(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186461
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】前立腺がん治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20221208BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20221208BHJP
A61P 13/08 20060101ALI20221208BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20221208BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221208BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20221208BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20221208BHJP
A61K 31/519 20060101ALI20221208BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20221208BHJP
【FI】
A61K45/00 ZNA
A61K48/00
A61P13/08
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/713
A61K31/381
A61K31/519
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094694
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】509111744
【氏名又は名称】地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】井上 聡
(72)【発明者】
【氏名】高山 賢一
(72)【発明者】
【氏名】木村 直樹
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA13
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA811
4C084ZA812
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC201
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BB02
4C086CB26
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA81
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、去勢抵抗性前立腺がんを含む前立腺がんの治療薬を提供することである。
【解決手段】前記課題は、本発明のRNase H2阻害物質を有効成分として含む前立腺がん治療用医薬組成物によって解決することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RNase H2阻害物質を有効成分として含む前立腺がん治療用医薬組成物。
【請求項2】
前記RNase H2阻害物質が、RNase H2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸であって、配列番号13の標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含む二本鎖核酸である、請求項1に記載の前立腺がん治療用医薬組成物。
【請求項3】
前記二本鎖核酸が、配列番号1及び2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、配列番号3及び4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、配列番号5及び6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、配列番号7及び8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、配列番号9及び10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、及び配列番号11及び12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、からなる群から選択される二本鎖核酸である、請求項2に記載の前立腺がん治療用医薬組成物。
【請求項4】
前記RNase H2阻害物質が、
下記式(1):
【化1】
(式中、Xは単結合、炭素数1~3のアルキレン基、又は-NH-CO-C-であり、
Yは単結合、又は-C-S-であり、
R
1は、置換基を有することのある5~6員の芳香族複素環基、置換基を有することのあるフェニル基、置換基を有することのある炭素数5~6のシクロアルキル基、又は炭素数3~8のアルキル基であり、
R
2は、置換基を有することのある炭素数5~6のシクロアルキル基、置換基を有することのある5~6員の芳香族複素環基、置換基を有することのあるフェニル基、又は炭素数3~8のアルキル基であり、
-NH-の水素原子(H)が解離し、窒素原子(N)がR
2基の置換基の硫黄原子(S)と結合して環構造を形成してもよい)
で表される化合物である、請求項1に記載の前立腺がん治療用医薬組成物。
【請求項5】
前記RNaseH2阻害化合物が、下記式(2):
【化2】
で表される2-シクロペンタンアミド-4-エチル-5-メチルチオフェン-3-カルボキサミド、又は下記式(3):
【化3】
