(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186200
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】触媒粒子の担持シート
(51)【国際特許分類】
D04H 1/413 20120101AFI20221208BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20221208BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20221208BHJP
【FI】
D04H1/413
H01M4/86 B
D04H1/4382
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094302
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若元 佑太
(72)【発明者】
【氏名】川津 善章
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
(72)【発明者】
【氏名】田中 政尚
【テーマコード(参考)】
4L047
5H018
【Fターム(参考)】
4L047AB08
4L047CB07
4L047CC14
5H018BB06
5H018DD05
5H018DD08
5H018EE17
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH08
5H018HH10
(57)【要約】
【課題】
水が排出され易いという問題の発生が防止されていると共に、ひび割れや触媒粒子の脱落が発生するのが防止されていることで、機能が充分発揮されないという問題が発生し難い触媒層を提供可能な、触媒粒子の担持シートの提供を目的とする。
【解決手段】
吸水率が0.5%以下の有機樹脂で構成された繊維からなる不織布を備えた触媒粒子の担持シートにおいて、不織布の平均繊維径が300nmより大きく1500nm未満であることによって、ひび割れの発生や触媒粒子が脱落するという問題の発生が防止された、触媒層を提供できる。
また、本発明によって、発電性能が意図せず低下するのが防止された、燃料電池など電気化学用素子を提供できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機樹脂で構成された繊維からなる不織布を備えた、触媒粒子の担持シートであって、
前記不織布の平均繊維径は300nmより大きく1500nm未満であり、
下記の測定方法で求められる前記有機樹脂の吸水率は0.5%以下である、
触媒粒子の担持シート。
記
(吸水率の測定方法)
(1)測定対象とする、有機樹脂を用意する、
(2)前記有機樹脂を水分の蒸発による重量変化が生じなくなるまで乾燥し、乾燥後の前記有機樹脂の質量(W1)を量る、
(3)乾燥後の前記有機樹脂を、温度30℃、90RH%の雰囲気下に360時間さらすことで吸湿させ、吸湿後の前記有機樹脂の質量(W2)を量る、なお、RH%は飽和水蒸気量に対する比を示す相対湿度を意味する、
(4)得られた質量(W1)と質量(W2)の値を以下の式に代入し、算出された値を前記有機樹脂の吸水率(α、単位:%)とする。
α=100×(W2-W1)/W1
【請求項2】
電気化学用素子の構成部材として使用する、請求項1に記載の触媒粒子の担持シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒粒子の担持シートに関する。
【背景技術】
【0002】
石油資源の枯渇に対する懸念から、代替燃料の模索や省資源が重要な課題となっている。その中にあって、種々の燃料を化学エネルギーに変換し、電力として取り出す燃料電池について、活発な開発が続けられている。燃料電池は電極上に触媒粒子の層(以降、触媒層と称することがある)を備えており、触媒層において燃料(例えば水素や水素原子を含む化合物あるいは水素イオン、酸素や酸素原子を含む化合物)同士が反応することで、水が生成されると共に電子が放出され電流が発生する。なお、以降、上述した反応によって電子が放出され電流が発生することを発電と称する。
【0003】
