(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186316
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】回転電機及び回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20221208BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20221208BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H02K15/02 D
H02K1/18 A
H02K9/19 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094473
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】茜谷 宗明
(72)【発明者】
【氏名】岩本 寛治
【テーマコード(参考)】
5H601
5H609
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA01
5H601AA08
5H601AA09
5H601AA26
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601DD18
5H601GA02
5H601GA40
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GB48
5H601GC02
5H601GC12
5H601GD02
5H601GD07
5H601GD17
5H601JJ04
5H601KK14
5H609BB19
5H609PP02
5H609PP06
5H609PP08
5H609QQ04
5H609QQ09
5H609RR37
5H609RR42
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB02
5H615PP01
5H615PP06
5H615SS12
5H615SS13
5H615SS24
5H615TT13
5H615TT15
(57)【要約】
【課題】ステータコアをステータ支持部に強固に固定しつつ、鋳込工程後のステータ支持部の熱収縮に起因してステータコアに生じうる応力を低減する。
【解決手段】磁性体の第1金属材料により形成されかつ凹部又凸部を外周面に有するステータコアを、金型にセットする工程と、ステータコアをセットした金型に、非磁性体の第2金属材料を鋳込むことで、ステータ支持部を形成する鋳込工程と、ステータコアとステータ支持部との一体物である鋳物に対し、ステータコアに生じうる応力に関する応力低減処理を実行する工程と、を含み、ステータコアの凹部又は凸部は、径方向に視てステータコアのティースに重なる周方向位置に形成され、鋳込工程は、ステータコアの凹部内又は凸部まわりに第2金属材料を至らせることで、ステータ支持部においてステータコアの凹部又は凸部に対応する形態の凸部又は凹部を形成する、回転電機の製造方法が開示される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体である第1金属材料により形成されかつ径方向に凹む凹部又は径方向に突出する凸部を外周面に有するステータコアを、金型にセットする工程と、
前記ステータコアをセットした前記金型に、非磁性体であり前記第1金属材料よりも熱膨張係数が大きい第2金属材料を鋳込むことで、前記ステータコアの外周面に接合するステータ支持部を形成する鋳込工程と、
前記ステータコアと前記ステータ支持部との一体物である鋳物に対し、前記第1金属材料と前記第2金属材料との間の熱膨張係数の相違に起因して前記ステータコアに生じうる応力に関する応力低減処理を実行する工程と、を含み、
前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部は、径方向に視て前記ステータコアのティースに重なる周方向位置に形成され、かつ、周方向幅が径方向内側の方が径方向外側よりも大きい楔状の形態であり、
前記鋳込工程は、前記ステータコアの前記凹部内又は前記凸部まわりに前記第2金属材料を至らせることで、前記ステータ支持部において前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部に対応する形態の凸部又は凹部を形成する、回転電機の製造方法。
【請求項2】
前記鋳込工程の直後において、前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部と、前記ステータ支持部の前記凹部又は前記凸部とは、互いに対して径方向及び周方向で隙間なく接触する、請求項1に記載の回転電機の製造方法。
