(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186406
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】評価方法、評価装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/88 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
G01N21/88 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094610
(22)【出願日】2021-06-04
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】本多 有佳里
(72)【発明者】
【氏名】中谷 安利
(72)【発明者】
【氏名】山縣 秀人
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 景子
【テーマコード(参考)】
2G051
【Fターム(参考)】
2G051AB02
2G051AB12
2G051BB03
2G051BB09
2G051CA04
2G051CB01
2G051CB05
2G051EA11
2G051EB01
2G051EC03
2G051ED01
2G051ED04
(57)【要約】
【課題】塗膜のブリスターを定量的に評価する。
【解決手段】物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価方法が、(a)同軸照明装置で光照射された塗膜の表面の画像データを撮影装置によって取得し、(b)画像データに少なくとも二値化処理を施して、塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出し、および(c)画像データの評価対象の領域においてブリスターの領域が占める面積率を求めることを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価方法であって、
(a)同軸照明装置で光照射された前記塗膜の表面の画像データを撮影装置によって取得し、
(b)前記画像データに少なくとも二値化処理を施して、前記塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出し、および
(c)前記画像データの評価対象の領域において前記ブリスターの領域が占める面積率を求める
ことを含む、評価方法。
【請求項2】
前記塗膜の表面に存在するブリスターのサイズ、前記塗膜の光沢度、および前記塗膜の表面の粗度からなる群より選択される少なくとも1つに基づいて、前記(a)における前記画像データを取得する第1条件、および前記(b)における前記ブリスターの領域を検出する第2条件が選択される、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記第1条件が、前記同軸照明装置のハーフミラーと前記塗膜の表面の有効視野までの間の最短距離を含み、前記第2条件が、前記二値化処理における閾値の設定方法を含む、請求項2に記載の評価方法。
【請求項4】
前記(b)が、
(i)前記画像データをトリミングして、前記評価対象の領域に対応するトリミングされた画像データを得、
(ii)前記トリミングされた画像データに、平滑化処理を施した後、または平滑化処理を施さずに、前記二値化処理を施す、
ことを含む、請求項2又は3のいずれかに記載の評価方法。
【請求項5】
前記第2条件が、前記平滑化処理の平滑化フィルタに用いるカーネル値を含む、請求項4に記載の評価方法。
【請求項6】
前記(a)の前に、
前記塗膜を有する前記物体を耐蝕性試験に付す
ことを更に含む、請求項1~5のいずれかに記載の評価方法。
【請求項7】
物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価装置であって、
同軸照明装置で光照射され、撮影装置で撮影された前記塗膜の表面の画像データを取得する取得部と、
前記画像データに少なくとも二値化処理を施して、前記塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出する検出部と、
前記画像データの評価対象の領域において前記ブリスターの領域が占める面積率を求める算出部と、
を含む評価装置。
【請求項8】
請求項1~5のいずれかに記載の評価方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塗膜のブリスターを評価する評価方法、評価装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
塗膜の表面(以下、本明細書において単に「塗装面」とも言う)の状態を評価する方法として、塗装面の傷や凹凸等の状態を用いることがある。塗装面の傷や凹凸の検出は、光の照射方法によっても異なるため、例えば、特許文献1では、塗装面への照射光の角度を調整し、50μm程度の小さな傷であっても検出することが記載される。
【0003】
ところで、現在、物体(被塗物)上に形成された塗膜の劣化の評価方法の1つとして、JIS K5600-8-2に規定されているように、塗膜の膨れ(「ブリスター」)を評価する方法が知られている。JIS K5600-8-2に規定されている評価方法では、塗膜の表面状態を、複数の基準図版による等級見本と比較し、どの等級見本に近いかを目視で判断することによって、ブリスターの程度(密度および大きさ)を等級付けしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような目視による評価方法では、塗膜のブリスターを定量的に評価することができない。
【0006】
