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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186427
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20221208BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60R21/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094648
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 周司
(72)【発明者】
【氏名】河村 功士
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 潤
(72)【発明者】
【氏名】林 丈樹
(72)【発明者】
【氏名】中村 敦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠矢
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054AA23
3D054CC11
3D054EE20
(57)【要約】
【課題】乗員を拘束して衝撃から保護する性能を高める。
【解決手段】シートフレーム20は、シートバック16の側部17内に配置されたサイドフレーム部22を備える。エアバッグ40は、サイドフレーム部22に対し外方から固定され、膨張用ガス供給前には、側部17内のサイドフレーム部22よりも外方に位置する。エアバッグ40は、膨張用ガスの供給により、サイドフレーム部22との固定部分を側部17内に残し、シートバック16よりも前方へ展開及び膨張する。テザー60はエアバッグ40よりも内方に配置され、テザー60の前端部61はエアバッグ40に結合され、テザー60の後端部62はサイドフレーム部22に対し内方から取付けられる。エアバッグ40が展開及び膨張を完了した状態ではテザー60は緊張状態になる。前端部61は、シートバック16よりも前方であり、かつ後端部62よりも内方に位置する。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗物における乗物用シートのシートバックにそれぞれ配置されたエアバッグ及び帯状のテザーを備えるエアバッグ装置であり、
前記シートバック内にはシートフレームが配置され、前記シートフレームは、前記シートバックの幅方向における側部に配置されたサイドフレーム部を備え、
前記シートバックの前記幅方向における中央部に近づく方向を内方とし、遠ざかる方向を外方とした場合、前記エアバッグは、前記サイドフレーム部に対し前記外方から固定され、膨張用ガスが供給される前には、前記側部内であって、前記サイドフレーム部よりも前記外方に位置し、前記膨張用ガスの供給により、前記サイドフレーム部との固定部分を前記側部内に残した状態で、前記シートバックよりも前方へ展開及び膨張し、
前記テザーは前記エアバッグよりも前記内方に配置され、前記テザーの前端部は前記エアバッグに結合され、前記テザーの後端部は、前記側部内の前記シートフレーム又は前記側部内で前記シートフレームに固定された別部品に対し、前記内方から取付けられ、
前記エアバッグが展開及び膨張を完了した状態では前記テザーは緊張状態となり、前記テザーの前記前端部は、前記シートバックよりも前方であり、かつ前記テザーの前記後端部よりも前記内方に位置するエアバッグ装置。
【請求項2】
前記テザーの前記前端部は、前記エアバッグの前端部に結合されている請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記サイドフレーム部の前端部は、前方へ膨らむように湾曲しており、
前記テザーの前記後端部は、前記サイドフレーム部の前記前端部よりも後方で、前記サイドフレーム部に対し前記内方から取付けられている請求項1又は2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記乗物は前記乗物用シートを複数備え、
複数の前記乗物用シートは、前記幅方向に並べられた状態で前記乗物に搭載されており、
前記エアバッグ及び前記テザーは、前記シートバックのうち、隣の前記乗物用シートに近い側の前記側部に配置されている請求項1~3のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに着座した乗員をエアバッグによって衝撃から保護するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車幅方向に複数の車両用シートが並設された車両の中には、ファーサイドエアバッグ装置と呼ばれるエアバッグ装置が搭載されたものがある。このタイプのエアバッグ装置は、車両用シートのシートバックに配置されたエアバッグを備える。シートバック内にはシートフレームが配置されている。シートフレームは、シートバックの幅方向における側部に配置されたサイドフレーム部を備えている。