で表されるN-[(フラン-2-イル)メチル]-2-{8-チア-4,6-ジアザトリシクロ[7.4.0.02,7]トリデカ-1(9),2(7),3,5-テトラエン-3-イルスルファニル}アセトアミドである、請求項4に記載の前立腺がん治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺がん治療用医薬組成物に関する。本発明によれば、難治性の前立腺がんを治療することができる。
【背景技術】
【0002】
日本における、2017年の前立腺がん罹患数は91,215例で、男性における第1位のがんであり、10人に1人が罹患すると言われている。前立腺がんは、アンドロゲン依存性に増殖する悪性腫瘍である。そのため、がんが前立腺にとどまっている限局性の前立腺がんに対しては、手術や放射線療法を行うが、進行した前立腺がんに対しては、アンドロゲン遮断療法(androgen deprivation therapy;ADT)を行う。ADTは初期には非常に有効であるが、次第に効果がなくなり、去勢抵抗性前立腺がん(castration resistant prostate cancer;CRPC)となることが、臨床上、非常に重要な問題となっている(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-172700号公報
【特許文献2】特開2019-123671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、去勢抵抗性前立腺がんを含む前立腺がんの治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、去勢抵抗性前立腺がんの治療薬について、鋭意研究した結果、驚くべきことに、RNase H2の阻害物質が、前立腺がんの治療に有効であることを見出した。
本発明は、こうした知見に基づくものである。
従って、本発明は、
[1]RNase H2阻害物質を有効成分として含む前立腺がん治療用医薬組成物、
[2]前記RNase H2阻害物質が、RNase H2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸であって、配列番号13の標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含む二本鎖核酸である、[1]に記載の前立腺がん治療用医薬組成物、
[3]前記二本鎖核酸が、配列番号1及び2で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、配列番号3及び4で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、配列番号5及び6で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、配列番号7及び8で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、配列番号9及び10で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、及び配列番号11及び12で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドのsiRNA、からなる群から選択される二本鎖核酸である、[2]に記載の前立腺がん治療用医薬組成物、
[4]前記RNase H2阻害物質が、
下記式(1):
【化1】
(式中、Xは単結合、炭素数1~3のアルキレン基、又は-NH-CO-C-であり、
Yは単結合、又は-C-S-であり、R
1は、置換基を有することのある5~6員の芳香族複素環基、置換基を有することのあるフェニル基、置換基を有することのある炭素数5~6のシクロアルキル基、又は炭素数3~8のアルキル基であり、R
2は、置換基を有することのある炭素数5~6のシクロアルキル基、置換基を有することのある5~6員の芳香族複素環基、置換基を有することのあるフェニル基、又は炭素数3~8のアルキル基であり、-NH-の水素原子(H)が解離し、窒素原子(N)がR
2基の置換基の硫黄原子(S)と結合して環構造を形成してもよい)で表される化合物である、[1]に記載の前立腺がん治療用医薬組成物、及び
[5]前記RNaseH2阻害化合物が、下記式(2):
【化2】
で表される2-シクロペンタンアミド-4-エチル-5-メチルチオフェン-3-カルボキサミド、又は下記式(3):
【化3】
で表されるN-[(フラン-2-イル)メチル]-2-{8-チア-4,6-ジアザトリシクロ[7.4.0.02,7]トリデカ-1(9),2(7),3,5-テトラエン-3-イルスルファニル}アセトアミドである、[4]に記載の前立腺がん治療用医薬組成物、
に関する。
前記去勢抵抗性前立腺がんの原因の1つにアンドロゲン受容体(androgen receptor;AR)の変異体(AR variants;AR-Vs)の出現が報告されている。siRNASEH2A及びRibonuclease(RNase)H2阻害薬は、前立腺がん細胞において、がん抑制遺伝子p53発現量の増加、及びAR発現量を減少させることで、前立腺がん細胞の増殖を抑制した。更に、CRPC細胞において、AR-Vs発現量を抑制した。
【発明の効果】
【0006】
本発明の前立腺がん治療用医薬組成物によれば、前立腺がん、特に去勢抵抗性前立腺がんを効果的に治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】siRNAによるAR陽性の前立腺がん細胞(LNCaP細胞及び22Rv1細胞)のRNASEH2A及びARのmRNA(A、D)、及びタンパク質発現量(B、E)の変化、及び細胞増殖(C、F)への影響を示したグラフである。
【
図2】siRNAによるAR陽性の前立腺がん細胞(LNCaP細胞及び22Rv1細胞)のがん抑制遺伝子であるp53及びAc-p53タンパク質の発現(A、C)の写真、並びにp53下流シグナル(p53、p21、BAX)のmRNA発現(B、D)を示したグラフである。
【
