(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186365
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20221208BHJP
E02F 9/26 20060101ALI20221208BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20221208BHJP
G01S 19/53 20100101ALI20221208BHJP
G01S 19/45 20100101ALI20221208BHJP
【FI】
E02F9/20 N
E02F9/26 B
G01C15/00 102C
G01C15/00 104D
G01S19/53
G01S19/45
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094540
(22)【出願日】2021-06-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-11-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 新士
(72)【発明者】
【氏名】泉 枝穂
(72)【発明者】
【氏名】中城 健太
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
5J062
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB02
2D003AC06
2D003BA02
2D003BB09
2D003CA02
2D003CA10
2D003DA04
2D003DB04
2D003DB05
2D003FA02
2D015HA03
2D015HB04
2D015HB05
5J062AA09
5J062AA11
5J062CC07
5J062DD23
(57)【要約】
【課題】GNSS端末が受信する衛星信号に基づいて算出される作業機械の位置が、GNSSの通信環境の変化によってばらつくのを抑制し、その通信環境の改善後の位置誤差を従来よりも短時間に解消することが可能な電子制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置は、GNSS情報に基づいて測位品質の良否を判定する測位品質判定部211と、作業機械の速度に基づいて停止状態を含む走行状態を判定する走行状態判定部212と、GNSS情報に対して平滑化処理を施す平滑化処理部213と、を備える。平滑化処理部213は、測位品質が良でありかつ走行状態が停止状態である平滑化条件を満たさない場合に処理強度を弱に切り替え、平滑化条件を満たしてから更新周期に相当する時間が経過した場合に処理強度を強に切り替える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に搭載される電子制御装置であって、
前記作業機械に搭載されたGNSSアンテナが受信する衛星信号から算出される位置情報および測位状態を含むGNSS情報に基づいて、測位品質の良否を判定する測位品質判定部と、
速度検出装置を用いて検出される速度情報に基づいて前記作業機械の走行状態を判定する走行状態判定部と、
前記測位品質判定部による前記測位品質の判定結果が良、かつ、前記走行状態判定部による前記走行状態の判定結果が停止状態である平滑化条件を満たす場合には第1強度で前記GNSS情報に対して平滑化処理を行い、前記平滑化条件を満たさない場合には前記第1強度よりも処理強度が低い第2強度で前記GNSS情報に対して平滑化処理を行う平滑化処理部と、を備え、
前記平滑化処理部は、前記平滑化条件を満たさない状態から前記平滑化条件を満たす状態に移行した場合には、前記平滑化条件を満たした時点から所定の時間経過後に処理強度を前記第2強度から前記第1強度に切り替えることを特徴とする作業機械の電子制御装置。
【請求項2】
前記平滑化処理が施された前記位置情報に基づいて前記作業機械の位置を算出する位置姿勢演算部をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項3】
前記GNSS情報は、前記GNSSアンテナの前記位置情報に基づいて算出される方位情報を含み、
前記位置姿勢演算部は、前記平滑化処理が施された前記方位情報に基づいて前記作業機械の方位を算出することを特徴とする請求項2に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項4】
前記GNSS情報は、前記位置情報の単位時間当たりの変化量に基づくGNSS速度情報を含み、
前記速度検出装置は、前記衛星信号から前記位置情報および前記GNSS速度情報を算出する測位演算部を含むことを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項5】
前記速度検出装置は、前記作業機械に搭載された慣性計測装置を含むことを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項6】
前記電子制御装置は、前記作業機械に搭載された慣性計測装置が検出する加速度および角速度に基づいて前記位置情報を補完または補正した補正GNSS情報を出力する統合演算部をさらに備え、
前記平滑化処理部は、前記統合演算部から出力された前記補正GNSS情報に前記平滑化処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項7】
前記GNSS情報は、前記GNSSアンテナの前記位置情報に基づいて算出される方位情報を含み、
前記統合演算部は、前記慣性計測装置が検出する加速度および角速度に基づいて前記方位情報を補完または補正した補正GNSS情報を出力することを特徴とする請求項6に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項8】
前記衛星信号から前記GNSS情報を算出して出力する測位演算部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項9】
前記作業機械のオペレータに対するガイダンスを行うガイダンス装置を制御するガイダンス制御部をさらに備え、
前記ガイダンス制御部は、前記平滑化条件を満たしてから所定時間が経過するまでは作業に適さない状態であることを前記ガイダンス装置に通知させ、前記所定時間の経過後に作業に適した状態であることを前記ガイダンス装置に通知させることを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械に搭載される電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から油圧ショベル等の作業機械の3次元空間における絶対位置と姿勢、および、当該作業機械に設定されたモニタポイントの3次元空間での絶対位置を演算する作業機械の位置計測システムに関する発明が知られている(下記特許文献1)。この従来の作業機械の位置計測システムは、複数の3次元位置計測装置と、位置姿勢演算手段と、モニタ表示装置とを有する(同文献、請求項1等)。
【0003】
上記複数の3次元位置計測装置は、作業機械の車体に設置され、それぞれ3次元空間での絶対位置を計測する。上記位置姿勢演算手段は、上記複数の3次元位置計測装置の計測値を用いて、上記3次元空間での作業機械の位置と姿勢および当該作業機械に設定されたモニタポイントの絶対位置を演算する。上記モニタ表示装置は、上記位置姿勢演算手段の演算結果に基づいて上記作業機械の画像や目標地形等の地形情報を表示する。
【0004】
この従来の作業機械の位置計測システムは、さらに、上記作業機械の動作状態を判定する判定手段と、この判定手段の検出結果に応じて上記位置姿勢演算手段で演算される作業機械の位置と姿勢の演算値を平滑処理する平滑処理手段とを備える。この平滑処理手段は、たとえば、時間軸上でローパスフィルタリング処理を行うフィルタ処理演算手段である(同文献、請求項6)。
【0005】
このような構成により、この従来の位置計測システムは、作業機械の3次元空間での位置と姿勢および当該作業機械に設定されたモニタポイントの絶対位置を演算し、この演算結果に基づいて作業機械の画像を表示する。その際に、作業機械の車体が静止した状態にあるときは表示のふらつきを低減し、作業機械の車体が静止した状態にないときは表示の追従性の低下を抑え、ひいては作業効率を向上させることができる(同文献、第0022段落)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の位置計測システムにおいて、たとえば、上記複数の3次元位置計測装置の通信環境が悪化すると、上記位置姿勢演算手段の演算結果に誤差が生じる。その後、上記通信環境が改善して上記演算結果の誤差が解消された場合、上記従来の位置計測システムでは、上記平滑処理手段の演算値である作業機械の位置と姿勢の誤差が解消するまでに要する時間の短縮に改善の余地がある。
【0008】
本開示は、全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)端末が受信する衛星信号に基づいて算出される作業機械の位置が、GNSSの通信環境の変化によってばらつくのを抑制し、その通信環境の改善後の位置誤差を従来よりも短時間に解消することが可能な電子制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様は、作業機械に搭載される電子制御装置であって、前記作業機械に搭載されたGNSSアンテナが受信する衛星信号から算出される位置情報および測位状態を含むGNSS情報に基づいて、測位品質の良否を判定する測位品質判定部と、速度検出装置を用いて検出される速度情報に基づいて前記作業機械の走行状態を判定する走行状態判定部と、測位品質判定部による前記測位品質の判定結果が良、かつ、前記走行状態判定部による前記走行状態の判定結果が停止状態である平滑化条件を満たす場合には第1強度で前記GNSS情報に対して平滑化処理を行い、前記平滑化条件を満たさない場合には前記第1強度よりも処理強度が低い第2強度で前記GNSS情報に対して平滑化処理を行う平滑化処理部と、を備え、前記平滑化処理部は、前記平滑化条件を満たさない状態から前記平滑化条件を満たす状態に移行した場合には、前記平滑化条件を満たした時点から所定の時間経過後に処理強度を前記第2強度から前記第1強度に切り替えることを特徴とする作業機械の電子制御装置である。
【発明の効果】
【0010】
本開示の上記一態様によれば、GNSS情報に基づいて算出される作業機械の位置が、GNSSの通信環境の変化によってばらつくのを抑制し、その通信環境の改善後の位置誤差を従来よりも短時間に解消することが可能な電子制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示に係る電子制御装置の一実施形態を示す作業機械の斜視図。
【
図3】
図2の電子制御装置の状態演算部の一例を示すブロック図。
【
図4】
図2の電子制御装置の状態演算部の一例を示すブロック図。
【
図5】
図3および
図4の状態演算部の平滑化処理部の一例を示すブロック図。
【
図6】
図3または
図4の電子制御装置の処理の流れの一例を示すフロー図。
【
図7】
図1の作業機械の各種の情報の時間的変化を示すグラフ。
【
図8】