【0003】
ここで、シートバックの上記幅方向における中央部に近づく方向を内方とし、遠ざかる方向を外方とする。
エアバッグは、シートバックのうち、隣の車両用シートに近い側部内のサイドフレーム部に対し、外方から固定されている。エアバッグは、膨張用ガスが供給される前には、側部内であって、サイドフレーム部よりも外方に位置する。
【0004】
側突等により、車両のサイドドア等の側壁部に対し衝撃が加わると、側壁部から遠い側の車両用シートに着座している乗員は、慣性により、衝撃の加わった側壁部側へ倒れ込もうとする。
【0005】
これに対し、側壁部に対し衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測された場合には、エアバッグに膨張用ガスが供給される。エアバッグは、サイドフレーム部との固定部分を側部内に残した状態で、シートバックよりも前方へ展開及び膨張する。
【0006】
エアバッグは、上記のように倒れ込もうとする乗員の上半身を受け止め、隣の車両用シートに着座している乗員や内装品と干渉するのを抑制する。
上記エアバッグ装置の一形態として、例えば、特許文献1に記載されたものがある。このエアバッグ装置は、上記エアバッグよりも内方に配置された内側テンションベルトをさらに備える。内側テンションベルトの前端部はエアバッグに結合され、後端部はサイドフレーム部に対し内方から取付けられている。
【0007】
内側テンションベルトは、エアバッグの展開及び膨張に伴い前方へ引っ張られて緊張状態になる。そのため、倒れ込もうとする乗員からエアバッグが力を受けた場合、エアバッグがサイドフレーム部との固定部分を支点として、隣の車両用シート側へ回転するのを抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2016-30538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、上記特許文献1に記載されたエアバッグ装置では、回転を規制されたエアバッグのうち、倒れ込もうとする乗員を受け止める箇所の面積が小さい。そのため、乗員を拘束して衝撃から保護する点で、改善の余地が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するエアバッグ装置は、乗物における乗物用シートのシートバックにそれぞれ配置されたエアバッグ及び帯状のテザーを備えるエアバッグ装置であり、前記シートバック内にはシートフレームが配置され、前記シートフレームは、前記シートバックの幅方向における側部に配置されたサイドフレーム部を備え、前記シートバックの前記幅方向における中央部に近づく方向を内方とし、遠ざかる方向を外方とした場合、前記エアバッグは、前記サイドフレーム部に対し前記外方から固定され、膨張用ガスが供給される前には、前記側部内であって、前記サイドフレーム部よりも前記外方に位置し、前記膨張用ガスの供給により、前記サイドフレーム部との固定部分を前記側部内に残した状態で、前記シートバックよりも前方へ展開及び膨張し、前記テザーは前記エアバッグよりも前記内方に配置され、前記テザーの前端部は前記エアバッグに結合され、前記テザーの後端部は、前記側部内の前記シートフレーム又は前記側部内で前記シートフレームに固定された別部品に対し、前記内方から取付けられ、前記エアバッグが展開及び膨張を完了した状態では前記テザーは緊張状態となり、前記テザーの前記前端部は、前記シートバックよりも前方であり、かつ前記テザーの前記後端部よりも前記内方に位置する。
【0011】
上記の構成によれば、乗物の側壁部に対し衝撃が加わる等して、エアバッグに膨張用ガスが供給されると、そのエアバッグはサイドフレーム部との固定部分を側部内に残した状態で、シートバックよりも前方へ展開及び膨張する。
【0012】
ここで、テザーの前端部はエアバッグに結合され、後端部は側部内のシートフレーム又は側部内でシートフレームに固定された別部品に対し取付けられている。そのため、エアバッグの展開及び膨張に伴いテザーが前方へ引っ張られる。
【0013】
エアバッグが展開及び膨張を完了した状態では、テザーが緊張状態になる。テザーの前端部は、シートバックよりも前方であり、かつテザーの後端部よりも内方に位置する。すなわち、緊張状態では、テザーは、前側ほど内方に位置するように、前後方向に対し傾斜した状態となる。
【0014】