図3】siRNAによるARおよびAR-V7のタンパク質(A)およびmRNA(B)発現への影響ならびにアンドロゲンであるジヒドロテストステロン(DHT)刺激による前立腺がん細胞の増殖促進効果に与える影響(C)を示したグラフである。
【
図4】siRNAによる去勢抵抗性前立腺がん細胞へのin vivoでの治療効果を示した図である。
【
図5】RNase H2阻害化合物(RNaseH2i#1及びRNaseH2i#2)によるAR陽性の前立腺がん細胞(LNCaP細胞及び22Rv1細胞)の細胞増殖への影響を示したグラフである。
【
図6】RNase H2阻害化合物(RNaseH2i#1及びRNaseH2i#2)によるp53及びARの発現への影響を示したウエスタンブロットの写真である。
【
図7】RNase H2阻害化合物(RNaseH2i#1及びRNaseH2i#2)によるDNA損傷(γH2AX)及びアポトーシス(c-PARP)への影響を示したグラフである。本実施例では、RNase H2阻害化合物がDNA損傷とアポトーシスへ与える影響を検討した。DNA損傷へ与える影響はγH2AXで検出し、アポトーシスをPoly(ADP-ribose)polymerase(PARP)の分解により生じるcleaved-Poly(ADP-ribose)polymerase(c-PARP)の発現量、及びTUNEL法により検討した。22Rv1においてRNaseH2i#1及び#2共に(1及び5μM)でγH2AX、c-PARPの発現増加が認められた(
図7A)。LNCaP細胞では、RNaseH2i#1(5μM)、RNaseH2i#2(5μM)でγH2AXの発現増加が認められ、RNaseH2i#1(1及び5μM)、RNaseH2i#2(5μM)でc-PARPの発現増加が認められた(
図7B)。また、TUNEL assayでは、RNase H2i#1及び#2(1及び5μM)共に有意にアポトーシス細胞数を増加させることが分かった(
図8)。
【
図8】RNase H2阻害化合物(RNaseH2i#1及びRNaseH2i#2)によるアポトーシスへの影響をTUNELアッセイによって測定した写真及びグラフである。
【
図9】RNase H2阻害化合物による去勢抵抗性前立腺がん細胞へのin vivoでの治療効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の前立腺がん治療用医薬組成物は、RNase H2阻害物質を有効成分として含む。
【0009】
《RNase H2》
RNase Hは、RNA/DNAハイブリットのRNA鎖を加水分解する酵素である。真核生物はRNase H1とRNase H2の2つを持ち、ヒトの細胞では主にRNase H2がRNase Hの酵素活性を有する。RNase H2はA、B、Cの 3つのサブユニットから構成され、それぞれのタンパク質は、RNaseH2Aが299アミノ酸、H2Bが308アミノ酸、H2Cが164アミノ酸で構成され、いずれもドメイン構造を持たない単一な巨大タンパクである。3つのタンパクが複合体を形成することによってRNase H2活性を示す。
【0010】
前立腺がん、特にCRPCにおいては、RNase H2A遺伝子の発現が上昇しているものがある。本発明においては、RNase H2を抑制することによって、前立腺がんを治療することができる。また、RNase H2の発現又は活性を抑制することにより、がん抑制遺伝子p53発現量の増加、及び/又はAR発現量の減少がみられる。限定されるものではないが、これらの現象により、前立腺がん、特にCRPCが治療できる可能性がある。
【0011】
RNase H2阻害物質は、RNase H2の活性を抑制及び/又は阻害する限りにおいて特に限定されるものではないが、例えばRNAi効果を有する二本鎖核酸、抗RNase H抗体、又はRNase H阻害化合物などが挙げられる。RNase H2の活性の抑制又は阻害とは、具体的には、例えばRNase H2のmRNAの発現の抑制、RNase H2のタンパク質の発現の抑制、RNase H2のタンパク質の機能の抑制又は阻害などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0012】
《RNAi効果を有する二本鎖核酸》
前記二本鎖核酸は、RNase H2遺伝子に対してRNAi効果を有する二本鎖核酸であって、配列番号13の標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含むことを特徴とする。なお、本明細書において「二本鎖核酸」とは、所望のセンス鎖とアンチセンス鎖とがハイブリダイズしてなる二本鎖核酸領域を含む核酸分子を意味し、siRNA(small interfering RNA)であることが好ましい。
【0013】
本発明の二本鎖核酸は、配列番号13の標的配列に対応する塩基配列を含むセンス鎖と、前記センス鎖に相補的な塩基配列を含むアンチセンス鎖とを含む。ここで、「標的配列に対応する塩基配列」とは、標的配列と同一の塩基配列であるか、あるいは、前記標的配列において1若しくは数個(例えば、2~3個)の塩基が置換された塩基配列を意味する。二本鎖核酸がsiRNAである場合、1~数塩基のミスマッチを含んでいても、RNAi効果が得られることが知られている。本発明では、標的配列と同一の塩基配列だけでなく、RNAi効果が得られる限り、ミスマッチを含む塩基配列であってもよい。
【0014】
また、アンチセンス鎖における「センス鎖に相補的な塩基配列」とは、センス鎖とハイブリダイズすることができる程度に相補的な塩基配列であればよく、センス鎖に完全に相補的な塩基配列であるか、あるいは、前記センス鎖に完全に相補的な塩基配列において1若しくは数個(例えば、2~3個)の塩基が置換された塩基配列であることができる。
【0015】
(核酸の種類と修飾)
二本鎖核酸を構成する核酸の種類は、特に限定されるものではなく、適宜選択することができ、例えば、二本鎖RNA、DNA-RNAキメラ型二本鎖核酸を挙げることができる。キメラ型はRNAi効果を有する二本鎖RNAの一部をDNAに換えたものであり、血清中での安定性が高く、免疫応答誘導性が低いことが知られている。
