(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186276
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20221208BHJP
H01L 21/60 20060101ALI20221208BHJP
H01L 23/48 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H01L23/36 A
H01L21/60 321E
H01L23/48 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094415
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井越 太朗
【テーマコード(参考)】
5F136
【Fターム(参考)】
5F136BB13
5F136DA04
(57)【要約】
【課題】半導体素子にクリップが接合されてなる半導体装置において、半導体素子とクリップとの接合部分の近傍における局所的な発熱を抑制し、信頼性を向上する。
【解決手段】半導体装置1は、半導体素子3とクリップ8とが接合材4を介して接合されると共に、これらの間に熱抵抗部としての絶縁層7が配置されている。半導体素子3とクリップ8との間であって、接合材4を介して接合された領域を接合領域とすると、接合領域は、絶縁層7が配置された部分の放熱性が、接合領域の他の部分よりも小さくなっている。これにより、クリップ8において意図的に発熱領域が設けられ、半導体装置1における発熱領域が分散される結果、半導体素子3とクリップ8との接合部分の近傍における局所的な発熱が抑制される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置であって、
リードフレーム(2)と、
前記リードフレームの上に搭載される半導体素子(3)と、
前記半導体素子のうち前記リードフレームとは反対側の表面(3a)の電極(32)に接合材(4)を介して接合されるクリップ(8)と、
前記半導体素子および前記クリップを覆う封止材(9)と、
前記半導体素子と前記クリップとの間の領域であって、前記接合材を介して接合されている部分を接合領域(Rj)として、前記接合領域に配置される熱抵抗部(7、81)と、を備え、
前記熱抵抗部は、前記接合領域のうち前記熱抵抗部とは異なる領域よりも熱抵抗が大きい、半導体装置。
【請求項2】
前記熱抵抗部は、絶縁層(7)である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記絶縁層は、前記接合領域であって、前記電極の外郭とは距離を隔てた位置に1つ配置されている、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記絶縁層は、互いに独立した複数の島部(71)により構成されており、
複数の前記島部は、前記接合領域であって、前記電極の外郭とは距離を隔てた位置にそれぞれ配置されている、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記熱抵抗部は、前記クリップのうち前記半導体素子と向き合う接合面(8a)に設けられた凹部(81)である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
半導体装置であって、
リードフレーム(2)と、
前記リードフレームの上に搭載される半導体素子(3)と、
前記半導体素子のうち前記リードフレームとは反対側の表面(3a)の電極(32)に接合材(4)を介して接続されるクリップ(8)と、
前記半導体素子および前記クリップを覆う封止材(9)と、を備え、
前記クリップは、互いに隙間を隔てて配置され、前記接合材を介して前記半導体素子に接合される複数の接合部(82)を有し、
複数の前記接合部のうち少なくとも2つの前記接合部は、延設された方向を揃えて平行配置され、それぞれ前記電極のうち外郭近傍を含む領域に接続されている、半導体装置。
【請求項7】
半導体装置であって、
リードフレーム(2)と、
前記リードフレームの上に搭載される半導体素子(3)と、
前記半導体素子のうち前記リードフレームとは反対側の表面(3a)に接合材(4)を介して接続される複数のクリップ(8)と、
前記半導体素子および前記クリップを覆う封止材(9)と、を備え、
複数の前記クリップは、互いに隙間を隔てて配置されている、半導体装置。
【請求項8】
前記半導体素子は、前記表面に互いに独立した2つの電極(32)を有し、
