(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186417
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】発熱システム及び発熱方法
(51)【国際特許分類】
F24V 30/00 20180101AFI20221208BHJP
H05B 3/00 20060101ALI20221208BHJP
F25B 27/02 20060101ALI20221208BHJP
F24H 7/00 20220101ALI20221208BHJP
【FI】
F24V30/00 302
H05B3/00 330Z
F25B27/02 J
F24H7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094628
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀和
(72)【発明者】
【氏名】市川 靖
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛志
(72)【発明者】
【氏名】内村 允宣
(72)【発明者】
【氏名】中村 雅紀
【テーマコード(参考)】
3K058
【Fターム(参考)】
3K058AA51
3K058GA04
(57)【要約】
【課題】外部からの熱エネルギ要求に応じて適切な熱エネルギを供給する。
【解決手段】発熱システム100は、熱エネルギ発生部110と、熱エネルギ伝達量調整部150と、熱交換部160とを備える。熱エネルギ発生部110は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する。熱交換部160は、熱エネルギ発生部110からの熱エネルギの供給を受け、対象部品180へ当該熱エネルギを供給する。熱エネルギ伝達量調整部150は、熱交換部160からの熱エネルギ要求量に基づいて、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギ供給量を調整する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する発熱材料系を備える発熱システムであって、
前記発熱材料系からの熱エネルギの供給を受け、外部の部品へ当該熱エネルギを供給する熱交換部と、
前記熱交換部からの熱エネルギ要求量に基づいて、前記発熱材料系から前記熱交換部への熱エネルギ供給量を調整する熱エネルギ伝達量調整部と、を備える
発熱システム。
【請求項2】
請求項1に記載の発熱システムであって、
前記発熱材料系は、水素吸蔵機能を有する発熱材料と、前記発熱材料に熱量を供給するヒータと、前記発熱材料と前記ヒータとを収納する収容部と、を含む熱エネルギ発生部からなり、
前記ヒータの供給熱量を制御するヒータ制御部と、
前記発熱材料に水素を供給する水素供給部と、
前記水素供給部から前記発熱材料系への給排気量を制御する給排気量制御部と、をさらに備える、
発熱システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の発熱システムであって、
前記熱エネルギ伝達量調整部は、
前記熱エネルギ要求量と、前記発熱材料系の温度と前記熱交換部の温度との差と、向かい合う前記発熱材料系の外面と前記熱交換部の外面との間に配置される高熱伝導部材により生じる熱抵抗とに基づいて、前記熱エネルギ要求量に応じた熱エネルギ供給量を伝達するための前記高熱伝導部材の伝熱面積を算出する伝熱面積算出部と、
前記伝熱面積算出部により算出された前記伝熱面積に基づいて、前記高熱伝導部材と前記発熱材料系の外面との第1接触面積と、前記高熱伝導部材と前記熱交換部の外面との第2接触面積とを調整する伝熱面積調整部と、を備える、
発熱システム。
【請求項4】
請求項3に記載の発熱システムであって、
前記伝熱面積調整部は、
前記高熱伝導部材としての液体金属と、
向かい合う前記発熱材料系の外面と前記熱交換部の外面との間に形成される隙間と、
前記隙間の一端に接続して前記隙間に出入りする前記液体金属を収容する液収容部と、
前記発熱材料系の外面と前記熱交換部の外面との双方において、前記隙間を基準にして対称となる様に当該各外面に平行に設けられる、少なくとも一対の第1電極と誘電体と第2電極と、をさらに備え、
前記第1電極及び前記第2電極間に印加する電圧を調整して前記液体金属を前記隙間に出入りさせることにより前記第1接触面積及び前記第2接触面積を調整する、
発熱システム。
【請求項5】
請求項4に記載の発熱システムであって、
前記第1電極及び前記第2電極間に印加する電圧を連続的に可変にする可変電圧電源をさらに備える、
発熱システム。
【請求項6】
請求項3に記載の発熱システムであって、
前記伝熱面積調整部は、前記発熱材料系の外面と前記熱交換部の外面との隙間において前記高熱伝導部材を移動させる駆動部をさらに備え、
前記駆動部を制御して前記隙間における前記高熱伝導部材の移動により前記第1接触面積及び前記第2接触面積を調整する、
発熱システム。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の発熱システムであって、
前記発熱材料系は、外部の複数の前記部品へ熱エネルギを供給するものであり、
前記熱エネルギ伝達量調整部及び前記熱交換部の組み合わせが複数の前記部品に対応する数となる様に、前記熱エネルギ伝達量調整部及び前記熱交換部の組み合わせを複数備え、
前記熱エネルギ伝達量調整部及び前記熱交換部の組み合わせを複数の前記部品毎に設置する、
発熱システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の発熱システムであって、
前記発熱材料系において発生する熱エネルギを蓄熱する蓄熱材をさらに備え、
前記熱エネルギ伝達量調整部による熱エネルギ供給量の調整後に前記発熱材料系から前記熱交換部に供給される熱エネルギのうちの余剰エネルギを前記蓄熱材に蓄熱させる、
発熱システム。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の発熱システムであって、
前記発熱材料系を稼働状態とする場合には、前記発熱材料系の気相部の温度を基準温度とし、前記気相部の圧力を基準圧力とする様に制御する、
発熱システム。
【請求項10】
水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する発熱材料系を用いる発熱方法であって、
前記発熱材料系からの熱エネルギを外部の部品へ供給する熱交換部と、前記発熱材料系との間に配置される高熱伝導部材を用いて、前記発熱材料系から前記熱交換部への熱エネルギ供給量を制御する制御ステップを備え、
前記制御ステップでは、前記熱交換部からの熱エネルギ要求量に基づいて、前記高熱伝導部材を移動させることにより、前記熱エネルギ供給量を制御する、
発熱方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵材料を含む発熱体を用いる発熱システム及び発熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水素を利用して過剰熱を発生する発熱材料を用いて熱エネルギを発生させる技術が存在する。例えば、水素吸蔵材料を用いて発熱する発熱体セルの温度測定結果を基に、発熱体セルで過剰熱を発する部位を特定し、発熱体セル内に供給する水素系ガスの供給位置をその部位の周辺に決定する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来技術の発熱システムでは、発熱反応が不安定になる可能性を考慮して、複数の発熱体モジュールを設けている。そして、セル温度に基づいて正常に稼働していると特定された発熱体モジュールを使用することで熱エネルギを安定的に発生させる様にしている。しかし、外部からの熱エネルギ要求量の変化に応じた熱エネルギを迅速に発生させることが困難であると想定されるため、この点で改善の余地がある。
【0005】
本発明は、外部からの熱エネルギ要求に応じて適切な熱エネルギを供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する発熱材料系を備える発熱システムである。この発熱システムは、発熱材料系からの熱エネルギの供給を受け、外部の部品へ当該熱エネルギを供給する熱交換部と、熱交換部からの熱エネルギ要求量に基づいて、発熱材料系から熱交換部への熱エネルギ供給量を調整する熱エネルギ伝達量調整部とを備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、外部からの熱エネルギ要求に応じて適切な熱エネルギを供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、発熱システムの構成例を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、高熱伝導部材と熱エネルギ発生部と熱交換部の関係を示す図である。
【
図3】
図3は、熱交換部への熱エネルギ伝達量を調整する制御例を示す図である。
【
図4】
図4は、熱エネルギ伝達量調整部の構成例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、平行移動式の伝熱面積調整部の構成例を示す図である。
【
図6】
図6は、回転移動式の伝熱面積調整部の構成例を示す図である。
【
図7】
図7は、発熱システムにおける発熱制御の例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、発熱システムの構成例を示す概略構成図である。
【
図9】
図9は、蓄熱材を設置する場合の一例を示す概略構成図である。
【
図10】
図10は、蓄熱材を用いる場合の制御例を簡略化して示す図である。
【
図11】
図11は、発熱システムの構成例を示す概略構成図である。
【
図12】
図12は、熱エネルギ伝達量調整部を2つ備える際の制御を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
[第1実施形態]
[発熱システムの構成例]
図1は、発熱システム100の構成例を示す概略構成図である。発熱システム100は、熱エネルギ発生部110と、ヒータ制御部120と、水素供給部130と、給排気量制御部140と、熱エネルギ伝達量調整部150と、熱交換部160と、を備える。なお、
図1では、説明を容易にするため、1つの熱エネルギ発生部110を発熱システム100が備える例を示すが、2つ以上の熱エネルギ発生部を備える場合にも適用可能である。発熱システム100は、複数の装置から構成されてもよく、1つの装置(例えば熱エネルギ発生装置)から構成されてもよい。
【0011】
発熱システム100は、例えば車両に搭載して用いることができる。この場合、熱を利用する種々の用途、例えば、ハイブリッド車両の内燃機関の暖機及び保温、電動車両のバッテリヒータ、燃料電池車両のスタックの暖機及び保温、空調設備(エアコン)、温度調整が可能な部品(ハンドル、座席シート)等に適用可能である。
図1では、熱エネルギ発生部110にて発生した熱の供給先となる部品や機器を対象部品180と総称して示す。なお、第1実施形態では、1つの熱交換部160に1つの対象部品180を備える例を示すが、1つの熱交換部160に複数の対象部品を備える場合にも同様に適用可能である。
【0012】
ここで、対象部品180に使用される熱が要求された場合には、その要求された熱エネルギを迅速に供給することが重要となる。そこで、本実施形態では、要求された熱エネルギを迅速に供給することが可能な発熱システム100を用いる。
【0013】
熱エネルギ発生部110は、収容部111と発熱材料112とヒータ113とを備える。熱エネルギ発生部110は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する発熱材料系である。
【0014】
