(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186205
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】脳計測装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20221208BHJP
A61B 5/245 20210101ALI20221208BHJP
G01N 24/00 20060101ALI20221208BHJP
G01R 33/381 20060101ALI20221208BHJP
G01R 33/36 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
A61B5/055 331
A61B5/245
A61B5/055 390
G01N24/00 600A
G01R33/381
G01N24/00 P
G01R33/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094314
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】森谷 隆広
(72)【発明者】
【氏名】笈田 武範
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 右典
(72)【発明者】
【氏名】須山 本比呂
(72)【発明者】
【氏名】小林 哲生
【テーマコード(参考)】
4C096
4C127
【Fターム(参考)】
4C096AA18
4C096AB43
4C096AC01
4C096AD08
4C096AD10
4C096AD19
4C096CA03
4C096CA07
4C096CA08
4C096CA39
4C096CC40
4C127AA10
4C127BB05
4C127EE01
4C127KK01
(57)【要約】
【課題】低消費電力化を可能とする脳計測装置を提供する。
【解決手段】脳計測装置M1は、静磁場を形成するための静磁場形成部50と、傾斜磁場を形成するための勾配磁場補正コイル8と、被験者に向けて送信パルスを送信するための送信コイル21と、被験者で生じた核磁気共鳴信号を検出するための受信コイル22と、核磁気共鳴信号に基づいてMR画像を生成する制御装置5と、を備える。静磁場形成部50は、互いに対向するように配置された第1磁極51及び第2磁極52と、磁束を発生させるための第1コイル53と、第1コイル53で発生した磁束を第1磁極51及び第2磁極52のそれぞれに導くための磁路が形成される第1保持部材54と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定エリアに静磁場を形成するための静磁場形成部と、
前記測定エリアに傾斜磁場を形成するための傾斜磁場コイルと、
前記測定エリア中の被験者に向けて送信パルスを送信するための送信コイルと、
前記送信パルスの送信によって前記被験者で生じた核磁気共鳴信号を検出するための検出コイルと、
前記検出コイルが検出した核磁気共鳴信号に基づいてMR画像を生成する生成部と、
を備え、
前記静磁場形成部は、
前記測定エリアを介して互いに対向するように配置された第1磁極及び第2磁極と、
磁束を発生させるための第1コイルと、
前記第1磁極及び前記第2磁極を保持し、前記第1コイルで発生した磁束を前記第1磁極及び前記第2磁極のそれぞれに導くための磁路が形成される第1保持部材と、
を備える、
脳計測装置。
【請求項2】
前記第1保持部材は、
前記第1磁極と前記第2磁極とが対向する第1方向に沿って延びる第1本体部と、
前記第1本体部の一端から前記第1方向に交差する第2方向に沿って延びる第1延在部と、
前記第1本体部の他端から前記第2方向に沿って延びる第2延在部と、
を含み、
前記第1磁極は、前記第1延在部に接続されて保持され、
前記第2磁極は、前記第2延在部に接続されて保持され、
前記第1コイルは、前記第1本体部に巻き付けられて設けられている、
請求項1に記載の脳計測装置。
【請求項3】
前記第1コイルは、前記第1方向における前記第1磁極と前記第2磁極との中間点を通る線であって前記第2方向に沿った基準線に対して対称となるように、前記第1本体部に設けられている、
請求項2に記載の脳計測装置。
【請求項4】
前記第1延在部は、当該第1延在部の前記第1本体部と反対側の端部において前記第2磁極に向けて屈曲する第1屈曲部を含み、
前記第2延在部は、当該第2延在部の前記第1本体部と反対側の端部において前記第1磁極に向けて屈曲する第2屈曲部を含み、
前記第1磁極は、前記第1方向からみて円形状を呈しており、且つ、当該円形状の中心において前記第1屈曲部の先端に接続されて保持されており、
前記第2磁極は、前記第1方向からみて円形状を呈しており、且つ、当該円形状の中心において前記第2屈曲部の先端に接続されて保持されている、
請求項2または3に記載の脳計測装置。
【請求項5】
前記第1延在部及び前記第2延在部は、前記第2方向に沿って直線状に延在しており、
前記第1磁極は、当該第1磁極の前記第1延在部側の外縁において前記第1延在部の先端に接続されて保持されており、
前記第2磁極は、当該第2磁極の前記第2延在部側の外縁において前記第2延在部の先端に接続されて保持されている、
請求項2又は3に記載の脳計測装置。
【請求項6】
前記静磁場形成部は、
磁束を発生させるための第2コイルと、
前記第2コイルで発生した磁束を前記第1磁極及び前記第2磁極のそれぞれに導くための磁路が形成される第2保持部材と、
を備え、
前記第2保持部材は、
前記第1方向に沿って延びる第2本体部と、
前記第2本体部の一端から前記第2方向に沿って直線状に延びる第3延在部と、
前記第2本体部の他端から前記第2方向に沿って直線状に延びる第4延在部と、
を含み、
前記第1磁極の前記第3延在部側の外縁には、前記第3延在部の先端が接続され、
前記第2磁極の前記第4延在部側の外縁には、前記第4延在部の先端が接続され、
前記第2コイルは、前記第2本体部に巻き付けられて設けられている、
請求項2~5のいずれか一項に記載の脳計測装置。
【請求項7】
前記第1磁極と前記第2磁極との対向方向からみたときの前記第1磁極の大きさ、及び前記第2磁極の大きさは、前記第1磁極と前記第2磁極との間隔よりも大きい、
請求項1~6のいずれか一項に記載の脳計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、脳計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、磁気共鳴イメージング装置が記載されている。この装置は、撮像領域が形成されたガントリに対して、当該撮像領域に静磁場を形成する筒状の静磁場用磁石と、撮像領域に傾斜磁場を形成する筒状の傾斜磁場コイルと、撮像領域全体にRF磁場パルスを送信するWBコイルと、が同軸状に内蔵されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sarracanie et al., Low-CostHigh-Performance MRI, SCIENTICFIC REPORTS, 15 October 2015, p1-9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非特許文献1では、静磁場用磁石が強力且つ巨大である場合、非常に厳しいインフラ的な要求が成される点が指摘されている。これに対して、非特許文献1では、6.5mT程度の単純なコイル状の電磁石を用いることが提案されている。しかし、この場合には、静磁場の形成に際し、例えば6kW~7kWといったように、消費電力が大きくなる。
【0006】
そこで、本開示は、低消費電力化を可能とする脳計測装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る脳計測装置は、測定エリアに静磁場を形成するための静磁場形成部と、測定エリアに傾斜磁場を形成するための傾斜磁場コイルと、測定エリア中の被験者に向けて送信パルスを送信するための送信コイルと、送信パルスの送信によって被験者で生じた核磁気共鳴信号を検出するための検出コイルと、検出コイルが検出した核磁気共鳴信号に基づいてMR画像を生成する生成部と、を備え、静磁場形成部は、測定エリアを介して互いに対向するように配置された第1磁極及び第2磁極と、磁束を発生させるための第1コイルと、第1磁極及び第2磁極を保持し、第1コイルで発生した磁束を第1磁極及び第2磁極のそれぞれに導くための磁路が形成される第1保持部材と、を備える。