展開及び膨張を完了した状態でのエアバッグの形状は、上記傾斜状態のテザーによって規制される。この規制により、エアバッグは、その少なくとも前端部を含む部分が、サイドフレーム部に対する固定箇所よりも内方に位置するように湾曲した形状にされ、その形状に保持される。
【0015】
さらに、乗物用シートに着座している乗員の上半身が、上記衝撃に応じて、外方へ倒れ込もうとすると、その乗員によって、上記傾斜状態のテザーに対し外方へ向かう力が加えられる。
【0016】
ここで、テザーは、エアバッグよりも内方であって、エアバッグとシートフレーム又は別部品との間で緊張状態になっている。そのため、展開及び膨張を完了したエアバッグが、サイドフレーム部との固定部分を支点として外方へ回転する現象が上記テザーによって規制される。
【0017】
また、上記力により、テザーが押されて外方へ変形すると、テザーの前端部が、上記傾斜状態のときの位置よりも内方であり、かつ後方へ移動する。
エアバッグは、テザーの上記変形に伴い、同エアバッグの少なくとも前端部を含む部分がさらに内方に位置するように、大きく湾曲させられ、その形状に保持される。外方へ倒れ込もうとする乗員は、上記のように大きく湾曲し、かつ外方への回転を規制されたエアバッグによって受け止められる。エアバッグにおいて、倒れ込もうとする乗員を受け止める箇所の面積は、湾曲しないエアバッグによって乗員を受け止める場合よりも大きくなる。そのため、エアバッグで乗員を拘束して衝撃から保護する性能が向上する。
【0018】
さらに、テザーの後端部は、シートフレーム又は別部品に対し内方から取付けられている。そのため、テザーは乗員によって外方へ押されると、サイドフレーム部のうち、テザーの後端部が取付けられた箇所よりも前方部分に対し、内方から接触する。従って、テザーの後端部が上記シートフレーム又は上記別部品に対し外方から取付けられた場合よりも、同テザーの外方への動きが規制される。その結果、展開及び膨張を完了したエアバッグが外方へ回転する現象がより一層規制される。エアバッグが乗員を拘束して衝撃から保護する性能がより一層向上する。
【0019】
上記エアバッグ装置において、前記テザーの前記前端部は、前記エアバッグの前端部に結合されていることが好ましい。
上記の構成によれば、テザーの前端部がエアバッグの前端部よりも後方となる部分に対し結合された場合よりも、テザーの長さが長くなる。そのため、乗員の上半身が倒れ込もうとした場合、その乗員がテザーに対し、より接触しやすくなる。乗員から外方へ向かう力がよりテザーに加わりやすくなる。
【0020】
上記エアバッグ装置において、前記サイドフレーム部の前端部は、前方へ膨らむように湾曲しており、前記テザーの前記後端部は、前記サイドフレーム部の前記前端部よりも後方で、前記サイドフレーム部に対し前記内方から取付けられていることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、シートバックの側部内にもともと配置されているサイドフレーム部が、テザーの後端部が取付けられる対象として利用される。そのため、上記取付けの対象となる部材を別途設けなくてもすむ。
【0022】
また、上記の構成によれば、乗員によって外方へ押されたテザーは、サイドフレーム部のうち、前方へ膨らむように湾曲する前端部に対し接触する。そのため、上記前端部との接触により、テザーに傷が付くことが抑制される。
【0023】
上記エアバッグ装置において、前記乗物は前記乗物用シートを複数備え、複数の前記乗物用シートは、前記幅方向に並べられた状態で前記乗物に搭載されており、前記エアバッグ及び前記テザーは、前記シートバックのうち、隣の前記乗物用シートに近い側の前記側部に配置されていることが好ましい。
【0024】
ここで、複数の乗物用シートが幅方向に並設された乗物の側壁部に対し、側突等により衝撃が加わると、側壁部から遠い側の乗物用シートに着座している乗員の上半身は、慣性により、衝撃の加わった側壁部側へ倒れ込もうとする。
【0025】
この点、上記の構成によるように、エアバッグ及びテザーが、シートバックのうち、隣の乗物用シートに近い側の側部に配置されれば、上記のように倒れ込もうとする乗員がエアバッグによって拘束されて衝撃から保護される。
【発明の効果】
【0026】
上記エアバッグ装置によれば、乗員を拘束して衝撃から保護する性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】一実施形態におけるファーサイドエアバッグ装置が適用された車両の部分平面図。
図2】一実施形態において、ファーサイドエアバッグ装置が設けられた車両用シート及びその周辺部分を、乗員及びエアバッグモジュールとともに示す部分側面図。
図3】一実施形態において、車両用シート、エアバッグモジュール、乗員、側壁部等を車両前方から見た部分断面図。