2つの前記電極は、それぞれ異なる前記クリップが接続されている、請求項7に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子にクリップが接合されてなる半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子の電極に板状部材のクリップが接合され、半導体素子およびクリップが封止材により覆われてなる半導体装置が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載の半導体装置は、ダイパッドと、複数のリードと、半導体素子と、クリップと、接合材と、封止樹脂とを備える。この半導体装置は、接合材を介して、半導体素子の電極および一部のリードにクリップが接合されており、半導体素子と一部のリードとが電気的に接続された構造となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の半導体装置では、半導体素子とクリップとの接合部分の面積をできる限り広くし、これらの接合部分における熱抵抗を小さくすることで、半導体素子の放熱性を高めた構造とされている。
【0006】
しかしながら、本発明者らがこのような構造の半導体装置における信頼性向上について鋭意検討を行った結果、半導体素子のうちクリップが接合された部分の近傍において局所的な発熱に起因して電流が集中し、破損が生じうることが判明した。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑み、半導体素子にクリップが接合されてなる半導体装置において、半導体素子とクリップとの接合部分の近傍における局所的な発熱を抑制し、信頼性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の半導体装置は、半導体装置であって、リードフレーム(2)と、リードフレームの上に搭載される半導体素子(3)と、半導体素子のうちリードフレームとは反対側の表面(3a)の電極(32)に接合材(4)を介して接合されるクリップ(8)と、半導体素子およびクリップを覆う封止材(9)と、半導体素子とクリップとの間の領域であって、接合材を介して接合されている部分を接合領域(Rj)として、接合領域に配置される熱抵抗部(7、81)と、を備え、熱抵抗部は、接合領域のうち熱抵抗部とは異なる領域よりも熱抵抗が大きい。
【0009】
この半導体装置は、半導体素子とクリップとの間であって、接合材を介して接合された接合領域内に熱抵抗部が配置され、熱抵抗部が接合領域における他の部分よりも熱抵抗が大きい構成となっている。これにより、接合領域のうち熱抵抗部が配置された部分は、放熱性が他の部分よりも小さくなることで、発熱量が相対的に大きくなる。この結果、放熱性が低い領域が分散されることとなり、半導体装置のうち放熱性が大きいクリップと、クリップ近傍の放熱性が小さい領域との間における局所的な熱集中が抑制される。そのため、この半導体装置は、意図的に放熱性が小さい領域が設けられることで、半導体素子とクリップとの接続部分の近傍における居所的な熱集中、およびこれに起因する電流集中や破損が抑制され、信頼性が向上する。
【0010】
請求項6に記載の半導体装置は、半導体装置であって、リードフレーム(2)と、リードフレームの上に搭載される半導体素子(3)と、半導体素子のうちリードフレームとは反対側の表面(3a)の電極(32)に接合材(4)を介して接続されるクリップ(8)と、半導体素子およびクリップを覆う封止材(9)と、を備え、クリップは、互いに隙間を隔てて配置され、接合材を介して半導体素子に接合される複数の接合部(82)を有し、複数の接合部のうち少なくとも2つの接合部は、延設された方向を揃えて平行配置され、それぞれ電極のうち外郭近傍を含む領域に接続されている。
【0011】
この半導体装置は、半導体素子とクリップとが接合されてなり、クリップが接合材を介して半導体素子と接合される複数の接合部を有し、複数の接合部が互いに離れて配置された構成となっている。これにより、半導体素子の電極のうちクリップの複数の接合部の間に位置する部分は、放熱性が大きいクリップが接続されないため、接合部よも放熱性が低下する。この結果、放熱性が小さい領域が分散されることとなり、半導体装置のうち放熱性が大きいクリップと、クリップ近傍の放熱性が小さい領域との間における局所的な熱集中が抑制される。そのため、この半導体装置は、意図的に放熱性が小さい領域が設けられることで、半導体素子とクリップとの接続部分の近傍における局所的な熱集中、およびこれに起因する電流集中や破損が抑制され、信頼性が向上する。
【0012】
