(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186261
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】加湿膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20221208BHJP
H01M 8/04119 20160101ALI20221208BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20221208BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/04119
H01M8/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094399
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田上 智也
(72)【発明者】
【氏名】謝 剛
(72)【発明者】
【氏名】神園 剛
(72)【発明者】
【氏名】林 知延
【テーマコード(参考)】
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
5H126BB06
5H127AA07
5H127AC06
5H127AC10
(57)【要約】
【課題】 高耐圧が求められる環境下においても用いることができるように、耐圧性が高められた加湿膜を提供すること。
【解決手段】 厚み方向に貫通した複数の同一形状の開口が、面内に均一に形成されているシート状の補強体10と、補強体10に形成された複数の開口をそれぞれ覆うように補強体に設けられた含水性樹脂膜20と、を備える加湿膜とすること。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に貫通した複数の同一形状の開口が、面内に均一に形成されているシート状の補強体と、
前記補強体に形成された複数の前記開口をそれぞれ覆うように前記補強体に設けられた含水性樹脂膜と、
を備える、加湿膜。
【請求項2】
請求項1に記載の加湿膜であって、
前記補強体は、樹脂製のメッシュにより構成される、加湿膜。
【請求項3】
請求項2に記載の加湿膜であって、
前記補強体は、PPS樹脂により構成される、加湿膜。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加湿膜であって、
前記含水性樹脂膜の厚さは、前記補強体の厚さ未満である、加湿膜。
【請求項5】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の加湿膜であって、
前記含水性樹脂膜は、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成される、加湿膜。
【請求項6】
厚み方向に貫通した複数の同一形状の開口が、面内に均一に形成されているシート状の補強体と、前記補強体に形成された複数の前記開口をそれぞれ覆うように前記補強体に設けられた含水性樹脂膜と、を備える加湿膜の製造方法であって、
前記含水性樹脂膜の構成成分が溶解した原料液により前記開口が覆われるように前記補強体に前記原料液を付着させる付着工程と、
前記補強体に付着した前記原料液を常温よりも高い乾燥温度にて乾燥させことにより、複数の前記開口をそれぞれ覆うように前記補強体に前記含水性樹脂膜を成膜する乾燥工程と、
前記開口をそれぞれ覆うように前記補強体に成膜された前記含水性樹脂膜を、前記乾燥温度よりも高い焼成温度にて焼成する焼成工程と、
を含む、加湿膜の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の加湿膜の製造方法であって、
前記含水性樹脂膜は、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成され、
前記乾燥温度が70℃以上130℃以下であり、
前記焼成温度が150℃以上であり、
前記焼成工程における焼成時間が20分以上である、
加湿膜の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水性樹脂膜を有する加湿膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池に用いられる電解質膜は、加湿することによりプロトン導電性が向上する。このため加湿膜により電解質膜を加湿する構成が採用される場合がある。このような構成に用いられる加湿膜は、一般的に、水分を吸収する含水性樹脂膜と、含水性樹脂膜を支持或いは補強するための補強体とを有する。例えば特許文献1は、酸性基を有する高分子化合物を主成分とする電解質膜が不織布等の補強体で補強されている構造を開示するが、この電解質膜自身が含水性樹脂膜として機能するため、特許文献1に示す構造は加湿膜としても用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に記載の構造によれば、補強体としての不織布の開口に含水性樹脂膜が形成される。しかしながら、不織布の開口形状は不規則な形状であり、それぞれの開口の大きさも異なっているので、このような不規則な形状の開口に形成される含水性樹脂膜の面積も不規則である。つまり、大きな開口に形成される含水性樹脂膜の面積は大きく、小さな開口に形成される含水性樹脂膜の面積は小さい。面積が大きい含水性樹脂膜は破れやすく、面積が小さい含水性樹脂膜は破れにくいため、含水性樹脂膜が形成される補強体の開口形状が不規則であると、含水性樹脂膜の耐圧力のばらつきが大きく、局所的に耐圧力が低い箇所(すなわち破れやすい箇所)が存在する。このため加湿膜の耐圧力が低下し、高耐圧が求められる環境下においては特許文献1に記載の構造の加湿膜を用いることができない。また、特許文献1に記載の構造によれば、面積の大きい含水性樹脂膜は薄く、面積の大きい含水性樹脂膜は厚くなる傾向にある。このため含水性樹脂膜の厚みの均一性を確保し難く、加湿膜の膜厚の制御が困難である。
【0005】
本発明は、高耐圧が求められる環境下においても用いることができるように、耐圧性が高められた加湿膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、厚み方向に貫通した複数の同一形状の開口が、面内に均一に形成されているシート状の補強体と、補強体に形成された複数の開口をそれぞれ覆うように補強体に設けられた含水性樹脂膜と、を備える、加湿膜を提供する。
