(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186463
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】捕捉装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/26 20060101AFI20221208BHJP
C12M 1/32 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C12M1/26
C12M1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094696
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】庄子 習一
(72)【発明者】
【氏名】関口 哲志
(72)【発明者】
【氏名】田中 大器
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 颯希
(72)【発明者】
【氏名】石原 潤一
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 弘喜
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA09
4B029BB02
4B029GB02
4B029HA05
4B029HA10
(57)【要約】
【課題】目的の捕捉対象物のみを捕捉流路に迅速に捕捉可能な捕捉装置を提供する。
【解決手段】溶液5と共に微小な細菌6を流動させ、細菌6を捕捉する捕捉装置1であって、主流路13と、副流路14A、14Bと、複数の捕捉流路15A、15Bと、制限流路16A、16Bと、を有し、捕捉流路15A、15Bが主流路13と制限流路16A、16Bを連結し、制限流路16A、16Bが副流路14A、14Bと捕捉流路15A、15Bを連結し、捕捉流路15A、15Bが細菌6を流動可能な大きさに形成され、制限流路16A、16Bが細菌6を流動させない大きさに形成されていることで、捕捉流路15A、15Bに細菌6を捕捉する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液と共に微小な捕捉対象物を流動させ、前記捕捉対象物を捕捉する捕捉装置であって、
主流路と、副流路と、複数の捕捉流路と、制限流路と、を有し、
前記捕捉流路が前記主流路と前記制限流路を連結し、
前記制限流路が前記副流路と前記捕捉流路を連結し、
前記捕捉流路が前記捕捉対象物を流動可能な大きさに形成され、
前記制限流路が前記捕捉対象物を流動させない大きさに形成されていることを特徴とする捕捉装置。
【請求項2】
前記捕捉流路の横幅が前記捕捉対象物を横幅方向において複層で流動可能な長さに形成され、
前記捕捉流路の縦幅が前記捕捉対象物を縦幅方向において単層で流動させる長さに形成されていることを特徴とする請求項1に記載の捕捉装置。
【請求項3】
前記主流路と前記副流路と前記制限流路が平行に延設され、
前記捕捉流路が前記主流路と直角をなす方向に延設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の捕捉装置。
【請求項4】
前記溶液を流動させる輸液装置を備え、
前記輸液装置により、前記溶液を前記主流路、前記捕捉流路、前記制限流路、前記副流路の順で流す順流と、前記溶液を前記副流路、前記制限流路、前記捕捉流路、前記主流路の順で流す逆流に切り替え可能であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の捕捉装置。
【請求項5】
前記捕捉対象物を回収する回収装置を備え、
前記輸液装置により前記溶液を前記逆流させることで、前記捕捉流路に捕捉された前記捕捉対象物を前記回収装置に回収可能であることを特徴とする請求項4に記載の捕捉装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路内に液体と共に微小な捕捉対象物を流動させ、当該捕捉対象物を列状に捕捉する捕捉装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6及び