また、この半導体装置は、複数の接合部のうち少なくとも2つの接合部が、延設方向を揃えて平行配置され、半導体素子の電極の外郭近傍に接合されることで、当該電極のうち接合部よりも外郭側に位置する部分の面積が小さくなっている。そのため、この半導体装置は、半導体素子の電極のうち接合部よりも外郭側における放熱性が小さい部分の面積が少なくなり、放熱性が小さい領域が必要以上に生じない構造である。
【0013】
請求項7に記載の半導体装置は、半導体装置であって、リードフレーム(2)と、リードフレームの上に搭載される半導体素子(3)と、半導体素子のうちリードフレームとは反対側の表面(3a)に接合材(4)を介して接続される複数のクリップ(8)と、半導体素子およびクリップを覆う封止材(9)と、を備え、複数のクリップは、互いに隙間を隔てて配置されている。
【0014】
この半導体装置は、1つの半導体素子に、接合材を介して複数の異なるクリップが接合されてなり、複数のクリップが互いに離れて配置された構成となっている。これにより、半導体素子の表面のうち複数のクリップの間に位置する部分は、他の部分に比べて、放熱性が小さい領域となる。これにより、上記した他の半導体装置と同様に、放熱性が小さい領域が分散し、クリップの近傍においける局所的な熱集中、およびこれに起因する電流集中や破損が抑制され、信頼性が向上する効果が得られる。
【0015】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の半導体装置を示す上面レイアウト図である。
【
図2】
図1のII-II間の断面を示す断面図である。
【
図3】
図1のIII-III間の断面を示す断面図である。
【
図4】比較例の半導体装置を示す断面図であって、
図2に相当する図である。
【
図5】比較例の半導体装置における局所的な熱集中を説明するための説明図である。
【
図6A】半導体素子とクリップとの間における熱抵抗部としての絶縁層の第1の配置例を示す図である。
【
図6B】熱抵抗部としての絶縁層の第2の配置例を示す図である。
【
図6C】熱抵抗部としての絶縁層の第3の配置例を示す図である。
【
図6D】熱抵抗部としての絶縁層の第4の配置例を示す図である。
【
図6E】熱抵抗部としての絶縁層の第5の配置例を示す図である。
【
図6F】熱抵抗部としての絶縁層の第6の配置例を示す図である。
【
図7】クリップ側に絶縁層を配置した例を示す図である。
【
図8】第2実施形態の半導体装置を示す断面図であって、
図2に相当する図である。
【
図9】第3実施形態の半導体装置を示す上面レイアウト図である。
【
図10】第3実施形態の半導体装置の変形例を示す上面レイアウト図である。
【
図11】第4実施形態の半導体装置を示す上面レイアウト図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態の半導体装置1について説明する。本実施形態の半導体装置1は、例えば、自動車等の車両に搭載される車載用途に適用されると好適であるが、勿論、他の用途にも採用されうる。
【0019】
図1では、半導体装置1を構成する各部材および配置関係を分かり易くするため、後述する封止材9で覆われる各部材の外郭の一部を実線で示すと共に、封止材9以外の部材で覆われた部分の外郭を破線で示している。
【0020】
〔基本構成〕
本実施形態の半導体装置1は、例えば
図1に示すように、ダイパッド21および複数のリード22、23を有するリードフレーム2と、半導体素子3と、ワイヤ5と、制御素子6と、クリップ8と、封止材9とを有してなる。半導体装置1は、例えば
図2および
図3に示すように、半導体素子3とクリップ8との接続に用いられる接合材4と、半導体素子3とクリップ8との間に配置された絶縁層7と、をさらに有してなる。
【0021】
リードフレーム2は、例えば、ダイパッド21、ダイパッド21から外部に延設された複数の第1リード22、ダイパッド21から独立した第2リード23、および第3リード24を有してなる。リードフレーム2は、例えば、Cu(銅)やFe(鉄)等の任意の金属材料やその合金材料等により構成される。リードフレーム2は、例えば、半導体装置1の製造途中までは、ダイパッド21および複数のリード23、24が図示しないタイバーにより連結されており、封止材9の成形後の打ち抜き加工によりタイバーが除去されることで、これらが分離した状態とされる。
【0022】
ダイパッド21は、例えば
図2に示すように、半導体素子3およびその駆動制御用の制御IC6が接合材4を介して搭載されている。ダイパッド21は、例えば、半導体素子3が搭載される搭載面とは反対側の面が封止材9から露出している。これは、ダイパッド21から外部に延設された複数の第1リード22、ダイパッド21から独立した第2リード23、第3リード24についても同様である。
【0023】
