IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本メナード化粧品株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186421
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ベージュ脂肪細胞分化誘導促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/185 20060101AFI20221208BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20221208BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221208BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20221208BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20221208BHJP
【FI】
A61K36/185
A61K8/9789
A61Q19/00
A61P43/00 105
A61P3/04
A61P9/10 101
A61P1/16
A61P9/12
A61P3/10
A61P9/10
A61P9/00
A61P3/06
A61P3/00
C12N5/077 ZNA
A23L33/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094632
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 怜子
(72)【発明者】
【氏名】宮地 克真
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】深田 紘介
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
【テーマコード(参考)】
4B018
4B065
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD48
4B018ME01
4B018MF01
4B065AA90X
4B065BB26
4C083AA111
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C088AB12
4C088AC04
4C088BA08
4C088NA14
4C088ZA36
4C088ZA42
4C088ZA45
4C088ZA70
4C088ZA75
4C088ZB21
4C088ZC21
4C088ZC33
4C088ZC35
(57)【要約】
【課題】脂肪組織の細胞の分化やバランスを制御して、ベージュ脂肪細胞を増加及び活性化させ、脂肪を効率的に燃焼させることのできる薬剤を提供すること。
【解決手段】アケビの抽出物を有効成分として含有する、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進剤、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進剤、及び脂肪燃焼促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アケビの抽出物を有効成分として含有する、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進剤。
【請求項2】
アケビの抽出物を有効成分として含有する、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進剤。
【請求項3】
ベージュ脂肪細胞における脱共役タンパク質1(UCP1)の発現を亢進する、請求項1又は2に記載の剤。
【請求項4】
アケビの抽出物を有効成分として含有する、脂肪燃焼促進剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の剤を含む、ベージュ脂肪細胞増加促進用組成物。
【請求項6】
脂肪組織由来幹細胞を、アケビの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、脂肪組織由来幹細胞のベージュ脂肪細胞への分化誘導促進方法。
【請求項7】
白色脂肪細胞を、アケビの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、白色脂肪細胞のベージュ脂肪細胞への変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進剤、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進剤、及び脂肪燃焼促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脂肪組織は、生体に存在する重要な臓器の一つであり、白色脂肪組織と褐色脂肪組織の2つのタイプに大別される。白色脂肪組織は、エネルギーを中性脂質として細胞内に貯蔵する白色脂肪細胞から構成されており、生体内の余剰エネルギーを蓄える働きがある。また、この白色脂肪細胞は、運動や飢餓時等、生体がエネルギーを必要とする際に、貯蔵した中性脂質を遊離脂肪酸へと分解し、ミトコンドリアに存在する電子伝達系を介してアデノシン3リン酸(ATP)を合成することで、エネルギーを生体へ補給する役割を担っている。
【0003】
一方、褐色脂肪細胞も、白色脂肪細胞と同様に細胞内に中性脂質を貯蔵するが、褐色脂肪細胞は、脱共役タンパク質1(UCP1:uncoupling protein-1)を発現しており、この遺伝子の働きにより、電子伝達系におけるATP合成を経ずに、中性脂質を熱へと変換し、直接的にエネルギーを消費させる役割を担っている。