【請求項3】
前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部は、8箇所以下の複数の周方向位置に、形成される、請求項1又は2に記載の回転電機の製造方法。
【請求項4】
前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部は、周方向で等間隔ごとの周方向位置に形成される、請求項3に記載の回転電機の製造方法。
【請求項5】
前記ステータ支持部は、冷却水が通る複数の冷却水路を軸方向に沿って形成し、
前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部は、径方向に視て前記冷却水路に重なる周方向位置に形成される、請求項1~4のうちのいずれか1項に記載の回転電機の製造方法。
【請求項6】
磁性体である第1金属材料により形成されかつ径方向に凹む凹部又は径方向に突出する凸部を外周面に有するステータコアと、
前記ステータコアの外周面を覆い、前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部に対応する形態の凸部又は凹部を有するステータ支持部と、を備え、
前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部は、径方向に視て前記ステータコアのティースに重なる周方向位置に配置される、回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、回転電機及び回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコアをボルトによりステータ支持部に固定し、径方向でステータ支持部とステータコアとの間に隙間を形成し、当該隙間に、冷却用の油が流れるパイプを配置する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような従来技術では、ステータコアをステータ支持部に固定するためにボルトを用いるので、ボルトに起因した不都合(例えばボルトの締め付けによるステータコアの歪の発生や、ボルトを含む部品点数の増加等)が生じる。
【0005】
そこで、1つの側面では、本開示は、鋳込工程及び形状特徴を利用してステータコアをステータ支持部に強固に固定しつつ、鋳込工程後のステータ支持部の熱収縮に起因してステータコアに生じうる応力を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
1つの側面では、磁性体である第1金属材料により形成されかつ径方向に凹む凹部又は径方向に突出する凸部を外周面に有するステータコアを、金型にセットする工程と、
前記ステータコアをセットした前記金型に、非磁性体であり前記第1金属材料よりも熱膨張係数が大きい第2金属材料を鋳込むことで、前記ステータコアの外周面に接合するステータ支持部を形成する鋳込工程と、
前記ステータコアと前記ステータ支持部との一体物である鋳物に対し、前記第1金属材料と前記第2金属材料との間の熱膨張係数の相違に起因して前記ステータコアに生じうる応力に関する応力低減処理を実行する工程と、を含み、
前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部は、径方向に視て前記ステータコアのティースに重なる周方向位置に形成され、かつ、周方向幅が径方向内側の方が径方向外側よりも大きい楔状の形態であり、
前記鋳込工程は、前記ステータコアの前記凹部内又は前記凸部まわりに前記第2金属材料を至らせることで、前記ステータ支持部において前記ステータコアの前記凹部又は前記凸部に対応する形態の凸部又は凹部を形成する、回転電機の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0007】
1つの側面では、本開示によれば、鋳込工程及び形状特徴を利用してステータコアをステータ支持部に強固に固定しつつ、鋳込工程後のステータ支持部の熱収縮に起因してステータコアに生じうる応力を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】一実施例によるモータの断面構造を概略的に示す断面図である。
【
図2】ステータコアとステータ支持部とを軸方向に視た平面図である。
【
図4】楔状突起及び楔状凹部による効果の説明図である。
【
図5】楔状突起及び楔状凹部の好ましい数の説明図である。
【
図6】ステータ支持部及びステータの結合体の製造方法の流れを示す概略的なフローチャートである。
【
図7】応力低減処理により低減される応力の発生原理を説明する図である。
【
図8】本実施例による応力低減処理を含む製造工程に沿った各種パラメータの変化態様を示す図である。
【