収容部111は、発熱材料112及びヒータ113を内部に収容するものであり、内部を密封状態にできる構造を有する。収容部111は、例えば閉空間となる筐体で構成される。収容部111の材料として、例えば、アルミニウム、鉄を用いることができる。
【0015】
また、収容部111の外周面については、熱エネルギ伝達量調整部150の高熱伝導部材153(
図2参照)に接触する部分以外を断熱材で覆い、熱エネルギの放射や周りの外気との熱対流がほとんど起こらない様にする。
【0016】
なお、収容部111に、温度センサ(図示省略)及び圧力センサ(図示省略)が設置され、収容部111内の温度及び圧力をそれぞれ検出する。なお、圧力センサ及び温度センサは、それぞれ検出部が収容部111の内部に臨むよう配置される。
【0017】
ヒータ113は、発熱材料112を加熱する加熱機器であり、発熱材料112に熱量を供給する。ヒータ113として、各種ヒータ(加熱機器、暖房器具)を用いることができる。具体的には、ヒータ113は、電気抵抗体とこれに接続される電極対とを備える。
【0018】
ヒータ113の電気抵抗体は、いわゆる高電気抵抗体で構成されており、電極対を介して電気エネルギが入力されることでヒータ113が発熱する。ここでいう高電気抵抗体とは、ヒータ部材として一般的に用いられる金属材料に比べて電気抵抗が高いものであり、本実施形態ではセラミックスを用いる。車両用電源のような高電圧で使用する場合、ヒータ部材が金属材料で構成されると、大電流が流れるために過熱し、劣化が促進され易い。これに対し、高電気抵抗体であれば電流の大きさが抑制され、耐久性を確保できる。
【0019】
本実施形態で使用するセラミックスは、例えば炭化ケイ素(SiC)とケイ素(Si)とを主成分とする。主成分とは、含有比率50質量%以上、好ましくは90質量%以上であることをいう。ケイ素は炭化ケイ素同士を結合する結合剤として機能するものであり、ケイ素と炭化ケイ素との質量比は次式の関係を満たすことが好ましい。
0.15≦Si/(Si+SiC)≦0.35
【0020】
例えば、シート状の発熱材料112を用いる場合には、発熱材料112を多層膜状に形成し、これをシート状のヒータ113に積層できるが、発熱材料112及びヒータ113の形状は、シート状に限定されない。なお、ヒータ113の電源(図示省略)は、本システムが車載される場合には車載電源を用い、定置用の場合には、専用電源を用いる。
【0021】
発熱材料112は、水素吸蔵機能を有する発熱材料であり、ヒータ113の電気抵抗体の表面に配置される。この発熱材料は、水素吸蔵材料とも称し、水素が供給された状態で加熱されることで、加熱エネルギに対して過剰な熱エネルギを継続的に発生する水素吸蔵合金または水素吸蔵合金を含む材料である。水素吸蔵材料を用いることにより、水素吸蔵脱蔵反応を進めるために材料に供給した熱エネルギを効率よく回収することができる。以下では、水素吸蔵材料(発熱材料112)の構成例と製造方法の一例を示す。
【0022】
[水素吸蔵材料]
本実施形態の水素吸蔵材料は、少なくとも2種の金属を含むものである。ここでは、2種の金属のうち、融点が低い方を第1の金属と称し、融点が高い方を第2の金属と称する。第1の金属の融点は230℃以上であることが必須である。また、第1の金属及び第2の金属のうち、少なくとも一方は、第2の金属の融点未満の温度で銀よりも大きい水素溶解度を有する。水素溶解度の値は、実験値であってもよいし、計算値であってもよい。
【0023】
さらに、第1の金属または第2の金属の少なくとも一方の水素化物は、CaH2の標準生成エンタルピ(-186.2kJ/mol)以上の標準生成エンタルピを有するものである。これにより、水素吸蔵材料が大量の発熱を生じる際に起こる水素化合物合金の相転移の繰り返しのための水素の脱蔵が十分に行われる。なお、ある金属の水素化合物の標準生成エンタルピの値もまた、実験値であってもよいし、計算値であってもよい。
【0024】
これらの第1の金属及び第2の金属の規定を満足する金属が少なくとも含まれている場合には、本実施形態において水素吸蔵材料として使用できる。つまり、3つ以上の金属が含まれていても、そのうちの2つの金属が上記の規定を満足する場合には使用可能である。また、これらの金属の含有形態について、特に制限はない。ただし、第1の金属と第2の金属とが組成比の異なる複数の相を有する合金の状態で存在していることが好ましい。
【0025】
第1の金属及び第2の金属の具体的な種類について特に制限はなく、上記の規定を満足し得る組合せから任意に選択可能である。そして、ある金属が第1の金属に該当するか第2の金属に該当するかは、組合わされる他の金属との関係で決定される相対的なものである。一例としては、第1の金属として、アルミニウム(Al)、スズ(Sn)、鉛(Pb)が挙げられる。また、第2の金属として、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、バナジウム(V)、カルシウム(Ca)が挙げられる。これらの金属を用いると、発熱量の大きい水素吸蔵材料を構成可能であるため、好ましい。また加熱温度が比較的低い場合でも機能し得るという観点から、融点が比較的低いスズ(Sn)を第1の金属として用いることが好ましい。また、発熱量が大きいという観点からは、アルミニウム(Al)を第1の金属として用いることが好ましい。さらに、「第1の金属-第2の金属」の組合せとしては、ニッケル-ジルコニウム、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、アルミニウム-マンガン、アルミニウム-亜鉛、スズ-チタン、アルミニウム-カルシウム等が挙げられる。特に発熱量の大きい水素吸蔵材料を構成可能という観点から、アルミニウム-ニッケル、アルミニウム-チタン、スズ-チタンの組合せが好ましく、アルミニウム-ニッケル、スズ-チタンの組合せがより好ましく、アルミニウム-ニッケルの組合せが特に好ましい。
【0026】
[水素吸蔵材料の製造方法]
本実施形態に使用する水素吸蔵材料の製造方法については特に制限はなく、従来公知(例えばWO2020/080303)の技術常識を参照することにより製造することができる。その一例として、第1の金属としてアルミニウム、第2の金属としてニッケルを用いる場合について説明する。
【0027】
まず、アルミニウムの粉末と、ニッケルの粉末を準備する。金属の形状は必ずしも粉末である必要はないが、均一に混ぜる上では、粉末形状であることが望ましい。2種類の粉末を所望の比率で秤量し、乳鉢及び乳棒を用いて混合する。乳鉢及び乳棒の材質は、メノウ、アルミナ等、どのようなものであっても構わない。
【0028】
続いて、上記で得られた複合粒子に対し、熱処理を加えて合金化させる。なお、必ずしも事前に合金化させる必要はなく、ヒータの表面に塗布した後の焼成中に合金化させてもよい。合金化させる方法は熱処理だけに限らず、化学的な合金メッキでもよく、ボールミル装置を利用して機械的に混合するメカニカルアロイングでもよい。
【0029】
合金化後に合金の粒子径を調整する場合、粉砕等により粒子径を小さくしてもよい。
【0030】
[発熱システムの構成例]
図1に戻り、ヒータ制御部120は、熱エネルギ伝達量調整部150の制御に基づいて、熱エネルギ発生部110のヒータ113に供給する電力を制御する。
【0031】
水素供給部130は、熱エネルギ発生部110の発熱材料112に供給配管を介して水素(H2)を供給する水素ガス供給装置であって、水素ガスが充填される水素タンク、水素ガスを収容部111に供給するためのポンプおよび配管等を備える。水素(H2)は、発熱材料112が加熱された際に当該発熱材料に吸蔵されて発熱反応を生じさせる。水素(H2)は水素タンクに保持されていてもよいし、水素タンクに代え、エタノールやバイオマスを保持するタンクと、改質器とを備え、改質により水素ガスを発生させてもよい。
【0032】
給排気量制御部140は、熱エネルギ伝達量調整部150の制御に基づいて、発熱材料112に供給する水素の供給量を調整する。給排気量制御部140として、例えば、水素供給部130から発熱材料112へ水素ガスを供給する供給配管に介装された流量調整弁や収容部111内の余分なガスを回収する真空(吸引)ポンプを利用できる。また、給排気量制御部140として、収容部111の内部と外部とを連通するパージ配管に接続され、収容部111の内部の圧力を調整するパージバルブを利用できる。そして、パージ配管がパージバルブにより開閉されることにより、収容部111の内部の圧力が調整される。
【0033】
熱エネルギ伝達量調整部150は、熱エネルギ発生部110から熱交換部160へ供給される熱エネルギの供給量を制御する制御部である。具体的には、熱エネルギ伝達量調整部150は、伝熱面積算出部151及び伝熱面積調整部152を備える。
【0034】
伝熱面積算出部151は、熱交換部160からの熱エネルギ要求量に応じた熱エネルギ供給量を伝達するための高熱伝導部材153(
図2参照)の伝熱面積を算出する。具体的には、伝熱面積算出部151は、熱交換部160からの熱エネルギ要求量と、熱エネルギ発生部110の温度と熱交換部160の温度との差と、対向する熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間に配置される高熱伝導部材153により生じる熱抵抗とに基づいて、その熱エネルギ要求量に応じた熱エネルギ供給量を伝達するための高熱伝導部材153の伝熱面積を算出する。この算出方法は、
図2を参照して詳細に説明する。本実施形態では、熱エネルギ発生部110の温度とは、収容部111の内部の温度を意味する。また、熱エネルギ発生部110の外面とは、収容部111の外面を意味する。
【0035】
伝熱面積調整部152は、伝熱面積算出部151により算出された伝熱面積となる様に、高熱伝導部材153(
図2参照)と熱エネルギ発生部110の外面との接触面積と、高熱伝導部材153と熱交換部160の外面との接触面積とを調整する。この調整方法は、
図2乃至
図6を参照して詳細に説明する。
【0036】
熱エネルギ伝達量調整部150は、給排気量制御部140を制御して水素供給部130から収容部111に水素を供給すると共に、ヒータ制御部120を制御して電力をヒータ113に供給し発熱材料112を加熱し続け、収容部111の温度が上昇し発熱材料112が水素の吸蔵脱蔵反応を開始して、過剰な熱エネルギを発生する様に制御する。更に、熱エネルギ伝達量調整部150は、給排気量制御部140を制御して圧力を調整し、温度センサと圧力センサとで収容部111内部の温度と圧力を監視し、過剰な熱エネルギを安定的に発生する状態になったら、これらの温度、圧力条件を固定する様に、給排気量制御部140、ヒータ制御部120を制御する。過剰な熱エネルギを安定的に発生させる状態となったか否かは、熱エネルギ供給先の必要に応じて定めれば良い。例えば、発熱材料112の発熱量の変動幅が、熱エネルギ伝達量調整部150による制御目標値の所定範囲以内に収まることを基準とすることができる。なお、制御目標値の所定範囲は、制御目標値の-9%から+9%の範囲とすることができる。また、好ましくは制御目標値の-7%から+7%の範囲であり、より好ましくは制御目標値の-5%から+5%の範囲である。
【0037】
この様に、熱エネルギ伝達量調整部150は、温度センサからの温度情報と、圧力センサからの圧力情報とに基づいて、ヒータ制御部120及び給排気量制御部140を制御することにより、収容部111内の温度や圧力を調整して、発熱材料112の発熱量を制御する。こうして、熱エネルギ伝達量調整部150は、熱エネルギ発生部110の稼働状態を制御することにより、稼働状態を続ける発熱材料系の運転条件を維持する。なお、熱エネルギ伝達量調整部150の伝熱面積算出部151は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備えた1又は複数のマイクロコンピュータで構成される。また、熱エネルギ発生部110の稼働状態及び非稼働状態については、後述する。
【0038】
本実施形態では、熱エネルギ発生部110の稼働状態を熱エネルギ伝達量調整部150により制御する例を示すが、発熱システム100の内部または外部に他の制御装置を設け、その制御装置を用いて熱エネルギ発生部110の稼働状態を制御してもよい。例えば、本システムが車載される場合、車両制御用コントローラを用いて制御してもよい。