複数の第1リード22は、例えば、互いに距離を隔てて平行配置され、ダイパッド21から外部に向かって延設されている。複数の第1リード22は、ダイパッド21側とは反対側の端面が封止材9から露出した状態となっている。これは、第2リード23、第3リード24についても同様である。
【0024】
第2リード23は、ダイパッド21および第3リード24から独立すると共に、例えば、互いに離れて平行配置されている。複数の第2リード23のうち一部の第2リード23は、例えば、ワイヤ5を介して、制御IC6に電気的に接続されており、制御IC6の駆動に用いられる。
【0025】
第3リード24は、第2リード23よりも平面サイズが大きく、接合材4を介してクリップ8が接合される。第3リード24は、クリップ8を介して、半導体素子3の第2電極32に電気的に接続されており、半導体素子3の駆動時の電流経路となっている。
【0026】
なお、上記したリードフレーム2の構成は、あくまで一例であり、搭載される半導体素子3、制御IC6の数や大きさなどに応じて、ダイパッド21やリード22~24の数、大きさや配置等については適宜変更されてもよい。また、リードフレーム2は、例えば、一部または全部の領域に、Au(金)やSn(錫)などによりなる図示しない外装めっきが施されていてもよい。
【0027】
半導体素子3は、例えば、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor )やIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの縦型のパワー素子とされる。半導体素子3は、例えば、主に、Si(シリコン)やSiC(炭化珪素)などの半導体材料により矩形板状に構成され、公知の半導体プロセスにより製造される。半導体素子3は、例えば、リードフレーム2とは反対側の面を表面3aとし、リードフレーム2と向き合う面を裏面3bとして、表面3aおよび裏面3bそれぞれに電極が形成されている。半導体素子3は、例えば、裏面3bに第1電極31が形成され、表面3aに第1電極31と対をなす第2電極32、および複数の第3電極33が形成されている。半導体素子3は、例えば、第1電極31がドレイン電極、第2電極32がソース電極、第3電極33がゲート電極として機能する構成となっている。半導体素子3は、第1電極31が接合材4を介してダイパッド21に接合されると共に、第2電極32が接合材4を介してクリップ8に接合されている。半導体素子3は、第3電極33がワイヤ5を介して制御IC6に電気的に接続されており、制御IC6により第1電極31と第2電極32との電流のオン/オフ制御がなされる。
【0028】
接合材4は、例えば、はんだ等の導電性のある接合材料であり、任意の接合材料で構成される。
【0029】
ワイヤ5は、例えば、Au(金)やAl(アルミニウム)などの金属材料で構成されており、ワイヤボンディングによりリードフレーム2、半導体素子3や制御IC6に接続される。
【0030】
制御IC6は、半導体素子3の電流制御に用いられる制御回路を備える制御素子であり、例えば、MOSFET等のパワー素子に対応した任意の電源制御用の素子とされる。制御IC6は、例えば、一面に複数の電極パッド61を有し、ワイヤ5を介して半導体素子3の第3電極33や複数のリード23に接続されており、半導体素子3や外部電源等との電気的なやり取りが可能となっている。制御IC6は、例えば、半導体素子3と同様に、ダイパッド21の上に接合材4を介して搭載されている。
【0031】
絶縁層7は、例えば
図3に示すように、半導体素子3の第2電極32とクリップ8との間に配置され、第2電極32とクリップ8との間における一部の領域の熱抵抗を意図的に大きくする熱抵抗部として機能する部材である。絶縁層7は、任意の絶縁性材料、例えばPIQ(Polyimide-isoindolo quinazolinedione)やレジスト材料などにより構成され、ディスペンサー等により塗布成膜される。絶縁層7は、第2電極32とクリップ8との間に放熱性が小さい領域を意図的に形成し、放熱性が小さい領域を分散させることで、クリップ8の近傍領域において局所的な熱集中を防ぐ役割を果たす。この詳細については、後述する。
【0032】
クリップ8は、例えば、Cuなどの導電性および熱伝導性が高い金属材料やその合金材料などにより構成され、半導体素子3と第3リード24とを電気的に接続する配線部材である。クリップ8は、一端側が半導体素子3の第2電極32に、他端側が第3リード24に接合材4により接合される。クリップ8は、例えば、