図7は、非特許文献1に記載されている従来のマイクロ流体デバイスの略図である。非特許文献1に記載された櫛歯型の細菌培養用マイクロ流体デバイスは、培養チャネル(Growth chAnnel)の終端部が行き止まりになっており、培養液の流れが止まり、細菌が培養チャネルにうまく格納されず長時間の静置培養や遠心分離機等を用いて強制的に細菌を培養チャネルに押し込む手法がとられていた。非特許文献1の著者らは、細菌を一晩静置培養して細菌を押し込むように培養チャネルに格納している。
【0003】
細菌を培養チャネルに格納する方法は規格化されておらず、研究室ごとに独自の工夫を行っているため、細菌をマイクロ流体デバイスに流し込んでから、培養チャネルに格納するまでの時間が研究室ごとに大きく異なると推察される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】DA YAng et Al., AnAlysis of FActors Limiting BActeriAl Growth in PDMS Mother MAchine Devices, doi: 10.3389/fmicb.2018.00871
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのため、上述の従来の方法では細菌の格納に長時間を要することから、マザー細菌を判別できず、細菌の世代別の検証が不可能であった。また、遠心分離機を使用した場合には、細菌を破壊してしまうことがあった。
【0006】
また、細菌のプレカルチャー(マイクロ流体デバイスに流し込む細菌を、フラスコなどで予め培養し準備する操作)を先行研究に倣っても、培養チャネルに流し込むまでの時間が異なるため、その間に細菌の生育状態が変化し、先行研究を再現することが難しくなるという問題があった。
【0007】
さらに、細菌が培養チャネルに入り込む時間は、1回の実験あたり数時間程度の違いがあるため、先に培養チャネルに入った細菌と、遅れて入った細菌の間では、培養チャネル内での生育状態などが大きく異なるという問題もあった。
【0008】
このように、細菌をいかに迅速に培養チャネルに格納するかという問題は、実験条件や結果を規格化し、比較可能なものとするうえで、非常に重要な課題である。
【0009】
さらに,細菌の種類により、培養チャネルへの入り易さが大きく異なるという問題もある。例えば、大腸菌やサルモネラは、細胞表面に繊毛が生えているため、自遊することで培養チャネルに入り込む。一方、ブドウ球菌などには繊毛が生えていないため、自ら培養チャネルに入り込むことはない。したがって、後者の細菌を流体操作のみで培養チャネルに流し込むことは非常に難しく、細菌の種類に依らず迅速に培養チャネルに流し込む技術改善が求められていた。
【0010】
そこで、本発明は以上の問題点を解決し、捕捉流路に終端部を設けず、目的の捕捉対象物を捕捉流路に迅速に捕捉可能な捕捉装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の捕捉装置は、溶液と共に微小な捕捉対象物を流動させ、前記捕捉対象物を捕捉する捕捉装置であって、主流路と、副流路と、複数の捕捉流路と、制限流路と、を有し、前記捕捉流路が前記主流路と前記制限流路を連結し、前記制限流路が前記副流路と前記捕捉流路を連結し、前記捕捉流路が前記捕捉対象物を流動可能な大きさに形成され、前記制限流路が前記捕捉対象物を流動させない大きさに形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の捕捉装置は、前記捕捉流路の横幅が前記捕捉対象物を横幅方向において複層で流動可能な長さに形成され、前記捕捉流路の縦幅が前記捕捉対象物を縦幅方向において単層で流動させる長さに形成されている場合がある。
【0013】
また、本発明の捕捉装置は、前記主流路と前記副流路と前記制限流路が平行に延設され、
前記捕捉流路が前記主流路と直角をなす方向に延設されている場合がある。
【0014】
また、本発明の捕捉装置は、前記溶液を流動させる輸液装置を備え、前記輸液装置により、前記溶液を前記主流路、前記捕捉流路、前記制限流路、前記副流路の順で流す順流と、前記溶液を前記副流路、前記制限流路、前記捕捉流路、前記主流路の順で流す逆流に切り替え可能である場合がある。
