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特開2022-186348炭素繊維前駆体用処理剤、及び炭素繊維前駆体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186348
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】炭素繊維前駆体用処理剤、及び炭素繊維前駆体
(51)【国際特許分類】
D06M 15/53 20060101AFI20221208BHJP
D06M 13/165 20060101ALI20221208BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20221208BHJP
D06M 15/647 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
D06M15/53
D06M13/165
D06M15/643
D06M15/647
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094515
(22)【出願日】2021-06-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-01
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 旬
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 洋平
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AA05
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA14
4L033CA48
4L033CA60
4L033CA64
(57)【要約】
【課題】炭素繊維前駆体に対する濡れ性を向上させる。炭素繊維同士の融着を抑制するとともに、炭素繊維の強度を向上させる。
【解決手段】炭素繊維前駆体用処理剤は、化1で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有する。
(化1において、
R1:メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基。
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基(ただし、当該アルキレンオキシ基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる)。
n:1以上30以下の整数。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化1で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有することを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【化1】
(化1において、
R
1:メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基。
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基(ただし、当該アルキレンオキシ基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる)。
n:1以上30以下の整数。)
【請求項2】
前記化1におけるR1が、メチル基を3つ以上有する炭素数8以上11以下の脂肪族炭化水素基である請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項3】
前記アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基を含有するものである請求項1又は2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
前記アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有するものである請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項5】
前記平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものである請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項6】
前記平滑剤(B)が、前記アミノ変性シリコーン、及び前記ポリエーテル変性シリコーンを含むものである請求項5に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項7】
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を5質量%以上80質量%以下、及び前記平滑剤(B)を20質量%以上95質量%以下の割合で含有する請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体用処理剤、及び炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維は、アクリル樹脂等を紡糸して炭素繊維前駆体を作製する紡糸工程、及び炭素繊維前駆体を焼成する焼成工程を行なうことにより製造される。
炭素繊維前駆体の制電性や集束性等の品質を向上させるために、紡糸工程において、炭素繊維前駆体用処理剤が用いられることがある。
【0003】
特許文献1には、ベース成分、カチオン界面活性剤、及び非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤としての炭素繊維前駆体用油剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、炭素繊維前駆体用処理剤には、炭素繊維前駆体の品質のさらなる向上のために、炭素繊維前駆体に対する濡れ性の向上が求められている。また、炭素繊維前駆体用処理剤には、炭素繊維前駆体を焼成して得られる炭素繊維の品質を向上させることも求められている。炭素繊維の品質としては、例えば炭素繊維同士の融着の抑制や、炭素繊維の強度等が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための炭素繊維前駆体用処理剤は、下記の化1で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有することを要旨とする。
【0007】
【化1】
(化1において、
R
1:メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基。
【0008】
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基(ただし、当該アルキレンオキシ基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる)。
n:1以上30以下の整数。)
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記化1におけるR1が、メチル基を3つ以上有する炭素数8以上11以下の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0009】
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基を含有するものであることが好ましい。
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有するものであることが好ましい。
【0010】
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものであることが好ましい。
【0011】
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記平滑剤(B)が、前記アミノ変性シリコーン、及び前記ポリエーテル変性シリコーンを含むものであることが好ましい。
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を5質量%以上80質量%以下、及び前記平滑剤(B)を20質量%以上95質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0012】
上記課題を解決するための炭素繊維前駆体は、上記炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、炭素繊維前駆体に対する濡れ性が向上する。また、炭素繊維同士の融着を抑制することができるとともに、炭素繊維の強度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0015】