図9】比較例として、本実施例による応力低減処理に対応する熱処理を省略した場合の製造工程に沿った各種パラメータの変化態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率はあくまでも一例であり、これに限定されるものではなく、また、図面内の形状等は、説明の都合上、部分的に誇張している場合がある。
【0010】
図1は、一実施例によるモータ1の断面構造を概略的に示す断面図である。
図2は、ステータコア22とステータ支持部10とを軸方向に視た平面図である。
図3は、
図2のQ1部の拡大図である。
図4は、楔状突起106及び楔状凹部226による効果の説明図である。
図5は、楔状突起106及び楔状凹部226の好ましい数の説明図である。
図1には、X方向とともに、X方向X1側とX方向X2側とが定義されている。
【0011】
図1には、モータ1の回転軸12が図示されている。以下の説明において、軸方向とは、モータ1の回転軸(回転中心)12が延在する方向を指し、X方向に平行である。また、径方向とは、回転軸12を中心とした径方向を指す。従って、径方向外側とは、回転軸12から離れる側を指し、径方向内側とは、回転軸12に向かう側を指す。また、周方向とは、回転軸12まわりの回転方向に対応する。
【0012】
モータ1は、例えばハイブリッド車両や電気自動車で使用される車両駆動用のモータであってよい。ただし、モータ1は、他の任意の用途に使用されるものであってもよい。
【0013】
モータ1は、インナーロータ型であり、ステータ21がロータ30の径方向外側を囲繞するように設けられる。ステータ21は、ステータコア22の径方向外側がステータ支持部10に固定される。ステータコア22とステータ支持部10との固定方法については後述する。
【0014】
ステータ支持部10は、アルミを主成分とする材料(第2金属材料の一例)により形成される。例えば、ステータ支持部10は、後述する冷却水が通る冷却水路95を形成する関係上、好ましくは、伝熱性及び耐腐食性が良好なアルミ合金により形成される。アルミ合金としては、例えば、Al-Si系合金や、Al-Mg系合金、Al-Mg-Si系合金等、任意である。
【0015】
ステータ支持部10は、冷却水が通る冷却水路95を形成する。すなわち、ステータ支持部10は、冷却水路95を形成するための中空部(空洞)を有する。かかる中空部を有するステータ支持部10は、例えば一ピースの部材であり、崩壊性中子を利用した鋳造で形成されてよい。あるいは、ステータ支持部10は、径方向内側及び径方向外側にそれぞれ配置される二ピースの部材により形成されてもよい。なお、冷却水は、LLC(Long Life Coolant)を含んでよい。冷却水は、ラジエータ(図示せず)で外気(例えば車両の走行時に通過する空気)と熱交換されて冷却され、冷却水路95に供給されてよい。
【0016】
冷却水路95の形態は任意であり、螺旋状に周回する形態であってもよいし、軸方向に延在する形態であってよい。本実施例では、一例として、
図2に示すように、冷却水路95は、軸方向に延在し、かつ、45度ピッチの等間隔を有する態様で複数の周方向位置に形成される。軸方向の冷却水路95は、軸方向に視て周方向に長い円弧状の断面形状を有し、等断面で軸方向に直線状に延在してよい。また、複数の軸方向の冷却水路95は、軸方向の端部で円環状の水路(図示せず)と連通してよい。
【0017】
本実施例では、ステータ支持部10は、上述したように、ステータコア22の径方向外側の表面に結合される。従って、ステータ支持部10とステータコア22との間に、他の部材や空気層が介在する場合に比べて、ステータ支持部10とステータコア22との間の熱抵抗を低減できる。この結果、ステータ支持部10の冷却水路95内の冷却水によりステータコア22(及びステータコア22に巻装されるステータコイル29)を効率的に冷却できる。
【0018】
なお、
図1に示す例では、ステータ支持部10は、ステータコア22の径方向外側を覆うのみならず、軸方向両側のコイルエンド29A、29Bに対して径方向に対向する。すなわち、ステータ支持部10は、ステータコア22の軸方向両側において、ステータコア22の延在範囲を越えて軸方向外側まで延在する。これにより、ステータ支持部10の冷却水路95を同様にコイルエンド29A、29Bに対して径方向に対向する態様で形成でき、コイルエンド29A、29Bを冷却水路95内の冷却水により冷却することも可能である。なお、径方向でコイルエンド29A、29Bとステータ支持部10との間には、熱伝導性の高い樹脂材料等が設けられてもよい。
【0019】
本実施例では、ステータ支持部10は、径方向内側の表面(ステータコア22に径方向で対向する表面)に、径方向内側に楔状に突出する楔状突起106を有する。楔状突起106は、軸方向に連続する態様で、軸方向に延在する。具体的には、楔状突起106は、ステータ支持部10におけるステータコア22に径方向に対向する軸方向範囲の全体にわたって軸方向に延在する。楔状突起106は、後述するステータ支持部10の楔状凹部226に対応して形成される部位であり、詳細は、ステータ支持部10の楔状凹部226に関連して後述する。