【0004】
したがって、生体内においては、白色脂肪細胞はエネルギーの貯蔵と必要時の補給を行うのに対し、褐色脂肪細胞は熱産生を介してエネルギーを消費することで、生体内のエネルギーのバランスを調節していることになる(非特許文献1~3)。
【0005】
近年の研究成果から、これら白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞の役割のバランスの異常によって生じる脂肪の蓄積が、肥満やメタボリックシンドロームの発症に密接に関与していることが明らかとなっている(非特許文献4、5)。特に、過剰に摂取したエネルギーが白色脂肪組織に貯蔵されることによって肥満が生じ、これがメタボリックシンドローム発症の主な原因と考えられており、これを解消するにはエネルギーを効率的に消費する必要がある。
【0006】
したがって、肥満やメタボリックシンドロームなどの疾患の予防や治療には、生体内でエネルギーを過剰に蓄積した白色脂肪細胞を減少させ、エネルギーの消費を行う褐色脂肪細胞を増加させることが必要であり、これらの細胞のバランスをいかに制御するかが課題である。特に、褐色脂肪細胞の働きは重要であり、これらの細胞を生体内で効率よく増加させる技術の開発は、今後の肥満やメタボリックシンドロームの改善において、直接的に応用できる可能性がある。
【0007】
近年では、白色脂肪細胞が寒冷刺激、β3アドレナリン受容体を介した応答や運動により誘導されるホルモンであるアイリシン(Irisin)によって、褐色脂肪細胞と同じようにUCP1を発現する細胞へと変化することが確認されている(非特許文献6、7)。この白色脂肪細胞から発生した褐色脂肪細胞様の細胞は、「ベージュ脂肪細胞」又は「ブライト細胞」と呼ばれており、白色脂肪細胞がエネルギーの貯蔵を行う役割から脱却し、褐色脂肪細胞と同様に直接的にエネルギーの消費を行う細胞へとスイッチすることが知られている。このことから、肥満やメタボリックシンドロームの改善のための新たなアプローチとして、中性脂質を蓄積した白色脂肪細胞の褐色化を促し、ベージュ脂肪細胞に分化誘導させることが有効であると考えられるが、このような細胞のバランスを生体内での制御することは困難であるという問題がある。これまで、白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に分化誘導する作用を有する物質として、レスベラトロール重合化合物(特許文献1)、防風通聖酸エキス(特許文献2)等が報告されているが、より活性の強い因子の探索が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-27959号公報
【特許文献2】特開2019-199473号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】審良静男,医学のあゆみ,1998,184,513-517
【非特許文献2】斉藤昌之,肥満の科学,第124回日本医学会シンポジウム,62-70
【非特許文献3】香川靖雄,医学のあゆみ,1998,184,529-533
【非特許文献4】青木茂久ら,日本臨床,2006,64巻,増刊9,175-179
【非特許文献5】小川佳宏ら,実験医学,2007,25,増刊15、54-60
【非特許文献6】入江由希子ら,肥満研究,2007,7,1,63-65
【非特許文献7】Bostrom,P.,et al.,Nature、2012、481、463-468
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した実情に鑑み、脂肪組織の細胞の分化やバランスを制御して、ベージュ脂肪細胞を増加及び活性化させ、脂肪を効率的に燃焼させることのできる薬剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、アケビの抽出物が、脂肪組織内の幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進する効果、及び白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換を促進する効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)アケビの抽出物を有効成分として含有する、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進剤。
(2)アケビの抽出物を有効成分として含有する、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進剤。
(3)ベージュ脂肪細胞における脱共役タンパク質1(UCP1)の発現を亢進する、(1)又は(2)に記載の剤。
(4)アケビの抽出物を有効成分として含有する、脂肪燃焼促進剤。
(5)(1)~(4)のいずれかに記載の剤を含む、ベージュ脂肪細胞増加促進用組成物。
(6)脂肪組織由来幹細胞を、アケビの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、脂肪組織由来幹細胞のベージュ脂肪細胞への分化誘導促進方法。
(7)白色脂肪細胞を、アケビの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、白色脂肪細胞のベージュ脂肪細胞への変換方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の有効成分であるアケビの抽出物は、脂肪幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進する作用、及び白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変換を促進する作用を有する。よって、アケビの抽出物を生体に適用することによって、脂肪幹細胞の白色脂肪細胞への分化を抑制しながら、ベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進し、また、既に脂肪を蓄積している白色脂肪細胞をベージュ脂肪細胞に変換させることができる。その結果、エネルギーを脂肪として貯蔵する白色脂肪細胞が消化されるとともに、エネルギーを熱に変えるベージュ脂肪細胞が増加するため、生体内において脂肪の燃焼が促進される。よって、本発明のアケビの抽出物を有効成分とする剤は、脂肪の蓄積による肥満の改善及び予防に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