【0015】
また、本発明の捕捉装置は、前記捕捉対象物を回収する回収装置を備え、前記輸液装置により前記溶液を前記逆流させることで、前記捕捉流路に捕捉された前記捕捉対象物を前記回収装置に回収可能である場合がある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、捕捉対象物を極めて迅速に捕捉流路内に捕捉することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態の捕捉装置の構成の概要を示す図である。
【
図2】同上、捕捉装置の平面図及び要部斜視図である。
【
図5】同上、細菌が捕捉流路に捕捉された状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態について、添付の
図1~
図5を参照して説明する。以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を限定するものではない。また、以下に説明される構成の全てが、本発明の必須要件であるとは限らない。
【0019】
図1は、本実施形態の捕捉装置1の構成の概要を示している。捕捉装置1は、輸液装置としてのシリンジポンプ2と2本のチューブ3A、3Bにより連結されている。シリンジポンプ2が備えるシリンジ4A、4B内に収容された溶液5と捕捉対象物としての細菌6がチューブ3内を流動し、捕捉装置1の入口11A、11Bに供給される。また、捕捉装置1の出口12A、12B、12Cは、様々な回収装置を接続可能であり、溶液5や捕捉されなかった細菌6を回収することができる。本実施形態では、回収装置として、出口12A、12B、12Cとビーカー7をチューブ8で連結した構成を採用している。また、出口12A、12B、12Cに貯留された溶液5や細菌6をピペット9等で手動回収してもよい。さらに、捕捉装置1により捕捉されなかった細菌6を捕獲するため、出口12A、12B、12Cに他の捕捉装置1Aを接続することもできる。なお、本実施形態の捕捉対象物としての細菌6は、大腸菌、サルモネラ、ブドウ球菌等の種々の細菌及び細胞を含むものである。
【0020】
図2及び
図3に示すように、捕捉装置1は、主流路13と、2本の副流路14A、14Bと、複数の捕捉流路15A、15Bと、2本の制限流路16A、16Bと、を有する。中央に主流路13が配設され、主流路13の両側に副流路14A、14Bが平行に配設される。また、副流路14A、14Bの主流路13側の壁部17A、17Bに制限流路16A、16Bが主流路13及び副流路14A、14Bと平行に配設されている。全ての捕捉流路15A、15Bは、主流路13及び制限流路16A、16Bに対して直角方向に延設され、主流路13と制限流路16Aとが捕捉流路15Aにより連通され、主流路13と制限流路16Bとが捕捉流路15Bにより連通されている。
図3に示すように、本実施形態の捕捉装置1は、縦断面視において左右対称に形成されているが、この形状に限らず、例えば、副流路14B、捕捉流路15B、制限流路16Bを形成せずに、主流路13と、1本の副流路14Aと、複数の捕捉流路15Aと、1本の制限流路16Aにより形成される構成としてもよい。この場合、出口12C及び後述する出口側流路19Cは不要である。
【0021】
本実施形態では、主流路13と副流路14A、14Bと制限流路16A、16Bが平行に延設され、捕捉流路15A、15Bが主流路13と直角をなす方向に延設されているが、主流路13と副流路14A、14Bと制限流路16A、16Bが平行になっている必要はなく、また、捕捉流路15A、15Bは、主流路13に対して斜め方向に延設された樹枝状や魚骨状に形成してもよい。特に、捕捉流路15A、15Bを主流路13に対して30度から150度の角度を有するように形成することで、細菌6を効率良く流動させ、捕獲することができる。さらに、隣り合う捕捉流路15A、15Bが平行となっていなくてもよい。
【0022】
捕捉装置1は、入口11A、11Bと主流路13とを連通する入口側流路18と、出口12Aと副流路14Aとを連通する出口側流路19Aと、出口12Bと主流路13とを連通する出口側流路19Bと、出口12Cと副流路14Bとを連通する出口側流路19Cと、を有する。なお、本実施形態の捕捉装置1は、2箇所の入口11A、11Bと、3箇所の出口12A、12B、12Cを有するが、これらの数は適宜変更可能である。