【0008】
この脳計測装置では、測定エリア中の被験者のMR画像を生成するに際して、静磁場形成部によって測定エリアに静磁場が形成される。静磁場形成部では、第1コイルで発生した磁束が、第1保持部材に形成された磁路によって、測定エリアを介して対向して配置された第1磁極及び第2磁極に導かれる。これにより、測定エリアにおいて、第1磁極と第2磁極との間に静磁場が形成される。このように、この脳計測装置では、測定エリアを挟むように配置された一対の磁極を用いて静磁場を形成する。このため、この脳計測装置では、低消費電力化が可能となる。
【0009】
本開示に係る脳計測装置では、第1保持部材は、第1磁極と第2磁極とが対向する第1方向に沿って延びる第1本体部と、第1本体部の一端から第1方向に交差する第2方向に沿って延びる第1延在部と、第1本体部の他端から第2方向に沿って延びる第2延在部と、を含み、第1磁極は、第1延在部に接続されて保持され、第2磁極は、第2延在部に接続されて保持され、第1コイルは、第1本体部に巻き付けられて設けられていてもよい。このように、第1保持部材の第1本体部の両端から一方向に沿って延びる第1延在部及び第2延在部のそれぞれに第1磁極及び第2磁極のそれぞれを接続し、第1本体部に第1コイルを設けて第1磁極及び第2磁極のそれぞれに磁束を導くようにすれば、測定エリアに対してより一様な(均一な)静磁場を形成できる。
【0010】
本開示に係る脳計測装置では、第1コイルは、第1方向における第1磁極と第2磁極との中間点を通る線であって第2方向に沿った基準線に対して対称となるように、第1本体部に設けられていてもよい。この場合、第1コイルから第1磁極及び第2磁極のそれぞれに至る経路長が揃えられるので、測定エリアに形成される静磁場の一様性(均一性)がより向上される。
【0011】
本開示に係る脳計測装置では、第1延在部は、当該第1延在部の第1本体部と反対側の端部において第2磁極に向けて屈曲する第1屈曲部を含み、第2延在部は、当該第2延在部の第1本体部と反対側の端部において第1磁極に向けて屈曲する第2屈曲部を含み、第1磁極は、第1方向からみて円形状を呈しており、且つ、当該円形状の中心において第1屈曲部の先端に接続されて保持されており、第2磁極は、第1方向からみて円形状を呈しており、且つ、当該円形状の中心において第2屈曲部の先端に接続されて保持されていてもよい。この場合、第1コイルからの磁束が、第1磁極及び第2磁極のそれぞれの中心に導かれるので、測定エリアに形成される静磁場の一様性がより向上される。
【0012】
本開示に係る脳計測装置では、第1延在部及び第2延在部は、第2方向に沿って直線状に延在しており、第1磁極は、当該第1磁極の1延在部側の外縁において前第1延在部の先端に接続されて保持されており、第2磁極は、当該第2磁極の第2延在部側の外縁おいて第2延在部の先端に接続されて保持されていてもよい。この場合、第1コイルから第1磁極及び第2磁極のそれぞれに至る磁路をより短く構成できるので、測定エリアに形成される静磁場の磁場強度を向上させることが可能となる。
【0013】
本開示に係る脳計測装置では、静磁場形成部は、磁束を発生させるための第2コイルと、第2コイルで発生した磁束を第1磁極及び第2磁極のそれぞれに導くための磁路が形成される第2保持部材と、を備え、第2保持部材は、第1方向に沿って延びる第2本体部と、第2本体部の一端から第2方向に沿って直線状に延びる第3延在部と、第2本体部の他端から第2方向に沿って直線状に延びる第4延在部と、を含み、第1磁極の第3延在部側の外縁には、第3延在部の先端が接続され、第2磁極の第4延在部側の外縁には、第4延在部の先端が接続され、第2コイルは、第2本体部に巻き付けられて設けられていてもよい。この場合、第1磁極及び第2磁極の両側にコイルが配置され、それぞれのコイルから第1磁極及び第2磁極に磁束が導かれるので、測定エリアに形成される静磁場の一様性がより向上される。
【0014】
本開示に係る脳計測装置では、第1磁極と第2磁極との対向方向からみたときの第1磁極の大きさ、及び第2磁極の大きさは、第1磁極と第2磁極との間隔よりも大きくてもよい。この場合、第1磁極と第2磁極との間にエリアのうち、より一様な静磁場が形成された中心側のエリアを選択的に使用することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、低消費電力化を可能とする脳計測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る脳計測装置を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示されるOPMモジュールの構成の具体例を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1に示された静磁場形成部を示す側面図である。
【
図4】
図4は、静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
【
図5】
図5は、静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
【
図6】
図6は、静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る脳計測方法の一工程を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、一実施形態に係る脳計測方法の一工程を示すフローチャートである。
【
図9】
図9は、変形例に係る静磁場形成部を示す側面図である。
【
図10】
図10は、
図9に示された静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
【
図11】
図11は、
図9に示された静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
【
図12】
図12は、別の変形例に係る静磁場形成部を示す側面図である。
【
図13】
図13、
図12に示された静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
【
図14】
図14、
図12に示された静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一実施形態に係る脳計測装置及び脳計測方法について図面を参照しつつ説明する。各図の説明において、同一の要素や相当する要素には、互いに同一の符号を付し重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及び、Z軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。以下の説明においては、被験者の頭部の中心軸におおよそ平行な向きをZ軸方向とし、Z軸に垂直な方向であって、互いに垂直な方向をX軸方向及びY軸方向とする。
【0018】
図1は、一実施形態に係る脳計測装置を示す模式図である。
図1に示されるように、脳計測装置M1は、被験者の脳における神経活動に伴って発生する磁場発生源を等価電流ダイポールモーメントベクトルと仮定して、その位置と方向を取得すると共に、被験者のMRI(magnetic resonance imaging)を取得するための装置である。脳計測装置M1は、複数のOPM(optically pumped magnetometer)モジュール1、複数の地磁気磁場補正用磁気センサ2、複数のアクティブシールド用磁気センサ3、非磁性フレーム4、一対の勾配磁場補正コイル8(地磁気磁場補正コイル)、一対のアクティブシールドコイル9、静磁場形成部50、送信コイル21、受信コイル22(検出コイル)、OPMモジュール23、及び、出力コイル24を備える。さらに、脳計測装置M1は、制御装置(生成部)5と、コイル電源6と、ポンプレーザ10と、プローブレーザ11と、アンプ12A,12Bと、ヒータコントローラ13と、電磁シールド14と、送信コイルコントローラ15と、電源部100と、を備える。
【0019】
OPMモジュール1は、光励起磁気センサ1Aと、断熱材1Bと、読み出し回路1Cと、を有する。複数のOPMモジュール1は、例えば頭皮に沿って所定の間隔で配置される。光励起磁気センサ1Aは、光ポンピングを利用して脳磁場を計測するセンサであり、例えば10fT~10pT程度の感度を有する。断熱材1Bは、光励起磁気センサ1Aの熱移動及び熱伝達を防止する。読み出し回路1Cは、光励起磁気センサ1Aの検出結果を取得する回路である。光励起磁気センサ1Aは、アルカリ金属蒸気を封入したセルにポンプ光を照射することによって、アルカリ金属を励起状態とする。