図1の作業機械の各種の情報の時間的変化を示すグラフ。
【
図9A】表示装置の画面に表示される画像の一例を示す画像図。
【
図9B】表示装置の画面に表示される画像の一例を示す画像図。
【
図9C】表示装置の画面に表示される画像の一例を示す画像図。
【
図9D】表示装置の画面に表示される画像の一例を示す画像図。
【
図10】
図2の電子制御装置の状態演算部の一例を示すブロック図。
【
図11】
図2の電子制御装置の状態演算部の一例を示すブロック図。
【
図12】
図2の電子制御装置の状態演算部の一例を示すブロック図。
【
図13】従来システムを搭載した作業機械の各種の情報の時間的変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本開示に係る電子制御装置の実施形態を説明する。
【0013】
(実施形態1)
図1は、本開示に係る電子制御装置の一実施形態を示す作業機械の斜視図である。
図2は、
図1の作業機械100の概略的なブロック図である。本実施形態の電子制御装置200は、たとえば、油圧ショベルなどの作業機械100に搭載される。なお、作業機械100は、油圧ショベルに限定されず、たとえば、ホイールローダ、道路機械、ダンプトラック、または双腕仕様機であってもよい。
【0014】
図1および
図2に示す例において、油圧ショベルである作業機械100は、たとえば、フロント装置110と、上部旋回体120と、下部走行体130と、油圧システム140と、操作装置150と、センシング装置160と、を備えている。また、作業機械100は、たとえば、エンジン、燃料タンク、油圧装置、作動油タンクなどを備えている。
【0015】
フロント装置110は、たとえば、ブーム111、アーム112、およびバケット113などの複数の被駆動部材を備えている。フロント装置110は、これら複数の被駆動部材が、作業機械100の幅方向に平行な回転軸を介して相互に回動可能に連結された多関節型の作業装置である。フロント装置110は、「フロント作業機」と呼ばれることもある。
【0016】
上部旋回体120は、下部走行体130に対して旋回可能に設けられている。上部旋回体120は、たとえば、エンジン、燃料タンク、油圧装置、作動油タンクなどが収容され、作業機械100の車体121を構成している。上部旋回体120の前部には、ブーム111の基端部が、作業機械100の幅方向に平行な回転軸を介して連結されている。また、上部旋回体120の前部のブーム111の側方には、たとえば、運転室122が設けられている。
【0017】
下部走行体130は、たとえば、作業機械100の幅方向の両側に履帯を備え、履帯を回転させることによって作業機械100を走行させる。
【0018】
油圧システム140は、たとえば、ブームシリンダ141と、アームシリンダ142と、バケットシリンダ143と、旋回モータ144と、左右の走行モータ145と、油圧ポンプ146と、コントロールバルブ147と、を備えている。ブームシリンダ141、アームシリンダ142、およびバケットシリンダ143は、たとえば、油圧シリンダであり、旋回モータ144および走行モータ145は、たとえば、油圧モータである。
【0019】
ブームシリンダ141は、シリンダの基端部とピストンロッドの先端部が、それぞれ、上部旋回体120とブーム111の中間部に連結されている。ブームシリンダ141は、ピストンロッドを伸縮させることで、ブーム111の基端部を上部旋回体120の前部に連結する回転軸を中心に、ブーム111を上部旋回体120に対して上下に回動させる。
【0020】
アームシリンダ142は、シリンダの基端部とピストンロッドの先端部が、それぞれ、ブーム111の中間部とアーム112の基端部に連結されている。アームシリンダ142は、ピストンロッドを伸縮させることで、アーム112の基端部をブーム111の先端部に連結する回転軸を中心に、アーム112をブーム111に対して回動させる。
【0021】
バケットシリンダ143は、シリンダの基端部とロッドの先端部が、それぞれ、アーム112の基端部と、バケットリンク113aに連結されている。バケットシリンダ143は、ピストンロッドを伸縮させることで、バケット113の基端部をアーム112の先端部に連結する回転軸を中心に、バケットリンク113aを介して、バケット113をアーム112に対して回動させる。
【0022】
旋回モータ144は、たとえば、上部旋回体120に設けられ、作業機械100の高さ方向に平行な回転軸を中心に、上部旋回体120を下部走行体130に対して旋回させる。走行モータ145は、下部走行体130の幅方向の両側に設けられ、下部走行体130の幅方向の両側に設けられた履帯を回転させて作業機械100を走行させる。
【0023】
油圧ポンプ146は、たとえば、エンジンやモータなどの原動機によって駆動され、作動油タンクの作動油を、コントロールバルブ147へ圧送する。
【0024】
コントロールバルブ147は、油圧ポンプ146から供給された作動油の方向および流量を制御することで、ブームシリンダ141、アームシリンダ142、バケットシリンダ143、旋回モータ144、および左右の走行モータ145の動作を制御する。コントロールバルブ147は、たとえば、図示を省略するパイロットポンプから電磁比例弁を介して供給されるパイロット圧が駆動信号として入力され、作動油の方向および流量を制御する。
【0025】
操作装置150は、たとえば、操作レバー151,152と、図示を省略する操作ペダルなどを含む。操作レバー151,152は、たとえば、運転室122の内部の運転席の左右に設けられ、作業機械100のオペレータの操作に基づく操作量を検出する。操作レバー151,152は、検出した操作量に応じて、ブームシリンダ141、アームシリンダ142、およびバケットシリンダ143を駆動させるための操作信号を、配線を介して電子制御装置200へ出力する。すなわち、操作レバー151,152は、たとえば、前後方向または左右方向に、ブームシリンダ141、アームシリンダ142、およびバケットシリンダ143の操作がそれぞれ割り当てられている。
【0026】
操作レバー151,152は、たとえば、油圧パイロット方式を採用することも可能である。この場合、操作レバー151,152は、オペレータによる操作方向および操作量に応じたパイロット圧を、コントロールバルブ147へ駆動信号として供給する。これにより、オペレータによる操作方向および操作量に応じて、ブームシリンダ141、アームシリンダ142、およびバケットシリンダ143を駆動させることができる。
【0027】
センシング装置160は、たとえば、慣性計測装置(Inertial Measurement Unit:IMU)161~164と、全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)端末165~167と、を備えている。IMU161~164は、たとえば、ブームIMU161と、アームIMU162と、バケットIMU163と、車体IMU164とを含む。GNSS端末165~167は、たとえば、左右のGNSSアンテナ165,166と、GNSS受信機167とを含む。
【0028】
ブームIMU161、アームIMU162、およびバケットIMU163は、それぞれ、ブーム111、アーム112、およびバケット113の適切な位置に設置され、ブーム111、アーム112、およびバケット113の姿勢を検出する。なお、バケットIMU163は、バケットリンク113aに設置されていてもよい。
【0029】
車体IMU164は、たとえば、上部旋回体120を構成する作業機械100の車体121に設置され、車体121の角速度および加速度を検出し、車体121の前後方向の傾きであるピッチ角と、車体121の幅方向の傾きであるロール角とを算出する。より詳細には、車体IMU164は、たとえば、上部旋回体120が旋回していない場合に、車体121との相対的な位置関係と、IMU座標系における重力加速度の方向(鉛直下向き方向)とに基づいて、車体121のピッチ角とロール角を算出することができる。
【0030】
本実施形態では、前述のIMU161~164が角度演算機能を有することを想定している。なお、IMU161~164が角度演算機能を有しない場合、IMU161~164の検出結果に基づき、電子制御装置200により角度演算を行うことも可能である。
【0031】
GNSSアンテナ165,166は、たとえば、上部旋回体120を構成する車体121の後部の幅方向両側に離隔して設けられている。GNSSアンテナ165,166は、たとえば、配線を介してGNSS受信機167に接続されている。GNSSアンテナ165,166は、測位衛星から受信した信号を、配線を介してGNSS受信機167へ送信する。
【0032】
GNSS受信機167は、GNSSアンテナ165,166から配線を介して受信した信号を用いて各種の演算を行い、GNSS情報を生成する。GNSS情報は、たとえば、GNSSアンテナ165,166の位置座標、その位置座標に基づく車体121の方位角、およびGNSS端末165~167の測位状態を含む。
【0033】
GNSS受信機167は、たとえば、位置座標および方位角の演算にカルマンフィルタによる統計処理を利用しており、位置座標および方位角の分散も同時に計算している。また、GNSS受信機167は、たとえば、GNSSアンテナ165,166が設けられた車体121の速度を算出することも可能である。
【0034】
GNSS受信機167は、たとえば、作業機械100の作業現場に設置された基準局に無線通信回線を介して接続され、リアルタイム動的(Real Time Kinematic:RTK)測位を行う。なお、作業現場に基準局が設置されていない場合、GNSS受信機167は、インターネット回線を介して電子基準局から情報を取得するネットワーク型RTK測位を実施してもよい。本実施形態では、GNSS受信機167がRTK測位を実施可能であることを想定する。
【0035】
GNSS受信機167は、たとえば、配線を介して電子制御装置200に接続されている。GNSS端末165~167は、たとえば、GNSS受信機167によって生成したGNSS情報を、配線を介して所定の更新周期で電子制御装置200へ出力する。
【0036】
電子制御装置200は、たとえば、操作レバー151,152から入力される操作信号に基づいて電磁比例弁を制御することで、ブームシリンダ141、アームシリンダ142、バケットシリンダ143、旋回モータ144、および左右の走行モータ145の動作を制御する。なお、
図2において、操作装置150の図示は省略している。
【0037】
作業機械100は、前述のように、油圧システム140と、GNSS端末165~167と、IMU161~164と、電子制御装置200とを備えている。また、作業機械100は、
図2に示すように、たとえば、記憶装置170を備えている。記憶装置170は、たとえば、ROMやハードディスクなどの不揮発メモリによって構成され、3次元施工図面などを含む施工情報が、施工管理者などによってあらかじめ記憶されている。
【0038】
図2に示すように、作業機械100は、たとえば、ガイダンス装置180をさらに備えている。ガイダンス装置180は、たとえば、運転室122の内部に設置され、作業機械100のオペレータに対するガイダンスを行う装置である。より具体的には、ガイダンス装置180は、たとえば、表示装置、表示ランプ、スピーカ、ブザーの少なくとも一つを含む。本実施形態において、ガイダンス装置180は、少なくとも液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置を含んでいる。