また、二本鎖核酸は、例えば、2’-OH基の修飾、バックボーンのホスホロチオエートによる置換やボラノホスフェート基による修飾、リボースの2位と4位が架橋されたLNA(locked nucleic acid)の導入などによって、ヌクレアーゼに対する耐性や安定化を高めることもできる。あるいは、細胞への導入効率を高める等の目的から、二本鎖核酸のセンス鎖の5’端、或いは3’端に、例えば、ナノ粒子、コレステロール、細胞膜通過ペプチド等の修飾を施すこともできる。
【0016】
(siRNA)
本発明の二本鎖RNAは、siRNA(キメラ型を含む)であることが好ましい。ここで、「siRNA」とは、18塩基長~29塩基長(好ましくは21~23塩基長)の小分子二本鎖RNAであり、前記siRNAのアンチセンス鎖(ガイド鎖)と相補的な配列をもつ標的遺伝子のmRNAを切断し、標的遺伝子の発現を抑制する機能を有する。すなわちsiRNAは、RNA干渉(RNAi)により、メッセンジャーRNA(mRNA)を破壊し、配列特異的に遺伝子の発現を抑制することができる。siRNAの塩基配列は、RNaseH2AのmRNAの塩基配列(配列番号13)から、適宜設計することができる。前記siRNAは、先述したようなセンス鎖及びアンチセンス鎖を含み、かつ所望のRNAi効果を示すものであれば、その末端構造に特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、前記siRNAは、平滑末端を有するものであってもよいし、突出末端(オーバーハング)を有するものであってもよい。中でも、前記siRNAは、各鎖の3’末端が2塩基~6塩基突出した構造を有することが好ましく、各鎖の3’末端が2塩基突出した構造を有することがより好ましい。また、RNaseH2AのmRNAの塩基配列から作製されたsiRNAであれば、効果の多寡があっても、前立腺がん治療用医薬組成物の有効成分として用いることができる。
【0017】
本発明のsiRNAとしては、表1に示すように、例えば、配列番号14(23塩基)を標的配列とする配列番号1(21塩基)のセンス鎖と配列番号2(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(後述する実施例におけるsiRNASEH2A#1)、配列番号15(23塩基)を標的配列とする配列番号3(21塩基)のセンス鎖と配列番号4(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siRNASEH2A#2)、配列番号16(23塩基)を標的配列とする配列番号5(21塩基)のセンス鎖と配列番号6(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siRNASEH2A#3)、配列番号17(23塩基)を標的配列とする配列番号7(21塩基)のセンス鎖と配列番号8(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siRNASEH2A#4)、配列番号18(23塩基)を標的配列とする配列番号9(21塩基)のセンス鎖と配列番号10(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siRNASEH2A#5)、配列番号19(23塩基)を標的配列とする配列番号11(21塩基)のセンス鎖と配列番号12(21塩基)のアンチセンス鎖とからなるsiRNA(同siRNASEH2A#6)を挙げることができる。
【0018】
【表1】
(標的配列)
#1:CTCAGCATCCGAGAATCAGGAGG(858-880)(配列番号14)
#2:CCGTTCTTCCCACCGATATTTCC(933-935)(配列番号15)
#3:GTCTACGCCATCTGTTATTGTCC(226-248)(配列番号16)
#4:GCCACTGGGCTTATACAGTATGC(451-473)(配列番号17)
#5:CTGCAGGACTTGGATACTGATTA(685-707)(配列番号18)
#6:TGGGTGTTGGTTGATTAATTTTA(1147-1169)(配列番号19)
【0019】
(製造方法)
本発明の二本鎖RNA(特にはsiRNA)は、従来公知の手法に基づき作製することができる。
例えば、所望のセンス鎖とアンチセンス鎖とに相当する18塩基長~29塩基長の一本鎖RNAを、それぞれ既存のDNA/RNA自動合成装置等を利用して化学的に合成し、それらをアニーリングすることにより作製することができる。また、後述する本発明のベクターのような、所望のsiRNA発現ベクターを構築し、前記発現ベクターを細胞内に導入することにより、細胞内の反応を利用してsiRNAを作製することもできる。
【0020】
前記ベクターに含まれるDNAは、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列の上流(5’側)に、前記二本鎖核酸の転写を制御するためのプロモーター配列が連結されていることが好ましい。前記プロモーター配列としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、CMVプロモーター等のpol II系プロモーター、H1プロモーター、U6プロモーター等のpol III系プロモーターなどが挙げられる。更に、前記二本鎖核酸をコードする塩基配列の下流(3’側)に、前記二本鎖核酸の転写を終結させるためのターミネーター配列が連結されていることがより好ましい。前記ターミネーター配列としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
前記ベクターとしては、前記DNAを含むものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスミドベクター、ウイルスベクターなどが挙げられる。前記ベクターは、前記二本鎖核酸(特にsiRNA)を発現可能な発現ベクターであることが好ましい。
