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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186293
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】電気的駆動弁
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/06 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
F16K31/06 305L
F16K31/06 305K
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094441
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】391002166
【氏名又は名称】株式会社不二工機
(74)【代理人】
【識別番号】110002608
【氏名又は名称】弁理士法人オーパス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊東 雅晴
【テーマコード(参考)】
3H106
【Fターム(参考)】
3H106DA07
3H106DA12
3H106DA23
3H106DA35
3H106DB02
3H106DB12
3H106DB23
3H106DB32
3H106DC02
3H106DC17
3H106DD04
3H106EE27
3H106GB01
3H106GB09
3H106GC14
3H106KK23
(57)【要約】
【課題】主弁体の動作不良を抑制することができる電磁弁を提供する。
【解決手段】電磁弁1の主弁体40は、パイロット弁室37において上方に突出する円環状の凸部47を有している。閉弁状態において、凸部47の上端47cがパイロット弁室37の天井面37aから離れる。開弁状態において、凸部47の上端47cがパイロット弁室37の天井面37aに接して、パイロット弁室37が凸部47の内側にある中央空間37Aと外側にある円環状の周縁空間37Bとに区画される。周縁空間37Bが、主弁体40の上フランジ部42の外周面42aと大径円筒部22の内周面22aとの隙間Cと接続されている。そして、凸部47が、中央空間37Aと周縁空間37Bとを接続するスリット47bを有している。
【選択図】図3

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主弁室およびパイロット弁室を有する弁本体と、前記主弁室と前記パイロット弁室とを区画し、前記主弁室に接続された主弁口を開閉する主弁体と、前記主弁口と前記パイロット弁室とを接続するパイロット弁口を開閉するパイロット弁体と、を有する電気的駆動弁であって、
前記主弁室と前記パイロット弁室とが、前記主弁体の外周面と前記弁本体の内周面との隙間を介して接続され、
前記主弁体が、前記パイロット弁口の周りに配置され、前記主弁体のスライド方向に突出した凸部と、前記凸部の内側と外側とを接続する接続通路と、を有していることを特徴とする電気的駆動弁。
【請求項2】
主弁室およびパイロット弁室を有する弁本体と、前記主弁室と前記パイロット弁室とを区画し、前記主弁室に接続された主弁口を開閉する主弁体と、前記主弁口と前記パイロット弁室とを接続するパイロット弁口を開閉するパイロット弁体と、を有する電気的駆動弁であって、
前記主弁体の外周面が、前記弁本体の内周面とスライド可能に接しており、
前記主弁体が、前記パイロット弁室においてスライド方向に突出する環状の凸部を有し、
前記主弁口が閉じた閉弁状態において、前記凸部の先端が前記パイロット弁室の内面から離れ、
前記主弁口が開いた開弁状態において、前記凸部の先端が前記パイロット弁室の内面に接して、前記パイロット弁室が前記凸部の内側にある中央空間と外側にある環状の周縁空間とに区画され、前記周縁空間が、前記主弁体の外周面と前記弁本体の内周面との隙間と接続され、
前記凸部が、前記中央空間と前記周縁空間とを接続する接続通路を有していることを特徴とする電気的駆動弁。
【請求項3】
前記主弁体が、前記パイロット弁口を有し、
前記パイロット弁口の一端部が、前記凸部の内側に開口している、請求項1または請求項2に記載の電気的駆動弁。
【請求項4】
前記主弁体の外周面と前記弁本体の内周面との隙間を封止するピストンリングをさらに有し、
