(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186163
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】接点部材及びその製造方法、押しボタンスイッチ用部材、並びにシリコーンゴム加工品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 25/20 20060101AFI20221208BHJP
H01H 1/023 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B32B25/20
H01H1/023 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094248
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小野 允嵩
【テーマコード(参考)】
4F100
5G050
【Fターム(参考)】
4F100AA37B
4F100AD11B
4F100AK01B
4F100AK41B
4F100AK52A
4F100AN02A
4F100BA02
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EJ082
4F100EJ08B
4F100EJ422
4F100EJ542
4F100EJ54A
4F100GB51
4F100HB31B
4F100JB07
4F100JG01B
4F100JK06
5G050EA06
(57)【要約】
【課題】シリコーンゴム基材に接着した導電樹脂層を有し、接着性と耐久性に優れる接点部材及びその製造方法、並びにその接点部材を備えた押しボタンスイッチ用部材を提供する。
【解決手段】シリコーンゴム基材の任意の面の少なくとも一部に、シリコーンゴムを含まない導電樹脂層が接着した接点部材であって、前記シリコーンゴム基材と前記導電樹脂層との間に接着剤層を有しない、接点部材。前記シリコーンゴム基材の前記導電樹脂層が接着する表面が改質されており、前記表面にシラノール基が形成されていることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴム基材の任意の面の少なくとも一部に、シリコーンゴムを含まない導電樹脂層が接着した接点部材であって、
前記シリコーンゴム基材と前記導電樹脂層との間に接着剤層を有しない、接点部材。
【請求項2】
前記シリコーンゴム基材の前記導電樹脂層が接着する表面が改質されており、前記表面にシラノール基が形成されている、請求項1に記載の接点部材。
【請求項3】
前記導電樹脂層がポリエステル樹脂を含む、請求項1又は2に記載の接点部材。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂が極性官能基を有する、請求項3に記載の接点部材。
【請求項5】
前記導電樹脂層は炭素材料を含む、請求項1~4の何れか一項に記載の接点部材。
【請求項6】
前記導電樹脂層の厚みが、10μm~500μmである、請求項1~5の何れか一項に記載の接点部材。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の接点部材の製造方法であって、
シリコーンゴム基材の任意の面に真空紫外線を照射して前記面を改質し、
改質した前記面に導電材料を含む樹脂組成物の塗膜を形成し、
前記塗膜を加熱して硬化させることにより導電樹脂層を形成する工程を含む、
接点部材の製造方法。
【請求項8】
前記真空紫外線の積算光量が、0.02~3.00J/cm2である、請求項7に記載の接点部材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6の何れか一項に記載の接点部材を備える、押しボタンスイッチ用部材。
【請求項10】
シリコーンゴム基材の任意の面に真空紫外線を照射して前記面を改質し、
改質した前記面にシリコーンゴムとは異なる樹脂組成物の塗膜を形成し、
前記塗膜を加熱して硬化させることにより樹脂層を形成する工程を含む、