1.脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進剤、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進剤、及び脂肪燃焼促進剤
本発明の脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進剤、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進剤、及び脂肪燃焼促進剤(以下、「本発明の剤」という)は、アケビの抽出物を有効成分として含有する。
【0016】
本発明において、「脂肪組織由来幹細胞」(単に「脂肪幹細胞」ともいう)とは、脂肪組織に含まれる幹細胞であって、細胞質内に脂肪滴を有する成熟脂肪細胞(白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞)への分化が可能な細胞をいう。また、「ベージュ脂肪細胞」は、ミトコンドリアに富んだ褐色調の細胞で、ブライト脂肪細胞、褐色様脂肪細胞とも呼ばれ、脱共役タンパク質1(UCP1)を高発現し、活発に熱を産生して蓄積されたエネルギーを消費する。
【0017】
本発明において、「脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進」、「白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進」とは、生体レベルで又は培養レベルで脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進し、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換を促進し、ベージュ脂肪細胞を増加させること、かつ、脱共役タンパク質1(UCP1)の発現の亢進によってベージュ脂肪細胞を活性化させることをいう。
【0018】
本発明に用いるアケビ(通草又は木通、学名:Akebia quinata)は、アケビ科アケビ属に属する蔓性落葉低木である。本発明において用いることのできるアケビとしては、アケビ(学名:Akebia quinata)のほか、その同属近縁種であるミツバアケビ(学名:Akebia trifolia)、ゴヨウアケビ(学名:Akebia pentaphylla)、ホザキアケビ(学名:Akebia longeracemosa)等が挙げられるが、アケビ(Akebia quinata)及びミツバアケビ(Akebia trifolia)が好ましい。
【0019】
本発明においてアケビの抽出物とは、アケビの植物体全体、あるいは、花、花穂、果実、果皮、茎、葉、枝、枝葉、根、種子等の植物体の一部、又はそれらの混合物の抽出物をいうが、本発明において抽出原料として使用する部位は、果実、果皮、種子が好ましい。また、抽出には、これらの植物体をそのまま使用してもよく、乾燥、粉砕、細切等の処理を行ってもよい。
【0020】
アケビの抽出に使用する溶媒としては、例えば、水若しくは熱水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水若しくは熱水、低級アルコール、液状多価アルコール等が好ましく、水若しくは熱水、エタノール、1,3-ブチレングリコールがより好ましい。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いてもよく、例えば、30~70v/v%のエタノール水溶液は好ましく使用できる。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0021】
また、抽出材料としてアケビの種子を使用する場合は、そのまま前記溶媒にて抽出することができるが、場合によっては、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)によって油脂を除き、脱脂したものについて、さらに前記の抽出溶媒にて抽出することができる。種子は、圧搾や抽出後の残渣を使用することもできる。例えば、アケビ種子の圧搾後の残渣を炭化水素類で抽出し、その残渣を水、低級アルコール類、液状多価アルコール類、ケトン類、炭化水素類の抽出溶媒(1種でも2種以上を混合して用いても良い)で抽出することが好ましく、水、エタノール、ヘキサンの抽出溶媒(1種でも2種以上を混合して用いても良い)がより好ましく、含水エタノール(水とエタノールの混合溶媒)又はエタノールが最も好ましい。
【0022】
抽出に使用する溶媒量は、抽出原料1重量部に対して通常2~200重量部、好ましくは10~100重量部である。抽出溶媒量がこの範囲を下回ると、抽出原料全体に抽出溶媒が行き渡らず、抽出効率が低下する可能性があり、抽出溶媒量がこの範囲を超えると、後に抽出溶媒除去を行う際の負担が増加する。
【0023】
抽出温度は、抽出に使用する溶媒の沸点以下の温度であり、特に限定されず、例えば加熱抽出であってもよいし、常温抽出であってもよい。
【0024】
抽出時間は、常温抽出の場合は1~2週間、加熱抽出の場合は30分間~24時間、好ましくは1~10時間であるが、抽出溶媒の種類、抽出温度等の条件によって適宜調節できる。抽出操作の回数は特に限定されるものではなく、1回であってもよいし、1回目の抽出後に再度新鮮な抽出溶媒を添加し、2回目以降の抽出操作を行なってもよい。また、同一の抽出溶媒を用いて複数回抽出操作を行ってもよい。
