(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186383
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/36 20060101AFI20221208BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20221208BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20221208BHJP
A61Q 5/10 20060101ALI20221208BHJP
A61Q 5/08 20060101ALI20221208BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
A61K8/36
A61K8/44
A61K8/19
A61Q5/10
A61Q5/08
A61Q5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094567
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000113274
【氏名又は名称】ホーユー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】青木 里奈
(72)【発明者】
【氏名】名和 哲兵
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB032
4C083AB052
4C083AB082
4C083AB311
4C083AB312
4C083AB412
4C083AC012
4C083AC072
4C083AC182
4C083AC231
4C083AC232
4C083AC311
4C083AC312
4C083AC581
4C083AC582
4C083AC621
4C083AC622
4C083AC692
4C083AC851
4C083AC852
4C083AD042
4C083AD631
4C083AD632
4C083CC32
4C083CC35
4C083CC36
4C083EE01
4C083EE06
4C083EE07
(57)【要約】
【課題】キューティクルの損傷が低減された、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)酸と、(B)炭酸塩及び炭酸水素塩から選ばれる少なくとも一つと、を含む、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)酸と、(B)炭酸塩及び炭酸水素塩から選ばれる少なくとも一つと、を含む、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が、ε-アミノカプロン酸、酢酸、ニコチン酸、葉酸、グルタミン酸、及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも一つを含む、請求項1に記載の毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物。
【請求項3】
前記毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の前記(A)成分の含有量が、0.001質量%以上2.0質量%未満である、請求項1又は請求項2に記載の毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物。
【請求項4】
前記毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の前記(B)成分の含有量が、0.01質量%以上3.5質量%未満である、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物。
【請求項5】
(C)酸化剤を更に含有し、前記毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の前記(C)成分の含有量に対する、前記毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の前記(B)成分の含有量の質量比が、0.001以上2未満である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤に使用されるアルカリ剤として、炭酸塩、炭酸水素塩等を使用する場合がある。例えば、特許文献1には、アルカリ剤として炭酸水素アンモニウムが配合された毛髪脱色剤等が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの詳細な検討の結果、炭酸塩を使用した毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物では、キューティクルの損傷が大きい場合があることが判明した。
本開示の一局面は、キューティクルの損傷が低減された、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物であって、(A)酸と、(B)炭酸塩及び炭酸水素塩から選ばれる少なくとも一つと、を含む。
本開示の一態様では、(A)成分が、ε-アミノカプロン酸、酢酸、ニコチン酸、葉酸、グルタミン酸、及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも一つを含んでもよい。
【0006】
本開示の一態様では、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(A)成分の含有量が、0.001質量%以上2.0質量%未満であってもよい。
【0007】
本開示の一態様では、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(B)成分の含有量が、0.01質量%以上3.5質量%未満であってもよい。
