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特開2022-186310鉛蓄電池用セパレータおよびそれを含む鉛蓄電池
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  • 特開-鉛蓄電池用セパレータおよびそれを含む鉛蓄電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186310
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用セパレータおよびそれを含む鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/417 20210101AFI20221208BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20221208BHJP
【FI】
H01M50/417
H01M50/411
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094466
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 悦子
(72)【発明者】
【氏名】安藤 和成
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021EE01
5H021EE04
5H021HH03
5H021HH07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】極板の厚さが薄い場合でも浸透短絡等の問題が生じない、強度を高めたセパレータを提供する。
【解決手段】鉛蓄電池用セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含む。前記セパレータのX線回折スペクトルにおいて、A/(A+A)で表される比率Rが、0.60以上である。Aは、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である第1回折ピークの面積であり、Aは、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが2番目に高い第2回折ピークの面積である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池用セパレータであって、
前記セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含み、
前記セパレータのX線回折スペクトルにおいて、A/(A+A)で表される比率Rが、0.60以上であり、
は、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である第1回折ピークの面積であり、
は、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが2番目に高い第2回折ピークの面積である、鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項2】
100μm以上300μm以下の厚さを有する、請求項1に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項3】
前記比率Rは、0.9以下である、請求項1または2に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項4】
オイルを含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項5】
細孔の屈曲度が5以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項6】
ポリオレフィンを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項7】
前記ポリオレフィンは、少なくともエチレン単位を含み、
前記第1回折ピークは、前記結晶質領域の(110)面に相当し、
前記第2回折ピークは、前記結晶質領域の(200)面に相当する、請求項1~6のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用セパレータ。
【請求項8】
鉛蓄電池であって、
前記鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含み、
前記極板群は、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板の間に介在するセパレータとを含み、
前記セパレータは、請求項1~7のいずれか1項に記載の鉛蓄電池用セパレータである、鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用セパレータおよびそれを含む鉛蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、車載用、産業用の他、様々な用途で使用されている。鉛蓄電池は、正極板および負極板と、これらの間に介在するセパレータと、電解液と、を含む。鉛蓄電池のセパレータには、様々な性能が要求される。
【0003】
特許文献1は、正極板と、負極板と、前記正極板と前記負極板との間に配置されたセパレータと、を備えた鉛蓄電池であって、前記セパレータは、ベース部と、前記ベース部の前記負極板と相対する負極面に設けられた負極リブと、前記ベース部の両側に配置された側端部と、を有し、前記側端部は、少なくとも一部に前記ベース部より厚い厚肉部を有し、前記負極板の両端は、前記負極板の厚さ方向から見て、前記厚肉部の幅内に位置している、鉛蓄電池を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-33660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、極板の厚さが薄く、かつ1セルあたりの極板の枚数が多くなると、極板が変形した場合に、極板の端部がセパレータと強く接触し、短絡(デンドライト生成による浸透短絡も含む)などの問題が生じることがある。