図4】一実施形態において、車両用シート、エアバッグ、乗員及び側壁部の位置関係を示す部分平面図。
図5】一実施形態において、エアバッグモジュールが収納されたシートバックの側部の内部構造を示す部分平断面図。
図6】一実施形態におけるシートフレームをエアバッグモジュールとともに車両前方から見た正面図。
図7】(a),(b)は、展開及び膨張したエアバッグと、テザー及び乗員との関係を示す部分平面図。
図8】テザーの後端部を側部内の別部品に取付けた変形例において、展開及び膨張したエアバッグと、テザー及び乗員との関係を示す部分平面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、車両用のファーサイドエアバッグ装置に具体化した一実施形態について、図1図7を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。また、車両用シートには、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が、予め定められた正規の姿勢で着座しているものとする。
【0029】
図1に示すように、車両10の左右方向における両側部は、ドア、ピラー等からなる側壁部11,12によって構成されている。車両10の内部には、車両用シート13,14が、左右方向に並べられた状態で搭載されている。側壁部11に近い車両用シート13は運転席として機能するものであり、ここに乗員(運転者)P1が着座する。側壁部12に近い車両用シート14は助手席として機能するものであり、ここに乗員P2が着座する。車両用シート14は、車両用シート13と同様の構成を有している。
【0030】
<車両用シート13の概略構成について>
図2図4に示すように、車両用シート13は、シートクッション15、シートバック16及びヘッドレスト19を備えている。シートクッション15は、乗員P1が着座する箇所であり、前後方向へスライド可能に構成されている。シートバック16は、乗員P1の上半身を後方から支えるためのものである。シートバック16は、シートクッション15の後方から起立し、かつ傾斜角度を調整可能に構成されている。ヘッドレスト19は、乗員P1の頭部PHを後方から支えるためのものであり、シートバック16上に配置されており、同シートバック16に対し上下位置調整可能に取付けられている。車両用シート13は、シートバック16が前方を向く姿勢で配置されている。このように配置された車両用シート13の幅方向は、左右方向と合致する。
【0031】
また、図4に示すように、シートバック16の幅方向における各部を特定するために、同幅方向におけるシートバック16の中央部16Cを基準とする。上記幅方向のうち、中央部16Cに近づく方向(側)を「内方(内側)」といい、中央部16Cから遠ざかる方向(側)を「外方(外側)」というものとする。従って、上記幅方向におけるシートバック16の各側部17から中央部16Cに向かう方向(側)が内方(内側)となり、中央部16Cから各側部17に向かう方向(側)が外方(外側)となる。
【0032】
図5及び図6に示すように、シートバック16の骨格部分は、シートフレーム20によって構成されている。シートフレーム20の周縁部分を構成する外フレーム部21は、一対のサイドフレーム部22とパイプフレーム部28とを備えている。各サイドフレーム部22は、金属板を曲げ加工することによって、略上下方向へ延びる形状に形成されており、各側部17内に配置されている。各サイドフレーム部22の前端24は、同サイドフレーム部22の他の箇所よりも内方に位置している。すなわち、前端24は、サイドフレーム部22のうち、最も内方に位置している。各サイドフレーム部22のうち、上記前端24を含む前端部25は、前方へ膨らむように湾曲している。
【0033】
パイプフレーム部28は、倒立U字状に屈曲されている。パイプフレーム部28の側部は、対応する側部17内に位置し、同側部17内のサイドフレーム部22の上端部に固定されている。
【0034】
シートバック16内には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド31が配置されている。また、シートパッド31及びシートフレーム20よりも後方には、合成樹脂等によって形成されたバックボード32が配置されている。なお、シートパッド31は表皮によって被覆されているが、図5ではその表皮の図示が省略されている。
【0035】
シートバック16のうち、隣の車両用シート14に近い側の側部17の内部であってサイドフレーム部22の周囲には、ファーサイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールABMが収納されている(図1参照)。
【0036】