本開示の一態様では、(C)酸化剤を更に含有し、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(C)成分の含有量に対する、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(B)成分の含有量の質量比が、0.001以上2未満であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、キューティクルの損傷が低減された、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の一態様の毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物は、(A)酸と、(B)炭酸塩及び炭酸水素塩から選ばれる少なくとも一つと、を含む。
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物に含まれるアルカリ剤は、毛髪を膨潤させてキューティクルを浮かせることにより、酸化剤、染料等の各種成分を毛髪の内部のコルテックス層に浸透させやすくする作用を有する。アルカリ剤としては、アンモニアが代表的である。一方、アンモニアは独特の強い臭いがあることから、このような臭いを抑制する方法として、アンモニアの代わりに炭酸塩又は炭酸水素塩を使用したり、アンモニアと炭酸塩又は炭酸水素塩とを併用したりすることが検討されている。
【0010】
ここで、一般的に、毛髪を脱色・脱染又は染毛処理することにより、これらの処理に伴う酸化反応によって毛髪に損傷が生じることがある。毛髪に過度な損傷が生じた場合には、毛髪の引張強度等が低下し、ひいては断毛を引き起こす可能性がある。
毛髪の損傷度合いを表す指標の一つとして、毛髪内のシステイン酸量がある。システイン酸は、過剰な酸化反応によってシスチン、システインから不可逆的に生成する。よって、システイン酸量が多いほど毛髪の損傷が大きいと言える。
【0011】
本発明者らの検討の結果、アルカリ剤として炭酸塩又は炭酸水素塩を配合した場合と、アンモニアのみを使用した場合とでは、毛髪の損傷状態が異なることが明らかになった。具体的には、炭酸塩又は炭酸水素塩を配合した場合の方が、アンモニアのみを使用した場合よりも、毛髪の表層であるキューティクル層内のシステイン酸量が多くなることが判明した。
【0012】
本発明者らは、このような相違が生じる理由が、アンモニアと、炭酸塩又は炭酸水素塩との毛髪への浸透性の相違にあると推測している。具体的には、アンモニアが毛髪の内層であるコルテックス層まで深く浸透することにより毛髪内に比較的均一に存在するのに対し、炭酸塩又は炭酸水素塩は、コルテックス層へ浸透しにくくキューティクル層内にとどまりやすい。そのため、炭酸塩又は炭酸水素塩は、キューティクル層内のコルテックス層との境界付近にあるエンドキューティクルに局所的に存在しており、当該エンドキューティクルでは過剰な酸化反応が引き起こされていると考えられる。また、エンドキューティクルの特にメラニンの周辺には、比較的多くの金属イオンが存在する。この金属イオンは、炭酸塩又は炭酸水素塩による酸化反応を触媒してしまうため、過剰な酸化反応がより引き起こされやすいと考えられる。このようなエンドキューティクルでの過剰な酸化反応は、コルテックス層からのキューティクル層の剥離を招く可能性がある。
【0013】
本発明者らは、炭酸塩又は炭酸水素塩を配合した毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物において、キューティクルの損傷を低減する方法を種々検討した。その結果、酸を配合することにより、キューティクルの損傷が低減されることを見出した。そのメカニズムは不明であるが、本発明者らは、エンドキューティクルでのpHを酸が下げることにより、過剰な酸化反応が抑制されると考えている。
そして、本発明者らの検討によれば、分子量が比較的大きい酸、例えば分子量が100以上、特に130以上の酸の方が、キューティクルの損傷低減効果が高い傾向にあった。その理由は、分子量が比較的大きい酸が、キューティクル層内の複数の層を通り抜けつつ最終的にエンドキューティクルにとどまって局所的にpHを下げることにより、上述したようなエンドキューティクルでの過剰な酸化反応を抑制しているためと、本発明者らは考えている。
【0014】
また、本発明者らの検討によれば、分子内に水酸基及びアミノ基(NH2基、NRR’基等)のうち少なくとも1つを有する酸の方が、キューティクルの損傷低減効果が高い傾向にあった。その理由は、このような酸が、メラニンの周辺に存在する金属イオンを補足することにより、酸化反応を引き起こしにくくしているためと、本発明者らは考えている。
【0015】
キューティクルの損傷を低減するためには、例えば、アルカリ剤の含有量を調節することにより毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物自体のpHを下げることが考えられる。しかし、そうすると染毛力、脱色・脱染力が低下してしまう。一方、アルカリ剤の含有量は変えずに酸を配合することにより、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物のpH自体をあまり下げずに、上述したようなキューティクルの損傷低減効果を得ることができる。
以下、本開示の一態様の毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物について詳細に説明する。
【0016】
[毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物]