このような触媒層のハンドリング性や、触媒層から触媒粒子が脱落するのを防止できるよう、不織布など触媒粒子の担持シート(以降、担持シートと略することがある)の空隙中に触媒粒子を保持してなる触媒層が検討されている。一例として、特開2012-533006(特許文献1)には、電界紡糸法によりポリアミドナノファイバを製造する方法にかかる発明が開示されており、当該発明によって製造されるポリアミドナノファイバを含む不織繊維ウェブは、触媒担体として使用できることが開示されている。また、別の例として、特開2001-283865(特許文献2)には、不織布などの非導電性布帛を有してなる担持層の空隙中に、触媒-ポリマ複合体が充填された電極触媒層が開示されている。なお、非導電性布帛を構成する非導電性繊維の直径は、10μm以下がさらに好ましいことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-533006(特許請求の範囲、0001~0002など)
【特許文献2】特開2001-283865(特許請求の範囲、0015、0034など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、本願出願人が検討を続けた結果、特許文献1や特許文献2が開示するような従来技術を用いて調製された担持シートを、例えば燃料電池など電気化学用素子における触媒層の構成部材として用いた場合、触媒層の機能が充分発揮されず燃料電池など電気化学用素子の発電性能が意図せず低下するという問題が発生することがあった。
【0006】
本願出願人は問題の発生原因として、発電に伴い生成される水が触媒層から排出され難いことで、燃料の流路が狭まり発電が阻害されているためだと推測した。また、特開2007-214019に開示されている、吸水率が0.5%より高い材料を含む構造体は水の排出性能が充分でなくなるという知見にも着目した。つまり、本願出願人の推測や上述した知見に対し、特許文献1が開示する触媒担体である不織繊維ウェブは、吸水率が1.1%と高いポリアミドで構成されたナノファイバからなる。そのため、特許文献1が開示するポリアミドナノファイバからなる不織繊維ウェブを備えた触媒層は水を排出し難い特性を有しており、そのため、触媒層の機能が充分発揮されなくなっていると考えた。
【0007】
更に、本願出願人が検討を続けたところ、触媒層を構成する担持シートが備える不織布の平均繊維径によっては(その平均繊維径が10μm以下であっても)、電気化学用素子の製造工程や電気化学用素子の使用中に、触媒層にひび割れの発生や触媒層から触媒粒子が脱落することがあった。なお、ひび割れが発生した触媒層では、触媒粒子が脱落して、触媒層の機能が充分発揮されず発電効率が低下すると考えられた。そのため、特許文献2が開示するような直径が10μm以下の不織布を備えた触媒層でも当然、電気化学用素子の製造工程や電気化学用素子の使用中に、触媒層にひび割れの発生や触媒層から触媒粒子が脱落するという問題が生じ、触媒層の機能が充分発揮されなくなる恐れがあると考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の本発明は、
「有機樹脂で構成された繊維からなる不織布を備えた、触媒粒子の担持シートであって、
前記不織布の平均繊維径は300nmより大きく1500nm未満であり、
下記の測定方法で求められる前記有機樹脂の吸水率は0.5%以下である、
触媒粒子の担持シート。
記
(吸水率の測定方法)
(1)測定対象とする、有機樹脂を用意する、
(2)前記有機樹脂を水分の蒸発による重量変化が生じなくなるまで乾燥し、乾燥後の前記有機樹脂の質量(W1)を量る、
(3)乾燥後の前記有機樹脂を、温度30℃、90RH%の雰囲気下に360時間さらすことで吸湿させ、吸湿後の前記有機樹脂の質量(W2)を量る、なお、RH%は飽和水蒸気量に対する比を示す相対湿度を意味する、
(4)得られた質量(W1)と質量(W2)の値を以下の式に代入し、算出された値を前記有機樹脂の吸水率(α、単位:%)とする。
α=100×(W2-W1)/W1」
であり、第二の本発明は、
「電気化学用素子の構成部材として使用する、請求項1に記載の触媒粒子の担持シート」
である。
【発明の効果】
【0009】