【0007】
本発明に係る加湿膜によれば、補強体に形成された複数の開口の形状は同一であり、さらにこれらの開口が補強体の面内に均一に形成されている。このため、補強体の開口を覆うように設けられる含水性樹脂膜の形状及び面積もほぼ同じである。よって、各開口に設けられる含水性樹脂膜の耐圧力もほぼ同じになり、耐圧力の局所的なばらつきが抑えられる。その結果、各開口に設けられた含水性樹脂膜の耐圧力のばらつきに起因する加湿膜の耐圧力の低下が抑えられ、加湿膜の耐圧性を高めことができる。
【0008】
本発明において、補強体に形成される複数の開口は、実質的に同一形状であればよく、製造上の誤差範囲において形状が異なっている場合であっても、同一形状の開口とみなすことができる。また、補強体に形成される複数の開口は、補強体の面内に均一に、すなわち一様に形成されていればよい。ここで、「均一に形成される」とは、全ての隣接する開口の中心間距離が実質的に等距離であるように、すなわち上記中心間距離の変動が製造上の誤差範囲内であるように、開口が形成されることを言う。
【0009】
この場合、補強体は、樹脂製のメッシュにより構成されるとよい。例えば、補強体は、複数の経糸と緯糸とを織ることにより構成されて、各開口が互いに直交する二方向に整列しており、各開口形状が同一の矩形状である樹脂製のメッシュであるのが好ましい。これによれば、補強体を樹脂製のメッシュにより構成することにより、補強体の開口率を大きくすることができ、これにより加湿膜の加湿性能を向上させることができる。ここで、メッシュとは、二次元の網目構造を意味する。なお、樹脂製のメッシュは、樹脂製のシートに複数の同一形状の開口部を均一に形成することにより、形成しても良い。
【0010】
補強体は、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂により構成されるとよい。PPS樹脂は高い安定性を有するので、補強体の劣化等に起因する加湿膜の加湿性能の低下を抑制することができる。
【0011】
含水性樹脂膜の厚さは、補強体の厚さ未満であるのがよい。これによれば、補強体の厚みよりも含水性樹脂膜の厚みが小さいので、加湿膜を取り扱う際に含水性樹脂膜に触れることによって含水性樹脂膜が損傷することを防止することができる。このため加湿膜の取り扱い性を向上させることができる。
【0012】
また、含水性樹脂膜は、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成されると良い。好ましくは、含水性樹脂膜は、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成され、X線回折により得られる非晶質のピークの半値幅が4deg.未満であるのが良い。これによれば、含水性樹脂膜の結晶化が進むことにより安定性を高めることができる。よって、高温高湿環境下においても含水性樹脂膜が水に溶解することを抑制すること、すなわち耐水性を向上することができる。なお、非晶質のピークは、回折角度2θ=16.5deg.近傍に形成される。従って、X線回折における回折角度2θ=16.5deg.近傍に形成されるピークの半値幅が、4deg.未満であると良い。
【0013】
また、本発明は、厚み方向に貫通した複数の同一形状の開口が、面内に均一に形成されているシート状の補強体と、補強体に形成された複数の開口をそれぞれ覆うように補強体に設けられた含水性樹脂膜と、を備える加湿膜の製造方法であって、含水性樹脂膜の構成成分が溶解した原料液により開口が覆われるように補強体に原料液を付着させる付着工程と、補強体に付着した原料液を常温よりも高い乾燥温度にて乾燥させことにより、複数の開口をそれぞれ覆うように補強体に含水性樹脂膜を成膜する乾燥工程と、開口をそれぞれ覆うように補強体に成膜された含水性樹脂膜を、乾燥温度よりも高い焼成温度にて焼成する焼成工程と、を含む、加湿膜の製造方法を提供する。
【0014】
上記発明によれば、乾燥工程にて含水性樹脂膜の原料液を乾燥させることにより補強体の開口を覆うように含水性樹脂膜が成膜される。そして、含水性樹脂膜が成膜された後に、成膜時の乾燥温度よりも高い焼成温度で含水性樹脂膜を焼成することにより、耐圧性及び耐水性が高められた加湿膜を製造することができる。
【0015】
この場合、含水性樹脂膜は、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成され、乾燥温度が70℃以上130℃以下であり、焼成温度が150℃以上であり、焼成工程における焼成時間が20分以上であるとよい。これによれば、耐圧性が高められ、且つ、高温高湿下において含水性樹脂膜が水に溶解することが抑制された(すなわち耐水性が高められた)加湿膜を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、複数の開口が形成された補強体の例を示す。
【
図2】
図2は、サンプルS1の表面のSEM画像(倍率50倍)である。
【
図3】
図3は、サンプルS1の断面のSEM画像である。
【
図4】
図4は、サンプルS2の表面のSEM画像(50倍)である。
【
図5】
図5は、サンプルS2の断面のSEM画像である。
【
図6】
図6は、比較サンプルC1の表面のSEM画像(倍率200倍)である。
【
図7】
図7は、比較サンプルC1の断面のSEM画像である。
【
図8】
図8は、比較サンプルC2の表面のSEM画像(倍率200倍)である。
【
図9】
図9は、比較サンプルC2の断面のSEM画像である。
【
図10】
図10は、耐圧性の評価を行う際に用いた耐圧容器の概略断面図である。
【
図11】
図11は、各サンプルについてのout側圧力の測定結果を示す。
【
図12】
図12は、水蒸気透過性評価に用いた評価治具を示す。
【
図14】
図14は、各サンプルの耐水性評価試験前のSEM画像と耐水性評価試験後のSEM画像とを比較した図である。
【
図15】
図15は、リーク試験に用いた試験装置の概略断面図である。
【
図16】
図16は、サンプルA,B,Cについてのリーク試験結果を示す。
【
図17】
図17は、サンプルD、E,Fについてのリーク試験結果を示す。
【
図18】
図18は、サンプルG,H,I,Jの耐水性評価試験後のSEM画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態に係る加湿膜は、補強体と、含水性樹脂膜とを有する。補強体はシート状に形成されており、含水性樹脂膜を支持するとともに加湿膜の剛性を高める機能を有する。