図5に示すように、側部17の前部であって隣の車両用シート14に近い角部35には、エアバッグ40によって破断される破断予定部36が設けられている。
エアバッグモジュールABMは、エアバッグ40、ガス発生器50及びテザー60を、主要な構成部材として備えている。次に、これらの構成部材の各々について説明する。
【0037】
<ガス発生器50>
図5及び図7(a)に示すように、ガス発生器50は、インフレータ51、リテーナ52及びボルト53を備えている。
【0038】
ここでは、インフレータ51として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ51は略円柱状をなしており(図6参照)、その内部には、膨張用ガスを発生する図示しないガス発生剤が収容されている。
【0039】
なお、インフレータ51として、ガス発生剤と高圧ガスの両方を使ったハイブリッド方式のインフレータが用いられてもよい。ハイブリッド方式のインフレータでは、最初に点火薬に着火され、その点火薬が発生する熱によりガス発生剤に着火される。ガス発生剤の燃焼に伴い発生するガスの熱により高圧ガスが暖められて圧力が上昇し、その昇圧した高圧ガスが膨張用ガスとして噴出される。
【0040】
リテーナ52の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって略筒状に形成されており、インフレータ51を覆っている。
ボルト53は、リテーナ52の長さ方向に互いに離間した複数箇所に固定されている(図2参照)。各ボルト53は、リテーナ52から内方へ延びている。複数のボルト53は、リテーナ52を介して間接的にインフレータ51に固定されている。
【0041】
なお、ガス発生器50は、リテーナ52が用いられず、ボルト53がインフレータ51に直接固定されることによって構成されてもよい。
<エアバッグ40>
エアバッグ40は、布片(基布、パネル布等とも呼ばれる)によって形成されている。布片としては、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等によって形成した織布等が用いられている。
【0042】
図2及び図3に示すように、エアバッグ40は、膨張用ガスが供給されることにより展開及び膨張する。エアバッグ40は、乗員P1の胸部PTから頭部PHにかけての部位を保護対象部位とし、この保護対象部位の側方で展開及び膨張することのできる形状及び大きさに形成されている。
【0043】
エアバッグ40の後端部42内には、上記ガス発生器50が略上下方向へ延びる姿勢で配置されている。さらに、図5及び図7(a)に示すように、ボルト53がエアバッグ40に挿通されることにより、ガス発生器50がエアバッグ40に対し位置決めされた状態で係止されている。ボルト53の多くの部分は、エアバッグ40の外部に露出されている。
【0044】
エアバッグ40の後端部42は、サイドフレーム部22に固定されている。詳細については後述する。図5に示すように、エアバッグ40は、ガス発生器50から膨張用ガスが供給される前には、側部17内であって、サイドフレーム部22よりも外方に位置する。これに対し、図7(a)に示すように、エアバッグ40は、ガス発生器50から膨張用ガスが供給されると、サイドフレーム部22との固定部分を側部17内に残した状態で、シートバック16よりも前方へ展開及び膨張する。
【0045】
<テザー60>
図2及び図7(a)に示すように、テザー60は、エアバッグ40と同様の素材が用いられて形成されており、帯状をなしている。テザー60は、エアバッグ40よりも内方に配置されている。テザー60の前端部61は、エアバッグ40の前端部41に対し結合されている。テザー60のエアバッグ40に対する結合は、縫合によってなされているが、他の方法、例えば、接着によってなされてもよい。
【0046】
テザー60の後端部62は、側部17内に配置された部材のうち、剛性の高い部材であるシートフレーム20に対し、内方から取付けられている。本実施形態では、サイドフレーム部22が上記部材として利用されている。また、ガス発生器50のボルト53が、テザー60の後端部62を上記サイドフレーム部22に取付けるために利用されている。テザー60の後端部62の取付け構造については後述する。
【0047】
エアバッグ40が展開及び膨張を完了した状態では、テザー60は緊張状態となる。この状態では、テザー60の前端部61は、シートバック16よりも前方であり、かつテザー60の後端部62よりも内方に位置する。
【0048】
ところで、図5に示すようにエアバッグモジュールABMは、エアバッグ40のうちガス発生器50を収容した箇所(後端部42)とは異なる箇所が折り畳まれることにより、コンパクトな収納用形態にされている。
【0049】
