(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186192
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】プレストレストコンクリートの製造方法
(51)【国際特許分類】
B28B 23/04 20060101AFI20221208BHJP
B28B 23/02 20060101ALI20221208BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20221208BHJP
E04C 5/08 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B28B23/04
B28B23/02 A
E04G21/12 104C
E04G21/12 104A
E04C5/08
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094288
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】391010183
【氏名又は名称】極東興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】森江 昭則
(72)【発明者】
【氏名】三原 孝文
【テーマコード(参考)】
2E164
4G058
【Fターム(参考)】
2E164AA05
2E164DA01
2E164DA22
4G058GA01
4G058GB01
4G058GB04
4G058GF06
4G058GF11
4G058GF24
4G058GF26
(57)【要約】
【課題】プレストレスコンクリートに用いる緊張材として非金属製ロープを適用した場合において、より好適に緊張力を導入可能な手段を提供すること。
【解決手段】非金属製ロープからなる緊張材10を型枠外で折り返しながら張設することで、型枠A内に複数列構成の緊張材10を配置してなるプレストレストコンクリートの製造方法であり、(A)緊張材10の端部を、緊張力導入具30に定着する工程と、(B)緊張材10に対する緊張力の導入の前後を問わずに、緊張材10の表面に損傷防止用の保護面を設ける工程と、を少なくとも有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属製ロープからなる緊張材を型枠外で折り返しながら張設することで、型枠内に複数列構成の緊張材を配置してなるプレストレストコンクリートの製造方法であって、
(A)前記緊張材の端部を、緊張力導入具に定着する工程と、
(B)前記緊張材に対する緊張力の導入の前後を問わずに、前記緊張材の表面に、損傷防止用の保護面を設ける工程と、
を少なくとも有することを特徴とする、
プレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記(B)において、前記緊張材への液剤の塗布によって前記保護面を設けることを特徴とする、
請求項1に記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項3】
前記保護面に、粒状物が含まれることを特徴とする、
請求項1または2に記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項4】
前記(A)において、前記緊張力導入具に前記緊張材の端部を8の字状に巻き付けてなるループを形成することを特徴とする、
請求項1乃至3のうち何れか1項に記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
【請求項5】
前記(A)において、前記緊張材の端部を当該緊張材に編み込んで一体化することを特徴とする、
請求項1乃至4のうち何れか1項に記載のプレストレストコンクリートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレストレストコンクリートにおいてプレストレスの付与に用いる緊張材として繊維製ロープを適用した際に、当該緊張材への緊張力の導入方法に特徴を持たせたプレストレストコンクリートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレストレストコンクリート(Prestressed Concrete、以下単に「PC」ともいう。)において、緊張力を導入するための緊張材には、PC鋼材が用いられることが一般的である。
他方、緊張材として非金属製のロープ状部材を用いる技術も開発されている。
例えば、以下の特許文献1には、ロープ状部材からなる緊張材をコンクリート型枠外で滑車などに巻き掛けて型枠内で折り返しながら配置する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1に記載の発明では、以下に記載する問題のうち、少なくとも何れか1つの問題を有している。
(1)打設コンクリートに含まれる骨材が緊張材と接触することによって緊張材が損傷してしまい、緊張力の導入時に緊張材が切断される場合がある。
(2)緊張材を結わえて定着しようとする場合、緊張材の結び目に局所的に大きな負荷がかかり、小さな荷重で緊張材が切断される場合がある。
【0005】