前記二本鎖核酸の発現様式としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば二本鎖核酸としてsiRNAを発現させる方法として、短い一本鎖RNAを二本発現させる方法(タンデム型)、shRNA(short hairpin RNA)として一本鎖RNAを発現させる方法(ヘアピン型)等が挙げられる。ここで、shRNAとは、18塩基~29塩基程度のdsRNA領域と3塩基~9塩基程度のloop領域を含む一本鎖RNAであるが、shRNAは、生体内で発現されることにより、塩基対を形成してヘアピン状の二本鎖RNAとなる。その後、shRNAはDicer(RNase III酵素)により切断されてsiRNAとなり、標的遺伝子の発現抑制に機能することができる。
【0022】
前記タンデム型siRNA発現ベクターは、前記siRNAを構成するセンス鎖をコードするDNA配列と、アンチセンス鎖をコードするDNA配列とを含み、かつ、各鎖をコードするDNA配列の上流(5’側)にプロモーター配列がそれぞれ連結され、また、各鎖をコードするDNA配列の下流(3’側)にターミネーター配列がそれぞれ連結されたDNAを含む。
【0023】
また、前記ヘアピン型siRNA発現ベクターは、前記siRNAを構成するセンス鎖をコードするDNA配列と、アンチセンス鎖をコードするDNA配列とが逆向きに配置され、前記センス鎖DNA配列とアンチセンス鎖DNA配列とがループ配列を介して接続されており、かつ、それらの上流(5’側)にプロモーター配列が、また、下流(3’側)にターミネーター配列が連結されたDNAを含む。
【0024】
《RNaseH2阻害化合物》
本発明の医薬組成物は、RNaseH2阻害化合物を含んでもよい。RNaseH2阻害化合物は、特に限定されるものではないが、下記式(1):
【化4】
(式中、Xは単結合、炭素数1~3のアルキレン基、又は-NH-CO-C-であり、
Yは単結合、又は-C-S-であり、
R
1は、置換基を有することのある5~6員の芳香族複素環基、置換基を有することのあるフェニル基、置換基を有することのある炭素数5~6のシクロアルキル基、又は炭素数3~8のアルキル基であり、
R
2は、置換基を有することのある炭素数5~6のシクロアルキル基、置換基を有することのある5~6員の芳香族複素環基、置換基を有することのあるフェニル基、又は炭素数3~8のアルキル基であり、
-NH-の水素原子(H)が解離し、窒素原子(N)がR
2基の置換基の硫黄原子(S)と結合して環構造を形成してもよい)
で表される化合物が挙げられる。
【0025】
本明細書において「Xが単結合である」とは、R1と窒素原子(N)とが、そのまま結合することを意味する。また、「Yが単結合である」とは、R2と炭素原子(C)とが、そのまま結合することを意味する。
炭素数1~3のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、又はプロピレン基が挙げられる。
置換基を有することのある5~6員の芳香族複素環基とは、ヘテロ原子を環内に含む芳香族複素環から水素原子1個を除いた基を意味する。ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、又は窒素原子が挙げられる。具体的な芳香族複素環基又はその縮合環としては、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、キノリル基、イソキノリル基、ピロリル基、インドレニル基、イミダゾリル基、カルバゾリル基、チエニル基、又はフリル基が挙げられる。置換基を有する場合は、芳香族複素環基の水素原子が他の基に置換されるが、置換基の数は限定されるものではなく、例えば1~5のいずれかである。また、2つの置換基が一緒になって、芳香族環、芳香族複素環、飽和複素環、又はシクロアルキル環として、5~6員の芳香族複素環基と縮合してもよく、2環、又は3環以上の縮合でもよい。
炭素数5~6のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基が挙げられる。
炭素数3~8のアルキル基としては、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、又はオクチル基が挙げられる。
【0026】
前記置換基としては、炭素数1~3のアルキル基、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、フッ素原子、又は臭素原子)、アミド基(-CO-NH2)、カルボキシ基、メトキシカルボニル基、又はエトシキカルボニル基が挙げられる。
芳香族複素環基、フェニル基、又はシクロアルキル基の置換基としては、2つの置換基が一緒になって、芳香族環、芳香族複素環、飽和複素環、又はシクロアルキル環として、芳香族複素環基、フェニル基、又はシクロアルキル基と縮合してもよく、2環、又は3環以上の縮合環でもよい。芳香族環、芳香族複素環、飽和複素環、又はシクロアルキル環は、5員又は6員が好ましい。これらの縮合環は、されに前記置換基を有してもよい。
【0027】
前記-NH-の水素原子(H)が解離し、窒素原子(N)がR2基の置換基の硫黄原子(S)と結合して環構造を形成する場合、R2のシクロアルキル基、芳香族複素環基、又はフェニル基と縮合環を形成することになる。
【0028】
前記式(1)の化合物としては、具体的には下記の化学式で表される化合物が挙げられる。
【化5】
【0029】
前記式(1)で表される化合物は、好ましくは下記式(2):
【化6】
で表される2-シクロペンタンアミド-4-エチル-5-メチルチオフェン-3-カルボキサミド(2-cyclopentaneamido-4-ethyl-5-methylthiophene-3-carboxamide)(以下、化合物Aと称することがある)又は
下記式(3):
【化7】