シリコーンゴム加工品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接点部材及びその製造方法、押しボタンスイッチ用部材、並びにシリコーンゴム加工品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、キーパッド等の押しボタンを構成するスイッチ用部材として、ゴム弾性体からなる押しボタン本体と、回路基板に対して接触させる導電性の接点部材とを備えたものが知られている。接点部材として金属製薄板や金網が利用されることがある。例えば、金網に代表される網状接点の一部をゴムに埋設し、露出した部位を高導電性金属によりコートした接点部材が開示されている(特許文献1)。また、金属製接点の他に、碗状のドーム部を有するPET製のクリック板の中央部にカーボン材料を含む導電インキを塗布した接点部材も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/066490号
【特許文献2】特開平10-116639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示されたように、金属製の接点をゴム弾性体に埋設したり、メッキ処理したりする工程はコストがかかり、必ずしも容易な製造方法ではないという問題がある。また、特許文献2に開示されたように導電インキを塗布して接点を形成する場合、導電インキの接着性と耐久性が問題になり、導電インキを塗布する基材として接着性が低いシリコーンゴムを選択することは困難であった。
【0005】
本発明は、シリコーンゴム基材に接着した導電樹脂層を有し、接着性と耐久性に優れる接点部材及びその製造方法、並びにその接点部材を備えた押しボタンスイッチ用部材を提供する。さらに、シリコーンゴム加工品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] シリコーンゴム基材の任意の面の少なくとも一部に、シリコーンゴムを含まない導電樹脂層が接着した接点部材であって、前記シリコーンゴム基材と前記導電樹脂層との間に接着剤層を有しない、接点部材。
[2] 前記シリコーンゴム基材の前記導電樹脂層が接着する表面が改質されており、前記表面にシラノール基が形成されている、[1]に記載の接点部材。
[3] 前記導電樹脂層がポリエステル樹脂を含む、[1]又は[2]に記載の接点部材。
[4] 前記ポリエステル樹脂が極性官能基を有する、[3]に記載の接点部材。
[5] 前記導電樹脂層は炭素材料を含む、[1]~[4]の何れか一項に記載の接点部材。
[6] 前記導電樹脂層の厚みが、10μm~500μmである、[1]~[5]の何れか一項に記載の接点部材。
[7] [1]~[6]の何れか一項に記載の接点部材の製造方法であって、シリコーンゴム基材の任意の面に真空紫外線を照射して前記面を改質し、改質した前記面に導電材料を含む樹脂組成物の塗膜を形成し、前記塗膜を加熱して硬化させることにより導電樹脂層を形成する工程を含む、接点部材の製造方法。
[8] 前記真空紫外線の積算光量が、0.02~3.00J/cm2である、[7]に記載の接点部材の製造方法。
[9] [1]~[6]の何れか一項に記載の接点部材を備える、押しボタンスイッチ用部材。
[10] シリコーンゴム基材の任意の面に真空紫外線を照射して前記面を改質し、改質した前記面にシリコーンゴムとは異なる樹脂組成物の塗膜を形成し、前記塗膜を加熱して硬化させることにより樹脂層を形成する工程を含む、シリコーンゴム加工品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の接点部材にあっては、シリコーンゴム基材と導電樹脂層との接着性と耐久性が従来の同等品よりも優れる。また、導電樹脂層が薄い場合にも低い接触抵抗値で他の導電部材との電気的接続がとれる。
本発明の接点部材の製造方法によれば、真空紫外線の照射によりシリコーンゴム基材の表面を改質して、導電樹脂層に対する接着性と耐久性を向上させることができる。
本発明の押しボタンスイッチ用部材にあっては、上記の接点部材を備えるので、耐久性に優れている。また、導電樹脂層が薄くても低い接触抵抗値が得られるので、押しボタンスイッチ用部材のサイズを小さくしたり、薄型化したりすることができる。
本発明のシリコーンゴム加工品の製造方法によれば、シリコーンゴムの表面を改質することにより、シリコーンゴムとは異なる異種の樹脂組成物又は樹脂成形品を接着剤レスで接着させることができる。
【0008】
本発明は、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」に資すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る押しボタンスイッチ用部材の一例を回路基板上に配置した様子を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る接点部材の上面図(a)と、A-A矢視の断面図(b)である。