【0025】
抽出方法は、当分野で通常用いられる方法であればよく、室温又は加熱下で、任意の装置を使用して行う。具体的には、抽出溶媒を満たした抽出処理槽に抽出原料を投入し、必要に応じて時々攪拌しながら可溶性成分を溶出した後、濾過して残渣を除去し、抽出物を得る。
【0026】
上記抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0027】
上記アケビの抽出物は、生体レベルで又は培養レベルで、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進する作用、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換を促進する作用を有することから、ベージュ脂肪細胞を増加させ、かつ、脱共役タンパク質1(UCP1)の発現の亢進によって活性化させ、脂肪を効率的に燃焼させることができる。よって、アケビの抽出物は、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進剤、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進剤、及び脂肪燃焼促進剤の有効成分として用いることができる。
【0028】
本発明の剤におけるアケビの抽出物の含有量は、特に限定されないが、例えば、当該薬剤全量に対し、乾燥物に換算して0.00001~10重量%であることが好ましく、0.0001~1重量%とすることがより好ましい。
【0029】
本発明の剤は、生体外では、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進し、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換を促進するための細胞培養用培地添加剤、研究用試薬、医療用試薬として使用することができる。
【0030】
また、本発明の剤を生体内に使用する場合は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに、化粧品、医薬品、医薬部外品、飲食品等の各種組成物に配合し、ベージュ脂肪細胞増加促進用組成物として提供することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。本発明の剤を、例えば、痩身効果や顔やせ効果などを目的として使用する場合は、化粧品や医薬部外品の形態や、美容ドリンクなどの飲食品の形態とすることが好ましい。また、本発明の剤を、例えば、肥満に起因する疾患の治療及び/又は予防を目的として使用する場合は、医薬品の形態で使用することが好ましい。
【0031】
本発明の剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、皮膚外用組成物が好ましく、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれの剤形でもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、上記アケビの抽出物とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。皮膚外用組成物の配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類(β-カロテン(ビタミンA)、ビタミンC、ビタミンE等)、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0032】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、浴用剤、ボディローション、ボディシャンプー等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0033】
本発明の剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調整剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0034】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0035】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調整剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0036】
本発明の医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。
【0037】
本発明の剤の有効成分であるアケビの抽出物は、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進させる作用、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換を促進させる作用を有することから、例えば、肥満やメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を改善及び予防するための、あるいは、肥満やメタボリックシンドロームに起因する疾患の治療及び/又は予防のための医薬として有効である。ここで、「肥満やメタボリックシンドロームに起因する疾患」としては、例えば、動脈硬化症、高脂血症(高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症等)、脂肪肝、高血圧症、糖尿病、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞等)、脳血管障害(脳梗塞、脳出血等)などが挙げられる。本発明の医薬品は上記疾患の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。