前記ピストンリングは、前記隙間における前記主弁室側の部分と前記パイロット弁室側の部分とを接続する通路を有している、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の電気的駆動弁。
【請求項5】
前記凸部の外周面が、先端に向かうにしたがって径が小さくなるテーパー面である、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の電気的駆動弁。
【請求項6】
前記凸部の外径が、前記主弁体の外周面の径より小さい、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の電気的駆動弁。
【請求項7】
前記主弁体の外周面または前記弁本体の内周面が、前記開弁状態において、前記主弁室と前記周縁空間とを接続する接続溝を有している、請求項2に記載の電気的駆動弁。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的駆動弁に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、従来の電気的駆動弁の一例であるパイロット式の電磁弁を開示している。この電磁弁は、例えば、エアコンの冷凍サイクルに組み込まれ、冷媒の流路切換に用いられる。電磁弁は、主弁口を備えた弁本体を有している。弁本体には、吸引子が結合されている。吸引子は、固定鉄心であり、大径円筒部と小径円筒部とを有している。大径円筒部と小径円筒部とは、一体的に接続されている。大径円筒部は、弁本体に結合されている。大径円筒部の内側には、主弁体が配置されている。主弁体は、主弁室とパイロット弁室とを区画している。主弁体は、主弁室に接続された主弁口を開閉する。小径円筒部は、弁本体から突出している。小径円筒部は、円筒形状のケースと嵌合されている。ケースの一端部は、小径円筒部と溶接されている。吸引子は、弁本体の一部を構成する。ケースの外側には、電磁コイルが配置されている。ケースの内側には、プランジャが配置されている。プランジャは、プランジャばねによって吸引子から離れる方向に押されている。プランジャには、小径円筒部の内側を通る弁軸を介してパイロット弁体が接続されている。パイロット弁体は、主弁体にあるパイロット弁口を開閉する。
【0003】
電磁コイルが通電状態になると、吸引子とプランジャとが磁化され、プランジャが吸引子に近づく。パイロット弁体が、プランジャとともに移動し、パイロット弁口を閉じかつ主弁体を主弁口側に押す。そして、主弁体が主弁口を閉じて、電磁弁は閉弁状態となる。
【0004】
電磁コイルが非通電状態になると、プランジャと吸引子との磁化が解消され、プランジャばねに押されてプランジャが吸引子から離れる。パイロット弁体が、プランジャとともに移動し、パイロット弁口を開く。パイロット弁室からパイロット弁口を介して主弁口に冷媒が流れ、パイロット弁室の冷媒圧力が主弁室の冷媒圧力より低くなる。そして、主弁体が主弁口から離れ、主弁口が開いて、電磁弁は開弁状態となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-7572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した電磁弁の主弁体は、その上面の周縁部に配置された円環状の凸部と、主弁室とパイロット弁室とを接続する貫通孔である均圧通路と、を有している。開弁状態において、凸部がパイロット弁室の内面である天井面に接する。そのため、開弁状態において、主弁体の外周面と大径円筒部の内周面との隙間が袋小路となって冷媒が滞留する。そして、低温状態では冷媒に含まれる潤滑油の粘度が上昇するため、主弁体の動作不良が生じるおそれがある。また、均圧通路として径の小さい貫通孔を形成するため、製造コストが高くなる。
【0007】
