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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186494
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/06 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
H02P7/06 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094751
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】伊達 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】小栗 亮介
(72)【発明者】
【氏名】藤井 将太
【テーマコード(参考)】
5H571
【Fターム(参考)】
5H571FF01
5H571JJ17
5H571JJ25
5H571LL14
5H571LL22
5H571LL32
5H571LL33
(57)【要約】
【課題】起動時の回転量を高精度に算出可能としたモータ制御装置を提供すること。
【解決手段】モータ制御装置11は、直流モータMを制御するとともに、検出した電流波形のピークの数に基づいて直流モータMの回転量を算出する制御部21を備える。制御部21は、起動時の電流波形に基づいて起動時の回転速度を算出し、算出した回転速度に基づいて電流波形のピークの予測周期を算出する予測周期算出部23と、予測周期算出部23にて算出した予測周期に基づいて、検出した電流波形のピークの抜けを検出するピーク抜け検出部24と、ピーク抜け検出部24にて検出したピークの抜けに応じて、検出した電流波形のピークの数を補正して直流モータMの回転量を算出する回転量算出部25とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流モータ(M)を制御するとともに、検出した電流波形(X1)のピークの数に基づいて前記直流モータの回転量を算出する制御部(21)を備えたモータ制御装置(11)であって、
前記制御部は、
起動時の電流波形に基づいて起動時の回転速度(V2)を算出し、算出した回転速度に基づいて電流波形のピークの予測周期(Y1)を算出する予測周期算出部(23)と、
前記予測周期算出部にて算出した予測周期に基づいて、検出した電流波形のピークの抜けを検出するピーク抜け検出部(24)と、
前記ピーク抜け検出部にて検出したピークの抜けに応じて、検出した電流波形のピークの数を補正して前記直流モータの回転量を算出する回転量算出部(25)と
を備えたモータ制御装置。
【請求項2】
前記予測周期算出部は、起動時の電流波形を2次近似式(X2)に変換し、突入電流(I1)と定常電流(I2)と定常回転速度(V1)とによって作成された特性マップ(X3)に基づいて前記2次近似式から起動時の回転速度を算出し、算出した起動時の回転速度に基づいて電流波形のピークの予測周期を算出する請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記ピーク抜け検出部は、前記予測周期算出部にて算出した予測周期と、その予測周期の整数倍の周期である整数倍予測周期(Y2,Y3)とによって周期閾値(Z1,Z2)を算出し、算出した周期閾値と検出した電流波形のピークの周期(P)とを比較して電流波形のピークの抜けを検出する請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記ピーク抜け検出部は、予測周期の少なくとも2倍と3倍に対応した周期閾値を算出し、算出した複数の周期閾値と検出した電流波形のピークの周期とを比較して電流波形のピークの抜けを複数段階で検出する請求項3に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記回転量算出部は、前記ピーク抜け検出部にて複数段階で検出したピークの抜けに応じて、検出した電流波形のピークの数を複数段階で補正して前記直流モータの回転量を算出する請求項4に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、整流子と整流子に摺接される給電用ブラシとを有する直流モータでは、給電用ブラシの整流子セグメントへの接触状態の切り替わりによって電流や誘起電圧にリップルが生じる。そして、モータ制御装置としては、電流波形や誘起電圧波形におけるピークを検出し、ピークの数に基づいて直流モータの回転量を算出する制御部を備えたものがある。このようなモータ制御装置では、整流子セグメントが周方向に多数設けられることによって直流モータの回転子の細かい回転角度を検出でき、回転量を高精度に算出することができる。