【
図3】本発明に係る接点部材を印刷により製造する過程のシートの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪押しボタンスイッチ用部材≫
本発明の第一態様は、後述する第二態様の接点部材を備える押しボタンスイッチ用部材である。第二態様の接点部材を備えること以外、公知の押しボタンスイッチ用部材と同様の構成を採用することができる。以下、図面を参照して押しボタンスイッチ用部材の一例を説明する。
【0011】
図1に例示する押しボタンスイッチ用部材1は、回路基板2上に配置され、回路基板2に近づく方向(
図1の下方向)及びその逆方向(
図1の上方向)に弾性的に往復可動する部材である。押しボタンスイッチ用部材1は、例えば、略直方体又は略円柱形状のキートップ3と、キートップ3の径方向外側にスカート形状に接続されるドーム部4と、ドーム部4よりも上記径方向外側に接続されていて回路基板2に固定されるフランジ部5とを備える。
キートップ3は、回路基板2と対向する下面に、回路基板2に向けて突出する下方突出部6を備える。回路基板2は、下方突出部6と対向する位置に、互いに非接触状態の複数の基板側接点7,8を備える。下方突出部6は、基板側接点7,8と接続可能な位置に、本発明の第二態様の接点部材10を有している。
キートップ3の上方から押圧していないときには、接点部材10と基板側接点7,8とは非接触状態を維持している。キートップ3の上から押圧していき、その押圧がある閾値を超えたとき、ドーム部4が急激に変形(座屈)して、接点部材10が基板側接点7,8に接触する。この接触により、基板側接点7から接点部材10を通じて基板側接点8へと通電経路が形成されるので、スイッチがON(若しくはOFF)となる。キートップ3への押圧を解除すると、ドーム部4は自身の弾性力によって元の形状に戻るため、キートップ3は上昇する。この結果、接点部材10は、基板側接点7,8と離れる。
【0012】
≪接点部材≫
本発明の第二態様は、シリコーンゴム基材の任意の面の少なくとも一部に、シリコーンゴムを含まない導電樹脂層が接着した接点部材であって、前記シリコーンゴム基材と前記導電樹脂層との間に接着剤層を有しない、接点部材である。
【0013】
図2に例示する接点部材10は上面視円形の円板型の積層体である。シリコーンゴム基材11に積層された導電樹脂層12は接着剤層を介さずにシリコーンゴム基材11の表面に、いわゆる接着剤レスで直接結合している。
【0014】
図1において、接点部材10のシリコーンゴム基材11側の表面が、前述したシリコーンゴム製の下方突出部6の先端部と接合される。シリコーンゴム基材11と下方突出部6とは同じシリコーンゴム同士であるので一体化し易く、接着性に優れる。
【0015】
接点部材10において、シリコーンゴム基材11の形状は特に制限されず、
図2に例示するようにシート状であってもよいし、立方体や直方体、その他の任意の立体形状を採用することができる。従って、
図1に例示するように下方突出部6を含む押しボタン本体がシリコーンゴムによって形成されている場合、その押しボタン本体がシリコーンゴム基材11であってもよい。
【0016】
シリコーンゴム基材11がシリコーンゴムシートである場合、その厚みは特に制限されず、例えば、300μm~600μmとすることができる。
【0017】
接点部材10において、導電樹脂層12とシリコーンゴム基材11の接着性を高める観点からすると、導電樹脂層12を構成する樹脂はシリコーンゴムであることが好ましい。しかし、シリコーンゴムにカーボン材料を添加してなる導電ゴムの体積抵抗率が高いため、接触抵抗値を低減する観点から、本発明において導電樹脂層12を構成する樹脂としてシリコーンゴムは採用しない。同様に、二次加硫が必要なゴムにカーボン材料を添加してなるカーボンゴムも体積抵抗率が高いので、本発明の導電樹脂層12の材料としてカーボンゴムは採用しない。
【0018】
接点部材10において、導電樹脂層12とシリコーンゴム基材11の接着性を高めるために、シリコーンゴム基材11の導電樹脂層12が接着する表面は化学的に改質されていることが好ましい。具体的には、改質された表面にシラノール基が形成されていることが好ましい。シラノール基が形成されていると、水酸基やカルボキシ基等の極性官能基を有する樹脂層と水素結合を形成し、接着剤レスの直接結合を形成することができる。
