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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186278
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】亜鉛二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/429 20210101AFI20221208BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20221208BHJP
   H01M 10/30 20060101ALN20221208BHJP
   H01M 10/32 20060101ALN20221208BHJP
   H01M 12/08 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
H01M50/429
H01M50/449
H01M10/30 Z
H01M10/32 Z
H01M12/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094417
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】片山 幸久
(72)【発明者】
【氏名】藪崎 貴柾
【テーマコード(参考)】
5H021
5H028
5H032
【Fターム(参考)】
5H021CC04
5H021EE01
5H028AA05
5H028EE06
5H032AA01
5H032AS03
5H032CC06
5H032EE04
(57)【要約】
【課題】本発明は、デンドライト成長、及び負極の性能低下が抑制され、長期的な性能安定性を維持できる、亜鉛二次電池の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の亜鉛二次電池は、正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを、有し、前記セパレータが、キチン及び/又はキトサンからなる干渉層を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを、有し、
前記セパレータが、キチン及び/又はキトサンからなる干渉層を含む、亜鉛二次電池。
【請求項2】
前記セパレータが、支持体を更に含み、
前記干渉層が、前記支持体の表面に積層される、
請求項1に記載の亜鉛二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器の普及や、環境及びエネルギー問題を背景としたハイブリッド車の普及、あるいは電気自動車や余剰電力貯蔵用の定置式大型電池の開発などに見られるように、電池、特に二次電池の果たす役割とそれに対する期待はますます大きくなっている。代表的な二次電池として、亜鉛二次電池が挙げられる。亜鉛二次電池の具体例としては、ニッケル亜鉛二次電池、空気亜鉛二次電池、及び銀亜鉛二次電池等が知られている。中でも、ニッケル亜鉛二次電池は、高率放電性能に優れ、低温で使用可能であるという利点を有する。加えて、ニッケル亜鉛二次電池は、不燃性のアルカリ電解液を使用することから安全性が高いという利点を有する。
【0003】
ニッケル亜鉛二次電池は、亜鉛の溶解-析出反応を充放電反応に利用する。そのため、反応が不均一に起こると亜鉛由来のデンドライトが生成し、放充電を繰り返すと、このデンドライトがセパレータを突き破って正極と短絡を引き起こすとの問題を有する。
【0004】
特許文献1には、放充電性能を考慮して、亜鉛活物質の結着剤として塩基性多糖類のキトサンを用いた亜鉛極が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、デンドライトの成長による短絡を抑制するために、ニッケル亜鉛二次電池の正極と負極の間にアニオン伝導性膜を設けることが記載されている。アニオン伝導性膜は、ポリマーと、化合物とを含み、かつ、アニオン伝導性膜の少なくとも一部に絶縁性物質が被覆及び/又は含浸されている。また、ポリマーとしては、キチン及びキトサンが例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平02-270261号公報