で表されるN-[(フラン-2-イル)メチル]-2-{8-チア-4,6-ジアザトリシクロ[7.4.0.02,7]トリデカ-1(9)、2(7)、3,5-テトラエン- 3-イルスルファニル}アセトアミド(N-[(furan-2-yl)methyl]-2-{8-thia-4,6-diazatricyclo[7.4.0.02,7]trideca-1(9),2(7),3,5-tetraen-3-ylsulfanyl}acetamide)(以下、化合物Bと称することがある)である。
【0030】
本発明に用いられるRNaseH2阻害化合物は、それらの塩を含む。前記RNaseH2阻害化合物の塩は、製薬学的に許容される塩であり、置換基の種類によって、酸付加塩又は塩基との塩を形成する場合がある。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、マンデル酸、酒石酸、ジベンゾイル酒石酸、ジトルオイル酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リシン、オルニチン等の有機塩基との塩、アセチルロイシン等の各種アミノ酸及びアミノ酸誘導体との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
【0031】
更に、本発明に用いられる化合物は、前記のRNaseH2阻害化合物、並びにその塩の各種の水和物や溶媒和物、及び結晶多形の物質も包含する。また前記化合物は、種々の放射性又は非放射性同位体でラベルされた化合物も包含する。
【0032】
前記RNaseH2阻害化合物、又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する医薬組成物は、当分野において通常用いられている賦形剤、即ち、薬剤用賦形剤や薬剤用担体等を用いて、通常使用されている方法によって調製することができる。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、又は、関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
【0033】
経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、1種又は2種以上の有効成分を、少なくとも1種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等のような崩壊剤、安定化剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性物質のフィルムで被膜してもよい。
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤、例えば精製水又はエタノールを含む。当該液体組成物は不活性な希釈剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
【0034】
非経口投与のための注射剤は、無菌の水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤又は乳濁剤を含有する。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水又は生理食塩液が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール又はオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、又はポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、更に等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、又は溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解又は懸濁して使用することもできる。
【0035】
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【0036】
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体又は半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば公知の賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
【0037】
投与量は病気の種類、症状、年齢、性別など個々の患者によって異なるが、通常、経口投与の場合、成人1日あたり0.001mg/kg~500mg/kg程度であり、これを1回、あるいは2回から4回に分けて投与する。注射で投与する場合は、成人1日あたり0.0001mg/kg~10mg/kg程度を1回乃至2回、急速静注するかあるいは点滴静注する。吸入の場合は成人1日あたり0.0001mg/kg~10mg/kg程度を1回、又は複数回投与する。経皮剤の場合は成人1日あたり0.01mg/kg~10mg/kg程度を1日1回乃至2回貼付する。
【0038】
前記RNaseH2阻害化合物、又はその塩は、前記RNaseH2阻害化合物、又はその塩が有効性を示すと考えられる疾患の種々の治療剤又は予防剤と併用することができる。当該併用は、同時投与、或いは別個に連続して、若しくは所望の時間間隔をおいて投与してもよい。同時投与製剤は、配合剤であっても別個に製剤化されていてもよい。
【0039】
本発明の医薬組成物の治療対象である前立腺がんは、前立腺に発生する癌であり、ホルモン療法として、抗アンドロゲン剤の投与が行われることもある。治療対象の前立腺がんの種類は、特に限定されるものではないが、ホルモン療法耐性を獲得したアンドロゲン非依存性前立腺がん(CRPC)に特に有効である。AR陽性CRPC及びAR陰性のCRPCに顕著な抗がん作用を示し、本発明の医薬組成物は、ホルモン療法耐性を獲得したCRPCに有効に用いることができる。しかしながら、ホルモン療法耐性ではない前立腺がんやその他の機序による治療抵抗性前立腺がんも治療することができる。
【0040】
《前立腺がんの治療方法》