本願出願人が検討した結果、吸水率が0.5%以下の有機樹脂で構成された繊維からなる不織布を備えた触媒粒子の担持シートにおいて、不織布の平均繊維径が300nmより大きく1500nm未満であることによって、ひび割れの発生や触媒粒子が脱落するという問題の発生が防止された、触媒層を提供できることを見出した。そのため、本発明により、水が排出され易いという問題の発生が防止されていると共に、ひび割れや触媒粒子の脱落が発生するのが防止されていることで、機能が充分発揮されないという問題が発生し難い触媒層を提供できる。
【0010】
そして、本発明によって、発電性能が意図せず低下するのが防止された、燃料電池など電気化学用素子を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明では、例えば以下の構成など、各種構成を適宜選択できる。なお、本発明で説明する各種測定は特に記載のない限り、常圧のもと25℃(室温)温度条件下で測定を行った。また、本発明で説明する各種測定結果は特に記載のない限り、求める値よりも一桁小さな値まで測定で求め、当該値を四捨五入することで求める値を算出した。具体例として、小数第一位までが求める値である場合、測定によって小数第二位まで値を求め、得られた小数第二位の値を四捨五入することで小数第一位までの値を算出し、この値を求める値とした。 そして、本発明で例示する各上限値および各下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0012】
本発明にかかる担持シートは、有機樹脂で構成された繊維からなる不織布を備えている。そして、本発明にかかる有機樹脂は、特開2007-214019に開示されている吸水率の測定方法と同様の測定方法である、下記の測定方法で求められる吸水率が0.5%以下の有機樹脂である。
【0013】
(吸水率の測定方法)
(1)測定対象とする、有機樹脂を用意する。
(2)前記有機樹脂を水分の蒸発による重量変化が生じなくなるまで乾燥し、乾燥後の前記有機樹脂の質量(W1)を量る。
(3)乾燥後の前記有機樹脂を、温度30℃、90RH%の雰囲気下に360時間さらすことで吸湿させ、吸湿後の前記有機樹脂の質量(W2)を量る、なお、RH%は飽和水蒸気量に対する比を示す相対湿度を意味する。
(4)得られた質量(W1)と質量(W2)の値を以下の式に代入し、算出された値を前記有機樹脂の吸水率(α、単位:%)とする。
α=100×(W2-W1)/W1
【0014】
また、上述の測定方法において使用する有機樹脂の形状は適宜選択でき、ペレット状、フィルム状、繊維状、布帛状(例えば、ウェブや不織布、織物や編物)であってもよい。繊維や不織布を上述の測定へ供することによって、繊維や不織布を構成している有機樹脂の吸水率を求めることができる。なお、ポリアミドを上述の測定へ供したところ、その吸水率は1.1%であった。
【0015】
本願出願人は、特開2007-214019に開示されている、吸水率が0.5%より高い材料を含む構造体(例えば、特許文献1が開示するような吸水率が1.1%のポリアミドナノファイバを含む不織繊維ウェブ)は水の排出性能が充分でなくなるという知見のもと、担持シートが備える不織布の構成繊維を成す有機樹脂の吸水率に着目した。そして、本願出願人は、当該知見に基づき、吸水率が0.5%以下の有機樹脂で構成された繊維からなる不織布を備えた担持シートを採用することで、水が排出され易い触媒層を提供できると考えた。
【0016】
有機樹脂の吸水率が低いほど、水が排出され易い触媒層を提供可能な担持シートを調製できることから、有機樹脂の吸水率は0.40%以下であるのが好ましく、0.30%以下であるのが好ましく、0.20%以下であるのが好ましく、0.10%以下であるのが好ましく、0.05%以下であるのが好ましい。本発明にかかる構成を満足するのであれば、有機樹脂の種類は適宜選択でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン(以降PVDFと略す、吸水率:0.03%)、ポリアクリロニトリル(以降PANと略す、吸水率:0.30%)、ポリスルホン(以降PSUと略す、吸水率:0.23%)、ポリエーテルスルホン(以降PESUと略す、吸水率:0.43%)などを採用できる。
【0017】
これらの有機樹脂は、直鎖状ポリマーまたは分岐状ポリマーのいずれからなるものでも構わず、また有機樹脂がブロック共重合体やランダム共重合体でもよい。また、有機樹脂の立体構造や結晶性の有無がいかなるものでもよい。また、有機樹脂はこれらの有機樹脂が混合あるいは混在してなるものであってもよい。
【0018】