【0039】
熱交換部160は、熱エネルギ伝達量調整部150を経由して、熱エネルギ発生部110からの熱エネルギの供給を受けるものであり、受けた熱エネルギを対象部品180に供給する。具体的には、熱交換部160は、対象部品180に供給する熱エネルギ要求量を熱エネルギ伝達量調整部150に通知して、この熱エネルギ要求量に応じて熱エネルギ発生部110から供給された熱エネルギを対象部品180に供給する。
【0040】
なお、熱交換部160内には、温度を検出する温度センサ(図示省略)が設置される。
【0041】
また、熱交換部160には、例えば冷媒を流通させる流通配管(図示省略)が設置される。この流通配管は、熱交換部160の内部と外部とを連通する様に設置される。そして、熱エネルギ発生部110から供給された熱は、その流通配管を流れる冷媒と熱交換され、その冷媒により対象部品180に熱エネルギが供給される。冷媒としては、水、エチレングリコール等の液体を利用できる。例えば発熱システム100を内燃機関の暖機及び保温のための熱源として用いる場合、内燃機関の冷却液配管の一部を流通配管として熱交換部160に設置できる。これにより、熱エネルギ発生部110で発生した熱エネルギにより温度上昇した熱交換部160との熱交換により冷却液の温度が上昇し、内燃機関の暖機及び保温が可能となる。なお、冷媒として気体(例えば、空気)を用いてもよい。
【0042】
なお、熱交換部160の周囲については、熱エネルギ伝達量調整部150の高熱伝導部材153と流通配管とに接触する部分以外を断熱材で覆い、熱エネルギの放射や周りの外気との熱対流がほとんど起こらない様にすることが好ましい。以上、熱交換部160に冷媒を流通させる例を示したが、他の熱伝達手段により熱エネルギを供給してもよい。
【0043】
[発熱材料及び稼働条件の具体例]
以下、熱エネルギを時系列的に安定して振動する様に発生させることができる水素吸蔵機能を有する発熱材料の一例を、その発熱材料系を稼働(水素吸蔵反応)させる条件(圧力、温度等)の一例とともに示す。なお、発熱材料や稼働条件は、以下に限定されない。
【0044】
[発熱材料の構成例]
発熱材料は、水素吸蔵合金から形成される。この水素吸蔵合金は、水素ガス(H2)の存在下で加熱され、水素を吸蔵して水素化物合金となる。この水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵と脱蔵が繰り返される結果、大量の熱を外部に放出する。このような水素吸蔵合金は、発熱材料として、熱エネルギ発生システムに好適に適用される。
【0045】
本実施形態に係る発熱材料が大量の熱(過剰熱)を発生するメカニズムは完全には明らかとなっていないが、本発明者らは、上述したように水素化物合金の相転移の繰り返しによって水素の吸蔵と脱蔵が繰り返される結果、大量の発熱が生じるものと推測している。
【0046】
本実施形態に係る発熱材料は、水素ガスの存在下で過剰熱を発生しうる限りにおいて特に限定されないが、例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系を例示できる。
【0047】
例えば、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金は、パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系合金をメルトスピニング法(溶融急冷法)によって非晶質リボンとした後、大気中で酸化処理を行い、さらに粉砕処理を行って作製される。メルトスピニング法は、高温で溶融した合金を高速回転する銅製ロール表面上に吹き付けることによって、結晶化時間よりも非常に短い時間の間に急冷し、非晶質リボンを得る方法である。非晶質リボンを酸化処理することによって、構成元素のジルコニウム(Zr)が酸化したZrO2が生成されるとともに、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)がナノ金属粒子として析出した微細構造が形成される。
【0048】
パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の一例として、メルトスピニング法を用いて、パラジウム(Pd):ニッケル(Ni):ジルコニウム(Zr)=4:31:65の原子比で作成した合金を450℃、60時間空気中で焼成することにより、厚さが約35μm、長さが30~300μmの大きさの板形状を有する発熱材料を調製することができる。
【0049】
[稼働(反応)条件例]
次に、水素吸蔵合金を用いる熱エネルギ発生システム(発熱システム100に対応)を稼働させるための条件等について説明する。
【0050】
<第1ステップ>
まず、熱エネルギ発生システムにおいて、基準温度(常温)および基準圧力(常圧)に対して水素吸蔵合金を加温および減圧して、水素吸蔵合金の表面の不純物を離脱させる。なお、基準温度および基準圧力は、例えば25℃、0.1MPa(約1atm)とする。
【0051】
具体的に説明すると、水素吸蔵合金に対して前処理(真空脱気および加熱離脱)を実施し、合金表面からの不純物を取り除く。この前処理は、基準温度および基準圧力に対し加温および減圧して行う。この加温の温度は、特に限定されないが、例えば、約200℃である。また、減圧の圧力は、特に限定されないが、例えば、真空(1.0×10-2Paオーダー)である。加温および減圧を保持する時間についても特に限定されないが、例えば、50~100分である。パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の場合、200℃、真空(0.01Pa)である。
【0052】
<第2ステップ>
次に、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系(収容部111に対応)の気相部を、基準温度よりも高い第1温度かつ基準圧力よりも高い第1圧力に加温および加圧して、水素吸蔵合金の合金相に水素を吸蔵させる水素吸蔵を行う。ここで、系の気相部は、収容部111の内部において水素ガスが存在する空間を意味する。
【0053】
ここで、第1温度および第1圧力は使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第1温度は、例えば、400~800℃であり、第1圧力は、例えば、0.1MPa(abs)(約1atm)よりも高く、1MPa(abs)(約10atm)以下の範囲の圧力である。第1温度および第1圧力を保持する時間は、使用する水素吸蔵合金の水素吸蔵速度特性によって異なるため特に限定されないが、例えば、1~60時間である。パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の場合、500~800℃、0.1超~1MPaである。
【0054】
<第3ステップ>
次に、振動発熱現象を確実に生じさせるための処理を行う。具体的には、水素吸蔵合金と水素ガスとを含む系の気相部を、基準温度よりも高く第1温度よりも低い第2温度かつ第1圧力よりも低い第2圧力に維持する処理を行う。
【0055】
ここで、第2温度および第2圧力は、使用する水素吸蔵合金によって異なるため特に限定されないが、第2温度は、例えば、200~800℃未満(ただし、第1温度よりも低いこと)であり、第2圧力は、例えば、0.01MPa(abs)(約0.1atm)~0.3MPa(abs)(約3atm)(ただし、第1圧力よりも低いこと)である。なお、第2温度および第2圧力を保持しても、振動発熱は、経過時間とともに振動幅が徐々に小さくなるものの、所定時間(例えば100時間程度)継続する。パラジウム(Pd)-ニッケル(Ni)-ジルコニウム(Zr)系の水素吸蔵合金の場合、450℃、0.01MPaである。第2温度の範囲として、例えば、20℃~900℃を設定してもよく、100℃~700℃を設定してもよい。好ましくは、200℃~500℃を設定できる。
【0056】
この様に、熱エネルギ発生システムにおいて、第1ステップから第3ステップの各処理を行うことにより、パルス的に発生する過剰熱を確実に発生させることが可能となる。
【0057】
また、熱エネルギ発生システムの制御装置(熱エネルギ伝達量調整部150に対応)は、第2ステップで示した条件の雰囲気下において系の気相部を所定時間以上維持した後、発熱材料の単位質量当たりの発熱量が振幅の閾値以上の振動を開始するまで、第3ステップで示した条件の雰囲気下に系の気相部を維持する制御を実行する。
【0058】
ここで、熱エネルギ発生部(熱エネルギ発生部110に対応)の稼働状態及び非稼働状態について説明する。
【0059】
上述した第1ステップから第3ステップの各処理については、例えば、工場出荷時(例えば、熱エネルギ発生システムが適切に稼働できるか検査する時)等において一度行う。
【0060】
そして、熱エネルギ発生システムを稼働させる場合には、室温から立ち上げて、上述した第1ステップ、第2ステップを省略して、上述した第3ステップの処理を行う。即ち、工場出荷時等において、第1ステップから第3ステップの各処理を一度行うことにより、発熱材料内には水素ガスが吸蔵され、残っているため、新たな吸蔵ステップは不要になる。そこで、熱エネルギ発生システムを稼働させる場合には、上述した第3ステップの処理のみを行うことで、熱エネルギ発生システムを速やかに立ち上げることができる。
【0061】
また、熱エネルギ発生システムにおいて、非稼働状態の熱エネルギ発生部を稼働状態とする場合には、水素ガスを供給するとともにヒータから熱を加え、非稼働状態の熱エネルギ発生部の温度と圧力を制御する。具体的には、非稼働状態の熱エネルギ発生部の温度と圧力が第3ステップで示した第2温度および第2圧力となる様に制御する。即ち、熱エネルギ発生部の気相部の温度を上昇させ、熱エネルギ発生部の気相を加圧または減圧することにより、非稼働状態の熱エネルギ発生部を稼働状態とすることができる。これにより、非稼働状態の熱エネルギ発生部を、安定して振動的な発熱を行う稼働状態の熱エネルギ発生部となる様に制御することが可能となる。
【0062】
また、熱エネルギ発生システムにおいて、稼働状態の熱エネルギ発生部を非稼働状態とする場合には、水素ガスの供給を停止するとともにヒータからの熱の供給を停止し、稼働状態の熱エネルギ発生部の温度と圧力を制御する。なお、この例では、水素ガスの供給と、ヒータからの熱の供給とを停止する例を示すが、これらのうちの一方を停止または調整して、稼働状態の熱エネルギ発生部を非稼働状態とする様にしてもよい。即ち、稼働状態の熱エネルギ発生部の気相部の温度を下げるか、熱エネルギ発生部の気相を減圧することにより、稼働状態の熱エネルギ発生部を非稼働状態とすることができる。
【0063】
本実施形態では、外部からの熱エネルギ要求量の変化の都度、水素ガス供給、温度、圧力を複雑に制御して熱エネルギ発生量を変えるのではなく、起動時に設定した効率のよい熱エネルギ発生モード(温度や圧力)を維持し、熱エネルギ発生を続行できる。
【0064】
[高熱伝導部材の構成例]
図2は、伝熱面積調整部152を構成する高熱伝導部材153と、熱エネルギ発生部110と、熱交換部160との関係を簡略化して示す図である。
【0065】
高熱伝導部材153は、熱エネルギ発生部110及び熱交換部160間に配置され、熱エネルギ発生部110において発生した熱エネルギを熱交換部160に供給するための部材である。例えば、高熱伝導部材153は、向かい合う熱エネルギ発生部110の外面114と熱交換部160の外面161との間に配置される。また、熱伝達状態では、高熱伝導部材153の少なくとも一部は、熱エネルギ発生部110の外面114と、熱交換部160の外面161との双方に接する様に配置される。
【0066】
高熱伝導部材153として、例えば金属、高熱伝導性セラミック、カーボン材料を利用できる。これらの材料で高熱伝導部材153を構成することで、調節された伝熱面積に対応する熱エネルギ供給量を迅速に実現でき、発熱システム100の応答性をより高められる。なお、高熱伝導部材153として液体金属252を用いる例を