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物としては、例えば、アルカリ剤を含む第1剤と、酸化剤を含む第2剤とを含む多剤式の組成物が挙げられる。第1剤と第2剤とは、使用時に混合されて毛髪に適用される。混合操作は、毛髪へ適用する前に行われても毛髪への適用後に行われてもよい。例えば、毛髪へ適用する直前に混合してもよく、第1剤と第2剤とをコーム等で取り、毛髪上でコーム等を用いて混合してもよい。多剤式の組成物は、第1剤及び第2剤の2剤のみで構成されてもよいし、他の剤を含む3剤以上で構成されてもよい。また、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物は、1剤のみで構成されてもよい。以下では、主に2剤式の組成物を例に挙げ説明する。
【0017】
毛髪脱色剤は、毛髪の色素であるメラニンを酸化分解することにより毛髪を脱色するものである。毛髪脱染剤は、染料で染色された毛髪を脱色するものであり、染料及びメラニンが酸化分解される。
【0018】
染毛剤としては、酸化染料を含む酸化染毛剤が挙げられる。酸化染毛剤は、酸化染料を酸化重合させ発色させることにより、毛髪を染色するものである。酸化染料は、例えば、アルカリ剤を含む第1剤に含まれる。
【0019】
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物を構成する各剤の形態、及び、使用時における各剤が混合された状態での形態は、特に限定されない。形態としては、例えば、液体状、乳化状(油中水型乳化状、水中油型乳化状、多重乳化状)、粉末状、タブレット状、ジェル状、泡状等が挙げられる。使用時に泡状にする場合には、公知のフォーマー用具により泡状とすることができる。公知のフォーマー用具としては、例えば、ノンエアゾール型フォーマー、エアゾール型フォーマー、シェーカー等が挙げられる。エアゾール型フォーマーの場合、公知の噴射剤及び発泡剤を使用することができる。
【0020】
[(A)成分]
(A)成分は、上述のとおりキューティクルの損傷を低減する。(A)成分は、アルカリ剤を含む第1剤に含まれてもよく、酸化剤を含む第2剤に含まれてもよく、第1剤、及び第2剤の両方に含まれていてもよい。なお、3剤式以上の場合もどの剤に含まれていてもよく、1つの剤だけでなく複数の剤に含まれていてもよい。
【0021】
(A)成分としては、有機酸、無機酸等の任意の酸を使用することができる。有機酸としては、例えば、ε-アミノカプロン酸、酢酸、乳酸、ニコチン酸、葉酸、グルタミン酸、酒石酸、クエン酸、アスパラギン酸、コハク酸、エチレンジアミン四酢酸等が挙げられる。無機酸としては、リン酸等が挙げられる。これらの酸のうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0022】
(A)成分としては、キューティクルの損傷低減効果が高いことから、ε-アミノカプロン酸、酢酸、ニコチン酸、葉酸、グルタミン酸、及びアスパラギン酸から選ばれる少なくとも一つが好ましく、ε-アミノカプロン酸、酢酸、ニコチン酸、及び葉酸から選ばれる少なくとも一つがより好ましく、ε-アミノカプロン酸、酢酸、ニコチン酸、及び葉酸から選ばれる少なくとも一つが更に好ましく、葉酸が更に好ましい。
【0023】
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(A)成分の含有量は、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。(A)成分の含有量が0.001質量%以上であると、より高いキューティクルの損傷低減効果が得られる。また、(A)成分の含有量は、2.0質量%未満が好ましく、1.5質量%未満がより好ましく、1.1質量%未満が更に好ましい。(A)成分の含有量が2.0質量%未満であると、(A)成分によって酸化反応が低下することが抑えられるため、高い染毛力、脱色・脱染力を維持することができる。
【0024】
なお、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(A)成分の含有量とは、使用時における毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の含有量をいう。例えば、2剤式の組成物の場合、第1剤と第2剤とを混合した場合の混合物中の(A)成分の含有量をいう。以下の毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の含有量についても同様である。
【0025】
また、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物を構成する各剤中の(A)成分の含有量は、4.0質量%未満が好ましく、3.0質量%未満がより好ましく、2.5質量%未満が更に好ましい。各剤中の(A)成分の含有量が4.0質量%未満であると、製剤安定性が高い。製剤安定性とは、各剤を長期間保存した場合における各剤の状態の安定性をいい、例えば、沈殿が生じたり、乳化状態が不安定になったりしにくいことをいう。
【0026】
[(B)成分]
(B)成分は、アルカリ剤として機能する。(B)成分は、第1剤に含まれる。
(B)成分の炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸グアニジン等が挙げられる。炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素グアニジン等が挙げられる。これらのうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0027】
(B)成分としては、染毛力、脱色・脱染力が高いことから、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムから選ばれる少なくとも一つが好ましく、炭酸水素アンモニウムがより好ましい。
【0028】