エアバッグモジュールABMは側部17内に収納されている。そして、エアバッグ40から露出するボルト53が、サイドフレーム部22に対し、外方から挿通されている。ボルト53の一部は、サイドフレーム部22よりも内方へ突出している。
【0050】
上記テザー60の後端部62は、サイドフレーム部22よりも内方に配置されている。そして、ボルト53のうち、サイドフレーム部22から内方へ突出する部分が、テザー60の後端部62に挿通されている。この挿通により、テザー60の後端部62がボルト53に係止されている。
【0051】
さらに、上記のように後端部62が係止されたボルト53にナット54が締付けられている。この締付けにより、ガス発生器50が、エアバッグ40と一緒にサイドフレーム部22に対し、外方から固定されている。また、テザー60の後端部62が、サイドフレーム部22に対し、内方から取付けられている。
【0052】
なお、ガス発生器50は、上述したボルト53及びナット54とは異なる締結部品によってサイドフレーム部22に固定されてもよい。
ファーサイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールABMのほかに、図2に示す衝撃センサ71及び制御装置72を備えている。衝撃センサ71は加速度センサ等からなり、側壁部12等に設けられており、同側壁部12に加えられる衝撃を検出する。制御装置72は、コンピュータプログラム(ソフトウエア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する1つ以上の専用のハードウエア回路、あるいはそれらの組合わせ、を含む回路として構成されている。制御装置72は、衝撃センサ71からの検出信号に基づきガス発生器50の作動を制御する。本実施形態では、制御装置72は、衝撃センサ71が側壁部12に対し衝撃が加わったことを検出した場合に、ガス発生器50に対し、同ガス発生器50を作動させるための作動信号を出力する。
【0053】
さらに、車室内には、乗員P1を車両用シート13に拘束するための図示しないシートベルト装置と、乗員P2を車両用シート14に拘束するための図示しないシートベルト装置とが設けられている。
【0054】
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。なお、前提条件として、車両用シート13に着座している乗員P1が、シートベルト装置によって同車両用シート13に拘束されているものとする。
【0055】
<ファーサイドエアバッグ装置の非作動時>
側壁部12に対し衝撃が加わったことが図2に示す衝撃センサ71によって検出されないときには、制御装置72からガス発生器50に対し作動信号が出力されない。ガス発生器50からは、膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ40は、図5に示すように、折り畳まれた状態で側部17内に収納され続ける。エアバッグ40は、側部17内でサイドフレーム部22よりも外方に位置する。
【0056】
<ファーサイドエアバッグ装置の作動時>
車両10の走行中等に、側突等により、図1において矢印Xで示すように、側壁部12に対し衝撃が加わった場合には、側壁部12から遠い側の車両用シート13に着座している乗員P1の上半身が慣性によって、側壁部12側へ倒れ込もうとする。乗員P1が倒れ込む方向は、乗員P1の上半身がシートバック16の片方の外方であってエアバッグ40に近づく方向である。
【0057】
これに対し、上記衝撃が図2の衝撃センサ71によって検出されると、制御装置72からガス発生器50に上記作動信号が出力される。この作動信号に応じて、ガス発生器50で膨張用ガスが発生される。膨張用ガスが供給されたエアバッグ40は、折り状態の解消(展開)を伴いながら膨張する。エアバッグ40によって、側部17が押圧されて、図5の破断予定部36が破断される。図7(a)に示すように、エアバッグ40は、サイドフレーム部22との固定部分を側部17内に残した状態で、破断された箇所を通じて側部17の外部へ出て、シートバック16よりも前方へ展開及び膨張する。
【0058】
ここで、テザー60の前端部61はエアバッグ40に結合され、後端部62はサイドフレーム部22に取付けられている。そのため、エアバッグ40の上記展開及び膨張に伴いテザー60が略前方へ引っ張られる。
【0059】
図2及び図7(a)に示すように、エアバッグ40が展開及び膨張を完了したときには、テザー60が緊張状態となる。この緊張状態では、テザー60の前端部61が、シートバック16よりも前方であり、かつテザー60の後端部62よりも内方に位置する。すなわち、緊張状態では、テザー60は、前側ほど内方に位置するように、前後方向に対し傾斜した状態となる。
【0060】
