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特開2022-186341血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法
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  • 特開-血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186341
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/75 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
C07K14/75
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094505
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】318010328
【氏名又は名称】KMバイオロジクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156111
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 伸一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 直哉
(72)【発明者】
【氏名】竹尾 和寛
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA20
4H045CA40
4H045DA65
4H045EA20
4H045FA71
4H045GA05
4H045GA15
4H045GA23
(57)【要約】
【課題】工業的規模でヒト凍結血漿からフィブリノゲンおよび血液凝固第XIII因子を簡便かつ効率的に精製する方法を提供する。
【解決手段】それぞれ血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿との混合液を出発原料とすることを特徴とする、血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法。本発明の製造方法は、以下の工程を含む:(a)それぞれ血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿とを混合して混合液を生成する工程;(b)工程(a)で得られた混合液をグリシン存在下で遠心分離して沈殿を生成する工程(グリシン分画);(c)工程(b)で得られた沈殿をエタノール存在下で遠心分離して上清液を生成する工程(エタノール分画1);および(d)工程(c)で得られた上清液をエタノール存在下で遠心分離して沈殿を生成する工程(エタノール分画2)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿との混合液を出発原料とすることを特徴とする、血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法。
【請求項2】
以下の工程を含む、請求項1に記載の方法:
(a)それぞれ血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿とを混合して混合液を生成する工程;
(b)工程(a)で得られた混合液をグリシン存在下で遠心分離して沈殿を生成する工程(グリシン分画);
(c)工程(b)で得られた沈殿をエタノール存在下で遠心分離して上清液を生成する工程(エタノール分画1);および
(d)工程(c)で得られた上清液をエタノール存在下で遠心分離して沈殿を生成する工程(エタノール分画2)。
【請求項3】
血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液が、凍結血漿を冷融解および遠心分離して得られる沈殿を、水酸化アルミニウムゲル処理後、遠心分離および陽イオン交換クロマトグラフィーにかけて得られる素通り液である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
血漿から得られるCohn低温エタノール分画法I沈殿が、凍結血漿を冷融解および遠心分離して得られる上清液を、エタノール存在下で遠心分離して得られる沈殿である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
血漿から得られるCohn低温エタノール分画法I沈殿が、凍結血漿を冷融解および遠心分離して得られる上清液を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけて得られる素通り液を、エタノール存在下で遠心分離して得られる沈殿である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
工程(a)において、クリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿とを1:1~1:2の比率で混合する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)において、グリシンが1.5 mol/Lで存在する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(c)において、工程(b)で得られた沈殿を緩衝液に溶解後、エタノールを1%となるように添加する、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)において、工程(c)で得られた上清液にエタノールを6%となるように添加する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
得られるフィブリノゲンが、フィブリノゲン1 gあたり約490単位以上の血液凝固第XIII因子を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
得られるフィブリノゲンが、フィブリノゲン1 gあたり約490~約700単位の血液凝固第XIII因子を含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織接着剤、とりわけ、ヒト血漿に由来する血液凝固第XIII因子に富んだフィブリノゲンを高収率かつ簡便に製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