【0023】
図3に示すように、主流路13は、横幅W1が100μm、縦幅(高さ)H1が30μmに形成されている。本実施形態の捕捉対象物は、大きさが約1μmの細菌6であるため、主流路13は多数の細菌6を溶液5と共に流動させることができる。
【0024】
副流路14A、14Bは、横幅W2が100μm、縦幅(高さ)H2が30μmに形成されている。本実施形態では、副流路14Aと副流路14Bがそれぞれ主流路13と同一の大きさに形成しているが、制限流路16A、16Bから流入する溶液5を確実に流動させることができれば、他の形状や大きさとしてもよい。
【0025】
捕捉流路15A、15Bは、横幅W3(
図2参照)が1μm、縦幅(高さ)H3が1μm、長さLが24μmである。ここで、捕捉流路15A、15Bの横幅W3は、細菌6を横幅方向に何列で捕捉するかにより決定され、
図5に示すように、細菌6を横幅方向に1列で捕捉する場合は横幅W3を1μm、細菌6を横幅方向に2列で捕捉する場合は横幅W3を2μm、細菌6を横幅方向に3列で捕捉する場合は横幅W3を3μm、細菌6を横幅方向に4列で捕捉する場合は横幅W3を4μmのように形成する。また、捕捉流路15A、15Bの縦幅(高さ)H3は、捕捉対象物である細菌6の大きさにより決定され、本実施形態では、細菌6が縦幅(高さ)方向に単層で流動するように1μmとしている。すなわち、捕捉流路15A、15Bは、細菌6が縦幅(高さ)方向は単層、横幅方向は単層又は複層で列状に捕捉される大きさに形成される。本実施形態の捕捉流路15Aと捕捉流路15Bは、所定の間隔で各5000本形成されており、全体として櫛歯形状を有している。なお、捕捉流路15A、15Bの数は、捕捉する細菌6の数等に応じて所望の数とすることができる。また、各捕捉流路15A、15Bの横幅W3は、全て同一の長さとしてもよく、異なる長さとしてもよい。さらに、捕捉流路15A、15Bの長さLは、捕捉する細菌6の大きさ(長さ)や、捕捉する数により、所望の長さとすることができる。
【0026】
本実施形態では、捕捉流路15A、15Bが、細菌6が縦幅(高さ)方向に単層で列状に捕捉される大きさ(1μm)に形成されるものであるが、捕捉流路15A、15Bの流路抵抗を小さくするため、例えば、1.5μm等、細菌6が縦幅(高さ)方向に複層とならず、かつ、細菌6と捕捉流路15A、15Bの内壁との隙間をより大きくしてもよい。また、捕捉流路15A、15Bは、細菌6が縦幅(高さ)方向に単層となる大きさとすることが好ましいが、2層や3層等、複層となる大きさとしてもよい。
【0027】
制限流路16A、16Bは、横幅W4が12μm、縦幅(高さ)H4が0.5μmに形成されている。捕捉流路15A、15Bと制限流路16A、16Bの接続部20A、20Bは、捕捉流路15A、15Bの縦幅(高さ)H3と制限流路16A、16Bの縦幅(高さ)H4の差から、上側に規制壁部21A、21Bが形成され、下側に捕捉流路15A、15Bと制限流路16A、16Bを連通する開口部22A、22Bが形成されている。大きさが約1μmの細菌6は、開口部22A、22Bを通過することができず、規制壁部21A、21Bに当接して捕捉流路15A、15B内に捕捉される。このとき溶液5は、細菌6と捕捉流路15A、15Bの内壁面との隙間や細菌6と細菌6との間の隙間を通り、開口部22A、22Bを通過して制限流路16A、16Bに流入する。このように、制限流路16A、16Bの縦幅(高さ)H4は、捕獲対象物である細菌6の大きさにより決定される。すなわち、捕捉流路15A、15B及び開口部22A、22Bは、細菌6が流動(通過)できない大きさに形成される。なお、制限流路16A、16Bの縦幅(高さ)H4は、捕捉流路15A、15Bの縦幅(高さ)H3の30~80%程度の長さに形成することが好ましい。
【0028】