【0006】
特許文献1のように、セパレータの側端部に厚肉部を設けると、厚肉部の突き刺し強度を高めることができるが、セパレータの抵抗が上昇する。そのため、高性能の鉛蓄電池では、セパレータの側端部に厚肉部を設ける構成は採用し難い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一側面は、鉛蓄電池用セパレータであって、
前記セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含み、
前記セパレータのX線回折スペクトルにおいて、A/(A+A)で表される比率Rが、0.60以上であり、
は、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である第1回折ピークの面積であり、
は、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが2番目に高い第2回折ピークの面積である、鉛蓄電池用セパレータに関する。
【発明の効果】
【0008】
鉛蓄電池において、セパレータの強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池の外観と内部構造を示す一部切り欠き斜視図である。
図2】実施例1の鉛蓄電池用セパレータのX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
鉛蓄電池の代表的な用途の1つに自動車用途がある。自動車の高性能化に伴い、電装負荷が増加しており、鉛蓄電池にはさらなる高性能化が求められている。鉛蓄電池を高性能化するには、電池反応の反応面積を増大させることが一般的である。そのため、近年、鉛蓄電池では、以前に比べて、極板の厚さが小さくなり、1セル当たりの極板の枚数が増加する傾向がある。特にエンジンの始動回数が多く、大電流放電が繰り返されるアイドリングストップシステム車(以下、ISS車とも称する。)などのアイドリングストップ(IS)用途では、多くの薄型の極板を重ねて極板群を構成することがある。
【0011】
鉛蓄電池では、充放電を繰り返すと、負極板の端の部分で負極集電体が湾曲する。従来のように、1セル当たりの極板の枚数が少ない場合には、極板間にある程度隙間があるため、負極集電体が湾曲してもそれほど問題とならない。ところが、1セル当たりの極板の枚数が多い場合には、極板間の隙間がかなり小さいため、負極集電体が湾曲すると、セパレータを貫通し、短絡を生じる場合がある。セパレータの厚さを大きくすれば、セパレータの破れによる短絡を低減できる。特許文献1のように、セパレータの側端部の厚さを大きくすることも考えられる。このような技術は、従来の鉛蓄電池における短絡を抑制する上では十分有効な手段であった。しかし、セパレータの厚さが大きくなると、抵抗の増加は避けられないため、高性能の鉛蓄電池には採用し難い。
【0012】
上記に鑑み、本発明の一側面の鉛蓄電池用セパレータは、結晶質領域と非晶質領域とを含む。セパレータのX線回折(X-ray diffraction:XRD)スペクトルにおいて、A/(A+A)で表される比率Rが、0.60以上である。ここで、Aは、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピーク(第1回折ピーク)の面積である。Aは、前記結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが2番目に高い回折ピーク(第2回折ピーク)の面積である。
【0013】
比率Rは、セパレータの結晶性の程度を示している。従来のセパレータでは、比率Rは約0.58以下と比較的低い傾向がある。それに対し、上記側面のセパレータでは、比率Rが0.60以上であり、従来に比べて、セパレータの結晶性が向上している。セパレータの結晶性が高まることで、セパレータ自体の強度(具体的には突き刺し強度)を向上させることができる。よって、セパレータの厚さを大きくする場合とは異なり、抵抗が増加するといった背反がほとんどない。そのため、上記側面のセパレータは、高性能のISS車用の鉛蓄電池にも適しており、このような鉛蓄電池に用いて、優れたIS寿命性能を確保することができる。
【0014】
鉛蓄電池用のセパレータは、リチウムイオン二次電池などのセパレータとは異なり、ある程度大きな厚さを有する。セパレータの厚さが大きいほど、結晶性を高めることが難しくなる傾向があることに加え、結晶性が大きくなると、セパレータが硬く脆くなる。そのため、従来の鉛蓄電池用のセパレータでは、結晶性を制御することはなされていなかった。このような従来の常識に対し、本発明の上記側面によれば、比率Rを0.60以上とすることで、セパレータの抵抗の増加を抑えながら、セパレータの高い強度を確保することができる。
【0015】
セパレータの厚さは、100μm以上300μm以下であることが好ましい。厚さがこのような範囲である場合、セパレータのより高い強度を確保できる。また、セパレータの抵抗を比較的低く抑えることができるため、優れたIS寿命性能が得られ易い。
【0016】
比率Rは、0.9以下であることが好ましい。この場合、セパレータの柔軟性を担保し易いことに加え、製造が容易である。
【0017】
セパレータは、オイルを含むことが好ましい。この場合、セパレータの酸化劣化を抑制することができるため、高い高温過充電寿命性能を確保する観点から有利である。
【0018】
セパレータにおいて、細孔の屈曲度は5以上であることが好ましい。この場合、セパレータの強度をさらに高めることができる。
【0019】
セパレータは、ポリオレフィンを含むことが好ましく、少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンを含むことがより好ましい。このようなセパレータは、強度が比較的低くなる傾向があるが、比率Rの調節が比較的容易であり、比率Rを調節することでセパレータの強度を高めることができる。少なくともエチレン単位を含むポリオレフィンをセパレータが含む場合、第1回折ピークは、結晶質領域による(110)面に相当し、第2回折ピークは、結晶質領域による(200)面に相当する。
【0020】