本実施形態の処理剤は、下記の化2で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有する。
【0016】
【化2】
(化2において、
R
1:メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基。
【0017】
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基(ただし、当該アルキレンオキシ基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる)。
n:1以上30以下の整数。)
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有することにより、炭素繊維前駆体に対する濡れ性が向上する。また、炭素繊維同士の融着を抑制することができるとともに、炭素繊維の強度を向上させることができる。
【0018】
上記炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基を構成する脂肪族炭化水素としては、特に制限されず、飽和脂肪族炭化水素であっても、不飽和脂肪族炭化水素であってもよい。
上記脂肪族炭化水素基は、炭素数が6以上20以下であることが好ましく、炭素数が8以上18以下であることがより好ましく、炭素数が8以上11以下であることがさらに好ましい。
【0019】
上記脂肪族炭化水素基の炭素数が8以上11以下であることにより、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体を用いて作製した炭素繊維同士の融着をより好適に抑制することができる。
【0020】
上記メチル基には、メチル基以外の置換基が有するCH3も含まれるものとする。例えば脂肪族炭化水素基が、分岐鎖としてエチル基を有する場合、このエチル基の末端に位置するCH3も、メチル基としてカウントするものとする。
【0021】
上記炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基としては、例えばエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基が挙げられる。これらの中でも、エチレンオキシ基を含有するものであることが好ましい。また、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有するものであることがより好ましい。
【0022】
上記炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基として、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有するものであることにより、炭素繊維前駆体に対する濡れ性をより向上させることができる。
【0023】
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)は、メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族アルコールに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルで構成されている。
【0024】
アルキレンオキサイドの重合配列としては、特に制限されず、ランダム付加物であっても、ブロック付加物であってもよい。
上記のアルキレンオキサイドは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の具体例としては、例えば3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを8モル、プロピレンオキサイドを2モル付加させた化合物、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル、プロピレンオキサイドを12モル付加させた化合物、3,5-ジメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル、プロピレンオキサイドを5モル付加させた化合物、β-シトロネロール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物、3,7,7-トリメチル-1-オクタノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを6モル付加させた化合物、3,7,9-トリメチル-1-デカノールに対して1モルに対してエチレンオキサイドを5モル、プロピレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物等が挙げられる。
【0026】
上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記平滑剤(B)としては、特に制限されず、処理剤に用いられる公知の平滑剤を用いることができる。公知の平滑剤としては、例えばシリコーン油、鉱物油、ポリオレフィン、エステル化合物等が挙げられる。これら平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、平滑剤(B)は、シリコーン油を含むものであることが好ましい。
【0027】
シリコーン油としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。これらの中でも、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものであることが好ましい。また、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンを含むものであることがより好ましい。
【0028】
平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものであることにより、炭素繊維前駆体に対する濡れ性、炭素繊維の強度、及び炭素繊維の融着性の抑制のうち、少なくともいずれかをより好適なものとすることができる。
【0029】
また、平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンを含むものであることにより、炭素繊維の強度をより向上させることができるとともに、炭素繊維同士の融着をより好適に抑制することができる。
【0030】
平滑剤(B)の具体例としては、例えば25℃における動粘度が650mm2/sでありアミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が90mm2/sでありアミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が4500mm2/sでありアミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が8000mm2/sでありアミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が600mm2/sでありシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=30/70(質量比)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=20/80(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が1700mm2/sでありシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=50/50(質量比)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が1000mm2/sであるジメチルシリコーン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジドデシルエステル等が挙げられる。
【0031】
上記のシリコーン油は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、平滑剤(B)の動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて25℃の条件下で公知の方法によって測定することができる。
【0032】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の含有割合に制限はない。(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量部とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を5質量%以上80質量%以下、及び平滑剤(B)を20質量%以上95質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0033】
また、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を20質量%以上50質量%以下、及び平滑剤(B)を50質量%以上80質量%以下の割合で含有することがより好ましい。