【0020】
ステータ21は、ステータコア22と、ステータコイル29とを含む。
【0021】
ステータコア22は、鉄を主成分とする材料(第1金属材料の一例)により形成される。例えば、ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなるが、変形例では、ステータコア22は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。なお、ステータコア22は、周方向で分割される分割コアにより形成されてもよいし、周方向で分割されない形態であってもよい。
【0022】
ステータコア22には、バックヨーク221から径方向内側に突出する複数のティース223が形成される。複数のティース223は、周方向に等間隔で配置され、周方向でティース223間には、スロット220が形成される。
【0023】
本実施例では、ステータコア22は、径方向外側の表面(ステータ支持部10に径方向で対向する表面)に、径方向内側に楔状に凹む楔状凹部226を有する。楔状凹部226は、ステータ支持部10の楔状突起106と相補関係となる形態であり、対応する楔状突起106と実質的に隙間なく一体化する。
【0024】
本実施例では、楔状凹部226は、
図2及び
図3に示すように、径方向に視て、ステータコア22のティース223に重なる周方向位置に形成される。本実施例では、楔状凹部226の周方向の中心位置は、対応する一のティース223の周方向の中心位置に一致する。すなわち、軸方向に視た平面視で、ティース223の周方向の中心位置と回転軸12を通る直線は、楔状凹部226の周方向の中心位置を通る。これにより、径方向に視てスロット220に重なる周方向位置に楔状凹部226が形成される場合に比べて、バックヨーク221における磁気経路への影響を低減でき、ステータコア22に係る必要な磁気特性(後述するトルク特性等)を維持することが容易となる。
【0025】
また、本実施例では、楔状凹部226は、径方向に視て、ステータ支持部10の冷却水路95に重ならない周方向位置に形成される。すなわち、楔状凹部226(及びステータ支持部10における楔状突起106)の周方向位置は、軸方向に視て、周方向で隣り合う冷却水路95の間に設定される。
【0026】
楔状凹部226の形成箇所は、軸方向の全長にわたってもよいし、軸方向の一部であってもよい。ただし、楔状凹部226が軸方向全長にわたって延在する場合、ステータコア22を形成する鋼板を共通化でき、生産性が良好となる。
【0027】
ところで、本実施例では、互いに結合するステータ支持部10及びステータコア22のそれぞれは、異なる材料により形成されている。具体的には、ステータ支持部10は、上述したように、アルミを主成分とした材料により形成され、ステータコア22は、鉄を主成分とした材料により形成される。アルミは鉄に比べて熱膨張係数が約2倍であるので、モータ1の動作時等において熱を受けると、ステータ支持部10の方がステータコア22よりも径方向外側に広がることで(矢印R400、R401参照)、径方向でステータ支持部10とステータコア22の間に隙間Δ1(
図4参照)が形成されやすくなる。
【0028】
しかしながら、本実施例では、上述したように、ステータ支持部10及びステータコア22は、楔状突起106及び楔状凹部226を介して結合されているので、かかる隙間Δ1が過大に増加する可能性を低減できる。具体的には、ステータ支持部10が径方向外側に広がろうとすると、楔状突起106が、ステータコア22の楔状凹部226において径方向内側に向かう反力F400を受けることができる。これにより、楔状突起106が楔状凹部226から径方向に抜け出る可能性を低減できる。なお、このような楔状凹部226及び楔状突起106が設けられない場合、かかる隙間Δ1が形成されると、ステータ支持部10及びステータコア22の間の相対的な回転(回転軸12まわりの回転)が生じる可能性があるが、本実施例では、かかる可能性を効果的に低減できる。
【0029】
また、本実施例のように、ステータ支持部10の冷却水路95内の冷却水によりステータコア22及びステータコイル29を冷却する構成においては、ステータ支持部10及びステータコア22間の接触面積が大きい方が、冷却の観点から有利である。
【0030】
この点、ステータコア22の楔状凹部226とステータ支持部10の楔状突起106とは、相補関係となる形態であり、実質的に隙間なく接触するので、ステータ支持部10及びステータコア22間の接触面積を効率的に増加できる。
【0031】