そこで、本発明は、主弁体の動作不良を抑制することができる電気的駆動弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の一態様に係る電気的駆動弁は、主弁室およびパイロット弁室を有する弁本体と、前記主弁室と前記パイロット弁室とを区画し、前記主弁室に接続された主弁口を開閉する主弁体と、前記主弁口と前記パイロット弁室とを接続するパイロット弁口を開閉するパイロット弁体と、を有する電気的駆動弁であって、前記主弁室と前記パイロット弁室とが、前記主弁体の外周面と前記弁本体の内周面との隙間を介して接続され、前記主弁体が、前記パイロット弁口の周りに配置され、前記主弁体のスライド方向に突出した凸部と、前記凸部の内側と外側とを接続する接続通路と、を有していることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、主弁室とパイロット弁室とが、主弁体の外周面と弁本体の内周面との隙間を介して接続されている。そして、主弁体が、パイロット弁口の周りに配置され、主弁体のスライド方向に突出した凸部と、凸部の内側と外側とを接続する接続通路と、を有している。このようにしたことから、開弁状態において、冷媒が、主弁室から主弁体の外周面と弁本体の内周面との隙間を通りパイロット弁室に流れる。そのため、前記隙間に冷媒が滞留することを防ぎ、主弁体の動作不良を抑制することができる。また、主弁体を貫通する均圧通路を省略することができ、製造コストを低減できる。
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の他の一態様に係る電気的駆動弁は、主弁室およびパイロット弁室を有する弁本体と、前記主弁室と前記パイロット弁室とを区画し、前記主弁室に接続された主弁口を開閉する主弁体と、前記主弁口と前記パイロット弁室とを接続するパイロット弁口を開閉するパイロット弁体と、を有する電気的駆動弁であって、前記主弁体の外周面が、前記弁本体の内周面とスライド可能に接しており、前記主弁体が、前記パイロット弁室においてスライド方向に突出する環状の凸部を有し、前記主弁口が閉じた閉弁状態において、前記凸部の先端が前記パイロット弁室の内面から離れ、前記主弁口が開いた開弁状態において、前記凸部の先端が前記パイロット弁室の内面に接して、前記パイロット弁室が前記凸部の内側にある中央空間と外側にある環状の周縁空間とに区画され、前記周縁空間が、前記主弁体の外周面と前記弁本体の内周面との隙間と接続され、前記凸部が、前記中央空間と前記周縁空間とを接続する接続通路を有していることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、主弁体が、パイロット弁室においてスライド方向に突出する環状の凸部を有している。主弁口が閉じた閉弁状態において、凸部の先端がパイロット弁室の内面から離れる。主弁口が開いた開弁状態において、凸部の先端がパイロット弁室の内面に接して、パイロット弁室が凸部の内側にある中央空間と外側にある環状の周縁空間とに区画される。周縁空間が、主弁体の外周面と弁本体の内周面との隙間と接続されている。そして、凸部が、中央空間と周縁空間とを接続する接続通路を有している。このようにしたことから、開弁状態において、冷媒が、主弁室から主弁体の外周面と弁本体の内周面との隙間を通り周縁空間に流れ、周縁空間において周方向に流れて接続通路を通り中央空間に流れる。そのため、前記隙間および周縁空間に冷媒が滞留することを防ぎ、主弁体の動作不良を抑制することができる。また、主弁体を貫通する均圧通路を省略することができ、製造コストを低減できる。
【0012】
本発明において、前記主弁体が、前記パイロット弁口を有し、前記パイロット弁口の一端部が、前記凸部の内側に開口している、ことが好ましい。このようにすることで、閉弁状態から開弁状態に切り替わるときに、パイロット弁口を介してパイロット弁室から主弁口に速やかに冷媒を流すことができる。
【0013】
本発明において、前記電気的駆動弁が、前記主弁体の外周面と前記弁本体の内周面との隙間を封止するピストンリングをさらに有し、前記ピストンリングが、前記隙間における前記主弁室側の部分と前記パイロット弁室側の部分とを接続する通路を有している、ことが好ましい。このようにすることで、主弁体の外周面と弁本体の内周面との隙間にピストンリングの通路の大きさに応じた量の冷媒を流すことができる。
【0014】
本発明において、前記凸部の外周面が、先端に向かうにしたがって径が小さくなるテーパー面であることが好ましい。このようにすることで、一般的な面取り加工と同様の加工によって凸部を形成することができる。そのため、比較的容易に周縁空間の容積を確保することができ、製造コストの上昇を抑制できる。
【0015】
本発明において、前記凸部の外径が、前記主弁体の外周面の径より小さいことが好ましい。このようにすることで、比較的容易に形成できる凸部によって周縁空間の容積を確保することができる。
【0016】
