(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186349
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤、及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
D06M 13/328 20060101AFI20221208BHJP
D06M 13/244 20060101ALI20221208BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20221208BHJP
D06M 15/643 20060101ALI20221208BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
D06M13/328
D06M13/244
D06M15/53
D06M15/643
D06M13/17
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094516
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大島 啓一郎
(72)【発明者】
【氏名】土井 章弘
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA14
4L033BA23
4L033BA46
4L033CA48
4L033CA64
(57)【要約】
【課題】合繊繊維の紡糸集束性を向上させる。
【解決手段】下記のアミン誘導体(A)、及び平滑剤(B)を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
アミン誘導体(A):炭素数8以上20以下の炭化水素基を有するアミン化合物(A1)と、前記アミン化合物(A1)の炭化水素基とは炭素数の異なる炭素数8以上20以下の炭化水素基を有するアミン化合物(A2)との合計1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた化合物
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のアミン誘導体(A)、及び平滑剤(B)を含有することを特徴とする合成繊維用処理剤。
アミン誘導体(A):炭素数8以上20以下の炭化水素基を有するアミン化合物(A1)と、前記アミン化合物(A1)の炭化水素基とは炭素数の異なる炭素数8以上20以下の炭化水素基を有するアミン化合物(A2)との合計1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた化合物。
【請求項2】
前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドを含有する請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項3】
前記平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーンを含むものである請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
前記アミン誘導体(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記アミン誘導体(A)を3質量%以上50質量%以下、及び前記平滑剤(B)を50質量%以上97質量%以下の割合で含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
更に、下記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)を含有する請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C):炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する一価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた化合物。
【請求項6】
前記アミン誘導体(A)、前記平滑剤(B)、及び前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記アミン誘導体(A)を3質量%以上40質量%以下、前記平滑剤(B)を20質量%以上94質量%以下、及び前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)を3質量%以上50質量%以下の割合で含有する請求項5に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
前記合成繊維が、炭素繊維前駆体である請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成繊維用処理剤、及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、合成繊維は、アクリル樹脂等を紡糸する紡糸工程を行なうことにより製造される。
紡糸工程を経た繊維の集束性(以下、紡糸集束性ともいう。)を向上させるために、紡糸工程において、合成繊維用処理剤が用いられることがある。
【0003】