【0018】
補強体の材質は、特に限定されないが、燃料電池(例えば固体酸化物形燃料電池)の加湿膜に用いられる場合には、金属イオンの溶出が懸念されるような金属製の補強体は好ましくない。なお、金属イオンの溶出が懸念されない金属製の補強体は、燃料電池の加湿膜に用いることができる。この場合、金属イオンの溶出が懸念されない樹脂により補強体を形成するのがよい。さらに、補強体は、樹脂の中でも、反応性が低い樹脂、つまり安定性が高い樹脂により構成されるのが良い。このような樹脂としてPPS樹脂(ポリフェニレンサルファイド)が、補強体の材質に好適に用いられる。その他、PPE(ポリフェニレンエーテル)樹脂を補強体に用いることもできる。
【0019】
また、シート状の補強体には、厚み方向に貫通した複数の開口(貫通孔)が形成される。これら複数の開口は同一の形状であり、補強体の面内に均一に形成される。換言すれば、補強体の開口は、補強体の平面方向に規則正しく配列されている。
図1は、複数の開口が形成された補強体10の例を示す。
図1(a)は、複数の正方形状の開口が、補強体10の面方向である互いに直交した縦方向及び横方向に規則正しく碁盤目状に整列して形成された補強体である。また、
図1(b)は、複数の円形状の開口が、補強体10の面方向に沿って、規則正しく千鳥配列して形成された補強体である。ここで、補強体に形成された複数の開口が「同一の形状」であるとは、同一の形状を意図して設けられた形状、すなわち実質的に同一の形状を意味し、補強体の製造上の誤差等の、不可避的な形状の差異があっても、同一の形状とみなすことができる。また、「均一に形成される」とは、全ての隣接する開口の中心間距離が、実質的に等距離となるように意図して開口が形成されることを言う。
【0020】
図1(a)に概略的に示される補強体10は、PPS樹脂繊維により構成された複数の経糸及び複数の緯糸を織り込むことによって、メッシュ状に形成されている。また、隣接する経糸間の間隔は一定であり、隣接する緯糸間の間隔は一定である。このため、この補強体に形成される複数の開口は、実質的に同一の矩形形状であり、且つ、補強体の面内に均一に形成されている。このように補強体を樹脂製のメッシュにより構成することにより、補強体の開口率を、例えば50%以上の高い開口率に設定することができる。
【0021】
含水性樹脂膜は、樹脂により構成される膜状体であり、吸水機能を有する。また、含水性樹脂膜は、吸水した水分(水蒸気)を放出する機能を有する。吸水機能及び放出機能が同時に発現することにより、含水性樹脂膜は水蒸気を透過する。また、含水性樹脂膜は、水分以外を吸収しないため、水分以外の物質は透過しない。つまり、含水性樹脂膜は、水分、特に水蒸気を選択的に透過させることができる。このため、含水性樹脂膜を備える加湿膜が加湿対象物に向けて放水(放湿)することにより、加湿対象物を加湿することができる。
【0022】
含水性樹脂膜は、スルホン酸基を豊富に有する成分により構成されていると良い。典型的には、含水性樹脂膜は、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成されると良い。特に、含水性樹脂膜として、テトラフルオロエチレン骨格と、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン側鎖とから構成される、デュポン社製のNafion(登録商標)が、好適に用いられる。
【0023】
含水性樹脂膜がスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成されている場合、含水性樹脂膜のX線回折において回折角度2θ=16.5deg.近傍に得られる非晶質部のピークの半値幅が、4deg.未満であると良い。非晶質ピークの半値幅が4deg.未満であると、含水性樹脂膜の結晶化が進むために、含水性樹脂膜が安定する。このため、高温高湿環境下で含水性樹脂膜が水に溶けることが抑制されて、耐水性を向上させることができる。
【0024】
この含水性樹脂膜は、補強体の全ての開口を覆うように設けられていなければならない。一部の開口に形成された含水性樹脂膜が破れている(開口を覆っていない)と、そこから水分以外の物質が透過するからである。また、補強体の各開口に設けられている含水性樹脂膜の厚みは、補強体の厚みよりも小さい。含水性樹脂膜の厚みが補強体の厚みよりも大きいと、厚み方向に含水性樹脂膜が突出することになり、取り扱う際に含水性樹脂膜に触れることによって含水性樹脂膜が損傷する虞があり、取り扱いが煩わしい。よって、含水性樹脂の厚みが補強体の厚みよりも薄いことにより、加湿膜の取り扱いが容易になる。なお、含水性樹脂膜の構成成分は、補強体の開口以外の部位に付着していても良い。例えば、補強体のメッシュ表面に含水性樹脂膜の構成成分が付着していても良い。
【0025】
補強体の各開口は実質的に同じ形状であるので、その開口を覆うように各開口に付着する含水性樹脂膜の量もほぼ同じとなり、各開口に設けられる含水性樹脂膜の形状、面積、厚みが実質的に同じとなる。各開口に設けられる含水性樹脂膜の形状及び面積がほぼ同じであるので、各開口に設けられる含水性樹脂膜の耐圧力もほぼ同じとなり、耐圧力の局所的なばらつきが抑えられる。その結果、各開口に設けられた含水性樹脂膜の耐圧力のばらつきに起因する加湿膜の耐圧力の低下が抑えられ、加湿膜の耐圧性を高めことができる。さらに、各開口に設けられる含水性樹脂膜の膜厚もほぼ同じであるので、含水性樹脂膜の膜厚の制御が容易になり、均一な膜厚の含水性樹脂膜を形成することができる。さらに、含水性樹脂膜の膜厚を、加湿膜の膜厚(具体的には補強体の厚み)よりも小さく設定することができ、これにより、加湿膜の取り扱い性を向上させることができる。
【0026】
また、補強体を樹脂製のメッシュにより構成することにより、補強体の開口率を大きくすることができるので、そのような開口率が大きい補強体の開口に含水性樹脂膜を形成することにより、加湿膜の面内に占める含水性樹脂膜の面積比を大きくすることができる。これにより、含水性樹脂膜の水分(水蒸気)透過量を増やすことができ、その結果、加湿膜の加湿性能を向上させることができる。
【0027】
本実施形態に係る加湿膜は、付着工程と、乾燥工程と、焼成工程と、を経て製造することができる。
【0028】