なお、吸水率が0.5%以下となるならば、吸水率が0.5%以下の有機樹脂と吸水率が0.5%より高い有機樹脂が混合してなる有機樹脂であってもよい。しかし、より水が排出され易い触媒層を提供できるよう、吸水率が0.5%以下の有機樹脂のみを採用するのが好ましい。
【0019】
また、有機樹脂は、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、加熱を受け発泡する粒子、ハイドロキシアパタイトなどの無機粒子、酸化防止剤、撥水剤、表面電荷調整剤、などの添加剤を含んでいてもよい。しかし、より水が排出され易い触媒層を提供できるよう、有機樹脂は添加剤を含んでいないのが好ましい。また、電解質膜の劣化を抑制する目的として、ラジカル消去剤として機能する金属、金属イオン、又は金属酸化物、例えばTi、Cr、Mn、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、In、Au、Bi、La、Ce、Pr、鉄シアノ錯体、鉄フェナントロリン錯体(フェロイン)、及び、鉄ビピリジン錯体からなる群から選ばれるいずれか1以上の金属元素又は錯体のイオンを含むものを添加しても良い。また、N-ヒドロキシフタルイミド(NHPI)のように、金属元素を含まない酸化還元対を含むものでも良い。
【0020】
不織布の構成繊維は、当該構成繊維の構成樹脂として吸水率が0.5%以下の有機樹脂を含んでいる。構成繊維に含まれている当該有機樹脂の割合は適宜調整できるが、より水が排出され易い触媒層を提供できるよう、構成繊維の構成樹脂は当該有機樹脂のみであるのが好ましい。
【0021】
繊維は単繊維であっても、フィブリル状の繊維であっても、複合繊維でもよい。複合繊維として、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型、オレンジ型、バイメタル型などの繊維であることができる。また、繊維は横断面の形状が、略円形の繊維や楕円形の繊維以外にも異形断面繊維であってもよい。なお、異形断面繊維として、中空形状、三角形形状などの多角形形状、Y字形状などのアルファベット文字型形状、不定形形状、多葉形状、アスタリスク形状などの記号型形状、あるいはこれらの形状が複数結合した形状などの繊維断面を有する繊維を例示できる。
【0022】
繊維の調製方法は適宜選択できるが、例えば、溶融紡糸法、乾式紡糸法、湿式紡糸法、直接紡糸法(メルトブロー法、スパンボンド法、紡糸液に電界を作用させ紡糸する方法である静電紡糸法、遠心力を用いて紡糸する方法、特開2011-012372号公報などに記載の随伴気流を用いて紡糸する方法、特開2005-264374号公報などに記載の静電紡糸法の一種である中和紡糸法など)、複合繊維から一種類以上の樹脂成分を除去することで繊維径が細い繊維を抽出する方法など公知の方法を使用することができる。
【0023】
繊維の繊維径は、本発明にかかる平均繊維径を有する不織布を実現できるよう適宜調整する。そのため、繊維の繊維径は300nmより大きく、400nm以上であるのが好ましい。また、繊維の繊維径は1500nm未満であり、1200nm以下であるのが好ましく、800nm以下であるのが好ましい。ここでいう「繊維径」は、繊維断面を撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の繊維における各繊維径の算術平均値をいう。また、繊維径が細過ぎて測定が困難である場合には、5000倍よりも高い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定することができる。なお、繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0024】
繊維の繊維長は適宜選択するが、特定長を有する短繊維や長繊維、あるいは、実質的に繊維長を測定することが困難な程度の長さの繊維長を有する連続繊維であることができる。ここでいう「繊維長」は、繊維や不織布など対象物などを撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定できる。繊維の繊維長が長すぎて測定が困難である場合には、5000倍より低い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定することができる。
【0025】