展開及び膨張を完了したときのエアバッグ40の形状は、上記傾斜状態のテザー60によって規制される。この規制により、エアバッグ40は、その少なくとも前端部41を含む部分が、サイドフレーム部22に対する固定箇所(後端部42)よりも内方に位置するように湾曲した形状に変形され、その形状に保持される。
【0061】
さらに、上記傾斜状態のテザー60に対しては、倒れ込もうとする乗員P1によって、図7(a)において矢印Yで示すように、外方へ向かう力が加えられる。
ここで、テザー60の前端部61がエアバッグ40の前端部41に結合されていることから、同前端部61がエアバッグ40の他の箇所、すなわち、前端部41よりも後方となる箇所に結合された場合よりも、テザー60の長さが長くなる。そのため、乗員P1の上半身が倒れ込もうとした場合、その上半身がテザー60に対し、より接触しやすくなる。乗員P1から外方へ向かう力がよりテザー60に対し加わりやすい。
【0062】
テザー60は、エアバッグ40よりも内方であって、上記のように、エアバッグ40とサイドフレーム部22との間で緊張状態となっている。そのため、展開及び膨張を完了したエアバッグ40が、サイドフレーム部22との固定部分を支点として外方へ回転することが規制される。
【0063】
一方、上記力により、図7(a)及び図7(b)に示すように、テザー60が押されて外方へ変形する。これに伴い、同図7(a)において矢印Zで示すように、テザー60の前端部61が、上記傾斜状態のときの位置よりも内方であり、かつ後方へ移動する。
【0064】
図7(b)に示すように、エアバッグ40は、テザー60の上記変形に伴い、同エアバッグ40の少なくとも前端部41を含む部分が、さらに内方に位置するように、大きく湾曲させられ、その形状に保持される。側壁部12側へ倒れ込もうとする乗員P1は、上記のように大きく湾曲したエアバッグ40によって受け止められる。エアバッグ40において、倒れ込もうとする乗員P1を受け止める箇所の面積は、湾曲しないエアバッグ(特許文献1のエアバッグがこれに相当する)が乗員P1を受け止める場合よりも大きくなる。
【0065】
そのため、車室内の既設の部材であって、エアバッグ40の回転を規制する部材がなくても、エアバッグ40によって乗員P1を拘束して衝撃から保護する性能が向上する。例えば、隣り合う車両用シート13,14の間にセンターコンソールが設置されていなくても上記効果が得られる。また、隣の車両用シート14が後方へスライドされて、車両用シート13の側方に位置していない場合でも、上記の効果が得られる。
【0066】
さらに、テザー60の後端部62は、サイドフレーム部22において前端部25よりも後方となる箇所に対し、内方から取付けられている。そのため、テザー60は乗員P1によって外方へ押されると、サイドフレーム部22の前端部25に対し、内方から接触する。
【0067】
この前端部25との接触により、テザー60の後端部62がサイドフレーム部22に対し外方から取付けられた場合よりも、同テザー60の外方への動きが規制される。その結果、展開及び膨張を完了したエアバッグ40が、サイドフレーム部22との固定部分(後端部42)を支点として外方へ回転する現象がより一層規制される。エアバッグ40が乗員P1を拘束して衝撃から保護する性能がより一層向上する。
【0068】
また、乗員P1によって外方へ押されたテザー60は、図示はしないが、サイドフレーム部22のうち、前方へ膨らむように湾曲する前端部25に接触する。そのため、サイドフレーム部22の前端部25との接触により、テザー60に傷が付くことが抑制される。
【0069】
本実施形態では、エアバッグ40及びテザー60が、車両用シート13のシートバック16のうち、隣の車両用シート14に近い側の側部17に配置されている。そのため、エアバッグ40によって拘束して衝撃から保護する対象を乗員P1とし、この乗員P1を保護する性能を高める点について、上述した種々の効果を得ることができる。
【0070】
本実施形態によると、上記以外にも、次の効果が得られる。
(1)シートバック16の側部17内にもともと配置されているサイドフレーム部22が、テザー60の後端部62が取付けられる対象として利用されている。そのため、上記取付けの対象となる部材を別途設けなくてもすむ。
【0071】
(2)斜突等により、側壁部12に対し斜め前側方から衝撃が加わると、乗員P1の上半身が、慣性により、衝撃の加わった側である斜め前側方へ倒れ込もうとする。
本実施形態では、上述したように、テザー60が傾斜した状態で緊張状態となって、エアバッグ40が湾曲した形状にされ、その形状に保持される。そのため、上記のように斜め前側方へ倒れ込もうとする乗員P1をエアバッグ40によって受け止めて拘束し、衝撃から同乗員P1を保護することが可能である。
