(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186416
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】硬質地盤硬化層の造成工法とその装置
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
E02D3/12 102
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094627
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】313000184
【氏名又は名称】株式会社KGフローテクノ
(71)【出願人】
【識別番号】000128027
【氏名又は名称】株式会社エヌ、アイ、テイ
(71)【出願人】
【識別番号】595015579
【氏名又は名称】株式会社富士建
(74)【代理人】
【識別番号】100073623
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 幸吉
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(72)【発明者】
【氏名】田中 法夫
(72)【発明者】
【氏名】中西 康晴
(72)【発明者】
【氏名】牧薗 博文
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB03
2D040BA08
2D040EA18
2D040FA02
2D040FA05
2D040FA08
(57)【要約】
【課題】軟弱地盤の構築基礎支保や強化支保については、現状は、Φ1,000以上の大口径撹拌翼での施工は、現在の施工機材において粘性土の場合でN値10程度以下、砂質土の場合でN値15程度以下が標準となっており、それ以上の硬質地盤に対応するためには、高回転トルクの施工機械と高トルク対応のツールスが必要とされる問題があった。
【解決手段】注入ロッドのモニターに、放射状に伸びる3枚の撹拌翼を交差して2段に設け、下段の各撹拌翼のそれぞれに1ケ所ずつ、ロッド基部側、翼中央部、翼先端側の各位置のいずれかを選択した箇所に、所定角度を付して下方に向けた噴射ノズルを設定するようにし、更に、位置を分散して設定した噴射ノズルについて、ロッド基部側に設定するノズルの径を小さく、翼中央部に設定するノズルの径を中くらい、翼先端側に設定するノズルの径を大きく設定するようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射状に伸びる3枚の撹拌翼を交差して2段に設け、下段の各撹拌翼のそれぞれに1ケ所ずつ、ロッド基部側、翼中央部、翼先端側の各位置のいずれかを選択した箇所に、所定角度を付して下方に向けた噴射ノズルを設定した注入ロッドを対象地盤に挿入し、地盤改良材を噴射しつつ回動上下動させることにより地盤硬化層を造成することを特徴とする地盤硬化層の造成工法。
【請求項2】
下段の各撹拌翼のそれぞれに、1ケ所ずつ、位置を分散して設定した噴射ノズルについて、ロッド基部側に設定するノズルの径を小さく、翼中央部に設定するノズルの径を中くらい、翼先端側に設定するノズルの径を大きく設定するようにした請求項1記載の地盤硬化層の造成工法。
【請求項3】
放射状に伸びる3枚の撹拌翼を交差して2段に設け、下段の各撹拌翼のそれぞれに1ケ所ずつ、ロッド基部側、翼中央部、翼先端側の各位置のいずれかを選択した箇所に、所定角度を付して下方に向けた噴射ノズルを設定した注入ロッドを、回動上下駆動機構によって支持して成る地盤硬化層の造成装置。
【請求項4】
下段の各撹拌翼のそれぞれに、1ケ所ずつ、位置を分散して設定した噴射ノズルについて、ロッド基部側に設定するノズルの径を小さく、翼中央部に設定するノズルの径を中くらい、翼先端側に設定するノズルの径を大きく設定するようにした請求項3記載の地盤硬化層の造成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射状に伸びる3枚の撹拌翼を交差して2段に設け、下段の各撹拌翼のそれぞれに1ケ所ずつ、ロッド基部側、翼中央部、翼先端側の各位置のいずれかを選択した箇所に、所定角度を付して下方に向けた噴射ノズルを設定した注入ロッドを対象地盤に挿入し、地盤改良材を噴射しつつ回動上下動させることにより地盤硬化層を造成する特に硬質地盤を対象とする地盤硬化層の造成工法とその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、軟弱地盤の構築基礎支保や強化支保については、地盤硬化材を高圧噴射しながら、硬化材注入ロッドを回動挿入することにより対象地盤を撹拌掘削する地盤硬化材注入工法が多く行われてきたが、施工環境や地盤の軟弱度によっては、効率が悪く撹拌力も不充分という問題があった。