【0020】
励起状態のアルカリ金属はスピン偏極状態にあり、磁気を受けると、磁気に応じてアルカリ金属原子の電子スピン偏極軸の傾きが変化する。この電子スピン偏極軸の傾きは、ポンプ光とは別に照射されるプローブ光によって検出される。なお、光励起磁気センサ1Aは、0~200Hzの範囲に含まれる周波数の磁場に感度を有るようにポンプ光の照射方向に所定のバイアス磁場が印加されるように構成される。読み出し回路1Cは、アルカリ金属蒸気を通過したプローブ光をフォトダイオードによって受光し、検出結果を取得する。読み出し回路1Cは、検出結果をアンプ12Aに出力する。
【0021】
光励起磁気センサ1Aは、例えば軸型グラジオメータ(Gradiometer)としてもよい。軸型グラジオメータは、被験者の頭皮(計測箇所)に対し垂直な方向且つ同軸上に計測領域及び参照領域を有する。計測領域とは、例えば、軸型グラジオメータが脳磁場を計測する箇所のうち、被験者の頭皮に最も近接する箇所である。参照領域とは、例えば、軸型グラジオメータが脳磁場を計測する箇所のうち、被験者の頭皮から離れた方向に対し、計測領域から所定の距離(例えば3cm)の箇所である。
【0022】
軸型グラジオメータは、計測領域及び参照領域において計測したそれぞれの結果をアンプ12Aに出力する。ここで、コモンモードノイズが含まれる場合には、その影響が計測領域の出力結果及び参照領域の出力結果のそれぞれに示される。コモンモードノイズは、計測領域の出力結果及び参照領域の出力結果の差分を取得することによって除去される。コモンモードノイズを除去することにより、例えば1pTの磁気ノイズ環境下で計測した場合、光励起磁気センサ1Aは10fT/√Hz程度の感度を得ることができる。
【0023】
地磁気磁場補正用磁気センサ2は、光励起磁気センサ1Aに対応する位置において、地磁気に係る磁場を計測するセンサであり、例えば1nT~100μT程度の感度を有するフラックスゲートセンサにより構成される。光励起磁気センサ1Aに対応する位置とは、光励起磁気センサ1Aが配置された領域の周辺(近傍)の位置である。地磁気磁場補正用磁気センサ2は、光励起磁気センサ1Aに一対一で対応して設けられていてもよいし、一対多(複数の光励起磁気センサ1Aに対して1台の地磁気磁場補正用磁気センサ2)で対応して設けられていてもよい。
【0024】
地磁気磁場補正用磁気センサ2は、地磁気に係る磁場として例えば地磁気及び地磁気の勾配磁場(以下、単に「勾配磁場」という場合がある)を計測し、計測値を制御装置5に出力する。地磁気磁場補正用磁気センサ2の計測値は、向き及び大きさを有するベクトルにより表され得る。地磁気磁場補正用磁気センサ2は、計測及び出力を、所定の時間間隔で継続して行ってもよい。
【0025】
アクティブシールド用磁気センサ3は、光励起磁気センサ1Aに対応する位置において、変動磁場を計測するセンサであり、例えば100fT~10nT程度の感度を有し、光励起磁気センサ1Aとは異なる光励起磁気センサにより構成される。光励起磁気センサ1Aに対応する位置とは、光励起磁気センサ1Aが配置された領域の周辺(近傍)の位置である。アクティブシールド用磁気センサ3は、光励起磁気センサ1Aに一対一で対応して設けられていてもよいし、一対多(複数の光励起磁気センサ1Aに対して1台のアクティブシールド用磁気センサ3)で対応して設けられていてもよい。
【0026】
アクティブシールド用磁気センサ3は、変動磁場として例えば200Hz以下のノイズ(交流)成分の磁場を計測し、計測値を制御装置5に出力する。アクティブシールド用磁気センサ3の計測値は、向き及び大きさを有するベクトルにより表され得る。アクティブシールド用磁気センサ3は、計測及び出力を、所定の時間間隔で継続して行ってもよい。
【0027】
非磁性フレーム4は、脳磁場の計測対象である被験者の頭皮の全域を覆うフレームであり、グラファイト等の比透磁率が1に近く磁場分布を乱さない非磁性体材料により構成される。非磁性フレーム4は、例えば被験者の頭皮の全域を囲み、被験者の頭部に装着されるヘルメット型のフレームとすることができる。非磁性フレーム4には、被験者の頭皮に近接するように複数の光励起磁気センサ1Aが固定されている。さらに、非磁性フレーム4には、複数の光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置における地磁気に係る磁場を計測可能なように地磁気磁場補正用磁気センサ2が固定され、複数の光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置における変動磁場を計測可能なようにアクティブシールド用磁気センサ3が固定されている。
【0028】
変動磁場は位置による磁場強度のばらつきが静磁場よりも少ないため、非磁性フレーム4には地磁気磁場補正用磁気センサ2の数よりもアクティブシールド用磁気センサ3の数が少なくなるように固定されていてもよい。加えて、非磁性フレーム4内の複数の光励起磁気センサ1Aの被験者の頭皮側には、MR画像計測のために核磁気共鳴信号を検出するための受信コイル22が固定されている。この受信コイル22は、後述するプロトンの核磁気共鳴信号を検出して電流に変換する。核磁気共鳴信号の検出感度を向上させるためには、受信コイル22は、光励起磁気センサ1Aの被験者の頭部の頭皮に近い側に設けられることが好ましい。
【0029】
送信コイル21は、MRI計測時に、被験者の頭部に、所定周波数(例えば、約300kHz)のRFパルス(送信パルス)を照射するコイルである。この送信コイル21は、例えば、非磁性フレーム4の外部の被験者の頭部の上方に配置される。出力コイル24は、受信コイル22の両端にケーブルを介して電気的に接続され、受信コイル22の両端を流れる電流を受けて、その電流を再び磁気信号に変換して出力する。
【0030】
OPMモジュール23は、OPMモジュール1と同様に、光励起磁気センサ23Aと、断熱材23Bと、読み出し回路23Cと、を有する。OPMモジュール23は、例えば、非磁性フレーム4の外部において、出力コイル24と共に、後述する静磁場を遮蔽する磁気シールド25内に収納されて配置される。磁気シールド25は、比透磁率が1より大きな例えばミューメタル等により構成される。
【0031】
光励起磁気センサ23Aは、光ポンピングを利用して磁気信号を計測するセンサである。なお、光励起磁気センサ23Aは、20kHz~500kHzの範囲に含まれる周波数の磁場に感度を有るようにポンプ光の照射方向に所定のバイアス磁場が印加されるように構成される。例えば、プロトンが発する電磁波の300kHzの周波数に感度を有するように約40μTのバイアス磁場が印加される。読み出し回路23Cは、光励起磁気センサ23Aによる検出結果をアンプ12Bに出力する。
【0032】
図2は、
図1に示されるOPMモジュールの構成の具体例を示す図である。
図2に示されるように、光励起磁気センサ23Aは、計測する磁場によって偏極の方向が変化するアルカリ金属を含むガスが封入された長手状のセル26と、セル26の全体を所定温度(例えば、180度)に加熱するヒータ27と、偏光ビームスプリッタ28と、光検出器29とを含む。このセル26には、その内部の長手方向に沿って、外部からポンプ光L1が導入されるとともに、長手方向に垂直な方向に沿って、その長手方向において複数に分割(例えば、四分割)された交差領域26Aのそれぞれに対して、外部からのプローブ光L2が分岐されて照射される。
【0033】
これらの交差領域26Aを透過したプローブ光L2は、それぞれの交差領域26Aに対応して設けられた偏光ビームスプリッタ28及び光検出器29によって、その磁気旋光角度が検出される。すなわち、偏光ビームスプリッタ28は、プローブ光L2を互いに直交する2つの直線偏光成分に分離し、光検出器29は、内蔵する2つのPD(フォトダイオード)を用いて2つの直線偏光成分の強度を検出し、検出した強度の比を基にプローブ光L2の磁気旋光角度を検出する。OPMモジュール23には、回路ボード30がさらに設けられており、この回路ボード30内の読み出し回路23Cを経由して、それぞれの交差領域26Aごとに検出したプローブ光L2の磁気旋光角度を出力する。
【0034】
出力コイル24は、磁気シールド25内において、上記のような構成のOPMモジュール23のセル26の各交差領域26Aに対向するように固定される。このような構成により、受信コイル22によって検出される電磁場B