外科手術では古くから組織を接着するために糸による縫合が行われてきたが、縫合のための組織への針穴による傷が生じ、組織の接着に日数がかかる上、組織接着後には抜糸する手間がかかるなどの問題があった。これらの解決のために1910年頃から縫合部の接着強化のためにフィブリンを使う研究が始まった。現在のフィブリン糊製剤の臨床応用は1944年、Tidrick RTらが皮膚移植の際にフィブリノゲンとトロンビンの2成分を用いたのが最初であるが、接着力が弱く、効果が不十分であった(非特許文献1)。
【0003】
1946年にCohnらによる血漿タンパク質の分画に関する研究がなされて以来(非特許文献2、3)、タンパク質の精製技術が進み、ヒト血漿からフィブリノゲンやトロンビンが分離できるようになると、その後1970年に入り、両者の反応後にフィブリンの網目(血液凝固塊)を強固にする血液凝固第XIII因子も発見された(非特許文献4)。これらのバイオ技術の発展により、組織や切断された臓器などを接着・被覆するための医薬品として、生体組織接着剤の研究や開発が進んだ。これらは健康なヒト血漿から精製されたものであり、フィブリン糊製剤と呼ばれることもある。1978年には世界発のフィブリン糊製剤であるTisseel(登録商標:Immuno AG)が開発され、日本においては1988年にベリプラスト(登録商標)P(ヘキストジャパン株式会社)、1991年にボルヒール(登録商標:KMバイオロジクス株式会社)が発売された。
【0004】
上記フィブリン糊は、(1)フィブリノゲン(血液凝固第XIII因子を含む)凍結乾燥粉末、(2)フィブリノゲン溶解液(牛肺由来アプロチニンを含む)、(3)トロンビン凍結乾燥粉末、および(4)トロンビン溶解液(塩化カルシウムを含む)の4成分から構成される。成分(1)を成分(2)で溶かしたA液を調製し、成分(3)を成分(4)で溶かしたB液を調製し、A液とB液を組織の接着面で混合することで、「組織の接着や閉鎖」に用いられている。上記フィブリン糊の具体的な用途は、縫合部位の補強、損傷組織での止血、エアーおよび体液漏出の防止などである(非特許文献5)。フィブリン糊の中にはキット化製剤として認可を受けているものも存在する。
【0005】
フィブリン糊製剤の主要な成分であるフィブリノゲンおよびトロンビンは、ヒトの凍結血漿から精製される。フィブリノゲンは、ヒトの凍結血漿を2~4℃で融解し、遠心分離することで得られるクリオ沈殿(以下、「クリオプレシピテート」ともいう)か、脱クリオ血漿(クリオ沈殿を除いた上清液)に8~10%のエタノールを添加し、-3~-5℃で遠心分離することで得られる沈殿(Cohn低温エタノール分画法I沈殿)のいずれかより精製される(非特許文献6、7)。この際、精製されるフィブリノゲンには、フィブリノゲン1gあたり150単位以下の濃度の血液凝固第XIII因子が一緒に精製され含まれうる(特許文献1、2、3)。フィブリノゲンは、フィブリン糊製剤の主要成分の一つであるが、先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向改善のためにフィブリノゲン製剤単独で投与される。フィブリノゲン製剤に含まれる血液凝固第XIII因子の量は、通常フィブリノゲン1gあたり150単位以下の濃度である。一方、フィブリン糊製剤では、ヒト凍結血漿から精製したフィブリノゲンに対し、ヒト凍結血漿から別に精製した血液凝固第XIII因子をフィブリノゲン1gあたり150単位以上の濃度になるように添加し、血液凝固塊をより強固にし、「組織の接着や閉鎖」効果を高める製剤設計がなされている(特許文献4、5)。なお、血液凝固第XIII因子はヒト凍結血漿から上記のCohn低温エタノール分画法I沈殿から精製されている(非特許文献8)。
トロンビンはフィブリン糊製剤のもう一つの主要成分であるが、ヒト凍結血漿から上記のCohn低温エタノール分画法I上清液から精製される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO1995-022316
【特許文献2】特開昭55-110556
【特許文献3】特開昭61-087628
【特許文献4】特開昭58-135817(p.115右段)
【特許文献5】特開2007-182434
【特許文献6】特開平10-150980
【特許文献7】特開昭57-139017
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Tidrick RT, Warner ED. Fibrin fixation of skin transplants. Surg. 1944;15:90-5
【非特許文献2】Cohn EJ, Strong LE. Preparation and properties of serum and plasma proteins; a system for the separation into fractions of the protein and lipoprotein components of biological tissues and fluids J Am Chem Soc. 1946;68:459-75
【非特許文献3】Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use 2021;John Wiley & Sons, 第32章
【非特許文献4】一般社団法人日本血液製剤協会WEBサイト:http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/fibrin-paste/fib_02.html(2021年4月20日確認)
【非特許文献5】一般社団法人日本血液製剤協会WEBサイト:http://www.ketsukyo.or.jp/plasma/fibrin-paste/fib_05_03.html(2021年4月20日確認)
【非特許文献6】Vox Sang 1997;72:133-143
【非特許文献7】Production of Plasma Proteins for Therapeutic Use 2021;John Wiley & Sons, 第10章
【非特許文献8】Cytiva社WEBサイト:https://www.cytivalifesciences.co.jp/newsletter/biodirect_mail/technical_tips/tips53.html(2021年4月20日確認)
【非特許文献9】Prep Biochem Biotechnol.゜2003 Nov;33(4):239-52.