したがって、本開示は、塗膜のブリスターを定量的に評価可能な方法および装置ならびにコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の評価方法は、物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価方法であって、(a)同軸照明装置で光照射された前記塗膜の表面の画像データを撮影装置によって取得し、(b)前記画像データに少なくとも二値化処理を施して、前記塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出し、および(c)前記画像データの評価対象の領域において前記ブリスターの領域が占める面積率を求めることを含む。
【0008】
前記評価方法は、前記塗膜の表面に存在するブリスターのサイズ、前記塗膜の表面の粗度、および前記塗膜の光沢度からなる群より選択される少なくとも1つに基づいて、前記(a)における前記画像データを取得する第1条件、および前記(b)における前記ブリスターの領域を検出する第2条件が選択されることができる。
【0009】
前記評価方法は、前記第1条件が、前記同軸照明装置のハーフミラーと前記塗膜の表面の有効視野までの間の最短距離を含み、前記第2条件が、前記二値化処理における閾値の設定方法を含むことができる。
【0010】
前記評価方法は、前記(b)が、(i)前記画像データをトリミングして、前記評価対象の領域に対応するトリミングされた画像データを得、(ii)前記トリミングされた画像データに、平滑化処理を施した後、または平滑化処理を施さずに、前記二値化処理を施す、ことを含むことができる。
【0011】
前記評価方法は、前記第2条件が、前記平滑化処理の平滑化フィルタに用いるカーネル値を含むことができる。
【0012】
前記評価方法は、前記(a)の前に、前記塗膜を有する前記物体を耐蝕性試験に付すことを更に含むことができる。
【0013】
前記評価装置は、物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価装置であって、 同軸照明装置で光照射され、撮影装置で撮影された前記塗膜の表面の画像データを取得する取得部と、前記画像データに少なくとも二値化処理を施して、前記塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出する検出部と、前記画像データの評価対象の領域において前記ブリスターの領域が占める面積率を求める算出部と、を含む。
【0014】
コンピュータプログラムは、前記評価方法をコンピュータに実行させる。
【0015】
これらの概括的かつ特定の態様は、システム、方法、及びコンピュータプログラム、並びに、それらの組み合わせにより、実現されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本開示の評価方法、評価装置及びコンピュータプログラムによれば、塗膜のブリスターを定量的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】同軸照明を説明する概念図であり、同軸照明装置および撮影装置を合わせて示す。
【
図3A】照射光と反射光の関係の一例を示す概念図である。
【
図3B】照射光と反射光の関係の他の例を示す概念図である。
【
図4】ブリスターのある塗膜(ワーク)の表面と照射光及び反射光の関係を示す概念図である。
【
図5】ブリスターサイズ、光沢度及び表面粗度から、評価手法を選択する判断を示す分岐図である。
【
図6A】塗膜の表面が撮影された画像データの一例である。
【
図6B】
図6Aの画像データを平滑化した画像データの一例である。
【
図6C】
図6Bの画像データを二値化した画像データの一例である。
【
図7A】塗膜の表面が撮影された画像データの他の例である。
【
図7B】
図7Aの画像データを平滑化した後に二値化した画像データの一例である。
【
図8】塗膜の表面における照明範囲の一例を示す図である。
【
図9A】塗膜の表面が撮影された画像データの他の例である。
【
図9B】
図9Aの画像データを平滑化した画像データの一例である。
【
図9C】
図9Bの画像データを二値化した画像データの一例である。
【
図10】評価方法の処理を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、図面を参照して実施形態に係る評価方法、評価装置及びコンピュータプログラムについて説明する。本開示の評価方法、評価装置及びコンピュータプログラムは、塗膜のブリスターを評価するものである。また、以下の説明では、同一の構成について、同一の符号を付して説明を省略する。
【0019】
本開示において、「塗膜」とは、物体(被塗物)上に形成された膜であって、塗料に由来する膜をいう。
【0020】
「塗料」とは、被塗物である物体の表面を、保護、装飾、その他の種々の目的で被覆するために使用される材料をいう。
【0021】
塗料およびこれに由来して形成される塗膜の各材料、塗膜の形成方法、塗膜の厚さ、塗膜が形成される物体(少なくともその表面)を構成する材料および形状等は、特に限定されない。
【0022】
「物体」としては、例えば平板、円筒、棒等の形状のものが挙げられる。
【0023】
「物体」の材質としては、例えば金属、樹脂、ゴム、セラミック等が挙げられる。金属としてはアルミニウム、ステンレス、鉄を含む単体金属、合金が挙げられる。
【0024】
塗膜の成分としては、含フッ素ポリマーを含むことが好ましい。上記含フッ素ポリマーは、フッ素樹脂であってもよく、フッ素ゴムであってもよく、フッ素樹脂であることが好ましい。
【0025】