制限流路16A、16Bの縦幅(高さ)H4が0.5μmであり、開口部22A、22Bは、捕捉装置1の流路が最も狭くなる部分であるが、制限流路16A、16Bは細管状に形成されておらず、水平方向に広がった形状(中空薄板形状)を有しているため、制限流路16A、16B内の流路抵抗が極端に大きくならず、捕捉流路15A、15Bと制限流路16A、16Bの流路抵抗の差が小さい。そのため、溶液5を効率良く流動させることができ、また、高粘度の薬剤(試薬)の使用が可能となる。さらに、制限流路16A、16Bが中空薄板形状を有していることにより、細管形状と比較して物理的強度が高く、破損し難くなっている。
【0029】
ここで、捕捉装置1の形成方法について簡単に説明する。先ず、SU-8を用いて一層目(制限流路16A、16B部分)をスピンコートする(
図4中の1参照)。次に、UV露光装置(図示せず)によりパターニングする(
図4中の2参照)。次に、SU-8を用いて二層目(捕捉流路15A、15B部分)をスピンコートする(
図4中の3参照)。次に、UV露光装置によりパターニングする(
図4中の4参照)。次に、SU-8を用いて三層目(主流路13及び副流路14A、14B部分)をスピンコートする(
図4中の5参照)。次に、UV露光装置によりパターニングする(
図4中の6参照)。次に、SU-8現像液を用いて現像する(
図4中の7参照)。次に、透明なポリジメチルシロキサン(PDMS)を用いてモールディングする(
図4中の8参照)。最後に、プラズマ接合によりPDMSとガラスを接合する(
図4中の9参照)。
【0030】
次に、溶液5及び細菌6の流動経路について説明する。シリンジポンプ2を駆動させると、シリンジ4A、4B内に収容された溶液5と細菌6がチューブ3内を流動し、捕捉装置1の入口11A、11Bに供給される。入口11A、11Bから捕捉装置1内に流入した溶液5及び細菌6は、主流路13内を流動し、各捕捉流路15A、15B内に流入する。本実施形態の捕捉流路15A、15Bは、横幅W3が1μm、縦幅(高さ)H3が1μmに形成されているため、細菌6は縦横単層でのみ捕捉流路15A、15B内を流動することができる。細菌6は、捕捉流路15A、15Bと制限流路16A、16Bとの接続部20A、20Bまで流動すると、開口部22A、22Bを通過することができず、規制壁部21A、21Bに当接して行き詰った状態で捕捉される。その後に捕捉流路15A、15B内に順次流入した細菌6は、前に流入した細菌6に当接して捕捉流路15A、15B内に捕捉される。制限流路16A、16B内に流入した溶液5は、制限流路16A、16Bから副流路14A、14Bに流動する。副流路14A、14B内を流動した溶液5は、出口12A、12Cからチューブ8内に流入し、ビーカー7に回収される。また、主流路13内を流動し、捕捉流路15A、15B内に流入しなかった溶液5及び細菌6は、出口12Bからチューブ8内に流入し、ビーカー7に回収される。溶液5中に大きさが0.5μm未満の捕捉対象外の小さな細菌や不純物等が含まれていた場合であっても、これら細菌や不純物等は、捕捉流路15A、15B内に捕捉されることなく、溶液5と共にビーカー7に回収される。このように、溶液5が入口11A、11B、入口側流路18、主流路13、捕捉流路15A、15B、制限流路16A、16B、副流路14A、14B、出口側流路19A、19C、出口12A、12Cの順に流動するのが順流である。
【0031】
次に、捕捉した細菌6の観察時における本実施形態の捕捉装置1の優位性について説明する。捕捉流路15A、15Bに細菌6が列状に捕捉された状態で、シリンジポンプ2により薬剤(試薬)A(抗生物質)を捕捉装置1内に流入させ、薬剤(試薬)Aに対する細菌6の反応を観察した後、続けて異なる薬剤(試薬)B(抗生物質)に対する細菌6の反応を観察したい場合がある。このような場合に、薬剤(試薬)Aに対する細菌6の反応を観察した後、シリンジポンプ2により薬剤(試薬)Bを捕捉装置1内に流入させると、薬剤(試薬)Bにより薬剤(試薬)Aが出口12A、12B、12Cに押し流され、捕捉流路15A、15B内の薬剤(試薬)がAからBに瞬時に置き換わる。このように捕捉流路15A、15B内の薬剤置換が容易かつ迅速に行なうことができるため、細菌6の薬剤(試薬)Bに対する反応が開始される時間も判断し易くなる。
【0032】