特許文献1には、非イオン界面活性剤、及び平滑剤を含有する合成繊維用処理剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、紡糸集束性が向上すると、合成繊維の製造工程においてローラーへの巻き付け等を抑制することができるため、合成繊維の製造を効率良く行うことが可能になる。さらに、合成繊維の品質向上にも寄与することができる。そのため、合成繊維用処理剤には、紡糸集束性のさらなる性能向上が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための合成繊維用処理剤は、下記のアミン誘導体(A)、及び平滑剤(B)を含有することを要旨とする。
アミン誘導体(A):炭素数8以上20以下の炭化水素基を有するアミン化合物(A1)と、前記アミン化合物(A1)の炭化水素基とは炭素数の異なる炭素数8以上20以下の炭化水素基を有するアミン化合物(A2)との合計1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた化合物。
【0007】
上記合成繊維用処理剤について、前記アルキレンオキサイドが、エチレンオキサイドを含有することが好ましい。
上記合成繊維用処理剤について、前記平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーンを含むものであることが好ましい。
【0008】
上記合成繊維用処理剤について、前記アミン誘導体(A)、及び前記平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記アミン誘導体(A)を3質量%以上50質量%以下、及び前記平滑剤(B)を50質量%以上97質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0009】
上記合成繊維用処理剤について、更に、下記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)を含有することが好ましい。
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C):炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する一価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた化合物。
【0010】
上記合成繊維用処理剤について、前記アミン誘導体(A)、前記平滑剤(B)、及び前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)の含有割合の合計を100質量%とすると、前記アミン誘導体(A)を3質量%以上40質量%以下、前記平滑剤(B)を20質量%以上94質量%以下、及び前記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)を3質量%以上50質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0011】
上記合成繊維用処理剤について、前記合成繊維が、炭素繊維前駆体であることが好ましい。
上記課題を解決するための合成繊維は、上記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、合成繊維の紡糸集束性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(第1実施形態)
本発明に係る合成繊維用処理剤(以下、単に処理剤ともいう。)を具体化した第1実施形態について説明する。
【0014】
処理剤は、下記のアミン誘導体(A)、及び平滑剤(B)を含有する。
アミン誘導体(A):炭素数8以上20以下の炭化水素基を有するアミン化合物(A1)と、アミン化合物(A1)の炭化水素基とは炭素数の異なる炭素数8以上20以下の炭化水素基を有するアミン化合物(A2)との合計1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた化合物。
【0015】
処理剤が、上記のアミン誘導体(A)、及び平滑剤(B)を含有することにより、合成繊維の紡糸集束性を向上させることができる。
上記アミン化合物(A1)における炭素数8以上20以下の炭化水素基としては、特に制限されず、直鎖の炭化水素基であっても、分岐鎖を有する炭化水素基であってもよい。また、飽和炭化水素基であっても、不飽和炭化水素基であってもよい。
【0016】
直鎖の炭化水素基の具体例としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基等が挙げられる。
【0017】
分岐鎖を有する飽和炭化水素基の具体例としては、例えばイソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基等が挙げられる。
【0018】
不飽和炭化水素基としては、不飽和炭素結合として二重結合を1つ有するアルケニル基であっても、二重結合を2つ以上有するアルカジエニル基、アルカトリエニル基等であってもよい。また、不飽和炭素結合として三重結合を1つ有するアルキニル基であっても、三重結合を2つ以上有するアルカジイニル基等であってもよい。炭化水素基中に二重結合を1つ有する直鎖の不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばオクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
【0019】
炭化水素基中に二重結合を1つ有する分岐鎖を有する不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばイソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基等が挙げられる。
【0020】
上記アミン化合物(A1)は、一級アミン、二級アミン、及び三級アミンのいずれであってもよい。これらの中でも、一級アミンであることが好ましい。
