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特開2022-186196車両の音検査システム及びその音検査方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186196
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】車両の音検査システム及びその音検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20221208BHJP
   B60Q 5/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01M17/007 Z
B60Q5/00 610Z
B60Q5/00 620A
B60Q5/00 630B
B60Q5/00 640Z
B60Q5/00 650B
B60Q5/00 660A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094297
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089004
【弁理士】
【氏名又は名称】岡村 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀和
(57)【要約】
【課題】車両に搭載された音生成装置の作動判定精度を維持しつつ、検査工数を低減することができる車両の音検査システム及びその音検査方法を提供する。
【解決手段】車両2に搭載された音生成装置10と、この音生成装置10から離隔配置された検査装置20とを備えた車両の音検査システム1であって、音生成装置10は、所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する音制御部14と、拡散音信号に基づく拡散音を発生するスピーカ12とを有し、検査装置20は、音生成装置10が発生した拡散音を収集するマイク22と、マイク22が収集した収集音を表す収集音信号を拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する逆拡散部32と、原音と逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する相関判定部33と、相関判定部33の判定結果を出力する出力部34とを有する。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された音生成装置と、この音生成装置から離隔配置された検査装置とを備えた車両の音検査システムにおいて、
前記音生成装置は、
所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する音制御部と、
前記拡散音信号に基づく拡散音を発生する音出力部とを有し、
前記検査装置は、
前記音生成装置が発生した拡散音を収集する収音部と、
前記収音部が収集した収集音を表す収集音信号を前記拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する逆拡散部と、
前記原音と前記逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する相関判定部と、
前記相関判定部の判定結果を出力する出力部と、
を有することを特徴とする車両の音検査システム。
【請求項2】
前記相関判定部は、前記原音信号と前記逆拡散音信号との相関係数を演算し、前記相関係数が所定閾値よりも大きいとき、前記原音と前記逆拡散音との相関関係を判定するように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の車両の音検査システム。
【請求項3】
前記検査装置は、前記所定閾値の変更専用に構成された閾値調整手段を有することを特徴とする請求項2に記載の車両の音検査システム。
【請求項4】
前記検査装置は、周囲から視覚認識可能な態様で作動する報知手段を有し、
前記報知手段は、前記出力部の判定結果を報知することを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の車両の音検査システム。
【請求項5】
車両に搭載された音生成装置と、この音生成装置から離隔配置された検査装置とを備えた車両の音検査方法において、
所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する第1ステップと、
前記拡散音信号に基づく拡散音を発生する第2ステップと、
前記発生した拡散音を収集する第3ステップと、
前記収集した収集音を表す収集音信号を前記拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する第4ステップと、
前記原音と前記逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する第5ステップと、
前記第5ステップの判定結果を出力する第6ステップと、
を有することを特徴とする車両の音検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された音生成装置と、この音生成装置から離隔配置された検査装置とを備えた車両の音検査システム及びその音検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気モータを駆動源とした電気自動車やハイブリッド自動車では、歩行者等に車両の接近を知らせる警告音を発生する車両接近通報装置(Acoustic Vehicle Alerting System, AVAS)は知られている。このAVASは、電気自動車等の走行音が従来の内燃機関自動車に比べて静かであり、歩行者が車両の接近に気付き難いという問題の対策として考案され、国際的に搭載の義務化が推進されている。