図4に示し、高熱伝導部材153として板状部材(金属板310、410)を用いる例を
図5、
図6に示す。
【0067】
次に、高熱伝導部材153の移動熱量Qについて説明する。移動熱量Qは、以下の式1に示す様に、接触面積Aと単位面積当たりの移動熱量qとを用いて求められる。単位面積当たりの移動熱量qは、高熱伝導部材153が接する熱エネルギ発生部110の温度Tgと、高熱伝導部材153が接する熱交換部160の温度Texと、熱エネルギ発生部110と高熱伝導部材153との接触熱抵抗h1と、熱交換部160と高熱伝導部材153との接触熱抵抗h2と、高熱伝導部材153の熱伝導率kmと、高熱伝導部材153のサイズxとに基づいて求められる。なお、接触面積Aは、高熱伝導部材153と熱エネルギ発生部110の外面との接触面積と、高熱伝導部材153と熱交換部160の外面との接触面積とのうちの小さい方の面積を意味する。また、高熱伝導部材153のサイズxは、
図2に示す様に、高熱伝導部材153の厚さ(熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との最短距離)を意味する。
【0068】
【0069】
なお、温度Tg及び温度Texは、対応する各部に設置されている温度センサにより取得される。また、接触熱抵抗h1と、接触熱抵抗h2と、熱伝導率kmと、サイズxとは、記憶部に記憶されている。この記憶部は、熱エネルギ伝達量調整部150に設けてもよく、外部の記憶部を用いてもよい。
【0070】
式1で示す様に、高熱伝導部材153の移動熱量Qは、接触面積Aを調整することにより制御可能である。そこで、本実施形態では、高熱伝導部材153の接触面積Aを調整することにより、高熱伝導部材153の移動熱量Qを制御し、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギ供給量を制御する例を示す。
【0071】
[熱エネルギ伝達量調整部の制御例]
図3は、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギの伝達量を熱エネルギ伝達量調整部150により調整する制御例を示す図である。
図3では、
図2と同様に、高熱伝導部材153を用いて説明する。
図3の上側には、高熱伝導部材153を調整する前の状態を示し、
図3の下側には、高熱伝導部材153を調整した後の状態を示す。
【0072】
ここでは、熱エネルギ発生部110において発生する熱エネルギ(出力エネルギ)をQoutとし、熱交換部160から要求された熱エネルギ量(熱エネルギ要求量)をQdemとする。また、熱エネルギ発生部110において発生する熱エネルギ(出力エネルギ)Qoutのうち、熱交換部160に供給する熱エネルギ量(伝達量)をQprovとする。また、初期時には、Qout=Qdemで動作するものとする。
【0073】
発熱システム100の初期立ち上げ時には、熱エネルギ発生部110において発生する熱エネルギ(出力エネルギ)がQoutになる様に、水素供給部130から熱エネルギ発生部110に水素が供給され、ヒータ113に入力エネルギEinが供給される。具体的には、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力PがP0となる様に、水素供給部130から熱エネルギ発生部110に水素が供給される。また、熱エネルギ発生部110の温度TがT0となる様に、ヒータ113に入力エネルギEinが供給される。なお、P0は、発生する熱エネルギを一定とするための圧力条件を満たす値である。また、T0は、発生する熱エネルギを一定とするための温度条件を満たす値である。
【0074】
また、熱エネルギ伝達量調整部150は、熱エネルギ発生部110から熱交換部160に供給する熱エネルギQprovが、熱エネルギ要求量Qdemと同じになる様に、高熱伝導部材153を制御して高熱伝導部材153の伝熱面積を調整する。即ち、熱エネルギ伝達量調整部150は、Qprov=Qout=Qdemとなる様に、高熱伝導部材153を制御して熱交換部160(対象部品180)に熱エネルギを供給する。この場合のエネルギ消費効率COP(Coefficient Of Performance)は、次の式で求められる。なお、本実施形態では、COP>1となる。
COP=Qout(発熱量)/Ein(投入エネルギ)
【0075】
ここで、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutと、熱エネルギ要求量Qdemとが同一であるときには、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギの伝達量を調整する必要はない。しかし、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutよりも熱エネルギ要求量Qdemが小さい場合には、熱交換部160に対して過剰に熱エネルギを供給してしまうおそれがある。この様に、過剰に熱エネルギを供給してしまうと、その熱エネルギを受け取った熱交換部160(または対象部品180)が必要以上に加熱されてしまう。このため、熱交換部160(または対象部品180)は、その過剰な熱エネルギを廃棄する処理が必要となる。また、熱エネルギ発生部110においても、必要以上の熱エネルギを発生させることになるため、エネルギ効率が悪くなる。
【0076】
また、出力エネルギQoutよりも熱エネルギ要求量Qdemが小さい場合に、出力エネルギQoutのうち、熱エネルギ要求量Qdem以上の熱エネルギについては、熱エネルギ発生部110において廃棄することも考えられる。この場合、熱エネルギの供給先に対する過剰な熱エネルギの供給は阻止できるが、上述した様に、熱エネルギ発生部110において必要以上の熱エネルギを発生させることになるため、エネルギ効率が悪くなる。
【0077】
そこで、本実施形態では、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutよりも熱エネルギ要求量Qdemが小さい場合には、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギの伝達量を熱エネルギ伝達量調整部150により調整する。これにより、外部から要求された熱エネルギを即座に適切な量だけ供給できるとともに、余った熱エネルギを廃棄する必要がなくなるため、エネルギ効率を高めることができる。
【0078】
熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutよりも熱エネルギ要求量Qdemが小さくなった場合には、熱エネルギ伝達量調整部150は、伝達量Qprovが熱エネルギ要求量Qdemに一致する様に、高熱伝導部材153の伝熱面積を変更する。具体的には、伝熱面積算出部151は、熱交換部160からの熱エネルギ要求量Qdemと、熱エネルギ発生部110の温度と熱交換部160の温度との差と、高熱伝導部材153により生じる熱抵抗とに基づいて、熱エネルギ要求量Qdemに相当する熱エネルギ供給量を伝達するための高熱伝導部材153の伝熱面積を上述した式1を用いて算出する。
【0079】
次に、伝熱面積調整部152は、伝熱面積算出部151により算出された伝熱面積となる様に、高熱伝導部材153を制御して、高熱伝導部材153と熱エネルギ発生部110の外面114との接触面積と、高熱伝導部材153と熱交換部160の外面161との接触面積とを調整する。具体的には、伝熱面積調整部152は、
図3の矢印191に示す方向に、高熱伝導部材153を移動させることにより、それらの接触面積を調整する。
【0080】
ここで、高熱伝導部材153を制御することにより、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutのうち、熱交換部160に伝達される伝達量Qprovが減少するため、熱エネルギ発生部110において発生した熱が熱エネルギ発生部110の内部にこもることになる。この場合には、熱エネルギ発生部110の温度TがT0よりも高くなる。また、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力PもP0よりも高くなる。そこで、ヒータ制御部120は、熱エネルギ要求量Qdemに応じた出力エネルギQoutを発生させる様に、ヒータ113の入力エネルギEinを減少させる制御を行う。この様に、高熱伝導部材153の接触面積と、ヒータ113の入力エネルギEinとを制御することにより、熱エネルギ発生部110の温度TをT0に維持することができ、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力PをP0に維持することができる。
【0081】
この様に、伝熱面積調整部152により高熱伝導部材153が制御され、ヒータ制御部120によりヒータ113の入力エネルギEinが制御されることにより、熱エネルギ発生部110は、熱エネルギを外部の供給先に安定して供給できる様になる。そして、最終的に、Qout=Qprov=Qdemとなる様に制御される。
【0082】
以上から、熱エネルギ発生部110において発生される熱エネルギのうち、余った熱エネルギを廃棄する量を低減できる。また、熱エネルギ要求量への追随性を向上できる。
【0083】
次に、熱エネルギ伝達量調整部150の構成例について
図4乃至
図6を参照して説明する。具体的には、伝熱面積調整部152として、以下の二種類の構成例を示す。
(1)高熱伝導部材153として液体金属252を採用し、液体金属252の表面張力と電圧印加によるエレクトロウェッティング(電気濡れ)現象とを利用して、収容部111と熱交換部160との隙間に液体金属252を充填させる例(
図4参照)。
(2)収容部111と熱交換部160との隙間に、機械的に高熱伝導部材153を挿入させる例(
図5、
図6参照)。
【0084】
上述した(1)(2)に示す伝熱面積調整部152を用いることで、熱エネルギ伝達量調整部150をコンパクトにすることができるため、発熱システム100のエネルギ密度を維持して発熱システム100をコンパクトにすることができる。また、発熱システム100における熱エネルギの発生効率を高めることができる。
【0085】
[液体金属を利用する熱エネルギ伝達量調整部の構成例]
図4は、エレクトロウェッティングによる液体金属移動を利用した熱エネルギ伝達量調整部の構成例を示す断面図である。
図4では、電圧駆動により高熱伝導部材としての液体金属252を調整する例を示す。なお、
図4では、熱エネルギ発生部110の収容部111及び熱交換部160を箱状(即ち略直方体または略立方体)の形状とする例を示す。
【0086】
図4の左側には、全ての液体金属252が液収容部250に収容されている状態(即ち断熱状態)を示す。また、
図4の右側には、液体金属252のうちの一部が液収容部250から出て隙間240に入り、開放端253付近まで上がってきた状態(即ち熱伝達状態)を示す。なお、
図4の右側に示す液体金属252の高さhが、隙間240における液体金属252の高さの最大値とする。また、
図4の左側に示す液体金属252の高さ0から
図4の右側に示す液体金属252の高さhまでの範囲(液体金属252の高さ)については、電圧印加回路215により印加される電圧の大きさに基づいて制御される。
【0087】
図4に示す高熱伝導部材は、収容部111に接する第1電極構造体と、熱交換部160に接する第2電極体構造体と、第1電極構造体および第2電極体構造体の間の隙間240と、隙間240に出し入れされる液体金属252とを備える。ここで、第1電極構造体及び第2電極体構造体は、同じ構造を有していて、収容部111の外面と熱交換部160の外面との間に形成される空間(隙間240)を中心線とする対称構造である。第1電極構造体は、収容部111側から順に、第1電極211、誘電体221、第2電極212、撥液コート層231を備える。第2電極体構造体も同様に、熱交換部160側から順に、第1電極213、誘電体222、第2電極214、撥液コート層232を備える。
【0088】