また、本実施例においては、モータ1の動作時等において熱を受けることで上述したような隙間Δ1が形成された場合、かかる隙間Δ1が形成されている間、ステータ支持部10及びステータコア22間の接触面積が低減するものの、楔状突起106及び楔状凹部226との間での接触が依然として確保される。これにより、上述したような隙間Δ1が一時的に形成されている状態でも、冷却水路95内の冷却水によりステータコア22を依然として適切に冷却することが可能である。
【0032】
また、本実施例によれば、上述したように、楔状凹部226(及びステータ支持部10における楔状突起106)の周方向位置は、軸方向に視て、周方向で隣り合う冷却水路95の間に設定されるので、隙間Δ1が比較的大きくなりやすい箇所に、楔状凹部226及び楔状突起106間の結合部を配置できる。すなわち、ステータ支持部10の全周のうちの、周方向で隣り合う冷却水路95の間の部分は、冷却水路95が形成されていないが故に、モータ1の動作時等における熱の影響を受けて、隙間Δ1が大きくなりやすい。この点、本実施例によれば、このような隙間Δ1が大きくなりやすい箇所に楔状凹部226(及びステータ支持部10における楔状突起106)を効率的に配置できる。また、冷却水路95と楔状凹部226(及びステータ支持部10における楔状突起106)とを周方向に離間させることで、冷却水路95の開口部周縁において上述した反力F400に起因して生じうる応力集中を低減できる。
【0033】
楔状突起106と楔状凹部226の形成箇所は、周方向に沿って複数設定されてもよい。ステータコア22における楔状突起106の形成箇所は、多いほど、ステータコア22とステータ支持部10との間の結合強度が増す点や、上述したような隙間Δ1が形成されたときの、ステータ支持部10及びステータコア22間の接触面積が増す点(及びそれに伴うステータコア22から冷却水路95内の冷却水により奪える熱量が増加する点)で、有利である。
【0034】
他方、ステータコア22における楔状突起106の形成箇所は、多いほど、ステータコア22のバックヨーク221の面積(容積)が低減するため、モータ1のトルク特性が低下する傾向となる。
図5には、横軸に楔状突起106の数を取り、縦軸にモータ1のトルクを取り、楔状突起106の数とトルクとの関係を示す。
図5においては、縦軸のモータ1のトルクは、同一の制御条件下でモータ1により発生されるトルクのシミュレーション結果を示す。
【0035】
本実施例では、
図2に示すように、楔状突起106は、8つ設けられる。これにより、モータ1のトルク特性を有意に低下させることなく、上述したステータコア22とステータ支持部10との間の結合強度を高める等の効果を得ることができる。具体的には、楔状突起106の数が8つである場合、
図5に示すように、トルク特性に対する閾値Th1を下方側に超えることなく、ステータコア22とステータ支持部10との間の結合強度を効率的に高めることができる。
【0036】
また、本実施例では、
図2に示すように、楔状突起106は、周方向で等間隔ごとの周方向位置に形成される。すなわち、楔状突起106は、軸方向の冷却水路95と同様、45度ピッチの等間隔を有する態様で、複数の周方向位置に形成される。これにより、ステータコア22における楔状突起106に起因した磁気特性の影響を周方向に沿って均一化できるとともに、楔状凹部226及び楔状突起106間の結合部により結合強度が増加する箇所を、周方向で均等に配置できる。
【0037】
ステータコイル29は、ステータコア22に巻装される。ステータコイル29は、例えば、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルを含む。ステータコイル29は、ステータコア22のスロット220に挿入されるスロット挿入部(図示せず)とともに、ステータコア22の軸方向両側から突出するコイルエンド29A、29Bを有する。
【0038】
ステータコイル29は、セグメントコイルの形態のコイル片(図示せず)をステータコア22に組み付けることでステータコア22に巻装されてもよい。この場合、コイル片同士は、X方向X2側で溶接等により接合されてよい。なお、セグメントコイルとは、各相のコイルを、組み付けやすい単位(例えば2つのスロットに挿入される単位)で分割した形態である。コイル片は、例えば、断面略矩形の線状導体(平角線)を、絶縁被膜(図示せず)で被覆してなる。線状導体は、銅により形成されるが、変形例では、線状導体は、鉄のような他の導体材料により形成されてもよい。
【0039】
ロータ30は、ステータ21の径方向内側に配置される。ロータ30は、ロータコア32と、ロータシャフト34とを備える。ロータコア32は、ロータシャフト34の径方向外側に固定され、ロータシャフト34と一体となって回転する。ロータシャフト34は、ケースにベアリング14a、14bを介して回転可能に支持される。なお、ロータシャフト34は、モータ1の回転軸12を画成する。