本発明は、上記の鉛蓄電池用セパレータを含む鉛蓄電池も包含する。鉛蓄電池は、極板群および電解液を含む少なくとも1つのセルを含み、極板群は、正極板と、負極板と、正極板および負極板の間に介在する上記のセパレータとを含む。上記のセパレータを用いることで、鉛蓄電池の初期の不良率を低減できるとともに、浸透短絡または極板が湾曲することに伴う短絡を抑制することができるため、寿命性能を高めることができる。また、セパレータの抵抗が低いため、IS用途などの高性能の鉛蓄電池にも有用であり、高いIS寿命性能などの優れた電池性能を確保することができる。
【0021】
鉛蓄電池は、制御弁式電池(VRLA型電池)であってもよいが、液式電池(ベント型電池)が好ましい。
【0022】
本明細書中、鉛蓄電池または鉛蓄電池の構成要素(極板、電槽、セパレータなど)の上下方向は、鉛蓄電池が使用される状態において、鉛蓄電池の鉛直方向における上下方向を意味する。なお、正極板および負極板の各極板は、外部端子と接続するための耳部を備えており、液式電池では、耳部は、極板の上部に上方に突出するように設けられている。
【0023】
以下、本発明の実施形態に係るセパレータおよび鉛蓄電池について、図面を参照しながらより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
(セパレータ)
セパレータは、セパレータの構成材料の分子が比較的規則正しく配列した(つまり、配列性が高い)結晶質領域と、配列性が低い非晶質領域とを含む。そのため、セパレータのXRDスペクトルでは、結晶質領域による回折ピークが観察されるとともに、非晶質領域による散乱光がハローとして観察される。セパレータのXRDスペクトルにおいて、A/(A+A)で表される比率Rが0.60以上であることによって、セパレータの高い強度が得られる。ここで、Aは、結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが最大である回折ピーク(第1回折ピーク)の面積であり、Aは、結晶質領域に相当する回折ピークのうちピーク高さが2番目に高い回折ピーク(第2回折ピーク)の面積である。
【0025】
例えば、エチレン単位を含むポリオレフィンを含むセパレータのXRDスペクトルでは、結晶質領域の(110)面に相当する回折ピークが、2θが20°以上22.5°以下の範囲に観察され、結晶質領域の(200)面に相当する回折ピークが、2θが23°以上24.5°以下の範囲に観察される。また、非晶質領域のハローは、2θが17°以上27°以下の範囲に観察される。結晶質領域による回折ピークのうち、(110)面に相当する回折ピークは、ピーク高さが最大であり、第1回折ピークに相当する。(200)面に相当する回折ピークは、ピーク高さが2番目に高く、第2回折ピークに相当する。
【0026】
比率Rは、0.60以上であり、セパレータのより高い強度を確保する観点からは、0.65以上であってもよく、0.70以上または0.75以上であってもよい。比率Rは、0.9以下であってもよく、0.85以下であってもよい。比率Rがこのような範囲である場合、セパレータの柔軟性を担保し易いことに加え、製造が容易である。
【0027】
比率Rは、0.60以上0.9以下(または0.85以下)、0.65以上0.9以下(または0.85以下)、0.70以上0.9以下(または0.85以下)、あるいは0.75以上0.9以下(または0.85以下)であってもよい。
【0028】
回折ピークの面積は、セパレータのXRDスペクトルにおいて、結晶質領域による回折ピークをフィッティングすることによって求められる。求められた第1回折ピークの面積Aおよび第2回折ピークの面積Aを用いて、上記の式から比率Rが求められる。
【0029】
セパレータは、ポリマー材料(以下、ベースポリマーとも称する。)を含む。セパレータは、結晶質領域を含むため、ベースポリマーは、通常、結晶性ポリマーを含む。セパレータは、例えば、ポリオレフィンを含む。ポリオレフィンとは、少なくともオレフィン単位を含む重合体(つまり、少なくともオレフィンに由来するモノマー単位を含む重合体)である。
【0030】
ベースポリマーとして、ポリオレフィンと他のベースポリマーとを併用してもよい。セパレータに含まれるベースポリマー全体に占めるポリオレフィンの比率は、例えば、50質量%以上であり、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよい。ポリオレフィンの比率は、例えば、100質量%以下である。ベースポリマーをポリオレフィンのみで構成してもよい。ポリオレフィンの比率がこのように多い場合、セパレータの強度が低くなる傾向があるが、このような場合であっても、比率Rを上記の範囲とするため、高い強度を確保することができる。
【0031】
ポリオレフィンには、例えば、オレフィンの単独重合体、異なるオレフィン単位を含む共重合体、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体が包含される。オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上のオレフィン単位を含んでいてもよい。また、オレフィン単位および共重合性モノマー単位を含む共重合体は、1種または2種以上の共重合性モノマー単位を含んでいてもよい。共重合性モノマー単位とは、オレフィン以外で、かつオレフィンと共重合可能な重合性モノマーに由来するモノマー単位である。
【0032】
ポリオレフィンとしては、例えば、少なくともC2-3オレフィンをモノマー単位として含む重合体が挙げられる。C2-3オレフィンとして、エチレンおよびプロピレンからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。ポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、C2-3オレフィンをモノマー単位として含む共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体)がより好ましい。ポリオレフィンの中では、少なくともエチレン単位を含むポリオレフィン(ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体など)を用いることが好ましい。エチレン単位を含むポリオレフィン(ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体など)と他のポリオレフィンとを併用してもよい。