本発明でいう不織布とは、繊維同士がランダムに絡み合い構成されたシート形状の繊維集合体であり、主として担持シートの骨格を担う。本発明の担持シートは、不織布を備えているため柔軟であり、形状安定性や寸法安定性に優れる。また、触媒粒子を保持するための空隙を有しており、当該空隙の存在によって水が排出され易い触媒層を提供できる。
【0026】
上述した方法によって調製された繊維を、例えば、乾式法、湿式法へ供することで繊維ウェブを調製でき、調製した繊維ウェブの構成繊維を絡合および/または一体化させて不織布を調製できる。構成繊維同士を絡合および/または一体化させる方法として、例えば、ニードルや水流あるいは水蒸気/気体などの流体流によって絡合する方法、繊維ウエブを加熱処理へ供するなどしてバインダあるいは後述する接着繊維によって構成繊維同士を接着一体化あるいは溶融一体化させる方法などを挙げることができる。あるいは、直接紡糸法を用いて紡糸した繊維を捕集することでウェブを調製し、ウェブから溶媒あるいは分散媒を除去することで不織布を調製できる。
【0027】
なお、不織布は一部熱融着型の接着繊維を備えていてもよい。一部熱融着型の接着繊維による繊維接着によって、バインダなど不要な成分を用いることなく、不織布の構成繊維同士の交点部分を溶融一体化でき、剛性に富む担持シートを提供できる。
【0028】
加熱処理の方法は適宜選択できるが、例えば、ロールにより加熱または加熱加圧する方法、オーブンドライヤー、遠赤外線ヒーター、乾熱乾燥機、熱風乾燥機などの加熱機へ供し加熱する方法、無圧下で赤外線を照射する方法などを用いることができる。
【0029】
不織布は構成繊維として、吸水率が0.5%以下の有機樹脂で構成された繊維を含んでいる。不織布に含まれている当該繊維の割合は適宜調整できるが、より水が排出され易い触媒層を提供できるよう、不織布の構成繊維は当該繊維のみであるのが好ましい。
【0030】
なお、特開平05-317723号公報にも記載されているように、後述する触媒粒子の中には、例えばゼオライト触媒粒子など水分によって触媒性能が劣化するものが存在する。本発明にかかる不織布は、吸水率が0.5%以下の有機樹脂で構成された繊維を含んでいることから、水分によって触媒性能が劣化し得る触媒粒子を担持した場合であっても、触媒性能が劣化するのを防止できる触媒層を実現可能な担持シートを提供できる。
【0031】
本発明にかかる不織布の平均繊維径は300nmより大きく1500nm未満である。本願出願人は、平均繊維径が300nmより大きく1500nm未満である不織布を備えた担持シートによって、ひび割れや触媒粒子の脱落の発生が防止された触媒層を提供できることを見出した。不織布の平均繊維径は、300nmより大きく1500nm未満であるならば、よりひび割れや触媒粒子の脱落が防止された触媒層を提供できるよう適宜調整でき、平均繊維径の下限値は400nm以上であるのが好ましく、平均繊維径の上限値は1200nm以下であるのが好ましく、800nm以下であるのが好ましい。
【0032】
ここでいう「平均繊維径」は、不織布の断面や表面などを撮影した5000倍の電子顕微鏡写真をもとに測定した、50点の繊維における各繊維径の算術平均値をいう。また、繊維径が細過ぎて測定が困難である場合には、5000倍よりも高い倍率の電子顕微鏡写真をもとに測定することができる。なお、繊維の断面形状が非円形である場合には、断面積と同じ面積の円の直径を繊維径とみなす。
【0033】
不織布の目付や厚さなどの各種物性は、適宜選択できる。目付は、0.1~100g/m2であることができ、0.3~50g/m2であることができ、0.5~10g/m2であることができる。この「目付」はJIS P8124(紙及び板紙―坪量測定法)に規定されている方法に基づいて得られる坪量をいう。また、厚さは0.5~500μmであることができ、1~250μmであることができ、2~50μmであることができる。この「厚さ」は、JIS B7502に規定されている外側マイクロメータ―(測定可能厚さ:0~25mm)を用いて測定した値をいう。
【0034】