【0003】
AVASの動作検査は、車両製造工程の生産ラインや販売会社の整備検査場等において、他の工程作業や整備点検作業に伴う暗騒音が大きい状況の中で検査員の官能検査により行われる。それ故、暗騒音からAVASの警告音を抽出し、識別することは困難である。
特許文献1の車両接近通報装置は、車両の接近を想起させる警告音からなる接近通報用音と、ビープ音やブザー音等の電子音からなる検査専用音と、第1,第2検査音開始条件とを備えた判定部とを有し、第1,第2検査音開始条件が成立したとき、動作試験時であることが判定され、暗騒音から識別容易な検査専用音を出力し、第1,第2検査音開始条件が成立しないとき、車両走行時が判定され、接近通報用音を出力するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5742996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の車両接近通報装置は、音生成装置の動作検査の際、車両製造工程作業や整備点検作業に伴う暗騒音から検査専用音を識別することができ、検査員の官能検査による音生成装置の作動判定精度を向上することができる。
しかし、特許文献1の技術では、動作検査場所の周辺環境条件によっては、音生成装置の作動判定精度を維持することができない虞がある。
【0006】
周辺に配置された作業ステーションから発生する作業音と検査専用音の周波数帯域が互いに離隔している場合、検査員は、作業音と検査専用音を聞き分けることが可能である。
一方、作業ステーションから発生する作業音と音生成装置の検査専用音の周波数帯域が近接している場合、特に作業音が音生成装置の検査専用音よりも低い周波数帯域の場合には、検査専用音が作業音によって掻き消される現象、所謂マスキング現象が発生する。
これにより、検査員は検査専用音を暗騒音から容易に識別することができない。
【0007】
また、音生成装置の動作検査が検査員の聴覚に頼る官能検査である限り、検査ステーションの各検査機器を操作するオペレータとは別に検査専用音を聞き分ける専用の検査員が必要である。検査員は、検査ステーションに搬送された対象車両の近傍位置に待機するため、AVASの動作試験を完全に自動化することは難しい。
即ち、周辺環境に拘らず、車両に搭載された音生成装置の作動判定精度を維持しつつ、検査工数を低減することは容易ではない。
【0008】
本発明の目的は、車両に搭載された音生成装置の作動判定精度を維持しつつ、検査工数を低減可能な車両の音検査システム及びその音検査方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の車両の音検査システムは、車両に搭載された音生成装置と、この音生成装置から離隔配置された検査装置とを備えた車両の音検査システムにおいて、前記音生成装置は、所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する音制御部と、前記拡散音信号に基づく拡散音を発生する音出力部とを有し、前記検査装置は、前記音生成装置が発生した拡散音を収集する収音部と、前記収音部が収集した収集音を表す収集音信号を前記拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する逆拡散部と、前記原音と前記逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する相関判定部と、前記相関判定部の判定結果を出力する出力部と、を有することを特徴としている。
【0010】
この車両の音検査システムでは、前記音生成装置は、所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する音制御部と、前記拡散音信号に基づく拡散音を発生する音出力部とを有するため、周波数帯域の拡大に伴って信号電力を低減できる。
前記検査装置は、前記音生成装置が発生した拡散音を収集する収音部と、前記収音部が収集した収集音を表す収集音信号を前記拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する逆拡散部とを有するため、周辺環境に起因した騒音の出力レベルを低くすると共に収音後に復調された原音の出力レベルを高くすることができ、周辺環境の騒音から復調原音が強調された逆拡散音を取得することができる。前記原音と前記逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する相関判定部と、前記相関判定部の判定結果を出力する出力部とを有するため、拡散前の原音と復調原音が強調された逆拡散音との相関関係を自動判定することができ、音生成装置の作動判定を周辺環境の騒音に拘らず行うことができる。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記相関判定部は、前記原音信号と前記逆拡散音信号との相関係数を演算し、前記相関係数が所定閾値よりも大きいとき、前記原音と前記逆拡散音との相関関係を判定するように構成されたことを特徴としている。
この構成によれば、相関関係を演算により容易に判定することができる。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記検査装置は、前記所定閾値の変更専用に構成された閾値調整手段を有することを特徴としている。