【0033】
セパレータは、オイルを含むことが好ましい。セパレータがオイルを含む場合、セパレータの酸化劣化を抑制することができるため、高い高温過充電寿命性能を確保することができる。オイルとは、室温(20℃以上35℃以下の温度)で液状であり、水と分離する疎水性物質を言う。オイルには、天然由来のオイル、鉱物オイル、および合成オイルが包含される。オイルとしては、鉱物オイル、合成オイルなどが好ましい。オイルとしては、例えば、パラフィンオイル、シリコーンオイルが挙げられる。セパレータは、オイルを一種含んでもよく、二種以上組み合わせて含んでもよい。
【0034】
セパレータ中のオイルの含有率は、11質量%以上18質量%以下が好ましい。オイルの含有率がこのような範囲である場合、セパレータの酸化劣化を抑制する効果がさらに高まる。また、セパレータの抵抗を比較的低く抑えることができる。
【0035】
セパレータは、シート状であってもよい。また、蛇腹状に折り曲げたシートをセパレータとして用いてもよい。セパレータは袋状に形成してもよい。正極板または負極板のうちのいずれか一方を袋状のセパレータに包んでもよい。
【0036】
セパレータは、リブを有してもよく、リブを有さなくてもよい。リブを有するセパレータは、例えば、ベース部とベース部の表面から立設されたリブとを備える。リブは、セパレータまたは各ベース部の一方の表面のみに設けてもよく、両方の表面にそれぞれ設けてもよい。なお、セパレータのベース部とは、セパレータの構成部位のうち、リブなどの突起を除く部分であり、セパレータの外形を画定するシート状の部分をいう。
【0037】
セパレータの厚さは、例えば、90μm以上である。より高い強度が得られる観点からは、100μm以上または150μm以上が好ましい。セパレータの厚さは、例えば、300μm以下である。セパレータの抵抗を低く抑える観点からは、セパレータの厚さは、250μm以下または200μm以下であってもよい。セパレータの厚さとは、セパレータの電極材料に対向する部分における平均厚さを意味する。セパレータが、ベース部とベース部の少なくとも一方の表面から立設されたリブとを備える場合には、セパレータの厚さとは、ベース部における平均厚さである。セパレータに貼付部材(マット、ペースティングペーパなど)が貼り付けられている場合には、貼付部材の厚さは、セパレータの厚さには含まれない。
【0038】
セパレータの厚さは、90μm以上300μm以下(または250μm以下)、90μm以上200μm以下、100μm以上(または150μm以上)300μm以下、100μm以上(または150μm以上)250μm以下、あるいは100μm以上(または150μm以上)200μm以下であってもよい。
【0039】
セパレータがリブを有する場合、リブの高さは、0.05mm以上であってもよい。また、リブの高さは、1.2mm以下であってもよい。リブの高さは、ベース部の表面から突出した部分の高さ(突出高さ)である。
【0040】
セパレータの正極板と対向する領域に設けられるリブの高さは、0.4mm以上であってもよい。セパレータの正極板と対向する領域に設けられるリブの高さは、1.2mm以下であってもよい。
【0041】
セパレータは、例えば、ベースポリマーと、造孔剤と、浸透剤(界面活性剤)とを含む樹脂組成物をシート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の少なくとも一部を除去することにより得られる。少なくとも一部の造孔剤を除去することで、ベースポリマーのマトリックス中に微細孔が形成される。シート状のセパレータは、造孔剤を除去した後、必要に応じて乾燥処理される。例えば、押出成形する際のシートの冷却速度、延伸処理の際の延伸倍率、および乾燥処理の際の温度からなる群より選択される少なくとも1つを調節することによって、比率Rが調節される。例えば、押出成形する際にシートを急冷したり、延伸倍率を高くしたり、または乾燥処理の際の温度を低くしたりすると、比率Rが高くなる傾向がある。延伸処理は、二軸延伸によって行ってもよいが、通常、一軸延伸によって行われる。シート状のセパレータは、必要に応じて、蛇腹状に折り曲げたり、袋状に加工したりしてもよい。
【0042】
リブを有するセパレータでは、リブは、樹脂組成物を押出成形する際にシートに形成してもよい。また、リブは、樹脂組成物をシート状に成形した後または造孔剤を除去した後に、各リブに対応する溝を有するローラでシートを押圧することにより形成してもよい。
【0043】
造孔剤としては、液状造孔剤および固形造孔剤などが挙げられる。造孔剤は、少なくともオイルを含むことが好ましい。オイルを用いることで、オイルを含有するセパレータが得られ、酸化劣化を抑制する効果を高めることができる。造孔剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。オイルと他の造孔剤とを併用してもよい。液状造孔剤と、固形造孔剤とを併用してもよい。なお、室温(20℃以上35℃以下の温度)において、液状の造孔剤を液状造孔剤、固形の造孔剤を固形造孔剤と分類する。
【0044】
液状造孔剤としては、上述のオイルが好ましい。固形造孔剤としては、例えば、ポリマー粉末が挙げられる。
【0045】
セパレータ中の造孔剤の量は、種類によっては変化することがある。セパレータ中の造孔剤の量は、ベースポリマー100質量部あたり、例えば、30質量部以上である。造孔剤の量は、ベースポリマー100質量部あたり、例えば、60質量部以下である。
【0046】
例えば、造孔剤としてのオイルを用いて形成されるシートから、溶剤を用いて一部のオイルを抽出除去することによって、オイルを含有するセパレータが形成される。溶剤は、例えば、オイルの種類に応じて選択される。例えば、溶剤の種類および組成、抽出条件(抽出時間、抽出温度、溶剤を供給する速度など)などを調節することによって、セパレータ中のオイルの含有率が調節される。
【0047】
浸透剤としての界面活性剤としては、例えば、イオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤のいずれであってもよい。界面活性剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0048】