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(B)成分の含有量は、0.01質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.6質量%以上が更に好ましい。本発明者らの検討によれば、組成物が(A)成分を含有しない場合では、(B)成分の含有量が0.01質量%以上であると特にキューティクルの損傷が発生しやすい傾向にある。しかし、(A)成分を配合することで、このような(B)成分の含有量でもキューティクルの損傷が低減される。また、(B)成分の含有量が0.01質量%以上であると、高い染毛力、脱色・脱染力が得られる。また、(B)成分の含有量は、3.5質量%未満が好ましく、2.5質量%未満がより好ましく、1.5質量%未満が更に好ましい。(B)成分の含有量が3.5質量%未満であると、キューティクルの損傷がより低減されるとともに、製剤安定性が高くなる。
【0029】
また、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物を構成する各剤中の(B)成分の含有量は、8.0質量%未満が好ましく、5.0質量%未満がより好ましく、3.0質量%未満が更に好ましい。各剤中の(B)成分の含有量が8.0質量%未満であると、製剤安定性が高い。
【0030】
[他のアルカリ剤]
第1剤には、(B)成分以外のアルカリ剤が含まれてもよい。(B)成分以外のアルカリ剤としては、例えば、アンモニア、アルカノールアミン、ケイ酸塩、メタケイ酸塩、硫酸塩、塩化物、リン酸塩、有機アミン、塩基性アミノ酸、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。ケイ酸塩としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等が挙げられる。メタケイ酸塩としては、例えば、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム等が挙げられる。硫酸塩としては、例えば、硫酸アンモニウム等が挙げられる。塩化物としては、例えば、塩化アンモニウム等が挙げられる。リン酸塩としては、例えば、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム等が挙げられる。有機アミンとしては、例えば、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオール、グアニジン、1-アミノ-2-プロパノール等が挙げられる。塩基性アミノ酸としては、例えば、アルギニン、リジン等が挙げられる。アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらのアルカリ剤のうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0031】
(B)成分以外のアルカリ剤としては、染毛力、脱色・脱染力に優れることから、アンモニアを含むことが好ましい。
[(C)成分]
第2剤に含まれる(C)成分は、酸化作用によりメラニンを分解する。また、(C)成分は、酸化染料を酸化重合させることにより発色させる。
【0032】
(C)成分としては、例えば、過酸化水素、過酸化尿素、過酸化メラミン、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化マグネシウム、過酸化バリウム、過酸化カルシウム、過酸化ストロンチウム、硫酸塩の過酸化水素付加物、リン酸塩の過酸化水素付加物、ピロリン酸塩の過酸化水素付加物、過酢酸及びその塩、過ギ酸及びその塩、過マンガン酸塩、臭素酸塩等が挙げられる。これらの酸化剤のうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。また、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム及び過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等を酸化助剤として含有してもよい。
【0033】
(C)成分としては、酸化作用に優れることから、過酸化水素を含むことが好ましい。
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(C)成分の含有量は、0.6質量%以上が好ましく、1.2質量%以上がより好ましく、2質量%以上が更に好ましい。(C)成分の含有量が0.6質量%以上であると、高い染毛力、脱色・脱染力が得られる。また、(C)成分の含有量は、13質量%未満が好ましく、10質量%未満がより好ましく、7質量%未満が更に好ましい。(C)成分の含有量が10質量%未満であると、キューティクルの損傷がより低減される。
【0034】
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(C)成分の含有量に対する、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物中の(B)成分の含有量の質量比(B)/(C)は、0.001以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、0.2以上が更に好ましい。(B)成分と(C)成分との共存下では、一般的に、HCO3
-、CO3
-等の炭酸イオンが生じるが、過剰な量の(C)成分が存在する場合には、酸化力の高いHCO4
-が更に生じる。(B)/(C)が0.001以上であると、(C)成分が(B)成分に対して過剰な量となりにくいため、キューティクルの損傷がより低減される。
【0035】
一方、質量比(B)/(C)は、2未満が好ましく、1未満がより好ましく、0.6未満が更に好ましい。(B)/(C)が2未満であると、(C)成分と(B)成分との配合バランスが良いため、高い染毛力、脱色・脱染力が得られるとともに、製剤安定性も高くなる。
【0036】
[酸化染料]
染毛剤組成物に含まれる酸化染料は、例えば、自身の酸化により発色する染料中間体と、染料中間体と反応することにより発色するカプラーとで構成される。酸化染料は、第1剤に含まれる。
【0037】