【0040】
ロータコア32は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板から形成される。ロータコア32の内部には、永久磁石321が挿入される。永久磁石321の数や配列等は任意である。変形例では、ロータコア32は、磁性粉末が圧縮して固められた圧粉体により形成されてもよい。
【0041】
ロータコア32の軸方向の両側には、エンドプレート35A、35Bが取り付けられてよい。エンドプレート35A、35Bは、ロータコア32を支持する支持機能の他、ロータ30のアンバランスの調整機能(切削等されることでアンバランスを無くす機能)を有してよい。
【0042】
ロータシャフト34は、
図1に示すように、中空部34Aを有する。中空部34Aは、ロータシャフト34の軸方向の全長にわたり延在する。中空部34Aは、油路として機能してもよい。例えば、中空部34Aには、
図1にて矢印R1で示すように、軸方向の一端側から油が供給され、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝って油が流れることで、ロータコア32を径方向内側から冷却できる。また、ロータシャフト34の径方向内側の表面を伝う油は、ロータシャフト34の両端部に形成される油穴341、342を通って径方向外側へと噴出され(矢印R5、R6)、コイルエンド29A、29Bの冷却に供されてもよい。
【0043】
なお、
図1では、特定の構造のモータ1が示されるが、モータ1の構造は、ステータコア22がステータ支持部10により支持されている限り、任意である。従って、例えば、ロータシャフト34は、中空部34Aを有さなくてもよいし、中空部34Aよりも有意に内径の小さい中空部を有してもよい。また、
図1では、油による特定の冷却方法が開示されているが、油によるモータ1の冷却方法は任意である。従って、例えば、中空部34A内に挿入される油導入管が設けられてもよいし、ステータ支持部10内に形成されてもよい油路を介して径方向外側からコイルエンド29A、29Bに向けて油が滴下されてもよい。
【0044】
次に、
図6以降を参照して、モータ1の製造方法のうちの、ステータ支持部10及びステータ21の結合体の製造方法を説明する。なお、以下の説明において、温度を表す「度」は、摂氏の単位を表す。
【0045】
図6は、ステータ支持部10及びステータ21の結合体の製造方法の流れを示す概略的なフローチャートである。
【0046】
本製造方法は、まず、ステータコア22を準備することを含む(ステップS30)。ステータコア22は、例えば円環状の磁性体の積層鋼板からなる。この場合、各鋼板は、互いに結合されていなくてもよいし、溶接等により結合されていてもよい。各鋼板(図示せず)は、上述した楔状凹部226を形成する部位を有する。
【0047】
次いで、本製造方法は、ステータコア22を、金型(図示せず)にセットすることを含む(ステップS32)。
【0048】
次いで、本製造方法は、ステータコア22がセットされた金型に、アルミを主成分とする材料(以下、単に「アルミ材料」とも称する)を、溶かした状態で鋳込む(注入する)ことで、ステータコア22の外周面に接合するステータ支持部10を鋳造する鋳込工程(ステップS34)を含む。すなわち、ステータコア22を鋳包むステータ支持部10を形成する。この際、ステータコア22の外周面における楔状凹部226内にも至り、ステータ支持部10の楔状突起106が形成される。なお、本実施例では、溶かしたアルミ材料の重さだけで鋳造する金型鋳造(アルミ重力鋳造)方法が採用されるが、他の鋳造方法が利用されてもよい。
【0049】
次いで、本製造方法は、鋳物を金型から取り出し、鋳物に対する応力低減処理を実行する(ステップS36)。本実施例では、応力低減処理は、鋳物に熱を与える熱処理であって、いわゆるT5処理を兼ねた熱処理である。
【0050】
図7は、ステップS36の応力低減処理により低減される応力の発生原理を説明する図である。
図7には、左側に、ステップS36の直後(熱収縮前)の鋳物の状態が、軸方向に視たビューで概略的に示され、右側に、応力低減処理の実行前(熱収縮後)の鋳物の状態が、軸方向に視たビューで概略的に示されている。
【0051】
ここで、アルミは鉄に比べて熱膨張係数が約2倍である。従って、アルミを主成分とする材料から形成されるステータ支持部10と、鉄を主成分とする材料から形成されるステータコア22との一体物である鋳物については、固体収縮のような熱収縮を起こす際、ステータ支持部10とステータコア22の間の熱収縮量の有意な差異に起因して、ステータコア22に応力が生じる。すなわち、
図7に矢印R8及び矢印R9にて模式的に示すように、鋳物の温度が低下すると、ステータコア22の熱収縮量(矢印R8参照)とステータ支持部10の熱収縮量(矢印R9参照)との差異が顕著となり、