セパレータ中の浸透剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上であり、0.1質量%以上であってもよい。セパレータ中の浸透剤の含有率は、10質量%以下であってもよい。
【0049】
セパレータ(またはセパレータの製造に供される樹脂組成物)は、無機粒子を含んでもよい。
【0050】
無機粒子としては、例えば、セラミックス粒子が好ましい。セラミックス粒子を構成するセラミックスとしては、例えば、シリカ、アルミナ、およびチタニアからなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0051】
セパレータ中の無機粒子の含有率は、例えば、40質量%以上であってもよい。無機粒子の含有率は、例えば、80質量%以下であり、70質量%以下であってもよい。
【0052】
セパレータにおいて、細孔の屈曲度は、例えば、5以上であり、20以上であってもよい。細孔の屈曲度は、例えば、150以下であり、70以下であってもよい。セパレータがこのような屈曲度を有することで、セパレータの強度をさらに高めることができる。また、高い浸透短絡抑制効果が得られるとともに、高容量が得られる。
【0053】
セパレータにおいて、細孔の屈曲度は、5以上(または20以上)150以下、あるいは5以上(または20以上)70以下であってもよい。
【0054】
細孔の屈曲度は、水銀圧入法により求められる。屈曲度は、下記式で表される。
【0055】
【数1】
(式中、ξ:屈曲度、ρ:密度、K:浸透率、Vtot:全細孔容積、X:微分細孔分布である。)
【0056】
屈曲度は、造孔剤とベースポリマーとの親和性を調節したり、無機粒子の種類および/または粒子径を選択したり、ならびに/もしくは、無機粒子の表面に存在する官能基および/または原子などの量を調節したりすることにより、調節することができる。また、屈曲度は、造孔剤を抽出除去する際の溶剤の種類および組成、抽出条件(抽出時間、抽出温度、溶剤を供給する速度など)などを調節することによっても調節することができる。
【0057】
(セパレータの分析またはサイズの計測)
(セパレータの準備)
セパレータの分析またはサイズの計測には、未使用のセパレータまたは使用初期の満充電状態の鉛蓄電池から取り出したセパレータが用いられる。鉛蓄電池から取り出したセパレータは、分析または計測に先立って、洗浄および乾燥される。
【0058】
鉛蓄電池から取り出したセパレータの洗浄および乾燥は、次の手順で行われる。鉛蓄電池から取り出したセパレータを純水中に1時間浸漬し、セパレータ中の硫酸を除去する。次いで浸漬していた液体からセパレータを取り出して、25℃±5℃環境下で、16時間以上静置し、乾燥させる。
【0059】
本明細書中、鉛蓄電池の満充電状態とは、JIS D 5301:2019の定義によって定められる。より具体的には、25℃±2℃の水槽中で、鉛蓄電池を、定格容量として記載の数値の1/10の電流(A)で、15分ごとに測定した充電中の端子電圧(V)または20℃に温度換算した電解液密度が3回連続して有効数字3桁で一定値を示すまで充電した状態が満充電状態である。定格容量として記載の数値は、単位をAhとした数値である。定格容量として記載の数値を元に設定される電流の単位はAとする。
【0060】
満充電状態の鉛蓄電池は、既化成の鉛蓄電池を満充電した鉛蓄電池である。鉛蓄電池の満充電は、化成後であれば、化成直後でもよく、化成から時間が経過した後に行ってもよい(例えば、化成後で、使用中(好ましくは使用初期)の鉛蓄電池を満充電してもよい)。
【0061】
本明細書中、使用初期の電池とは、使用開始後、それほど時間が経過しておらず、ほとんど劣化していない電池である。
【0062】
(XRDスペクトル)
セパレータのXRDスペクトルは、セパレータの表面に垂直な方向からX線を照射することによって測定される。測定用のサンプルは、セパレータの電極材料に対向する部分を短冊状に加工することによって作製される。リブを有するセパレータでは、リブを含まないように、ベース部を短冊状に加工してサンプルを作製する。XRDスペクトルの測定およびフィッティングは、以下の条件で行われる。
(測定条件)
測定装置:RINT-TTR2、リガク社製
フィッティング:FT(ステップスキャン)法
測定角度範囲:15-35°
ステップ幅:0.02°
計測速度:5°/min
XRDデータ処理:XRDパターン解析ソフト(PDXL2、リガク製)を使用。
【0063】
(セパレータの厚さおよびリブの高さ)
セパレータの厚さは、セパレータの断面写真において、任意に選択した5箇所について厚みを計測し、平均化することによって求められる。
【0064】
リブの高さは、セパレータの断面写真において、リブの任意に選択される10箇所において計測したリブのベース部の一方の表面からの高さを平均化することにより求められる。
【0065】
(セパレータ中のオイル含有率)
セパレータの電極材料に対向する部分を短冊状に加工してサンプル(以下、サンプルAと称する)を作製する。リブを有するセパレータでは、リブを含まないように、ベース部を短冊状に加工してサンプルAを作製する。
【0066】
サンプルAの約0.5gを採取し、正確に秤量し、初期のサンプルの質量(m0)を求める。秤量したサンプルAを、適当な大きさのガラス製ビーカーに入れ、n-ヘキサン50mLを加える。次いで、ビーカーごと、サンプルに約30分間、超音波を付与することにより、サンプルA中に含まれるオイル分をn-ヘキサン中に溶出させる。次いで、n-ヘキサンからサンプルを取り出し、大気中、室温(20℃以上35℃以下の温度)で乾燥させた後、秤量することにより、オイル除去後のサンプルの質量(m1)を求める。そして、下記式により、オイルの含有率を算出する。10個のサンプルAについてオイルの含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中のオイルの含有率とする。
オイルの含有率(質量%)=(m0-m1)/m0×100
【0067】
(セパレータ中の無機粒子の含有率)
上記と同様に作製したサンプルAの一部を採取し、正確に秤量した後、白金坩堝中に入れ、ブンゼンバーナーで白煙が出なくなるまで加熱する。次に、得られるサンプルを、電気炉(酸素気流中、550℃±10℃)で、約1時間加熱して灰化し、灰化物を秤量する。サンプルAの質量に占める灰化物の質量の比率(百分率)を算出し、上記の無機粒子の含有率(質量%)とする。10個のサンプルAについて無機粒子の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中の無機粒子の含有率とする。