【特許文献2】特開2016-186895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、塩基性多糖類のキトサンを電極として用いているが、負極電極内は強い還元雰囲気下であるため、放充電に伴い、キトサンが有するカチオン性の官能基が分解される。そうすると、デンドライト等の金属に対する吸着性が不十分となり、負極の性能を維持できないとの問題を有する。
【0008】
また、特許文献2では、アニオン伝導性膜が絶縁性物質を有することで、負極の電流集中を生じにくくさせ、デンドライト成長を抑制することを意図している。しかしながら、アニオン伝導性膜に、ポリマーと、無機物等のポリマーと異なる材料とが存在すると、ポリマーと無機物等の間に僅かながら隙間を生じ、その隙間を起点として、デンドライトが発生するおそれがある。そのため、デンドライトによる短絡抑制性能には、改善の余地がある。
【0009】
そこで、本発明は、デンドライト成長、及び負極の性能低下が抑制され、長期的な性能安定性を維持できる、亜鉛二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは鋭意研究を重ねたところ、正極と負極の間に、セパレータとして、高温、及び濃アルカリ性の電解液下においても非常に安定な骨格を持つキチン及び/又はキトサンからなる干渉層を介在させることで、デンドライト成長が抑制され、デンドライトの要因となるアノード付近から溶出するアニオン類が吸着されることを見出した。その結果、負極の性能低下が抑制され、長期的な性能安定性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]正極と、負極と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータとを、有し、前記セパレータが、キチン及び/又はキトサンからなる干渉層を含む、亜鉛二次電池。
[2]前記セパレータが、支持体を更に含み、前記干渉層が、前記支持体の表面に積層される、[1]に記載の亜鉛二次電池。
【発明の効果】
【0012】
本発明の亜鉛二次電池は、デンドライト成長、及び負極の性能低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の亜鉛二次電池の形態の一例を説明するための模式的に示す断面図である。
図2】従来の亜鉛二次電池の形態の一例を模式的に示す断面図である。
図3】実施例及び比較例における放充電サイクル数(短絡までのサイクル数)と容量維持率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0015】
本実施形態の亜鉛二次電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータとを、有し、セパレータが、キチン及び/又はキトサンからなる干渉層を含む。なお、本実施形態において、「キチン及びキトサンからなる」には、「キチンとキトサンとのみを含む混合物」の態様と共に、「構造中にキチンの部分構造とキトサンの部分構造との両方を含む化合物又は共重合体」の態様も含む。
【0016】
本実施形態の亜鉛二次電池は、正極と負極の間に、セパレータとして、高温、及び濃アルカリ性の電解液下においても、非常に安定な骨格を持つキチン及び/又はキトサンからなる干渉層を介在させることで、亜鉛負極を用いた電池、特に亜鉛二次電池で問題となり得るデンドライト成長を抑制することができる。また、干渉層は、デンドライトの要因となるアノード付近から溶出するアニオン類(例えば、Zn(OH)4 2-)を吸着することができるため、アニオン類のマイグレーションを抑制させることができる。そのため、亜鉛二次電池において、負極の性能低下を抑制することができ、亜鉛二次電池は、サイクル耐久性及び自己放電性を向上させることができ、電池の充放電サイクルの経過に伴う容量維持率の低下を抑制でき、長期的な性能安定性を維持することができる。
【0017】
本実施形態の亜鉛二次電池がこのような効果を発現する要因は明らかではないが、本発明者らはその要因を以下のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。図1は、本実施形態の亜鉛二次電池の形態の一例を説明するための模式的に示す断面図である。図1における左図に示すとおり、通常、亜鉛二次電池は、正極集電体1と、正極活物質2と、セパレータ3と、負極集電体4と、負極活物質5と、セパレータ6と、電解液7とを含む。