(第2実施形態)
本発明に係る炭素繊維前駆体を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の炭素繊維前駆体は、第1実施形態の処理剤が付着している。炭素繊維前駆体の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維等が挙げられる。炭素繊維前駆体としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の合成繊維であることが好ましい。炭素繊維前駆体を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂、ピッチ等を挙げることができる。
【0034】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1質量%以上2質量%以下となるように付着させることが好ましく、0.3質量%以上1.2質量%以下となるように付着させることがより好ましい。
【0035】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0036】
本実施形態の炭素繊維前駆体を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
工程1:炭素繊維前駆体となる合成繊維を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
【0037】
工程2:前記工程1で得られた炭素繊維前駆体を200℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上270℃以下の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300℃以上2000℃以下、好ましくは300℃以上1300℃以下の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
【0038】
なお、上記工程2と工程3とによって焼成工程が構成されるものとする。
紡糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸された合成繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化した合成繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。第1実施形態の処理剤は、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間で付着させることが好ましい。
【0039】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経た合成繊維を、例えば、70℃以上200℃以下で加熱することが好ましい。処理剤を合成繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0040】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0041】
本実施形態の処理剤、及び炭素繊維前駆体によれば、以下のような作用及び効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、上記の化2で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有する。したがって、炭素繊維前駆体に対する濡れ性が向上する。また、炭素繊維同士の融着を抑制することができるとともに、炭素繊維の強度を向上させることができる。
【0042】
(2)脂肪族炭化水素基の炭素数が8以上11以下であることにより、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体を用いて作製した炭素繊維同士の融着をより好適に抑制することができる。
【0043】
(3)炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基として、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有する。したがって、炭素繊維前駆体に対する濡れ性をより向上させることができる。
【0044】
(4)平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含む。したがって、炭素繊維前駆体に対する濡れ性、炭素繊維の強度、及び炭素繊維の融着性の抑制のうち、少なくともいずれかをより好適なものとすることができる。
【0045】
(5)平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンを含む。したがって、処理剤が付着した炭素繊維前駆体を用いて作製した炭素繊維同士の融着をより好適に抑制することができるとともに、炭素繊維の強度をより向上させることができる。
【0046】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態では、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を炭素繊維前駆体に付着させていたが、この態様に限定されない。乾燥緻密化工程と延伸工程の間において処理剤を炭素繊維前駆体に付着させても良いし、延伸工程と耐炎化処理工程の間において処理剤を炭素繊維前駆体に付着させても良い。
【0047】
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(シリコーン系化合物)等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0048】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0049】
試験区分1(炭素繊維前駆体用処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A-1)が25部、平滑剤(B-4)が65部、平滑剤(B-5)が10部の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤の25%水性液を調製した。
【0050】
(実施例2~21及び比較例1、2)
実施例2~21及び比較例1、2の各炭素繊維前駆体用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0051】
なお、各例の処理剤中における(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の種類と含有量、及び平滑剤(B)の種類と含有量は、表1の「(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)」欄、及び「平滑剤(B)」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0052】
【表1】
表1の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の詳細は以下のとおりである。
【0053】
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(A))
A-1:3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを8モル、プロピレンオキサイドを2モル付加させた化合物
A-2:3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル、プロピレンオキサイドを12モル付加させた化合物
A-3:3,5-ジメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル、プロピレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A-4:β-シトロネロール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物
A-5:3,7,7-トリメチル-1-オクタノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物
A-6:3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを6モル付加させた化合物
A-7:3,7,9-トリメチル-1-デカノールに対して1モルに対してエチレンオキサイドを5モル、プロピレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A-8:2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
a-1:1-デカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル、プロピレンオキサイドを1モル付加させた化合物