【0068】
(セパレータ中の浸透剤の含有率)
上記と同様に作製したサンプルAの一部を採取し、正確に秤量した後、室温(20℃以上35℃以下の温度)で大気圧より低い減圧環境下で、12時間以上乾燥させる。乾燥物を白金セルに入れて、熱重量測定装置にセットし、昇温速度10K/分で、室温から800℃±1℃まで昇温する。室温から250℃±1℃まで昇温させたときの重量減少量を浸透剤の質量とし、サンプルBの質量に占める浸透剤の質量の比率(百分率)を算出し、上記の浸透剤の含有率(質量%)とする。熱重量測定装置としては、T.A.インスツルメント社製のQ5000IRが使用される。10個のサンプルAについて浸透剤の含有率を求め、平均値を算出する。得られる平均値をセパレータ中の浸透剤の含有率とする。
【0069】
(屈曲度)
屈曲度の上記式における密度、全細孔容積、浸透率、および微分細孔分布は、セパレータの電極材料に対向する部分を縦20mm×横5mmのサイズにカットしたサンプル(サンプルB)について、水銀ポロシメータを用いて下記の条件で求められる。
水銀ポロシメータ:オートポアIV9510、(株)島津製作所製
測定の圧力範囲:4psia(≒27.6kPa)以上60,000psia(≒414MPa)以下
細孔分布:0.01μm以上50μm以下
【0070】
(正極板)
正極板としては、ペースト式正極板が用いられる。ペースト式正極板は、正極集電体と、正極電極材料とを備える。正極電極材料は、正極集電体に保持されている。正極電極材料は、正極板から正極集電体を除いた部分である。なお、極板には、マット、ペースティングペーパなどの部材が貼り付けられていることがある。このような部材(貼付部材とも称する)は極板と一体として使用されるため、極板に含まれる。正極板が貼付部材を含む場合には、正極電極材料は、正極板から正極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0071】
正極板に含まれる正極集電体は、鉛(Pb)または鉛合金の鋳造により形成してもよく、鉛または鉛合金シートを加工して形成してもよい。加工方法としては、例えば、エキスパンド加工または打ち抜き(パンチング)加工が挙げられる。正極集電体として格子状の集電体を用いると、正極電極材料を担持させ易いため好ましい。
【0072】
正極集電体に用いる鉛合金としては、耐食性および機械的強度の点で、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金が好ましい。正極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は1層であってもよく、複数層でもよい。
【0073】
正極板に含まれる正極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する正極活物質(二酸化鉛もしくは硫酸鉛)を含む。正極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤(補強材など)を含んでもよい。
【0074】
補強材としては、例えば、繊維(無機繊維、有機繊維など)が挙げられる。有機繊維を構成する樹脂(または高分子)としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂など)、ポリエステル系樹脂(ポリアルキレンアリーレート(ポリエチレンテレフタレートなど)を含む)、およびセルロース類(セルロース、セルロース誘導体(セルロースエーテル、セルロースエステルなど)など)からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。セルロース類には、レーヨンも含まれる。
【0075】
正極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.03質量%以上である。また、正極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.5質量%以下である。
【0076】
未化成のペースト式正極板は、正極集電体に、正極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより得られる。正極ペーストは、鉛粉、アンチモン化合物、および必要に応じて他の添加剤(補強材など)に、水および硫酸を加えて混練することで調製される。
【0077】
未化成の正極板を化成することにより正極板が得られる。化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の正極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。
【0078】
(負極板)
鉛蓄電池の負極板は、負極集電体と、負極電極材料とで構成されている。負極電極材料は、負極板から負極集電体を除いた部分である。なお、負極板には、上述のような貼付部材が貼り付けられている場合がある。この場合、貼付部材は、負極板に含まれる。負極板が貼付部材を含む場合には、負極電極材料は、負極板から負極集電体および貼付部材を除いた部分である。
【0079】
負極集電体は、正極集電体の場合と同様にして形成できる。正極集電体および負極集電体の少なくとも一方が、エキスパンド加工により形成された集電体であってもよい。エキスパンド加工により形成された集電体を用いた極板では、極板の製造工程において、製造装置との干渉により隅部が変形することがある。このような極板を用いて鉛蓄電池を作製すると、初期の段階で、極板の隅部がセパレータを突き破って短絡が起こり易い。本発明の一側面のセパレータは、高い強度が得られるため、エキスパンド格子を用いた極板と組み合わせる場合でも、極板の変形に伴う初期の短絡を抑制することができ、有利である。正極板および負極板の少なくとも一方がエキスパンド格子を含んでいてもよい。
【0080】