本発明において、前記主弁体の外周面または前記弁本体の内周面が、前記開弁状態において、前記主弁室と前記周縁空間とを接続する接続溝を有していることが好ましい。このようにすることで、開弁状態において、主弁室から接続溝を介して周縁空間により確実に冷媒を流すことができ、周縁空間での冷媒の滞留を抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、主弁体の動作不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例に係る電磁弁の開弁状態時の断面図である。
図2図1の電磁弁の閉弁状態時の断面図である。
図3図1の電磁弁の拡大断面図である。
図4図1の電磁弁が有する主弁体を示す図である。
図5図4の主弁体の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の電気的駆動弁の一実施例に係るパイロット式の電磁弁について、図1図5を参照して説明する。
【0020】
図1図2は、本発明の一実施例に係る電磁弁の断面図である。図1は開弁状態の電磁弁を示し、図2は閉弁状態の電磁弁を示す。図3は、図1の電磁弁の拡大断面図である。図3は、図1の電磁弁が有する主弁体およびその近傍を示している。図4は、図1の電磁弁が有する主弁体を示す図である。図4Aは平面図であり、図4Bは正面図であり、図4C図4AのIVC-IVC線に沿う断面図である。図5は、図4の主弁体の変形例を示す図である。図5Aは平面図であり、図5Bは正面図であり、図5C図5AのVC-VC線に沿う断面図である。以下の説明において、「上下左右」との用語は、各図に記載の構成要素の相対的な位置関係を示している。
【0021】
図1図3に示すように、本実施例に係る電磁弁1は、弁本体5と、ケース32と、プランジャ33と、電磁コイル34と、弁軸35と、パイロット弁体36と、主弁体40と、を有している。
【0022】
弁本体5は、本体ブロック10と、固定鉄心20(吸引子ともいう。)と、を有している。
【0023】
本体ブロック10は、略直方体形状を有している。本体ブロック10は、流入口11と、流出口12と、主弁室14と、主弁口15と、主弁座16と、を有している。本体ブロック10は、例えば、アルミニウム合金製である。
【0024】
流入口11は、本体ブロック10の左側面10aに開口している。流出口12は、本体ブロック10の右側面10bに開口している。主弁室14には、主弁口15を囲む円形の主弁座16が配置されている。流入口11は、主弁室14に接続されている。主弁室14は、主弁口15を介して流出口12に接続されている。本体ブロック10の上面10cには、主弁室14に接続された取付孔17が開口している。
【0025】
固定鉄心20は、本体ブロック10とケース32とを接続する。固定鉄心20は、大径円筒部22と、小径円筒部23と、を一体的に有している。大径円筒部22は、本体ブロック10の取付孔17の内側に配置されており、取付孔17に結合されている。具体的には、大径円筒部22の外周面に雄ねじを形成し、取付孔17の内周面に雌ねじを形成して、大径円筒部22が、本体ブロック10の取付孔17にねじ接続されている。小径円筒部23の外径は、大径円筒部22の内径より小さい。小径円筒部23は、大径円筒部22の上端部に同軸に接続されている。小径円筒部23は、本体ブロック10から上方に向けて突出している。固定鉄心20は、軟磁性を有する金属製である。固定鉄心20は、例えば、磁性ステンレス鋼製(SUS430など)や軟磁性を有する快削鋼製(SUM22など)である。
【0026】
ケース32は、ステンレス鋼製である。ケース32は、下端部32a(一端部)が開口しかつ上端部が塞がれた円筒形状を有している。ケース32の下端部32aの内側には、小径円筒部23が配置されている。ケース32の下端部32aは、小径円筒部23に溶接されている。
【0027】
プランジャ33は、円筒形状を有している。プランジャ33の外径は、ケース32の内径よりわずかに小さい。プランジャ33は、ケース32の内側に上下方向に移動可能に配置されている。プランジャ33と固定鉄心20の小径円筒部23との間には、プランジャばね38が配置されている。プランジャばね38は、圧縮コイルばねである。プランジャばね38は、プランジャ33を上方に押している。
【0028】
電磁コイル34は、円筒形状を有している。電磁コイル34の内径は、ケース32の外径よりわずかに大きい。電磁コイル34の内側には、ケース32が挿入される。電磁コイル34は、ケース32の外側に配置されている。電磁コイル34は、固定鉄心20およびプランジャ33を磁化する。
【0029】