一方、本実施形態の亜鉛二次電池では、図1における右図に示すとおり、正極と、負極と、正極と負極との間に配置されたセパレータ10とを、有し、セパレータ10が、キチン及び/又はキトサンからなる干渉層9を含む。干渉層9は、正極と負極との間に配置され、セパレータ10として用いてもよい。本実施形態の亜鉛二次電池では、正極と負極との間に支持体8を有していてもよい。支持体8は、干渉層9に接していてもよく、接していなくてもよい。セパレータ10は、支持体8を更に含み、干渉層9が、支持体8の表面に積層されていてもよい。この場合、干渉層9は、支持体8の片面だけに配置されていてもよく、表裏両面等全面に配置されていてもよい。干渉層9は、キチン及び/又はキトサンからなる。キチンは、主鎖として、式(1)で表される、N-アセチル-D-グルコサミンに由来する部分構造を有する。また、キトサンは、主鎖として、式(2)で表される、D-グルコサミンに由来する部分構造を有する。本実施形態では、干渉層9として、主鎖として、式(1)で表される、N-アセチル-D-グルコサミンに由来する部分構造を有するキチンと、主鎖として、式(2)で表される、D-グルコサミンに由来する部分構造を有するキトサンとの混合物を用いてもよく、構造中に、式(1)で表される、N-アセチル-D-グルコサミンに由来する部分構造と、式(2)で表される、D-グルコサミンに由来する部分構造との両方を有する化合物又は共重合体を用いてもよい。
【0018】
【化1】
【0019】
【化2】
【0020】
キチン及びキトサンは、主鎖としてこれらの部分構造を有し、いずれも高温で安定であり、特にキトサンは濃アルカリ性の電解液に対しても極めて安定であるため、デンドライトが干渉層を突き破り、正極と負極との短絡を引き起こすことがなく、デンドライトの成長を抑制することができる。更に、キチン及びキトサンは、式(1)及び(2)に示すとおり、カチオン性の官能基を有するため、デンドライトの要因となるアノード付近から溶出するアニオン類(例えは、Zn(OH)4 2-)を好適に吸着することもできる。加えて、カチオン部があるため、負に帯電した箇所に吸引する特定を持ち充電時にデンドライトの伸長を抑制することができる。その結果、アニオン類のマイグレーションを抑制させることが可能となる。このことから、亜鉛二次電池において、負極の性能低下を抑制することができ、亜鉛二次電池は、サイクル耐久性及び自己放電性を向上させることができ、電池の充放電サイクルの経過に伴う容量維持率の低下を抑制でき、長期的な性能安定性を維持することができると考えられる。一方、図2に示すとおり、従来の亜鉛二次電池は、負極側として、負極集電体4と、負極活物質5と、セパレータ6と、ポリビニルアルコール(PVA)等のカチオン性の合成ポリマー11とを有するが、カチオン性の合成ポリマー11は、高温、及び濃アルカリ性の電解液下において安定性が低いため、分解する。その結果、デンドライトの成長を抑制することができず、また、アニオン類を吸着することもできないため、長期的な性能安定性を維持することができない。
【0021】
干渉層は、正極と負極の間に配置すれば、負極の表面に配置する等、負極と接していてもよい。干渉層は、デンドライトの成長を一層抑制でき、かつ、アニオン類のマイグレーションを一層抑制できることから、正極と負極との間に配置し、負極から離れた場所に設置することが好ましい。
【0022】
干渉層は、キチン及び/又はキトサンによる、繊維質層、又はフィルム層であることが好ましい。また、干渉層は、自立型であっても、非自立型であってもよい。
【0023】
干渉層の厚さは、0.05~10μmの範囲にあることが好ましい。なお、本実施形態において、干渉層の厚さは、例えば、FE-SEM(電界放出型走査電子顕微鏡)による断面観察、及びレーザー顕微鏡を用いることで測定できる。
【0024】
本実施形態に係る干渉層は、キトサンからなることが、側鎖において、より高いカチオン性を有し、アニオン類をより一層吸着することができるため、好ましい。
【0025】
干渉層の作製方法は、特に限定されず、例えば、キチン及び/又はキトサンを、キチン及びキトサンの合計の濃度が1~10質量%になるように希酢酸溶液に加え、攪拌して、溶解させ、この混合液を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)上に1~15μmのフィルムになるようにアプリケータで塗工し、PTFE上にキチン・キトサン複合フィルム(干渉層)を作製する方法が挙げられる。
【0026】