よって、本発明は、プレストレスコンクリートに用いる緊張材に非金属製ロープを適用した場合において、より好適に緊張力を導入可能な手段の提供を目的の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべくなされた本願発明は、非金属製ロープからなる緊張材を型枠外で折り返しながら張設することで、型枠内に複数列構成の緊張材を配置してなるプレストレストコンクリートの製造方法であって、(A)前記緊張材の端部を、緊張力導入具に定着する工程と、(B)前記緊張材に対する緊張力の導入の前後を問わずに、前記緊張材の表面に、損傷防止用の保護面を設ける工程と、を少なくとも有することを特徴とする。
また、本願発明は、前記(B)において、前記緊張材への液剤の塗布によって前記保護面を設けることができる。
また、本願発明は、前記保護面に、粒状物が含まれるよう構成することもできる。
また、本願発明は、前記(A)において、前記緊張力導入具に前記緊張材の端部を8の字状に巻き付けてなるループを形成して構成することもできる。
また、本願発明は、前記(A)において、前記緊張材の端部を当該緊張材に編み込んで一体化するよう構成することもできる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくとも何れか1つの効果を奏する。
(1)緊張材を折り返しながら張設することで、緊張材に局所的に大きな負荷がかかることを抑制し、小さな荷重で緊張材が破断する恐れを減らすことができる。
(2)緊張材の表面に保護面を設けることで、打設コンクリート内の骨材との接触による損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る緊張力の導入方法を実施するためのPC供試体の製造装置の全体構成を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例0010】
<1>全体構成(
図1)
図1に、本発明に係る緊張力の導入方法を実施する、PC供試体の製造装置の一例を示す。
図1に示す製造装置では、コンクリート型枠(以下、単に「型枠A」ともいう。)内に配置する緊張材10と、緊張材10を型枠Aの外で折り返して再度型枠Aの中に引き入れるための折り返し具20と、型枠Aの外で緊張材10の端部を定着しつつ、定着した緊張材10を引張可能な、緊張力導入具30と、を少なくとも具備している。
以下、各要素の詳細について説明する。
【0011】
<2>緊張材(
図1)
緊張材10は、硬化後のコンクリートにプレストレスを導入するための部材である。
本発明では、緊張材10に、非金属製のロープ材を用いる。
本発明において、非金属製とは、アラミド製、ビニロン製、ポリエチレン製およびポリエステル製を少なくとも含む。
また、本発明において、ロープ材とは、後述する折り返し具20で折り返しが可能な程度の可撓性を有する紐状の部材である。
本実施例では、緊張材10として、アラミド繊維製の連続繊維ロープ(Continuous Fiber Rope)を用いている。
【0012】
<3>緊張材への保護面の形成
緊張材10は、打設コンクリートに含まれる骨材との接触による素線の切断等によって、損傷が生じる可能性がある。
その場合、緊張材10の表面に保護面を形成し、当該保護面でもって骨材が緊張材10に直接接触することを防止することが望ましい。
保護面の形成方法としては、緊張材10の表面の保護効果が期待できる樹脂、塗料、接着剤などの液剤を塗布する方法や、接着剤などを介して粒状物を表面に付着させる方法、またはこれらの任意の組合せなどがある。
なお、保護面の形成作業は、緊張力の導入の前後を問うものでは無く、適宜実験等で最適な実施時期を選択すれば良い。
【0013】
前記保護面の形成に用いる前記液剤には、コンクリートの緊張材10との付着を向上させる付着改良材を用いることもできる。
また、前記保護面の形成に用いる前記粒状物は、硅砂やアルミナ粉末などの無機系材料を用いることができ、当該粒状物を塗布する液剤に予め混合しておいても良い。
【0014】
<4>折り返し具(
図1)
折り返し具20は、緊張材10を型枠Aの外で折り返して型枠A内に再度緊張材10を展開させるための部材である。
折り返し具20は、緊張材10を巻き掛け可能な単管や滑車などを用いることができる。
図1では、型枠外の両端に二箇所ずつ折り返し具20を設け、交互に緊張材10を折り返すことで、型枠Aの中に、5列構成を呈する緊張材10が配置されている。
また、折り返し具20自体を回転可能に構成した場合、この回転動作によってあたかも弦楽器のテンション調整の折り返し前後の緊張材10の緊張力を調整することもできる。
【0015】
<5>緊張力導入具(
図1,
図2)
緊張力導入具30は、緊張材10に緊張力を導入するための治具である。
本実施例では、緊張力導入具30を、型枠Aの一端側(
図1における紙面右側)に設ける、ジャッキ31、ジャッキ31の一端に設ける反力体32a、ジャッキ31の他端に設ける移動体33a、および前記移動体33aに設ける定着具34a、および、反力体32aと移動体33aとの間に設ける変位保持具35と、型枠Aの他端側(
図1における紙面左側)に設ける、反力体32b、移動体33b、定着具34b、および二つのロードセル36(36a,36b)、で構成している。
前記した反力体32a(32b)や、移動体33a(33b)に、緊張材10を挿通可能な穴を形成した鋼材を用いている。
