布してなる塗膜の乾燥中又は硬化中に、まだらなシミ、スジ等の外観不良を抑制し、変形、ひび割れ、弛み等の不具合を抑制できる。なお、溶剤の吸収が遅いと外観不良、滲み、ダレ等が生じ易く、溶剤の吸収が速いと、上記不具合が生じ易い。
【0037】
前記導電ペーストの粘度は50~1000ポアズであることが好ましく、揺変度(粘度20回転/200回転)が2~15に調整されていることが好ましい。
【0038】
前記導電ペーストに含まれる前記溶剤の含有量は、10~50質量%が好ましく、15~40質量%がより好ましく、20~30質量%がさらに好ましい。
上記の好適な範囲であると、前記溶剤吸収層に対して適度に吸収され易い。
【0039】
前記導電性粒子としては、例えば、銀、銀メッキ銅、銅、金、ニッケル及びこれらの合金等の金属粒子、ファーネスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックやグラファイト粉末等の炭素粒子、PEDOT-PSS等の導電性高分子を含む導電性高分子粒子等から任意に選択される1種以上が挙げられる。金属粒子としてはEGBEAにおける分散性と導電性に優れることから、銀粒子が好ましい。
前記導電性粒子の粒子形状は、例えば、粒状、鱗片状、板状、樹枝状、サイコロ状等が挙げられる。
前記導電性粒子の平均粒径は、例えば1μm~100μmが挙げられる。形成する導電配線の線幅を細くする観点から平均粒径は小さいほど好ましく、高粘度化を防ぐ観点から平均粒径は5μm以上が好ましく、バランスを考慮して5μm~10μmが特に好ましい。ここで平均粒径は、導電性粒子から無作為に選択される20個の粒子について電子顕微鏡等の拡大観察手段で観察し、最も長い部分の長さ(長径)の測定値の算術平均とする。
【0040】
前記導電ペーストには、導電性粒子同士を結着させるバインダ樹脂が含まれていることが好ましい。具体例として、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリイミド、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。なかでも銀粒子に対する結着性が優れることからポリエステルが好ましい。
前記導電ペーストの総質量に対するバインダ樹脂の含有量は、例えば1~20質量%が挙げられ、5~10質量%が好ましい。
【0041】
前記導電ペーストには、イソシアネート類、アミン類、酸無水物等の硬化剤、硬化促進剤、レベリング剤、分散安定剤、消泡剤、揺変剤、金属不活性剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
市販のウレタンアクリレート重合体が66量%、市販のアクリレートモノマーが30質量%、市販の光重合開始剤が3質量%、市販の鉱油が1質量%で含まれる組成物(合計100質量%)を調製した。
上記組成物に、表面調整剤としてアクリル系樹脂(楠本化成社製、型番:ディスパロンOX-881)を1質量%となるように添加して、樹脂組成物を得た。
【0044】
被印刷基材として厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、この片面の全体に上記の樹脂組成物をキスコーターにて塗布し、乾燥機にて乾燥した後、紫外線照射により硬化させて溶剤吸収層(厚さ:20μm)を形成し、被印刷体を得た。ここで、紫外線照射の積算光量は600J/cmとした。
【0045】
次に、上記で得た被印刷体の溶剤吸収層の表面の一部に、市販の導電ペーストをスクリーン印刷し、碁盤目状の導電パターンを形成し、130~150℃の表面温度となるように設定した乾燥機にて、5分乾燥した。この際、#500メッシュ、線幅設計45μmのスクリーンを使用した。
【0046】
上記で使用した導電ペーストは、平均粒径10μm程度の銀粒子と、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(EGBEA)と、バインダ樹脂(ポリエステル)と、カーボンブラックとが含まれ、EGBEAが総量に対して30質量%程度含まれるものである。
【0047】
形成した導電パターンの表面を上方から顕微鏡で観察した写真を図2に示す。導電パターンを構成する各導電配線に、歪み、断線、だれ、にじみ等の不具合は無かった。
続いて、導電配線の線幅を測定した。具体的には、碁盤目状の導電パターンにおいて各導電配線が直交する任意の交点と、これに隣接する交点との中点の線幅を測定した。合計10箇所の線幅を測定して平均値を算出したところ、約66μmであった。ここで、塗布した導電ペーストが全く滲まない場合の理論的な線幅の設計値は40μmである。