【0019】
導電樹脂層12を構成する樹脂としては、ポリエステル樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂は水酸基やカルボキシ基等の極性官能基を有することが好ましい。導電樹脂層12がポリエステル樹脂を含むことにより、導電樹脂層12とシリコーンゴム基材11との接着性がより一層高まる。
【0020】
導電樹脂層12は導電材料を含む。導電材料として、例えば、黒鉛やカーボンブラック等の炭素材料、銀や金等の金属材料、導電性高分子等が挙げられる。これらの導電材料は、微細な粉体として導電樹脂層12に分散して含まれていることが好ましい。
【0021】
本態様の接点部材10にあっては、導電樹脂層12がシリコーンゴムやカーボンゴムを含まないので、体積抵抗率が低くなる。このため、導電樹脂層12の厚みを薄くしても接触抵抗値を低く抑えることができる。導電樹脂層12の厚みとしては、例えば、10μm~500μmとすることができる。
【0022】
≪接点部材の製造方法≫
本発明の第三態様は、第二態様の接点部材の製造方法であって、シリコーンゴム基材の任意の面に真空紫外線を照射して前記面を改質し、改質した前記面に導電材料を含む樹脂組成物の塗膜を形成し、前記塗膜を加熱して硬化させることにより導電樹脂層を形成する工程を含む、接点部材の製造方法である。
【0023】
図2に示す円板状の接点部材10の製造方法を一例として説明する。シリコーンゴム基材11であるシリコーンゴムシートは、市販のシリコーンゴムコンパウンドを用いて常法により成形して得られる。このようなシリコーンゴムシートの一方の面に真空紫外線(波長範囲:10nm~200nm)を照射する方法は特に制限されず、例えば、Xeランプ(中心波長172nm)を備えた市販の照射装置を適用することができる。Xeランプは空気中の酸素原子に吸収され得るので、窒素雰囲気下でシリコーンゴム基材11へ照射することが好ましい。
【0024】
シリコーンゴム基材11の照射面における真空紫外の積算光量は、0.02~3.00J/cm2の範囲とすることが好ましい。上記範囲の下限値以上であると、照射面にシラノール基を充分に形成することができる。上記範囲の上限値以下であると、照射面の劣化や脆化を抑制することができる。
【0025】
導電材料を含む樹脂組成物としては、前述したポリエステル樹脂に導電材料が混合されたものが挙げられる。使用するポリエステル樹脂の水酸基価は、5~300KOHmg/gであることが好ましい。このようなポリエステル樹脂であると、シリコーンゴム基材11の照射面に形成されたシラノール基と水素結合を充分に形成することができる。前記樹脂組成物に含まれるポリエステル樹脂は1種でもよいし、2種以上でもよい。前記樹脂組成物には酢酸カルビトール等の希釈溶剤を添加してもよい。
【0026】
前記樹脂組成物をシリコーンゴム基材11の照射面に塗工する方法は特に制限されず、スクリーン印刷等の印刷法でもよいし、ディスペンサーで塗布する方法でもよいし、各種コーターで塗工する方法でもよい。塗工により形成する塗膜の厚みは乾燥・硬化後の厚みを考慮して適宜設定すればよい。
【0027】
塗膜を乾燥・硬化する方法は特に制限されず、例えば、赤外線ヒーターで加熱する方法が挙げられる。
【0028】
図3に例示するシリコーンゴム基材11の上面には、真空紫外線の照射後にスクリーン印刷により複数の円形の導電樹脂層12がアレイ状に形成されている。この円形部分を厚み方向に打ち抜くことにより、
図2に示す円板状の接点部材10が得られる。円形の導電樹脂層12の直径は特に制限されず、例えば3mm~30mmとすることができる。
【0029】
≪押しボタン用スイッチ部材≫
本発明の第四態様は、第二態様の接点部材を備える、押しボタンスイッチ用部材である。
本態様の押しボタンスイッチ用部材は、押圧される部分(例えばキートップ3)を有する押しボタン本体と、第二態様の接点部材とを備えていてもよい。
また、本態様の押しボタンスイッチ用部材は、第二態様の接点部材からなるものであってもよい。例えば、シリコーンゴム基材が、押圧される部分を有する押しボタン本体であり、その押しボタン本体の任意の一部分(例えば下方突出部6の先端)に導電樹脂層が接着しているものであってもよい。
【0030】
≪シリコーンゴム加工品の製造方法≫
