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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186351
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】合成繊維用処理剤及び合成繊維
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/328 20060101AFI20221208BHJP
   D06M 13/148 20060101ALI20221208BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20221208BHJP
   D06M 13/244 20060101ALI20221208BHJP
   D06M 13/224 20060101ALI20221208BHJP
   D06M 13/184 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
D06M13/328
D06M13/148
D06M15/53
D06M13/244
D06M13/224
D06M13/184
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094518
(22)【出願日】2021-06-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2021-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石川 文義
(72)【発明者】
【氏名】富田 貴志
【テーマコード(参考)】
4L033
【Fターム(参考)】
4L033AB01
4L033AC09
4L033BA12
4L033BA16
4L033BA21
4L033BA23
4L033BA46
4L033CA48
(57)【要約】
【課題】低タール蓄積性及び染色性を向上させた合成繊維用処理剤等を提供する。
【解決手段】本発明は、含窒素ノニオン界面活性剤(A)及びジオール化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が下記の有機アミン混合物(X)に炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させた化合物を含むことを特徴とする。有機アミン混合物(X):分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する2種以上の有機アミンを含有し、炭素数14の炭化水素基を有する有機アミン、及び炭素数16の炭化水素基を有する有機アミンから選ばれる少なくとも一つの有機アミンを含有する有機アミン混合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)及びジオール化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が下記の有機アミン混合物(X)に炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させた化合物を含むことを特徴とする合成繊維用処理剤。
有機アミン混合物(X):分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する2種以上の有機アミンを含有し、炭素数14の炭化水素基を有する有機アミン、及び炭素数16の炭化水素基を有する有機アミンから選ばれる少なくとも一つの有機アミンを含有する有機アミン混合物。
【請求項2】
前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が、下記の式(1)から求められる前記有機アミン混合物(X)の分子量から換算した前記有機アミン混合物(X)1モルに対し前記アルキレンオキサイド(Y)を1モル以上20モル以下の割合で付加させた化合物を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【数1】
【請求項3】
前記アルキレンオキサイド(Y)が、エチレンオキサイドである請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
ガスクロマトグラフィー分析において、前記有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、30%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
ガスクロマトグラフィー分析において、前記有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、分子中に二重結合を持つ炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、0%以上60%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)を、0.1質量%以上10質量%以下含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
更に、平滑剤(C)、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)、及びイオン界面活性剤(E)を含有する請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記平滑剤(C)が、分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)を含むものである請求項7に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
前記平滑剤(C)が、更に多価アルコールのエステル化合物(C2)を含むものである請求項7又は8に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
前記多価アルコールのエステル化合物(C2)が、分子中に第4級炭素原子を有するものである請求項9に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
更に、オキシカルボン酸誘導体(F)を含有する請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の含窒素ノニオン界面活性剤等を含有する合成繊維用処理剤及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば合成繊維の紡糸延伸工程等において、例えば平滑性、制電性等の向上の観点から、繊維の表面に繊維用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
従来、特許文献1、2に開示の合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、2-デシル-1-テトラデカノールのチオジプロピオン酸ジエステル等の含硫黄エステルを含有するとともに、灰分の含有量及び酸価を規定した合成繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、脂肪族アルコールと脂肪酸とのエステルを含む平滑剤、非イオン性界面活性剤及びジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸アルカリ金属塩を含むイオン性界面活性剤を含有し、硫酸イオンを所定値以下に規定した合成繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-150665号公報
【特許文献2】特許第6781496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の合成繊維用処理剤において、低タール蓄積性及び染色性の更なる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定の含窒素ノニオン界面活性剤及びジオール化合物を含有する構成が好適であることを見出した。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の合成繊維用処理剤では、含窒素ノニオン界面活性剤(A)及びジオール化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が下記の有機アミン混合物(X)に炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させた化合物を含むことを要旨とする。
【0007】
有機アミン混合物(X):分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する2種以上の有機アミンを含有し、炭素数14の炭化水素基を有する有機アミン、及び炭素数16の炭化水素基を有する有機アミンから選ばれる少なくとも一つの有機アミンを含有する有機アミン混合物。
【0008】
前記合成繊維用処理剤において、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が、下記の式(1)から求められる前記有機アミン混合物(X)の分子量から換算した前記有機アミン混合物(X)1モルに対し前記アルキレンオキサイド(Y)を1モル以上20モル以下の割合で付加させた化合物を含んでもよい。
【0009】
【数1】
前記合成繊維用処理剤において、前記アルキレンオキサイド(Y)が、エチレンオキサイドであってもよい。
【0010】
前記合成繊維用処理剤において、ガスクロマトグラフィー分析において、前記有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、30%以上であってもよい。
【0011】
前記合成繊維用処理剤において、ガスクロマトグラフィー分析において、前記有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、分子中に二重結合を持つ炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、0%以上60%以下であってもよい。
【0012】
前記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)を、0.1質量%以上10質量%以下含有してもよい。
前記合成繊維用処理剤において、更に、平滑剤(C)、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)、及びイオン界面活性剤(E)を含有してもよい。
【0013】
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(C)が、分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)を含むものであってもよい。
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(C)が、更に多価アルコールのエステル化合物(C2)を含むものであってもよい。
【0014】
前記合成繊維用処理剤において、前記多価アルコールのエステル化合物(C2)が、分子中に第4級炭素原子を有するものであってもよい。
前記合成繊維用処理剤において、更に、オキシカルボン酸誘導体(F)を含有してもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維では、前記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば低タール蓄積性及び染色性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記に示される含窒素ノニオン界面活性剤(A)及びジオール化合物(B)を含有する。
【0018】
(含窒素ノニオン界面活性剤(A))
含窒素ノニオン界面活性剤(A)は、下記の有機アミン混合物(X)に炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させた化合物を含んでいる。有機アミン混合物(X)は、分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する2種以上の有機アミンを含有している。且つ有機アミン混合物(X)は、炭素数14の炭化水素基を有する有機アミン、及び炭素数16の炭化水素基を有する有機アミンから選ばれる少なくとも一つの有機アミンを含有している。