【非特許文献10】Int J Biochem.゜1980;11(6):559-64
【非特許文献11】Ark. Kemi 1956;10:415-443
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、「組織の接着や閉鎖」効果を高めたフィブリン糊製剤を製造するためには、フィブリノゲンおよび血液凝固第XIII因子、トロンビンをヒト凍結血漿から別々に精製する必要があり、非常に手間がかかっていた。したがって、本発明の課題は、フィブリン糊製剤に含まれるフィブリノゲンおよび血液凝固第XIII因子の工業的規模での効率的精製方法を確立することである。すなわち、本発明の目的は、工業的規模でヒト凍結血漿からフィブリノゲンおよび血液凝固第XIII因子を簡便かつ効率的に精製する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記問題を解決するため、ヒト凍結血漿からフィブリノゲンおよび血液凝固第XIII因子をそれぞれ別個に精製するのではなく、中間原料のクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿との混合液を出発原料とすることで、血液凝固第XIII因子に富んだフィブリノゲンを高収率かつ簡便に製造する方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
したがって、本発明は以下を含む。
[1]それぞれ血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿との混合液を出発原料とすることを特徴とする、血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法。
[2]以下の工程を含む、[1]に記載の方法:
(a)それぞれ血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿とを混合して混合液を生成する工程;
(b)工程(a)で得られた混合液をグリシン存在下で遠心分離して沈殿を生成する工程(グリシン分画);
(c)工程(b)で得られた沈殿をエタノール存在下で遠心分離して上清液を生成する工程(エタノール分画1);および
(d)工程(c)で得られた上清液をエタノール存在下で遠心分離して沈殿を生成する工程(エタノール分画2)。
[3]血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液が、凍結血漿を冷融解および遠心分離して得られる沈殿を、水酸化アルミニウムゲル処理後、遠心分離および陽イオン交換クロマトグラフィーにかけて得られる素通り液である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]血漿から得られるCohn低温エタノール分画法I沈殿が、凍結血漿を冷融解および遠心分離して得られる上清液を、エタノール存在下で遠心分離して得られる沈殿である、[1]または[2]に記載の方法。
[5]血漿から得られるCohn低温エタノール分画法I沈殿が、凍結血漿を冷融解および遠心分離して得られる上清液を陰イオン交換クロマトグラフィーにかけて得られる素通り液を、エタノール存在下で遠心分離して得られる沈殿である、[1]または[2]に記載の方法。
[6]工程(a)において、クリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿とを1:1~1:2の比率で混合する、[1]~[5]のいずれか1に記載の方法。
[7]工程(b)において、グリシンが1.5 mol/Lで存在する、[1]~[6]のいずれか1に記載の方法。
[8]工程(c)において、工程(b)で得られた沈殿を緩衝液に溶解後、エタノールを1%となるように添加する、[1]~[7]のいずれか1に記載の方法。
[9]工程(d)において、工程(c)で得られた上清液にエタノールを6%となるように添加する、[1]~[8]のいずれか1に記載の方法。
[10]得られるフィブリノゲンが、フィブリノゲン1 gあたり約490単位以上の血液凝固第XIII因子を含む、[1]~[9]のいずれか1に記載の方法。