染料中間体としては、例えば、p-フェニレンジアミン、p-トルイレンジアミン、N-フェニル-p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、p-アミノフェノール、o-アミノフェノール、p-メチルアミノフェノール、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-フェニレンジアミン、2-ヒドロキシエチル-p-フェニレンジアミン、o-クロル-p-フェニレンジアミン、4-アミノ-m-クレゾール、2-アミノ-4-ヒドロキシエチルアミノアニソール、2,4-ジアミノフェノール、1-ヒドロキシエチル-4,5-ジアミノピラゾール、及びこれらの塩等が挙げられる。塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩等が挙げられる。これらの染料中間体のうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0038】
カプラーとしては、例えば、レゾルシン、5-アミノ-o-クレゾール、m-アミノフェノール、α-ナフトール、5-(2-ヒドロキシエチルアミノ)-2-メチルフェノール、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノフェノキシエタノール、トルエン-3,4-ジアミン、2,6-ジアミノピリジン、ジフェニルアミン、N,N-ジエチル-m-アミノフェノール、フェニルメチルピラゾロン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1-ヒドロキシエチル-4,5-ジアミノピラゾール、カテコール、ピロガロール、フロログルシン、没食子酸、ハイドロキノン、タンニン酸、及びこれらの塩類等が挙げられる。塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩等が挙げられる。これらのカプラーのうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0039】
[他の成分]
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物は、必要に応じて他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えば、溶剤、油性成分、多価アルコール、界面活性剤、水溶性ポリマー、糖、防腐剤、酸化防止剤、キレート化剤、安定剤、前記以外のアミノ酸、無機塩、直接染料、pH調整剤、育毛成分、植物抽出物、生薬抽出物、尿素、ビタミン類、香料、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0040】
溶剤としては、例えば、精製水等の水、有機溶媒等が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ベンジルアルコール、ベンジルオキシエタノール、フェネチルアルコール、γ-フェニルプロピルアルコール、ケイ皮アルコール、アニスアルコール、p-メチルベンジルアルコール、α-ジメチルフェネチルアルコール、α-フェニルエタノール、エチレングリコールフェニルエーテル、フェノキシイソプロパノール、2-ベンジルオキシエタノール、N-アルキルピロリドン、炭酸アルキレン等が挙げられる。これらの溶剤のうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。溶剤としては、水が含有されていることが好ましい。
【0041】
油性成分としては、例えば、油脂、ロウ、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、アルキルグリセリルエーテル、エステル、シリコーン等が挙げられる。
油脂としては、例えば、アルガニアスピノサ核油、オリーブ油、ツバキ油、シア脂、アーモンド油、サフラワー油、ヒマワリ油、大豆油、綿実油、ゴマ油、トウモロコシ油、ナタネ油、コメヌカ油、コメ胚芽油、ブドウ種子油、アボカド油、マカダミアナッツ油、ヒマシ油、ヤシ油、月見草油、杏仁油、パーシック油、桃仁油、パーム油、卵黄油等が挙げられる。
【0042】
ロウとしては、例えば、ミツロウ、キャンデリラロウ、カルナウバロウ、ホホバ油、ラノリン等が挙げられる。
炭化水素としては、例えば、パラフィン、オレフィンオリゴマー、ポリイソブテン、水添ポリイソブテン、スクワラン、ポリブテン、ポリエチレン、マイクロクリスタリンワックス、ワセリン、流動パラフィン、軽質イソパラフィン、軽質流動イソパラフィン、イソパラフィン、α-オレフィンオリゴマー、合成スクワラン等が挙げられる。
【0043】
高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、イソステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸、ラノリン脂肪酸等が挙げられる。
【0044】
高級アルコールとしては、例えば、セチルアルコール(セタノール)、2-ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、セトステアリルアルコール、オレイルアルコール、アラキルアルコール、ベヘニルアルコール、2-オクチルドデカノール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、デシルテトラデカノール、ラノリンアルコール等が挙げられる。
【0045】
アルキルグリセリルエーテルとしては、例えば、バチルアルコール、キミルアルコール、セラキルアルコール、イソステアリルグリセリルエーテル等が挙げられる。
エステルとしては、例えば、アジピン酸ジイソプロピル、ミリスチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、イソノナン酸イソノニル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸イソプロピル、ステアリン酸ステアリル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸イソトリデシル、パルミチン酸2-エチルへキシル、リシノール酸オクチルドデシル、10~30の炭素数を有する脂肪酸からなるコレステリル/ラノステリル、乳酸セチル、酢酸ラノリン、ジ-2-エチルヘキサン酸エチレングリコール、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール脂肪酸エステル、カプリン酸セチル、トリカプリル酸グリセリル、リンゴ酸ジイソステアリル、コハク酸ジオクチル、コハク酸ジエトキシエチル、2-エチルヘキサン酸セチル、イソステアリン酸硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0046】
シリコーンとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、末端水酸基変性ジメチルポリシロキサン、650~10000の平均重合度を有する高重合シリコーン、ポリエーテル変性シリコーン(例えば、(PEG/PPG/ブチレン/ジメチコン)コポリマー)、ベタイン変性シリコーン、アルキル変性シリコーン、アルコキシ変性シリコーン、メルカプト変性シリコーン、カルボキシ変性シリコーン、フッ素変性シリコーン等が挙げられる。
これらの油性成分のうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0047】
多価アルコールとしては、例えば、グリコール、グリセリン等が挙げられる。グリコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、1,3-ブチレングリコール等が挙げられる。グリセリンとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等が挙げられる。これらの多価アルコールのうち、1種が単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0048】
界面活性剤としては、カチオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられる。なお、以下の記載において、POEはポリオキシエチレン鎖、POPはポリオキシプロピレン鎖を表している。
【0049】
カチオン界面活性剤としては、例えば、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、セトリモニウムメトサルフェート、ベヘントリモニウムメトサルフェート、ベヘニルPGトリモニウムクロリド、ステアロキシプロピルトリモニウムクロリド、塩化アラキルトリメチルアンモニウム、塩化アルキルトリメチルアンモニウム、塩化ジステアリルジメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ステアリルトリメチルアンモニウム、エチル硫酸ラノリン脂肪酸アミノプロピルエチルジメチルアンモニウム、ステアリルトリメチルアンモニウムサッカリン、セチルトリメチルアンモニウムサッカリン、塩化メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウム、メチル硫酸ベヘニルトリメチルアンモニウム、ベヘニルジメチルアミン、ベヘニン酸ジエチルアミノエチルアミド、ベヘニン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ベヘニン酸ジメチルアミノエチルアミド、ステアリルジメチルアミン、パルミトキシプロピルジメチルアミン、ステアロキシプロピルジメチルアミン、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド等が挙げられる。
【0050】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、飽和又は不飽和脂肪酸塩、アルキル又はアルケニルエーテルカルボン酸塩、α-スルホン脂肪酸塩、N-アシルアミノ酸型界面活性剤、リン酸モノ又はジエステル型界面活性剤、スルホコハク酸エステル、N-アルキロイルメチルタウリン塩、及びこれらの誘導体等が挙げられる。これらの界面活性剤のアニオン基の対イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、トリエタノールアミン等が挙げられる。より具体的には、アルキルエーテル硫酸エステル塩としては、例えば、POEラウリルエーテル硫酸ナトリウムが挙げられる。アルキル硫酸塩として、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム等が挙げられる。アルキル硫酸塩の誘導体として、例えば、POEラウリル硫酸ナトリウム等が挙げられる。スルホコハク酸エステルとして、例えば、スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム等が挙げられる。N-アルキロイルメチルタウリン塩としては、例えば、N-ステアロイル-N-メチルタウリンナトリウム等が挙げられる。
【0051】
両性界面活性剤としては、例えば、ココベタイン、ラウラミドプロピルベタイン、コカミドプロピルベタイン、ラウロアンホ酢酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリルベタイン(ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン)、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0052】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、エーテル型ノニオン界面活性剤、エステル型ノニオン界面活性剤、アルキルグルコシド等が挙げられる。
エーテル型ノニオン界面活性剤としては、例えば、POEセチルエーテル、POEステアリルエーテル、POEベヘニルエーテル、POEオレイルエーテル、POEラウリルエーテル、POEオクチルドデシルエーテル、POEヘキシルデシルエーテル、POEイソステアリルエーテル、POEノニルフェニルエーテル、POEオクチルフェニルエーテル、POE/POPセチルエーテル、POE/POPデシルテトラデシルエーテル等が挙げられる。
【0053】