a-2:1-ドデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の脂肪族炭化水素基の炭素数、メチル基の数、アルキレンオキシ基の種類、アルキレンオキシ基の付加モル数について、表2の「脂肪族炭化水素基の炭素数」欄、「メチル基の数」欄、「アルキレンオキシ基の種類位」欄、「アルキレンオキシ基の付加モル数」欄にそれぞれ示す。
【0054】
なお、表2において、EOはエチレンオキシ基を意味し、POはプロピレンオキシ基を意味する。括弧内の数字は、付加モル数を意味する。
【0055】
【表2】
(平滑剤(B))
B-1:25℃における動粘度が650mm
2/sでありアミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B-2:25℃における動粘度が90mm
2/sでありアミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-3:25℃における動粘度が4500mm
2/sでありアミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン
B-4:25℃における動粘度が8000mm
2/sでありアミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-5:25℃における動粘度が600mm
2/sでありシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=30/70(質量比)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=20/80(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン
B-6:25℃における動粘度が1700mm
2/sでありシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=50/50(質量比)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン
B-7:25℃における動粘度が1000mm
2/sであるジメチルシリコーン
B-8:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジドデシルエステル
試験区分2(炭素繊維前駆体、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤の水性液を用いて、炭素繊維前駆体、及び炭素繊維を製造した。
【0056】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0057】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤を給油した。炭素繊維前駆体用処理剤の給油は、炭素繊維前駆体用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に巻き取った。
【0058】
次に、工程2として、巻き取られた炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230℃以上270℃以下の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0059】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300℃以上1300℃以下の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0060】
試験区分3(評価)
実施例1~21及び比較例1、2の処理剤について、処理剤の濡れ性、炭素繊維の強度、及び炭素繊維同士の融着性を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の「濡れ性」欄、「強度」欄、「融着性」欄に示す。
【0061】
(濡れ性)
炭素繊維前駆体用処理剤の有効成分4%イオン交換水溶液(イオン交換水以外を有効成分とする)を作成し、その0.1gをアクリル板に滴下した。1分後の最大直径(mm)を測定し、以下の基準で評価した。
【0062】
・濡れ性の評価基準
◎◎(優れる):最大直径が12mm以上
◎(良好):最大直径が11mm以上、12mm未満
○(可):最大直径が10mm以上、11mm未満
×(不可):最大直径が10mm未満
(強度)
試験区分2の工程3で得られた炭素繊維を用いて、JIS R 7606に準じて炭素繊維の強度を測定した。以下の基準で評価した。
【0063】
・強度の評価基準
◎(良好):強度が4.5GPa以上
〇(可):強度が4.0GPa以上、4.5GPa未満
×(不可):強度が4.0GPa未満
(融着性)
試験区分3の工程3で得られた炭素繊維から無作為に10か所選び、1cmの短繊維を切り出した。融着状態を目視で観察して、1か所当たりの融着数を数えた。以下の基準で評価した。
【0064】
・融着の評価基準
◎◎(優れる):融着数が0以上、2未満
◎(良好):融着数が2以上、5未満
〇(可):融着数が5以上、7未満
×(不可):融着数が7以上
表1の結果から、本発明によれば、炭素繊維前駆体に対する濡れ性が向上する。また、炭素繊維同士の融着を抑制することができる。また、炭素繊維の強度を向上させることができる。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-11
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の化1で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有
し、
前記平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ジメチルシリコーン、及びエステル化合物から選ばれる少なくとも一つを含み、
前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を5質量%以上80質量%以下、及び前記平滑剤(B)を20質量%以上95質量%以下の割合で含有することを特徴とする炭素繊維前駆体用処理剤。
【化1】
(化1において、
R
1:メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基。
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基(ただし、当該アルキレンオキシ基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる)。
n:1以上30以下の整数。)
【請求項2】
前記化1におけるR1が、メチル基を3つ以上有する炭素数8以上11以下の脂肪族炭化水素基である請求項1に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項3】
前記アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基を含有するものである請求項1又は2に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項4】
前記アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有するものである請求項1~3のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項5】
前記平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものである請求項1~4のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項6】
前記平滑剤(B)が、前記アミノ変性シリコーン、及び前記ポリエーテル変性シリコーンを含むものである請求項5に記載の炭素繊維前駆体用処理剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを特徴とする炭素繊維前駆体。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維前駆体用処理剤、及び炭素繊維前駆体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、炭素繊維は、アクリル樹脂等を紡糸して炭素繊維前駆体を作製する紡糸工程、及び炭素繊維前駆体を焼成する焼成工程を行なうことにより製造される。
炭素繊維前駆体の制電性や集束性等の品質を向上させるために、紡糸工程において、炭素繊維前駆体用処理剤が用いられることがある。
【0003】