【0019】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)としては、炭素数8以上24以下の炭化水素基を1つ有する1級アミンに炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させて形成した(ポリ)オキシアルキレン基を2つ有する3級アミン化合物、炭素数8以上24以下の炭化水素基を2つ有する2級アミンに(ポリ)オキシアルキレン基を1つ有する3級アミン化合物、又は炭素数8以上24以下の炭化水素基を1つ有する1級アミンに(ポリ)オキシアルキレン基を1つ有する2級アミン化合物を含んでいる。これらの中でも、炭素数8以上24以下の炭化水素基を1つ有する1級アミンに炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させて形成した(ポリ)オキシアルキレン基を1つ有する2級アミン化合物若しくは2つ有する3級アミン化合物が好ましい。
【0020】
有機アミンを構成する炭化水素基としては、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖を有する炭化水素基であってもよい。有機アミンとしては、炭素数8以上24以下の炭化水素基を有し、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有することが好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0021】
直鎖の飽和炭化水素基の具体例としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0022】
分岐鎖構造を有する飽和炭化水素基の具体例としては、例えばイソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基、イソドコシル基、イソトリコシル基、イソテトラコシル基等が挙げられる。
【0023】
不飽和炭化水素基としては、不飽和炭素結合として二重結合を1つ有するアルケニル基であっても、二重結合を2つ以上有するアルカジエニル基、アルカトリエニル基等であってもよい。また、不飽和炭素結合として三重結合を1つ有するアルキニル基であっても、三重結合を2つ以上有するアルカジイニル基等であってもよい。炭化水素基中に二重結合を1つ有する直鎖の不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばオクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0024】
炭化水素基中に二重結合を1つ有する分岐鎖構造を有する不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばイソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基、イソドコセニル基、イソトリコセニル基、イソテトラコセニル基等が挙げられる。
【0025】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)は、上述した有機アミン混合物(X)にアルキレンオキサイド(Y)として炭素数2のエチレンオキサイド及び/又は炭素数3のプロピレンオキサイドを付加させている。アルキレンオキサイド(Y)の付加モル数の合計の下限は、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上である。かかる付加モル数の合計の上限は、好ましくは50モル以下、より好ましくは20モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイド(Y)の付加モル数は、仕込み原料中における分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する有機アミン1モルに対するアルキレンオキサイド(Y)のモル数を示す。アルキレンオキサイド(Y)の付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0026】
アルキレンオキサイド(Y)としては、エチレンオキサイドが好ましい。またエチレンオキサイドは、アルキレンオキサイドの総付加モル数に対する付加モル数の割合が50%を超えることが好ましい。さらに、アルキレンオキサイド(Y)は、エチレンオキサイドのみからなることがより好ましい。かかる構成により、処理剤が付与された繊維が染色される際の染色性を向上させる。また、タールの蓄積をより抑制できる。
【0027】
有機アミン混合物(X)にアルキレンオキサイド(Y)を付加させる際、有機アミン混合物(X)1モルは、下記の式(1)から求められる有機アミン混合物(X)の分子量[g/mol]から換算されることが好ましい。
【0028】
【数2】
なお、アミン価[mg/g]は有機アミン混合物1gを中和するのに要する塩酸と当量の水酸化カリウムのmg数を示す。式(1)において、アミン価の測定方法は、まず有機アミン混合物(X)の試料1.0gを秤量し、中性のエタノールを30g入れて溶解させ、次に0.1mol/L塩酸溶液で電位差滴定により、滴定を行い、次の式により求められる。
【0029】
アミン価=(滴定量[mL]×塩酸溶液のファクター×0.1×56.1)/(試料の重さ[g])
また、式(1)から求められる有機アミン混合物(X)の分子量から換算した有機アミン混合物(X)1モルに対しアルキレンオキサイド(Y)を1モル以上20モル以下の割合で付加させた化合物を含むことが好ましい。かかる化合物により、本発明の効果をより向上させる。
【0030】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)の原料となる有機アミン混合物(X)は、ガスクロマトグラフィー分析において、有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、30%以上であることが好ましい。かかる構成により、処理剤が付与された繊維が染色される際の染色性を向上させる。また、タールの蓄積をより抑制できる。
【0031】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)の原料となる有機アミン混合物(X)は、ガスクロマトグラフィー分析において、有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、分子中に不飽和結合として二重結合を持つ炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、0%以上60%以下であることが好ましく、0%以上25%以下であることがより好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、タールの蓄積をより抑制できる。
【0032】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)を合成する方法に特に限定はなく、公知の手法が用いられる。アルキレンオキサイドの付加の温度条件は、例えば80~160℃で行われる。また、無触媒反応であっても、アルカリ金属等を添加した触媒反応であってもよい。触媒反応では、触媒を公知の手法で取り除いてから処理剤に供されることが好ましい。反応副生物のジオキサン等は、減圧蒸留等で取り除かれることが好ましい。
【0033】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、含窒素ノニオン界面活性剤(A)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。含窒素ノニオン界面活性剤(A)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、本発明の効果をより向上できる。
【0034】
(ジオール化合物(B))
ジオール化合物(B)の具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等が挙げられる。これらジオール化合物(B)は、一種類のジオール化合物を単独で使用してもよいし、又は二種以上のジオール化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。ジオールの分子量は、800g/mol以下であることが好ましい。
【0035】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、ジオール化合物(B)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。ジオール化合物(B)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、本発明の効果をより向上できる。
【0036】
(平滑剤(C))
処理剤は、合成繊維に平滑性の向上等を目的として平滑剤(C)を含有してもよい。平滑剤(A)としては、例えば鉱物油、ポリオレフィン、エステル化合物等が挙げられる。これら平滑剤(C)は、一種類の平滑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0037】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。
【0038】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用できる。
【0039】
エステル化合物としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル化合物が挙げられる。エステル化合物としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル化合物が例示される。
【0040】
エステル化合物の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル化合物の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0041】
エステル化合物としては、例えば分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)、多価アルコールのエステル化合物(C2)、多価カルボン酸と一価アルコールとのエステル化合物等が挙げられる。これらの中で、硫黄原子を有するエステル化合物(C1)及び/又は多価アルコールのエステル化合物(C2)を含むことが好ましい。エステル化合物が硫黄原子を有するエステル化合物(C1)を含む場合、タールの蓄積をより抑制できる。エステル化合物が多価アルコールのエステル化合物(C2)を含む場合、タールの蓄積をより抑制できる。
【0042】
分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)の具体例としては、例えばジオクチルチオジプロピオナート、ジイソラウリルチオジプロピオナート、ジラウリルチオジプロピオナート、ジイソパルミチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジオレイルチオジプロピオナート、ジイソテトラコシルチオジプロピオナート、オクチルチオジプロピオナート、イソラウリルチオジプロピオナート、ラウリルチオジプロピオナート、イソパルミチルチオジプロピオナート、イソステアリルチオジプロピオナート、オレイルチオジプロピオナート、イソテトラコシルチオジプロピオナート、オクチルメルカプトプロピオナート、ステアリルメルカプトプロピオナート、トリメチロールプロパントリス(メルカプトプロピオナート)等が挙げられる。
【0043】
多価アルコールのエステル化合物(C2)としては、例えば多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物、天然油脂等が挙げられる。多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物の具体例としては、例えば1,4-ブタンジオールジオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸のトリエステル、ジ(2-エチルヘキサン酸)ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトールテトラオクタノアート、ペンタエリスリトールテトラヘキサゴナート、グリセリントリラウラート、グリセリントリオレアート等が挙げられる。天然油脂の具体例としては、例えばヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、パーム油、魚油、牛脂等が挙げられる。
【0044】