また、本実施形態の捕捉装置1は、出口12A、12Cにシリンジポンプ2を接続すると共に出口12Bを閉塞し、入口11A、11Bに回収装置(ビーカー7及びチューブ8)を接続することで、川上と川下を入れ替えることができる。そのため、捕捉流路15A、15Bに細菌6を捕捉した状態で、シリンジポンプ2により水等の液体を出口12A、12Cに流入させると、この液体が出口側流路19A、19B、副流路14A、14B、制限流路16A、16B、捕捉流路15A、15B、主流路13、入口側流路18の順に流動(逆流)する。このとき、捕捉流路15A、15Bに捕捉された細菌6が液体と共に流動し、入口11A、11Bから回収装置に回収される。このような逆流による細菌6の回収は、例えば、細菌6が捕捉された捕捉流路15A、15Bに抗生物質を流入させ、大半の細菌6が溶菌し、一部の細菌6が残存した場合に、残存した細菌6(耐性細胞)を回収してシングルセル解析(DNA解析やRNA解析)を行う際に有効である。
【0033】
以上のように、本実施形態の捕捉装置1は、溶液5と共に微小な細菌6を流動させ、細菌6を捕捉する捕捉装置1であって、主流路13と、副流路14A、14Bと、複数の捕捉流路15A、15Bと、制限流路16A、16Bと、を有し、捕捉流路15A、15Bが主流路13と制限流路16A、16Bを連結し、制限流路16A、16Bが副流路14A、14Bと捕捉流路15A、15Bを連結し、捕捉流路15A、15Bが細菌6を流動可能な大きさに形成され、制限流路16A、16Bが細菌6を流動させない大きさに形成されていることにより、溶液5と共に捕捉流路15A、15B内に流入した細菌6を捕捉流路15A、15B内に捕捉することができる。また、細菌6は溶液5と共に順次捕捉流路15A、15B内に流入し捕捉されるため、細菌6を列状に配列された状態で捕捉することができる。
【0034】
また、本実施形態の捕捉装置1は、捕捉流路15A、15Bの横幅W3が細菌6を横幅方向において複層で流動可能な長さに形成され、捕捉流路15A、15Bの縦幅H3が細菌6を縦幅方向において単層で流動させる長さに形成されていることにより、細菌6が捕捉流路15A、15B内で、横幅方向に複層、縦幅方向に単層で列状に捕捉される。そのため、捕捉された細菌6が縦幅方向(上下方向)に重なり合うことがなく、捕捉装置1の上側から全ての細菌6を観察することができる。
【0035】
また、本実施形態の捕捉装置1は、主流路13と副流路14A、14Bと制限流路16A、16Bが平行に延設され、捕捉流路15A、15Bが主流路13と直角をなす方向に延設されていることにより、捕捉流路15A、15Bが櫛歯状に配列されるため、隣り合う捕捉流路15A、15Bに捕捉された細菌6の比較・観察が容易となる。
【0036】
また、本実施形態の捕捉装置1は、溶液5を流動させるシリンジポンプ2を備え、シリンジポンプ2により、溶液5を主流路13、捕捉流路15A、15B、制限流路16A、16B、副流路14A、14Bの順で流す順流と、溶液5を副流路14A、14B、制限流路16A、16B、捕捉流路15A、15B、主流路13の順で流す逆流に切り替え可能であることにより、順流で捕捉流路15A、15Bに細菌6を捕獲し、逆流で捕捉流路15A、15Bに捕獲した細菌6を回収することができる。また、洗浄液等を逆流させることで、流路内を洗浄することができる。
【0037】
また、本実施形態の捕捉装置1は、細菌6を回収するビーカー7及びチューブ8を備え、シリンジポンプ2により溶液5を逆流させることで、捕捉流路15A、15Bに捕捉された細菌6をビーカー7及びチューブ8に回収可能であることにより、捕捉流路15A、15Bに捕捉した状態で細菌6の薬剤(試薬)に対する反応等を確認した後、その細菌6を回収し、他の解析を行うことができる。
【0038】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において、種々の変形実施が可能である。例えば、流路の大きさを変更することにより、病原性真菌(カビ)等の細菌よりサイズが大きい捕捉対象物の捕捉にも使用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 捕捉装置
2 シリンジポンプ(輸液装置)
5 溶液
6 細菌(捕捉対象物)
7 ビーカー(回収装置)
8 チューブ(回収装置)
9 ピペット(回収装置)
13 主流路
14A 副流路
14B 副流路
15A 捕捉流路
15B 捕捉流路
16A 制限流路
16B 制限流路
H3 縦幅(高さ)
W3 横幅