特許文献1には、ベース成分、カチオン界面活性剤、及び非イオン界面活性剤を含有する炭素繊維前駆体用処理剤としての炭素繊維前駆体用油剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、炭素繊維前駆体用処理剤には、炭素繊維前駆体の品質のさらなる向上のために、炭素繊維前駆体に対する濡れ性の向上が求められている。また、炭素繊維前駆体用処理剤には、炭素繊維前駆体を焼成して得られる炭素繊維の品質を向上させることも求められている。炭素繊維の品質としては、例えば炭素繊維同士の融着の抑制や、炭素繊維の強度等が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための炭素繊維前駆体用処理剤は、下記の化1で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有し、前記平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ジメチルシリコーン、及びエステル化合物から選ばれる少なくとも一つを含み、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を5質量%以上80質量%以下、及び前記平滑剤(B)を20質量%以上95質量%以下の割合で含有することを要旨とする。
【0007】
【化1】
(化1において、
R
1:メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基。
【0008】
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基(ただし、当該アルキレンオキシ基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる)。
n:1以上30以下の整数。)
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記化1におけるR1が、メチル基を3つ以上有する炭素数8以上11以下の脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0009】
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基を含有するものであることが好ましい。
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記アルキレンオキシ基が、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有するものであることが好ましい。
【0010】
上記炭素繊維前駆体用処理剤について、前記平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものであることが好ましい。
【0011】
上記課題を解決するための炭素繊維前駆体は、上記炭素繊維前駆体用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、炭素繊維前駆体に対する濡れ性が向上する。また、炭素繊維同士の融着を抑制することができるとともに、炭素繊維の強度を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係る炭素繊維前駆体用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0014】
本実施形態の処理剤は、下記の化2で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有し、平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ジメチルシリコーン、及びエステル化合物から選ばれる少なくとも一つを含み、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を5質量%以上80質量%以下、及び平滑剤(B)を20質量%以上95質量%以下の割合で含有する。
【0015】
【化2】
(化2において、
R
1:メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基。
【0016】
AO:炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基(ただし、当該アルキレンオキシ基が複数存在する場合、1種単独または2種以上とすることができる)。
n:1以上30以下の整数。)
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を含有することにより、炭素繊維前駆体に対する濡れ性が向上する。また、炭素繊維同士の融着を抑制することができるとともに、炭素繊維の強度を向上させることができる。
【0017】
上記炭素数4以上24以下の脂肪族炭化水素基を構成する脂肪族炭化水素としては、特に制限されず、飽和脂肪族炭化水素であっても、不飽和脂肪族炭化水素であってもよい。
上記脂肪族炭化水素基は、炭素数が6以上20以下であることが好ましく、炭素数が8以上18以下であることがより好ましく、炭素数が8以上11以下であることがさらに好ましい。
【0018】
上記脂肪族炭化水素基の炭素数が8以上11以下であることにより、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体を用いて作製した炭素繊維同士の融着をより好適に抑制することができる。
【0019】
上記メチル基には、メチル基以外の置換基が有するCH3も含まれるものとする。例えば脂肪族炭化水素基が、分岐鎖としてエチル基を有する場合、このエチル基の末端に位置するCH3も、メチル基としてカウントするものとする。
【0020】
上記炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基としては、例えばエチレンオキシ基、プロピレンオキシ基、ブチレンオキシ基が挙げられる。これらの中でも、エチレンオキシ基を含有するものであることが好ましい。また、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有するものであることがより好ましい。
【0021】
上記炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基として、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有するものであることにより、炭素繊維前駆体に対する濡れ性をより向上させることができる。
【0022】
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)は、メチル基を3つ以上有する炭素数4以上24以下の脂肪族アルコールに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた(ポリ)オキシアルキレンアルキルエーテルで構成されている。
【0023】
アルキレンオキサイドの重合配列としては、特に制限されず、ランダム付加物であっても、ブロック付加物であってもよい。
上記のアルキレンオキサイドは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0024】
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の具体例としては、例えば3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを8モル、プロピレンオキサイドを2モル付加させた化合物、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル、プロピレンオキサイドを12モル付加させた化合物、3,5-ジメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル、プロピレンオキサイドを5モル付加させた化合物、β-シトロネロール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物、3,7,7-トリメチル-1-オクタノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを6モル付加させた化合物、3,7,9-トリメチル-1-デカノールに対して1モルに対してエチレンオキサイドを5モル、プロピレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物等が挙げられる。
【0025】
上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
上記平滑剤(B)としては、特に制限されず、処理剤に用いられる公知の平滑剤を用いることができる。公知の平滑剤としては、例えばシリコーン油、鉱物油、ポリオレフィン、エステル化合物等が挙げられる。これら平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、平滑剤(B)は、シリコーン油を含むものであることが好ましい。
【0026】
シリコーン油としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。これらの中でも、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものであることが好ましい。また、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンを含むものであることがより好ましい。