本発明の第五態様は、シリコーンゴム基材の任意の面に真空紫外線を照射して前記面を改質し、改質した前記面に前記シリコーンゴムとは異なる樹脂組成物の塗膜を形成し、前記塗膜を加熱して硬化させることにより樹脂層を形成する工程を含む、シリコーンゴム加工品の製造方法である。
【0031】
第五態様の製造方法は、第三態様の製造方法を包含する。第三態様はシリコーンゴム基材に導電樹脂層を接着させる発明であるが、第五態様においてシリコーンゴム基材に接着させる樹脂層は導電樹脂層に限定されない。例えば、導電部材を樹脂組成物に含有させないこと以外は、第三態様と同様に実施することができる。本態様の製造方法により、照射面に樹脂層を形成したシリコーンゴムが得られる。
【実施例0032】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0033】
[実施例1]
(導電インクの調製)
ポリエステル樹脂(東ソー社製、型番:ニッポラン131、水酸基価=142~160KOHmg/g)4質量部、ポリエステル樹脂(東洋紡STC、型番:バイロンE712、水酸基価=6~21KOHmg/g、固形分32質量%、溶媒:酢酸カルビトール)125質量部、硬化促進剤であるジドデカン酸ジブチルすず(純正化学社製)0.1質量部、エタノール(純正化学社製)1質量部、酢酸カルビトール(別名:ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、神港有機化学社製)26質量部、黒鉛粉末(日本黒鉛社製、型番:黒鉛粉末CSP-E)40質量部、ケッチェンブラック(ライオンスペシャリティケミカルズ社製、型番:カーボンECP)13質量部を混合し、非シリコーン系の導電インクを得た。
【0034】
(シリコーンゴムシートの作製)
A剤0.5質量部とB剤2.0質量部を含む架橋剤(信越化学工業社製、型番:C-25A/B)と、赤色の着色剤(信越化学工業社製、型番:X-93-942)1.0質量部とをそれぞれ計量し、シリコーンゴムコンパウンド(信越化学工業社製、型番:KE-971T-U)100質量部に添加して混練し、第一の混錬物を得た。
シリカ(製品名:AEROSIL200)0.1質量部に、接着助剤(信越化学工業社製、型番:X-93-3046)1.0質量部およびシランカップリング剤(信越化学工業社製、型番:KBM-403)1.0質量部をそれぞれ加えて混練し、第二の混錬物を得た。
第一の混錬物と第二の混錬物を混ぜ、厚み0.5mmのシート状に成形し、さらに200℃で加熱して硬化したシリコーンゴムシート(厚み0.5mm)を得た。
【0035】
(真空紫外線の照射)
上記のシリコーンゴムシートの一方の面に対して、窒素雰囲気下にて波長172nmの真空紫外線を積算光量3.00J/cm2となるようにXeランプを使用して照射した。この際、紫外線積算光量計(浜松ホトニクス社製、型番:C9536)を使用して、センサヘッドをシリコーンゴムシートの照射面と同じ高さに設置し、積算光量を厳密に制御した。
【0036】
(導電インクの印刷)
真空紫外線を照射したシリコーンゴムシートの一方の面に対して、先に準備した非シリコーン系の導電インクをスクリーン印刷し、厚み30μmで直径5mmの円形(内側も導電インクで塗りつぶされている円形)の導電インク層(導電樹脂層)を複数印刷した(
図3参照)。
【0037】
(接点部材の成形)
スクリーン印刷した直径5mmの円の中心部を直径3mmで打ち抜き、円板状の積層体である接点部材を得た(
図2参照)。
【0038】
(シリコーンゴム製押しボタンの作製)
上記接点部材を、ラバーキーパッドを成形するように作製された金型に仕込み、シリコーンゴム製造用の原料を金型内に供給して成形加工を行い、シリコーンゴムからなる押しボタン本体と接点部材とを一体化し、押しボタンスイッチ用部材を得た。この際、接点部位に上記接点部材の導電インクからなる部分を露出した状態とした(
図1参照)。
【0039】
[実施例2]
ラバーキーパッドを成形するように作製された金型に、シリコーンゴム製造用の原料(信越化学工業社製、型番:KE-981U)を金型内に供給して成形加工を行い、シリコーンゴムからなる押しボタン本体を得た。
その接点部分に対して、実施例1と同様にして真空紫外線を積算光量3.00J/cm2となるように照射した。続いて、その接点部分に、実施例1と同じ非シリコーン系の導電インクをディスペンサーにて塗工し、150~200℃にて15~20分加熱して硬化させ、厚み10μmの導電インク層を形成し、押しボタンスイッチ用部材を得た。
【0040】
<評価>
(A)打鍵耐久性試験