上記フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン〔PTFE〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕/ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕共重合体〔FEP〕、TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕共重合体〔PFA〕、TFE/HFP/PAVE共重合体〔EPA〕、ポリクロロトリフルオロエチレン〔PCTFE〕、TFE/クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕共重合体、TFE/エチレン〔Et〕共重合体〔ETFE〕、TFE/CTFE/Et共重合体〔ECTFE〕、ポリビニリデンフルオライド〔PVDF〕等が挙げられる。
【0026】
上記フッ素ゴムとしては、ビニリデンフルオライド[VdF]系フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン[TFE]/プロピレン[Pr]系フッ素ゴム、TFE/Pr/VdF系フッ素ゴム、エチレン[Et]/ヘキサフルオロプロピレン[HFP]系フッ素ゴム、Et/HFP/VdF系フッ素ゴム、Et/HFP/TFE系フッ素ゴム、フルオロシリコーン系フッ素ゴム、フルオロホスファゼン系フッ素ゴム等が挙げられる。
【0027】
塗料成分として、上記含フッ素ポリマー以外の成分としては、例えば、液状媒体が挙げられる。上記液状媒体としては、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。
【0028】
上記含フッ素ポリマー以外の成分としては、また、バインダー樹脂も挙げられる。上記バインダー樹脂は、耐熱性樹脂(但し、含フッ素ポリマーを除く)であることが好ましい。「耐熱性」とは、150℃以上の温度における連続使用が可能である性質を意味する。
上記耐熱性樹脂としては、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、ポリイミド樹脂(PI)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、ポリエーテルイミド樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアリレンサルファイド樹脂等が挙げられる。
【0029】
上記含フッ素ポリマー以外の成分としては、また、界面活性剤、分散剤、粘度調整剤、製膜助剤、造膜剤、消泡剤、乾燥遅延剤、チキソ性付与剤、pH調整剤、顔料、導電剤、帯電防止剤、レベリング剤、はじき防止剤、つや消し剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、酸化防止剤、耐摩耗剤、充填剤、防錆剤、硬化剤、受酸剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防黴剤、抗菌剤等の添加剤も挙げられる。
【0030】
塗膜の形成方法としては、例えばスプレー塗装、ディップ塗装、ロールコート、カーテンフローコート、スクリーン印刷、ディスペンサー塗装、電着塗装、静電塗装、流動浸漬、ロトライニング、ロトモールド等が挙げられる。
【0031】
塗膜の厚みとしては、1~5000μmが好ましい。
【0032】
「ブリスター」とは、塗膜の膨れである。ブリスターは、種々の原因により発生し得、塗膜の劣化による場合には、塗膜と被塗物との間にて、ガスが発生(例えば塗膜中の成分や外部から侵入した液体成分が気化)することで生じ得る。ブリスターは、例えば、塗膜の自然な劣化によって生じ得、また、塗膜の耐蝕性を評価する目的で塗膜を耐蝕性試験に付すことで生じ得る。
【0033】
「塗装面のブリスターの評価」は、現在の塗膜の表面状態の評価(塗膜形成後の使用を経ている場合は、劣化評価と同義)、および(塗膜形成後で、かつ、使用を経ていない)塗膜の耐蝕性の評価を含む。
【0034】
「(塗膜の表面の)粗度」(または「塗膜粗度」)とは、塗膜の表面の凹凸を測定した粗さであり、例えば、算術平均粗さRaである。
【0035】
「塗膜の表面を示す値」とは、ブリスターのサイズ、塗膜の表面の粗度、塗膜の光沢度等、評価対象の塗膜の表面に関連して得られた値をいう。
【0036】
《同軸照明》
始めに、評価装置で用いる画像データの取得の際の照明について説明する。
図1を用いて後述する評価装置1は、撮影装置2によって撮影された塗膜の表面(塗装面)の画像データを用いる。ここで、撮影装置2は、塗装面の撮影に同軸照明を利用する。同軸照明は、撮影装置の撮影軸(カメラ軸)と同軸上に光を照射する照明方法であり、
図2に一例を示すように、撮影装置2のレンズ21の光路内に光源31からの照射光が組み込まれた照明方法であり得る。具体的には、同軸照明は、
図2に示すように、光源31からの光を、ハーフミラー32によって反射させてワーク(即ち、評価対象、本開示では塗膜が形成された物体であり、ワークの表面が塗膜の表面に対応する)Wに照射させる照明方法である。このとき、ハーフミラー32からワークWの有効視野までの最短距離を距離LWD(mm)とする。ここでは、この同軸照明に用いる光源31と、ハーフミラー32とを含む構成を同軸照明装置3とする。
【0037】
図3Aに一例を示すように、仮に、表面が平坦なワークWと撮影装置2のレンズ21とが対面しており、光源31により、ワークWに対して斜め方向から照射光L1を照射したとする。この場合、照射光L1の反射で得られる反射光L2は、レンズ21とは異なる方向へ進む。したがって、
図3Aに示すように、撮影装置2のレンズ21が反射光L2の光路と異なる方向に配置される場合、撮影装置2において撮影されるワークWの画像は、拡散反射光を捉えたものとなる。
【0038】
これに対し、
図3Bに示すように、
図3Aと同一のワークW、および、レンズ21を用いる例で、仮に、ワークWに対してレンズ21の光軸と同一の方向から照射光L1を照射したとする。この場合、反射光L2は、撮影装置2のレンズ21の方向へ進む。したがって、
図3Bに示すように、撮影装置2のレンズ21が反射光L2の光路と同一の方向に配置される場合、撮影装置2は、正反射光を捉えた画像を得ることができる。