多価アルコールのエステル化合物(C2)の中で、分子中に第4級炭素原子を有する多価アルコールのエステル化合物が好ましい。分子中に第4級炭素原子を有する多価アルコールのエステル化合物の具体例としては、例えばトリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸のトリエステル、トリメチロールプロパントリオレアート、ペンタエリスリトールテトラオクタノアート、ペンタエリスリトールテトラヘキサゴナート、ジ(2-エチルヘキサン酸)ネオペンチルグリコール等が好ましい。分子中に第4級炭素原子を有する多価アルコールのエステル化合物を含む場合、タールの蓄積をより抑制できる。
【0045】
多価カルボン酸と一価アルコールとのエステル化合物の具体例としては、例えばジイソステアリルアジパート、ジオレイルアジパート、トリオクチルトリメリテート等が挙げられる。
【0046】
さらに、上記以外のエステル化合物を使用してもよい。かかるエステル化合物の具体例としては、例えば(1)2-エチルヘキシルオレアート、オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート、ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0047】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、平滑剤(C)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。平滑剤(C)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、平滑剤(C)由来の機能を効率的に発揮できる。
【0048】
(非含窒素ノニオン界面活性剤(D))
処理剤は、乳化安定性の向上等を目的として非含窒素ノニオン界面活性剤(D)を含有してもよい。非含窒素ノニオン界面活性剤(D)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、カルボン酸類と炭素数3以上6以下の環状構造を有する多価アルコール等との部分エステル化合物等が挙げられる。これらの非含窒素ノニオン界面活性剤(D)は、一種類の非含窒素ノニオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の非含窒素ノニオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0049】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0050】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0051】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数の合計の下限は、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは1モル以上、さらに好ましくは2モル以上である。かかる付加モル数の合計の上限は、好ましくは60モル以下、より好ましくは40モル以下、さらに好ましくは30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0052】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0053】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の具体例としては、例えば硬化ひまし油1モルに対しエチレンオキサイド(以下、EOという)10モル付加した化合物、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物、ひまし油1モルに対しEO20モル付加した化合物、ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物、オレイルアルコール1モルに対しEO10モル付加した化合物、オレイン酸1モルに対しEO10モル付加した化合物、イソトリデシルアルコール1モルに対してEO10モルとプロピレンオキサイド(以下、POという)10モルをランダムに付加した化合物、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、ポリエチレングリコールとオレイン酸のジエステル、ポリエチレングリコールとオレイン酸のモノエステル、ノニルフェノール1モルに対しEO7モル付加した化合物等が挙げられる。
【0054】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)由来の機能を効率的に発揮できる。
【0055】
(イオン界面活性剤(E))
処理剤は、制電性の向上等を目的としてイオン界面活性剤(E)を含有してもよい。イオン界面活性剤(E)としては、公知のものを適宜採用できる。イオン界面活性剤(E)としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0056】
アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)酢酸塩、オクチル酸塩、ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、(2)オクチルリン酸エステル塩、ラウリルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩である有機リン酸塩、(3)ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールにEO及びPOから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したもののリン酸エステル塩である有機リン酸塩、(4)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、ペンタデカンスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、2級アルキルスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等の有機スルホン酸塩、(5)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(6)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにEO及びPOから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(7)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、牛脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(8)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、牛脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(9)オクチル酸、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0057】
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0058】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
これらのイオン界面活性剤(E)は、一種類のイオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上のイオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0059】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、イオン界面活性剤(E)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。イオン界面活性剤(E)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、イオン界面活性剤(E)由来の機能を効率的に発揮できる。
【0060】
(オキシカルボン酸誘導体(F))
処理剤は、さらにオキシカルボン酸誘導体(F)を含有してもよい。処理剤がオキシカルボン酸誘導体(F)を含有することにより、処理剤が付与された繊維が染色される際の染色性をより向上させる。
【0061】
オキシカルボン酸誘導体(F)は、分子中に1~2個の水酸基及び1~3個のカルボキシル基を有する炭素数2~8のオキシカルボン酸、又はその塩を含有するものが好ましい。オキシカルボン酸誘導体(F)の具体例としては、例えばクエン酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸等のオキシカルボン酸、又はそれらの塩が挙げられる。塩としては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、アルキルアミン塩等の有機アミン塩等が挙げられる。これらの中でもクエン酸、クエン酸トリエタノールアミン塩、乳酸、乳酸ナトリウム塩が好ましい。
【0062】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、オキシカルボン酸誘導体(F)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。オキシカルボン酸誘導体(F)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、染色性をより向上させる。
【0063】
<第2実施形態>
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、希釈溶媒で希釈した希釈溶液、例えば低粘度鉱物油溶液、有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。第1実施形態の処理剤によると、低粘度鉱物油等の非極性溶媒で希釈した処理剤の保存安定性を特に向上させる。合成繊維は、水性液等の希釈溶液を、例えば紡糸又は延伸工程等において合成繊維に付着させる工程を経て得られる。合成繊維に付着した希釈液は、延伸工程、乾燥工程により希釈溶媒を蒸発させてもよい。付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はない。延伸もしくは熱処理工程において、150℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。
【0064】
本実施形態の処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。
【0065】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1質量%以上3質量%以下の割合(水等の溶媒を含まない割合)となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0066】
本発明において、合成繊維の用途としては、特に限定されないが、産業資材に用いられる合成繊維が好ましい。例えばエアバッグ用繊維、シートベルト用繊維、タイヤコード用繊維、カーペット用繊維、テント用繊維、広告布用繊維、漁網用繊維、コンベアベルト用繊維、ロープ用繊維等の自動車、建築、商業、農業・水産業、土木等の分野で使用される合成繊維がより好ましい。
【0067】
上記実施形態の処理剤及び合成繊維の作用及び効果について説明する。
(1)上記実施形態の処理剤では、所定の含窒素ノニオン界面活性剤及びジオール化合物を含有する。したがって、特に処理剤の耐熱性の向上等の作用により、低タール蓄積性を向上できる。また、処理剤が付着した合成繊維は、染色性を向上させる。特に染色ムラを抑制し、均一な染色を実現できる。
【0068】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0069】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、特に限定のない限り、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0070】
試験区分1(処理剤の調製)
処理剤は、表2,3に示されるノニオン界面活性剤、ジオール化合物(B)、平滑剤(C)、イオン界面活性剤(E)、オキシカルボン酸誘導体(F)、及びその他成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0071】
・含窒素ノニオン界面活性剤(A)
