(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022018629
(43)【公開日】2022-01-27
(54)【発明の名称】犠牲陽極材およびそれを用いた防食方法
(51)【国際特許分類】
C23F 13/10 20060101AFI20220120BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20220120BHJP
C23F 13/14 20060101ALI20220120BHJP
F16L 58/18 20060101ALI20220120BHJP
【FI】
C23F13/10 A
C23F13/02 A
C23F13/02 J
C23F13/14
F16L58/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020121864
(22)【出願日】2020-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】000227261
【氏名又は名称】日鉄防食株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】高柳 絋貴
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 義行
【テーマコード(参考)】
3H024
4K060
【Fターム(参考)】
3H024DA05
4K060AA02
4K060BA03
4K060BA13
4K060BA39
4K060BA41
4K060BA45
4K060DA03
4K060EA11
4K060EB01
4K060FA09
(57)【要約】
【課題】配管および前記配管と接触する架台部に対する防食能がより高い犠牲陽極材の提供。
【解決手段】配管と前記配管を支持する架台との間に配置される、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる犠牲陽極材であって、前記配管よりも断面半径が大きい円筒の側面を前記配管の中心軸に平行な方向で2箇所切り、前記側面に開口部が形成された形状であり、前記開口部を上側に向け、内部に前記配管を配置して用いる、犠牲陽極材。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管と前記配管を支持する架台との間に配置される、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる犠牲陽極材であって、
前記配管よりも断面半径が大きい円筒の側面を前記配管の中心軸に平行な方向で2箇所切り、前記側面に開口部が形成された形状であり、
前記開口部を上側に向け、内部に前記配管を配置して用いる、犠牲陽極材。
【請求項2】
前記配管の断面半径に対して、1.1~1.6倍の断面半径を備える、請求項1に記載の犠牲陽極材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の犠牲陽極材を、前記配管と前記架台との間に配置して、前記配管および前記配管と接触する架台部を防食する、防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は犠牲陽極材およびそれを用いた防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG等の気体原料、その他様々な気体、液体、固体等を輸送するために金属製配管が用いられている。金属製配管は、所定の間隔で配置された架台によって支持されている。
そして、金属製配管における架台が支持する部分は、雰囲気や搬送物の温度変化による配管の熱膨張や収縮によって、配管との間での摺動が生じる。金属製配管は、一般に防食等の目的で塗装されているが、この摺動のために塗膜が破損する可能性がある。塗膜が破損した場合、配管の表面性状の劣化が他の部位に対して早くなる。また、摺動することによって配管と接触する架台部分の劣化も早い。このため、配管と架台とが接する部位は、全体で最も早く錆が発生すると考えられる。
また、架台と配管との間隙には、塵埃、大気中の腐食性物質(塩分,硫黄等)が滞留しやすく、さらに輸送する媒体(搬送物)の温度によっては結露が発生し、あるいは雨水が滞留し易いため、他の部位よりも腐食され易い状況にあると考えられている。
【0003】
このような架台によって支持される配管の防食に関して、従来、例えば特許文献1に記載の防食方法が提案されている。
特許文献1には、架空配管と支持架台との接触部に犠牲陽極金属として防食用マグネシウム合金薄板を採用介在させるとしたことを特徴とする配管の支持部における犠牲陽極金属介装による防食方法が記載されている。そして、このような防食方法では犠牲陽極材として、防食用マグネシウム合金材を適用することにより、架空配管と支持架台との接触部の温度上昇で電位逆転現象は無く、当該部分の温度がいかに変化しようとも常に安定した防食効果が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、配管および前記配管に接触する架台部に対する防食能がより高い犠牲陽極材およびそれを用いた簡略化された防食方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記のように、従来、架台と配管との間隙に塵埃、大気中の腐食性物質(塩分,硫黄等)あるいは結露水や雨水等が滞留し易いために、他の部位よりも腐食され易いと考えられていた。したがって、従来は、架台と配管との間隙に、なるべく塵埃や雨水等が滞留しないようにするべきと考えられていた。
また、従来、架台と配管との間隙を防食するためには、強固な防食体が必要であると考えられていた。
【0007】
しかしながら、本発明者が鋭意検討したところ、犠牲陽極材と配管との間に塵埃や雨水等を滞留させた方が、むしろ、配管および前記配管と接触する架台部の防食に効果がある場合があることを見出した。また、架台と配管との間隙を防食するためには、必ずしも、強固な防食体は必要ないことを見出した。
本発明は次の(1)~(3)である。
【0008】
(1)配管と前記配管を支持する架台との間に配置される、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる犠牲陽極材であって、