【0039】
本実施形態の電子制御装置200は、たとえば、マイクロコントローラやファームウェアによって構成され、図示を省略する中央処理装置(CPU)と、ROMなどのメモリと、そのメモリに記憶されたプログラムと、タイマーと、入出力部と、を備えている。電子制御装置200は、
図2に示すように、状態演算部210と、施工目標演算部220と、を備えている。また、電子制御装置200は、たとえば、駆動制御部230と、ガイダンス制御部240とを備えている。なお、駆動制御部230と、ガイダンス制御部240とは、電子制御装置200とは別の電子制御装置によって構成してもよい。
【0040】
これら電子制御装置200の各部は、たとえば、メモリに記憶されたプログラムをCPUによって実行することで実現される電子制御装置200の各機能を示している。なお、
図2に示す電子制御装置200の各機能は、それぞれ、個別の電子制御装置によって実現してもよく、一または複数の機能を、一または複数の電子制御装置によって実現してもよい。
【0041】
状態演算部210には、たとえば、GNSS端末165~167から出力されるGNSS情報が入力される。GNSS情報は、たとえば、二つのGNSSアンテナ165,166の位置情報、方位情報、速度情報、これらの分散、および測位状態などを含む。測位状態は、たとえば、測位衛星の数や、補正情報などに基づいて分類される。この場合、GNSS受信機167は、たとえば、GNSSアンテナ165,166によって受信された衛星信号に基づいて、GNSS情報を演算する測位演算部を有している。
【0042】
また、状態演算部210には、たとえば、GNSS端末165~167から出力されるGNSSの衛星信号が入力されてもよい。すなわち、GNSS端末165~167のGNSS受信機167は、たとえば、GNSSアンテナ165,166によって受信された衛星信号を出力する。この場合、GNSS受信機167は、前述の測位演算部を有しなくてもよい。
【0043】
また、状態演算部210には、たとえば、IMU161~163から出力されるフロント装置110の位置と姿勢が入力される。より詳細には、ブームIMU161、アームIMU162、およびバケットIMU163は、たとえば、ブーム111、アーム112、およびバケット113の各部の姿勢と位置を含むフロント装置110の姿勢と位置を出力する。
【0044】
また、状態演算部210には、たとえば、IMU161~164の車体IMU164から出力される作業機械100の上部旋回体120の位置と姿勢が入力される。また、状態演算部210には、たとえば、車体IMU164から出力される上部旋回体120の速度が入力されてもよい。
【0045】
図3および
図4は、それぞれ、
図2の電子制御装置200の状態演算部210の一例を示すブロック図である。
図3に示す例において、状態演算部210は、GNSS端末165~167から、衛星信号に基づいて算出されたGNSS情報が入力される。一方、
図4に示す例において、状態演算部210は、GNSS端末165~167から、衛星信号が入力される。
【0046】
図3に示す例において、状態演算部210は、測位品質判定部211と、走行状態判定部212と、平滑化処理部213と、位置姿勢演算部214とを備えている。一方、
図4に示す例において、状態演算部210は、
図3に示す各部に加えて、測位演算部215を備えている。なお、
図3に示す例では、
図4の測位演算部215に相当する構成を、GNSS端末165~167のGNSS受信機167が備えている。
【0047】
測位演算部215は、たとえば、GNSS端末165~167から入力された衛星信号に基づいて、二つのGNSSアンテナ165,166の位置情報、方位情報、速度情報、これらの分散、および測位状態などを含むGNSS情報を算出する。測位演算部215は、所定の更新周期でGNSS情報を出力する。GNSS情報に速度情報が含まれる場合、GNSS端末165~167は、作業機械100の速度を検出すための速度検出装置として用いることができる。
【0048】
また、GNSS情報に含まれる測位状態は、たとえば、RTK-Fixの状態と、RTK-Fix以外の状態とを含む。RTK-Fix以外の状態は、たとえば、RTK-Floatの状態、ディファレンシャル測位、および単独測位などを含む。
【0049】
測位品質判定部211には、測位演算部215またはGNSS受信機167の測位演算部から所定の更新周期で出力されるGNSS情報のうち、少なくとも測位状態が入力される。測位品質判定部211は、入力された測位状態に基づいて、測位品質の良否を判定する。測位品質判定部211は、たとえば、測位状態がRTK-Fixの状態である場合、測位品質を「良」と判定し、測位状態がRTK-Fix以外の状態である場合、測位品質を「否」と判定する。測位品質判定部211は、測位品質の良否の判定結果を、平滑化処理部213へ出力する。
【0050】
走行状態判定部212には、測位演算部215またはGNSS受信機167の測位演算部から出力されたGNSS情報のうち、少なくとも速度情報が入力される。すなわち、走行状態判定部212には、作業機械100に搭載された速度検出装置としてのGNSS端末165~167を用いて検出される速度情報が入力される。走行状態判定部212は、入力された速度情報に基づいて、作業機械100の停止状態を含む走行状態を判定する。
【0051】
より具体的には、走行状態判定部212には、たとえば、測位演算部215またはGNSS受信機167から、速度情報として、以下の式(1a)に示す3次元空間における速度vaug=(vx,vy,vz)が入力される。走行状態判定部212は、たとえば、入力された速度vaugが、以下の式(1b)のように、所定の速度閾値Vth以下である場合に、作業機械100の走行状態が、停止状態であることを判定する。
【0052】
【0053】
また、走行状態判定部212は、たとえば、入力された速度vaugが、上記式(1b)を満たさない場合、すなわち、速度vaugが所定の速度閾値Vthより高い場合に、作業機械100の走行状態が、走行中であることを判定する。なお、上記式(1a)に示す速度vaug自体がばらつきを持つ場合があるので、ローパスフィルタによる平滑化処理を施した速度vaugを用いて、上記式(1b)の判定を行ってもよい。
【0054】
速度閾値Vthは、たとえば、0[km/h]に設定することができる。また、速度閾値Vthは、たとえば、0[km/h]よりも高い速度に設定してもよい。この場合、速度閾値Vthは、たとえば、作業機械100が移動していない状態で、作業機械100の振動によって検出される微小な速度よりも高い速度に設定することができる。
【0055】
より具体的には、油圧ショベルなどの作業機械100には、エンジンが搭載されている。そのため、エンジンの振動によって作業機械100に搭載されたGNSSアンテナ165,166が振動し、これらGNSSアンテナ165,166の位置情報に基づく速度vaugが、0[km/h]にならない場合がある。
【0056】
このような場合に、速度閾値Vthを、作業機械100の振動によって検出される微小な速度よりも高く、作業機械100の最低移動速度よりも低い速度に設定することができる。これにより、走行状態判定部212による作業機械100の停止状態の誤判定を防止して、走行状態判定部212により作業機械100の停止状態をより正確かつ確実に判定することが可能になる。なお、上記速度vaugおよび作業機械100の最低移動速度は、実験結果に基づいて設計することが可能である。
【0057】
なお、測位演算部215またはGNSS受信機167の測位演算部による速度算出アルゴリズムは、ドップラシフトを利用した手法が用いられており、位置算出アルゴリズムとは独立している。そのため、測位品質が「良」でなくても、正確な速度を算出することが可能である。
【0058】
また、油圧ショベルなどの履帯を備えた作業機械100は、たとえば、斜面や泥濘など、滑りを生じやすい状況で作業する機会が多い。作業機械100に滑りが生じると、作業機械100が走行していなくても、作業機械100が移動することがある。このような場合でも、GNSS端末165~167を速度検出装置として利用することで、作業機械100のオペレータが意図していない作業機械100の移動も正確に検知することができる。
【0059】
平滑化処理部213には、測位品質判定部211から出力された測位品質の良否の判定結果と、走行状態判定部212によって判定された作業機械100の走行状態と、測位演算部215またはGNSS受信機167から出力されたGNSS情報が入力される。平滑化処理部213に入力されるGNSS情報は、少なくとも位置情報を含む。また、平滑化処理部213に入力されるGNSS情報は、たとえば、方位情報を含んでもよい。
【0060】
平滑化処理部213は、測位演算部215またはGNSS受信機167から入力されたGNSS情報に対して、平滑化処理を施す。平滑化処理部213は、測位品質判定部211から入力された測位品質、および、走行状態判定部212から入力された走行状態に応じた処理強度で、GNSS情報に平滑化処理を施す。
【0061】
図5は、
図3および
図4の平滑化処理部213の一例を示すブロック図である。平滑化処理部213は、たとえば、切替判定部213aと、時定数選択部213bと、可変時定数ローパスフィルタ213cと、を備えている。
【0062】
切替判定部213aには、測位品質判定部211から出力された測位品質の良否の判定結果と、走行状態判定部212から出力された作業機械100の走行状態とが入力される。切替判定部213aは、入力された測位品質が良であり、かつ、入力された作業機械100の走行状態が停止状態である平滑化条件を満たさない場合に、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数を、第1時定数に設定することを判定する。
【0063】
すなわち、切替判定部213aは、入力された測位品質が「否」であるか、または、入力された作業機械100の走行状態が走行中である場合に、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数を、後述する第2時定数よりも小さい第1時定数に設定することを判定する。第1時定数は、たとえば、ゼロであってもよい。この場合、可変時定数ローパスフィルタ213cの平滑化処理の処理強度がゼロになり、可変時定数ローパスフィルタ213cに入力されたGNSS情報は、そのまま出力されることになる。また、第1時定数は、ゼロより大きい値でもよい。
【0064】
また、切替判定部213aは、前述の平滑化条件を満たしてから、GNSS情報の更新周期に相当する時間が経過した場合に、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数を第2時定数に切り替えることを判定する。第2時定数の値は、前述の第1時定数の値よりも大きい。第2時定数の値は、たとえば、可変時定数ローパスフィルタ213cのカットオフ周波数を低くして、測位演算部215またはGNSS受信機167において算出されるGNSSアンテナ165,166の位置情報の微小変動を平滑化することが可能な値に設定される。
【0065】
時定数選択部213bは、切替判定部213aの判定結果に従って、可変時定数ローパスフィルタ213cの平滑化処理に使用される第1時定数または第2時定数を選択する。
【0066】