【0072】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変形例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変形例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0073】
<エアバッグ40について>
・エアバッグ40の形状又は大きさが変更されて、同エアバッグ40による乗員P1の保護対象部位が拡大、縮小又は変更されてもよい。
【0074】
・エアバッグ40は、上記実施形態のように略全体が膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。
【0075】
<テザー60について>
・テザー60の数が複数に変更されてもよい。
・テザー60の前端部61は、エアバッグ40であることを条件に、前端部41よりも後方となる箇所に結合されてもよい。
【0076】
・テザー60の後端部62は、サイドフレーム部22において前端部25よりも後方であることを条件に、上記実施形態とは異なる箇所に取付けられてもよい。
・テザー60の後端部62は、側部17内に位置するシートフレーム20の構成部材であって、サイドフレーム部22とは異なる部材に対し内方から取付けられてもよい。該当する部材としては、例えば、パイプフレーム部28が挙げられる。
【0077】
図8に示すように、側部17内においてサイドフレーム部22に対し、ブラケット等の別部品29が固定され、この付加された別部品29に対し、テザー60の後端部62が取付けられてもよい。
【0078】
同様に、図示はしないが、パイプフレーム部28の側部に対し、ブラケット等の別部品が固定され、この別部品に対し、テザー60の後端部62が取付けられてもよい。
・後端部62の別部品29に対する取付構造は、特に限定されない。上記実施形態と同様に、ボルト53、ナット54等の締結部材が用いられて、後端部62が別部品29に取付けられてもよい。
【0079】
<エアバッグモジュールABMについて>
・ファーサイドエアバッグ装置は、車両用シート13に代えて、又は加えて車両用シート14に適用されてもよい。ファーサイドエアバッグ装置が車両用シート14に適用された場合には、エアバッグモジュールABMが車両用シート13に近い側の側部17内に収納される。このようにすると、衝撃が側壁部11に加わった場合、エアバッグ40によって乗員P2を拘束して衝撃から乗員P2を保護する性能を高めることができる。
【0080】
<適用対象となるエアバッグ装置の種類>
・上記エアバッグ装置は、ファーサイドエアバッグ装置に限らず、通常のサイドエアバッグ装置に適用されてもよい。この場合、車両用シート13,14のシートバック16のうち、隣の車両用シート14,13から遠い側、表現を変えると隣接する側壁部11,12に近い側の側部17内に、エアバッグモジュールABMが収納される。
【0081】
<その他>
・制御装置72は、側壁部12に衝撃が加わることを予測した場合に、ガス発生器50に作動信号を出力する仕様に変更されてもよい。
【0082】
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、隣り合う車両用シート13,14間にセンターコンソールが設置された車両10に適用されてもよい。この場合には、乗員P1とセンターコンソールとによってエアバッグ40の下部を挟み込むことで、エアバッグ40が外方へ動くのを規制し、乗員P1を拘束して衝撃から乗員P1を保護する性能をさらに高めることが可能である。
【0083】
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、3つ以上の車両用シートが車幅方向に並設された車両10にも適用可能である。この場合、車両10の側壁部11,12に対し、衝撃が加わったことが検出されたとき、又は衝撃が加わることが予測されるときに、隣り合う車両用シート間でエアバッグ40を展開及び膨張させる。
【0084】
・上記エアバッグ装置は、後席を構成する車両用シートにも適用可能である。
・上記エアバッグ装置が適用される車両10には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。
【0085】
・上記エアバッグ装置は、車両10以外の乗物、例えば航空機、船舶等における乗物用シートに装備されるエアバッグ装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0086】
10…車両(乗物)
13…車両用シート(乗物用シート)
16…シートバック
16C…中央部
17…側部
20…シートフレーム
22…サイドフレーム部
25,41,61…前端部
29…別部品
40…エアバッグ
60…テザー
62…後端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8