【0027】
平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含むものであることにより、炭素繊維前駆体に対する濡れ性、炭素繊維の強度、及び炭素繊維の融着性の抑制のうち、少なくともいずれかをより好適なものとすることができる。
【0028】
また、平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンを含むものであることにより、炭素繊維の強度をより向上させることができるとともに、炭素繊維同士の融着をより好適に抑制することができる。
【0029】
平滑剤(B)の具体例としては、例えば25℃における動粘度が650mm2/sでありアミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が90mm2/sでありアミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が4500mm2/sでありアミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が8000mm2/sでありアミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が600mm2/sでありシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=30/70(質量比)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=20/80(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が1700mm2/sでありシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=50/50(質量比)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン、25℃における動粘度が1000mm2/sであるジメチルシリコーン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジドデシルエステル等が挙げられる。
【0030】
上記のシリコーン油は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、平滑剤(B)の動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて25℃の条件下で公知の方法によって測定することができる。
【0031】
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を5質量%以上80質量%以下、及び平滑剤(B)を20質量%以上95質量%以下の割合で含有する。
【0032】
また、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を20質量%以上50質量%以下、及び平滑剤(B)を50質量%以上80質量%以下の割合で含有することがより好ましい。
(第2実施形態)
本発明に係る炭素繊維前駆体を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の炭素繊維前駆体は、第1実施形態の処理剤が付着している。炭素繊維前駆体の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維等が挙げられる。炭素繊維前駆体としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の合成繊維であることが好ましい。炭素繊維前駆体を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂、ピッチ等を挙げることができる。
【0033】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を炭素繊維前駆体に対し0.1質量%以上2質量%以下となるように付着させることが好ましく、0.3質量%以上1.2質量%以下となるように付着させることがより好ましい。
【0034】
第1実施形態の処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を炭素繊維前駆体に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0035】
本実施形態の炭素繊維前駆体を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
工程1:炭素繊維前駆体となる合成繊維を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
【0036】
工程2:前記工程1で得られた炭素繊維前駆体を200℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上270℃以下の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300℃以上2000℃以下、好ましくは300℃以上1300℃以下の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
【0037】
なお、上記工程2と工程3とによって焼成工程が構成されるものとする。
紡糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸された合成繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化した合成繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。第1実施形態の処理剤は、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間で付着させることが好ましい。
【0038】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経た合成繊維を、例えば、70℃以上200℃以下で加熱することが好ましい。処理剤を合成繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0039】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0040】
本実施形態の処理剤、及び炭素繊維前駆体によれば、以下のような作用及び効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、上記の化2で示される(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)と、平滑剤(B)とを含有し、平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、ジメチルシリコーン、及びエステル化合物から選ばれる少なくとも一つを含み、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)を5質量%以上80質量%以下、及び平滑剤(B)を20質量%以上95質量%以下の割合で含有する。したがって、炭素繊維前駆体に対する濡れ性が向上する。また、炭素繊維同士の融着を抑制することができるとともに、炭素繊維の強度を向上させることができる。
【0041】
(2)脂肪族炭化水素基の炭素数が8以上11以下であることにより、処理剤を付着させた炭素繊維前駆体を用いて作製した炭素繊維同士の融着をより好適に抑制することができる。
【0042】
(3)炭素数2以上4以下のアルキレンオキシ基として、エチレンオキシ基、及びプロピレンオキシ基を含有する。したがって、炭素繊維前駆体に対する濡れ性をより向上させることができる。
【0043】
(4)平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含む。したがって、炭素繊維前駆体に対する濡れ性、炭素繊維の強度、及び炭素繊維の融着性の抑制のうち、少なくともいずれかをより好適なものとすることができる。
【0044】
(5)平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンを含む。したがって、処理剤が付着した炭素繊維前駆体を用いて作製した炭素繊維同士の融着をより好適に抑制することができるとともに、炭素繊維の強度をより向上させることができる。
【0045】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態では、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を炭素繊維前駆体に付着させていたが、この態様に限定されない。乾燥緻密化工程と延伸工程の間において処理剤を炭素繊維前駆体に付着させても良いし、延伸工程と耐炎化処理工程の間において処理剤を炭素繊維前駆体に付着させても良い。