また、下部基板201には、隙間240に連通した液収容部250が設けられている。液収容部250は、液体金属252を収容する液溜まりである。なお、隙間240において、液収容部250を設けた一端の反対側の端部は開放端253となっている。また、隙間240を上から見ると、撥液コート層231、232が隙間240を取り囲む様に形成されており、隙間240の側面部分から液体金属252が漏れない様になっている。また、開放端253は、液体金属252の移動によって隙間240内の圧力が上ったり下がったりしない様になっている。この様に、開放端253を設けることにより、液体金属252がスムーズに隙間240内を移動できる。
【0089】
なお、液体金属252は、導電性流体と称されることもある。また、液体金属252は、少なくとも、発熱システム100が使用される温度範囲において液体となる金属である。液体金属252として、例えば、ガリウム、インジウム、スズの共晶合金であるガリンスタンを用いることができる。ガリンスタンは、常温で液体の金属であり、ガリウム、インジウム、スズの組成よって融点が異なる。例えば、ガリウム68.5%、インジウム21.5%、スズ10%のガリンスタンは、融点:-19℃、沸点:1300℃以上、比重:6.44g/cm3、粘度:0.0024Pa・s(at20℃)、熱伝導率:16.5W/(m・K)である。なお、これらは一例であり、他の液体金属を用いてもよい。ただし、液体金属としては使用するものは熱伝達率が高いものが好ましい。
【0090】
また、第1電極211及び第2電極212間には、絶縁層である上部基板202が配置されている。また、第1電極213及び第2電極214間には、絶縁層である上部基板203が配置されている。なお、上部基板202、203として、少なくとも誘電体221、222よりも誘電率の低い絶縁体(絶縁材)を用いることが好ましい。
【0091】
また、第1電極211、213には配線217が電気的に接続され、第2電極212、214には配線216が電気的に接続されている。また、配線216、217は、液体金属252を制御するための電圧印加回路215に接続されている。電圧印加回路215は、伝熱面積算出部151からの指示に基づいて、第1電極211、213及び第2電極212、214間に印加する電圧を連続的に可変にする回路である。
【0092】
第2電極212、214は、液収容部250の内部にまで入っていて、液体金属252と電気的に導通することができる。一方、第1電極211、213は液収容部250からは絶縁されている。即ち、第1電極211、213は液体金属252と絶縁されている。これにより、第1電極211、213と第2電極212、214とは、その間にある誘電体221、222を介したキャパシタ構造となっていて、これがそのまま液体金属252と第1電極211、213とのキャパシタとして作用する。
【0093】
第1電極211、213及び第2電極212、214は、銅、アルミニウムなど、導電性のものであれば、特に限定されない。第1電極211、213及び第2電極212、214の形状は略同じであり、隙間240の大きさに応じた形状の電極板となっている。
【0094】
誘電体221、222は、例えば、シリコン酸化膜やシリコ窒化膜などの誘電体であれば特に限定されない。誘電体221、222の形状は第1電極211、213及び第2電極212、214に応じた形状であり、第1電極211、213及び第2電極212、214が短絡しない形状となっている。
【0095】
撥液コート層231、232は、液体金属252に対して撥液性を有する。また、撥液コート層231、232の形状は、第2電極212、214を覆う形状とする。なお、撥液コート層231、232は、導電性であることが好ましい。撥液コート層231、232の材料は、例えば、導電性酸化膜(LaSrTiO3系等)、導電性ガラス材(V-Fe-Ba-O系等)、導電性セラミックス(SiC系等)、グラフェンなどが好ましい。
【0096】
撥液コート層231、232が液体金属252に対して撥液性となっているため、電気を印加していない状態では、液体金属252が容易に液収容部250内に収納される。また、撥液コート層231、232が導電性を有することで、第2電極212、214に流した電気を液体金属252に直接流すことができて効率が良い。また、第2電極212、214に電気を流して液体金属252を隙間240に充填する際に、液収容部250内を略空(または空)にできるので、液体金属252の使用量を少なくすることができる。
【0097】
下部基板201は、少なくとも第1電極211、213及び第2電極212、214との間で絶縁されているものであればよい。例えば、全体が絶縁性を有する材料として、エポキシ基板、フェノール基板、ABS樹脂基板、シリコン基板等が用いられる。そして、これら基板に液収容部250を設ける。この場合、液体金属252を液収容部250内に収納しやすい様に、液溜まり内壁面を親液性にする。親液性を持たせるためには、液溜まり壁面に金属膜251(例えば銅、アルミニウムなどの膜)を形成することが好ましい。
【0098】
次に、
図4に示す高熱伝導部材の作用について説明する。この高熱伝導部材は、熱エネルギ発生部110及び熱交換部160間における熱の伝達と遮断(断熱)を切り替える機能を備えるため、
図4に示す高熱伝導部材を熱スイッチと称することがある。
【0099】
図4に示す例では、隙間240及び液収容部250間を行き来する液体金属252により熱スイッチ機能を実現する。なお、本実施形態では、液体金属252を隙間240及び液収容部250間を行き来させるため、エレクトロウェッティングを用いる。エレクトロウェッティングによる液体金属252の移動自体は、公知技術であり、例えば、WO2014/013978に開示されているため、ここでの詳細な説明を省略する。
【0100】
例えば、液体金属252は、隙間240の頂上である上部基板202、203の位置(高さh)まで到達する。上部基板202、203の隙間部分では、上部基板202、203の高さに存在する第1電極211、213と第2電極212、214との間には誘電体が存在しない(または誘電率が低い)。このため、この部分での静電エネルギはほとんど変化しないため、上昇した液体金属252の濡れ性はよくならないため、上部基板202、203よりも高い位置に液体金属252が上昇することはない。
【0101】
また、液体金属252が上昇したことにより、隙間240は液体金属252で満たされて収容部111及び熱交換部160間で熱エネルギが伝わる熱伝達状態になる。この様に、
図4に示す高熱伝導部材153では、エレクトロウェッティングにより隙間240に液体金属252が充填された熱伝達状態(
図4の右側に示す状態)と、隙間240から液体金属252を排除した断熱状態(
図4の左側に示す状態)とを電気的に制御することができる。また、
図4の右側に示す熱伝達状態と
図4の左側に示す断熱状態との間の状態については、電圧印加回路215により印加される電圧の大きさによって制御が可能である。この様に、第1電極211、213及び第2電極212、214間に印加する電圧を制御することで、エレクトロウェッティング作用により隙間240における液体金属252の高さを調整することができる。即ち液体金属252の伝熱面積を調整することができる。
【0102】
なお、液体金属252が隙間240を上昇すると液収容部250内から液体金属252が出てゆく。このとき、仮に液収容部250が密閉状態だと、液収容部250内部が負圧(真空)になるため、液体金属252が液収容部250から隙間240に出て行きづらくなる。そこで、液収容部250の下部端に穴を設ける様にしてもよい。この穴の大きさは液体金属252が漏れ出ない程度で、かつ、気体の流入、流出が起こる程度の大きさとする。なお、穴の位置は、液収容部250の下部端以外であってもよく、液体金属252が液収容部250から隙間240に出て行きやすくなる様に配置されていればよい。
【0103】
[液体金属を用いた熱エネルギ伝達量調整の制御例]
図3、
図4を参照して、液体金属を用いた熱エネルギ伝達量調整部150の制御例について説明する。この制御例では、車両に備えられる空調設備(例えばエアコン)を対象部品180とする。また、この制御例では、熱エネルギ発生部110の収容部111と熱交換部160との双方をステンレスとし、第1電極211、213、第2電極212、214をアルミニウムとし、誘電体221、222をチタン酸バリウムストロンチウムとし、下部基板201、上部基板202、203をシリコンとする。また、液体金属252としてガリンスタンを用いて、電圧印加回路215として可変電圧電源を用いる。
【0104】
発熱システム100の初期立ち上げ時の対象部品180からの熱エネルギ要求量Qdemは2kWであるとする。この場合、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutが2kWとなる様、水素供給部130から熱エネルギ発生部110に水素が供給され、ヒータ113に入力エネルギEinが供給される。具体的には、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力PがP0(1atm)となる様、水素供給部130から熱エネルギ発生部110に水素が供給され、熱エネルギ発生部110の温度TがT0(300℃)となる様、ヒータ113に入力エネルギEinとして0.5kWが供給される。この場合のエネルギ消費効率COPは4(=2kW(Qout)/0.5kW(Ein))となる。
【0105】
また、発熱システム100の初期立ち上げ時には、液体金属252が熱伝達状態(
図4の右側に示す状態)となる様に調整される。
【0106】
ここで、熱エネルギ発生部110からの熱エネルギにより車両が温まり、対象部品180(エアコン)には1kW(Qdem)の熱エネルギを供給すればよくなった場合を想定する。即ち、熱エネルギ要求量Qdemが1kWに減少した場合を想定する。
【0107】
この場合には、Qout(=2kW)>Qdem(1kW)となるため、熱エネルギ伝達量調整部150は、熱エネルギ発生部110からの伝達量Qprovが熱エネルギ要求量Qdemに一致する様に、高熱伝導部材153の伝熱面積を変更する。具体的には、熱エネルギ伝達量調整部150は、高熱伝導部材153の伝熱面積を半分にして、熱エネルギ発生部110からの伝達量Qprovを1kWとする。即ち、熱エネルギ伝達量調整部150は、液体金属252の高さをh/2にする。
【0108】
この制御でQprov(1kW)=Qdem(1kW)となり、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutから、熱交換部160に供給した熱エネルギQprovを差引いた熱エネルギ1kW(Qout(2kW)-Qprov(1kW))が余剰熱となる。
【0109】
そこで、最終的にQout=Qprov、かつ、熱エネルギ発生部110の温度TがT0(300℃)となる様に、ヒータ113の入力エネルギEinを制御する。例えば、ヒータ113の入力エネルギEinを0.25kWに徐々に下げ、熱エネルギ発生部110の温度Tの上昇を止める。この制御により、熱エネルギ発生部110の温度Tを最初の温度T0に戻すとともに、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力Pも最初の圧力P0に戻す。また、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutは1kWとなる。
【0110】
そして、最終的には、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutと熱エネルギ要求量Qdemとが一致し、かつ、ヒータ113の入力エネルギEinのみによって熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutを発生させる様にする。即ち、Qout=Qprov=Qdemとなる様に、ヒータ113の入力エネルギEinが制御される。これにより、対象部品180(エアコン)には変更後の熱エネルギ要求量Qdem(1kW)と同じ熱エネルギ量1kW(Qout=Qprov)を安定して供給することができる。
【0111】