含窒素ノニオン界面活性剤(A)は、表1に示されるAM-1~13、rAM-1を使用した。
【0072】
EOの供給ライン、及びEOとPOとを混合するアルキレンオキサイド混合槽を接続した1Lのオートクレーブに、表1のAM-1に示す所定の炭化水素基を有する有機アミン混合物を380.1gと触媒として水酸化カリウムを1.9g仕込んだ。オートクレーブ内を窒素置換した後、撹拌下で有機アミン混合物(X)に、反応温度110℃±5℃、反応圧力3.5±0.5kg/cmを維持するようにEOを徐々に供給した。EOを264g仕込み終えた後、110℃で1時間撹拌し続けた。次いで、80℃に冷却し、85%リン酸水溶液を1.3g仕込んで30分間撹拌した。これを珪藻土からなる濾過助剤を用いて濾過し、含窒素ノニオン界面活性剤(AM-1)を得た。
【0073】
AM-2~13、rAM-1の各含窒素ノニオン界面活性剤は、有機アミン混合物(X)を表1に示したものを使用し、有機アミン混合物(X)1モルに対するアルキレンオキシド(AO)付加モル数を表1に示した割合とした。それ以外は、含窒素ノニオン界面活性剤(AM-1)と同様にして調製した。
【0074】
有機アミン混合物(X)の組成、有機アミン混合物(X)1モルに対するアルキレンオキシド(AO)付加モル数を、表1の「有機アミン混合物(X)」欄、「AO付加モル数」欄にそれぞれ示す。
【0075】
なお、有機アミン混合物(X)に含まれる炭化水素基の組成は、以下のガスクロマトグラフィーの条件で検出したピーク面積(%)として求めた。炭化水素基の組成を、表1の「炭化水素基の組成(面積%)」欄に示す。
<ガスクロマトグラフィーの分析条件>
カラム:CP-Sil 8 CB for Amines 30m×0.25mm×0.25μm(Agilent J&W社製)
キャリアガス:N 1mL/分
インジェクター:Split(1:50)、T=300℃
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:50℃5分保持→5℃/分昇温→300℃10分保持
また、ガスクロマトグラフィー分析において、有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合を、表1の「C12~20の割合(%)」欄に示す。
【0076】
ガスクロマトグラフィー分析において、有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、分子中に二重結合を持つ炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合を、表1の「二重結合の割合(%)」欄に示す。
【0077】
また、有機アミン混合物(X)のアミン価は、まず有機アミン混合物(X)の試料1.0gを秤量し、中性のエタノールを30g入れて溶解させ、次に0.1mol/L塩酸溶液で電位差滴定により、滴定を行い、次の式により求めた。結果を、表1の「アミン価(mgKOH/g)」欄に示す。
【0078】
アミン価=(滴定量[mL]×塩酸溶液のファクター×0.1×56.1)/(試料の重さ[g])
有機アミン混合物(X)の分子量は、アミン価の値より上述した式(1)から求められる。結果を表1の「アミン価から求められる分子量(g/mol)」欄に示す。
【0079】
(実施例1)
表2,3に示されるように、平滑剤(C)としてジイソパルミチルチオジプロピオナート(E-1)を4部(%)、トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸のトリエステル(E-5)を30部(%)、グリセリントリオレアート(E-9)を20部(%)、ノニオン界面活性剤として含窒素ノニオン界面活性剤(AM-1)を0.5部(%)、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加した化合物(N-1)を10部(%)、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(N-2)を10部(%)、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量5000)(N-3)を4部(%)、ソルビタンモノオレアート(N-9)を5部(%)、ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のジエステル(N-11)を12部(%)、イオン界面活性剤(E)として2級アルカンスルホン酸ナトリウム(C=14~17)(S-1)を2部(%)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(S-2)を0.1部(%)、オレイルリン酸エステル(S-6)を1.2部(%)、オキシカルボン酸誘導体(F)として乳酸(O-1)を0.2部(%)、ジオール化合物(B)としてエチレングリコール(DO-1)を1部(%)とを含む実施例1の処理剤を調製した。
【0080】
(実施例2~22、比較例1~5)
実施例2~22、比較例1~5の処理剤は、実施例1の処理剤と同様にして、平滑剤(C)、ノニオン界面活性剤、イオン界面活性剤(E)、オキシカルボン酸誘導体(F)、ジオール化合物(B)、及びその他成分を表2,3に示した割合で含むように調製した。
【0081】
平滑剤(C)の種類と含有量、ノニオン界面活性剤の種類と含有量、イオン界面活性剤(E)の種類と含有量、オキシカルボン酸誘導体(F)の種類と含有量、ジオール化合物(B)の種類と含有量、その他成分の種類と含有量を、表2,3の「平滑剤(C)」欄、「ノニオン界面活性剤」欄、「イオン界面活性剤(E)」欄、「オキシカルボン酸誘導体(F)」欄、「ジオール化合物(B)」欄、「その他成分」欄、にそれぞれ示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
表2,3に記載する分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)、多価アルコールのエステル化合物(C2)、その他の平滑剤としてのエステル化合物、ジオール化合物(B)、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)、イオン界面活性剤(E)、オキシカルボン酸誘導体(F)、その他成分の詳細は以下のとおりである。
【0085】
(分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1))
E-1:ジイソパルミチルチオジプロピオナート
E-2:ジイソステアリルチオジプロピオナート
E-3:ジオレイルチオジプロピオナート
E-4:ジイソテトラコシルチオジプロピオナート
(分子中に第4級炭素原子を有する多価アルコールのエステル化合物(C2))
E-5:トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸のトリエステル
E-6:トリメチロールプロパントリオレアート
E-7:ペンタエリスリトールテトラヘキサゴナート
E-8:ジ(2-エチルヘキサン酸)ネオペンチルグリコール
(上記以外の多価アルコールのエステル化合物(C2))
E-9:グリセリントリオレアート
E-10:パーム油
E-11:ナタネ油
(その他のエステル化合物)
E-12:ジ(イソステアリル)アジパート
E-13:2-エチルヘキシルオレアート
E-14:オレイルオレアート
(ジオール化合物(B))
DO-1:エチレングリコール
DO-2:ポリエチレングリコール(平均分子量200)
DO-3:ポリエチレングリコール(平均分子量400)
DO-4:プロピレングリコール1モルに対し、EO6モル付加した化合物
(非含窒素ノニオン界面活性剤(D))
N-1:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加した化合物
N-2:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物
N-3:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量5000)
N-4:ひまし油1モルに対しEO20モル付加した化合物
N-5:ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物
N-6:オレイルアルコール1モルに対しEO10モル付加した化合物
N-7:オレイン酸1モルに対しEO10モル付加した化合物
N-8:イソトリデシルアルコール1モルに対してEO10モルPO10モルをランダムに付加した化合物
N-9:ソルビタンモノオレアート
N-10:ソルビタントリオレアート
N-11:ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のジエステル
N-12:ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のモノエステル
N-13:ノニルフェノール1モルに対しEO7モル付加した化合物
(イオン界面活性剤(E))
S-1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム(C=14~17)
S-2:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
S-3:オレイン酸カリウム塩
S-4:オレイルアルコール-EO5モル付加物のリン酸エステル
S-5:イソセチルリン酸エステル
S-6:オレイルリン酸エステル
S-7:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩
(オキシカルボン酸誘導体(F))
O-1:乳酸
O-2:乳酸ナトリウム塩
O-3:クエン酸
O-4:クエン酸トリエタノールアミン塩
(その他成分)
X-1:ポリエーテル変性シリコーン
X-2:1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸
試験区分2(タール蓄積性の評価)
各例の処理剤を、有機溶剤を用いて希釈して15%溶液を作製した。この希釈液を、オイリングローラー給油法にて不揮発分として付着量が10%となるように、1670デシテックス、288フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に付着させた。この繊維を、初期張力2kg、糸速0.5m/分で、表面温度240℃の梨地クロムピンに接触させて12時間走行させた。その後、ピンに蓄積した汚れの量を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、ピンに蓄積した汚れの量が少ないほど、タール蓄積が抑制されることを意味する。結果を表2,3の「タール」欄に示す。
【0086】
・タール蓄積性の評価基準
◎◎(非常に優れる):薄っすらと茶色のタールの付着が観察される場合
◎○(優れる):茶色のタールが僅かに付着が観察される場合
○○(良好):茶色のタールの付着が観察される場合
○(可):茶色のタールに黒色のタールがわずかに混ざって観察される場合
×(不可):黒色のタールが観察された場合
試験区分3(染色性)
ポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて溶融紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、前記処理剤を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて付着させた。処理剤の付着量が0.6質量%(希釈剤、水を含まない量)となるように給油した。その後、ガイドで集束させて、245℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率5.5倍となるように延伸し、1670デシテックス144フィラメントの延伸糸を得た。前記の紡糸工程において得られた繊維360本を経糸とし、緯糸として560デシテックス-96フィラメントのポリエステル糸を用いて緯糸密度21本/インチで51mm幅のシートベルト用生機を用い、精錬することなしに以下の染液(水1Lに対してDianix Red S-4G 3.4g、Dianix Yellow S-6G 3.3g、Dianix S-2G 3.3gを添加した溶液)に浸漬させた。そして、連続して220℃の発色槽で2分間の処理を行うことにより染色を行った。この時のシートベルト2000m当たりの染色欠点数から以下の基準により染色性を評価した。結果を表2,3の「染色」欄に示す。
【0087】
・染色性の評価基準
○○(良好):染色欠点数0~3
○(可):染色欠点数4~10
×(不可):染色欠点数11以上
表2,3の結果からも明らかなように、各実施例の処理剤は、タール蓄積性及び染色性の評価がいずれも可以上であった。本発明によれば、合成繊維の紡糸工程等において、ローラー等へのタール蓄積を低減し、染色性の良好な合成繊維を得ることができるという効果が生じる。