【0039】
図4に示すように、塗膜の表面にブリスターBが発生したワークWを同軸照明により撮影するとする。
図4の例でも、ワークWと撮影装置2とが対面している。なお、
図4ではワークWの表面に形成される塗膜の図示は省略する。
図4の場合、ブリスターBが生じていないワークW上の塗膜の表面部分P1に照射光L1を照射すると、その反射光L2は、撮影装置2のレンズ21に向かう。したがって、画像データ上で塗膜の表面部分P1は、明るく写る。また、ブリスターBの頂点部分P2に照射された照射光L1により得られる反射光L2は、レンズ21に向かう。したがって、画像データ上でブリスターBの頂点部分P2は、明るく写る。一方、ブリスターBの他の部分(例えば、P3)に照射された照射光L1により得られる反射光L2は、照射光L1が照射された部分(例えば、P3)の傾斜に応じた方向に向かう。したがって、画像データ上で、塗膜が形成されるワークWに対して傾斜が生じたブリスターB等の部分は、暗く写る。
【0040】
このように、同軸照明を用いて撮影することにより、塗膜部分である平坦な部分が明るく、凸部分であるブリスターB等の傾斜が生じた部分が暗い画像データを得ることができる。すなわち、画像データにおいて、白い部分を塗膜の表面とし、黒い部分をブリスターBが生じた部分とし、全体におけるブリスターの領域を抽出することができる。しかしながら、実際には、塗膜の性質やブリスターの状態等の評価対象の塗膜の表面を示す値により、同一の方法で簡単にブリスターBの領域を抽出することはできない。したがって、後述するように、塗膜の表面を示す値に応じて選択された評価手法を用いて画像データを取得し、取得された画像データを処理してブリスターBの領域を抽出する。
【0041】
〈評価装置〉
続いて、
図1を参照して、実施形態に係る評価装置1について説明する。評価装置1は、物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価装置であって、
同軸照明装置3で光照射され、撮影装置2で撮影された塗膜の表面の画像データを取得する取得部112と、
画像データに少なくとも二値化処理を施して、塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出する検出部113と、
画像データの評価対象の領域においてブリスターの領域が占める面積率を求める算出部114と、
を含む。
【0042】
評価装置1は、制御部11と、記憶部12と、通信部13とを備える情報処理装置である。制御部11は、評価装置1全体の制御を司るコントローラである。例えば、制御部11は、記憶部12に記憶される評価プログラムPを読み出して実行することにより、選択部111、取得部112、検出部113、算出部114、および、結果処理部115としての処理を実現する。また、制御部11は、ハードウェアとソフトウェアの協働により所定の機能を実現するものに限定されず、所定の機能を実現する専用に設計されたハードウェア回路でもよい。すなわち、制御部11は、CPU、MPU、GPU、FPGA、DSP、ASIC等、種々のプロセッサで実現することができる。
【0043】
記憶部12は種々の情報を記録する記録媒体である。記憶部12は、例えば、RAM、ROM、フラッシュメモリ、SSD(Solid State Drive)、ハードディスク、その他の記憶デバイス又はそれらを適宜組み合わせて実現される。記憶部12には、制御部11が実行する評価プログラムPの他、種々のデータ等が格納される。例えば、記憶部12は、画像データ121、結果データ122、および、評価プログラムPを記憶する。
【0044】
通信部13は、ネットワーク4を介して外部の装置とのデータ通信を可能とするためのインタフェース回路(モジュール)である。例えば、通信部13は、画像データを撮影する撮影装置2とデータ通信を実行してもよい。また、通信部13は、外部の他の装置とデータ通信を実行してもよい。
【0045】
評価装置1は、入力部14、および、出力部15を備えることができる。入力部14は、操作信号やデータの入力に利用される操作ボタン、マウス、キーボード等の入力手段である。出力部15は、処理結果やデータの出力等に利用されるディスプレイ等の出力手段である。
【0046】
ここで、評価装置1は、1台のコンピュータにより実現されてもよいし、ネットワークを介して接続される複数台のコンピュータの組み合わせにより実現されてもよい。また、図示を省略するが、例えば、記憶部12に記憶されるデータの全部又は一部が、ネットワークを介して接続される外部の記録媒体に記憶され、評価装置1は、外部の記録媒体に記憶されるデータを使用するように構成されていてもよい。
【0047】
選択部111は、塗膜の表面に存在するブリスターのサイズ、塗膜の表面の粗度、および塗膜の光沢度からなる群より選択される少なくとも1つに基づいて、後述の取得部112で画像データを取得する第1条件、および後述の検出部113でブリスターの領域を検出する第2条件を選択する。具体的には、選択部111は、評価対象とする塗膜の表面を示す値として『ブリスターサイズ』、『光沢度』、および、『表面粗度』の少なくともいずれかを受け付ける。また、選択部111は、受け付けた塗膜の表面を示す値に応じて画像データの取得に関する第1条件、および、画像処理に関する第2条件を規定する『評価手法』を選択する。
【0048】
ブリスターサイズは、例えば、オペレータが定規を用いて目視で計測した値を利用することができる。このとき、評価対象部分のブリスターサイズの平均値を用いることが好ましい。例えば、ブリスターのサイズの計測の際には、塗膜の評価対象部分からランダムに5つのブリスターを計測し、その平均値を用いてもよい。これにより、1つのブリスターのサイズのみに応じた偏った評価手法が選択されることを防ぐことができる。
【0049】
塗膜の光沢度は、例えば、光沢計を用いて計測した値を利用することができる。
【0050】