【0038】
本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患の予防及び/又は治療用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0039】
本発明の化粧品、医薬部外品、医薬品の使用量又は投与量は、その種類や形態、使用又は投与対象の年齢、性別、体重、症状の程度などに応じて適宜決定することができる。例えば、成人に経口投与する場合には、アケビの抽出物として0.1~1000mg/日、好ましくは1~500mg/日、より好ましくは5~300mg/日の範囲で、それぞれ1日1回から数回行う。上記投与範囲より少ない量で十分な場合もあるし、また、範囲を超えて投与する必要がある場合もある。
【0040】
前記アケビの抽出物を化粧品、医薬部外品、医薬品に配合する場合、その含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、アケビの抽出物の乾燥固形分に換算して、0.001~30重量%(w/w)が好ましく、0.01~10重量%(w/w)がより好ましい。0.001重量%(w/w)未満では効果が低く、また30重量%(w/w)を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0041】
また、本発明の剤は、飲食品にも配合できる。飲食品の形態で提供することによって、本発明の有効成分を日常的に摂取したり、継続的に摂取したりすることが容易となる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は食品増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品が含まれる。飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。
【0042】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0043】
本発明の飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、澱粉等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【0044】
本発明の飲食品における上記アケビの抽出物の配合量は、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導を促進させる作用、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換を促進させる作用、脂肪燃焼促進作用を発揮できる量であればよいが、対象飲食品の一般的な摂取量、飲食品の形態、効能・効果、呈味性、嗜好性及びコストなどを考慮して適宜設定すればよい。
【0045】
2.脂肪組織由来幹細胞のベージュ脂肪細胞への分化誘導促進方法、白色脂肪細胞のベージュ脂肪細胞への変換方法
本発明はまた、脂肪組織由来幹細胞を、アケビの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、脂肪組織由来幹細胞のベージュ脂肪細胞への分化誘導促進方法、及び、白色脂肪細胞を、アケビの抽出物を含有する培地で培養する工程を含む、白色脂肪細胞のベージュ脂肪細胞への変換方法に関する。
【0046】
本発明に係る方法において用いる培地は、脂肪前駆細胞(脂肪幹細胞、間葉系間質細胞、間葉系幹細胞)又は脂肪細胞の増殖、分化、成熟のために一般的に使用されている培地を用いればよい。また、培養方法の条件及び操作は、当該技術分野で常套的な条件及び操作に従って行うことができる。例えば、細胞の生存及び増殖に必要な成分(無機塩、炭水化物、ホルモン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ビタミン、脂肪酸)を含む基本培地、具体的には、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(D-MEM)、Minimum Essential Medium(MEM)、RPMI 1640、Basal Medium Eagle(BME)、Dulbecco’s Modified Eagle Medium:Nutrient Mixture F-12(D-MEM/F-12)、Glasgow Minimum Essential Medium(Glasgow MEM)、ハンクス液(Hank’s balanced salt solution)等が挙げられる。分化誘導の際には、脂肪細胞分化誘導因子として、デキサメタゾン(DEX)、イソブチルメチルキサンチン(IBMX)、インドメタシン(IDMM)、インスリン(Ins)、ビオチンの1種以上を添加する。また、増殖因子として塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及び/又は白血球遊走阻止因子(LIF)を添加してもよい。さらに、必要に応じて、培地は、上皮細胞増殖因子(EGF)、腫瘍壊死因子(TNF)、ビタミン類、インターロイキン類、インスリン、トランスフェリン、ヘパリン、ヘパラン硫酸、コラーゲン、フィブロネクチン、プロゲステロン、セレナイト、B27-サプリメント、N2-サプリメント、ITS-サプリメント、抗生物質等を含有してもよい。
【0047】
また、上記以外には、1~20%の含有率で血清が培地に含まれることが好ましい。しかしながら、血清はロットの違いにより成分が異なり、その効果にバラツキがあるため、ロットチェックを行った後に使用することが好ましい。
【0048】