この構成によれば、摘み操作等簡単な操作で容易に判定閾値を調整することができ、検査工数の低減を図ることができる。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1~3の何れか1項の発明において、前記検査装置は、周囲から視覚認識可能な態様で作動する報知手段を有し、前記報知手段は、前記出力部の判定結果を報知することを特徴としている。
この構成によれば、判定結果を視覚的に認識することができる。
【0014】
請求項5の車両の音検査方法は、車両に搭載された音生成装置と、この音生成装置から離隔配置された検査装置とを備えた車両の音検査方法において、所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する第1ステップと、前記拡散音信号に基づく拡散音を発生する第2ステップと、前記発生した拡散音を収集する第3ステップと、前記収集した収集音を表す収集音信号を前記拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する第4ステップと、前記原音と前記逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する第5ステップと、前記第5ステップの判定結果を出力する第6ステップと、を有することを特徴としている。
【0015】
この車両の音検査方法では、所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する第1ステップと、前記拡散音信号に基づく拡散音を発生する第2ステップとを有するため、周波数帯域の拡大に伴って信号電力を低減できる。
前記発生した拡散音を収集する第3ステップと、前記収集した収集音を表す収集音信号を前記拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する第4ステップとを有するため、周辺環境からの騒音の出力レベルを低くすると共に収音後に復調された原音の出力レベルを高くすることができ、周辺環境の騒音から復調原音が強調された逆拡散音を取得することができる。前記原音と前記逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する第5ステップと、前記第5ステップの判定結果を出力する第6ステップとを有するため、拡散前の原音と復調原音が強調された逆拡散音との相関関係を自動判定でき、音生成装置の作動判定を周辺環境に拘らず行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の車両の検査システム及びその検査方法によれば、拡散前の原音と復調原音に対応した逆拡散音とを比較することにより、車両に搭載された音生成装置の作動判定精度を維持しつつ、検査工数を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1に係る車両の音検査システムの概略構成図である。
図2】車両の音検査システムのブロック図である。
図3】(接近通報用)原音の変調及び復調形態を時系列に示すチャートである。
図4】動作判定処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
以下の説明は、本発明を車両の生産ラインにおける完成車両の検査工程に適用したものを例示したものであり、本発明、その適用物、或いは、その用途を制限するものではない。尚、以下の説明は、車両の音検査方法の説明を含むものである。
【実施例0019】
以下、本発明の実施例1について図1図4に基づいて説明する。
図1図2に示すように、音検査システム1は、車両2に搭載されたAVAS(Acoustic Vehicle Alerting System)等に相当する音生成装置10と、工場の生産ラインに配設された検査装置20とを備えている。この音検査システム1は、車両2の生産ラインにおける完成車両検査ステーションで実行される車両用検査システムを対象としている。車両2は、電気自動車或いはハイブリッド自動車であり、走行バッテリの電力により駆動される電気モータのみを駆動源として走行可能に構成されている。
【0020】
まず、音生成装置10について説明する。
図1図2に示すように、音生成装置10は、通信装置11と、スピーカ12(音出力部)と、処理部13とを主な構成要素としている。
通常、この音生成装置10は、車両2が低速(例えば、20km/h以下)走行時、タイヤと路面の摩擦音(ロードノイズ)相当の接近警告音を歩行者が認識可能な音量で発生する。一方、工場における動作検査時、音生成装置10は、この接近警告音に基づき新たに生成された検査専用音を発生する。
【0021】
通信装置11は、検査員等が操作可能な操作盤及び検査装置20側の通信装置21と相互通信可能に構成され、音生成装置10に検査開始及び終了信号を入力する。
スピーカ12は、検査ステーションに設置した検査装置20の近傍位置まで搬送された車両2の前端側部分に配設されている。このスピーカ12は、工場の動作検査時、後述する拡散音信号に基づく検査専用の拡散音を車両2から外部に向けて発生する。
【0022】
処理部13は、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイス又は組み込み電子デバイスに構成されている。
図2に示すように、処理部13は、音制御部14と、DA変換部15等を備えている。
この処理部13には、接近警告音として原音を表す原音信号が予め記憶されている。
以下、特に説明がない場合、一次変調された原音のことを単に原音と表記する。
また、アナログ音のことを単に音、この音をデジタル化した信号のことを音信号と表記する。
【0023】