作業機械100の停止状態におけるGNSSアンテナ165,166の位置情報の微小変動は、たとえば、数cm程度であるが、実際にはGNSSアンテナ165,166は固定されている状況である。そのため、作業機械100の停止状態におけるGNSSアンテナ165,166の位置情報の微小変動は、たとえば、数mm程度に抑制することが望ましい。
【0067】
第2時定数の具体的な設計にあたっては、たとえば、後述する
図14のグラフ(d)に示すような位置情報の微小変動が生じる実験データを取得する。そして、この実験データに対し、後述する
図14のグラフ(e)に示すような、微小変動を十分に抑制可能な可変時定数ローパスフィルタ213cの第2時定数をシミュレーションによって求める。たとえば、一般的な油圧ショベルであれば、第2時定数を数十秒程度にすることで、望ましい結果を実現することができる。
【0068】
一方、第2時定数よりも小さい第1時定数は、測位演算部215またはGNSS受信機167が算出したGNSSアンテナ165,166の位置情報を、ほぼ遅れなく提供できるように設計することが望ましい。このため、前述のように、第1時定数をゼロに設定してもよい。ただし、位置情報の瞬間的なばらつきや外れ値(アウトライヤ)の影響を抑制するために、第1時定数を、たとえば0.1秒から1秒程度の範囲に設計することが望ましい。
【0069】
以上のように、平滑化処理部213は、位置情報を含むGNSS情報に対して、測位品質判定部211から入力される測位品質と、走行状態判定部212から入力される走行状態とに応じた処理強度で、平滑化処理を施す。平滑化処理部213は、
図3および
図4に示すように、平滑化処理が施された位置情報を含むGNSS情報を、位置姿勢演算部214へ出力する。
【0070】
位置姿勢演算部214には、平滑化処理部213によって平滑化処理が施された位置情報を含むGNSS情報と、IMU161~164から出力されたフロント装置110および上部旋回体120の姿勢が入力される。位置姿勢演算部214は、入力された平滑化処理が施されたGNSS情報と、フロント装置110および上部旋回体120の姿勢に基づいて、作業機械100の3次元空間における位置と姿勢を算出する。
【0071】
位置姿勢演算部214による上記の演算は、たとえば、作業機械100の機構に基づく座標変換を行うことによって、実行することができる。状態演算部210は、たとえば、位置姿勢演算部214によって算出された作業機械100の3次元空間における位置と姿勢を、
図2に示すように、施工目標演算部220、駆動制御部230、およびガイダンス制御部240へ出力する。
【0072】
施工目標演算部220には、状態演算部210から出力された作業機械100の3次元空間における位置と姿勢が入力される。また、施工目標演算部220は、記憶装置170から施工情報を取得する。施工目標演算部220は、作業機械100の3次元空間における位置および姿勢と、施工情報に基づいて、たとえば、施工対象の目標形状を定義する施工目標面などの施工目標を算出する。施工目標演算部220は、算出した施工目標を、たとえば、駆動制御部230とガイダンス制御部240へ出力する。
【0073】
駆動制御部230には、状態演算部210から出力された作業機械100の3次元空間における位置および姿勢と、施工目標演算部220から出力された施工目標とが入力される。駆動制御部230は、入力された作業機械100の3次元空間における位置および姿勢と、施工目標とに基づいて、油圧システム140を制御する。より具体的には、駆動制御部230は、入力された情報に基づいて、フロント装置110の動作を演算し、その動作を実現するように、油圧システム140を制御する。
【0074】
すなわち、駆動制御部230は、たとえば、バケット113の先端と施工目標面との距離が所定の距離以下にならないように、ブームシリンダ141、アームシリンダ142、およびバケットシリンダ143の動作を制限する。また、駆動制御部230は、たとえば、バケット113の先端が施工目標面に沿って移動するように、ブームシリンダ141、アームシリンダ142、およびバケットシリンダ143の動作を制御する。
【0075】
このように、駆動制御部230は、作業機械100のマシンコントロールシステムの一部を構成している。なお、後述するガイダンス制御部240およびガイダンス装置180によってオペレータに警告を発する場合には、駆動制御部230も油圧システム140のマシンコントロール機能を停止することが望ましい。
【0076】
ガイダンス制御部240には、状態演算部210から出力された作業機械100の3次元空間における位置および姿勢と、施工目標演算部220から出力された施工目標とが入力される。ガイダンス制御部240は、入力された作業機械100の3次元空間における位置および姿勢と、施工目標とに基づいて、ガイダンス装置180に含まれる表示装置、表示ランプ、スピーカ、ブザーの少なくとも一つを制御する。
【0077】
本実施形態において、ガイダンス制御部240は、オペレータに対する操作支援の指示内容を算出してガイダンス装置180に含まれる液晶表示装置や有機EL表示装置などの表示装置に表示させる。より具体的には、ガイダンス制御部240は、たとえば、ブーム111、アーム112、バケット113などの被駆動部材を有するフロント装置110の位置および姿勢、施工目標面、バケット113の先端位置と角度を、表示装置に表示させる。このように、ガイダンス制御部240は、オペレータの操作を支援するマシンガイダンスシステムの一部を構成している。
【0078】
また、ガイダンス制御部240は、たとえば、GNSS端末165~167による測位結果に異常が発生した場合や、IMU161~164による角度検出精度が低下した場合に、ガイダンス装置180に含まれる表示装置に警告を表示させる。これにより、ガイダンス制御部240は、ガイダンス装置180を介して、作業機械100のオペレータにマシンガイダンス機能の中断を通知することができる。
【0079】
また、ガイダンス制御部240は、ガイダンス装置180がスピーカやブザーを含む場合、スピーカやブザーによって音声や警告音を発生させ、オペレータに対して作業ガイダンスや注意喚起を行うことができる。また、ガイダンス装置180は、たとえば、タッチパネルやキーボードなどの入力装置を備えてもよく、タブレット端末などの携帯情報端末を含んでもよい。本実施形態のガイダンス制御部240は、たとえば、ガイダンス装置180に含まれるタブレット端末の表示画面に操作支援の指示内容や警告を表示させ、タブレット端末のタッチパネルからオペレータの入力を受け付ける。
【0080】
本実施形態において、マシンガイダンスシステムは、たとえば、施工目標演算部220と、ガイダンス制御部240とを含む。また、マシンコントロールシステムは、たとえば、施工目標演算部220と、駆動制御部230とを含む。
【0081】
以下、本実施形態の電子制御装置200の作用について、前記従来の位置計測装置との対比を行いつつ説明する。
【0082】
マシンガイダンスシステムにおいては、バケット113の先端(つめ先)の位置が施工目標面に沿って動作するようにオペレータに各種情報を提示する。そのため、作業機械100の位置だけでなく、フロント装置110の姿勢情報が重要になる。したがって、ブーム111、アーム112、およびバケット113には、それぞれ、ブームIMU161、アームIMU162、バケットIMU163が取り付けられている。
【0083】
施工現場における作業機械100の座標を利用してマシンガイダンスやマシンコントロールによる作業支援を行う3次元(3D)情報化施工対応の電子制御装置200は、GNSS端末165~167を用いて作業機械100の座標を取得する。そして、電子制御装置200は、たとえば、取得した座標を基点として、ブームフートピンや旋回中心接地面などの作業機械100の特定点を算出する。さらに、電子制御装置200は、たとえば、算出した特定点に対して、IMU161~164や角度センサの検出結果に基づいて算出したフロント装置110の姿勢を考慮することで、3次元空間におけるバケット113のつめ先位置などを演算する。
【0084】
一般に、作業機械100のオペレータがマシンガイダンスやマシンコントロールを利用するのは、施工中の地形(現況地形)が施工目標面に近づいた状態で行われる仕上げ作業であることが多い。この仕上げ作業では、施工目標面と現況地形とを高精度に一致させる必要がある。そのため、仕上げ作業では、作業機械100を旋回または走行させず、フロント装置110だけを動作させ、バケット113のつめ先の軌道を安定させることが一般的である。すなわち、仕上げ作業時には、通常、作業機械100の位置および方位は変化しない。
【0085】
作業機械100のフロント装置110は、金属製の部品によって構成されているため、GNSSの衛星信号が作業機械100によって反射または遮蔽されることがある。また、作業機械100による掘削作業では、フロント装置110が上下動を繰り返すため、衛星信号の反射または遮蔽が繰り返し発生し得る。このような状況では、GNSSアンテナ165,166が衛星信号を受信可能な衛星数は変化するが、複数の衛星信号をGNSSアンテナ165,166によって受信することで、測位状態がRTK-Fixに維持され、測位演算を継続することが可能である。しかし、衛星信号を受信可能な衛星数や衛星の配置が変化することで、測位演算の結果は変動し得る。そのため、実際にはGNSSアンテナ165,166の位置が変動していなくても、フロント装置110の動作に応じて、測位演算の結果であるGNSSアンテナ165,166の位置が、たとえば数cm程度、変動する場合がある。
【0086】
このような状況が前述の仕上げ作業において生じると、フロント装置110の動作に応じて、マシンガイダンスシステムによって提供される作業機械100の位置が変動することになる。すると、オペレータやマシンコントロールシステムは、作業機械100の位置に基づいてバケット113のつめ先位置を制御するため、バケット113によって形成される現況地形に作業機械100の位置の変動が反映され、現況地形が波打ったような状態になるおそれがある。
【0087】
前記従来の位置計測システムは、前述のように、作業機械の動作状態を判定する判定手段と、この判定手段の検出結果に応じて位置姿勢演算手段で演算される作業機械の位置と姿勢の演算値を平滑処理する平滑処理手段とを備える。この平滑処理手段は、たとえば、時間軸上でローパスフィルタリング処理を行うフィルタ処理演算手段である。
【0088】
このような構成により、前記従来の位置計測システムは、作業機械の3次元空間での位置と姿勢および当該作業機械に設定されたモニタポイントの絶対位置を演算する際に、作業機械の車体が静止した状態にあるときは表示のふらつきを低減することができる。そして、作業機械の車体が静止した状態にないときは表示の追従性の低下を抑えることができる。
【0089】
しかしながら、この従来の位置計測システムは、複数の3次元位置計測装置の通信環境が悪化すると、前述のように、位置姿勢演算手段の演算結果に誤差が生じる。その後、通信環境が改善して演算結果の誤差が解消された場合、上記平滑処理手段の演算値である作業機械の位置と姿勢の誤差が解消するまでに、比較的に長い時間を必要とする。以下、
図13および
図14を参照して、この従来の位置計測システムの課題を説明する。
【0090】
図13は、前記従来の位置計測システムを搭載した作業機械の(a)走行操作の有無、(b)位置計測システムの測位品質、(c)ローパスフィルタ処理の処理強度、(d)測位演算の演算結果、および、(e)ローパスフィルタ処理による提供位置の時間的変化を示すグラフである。