負極集電体に用いる鉛合金は、Pb-Sb系合金、Pb-Ca系合金、Pb-Ca-Sn系合金のいずれであってもよい。これらの鉛もしくは鉛合金は、更に、添加元素として、Ba、Ag、Al、Bi、As、Se、Cuなどからなる群より選択された少なくとも1種を含んでもよい。負極集電体は、組成の異なる鉛合金層を有してもよく、合金層は1層であってもよく、複数層でもよい。
【0081】
負極板に含まれる負極電極材料は、酸化還元反応により容量を発現する負極活物質(鉛もしくは硫酸鉛)を含んでおり、有機防縮剤、炭素質材料、硫酸バリウムなどを含んでもよい。負極電極材料は、必要に応じて、他の添加剤(補強材など)を含んでもよい。
【0082】
有機防縮剤としては、リグニン、リグニンスルホン酸、合成有機防縮剤(フェノール化合物のホルムアルデヒド縮合物など)などが挙げられる。負極電極材料は、有機防縮剤を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0083】
負極電極材料中の有機防縮剤の含有率は、例えば、0.01質量%以上である。有機防縮剤の含有率は、例えば、1質量%以下である。
【0084】
炭素質材料としては、カーボンブラック、黒鉛(人造黒鉛、天然黒鉛など)、ハードカーボン、ソフトカーボンなどが挙げられる。負極電極材料は、炭素質材料を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0085】
負極電極材料中の炭素質材料の含有率は、例えば、0.1質量%以上である。炭素質材料の含有率は、例えば、3質量%以下であってもよい。
【0086】
負極電極材料中の硫酸バリウムの含有率は、例えば、0.1質量%以上である。硫酸バリウムの含有率は、例えば、3質量%以下である。
【0087】
補強材としては、例えば、繊維(無機繊維、有機繊維(正極電極材料の補強材について記載した樹脂で構成された有機繊維など)など)が挙げられる。
【0088】
負極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.03質量%以上である。また、負極電極材料中の補強材の含有率は、例えば、0.5質量%以下である。
【0089】
充電状態の負極活物質は、海綿状鉛であるが、未化成の負極板は、通常、鉛粉を用いて作製される。
【0090】
負極板は、負極集電体に、負極ペーストを充填し、熟成および乾燥することにより未化成の負極板を作製し、その後、未化成の負極板を化成することにより形成できる。負極ペーストは、鉛粉と有機防縮剤および必要に応じて各種添加剤に、水と硫酸を加えて混練することで作製する。熟成工程では、室温より高温かつ高湿度で、未化成の負極板を熟成させることが好ましい。
【0091】
化成は、鉛蓄電池の電槽内の硫酸を含む電解液中に、未化成の負極板を含む極板群を浸漬させた状態で、極板群を充電することにより行うことができる。ただし、化成は、鉛蓄電池または極板群の組み立て前に行ってもよい。化成により、海綿状鉛が生成する。
【0092】
(電解液)
電解液は、硫酸を含む水溶液である。電解液は、必要に応じてゲル化させてもよい。
【0093】
電解液は、さらに、Naイオン、Liイオン、Mgイオン、およびAlイオンからなる群より選択される少なくとも一種の金属イオンなどを含んでもよい。
【0094】
電解液の20℃における比重は、例えば、1.10以上である。電解液の20℃における比重は、1.35以下であってもよい。なお、これらの比重は、満充電状態の鉛蓄電池の電解液についての値である。
【0095】
以下、各特性の評価方法について説明する。セパレータの強度は、突き刺し強度によって評価される。
【0096】
(1)突き刺し強度
セパレータの突き刺し強度は、下記の手順で測定される。
JIS Z 1707:2019の7.5「突刺し強さ試験」に準拠して、ジグでセパレータの縁部(より具体的には、セパレータの両側端部の縁部)を含む試験片を固定し、試験機の針を縁部に突き刺し、針が貫通するまでの最大力(N)を測定する。5つの試験片について同様に測定し、平均値を求め、突き刺し強度とする。試験片は、縁部を含むようにセパレータを縦50mm×横50mmのサイズにカットすることにより作製される。袋状のセパレータにおいて、セパレータの両側端部に圧着部が形成されている場合には、突き刺し強度は、縁部の圧着部以外の部分について測定される。試験機としては、(株)島津製作所製のAGS-X,10N-10kNを用いる。針としては、直径1.0mm、先端形状が半円形(半径0.5mm)のものを用い、試験速度は50±5mm/minとする。試験片を固定するためのジグは測定部の上面が直径10mm、下側直径が20mmのものを使用する。
【0097】
(2)IS寿命性能
次の手順で、端子電圧が7.2Vに到達するまでのサイクル数をIS寿命性能の指標とする。なお、(e)の微小電流放電は、ISS車におけるエンジン停止時の暗電流放電を模擬している。
(a)満充電が完了後、最低16時間、蓄電池を0℃±1℃の冷却室に置いた後、中央にあるいずれかのセルの電解液温度が0℃±1℃であることを確認する。
(b)蓄電池を放電電流300Aで1.0秒間放電する。
(c)蓄電池を放電電流25Aで25秒間放電する。
(d)蓄電池を14.0Vの電圧で30秒間充電する。
(e)上記(b)~(d)の放電および充電を1サイクルとして繰り返す。このとき、30サイクル毎に微小電流(20mA)を6時間放電する。
(f)上記(b)において端子電圧が7.2V未満になったときのサイクル数を求める。
【0098】
図1に、本発明の実施形態に係る鉛蓄電池の一例の外観を示す。
鉛蓄電池1は、極板群11と電解液(図示せず)とを収容する電槽12を具備する。電槽12内は、隔壁13により、複数のセル室14に仕切られている。各セル室14には、極板群11が1つずつ収納されている。電槽12の開口部は、負極端子16および正極端子17を具備する蓋15で閉じられる。蓋15には、セル室毎に液口栓18が設けられている。補水の際には、液口栓18を外して補水液が補給される。液口栓18は、セル室14内で発生したガスを電池外に排出する機能を有してもよい。
【0099】
極板群11は、それぞれ複数枚の負極板2および正極板3を、セパレータ4を介して積層することにより構成されている。ここでは、負極板2を収容する袋状のセパレータ4を示すが、セパレータの形態は特に限定されない。電槽12の一方の端部に位置するセル室14では、複数の負極板2を並列接続する負極棚部6が貫通接続体8に接続され、複数の正極板3を並列接続する正極棚部5が正極柱7に接続されている。正極柱7は蓋15の外部の正極端子17に接続されている。電槽12の他方の端部に位置するセル室14では、負極棚部6に負極柱9が接続され、正極棚部5に貫通接続体8が接続される。負極柱9は蓋15の外部の負極端子16と接続されている。各々の貫通接続体8は、隔壁13に設けられた貫通孔を通過して、隣接するセル室14の極板群11同士を直列に接続している。