[11]得られるフィブリノゲンが、フィブリノゲン1 gあたり約490~約700単位の血液凝固第XIII因子を含む、[10]に記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、血液凝固第XIII因子に富んだフィブリノゲンを高収率かつ簡便に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の血液凝固第XIII因子に富んだフィブリノゲンの製造方法の概要を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本発明は、それぞれ血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿との混合液を出発原料とすることを特徴とする、血液凝固第XIII因子(以下、「FXIII」ともいう)を含むフィブリノゲンの製造方法を提供するものである。
【0015】
本発明の血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法は、以下の工程を含む:
(a)それぞれ血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液とCohn低温エタノール分画法I沈殿とを混合して混合液を生成する工程;
(b)工程(a)で得られた混合液をグリシン存在下で遠心分離して沈殿を生成する工程(グリシン分画);
(c)工程(b)で得られた沈殿をエタノール存在下で遠心分離して上清液を生成する工程(エタノール分画1);および
(d)工程(c)で得られた上清液をエタノール存在下で遠心分離して沈殿を生成する工程(エタノール分画2)。
【0016】
本発明の血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法では、まず、血漿から得られるクリオ沈殿由来のプロセス液と血漿から得られるCohn低温エタノール分画法I沈殿とを混合して混合液を生成する。
【0017】
本発明の方法において出発原料の1つとして用いる「クリオ沈殿由来のプロセス液」は、例えば、凍結血漿を冷融解した後、遠心分離(クリオ遠心分離)して得られる沈殿を、水酸化アルミニウムゲル処理後、遠心分離および陽イオン交換クロマトグラフィーにかけて得られる素通り液である。クリオ遠心分離は、当業者に公知の常法により行うことができる。溶解した後に水酸化アルミニウムゲルを添加するのは、残存するビタミンK依存性血液凝固因子を吸着させるためである。水酸化アルミニウムゲルの添加量は、0.24~0.3%であってよい。ここで、ビタミンK依存性血液凝固因子を吸着するための水酸化アルミニウムゲルは、リン酸カルシウム、硫酸バリウムまたは水酸燐灰石であってもよい(特許文献7)。その後、遠心分離で水酸化アルミニウムゲルを除去することによりビタミンK依存性血液凝固因子を除去することができる。その後、遠心分離後の上清液を陽イオン交換クロマトグラフィーでフォンウィルブランド因子および血液凝固第VIII因子を除去する。ここで、陽イオン交換体官能基は、Sulfopropyl (SP)、Methyl sulfonate (S)、Carboxymethyl (CM)などであってもよく、当該分野で一般的に用いられているあらゆる物質、例えば、天然ポリマー(セルロース、デキストラン、アガロース)や合成ポリマー(スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリアクリル、ポリビニルアルコールなど)、無機材料(シリカゲル、アルミナ、ジルコニア)などの担体マトリックスの表面に陰イオン交換基が導入されているものであってもよい(非特許文献8)。
【0018】