弁軸35は、細長い円筒形状を有している。弁軸35の上端部は、プランジャ33の下端部に固定されている。弁軸35は、固定鉄心20の小径円筒部23の内側に配置されている。弁軸35は、小径円筒部23によって上下方向に移動可能に支持されている。弁軸35は、上端部から下端部まで延在する流体通路35aを有している。流体通路35aは、プランジャ33の内側空間に接続されている。
【0030】
パイロット弁体36は、弁軸35の下端部に一体的に接続されている。パイロット弁体36は、弁軸35を介してプランジャ33に接続されている。パイロット弁体36の下面には、円板形状のパッキン36aが取り付けられている。パッキン36aは、合成樹脂製または合成ゴム製である。
【0031】
図4に主弁体40を示す。主弁体40は、胴部41と、上フランジ部42と、下フランジ部43と、を一体的に有している。胴部41は、円柱形状を有している。上フランジ部42は、円環形状を有している。上フランジ部42の内周縁は、胴部41の上部に接続されている。上フランジ部42は、主弁室14と大径円筒部22の内側のパイロット弁室37とを区画している。下フランジ部43は、円環形状を有している。下フランジ部43の内周縁は、胴部41の下部に接続されている。胴部41は、上下方向に貫通するパイロット弁口45を有している。パイロット弁口45は、主弁口15とパイロット弁室37とを接続する。なお、本体ブロック10が、主弁口15とパイロット弁室37とを接続するパイロット弁口を有していてもよい。胴部41の上端部には、パイロット弁口45の上端部が開口しており、パイロット弁口45を囲むパイロット弁座46が配置されている。上フランジ部42は、固定鉄心20の大径円筒部22の内側に上下方向に移動可能に配置されている。上フランジ部42の外周面42aは、大径円筒部22の内周面22a(すなわち弁本体5の内周面)と上下方向にスライド可能に接している。外周面42aには、全周にわたって溝42bが形成されている。溝42bには、円環状のピストンリング48が配置されている。ピストンリング48は、合成樹脂製である。下フランジ部43の下面には、円環板形状のパッキン43aが取り付けられている。パッキン43aは、合成樹脂製である。下フランジ部43の外径は、上フランジ部42の外径より小さい。主弁体40の上フランジ部42と本体ブロック10との間には、開弁ばね39が配置されている。開弁ばね39は、圧縮コイルばねである。開弁ばね39は、主弁体40を上方に押している。
【0032】
ピストンリング48は、主弁体40の上フランジ部42と同軸に配置されている。ピストンリング48は、主弁体40の上フランジ部42の外周面42aと大径円筒部22の内周面22aとの隙間(以下、単に「隙間C」ともいう。)を主弁室14側の部分とパイロット弁室37側の部分とに区画する。
【0033】
ピストンリング48は、スリット48aを有している。スリット48aは、ピストンリング48の一部を所定の幅で切断して形成されている。スリット48aは、隙間Cにおける主弁室14側の部分とパイロット弁室37側の部分とを接続する通路である。スリット48aの流路断面積は、パイロット弁口45の流路断面積より小さい。隙間Cとスリット48aとは、主弁室14とパイロット弁室37とを接続する均圧通路である。スリット48aは均圧通路において最も流路断面積の小さい部分である。スリット48aは、幅の調整が比較的容易である。スリット48aを含む均圧通路は、主弁体40を貫通する均圧通路に比べて、小さい流路断面積を容易に得ることができる。また、スリット48aを含む均圧通路は、ピストンリング48を備えずに隙間Cのみを含む均圧通路に比べて、各部品(主弁体40、固定鉄心20)に要求される加工精度を下げることができる。
【0034】
図4Bに示すように、スリット48aは、直線形状を有しており、ピストンリング48の軸方向に対して傾斜している。スリット48aは、ピストンリング48の軸方向と平行なスリットに比べて流路断面積を小さくすることができる。なお、ピストンリング48のスリットは、直線形状に限定されない。例えば、スリットは、クランク形状を有していてもよい。クランク形状のスリットは、横切断部分と、一方の縦切断部分と、他方の縦切断部分と、を有している。横切断部分は、ピストンリング48の周方向に延びている。一方の縦切断部分は横切断部分の一端部に接続され、他方の縦切断部分は横切断部分の他端部に接続されている。一方の縦切断部分および他方の縦切断部分は、横切断部分の端部から軸方向に沿って互いに反対方向に延びている。一方の縦切断部分の幅および他方の縦切断部分の幅は、横切断部分の幅より大きい。クランク形状のスリットは、ピストンリング48の撓みによる流路断面積の変化を抑制することができる。なお、ピストンリング48がゴム材製の場合は、ピストンリング48を切断せずに溝形状の通路を形成してもよい。