付着工程では、補強体に含水性樹脂膜の構成成分が溶解した原料液を付着させる。このとき、補強体の全ての開口が原料液により覆われるように、原料液を補強体に付着させる。この付着工程は、含水性樹脂膜の構成成分が溶解した原料液中に、補強体を浸漬させる工程でも良い。所定時間補強体を原料液に浸漬させた後に所定の引き上げ速度で補強体を原料液から引き上げると、補強体の各開口に、原料液がその表面張力によって貼りつくように付着する。このとき、上記の浸漬により原料液がその表面張力によって補強体の各開口を覆うように貼りつくように、引き上げ速度、原料液の粘度、補強体の開口の大きさ、等が調整される。この場合、補強体の開口の大きさ(目開き)は、30μm~500μm程度であるのが良い。
【0029】
また、原料液は、含水性樹脂膜の構成成分を溶解させるための溶媒を含んでおり、例えば、含水性樹脂膜の原料成分としてのNafion(登録商標)の分散液と、溶媒としてのエタノールとを混合して原料液を調製することができる。
【0030】
乾燥工程では、補強体に付着した原料液を、常温(25℃)よりも高い所定の乾燥温度にて乾燥させる。これにより原料液中の溶媒が揮発または蒸発するとともに含水性樹脂膜が補強体の開口を覆うように成膜される。このとき、溶媒が揮発または蒸発しながら含水性樹脂膜が成膜されるので、溶媒の揮発(蒸発)速度(すなわち乾燥速度)と含水性樹脂膜の成膜速度とのバランスが取れていないと、うまく含水性樹脂膜を補強体の開口に成膜することができない。例えば乾燥速度が成膜速度に対して速すぎると、膜にクラックが発生して膜に破れが生じてしまう。また、例えば常温での自然乾燥のように乾燥速度が成膜速度に対して遅すぎると、補強体の開口部を覆うように形成されている原料液が自重で流れることにより、成膜する過程で膜が破れてしまう。したがって、この乾燥工程では、用いる含水性樹脂膜に応じて、適切な乾燥温度にて原料液を乾燥させる必要がある。例えば含水性樹脂膜が、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成されている場合、乾燥工程では、補強体に付着した原料液を、70℃以上130℃以下の乾燥温度で乾燥させるとよい。上記温度範囲内の温度にて補強体に付着した原料液を乾燥させることにより、補強体の開口を覆うように含水性樹脂膜が成膜される。
【0031】
焼成工程では、乾燥工程にて補強体の開口に成膜された含水性樹脂膜を、乾燥温度よりも高い焼成温度にて焼成する。この焼成工程では、成膜された含水性樹脂膜に適度な熱量を与えて結晶化を促進させる。これにより含水性樹脂膜が安定し、高温高湿環境下であっても水に溶解し難くなる。よって、加湿膜の耐水性を向上させることができる。
【0032】
上記の適度な熱量は、用いる含水性樹脂膜に応じて異なる。例えば含水性樹脂膜が、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体により構成されている場合、焼成工程における焼成温度が150℃以上であり、且つ焼成時間が20分以上であると良い。上記の範囲の焼成温度及び焼成時間にて焼成を行うことにより、焼成後の含水性樹脂膜をX線回折した場合に回折角度2θ=16.5deg.近傍にて得られる非晶質ピークの半値幅が4deg.未満となるとともに、水に対して安定し、水に溶解し難い耐水性の高い含水性樹脂膜を有する加湿膜を製造することができる。
【0033】
(実施例1)
PPS樹脂繊維を用いて補強体としてのPPS樹脂メッシュを作製した。このPPS樹脂メッシュの経糸と緯糸を構成するPPS樹脂繊維の線径(直径)は共に56μmであり、PPS樹脂メッシュのメッシュ数は100本/inch、であり、開口率は60%であり、目開きは200μmである。
【0034】
また、Nafion溶液(Nafion20wt%dispersion液(NafionD2021、ALDRICH社製))及びエタノール(濃度99.5%、富士フィルム和光純薬株式会社製)を準備した。そして、200mlのビーカーに、両者の体積比が1:1になるように、Nafion溶液86gとエタノール68gを投入し、マグネチックスターラー(アズワン株式会社製、ホットスターラーRSH-4DN)で5分間攪拌した。これにより、原料液を調製した。
【0035】
次いで、原料液をガラス容器内に投入し、ディップコーター(株式会社あずみ技研製、H450-S-BY)を用いてPPS樹脂メッシュ(30mm×30mm)をガラス容器内の原料液中に全没するように浸漬した。その後すぐに、20mm/sec.の引き上げ速度でPPS樹脂メッシュを原料液から引き上げた。これにより、PPS樹脂メッシュの開口を覆うように原料液をPPS樹脂メッシュに付着させた(付着工程)。
【0036】
付着工程の終了後、すぐに、原料液が付着したPPS樹脂メッシュを熱風乾燥器(株式会社カトー製、TR-52DPN)に投入し、PPS樹脂メッシュに付着した原料液を乾燥させるとともに、PPS樹脂メッシュの開口に含水性樹脂膜を成膜させた(乾燥工程)。なお、乾燥条件は、以下の通りである。
・乾燥温度:110℃
・乾燥時間:30分
【0037】
乾燥工程の終了後、すぐに、乾燥工程に用いた熱風乾燥器を用いて含水性樹脂膜を焼成した(焼成工程)。なお焼成条件は、以下の通りである。
・焼成温度:160℃
・焼成時間:30分
【0038】
焼成工程が終了したら、熱風乾燥器からPPS樹脂メッシュを取り出した。これにより、PPS樹脂メッシュにより構成される補強体とこの補強体の開口を覆うように設けられた含水性樹脂膜を有する実施例1に係る加湿膜のサンプルS1を製造した。このサンプルS1に形成された含水性樹脂膜の目付量(単位面積当たりの付着量)を測定したところ、1.73mg/cm2であった。
【0039】
(実施例2)
補強体として、経糸及び緯糸を構成するPPS樹脂繊維の線径が35μm、メッシュ数が225本/inch、開口率が45%、目開きが78μmのPPS樹脂メッシュを用いたことを除き、実施例1と同一の材料及び方法により、実施例2に係る加湿膜のサンプルS2を製造した。このサンプルS2に形成された含水性樹脂膜の目付量を測定したところ、1.53mg/cm2であった。
【0040】
(実施例3)
焼成条件が以下の通りであることを除き、実施例1と同一の材料及び方法により、実施例3に係る加湿膜のサンプルS3を製造した。
・焼成温度:150℃
・焼成時間:20分
【0041】
(実施例4)
焼成条件が以下の通りであることを除き、実施例1と同一の材料及び方法により、実施例4に係る加湿膜のサンプルS4を製造した。
・焼成温度:150℃
・焼成時間:30分
【0042】
(比較例1)