【0046】
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(シリコーン系化合物)等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0047】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0048】
試験区分1(炭素繊維前駆体用処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A-1)が25部、平滑剤(B-4)が65部、平滑剤(B-5)が10部の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の炭素繊維前駆体用処理剤の25%水性液を調製した。
【0049】
(実施例2~21及び比較例1、2)
実施例2~21及び比較例1、2の各炭素繊維前駆体用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0050】
なお、各例の処理剤中における(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の種類と含有量、及び平滑剤(B)の種類と含有量は、表1の「(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)」欄、及び「平滑剤(B)」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0051】
【表1】
表1の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の詳細は以下のとおりである。
【0052】
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(A))
A-1:3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを8モル、プロピレンオキサイドを2モル付加させた化合物
A-2:3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを12モル、プロピレンオキサイドを12モル付加させた化合物
A-3:3,5-ジメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル、プロピレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A-4:β-シトロネロール1モルに対してエチレンオキサイドを7モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物
A-5:3,7,7-トリメチル-1-オクタノール1モルに対してエチレンオキサイドを3モル、プロピレンオキサイドを3モル付加させた化合物
A-6:3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール1モルに対してエチレンオキサイドを6モル付加させた化合物
A-7:3,7,9-トリメチル-1-デカノールに対して1モルに対してエチレンオキサイドを5モル、プロピレンオキサイドを5モル付加させた化合物
A-8:2-(4-メチルヘキシル)-8-メチル-1-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
a-1:1-デカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル、プロピレンオキサイドを1モル付加させた化合物
a-2:1-ドデシルアルコール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(A)の脂肪族炭化水素基の炭素数、メチル基の数、アルキレンオキシ基の種類、アルキレンオキシ基の付加モル数について、表2の「脂肪族炭化水素基の炭素数」欄、「メチル基の数」欄、「アルキレンオキシ基の種類位」欄、「アルキレンオキシ基の付加モル数」欄にそれぞれ示す。
【0053】
なお、表2において、EOはエチレンオキシ基を意味し、POはプロピレンオキシ基を意味する。括弧内の数字は、付加モル数を意味する。
【0054】
【表2】
(平滑剤(B))
B-1:25℃における動粘度が650mm
2/sでありアミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B-2:25℃における動粘度が90mm
2/sでありアミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-3:25℃における動粘度が4500mm
2/sでありアミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン
B-4:25℃における動粘度が8000mm
2/sでありアミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-5:25℃における動粘度が600mm
2/sでありシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=30/70(質量比)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=20/80(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン
B-6:25℃における動粘度が1700mm
2/sでありシリコーン主鎖/ポリエーテル側鎖=50/50(質量比)エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド=50/50(モル比)であるポリエーテル変性シリコーン
B-7:25℃における動粘度が1000mm
2/sであるジメチルシリコーン
B-8:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジドデシルエステル
試験区分2(炭素繊維前駆体、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤の水性液を用いて、炭素繊維前駆体、及び炭素繊維を製造した。
【0055】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0056】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した炭素繊維前駆体用処理剤を給油した。炭素繊維前駆体用処理剤の給油は、炭素繊維前駆体用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に巻き取った。
【0057】
次に、工程2として、巻き取られた炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230℃以上270℃以下の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0058】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300℃以上1300℃以下の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0059】
試験区分3(評価)
実施例1~21及び比較例1、2の処理剤について、処理剤の濡れ性、炭素繊維の強度、及び炭素繊維同士の融着性を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の「濡れ性」欄、「強度」欄、「融着性」欄に示す。
【0060】
(濡れ性)
炭素繊維前駆体用処理剤の有効成分4%イオン交換水溶液(イオン交換水以外を有効成分とする)を作成し、その0.1gをアクリル板に滴下した。1分後の最大直径(mm)を測定し、以下の基準で評価した。
【0061】
・濡れ性の評価基準
◎◎(優れる):最大直径が12mm以上
◎(良好):最大直径が11mm以上、12mm未満
○(可):最大直径が10mm以上、11mm未満
×(不可):最大直径が10mm未満
(強度)
試験区分2の工程3で得られた炭素繊維を用いて、JIS R 7606に準じて炭素繊維の強度を測定した。以下の基準で評価した。
【0062】
・強度の評価基準
◎(良好):強度が4.5GPa以上
〇(可):強度が4.0GPa以上、4.5GPa未満
×(不可):強度が4.0GPa未満
(融着性)
試験区分3の工程3で得られた炭素繊維から無作為に10か所選び、1cmの短繊維を切り出した。融着状態を目視で観察して、1か所当たりの融着数を数えた。以下の基準で評価した。
【0063】
・融着の評価基準
◎◎(優れる):融着数が0以上、2未満
◎(良好):融着数が2以上、5未満
〇(可):融着数が5以上、7未満
×(不可):融着数が7以上
表1の結果から、本発明によれば、炭素繊維前駆体に対する濡れ性が向上する。また、炭素繊維同士の融着を抑制することができる。また、炭素繊維の強度を向上させることができる。