OUTを基に出力コイル24によって生成される磁気信号B
OUTが、アルカリ金属原子の電子スピン偏極軸の傾きに応じて変化するプローブ光L2の磁気旋光角度を基に検出される。ここで、
図2の例では、交差領域26Aの分割数が4つとされているが、任意の数に変更されてよい。また、セル26が並列に複数個設けられて、交差領域26Aが2次元的に配列されて(例えば、4×4=16個で)設けられてもよい。
【0035】
制御装置5は、脳磁場の計測時には、地磁気磁場補正用磁気センサ2及びアクティブシールド用磁気センサ3から出力された計測値に基づいて、各種コイルに対する電流を決定し、電流を出力するための制御信号をコイル電源6及び電源部100に出力する。制御装置5は、複数の地磁気磁場補正用磁気センサ2の計測値に基づいて、地磁気に係る磁場を打ち消す磁場を発生させるように、静磁場形成部50及び勾配磁場補正コイル8に対する電流を決定する。なお、静磁場形成部50の詳細については後述する。また、制御装置5は、複数のアクティブシールド用磁気センサ3の計測値に基づいて、変動磁場を打ち消す磁場を発生させるようにアクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。制御装置5は、決定した電流に応じた制御信号をコイル電源6に出力する。
【0036】
具体的には、制御装置5は、複数の地磁気磁場補正用磁気センサ2の計測値の平均値がゼロに近似するように(結果として、光励起磁気センサ1Aの位置における地磁気に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場が発生するように)、静磁場形成部50に対する電流を決定する。制御装置5は、決定した静磁場形成部50の電流に応じた制御信号(静磁場補正用制御信号)を電源部100に出力する。
【0037】
また、制御装置5は、複数の地磁気磁場補正用磁気センサ2の計測値の平均値からの偏差が最小になるように(結果として、光励起磁気センサ1Aの位置における勾配磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場が発生するように)、勾配磁場補正コイル8に対する電流を決定する。制御装置5は、決定した勾配磁場補正コイル8の電流に応じた制御信号(静磁場補正用制御信号)をコイル電源6に出力する。
【0038】
さらに、制御装置5は、複数のアクティブシールド用磁気センサ3の計測値の平均値が0に近似するように(結果として、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場が発生するように)、アクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。制御装置5は、決定したアクティブシールドコイル9の電流に応じた制御信号(変動磁場補正用制御信号)をコイル電源6に出力する。
【0039】
また、制御装置5は、アンプ12Aから出力された信号を利用して、光励起磁気センサ1Aが検出した磁気に関する情報を得る。光励起磁気センサ1Aが軸型グラジオメータである場合、制御装置5は、計測領域の出力結果及び参照領域の出力結果の差分を取得することによって、コモンモードノイズを除去してもよい。なお、制御装置5は、ポンプレーザ10及びプローブレーザ11の照射タイミング、照射時間等の動作を制御してもよい。
【0040】
また、制御装置5は、MR画像の計測時には、静磁場及び傾斜磁場の印加用のコイルとしてそれぞれ動作する静磁場形成部50及び勾配磁場補正コイル8に供給する電流を決定し、電流を出力するための制御信号をコイル電源6及び電源部100に出力する。すなわち、制御装置5は、静磁場として、被験者の頭部に所定の強度(例えば、7mT)のX軸方向の磁場を印加するように、静磁場形成部50に流す電流を決定する。また、制御装置5は、傾斜磁場として、X軸方向磁場勾配(dBX/dX)、Y軸方向磁場勾配(dBX/dY)、及びZ軸方向磁場勾配(dBX/dZ)を選択的に決定し、勾配磁場補正コイル8に流す電流を決定する。これによって、MR画像においてスライスする位置を決定し、位相エンコードおよび周波数エンコードによりスライス面内の位置のエンコードをすることができる。なお、制御装置5は、MR画像の計測時には、低周波のノイズを除去するアクティブシールドコイル9には電流を供給しないように、制御信号を出力する。
【0041】
さらに、制御装置5は、MR画像の計測時には、送信コイルコントローラ15に対して、送信コイル21に供給する電力を制御する制御信号を出力することによって、所定の周波数(例えば、静磁場の強度が7mTの場合は約300kHz)の送信パルスを被験者の頭部に照射するように制御する。その結果、スライス面(静磁場及び傾斜磁場によって選択された面)のプロトンが共鳴してスピンが傾く。その後、制御装置5は、送信コイル21の電力をオフに制御する。これにより、OPMモジュール23の出力を基に、スピンが戻る様子を計測することでMR画像を取得することができる。より具体的には、制御装置5は、公知のスピンエコーシーケンスあるいはグラディエントエコーシーケンスなどを用いて、周波数と位相で位置をエンコードしてプロトンからの核磁気共鳴信号を計測し、その計測結果を、FFTを用いてMR画像に変換する。
【0042】
制御装置5は、物理的には、RAM、ROM等のメモリ、CPU等のプロセッサ(演算回路)、通信インターフェイス、ハードディスク等の格納部を備えて構成されている。かかる制御装置5としては、例えばパーソナルコンピュータ、クラウドサーバ、スマートフォン、タブレット端末などが挙げられる。制御装置5は、メモリに格納されるプログラムをコンピュータシステムのCPUで実行することにより機能する。
【0043】
コイル電源6は、制御装置5から出力された制御信号に応じて、所定の電流を勾配磁場補正コイル8、及びアクティブシールドコイル9のそれぞれに出力する。また、電源部100は、静磁場形成部50に係る制御信号に応じて、静磁場形成部50に電流を出力する。また、コイル電源6は、勾配磁場補正コイル8に係る制御信号に応じて、勾配磁場補正コイル8に電流を出力する。さらに、コイル電源6は、アクティブシールドコイル9に係る制御信号に応じて、アクティブシールドコイル9に電流を出力する。
【0044】
送信コイルコントローラ15は、送信コイル21に電気的に接続され、制御装置5から出力された制御信号に応じて、所定周波数の送信パルスを照射するように送信コイル21に電力を供給する。
【0045】
静磁場形成部50は、光励起磁気センサ1Aの位置における地磁気に係る磁場のうち、地磁気の磁場を補正するための構成でもある。静磁場形成部50は、電源部100から供給される電流に応じて磁場を発生させて、地磁気のキャンセリングを行う。静磁場形成部50は、詳しくは後述するが、ここでは、一対の第1磁極51及び第2磁極52を有する。一対の第1磁極51及び第2磁極52は、光励起磁気センサ1Aを挟むように(例えば被験者の左右に)配置される。一対の第1磁極51及び第2磁極52は、電源部100から供給される電流に応じて、光励起磁気センサ1Aの位置における地磁気に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させる。磁場の方向は、例えば、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向である。光励起磁気センサ1Aの位置における地磁気は、第1磁極51及び第2磁極52により発生する逆向きで同程度の大きさの磁場によって打ち消される。
【0046】
このようにして、静磁場形成部50は、光励起磁気センサ1Aの位置における地磁気を補正することもできる。また、静磁場形成部50は、MR画像計測時にX軸方向の静磁場を発生させる役割を有する。静磁場形成部50は、電源部100から供給される電流に応じて所定の強度の静磁場を発生させる。
【0047】
勾配磁場補正コイル8は、光励起磁気センサ1Aの位置における地磁気に係る磁場のうち、勾配磁場を補正するためのコイルである。勾配磁場補正コイル8は、コイル電源6から供給される電流に応じて磁場を発生させて、勾配磁場のキャンセリングを行う。勾配磁場補正コイル8は、例えば、一対の勾配磁場補正コイル8A及び8Bを有する。一対の勾配磁場補正コイル8A及び8Bは、光励起磁気センサ1Aを挟むように(例えば被験者の左右に)配置される。一対の勾配磁場補正コイル8A及び8Bは、コイル電源6から供給される電流に応じて、光励起磁気センサ1Aの位置における勾配磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させる。磁場の方向は、例えば、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向である。光励起磁気センサ1Aの位置における勾配磁場は、勾配磁場補正コイル8により発生する逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。