不織布が備える空隙が多い程、触媒粒子を多量に保持して機能が発揮され易い触媒層を実現できること、また、通気性に富むことでより水が排出され易い触媒層を提供できることから、不織布の「空隙率」は40%以上が好ましく、50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、80%以上であるのがより好ましい。一方、不織布が備える空隙が多過ぎると強度に劣る触媒層となる恐れがあるため、空隙率は99%以下であるのが好ましく、95%以下であるのがより好ましく、90%以下であるのが更に好ましい。この「空隙率」は次の式により得られる値をいう。ここで、Mは不織布の目付(単位:g/m2)、Tは不織布の厚さ(単位:μm)、dは不織布を構成する成分の平均密度(単位:g/cm3)を、それぞれ意味する。
空隙率(%)=100×(1-M)/(T×d)
【0035】
不織布が有する「平均孔径」は、担持する触媒粒子の大きさに合わせ適宜調整でき、その下限値は1μm以上であることができ、1μmより大きいことができ、2μm以上であることができる。また、その上限値は6μm以下であることができ、6μm未満であることができ、4μm以下であることができる。この「平均孔径」は、ポロメータ〔Polometer,コールター(Coulter)社製〕を用いてバブルポイント法により測定できる。
【0036】
不織布の「破断伸度」は、ハンドリング性や触媒粒子の脱落防止性が向上した触媒層を提供できるよう適宜調整でき、その下限値は5%以上が好ましく、11%以上がさらに好ましい。上限値は適宜調整するが、延伸した際の永久歪が大きくなるのを防止できるよう200%以下が好ましく、114%未満が好ましく、105%以下であるのが好ましい。
【0037】
この「破断伸度」は、不織布から長方形の試料(幅:15mm、長さ:200mm)を採取した後に、JIS P-8113に準じ、引張り試験機((株)オリエンテック社製、UCT-500)を使用して、つかみ間隔100mm、引張り速度50mm/min.で測定した伸度をいう。つまり、次の式から得られる値をいう。
伸度(%)=100×D/Li
ここで、Lは伸度、Dは破断時の伸び(mm)、Liはつかみ間隔(=100mm)をそれぞれ意味する。
【0038】
不織布の「5%延伸時の延伸永久歪」は、担持シートが備える不織布の空隙中に触媒粒子を担持させる時など、圧力を受けた不織布が変形した状態からどの程度元の形状へ復元するのかを評価する指標である。当該値が高い不織布は、担持シートが備える不織布の空隙中に触媒粒子を担持させるため担持シートへ圧力を作用させた後に、触媒粒子を担持させる前の形状へ復元し難い物性を有する。これは、担持シートにおける触媒粒子の存在可能な空隙が減少した状態にあることを意味しており、担持シートの表面など局所に触媒粒子が偏在し易い状態となることに起因して、触媒層にひび割れや触媒粒子の脱落を発生させる原因になると考えられる。
【0039】
なお、不織布における5%延伸時の延伸永久歪は、以下の測定方法で求めることができる。
(5%延伸時の永久歪の測定方法)
(1)測定対象物から試料(長方形形状、短辺:15mm、長辺:80mm、デジタルノギスで長辺と短辺の長さを測定)を採取した。
(2)手動一軸延伸機(つかみ間隔:40mm)を使用し、つかみ間隔が42mmとなるまで試料を長辺方向に引張った。
(3)延伸後に手動一軸延伸機から試料を取り出し、荷重を作用させない状態でデジタルノギスを用いて、延伸後の試料における長辺方向の長さ(A)を求めた。
(4)次の式から得られる値を、5%延伸時の永久歪(単位:%)とした。
5%延伸時の永久歪(%)=100×(A-80)/40
【0040】
当該値が低い不織布であるほど、よりひび割れや触媒粒子の脱落の発生が防止された触媒層を提供できる傾向がある。そのため、不織布における5%延伸時の延伸永久歪は、2%未満であるのが好ましく、1%未満であるのが好ましく、0.5%以下であるのが好ましく、理想的には0%であるのが最も好ましい。
【0041】
不織布は、例えば、難燃剤、香料、顔料、抗菌剤、抗黴材、光触媒粒子、加熱を受け発泡する粒子、ハイドロキシアパタイトなどの無機粒子、酸化防止剤、撥水剤、表面電荷調整剤、などの添加剤を含んでいてもよい。しかし、より水が排出され易い触媒層を提供できるよう、不織布は添加剤を含んでいないのが好ましい。また、電解質膜の劣化を抑制する目的として、ラジカル消去剤として機能する金属、金属イオン、又は金属酸化物を含んでいてもよい。
【0042】
本発明にかかる不織布はそのまま担持シートとして使用できるものであるが、担持シートの用途や使用態様に合わせて、リライアントプレス処理などの加圧処理する工程へ供し厚さを調整する、形状を打ち抜く、成型するなどの各種二次工程へ供しても良い。