補強体として、厚さ24μm、通気度が202cc/cm2/sec.のPPS樹脂製の不織布を用いたことを除き、実施例1と同一の材料及び方法により、比較例1に係る加湿膜の比較サンプルC1を製造した。この比較サンプルC1に形成された含水性樹脂膜の目付量を測定したところ、1.4mg/cm2であった。
【0043】
(比較例2)
補強体として、厚さ31μm、通気度が94.7cc/cm2/sec.のPPS樹脂製の不織布を用いたことを除き、実施例1と同一の材料及び方法により、比較例2に係る加湿膜の比較サンプルC2を製造した。この比較サンプルC2に形成された含水性樹脂膜の目付量を測定したところ、1.53mg/cm2であった。
【0044】
(比較例3)
焼成工程を行わないことを除き、実施例1と同一の材料及び方法により、比較例3に係る加湿膜の比較サンプルC3を製造した。
【0045】
(比較例4)
焼成条件が以下の通りであることを除き、実施例1と同一の材料及び方法により、比較例4に係る加湿膜の比較サンプルC4を製造した。
・焼成温度:150℃
・焼成時間:10分
【0046】
(比較例5)
乾燥条件が以下の通りであること、及び焼成工程を行わないことを除き、実施例1と同一の材料及び方法により、比較例5に係る加湿膜の比較サンプルC5を製造した。
・乾燥温度:160℃
・乾燥時間:30分
【0047】
各サンプルS1~S4及び比較サンプルC1~C5の使用材料、乾燥条件、焼成条件を、表1にまとめて示す。
【表1】
【0048】
(SEM画像による目視観察)
製造した各サンプルS1,S2及び比較サンプルC1,C2について、SEM画像を撮影した。
図2はサンプルS1の表面のSEM画像(倍率50倍)であり、
図3(
図3(a)及び(b))はサンプルS1の断面のSEM画像である。また、
図4はサンプルS2の表面のSEM画像(50倍)であり、
図5(
図5(a)及び(b))はサンプルS2の断面のSEM画像である。なお、
図3及び
図5について、(a)の倍率が200倍であり、(b)は(a)の一部の拡大図(倍率500倍)である。また、
図6は比較サンプルC1の表面のSEM画像(倍率200倍)であり、
図7(
図7(a)及び(b))は比較サンプルC1の断面のSEM画像である。そして、
図8は比較サンプルC2の表面のSEM画像(倍率200倍)であり、
図9(
図9(a)及び(b))は、比較サンプルC2の断面のSEM画像である。なお、
図7及び
図9について、(a)の倍率が300倍であり、(b)は(a)の一部の拡大図(倍率500倍)である。
【0049】
図2及び
図4に示すように、実施例1に係る加湿膜のサンプルS1及び実施例2に係る加湿膜のサンプルS2は、複数の開口が形成された補強体10と、この補強体10の複数の開口を覆うように(塞ぐように)補強体10に設けられた含水性樹脂膜20とを有する。また、これらの図に示す補強体10は、複数の平行な経糸11と複数の平行な緯糸12が織り込まれることによりメッシュ状に形成されており、互いに直交する2方向(縦方向及び横方向)に沿って、すなわち補強体10の平面方向に沿って、碁盤目状に整列して、複数の開口が面内に均一に形成されている。これらの開口は、四方がPPS樹脂繊維からなる2本の経糸と2本の緯糸に囲まれた四角形状であり、各開口の形状は同じである。
【0050】
また、
図3及び
図5からわかるように、補強体10に形成されている開口を覆うように、含水性樹脂膜20が形成されている。各開口に形成されている含水性樹脂膜20の厚みは、補強体10の厚みt(
図3(a)及び
図5(a)参照)未満であり、補強体10の厚みtの範囲内に含水性樹脂膜20が形成されている。よって、含水性樹脂膜20が補強体10から厚み方向に突出することはない。このため、この加湿膜を取り扱う際に含水性樹脂膜20に触れてしまうことによって含水性樹脂膜20を破損させる可能性を低減することができる。さらに、
図3(a)及び
図5(a)からわかるように、各開口に設けられる含水性樹脂膜20の厚みはほぼ均一である。
【0051】
一方、
図6及び
図8に示すように、比較例1に係る加湿膜の比較サンプルC1及び比較例2に係る加湿膜の比較サンプルC2においては、補強体が不織布により構成されるために、補強体に形成される開口の形状が非常に不規則である。また、
図7及び
図9からわかるように、不規則な開口に含水性樹脂膜が形成されているために、各開口に設けられる含水性樹脂膜の面積及び厚みのばらつきが大きい。
【0052】
(耐圧性評価)
次に、製造した各サンプルS1,S2,C1,C2について、耐圧性の評価を行った。
図10は、耐圧性の評価を行う際に用いた耐圧容器(測定治具)の概略断面図である。
図10に示すように、この耐圧容器30は、上側容器31と下側容器32と、上側圧力センサ33と、下側圧力センサ34とを有する。
【0053】
上側容器31及び下側容器32の外形形状は、共に円柱形状である。上側容器31が下側容器32の上方に配設されており、上側容器31の下端面と下側容器32の上端面との間に、評価対象となるサンプルが挟み込まれる。また、上側容器31の下端面から上方向に向かって断面円形の上側凹部311が形成され、下側容器32の上端面から下方向に向かって断面円形の下側凹部321が形成される。上側容器31が下側容器32の上方に配設されたとき、
図10に示すように上側凹部311と下側凹部321が、同軸上に配列する。このときサンプルは、上側凹部311の開口及び下側凹部321の開口を塞ぐように、両容器間に挟持される。このため、サンプルによって、上側凹部311と下側凹部321との連通が遮断されている。
【0054】
上側凹部311は、その上方部にて上側連通孔部312に連通している。上側連通孔部312は、上側容器31内を径方向に延在するように設けられており、その端部(底部)に上側圧力センサ33が取り付けられている。従って、上側圧力センサ33は、上側連通孔部312を通じて上側凹部311内の圧力(以下、out側圧力)を計測することができる。
【0055】
また、下側凹部321は、その下方部にて下側連通孔部322に連通している。下側連通孔部322は、下側容器32内を径方向に延在するように設けられており、その端部(底部)に下側圧力センサ34が取り付けられている。従って、下側圧力センサ34は、下側連通孔部322を通じて下側凹部321内の圧力(以下、in側圧力)を計測することができる。さらに、下側凹部321は、その下方部にてエアー導入孔部323にも連通している。エアー導入孔部323は、下側容器32内を径方向に延在するように設けられており、その端部は、下側容器32の側面に開口している。