塗膜の表面粗度は、例えば、表面粗さ測定器を用いて計測した値を利用することができる。
【0051】
例えば、オペレータが、上述したように計測したこれらのブリスターサイズ、光沢度、および、表面粗度の各値を、入力部14を介して評価装置1に入力することにより、選択部111が評価手法を選択する。例えば、選択部111は、ブリスターサイズ、光沢度、および、表面粗度を取得した場合、表1に示すような基準で評価手法を選択する。また、表1に示す評価手法の選択の各値の判断の分岐を、
図5に示す。表1及び
図5の例では、ブリスターサイズSが0.5mm以上、60°で計測された光沢度Gが55以上、かつ、表面粗度Raが0.2μm以上である場合、選択部111は、評価手法aを選択する。また、ブリスターサイズSが0.5mm未満の場合、選択部111は、評価手法hを選択する。
【0052】
【0053】
評価装置1では、選択部111で選択された評価手法毎に、後述の画像取得で利用する第1の条件であるパラメータ、および、画像処理で利用する第2の条件であるパラメータが設定される。第1条件は、同軸照明装置3のハーフミラー32と塗膜の表面の有効視野までの間の最短距離LWDを特定するパラメータである。第2条件は、撮影された画像データから評価対象の領域をトリミングする際の画像サイズをパラメータとして含む。また、第2条件は、二値化処理における閾値の設定に用いるパラメータを含む。さらに、第2条件は、平滑化処理の中央値フィルタに用いるカーネル値をパラメータとして含む。
【0054】
以下に、塗膜の表面を示す各値に応じて選択される評価手法毎のパラメータについて説明する。なお、以下では、説明を簡略化するため、塗膜の表面を示す値毎に各パラメータを決定する一例をそれぞれ挙げるが、以下の例に限定されない。具体的には、選択部111は、複数種の塗膜の表面を示す値を総合して評価手法を選択する。また、評価装置1では、選択部111が選択した評価手法毎に、予め定められる各パラメータを用いて、画像データの取得処理及び画像処理を実行する。
【0055】
《ブリスターサイズに応じた調整》
図6Aは、塗膜の表面を撮影した画像データの一例である。また、
図6Bは、
図6Aの画像データを平滑化処理して得られた画像データである。さらに、
図6Cは、
図6Bの画像データを二値化処理して得られた画像データである。平滑化処理、および、二値化処理は、ブリスターの領域を精度良く検出することを目的とする画像処理であり、後述する検出部113で実行される。例えば、ブリスターのサイズが比較的大きい場合、
図6Cに示すように、ブリスターの中央付近において強い反射光を反射する部分が広くなり、画像データにおいて白くなることがある(例えば、
図6C中のA1の部分)。このようにブリスターの一部について白くなった場合、白くなった部分についてはブリスターの領域ではないとされ、正確に評価することができない。したがって、このようにブリスターのサイズが所定の値よりも大きい場合、例えば、平滑化フィルタにおいて、ブリスターのサイズが所定の値よりも小さい場合と比較して、各画素に対して広い領域の画素を用いて平滑化処理を施すことにより、ブリスターB部分を抽出しやすくなる。評価装置1では、ブリスターBのサイズに応じて、パラメータである平滑化フィルタで用いるカーネル値を調整し、ブリスターBの抽出精度を向上させる。
【0056】
一方、ブリスターBのサイズが小さい場合、例えば、同軸照明のハーフミラー32と塗膜の表面の有効視野との間の最短距離である距離LWDを短くすることにより、ブリスターB部分を抽出しやすくなる。すなわち、ブリスターBのサイズが小さい場合、画像データにおける塗膜の表面とブリスターB部分とのコントラストが小さくなる傾向があり、ブリスターBの領域を検出しにくくなる。そのため、ブリスターが小さい場合、ブリスターBの検出が困難になる。したがって、例えば、ブリスターのサイズが所定のサイズよりも小さい場合、パラメータである距離LWDを短くすることでブリスターB部分を抽出しやすくなる。評価装置1では、ブリスターBのサイズに応じて、パラメータである距離LWDを調整し、ブリスターBの抽出精度を向上させる。
【0057】
《表面粗度に応じた調整》
例えば、表面粗度が大きく、塗膜の表面にブリスター以外の凸部が存在する塗膜の表面を評価する場合、二値化することにより、ブリスター以外の部分も黒くなることがある(例えば、
図6C中のA2の部分)。このような場合、ブリスター以外の部分がブリスターとして検出される恐れがある。このように塗膜の表面に存在するブリスター以外の凸部が誤ってブリスターとして検出されると、正確に評価することができなくなる。したがって、このように表面粗度が所定の値よりも大きい場合、例えば、平滑化フィルタにおいて、各画素に対して広い周囲領域の画素を用いてぼかすことにより、ブリスターB以外の凸部を除去しやすくなる。これは、このようなブリスターB以外の凸部は、通常、ブリスターB自体よりも小さいためである。このように、評価装置1では、表面粗度に応じて、パラメータである平滑化フィルタで用いるカーネル値を調整し、ブリスターBの抽出精度を向上させる。
【0058】
《塗膜の光沢度に応じた調整》
図7Aは、光沢度が高い塗膜の表面を撮影した画像データの一例である。例えば、塗膜の光沢度が高い場合、表面上の傷において反射光が散乱する等により、反射光L2が弱くなることがある。それにより、平滑化かつ二値化することにより、
図7Bに示すように、画像データにおいてこのような傷等の部分(
図7B中のA3の部分)が暗くなることがある。この場合、通常と同様の二値化処理によって、ブリスターBの領域を抽出する方法では、ブリスターB以外の傷の部分についても黒くなることにより、ブリスターBとして検出されるおそれがある。したがって、このように二値化された画像データで傷が表れやすい光沢度の高い塗膜の場合、閾値を黒側に設定して二値化処理することで、傷を目立ちにくくすることができる。具体的には、256階調において、「0」が黒を示す値であり、「255」が白を示す値である。そして、閾値を黒側にシフトさせるため、所定の方法で設定された閾値に、光沢度の程度に応じて設定されるパラメータの値をマイナスして、新たな閾値とすることで、傷を目立ちにくくすることができる。