【0100】
本明細書中に記載した事項は、任意に組み合わせることができる。
【0101】
[実施例]
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0102】
《鉛蓄電池E1~E11およびC1~C3》
下記の手順で各鉛蓄電池を作製した。
(1)セパレータの作製
ポリエチレン100質量部と、シリカ粒子160質量部と、造孔剤としてのパラフィン系オイル80質量部と、2質量部の浸透剤とを含む樹脂組成物を、シート状に押出成形し、延伸処理した後、造孔剤の一部を除去することによって、片面にリブを有する微多孔膜を作製した。このとき、既述の手順で求められるセパレータの比率Rが、表1および表2に示す値となるように、押出成形されたシートの冷却速度および延伸処理の倍率を調節した。
【0103】
既述の手順で求められるセパレータのオイル含有率は、11~18質量%であり、屈曲度は、5~70であり、シリカ粒子の含有率は、60質量%であった。既述の手順で求められるリブの高さは0.6mmであった。既述の手順で求められるセパレータの厚さ(ベース部の厚さ)を表1および表2に示す。
【0104】
次に、シート状の微多孔膜を外面にリブが配置されるように二つ折りにして袋を形成し、重ね合わせた両端部を圧着して、袋状セパレータを得た。
【0105】
なお、セパレータの比率R、オイル含有率、シリカ粒子の含有率、ベース部の厚さ、およびリブの高さは、鉛蓄電池の作製前のセパレータについて求めた値であるが、作製後の鉛蓄電池から取り出したセパレータについて既述の手順で測定した値とほぼ同じである。
【0106】
(2)正極板の作製
鉛酸化物、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して正極ペーストを調製した。正極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.6mmの未化成の正極板を得た。
【0107】
(3)負極板の作製
鉛酸化物、カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニン、補強材(合成樹脂繊維)、水および硫酸を混合して負極ペーストを調製した。負極ペーストを、アンチモンを含まないPb-Ca-Sn系合金製のエキスパンド格子の網目部に充填し、熟成および乾燥を行うことによって、幅100mm、高さ110mm、厚さ1.3mmの未化成の負極板を得た。カーボンブラック、硫酸バリウム、リグニンおよび合成樹脂繊維の使用量は、満充電状態の鉛蓄電池から取り出した負極板について各成分の含有率が、それぞれ0.3質量%、2.1質量%、0.1質量%および0.1質量%になるように調節した。
【0108】
(4)鉛蓄電池の作製
未化成の負極板を、袋状セパレータに収容し、正極板と積層し、未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した。
【0109】
正極板の耳部同士および負極板の耳部同士をそれぞれキャストオンストラップ(COS)方式で正極棚部および負極棚部と溶接した。極板群をポリプロピレン製の電槽に挿入し、電解液を注液して、電槽内で化成を施して、定格電圧12Vおよび定格容量が30Ah(5時間率容量(定格容量に記載のAhの数値の1/5の電流(A)で放電するときの容量))の液式の鉛蓄電池を組み立てた。なお、電槽内では6個の極板群が直列に接続されている。
【0110】
電解液としては、硫酸水溶液を用いた。化成後の電解液の20℃における比重は1.285であった。
【0111】
(5)評価
実施例1のセパレータについて、既述の手順で測定されたXRDスペクトルを図1に示す。図1に示されるように、ポリエチレンの結晶質領域の(110)面に相当する第1回折ピークが、2θ=21.5°~22.5°の範囲に観察され、(200)面に相当する第2回折ピークが、2θ=23°~24.5°の範囲に観察された。そして、非晶質領域によるハローが2θ=17°~27°の広い範囲にブロードに観察された。
【0112】
セパレータまたは得られた鉛蓄電池を用いて、既述の手順でセパレータの突き刺し強度および鉛蓄電池のIS寿命性能を評価した。突き刺し強度は、鉛蓄電池C1のセパレータにおける値を100としたときの各鉛蓄電池のセパレータの値の比によって評価した。また、IS寿命性能は、鉛蓄電池C1のサイクル数を100としたときの各鉛蓄電池のサイクル数の比によって評価した。
【0113】
評価結果を表1および表2に示す。E1~E11は実施例である。C1~C3は比較例である。
【0114】
【表1】
【0115】
表1に示されるように、セパレータの比率Rが0.60以上になると、従来技術に相当する比率Rが0.58のときに比べて、突き刺し強度が向上した。これは、セパレータの結晶性が高まることで、強度が向上したことによると考えられる。
【0116】
【表2】
【0117】
表2に示されるように、セパレータの厚さが100μm以上300μm以下の場合にはより高い強度を確保することができるとともに、高いIS寿命性能を確保することができる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の上記側面に係る鉛蓄電池用セパレータは、例えば、IS用途(ISS車用の鉛蓄電池など)、様々な車両(自動車、バイクなど)の始動用電源などに適している。また、鉛蓄電池用セパレータは、電動車両(フォークリフトなど)などの産業用蓄電装置などの電源にも好適に利用できる。なお、これらの用途は単なる例示である。本発明の上記側面に係る鉛蓄電池用セパレータおよび鉛蓄電池の用途は、これらに限定されない。
【符号の説明】
【0119】
1:鉛蓄電池、2:負極板、3:正極板、4:セパレータ、5:正極棚部、6:負極棚部、7:正極柱、8:貫通接続体、9:負極柱、11:極板群、12:電槽、13:隔壁、14:セル室、15:蓋、16:負極端子、17:正極端子、18:液口栓
図1
図2