上記アミン化合物(A2)は、アミン化合物(A1)の炭化水素基とは炭素数の異なる炭素数8以上20以下の炭化水素基を有する。炭化水素基の炭素数が異なることを除いて、上記アミン化合物(A1)で例示したものと同様の化合物を用いることができる。
【0021】
上記アミン化合物(A2)は、一種類に限定されず、複数種類のアミン化合物(A2)が用いられていてもよい。すなわち、アミン化合物(A1)の炭化水素基とは炭素数の異なる炭素数8以上20以下の炭化水素基を有する複数種類のアミン化合物(A2)が用いられていてもよい。これら複数種類のアミン化合物(A2)は、互いの炭化水素基の炭素数が異なることが好ましい。複数種類のアミン化合物(A2)は、互いの炭化水素基の炭素数が同じであるものの、化学式が異なるものであってもよい。
【0022】
アミン化合物(A2)は、2種類以上用いられていることが好ましく、3種類以上用いられていることがより好ましく、5種類以上用いられていることがさらに好ましい。
アミン化合物(A1)とアミン化合物(A2)の配合割合は特に制限されない。例えば質量比として、アミン化合物(A1)/アミン化合物(A2)=1/99以上99/1以下であることが好ましく、アミン化合物(A1)/アミン化合物(A2)=5/95以上95/5以下であることがより好ましい。
【0023】
上記炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドとしては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドが挙げられる。これらの中でも、エチレンオキサイドを含有するものであることが好ましい。
【0024】
アルキレンオキサイドの重合配列としては、特に制限されず、ランダム付加物であっても、ブロック付加物であってもよい。
上記炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0025】
上記平滑剤(B)としては、特に制限されず、処理剤に用いられる公知の平滑剤を用いることができる。公知の平滑剤としては、例えばシリコーン油、鉱物油、ポリオレフィン、エステル化合物等が挙げられる。これら平滑剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、平滑剤(B)は、シリコーン油を含むものであることが好ましい。
【0026】
シリコーン油としては、例えばジメチルシリコーン、フェニル変性シリコーン、アミノ変性シリコーン、アミド変性シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン、アミノポリエーテル変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルキルアラルキル変性シリコーン、アルキルポリエーテル変性シリコーン、エステル変性シリコーン、エポキシ変性シリコーン、カルビノール変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン等が挙げられる。これらの中でも、アミノ変性シリコーンを含むものであることが好ましい。
【0027】
平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーンを含むものであることにより、合成繊維を耐炎化し、さらに炭素化して炭素繊維を作製した際の炭素繊維の強度をより向上させることができる。
【0028】
平滑剤(B)の具体例としては、例えば25℃における動粘度が650mm2/sでありアミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が90mm2/sでありアミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が4500mm2/sでありアミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が8000mm2/sでありアミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン、25℃における動粘度が350mm2/sであるジメチルシリコーン、ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジドデシルエステル等が挙げられる。
【0029】
上記のシリコーン油は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
なお、平滑剤(B)の動粘度は、キャノンフェンスケ粘度計を用いて25℃の条件下で公知の方法によって測定することができる。
【0030】
アミン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の含有割合に制限はない。アミン誘導体(A)、及び平滑剤(B)の含有割合の合計を100質量部とすると、アミン誘導体(A)を3質量%以上50質量%以下、及び平滑剤(B)を50質量%以上97質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0031】
処理剤は、更に、下記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)を含有することが好ましい。
(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C):炭素数4以上のアルキル鎖のβ位にヒドロキシ基を有する一価脂肪族アルコール1モルに対し、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドを合計で1モル以上30モル以下の割合で付加させた化合物。