本実施形態の亜鉛二次電池は、デンドライトの成長を一層抑制でき、かつ、アニオン類のマイグレーションを一層抑制できることから、正極と負極との間に、干渉層と支持体を含むセパレータを配置し、干渉層が、支持体の表面に積層されているか、又は干渉層が支持体の一部又は全部に含浸されていることが好ましい。支持体としては、多孔性かつ親水性である支持体、及び親水化剤により親水性になっている支持体が好ましい。また、キチン及び/又はキトサンと好適に複合化できることから、支持体が、親水化されたポリプロピレン及びポリエチレン等を主成分とする多孔膜や、セルロースを主成分とする不織布であることがより好ましい。
【0027】
干渉層は、キチン及びキトサンからなることが、支持体である不織布又は多孔膜と組み合わせることで、寸法精度と強度を兼ね備えた機能性セパレータを形成することができるため、より好ましい。
【0028】
支持体への干渉層の積層方法は、特に限定されず、予め干渉層を用意して、その干渉層を不織布及び/又は多孔膜に積層させる方法や、干渉層の原料を溶解させた溶解液を用意して、その溶解液を不織布及び/又は多孔膜に部分的に含浸させる方法が挙げられる。また、積層後に、熱処理を施すことが好ましい。
【0029】
本実施形態の亜鉛二次電池では、特定の干渉層を含むことにより、デンドライトの成長を抑制することができ、アニオン類のマイグレーションを抑制させることが可能となる。そのため、亜鉛二次電池において、負極の性能低下を抑制することができ、亜鉛二次電池は、サイクル耐久性及び自己放電性を向上させることができ、電池の充放電サイクルの経過に伴う容量維持率の低下を抑制でき、長期的な性能安定性を維持することができる。
【0030】
以下、亜鉛二次電池の一例として、本実施形態に係るニッケル亜鉛二次電池について説明する。
ニッケル亜鉛二次電池は、典型的には、例えば、正極活物質(水酸化ニッケル、オキシ水酸化ニッケル等)及び正極集電体を含む正極と、負極活物質(亜鉛、酸化亜鉛等)及び負極集電体を含む負極と、セパレータと、アルカリ電解液とを備える。なお、セパレータは、干渉層のみからなるセパレータでもよく、干渉層と支持体とを含むセパレータでもよい。干渉層及び支持体については、上記も参照してよい。
【0031】
正極には、ニッケル亜鉛二次電池に用いられている従来公知の正極を使用してよい。
具体的には、正極は、典型的には、正極集電体と、当該正極集電体に支持された正極活物質とを有する。
【0032】
正極集電体の形態としては、特に限定されないが、例えば、パンチングメタル、エキスパンドメタル、メッシュ、発泡体、セルメット等が挙げられる。
正極集電体を構成する材料としては、耐アルカリ性を有する金属が好ましく、ニッケルがより好ましい。
【0033】
正極活物質としては、水酸化ニッケル及びオキシ水酸化ニッケルの少なくとも一方が用いられる。正極では、この正極活物質により、以下の電気化学的反応が起こる。
〔充電〕Ni(OH)2+OH-→NiOOH+H2O+e-
〔放電〕NiOOH+H2O+e-→Ni(OH)2+OH-
電池特性向上の観点から、正極活物質には、亜鉛、コバルト、カドミウム等が固溶されていてもよい。電池特性向上の観点から、正極活物質の表面が、金属コバルト、コバルト酸化物等で被覆されていてもよい。
【0034】
また、正極は、導電材、バインダ等を含有していてもよい。すなわち、正極において、正極活物質と他の成分を含む正極合材が、正極集電体に支持されていてもよい。
導電材としては、特に限定されないが、例えば、オキシ水酸化コバルト、及びその前駆体等が挙げられる。
バインダとしては、特に限定されないが、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸ナトリウム(SPA)等が挙げられる。
【0035】
正極としては、水酸化ニッケルにコバルトを添加又はコーティングしたものを、発泡金属内に充填したものが好ましい。
【0036】
セパレータは、正極と負極との間に介在し、正極と負極とを絶縁するとともに、水酸化物イオンを伝導する部材である。
支持体は、ニッケル亜鉛二次電池に用いられている従来公知の支持体を使用してよい。
支持体としては、特に限定されないが、例えば、樹脂製の多孔質フィルム、樹脂製の不織布等を用いることができる。樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等)、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン等が挙げられる。
支持体は、単層構造であってもよく、二層以上の積層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。
また、支持体として、多孔質基材に、アルミナ、シリカ等の酸化物や、窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物を付着させたものを使用することができる。