この様に、液体金属252を用いる場合、表面張力とエレクトロウェッティングの現象を融合して、液体金属252の調整を即座に行うことができるため、熱エネルギ要求量の変化に迅速に対応することができる。即ち、対象部品180(エアコン)からの熱エネルギ要求量がダイナミックに変化する場合でも、その変化に適切に対応することができる。
【0112】
[平行移動式の伝熱面積調整部の構成例]
図5は、平行移動式の伝熱面積調整部300の構成例を示す図である。
図5では、熱エネルギ発生部110及び熱交換部160を箱型(即ち略直方体または略立方体)形状とする。具体的には、高熱伝導部材として金属板310を採用し、対向する熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間で、金属板310を平行移動させることにより、高熱伝導部材の伝熱面積を調整する。また、
図5では、熱エネルギ発生部110の収容部111としてステンレスを採用し、熱交換部160としてステンレスを採用する。
【0113】
伝熱面積調整部300は、金属板310と、駆動装置320と、接続部330とを備える。
【0114】
金属板310は、対向する熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間で、駆動装置320により平行移動される。即ち、矢印193方向への駆動装置320の直線運動に応じて、金属板310が矢印192方向に平行移動される。熱エネルギ発生部110(または熱交換部160)から、矢印192に垂直な方向に見た場合の金属板310の形状は、矩形状等とすることができる。金属板310の全体形状は、対向する熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との形状と、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱伝達量に応じて適宜設定される。また、金属板310に、10(W/m・K)以上の熱伝導率がある材料(金属、合金、セラミックス等)を用いることができる。例えば、金属板310にステンレス鋼、アルミ合金、アルミニウム、銅、炭化珪素等を用いると、エンジンの排熱を受ける部位に配置できる。このため、発熱システム100が車両に備えられる場合、それらの材料を金属板310に用いることが好ましい。
【0115】
駆動装置320は、直線運動をすることにより、金属板310を平行移動させるものであり、固定子321及び可動子322を備える。固定子321は、固定されたレール状の部材である。また、可動子322は、固定子321上を平行移動するものである。駆動装置320として、例えばリニアモータを用いることができる。
【0116】
接続部330は、金属板310と可動子322とを接続する接続材料である。接続部330としては、金属板310による熱伝達の影響を少なくするため、低熱伝導率の材料を用いることが好ましく、例えば低熱伝導率のセラミックスを用いることができる。
【0117】
固定子321において可動子322を矢印193方向に平行移動させることにより、金属板310を矢印194方向に平行移動させることができる。
図5の左側には、熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間に形成される空間(隙間311)に金属板310が入っていない状態(無挿入状態)を示す。この状態では、金属板310の伝熱面積が0となるため、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギの供給量は0となる。
【0118】
図5の右側には、隙間311に金属板310が入っている状態(挿入状態)を示す。この状態では、金属板310の伝熱面積に応じて、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギの供給量が決定される。
【0119】
[回転移動式の伝熱面積調整部の構成例]
図6は、回転移動式の伝熱面積調整部400の構成例を示し、熱エネルギ発生部110を円筒形状とし、一方の端面側から見た場合の上面図を示す。また、
図6に示す様に、熱エネルギ発生部110の外側面の一部に対向する位置に熱交換部160を配置する。この場合に、熱エネルギ発生部110の外側面と、熱交換部160の外面との間には、金属板410が入る空間(隙間411)が形成される。具体的には、高熱伝導部材として円弧状に曲げられた金属板410を採用し、熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間で、金属板410を回転移動させることにより、高熱伝導部材の伝熱面積を調整する。また、
図6に示す例では、熱エネルギ発生部110の収容部111としてステンレスを採用し、熱交換部160としてステンレスを採用する。
【0120】
伝熱面積調整部400は、金属板410と回転軸421と扇状板422とを備える。
【0121】
金属板410は、対向する熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間で、駆動装置(図示省略)により回転移動される高熱伝導部材である。即ち、矢印195方向への駆動装置の回転運動に応じて、金属板410が矢印195方向に回転移動される。金属板410の形状は、例えば矩形状の板状部材を熱エネルギ発生部110の外側面の円周に沿って曲げた形状とすることができる。なお、金属板410は、扇状板422の下側に配置されているため、
図6では、金属板410を点線で示す。また、金属板410の形状は、対向する熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との形状と、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱伝達量に応じて適宜設定される。また、金属板410に用いる材料については、金属板310と同様とすることができる。
【0122】
回転軸421は、円筒形状の熱エネルギ発生部110の中心に設けられている孔に設置される。また、回転軸421には、回転軸421を回転させる駆動装置(図示省略)が接続されている。この駆動装置として、例えばサーボモータを用いることができる。
【0123】
扇状板422は、金属板410と回転軸421とを接続する部材である。なお、扇状板422に用いる材料については、接続部330と同様とすることができる。
【0124】
駆動装置は、扇状板422を矢印195方向に回転移動させることにより、金属板410を回転移動させることができる。
図6の左側には、隙間411に金属板410が入っていない状態(無挿入状態)を示す。この状態では、金属板410の伝熱面積が0となるため、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギの供給量は0となる。
【0125】
図6の右側には、隙間411に金属板410が入っている状態(挿入状態)を示す。この状態では、金属板410の伝熱面積に応じて、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギの供給量が決定される。
【0126】
[発熱システムの動作例]
図7は、発熱システム100における発熱制御処理の処理手順の一例を示すフローチャートであり、発熱システム100の初期立ち上げ後に、熱交換部160からの熱エネルギ要求量が変化した場合の例を示す。なお、この処理手順は、記憶部(図示省略)に記憶されているプログラムに基づいて実行される。また、この処理手順は、所定の演算周期で繰り返し実行される。
図7では、
図1、
図2に示す構成を参照して説明する。
【0127】
ステップS501において、伝熱面積算出部151は、熱交換部160からの熱エネルギ要求量が変化したか否かを判定する。熱交換部160からの熱エネルギ要求量が変化した場合には、ステップS502に進む。一方、熱交換部160からの熱エネルギ要求量が変化していない場合には、伝熱面積の調整が不要であるため、動作を終了する。
【0128】
ステップS502において、伝熱面積算出部151は、熱交換部160からの熱エネルギ要求量と、熱エネルギ発生部110の温度と熱交換部160の温度との差と、対向する熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間に配置される高熱伝導部材153により生じる熱抵抗とに基づいて、その熱エネルギ要求量に応じた熱エネルギ供給量を伝達するための伝熱面積を算出する。例えば上述した式1を用いて、必要となる高熱伝導部材153の接触面積Aが算出される。
【0129】
ステップS503において、伝熱面積算出部151は、ステップS502で算出された伝熱面積と、現在の伝熱面積とが同一であるか否かを判断する。ステップS502で算出された伝熱面積と、現在の伝熱面積とが同一である場合には、伝熱面積の調整が不要であるため、動作を終了する。一方、ステップS502で算出された伝熱面積と、現在の伝熱面積とが同一でない場合には、ステップS504に進む。
【0130】
ステップS504において、伝熱面積調整部152は、ステップS502で算出された伝熱面積となる様に、高熱伝導部材153と熱エネルギ発生部110の外面との接触面積と、高熱伝導部材153と熱交換部160の外面との接触面積とを調整する。例えば、
図4乃至
図6に示す様に、液体金属252、金属板310、410を移動させることにより接触面積を調整する。
【0131】
ステップS505において、ヒータ制御部120は、必要に応じて、ヒータ113の入力エネルギを変更する。
【0132】
ここで、従来技術を活用した場合を想定する。従来技術では、個々の発熱材料系の温度、圧力、水素供給量を複雑に制御する必要があるため、熱エネルギ要求量の変化に対応するためには、比較的長い時間が必要となる。これに対して、本実施形態では、熱エネルギ発生部110及び熱交換部160間での高熱伝導部材153の出し入れを1秒程度で行い、熱エネルギ供給量を調整できる。このため、熱エネルギ要求量に応じた熱エネルギを比較的短い時間で供給できる様になる。したがって、従来技術を活用した場合と比較すると、本実施形態では、数倍から10倍程度、追随性を向上させることができる。
【0133】
[第1実施形態の構成及び効果]
発熱システム100は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する熱エネルギ発生部110(発熱材料系)を備える発熱システムである。また、発熱システム100は、熱エネルギ発生部110からの熱エネルギの供給を受け、対象部品180(外部の部品の一例)へ当該熱エネルギを供給する熱交換部160と、熱交換部160からの熱エネルギ要求量に基づいて、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギ供給量を調整する熱エネルギ伝達量調整部150とを備える。
【0134】
この発熱システム100によれば、熱エネルギ伝達量調整部150が、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギ供給量を調整するため、熱交換部160からの熱エネルギ要求量に対しての応答性(追随性)を向上させることができる。即ち、対象部品180からの熱エネルギ要求に応じて適切な熱エネルギを供給できる。
【0135】
さらに、発熱システム100では、熱エネルギ発生部110(発熱材料系)は、水素吸蔵機能を有する発熱材料112と、発熱材料112に熱量を供給するヒータ113と、発熱材料112とヒータ113とを収納する収容部111とを含む。また、発熱システム100は、ヒータ113の供給熱量を制御するヒータ制御部120と、熱エネルギ発生部110に水素を供給する水素供給部130と、水素供給部130から熱エネルギ発生部110への給排気量を制御する給排気量制御部140とをさらに備える。
【0136】
この発熱システム100によれば、ヒータ制御部120及び給排気量制御部140によりシステムを安定的に制御することができ、熱交換部160からの熱エネルギ要求量に対して、安定的な応答性(追随性)を向上させることができる。
【0137】