図14は、
図13に示す(d)測位演算の演算結果、および、(e)ローパスフィルタ処理による提供位置の時刻t1までの拡大図である。なお、
図13、
図14の(d)、(e)のグラフに示す位置は、簡単のため、1次元の位置として示している。
【0091】
図13の(a)に示すように、時刻t1までは作業機械の走行操作は「無」になっている。そのため、従来の位置計測システムにおいて、
図13の(c)に示すローパスフィルタ処理の処理強度は、時刻t1までは、カットオフ周波数が低いことを示す「強」になっている。これにより、
図14の(e)に示すローパスフィルタ処理後の提供位置では、
図14の(d)に示すGNSSアンテナ165,166の真の位置に対する測位演算結果の微小な変動を抑制することができる。
【0092】
時刻t1から時刻t2の間、
図13の(a)に示す作業機械の走行操作は、「有」になっている。この間、従来の位置計測システムにおいて、
図13の(c)に示すローパスフィルタ処理の処理強度は、カットオフ周波数が高いことを示す「弱」になっている。そのため、
図13の(e)に示すローパスフィルタ処理後の提供位置は、
図13の(d)に示す測位演算結果による位置に遅滞なく追従して変化する。
【0093】
時刻t2から時刻t3の間は、GNSS端末の測位状態がRTK-Fixから単独測位やディファレンシャル測位などのRTK-Fix以外の状態へ変化し、
図13の(b)に示すように、測位品質が良から否へ悪化している。すると、
図13の(d)に示すように、GNSS端末が受信した衛星信号に基づいて算出される位置の演算結果は、GNSSアンテナの真の位置からの乖離が増加していく。その結果、
図13の(e)に示す従来の位置計測システムによるローパスフィルタ処理後の提供位置も同様に、GNSSアンテナの真の位置からの乖離が増加していく。
【0094】
時刻t3から時刻t4の間は、
図13の(b)に示すように、測位品質が「否」の状態が継続している。また、
図13の(a)に示すように、作業機械の走行操作が「有」から「無」へ変化している。その結果、
図13の(c)に示すローパスフィルタ処理の処理強度は、カットオフ周波数が低いことを示す「強」に変化している。しかし、この間、
図13の(b)に示す測位品質が「否」の状態が継続しているため、
図13の(d)に示す位置の演算結果も、
図13の(e)に示す提供位置も、GNSSアンテナの真の位置から乖離している。
【0095】
時刻t4以降は、GNSS端末の測位状態がRTK-Fixに戻り、
図13の(b)に示すように、測位品質が「良」に変化している。これにより、
図13の(d)に示す測位演算結果による位置は、GNSSアンテナの真の位置に即時に復帰する。しかし、この間、従来の位置計測システムにおいて、
図13の(c)に示すローパスフィルタ処理の処理強度は「強」になっている。そのため、
図13の(e)に示すローパスフィルタ処理後の提供位置は、
図13の(d)に示す測位演算結果による位置に対し、遅延してGNSSアンテナの真の位置に復帰する。
【0096】
このように、前記従来の位置計測システムは、
図13の(e)に示すように、ローパスフィルタ処理後の提供位置がGNSSアンテナの真の位置に復帰する時刻t4から時刻t5までの間、真の位置に対する誤差の大きい位置情報を提供し続けることになる。そのため、前記従来の位置計測システムは、時刻t4から時刻t5までの間、マシンガイダンスシステムとして十分な機能を提供できないという課題がある。
【0097】
これに対し、本実施形態の電子制御装置200は、前述のような状況において、平滑化処理部213から出力される位置が遅延することを、前記従来の位置計測システムよりも減少させることができる。以下、
図6から
図8を参照して、本実施形態の電子制御装置200の作用を説明する。
【0098】
図6は、本実施形態の電子制御装置200による処理の流れの一例を示すフロー図である。電子制御装置200は、
図6に示す処理を開始すると、まず、初期設定処理P1を実行する。この初期設定処理P1において、電子制御装置200は、平滑化処理部213の可変時定数ローパスフィルタ213cの初期時定数を設定する。
【0099】
この初期設定処理P1は、後述する処理強度を切り替える処理P6,P10が実行される前に利用される処理強度を設定するための処理であり、後述する処理強度を切り替える処理P6,P10の実行後は、省略することができる。この初期設定処理P1において、電子制御装置200は、たとえば、初期時定数を、平滑化処理の処理強度が弱となる第1時定数に設定する。その後、電子制御装置200は、データを取得する処理P2を実行する。
【0100】
この処理P2において、電子制御装置200は、たとえば、GNSS端末165~167およびIMU161~164から出力された位置、姿勢、速度などの検出結果を、状態演算部210によって取得する。次に、電子制御装置200は、取得した速度情報と前記した式(1a)とを用い、たとえば、走行状態判定部212により、作業機械100の3次元空間における合成速度vaugを算出する処理P3を実行する。次に、電子制御装置200は、たとえば、走行状態判定部212により、作業機械100の停止状態を判定する処理P4を実行する。
【0101】
図7は、本実施形態の作業機械100の(a)走行操作の有無、(b)GNSS端末165~167の測位品質、作業機械100の(c)速度および(d)停止判定、(e)切替判定部213aの切替判定、ならびに(f)平滑化処理の処理強度の時間的変化の一例を示すグラフである。
図8は、本実施形態の作業機械100の(a)衛星信号に基づく位置の演算結果と、(b)平滑化処理部213による処理結果の時間的変化の一例を示すグラフである。
【0102】
図6に示す作業機械100の停止状態を判定する処理P4において、電子制御装置200は、たとえば、走行状態判定部212により、前の処理P3で算出した合成速度v
augが、前記した所定の速度閾値v
th以上であるか否かを判定する。
図7に示す例では、(a)に示すように、時刻t1において走行操作が実施され、(c)に示すように作業機械100の合成速度v
augが上昇するが、時刻t1aまでの間は速度v
augが速度閾値v
thよりも低くなっている。
【0103】
この場合、この処理P4において、電子制御装置200は、時刻t1aまでの間、たとえば、走行状態判定部212により、速度vaugが速度閾値vth未満である、すなわち速度vaugが速度閾値vth以上ではない(NO)、と判定する。なお、速度閾値vthは、たとえば、前述のように、作業機械100の振動によって検出される微小な速度よりも高い0.1[km/h]程度の値に設定されている。そのため、時刻t1と時刻t1aとの差は、実際には極僅かである。その後、電子制御装置200は、測位品質を判定する処理P5を実行する。
【0104】
この処理P5において、電子制御装置200は、たとえば、状態演算部210の測位品質判定部211により、RTK-Fixまたはそれ以外の状態を含む測位状態に基づいて、測位品質の良否を判定する。
図7に示す例では、(b)のグラフに示すように、時刻t1aまでの間は測位品質が「良」であるため、測位品質判定部211は、この処理P5において、測位品質は「良」である(YES)と判定する。その後、電子制御装置200は、処理強度を切り替える処理P6を実行する。
【0105】
この処理P6において、電子制御装置200は、たとえば、状態演算部210の平滑化処理部213により、平滑化処理の処理強度を切り替える。より具体的には、
図7に示す時刻t1aまでの間は、この処理P6において、切替判定部213aには、(b)に示す測位品質として「良」が入力され、(c)に示す停止状態が「真」の判定結果が走行状態として入力される。
【0106】
すると、切替判定部213aは、測位品質が良であり、かつ、作業機械100の走行状態が停止状態である、平滑化条件を満たしていることを判定する。また、切替判定部213aは、GNSS情報の更新周期に相当する時間が経過しているか否かを判定するが、ここでは、この条件を満たしているものとする。
【0107】
すると、切替判定部213aは、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数を、平滑化処理の処理強度を「強」にするための第2時定数に切り替える判定をする。その結果、時定数選択部213bは、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数として、第2時定数を選択する。これにより、時刻t1aまでの間は、
図7の(f)に示す可変時定数ローパスフィルタ213cの平滑化処理の処理強度が「強」になっている。
【0108】
次に、電子制御装置200は、たとえば、平滑化処理部213により、平滑化処理P7を実行する。この処理P7において、平滑化処理部213は、たとえば、可変時定数ローパスフィルタ213cより、GNSS受信機167または測位演算部215から入力されるGNSS情報に対し、時定数選択部213bが選択した第2時定数に対応する処理強度が「強」の平滑化処理を施す。
【0109】
これにより、本実施形態の電子制御装置200は、前述の従来の位置計測システムと同様に、
図14の(d)に示すような衛星信号に基づく位置の演算結果に対し、可変時定数ローパスフィルタ213cにより、処理強度が「強」の平滑化処理を施すことができる。したがって、本実施形態の電子制御装置200は、走行状態が停車状態である時には、
図14の(e)に示す前述の従来の位置計測システムによる提供位置と同様に、平滑化処理部213による平滑化処理の処理結果である位置の変動を抑制することができる。
【0110】
その後、電子制御装置200は、たとえば、状態演算部210により、作業機械100の位置および姿勢を演算する処理P8を実行する。この処理P8において、状態演算部210は、たとえば、位置姿勢演算部214により、平滑化処理が施されたGNSS情報と、フロント装置110および上部旋回体120の姿勢に基づいて、作業機械100の3次元空間における位置と姿勢を算出する。
【0111】
その後、電子制御装置200は、たとえば、ガイダンス制御部240により、ガイダンス装置180を制御して、作業機械100のオペレータにガイダンスを行う処理P9を実行する。この処理P9において、ガイダンス制御部240は、たとえば、ガイダンス装置180に含まれる表示装置を制御して、作業機械100の位置および姿勢を表示装置に表示する。
【0112】
図9Aから
図9Dは、ガイダンス装置180に含まれる表示装置181の画面に表示される画像の一例を示す画像図である。これらの各図では、一例として作業機械100の画像を二次元の側面図で表示しているが、作業機械100の表示方法は特に限定されない。各図において、作業機械100の画像G1は、フロント装置110の姿勢を含む作業機械100の姿勢を視覚的に表す画像G1である。
【0113】
また、
図9Aにおいて、作業機械100の前方に破線で示されている傾斜面の画像G2は、施工目標面を視覚的に表す画像G2である。左上の長方形の枠内に表示された数値の画像G3は、たとえば、作業機械100のバケット113のつめ先と、施工目標面との距離を示す画像G3である。施工目標面との距離は、たとえば、バケット113のつめ先が施工目標面よりも上方にある場合は正の数値となり、バケット113のつめ先が施工目標面上にある場合はゼロになり、バケット113のつめ先が施工目標面よりも下方にある掘削過剰の場合は負の値となる。