本発明の方法において、もう一方の出発原料として用いる「Cohn低温エタノール分画法I沈殿」は、凍結血漿を冷融解した後、遠心分離した上清液(クリオプレシピテート除去血漿)を、エタノール存在下で遠心分離(エタノール分画I)して得られる沈殿をいうが、前記上清液(クリオプレシピテート除去血漿)を陰イオン交換クロマトグラフィーに展開し、ビタミンK依存性血液凝固因子である血液凝固第VII因子、IX因子、X因子およびプロトロンビンを吸着除去して得られる素通り液を、エタノール存在下で遠心分離して得られる沈殿であってもよい。この陰イオン交換クロマトグラフィーにより、ビタミンK依存性血液凝固因子である血液凝固第VII因子、IX因子、X因子およびプロトロンビンが吸着除去されるが、これらビタミンK依存性血液凝固因子は、この後のエタノール分画Iの遠心分離で上清液に移行することから、陰イオン交換クロマトグラフィーは行わなくてもよい。一方、この段階で陰イオン交換クロマトグラフィーによりビタミンK依存性血液凝固因子を除去しておくことは、その後の製造工程での凝固反応を防止することができるというメリットがある。ここで、陰イオン交換体官能基は、Quaternary ammonium (Q)、Diethylaminoethyl (DEAE)、Diethylaminopropyl (ANX)などであってもよく、当該分野で一般的に用いられているあらゆる物質、例えば、天然ポリマー(セルロース、デキストラン、アガロース)や合成ポリマー(スチレン/ジビニルベンゼン共重合体、ポリアクリル、ポリビニルアルコールなど)、無機材料(シリカゲル、アルミナ、ジルコニア)などの担体マトリックスの表面に陰イオン交換基が導入されているものであってもよい(非特許文献8)。
【0019】
「クリオ沈殿由来のプロセス液」と「Cohn低温エタノール分画法I沈殿」との混合は、1:1~1:2の比率で行うことができ、得られた混合液を、本発明の血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンの製造方法の出発原料として用いることができる。
【0020】
まず、出発原料としての「クリオ沈殿由来のプロセス液」と「Cohn低温エタノール分画法I沈殿」との混合液を、グリシン存在下で遠心分離して(グリシン分画)沈殿を生成する。ここで、グリシンの濃度は1.5~1.8であってよく、好ましくは1.5 mol/Lである。遠心分離は約10,000×gで、15 min行うことができる。なお、グリシン分画は2回以上繰り返し行ってもよい。
【0021】
つぎに、グリシン分画で得られた沈殿をエタノール存在下で遠心分離して(エタノール分画1)上清液を生成する。ここで、グリシン分画で得られた沈殿を緩衝液に溶解後、エタノールを1%となるように添加するのが好ましい。使用する緩衝液としては、pH7.0のクエン酸緩衝液が挙げられ、波長280 nmのときの吸光度を30に調整し、約12時間保持した後、エタノールを1%となるように添加し、0℃、10,000×g、20 minでの遠心分離によるエタノール分画1を行い、上清液を得る。
【0022】
つぎに、エタノール分画1で得られた上清液をエタノール存在下で遠心分離して(エタノール分画2)沈殿を生成する。ここで、エタノール分画1で得られた上清液にエタノールを6%となるように添加し、1℃、10,000×g、15 minで遠心分離するのが好ましい。
この沈殿が、目的とする最終産物である「血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲン(以下、「FXIII加フィブリノゲン」という)」である。
【0023】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0024】
血液凝固第XIII因子(以下、FXIII)を含むフィブリノゲンの調製:
(1)エタノール分画法I沈殿の製造
-20℃以下で保存された原料血漿(新鮮凍結血漿)を10℃以下で冷融解した。約8,300×gで遠心分離し(クリオ遠心分離)、クリオプレシピテートを除去した。この上清液にヘパリンナトリウムが約20単位/mLとなるように添加し、陰イオン交換クロマトグラフィー(Cytiva製、Q Sepharose Fast Flow、官能基:四級アミノメチル基)に展開し、得られた素通り液をエタノール分画法I、すなわちエタノール濃度8%、pH6.8、液温-3℃にて静置後、約8,300×gで遠心分離してエタノール分画法I沈殿(以下、「F-Iペースト」という)を得た。
【0025】
(2)クリオプレシピテートの精製