音制御部14は、所定の原音(接近警告音)の原音信号と疑似ノイズ信号からなる拡散符号(M系列符号)とを用いて拡散音信号を生成可能に構成されている。
この音制御部14は、一次変調信号である原音信号を拡散符号を用いて拡散(直接拡散)した拡散音信号を生成する。DA変換部15は、デジタル信号である拡散音信号をアナログ信号に変換した後、スピーカ12に向けて出力している。
【0024】
次に、検査装置20について説明する。
検査装置20は、収集した収集音、所謂車両2が発した音にノイズが乗った音を逆拡散することにより、車両2が発した音とノイズの強度を逆転させて信号雑音比(S/N比)を高めた逆拡散音を生成している。音生成装置10の動作判定は、逆拡散(復調)された逆拡散音と予め記憶されている原音との相関関係によって判定される。
図1図2に示すように、検査装置20は、通信装置21と、マイク22(収音部)と、アンプ23と、ランプ24と、閾値調整ボリューム25と、感度調整ボリューム26と、処理部30とを主な構成要素としている。
【0025】
通信装置21は、検査装置20に検査開始及び終了信号を入力する。マイク22は、車両2のスピーカ12から出力された拡散音と周辺環境から発せられた騒音を混合した状態で収音している。アンプ23は、収音された拡散音の出力を増幅処理する。
ランプ24は、出力部34からの指令信号に基づき、音生成装置10が異常作動したとき、点灯し、正常作動したとき、消灯するように制御される。
【0026】
閾値調整ボリューム25は、原音と逆拡散音との相関関係を判定する閾値を調整する際、調整専用のボリュームであり、検査員の手動操作により回転自在なダイヤル式摘み構造を備えている。感度調整ボリューム26は、アンプ23の増幅度を調整する際、調整専用のボリュームであり、検査員の手動操作により回転自在なダイヤル式摘み構造を備えている。
【0027】
処理部30は、周知のマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイス又は組み込み電子デバイスに構成されている。
図2に示すように、処理部30は、AD変換部31と、逆拡散部32と、相関判定部33と、出力部34等を備えている。処理部30には、予め通信装置21を介して処理部13から原音に関するデータ(原音信号等)が送信されている。
【0028】
AD変換部31は、アナログ信号に変換された拡散音の収集音をデジタル信号である収集音信号に変換した後、この収集音信号を逆拡散部32に出力している。
逆拡散部32は、収集音信号に対して音制御部14で使用した拡散符号を用いて逆拡散音信号を生成している。この逆拡散部32は、周辺環境の騒音(ノイズ)と拡散音とが混在する収集音信号を拡散符号を用いて逆拡散(復調)した逆拡散音信号を生成可能に構成されている。
【0029】
ここで、接近通報用原音の変調及び復調形態について時系列に沿って説明する。
図3に示すように、処理部13に予め記憶されている接近通報用原音は、所定の周波数帯域において、高出力を有する(P1)。原音信号は、そのデータ列と拡散符号が合成され(P2)、原音よりも広い周波数帯域で且つ原音よりも低い出力の拡散音信号に変調される(P3)。この拡散音信号は、アナログ信号に変換されてスピーカ12から出力される。
【0030】
スピーカ12から出力された原音に対応した拡散音は、工場内のノイズ(暗騒音)と混合されてマイク22により収集音として収集される(P4)。
収集された収集音のうち、原音に対応する拡散音は、広帯域且つ低出力であり、工場内のノイズは、狭帯域且つ高出力である。
収集音信号は、そのデータ列とP2と同様の拡散符号が合成され(P5)、逆拡散音信号に変調される(P6)。逆拡散音信号は、狭帯域且つ高出力の復元された復調原音信号と、この復調原音信号よりも広帯域且つ低出力のノイズ信号とによって構成されている。
【0031】
処理部30の説明に戻る。
相関判定部34は、原音と逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定している。
この相関判定部34は、原音信号と逆拡散音信号との相関係数を次式を用いて演算している。演算された相関係数が所定閾値(例えば、0.7)よりも大きいとき、原音と逆拡散音との相関を相関関係有と判定する。閾値は、閾値調整ボリューム25により任意に手動調整可能であり、閾値が高い程高い(強い)相関関係が判定される。
【0032】
相関係数をr、xとyの共分散をSxy、xの標準偏差をSx、yの標準偏差をSyとしたとき、
r=Sxy/(Sx×Sy) …(1)
出力部34は、ランプ24に相関の有無に基づく指令信号を出力している。
【0033】
次に、図4のフローチャートに基づいて、動作判定処理について説明する。
尚、Si(i=1,2…)は、各処理のためのステップを示す。
まず、図4に示すように、検査装置20は、閾値調整ボリューム25で設定された判定閾値、感度調整ボリューム26で設定された感度、及び式(1)等各種情報を読み込む(S1)。検査装置20は、搬送されてきた車両2の音生成装置10に対して拡散音を出力するように指示を送信した後(S2)、S3に移行する。
【0034】
S3では、音生成装置10が、原音信号と拡散符号を用いて拡散音信号を生成し、この拡散音信号をアナログ変換した拡散音を出力した後(S4)、S5に移行する。
S5では、音生成装置10から発生された拡散音と工場内のノイズとが収集音としてマイク22を介して収集され、検査装置20が、収集された収集音をデジタル変換した収集音信号を拡散符号を用いて逆拡散音信号を生成する(S6)。
S7では、検査装置20が、原音信号と逆拡散音信号との相関係数を式(1)を用いて演算する(S7)。
【0035】