市販品の培地としては、インビトロジェン製の間葉系幹細胞基礎培地や、三光純薬製の間葉系幹細胞基礎培地、TOYOBO社製のMF培地、Sigma社製のハンクス液(Hank’s balanced salt solution)等を用いることができる。
【0049】
細胞の培養に用いる培養器は、例えば、フラスコ、シャーレ、ディッシュ、プレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バッグ、ローラーボトルなどが挙げられる。
【0050】
培養器は、細胞非接着性であっても接着性であってもよく、目的に応じて適宜選択される。細胞接着性の培養器は、細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス等による細胞支持用基質などで処理したものを用いてもよい。細胞外基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン、フィブロネクチンなどが挙げられる。
【0051】
細胞培養に使用される培地に対するアケビの抽出物の添加濃度は、例えば0.1~1000μg/mL、好ましくは1~100μg/mLの濃度が挙げられる。また、細胞の培養期間中、アケビの抽出物を、定期的に培地に添加してもよい。
【0052】
細胞の培養条件は、通常の条件に従えばよく、特別な制御は必要ではない。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが約30~40℃、好ましくは36~37℃である。COガス濃度は、例えば約1~10%、好ましくは約2~5%である。なお、培地の交換は2~3日に1回行うことが好ましく、毎日行うことがより好ましい。前記培養条件は、細胞が生存及び増殖可能な範囲で適宜変動させて設定することもできる。
【0053】
脂肪組織由来幹細胞のベージュ脂肪細胞への分化誘導及び白色脂肪細胞のベージュ脂肪細胞への変換は、例えば、アケビの抽出物の非存在下で培養した細胞と比較して、アケビの抽出物存在下で培養した細胞において、ベージュ脂肪細胞のマーカーである脱共役タンパク質1(UCP1)の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで培養開始時の発現レベルに比べて有意に増加しているか否かを決定することで確認することができる。mRNAレベルでは、例えばUCP1遺伝子に特異的なプライマーやプローブを用いたRT-PCR、定量PCRやノーザンブロッティングによって確認する方法が挙げられる。また、タンパク質レベルでは、例えばUCP1遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー、ウエスタンブロッティング等の免疫学的方法が挙げられる。
【実施例0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
(製造例1)アケビ果実の熱水抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の果実の乾燥物20gに精製水400mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してアケビ果実の熱水抽出物を9.4g得た。
【0056】
(製造例2)アケビ果実の50%エタノール抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の果実の乾燥物20gに50%エタノール400mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、アケビ果実の50%エタノール抽出物を10.4g得た。
【0057】
(製造例3)アケビ果実のエタノール抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の果実の乾燥物20gにエタノール400mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、アケビ果実のエタノール抽出物を7.1g得た。
【0058】
(製造例4)アケビ果皮の熱水抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の果皮の乾燥物20gに精製水400mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してアケビ果皮の熱水抽出物を9.7g得た。
【0059】
(製造例5)アケビ果皮の50%エタノール抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の果皮の乾燥物20gに50%エタノール400mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、アケビ果皮の50%エタノール抽出物を9.4g得た。
【0060】
(製造例6)アケビ果皮のエタノール抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の果皮の乾燥物50gにエタノール1000mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、アケビ果皮のエタノール抽出物を7.6g得た。
【0061】
(製造例7)アケビ種子の熱水抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の種子の圧搾後の残渣20gに精製水400mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥してアケビ種子の熱水抽出物を3.4g得た。
【0062】
(製造例8)アケビ種子の50%エタノール抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の種子の圧搾後の残渣20gに50%エタノール400mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、アケビ種子の50%エタノール抽出物を4.1g得た。