【0048】
このようにして、勾配磁場補正コイル8は、光励起磁気センサ1Aの位置における勾配磁場を補正する。また、勾配磁場補正コイル8は、MR画像計測時に傾斜磁場を発生させるための傾斜磁場コイルとしての役割を有する。勾配磁場補正コイル8は、コイル電源6から供給される電流に応じて、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向に選択的な勾配を有する傾斜磁場を発生させる。
【0049】
アクティブシールドコイル9は、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場を補正するためのコイルである。アクティブシールドコイル9は、コイル電源6から供給される電流に応じて磁場を発生させて、変動磁場のキャンセリングを行う。アクティブシールドコイル9は、例えば、一対のアクティブシールドコイル9A及び9Bを有する。一対のアクティブシールドコイル9A及び9Bは、光励起磁気センサ1Aを挟むように(例えば被験者の左右に)配置される。一対のアクティブシールドコイル9A及び9Bは、コイル電源6から供給される電流に応じて、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させる。磁場の方向は、例えば、例えば、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向である。光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場は、アクティブシールドコイル9により発生する逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。このようにして、アクティブシールドコイル9は、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場を補正する。
【0050】
ポンプレーザ10は、ポンプ光を生成するレーザ装置である。ポンプレーザ10から出射されたポンプ光は、ファイバ分岐により、複数の光励起磁気センサ1A、及び光励起磁気センサ23Aのそれぞれに入射する。プローブレーザ11は、プローブ光を生成するレーザ装置である。プローブレーザ11から出射されたプローブ光は、ファイバ分岐により、複数の光励起磁気センサ1A、及び光励起磁気センサ23Aのそれぞれに入射する。
【0051】
アンプ12Aは、OPMモジュール1(具体的には、読み出し回路1C)からの出力結果の信号を増幅して、制御装置5に出力する機器又は回路である。アンプ12Bは、OPMモジュール23(具体的には、読み出し回路23C)からの出力結果の信号を増幅して、制御装置5に出力する機器又は回路である。
【0052】
ヒータコントローラ13は、光励起磁気センサ1Aのセル及び光励起磁気センサ23Aのセルを加熱するためのヒータ、及びそれぞれのセルの温度を計測する熱電対(不図示)と接続される調温装置である。ヒータコントローラ13は、熱電対からセルの温度情報を受信し、当該温度情報に基づいてヒータの加熱を調整することにより、セルの温度を調整する。
【0053】
電磁シールド14は、高周波数(例えば、10kHz以上)の電磁ノイズを遮蔽するシールド部材であり、例えば金属糸を編み込んだメッシュ、又はアルミニウム等の非磁性金属板等により構成される。電磁シールド14は、OPMモジュール1,23、送信コイル21、受信コイル22、出力コイル24、地磁気磁場補正用磁気センサ2、アクティブシールド用磁気センサ3、非磁性フレーム4、静磁場形成部50、勾配磁場補正コイル8、及びアクティブシールドコイル9を囲むように配置される。この電磁シールド14により、MR画像計測時に、計測周波数である300kHz帯のノイズが受信コイル22に入射しノイズが上昇することを防ぐことができる。また、脳磁場計測時に、高周波ノイズが光励起磁気センサ1Aに入射して動作が不安定になることを防ぐことができる。
【0054】
引き続いて、静磁場形成部50の詳細について説明する。
図3は、
図1に示された静磁場形成部を示す側面図である。
図3に示されるように、静磁場形成部50は、第1磁極51、第2磁極52、第1コイル53、及び、第1保持部材54を有する。第1磁極51と第2磁極52とは、ここではX軸方向に沿って互いに離間し、且つ、対向して配置されている。これにより、MR画像計測時に、第1磁極51と第2磁極52との間に静磁場が形成される。したがって、第1磁極51と第2磁極52との間のエリアが測定エリアARである。換言すれば、第1磁極51と第2磁極52とは、この測定エリアARを介して互いに対向するように配置されている。
【0055】
図1を参照すると、少なくともY方向からみたとき、勾配磁場補正コイル8及びアクティブシールドコイル9は、第1磁極51と第2磁極52との間に配置されている。したがって、静磁場形成部50が測定エリアARに静磁場を形成するためのものである一方で、勾配磁場補正コイル8は、MR画像計測時に、測定エリアARに傾斜磁場を形成するための傾斜磁場コイルでもある。また、送信コイル21は、測定エリアARに臨むように配置され、MR画像計測時に、測定エリアAR中の被験者に向けて送信パルスを送信するためのものである。そして、受信コイル22は、MR画像計測時に、送信パルスの送信によって被験者で生じた核磁気共鳴信号を検出するためのものである。さらに、制御装置(生成部)5は、受信コイル22が検出した核磁気共鳴信号に基づいてMR画像を生成する。
【0056】
引き続いて
図3を参照する。第1コイル53は、電源部100からの電力の供給を受けて磁束を発生させる。第1コイル53は、第1保持部材54に巻き付けられて設けられている。第1保持部材54は、第1磁極51と第2磁極52とを保持しており、第1コイル53で発生した磁束を第1磁極51及び第2磁極52のそれぞれに導くための磁路を形成する。これにより、第1磁極51と第2磁極52との間(測定エリアAR)に磁場が生じる。
【0057】
第1保持部材54は、第1磁極51と第2磁極52とが対向するX軸方向(第1方向)に沿って延びる第1本体部55と、第1本体部55の一端からX軸方向に交差するZ方向(第2方向)に沿って延びる第1延在部56と、第1本体部55の他端からY軸方向に沿って延びる第2延在部57とを含む。一例として、第1延在部56と第2延在部57とは互いに略平行である。第1磁極51は、第1延在部56に接続されて保持されており、第2磁極52は、第2延在部57に接続されて保持されている。
【0058】
より具体的には、第1延在部56は、当該第1延在部56の第1本体部55と反対側の端部において第2磁極52に向けて屈曲する第1屈曲部58を含み、第2延在部57は、当該第2延在部57の第1本体部55と反対側の端部において第1磁極に向けて屈曲する第2屈曲部59を含む。これにより、第1保持部材54は、全体として略C字状に構成されている。そして、第1磁極51は、第1屈曲部58の先端に接続されて保持され、第2磁極52は、第2屈曲部59の先端に接続されて保持されている。
【0059】
特に、ここでは、第1磁極51及び第2磁極52は、それぞれ、円板状を呈しており、その円形状の略中心において、第1屈曲部58及び第2屈曲部59のそれぞれに接続されている。したがって、第1磁極51と第2磁極52との間に形成される測定エリアARは、例えば概ね円柱状に形成され得る。第1保持部材54は、一例として断面円形の棒状を呈している。第1磁極51、第2磁極52、及び第1保持部材54は、透磁率が高く磁束を通しやすい磁性体(例えばスチール)より中実状に形成されている。
【0060】
第1コイル53は、ここでは、1つであり、第1本体部55の中心に設けられている。ただし、第1コイル53は、複数であってもよく、その場合、X軸方向における第1磁極51と第2磁極52との中間点を通る線であってZ方向に沿った基準線に対して対称となるように第1本体部55に設けられていればよい。第1コイル53のターン数は、例えば1000Turnであり、3A程度の電流が流される。この場合、消費電力は50W程度となり得る。
【0061】