【0035】
上フランジ部42は、円環状の凸部47を有している。凸部47は、上フランジ部42の上面42cの周縁部に配置されている。凸部47は、上面42cから上方(すなわちスライド方向)に突出している。凸部47の外周面47aは、下方から上方に向かうにしたがって径が小さくなる環状のテーパー面である。凸部47は、径方向に横切る1つのスリット47bを有している。
【0036】
凸部47の上端47c(先端)は、閉弁状態において、パイロット弁室37の内面である天井面37aから離れている。凸部47の上端47cは、開弁状態において、周方向全体にわたって天井面37aに接している。凸部47は、天井面37aに接することにより、パイロット弁室37を凸部47の内側にある中央空間37Aと、凸部47の外側にある円環状の周縁空間37Bと、に区画する。中央空間37Aと周縁空間37Bとは、スリット47bを介して接続される。スリット47bは、接続通路である。周縁空間37Bは、隙間Cと接続されている。周縁空間37Bの径方向の幅は、隙間Cよりも大きい。なお、大径円筒部22の内周面22aの上端部の径を大きくすることにより周縁空間37Bを形成するようにしてもよい。
【0037】
なお、電磁弁1において、図4に示す主弁体40に代えて、図5に示す主弁体40Aを採用してもよい。主弁体40Aは、円環状の凸部47A以外は主弁体40と同一の構成を有する。凸部47Aの外周面47aは、上下方向に沿って配置されており、凸部47Aの外径(凸部47Aの上端47cの外径)は、上フランジ部42の外径より小さい。凸部47Aは、上面42cから上方に突出している。凸部47Aは、径方向に横切る1つのスリット47bを有している。凸部47Aも、凸部47と同様に機能する。
【0038】
次に、電磁弁1の動作の一例について説明する。
【0039】
図1に示す電磁弁1において、電磁コイル34は非通電状態である。この状態において、主弁体40が主弁座16から離れた位置にあり、主弁口15が開いている。電磁弁1は、開弁状態にある。開弁状態において、パイロット弁口45が開いている。
【0040】
開弁状態において、凸部47の上端47cがパイロット弁室37の天井面37aに接しており、パイロット弁室37は中央空間37Aと円環状の周縁空間37Bとに区画されている。そのため、主弁室14と中央空間37Aとの間で、均圧通路(隙間C、スリット48a)、周縁空間37Bおよびスリット47bを介して冷媒が流通する。
【0041】
そして、電磁コイル34が非通電状態から通電状態になると、固定鉄心20とプランジャ33とが磁化され、プランジャ33が固定鉄心20に近づく。パイロット弁体36が、プランジャ33とともに移動し、パイロット弁口45を閉じかつ主弁体40を主弁口15側に押す。そして、主弁体40が主弁口15を閉じて、図2に示すように、電磁弁1は閉弁状態となる。閉弁状態において、主弁体40は冷媒によって主弁口15側に押されている。また、閉弁状態において、凸部47の上端47cがパイロット弁室37の天井面37aから離れ、パイロット弁室37は1つの空間となる。
【0042】
そして、電磁コイル34が通電状態から非通電状態になると、固定鉄心20とプランジャ33との磁化が解消され、プランジャばね38に押されてプランジャ33が固定鉄心20から離れる。パイロット弁体36が、プランジャ33とともに移動し、パイロット弁口45が開く。パイロット弁室37からパイロット弁口45を介して主弁口15に冷媒が流れ、パイロット弁室37の冷媒圧力が主弁室14の冷媒圧力より低くなる。そして、主弁体40が主弁口15から離れ、主弁口15が開き、電磁弁1は開弁状態となる。なお、流入口11側の冷媒圧力と流出口12側の冷媒圧力の差圧が非常に小さい場合、主弁室14の冷媒圧力とパイロット弁室37の冷媒圧力との圧力差が小さい。この場合、開弁ばね39によって主弁体40が上方に移動し、主弁口15が開く。
【0043】