さらに、発熱システム100では、熱エネルギ伝達量調整部150は、伝熱面積算出部151及び伝熱面積調整部152を備える。伝熱面積算出部151は、熱交換部160からの熱エネルギ要求量と、熱エネルギ発生部110の温度と熱交換部160の温度との差と、向かい合う熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間に配置される高熱伝導部材153により生じる熱抵抗とに基づいて、その熱エネルギ要求量に応じた熱エネルギ供給量を伝達するための高熱伝導部材153の伝熱面積を算出する。また、伝熱面積調整部152は、伝熱面積算出部151により算出された伝熱面積に基づいて、高熱伝導部材153と熱エネルギ発生部110の外面との第1接触面積と、高熱伝導部材153と熱交換部160の外面との第2接触面積とを調整する。
【0138】
この発熱システム100によれば、伝熱面積算出部151及び伝熱面積調整部152により高熱伝導部材153の伝熱面積が調整されるため、追随性(応答性)を高めるとともに、熱エネルギ供給量の精度を高めることができる。
【0139】
さらに、発熱システム100では、伝熱面積調整部152は、高熱伝導部材としての液体金属252と、向かい合う熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との間に形成される隙間240と、隙間240の一端に接続して隙間240に出入りする液体金属252を収容する液収容部250と、熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との双方において、隙間240を基準にして対称となる様に当該各外面に平行に設けられる、少なくとも一対の第1電極211、213と誘電体221、222と第2電極212、214とをさらに備える。また、伝熱面積調整部152は、第1電極211、213及び第2電極212、214間に印加する電圧を調整してエレクトロウェッティング作用により液体金属252を隙間240に出入りさせることにより第1接触面積及び第2接触面積を調整する。
【0140】
この発熱システム100によれば、表面張力とエレクトロウェッティングの現象を融合して、液体金属252の出し入れを即座に行うことができるため、追随性(応答性)を高めた熱エネルギ供給を実現できる。また、液体金属252を用いるため、発熱システム100をコンパクト化でき、かつ、熱エネルギ要求量の変化に対する追従性を高められる。
【0141】
さらに、発熱システム100は、第1電極211、213及び第2電極212、214間に印加する電圧を連続的に可変にする電圧印加回路215(可変電圧電源)を備える。
【0142】
この発熱システム100によれば、電圧を連続的に変えることができるので、液体金属252の出し入れ度合を細かく調節し易くなる。これにより、液体金属252の伝熱面積を精度良く調節することができる。
【0143】
さらに、発熱システム100では、伝熱面積調整部152は、熱エネルギ発生部110(発熱材料系の一例)の外面と熱交換部160の外面との隙間311において金属板310(高熱伝導部材の一例)を移動させる駆動装置320(駆動部の一例)を備え、駆動装置320を制御して隙間311における金属板310の移動により第1接触面積及び第2接触面積を調整する。さらに、伝熱面積調整部152は、熱エネルギ発生部110の外面と熱交換部160の外面との隙間411において金属板410(高熱伝導部材の一例)を移動させる駆動装置(駆動部)を備える。この駆動装置を制御して隙間411における金属板410の移動により第1接触面積及び第2接触面積を調整する。
【0144】
この発熱システム100によれば、機械的な駆動部により、高熱伝導部材の出し入れを迅速かつ円滑に行えるため、追随性(応答性)を高めた熱エネルギ供給を実現できる。
【0145】
さらに、発熱システム100は、熱エネルギ発生部110(発熱材料系の一例)を稼働状態とする場合には、熱エネルギ発生部110(発熱材料系の一例)の気相部の温度を基準温度とし、その気相部の圧力を基準圧力とする様に制御する。
【0146】
この発熱システム100によれば、効率の良い温度及び圧力で熱エネルギ発生部110を稼働させることにより、熱エネルギを時系列的に安定して振動する様に発生させることができる。即ち、熱エネルギ発生部110に稼働条件(気相部圧力・温度)を設定し、時系列的に安定して熱エネルギを発生させることにより、単位時間当たりの熱エネルギの発生量が安定し、熱エネルギ供給量の制御の精度が改善する。また、水素化物合金の相転移によって水素ガスの吸蔵および脱蔵が繰り返されることで過剰発熱するため、供給されるヒータの熱や水素を効率良く活用でき、発熱システム100の効率をより高められる。
【0147】
また、第1実施形態に係る発熱方法は、水素吸蔵材料を有し過剰熱を発生する熱エネルギ発生部110(発熱材料系の一例)を用いる。この発熱方法は、熱エネルギ発生部110からの熱エネルギを対象部品180(外部の部品の一例)へ供給する熱交換部160と熱エネルギ発生部110との間に配置される高熱伝導部材153を用い、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギ供給量を制御する制御ステップ(ステップS501~S505)を備える。この制御ステップでは、熱交換部160からの熱エネルギ要求量に基づき、高熱伝導部材153を移動させることで熱エネルギ供給量を制御する。
【0148】
この発熱方法によれば、高熱伝導部材153を用いて熱エネルギ供給量を調整するため、熱交換部160からの熱エネルギ要求量に対する応答性(追随性)を向上できる。即ち、対象部品180からの熱エネルギ要求に応じて適切な熱エネルギを供給できる。
【0149】
[第2実施形態]
第1実施形態では、熱エネルギ発生部110から熱交換部160への熱エネルギの伝達量を熱エネルギ伝達量調整部150により調整した後に、ヒータ113の入力エネルギを変化させ、熱エネルギ発生部110において発生する熱エネルギを制御する例を示した。この場合には、熱エネルギ伝達量調整部150による調整後から、ヒータ113の入力エネルギの変化に応じた熱エネルギ発生部110の熱エネルギの調整までに所定時間を要する。このため、その所定時間に熱エネルギ発生部110で発生する熱エネルギの一部が使用されない場合には、その一部の熱エネルギが余剰熱となってしまう。
【0150】
そこで、第2実施形態では、熱エネルギ伝達量調整部150による調整後から、ヒータ113の入力エネルギの変化に応じた熱エネルギ発生部110の熱エネルギの調整までの間に発生する余分な熱エネルギを蓄熱材に蓄熱して再利用する例を示す。
【0151】
[発熱システムの構成例]
図8は、発熱システム600の構成例を示す概略構成図である。発熱システム600は、
図1に示す発熱システム100に対し、蓄熱材610を設けた点が異なる。そこで、以下では、
図1に示す発熱システム100と異なる点を中心にして説明する。
【0152】
蓄熱材610は、熱エネルギ発生部110において発生した熱エネルギを蓄えるものである。即ち、熱エネルギ発生部110において発生した熱エネルギのうち、熱交換部160に供給されなかった熱エネルギを蓄熱材610に蓄えておくことにより、熱エネルギ発生部110において発生した熱エネルギのうちの一部を再利用することができる。例えば、熱エネルギ発生部110において発生する熱エネルギ以上の熱エネルギ要求量が発生した場合には、蓄熱材610に蓄えられた熱エネルギを使用することができる。なお、蓄熱材610としては、公知の各種蓄熱材を用いることができる。
【0153】
熱エネルギ発生部110及び蓄熱材610の間には、熱エネルギの伝達が可能な部材を配置する。この部材の一例を
図9に示す。
【0154】
[蓄熱材を使用した実施例]
図9は、発熱システム600において蓄熱材610を設置する場合の一例を示す概略構成図である。
図9では、熱エネルギ発生部110及び蓄熱材610間に熱スイッチ621を配置し、蓄熱材610及び熱交換部160間に熱スイッチ622を配置する例を示す。
【0155】
図9では、熱スイッチ621、622として、
図4に示す液体金属のエレクトロウエテングを利用した熱スイッチを用いる例を示す。なお、熱スイッチ621、622は、熱スイッチ制御部より制御される。この熱スイッチ制御部は、熱エネルギ伝達量調整部150に備える様にしてもよく、専用の制御部として設ける様にしてもよい。
【0156】
図9では、熱エネルギ発生部110の収容部111の近傍に蓄熱材610を含む蓄熱材収容部を配置する例を示す。また、
図9では、高熱伝導部材153として、
図4に示す液体金属252を使用する例を示す。また、
図9では、熱エネルギ発生部110の収容部111については、伝熱面積調整部152及び熱スイッチ621に接触する周辺以外を断熱材で覆い、熱エネルギの放射や周りの外気との熱対流がほとんど起こらない様にする。
【0157】
熱スイッチ制御部は、蓄熱材610の蓄熱状態を維持するときには熱スイッチ621、622をオフしておく。また、熱スイッチ制御部は、必要に応じて、熱スイッチ621をオフからオンにして、熱エネルギ発生部110において発生した熱エネルギの一部を蓄熱材610に蓄熱する。また、熱スイッチ制御部は、必要に応じて、熱スイッチ622をオフからオンにして、蓄熱材610に溜めた熱エネルギを熱交換部160に供給する。
【0158】
[蓄熱材を用いる場合の制御例]
図10は、蓄熱材610を用いる場合の制御例を簡略化して示す図である。
【0159】
発熱システム600の初期立ち上げ時の熱エネルギ要求量Qdemは2kWであるものとする。この場合には、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutが2kWとなる様に、水素供給部130から熱エネルギ発生部110に水素が供給され、ヒータ113に入力エネルギEinが供給される。具体的には、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力PがP0(1atm)となる様に、水素供給部130から熱エネルギ発生部110に水素が供給される。また、熱エネルギ発生部110の温度TがT0(300℃)となる様に、ヒータ113に入力エネルギEinとして0.5kWが供給される。この場合のエネルギ消費効率COPは4(=2kW(Qout)/0.5kW(Ein))となる。
【0160】
次に、熱エネルギ要求量Qdemが1kWに減少した場合を想定する。この場合には、Qout(=2kW)>Qdem(1kW)となるため、熱エネルギ伝達量調整部150は、熱エネルギ発生部110からの伝達量Qprovが熱エネルギ要求量Qdemに一致する様に、高熱伝導部材153の伝熱面積を変更する。具体的には、熱エネルギ伝達量調整部150は、高熱伝導部材153の伝熱面積を半分にして、熱エネルギ発生部110からの伝達量Qprovを1kWとする。例えば、矢印197方向に高熱伝導部材153を移動させることにより、高熱伝導部材153の伝熱面積を半分にする。
【0161】
この制御により、Qprov(1kW)=Qdem(1kW)となり、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutから、熱交換部160に供給した熱エネルギQprovを差し引いた熱エネルギ1kW(Qout(2kW)-Qprov(1kW))が余剰熱となる。この余剰熱により熱エネルギ発生部110の温度が急上昇する。また、その余剰熱の一部が再利用されて発熱材料112で熱エネルギを発生させるため、その結果としてQoutがさらに増大し(即ち、Qout>2kW)、熱エネルギ発生部110の温度がさらに急上昇する。この場合、熱エネルギ発生部110の温度Tが300℃より高くなり、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力Pも1atmより高くなる。
【0162】
そこで、第2実施形態では、蓄熱材610に余剰熱(Qout-Qprov)の一部を蓄積し、必要に応じて再利用する様にする。例えば、矢印198方向に熱スイッチ621を移動させることにより、熱スイッチ621の全ての伝熱面積を用いる様にする。なお、熱エネルギ発生部110から余剰熱(Qout-Qprov)が発生しなくなった場合には、熱スイッチ621を戻してオフとし、蓄熱材610への蓄熱を停止する。