【手続補正書】
【提出日】2021-10-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)及びジオール化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が下記の有機アミン混合物(X)に炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させた化合物を含み、合成繊維の紡糸又は延伸工程で用いられることを特徴とする合成繊維用処理剤。
有機アミン混合物(X):分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する2種以上の有機アミンを含有し、炭素数14の炭化水素基を有する有機アミン、及び炭素数16の炭化水素基を有する有機アミンから選ばれる少なくとも一つの有機アミンを含有する有機アミン混合物。
【請求項2】
前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が、下記の式(1)から求められる前記有機アミン混合物(X)の分子量から換算した前記有機アミン混合物(X)1モルに対し前記アルキレンオキサイド(Y)を1モル以上20モル以下の割合で付加させた化合物を含む請求項1に記載の合成繊維用処理剤。
【数1】
【請求項3】
前記アルキレンオキサイド(Y)が、エチレンオキサイドである請求項1又は2に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項4】
ガスクロマトグラフィー分析において、前記有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、30%以上である請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項5】
ガスクロマトグラフィー分析において、前記有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、分子中に二重結合を持つ炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、0%以上60%以下である請求項1~4のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項6】
前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)を、0.1質量%以上10質量%以下含有する請求項1~5のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項7】
更に、平滑剤(C)、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)、及びイオン界面活性剤(E)を含有する請求項1~6のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項8】
前記平滑剤(C)が、分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)を含むものである請求項7に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項9】
前記平滑剤(C)が、更に多価アルコールのエステル化合物(C2)を含むものである請求項7又は8に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項10】
前記多価アルコールのエステル化合物(C2)が、分子中に第4級炭素原子を有するものである請求項9に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項11】
更に、オキシカルボン酸誘導体(F)を含有する請求項1~10のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の合成繊維用処理剤が付着していることを特徴とする合成繊維。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の含窒素ノニオン界面活性剤等を含有する合成繊維用処理剤及び合成繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば合成繊維の紡糸延伸工程等において、例えば平滑性、制電性等の向上の観点から、繊維の表面に繊維用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
従来、特許文献1、2に開示の合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1は、2-デシル-1-テトラデカノールのチオジプロピオン酸ジエステル等の含硫黄エステルを含有するとともに、灰分の含有量及び酸価を規定した合成繊維用処理剤について開示する。特許文献2は、脂肪族アルコールと脂肪酸とのエステルを含む平滑剤、非イオン性界面活性剤及びジ(2-エチルヘキシル)スルホコハク酸アルカリ金属塩を含むイオン性界面活性剤を含有し、硫酸イオンを所定値以下に規定した合成繊維用処理剤について開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-150665号公報
【特許文献2】特許第6781496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の合成繊維用処理剤において、低タール蓄積性及び染色性の更なる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定の含窒素ノニオン界面活性剤及びジオール化合物を含有する構成が好適であることを見出した。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の合成繊維用処理剤では、含窒素ノニオン界面活性剤(A)及びジオール化合物(B)を含有する合成繊維用処理剤であって、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が下記の有機アミン混合物(X)に炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させた化合物を含み、合成繊維の紡糸又は延伸工程で用いられることを要旨とする。
【0007】
有機アミン混合物(X):分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する2種以上の有機アミンを含有し、炭素数14の炭化水素基を有する有機アミン、及び炭素数16の炭化水素基を有する有機アミンから選ばれる少なくとも一つの有機アミンを含有する有機アミン混合物。
【0008】
前記合成繊維用処理剤において、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)が、下記の式(1)から求められる前記有機アミン混合物(X)の分子量から換算した前記有機アミン混合物(X)1モルに対し前記アルキレンオキサイド(Y)を1モル以上20モル以下の割合で付加させた化合物を含んでもよい。
【0009】
【数1】
前記合成繊維用処理剤において、前記アルキレンオキサイド(Y)が、エチレンオキサイドであってもよい。
【0010】
前記合成繊維用処理剤において、ガスクロマトグラフィー分析において、前記有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、30%以上であってもよい。
【0011】
前記合成繊維用処理剤において、ガスクロマトグラフィー分析において、前記有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、分子中に二重結合を持つ炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、0%以上60%以下であってもよい。
【0012】
前記合成繊維用処理剤において、前記合成繊維用処理剤の全質量に対して、前記含窒素ノニオン界面活性剤(A)を、0.1質量%以上10質量%以下含有してもよい。
前記合成繊維用処理剤において、更に、平滑剤(C)、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)、及びイオン界面活性剤(E)を含有してもよい。
【0013】
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(C)が、分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)を含むものであってもよい。
前記合成繊維用処理剤において、前記平滑剤(C)が、更に多価アルコールのエステル化合物(C2)を含むものであってもよい。
【0014】
前記合成繊維用処理剤において、前記多価アルコールのエステル化合物(C2)が、分子中に第4級炭素原子を有するものであってもよい。
前記合成繊維用処理剤において、更に、オキシカルボン酸誘導体(F)を含有してもよい。
【0015】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維では、前記合成繊維用処理剤が付着していることを要旨とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば低タール蓄積性及び染色性を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用処理剤(以下、処理剤ともいう)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の処理剤は、下記に示される含窒素ノニオン界面活性剤(A)及びジオール化合物(B)を含有する。
【0018】
(含窒素ノニオン界面活性剤(A))
含窒素ノニオン界面活性剤(A)は、下記の有機アミン混合物(X)に炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させた化合物を含んでいる。有機アミン混合物(X)は、分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する2種以上の有機アミンを含有している。且つ有機アミン混合物(X)は、炭素数14の炭化水素基を有する有機アミン、及び炭素数16の炭化水素基を有する有機アミンから選ばれる少なくとも一つの有機アミンを含有している。
【0019】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)としては、炭素数8以上24以下の炭化水素基を1つ有する1級アミンに炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させて形成した(ポリ)オキシアルキレン基を2つ有する3級アミン化合物、炭素数8以上24以下の炭化水素基を2つ有する2級アミンに(ポリ)オキシアルキレン基を1つ有する3級アミン化合物、又は炭素数8以上24以下の炭化水素基を1つ有する1級アミンに(ポリ)オキシアルキレン基を1つ有する2級アミン化合物を含んでいる。これらの中でも、炭素数8以上24以下の炭化水素基を1つ有する1級アミンに炭素数2以上3以下のアルキレンオキサイド(Y)を付加させて形成した(ポリ)オキシアルキレン基を1つ有する2級アミン化合物若しくは2つ有する3級アミン化合物が好ましい。
【0020】
有機アミンを構成する炭化水素基としては、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖を有する炭化水素基であってもよい。有機アミンとしては、炭素数8以上24以下の炭化水素基を有し、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有することが好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。
【0021】
直鎖の飽和炭化水素基の具体例としては、例えばオクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、ドコシル基、トリコシル基、テトラコシル基等が挙げられる。
【0022】
分岐鎖構造を有する飽和炭化水素基の具体例としては、例えばイソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、イソウンデシル基、イソドデシル基、イソトリデシル基、イソテトラデシル基、イソペンタデシル基、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基、イソイコシル基、イソドコシル基、イソトリコシル基、イソテトラコシル基等が挙げられる。
【0023】