本実施例に係る電磁弁1は、主弁室14およびパイロット弁室37を有する弁本体5と、主弁室14とパイロット弁室37とを区画し、主弁室14に接続された主弁口15を開閉する主弁体40と、主弁口15とパイロット弁室37とを接続するパイロット弁口45を開閉するパイロット弁体36と、を有している。主弁体40の上フランジ部42の外周面42aが、弁本体5の大径円筒部22の内周面22aとスライド可能に接している。主弁体40の上フランジ部42が、パイロット弁室37において上方に突出する円環状の凸部47を有している。主弁口15が閉じた閉弁状態において、凸部47の上端47cがパイロット弁室37の天井面37aから離れる。主弁口15が開いた開弁状態において、凸部47の上端47cがパイロット弁室37の天井面37aに接して、パイロット弁室37が凸部47の内側にある中央空間37Aと外側にある円環状の周縁空間37Bとに区画される。周縁空間37Bが、外周面42aと内周面22aとの隙間Cと接続される。そして、凸部47が、中央空間37Aと37B周縁空間とを接続する1つのスリット47bを有している。
【0044】
このようにしたことから、開弁状態において、冷媒が、主弁室14から隙間Cとスリット48aとを通り周縁空間37Bに流れ、周縁空間37Bにおいて周方向に流れてスリット47bを通り中央空間37Aに流れる。また、隙間Cとスリット48aとは主弁室14とパイロット弁室37とを接続する均圧通路であり、スリット48aは均圧通路において最も流路断面積の小さい部分である。そのため、主弁体40を貫通する均圧通路を省略することができ、製造コストを低減できる。
【0045】
また、凸部47の外周面47aが、下方から上方に向かうにしたがって径が小さくなるテーパー面である。このようにすることで、例えば、大径円筒部22の内周面22aの上端部の径を大きくすることによって周縁空間を形成する構成に比べて、比較的容易に形成できる凸部によって周縁空間の容積を確保することができる。そのため、製造コストの上昇を抑制できる。なお、図5に示す凸部47Aを採用した構成でも、同様の作用効果を奏する。
【0046】
なお、上述した実施例において、主弁体40の上フランジ部42の外周面42aが、開弁状態において、主弁室14と周縁空間37Bとを接続する接続溝を有していてもよい。接続溝の中間部分にスリット48aが配置される。このようにすることで、開弁状態において、主弁室14から接続溝およびスリット48aを介して周縁空間37Bにより確実に冷媒を流すことができ、周縁空間37Bでの冷媒の滞留を抑制することができる。接続溝は、周縁空間37Bにおけるスリット47bの反対側の位置(180度回転した位置)に接続されていることが好ましい。これにより、周縁空間37Bの冷媒が周方向により流動しやすくなる。弁本体5の大径円筒部22の内周面22aが接続溝を有していてもよい。
【0047】
また、上述した実施例では、凸部47がスリット47bを有する構成であったが、この構成に限定されない。例えば、凸部47は、スリット47bに代えて、上端47cを比較的半径の大きい円弧状に凹ませて、上端47cとパイロット弁室37の天井面37aとに隙間を形成して接続通路としてもよい。また、凸部47は、1つのスリット47bを有していてもよく、複数個のスリット47bを有していてもよいが、周縁空間37Bにおける周方向の冷媒の流れを確保する点で1~3個程度が好ましい。
【0048】
上記に本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に限定されるものではない。前述の実施例に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、実施例の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の趣旨に反しない限り、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1…電磁弁、5…弁本体、10…本体ブロック、10a…左側面、10b…右側面、10c…上面、11…流入口、12…流出口、14…主弁室、15…主弁口、16…主弁座、17…取付孔、20…固定鉄心、22…大径円筒部、22a…内周面、23…小径円筒部、32…ケース、33…プランジャ、34…電磁コイル、35…弁軸、35a…流体通路、36…パイロット弁体、36a…パッキン、37…パイロット弁室、37a…天井面、37A…中央空間、37B…周縁空間、38…プランジャばね、39…開弁ばね、40…主弁体、41…胴部、42…上フランジ部、42a…外周面、42b…溝、42c…上面、43…下フランジ部、43a…パッキン、45…パイロット弁口、46…パイロット弁座、47、47A…凸部、47a…外周面、47b…スリット、47c…上端、48…ピストンリング、48a…スリット、C…隙間

図1
図2
図3
図4
図5