ここで、第1磁極51と第2磁極52との対向方向(X軸方向)からみたときの第1磁極51の大きさ、及び第2磁極52の大きは、第1磁極51と第2磁極52との間隔Daよりも大きい。一例として、第1磁極51と第2磁極52との間隔Daは300mm程度であり、第1磁極51及び第2磁極52の直径φaは600mm程度である。すなわち、この例では、第1磁極51及び第2磁極52の大きさは、第1磁極51と第2磁極52との間隔Daの2倍程度である。なお、第1磁極51及び第2磁極52の厚さTは、例えば75mm程度で均一である。ただし、第1磁極51及び第2磁極52の厚さTは、均一でなくてもよい。一例として、第1磁極51及び第2磁極52は、周縁部近傍において相対的に厚くなるように形成されてもよい。この場合、周縁部近傍における静磁場の一様性の低下が抑制され、測定エリアARに形成される静磁場の一様性がさらに向上される。また、この例では、第1磁極51と第2磁極52とは同形状である。
【0062】
第1保持部材54の直径φbは、例えば50mm~100mm程度であり、一例として75mm程度である。第1延在部56及び第2延在部57の長さLaは、例えば600mm程度である。また、X軸方向に沿った第1延在部56と第2延在部57との間隔Dbは、600mm程度である。したがって、第1延在部56及び第2延在部57の長さLaと、第1磁極51及び第2磁極52の直径φaと、第1延在部56と第2延在部57との間隔Dbとは、それぞれ、互いに同程度とされ得る。なお、第1本体部55における第1コイル53が設けられた範囲の長さLbは、例えば150mm程度である。
【0063】
引き続いて、以上のように構成される静磁場形成部50により形成される磁場について説明する。
図4は、静磁場形成部により形成される磁場による測定エリアの磁束密度分布を示すグラフである。
図4の(a)では、横軸がX軸方向の位置とされており、
図4の(b)では、横軸がZ軸方向の位置とされている。いずれも中心が0である。したがって、
図4の(a),(b)のいずれであっても、0mmから±150mmの範囲は、第1磁極51及び第2磁極52の円形の中心から径方向に150mm程度の範囲に相当する。
【0064】
図4に示されるように、以上のように構成される静磁場形成部50によれば、第1保持部材54の直径φbが50mmである場合には3mT程度、直径φbが75mmの場合には6.5mT~7mT程度、直径φbが100mmの場合には9mT程度で、XZ面内で均一な磁束密度分布が得られることが理解される。特に、
図5及び
図6に示されるように、第1保持部材54の直径φbが75mmである場合には、測定エリアRAにおいて、XZ面内の少なくともφ200mm程度の範囲において、6.7mTでほぼ一様な磁束密度分布が得られることが理解される。
【0065】
引き続いて、
図7及び
図8を参照し、実施形態に係る脳計測方法について説明する。
図7及び
図8は、一実施形態に係る脳計測方法の一工程を示すフローチャートである。
【0066】
まず、非磁性フレーム4を被験者に装着させた状態で脳磁場の計測が開始されると、地磁気磁場補正用磁気センサ2は、静磁場である、地磁気に係る磁場を計測する(ステップS11)。地磁気磁場補正用磁気センサ2は、光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置において、地磁気及び勾配磁場を計測し、計測値を制御装置5に出力する。
【0067】
制御装置5及びコイル電源6は、静磁場形成部50に対する電流を制御する(ステップS12)。制御装置5は、地磁気磁場補正用磁気センサ2の計測値に基づいて、光励起磁気センサ1Aの位置における地磁気に対し逆向き且つ同程度の磁場を発生させるように、静磁場形成部50(すなわち第1コイル53)に対する電流を決定する。より具体的には、制御装置5は、例えば複数の地磁気磁場補正用磁気センサ2の計測値の平均値がゼロに近似するように、静磁場形成部50に対する電流を決定する。制御装置5は、決定した電流に応じた制御信号を電源部100に出力する。電源部100は、制御装置5により出力された制御信号に応じて、所定の電流を第1コイル53に出力する。第1コイル53は、電源部100から供給される電流に応じて磁束を発生させる。第1コイル53で発生させられた磁束は、第1保持部材54によって第1磁極51及び第2磁極52に導かれる。これにより、第1磁極51と第2磁極52との間に磁場が生じさせられる。光励起磁気センサ1Aの位置における地磁気は、第1コイル53により発生する、逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。このように、静磁場形成部50は、地磁気に係る磁場を補正するための地磁気磁場補正コイルとしても機能する。
【0068】
制御装置5及びコイル電源6は、勾配磁場補正コイル8に対する電流を制御する(ステップS13)。制御装置5は、地磁気磁場補正用磁気センサ2の計測値に基づいて、光励起磁気センサ1Aの位置における勾配磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させるように、勾配磁場補正コイル8に対する電流を決定する。より具体的には、制御装置5は、例えば複数の地磁気磁場補正用磁気センサ2の計測値の平均値からの偏差が最小になるように、勾配磁場補正コイル8に対する電流を決定する。制御装置5は、決定した電流に応じた制御信号をコイル電源6に出力する。コイル電源6は、制御装置5により出力された制御信号に応じて、所定の電流を勾配磁場補正コイル8に出力する。勾配磁場補正コイル8は、コイル電源6から供給される電流に応じて磁場を発生させる。光励起磁気センサ1Aの位置における勾配磁場は、勾配磁場補正コイル8により発生する逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。
【0069】
制御装置5は、補正後の静磁場(地磁気に係る磁場)の計測値が基準値以下であるかどうかを判定する(ステップS14)。補正後の静磁場の計測値とは、静磁場形成部50及び勾配磁場補正コイル8によって静磁場が補正された後、地磁気磁場補正用磁気センサ2により計測された値である。基準値は、光励起磁気センサ1Aが正常に動作する磁場の大きさであり、例えば1nTとすることができる。静磁場の計測値が基準値以下ではない場合(ステップS14において「NO」)、ステップS11に戻る。静磁場の計測値が基準値以下である場合(ステップS14において「YES」)、ステップS15に進む。
【0070】
アクティブシールド用磁気センサ3は、変動磁場を計測する(ステップS15)。アクティブシールド用磁気センサ3は、光励起磁気センサ1Aのそれぞれの位置において、変動磁場を計測し、計測値を制御装置5に出力する。
【0071】
制御装置5及びコイル電源6は、アクティブシールドコイル9に対する電流を制御する(ステップS16)。制御装置5は、アクティブシールド用磁気センサ3の計測値に基づいて、光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場に対し逆向き且つ同程度の大きさの磁場を発生させるように、アクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。より具体的には、制御装置5は、例えば複数のアクティブシールド用磁気センサ3の計測値の平均値がゼロに近似するように、アクティブシールドコイル9に対する電流を決定する。制御装置5は、決定した電流に応じた制御信号をコイル電源6に出力する。コイル電源6は、制御装置5により出力された制御信号に応じて、所定の電流をアクティブシールドコイル9に出力する。アクティブシールドコイル9は、コイル電源6から供給される電流に応じて磁場を発生させる。光励起磁気センサ1Aの位置における変動磁場は、アクティブシールドコイル9により発生する逆向き且つ同程度の大きさの磁場によって打ち消される。
【0072】
制御装置5は、補正後の変動磁場の計測値が基準値以下であるかどうかを判定する(ステップS17)。補正後の変動磁場の計測値とは、アクティブシールドコイル9によって変動磁場が補正された後、アクティブシールド用磁気センサ3によって計測された値である。基準値は、脳磁場を計測することができるノイズレベルであり、例えば1pTとすることができる。変動磁場の計測値が基準値以下ではない場合(ステップS17において「NO」)、ステップS15に戻る。変動磁場の計測値が基準値以下である場合(ステップS17において「YES」)、ステップS18に進む。
【0073】