エステル型ノニオン界面活性剤としては、例えば、モノオレイン酸POEソルビタン、モノステアリン酸POEソルビタン、モノパルミチン酸POEソルビタン、モノラウリン酸POEソルビタン、トリオレイン酸POEソルビタン、モノステアリン酸POEグリセリン、モノミリスチン酸POEグリセリン、テトラオレイン酸POEソルビット、ヘキサステアリン酸POEソルビット、モノラウリン酸POEソルビット、POEソルビットミツロウ、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、親油型モノオレイン酸グリセリン、親油型モノステアリン酸グリセリン、自己乳化型モノステアリン酸グリセリン、モノオレイン酸ソルビタン、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ショ糖脂肪酸エステル、モノラウリン酸デカグリセリル、モノステアリン酸デカグリセリル、モノオレイン酸デカグリセリル、モノミリスチン酸デカグリセリル等が挙げられる。
【0054】
アルキルグルコシドとしては、例えば、アルキル(C8~C16)グルコシド、POEメチルグルコシド、POEジオレイン酸メチルグルコシド等が挙げられる。
これらの界面活性剤のうち、1種のみが単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0055】
水溶性ポリマーとしては、例えば、天然高分子、半合成高分子、合成高分子、無機物系高分子等が挙げられる。糖としては、例えば、ソルビトール、マルトース、グリコシルトレハロース、N-アセチルグルコサミン等が挙げられる。防腐剤としては、例えば、フェノキシエタノール、パラベン、メチルパラベン、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。酸化防止剤としては、アスコルビン酸、無水亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。キレート化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン五酢酸塩、ヒドロキシエタンジホスホン酸塩等が挙げられる。安定剤としては、例えば、フェナセチン、8-ヒドロキシキノリン、アセトアニリド、ピロリン酸ナトリウム等が挙げられる。アミノ酸としては、トレオニン、テアニン、タウリン等が挙げられる。無機塩としては、例えば、塩化ナトリウム等が挙げられる。これらの成分のうち1種のみが単独で含有されてもよいし、2種以上が含有されてもよい。
【0056】
[pH]
毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物のpHは、特に限定されないが、7.0以上が好ましく、9.0以上がより好ましい。また、pHは、12.0以下が好ましく、11.0以下がより好ましい。pHをアルカリ性とすることによりを高い染毛力、脱色・脱染力が得られる。なお、毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物のpHとは、使用時における毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物のpHをいう。例えば、2剤式の組成物の場合、第1剤と第2剤とを混合した場合の混合物のpHをいう。また、pHは毛髪脱色・脱染剤又は染毛剤組成物の原液を水で10倍に希釈した10質量%水溶液について25度で測定した値である。
【実施例0057】
[毛髪脱色剤組成物の調製]
表1及び表2に示す各成分を含む乳化状の第1剤及び第2剤をそれぞれ常法に従い調製した。なお、各表において、各成分の含有量を表す数値の単位は質量%である。また、表中の水酸化ナトリウム水溶液は、所望のpHとなるように適量配合した。
次いで、第1剤及び第2剤を質量比1:1で混合することにより、毛髪脱色剤組成物を調製した。
【0058】
[評価]
調製した毛髪脱色剤組成物について、以下の評価を行った。評価結果は表1及び表2の下方の欄に示した。
【0059】
(システイン酸量)
得られた毛髪脱色剤組成物を、長さ10cmの人毛黒髪の毛束(株式会社ビューラックス製)に、毛束1gに対して毛髪脱色剤組成物1gの割合で刷毛を用いて塗布し、常温で30分間放置した。次いで、毛髪脱色剤組成物を洗い流した後、ベタイン系の界面活性剤であるラウリルベタイン(「アモーゲン(登録商標)S-H」、第一工業製薬株式会社製)を10倍希釈した水溶液で毛束を2回洗浄した。次いで、毛束を温風で乾燥した。
【0060】
また、コントロールとして、毛髪脱色剤組成物で脱色処理せず、同様にラウリルベタインを10倍希釈した水溶液でのみ処理した毛束を作製した。
得られた毛束からサンプリングした毛を用いて、毛の表面のATR-FTIRスペクトルを測定した。スペクトルは、0.5μmの分解能を有する赤外分光分析装置で測定した。得られたスペクトルから、システイン酸に起因する吸光度をそれぞれ算出した。そして、脱色処理していない毛束の吸光度に対する、脱色処理した毛束の吸光度の比の値を算出し、以下の基準によりシステイン酸量を評価した。
【0061】
5:比が2.3以下。
4:比が2.3よりも大きく2.5以下。
3:比が2.5よりも大きく2.8以下。
2:比が2.8よりも大きく3.0以下。
1:比が3.0よりも大きい。
【0062】
ATR-FTIRでは、毛髪の表層に存在するシステイン酸の量、具体的には毛髪のキューティクル層に存在するシステイン酸の量を測定できる。すなわち、上記測定により得られる比が大きいほど毛髪のキューティクルの損傷が大きいことが分かる。
【0063】
(引張強度)
システイン酸量の測定と同様にして脱色処理した毛束を作製した。得られた毛束から、任意の毛髪試料20本をサンプリングし、毛髪試料に対してそれぞれ25℃の水中での引張試験を行った。引張試験は、サンプル長20mm、引張速度20mm/secの条件で行なった。引張試験には、株式会社今田製作所製の引張圧縮試験機を用いた。また、コントロールとして脱色処理しない毛束を作製し、任意の毛髪試料20本をサンプリングし、同様に引張試験を行った。別途、以下の式1に従って各毛髪試料の断面積を算出し、算出された断面積を用いて各毛髪試料の破断応力を算出した。