【0037】
また、負極は、導電材、バインダ等を含有していてもよい。
ニッケル亜鉛二次電池の負極では、以下の電気化学的反応が起こるため、負極活物質は、亜鉛及び酸化亜鉛のうちの少なくとも1種が挙げられる。また、負極活物質は、亜鉛及び/又は酸化亜鉛と共に、増粘剤、バインダ、及びその他無機物を適宜組み合わせてもよい。
〔充電〕ZnO+H2O+2e-→Zn+2OH-
〔放電〕Zn+2OH-→ZnO+H2O+2e-
【0038】
負極集電体の形態としては、特に限定されないが、例えば、パンチングメタル及びそれらを部分的に溶接したもの、エキスパンドメタル、メッシュ、発泡体、並びにセルメット等が挙げられる。また、エンボス加工の凸部の頂部が開口したシート材等が挙げられる。
負極集電体を構成する材料としては、導電性が高く、良好な加工性を有する金属が好ましく、純銅及び銅合金(例、真鍮、銅とスズの合金等)がより好ましく、銅が特に好ましい。
また、負極集電体は、少なくとも表面が導電性を有していればよいため、表面が銅又は銅合金製で内部がニッケル等の他の材料製である構成も可能である。この内部の材料は、金属に限られず、よって、銅メッキされた不織布等も負極集電体として用いることができる。
負極活物質が析出可能な表面積が大きく、かつデンドライトの成長方向が分散されてデンドライトによる短絡が特に起こりにくいことから、負極集電体としては、三次元網目構造を有するものが好ましい。具体的には、発泡体、セルメット、銅メッキされた不織布が好ましい。中でも、柔軟性が高く負極の設計の自由度が高くなることから、銅メッキされた不織布がより好ましい。
負極集電体の表面は、亜鉛、スズ等の金属でメッキされていてもよく、スズでメッキされていることが好ましい。このようなメッキによれば、負極集電体からの水素発生を抑制することができる。
【0039】
電解液は、一般的な濃アルカリ水溶液を使用することができる。電解液には、電解質として、通常、アルカリ金属水酸化物が用いられる。アルカリ金属水酸化物としては、特に限定されないが、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。中でも、電解液が水酸化カリウムを含むことが好ましく、水酸化カリウムを主成分として、水酸化ナトリウム及び/又は水酸化リチウムを加えたものがより好ましい。電解液には、その他の無機物及び有機物を含んでいてもよい。
電解液の溶媒としては、通常、水が用いられる。
電解質の濃度は、特に制限はないが、好適には5mol/L以上11mol/L以下である。
【0040】
ニッケル亜鉛二次電池は、各種用途に利用可能であり、好適な用途としては、家庭用又は産業用のバックアップ電源、及び電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。
【実施例0041】
以下、実施例によって本実施形態を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
〔実施例1〕
<亜鉛二次電池用負極の作製>
無酸素銅(C1020)のパンチングメタルを基材とし、この基材上に厚さ3μmのスズめっきを重ねて、負極集電体を作製した。
次いで、負極合材として、酸化亜鉛粉(堺化学工業(株))、金属亜鉛粉((株)高純度化学研究所)、カルボキシメチルセルロース(富士フィルム和光純薬(株))、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョン溶液(ダイキン工業(株))をそれぞれ質量比で95:5:1:3の分量で混合した溶液に、水-イソプロパノール(IPA)を質量比で1:1の割合で混合した溶液を適量滴下し、自転・公転ミキサー((株)シンキー製)を用いて15分間混合し、白色のスラリーインクを得た。
このスラリーインクを上記の負極集電体の全面に、目付100mg/cm2にて塗布し、その後、負極電極体を80℃で2時間乾燥させた。その後、得られた乾燥物をロールプレス(テスター産業(株)製)にて、線圧1トンでプレスし、亜鉛合材負極を得た。この亜鉛合材負極の上端に厚さ120μmの純銅箔を抵抗溶接機で接合し、亜鉛二次電池用負極を得た。
【0043】
<干渉層の作製>
パウダー状のキチン(東京化成工業(株))とパウダー状のキトサン(東京化成工業(株))とを質量比で1:1の分量で混合し、この混合物を、濃度が7質量%になるように希酢酸溶液に加え、攪拌して、溶解させた。この混合液を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)上に5μmのフィルムになるようにアプリケータで塗工し、PTFE上にキチン・キトサン複合フィルム(干渉層)を作製した。