S8では、検査装置20が、原音信号と逆拡散音信号との相関係数が閾値0.7よりも大きいか否か判定する。S8の判定の結果、相関係数が0.7よりも大きい場合、音生成装置10は作動指令に従った接近警告音を発生して正常動作を実行しているため、検査装置20は、ランプ24の消灯を維持したまま、リターンする。
S8の判定の結果、相関係数が0.7以下の場合、音生成装置10は作動指令に従った接近警告音を発生しない異常動作であるため、検査装置20は、ランプ24を点灯して、リターンする。
【0036】
次に、上記車両2の検査システム及びその検査方法の作用、効果について説明する。
本音検査システム1によれば、音生成装置10は、所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する音制御部14と、拡散音信号に基づく拡散音を発生するスピーカ12とを有するため、周波数帯域の拡大に伴って信号電力を低減できる。検査装置20は、音生成装置10が発生した拡散音を収集するマイク22と、マイク22が収集した収集音を表す収集音信号を拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する逆拡散部32とを有するため、周辺環境に起因した騒音の出力レベルを低くすると共に収音後に復調された原音の出力レベルを高くすることができ、周辺環境の騒音から復調原音が強調された逆拡散音を取得することができる。原音と逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する相関判定部33と、相関判定部33の判定結果を出力する出力部34とを有するため、拡散前の原音と復調原音が強調された逆拡散音との相関関係を自動判定することができ、音生成装置10の作動判定を周辺環境の騒音に拘らず行うことができる。
【0037】
相関判定部33は、原音信号と逆拡散音信号との相関係数を演算し、相関係数が所定閾値よりも大きいとき、原音と逆拡散音との相関関係を判定するように構成されたため、相関関係を演算により容易に判定することができる。
【0038】
検査装置20は、所定閾値の変更専用に構成された閾値調整ボリューム25を有するため、摘み操作等簡単な操作で容易に判定閾値を調整することができ、検査工数の低減を図ることができる。
【0039】
検査装置20は、周囲から視覚認識可能な態様で作動するランプ24を有し、ランプ24は、出力部34の判定結果を報知するため、判定結果を視覚的に認識することができる。
【0040】
本音検査方法によれば、所定の原音を表す原音信号から拡散符号を用いて拡散した拡散音信号を生成する第1ステップ(S2)と、拡散音信号に基づく拡散音を発生する第2ステップ(S4)とを有するため、周波数帯域の拡大に伴って信号電力を低減できる。
発生した拡散音を収集する第3ステップ(S5)と、収集した収集音を表す収集音信号を拡散符号を用いて逆拡散した逆拡散音信号を生成する第4ステップ(S6)とを有するため、周辺環境からの騒音の出力レベルを低くすると共に収音後に復調された原音の出力レベルを高くすることができ、周辺環境の騒音から復調原音が強調された逆拡散音を取得することができる。原音と逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定する第5ステップ(S8)と、第5ステップの判定結果を出力する第6ステップ(S9,S10)とを有するため、拡散前の原音と復調原音が強調された逆拡散音との相関関係を自動判定でき、音生成装置の作動判定を周辺環境に拘らず行うことができる。
【0041】
第4ステップ(S6)と第5ステップ(S8)との間に、逆拡散音信号を特定の周波数帯域の音信号を抽出可能なバンドパスフィルタに通過させる第7ステップを有し、第5ステップは、原音とバンドパスフィルタを通過後の逆拡散音信号に基づく逆拡散音との相関関係を判定している。これにより、逆拡散音信号ノイズ成分を除去することができ、判定精度を向上することができる。
【0042】
次に、前記実施形態を部分的に変更した変形例について説明する。
1〕前記実施形態においては、音生成装置10としてAVASの例を説明したが、車両2から音を発生させることが可能な装置であれば、何れの装置であっても良く、任意の音発生装置の動作検査に適用することが可能である。
【0043】
2〕前記実施形態においては、音生成装置10に原音が予め記憶され、検査時、音生成装置10で拡散音信号を生成する例を説明したが、原音を拡散した拡散音信号を外部で生成し、検査時、拡散音信号を音生成装置10に送信するようにしても良い。拡散音信号は、少なくとも、音生成装置10から発生されれば良く、生成場所は何れであっても良い。
また、音生成装置10に原音信号を記憶するのではなく、拡散音信号を記憶する場合も、本発明の技術範囲である。
【0044】
3〕前記実施形態においては、バンドパスフィルタを用いて逆拡散音信号から原音に対応した逆拡散音信号を抽出し、この逆拡散音信号と原音信号との相関関係を判定した例を説明したが、ノイズ成分を除去していない逆拡散音信号と原音信号との相関関係を判定しても良い。
【0045】
4〕前記実施形態においては、車両の生産ラインにおける完成車両の検査工程に適用した例を説明したが、販売会社の整備検査場等で実行される車両用検査工程に適用することも可能である。
【0046】
5〕その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施形態に種々の変更を付加した形態で実施可能であり、本発明はそのような変更形態も包含するものである。
【符号の説明】
【0047】
1 検査システム
2 車両
10 音生成装置
12 スピーカ
14 音制御部
20 検査装置
22 マイク
24 ランプ
25 閾値調整ボリューム
32 逆拡散部
33 相関判定部
34 出力部
図1
図2
図3
図4