光励起磁気センサ1Aは、脳磁場を計測する(ステップS18)。制御装置5は、取得した計測結果を所定の出力先に出力する。所定の出力先とは、制御装置5のメモリ、ハードディスク等の格納装置、ディスプレイ等の出力装置のほか、通信インターフェイスを介して接続された端末装置等の外部装置であってもよい。ここまでに光励起磁気センサ1Aの位置における静磁場(地磁気に係る磁場)及び変動磁場が所定の基準値以下になるように打ち消されているため、光励起磁気センサ1Aは、静磁場(地磁気に係る磁場)の影響及び変動磁場の影響を避けた状態で脳磁場を計測することができる。このように、制御装置5は、光励起磁気センサ1Aによる脳磁場の検出結果に基づいて、被験者の脳磁場分布を生成するための生成部でもある。
【0074】
図8に移って、非磁性フレーム4を被験者に装着させたままの状態で引き続きMR画像の計測が開始されると、制御装置5は、静磁場の印加用の静磁場形成部50(すなわち第1コイル53)に供給する電流を決定し、制御信号を電源部100に出力することにより被験者の頭部におけるX軸方向の静磁場の生成を制御する(ステップS19)。このように、静磁場形成部50は、静磁場を印加するための静磁場コイルとしても機能する。次に、制御装置5は、傾斜磁場の生成用の勾配磁場補正コイル8に供給する電流を決定し、制御信号をコイル電源6に出力することによりX軸方向磁場勾配(dBx/dX)の生成を制御する(ステップS20)。同時に、制御装置5は、送信コイルコントローラ15に対して送信コイル21に供給する電力を制御する制御信号を出力して、送信パルスを被験者の頭部に照射させるように制御する(ステップS21)。これにより、所定のスライス面のプロトンが励起される。
【0075】
さらに、制御装置5は、傾斜磁場の生成用の勾配磁場補正コイル8に供給する電流を決定し、制御信号をコイル電源6に出力することにより、スライス面上におけるY軸方向磁場勾配(dBx/dY)の生成を制御する(ステップS22)。これにより、位相エンコードが行われる。そして、制御装置5は、傾斜磁場の生成用の勾配磁場補正コイル8に供給する電流を決定し、制御信号をコイル電源6に出力することにより、スライス面上におけるZ軸方向磁場勾配(dBx/dZ)の生成を制御する(ステップS23)。これにより、周波数エンコードが行われる。
【0076】
それと同時に、OPMモジュール23から、受信コイル22及び出力コイル24を介して、プロトンからの核磁気共鳴信号が出力され、それに伴って、制御装置5は、核磁気共鳴信号のデータを取得する(ステップS24)。その後、制御装置5は、他のスライス面に関する核磁気共鳴信号データを取得するかを判定する(ステップS25)。判定の結果、他のスライス面に関する核磁気共鳴信号データを取得する場合(ステップS25において「YES」)、ステップS20に処理を戻す。一方で、他のスライス面に関する核磁気共鳴信号データを取得しない場合(ステップS25において「NO」)、それまで取得した核磁気共鳴信号データをフーリエ変換することによりMR画像を取得する(ステップS26)。制御装置5は、取得したMR画像を所定の出力先に出力する。所定の出力先とは、制御装置5のメモリ、ハードディスク等の格納装置、ディスプレイ等の出力装置のほか、通信インターフェイスを介して接続された端末装置等の外部装置であってもよい。このように、制御装置5は、受信コイル22が検出した核磁気共鳴信号に基づいて被験者のMR画像を生成する生成部でもある。
【0077】
以上説明したように、脳計測装置M1では、測定エリアAR中の被験者のMR画像を生成するに際して、静磁場形成部50によって測定エリアARに静磁場が形成される。静磁場形成部50では、第1コイル53で発生した磁束が、第1保持部材54に形成された磁路によって、測定エリアARを介して対向配置された第1磁極51及び第2磁極52に導かれる。これにより、測定エリアARにおいて、第1磁極51と第2磁極52との間に静磁場が形成される。このように、この脳計測装置M1では、測定エリアARを挟むように配置された一対の第1磁極51及び第2磁極52を用いて静磁場が形成される。このため、脳計測装置M1では、例えば測定エリアARを囲むように空芯コイルを配置して静磁場を形成する場合と比較して、約99%の低消費電力化が可能となる。
【0078】
また、脳計測装置M1では、第1保持部材54は、第1磁極51と第2磁極52とが対向するX軸方向(第1方向)に沿って延びる第1本体部55と、第1本体部55の一端から第X軸方向に交差するZ軸方向(第2方向)に沿って延びる第1延在部56と、第1本体部55の他端からZ軸方向に沿って延びる第2延在部57と、を含む。第1磁極51は、第1延在部56に接続されて保持され、第2磁極52は、第2延在部57に接続されて保持されている。そして、第1コイル53は、第1本体部55に巻き付けられて設けられている。このように、第1保持部材54の第1本体部55の両端から一方向に沿って延びる第1延在部56及び第2延在部57のそれぞれに第1磁極51及び第2磁極52のそれぞれを接続し、第1本体部55に第1コイル53を設けて第1磁極51及び第2磁極52のそれぞれに磁束を導くようにすれば、測定エリアARに対してより一様な(均一な)静磁場を形成できる。
【0079】
また、脳計測装置M1では、第1コイル53は、X軸方向における第1磁極51と第2磁極52との中間点を通る線であってZ軸方向に沿った基準線に対して対称となるように、第1本体部55に設けられている。このため、第1コイル53から第1磁極51及び第2磁極52のそれぞれに至る経路長が揃えられるので、測定エリアARに形成される静磁場の一様性(均一性)がより向上される。
【0080】
また、脳計測装置M1では、第1延在部56は、当該第1延在部56の第1本体部55と反対側の端部において第2磁極52に向けて屈曲する第1屈曲部58を含み、第2延在部57は、当該第2延在部57の第1本体部55と反対側の端部において第1磁極51に向けて屈曲する第2屈曲部59を含む。そして、第1磁極51は、X軸方向からみて円形状を呈しており、且つ、当該円形状の中心において第1屈曲部58の先端に接続されて保持されている。さらに、第2磁極52は、X軸方向からみて円形状を呈しており、且つ、当該円形状の中心において第2屈曲部59の先端に接続されて保持されている。このため、第1コイル53からの磁束が、第1磁極51及び第2磁極52のそれぞれの中心に導かれるので、測定エリアARに形成される静磁場の一様性がより向上される。
【0081】
さらに、脳計測装置M1では、第1磁極51と第2磁極52との対向方向(X軸方向)からみたときの第1磁極51の大きさ(例えば直径φa)、及び第2磁極52の大きさは(例えば直径φa)、第1磁極51と第2磁極52との間隔Daよりも大きい。このため、第1磁極51と第2磁極52との間にエリアのうち、より一様な静磁場が形成された中心側のエリアを選択的に使用することが可能となる。
【0082】
以上の実施形態は、本発明の一側面について説明したものである。したがって、本発明は、上記の開示内容に限定されることなく、任意に変形され得る。引き続いて、変形例について説明する。
【0083】
図9は、変形例に係る静磁場形成部を示す側面図である。
図9に示される静磁場形成部50Aは、上記実施形態に係る静磁場形成部50と比較して、第1延在部56と第1磁極51との接続の態様、及び、第2延在部57と第2磁極52との接続の態様が異なり、他の点で同様である。
【0084】
より具体的には、静磁場形成部50Aでは、第1延在部56及び第2延在部57は、Z軸方向に沿って直線状に延在している。そして、第1磁極51は、当該第1磁極51の第1延在部56側の外縁51sにおいて第1延在部56の先端に接続されて保持されている。また、第2磁極52は、当該第2磁極52の第2延在部57側の外縁52sにおいて第2延在部57の先端に接続されて保持されている。なお、Z軸方向における第1磁極51及び第2磁極52の中心から第1延在部56及び第2延在部57のエッジまでの長さLeは、例えば600mm程度であり、第1磁極51及び第2磁極52の大きさ(例えば直径φa)と同程度とされ得る。
【0085】
図10及び
図11は、
図9に示された静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
図10,11に示されるように、静磁場形成部50Aによれば、第1保持部材54の直径φbが75mmである場合には、XZ面内の少なくともφ200mm程度の範囲において、7.3mTでほぼ一様な磁束密度分布が得られることが理解される。このように、静磁場形成部50Aによれば、第1コイル53から第1磁極51及び第2磁極52のそれぞれに至る磁路をより短く構成できるので、静磁場の磁場強度(磁束密度)を向上させつつ、一様な磁束密度分布を得ることが可能となる。