【0003】
しかしながら、直流モータでは、例えば、給電用ブラシの整流子セグメントへの接触状態の切り替わりが不均一となることなどから、波形の振幅が一定とはならず、振幅が小さい場合に制御部がピークを検出できない、いわゆるピークの抜けが発生する場合がある。
【0004】
そこで、例えば、波形のピークを検出しつつ、その周期を過去の定常作動時のピークの周期である平均リップル周期と比較し、ピークの抜けを検出して補正する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-109880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のようなピークの抜けを検出する技術では、起動時、詳しくは起動してから回転速度が安定するまでの期間の速度変動時に、定常作動時の平均リップル周期を用いることができず、回転量を高精度に算出できないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、起動時の回転量を高精度に算出可能としたモータ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するモータ制御装置(11)は、直流モータ(M)を制御するとともに、検出した電流波形(X1)のピークの数に基づいて前記直流モータの回転量を算出する制御部(21)を備えたモータ制御装置であって、前記制御部は、起動時の電流波形に基づいて起動時の回転速度(V2)を算出し、算出した回転速度に基づいて電流波形のピークの予測周期(Y1)を算出する予測周期算出部(23)と、前記予測周期算出部にて算出した予測周期に基づいて、検出した電流波形のピークの抜けを検出するピーク抜け検出部(24)と、前記ピーク抜け検出部にて検出したピークの抜けに応じて、検出した電流波形のピークの数を補正して前記直流モータの回転量を算出する回転量算出部(25)とを備える。
【0009】
同構成によれば、予測周期算出部によって、起動時の電流波形に基づいて起動時の回転速度が算出され、算出した回転速度に基づいて電流波形のピークの予測周期が算出される。また、ピーク抜け検出部によって、予測周期算出部にて算出された予測周期に基づいて、検出した電流波形のピークの抜けが検出される。そして、回転量算出部によって、ピーク抜け検出部にて検出されたピークの抜けに応じて、検出した電流波形のピークの数が補正されて直流モータの回転量が算出されるため、起動時の回転量を高精度に算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態におけるモータ制御装置に関する模式回路図。
図2】一実施形態における制御部の算出処理を説明するためのフロー図。
図3】一実施形態における時間に対する電流の特性図。
図4】一実施形態における電流に対する回転速度の特性図。
図5】一実施形態における時間に対する回転速度の特性図。
図6】一実施形態における時間に対する周期の特性図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、モータ制御装置11の一実施形態を図1図6に従って説明する。
図1に示すように、モータ制御装置11は、直流モータMに接続されている。直流モータMは、整流子セグメント12が周方向に並設された整流子13と、整流子13に摺接される一対の給電用ブラシ14とを備えている。直流モータMは、回転子が被駆動部15に駆動連結される。
【0012】
直流モータMは、整流子13に摺接された給電用ブラシ14が整流子セグメント12間で切り替わるたび、すなわち整流子13が回転し一つの整流子セグメント12と接触していた給電用ブラシ14が隣の整流子セグメント12とも接触して、整流子セグメント12間を跨ぐたびに抵抗値が変化することで、電流のリップル波形が生成され、電流波形には整流子セグメント12が切り替わるごとに1つのピークが出現する。
【0013】
モータ制御装置11は、一対の給電用ブラシ14に接続される制御部21と、一方の給電用ブラシ14と制御部21との間に接続される電流計22とを備えている。
制御部21は、一対の給電用ブラシ14に駆動電流を供給して直流モータMを制御するとともに、電流計22にて検出した電流波形のピークの数に基づいて直流モータMの回転量を算出する。
【0014】
詳しくは、制御部21は、予測周期算出部23と、ピーク抜け検出部24と、回転量算出部25とを備えている。