図7にて矢印R10にて模式的に示すように、ステータコア22がステータ支持部10から径方向内側に向かう力を受ける。この結果、ステータコア22に応力が生じる。このような応力は、ステータコア22の残留ひずみを生み、モータ1の駆動時におけるステータコア22での損失(鉄損)を増加させてしまう。
【0052】
応力低減処理は、ステータコア22での損失(鉄損)を低減すべく、ステータコア22に生じる応力であって、ステータ支持部10の径方向内側への熱収縮に起因して生じる応力を、低減する処理(該応力低減処理が実行されない場合に比べて低減する処理)である。なお、「応力を低減する」とは、応力の大きさを0まで低減すること、すなわち応力を無くすことを含む概念である。
【0053】
このような応力低減処理は、T5処理を兼ねた熱処理であり、ステータ支持部10の内径が拡大する方向にステータ支持部10に係るアルミ鋳造物の永久成長を促進する。当該熱処理は、ステップS34で利用されるアルミ材料の融点よりも低くかつ常温よりも高い温度で実行される。なお、ステータ支持部10の内径は、ステータコア22の外径によって決まる(径方向の収縮が規制される)ので、応力低減処理によって実際に拡大するわけではないが(すなわち、例えば常温でのステータ支持部10の内径は、応力低減処理の前後で拡大されているわけでないが)、このような応力低減処理によって上述した熱収縮量の差及びそれに伴い上述した応力が低減されることになる。
【0054】
このようなT5処理を兼ねた応力低減処理として好適な熱処理は、ステータ支持部10を形成するアルミ材料内の原子配列を変化させる処理であり、具体的には、ステータ支持部10の内径が拡大する方向に、アルミ材料の結晶構造を変化させる処理である。ステータ支持部10の内径が拡大する方向にアルミ材料の結晶構造が変化すると、その分だけ、上述した熱収縮差が低減されるので、上述した応力が低減される。この場合、熱処理は、例えば150度から300度の範囲内の温度で、好ましくは、200度から250度の範囲内の温度で実行されてよい。熱処理時間は、例えば時間のオーダーであるが、日又は週若しくは月のオーダーであってもよい。熱処理の温度は、熱処理中一定であってもよいし、適宜変化されてもよい。このような各種の熱処理条件は、上述した応力の大きさが略0になるように試験等により適合されてよい。
【0055】
また、このようなステップS36の熱処理は、金型から取り出した鋳物の温度を常温付近まで低下させた後に実行されてもよい。あるいは、ステップS36の熱処理は、金型から取り出した鋳物の温度を常温付近まで低下させることなく実行されてもよい(すなわち、金型から取り出した鋳物の温度が常温に至る前に実行されてもよい)。この場合、ステップS36の熱処理は、
図7を参照して説明した有意な熱収縮(固体収縮)が生じる前に実行されることになる。なお、この場合、熱処理のための熱量のうちの、鋳物の温度を常温付近から上昇させるための熱量が不要となり、ステップS36の熱処理に要するエネルギを効率的に低減できる。
【0056】
次いで、本製造方法は、上述のようにステータ支持部10が結合されたステータコア22に、コイル片を組み付けることを含む(ステップS38)。この場合、コイル片は、ステータコア22のスロット220内に軸方向に(又は径方向内側から)容易に組み付けることができる。その後、図示しないが、本製造方法は、他の後工程を実行して、ステータ21を完成させることを含む。
【0057】
このように
図6に示す製造方法によれば、ステータコア22をセットした金型内にアルミ材料を鋳込むことで、ステータコア22とステータ支持部10との一体物(鋳物)を形成できるので、ボルトを用いた固定方法とは異なる新規な固定方法を利用してステータコア22をステータ支持部10に固定できる。
【0058】
また、
図6に示す例によれば、上述したように応力低減処理が実行されるので、ステータコア22とステータ支持部10との一体物(鋳物)の温度が常温等に低下した際に生じうる応力(応力低減処理を実行しない場合に上述したように熱収縮差に起因してステータコア22に生じうる応力)を低減できる。これにより、ステータコア22の残留ひずみに起因した損失を低減できる。
【0059】
このようにして、
図6に示す例によれば、新規な固定方法を利用してステータコア22をステータ支持部10に固定しつつ、かつ、ステータ支持部10の熱収縮に起因してステータコア22に生じうる応力を低減することが可能となる。
【0060】
次に、
図8及び
図9を参照して、本実施例の製造方法の効果等について説明する。
【0061】
図8及び
図9は、応力低減処理の説明図であり、
図8は、本実施例による応力低減処理を含む製造工程に沿った各種パラメータの変化態様を示す図である。