【0086】
図12は、別の変形例に係る静磁場形成部を示す側面図である。
図12に示される静磁場形成部50Bは、
図9に示された静磁場形成部50Aと比較して、さらに、磁束を発生させるための第2コイル63と、第2コイル63で発生した磁束を第1磁極51及び第2磁極52のそれぞれに導くための磁路が形成される第2保持部材64と、を備える点で相違しており、他の点で一致している。
【0087】
第2保持部材64は、X軸方向(第1方向)に沿って延びる第2本体部65と、第2本体部65の一端からZ軸方向に沿って直線状に延びる第3延在部66と、第2本体部65の他端からZ軸方向に沿って直線状に延びる第4延在部67と、を含む。第2保持部材64の材料や各部の形状・寸法等については、第1保持部材54と同様であり得る。
【0088】
静磁場形成部50Bでは、第1磁極51の第3延在部66側の外縁51rには、第3延在部66の先端が接続され、第2磁極52の第4延在部67側の外縁52rには、第4延在部67の先端が接続されている。そして、第2コイル63は、第2本体部65に巻き付けられて設けられている、第2コイル63としては、第1コイル53と同様のものが使用され得る。
【0089】
図13及び
図14は、
図12に示された静磁場形成部により形成される磁場による磁束密度分布を示すグラフである。
図13,14に示されるように、静磁場形成部50Bによれば、第1保持部材54及び第2保持部材64の直径φbが75mmである場合には、XZ面内の少なくともφ200mm程度の範囲において、7.1mTでより一様な磁束密度分布が得られることが理解される。このように、静磁場形成部50Bによれば、第1磁極51及び第2磁極52の両側にコイル(第1コイル53及び第2コイル63)が配置され、それぞれのコイルから第1磁極51及び第2磁極52に磁束が導かれるので、測定エリアARに形成される静磁場の一様性がより向上される。
【0090】
以上、変形例について説明したが、他にも任意の変形が可能である。例えば、第1コイル53(又は第2コイル63)を複数に分散して第1本体部55(又は第2本体部65)に設けてもよい。この場合であっても、X軸方向における第1磁極51と第2磁極52との中間点を通る線であってZ軸方向に沿った基準線に対して対称となるように分散されることにより、測定エリアARに形成される静磁場の一様性を確保することが可能である。
【0091】
その他、第1保持部材54や第2保持部材64、或いは、第1磁極51や第2磁極52といった、静磁場形成部50,50A,50Bの各部の形状、寸法は任意に調整され得る。
【0092】
以上の実施形態について、以下に付記する。以下の付記に記載された脳計測装置及び脳計測方法では、各要素を上記実施形態の各要素と任意に交換・適用され得る。
[付記1]
脳磁場を計測する複数の光励起磁気センサと、
前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における地磁気に係る磁場を計測する複数の地磁気磁場補正用磁気センサと、
前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における変動磁場を計測する複数のアクティブシールド用磁気センサと、
前記地磁気に係る磁場を補正するための地磁気磁場補正コイルと、
前記変動磁場を補正するためのアクティブシールドコイルと、を有する脳磁計と、
静磁場を印加するための静磁場コイルと、
傾斜磁場を印加するための傾斜磁場コイルと、
所定の周波数の送信パルスを送信するための送信コイルと、
前記送信パルスの送信によって生じた核磁気共鳴信号を検出する受信コイルと、を有するMRI装置と、
脳磁場の計測時には、前記複数の地磁気磁場補正用磁気センサの計測値、及び、前記複数のアクティブシールド用磁気センサの計測値に基づいて、前記地磁気磁場補正コイルに供給する電流、及び、前記アクティブシールドコイルに供給する電流を制御し、
MR画像の計測時には、前記静磁場コイル及び前記傾斜磁場コイルに供給する電流を制御して前記静磁場及び前記傾斜磁場を制御し、前記受信コイルの出力を基にMR画像を生成する制御装置と、
を備える脳計測装置。
[付記2]
前記地磁気磁場補正コイルは、前記地磁気の磁場を補正するための地磁気補正コイル及び前記地磁気の勾配磁場を補正するための勾配磁場補正コイルによって構成される、
付記1記載の脳計測装置。
[付記3]
前記制御装置は、
前記地磁気に係る磁場を打ち消す磁場を発生させるように前記地磁気磁場補正コイルに供給する電流を決定し、前記変動磁場を打ち消す磁場を発生させるように前記アクティブシールドコイルに供給する電流を決定する、
付記1又は2に記載の脳計測装置。
[付記4]
前記地磁気磁場補正コイル及び前記アクティブシールドコイルはそれぞれ、前記複数の光励起磁気センサを挟んで配置される一対のコイルである、付記1~3のいずれか1項に記載の脳計測装置。
[付記5]
前記受信コイルに電気的に接続され、前記受信コイルを流れる電流を基に磁気信号を出力する出力コイルと、
前記出力コイルによって出力された前記磁気信号を検出する別の光励起磁気センサと、をさらに備え、
前記制御装置は、前記別の光励起磁気センサによって検出された前記磁気信号を基に前記MR画像を生成する、
付記1~4のいずれか1項に記載の脳計測装置。
[付記6]
前記複数の光励起磁気センサは、被験者の頭皮に対し垂直な方向且つ同軸上に計測領域及び参照領域を有する軸型グラジオメータである、
付記1~5のいずれか1項に記載の脳計測装置。
[付記7]
前記複数の光励起磁気センサ、前記複数の地磁気磁場補正用磁気センサ、前記複数のアクティブシールド用磁気センサ、及び前記受信コイルは、被験者の頭部に装着されるヘルメット型の非磁性フレームに固定されている、付記1~6のいずれか1項に記載の脳計測装置。
[付記8]
高周波数の電磁ノイズを遮蔽するための電磁シールドをさらに備える、付記1~7のいずれか1項に記載の脳計測装置。
[付記9]
前記複数の光励起磁気センサは、0~200Hzの範囲に含まれる周波数に感度を有するようにバイアス磁場が印加されるように構成され、
前記別の光励起磁気センサは、20kHz~500kHzの範囲に含まれる周波数に感度を有するようにバイアス磁場が印加されるように構成される、
付記5に記載の脳計測装置。
[付記10]
脳磁場を計測する複数の光励起磁気センサと、
前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における地磁気に係る磁場を計測する複数の地磁気磁場補正用磁気センサと、
前記複数の光励起磁気センサのそれぞれの位置における変動磁場を計測する複数のアクティブシールド用磁気センサと、
前記地磁気に係る磁場を補正するための地磁気磁場補正コイルと、
前記変動磁場を補正するためのアクティブシールドコイルと、を有する脳磁計と、
静磁場を印加するための静磁場コイルと、
傾斜磁場を印加するための傾斜磁場コイルと、
所定の周波数の送信パルスを送信するための送信コイルと、
前記送信パルスの送信によって生じた核磁気共鳴信号を検出する受信コイルと、を有するMRI装置と、を用いた脳計測方法であって、
脳磁場の計測時には、前記複数の地磁気磁場補正用磁気センサの計測値、及び、前記複数のアクティブシールド用磁気センサの計測値に基づいて、前記地磁気磁場補正コイルに供給する電流、及び、前記アクティブシールドコイルに供給する電流を制御し、
MR画像の計測時には、前記静磁場コイル及び前記傾斜磁場コイルに供給する電流を制御して前記静磁場及び前記傾斜磁場を制御し、前記受信コイルの出力を基にMR画像を生成する、
脳計測方法。
[付記11]
前記地磁気磁場補正コイルは、前記地磁気の磁場を補正するための地磁気補正コイル及び前記地磁気の勾配磁場を補正するための勾配磁場補正コイルによって構成される、
付記10記載の脳計測方法。
【符号の説明】
【0093】
M1…脳計測装置、5…制御装置(生成部)、8…勾配磁場補正コイル(傾斜磁場コイル)、21…送信コイル、22…受信コイル(検出コイル)、50,50A,50B…静磁場形成部、51…第1磁極、51s,51r…外縁、52…第2磁極、52s,52r…外縁、53…第1コイル、54…第1保持部材、55…第1本体部、56…第1延在部、57…第2延在部、58…第1屈曲部、59…第2屈曲部、63…第2コイル、64…第2保持部材、65…第2本体部、66…第3延在部、67…第4延在部。