不飽和炭化水素基としては、不飽和炭素結合として二重結合を1つ有するアルケニル基であっても、二重結合を2つ以上有するアルカジエニル基、アルカトリエニル基等であってもよい。また、不飽和炭素結合として三重結合を1つ有するアルキニル基であっても、三重結合を2つ以上有するアルカジイニル基等であってもよい。炭化水素基中に二重結合を1つ有する直鎖の不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばオクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基等が挙げられる。
【0024】
炭化水素基中に二重結合を1つ有する分岐鎖構造を有する不飽和炭化水素基の具体例としては、例えばイソオクテニル基、イソノネニル基、イソデセニル基、イソウンデセニル基、イソドデセニル基、イソトリデセニル基、イソテトラデセニル基、イソペンタデセニル基、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基、イソイコセニル基、イソドコセニル基、イソトリコセニル基、イソテトラコセニル基等が挙げられる。
【0025】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)は、上述した有機アミン混合物(X)にアルキレンオキサイド(Y)として炭素数2のエチレンオキサイド及び/又は炭素数3のプロピレンオキサイドを付加させている。アルキレンオキサイド(Y)の付加モル数の合計の下限は、好ましくは1モル以上、より好ましくは2モル以上である。かかる付加モル数の合計の上限は、好ましくは50モル以下、より好ましくは20モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイド(Y)の付加モル数は、仕込み原料中における分子中に炭素数8以上24以下の炭化水素基を有する有機アミン1モルに対するアルキレンオキサイド(Y)のモル数を示す。アルキレンオキサイド(Y)の付加形態は、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0026】
アルキレンオキサイド(Y)としては、エチレンオキサイドが好ましい。またエチレンオキサイドは、アルキレンオキサイドの総付加モル数に対する付加モル数の割合が50%を超えることが好ましい。さらに、アルキレンオキサイド(Y)は、エチレンオキサイドのみからなることがより好ましい。かかる構成により、処理剤が付与された繊維が染色される際の染色性を向上させる。また、タールの蓄積をより抑制できる。
【0027】
有機アミン混合物(X)にアルキレンオキサイド(Y)を付加させる際、有機アミン混合物(X)1モルは、下記の式(1)から求められる有機アミン混合物(X)の分子量[g/mol]から換算されることが好ましい。
【0028】
【数2】
なお、アミン価[mg/g]は有機アミン混合物1gを中和するのに要する塩酸と当量の水酸化カリウムのmg数を示す。式(1)において、アミン価の測定方法は、まず有機アミン混合物(X)の試料1.0gを秤量し、中性のエタノールを30g入れて溶解させ、次に0.1mol/L塩酸溶液で電位差滴定により、滴定を行い、次の式により求められる。
【0029】
アミン価=(滴定量[mL]×塩酸溶液のファクター×0.1×56.1)/(試料の重さ[g])
また、式(1)から求められる有機アミン混合物(X)の分子量から換算した有機アミン混合物(X)1モルに対しアルキレンオキサイド(Y)を1モル以上20モル以下の割合で付加させた化合物を含むことが好ましい。かかる化合物により、本発明の効果をより向上させる。
【0030】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)の原料となる有機アミン混合物(X)は、ガスクロマトグラフィー分析において、有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、30%以上であることが好ましい。かかる構成により、処理剤が付与された繊維が染色される際の染色性を向上させる。また、タールの蓄積をより抑制できる。
【0031】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)の原料となる有機アミン混合物(X)は、ガスクロマトグラフィー分析において、有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、分子中に不飽和結合として二重結合を持つ炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合が、0%以上60%以下であることが好ましく、0%以上25%以下であることがより好ましい。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、タールの蓄積をより抑制できる。
【0032】
含窒素ノニオン界面活性剤(A)を合成する方法に特に限定はなく、公知の手法が用いられる。アルキレンオキサイドの付加の温度条件は、例えば80~160℃で行われる。また、無触媒反応であっても、アルカリ金属等を添加した触媒反応であってもよい。触媒反応では、触媒を公知の手法で取り除いてから処理剤に供されることが好ましい。反応副生物のジオキサン等は、減圧蒸留等で取り除かれることが好ましい。
【0033】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、含窒素ノニオン界面活性剤(A)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。含窒素ノニオン界面活性剤(A)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは9質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、本発明の効果をより向上できる。
【0034】
(ジオール化合物(B))
ジオール化合物(B)の具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールの共重合体等が挙げられる。これらジオール化合物(B)は、一種類のジオール化合物を単独で使用してもよいし、又は二種以上のジオール化合物を適宜組み合わせて使用してもよい。ジオールの分子量は、800g/mol以下であることが好ましい。
【0035】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、ジオール化合物(B)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。ジオール化合物(B)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、本発明の効果をより向上できる。
【0036】
(平滑剤(C))
処理剤は、合成繊維に平滑性の向上等を目的として平滑剤(C)を含有してもよい。平滑剤(A)としては、例えば鉱物油、ポリオレフィン、エステル化合物等が挙げられる。これら平滑剤(C)は、一種類の平滑剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の平滑剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0037】
鉱物油としては、例えば芳香族系炭化水素、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素等が挙げられる。より具体的には、例えばスピンドル油、流動パラフィン等が挙げられる。
【0038】
ポリオレフィンは、平滑成分として用いられるポリ-α-オレフィンが適用される。ポリオレフィンの具体例としては、例えば1-ブテン、1-ヘキセン、1-デセン等を重合して得られるポリ-α-オレフィン等が挙げられる。ポリ-α-オレフィンは、市販品を適宜採用できる。
【0039】
エステル化合物としては、特に制限はないが、脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル化合物が挙げられる。エステル化合物としては、例えば後述する奇数又は偶数の炭化水素基を有する脂肪酸とアルコールとから製造されるエステル化合物が例示される。
【0040】
エステル化合物の原料である脂肪酸は、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級脂肪酸であってもよく、環状のシクロ環を有する脂肪酸であってもよく、芳香族環を有する脂肪酸であってもよい。エステル化合物の原料であるアルコールは、その炭素数、分岐の有無、価数等について特に制限はなく、また、例えば高級アルコールであっても、環状のシクロ環を有するアルコールであっても、芳香族環を有するアルコールであってもよい。
【0041】
エステル化合物としては、例えば分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)、多価アルコールのエステル化合物(C2)、多価カルボン酸と一価アルコールとのエステル化合物等が挙げられる。これらの中で、硫黄原子を有するエステル化合物(C1)及び/又は多価アルコールのエステル化合物(C2)を含むことが好ましい。エステル化合物が硫黄原子を有するエステル化合物(C1)を含む場合、タールの蓄積をより抑制できる。エステル化合物が多価アルコールのエステル化合物(C2)を含む場合、タールの蓄積をより抑制できる。
【0042】
分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)の具体例としては、例えばジオクチルチオジプロピオナート、ジイソラウリルチオジプロピオナート、ジラウリルチオジプロピオナート、ジイソパルミチルチオジプロピオナート、ジイソステアリルチオジプロピオナート、ジオレイルチオジプロピオナート、ジイソテトラコシルチオジプロピオナート、オクチルチオジプロピオナート、イソラウリルチオジプロピオナート、ラウリルチオジプロピオナート、イソパルミチルチオジプロピオナート、イソステアリルチオジプロピオナート、オレイルチオジプロピオナート、イソテトラコシルチオジプロピオナート、オクチルメルカプトプロピオナート、ステアリルメルカプトプロピオナート、トリメチロールプロパントリス(メルカプトプロピオナート)等が挙げられる。
【0043】
多価アルコールのエステル化合物(C2)としては、例えば多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物、天然油脂等が挙げられる。多価アルコールと一価カルボン酸とのエステル化合物の具体例としては、例えば1,4-ブタンジオールジオレアート、トリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパントリオレアート、トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸のトリエステル、ジ(2-エチルヘキサン酸)ネオペンチルグリコール、ペンタエリスリトールテトラオクタノアート、ペンタエリスリトールテトラヘキサゴナート、グリセリントリラウラート、グリセリントリオレアート等が挙げられる。天然油脂の具体例としては、例えばヤシ油、ナタネ油、ヒマワリ油、大豆油、ヒマシ油、ゴマ油、パーム油、魚油、牛脂等が挙げられる。
【0044】
多価アルコールのエステル化合物(C2)の中で、分子中に第4級炭素原子を有する多価アルコールのエステル化合物が好ましい。分子中に第4級炭素原子を有する多価アルコールのエステル化合物の具体例としては、例えばトリメチロールプロパントリラウラート、トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸のトリエステル、トリメチロールプロパントリオレアート、ペンタエリスリトールテトラオクタノアート、ペンタエリスリトールテトラヘキサゴナート、ジ(2-エチルヘキサン酸)ネオペンチルグリコール等が好ましい。分子中に第4級炭素原子を有する多価アルコールのエステル化合物を含む場合、タールの蓄積をより抑制できる。
【0045】
多価カルボン酸と一価アルコールとのエステル化合物の具体例としては、例えばジイソステアリルアジパート、ジオレイルアジパート、トリオクチルトリメリテート等が挙げられる。
【0046】
さらに、上記以外のエステル化合物を使用してもよい。かかるエステル化合物の具体例としては、例えば(1)2-エチルヘキシルオレアート、オクチルパルミタート、オレイルラウラート、オレイルオレアート、イソトリデシルステアラート、イソテトラコシルオレアート等の、脂肪族モノアルコールと脂肪族モノカルボン酸とのエステル化合物、(2)ベンジルオレアート、ベンジルラウラート、ビスフェノールAジラウラート等の、芳香族アルコールと脂肪族カルボン酸とのエステル化合物が挙げられる。