【0032】
上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)を含有することにより、紡糸集束性をより向上させることができる。
上記一価脂肪族アルコールとしては、特に制限されず、直鎖脂肪族アルコールであっても、分岐鎖を有する脂肪族アルコールであってもよい。また、飽和脂肪族アルコールであっても、不飽和脂肪族アルコールであってもよい。
【0033】
また、一級アルコール、二級アルコール、三級アルコールのいずれであってもよい。これらの中でも、一級アルコールであることが好ましい。
上記一価脂肪族アルコールのアルキル鎖の炭素数は、10以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましい。また、一価脂肪族アルコールのアルキル鎖の炭素数は、18以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましい。
【0034】
上記アルキル鎖の具体例としては、上記アミン誘導体(A)で用いられるアミン化合物(A1)の炭化水素基と同様のものを挙げることができる。
上記炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドとしては、上記アミン誘導体(A)で用いられるアルキレンオキサイドと同様のものを挙げることができる。
【0035】
上記(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)の具体例としては、例えば2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物、2-テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物等が挙げられる。
【0036】
上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
アミン誘導体(A)、平滑剤(B)、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)の含有割合に制限はない。アミン誘導体(A)、平滑剤(B)、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)の含有割合の合計を100質量部とすると、アミン誘導体(A)を3質量%以上40質量%以下、平滑剤(B)を20質量%以上94質量%以下、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)を3質量%以上50質量%以下の割合で含有することが好ましい。
【0037】
(第2実施形態)
本発明に係る合成繊維を具体化した第2実施形態について説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している。合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンテレフタラート、ポリ乳酸エステル等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、(5)セルロース系繊維、(6)リグニン系繊維等が挙げられる。
【0038】
合成繊維としては、後述する炭素化処理工程を経ることにより炭素繊維となる樹脂製の合成繊維であることが好ましい。言い換えれば、合成繊維は、炭素繊維前駆体であることが好ましい。
【0039】
合成繊維を構成する樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、フェノール樹脂、セルロース樹脂、リグニン樹脂、ピッチ等を挙げることができる。
【0040】
第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤(溶媒を含まない)を合成繊維に対し0.1質量%以上2質量%以下となるように付着させることが好ましく、0.3質量%以上1.2質量%以下となるように付着させることがより好ましい。
【0041】
第1実施形態の処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、例えば有機溶媒溶液、水性液等が挙げられる。
処理剤を合成繊維に付着させる方法としては、例えば、第1実施形態の処理剤、及び水を含有する水性液又はさらに希釈した水溶液を用いて、公知の方法、例えば浸漬法、スプレー法、ローラー法、計量ポンプを用いたガイド給油法等によって付着させる方法を適用できる。
【0042】
本実施形態の合成繊維を用いた炭素繊維の製造方法について説明する。
炭素繊維の製造方法は、下記の工程1~3を経ることが好ましい。
工程1:炭素繊維前駆体となる合成繊維を紡糸するとともに、第1実施形態の処理剤を付着させる紡糸工程。
【0043】
工程2:前記工程1で得られた炭素繊維前駆体を200℃以上300℃以下、好ましくは230℃以上270℃以下の酸化性雰囲気中で耐炎化繊維に転換する耐炎化処理工程。
工程3:前記工程2で得られた耐炎化繊維をさらに300℃以上2000℃以下、好ましくは300℃以上1300℃以下の不活性雰囲気中で炭化させる炭素化処理工程。
【0044】
なお、上記工程2と工程3とによって焼成工程が構成されるものとする。
紡糸工程は、さらに、樹脂を溶媒に溶解して紡糸する湿式紡糸工程、湿式紡糸された合成繊維を乾燥して緻密化する乾燥緻密化工程、及び乾燥緻密化した合成繊維を延伸する延伸工程を有していることが好ましい。第1実施形態の処理剤は、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間で付着させることが好ましい。
【0045】