【0043】
担持シートへ触媒粒子を担持することで、担持シートが備える不織布の空隙中に触媒粒子を保持してなる触媒層を調製できる。触媒粒子の種類は触媒層の用途によって適宜選択するものであり、触媒粒子の種類は有機物であっても無機物であってもよい。
【0044】
有機物としては、ビリルビンオキシダーゼ、ラッカーゼ等の酵素の還元を促進する酵素、また、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、トリメチルトリアザシクロノナン(TACN)等の有機アミン化合物が挙げられる。無機物としては、金属系触媒、非貴金属系触媒が挙げられ、触媒活性を有するものであれば、貴金属系触媒、非貴金属系触媒のいずれでもよい。貴金属系触媒の例としては、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金が挙げられる。非貴金属系触媒としては、例えば、Ta,Zr,Tiの酸化物(TaOx、ZrOx、TiOx)、窒化物(TaNx、ZrNx、TiNx)、酸窒化物(TaOxNy、ZrOxNy、TiOxNy)、ゼオライト等が挙げられる(式中、x、yは任意の数)が挙げられる。
【0045】
ただし、ここに示す触媒粒子の例は一例であり、ここに例示していない既知の有機又は無機の触媒や、将来的に見出される未知の触媒の本実施形態に係る触媒層構成体への採用を妨げるものではない。なお、燃料電池など電気化学用素子が備える触媒層を調製する場合、触媒粒子として、例えば、白金担持炭素粒子を採用できる。
【0046】
担持シートへ担持させる触媒粒子の粒形や粒径、その担持量も適宜調整できる。粒形として例えば球状や棒状あるいは繊維状であることができ、粒径は例えば1nm~10μmであることができる。また、担持シートへ担持させる触媒粒子の担持量は、例えば0.1~100g/m2であることができる。
【0047】
なお、担持シートへ触媒粒子を担持する方法は適宜選択できるが、触媒粒子を分散媒へ分散させてなる塗工液を調製し、当該塗工液を担持シートへ付与する方法や、平板上に散布した触媒粒子上に担持シートを積層し、加圧することで担持シートへ触媒粒子を担持させる方法などを採用できる。
【実施例0048】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
(比較例1)
PVDF(吸水率:0.03%)をジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解させ、固形分濃度が14質量%の紡糸液を調製した。そして、紡糸液を以下の紡糸条件へ供することで静電紡糸し、紡糸液中に含まれる有機樹脂のみで構成された連続繊維が絡合してなるウェブを調製した。
・金属製ノズル(紡糸液吐出部分)における、紡糸液吐出部分の形状:内径0.44mmの円形状
・金属製ノズルの先端と、捕集体(金属板)との距離:10cm
・紡糸液へ印加した電圧:15kV
・金属製ノズルから吐出された紡糸液:1g/時間
・静電紡糸環境の雰囲気:温度25℃、湿度30%RH
次いで、調製したウェブを、表面温度を160℃に調整した加熱ロールと接触させ、ウェブに残留する溶媒を除去して不織布を調製した。そして、このようにして調製した不織布を、触媒粒子の担持シートとした。
【0050】
(実施例1~3、比較例2)
紡糸液の固形分濃度を調整するなどして紡糸条件を変更し、繊維径の異なる不織布を作製したこと以外は、比較例1と同様にして各種不織布を調製した。そして、このようにして調製した各種不織布を、各々触媒粒子の担持シートとした。
【0051】
(実施例4)
PAN(吸水率:0.30%)をジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解させ、固形分濃度が11質量%の紡糸液を調製した。このようにして調製した紡糸液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして不織布を調製し、触媒粒子の担持シートとした。
【0052】
(実施例5)
PSU(吸水率:0.23%)をジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解させ、固形分濃度が26質量%の紡糸液を調製した。このようにして調製した紡糸液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして不織布を調製し、触媒粒子の担持シートとした。