【0047】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、平滑剤(C)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、より好ましくは40質量%以上である。平滑剤(C)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、平滑剤(C)由来の機能を効率的に発揮できる。
【0048】
(非含窒素ノニオン界面活性剤(D))
処理剤は、乳化安定性の向上等を目的として非含窒素ノニオン界面活性剤(D)を含有してもよい。非含窒素ノニオン界面活性剤(D)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、カルボン酸類と炭素数3以上6以下の環状構造を有する多価アルコール等との部分エステル化合物等が挙げられる。これらの非含窒素ノニオン界面活性剤(D)は、一種類の非含窒素ノニオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の非含窒素ノニオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0049】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソプロパノール、イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソトリアコンタノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソペンタデカノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0050】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸等が挙げられる。
【0051】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数の合計の下限は、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは1モル以上、さらに好ましくは2モル以上である。かかる付加モル数の合計の上限は、好ましくは60モル以下、より好ましくは40モル以下、さらに好ましくは30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加、ランダム付加、及びブロック付加とランダム付加の組み合わせのいずれでもよく、特に制限はない。
【0052】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0053】
非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の具体例としては、例えば硬化ひまし油1モルに対しエチレンオキサイド(以下、EOという)10モル付加した化合物、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物、ひまし油1モルに対しEO20モル付加した化合物、ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物、オレイルアルコール1モルに対しEO10モル付加した化合物、オレイン酸1モルに対しEO10モル付加した化合物、イソトリデシルアルコール1モルに対してEO10モルとプロピレンオキサイド(以下、POという)10モルをランダムに付加した化合物、ソルビタンモノオレアート、ソルビタントリオレアート、ポリエチレングリコールとオレイン酸のジエステル、ポリエチレングリコールとオレイン酸のモノエステル、ノニルフェノール1モルに対しEO7モル付加した化合物等が挙げられる。
【0054】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以上、より好ましくは25質量%以上である。非含窒素ノニオン界面活性剤(D)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)由来の機能を効率的に発揮できる。
【0055】
(イオン界面活性剤(E))
処理剤は、制電性の向上等を目的としてイオン界面活性剤(E)を含有してもよい。イオン界面活性剤(E)としては、公知のものを適宜採用できる。イオン界面活性剤(E)としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。
【0056】
アニオン界面活性剤の具体例としては、例えば(1)酢酸塩、オクチル酸塩、ラウリン酸塩、オレイン酸塩、ステアリン酸塩等の脂肪酸塩、(2)オクチルリン酸エステル塩、ラウリルリン酸エステル塩、セチルリン酸エステル塩、オレイルリン酸エステル塩、ステアリルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールのリン酸エステル塩である有機リン酸塩、(3)ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテルリン酸エステル塩、ポリオキシエチレンステアリルエーテルリン酸エステル塩等の脂肪族アルコールにEO及びPOから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したもののリン酸エステル塩である有機リン酸塩、(4)ラウリルスルホン酸塩、ミリスチルスルホン酸塩、ペンタデカンスルホン酸塩、セチルスルホン酸塩、オレイルスルホン酸塩、ステアリルスルホン酸塩、2級アルキルスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩等の有機スルホン酸塩、(5)ラウリル硫酸エステル塩、オレイル硫酸エステル塩、ステアリル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールの硫酸エステル塩、(6)ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレン(ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン)ラウリルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンオレイルエーテル硫酸エステル塩等の脂肪族アルコールにEO及びPOから選ばれる少なくとも一種のアルキレンオキサイドを付加したものの硫酸エステル塩、(7)ひまし油脂肪酸硫酸エステル塩、ごま油脂肪酸硫酸エステル塩、トール油脂肪酸硫酸エステル塩、大豆油脂肪酸硫酸エステル塩、なたね油脂肪酸硫酸エステル塩、パーム油脂肪酸硫酸エステル塩、豚脂脂肪酸硫酸エステル塩、牛脂脂肪酸硫酸エステル塩、鯨油脂肪酸硫酸エステル塩等の脂肪酸の硫酸エステル塩、(8)ひまし油の硫酸エステル塩、ごま油の硫酸エステル塩、トール油の硫酸エステル塩、大豆油の硫酸エステル塩、菜種油の硫酸エステル塩、パーム油の硫酸エステル塩、豚脂の硫酸エステル塩、牛脂の硫酸エステル塩、鯨油の硫酸エステル塩等の油脂の硫酸エステル塩、(9)オクチル酸、ラウリン酸、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸等が挙げられる。アニオン界面活性剤の対イオンとしては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン塩等が挙げられる。
【0057】
カチオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0058】
両性界面活性剤の具体例としては、例えばベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。
これらのイオン界面活性剤(E)は、一種類のイオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上のイオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0059】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、イオン界面活性剤(E)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。イオン界面活性剤(E)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、イオン界面活性剤(E)由来の機能を効率的に発揮できる。
【0060】
(オキシカルボン酸誘導体(F))
処理剤は、さらにオキシカルボン酸誘導体(F)を含有してもよい。処理剤がオキシカルボン酸誘導体(F)を含有することにより、処理剤が付与された繊維が染色される際の染色性をより向上させる。
【0061】
オキシカルボン酸誘導体(F)は、分子中に1~2個の水酸基及び1~3個のカルボキシル基を有する炭素数2~8のオキシカルボン酸、又はその塩を含有するものが好ましい。オキシカルボン酸誘導体(F)の具体例としては、例えばクエン酸、乳酸、酒石酸、グリコール酸、リンゴ酸等のオキシカルボン酸、又はそれらの塩が挙げられる。塩としては、例えばカリウム塩、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩、トリエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、アルキルアミン塩等の有機アミン塩等が挙げられる。これらの中でもクエン酸、クエン酸トリエタノールアミン塩、乳酸、乳酸ナトリウム塩が好ましい。
【0062】
溶媒を含まない処理剤の全質量に対して、オキシカルボン酸誘導体(F)の含有量の下限は、適宜設定されるが、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。オキシカルボン酸誘導体(F)の含有量の上限は、適宜設定されるが、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。かかる構成により、染色性をより向上させる。
【0063】
<第2実施形態>
次に、本発明による合成繊維を具体化した第2実施形態を説明する。本実施形態の合成繊維は、第1実施形態の処理剤が付着している合成繊維である。処理剤を合成繊維に付着させる際の形態としては、希釈溶媒で希釈した希釈溶液、例えば低粘度鉱物油溶液、有機溶媒溶液、水性液等として付与してもよい。第1実施形態の処理剤によると、低粘度鉱物油等の非極性溶媒で希釈した処理剤の保存安定性を特に向上させる。合成繊維は、水性液等の希釈溶液を、紡糸又は延伸工程において合成繊維に付着させる工程を経て得られる。合成繊維に付着した希釈液は、延伸工程、乾燥工程により希釈溶媒を蒸発させてもよい。付着させる工程も紡糸工程であれば特に制限はない。延伸もしくは熱処理工程において、150℃以上のローラーを通過させる工程を有する製造設備、工程での使用により、発明の効果がより期待できる。
【0064】
本実施形態の処理剤が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中でポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維に適用されることが好ましい。
【0065】
処理剤を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤を合成繊維に対し0.1質量%以上3質量%以下の割合(水等の溶媒を含まない割合)となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、本発明の効果をより向上させる。また、処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等の公知の方法を採用できる。
【0066】
本発明において、合成繊維の用途としては、特に限定されないが、産業資材に用いられる合成繊維が好ましい。例えばエアバッグ用繊維、シートベルト用繊維、タイヤコード用繊維、カーペット用繊維、テント用繊維、広告布用繊維、漁網用繊維、コンベアベルト用繊維、ロープ用繊維等の自動車、建築、商業、農業・水産業、土木等の分野で使用される合成繊維がより好ましい。
【0067】
上記実施形態の処理剤及び合成繊維の作用及び効果について説明する。
(1)上記実施形態の処理剤では、所定の含窒素ノニオン界面活性剤及びジオール化合物を含有する。したがって、特に処理剤の耐熱性の向上等の作用により、低タール蓄積性を向上できる。また、処理剤が付着した合成繊維は、染色性を向上させる。特に染色ムラを抑制し、均一な染色を実現できる。