実施例1~2で作製した押しボタンスイッチ用部材を、電極巾0.5mm、電極間隔0.5mmの、銅箔厚み35μm+Niめっき厚み3μm+Auめっき厚み0.3μmの電極を有するクシ歯型金めっき基板に固定して、荷重6N/Keyおよび3回/秒の条件にて所定回数の打鍵を行った。測定器としてADVANTEST R6561 DIGITAL MULTIMETERを使用して所定打鍵回数時の接触抵抗値(単位:Ω)を測定した。接触抵抗値が初期値と比較して変化する程度が少ないほど、優れた打鍵耐久性を有すると評価した。この結果を表1に示す。
実施例1~2で作製した接点部材において、100万回打鍵した後においても導電インク層は、基材であるシリコーンゴムから剥離せず、耐久性に優れていた。
【0041】
【0042】
表1に示す通り、実施例1~2の接点部材を使用した押しボタンスイッチでは、100万回打鍵後においても、初期値と比べて接触抵抗値の上昇は1Ω以下に抑制されていた。
なお、詳細な製造方法は記載しないが、二次加硫が必要なゴムにカーボンを添加したカーボンゴムを、実施例1の接点部材の代わりに使用した場合、同じサイズに揃えても、初期において5.0Ωという高い接触抵抗値であった。
【0043】
(B)環境試験
実施例1で作製した押ボタンスイッチ用部材を使用して環境試験を行った。接触抵抗値の測定は、上記(A)と同じ測定器とクシ歯型金めっき基板を使用して、荷重9Nで測定した。下記条件の試験に供する前の初期の測定値と、環境試験後の測定値を表2に示す。
・高温高湿試験;65℃、95%RHにて1000時間放置した。
・温度変化試験;-20℃で2時間放置し、1時間かけて70℃に昇温し、70℃で2時間放置し、再び1時間かけて-20℃に戻す、という温度変化を1サイクルとして、合計1000時間、約166サイクルの温度変化を経た。
・高温試験;90℃で1000時間放置した。
・低温試験;-40℃で1000時間放置した。
・温度衝撃試験;-40℃の恒温槽と80℃の恒温槽を数十秒毎に行き来するサイクルを1000時間継続した。
・硫化水素暴露試験;3ppm硫化水素雰囲気下、40℃、80%RHにて240時間放置した。
・エタノール浸漬試験;エタノール中に浸漬して6時間放置した後、取り出して乾燥させ、再度エタノール中に浸漬して6時間放置し、その後取り出して乾燥させた。
・人工指紋液浸漬試験;市販の人工指紋液(高級脂肪酸等の油にダストを混濁させた液体)中に浸漬して6時間放置した後、取り出して乾燥させ、再度人工指紋液中に浸漬して6時間放置し、その後取り出して乾燥させた。
【0044】
【0045】
表2に示す通り、各環境試験後においても、実施例1の押しボタンスイッチにおける接触抵抗値の上昇は2.4Ω以下に抑制されていた。
【0046】
<参考>
(C)剥離試験1
シリコーンゴムコンパウンド(信越化学工業社製、型番:KE-971T-U)が硬化してなるシリコーンゴムシートを常法により作製した。その一方の面に、実施例1と同様にして真空紫外線を照射し、積算光量を表3に記載のように設定した。その照射面に、実施例1と同様にして導電インクをスクリーン印刷し、直径5mmの円形で厚み30μmの導電インク層(導電樹脂層)を形成した。導電インク層が硬化した後、粘着テープを貼り付け、これを剥がしたとき、円形の導電インク層が粘着テープとともにシリコーンゴムシートから剥がれるか否かを調べた。
次に、導電インク層を形成したシリコーンゴムシートを沸騰水に浸けて60分間煮沸した後、水分を拭きとって、再び粘着テープを導電インク層に貼り付け、剥がしたときに導電インク層が粘着テープとともにシリコーンゴムシートから剥がれるか否かを調べた。
これらの結果を表3に示す。表中、剥がれた場合を「×」、剥がれなかった場合を「○」、未実施の場合を「-」で示した。
【0047】
(C)剥離試験2
シリコーンゴムコンパウンドを(信越化学工業社製、型番:KE-981U)に変更した以外は、剥離試験1と同様にして試験した。その結果を表3に示す。
【0048】
【0049】
以上の結果から、真空紫外線を照射しないと、シリコーンゴムシートに対する導電インクの接着性が非常に低いことが確認された。従って、実施例1において、真空紫外線を照射しないこと以外は同様にして接点部材を製造しても、導電樹脂層がシリコーンゴム基材から剥離してしまい、接着性と耐久性に劣ることが明らかである。
1…押しボタンスイッチ用部材、2…回路基板、3…キートップ、4…ドーム部、5…フランジ部、6…下方突出部、7…基板側接点、8…基板側接点、10…接点部材、11…シリコーンゴム基材、12…導電樹脂層