【0053】
(実施例6)
PESU(吸水率:0.43%)をジメチルホルムアミド(沸点:153℃)に溶解させ、固形分濃度が26質量%の紡糸液を調製した。このようにして調製した紡糸液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして不織布を調製し、触媒粒子の担持シートとした。
【0054】
上述のようにして調製した、各触媒粒子の担持シートの諸構成と、各触媒粒子の担持シートを用いて調製した各触媒層の状態を評価した結果を、表1および表2にまとめた。なお、表2では、理解を容易にするため、実施例4~6に加え実施例1の結果を併せ記載した。
【0055】
また、触媒層の調製方法と評価方法は以下の通りとした。
(触媒層の調製方法)
エチレングリコールジメチルエーテル10.4g中に、触媒粒子として市販の白金担持炭素粒子(田中貴金属(株)製、炭素に対する白金担持量:40質量%、品名:TEC10V40E、平均粒径:30nm)を0.8g加え、超音波処理によって分散させた。その後、電解質樹脂溶液として市販の5質量%ナフィオン溶液(米国シグマ・アルドリッチ社製、NAFIONは登録商標)を4.0g加えた。更に、超音波処理により分散させ、攪拌機で攪拌して触媒ペーストを調製した。
そして、ガラス板上に触媒粒子の担持シートを乗せ、キャスト法を用いて触媒粒子の担持シートにおける一方の主面から前記作成した触媒ペーストを充填した。
その後、100℃のオーブンに入れて乾燥することで、触媒粒子の担持シートの空隙中に白金担持炭素粒子が保持されてなる触媒層を調製した。なお、触媒層が含んでいる白金担持炭素粒子の量が10g/m2となるよう、触媒ペーストの充填量を調整した。
【0056】
(触媒層の評価方法)
触媒層における両主面を目視で確認することで、触媒層の状態を確認した。なお、実施例および比較例の各触媒粒子の担持シートを用いて調製した各触媒層は、いずれも、両主面にひび割れの発生や両主面からの触媒粒子(白金担持炭素粒子)の脱落は認められなかった。
次いで、各触媒層を以下の測定へ供した。
(1)触媒層から試料(長方形形状、短辺:15mm、長辺:80mm、デジタルノギスで長辺と短辺の長さを測定)を採取した。
(2)手動一軸延伸機(つかみ間隔:40mm)を使用し、つかみ間隔が42mmとなるまで試料を長辺方向に引張った。なお、試料(触媒層)を引張ることで、電気化学用素子の製造工程や電気化学用素子の使用中に触媒層へかかる張力を想定し模擬実験したものである。
(3)延伸後に手動一軸延伸機から試料を取り出し、荷重を作用させない状態とした。
(4)延伸後の試料における両主面を目視で確認し、両主面にひび割れの発生や両主面からの触媒粒子の脱落が認められなかったものを「〇」と評価した。一方、少なくとも一方の主面にひび割れの発生および/または少なくとも一方の主面からの触媒粒子の脱落が認められたものを「×」と評価した。
なお、評価結果が「〇」であった触媒層は、ひび割れの発生や触媒層から触媒粒子が脱落するという問題の発生が防止された触媒層である。
【0057】
【0058】
【0059】
以上の結果から、吸水率が0.5%以下の有機樹脂で構成された繊維からなる不織布を備えた触媒粒子の担持シートにおいて、不織布の平均繊維径が300nmより大きく1500nm未満であることによって、ひび割れの発生や触媒粒子が脱落するという問題の発生が防止された、触媒層を提供できた。そのため、本発明によって、水が排出され易いと共にひび割れや触媒粒子の脱落が発生するのが防止されていることで、触媒層の機能が充分発揮されないという問題が発生し難い触媒層を提供できた。
【0060】
なお、実施例1~6および比較例2の触媒粒子の担持シートを用いて調製した触媒層に比べ、比較例1の触媒粒子の担持シートを用いて調製した触媒層は厚いものであった。この理由として、比較例1の触媒粒子の担持シートでは、構成繊維の平均繊維径が細いため触媒粒子の担持シート内に触媒ペーストが入り込み難い結果、調製された触媒粒子の担持シート表面に触媒粒子が偏在してなる触媒粒子の層が形成されて、触媒層が厚くなったと考えられた。
本発明にかかる触媒粒子の担持シートの空隙中に触媒粒子を保持することで、触媒層(特に、燃料電池など電気化学用素子の構成部材として使用可能な触媒層)を提供できる。