【0163】
次に、最終的にQout=Qprov、かつ、熱エネルギ発生部110の温度TがT0(300℃)となる様、ヒータ113の入力エネルギEinを制御する。例えば、ヒータ113の入力エネルギEinを0.2kWに徐々に下げて、熱エネルギ発生部110の温度Tの上昇を止める。この制御により、熱エネルギ発生部110の温度Tが320℃程度となり、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力Pは1atmより高くなる。熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutは、1kWから2kWの範囲内となる。
【0164】
この様に、熱エネルギ発生部110の温度Tの温度上昇を抑えた後に、ヒータ113の入力エネルギEinを、0.2kWから0.25kWに徐々に上げる制御を行い、熱エネルギ発生部110の温度TをT0(300℃)に戻す様にする。即ち、ある程度の時間をかけて、熱エネルギ発生部110の温度Tを最初の温度T0に戻す様に制御される。
【0165】
最終的には、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutと熱エネルギ要求量Qdemとが一致し、かつ、ヒータ113の入力エネルギEinのみによって熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutを発生させる。即ち、Qout=Qprov=Qdemとなる様、ヒータ113の入力エネルギEinが制御されることで、変更後の熱エネルギ要求量Qdem(1kW)と同じ熱エネルギ量を安定して供給することができる。
【0166】
また、第2実施形態では、蓄熱材610に蓄積された熱エネルギは、必要に応じて再利用する。例えば、矢印199方向に熱スイッチ622を移動させることにより、蓄熱材610に蓄積された熱エネルギを熱交換部160に供給できる。
【0167】
例えば、車両に備えられる空調設備(例えばエアコン)が対象部品180である場合を想定する。この場合、熱エネルギ要求量Qdemが増加することも想定される。そこで、蓄熱材610を用いることにより、熱エネルギ要求量が増加した場合でも、適切に対応できる様になる。この様に、第2実施形態によれば、熱エネルギ発生部110で発生した熱エネルギのうち、熱交換部160に供給したものを差し引いた熱エネルギを蓄熱材610に溜めておき、再利用が可能なため、熱エネルギ利用効率をさらに高めることができる。
【0168】
以上では、蓄熱材610に溜めた熱を熱交換部160に供給する例を示したが、必要に応じ、熱エネルギ発生部110に戻してもよい。蓄熱材610に溜めた熱を熱エネルギ発生部110に戻す場合には、ヒータ113の入力エネルギEinを下げてもよい。
【0169】
[第2実施形態の構成及び効果]
発熱システム600は、熱エネルギ発生部110において発生する熱エネルギを蓄熱する蓄熱材610をさらに備える。また、発熱システム600は、熱エネルギ伝達量調整部150による熱エネルギ供給量の調整後に熱エネルギ発生部110から熱交換部160に供給される熱エネルギのうちの余剰エネルギを蓄熱材610に蓄熱させる。
【0170】
この発熱システム600によれば、熱エネルギ発生部110において発生した熱エネルギのうちの余剰エネルギを蓄熱材610に蓄熱することにより、無駄なエネルギの発生を阻止することができる。また、蓄熱材610に蓄積された熱エネルギを必要に応じて再利用することができるため、エネルギ効率を高めることができる。
【0171】
[第3実施形態]
第1、第2実施形態では、1つの対象部品180に熱エネルギを供給するため、1組の熱エネルギ伝達量調整部150及び熱交換部160を備えた。ただし、複数の対象部品に熱エネルギを供給することも想定されるので、第3実施形態では、複数の対象部品に熱エネルギを供給するため、複数の熱エネルギ伝達量調整部及び熱交換部を備える例を示す。
【0172】
[発熱システムの構成例]
図11は、発熱システム700の構成例を示す概略構成図である。発熱システム700は、
図1に示す発熱システム100に対し、熱エネルギ伝達量調整部710及び熱交換部720を追加した点が異なる。そこで、以下では、発熱システム100と異なる点を中心にして説明する。なお、熱エネルギ伝達量調整部710は、熱エネルギ伝達量調整部150に対応し、熱交換部720は、熱交換部160に対応するため、説明を省略する。
【0173】
[複数の熱エネルギ伝達量調整を備える場合の制御例]
図12は、2つの熱エネルギ伝達量調整部150、710を備える場合の例を示す。
【0174】
図12では、車載される電池を対象部品180とし、車載される空調設備(エアコン)を対象部品730とし、これらの双方または一方に熱エネルギを供給する例を示す。
【0175】
発熱システム700の初期立ち上げ時の対象部品180及び対象部品730の双方からの熱エネルギ要求量Qdemは、それぞれ2kWであるものとする。この場合には、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutが4kWとなる様に、水素供給部130から熱エネルギ発生部110に水素が供給され、ヒータ113に入力エネルギEinが供給される。具体的には、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力PがP0(1atm)となる様に、水素供給部130から熱エネルギ発生部110に水素が供給される。また、熱エネルギ発生部110の温度TがT0(300℃)となる様に、ヒータ113に入力エネルギEinとして1kWが供給される。この場合のエネルギ消費効率COPは4(=2kW(Qout)/0.5kW(Ein))となる。
【0176】
ここで、熱エネルギ発生部110からの熱エネルギで車両が温まり、対象部品730に1kW(Qdem)の熱エネルギを供給し、対象部品180に熱エネルギを供給しなくなった場合、即ち、熱エネルギ要求量Qdemが合計で1kWに減少した場合を想定する。
【0177】
この場合、Qout(4kW)>Qdem(1kW)となるため、熱エネルギ伝達量調整部150は、熱エネルギ発生部110からの伝達量Qprovが熱エネルギ要求量Qdemに一致する様、高熱伝導部材153、713の伝熱面積を変更する。具体的には、熱エネルギ伝達量調整部710は、矢印751方向に高熱伝導部材713を移動させて高熱伝導部材713の伝熱面積を半分にし、熱エネルギ発生部110からの伝達量Qprovを1kWとする。熱エネルギ伝達量調整部150は、矢印752方向に高熱伝導部材153を移動させて高熱伝導部材153の伝熱面積を0にし、熱エネルギ発生部110からの伝達量Qprovを0kWとする。
【0178】
この制御で、Qprov(1kW)=Qdem(1kW)となり、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutから、熱交換部160に供給した熱エネルギQprovを引いた熱エネルギ1kW(Qout(4kW)-Qprov(1kW))が余剰熱となる。
【0179】
そこで、最終的にQout=Qprov、かつ、熱エネルギ発生部110の温度TがT0(300℃)となる様に、ヒータ113の入力エネルギEinを制御する。例えば、ヒータ113の入力エネルギEinを0.25kWに徐々に下げて、熱エネルギ発生部110の温度Tの上昇を止める。この制御により、熱エネルギ発生部110の温度Tを最初の温度T0に戻すとともに、熱エネルギ発生部110の収容部111内の圧力Pも最初の圧力P0に戻す。また、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutは1kWとなる。
【0180】
最終的には、熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutと熱エネルギ要求量Qdemとが一致し、かつ、ヒータ113の入力エネルギEinのみによって熱エネルギ発生部110の出力エネルギQoutを発生させる。即ち、Qout=Qprov=Qdemとなる様、ヒータ113の入力エネルギEinが制御されることにより、変更後の熱エネルギ要求量Qdem(合計1kW)と同じ熱エネルギ量を安定して供給できる。即ち、対象部品730(エアコン)には1kW(Qdem)の熱エネルギを安定して供給できる。
【0181】
この様に、対象部品730(エアコン)及び対象部品180(電池)からの熱エネルギ要求量がダイナミックに変化する場合でも、その変化に適切に対応することができる。
【0182】
図12では、説明を容易にするため、対象部品180及び対象部品730の双方の熱エネルギ要求量が略同時に変化する例を示した。ただし、対象部品180及び対象部品730の一方の熱エネルギ要求量が変化した場合には、熱エネルギ要求量が変化した対象部品側の熱エネルギ伝達量調整部のみが、熱エネルギ発生部110からの伝達量を調整する。
【0183】
また、第3実施形態では、2組の熱エネルギ伝達量調整部150、710及び熱交換部160、720を備える例を示した。ただし、3組以上の熱エネルギ伝達量調整部及び熱交換部を備える場合についても第3実施形態を適用可能である。
【0184】
また、第3実施形態に示す熱エネルギ発生部110に、第2実施形態で示した蓄熱材を設けてもよい。この場合、1つの蓄熱材を設け、その蓄熱材からの熱エネルギを熱交換部160、720の双方に供給可能としてもよい。また、熱エネルギ発生部110に2つの蓄熱材(第1及び第2蓄熱材)を設け、第1蓄熱材からの熱エネルギを熱交換部160に供給可能とし、第2蓄熱材からの熱エネルギを熱交換部720に供給可能としてもよい。
【0185】
[第3実施形態の構成及び効果]
発熱システム700では、熱エネルギ発生部110(発熱材料系の一例)は、対象部品180、730(外部の複数の部品の一例)へ熱エネルギを供給する。また、発熱システム700は、熱エネルギ伝達量調整部及び熱交換部の組み合わせが対象部品180、730に対応する数(2)となる様に、熱エネルギ伝達量調整部及び熱交換部の組み合わせを複数備え、それらの熱エネルギ伝達量調整部及び熱交換部の組み合わせを対象部品180、730毎に設置する。即ち、対象部品180について、熱エネルギ伝達量調整部150及び熱交換部160の組み合わせが設置され、対象部品730について、熱エネルギ伝達量調整部710及び熱交換部720の組み合わせが設置される。
【0186】
この発熱システム700によれば、熱エネルギ伝達量調整部及び熱交換部の組み合わせを対象部品毎に設置することで、一部の熱エネルギ伝達量調整部のみを作動させても熱エネルギ供給量の微調整を行えるため、熱エネルギ供給量の調整精度が高まる。また、一部の熱エネルギ伝達量調整部のみを作動させることで、消費電力を低減することができる。
【0187】
なお、本実施形態で示した各処理は、各処理手順をコンピュータに実行させるためのプログラムに基づいて実行される。このため、本実施形態は、それらの各処理を実行する機能を実現するプログラム、そのプログラムを記憶する記録媒体の実施形態としても把握することができる。例えば、車両に新機能を追加するためのアップデート作業により、そのプログラムを車両の記憶装置に記憶させることで、アップデートされた車両に本実施形態で示した各処理を実施させることが可能となる。なお、そのアップデートは、例えば、車両の定期点検時等に行ってもよいし、ワイヤレス通信により行ってもよい。
【0188】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0189】
100 発熱システム、110 熱エネルギ発生部、111 収容部、112 発熱材料、113 ヒータ、120 ヒータ制御部、130 水素供給部、140 給排気量制御部、150、710 熱エネルギ伝達量調整部、151 伝熱面積算出部、152 伝熱面積調整部、153、713 高熱伝導部材、160、720 熱交換部、180、730 対象部品、610 蓄熱材