図2に示すように、半導体素子3に接合される部分の厚みが、他の部分の厚みよりも大きい構成とされる。クリップ8は、例えば、Cuなどによりなる板材を用意し、切削やハーフエッチング等により部分的に厚みが薄い部位を形成した後に、曲げ加工を施すことにより得られる。なお、クリップ8は、上記した構成に限定されるものではなく、厚みが一様な構成であってもよく、この場合にはCuなどによりなる板材に曲げ加工を施すことにより得られる。
【0033】
封止材9は、例えば、エポキシ樹脂などの絶縁性および硬化性を有する任意の樹脂材料で構成され、リードフレーム2の一部および半導体装置1の他の構成部材を覆う部材である。封止材9は、例えば、図示しない金型を用い、コンプレッション成形等の任意の樹脂成形法により成形される。
【0034】
以上が、本実施形態の半導体装置1の基本的な構成である。
【0035】
〔絶縁層〕
次に、絶縁層7の効果や構成等について、絶縁層7を有しない比較例の半導体装置100と対比して説明する。
【0036】
比較例の半導体装置100は、例えば
図4に示すように、基本的な構成については半導体装置1と同様であるが、絶縁層7を有しておらず、半導体素子3とクリップ8との間に絶縁層7が配置されていない。比較例の半導体装置1は、半導体素子3の第2電極32にクリップ8が接合されており、これらの接合面積が第2電極32の平面積とほぼ同程度となっている。これにより、比較例の半導体装置100は、半導体素子3の第2電極32とクリップ8との接合部分における抵抗が小さくされ、当該接合部分における接続抵抗に起因する発熱量が低減されている。
【0037】
比較例の半導体装置100は、例えば
図5に示すように、半導体素子3の表面3aのうちクリップ8が接合された領域の直下に位置する直下部位3aaと、その近傍であって、クリップ8が接合されていない部位である近傍部位3abとを有する。熱伝導率が高いCuなどによりなるクリップ8が配置された直下部位3aaは、高放熱領域R
Hとなっている。一方、クリップ8よりも熱伝導率が低い封止材9が配置された近傍部位3abは、低放熱領域R
Lとなっている。
【0038】
本発明者らが比較例の半導体装置100における信頼性評価を実施したところ、クリップ8の近傍、すなわち近傍部位3abあるいは直下部位3aaと近傍部位3abとの境界部分において過電流が生じ、絶縁破壊が生じることが判明した。これは、高放熱領域RHと低放熱領域RLとの放熱性の差が大きいことに起因して、これらの境界において局所的な熱集中が生じるためであると考えられる。具体的には、半導体素子3において局所的な熱集中が生じると、当該熱の集中箇所の温度が他の部位よりも上昇し、電気抵抗が低下する。この電気抵抗の低下に伴い、局所的な熱集中の箇所における電流量が増加し、発熱量がさらに増加し、ひいてはさらなる電気抵抗の低下が引き起こされる。このサイクルの繰り返しにより、半導体素子3において局所的な耐量低下が生じ、最終的に破損に至ったと考えられる。そのため、このような破損を抑制するためには、発熱領域を分散させる必要がある。
【0039】
これに対して、本実施形態の半導体装置1は、例えば
図6Aに示すように、半導体素子3とクリップ8との間であって、接合材4を介して接合された領域を接合領域R
jとして、接合領域R
jに熱抵抗部としての絶縁層7が配置されている。
【0040】
絶縁層7は、例えば、互いに距離を隔てて島状に配置された複数の島部71により構成されうる。複数の島部71は、例えば、上面視にて、いずれも略四角形状とされ、接合領域Rjの外郭よりも内側に配置され、クリップ8のうちその外郭よりも内側領域における熱抵抗を大きくする役割を果たす。つまり、クリップ8の接合面8aのうち島部71の上に位置する部分は、接合面8aの他の部分よりも放熱性が小さくなる。その結果、クリップ8の接合面8aにおける発熱領域が島部71の数だけ分散され、クリップ8の近傍における熱集中が緩和され、これに起因する電流集中や破損が抑制される。
【0041】
絶縁層7は、
図6Aの例に限定されるものではなく、例えば
図6Bに示すように、上面視にて、略長方形状とされた4つの島部71により構成され、長手方向を
図6Bの紙面上下方向に揃えて平行配置されてもよい。絶縁層7は、
図6Cや
図6Dに示すように、複数の島部71が、その長手方向を紙面左右方向に揃えて、平行配置された構成であってもよい。絶縁層7は、例えば
図6Eに示すように、上面視にて、略矩形状とされ、接合領域R
jの外郭から距離を隔てた位置、すなわち接合領域R
jの中心を含む所定の領域に1つのみ配置されてもよい。また、絶縁層7は、例えば
図6Fに示すように、上面視にて、略円形状とされてもよい。
【0042】
このように、絶縁層7は、接合領域Rjの外郭近傍から離れた位置に配置され、クリップ8における発熱領域を分散できる構成であればよく、その外郭形状、島部71の数や配置等については適宜変更されてもよい。なお、クリップ8における発熱領域の分散の観点からは、絶縁層7は、複数の島部71を有する構成とされることが好ましい。