【0059】
取得部112は、選択部111で選択された評価手法で定められるパラメータを用いて、評価対象領域を含む画像データ121を取得する。具体的には、取得部112は、評価手法で定められるパラメータの距離LWDを用いて、画像データ121を取得する。また、取得部112は、取得した画像データ121を記憶部12に記憶させる。例えば、取得部112は、撮影装置2と接続され、撮影装置2に撮影操作信号を送信し、撮影装置2で撮影された画像データ121を取得する。
【0060】
検出部113は、(i)画像データをトリミングして、評価対象の領域に対応するトリミングされた画像データを得、(ii)トリミングされた画像データに、平滑化処理を施した後、または平滑化処理を施さずに、二値化処理を施す、ことを含むことができる。具体的には、検出部113は、選択部111が選択した評価手法で定められる各パラメータを用いて、取得部112で取得した画像データ121を画像処理し、評価対象領域に含まれるブリスター領域を検出する。具体的には、検出部113は、画像処理として、『グレースケール化』、『トリミング』、『平滑化』、および、『二値化』の処理を実行する。具体的には、取得部112が取得したカラー画像データである画像データ121を第1画像データとする。検出部113は、第1画像データをグレースケール化処理し、処理後の画像データを第2画像データとする。また、検出部113は、第2画像データから、評価の対象領域を抽出(トリミング)する。続いて、検出部113は、トリミングされた対象領域の第2画像データに平滑化処理(ぼかし処理)を施し、得られた平滑化画像データを第3画像データとする。さらに、検出部113は、第3画像データに二値化処理を施し、得られた二値化画像データを第4画像データとする。その後、検出部113は、第4画像データから、ブリスター領域を検出する。なお、仮に、撮影装置2が撮影する画像データ121がカラー画像データでなく、グレースケール画像データである場合、グレースケール化の処理は不要であって、検出部113は、取得した画像データ121をトリミング処理すればよい。また、グレースケール化については、評価手法毎に設定されたパラメータを用いた処理ではなく、一般的なカラー画像からグレースケール画像への変換である。
【0061】
以下に、評価装置1で実行される、評価手法毎に定められる各パラメータを用いたトリミング、平滑化、および、二値化の処理について説明する。
【0062】
《トリミング》
トリミングは、評価の対象領域の抽出である。検出部113は、選択部111において、塗膜の表面を示す各値の少なくともいずれかに応じて、選択された評価手法で定められるパラメータであるトリミングの画像サイズで、第2画像データから画像処理の対象の領域をトリミングする。このとき、撮影装置2で撮影される画像データ121は、例えば、
図8に示すように、光源31からの照射光が当たる一部の領域のみ明るく、照射光の当たらない領域は暗くなる。したがって、トリミングする際には、第2画像データのうち、明るい領域内でトリミングする必要がある。トリミング後の第2画像データは、拡大すると、例えば、
図9Aに示すような画像データである。なお、トリミングの画像サイズは、塗膜に光を照射した際の光の広がりに応じて、画像解析に使用可能な範囲を抽出することにより決定する。
【0063】
《平滑化》
続いて、平滑化の一例を説明する。
図9Bは、
図9Aの画像データを平滑化処理して得られた画像データである。検出部113は、評価手法に応じて設定されたパラメータであるカーネル値を用いた平滑化フィルタによって、トリミングされた第2画像データに平滑化処理を実行する。平滑化処理により得られた画像データは、第3画像データである。平滑化処理をすることで、例えば、ブリスターのサイズが大きい場合にブリスターの領域を抽出しやすくしたり、塗膜の粗度による影響を軽減することができる。
【0064】
検出部113は、平滑化フィルタとして、例えば、ガウシアンフィルタを用いることができる。ガウシアンフィルタは、ガウス分布を利用して注目画素の中心部分の重みを大きくするフィルタである。この場合、選択部111で設定されたパラメータは、ガウシアンフィルタで用いるカーネル値である。検出部113は、ガウシアンフィルタの他、平滑化フィルタとして、平滑化フィルタ、中央値フィルタ(メディアンフィルタ)、バイラテラルフィルタ等を用いても良い。
【0065】
《二値化》
次に、二値化の一例を説明する。
図9Cは、
図9Bの画像データを二値化処理して得られた画像データである。
図9Cの画像データは、基材に発生したブリスター領域が検出できた例である。具体的には、
図9Cにおける黒色部分がブリスター領域である。しかしながら、画像取得および画像処理に利用するパラメータによっては、
図9Cに示すように、ブリスター領域が検出できる画像データばかりであるとは限らない。したがって、検出部113は、ブリスター領域を正確に検出できるように、選択部111で選択された評価手法に応じて設定されたパラメータの値で調整した閾値により、平滑化された第3画像データに二値化処理を実行する。二値化処理により得られた画像データは、第4画像データである。二値化処理することで、例えば、塗膜の表面状態の影響を除去してブリスター領域を検出することができる。
【0066】
検出部113は、二値化処理に、例えば、画像中の小領域ごとに閾値の値を計算する適応的二値化処理を用いることができる。ここで、選択部111で設定されたパラメータは、二値化処理で設定される閾値の調整に用いる値である。上述したように、具体的には、0~255の間で閾値が設定されるが、パラメータは、設定された閾値を例えば、白側(「255」寄り)にシフトさせる階調数を示す値である。これにより、表面状態による影響を除去してブリスターの領域を区別可能な二値化画像データを取得することができる。その他、検出部は、二値化処理に、判別分析法(大津の二値化)、反復閾値選択、Pタイル法等の種々の方法を利用してもよい。