【0114】
その後、電子制御装置200は、
図6に示す処理P9を終了させ、
図6に示す処理フローを所定の周期で繰り返す。その後、時刻t1aを経過すると、
図7の(c)に示すように、作業機械100の速度が所定の速度閾値v
th以上になっている。すると、電子制御装置200は、前述の作業機械100の停止状態を判定する処理P4において、走行状態判定部212により、速度v
augが速度閾値v
th以上である(YES)、と判定する。その後、電子制御装置200は、平滑化処理の強度を変更する処理P10を実行する。
【0115】
この処理P10において、電子制御装置200は、たとえば、状態演算部210の平滑化処理部213により、平滑化処理の処理強度を切り替える。より具体的には、
図7に示す時刻t1aから時刻t2までの間は、この処理P10において、切替判定部213aには、(b)に示す測位品質として「良」が入力され、走行状態として(d)に示す停止状態が「偽」の判定が入力される。すると、切替判定部213aは、測位品質が良であり、かつ、作業機械100の走行状態が停止状態である、平滑化条件を満たしていないことを判定する。
【0116】
また、
図7に示す時刻t2から時刻t3aまでの間は、この処理P10において、切替判定部213aには、(b)に示す測位品質として「否」が入力され、(d)に示す停止状態が「偽」の判定結果が走行状態として入力される。すると、切替判定部213aは、測位品質が良であり、かつ、作業機械100の走行状態が停止状態である、平滑化条件を満たしていないことを判定する。
【0117】
このように、切替判定部213aは、(d)に示す停止状態が「偽」である場合、すなわち作業機械100の走行状態が走行中である場合には、測位品質の良否に関わらず、平滑化条件を満たしていないことを判定する。すると、切替判定部213aは、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数を、平滑化処理の処理強度を「弱」にするための第1時定数に切り替える判定をする。
【0118】
その結果、時定数選択部213bは、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数として、第1時定数を選択する。これにより、時刻t1aから時刻t3aまでの間は、
図7の(f)に示す可変時定数ローパスフィルタ213cの平滑化処理の処理強度が「弱」になっている。
【0119】
次に、電子制御装置200は、たとえば、前述の平滑化処理P7を実行する。この処理P7において、平滑化処理部213は、たとえば、可変時定数ローパスフィルタ213cより、GNSS受信機167または測位演算部215から入力されるGNSS情報に対し、時定数選択部213bが選択した第1時定数に対応する処理強度が「弱」の平滑化処理を施す。その後、電子制御装置200は、前述の処理P8および処理P9を実行して、
図6に示す処理フローを終了する。
【0120】
これにより、本実施形態の電子制御装置200は、作業機械100の走行中は、衛星信号に基づく位置の演算結果に対する平滑化処理部213の平滑化処理を、停止または抑制することができる。したがって、本実施形態の電子制御装置200によれば、作業機械100の走行中は、GNSSの衛星信号に基づく作業機械100の位置の演算結果を、平滑化処理部213を介して、駆動制御部230およびガイダンス制御部240へ、遅れなく出力することが可能になる。
【0121】
また、
図7に示す時刻t2以降では、(b)に示す測位品質が「否」となっている。そのため、
図8の(a)に示すように、時刻t2以降は、実線で示すGNSSの衛星信号に基づいて算出される位置の演算結果と、二点鎖線で示すGNSSアンテナ165,166の真の位置との乖離が増加している。ここでは、平滑化処理部213による平滑化処理の処理強度は、弱になっている。そのため、
図8の(b)に点線で示す平滑化処理の処理結果である位置は、ほぼ遅れなく、
図8の(a)に示す位置の演算結果に追従している。
【0122】
また、時刻t3において、
図7の(a)に示す走行操作が停止されると、
図8の(a)および(b)に実線および点線で示す位置の演算結果および平滑化処理の処理結果と、二点鎖線で示すGNSSアンテナ165,166の真の位置との乖離の増加が抑制される。また、時刻t3において、
図7の(a)に示す走行操作が停止されると、
図7の(c)に示す作業機械100の合成速度v
augが低下していく。そして、時刻t3a以降では、(c)に示す作業機械100の合成速度v
augが、速度閾値v
thよりも低くなっている。
【0123】
この場合、前述の処理P4において、電子制御装置200は、たとえば、走行状態判定部212により、速度v
augが速度閾値v
th未満である、すなわち速度v
augが速度閾値v
th以上ではない(NO)と判定する。その結果、
図7の(d)に示すように、時刻t3a以降では、走行状態判定部212による停止状態の判定結果が「真」になっている。その後、電子制御装置200は、前述の測位品質を判定する処理P5を実行する。
【0124】
時刻t3aから時刻t4までの間は、前述のように、
図7の(b)に示す測位品質が「否」である。そのため、測位品質判定部211は、この処理P5において、測位品質が「良」ではない(NO)と判定する。すると、電子制御装置200は、前述の処理P3と同様に、再度、作業機械100の3次元空間における合成速度v
augを算出する処理P11を実行する。この処理P11は、たとえば、前述の処理P3の後に作業機械100の走行状態が変化している可能性がある場合に、作業機械100の最新の走行状態を確認するために実行される。
【0125】
その後、電子制御装置200は、前述の処理P4と同様に、再度、走行状態判定部212により、作業機械100の停止状態を判定する処理P12を実行する。この処理P12において、作業機械100が走行しており、作業機械100の速度vaugが所定の速度閾値vth以上である場合、走行状態判定部212は、速度vaugが所定の速度閾値vth以上である(YES)と判定する。この場合、電子制御装置200は、前述の処理P10を実行して平滑化処理部213の処理強度を弱に切り替える。
【0126】
その後、電子制御装置200は、前述の平滑化処理P7、位置姿勢演算処理P8、およびガイダンス処理P9を実行する。この場合のガイダンス処理P9では、前述の処理P5において、測位品質が「否」と判定されているため、たとえば、
図9Bに示すように、表示装置181の表示画面にGNSSによる位置の検出精度が低下していることを示す画像G4を表示する。
【0127】
しかし、
図7に示す例では、時刻t3aから時刻t4までの間は、(c)に示す作業機械100の速度v
augが、速度閾値v
th未満の状態である。したがって、前述の処理P12において、走行状態判定部212は、速度v
augが所定の速度閾値v
th以上ではない(NO)と判定する。この場合、電子制御装置200は、さらに、前述の処理P5と同様の測位品質を判定する処理P13を実行する。
【0128】
時刻t3aから時刻t4までの間は、
図7の(b)に示す測位品質が「否」となっている。そのため、この処理P13において、測位品質判定部211は、測位品質が「良」ではない(NO)と判定する。この場合、電子制御装置200は、たとえば、平滑化処理部213の切替判定部213aにより、経過時間を計測する処理P16と、GNSS情報の更新周期に相当する時間が経過したか否かを判定する処理P17を実行する。電子制御装置200は、更新周期が経過すると、平滑化処理部213の可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数を、前述の初期設定処理P1で設定した時定数に維持して、前述の処理P7からP9までを実行し、
図6に示す処理を終了する。
【0129】
その後、時刻t4において、
図7の(b)に示す測位品質が「否」から「良」に変化すると、電子制御装置200は、前述の処理P13において、測位品質判定部211により、測位品質が「良」である(YES)と判定する。すると、電子制御装置200は、たとえば、平滑化処理部213の切替判定部213aにより、測位品質が「否」から「良」に変化してからの経過時間を計測する処理P14を開始する。
【0130】
次に、電子制御装置200は、たとえば、平滑化処理部213の切替判定部213aにより、GNSS情報の更新周期に相当する時間が経過したか否かを判定する処理P15を実行する。この処理P15において、切替判定部213aは、更新周期が経過していない(NO)と判定すると、前の処理P14に戻り、経過時間の計測を継続する。
【0131】
この時刻t4から時刻t4aまでの間、電子制御装置200は、たとえば、ガイダンス制御部240によってガイダンス装置180の表示装置181を制御して、作業機械100のオペレータにガイダンスを行ってもよい。より具体的には、電子制御装置200は、たとえば、
図9Cに示すように、表示装置181の表示画面にGNSSの位置情報が復帰中であることを示す画像G5を表示させてもよい。
【0132】
これにより、電子制御装置200は、作業機械100のオペレータに対し、GNSSは正確な位置情報を提供可能であるが、マシンガイダンスシステムは正確な位置情報を提供できていないことを通知することができる。なお、表示装置181の表示画面における画像G5の表示位置は、
図9Bに示す画像G4の表示位置と同一であってもよい。
【0133】
また、GNSSの測位品質が良になった時刻t4から、GNSSの更新周期に相当する時間が経過する時刻t4aまでの間は、平滑化処理部213における平滑化処理の処理強度が弱に維持されている。そのため、
図8の(b)に示すように、平滑化処理部213による平滑化処理後の位置は、ほぼ遅れなく迅速に、
図8の(a)に示すGNSSの衛星信号に基づく位置の演算結果に追従する。
【0134】
その後、時刻t4aにおいて前述の更新周期が経過すると、前述の処理P15において、切替判定部213aは、更新周期が経過した(YES)と判定する。すると、電子制御装置200は、前述の処理強度を切り替える処理P6を実行する。この処理P6において、切替判定部213aは、
図7の(e)に示すように、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数を、平滑化処理の処理強度を「強」にするための第2時定数に切り替える判定をする。
【0135】
その結果、時定数選択部213bは、時刻t4aにおいて、可変時定数ローパスフィルタ213cの時定数として、第2時定数を選択する。これにより、時刻t4a以降は、
図7の(f)に示す可変時定数ローパスフィルタ213cの平滑化処理の処理強度が「強」になっている。このように、本実施形態の電子制御装置200は、測位品質が良であり、かつ、走行状態が停止状態である平滑化条件を満たしてから、GNSS情報の更新周期に相当する時間が経過した場合に、平滑化処理の処理強度を強に切り替える。
【0136】
なお、時刻t4から時刻t4aまでの時間Δtは、前述のように、GNSS情報の更新周期に等しいか、または、その更新周期よりも長くなるように設定される。この時間Δtは、短時間に設定するほど、マシンガイダンスシステムによって正確な位置情報が提供可能になるまで時間を短縮することができる。
【0137】