【0068】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の処理剤には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、処理剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例0069】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、特に限定のない限り、部は質量部を、また%は質量%を意味する。
【0070】
試験区分1(処理剤の調製)
処理剤は、表2,3に示されるノニオン界面活性剤、ジオール化合物(B)、平滑剤(C)、イオン界面活性剤(E)、オキシカルボン酸誘導体(F)、及びその他成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0071】
・含窒素ノニオン界面活性剤(A)
含窒素ノニオン界面活性剤(A)は、表1に示されるAM-1~13、rAM-1を使用した。
【0072】
EOの供給ライン、及びEOとPOとを混合するアルキレンオキサイド混合槽を接続した1Lのオートクレーブに、表1のAM-1に示す所定の炭化水素基を有する有機アミン混合物を380.1gと触媒として水酸化カリウムを1.9g仕込んだ。オートクレーブ内を窒素置換した後、撹拌下で有機アミン混合物(X)に、反応温度110℃±5℃、反応圧力3.5±0.5kg/cmを維持するようにEOを徐々に供給した。EOを264g仕込み終えた後、110℃で1時間撹拌し続けた。次いで、80℃に冷却し、85%リン酸水溶液を1.3g仕込んで30分間撹拌した。これを珪藻土からなる濾過助剤を用いて濾過し、含窒素ノニオン界面活性剤(AM-1)を得た。
【0073】
AM-2~13、rAM-1の各含窒素ノニオン界面活性剤は、有機アミン混合物(X)を表1に示したものを使用し、有機アミン混合物(X)1モルに対するアルキレンオキシド(AO)付加モル数を表1に示した割合とした。それ以外は、含窒素ノニオン界面活性剤(AM-1)と同様にして調製した。
【0074】
有機アミン混合物(X)の組成、有機アミン混合物(X)1モルに対するアルキレンオキシド(AO)付加モル数を、表1の「有機アミン混合物(X)」欄、「AO付加モル数」欄にそれぞれ示す。
【0075】
なお、有機アミン混合物(X)に含まれる炭化水素基の組成は、以下のガスクロマトグラフィーの条件で検出したピーク面積(%)として求めた。炭化水素基の組成を、表1の「炭化水素基の組成(面積%)」欄に示す。<ガスクロマトグラフィーの分析条件>
カラム:CP-Sil 8 CB for Amines 30m×0.25mm×0.25μm(Agilent J&W社製)
キャリアガス:N1mL/分
インジェクター:Split(1:50)、T=300℃
ディテクター:FID、T=300℃
オーブン温度:50℃5分保持→5℃/分昇温→300℃10分保持
また、ガスクロマトグラフィー分析において、有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、炭素数12以上20以下の炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合を、表1の「C12~20の割合(%)」欄に示す。
【0076】
ガスクロマトグラフィー分析において、有機アミン混合物(X)のピーク面積の総和に占める、分子中に二重結合を持つ炭化水素基を有する有機アミンのピーク面積の割合を、表1の「二重結合の割合(%)」欄に示す。
【0077】
また、有機アミン混合物(X)のアミン価は、まず有機アミン混合物(X)の試料1.0gを秤量し、中性のエタノールを30g入れて溶解させ、次に0.1mol/L塩酸溶液で電位差滴定により、滴定を行い、次の式により求めた。結果を、表1の「アミン価(mgKOH/g)」欄に示す。
【0078】
アミン価=(滴定量[mL]×塩酸溶液のファクター×0.1×56.1)/(試料の重さ[g])
有機アミン混合物(X)の分子量は、アミン価の値より上述した式(1)から求められる。結果を表1の「アミン価から求められる分子量(g/mol)」欄に示す。
【0079】
(実施例1)
表2,3に示されるように、平滑剤(C)としてジイソパルミチルチオジプロピオナート(E-1)を4部(%)、トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸のトリエステル(E-5)を30部(%)、グリセリントリオレアート(E-9)を20部(%)、ノニオン界面活性剤として含窒素ノニオン界面活性剤(AM-1)を0.5部(%)、硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加した化合物(N-1)を10部(%)、硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物(N-2)を10部(%)、硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量5000)(N-3)を4部(%)、ソルビタンモノオレアート(N-9)を5部(%)、ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のジエステル(N-11)を12部(%)、イオン界面活性剤(E)として2級アルカンスルホン酸ナトリウム(C=14~17)(S-1)を2部(%)、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム(S-2)を0.1部(%)、オレイルリン酸エステル(S-6)を1.2部(%)、オキシカルボン酸誘導体(F)として乳酸(O-1)を0.2部(%)、ジオール化合物(B)としてエチレングリコール(DO-1)を1部(%)とを含む実施例1の処理剤を調製した。
【0080】
(実施例2~22、比較例1~5)
実施例2~22、比較例1~5の処理剤は、実施例1の処理剤と同様にして、平滑剤(C)、ノニオン界面活性剤、イオン界面活性剤(E)、オキシカルボン酸誘導体(F)、ジオール化合物(B)、及びその他成分を表2,3に示した割合で含むように調製した。
【0081】
平滑剤(C)の種類と含有量、ノニオン界面活性剤の種類と含有量、イオン界面活性剤(E)の種類と含有量、オキシカルボン酸誘導体(F)の種類と含有量、ジオール化合物(B)の種類と含有量、その他成分の種類と含有量を、表2,3の「平滑剤(C)」欄、「ノニオン界面活性剤」欄、「イオン界面活性剤(E)」欄、「オキシカルボン酸誘導体(F)」欄、「ジオール化合物(B)」欄、「その他成分」欄、にそれぞれ示す。
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
表2,3に記載する分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1)、多価アルコールのエステル化合物(C2)、その他の平滑剤としてのエステル化合物、ジオール化合物(B)、非含窒素ノニオン界面活性剤(D)、イオン界面活性剤(E)、オキシカルボン酸誘導体(F)、その他成分の詳細は以下のとおりである。
【0085】
(分子中に硫黄原子を有するエステル化合物(C1))
E-1:ジイソパルミチルチオジプロピオナート
E-2:ジイソステアリルチオジプロピオナート
E-3:ジオレイルチオジプロピオナート
E-4:ジイソテトラコシルチオジプロピオナート
(分子中に第4級炭素原子を有する多価アルコールのエステル化合物(C2))
E-5:トリメチロールプロパンとヤシ脂肪酸のトリエステル
E-6:トリメチロールプロパントリオレアート
E-7:ペンタエリスリトールテトラヘキサゴナート
E-8:ジ(2-エチルヘキサン酸)ネオペンチルグリコール
(上記以外の多価アルコールのエステル化合物(C2))
E-9:グリセリントリオレアート
E-10:パーム油
E-11:ナタネ油
(その他のエステル化合物)
E-12:ジ(イソステアリル)アジパート
E-13:2-エチルヘキシルオレアート
E-14:オレイルオレアート
(ジオール化合物(B))
DO-1:エチレングリコール
DO-2:ポリエチレングリコール(平均分子量200)
DO-3:ポリエチレングリコール(平均分子量400)
DO-4:プロピレングリコール1モルに対し、EO6モル付加した化合物
(非含窒素ノニオン界面活性剤(D))
N-1:硬化ひまし油1モルに対しEO10モル付加した化合物
N-2:硬化ひまし油1モルにEO20モル付加したものをオレイン酸3モルでエステル化した化合物
N-3:硬化ひまし油1モルに対しEO25モル付加したものをアジピン酸で架橋し、ステアリン酸で末端エステル化した化合物(平均分子量5000)
N-4:ひまし油1モルに対しEO20モル付加した化合物
N-5:ひまし油1モルに対しEO20モル付加したものをオレイン酸2モルでエステル化した化合物
N-6:オレイルアルコール1モルに対しEO10モル付加した化合物
N-7:オレイン酸1モルに対しEO10モル付加した化合物
N-8:イソトリデシルアルコール1モルに対してEO10モルPO10モルをランダムに付加した化合物
N-9:ソルビタンモノオレアート
N-10:ソルビタントリオレアート
N-11:ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のジエステル
N-12:ポリエチレングリコール(平均分子量600)とオレイン酸のモノエステル
N-13:ノニルフェノール1モルに対しEO7モル付加した化合物
(イオン界面活性剤(E))
S-1:2級アルカンスルホン酸ナトリウム(C=14~17)
S-2:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
S-3:オレイン酸カリウム塩
S-4:オレイルアルコール-EO5モル付加物のリン酸エステル
S-5:イソセチルリン酸エステル
S-6:オレイルリン酸エステル
S-7:α-オレフィンスルホン酸ナトリウム塩
(オキシカルボン酸誘導体(F))
O-1:乳酸
O-2:乳酸ナトリウム塩
O-3:クエン酸
O-4:クエン酸トリエタノールアミン塩
(その他成分)
X-1:ポリエーテル変性シリコーン
X-2:1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸
試験区分2(タール蓄積性の評価)
各例の処理剤を、有機溶剤を用いて希釈して15%溶液を作製した。この希釈液を、オイリングローラー給油法にて不揮発分として付着量が10%となるように、1670デシテックス、288フィラメント、固有粘度0.93の無給油のポリエチレンテレフタラート繊維に付着させた。この繊維を、初期張力2kg、糸速0.5m/分で、表面温度240℃の梨地クロムピンに接触させて12時間走行させた。その後、ピンに蓄積した汚れの量を目視で観察し、以下の基準で評価した。なお、ピンに蓄積した汚れの量が少ないほど、タール蓄積が抑制されることを意味する。結果を表2,3の「タール」欄に示す。
【0086】
・タール蓄積性の評価基準
◎◎(非常に優れる):薄っすらと茶色のタールの付着が観察される場合
◎○(優れる):茶色のタールが僅かに付着が観察される場合
○○(良好):茶色のタールの付着が観察される場合
○(可):茶色のタールに黒色のタールがわずかに混ざって観察される場合
×(不可):黒色のタールが観察された場合
試験区分3(染色性)
ポリエチレンテレフタレートのチップを常法により乾燥した後、エクストルーダーを用いて溶融紡糸し、口金から吐出して冷却固化した後の走行糸条に、前記処理剤を、計量ポンプを用いたガイド給油法にて付着させた。処理剤の付着量が0.6質量%(希釈剤、水を含まない量)となるように給油した。その後、ガイドで集束させて、245℃の延伸ロール、弛緩ロールを介して全延伸倍率5.5倍となるように延伸し、1670デシテックス144フィラメントの延伸糸を得た。前記の紡糸工程において得られた繊維360本を経糸とし、緯糸として560デシテックス-96フィラメントのポリエステル糸を用いて緯糸密度21本/インチで51mm幅のシートベルト用生機を用い、精錬することなしに以下の染液(水1Lに対してDianix Red S-4G 3.4g、Dianix Yellow S-6G 3.3g、Dianix S-2G 3.3gを添加した溶液)に浸漬させた。そして、連続して220℃の発色槽で2分間の処理を行うことにより染色を行った。この時のシートベルト2000m当たりの染色欠点数から以下の基準により染色性を評価した。結果を表2,3の「染色」欄に示す。
【0087】
・染色性の評価基準
○○(良好):染色欠点数0~3
○(可):染色欠点数4~10
×(不可):染色欠点数11以上
表2,3の結果からも明らかなように、各実施例の処理剤は、タール蓄積性及び染色性の評価がいずれも可以上であった。本発明によれば、合成繊維の紡糸工程等において、ローラー等へのタール蓄積を低減し、染色性の良好な合成繊維を得ることができるという効果が生じる。