乾燥緻密化工程の温度は特に限定されないが、湿式紡糸工程を経た合成繊維を、例えば、70℃以上200℃以下で加熱することが好ましい。処理剤を合成繊維に付着させるタイミングは特に限定されないが、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間であることが好ましい。
【0046】
耐炎化処理工程における酸化性雰囲気は、特に限定されず、例えば、空気雰囲気を採用することができる。
炭素化処理工程における不活性雰囲気は、特に限定されず、例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、真空雰囲気等を採用することができる。
【0047】
本実施形態の処理剤、及び合成繊維によれば、以下のような作用及び効果を得ることができる。
(1)本実施形態の処理剤は、上記のアミン誘導体(A)、及び平滑剤(B)を含有する。したがって、合成繊維の紡糸集束性を向上させることができる。また、合成繊維の耐炎化集束性や、合成繊維を炭素化して炭素繊維を作製した際の炭素繊維の強度を向上させることができる。
【0048】
(2)平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーン、及びポリエーテル変性シリコーンから選ばれる少なくとも1つを含む。したがって、合成繊維の耐炎化集束性と、合成繊維を炭素化して炭素繊維を作製した際の炭素繊維の強度の少なくともいずれかをより向上させることができる。
【0049】
(3)平滑剤(B)が、アミノ変性シリコーンを含む。したがって、炭素繊維の強度のより向上させることができる。
(4)上記の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)を含有する。したがって、紡糸集束性をより向上させることができる。
【0050】
上記実施形態は、以下のように変更して実施できる。上記実施形態、及び、以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・本実施形態では、湿式紡糸工程と乾燥緻密化工程の間において、処理剤を合成繊維に付着させていたが、この態様に限定されない。乾燥緻密化工程と延伸工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良いし、延伸工程と耐炎化処理工程の間において処理剤を合成繊維に付着させても良い。
【0051】
・本実施形態において、合成繊維は、焼成工程を行わない繊維であってもよい。すなわち、合成繊維は、炭素繊維前駆体に限定されない。
・本実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤や制電剤、帯電防止剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤(シリコーン系化合物)等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0052】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0053】
試験区分1(炭素繊維前駆体用処理剤の調製)
(実施例1)
表1に示される各成分を使用し、アミン誘導体(A-1)が15部、平滑剤(B-1)が50部、(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C-1)が35部の配合割合となるようにビーカーに加えた。これらを撹拌してよく混合した。撹拌を続けながら固形分濃度が25%となるようにイオン交換水を徐々に添加することで実施例1の合成繊維用処理剤の25%水性液を調製した。
【0054】
(実施例2~24及び比較例1~3)
実施例2~24及び比較例1~3の各炭素繊維前駆体用処理剤は、表1に示される各成分を使用し、実施例1と同様の方法にて調製した。
【0055】
なお、各例の処理剤中におけるアミン誘導体(A)の種類と含有量、平滑剤(B)の種類と含有量、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)の種類と含有量は、表1の「アミン誘導体(A)」欄、「平滑剤(B)」欄、及び「(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)」欄にそれぞれ示すとおりである。
【0056】
【表1】
表1のアミン誘導体(A)、平滑剤(B)、及び(ポリ)オキシアルキレン誘導体(C)の詳細は以下のとおりである。
【0057】
(アミン誘導体(A))
表1のアミン誘導体(A)における、アミン化合物(A1)及びアミン化合物(A2)の種類と配合割合、炭素数2以上4以下のアルキレンオキサイドの種類と付加モル数について、表2の「アミン化合物の種類と配合割合(質量部)」欄、及び「アルキレンオキサイドの種類と付加モル数」欄にそれぞれ示す。
【0058】
表2において、「C8」は、炭化水素基の炭素数が8のアミン化合物を意味する。また、「C16:1」は、炭化水素基の炭素数が16で、不飽和結合が1つあるアミン化合物を意味し、その他も同様とする。
【0059】
数字の右肩に「*」が付与されているものがアミン化合物(A1)を意味し、その他は全てアミン化合物(A2)を意味する。ただし、実施例25では、アミン誘導体(A-9)が有するアミン化合物をアミン化合物(A1)とし、アミン誘導体(A-10)が有するアミン化合物をアミン化合物(A2)とする。EOはエチレンオキサイドを意味し、POはプロピレンオキサイドを意味する。
【0060】
アミン誘導体(A-1)、(A-3)~(A-8)は、アミン化合物(A1)とアミン化合物(A2)の合計1モルの混合液に対して、EOを付加させて調製した。