時刻t4aにおいて、電子制御装置200は、たとえば、ガイダンス制御部240によってガイダンス装置180の表示装置181を制御して、作業機械100のオペレータにガイダンスを行ってもよい。より具体的には、電子制御装置200は、たとえば、
図9Dに示すように、表示装置181の表示画面にGNSSの正確な位置情報が提供可能であり、仕上げ掘削が可能であることを示す画像G6を表示させてもよい。
【0138】
以上のように、本実施形態の電子制御装置200は、作業機械100に搭載され、測位品質判定部211と、走行状態判定部212と、平滑化処理部213とを備えている。測位品質判定部211は、作業機械100に搭載されたGNSSアンテナ165,166が受信する衛星信号から算出され、所定の更新周期で出力される位置情報および測位状態を含むGNSS情報に基づいて、測位品質の良否を判定する。走行状態判定部212は、作業機械100に搭載された速度検出装置を用いて検出される速度情報に基づいて作業機械100の停止状態を含む走行状態を判定する。平滑化処理部213は、GNSS情報に対して測位品質および走行状態に応じた処理強度で平滑化処理を施す。平滑化処理部213は、測位品質の判定結果が良、かつ、走行状態判定部212による走行状態の判定結果が停止状態である平滑化条件を満たす場合には、第1強度(強)でGNSS情報に対して平滑化処理を行う。また、平滑化処理部213は、平滑化条件を満たさない場合には、第一強度よりも処理強度が低い第2強度(弱)でGNSS情報に対して平滑化処理を行う。平滑化処理部213は、平滑化条件を満たさない状態から平滑化条件を満たす状態に移行した場合には、平滑化条件を満たした時点から所定時間(更新周期に相当する時間)経過後に処理強度を第2強度(弱)から第1強度(強)に切り替える。
【0139】
このような構成により、本実施形態の電子制御装置200は、GNSS情報に基づいて算出される作業機械100の位置が、GNSSの通信環境の変化によってばらつくのを抑制し、その通信環境の改善後の位置誤差を従来よりも短時間に解消することができる。
【0140】
より具体的には、本実施形態の電子制御装置200において、測位品質が良でありかつ走行状態が停止状態である平滑化条件を満たす状態が継続している場合、平滑化処理部213の平滑化強度は「強」になっている。これにより、本実施形態の電子制御装置200は、前述の従来の位置計測システムと同様に、
図14の(d)に示す衛星信号に基づく位置の演算結果のばらつきを、
図14の(e)に示す従来の位置計測システムによる提供位置と同様に、平滑化処理部213による平滑化処理を施すことで、抑制することができる。
【0141】
また、本実施形態の電子制御装置200において、平滑化処理部213は、測位品質が良でありかつ走行状態が停止状態である平滑化条件を満たさない場合に、平滑化処理の処理強度を弱に切り替える。これにより、作業機械100の走行中は、平滑化処理部213による平滑化処理による遅れが最小限になり、作業機械100の位置および方位を含むGNSS情報を迅速に提供することが可能になる。
【0142】
また、本実施形態の電子制御装置200において、平滑化処理部213は、測位品質が良でありかつ走行状態が停止状態である平滑化条件を満たしてから、GNSS情報の更新周期に相当する時間が経過した場合に、処理強度を強に切り替える。これにより、
図8の(b)に示すように、平滑化処理部213の処理結果である位置は、ほぼ遅れなく迅速に、
図8の(a)に示すGNSSの衛星信号に基づく位置の演算結果に追従する。
【0143】
一方、前記従来の位置計測システムは、
図13の(b)に示す測位品質が「良」に変化した時点で、
図13の(c)に示すローパスフィルタ処理の処理強度は「強」になっている。そのため、
図13の(e)に示すローパスフィルタ処理後の提供位置は、
図13の(d)に示す測位演算結果による位置に対し、遅延してGNSSアンテナの真の位置に復帰する。
【0144】
すなわち、従来の位置計測システムでは、
図13の(d)に示すように、衛星信号に基づく位置の演算結果と、GNSSアンテナの真の位置との乖離が解消してから、
図13の(e)に示す提供位置と真の位置との乖離が解消するまでに、時刻t4から時刻t5までの比較的に長い時間を要する。
【0145】
これに対し、本実施形態の電子制御装置200では、
図8の(a)に示すように、衛星信号に基づく位置の演算結果と、GNSSアンテナ165,166の真の位置との乖離が時刻t4で解消してから、時刻t4aまでの極めて短時間で、
図8の(b)に示す処理結果と真の位置との乖離が解消する。なお、作業機械100の位置だけでなく、作業機械100の方位についても同様である。
【0146】
その結果、たとえば、時刻t4と時刻t4aとの間の時間Δtを、GNSS情報の更新周期の2倍とした場合に、上記従来の位置検出システムと比較して、正確な位置を提供することが可能になるまでの時間を、約20秒程度、短縮することができる。なお、平滑化処理部213が、平滑化条件を満たしてから処理強度を強に切り替えるまでの時間Δtは、従来の位置計測システムの提供位置と真の位置との乖離が解消するまでの時間である時刻t4から時刻t5までの時間よりも短い時間に設定する必要がある。
【0147】
また、本実施形態の電子制御装置200は、平滑化処理が施された位置情報に基づいて作業機械100の位置を算出する位置姿勢演算部214をさらに備えている。これにより、位置姿勢演算部214により算出される作業機械100の位置が、GNSSの通信環境の変化によってばらつくのを抑制することができる。また、GNSSの通信環境の改善後に位置姿勢演算部214により算出される位置の誤差を、従来よりも短時間に解消することが可能になる。
【0148】
また、本実施形態の電子制御装置200において、GNSS情報は、GNSS端末165~167の複数のGNSSアンテナ165,166の位置情報に基づいて算出される方位情報を含む。そして、位置姿勢演算部214は、平滑化処理が施された方位情報に基づいて作業機械100の方位を算出する。これにより、位置姿勢演算部214により算出される作業機械100の方位が、GNSSの通信環境の変化によってばらつくのを抑制することができる。また、GNSSの通信環境の改善後に位置姿勢演算部214により算出される方位の誤差を、従来よりも短時間に解消することが可能になる。
【0149】
また、本実施形態の電子制御装置200において、GNSS情報は、位置情報の単位時間当たりの変化量に基づくGNSS速度情報を含む。また、速度検出装置は、衛星信号から位置情報および速度情報を算出する測位演算部215またはGNSS受信機167の測位演算部を含んでいる。これにより、GNSS情報に含まれるGNSS速度情報を、走行状態判定部212による走行状態の判定に用いることができる。
【0150】
また、本実施形態の電子制御装置200において、GNSS端末165~167は、衛星信号からGNSS情報を算出して所定の更新周期で出力する測位演算部を備えてもよい。この構成により、電子制御装置200は、衛星信号からGNSS情報を算出する測位演算部215を省略することが可能になる。
【0151】
また、本実施形態の電子制御装置200は、衛星信号からGNSS情報を算出して所定の更新周期で出力する測位演算部215をさらに備えてもよい。この構成により、GNSS端末165~167のGNSS受信機167が測位演算部を有しない場合でも、電子制御装置200の測位演算部215によって衛星信号からGNSS情報を算出することが可能になる。
【0152】
また、本実施形態の電子制御装置200は、作業機械100のオペレータに対するガイダンスを行うガイダンス装置180を制御するガイダンス制御部240をさらに備えている。また、ガイダンス制御部240は、平滑化条件を満たしてから更新周期に相当する時間が経過するまでは作業に適さない状態であることをガイダンス装置180に通知させ、上記時間の経過後に作業に適した状態であることをガイダンス装置180に通知させる。
【0153】
このような構成により、本実施形態の電子制御装置200は、たとえば、
図9Cおよび
図9Dに示すように、作業機械100のオペレータに対して、作業機械100が作業に適した状態か否かを、視覚または聴覚を通じて直感的に通知することが可能になる。
【0154】
以上説明したように、本実施形態によれば、GNSS情報に基づいて算出される作業機械100の位置が、GNSSの通信環境の変化によってばらつくのを抑制し、その通信環境の改善後の位置誤差を従来よりも短時間に解消することが可能な電子制御装置200を提供できる。
【0155】
(実施形態2)
以下、
図1および
図2を援用し、
図10を参照して、本開示に係る電子制御装置の実施形態2を説明する。本実施形態の電子制御装置200は、状態演算部210の構成が、前述の実施形態1の電子制御装置200と異なっている。本実施形態の電子制御装置200のその他の構成は、前述の実施形態1の電子制御装置200と同様であるので、同様の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0156】
図10は、
図2の電子制御装置200の状態演算部210の一例を示すブロック図である。前述の実施形態1の電子制御装置200において、
図3に示す状態演算部210の走行状態判定部212は、GNSS端末165~167から出力される速度情報が入力され、その速度情報に基づいて作業機械100の停止状態を判定している。
【0157】
これに対し、本実施形態の電子制御装置200では、
図10に示す状態演算部210の走行状態判定部212は、車体IMU164から出力された作業機械100の加速度情報が入力される。走行状態判定部212は、たとえば、入力された作業機械100の加速度を積分することで、作業機械100の速度を取得する。すなわち、本実施形態において、作業機械100に搭載された速度検出装置は、車体IMU164を含む。
【0158】
このように、本実施形態の電子制御装置200において、速度検出装置は、作業機械100に搭載された慣性計測装置である車体IMU164を含む。この構成により、車体IMU164によって作業機械100の速度を検出することが可能になる。一般に、GNSS端末165~167の更新周期は、たとえば、1秒から0.1秒程度である。これに対し、IMU161~164の更新周期は、たとえば0.01秒程度である。
【0159】
したがって、速度検出装置としてGNSS端末165~167を利用する場合よりも、速度検出装置として車体IMU164を利用する場合の方が、作業機械100の停止状態と走行中の状態をより迅速かつ短時間に検知することができる。これにより、たとえば、
図7に示す時刻t1と時刻t1aの差をより小さくすることができる。また、GNSS端末165~167による位置の検出精度が低下した場合でも、作業機械100の速度を正確に検出することができる。
【0160】
(実施形態3)
以下、
図1および
図2を援用し、
図11を参照して、本開示に係る電子制御装置の実施形態3を説明する。本実施形態の電子制御装置200は、状態演算部210の構成が、前述の実施形態1の電子制御装置200と異なっている。本実施形態の電子制御装置200のその他の構成は、前述の実施形態1の電子制御装置200と同様であるので、同様の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0161】
図11は、
図2の電子制御装置200の状態演算部210の一例を示すブロック図である。前述の実施形態1の電子制御装置200において、