【0044】
<亜鉛二次電池の作製>
得られたキチン・キトサン複合フィルム上に、支持体である、親水化ポリプロピレン製多孔質膜(厚さ:20μm)を積層した。次いで、親水化ポリプロピレン製多孔質膜の面と、負極活物質の面(亜鉛合材が塗布されている面)とを貼り合わせながら、負極全体を包埋した。その後、キチン・キトサン複合フィルム上に積層されていたPTFEを剥離し、キチン・キトサン複合フィルムと親水性のセルロース不織布(廣瀬製紙(株))とを貼り合わせながら、負極全体を更に包埋した。
次いで、ニッケル製発泡金属の上に水酸化ニッケルを塗工及び乾燥し、得られた乾燥物をプレスして、正極を作製した。プレス後の正極に正極端子を溶接し、親水性のセルロース不織布(廣瀬製紙(株))で正極全体を溶着包埋した。
次いで、包埋後の負極及び正極を電池筐体(容器)に入れた後、電解液を適量滴下後、電池筐体(容器)を封止して一定時間静置し、亜鉛二次電池を作製した。なお、電解液として、6Mの水酸化カリウム(KOH)に酸化亜鉛(ZnO)を飽和溶解させて、1日静置させた溶液を用いた。
【0045】
〔実施例2〕
干渉層の作製において、パウダー状のキチンとパウダー状のキトサンとの質量比を1:1から8:2に変更した以外は、実施例1と同様にして、亜鉛二次電池を作製した。
【0046】
〔実施例3〕
干渉層の作製において、パウダー状のキチンの代わりにキチンナノファイバー((株)スギノマシン)を用い、かつ、パウダー状のキトサンの代わりにキトサンナノファイバー((株)スギノマシン)を用いた以外は、実施例1と同様にして、亜鉛二次電池を作製した。
【0047】
〔比較例1〕
キチン・キトサン複合フィルム(干渉層)を用いない以外は、実施例1と同様にして、亜鉛二次電池を作製した。
【0048】
〔比較例2〕
干渉層の作製において、キチン・キトサン複合フィルムの代わりに、ポリビニルアルコール(PVA、富士フィルム和光純薬(株)))を用いて、PTFE上にPVAのフィルムを積層した以外は、実施例1と同様にして、亜鉛二次電池を作製した。
【0049】
〔比較例3〕
ポリビニルアルコール(PVA、富士フィルム和光純薬(株)))とハイドロタルサイト(富士フィルム和光純薬(株))とを質量比で70:30の分量で混合した水溶液を、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)上に15μmのフィルムになるようにアプリケータで塗工し、PTFE上にPVA・ハイドロタルサイト複合フィルムを作製した。このPTFE上に積層されたPVA・ハイドロタルサイト複合フィルムを、PTFE上に積層されたキチン・キトサン複合フィルムの代わりに用いた以外は、実施例1と同様にして、亜鉛二次電池を作製した。
【0050】
<サイクル特性評価>
実施例及び比較例で作製した亜鉛二次電池をそれぞれ用いて、充電状態/充電率(SOC)を100%、初期容量を120mAhと想定し、0.2Cの充放電サイクルで亜鉛二次電池を活性化した後、表1の「サイクル試験 充放電パターン」の条件にて、500サイクルまで充放電を行い、サイクル試験を実施した。サイクル試験中において、短絡までのサイクル数をカウントした。また、次式を用いて、500サイクルまでの容量維持率(%)を算出し、サイクル特性を評価した。結果を表2及び図3に示す。
500サイクルまでの容量維持率(%)=(500サイクルの容量/1サイクルの容量)×100
【0051】
<初期内部抵抗率>
実施例及び比較例で作製した亜鉛二次電池のそれぞれについて、初期内部抵抗を測定した。具体的には、初期内部抵抗は、温度25℃の条件下で、充電状態/充電率(SOC)が60%の状態から一定時間放電させ、その間の電圧の変化量により算出した。それらの結果から、比較例1の初期内部抵抗に対する比率として、それぞれの初期内部抵抗率を算出した。結果を表2に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
表2及び図3の結果から、本実施形態に係る干渉層を用いることにより、容量維持率の低下を抑制でき、サイクル特性に優れ、更に、初期内部抵抗率が高い亜鉛二次電池を得ることができることが分かった。
【符号の説明】
【0055】
1…正極集電体、2…正極活物質、3…セパレータ、4…負極集電体、5…負極活物質、6…セパレータ、7…電解液、8…支持体、9…干渉層、10…セパレータ、11…カチオン性がある合成ポリマー。
図1
図2
図3