アミン誘導体(A-2)は、アミン化合物(A1)とアミン化合物(A2)の合計1モルの混合液に対して、EOとPOをこの順番でブロック付加させて調製した。アミン誘導体(A-1)~(A-10)は全て、直鎖の炭化水素基を有する一級アミンを用いた。
【0061】
なお、アミン誘導体(A-1)~(A-8)を調製する方法は、アミン化合物の混合液に対してアルキレンオキサイドを付加させる方法に限定されない。各アミン化合物に個別にアルキレンオキサイドを付加させた後、それらを混合することによって調製してもよい。
【0062】
【表2】
a-1:ジスチレン化フェノール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル、プロピレンオキサイドを10モル付加させた化合物
a-2:トリスチレン化フェノール1モルに対してエチレンオキサイドを15モル、プロピレンオキサイドを10モル付加させた化合物
(平滑剤(B))
B-1:25℃における動粘度が650mm
2/sでありアミノ当量が1800g/molであるアミノ変性シリコーン
B-2:25℃における動粘度が90mm
2/sでありアミノ当量が5000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-3:25℃における動粘度が4500mm
2/sでありアミノ当量が1200g/molであるアミノ変性シリコーン
B-4:25℃における動粘度が8000mm
2/sでありアミノ当量が1000g/molであるアミノ変性シリコーン
B-5:25℃における動粘度が350mm
2/sであるジメチルシリコーン
B-6:ビスフェノールAのエチレンオキサイド2モル付加物のジドデシルエステル
((ポリ)オキシアルキレン誘導体(C))
C-1:2-ドデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを5モル付加させた化合物
C-2:2-テトラデカノール1モルに対してエチレンオキサイドを9モル付加させた化合物
試験区分2(合成繊維、及び炭素繊維の製造)
試験区分1で調製した合成繊維用処理剤の水性液を用いて、合成繊維、及び炭素繊維を製造した。
【0063】
まず、工程1として、アクリル樹脂を湿式紡糸した。具体的には、アクリロニトリル95質量%、アクリル酸メチル3.5質量%、メタクリル酸1.5質量%からなる極限粘度1.80の共重合体を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解してポリマー濃度が21.0質量%、60℃における粘度が500ポイズの紡糸原液を作成した。紡糸原液は、紡浴温度35℃に保たれたDMACの70質量%水溶液の凝固浴中に孔径(内径)0.075mm、ホール数12,000の紡糸口金よりドラフト比0.8で吐出した。
【0064】
凝固糸を水洗槽の中で脱溶媒と同時に5倍に延伸して水膨潤状態のアクリル繊維ストランド(原料繊維)を作成した。このアクリル繊維ストランドに対して、固形分付着量が1質量%(溶媒を含まない)となるように、試験区分1で調製した合成繊維用処理剤を給油した。合成繊維用処理剤の給油は、合成繊維用処理剤の4%イオン交換水溶液を用いた浸漬法により実施した。その後、アクリル繊維ストランドに対して、130℃の加熱ローラーで乾燥緻密化処理を行い、更に170℃の加熱ローラー間で1.7倍の延伸を施した後に巻き取り装置を用いて糸管に巻き取った。
【0065】
次に、工程2として、巻き取られた炭素繊維前駆体から糸を解舒し、230℃以上270℃以下の温度勾配を有する耐炎化炉で空気雰囲気下1時間、耐炎化処理した後に糸管に巻き取ることで耐炎化糸(耐炎化繊維)を得た。
【0066】
次に、工程3として、巻き取られた耐炎化糸から糸を解舒し、窒素雰囲気下で300℃以上1300℃以下の温度勾配を有する炭素化炉で焼成して炭素繊維に転換後、糸管に巻き取ることで炭素繊維を得た。
【0067】
試験区分3(評価)
実施例1~24及び比較例1~3の処理剤について、紡糸集束性、耐炎化集束性、及び炭素繊維の強度を評価した。各試験の手順について以下に示す。また、試験結果を表1の「紡糸集束性」欄、「耐炎化集束性」欄、「強度」欄に示す。
【0068】
(紡糸集束性)
試験区分2の工程1で合成繊維用処理剤を給油したアクリル繊維ストランドが、130℃の加熱ローラーを通過する際の集束状態を目視で観察して、以下の基準で評価した。
【0069】
・紡糸集束性の評価基準
◎(良好):繊維が集束して糸幅が相対的に狭くなっており、加熱ローラーへの巻き付きもなく、操業性に全く問題がない場合
〇(可):やや糸がばらけて糸幅が若干広くなっているが、加熱ローラーへの巻き付きはなく、操業性に問題がない場合
×(不可):糸のばらけが多く糸幅が広くなっており、加熱ローラーへの巻き付きにより頻繁に断糸が発生して操業性に影響がある場合
(耐炎化集束性)
試験区分2の工程2で耐炎化処理を行った耐炎化繊維に対して、糸管に巻き取る前の集束状態を目視で観察して、以下の基準で評価した。
【0070】
・耐炎化集束性の評価基準
○(可):繊維が集束しているものの繊維束中に空間が存在しない場合
×(不可):繊維が集束しておらず、繊維束中に空間が存在してトウ幅が広くなっている場合
(強度)
試験区分2の工程3で得られた炭素繊維を用いて、JIS R 7606に準じて炭素繊維の強度を測定した。以下の基準で評価した。
【0071】
・強度の評価基準
◎(良好):強度が4.0GPa以上、4.5GPa未満
〇(可):強度が3.5GPa以上、4.0GPa未満
×(不可):強度が3.5GPa未満
表1の結果から、本発明によれば、合成繊維の紡糸集束性を向上させることができる。また、耐炎化集束性を向上させることができるとともに、炭素繊維の強度を向上させることができる。