図3または
図4に示す状態演算部210の平滑化処理部213は、GNSS端末165~167または測位演算部215から出力されたGNSSアンテナ165,166の位置情報および方位情報を含むGNSS情報に対して平滑化処理を行っている。これに対し、本実施形態の電子制御装置200において、
図11に示す状態演算部210は、統合演算部216をさらに備えている。
【0162】
統合演算部216は、作業機械100に搭載された慣性計測装置である車体IMU164が検出する加速度および角速度に基づいて、上記GNSS情報に含まれる位置情報を補完または補正した補正GNSS情報を出力する。また、統合演算部216は、慣性計測装置である車体IMU164が検出する加速度および角速度に基づいて、上記GNSS情報に含まれる方位情報を補完または補正した補正GNSS情報を出力する。
【0163】
このように、統合演算部216には、GNSS受信機167または測位演算部215で算出されたGNSSアンテナ165,166の位置情報および方位情報を含むGNSS情報が入力される。そして、統合演算部216は、そのGNSS情報と、車体IMU164から入力された加速度および角速度とを利用したセンサフュージョンを施すことで、GNSS情報を補完および補正した補正GNSS情報を出力する。
【0164】
このセンサフュージョンによって、より更新周期が短い車体IMU164の検出値を用いて作業機械100の位置および方位の演算を行い、より更新周期が長いGNSS情報に含まれる位置情報および方位情報を補完および補正することができる。より具体的には、以下の式(2a)から式(2d)で表されるカルマンフィルタを用いて、位置情報および方位情報を補完および補正することができる。
【0165】
【0166】
カルマンフィルタは状態量xkの推定値zk|kを各時刻の観測値ykに基づいて推定する手法である。ここで、状態量は位置や方位などに相当する。なお,Pzz
k|kは各時刻の推定値の分散・共分散行列であり,Kkはカルマンゲインである。また、ukは時刻kの制御入力である。さらに、上記式(2c)のQkはプロセス雑音であり、Rkは観測雑音の分散である。また、上記式(2c)の上付き文字Tは、行列の転置を表す記号である。
【0167】
以下の式(3a)および式(3b)を用いて位置情報の補完および補正にカルマンフィルタを適用する方法の一例を説明する。
【0168】
【0169】
上記の式(3a)は、位置pと速度vを状態量xとした運動方程式である。上記の式(3a)は、位置pが速度vの積分値であり、速度vが加速度aの積分値であることを表している。加速度aは車体IMU164で取得した値であり、制御入力uとして扱われる。なお、wkはプロセス雑音であり、車体IMU164で取得した加速度のばらつきを表現するために利用される。この値の分散が上記の式(2c)のQkに相当する。
【0170】
上記の式(3b)は観測方程式であり、GNSS受信機167または測位演算部215が算出した位置情報を観測値yとして扱う。つまり、位置pのみが観測可能であるとする。ここで、vp
kは観測雑音であり、この値の分散が上記の式(2d)のRkになる。上記の式(3a)および(3b)に基づいて、式(2a)から(2d)のカルマンフィルタを適用することで、GNSS受信機167または測位演算部215が算出した位置および方位を補間および補正することができる。
【0171】
以上のように、本実施形態の電子制御装置200は、統合演算部216をさらに備えている。統合演算部216は、作業機械100に搭載された慣性計測装置である車体IMU164が検出する加速度および角速度に基づいて、GNSS受信機167または測位演算部215から入力される位置情報を補完または補正した補正GNSS情報を出力する。平滑化処理部213は、統合演算部216から出力された補正GNSS情報に平滑化処理を施す。
【0172】
また、本実施形態において、GNSS受信機167または測位演算部215が出力するGNSS情報は、GNSS端末165~167の複数のGNSSアンテナ165,166の位置情報に基づいて算出される方位情報を含む。また、本実施形態の電子制御装置200において、統合演算部216は、慣性計測装置である車体IMU164が検出する加速度および角速度に基づいて方位情報を補完または補正した補正GNSS情報を出力する。
【0173】
このような構成より、本実施形態の電子制御装置200によれば、前述の実施形態1の電子制御装置200と同様の効果を奏することができるだけではなく、GNSS受信機167または測位演算部215が算出した位置および方位を補間および補正することができる。
【0174】
(実施形態4)
以下、
図1、
図2、
図7および
図9Dを援用し、
図12を参照して、本開示に係る電子制御装置の実施形態4を説明する。本実施形態の電子制御装置200は、状態演算部210の構成が、前述の実施形態1の電子制御装置200と異なっている。本実施形態の電子制御装置200のその他の構成は、前述の実施形態1の電子制御装置200と同様であるので、同様の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0175】
図12は、
図2の電子制御装置200の状態演算部210の一例を示すブロック図である。本実施形態の電子制御装置200において、状態演算部210は、
図4に示す実施形態1の状態演算部210の各構成に加えて、ガイダンス判断部217をさらに備えている。ガイダンス判断部217には、平滑化処理部213から平滑化処理の処理強度の切替情報が入力される。
【0176】
より具体的には、平滑化処理部213は、たとえば、
図7の(e)に示す平滑化処理の時定数の切替判定もしくは
図7の(f)に示す平滑化処理の処理強度、またはこれらのフラグ情報を、ガイダンス判断部217へ出力する。ガイダンス判断部217は、平滑化処理部213から入力された情報が、平滑化処理の強度が「強」であることを示す情報である場合、ガイダンス制御部240に対して、平滑化処理の強度が「強」であることを示す情報またはフラグを出力する。
【0177】
ガイダンス制御部240には、ガイダンス判断部217から平滑化処理の強度が「強」であることを示す情報またはフラグが入力される。すると、ガイダンス制御部240は、
図9Dに示すように、表示装置181の表示部にGNSSの測位精度が良好であること、または仕上げ作業に適した状態であることを表示し、オペレータに仕上げ作業の実行を推奨する。
【0178】
すなわち、平滑化処理の強度が「強」であることと、GNSSによる正確な位置情報を提供できることとは等価であるため、平滑化処理の強度を「強」に切り替えるのと同時に、作業機械100のオペレータに正確な位置情報を提供できることを通知する。これにより、オペレータの作業性を向上させることができる。
【0179】
以上、図面を用いて本開示に係る電子制御装置の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本開示に含まれるものである。
【符号の説明】
【0180】
100 作業機械
161 ブームIMU
162 アームIMU
163 バケットIMU
164 車体IMU164(慣性計測装置、速度検出装置)
165 GNSSアンテナ(GNSS端末)
166 GNSSアンテナ(GNSS端末)
167 GNSS受信機(GNSS端末、速度検出装置、測位演算部)
180 ガイダンス装置
200 電子制御装置
211 測位品質判定部
212 走行状態判定部
213 平滑化処理部
214 位置姿勢演算部
215 測位演算部(速度検出装置)
216 統合演算部
240 ガイダンス制御部
【手続補正書】
【提出日】2022-09-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に搭載される電子制御装置であって、
前記作業機械に搭載されたGNSSアンテナが受信する衛星信号から算出される位置情報および測位状態を含むGNSS情報に基づいて、測位品質の良否を判定する測位品質判定部と、
速度検出装置を用いて検出される速度情報に基づいて前記作業機械の走行状態を判定する走行状態判定部と、
前記測位品質判定部による前記測位品質の判定結果が良、かつ、前記走行状態判定部による前記走行状態の判定結果が停止状態である平滑化条件を満たす場合には第1強度で前記GNSS情報に対して平滑化処理を行い、前記平滑化条件を満たさない場合には前記第1強度よりも処理強度が低い第2強度で前記GNSS情報に対して平滑化処理を行う平滑化処理部と、を備え、
前記平滑化処理部は、前記平滑化条件を満たさない状態から前記平滑化条件を満たす状態に移行した場合には、前記平滑化条件を満たした時点から所定の時間経過後に処理強度を前記第2強度から前記第1強度に切り替えることを特徴とする作業機械の電子制御装置。
【請求項2】
前記平滑化処理が施された前記位置情報に基づいて前記作業機械の位置を算出する位置姿勢演算部をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項3】
前記GNSS情報は、前記GNSSアンテナの前記位置情報に基づいて算出される方位情報を含み、
前記位置姿勢演算部は、前記平滑化処理が施された前記方位情報に基づいて前記作業機械の方位を算出することを特徴とする請求項2に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項4】
前記GNSS情報は、前記位置情報の単位時間当たりの変化量に基づくGNSS速度情報を含み、
前記速度検出装置は、前記衛星信号から前記位置情報および前記GNSS速度情報を算出する測位演算部を含むことを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項5】
前記速度検出装置は、前記作業機械に搭載された慣性計測装置を含むことを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項6】
前記電子制御装置は、前記作業機械に搭載された慣性計測装置が検出する加速度および角速度に基づいて前記位置情報を補完または補正した補正GNSS情報を出力する統合演算部をさらに備え、
前記平滑化処理部は、前記統合演算部から出力された前記補正GNSS情報に前記平滑化処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項7】
前記GNSS情報は、前記GNSSアンテナの前記位置情報に基づいて算出される方位情報を含み、
前記統合演算部は、前記慣性計測装置が検出する加速度および角速度に基づいて前記方位情報を補完または補正した補正GNSS情報を出力することを特徴とする請求項6に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項8】
前記衛星信号から前記GNSS情報を算出して出力する測位演算部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。
【請求項9】
前記作業機械のオペレータに対するガイダンスを行うガイダンス装置を制御するガイダンス制御部をさらに備え、
前記ガイダンス制御部は、前記平滑化条件を満たしてから前記所定の時間が経過するまでは作業に適さない状態であることを前記ガイダンス装置に通知させ、前記所定の時間の経過後に作業に適した状態であることを前記ガイダンス装置に通知させることを特徴とする請求項1に記載の作業機械の電子制御装置。