【0056】
このような耐圧容器30において、各サンプル(S1,S2,C1,C2)を上側容器31と下側容器32との間に挟持し、エアー導入孔部323の開口からエアーを導入していくことにより、in側圧力を、2kPa/sec.の昇圧速度で上昇させていく。そして、時間の経過とともにout側圧力を計測した。
【0057】
図11は、各サンプルについてのout側圧力の経時的な測定結果を示すグラフである。
図11のグラフの横軸が時間(sec.)であり、縦軸がout側圧力(kPa)である。サンプルS1についてのout側圧力の計測結果のグラフがS1で示され、サンプルS2についてのout側圧力の計測結果のグラフがS2で示され、比較サンプルC1についてのout側圧力の計測結果のグラフがC1で示され、比較サンプルC2についてのout側圧力の計測結果のグラフがC2で示される。なお、
図11には、in側圧力の計測結果も示される。
【0058】
図11からわかるように、サンプルS1及びサンプルS2においては、in側圧力が200kPaになっても、out側圧力は上昇しない。従って、サンプルS1及びサンプルS2の含水性樹脂膜は、200kPaの圧力が作用しても破れず、サンプルS1及びS2の耐圧力は200kPa以上であると判断できる。これに対し、比較サンプルC1においては、in側圧力が52kPaであるときにout側圧力の上昇勾配がin側圧力の上昇勾配を超えた。このことから、比較サンプルC1の含水性樹脂膜は、52kPaの圧力が作用した時点で破れていたと推定され、比較サンプルC1の耐圧力は52kPa以下であると判断できる。また、比較サンプルC2においては、in側圧力が90kPaであるときにout側圧力の上昇勾配がin側圧力の上昇勾配を超えた。このことから、比較サンプルC2の含水性樹脂膜は、90kPaの圧力が作用した時点で破れていたと推定され、比較サンプルC2の耐圧力は90kPa以下であると判断できる。これらの結果から、サンプルS1及びS2の耐圧力は、比較サンプルC1及びC2の耐圧力に比較して高いことが確認された。
【0059】
(水蒸気透過性評価)
次に、製造したサンプルS1,S2及び比較サンプルC1,C2について、水蒸気透過性評価を行った。
図12は、水蒸気透過性評価に用いた評価治具を示す。
図12に示すように、この評価治具40は、蓋部40A及び容器部40Bを備える。容器部40Bはガラス容器であり、上面が開口している。この容器部40B内に純水が所定の高さ(
図12では、水面が上端から18mm下方の位置)まで投入される。蓋部40Aは、容器部40Bの上面開口を塞ぐように、容器部40Bの上に設けられる。このとき、容器部40Bの上端と蓋部40Aの外周部分との間が気密的に封止されるように、蓋部40Aが容器部40Bの上端部に固定される。
【0060】
図13は、蓋部40Aの構成を示す分解斜視図である。
図13に示すように、蓋部40Aは、ポリテトラフルオロエチレン製の外蓋部41と、シリコン製の一対の内蓋部42a,42bとを有する。外蓋部41及び一対の内蓋部42a,42bは、それぞれ薄板状に形成され、平面方向(
図12の上下方向)から見た場合に同一の外形形状を呈する。
【0061】
また、外蓋部41の中央部には細長い外側貫通孔411が厚み方向に貫通するように形成されており、一対の内蓋部42a,42bの中央部には、外蓋部41の外側貫通孔411よりも小さい内側貫通孔421が、それぞれ厚み方向に貫通するように形成されている。本例では、内側貫通孔421は、2.0cm×1.5cmの矩形状の貫通孔である。
【0062】
外蓋部41及び一対の内蓋部42a,42bは、それぞれの外縁が一致するように、厚み方向に重ね合わされる。このとき、積層方向から見て外側貫通孔411内に内側貫通孔421が含まれ、且つ一対の内蓋部42a,42bの内側貫通孔421,421の開口縁の位置が一致する。また、一対の内蓋部42a,42bの内側貫通孔421,421を塞ぐように、一対の内蓋部42a,42b間に評価対象のサンプルが挟み込まれる。このような状態で、蓋部40Aが容器部40Bの上端開口を塞ぐように、容器部40Bに対して配設される。このため、容器部40B内の純水が蒸発した場合、水蒸気は、一対の内蓋部42a,42bに挟持されたサンプルを通過して外部に放出されることになる。
【0063】
このような構造の評価治具40の重量を測定し、その後、温度90℃、相対湿度10%の雰囲気の恒温槽内に評価治具40を投入して1時間放置した。1時間経過後、評価治具40を恒温槽から取り出して、再度、評価治具40の重量を測定した。そして、恒温槽への投入前後における評価治具40の重量差から、サンプルを通過して外部に放出された水蒸気の重量を求め、さらに求めた重量から、1時間でサンプルの単位面積当たりに通過した水蒸気の重量を、水蒸気透過量として算出した。
【0064】
表2は、各サンプルについて算出した水蒸気透過量を示す。
【表2】
【0065】
表2からわかるように、サンプルS1及びサンプルS2の水蒸気透過量は、比較サンプルC1及び比較サンプルC2の水蒸気透過量よりも高いことが確認された。
【0066】
表3に、各サンプルS1,S2及び比較サンプルC1,C2の補強体の構成、目付量、耐圧性評価結果(耐圧力)、水蒸気透過性評価結果(水蒸気透過量)をまとめて示す。
【表3】
【0067】
サンプルS1、S2と、比較サンプルC1,C2は、使用する補強材のみが異なるだけであり、これらのサンプルは全て同一の製法で製造されている。また、サンプルS1,S2の含水性樹脂膜の目付量と比較サンプルC1、C2の含水性樹脂膜の目付量には大きな差が見られない。つまり、サンプルS1,S2の含水性樹脂膜の平均膜厚と比較サンプルC1,C2の含水性樹脂膜の平均膜厚は、ほぼ同じである。しかし、水蒸気透過量と耐圧力においては、サンプルS1,S2の方が、比較サンプルC1,C2よりも優れている。このことから、同一形状の開口が規則正しく形成されたPPS樹脂メッシュを補強体に用いることにより、耐圧性及び水蒸気透過性の双方が向上することが確認できた。
【0068】
(耐水性評価)
サンプルS3、サンプルS4、比較サンプルC3、比較サンプルC4の表面をSEMにより撮影し、耐水性評価試験前のSEM画像を得た。その後、各サンプルのそれぞれを、オートクレープ(TAIATSU-TECHNO社製)内に純水50mlと一緒に投入した。このオートクレープを温度105℃の雰囲気に設定された熱風乾燥器(株式会社カトー製、TR-52DPN)内に入れ、24時間放置した。その後、オートクレープを熱風乾燥器から取り出し、オートクレープ内のサンプルを回収した。そして、回収した各サンプルの表面を、SEMにより撮影し、耐水性評価試験後のSEM画像を得た。なお、サンプルS3,S4、比較サンプルC3,C4の全てについて、