【0067】
このように、評価装置1においては、上述したように、塗膜の表面の『ブリスターのサイズ』、『粗度』、および、『光沢度』の少なくともいずれかの値に応じて、評価手法を選択する。また、選択された評価手法に定められるパラメータを用いて、『トリミング』、『平滑化』、および、『二値化』の処理を実行し、正確にブリスターの領域を検出することができる。したがって、評価装置1では、このブリスターの領域を用いて、塗膜のブリスターを定量的に評価することができる。
【0068】
算出部114は、検出部113でトリミングされた画像サイズの対象領域に対して、検出されたブリスター領域が占める面積率を評価値として算出する。具体的には、算出部114で算出された面積率が小さい場合、塗膜の性能が高いと評価される。逆に、算出部114で算出された面積率が大きい場合、塗膜の性能が低いと評価される。このように、評価装置1では、算出部114において求める評価値を、耐蝕性を数値化した値とすることにより、評価者が目視により塗膜の耐蝕性を評価する場合と比較して、塗膜のブリスターを定量的に評価値することが可能となる。なお、
図9Cの例では、ブリスター領域の面積率は42.63%と算出された。
【0069】
結果処理部115は、算出部114で算出されたブリスター領域の面積率を結果データ122とし、画像データ121に関連付けて記憶部12に記憶させる。また、結果処理部115は、評価値を出力部15に出力してもよい。結果処理部115は、求めた評価値を、結果データ122として記憶部12に登録する。このとき、結果処理部115は、取得部112で得られた各種の画像データや、検出部113で得られた二値化後の各種画像データを元の画像データ121と関連付けて記憶部12に記憶させてもよい。また、結果処理部115は、画像データ121に関連する各種のデータを画像データ121と関連付けて記憶部12に記憶させてもよい。
【0070】
評価装置1は、上述したように、決定された評価手法毎のパラメータを用いて処理を実行する。これにより、画像データに含まれる塗料の性能とは関係のない影響を除くことが可能となり、ブリスターの面積率の数値計算に基づき、塗膜のブリスターを定量的に評価することができる。例えば、塗料には、様々な樹脂や顔料を用いることがあるが、上述した処理を利用することにより、塗膜のブリスターを定量的に評価することができる。
【0071】
〈評価方法〉
実施形態に係る評価方法は、物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価方法であって、
(a)同軸照明装置で光照射された塗膜の表面の画像データを撮影装置によって取得し、
(b)画像データに少なくとも二値化処理を施して、塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出し、および
(c)画像データの評価対象の領域において前記ブリスターの領域が占める面積率を求める。
以下、
図10に示すフローチャートを参照して評価装置1を用いた評価方法について説明する。
【0072】
まず、評価装置1は、評価手法の選択のためのデータである塗膜の表面を示す値の入力を受け付ける(S01)。例えば、評価装置1は、ユーザによって入力部14を用いた操作により、塗膜の表面を示す値として、ブリスターサイズ、光沢度、および、表面粗度の値が入力されると、評価に用いる評価手法が選択される。
【0073】
評価装置1は、ステップS01で選択された評価手法の第1条件で設定されるパラメータを用いて、評価対象のワークW上の塗膜の表面の画像データを取得する(S02)。具体的には、評価装置1は、選択された評価手法の第1条件で定められるパラメータを用いて同軸照明装置のハーフミラー32からワークWの表面の有効視野までの最短距離LWDを設定し、画像データを取得する。ステップS02で取得された画像データは、第1画像データである。また、評価装置1は、取得した第1画像データを記憶部12に記憶させる。
【0074】
評価装置1は、ステップS02で取得した第1画像データをグレースケール化する(S03)。ステップS03でグレースケール化された画像データは、第2画像データである。また、評価装置1は、グレースケール化した第2画像データを記憶部12に記憶させる。
【0075】
評価装置1は、ステップS03でグレースケール化された第2画像データから、ステップS01で選択された評価手法の第2条件で設定されるパラメータに応じた画像サイズで評価対象となる領域を抽出(トリミング)する(S04)。具体的には、評価装置1は、ステップS02における取得の際のワークWへの光の照射位置に応じて、対象領域の位置を設定する。
【0076】
評価装置1は、ステップS04で抽出された対象領域の第2画像データに、平滑化処理を施す(S05)。このとき、評価装置1は、ステップS01で選択された評価手法の第2条件で設定されるパラメータに応じたカーネル値を利用する平滑化フィルタを用いて、対象領域の第2画像データに平滑化処理を施す。
【0077】
評価装置1は、ステップS05の平滑化処理で得られた第3画像データに、二値化処理を施す(S06)。このとき、評価装置1は、ステップS01で選択された評価手法の第2条件で設定されるパラメータを利用して二値化に利用する閾値を調整し、第3画像データの各画素の輝度値が調整された閾値以上である場合に白、閾値未満である場合に黒として二値化処理を施す。
【0078】
評価装置1は、ステップS06の二値化処理で得られた第4画像データから、ブリスター領域を検出する(S07)。上述したように、画像データにおいて、平坦な部分は明るくなり、凸部分は暗くなる。したがって、二値化画像データでは、本来のワークW部分が平坦であるため白くなり、凸部分であるブリスターB部分が黒となる。そのため、二値化画像データから、黒い領域をブリスター領域として検出する。