上記(1)で得られたクリオプレシピテートを3.5倍量の緩衝液(NaCl:10.55 g/L、グリシン:15 g/L、塩化カルシウム水和物:0.088 g/L、pH7.3)で溶解し、さらにクリオプレシピテートの5倍量までメスアップした。水酸化アルミニウムゲルを0.3%となるように添加して約12,000×gで遠心分離し、上清液を得た。これを陽イオン交換クロマトグラフィー(東ソー社製 SP トヨパール550C、官能基:スルホプロピル基)に展開し、陽イオン交換クロマトグラフィー素通り液(以下、「SPBT」という)を得た。SPBTのフィブリノゲン含量は、約10mg/mLであった。
【0026】
(3)SPBTとF-Iペーストの混和
上記(1)で得られたF-Iペーストを9倍量の緩衝液(NaCl:8.77 g/L、クエン酸3ナトリウム2水和物:7.35 g/L、pH7.0)で溶解し、上記(2)で得られたSPBTと混和した。F-Iペースト溶解液のフィブリノゲン含量は、19~20mg/mLであった。SPBTとF-Iペーストの混合比としては、由来する血漿量に換算して1:1または1:2とした。具体的には、混合比1:1のとき、SPBT 500 mLに対しF-Iペースト27 gを使用した。混和後、ポリソルベート80を0.8%となるように添加した。
【0027】
(4)グリシン分画
上記(3)で得られた混合液の液温を20℃とし、1.5 mol/Lとなるようにグリシンを添加し、10,000×g、15 minで遠心分離して沈殿を得た。
【0028】
(5)エタノール分画1
上記(4)で得られた沈殿を緩衝液(NaCl:4.38 g/L、クエン酸3ナトリウム2水和物:2.94 g/L、pH7.0)で溶解後、OD(波長280 nmのときの吸光度)を30に調整した。約12時間保持した後、エタノールを1%となるように添加し、0℃、10,000×g、20 minで遠心分離して上清液を得た(エタノール分画1)。
【0029】
(6)エタノール分画2
上記(5)で得られた上清液にエタノールを6%となるように添加し、1℃、10,000×g、15 minで遠心分離(エタノール分画2)して沈殿を得た。この沈殿をFXIII加フィブリノゲンとした。
【0030】
(7)FXIII加フィブリノゲンの評価
回収したFXIII加フィブリノゲンについて、フィブリノゲンの血漿あたりの収率は、SPBTとF-Iペーストの混合比が1:1のとき0.83g/L、1:2のとき0.67g/Lであり(表1)、従来技術(表2)よりも高収率であった。また、得られたFXIII加フィブリノゲンについて、フィブリノゲン含量を総タンパク質量で除した精製度は、いずれも90%以上であり、高純度であった(表3)。また、いずれも十分なFXIIIを含んでいた(表4)。すなわち、従来の製造方法で精製されるフィブリノゲンには、フィブリノゲン1 gあたり150 単位(IU)以下の濃度の血液凝固第XIII因子が一緒に精製され含まれるのに対し、本発明の製造方法によれば、SPBTとF-Iペーストの混合比が1:1のときにフィブリノゲン1 gあたりの血液凝固第XIII因子の濃度が494 単位であり、混合比が1:2のときには698 単位であって(表4)、従来の製造方法で精製されるフィブリノゲンに比べて血液凝固第XIII因子にはるかに富んだフィブリノゲンを得ることができる。FXIIIの活性値は、シスメックス製第XIII凝固因子キット(ベリクロームFXIII)により算出した。フィブリノゲン含量は、Birger Blombaeckらの方法(非特許文献10)により算出した。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【実施例0035】
フィブリノゲンの凝固能の評価:
凝固能の評価を、生物学的製剤基準(厚生労働省告示第274号)に収載された乾燥ヒトフィブリノゲンの力価試験により実施した。具体的には、実施例1のフィブリノゲンを2%濃度に調整し、緩衝液(3.4 mmol/L塩化カルシウムを含む)と等量混合してフィブリノゲン濃度1%に調整した。このフィブリノゲン溶液0.9mLに10U/mLトロンビン溶液を0.1mL混和した。混和後、白濁が始まるまでの時間を計測し、各検体の凝固能を評価した(繰り返し回数=3)。その結果、凝固開始時間は同等であり、いずれも十分な凝固能を有していることが示唆された(表5)。
【0036】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、血漿由来画分から血液凝固第XIII因子を含むフィブリノゲンを製造する方法として利用可能である。
図1