図10に示す耐圧容器30を使用した耐圧性評価にて、耐圧力が200kPa以上であることを確認している。一方、比較サンプルC5については、上記の耐圧性評価にて耐圧力が低く、十分に含水性樹脂が開口を覆うように成膜できていないことが確認された。これは、乾燥温度が高すぎるためと考えられる。よって、比較サンプルC5をこの耐水性評価から除外した。
【0069】
図14は、各サンプルの耐水性評価試験前のSEM画像と耐水性評価試験後のSEM画像とを比較した図である。
図14に示すように、サンプルS3及びサンプルS4については、耐水性評価試験前SEM画像と耐水性評価試験後SEM画像とを比較しても、試験前後において大きな変化は見られなかった。これに対し、比較サンプルC3及び比較サンプルC4については、耐水性評価試験前後において大きな変化が見られた。特に、補強体のメッシュを構成する部分の荒れが、試験後のSEM画像に確認された。この荒れは、補強体に付着している含水性樹脂膜の成分が、高温高湿環境下で水に溶解したことによるものと推察される。よって、比較サンプルC3,C4においては、補強体の開口に設けられている含水性樹脂膜も、水に溶解している可能性が高い。以上のことより、サンプルS3及びサンプルS4の加湿膜は、比較サンプルC3及び比較サンプルC4の加湿膜に比べて、高温高湿環境下でも含水性樹脂膜が水に溶解することなく安定して存在するため、耐水性が高いことが確認された。
【0070】
(結晶性評価)
サンプルS3、サンプルS4、比較サンプルC3、比較サンプルC4、及び比較サンプルC5に形成された含水性樹脂膜について、X線回折装置(リガク株式会社製、Smartlab)によりX線回折を行った。そして、得られたX線回折結果から非晶質成分のピークを分離し、この非晶質ピークの半値幅を求めた。表4に、各サンプルについて求めた非晶質ピークの半値幅を示す。なお、表4には、各サンプルの乾燥条件および焼成条件も併せて示す。
【表4】
【0071】
表4に示すように、サンプルS3及びサンプルS4についての非晶質ピークの半値幅は4deg.未満であり、比較サンプルC4についての非晶質ピークの半値幅よりも小さい。つまり、サンプルS3及びサンプルS4に係る含水性樹脂膜は、比較サンプルC4に係る含水性樹脂膜よりも結晶化が進んでいる。また、上記の耐水性評価結果から、サンプルS3及びサンプルS4の加湿膜は、比較サンプルC3及び比較サンプルC4の加湿膜に比べて耐水性が高い。以上のことから、サンプルS3及びサンプルS4に係る加湿膜においては、含水性樹脂膜の結晶化が進んでいるために高温高湿環境下においても含水性樹脂膜が水に溶けにくく、その結果、耐水性が高いと推察される。この場合、表4の結果から、含水性樹脂膜の非晶質ピークの半値幅が4deg.未満、好ましくは3deg.未満であると、含水性樹脂膜が高温高湿環境下で水に溶解することを効果的に抑制することができ、耐水性を高めることができる。なお、サンプルS3,S4及び比較サンプルC4,C4の非晶質ピークは、いずれも、回折角度2θ=16.5deg.近傍に形成された。従って、回折角度2θ=16.5deg.近傍に形成される非晶質ピークの半値幅が4deg.未満、より好ましくは3deg.未満であると、加湿膜の耐水性が高まると言える。
【0072】
また、表4に示すように、サンプルC3については、非晶質ピークが得られなかった。これは、サンプルC3に係る加湿膜は焼成工程を行っていないため、非晶質ピークが検出不能であるほどブロードであることが原因であると考えられる。また、比較サンプルC5についての非晶質ピークの半値幅は2.0deg.であり、含水性樹脂膜の結晶化が進んでいる。しかしながら、上記したように比較サンプルC5に係る含水性樹脂膜は補強体の開口を覆うように成膜されないため、加湿膜として利用することはできない。
【0073】
サンプルS3,S4、比較サンプルC3,C4,C5の上記比較結果から、耐水性を持つ含水性樹脂膜を成膜するためは、含水性樹脂膜の非晶質ピークの半値幅(回折角度2θ=16.5deg.近傍のピークの半値幅)が4.0deg.未満である必要があると言える。また、補強体の開口を覆うように含水性樹脂膜を成膜し、且つ高い耐圧性及び耐水性を有する加湿膜を製造するためには、乾燥工程、焼成工程の2段階の加熱処理が必要であると言える。
【0074】
(乾燥温度範囲の調査)
加湿膜のサンプルA,B,Cを製造した。ここで、サンプルAは、乾燥温度を50℃に設定し、焼成工程を省略したことを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造し、サンプルBは,乾燥温度を60℃に設定し、焼成工程を省略したことを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造し、サンプルCは、乾燥温度を70℃に設定し、焼成工程を省略したことを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造した。
【0075】
また、加湿膜のサンプルD,E,Fを製造した。ここで、サンプルDは、乾燥温度を130℃に設定し、焼成工程を省略したことを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造し、サンプルEは、乾燥温度を140℃に設定し、焼成工程を省略したことを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造し、サンプルFは、乾燥温度を150℃に設定し、焼成工程を省略したことを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造した。
【0076】
そして、製造したサンプルA,B,C,D,E,Fのそれぞれについて、リーク試験を実施した。
図15は、リーク試験に用いた試験装置50の概略断面図である。
図15に示すように、この試験装置50は、蓋部51及び容器部52を有する。容器部52は上端面及び下端面を有する円柱状に形成され、その内部には、上端面に開口した中央凹部52a及び、この中央凹部52aに連通した連通路52bが形成されている。
【0077】