前記配管よりも断面半径が大きい円筒の側面を前記配管の中心軸に平行な方向で2箇所切り、前記側面に開口部が形成された形状であり、
前記開口部を上側に向け、内部に前記配管を配置して用いる、犠牲陽極材。
(2)前記配管の断面半径に対して、1.1~1.6倍の断面半径を備える、上記(1)に記載の犠牲陽極材。
(3)上記(1)または(2)に記載の犠牲陽極材を、前記配管と前記架台との間に配置して、前記配管および前記配管と接触する架台部を防食する、防食方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、配管および前記配管に接触する架台部に対する防食能がより高い犠牲陽極材およびそれを用いた簡略化された防食方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の陽極材の使用状態を説明するための概略斜視図である。
【
図3】本発明の陽極材の形状を説明するための概略斜視図である。
【
図4】1年間の暴露試験後の配管における犠牲陽極材との接触面(表面)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明について説明する。
本発明は、配管と前記配管を支持する架台との間に配置される、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる犠牲陽極材であって、前記配管よりも断面半径が大きい円筒の側面を前記配管の中心軸に平行な方向で2箇所切り、前記側面に開口部が形成された形状であり、前記開口部を上側に向け、内部に前記配管を配置して用いる、犠牲陽極材である。
このような犠牲陽極材を、以下では「本発明の陽極材」ともいう。
【0012】
また、本発明は上記のような本発明の陽極材を、前記配管と前記架台との間に配置して、前記配管および前記配管と接触する架台部を防食する、防食方法である。
【0013】
本発明の陽極材について、図を用いて説明する。
図1は本発明の陽極材の使用状態を説明するための概略斜視図であり、
図2は、
図1のA-A´線断面図である。
【0014】
図1において配管1は、様々な気体、液体または固体を輸送するために用いられるものである。典型例として、LNG等の気体原料を輸送するために用いられる場合が挙げられる。
配管1は金属製であるが、通常は鉄鋼からなる。
配管1の大きさや長さ等は特に限定されない。その利用目的によって様々なケースが考えられる。例えば配管1を、LNGを輸送するために用いる場合、断面半径(R)は、例えば25~1600mmである場合が挙げられる。
【0015】
このような配管1は、所定の間隔で配置された架台3によって支持される。
架台3の態様は様々であり、
図1に示されるように、主にH型鋼からなるものであってよい。
【0016】
前述のように、配管1と架台3とが直接、接すると隙間腐食が進行しやすい。そこで、
図1、
図2に示すように、配管1と架台3との間に本発明の陽極材10が配置される。
配管1と本発明の陽極材10とは、図示していない固定バンド(金属製バンド等)によって締め付けることで、架台3に固定することができる。
【0017】
本発明の陽極材10は、マグネシウムまたはマグネシウム合金からなる。
本発明の陽極材10の材質はマグネシウムまたはマグネシウム合金であり、配管1を構成する材質(通常は鉄鋼)に対して電位が卑となるものであればよい。
【0018】
本発明の陽極材10の形状について、
図3を用いて説明する。
本発明の陽極材10は、
図3(a)に示すように、配管1よりも断面半径が大きい円筒20の側面22の2箇所(α、β)において、配管1の中心軸Xに平行な方向において一方端部から他方端部まで切り、切った部分を取り除くことで、
図3(b)に示すように、側面22に開口部14を形成した形状を備える。ここで
図3(a)に示す円筒20の中心軸X´は、配管1の中心軸Xと平行になる。
本発明の陽極材10は、
図1、
図2に示すような半円筒形であることが好ましい。
【0019】
本発明の陽極材10の厚さは特に限定されない。例えば2~20mmであってよい。
【0020】
ここで、本発明の陽極材10の断面半径は、配管1の断面半径(R)に対して、好ましくは1.1~1.6倍、より好ましくは1.2~1.4倍である。
すなわち、
図2に示す本発明の陽極材10の断面半径(r)の配管1の断面半径(R)に対する比(r/R)は、1.1~1.6であることが好ましく、1.2~1.4であることがより好ましい。
このような場合、犠牲陽極材と配管との間に塵埃や結露、雨水等が適度に滞留しやすく、配管およびこれに接する架台の防食に、より効果が高いことを、本発明者は見出した。
【0021】
本発明の陽極材10は、
図1、
図2に示すように、開口部14を上側に向け、内部に配管1を配置して用いる。
【実施例0022】
<実験1>
φ50mmの窒素配管とそれを支持する架台との間に、
図1に示したように犠牲陽極材を設置した。ここで、窒素配管と犠牲陽極材との間に湾曲した鋼製のテストピースを設置し、窒素配管とテストピース、テストピースと犠牲陽極材、犠牲陽極材と架台の各々が密着するように、鋼製バンドによって締め付けた。なお、鋼製のテストピースが窒素配管の表面に密着するように、湾曲の度合い(曲率)を調整した。
このような状態で1年2月間、屋外に放置して暴露試験を行った。
試験後のテストピースの犠牲陽極材との接触面(表面)の写真を
図4に示す。
図4より、1年2月間、屋外に放置しても、錆の発生が抑制されていることを確認できた。
【0023】
<実験2>
φ50mmの窒素配管とそれを支持する架台との間に、
図1に示したように犠牲陽極材を設置した。ここで窒素配管の断面半径(R)に対して、断面半径(r)が1.0~2.0倍となる犠牲陽極材を用意し、各々を設置した。
そして、屋外に放置して配管および架台のぬれ状態を観察した。結果を表1に示す。
表1において○は雨水等が十分に滞留していて濡れており、十分な防食能が期待できる状態であることを意味している。また、表1において△は○には劣るものの、防食能が期待できる状態であることを意味している。
表1に示すように、r/Rが1.1~1.6である場合(特に1.2~1.4である場合)に、雨水等が滞留していて濡れており、防食能が期待できることを確認できた。
【0024】