【0043】
また、絶縁層7は、第2電極32とクリップ8の接合面8aとの間に配置されていればよく、例えば
図7に示すように、クリップ8の接合面8a側に形成されていてもよい。この場合、絶縁層7は、例えば、クリップ8を半導体素子3に接合する前に、クリップ8の接合面8aに予めパターン成膜される。また、絶縁層7は、複数の島部71が接合面8aに配置されてもよいし、1つのみが接合面8aに配置された構成であってもよく、半導体素子3側に形成される場合と同様に、配置や構成等が適宜変更されてもよい。
【0044】
本実施形態によれば、半導体素子3とクリップ8との間に絶縁層7が配置されることで、クリップ8の接合面8aに意図的に放熱性が小さい熱抵抗部が存在する構成の半導体装置1となる。これにより、半導体素子3とクリップ8との接合領域Rjにおける発熱が分散され、半導体素子3のうちクリップ8の外郭近傍に位置する近傍部位3abでの熱集中やこれに起因する電流集中および破損が抑制され、信頼性が向上する効果が得られる。
【0045】
(第2実施形態)
第2実施形態の半導体装置1について説明する。
【0046】
本実施形態の半導体装置1は、例えば
図8に示すように、絶縁層7を有さず、クリップ8の接合面8aが凹凸形状となっている点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0047】
クリップ8は、本実施形態では、例えば、接合面8aに半導体素子3とは反対側に向かって凹んだ凹部81が複数設けられている。クリップ8は、接合面8aが接合材4を介して半導体素子3の第2電極32に接合されており、凹部81に接合材4が充填されている。クリップ8は、凹部81が接合面8aの他の部分よりも半導体素子3から離れた状態とされ、熱抵抗が他の部分よりも大きい熱抵抗部として機能する。つまり、クリップ8は、凹部81が接合面8aの他の部分よりも放熱性が小さく、発熱量が大きいため、絶縁層7が配置された場合と実質的に同じ状態となる。そのため、本実施形態の半導体装置1は、クリップ8の接合面8aでの発熱領域が分散し、半導体素子3の近傍部位3abにおける局所的な熱集中が抑制される構成となる。
【0048】
なお、凹部81は、接合面8aに1つのみ設けられてもよいし、複数設けられ、互いに離れて配置されてもよい。また、凹部81は、例えば、矩形溝状とされ、深さが10μm程度とされるが、これに限定されるものではなく、その深さ、形状や寸法等については適宜変更されてもよい。
【0049】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。また、この半導体装置1は、絶縁層7を要しないため、絶縁層7の経年劣化の影響がなく、信頼性がより向上する効果が得られる。
【0050】
(第3実施形態)
第3実施形態の半導体装置1について説明する。
【0051】
本実施形態の半導体装置1は、例えば
図9に示すように、クリップ8が半導体素子3に接合される接合部82を複数有した構成である点、および絶縁層7を有しない点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0052】
クリップ8は、本実施形態では、互いに隙間を隔てて平行配置された2つの接合部82を有してなる。クリップ8は、例えば、Cuなどによりなる板材に切削やハーフエッチングなどの加工により厚みが異なる部分を設けた後に、プレス打ち抜き加工を施して不要部分を除去することで得られる。
【0053】
2つの接合部82は、例えば、上面視にて、長方形状とされ、その延設方向(すなわち長手方向)を揃えた状態で平行配置されている。2つの接合部82は、例えば、半導体素子3の第2電極32の外郭をなす複数の辺のうち対向する二辺に沿って配置されると共に、当該二辺の近傍を含む所定の領域に接合されている。これにより、第2電極32のうち接合部82とこれに隣接する外郭の一辺との間の領域の面積が小さくなることで、当該領域における広がり抵抗が抑制され、第2電極32のうちクリップ8の近傍に位置する外郭部分の発熱量が低減される。
【0054】
また、クリップ8のうち2つの接合部82に挟まれた部分は、半導体素子3の第2電極32が露出した状態となり、クリップ8よりも熱伝導率が小さい封止材9が配置される。そのため、第2電極32のうち2つの接合部82の間の領域は、接合部82が接合された領域よりも放熱性が小さくなり、半導体素子3における発熱領域が分散する結果、近傍部位3abでの局所的な熱集中を抑制する役割を果たす。