中央凹部52aは、円柱状の容器部52の軸線方向に延びており、容器部52の中心軸線を中心とした断面円形状に形成される。この中央凹部52aの下方部に連通路52bが連通する。連通路52bは、一端が容器部52の側周面に開口し、その開口端から容器部52の径方向に延びている。連通路52bの他方端は閉塞されており、この閉塞端にリーク圧力センサ53が取り付けられている。したがって、リーク圧力センサ53は、連通路52bを通じて中央凹部52a内の圧力を計測することができる。
【0078】
蓋部51は、円板状に形成されていて、その中央部に断面円形の貫通孔51aが厚み方向に貫通して形成されている。蓋部51の外径は、容器部52の外径と同径である。そして、蓋部51が容器部52の上端面に被せられ、締結ボルト等によって蓋部51と容器部52が固定される。このとき、容器部52の上端面に開口した中央凹部52aの開口面と、蓋部51に形成された貫通孔51aの下端開口面が、サンプル(A,B,C,D,E,F)によって完全に覆われるように、サンプルが蓋部51と容器部52との間に挟み込まれる。
【0079】
この試験装置50を用いたリーク試験では、上記のようにしてサンプルを蓋部51と容器部52との間に挟み込んだ状態で、容器部52の連通路52bの開口からエアーを導入する。これにより中央凹部52a内の圧力が上昇する。中央凹部52a内の圧力が70kPaに達した時点でエアーの導入を停止するとともにリーク圧力センサ53により中央凹部52a内の圧力(この圧力をリーク圧力と呼ぶ)を経時的に計測する。このようなリーク圧力の計測を、サンプルA,B,C,D,E,Fのそれぞれを蓋部51と容器部52との間に挟み込んだ場合について行った。そして、計測開始から1分経過後のリーク圧力が65kPa以上である場合には、リークしていないと判定した。一方、1分経過後のリーク圧力が65kPa未満である場合には、リークしていると判定した。
【0080】
図16は、サンプルA,B,Cについてのリーク試験結果を示す図である。この
図16において、グラフAがサンプルAのリーク試験結果を、グラフBがサンプルBのリーク試験結果を、グラフCがサンプルCのリーク試験結果を示す。
図16に示すように、サンプルA及びサンプルBについては、1分経過後のリーク圧力が65kPa未満であるため、リークしていると判定できる。この判定結果から、サンプルA及びサンプルBの補強体の開口に形成される含水性樹脂膜は破れており、破れた箇所からエアーがリークしたと考えられる。したがって、乾燥温度が50℃または60℃である場合、補強体の開口を覆うように含水性樹脂膜が形成されない。
【0081】
一方、サンプルCについては、1分経過後のリーク圧力がほぼ70kPaであり、リークしていないと判定できる。この判定結果から、サンプルCの補強体の開口に形成される含水性樹脂膜は破れておらず、開口を覆うように成膜されていると考えられる。したがって、乾燥工程における乾燥温度が70℃以上であれば、補強体の開口を覆うように含水性樹脂膜を成膜できることが確認された。
【0082】
図17は、サンプルD、E,Fについてのリーク試験結果を示す図である。この
図17において、グラフDがサンプルDのリーク試験結果を、グラフEがサンプルEのリーク試験結果を、グラフFがサンプルFのリーク試験結果を示す。
図17に示すように、サンプルE及びサンプルFについては、1分経過後のリーク圧力が65kPa未満であるため、リークしていると判定できる。この判定結果から、サンプルE及びサンプルFの補強体の開口に形成される含水性樹脂膜は破れており、破れた箇所からエアーがリークしたと考えられる。したがって、乾燥温度が140℃または150℃である場合、補強体の開口を覆うように含水性樹脂膜が形成されない。
【0083】
一方、サンプルDについては、1分経過後のリーク圧力が69kPa程度であり、リークしていないと判定できる。この判定結果から、サンプルDの補強体の開口に形成される含水性樹脂膜は破れておらず、開口を覆うように成膜されていると考えられる。したがって、乾燥工程における乾燥温度が130℃以下であれば、補強体の開口を覆うように含水性樹脂膜を成膜できることが確認された。
【0084】
また、
図16及び
図17の結果より、乾燥工程における乾燥温度が、70℃以上であり且つ130℃以下であれば、補強体の開口を覆うように含水性樹脂膜を成膜できることがわかる。なお、乾燥時間は、設定された乾燥温度にて補強体に付着した原料液中の溶媒が完全に蒸発或いは揮発するまでの時間であるとよい。
【0085】
(焼成条件の範囲)
加湿膜のサンプルG,H,I,Jを製造した。ここで、サンプルGは、焼成工程における焼成温度が140℃、焼成時間が0.5hrであることを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造し、サンプルHは、焼成工程における焼成温度が140℃、焼成時間が1hrであることを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造し、サンプルIは、焼成工程における焼成温度が140℃、焼成時間が16hrであることを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造し、サンプルJは、焼成工程における焼成温度が140℃、焼成時間が24hrであることを除き、実施例1と同じ材料及び方法により製造した。
【0086】
製造した各サンプルG,H,I,Jに対し、上記の耐水性評価にて説明した試験と同じ試験を行った。そして、試験後のサンプルの表面のSEM画像を撮影した。
図18は、各サンプルG,H,I,Jの耐水性評価試験後のSEM画像を示す。
図18から、全てのサンプルG,H,I,Jについては、含水性樹脂膜が荒れており、含水性樹脂膜が水に溶けていることがわかる。このため、焼成温度が140℃である場合、焼成時間を長くしても含水性樹脂膜の耐水性が不十分であることが確認された。よって、含水性樹脂膜の良好な耐水性を確保するためには、サンプルS1乃至S4の焼成条件のように、焼成温度が150℃以上であり、焼成時間が20分以上であるのが良いことが確認された。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態の実施例では、含水性樹脂膜がNafion(登録商標)により構成される例について説明したが、その他の含水性樹脂膜を用いても良い。このように、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。
【符号の説明】
【0088】
10…補強体
20…含水性樹脂膜