【0063】
(製造例9)アケビ種子のエタノール抽出物の調製
アケビ(Akebia quinata)の種子の圧搾後の残渣50gにエタノール1000mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、アケビ種子のエタノール抽出物を7.0g得た。
【0064】
[実施例2]
(実験例1)アケビ抽出物によるヒト脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進効果
細胞増殖培地(培養液1)は、50% αMEM(SIGMA社製)、50% DMEM(SIGMA社製)に、25mM HEPES、3% GLUTAMAX-1(GIBCO社製)、1% Insulin Transferrin Selenium Ethanolamine Solution(GIBCO社製)、56℃で30分間加温して非動化したウシ胎児血清1%(SIGMA社製)、10ng/mL FGF-basic(PEPROTECH社製)、0.4μg/mL hydrocortison(WAKO社製)を添加することにより調製した。
【0065】
白色脂肪細胞分化誘導培地(培養液2)は、DMEM(ナカライ社製)に、1μM dexamethason(SIGMA社製)、0.5mM 3-isobutyl-1-methylxanthine(SIGMA社製)、0.2mM indomethacin(SIGMA社製)、10%ウシ胎児血清(SIGMA社製)、10μg/mL insulin(SIGMA社製)、33μM biotin(SIGMA社製)を添加することにより調製した。
【0066】
培養液1にヒト脂肪由来幹細胞(ASC)(DSファーマ社製)を懸濁し、組織培養用24穴プレートに播種し、インキュベーター内でコンフルエントになるまで培養した。コンフルエントな状態を確認後、培養液2に交換し、3日間培養後、さらに新しい培養液2に交換して3日間培養した。培養液2に交換する際に被験試料として実施例1で調製したアケビの各抽出物(製造例1~9)を最終濃度が100μg/mLとなるように同培地に添加した。
【0067】
被験試料を添加して6日間培養した後の細胞を回収し、脂肪組織由来幹細胞からベージュ脂肪細胞への分化誘導促進効果を、ベージュ脂肪細胞マーカーであるUCP1の遺伝子発現量を指標として評価した。
【0068】
遺伝子発現解析は次の通り行った。回収した細胞をPBS(-)にて2回洗浄した後、Trizol Reagent(Invitrogen社製)によって細胞からRNAを抽出した。2-STEPリアルタイムPCRキット(Applied Biosystems社製)を用いて、抽出したRNAをcDNAに逆転写した後、ABI7300(Applied Biosystems社製)により、下記のプライマーセットを用いてリアルタイムPCR(95℃:15秒間、60℃:30秒間、40cycles)を実施し、UCP1の発現を確認した。その他の操作は定められた方法に従って実施した。
【0069】
UCP1用プライマーセット:
5’-GGCTTCAGCGGCAAATCAG-3’(配列番号1)
5’-AACTCCTGGACCGTGTCGTA-3’(配列番号2)
18S rRNA(内部標準)用プライマーセット:
5’-CCGAGCCGCCTGGATAC-3’(配列番号3)
5’-CAGTTCCGAAAACCAACAAAATAGA-3’(配列番号4)
【0070】
UCP1の発現は、被験試料を添加していない細胞におけるUCPのmRNAの発現量を内部標準である18S ribosomal RNA(18S rRNA)の発現量に対する割合として算出したUCP1遺伝子発現量/18S rRNA遺伝子発現量)の値を1とし、これに対し、被験試料を添加して培養した細胞のUCP1の遺伝子相対発現量の値を算出し、評価した。これらの試験結果を以下の表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
表1に示すように、ヒト脂肪由来幹細胞(ASC)にアケビ抽出物を添加した場合、UCP1遺伝子相対発現量が向上し、ベージュ脂肪細胞への分化誘導が促進されることが確認できた。特にアケビ果実の50%エタノール抽出物において効果が高かった。
【0073】
(実験例2)アケビ抽出物による白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進効果
実験例1と同様の方法にてヒト脂肪由来幹細胞(ASC)を白色脂肪細胞へと分化させた。次いで、白色脂肪細胞成熟培地(DMEM(ナカライ社製)培地に、1%ウシ胎児血清(SIGMA社製)、2% BSA(富士フィルム和光社製)、500μM オレイン酸(CAYMAN CHEMICAL社製)となるように添加した培地)に置換してから3日間培養した。白色脂肪細胞成熟培地に置換する際に被験試料として実施例1で調製したアケビの各抽出物(製造例1~9)を最終濃度が100μg/mLとなるように同培地に添加した。
【0074】
被験試料を添加して3日間培養した後の細胞を回収し、白色脂肪細胞からベージュ脂肪細胞への変換促進効果を、ベージュ脂肪細胞マーカーであるUCP1の遺伝子発現量を指標として実験例1と同様の方法にて評価した。これらの試験結果を以下の表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示すように、白色脂肪細胞にアケビ抽出物を添加した場合、UCP1遺伝子相対発現量が向上し、ベージュ脂肪細胞への変換が促進されることが確認できた。特にアケビ果実の50%エタノール抽出物において効果が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、肥満の改善及び予防を目的とした医薬品、医薬部外品や化粧品、機能性食品やサプリメントなどの飲食品の製造分野において利用できる。
【配列表】
2022186421000001.app