【0003】
これに対応して、撹拌翼による直接撹拌が行われるようになり、更に、硬化材注入層の径を大きくするために、例えば特許文献1に示されるように、撹拌翼の先端に噴射ノズルを設けて水平方向に硬化材を噴射するなど撹拌翼に噴射ノズルを設定することも行われるようになってきた。
【0004】
しかし、従来の地盤硬化材噴射が水平方向への噴射を主流としたため、撹拌翼による直接撹拌と硬化材噴流による流体撹拌との調整に問題があり、撹拌領域に硬化材が充分にいきわたらず、土壌と硬化材の混合むらが発生し易く確実かつ均一な土壌の撹拌混合には更なる問題を残していた。
【0005】
このような混合むらの問題に対応するため、地盤硬化材と軟弱地盤の撹拌手段としては、例えば特許文献2に示されるように、注入ロッドに斜め下方乃至斜め上方に噴射する噴射ノズルを設け、噴流を交差させて立体的な噴流撹拌注入を行うと共に、その上部に設けた撹拌翼によって更なる直接撹拌を行う工法や装置も提案されている。
【0006】
また、注入された硬化材が過剰な撹拌や切削水の使用により、流出希釈されることを防ぐため、特許文献3に示されるように撹拌翼の先端に拡散防止板を設定したり、特許文献4のように注入ロッドの斜め方向に噴射する噴射ノズルを設けて、同噴射ノズルから撹拌翼の先端に向けて硬化材を噴射することも提案されている。
【0007】
特許文献4に示される工法は、中圧噴射機械撹拌工法として現状において多く用いられているが、同工法ではΦ1,000以上の大口径撹拌翼での施工は、現在の施工機材において粘性土の場合でN値10程度以下、砂質土の場合でN値15程度以下が標準となっており、それ以上の硬質地盤に対応するためには、高回転トルクの施工機械と高トルク対応のツールスが必要とされている。
【0008】
更に、特許文献5においては、翼腹に下方噴射ノズルをそれぞれ設けて左右に伸びる上段撹拌翼と、その下部に所定間隔を開けて十字状に交差する下段撹拌翼を設け、一方の下段撹拌翼の取り付け基部上部、他方の下段撹拌翼の取り付け基部下部にそれぞれ水平方向噴射ノズルを設定した撹拌注入ロッドに硬化材を圧送して各ノズルより高圧噴射しながら撹拌注入ロッドを回転しつつ下降、上昇或いはその双方を行う造成工法とその装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭50-107714号公報
【特許文献2】特開平6-146260号公報
【特許文献3】特開平9-296439号公報
【特許文献4】特開2005-76212号公報
【特許文献5】特許第4944926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
撹拌翼によって直接撹拌を行う場合には、注入ロッドの回動に対して掛かる地盤の抵抗によって発生する回転トルクの増大が問題であり、従来技術として、現状は、Φ1,000以上の大口径撹拌翼での施工は、現在の施工機材において粘性土の場合でN値10程度以下、砂質土の場合でN値15程度以下が標準となっており、それ以上の硬質地盤に対応するためには、高回転トルクの施工機械と高トルク対応のツールスが必要とされる。
【0011】
注入ロッドの回動に対して掛かる地盤の抵抗によって発生する回転トルクの増大に対抗するためには、回動エネルギーの消耗を抑え、エネルギーを如何に効率的に活用するかに係るものと言える。例えば特許文献4に示される注入ロッドの回動について見ると、一対の噴射口の各々が前記ロッド部の軸に垂直な方向に対して傾斜しつつ前記一対の撹拌翼のいずれか一方の先端に向けて硬化材を噴射可能に設けられている。
【0012】
この構成によると、一対の噴射口14a,14bは、注入ロッドの側腹に開口され、噴射される噴流は、回動に対して一対の撹拌翼13a,13bの回動軌跡と同一の回動軌跡を辿ることになる。すなわち、噴射口14a,14bから噴射される噴流は、回動に対してエネルギー的には奉仕していないことになる。
【0013】