前記RNase H2阻害物質を前立腺がんの治療方法に用いることができる。すなわち、本明細書は、前記RNAi効果を有する二本鎖核酸、抗RNase H抗体、又はRNase H阻害化合物等のRNase H2阻害物質の治療有効量を前立腺がん患者に投与する工程を含む、前立腺がんの治療方法を開示する。
【0041】
《前立腺癌の治療方法における使用のためのRNase H2阻害物質》
前記RNase H2阻害物質は、前立腺がんの治療方法に使用することができる。すなわち、前立腺がんの治療方法に使用するための、前記RNAi効果を有する二本鎖核酸、抗RNase H抗体、又はRNase H阻害化合物等のRNase H2阻害物質を開示する。
【0042】
《RNase H2阻害物質の医薬組成物の製造への使用》
前記RNase H2阻害物質は、前立腺がんの治療用医薬組成物の製造へ使用することができる。すなわち、本明細書は、前記前記RNAi効果を有する二本鎖核酸、抗RNase H抗体、又はRNase H阻害化合物等のRNase H2阻害物質の、前立腺がんの治療用医薬組成物の製造への使用を開示する。
【0043】
《作用》
RNase H2阻害物質が前立腺癌の治療に有効であるメカニズムは、詳細に解析されているわけではないが、以下のように推定することができる。RNase H2阻害物質は、RNase H2のmRNAの発現を阻害すること、RNase H2タンパク質の発現を阻害すること、RNase H2の機能(活性)を阻害することによって、RNase H2の活性が亢進している前立腺がんを抑制することができる。例えば、RNase H2の発現又は活性を抑制することによって、がん抑制遺伝子p53発現量を増加、及び/又はAR発現量を減少させることで、前立腺がん細胞の増殖を抑制できると推定される。
本発明のRNase H2阻害化合物は、RNase H2の機能(活性)を阻害することによって、RNase H2の活性が亢進している前立腺がんを抑制することができるが、特に下記式(1)のR
1及びR
2に、それぞれ5~6員の芳香族複素環基、フェニル基、炭素数5~6のシクロアルキル基、又は炭素数3~8のアルキル基を有することにより、RNase H2阻害活性を示すものと推定される。
【化8】
【実施例0044】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
《実施例1》
本実施例では、RNase H2Aに対するsiRNAを用いて、AR陽性の前立腺がん細胞(LNCaP細胞及び22Rv1細胞)のmRNA及びタンパク質の発現及び細胞の増殖に対する影響を検討した。
アンドロゲン受容体陽性前立腺がん細胞株LNCaP(ヒト左鎖骨リンパ節転移由来前立腺がん細胞)と22Rv1細胞(ヒト前立腺がん由来上皮細胞)は、37℃、5%CO2条件下で培養した。10%Fetal bovine serum(FBS)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Thermofisher, Tokyo, Japan)を加えたRoswell Park Memorial Institute(RPMI)1640(Sigma-Aldrich Japan, Tokyo, Japan)をメディウムとして使用した。
【0046】
以下のsiRNAを作製した。
siRNASEH2A#1(858-880)
5’-CAGCAUCCGAGAAUCAGGAGG-3’
5’-UCCUGAUUCUCGGAUGCUGAG-3’
siRNASEH2A#2(933-935)
5’-GUUCUUCCCACCGAUAUUUCC-3’
5’-AAAUAUCGGUGGGAAGAACGG-3’
siRNASEH2A#3(226-248)
5’-CUACGCCAUCUGUUAUUGUCC-3’
5’-ACAAUAACAGAUGGCGUAGAC-3’
siRNASEH2A#4(451-473)
5’-CACUGGGCUUAUACAGUAUGC-3’
5’-AUACUGUAUAAGCCCAGUGGC-3’
siRNASEH2A#5(685-707)
5’-GCAGGACUUGGAUACUGAUUA-3’
5’-AUCAGUAUCCAAGUCCUGCAG-3’
siRNASEH2A#6(1147-1169)
5’-GGUGUUGGUUGAUUAAUUUUA-3’
5’-AAAUUAAUCAACCAACACCCA-3’
【0047】
コントロールsiRNA(silencer select siRNA)はThermofisher(Tokyo, Japan)より購入した。siRNAの細胞内への導入はLipofectamine RNAiMAX(Thermofisher,Tokyo,Japan)を用い、プロトコルにしたがって行った。
RNASEH2Aの発現抑制は、qRT-PCR及びRNASEH2A、AR特異抗体を用いたwestern blot法にて測定した。細胞増殖能の解析は、生細胞数のカウントにより行った。5×104個ずつ24穴プレートに細胞を播種し、翌日にRNase H2iを加えた。RNase H2i添加3日後にPBSで細胞を回収し、同量の0.5%トリパンブルー染色液(Nacalaitesque, Kyoto, Japan)を加え、死細胞の染色を行った。血球計算版(NanoEnTek, Seoul, Korea)で染色されない細胞数をカウントした。解析は各群において3回のカウントを行い、平均値、標準偏差を計算した。
【0048】
siRNASEH2A処理細胞ではsiControlと比較し、RNASEH2A及びARのmRNA、タンパク質発現量が抑制されることが確認された(
図1A、B、D、E)。また、RNASEH2Aの発現抑制は、22Rv1ではいずれのsiRNASEH2Aにおいても有意差を持って細胞増殖を抑制し、LNCaPではsiRNASEH2A#2、#5で有意差を持って細胞増殖を抑制することが分かった(
図1C及びF)。
【0049】
《実施例2》
本実施例では、siRNASEH2A#1及びsiRNASEH2A#5を用いて、がん抑制遺伝子p53の発現に対する影響を検討した。