【0055】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。また、絶縁層7を有しないため、本実施形態の半導体装置1は、上記第2実施形態と同様の効果も得られる。
【0056】
(第3実施形態の変形例)
第3実施形態の半導体装置1は、例えば
図10に示すように、クリップ8が互いに離れた配置された3つの接合部82を有する構成であってもよい。このように、クリップ8は、互いに離れて配置された複数の接合部82を有する構成である場合、接合部82同士の隙間部分は、接合部82に比べて意図的に放熱性を小さくした熱抵抗部として機能する。そのため、半導体装置1は、互いに離れて配置された複数の接合部82を有するクリップ8を用いることにより、半導体素子3の第2電極32とクリップ8との境界部分における局所的な熱集中が抑制され、信頼性が向上する。
【0057】
なお、クリップ8は、上記のように、2つまたは3つの接合部82が互いに離れて平行配置された例に限定されるものではなく、4つ以上の接合部82を有していてもよい。クリップ8は、複数の接合部82のうち少なくとも2つの接合部82が、半導体素子3の第2電極32の外郭をなす辺のうち対向する二辺に沿って配置され、その二辺の近傍を含む領域に接合されることが好ましい。ここでいう「近傍」とは、例えば限定するものではないが、第2電極32の外郭をなす辺から1mm以内の距離に位置する部位を意味する。クリップ8は、接合部82の数、配置や寸法等については、接合される半導体素子3の電極に応じて適宜変更されてもよい。
【0058】
本変形例によっても、上記第3実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。
【0059】
(第4実施形態)
第4実施形態の半導体装置1について説明する。
【0060】
本実施形態の半導体装置1は、例えば
図11に示すように、半導体素子3が表面3aに2つの第2電極32を有し、2つの第2電極32に異なるクリップ8が接合されている点、および絶縁層7を有しない点で上記第1実施形態と相違する。本実施形態では、この相違点について主に説明する。
【0061】
半導体素子3は、本実施形態では、表面3aに互いに離れて配置された2つの第2電極32を有してなる。半導体素子3は、2つの第2電極32が裏面3bの第1電極31と対をなしており、第3電極33への電圧印加により厚み方向、すなわち縦方向に電流が生じる構成となっている。
【0062】
クリップ8は、半導体素子3の第2電極32の数と同数とされ、それぞれ異なる第2電極32に接合材4を介して接合される。2つのクリップ8は、1つの半導体素子3に接合されると共に、互いに独立しており、他方のクリップ8と接触しないように配置される。これにより、半導体装置1は、半導体素子3のうち2つの第2電極32の隙間の領域が、クリップ8と接合された領域よりも放熱性が小さくなり、発熱箇所が分散されることで、クリップ8の近傍に位置する部分における局所的な熱集中が抑制される。
【0063】
本実施形態によっても、上記第1実施形態と同様の効果が得られる半導体装置1となる。また、絶縁層7を有しないため、本実施形態の半導体装置1は、上記第2実施形態と同様の効果も得られる。
【0064】
(他の実施形態)
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらの一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0065】
例えば、上記各実施形態では、1つのダイパッド21に半導体素子3および制御IC6がそれぞれ1つずつ搭載された構成を代表例として説明したが、半導体装置1の構成は、これに限定されるものではない。例えば、半導体装置1は、独立した複数のダイパッド21を有し、半導体素子3と制御IC6とが異なるダイパッド21に搭載されていてもよい。
【0066】
また、半導体装置1は、封止材9内に制御IC6を有さず、外部に配置された制御IC6に半導体素子3が接続される構成であってもよい。
【0067】
さらに、半導体装置1は、例えば、封止材9内に2つの半導体素子3が配置された構成、いわゆる2in1であってもよいし、封止材9内に3つ以上の半導体素子3が配置された構成であってもよい。この場合、リードフレーム2の構成やクリップ8の数等については、半導体素子3の数等に応じて、適宜変更される。
【符号の説明】
【0068】
2・・・リードフレーム、3・・・半導体素子、3a・・・表面、32・・・電極、
4・・・接合材、7・・・(熱抵抗部としての)絶縁層、71・・・島部、
8・・・クリップ、8a・・・接合面、81・・・(熱抵抗部としての)凹部、
82・・・接続部、9・・・封止材、Rj・・・接合領域