これに対して、特許文献5に示される注入ロッドの回動について見ると、上段撹拌翼と下段撹拌翼は、所定間隔を開けて十字状に交差させて、他の撹拌翼の回動軌跡を重複して回動することによる回動エネルギーの無駄を省き、エネルギーの効率化を図っているものである。
【0014】
しかしながら、特許文献5に示される注入ロッドの撹拌翼は4本しかなく、前記現状としてのΦ1,000以上の大口径撹拌翼での施工は、現在の施工機材において粘性土の場合でN値10程度以下、砂質土の場合でN値15程度以下という標準を強度的に超えられず、それ以上の硬質地盤に対応するためには、高回転トルクの施工機械と高トルク対応のツールスを必要とせざるを得なかった。
【0015】
以上の現状に鑑み、本発明は注入ロッドの撹拌翼を特許文献5の記載発明より2本多い6本として、3枚翼2段式とし、硬化材噴射を各下部翼に1ケ所ずつ所定角度を付して下方に向けた噴射ノズルを設定して切削性を挙げると共に、噴射軌跡の重複、重合を避け、回動等エネルギーの効率的活用を図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
放射状に伸びる3枚の撹拌翼を交差して2段に設け、下段の各撹拌翼のそれぞれに、1ケ所ずつ、ロッド基部側、翼中央部、翼先端側の各位置に分散して、所定角度を付して下方に向けた噴射ノズルを設定した注入ロッドを対象地盤に挿入し、地盤改良材を噴射しつつ回動上下動させるようにした。
【0017】
更に、上記下段の各撹拌翼のそれぞれに1ケ所ずつ、位置を分散して設定した噴射ノズルについて、例えば、ロッド基部側に設定するノズルの径を小さく、翼中央部に設定するノズルの径を中くらい、翼先端側に設定するノズルの径を大きく設定して硬化材の噴射量を調整することにより、撹拌翼の回動外径側に噴射エネルギーが集中されて注入ロッド回動の回転トルクが軽減されるようにした。
【0018】
以上のように、放射状に伸びる3枚の撹拌翼のそれぞれに、設定位置を分散させ、その設定位置に対応してノズル径を変化させた噴射ノズルを、各撹拌翼に1ケ所ずつ設定することにより、噴射エネルギー分散消耗を回避すると共に、各翼の噴射位置での硬化層断面容積に応じた硬化材容量の注入を確保できたものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、以上のように構成したことにより、回動等エネルギーの無駄な消耗を回避して土壌の掘削破砕力が強化され、Φ1,000以上の大口径撹拌翼での施工における粘性土の場合でN値10程度を超え、砂質土の場合でN値15程度以下という標準を超えた硬質地盤での施工を可能とし、撹拌混合効果も高めることができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施例を示すもので、注入ロッド先端モニター部に交差して2段に設定した撹拌翼の状態を示すモニター部底面図である。
【
図2】同じく、本発明の実施例を示すもので、
図1の下方向を正面とした注入ロッド先端モニター部の側面図である。
【
図3】同じく、注入ロッド先端モニター部に交差して2段に設定した撹拌翼の状態を示す斜め上方から見たモニター部の斜視図である。
【
図4】同じく、3枚の下段撹拌翼のそれぞれに、設定位置を分散させて各撹拌翼に1ケ所ずつ設定した噴射ノズルから、それぞれ硬化材を噴射する状況を示す注入ロッド先端モニター部の斜視側面図である。
【
図5】同じく、下段撹拌翼に設定する硬化材噴射ノズルの構造を示すもので、撹拌翼噴射ノズル設定部の縦断側面図である。
【
図6】同じく、本発明の実施例を示すもので、上段撹拌翼の注入ロッドに対する植設状況を示す上段撹拌翼の先端方向から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。1は硬化材注入ロッドで、先端モニター部Mに上段撹拌翼11A,11B,11Cが放射状に張り出して設定され、その下部に300mm程度の間隔を置いて下段撹拌翼12A,12B,12Cが前記上段撹拌翼と十文字状に交差し、上記各上段撹拌翼と上下に重なることのない位置関係に設定されている。
【0022】
上段撹拌翼11A,11B,11Cは硬化材注入ロッド1に対して、互いに、逆方向に傾斜する捻り角度をもって設定され、その各下面には
図6に示されるように硬化材注入ロッド1の軸線に平行する支持面による補強リブ11a,11b,11cが設けられている。また、地盤挿入後、周辺土壌を撹拌する撹拌端縁11Dには硬化肉盛加工が施される。