また、変位保持具35には、螺合動作によって伸縮可能なジャッキベースを用いている。
【0016】
<6>ロードセル(
図1)
型枠Aの他端側に設ける二つのロードセル36のうち、反力体32bと移動体33bの間に設けるロードセル36aは、5列の緊張材10全体の緊張力を計測し、移動体33bと定着34bとの間に設けるロードセル36bは、緊張材10の端部に生ずる緊張力を計測する。
当該構成とすることで、ロードセル36bで計測した緊張力を緊張本数分掛けた値が、ロードセル36aで計測した緊張力と異なる場合に、各折り返し具20を回転させてそれらが同一となるよう調整することにより、緊張力の均一化を図ることができる。
【0017】
<7>定着具(
図2)
定着具34は、緊張材10を定着させるための部材である。
定着具34による緊張材10の定着方法の例について以下に説明する。
【0018】
<7.1>定着方法1:ループ結び[
図2(a)]
緊張材10の端部を、定着具34にループを描くように結びつける方法である。
当該構成とすることで、緊張材10に働く引張荷重を相反させることで緊張材10の摩擦を高め、緊張材10の滑りを防止し、緊張材10の端部を強固に定着することができる。
図2(a)では、定着具34を互いに離隔配置した2本の鋼管で構成し、この2本の鋼管に対し、緊張材10を略8の字状に巻き付けてなるループBを少なくとも1箇所設けており、ループBを形成した後の緊張材10の端部を、別部材の鋼棒に巻き付けて、結びつけるなどの方法によって固定している。
【0019】
なお、本発明は、
図2(a)に係る構成に限定されるものではなく、例えば巻き付ける対象を三本以上としても良い。
また、上記したループBの数は多ければ多いほど、定着効果の向上が期待できるものの、本発明においてはループBを少なくとも1つ設けてあればよい。
【0020】
<7.2>定着方法2:編み込み[
図2(b)]
緊張材10の端部を折り返した先で、当該緊張材10に編み込んで固定する方法である。
図2(b)では、定着具34を1本の鋼管で構成し、この鋼管に緊張材10を巻き付けたあと、緊張材10の端部と、折り返した先の緊張材10とを編み込んで、所定長さの編み込み部Cを形成している。
当該構成とすることで、緊張材10の端部を強固に定着することができる。
【0021】
編み込み部Cの形成には、アイスプライス加工などを用いることができる。
また、緊張材10を編み込む際には、緊張材10を構成するロープの捻りに準じた形で編み込んでも良いし、当該ロープの捻りに対し、さらに捻りを加える形で編み込んでも良い。
【0022】
<8>実験例(定着方法の対比)(
図3)
同一の緊張材10に対し各種の定着方法を採用した例において、引張試験を行った。
引張試験では、ジャッキ31・ロードセル36のセンターホールに緊張材10を通し、その先で反力を受ける鋼棒に各種の定着方法によって固定し、ジャッキ31による単調載荷で緊張材10にロープに引張力を加え、滑り・抜け出し・破断するまでの最大荷重を計測した。
・実験例1:緊張材を二重結びによって鋼管に定着。
・実験例2:緊張材を二結びによって鋼管に定着。
・実験例3:緊張材を2本の鋼管に略8の字状に巻き付けて定着。
・実験例4:鋼管に巻きつけた緊張材の端部を緊張材の捻りに準じて編み込んで定着。
・実験例5:鋼管に巻きつけた緊張材の端部を緊張材の捻りにさらに捻りを加えるように編み込んで定着。
・実験例6:鋼管に巻きつけた緊張材の端部をワイヤーグリップで定着。
・実験例7:緊張材の端部を、エポキシ樹脂被覆処理を施したシングルストランドグリップで定着。
引張試験の結果を
図3に示す。
【0023】
図3に示すように、二重結びおよび二結びによって定着した実験例1,2や、鋼管に巻き付けた緊張材の端部をワイヤーフリップで定着した実験例6では、低い最大荷重に留まるところ、実験例3,4,5が、実験例1,2よりも優れた最大荷重を得られた点で、良好な結果を得ることができた。
また、滑りが生じずに破断にまで至ったものとして、実験例3,5がさらに良好な結果を得ることができた。
よって、本発明では、実験例7のように機械的な定着を用いることなく、緊張材10を、結びつけや編み込みによって定着する態様(特に実験例3~5)であっても、緊張力を良好に導入できることがわかった。
なお、本発明に係る方法を実施するにあたり、高い緊張力の設定を要求されない現場においては、上記した実験例1~7ならびにその他の定着方法から、任意の方法を選択することができることは言うまでも無い。
【0024】
<9>その他の構成例(1)
本発明は、
図1に示すように、単一方向のみに緊張材10を配置する構成にのみ適用可能なものではない。
すなわち、本発明に係る緊張材への保護面の形成ならびに緊張材の定着方法は、縦方向および横方向にそれぞれ緊張材10を折り返すように配置し、コンクリートの縦横方向にプレストレスを導入可能な構成にも適用することができる。
【0025】
<10>その他の構成例(2)
本発明は、
図1に示すように、1本の緊張材10を型枠Aの外で折り返しながら張設することで、型枠A内に複数列構成の緊張材10を配置する構成にのみ適用可能なものではない。
すなわち、本発明に係る緊張材への保護面の形成ならびに緊張材の定着方法は、非金属製ロープからなる緊張材10を、複数本個別に配置しそれぞれに緊張力を導入する場合においても適用することができる。