RNASEH2Aの発現抑制を行い、RNASEH2A、p53、Ac-p53特異抗体を用いたwestern blot法でタンパク質発現を検討した。siRNASEH2A#1及び#5処理細胞ではsiControlに比べ、p53、Ac-p53の発現量が増加していた(
図2A及びC)。更に、p53下流シグナル(p53、p21、BAX)のmRNA発現量をqRT-PCRにて計測したところ、siRNASEH2A#1、#5処理細胞では、siControlに比べp53、p21、BAXの発現量が増加していた(
図2B及びD)。
【0050】
《実施例3》
本実施例では、siRNASEH2A#1及びsiRNASEH2A#5を用いて、AR及びAR-V7の発現に対する影響を検討した。
RNASEH2Aの発現抑制を行い、AR及びAR-V7特異抗体を用いたwestern blot法でタンパク質発現を検討した。また、AR及びAR-V7のmRNAの発現をqPCRによって測定した。更に、アンドロゲンであるジヒドロテストステロンDHT添加による増殖抑制効果への影響を調べた。
siRNASEH2A#1及び#5処理細胞ではsiControlに比べ、AR及びAR-V7の発現量が減少していた(
図3)。更に、DHT依存的な増殖促進効果がsiControlと比べて有意に抑制を受けていた。
【0051】
《実施例4》
本実施例では、RNase H2Aに対するsiRNAにより、去勢抵抗性前立腺がん細胞へのin vivoでの影響をヌードマウスで検討した。
22Rv1細胞をヌードマウスへ皮下注射し、腫瘍形成を確認した後に去勢術を行った(N=10)。48時間おきにsiControl及びsiRNASEH2A#5を腫瘍へ注射し、腫瘍サイズを計測した。siControlと比較し、siRNASEH2A#5で有意に腫瘍サイズの有意な減少が認められた。更に腫瘍からタンパク質を抽出し、AR、p53の発現量の検出を検討したところ、siRNASEH2A#5処理によりp53の発現量の増加、AR、AR-V7の発現量の減少が観察された(
図4)。
【0052】
《実施例5》
本実施例では、RNase H2阻害化合物が前立腺がん細胞株へ与える影響の検討を行った。RNase H2阻害化合物として、2-シクロペンタンアミド-4-エチル-5-メチルチオフェン-3-カルボキサミド(2-cyclopentaneamido-4-ethyl-5-methylthiophene-3-carboxamide;RNaseH2i#1)及びN-[(フラン-2-イル)メチル]-2-{8-チア-4,6-ジアザトリシクロ[7.4.0.02,7]トリデカ-1(9)、2(7)、3,5-テトラエン-3-イルスルファニル}アセトアミド(N-[(furan-2-yl)methyl]-2-{8-thia-4,6-diazatricyclo[7.4.0.02,7]trideca-1(9),2(7),3,5-tetraen-3-ylsulfanyl}acetamide;RNaseH2i#2)を用いた。22Rv1、LNCaP、RWPE細胞を24穴プレートに3×10
4個ずつ播種し、24時間後に化合物A又は化合物Bを100、50、10、5、1、0.5、0.1、0.05μM添加し、3日後にPBSで細胞を回収し、0.5%トリパンブルー染色液で死細胞を染色し、染色されていない細胞数を計測した。それぞれ3度の計測を行い、コントロールでの生細胞数との割合を計測しt-testによりコントロールにおける生細胞数と比較し統計解析を行った。22Rv1細胞では化合物A又は化合物B共に5μMでコントロールと比較した細胞数が半数になり、LNCaP細胞ではRNaseH2i#1が10μM、RNaseH2i#2が5μMで半数となった。しかし、正常前立腺上皮細胞株であるRWPE細胞では細胞増殖抑制効果は認められなかった(
図5)。
【0053】
《実施例6》
本実施例では、RNase H2阻害化合物がp53とARに与える影響を検討した。22Rv1、LNCaP細胞を6穴プレートに1×10
5個播種し、24時間後にRNaseH2i#1又は#2を添加し、48時間後にタンパク質を回収した。22Rv1におけるAR発現減少は、RNaseH2i#1(5μM)、RNaseH2i#2(1及び5μM)で認められ、p53の発現増加はRNaseH2i#1及び#2共に(1及び5μM)認められた(
図6A)。LNCaP細胞では、AR発現減少は、RNaseH2i #2(1及び5μM)で認められ、p53の発現増加はRNaseH2i#1及び#2共に(1及び5μM)認められた(
図6B)。
【0054】
《実施例7》
本実施例では、RNase H2阻害化合物がDNA損傷とアポトーシスへ与える影響を検討した。DNA損傷へ与える影響はγH2AXで検出し、アポトーシスをPoly(ADP-ribose)polymerase(PARP)の分解により生じるcleaved-Poly(ADP-ribose)polymerase(c-PARP)の発現量、及びTUNEL法により検討した。22Rv1においてRNaseH2i#1及び#2共に(1及び5μM)でγH2AX、c-PARPの発現増加が認められた(
図7A)。LNCaP細胞では、RNaseH2i#1(5μM)、RNaseH2i#2(5μM)でγH2AXの発現増加が認められ、RNaseH2i#1(1及び5μM)、RNaseH2i#2(5μM)でc-PARPの発現増加が認められた(
図7B)。また、TUNEL assayでは、RNase H2i#1及び#2(1及び5μM)共に有意にアポトーシス細胞数を増加させることが分かった(
図8)。
【0055】
《実施例8》
本実施例では、RNase H2阻害化合物が前立腺がん細胞の増殖へ与える影響の検討をin vivoで行った。BALB/cヌードマウスの皮下に22Rv1細胞を移植し、腫瘍形成を確認後に去勢術を行い、CRPCモデルマウスを作成した。CRPCモデルマウスの腹腔内へRNaseH2i#1及び#2をそれぞれ0.5mg/匹/回ずつ5回/週投与し、腫瘍増殖へ与える影響を検討した。その結果、RNaseH2i#1及び#2を投与したマウスにおける腫瘍増殖は、コントロールに比べ有意に抑制されていた(
図9)。