(毛髪の平均直径/2)2×3.14 ・・・・・・ 式1
【0064】
脱色処理していない毛髪の破断応力の平均値と、脱色処理した毛髪の破断応力の平均値をそれぞれ算出し、当該平均値を用いて、脱色処理していない毛髪の破断応力に対する、脱色処理した毛髪の破断応力の低下率を算出した。そして、破断応力の低下率が5%以下の場合を「A(=合格)」、破断応力の低下率が5%よりも大きい場合を「B(=不合格)」とする評価を下した。
引張強度は、キューティクル層とコルテックス層とを含む毛髪全体の強度を表す。よって、引張強度の低下率が大きいほど毛髪全体の損傷が大きいことが分かる。
【0065】
(ブリーチ力)
システイン酸量の測定と同様にして毛束を脱色処理した。脱色処理した毛束を用いて、分光測色計を用いてL*値を測定した。そして、以下の基準により脱色剤組成物のブリーチ力(脱色力)を評価した。
【0066】
5:L*値が23以上であり、ブリーチ力が極めて高い。
4:L*値が21以上23未満であり、ブリーチ力がやや高い。
3:L*値が19以上21未満であり、ブリーチ力が高い。
2:L*値が15以上19未満であり、ブリーチ力がやや低い。
1:L*値が15未満であり、ブリーチ力が低い。
【0067】
(臭い)
脱色剤組成物を5g程度皿に取り分け、アンモニアの独特の臭いがあるか、臭いがしない又はあまりしないか、を専門のパネラー5名が判断した。臭いがあると判断したパネラーが3名以上の場合を「B(=不合格)」、臭いがあると判断したパネラーが2名以下の場合を「A(=合格)」とする評価を下した。
【0068】
(製剤安定性)
第1剤について、約20gを透明のガラス密閉容器に入れ、50度の恒温槽にて1日放置した。その後、各剤の分離状態を専門のパネラー5名が目視で観察し、以下の基準により採点した。
【0069】
5:全く分離が生じていない。
4:ほとんど分離が生じていない。
3:あまり分離していない。
2:少し分離している。
1:大きく分離している。
【0070】
5名のパネラーの採点結果について平均点を算出し、平均点が4.6以上を「優れる:5」、3.6点以上4.6点未満を「良好:4」、2.6点以上3.6点未満を「可:3」、1.6点以上2.6点未満を「やや不良:2」、1.6点未満を「不良:1」とする評価を下した。
【表1】
【0071】
【0072】
[考察]
比較例1に示すように、アルカリ剤としてアンモニアを含む毛髪脱色剤組成物では、システイン酸量は少なかったが、引張強度が十分でなかった。よって、アルカリ剤としてアンモニアを使用すると、毛髪の表層であるキューティクルの損傷が比較的抑えられるものの、コルテックスの損傷が比較的大きく毛髪全体の強度が低下することが分かった。なお、比較例1では、アンモニアに起因する独特の臭いもあった。
【0073】
一方で、比較例2に示すように、アルカリ剤としてアンモニアの代わりに(B)成分を含む毛髪脱色剤組成物では、引張強度は良好であったが、システイン酸量が多かった。よって、アルカリ剤として(B)成分を使用すると、コルテックスの損傷が比較的抑えられ毛髪全体の強度は高いものの、キューティクルの損傷が比較的大きいことが分かった。
【0074】
これに対し、実施例1~21に示すように、(A)成分と(B)成分とを含む毛髪脱色剤組成物では、良好な引張強度を維持しつつもシステイン酸量が抑えられた。よって、(A)成分を配合することにより(B)成分に起因するキューティクルの損傷を低減でき、これにより毛髪全体の損傷を抑えることができることがわかった。なお、比較例3に示すように、アルカリ剤としてアンモニアを使用した場合には、(A)成分を配合しても、特に評価に変化がなかった。
【0075】
また、実施例1~21に示すように、(A)成分と(B)成分とを含む毛髪脱色剤組成物では、ブリーチ力も高く、アンモニアの独特の臭いもせず、製剤安定性も高かった。
【0076】
実施例1~6に示すように、(A)成分の中でも、葉酸、及びε-アミノカプロン酸が特に高いキューティクルの損傷低減効果を示し、次いで酢酸、及びニコチン酸が高いキューティクルの損傷低減効果を示し、次いでグルタミン酸、及びアスパラギン酸がキューティクルの損傷低減効果を示していた。
【0077】
また、実施例1,7,8を比較すると、(B)成分として炭酸水素アンモニウム又は炭酸アンモニウムを含む毛髪脱色剤組成物の方が、炭酸水素ナトリウムを含む毛髪脱色剤組成物よりもブリーチ力が高かった。
【0078】
また、実施例9に示すように、アルカリ剤として(B)成分とともにアンモニアを含む毛髪脱色剤組成物でも同様に、キューティクルの損傷低減効果があった。
また、実施例1,10~12に示すように、毛髪脱色剤組成物中の(A)成分の含有量(すなわち、第1剤と第2剤との混合物中の(A)成分の含有量)が1.5質量%未満、好ましくは1.1質量%未満で、ブリーチ力がより向上した。
【0079】
また、実施例1,13~16に示すように、(B)/(C)が0.2以上の場合の方が、(B)/(C)が0.2未満の場合よりも、キューティクルの損傷低減効果が高かった。また、毛髪脱色剤組成物中の(B)成分の含有量が0.1質量%以上、好ましくは0.6質量%以上でブリーチ力がより向上した。また、毛髪脱色剤組成物中の(C)成分の含有量が1.2質量%以上、好ましくは2質量%以上でブリーチ力がより向上した。
【0080】
また、実施例1,10~12に示すように、第1剤中の(A)成分の含有量が3.0質量%未満、好ましくは2.5質量%未満で、製剤安定性がより向上した。また、実施例1,13~16に示すように、第1剤中の(B)成分の含有量が5.0質量%未満、好ましくは3.0質量%未満で、製剤安定性がより向上した。
【0081】
また、実施例20,21に示すように、(A)成分が第1剤ではなく第2剤に含まれる場合でも同様に、キューティクルの損傷低減効果があった。なお、実施例20,21においては、第2剤についても第1剤と同様に製剤安定性について評価を行っており、第2剤の製剤安定性の評価はいずれも5であった。