【0023】
下段撹拌翼12A,12B,12Cは、前記上段撹拌翼11~300mm程度の間隔を置いて硬化材注入ロッド1に対して捻り傾斜をもって設定されると共に、下面側一側にカッタービット3、3・・が並列装備されている。
【0024】
更に、下段撹拌翼12A,12B,12Cのそれぞれに、1ケ所ずつ、ロッド基部側、翼中央部、翼先端側の各位置に分散して、所定角度を付して下方に向けた噴射ノズルA、B,Cが設定される。すなわち、
図1に示されるように、下段撹拌翼12Aに設定される噴射ノズルAは、硬化材注入ロッド1の中核を中心とするΦ1000mmの円弧を描く位置に、同12Bに設定される噴射ノズルBは、硬化材注入ロッド1の中核を中心とするΦ650mmの円弧を描く位置に、同12Cに設定される噴射ノズルCは、硬化材注入ロッド1の中核を中心とするΦ300mmの円弧を描く位置に、それぞれ設定される。
【0025】
更にまた、上記各設定された噴射ノズルについては、ロッド基部側に設定される噴射ノズルについてはノズルの径を小さく、翼中央部に設定される噴射ノズルについてはノズルの径を中くらい、翼先端側に設定される噴射ノズルについてはノズルの径を大きく設定される。
【0026】
噴射ノズルの設定を、このように構成することにより、回動する硬化材注入ロッド1から噴射される硬化材は、硬化材注入ロッド1の中核を中心とする円周状に注入域が形成され、硬化材の噴射量が調整されて均質な硬化材層が形成されると共に、過剰噴射による硬化材の無駄を避けることができる。
【0027】
下段撹拌翼12A,12B,12Cには、硬化材注入ロッド1に設けられた硬化材圧送路4から分岐して各翼に設定された噴射ノズルに通ずる噴射流路41が設けられ、各開口する噴射孔から対象地盤に噴射注入される。
【実施例0028】
実施例1は、硬化材注入ロッド1をロッドに対して互いに逆方向に傾斜する捻り角度をもって設定された上下撹拌翼の旋回方向に沿って正転回動しながら、対象地盤に下降挿入し、同じくノズル正転回動しながら上昇抜去するもので、例えば、撹拌注入ロッドの対象地盤への挿入下降時に各下段撹拌翼ノズルA、B,Cから5~15Mpaの噴射圧力で硬化材としてセメントミルクを吐出量100リッター/minで回転させる。
【0029】
この場合、掘削土砂は、ロッドに対して互いに逆方向に傾斜する捻り角度をもって設定された上下撹拌翼の捻り旋回力によって、地表方向に押し上げられる一方、各下段撹拌翼ノズルA、B,Cから5~15Mpaの噴射圧力、吐出量100リッター/minで噴射されるセメントミルクが、掘進下降部の土砂を切削すると共に、噴射されたセメントミルクが土壌に円周状に注入充填されるが、上下段撹拌翼の捻り旋回力が地表への排土を抑制するので、硬化材注入ロッド1の回転速度を調整することにより、注入されるセメントミルクと略同量の土砂が排土されて地内圧のバランスが保たれる。
【0030】
以上のように硬化材注入ロッド1の下死点において地内圧のバランスが保たれている場合には、硬化材注入ロッド1の上昇抜去は周辺地盤への影響を抑えるように硬化材注入ロッド1を正転回動により上昇抜去させるが、撹拌土砂が、更に、押し上げ排土される場合には、回転速度を10~30rpm程度に抑え、下段撹拌翼基部ノズルから5~15Mpaの噴射圧力での硬化材噴射で排土分を補うようにした。
実施例2は、硬化材注入ロッド1の下降挿入時には、下段撹拌翼ノズルA、B,Cからの硬化材噴射を行わずに、必要があれば潤滑液を供給して正転下降させ、所定深度に達したところで各下段撹拌翼ノズルA、B,Cから硬化材を噴射圧力10~20Mpaの噴射圧力で噴射することにより、調整されたノズル径に対応した量の硬化材を噴射しながら40~50rpmで回転上昇させるものである。
この方法では、硬化材注入ロッド1の下降挿入時に、上下撹拌翼の捻り旋回力による下降推進による掘削土の押し上げ作用と、下降するロッド上下撹拌翼の捻り旋回力を通じての押し下げによって撹拌された土壌が、比較的低い噴射圧力でも高い吐出量の硬化材をこなし、ロッド回転速度の調整によって排土揚力が地内圧のバランスを取って地盤変異を低く抑えることができる。
実施例2の方法はN値の高い地盤が対象となるが、これによれば下段撹拌翼12の傾斜取付けによる回転トルクの軽減により、硬化材注入ロッド1の下降挿入時に硬化材注入を行わないことができ、硬化材の節約と施工についての時間と労力を大幅に軽減することができる。