【0079】
評価装置1は、ステップS07で検出されたブリスター領域を用いて、評価対象である対象領域に対するブリスター領域の面積率を算出する(S08)。具体的には、評価装置1は、トリミングされた対象領域の二値化画像データの画素数に対する、ブリスター領域の画素数を算出する。また、評価装置1は、算出した面積率を、評価結果として記憶部12に記憶させる。
【0080】
評価装置1は、ステップS08で得られた結果を、出力部15に出力する(S09)。
【0081】
例えば、評価装置1において評価する塗膜は、耐蝕性を評価する目的で、耐蝕性試験に付した後に、塗膜のブリスターを評価することができる。したがって、耐蝕性試験に付された塗膜を評価する場合、上述した評価装置1おける評価の処理が開始される前に、耐蝕性試験が実施される。なお、塗膜の耐蝕性試験の条件は、塗膜や評価の目的等に応じて適宜選択され得る。
【0082】
例えば塗膜の耐蝕性試験には樹脂ライニングの耐蝕性試験で一般的に用いられているライニングテスタ(商品名:山崎式ライニングテスタLA-15、株式会社山崎精機研究所製)が挙げられる。ライニングテスタでは試験片の内外面に温度勾配を与え、加速試験を行うことができる。具体的には、
図9Aに示した塗膜は、SUS304基材上に、製膜後の膜厚が300μmとなるようフッ素樹脂塗料を塗装し、試験片の内側に環境液として100℃の水を用い、外側に30℃の水を流し、24時間試験を行った後の液相部分を撮影したものである。
【0083】
このように、塗膜の表面を示す各値に応じて選択された評価手法毎のパラメータを用いて画像取得及び画像処理を実行する。これにより、ブリスターの面積率を正確に算出し、塗膜のブリスターを定量的に評価することができる。
【0084】
〈効果及び補足〉
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、上記実施形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施形態にも適用可能である。
【0085】
本開示の全請求項に記載の評価方法、評価装置及びコンピュータプログラムは、ハードウェア資源、例えば、プロセッサ、メモリ、及びプログラムとの協働などによって、実現される。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本開示の評価方法、評価装置及びコンピュータプログラムは、塗膜の表面の状態の定量的な評価に有用である。
【符号の説明】
【0087】
1 評価装置
11 制御部
111 選択部
112 取得部
113 検出部
114 算出部
115 結果処理部
12 記憶部
121 画像データ
122 結果データ
P 評価プログラム
13 通信部
14 入力部
15 出力部
2 撮影装置
3 同軸照明装置
W ワーク(塗膜が形成された物体)
【手続補正書】
【提出日】2022-08-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価方法であって、
(a)同軸照明装置で光照射された前記塗膜の表面の画像データを撮影装置によって取得し、
(b)前記画像データに少なくとも二値化処理を施して、前記塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出し、および
(c)前記画像データの評価対象の領域において前記ブリスターの領域が占める面積率を求める
ことを含み
前記塗膜の表面に存在するブリスターのサイズ、前記塗膜の光沢度、および前記塗膜の表面の粗度からなる群より選択される少なくとも1つの値を受け付け、
受け付けた前記値に基づいて、前記(a)における前記画像データを取得する第1条件、および前記(b)における前記ブリスターの領域を検出する第2条件が選択される、
評価方法。
【請求項2】
前記第1条件が、前記同軸照明装置のハーフミラーと前記塗膜の表面の有効視野までの間の最短距離を含み、前記第2条件が、前記二値化処理における閾値の設定方法を含む、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記(b)が、
(i)前記画像データをトリミングして、前記評価対象の領域に対応するトリミングされた画像データを得、
(ii)前記トリミングされた画像データに、平滑化処理を施した後、または平滑化処理を施さずに、前記二値化処理を施す、
ことを含む、請求項1又は2のいずれかに記載の評価方法。
【請求項4】
前記第2条件が、前記平滑化処理の平滑化フィルタに用いるブリスターのサイズ又は表面粗度に応じて設定されるカーネル値を含む、請求項3に記載の評価方法。
【請求項5】
前記(a)の前に、
前記塗膜を有する前記物体を耐蝕性試験に付す
ことを更に含む、請求項1~4のいずれかに記載の評価方法。
【請求項6】
物体上に形成された塗膜のブリスターを評価する評価装置であって、
同軸照明装置で光照射され、撮影装置で撮影された前記塗膜の表面の画像データを取得する取得部と、
前記塗膜の表面に存在するブリスターのサイズ、前記塗膜の光沢度、および前記塗膜の表面の粗度からなる群より選択される少なくとも1つの値を受け付け、受け付けた前記値に基づいて、前記(a)における前記画像データを取得する第1条件、および前記(b)における前記ブリスターの領域を検出する第2条件を選択する選択部と、
前記画像データに少なくとも二値化処理を施して、前記塗膜の表面に存在するブリスターの領域を検出する検出部と、
前記画像データの評価対象の領域において前記ブリスターの領域が占める面積率を求める算出部と、
を含む評価装置。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載の評価方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。