【0048】
また、導電パターンを形成しなかった部分の溶剤吸収層の表面について、水とエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(EGBEA)の接触角を測定した。測定にはポータブル接触角計(協和界面科学株式会社製、型番:PCA-1)を使用し、JIS R 3257:1999(静滴法)に準拠して、25℃で測定した。
水の接触角は、6回測定した平均値として、68.7°(誤差;+方向で1.9°、-方向で1.3°)であった。
EGBEAの接触角は、6回測定した平均値として、4.6°(誤差;+方向で0.2°、-方向で0.2°)であった。
【0049】
[実施例2]
溶剤吸収層を形成する前記樹脂組成物に添加した前記アクリル樹脂の含有量が2質量%となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、被印刷体を製造し、導電パターンを形成した。
形成した導電パターンの表面を上方から顕微鏡で観察したところ、各導電配線に、歪み、断線、だれ、にじみ等の不具合は無かった。
また、導電配線の線幅を実施例1と同様にして測定して平均値を算出したところ、約48μmであった。また、接触角を実施例1と同様にして測定した。
水の接触角は、6回測定した平均値として、73.5°(誤差;+方向で2.0°、-方向で3.2°)であった。
EGBEAの接触角は、6回測定した平均値として、8.2°(誤差;+方向で0.1°、-方向で0.1°)であった。
【0050】
[実施例3]
溶剤吸収層を形成する前記樹脂組成物に添加した前記アクリル樹脂の含有量が3質量%となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、被印刷体を製造し、導電パターンを形成した。
形成した導電パターンの表面を上方から顕微鏡で観察したところ、各導電配線に、歪み、断線、だれ、にじみ等の不具合は無かった。
また、導電配線の線幅を実施例1と同様にして測定して平均値を算出したところ、約50μmであった。また、接触角を実施例1と同様にして測定した。
水の接触角は、6回測定した平均値として、77.6°(誤差;+方向で3.4°、-方向で1.4°)であった。
EGBEAの接触角は、6回測定した平均値として、8.9°(誤差;+方向で0.5°、-方向で0.3°)であった。
【0051】
[実施例4]
溶剤吸収層を形成する前記樹脂組成物に添加した前記アクリル樹脂の含有量が4質量%となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、被印刷体を製造し、導電パターンを形成した。
形成した導電パターンの表面を上方から顕微鏡で観察したところ、各導電配線に、歪み、断線、だれ、にじみ等の不具合は無かった。
また、導電配線の線幅を実施例1と同様にして測定して平均値を算出したところ、約47μmであった。
また、接触角を実施例1と同様にして測定した。
水の接触角は、6回測定した平均値として、79.8°(誤差;+方向で1.9°、-方向で1.3°)であった。
EGBEAの接触角は、6回測定した平均値として、10.8 °(誤差;+方向で0.1°、-方向で0.1°)であった。
【0052】
[実施例5]
溶剤吸収層を形成する前記樹脂組成物に添加した前記アクリル樹脂の含有量が5質量%となるように調整した以外は、実施例1と同様にして、被印刷体を製造し、導電パターンを形成した。
形成した導電パターンの表面を上方から顕微鏡で観察したところ、各導電配線に、歪み、断線、だれ、にじみ等の不具合は無かった。
また、導電配線の線幅を実施例1と同様にして測定して平均値を算出したところ、約43μmであった。
また、接触角を実施例1と同様にして測定した。
水の接触角は、6回測定した平均値として、81.2°(誤差;+方向で1.2°、-方向で0.9°)であった。
EGBEAの接触角は、6回測定した平均値として、11.5°(誤差;+方向で0.3°、-方向で0.3°)であった。
【0053】
【表1】
【0054】
以上の結果から、溶剤吸収層を形成するアクリル系樹脂の含有量が増え、水の接触角が増え、EGBEAの接触角が増えると、導電配線を形成する導電ペーストの滲みが減り、形成される導電配線の線幅が理論値に近づくことが分かった。
【符号の説明】
【0055】
1…被印刷基材、2…溶剤吸収層、3…導電配線パターン
図1
図2