図8では、横軸を時間とした時系列の変化態様として、上から順に、鋳物に係る温度、ステータコア22の残留応力、及び、ステータ支持部10に係るアルミ鋳造物の永久成長率(点線部802)と保持力(径方向の締め力)(実線部800及び一点鎖線部801)の各変化態様が示されている。また、
図9は、比較例として、本実施例による応力低減処理に対応する熱処理を省略した場合の製造工程に沿った各種パラメータの変化態様を示す図である。
【0062】
本実施例では、
図8の上段のグラフ80に示すように、時刻t0で鋳込工程(ステップS34)が開始されると、鋳物に係る温度が約600度まで増加し、その後、時刻t1から減少し始め、時刻t2では周囲温度(常温)まで低下する。その後、時刻t3で応力低減処理(ステップS36)が開始されると、鋳物に係る温度が再び上昇する。そして、応力低減処理(ステップS36)の終了に伴い、時刻t4にて鋳物に係る温度が周囲温度まで低下する。
【0063】
また、本実施例では、
図8の中段のグラフ81に示すように、ステータコア22の残留応力は、鋳物に係る温度が低下し始める時刻t1(グラフ80参照)に対応した時刻t5から、熱収縮に起因して有意に増加し始め、時刻t6でピーク値に達する。そして、その後、ステータコア22の残留応力は、応力低減処理(ステップS36)により鋳物に係る温度が上昇した時刻t3(グラフ80参照)に対応した時刻t7から低下し始める。そして、アルミ鋳造物の永久成長が完了すると、ステータコア22の残留応力は、増加し始める前の値(すなわち時刻t5以前の値)まで低下する(時刻t8参照)。
【0064】
また、本実施例では、
図8の下段のグラフ82に示すように、保持力(径方向の締め力)は、鋳物に係る温度が低下し始める時刻t1(グラフ80参照)に対応した時刻t9から、ステータコア22の残留応力の増加と相関する態様で、有意に増加していく。また、ステータ支持部10に係るアルミ鋳造物の永久成長率は、応力低減処理(ステップS36)により鋳物に係る温度が上昇した時刻t3(グラフ80参照)に対応した時刻t10から有意に増加し始める。そして、アルミ鋳造物の永久成長率が実質的に上限値に達した時刻t11からは、ステータコア22の残留応力の減少と相関する態様で、ステータコア22とステータ支持部10との間の径方向の締め代自体は減少していく(破線部803参照)。
【0065】
比較例では、
図9に示すように、鋳込工程(ステップS34)の後に、本実施例のような応力低減処理(ステップS36)が実行されないので、熱収縮による残留応力が除去されない。このような応力は、上述したように、ステータコア22の残留ひずみを生み、モータ1の駆動時におけるステータコア22での損失(鉄損)を有意に増加させてしまう。
【0066】
これに対して、本実施例によれば、
図8に示すように、鋳込工程(ステップS34)の後に応力低減処理(ステップS36)が実行されるので、残留ひずみが除去される。その結果、上述したように比較例で生じる不都合を低減できる。
【0067】
ところで、
図8において下段のグラフ82に示すように、鋳込工程(ステップS34)の後に応力低減処理(ステップS36)が実行されると、上述したように残留ひずみが除去される反面、アルミ鋳造物の永久成長に起因して保持力(径方向の締め力)が有意に低下する。すなわち、ステータ支持部10に係るアルミ鋳造物の永久成長率の比較的急激な増加に伴い、熱収縮による保持力(径方向の締め力)が比較的急激に低下する(
図8のグラフ82の破線部803参照)。しかしながら、本実施例によれば、
図4を参照して上述したように、楔状突起106及び楔状凹部226間の強固な結合によって、アルミ鋳造物の永久成長の完了に起因した保持力の低下による不都合を、回避できる(
図8の一点鎖線部801参照)。すなわち、本実施例によれば、
図8にて破線部803で示すような熱収縮による保持力(径方向の締め力)の低下を防止でき、ステータ支持部10及びステータコア22間の必要な結合強度を確保できる(
図8のグラフ82の一点鎖線部801参照)。
【0068】
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。また、各実施例の効果のうちの、従属項に係る効果は、上位概念(独立項)とは区別した付加的効果である。
【0069】
例えば、上述した実施例では、ステータコア22に楔状凹部226が設けられ、ステータ支持部10に楔状突起106が設けられるが、逆であってもよい。すなわち、ステータコア22に、径方向外側に突出する楔状突起が設けられ、ステータ支持部10に、径方向外側に凹む楔状凹部が設けられてもよい。この場合、鋳込工程において、ステータコア22の楔状突起まわりに溶湯を至らせることで、ステータ支持部10における楔状凹部を形成できる。
【符号の説明】
【0070】
1・・・モータ(回転電機)、10・・・ステータ支持部、22・・・ステータコア、223・・・ティース、106・・・楔状突起(凸部)、226・・・楔状凹部(凹部)、95・・・冷却水路