予測周期算出部23は、起動時、詳しくは起動してから回転速度が安定するまでの期間の電流波形に基づいて起動時の回転速度を算出し、算出した回転速度に基づいて電流波形のピークの予測周期、すなわちピークとピークの間の予測周期を算出する。
【0015】
ピーク抜け検出部24は、予測周期算出部23にて算出した予測周期に基づいて、検出した電流波形のピークの抜けを検出する。
回転量算出部25は、ピーク抜け検出部24にて検出したピークの抜けに応じて、検出した電流波形のピークの数を補正して直流モータMの回転量を算出する。
【0016】
次に、上記した制御部21の具体的な動作及び作用を図2に従って説明する。
図2に示すように、制御部21は、直流モータMを起動させる際、ステップS1以下の算出処理を行う。
【0017】
図3に示すように、ステップS1において、制御部21は、起動時、詳しくは起動してから回転速度が安定するまでの期間に電流計22にて検出された電流波形X1を保持してステップS2に移行する。
【0018】
ステップS2において、制御部21の予測周期算出部23は、起動時の電流波形X1に基づいて起動時の回転速度を算出し、算出した回転速度に基づいて電流波形X1のピークの予測周期Y1を算出して、ステップS3に移行する。
【0019】
詳しくは、ステップS2において、予測周期算出部23は、まず起動時の電流波形X1を2次近似式X2に変換する。なお、図3では、2次近似式X2の波形を破線で図示している。
【0020】
次に、図4に示すように、予測周期算出部23は、突入電流I1と定常電流I2と定常回転速度V1とによって特性マップX3を作成する。なお、突入電流I1は、停止状態にある直流モータMに駆動電流を供給した直後に流れる最大の電流値であり、定常電流I2は直流モータMの回転速度が安定した定常回転速度V1の状態で流れる電流値である。すなわち、予測周期算出部23は、回転速度が0のときの突入電流I1と定常回転速度V1のときの定常電流I2とから1次関数の特性マップX3を作成する。
【0021】
次に、図5に示すように、予測周期算出部23は、特性マップX3に基づいて前記2次近似式X2から起動時の回転速度V2を算出する。
そして、図6に示すように、予測周期算出部23は、起動時の回転速度V2に基づいて、回転速度V2の逆数である予測周期Y1、詳しくは電流波形X1のピークの予測周期Y1を算出する。
【0022】
次に、ステップS3において、制御部21のピーク抜け検出部24は、予測周期Y1に基づいて、検出した電流波形のピークの抜けを検出し、ステップS4に移行する。
詳しくは、図6に示すように、ピーク抜け検出部24は、まず予測周期Y1と、その予測周期Y1の整数倍の周期である整数倍予測周期Y2,Y3とによって周期閾値Z1,Z2を算出する。具体的には、本実施形態のピーク抜け検出部24は、予測周期Y1の少なくとも2倍と3倍の周期である整数倍予測周期Y2,Y3を算出し、それらの中間の値を2倍と3倍に対応した周期閾値Z1,Z2として算出する。なお、図6では、予測周期Y1の範囲内と考えられる下限を下限閾値Z3として図示し、予測周期Y1の3倍に対応した整数倍予測周期Y3の範囲内と考えられる上限を上限閾値Z4として図示している。下限閾値Z3は、例えば予測周期Y1から予測周期Y1の半周期分低い値とし、上限閾値Z4は、例えば、3倍に対応した整数倍予測周期Y3から予測周期Y1の半周期分高い値とすることが考えられる。
【0023】
そして、ピーク抜け検出部24は、算出した周期閾値Z1,Z2と検出した電流波形のピークの周期Pとを比較して電流波形のピークの抜けを検出する。詳しくは、ピーク抜け検出部24は、算出した複数の周期閾値Z1,Z2と検出した電流波形X1のピークの周期Pとを比較して電流波形のピークの抜けを複数段階で検出する。具体的には、本実施形態のピーク抜け検出部24は、例えば、電流波形X1から振幅が一定以上であるピークを検出し、そのピークの周期Pを下限閾値Z3、周期閾値Z1,Z2及び上限閾値Z4と比較する。そして、ピーク抜け検出部24は、例えば、ピークの周期Pが下限閾値Z3と周期閾値Z1との間にある場合はピークの抜けは無いと判定する。また、ピーク抜け検出部24は、例えば、ピークの周期Pが周期閾値Z1と周期閾値Z2との間にある場合は1回だけピークの抜けが生じたと判定する。また、ピーク抜け検出部24は、例えば、ピークの周期Pが周期閾値Z2と上限閾値Z4との間にある場合はピークの抜けが2回続けて生じたと判定する。
【0024】
次に、ステップS4において、制御部21の回転量算出部25は、ピーク抜け検出部24にて検出したピークの抜けに応じて、検出した電流波形X1のピークの数を補正して直流モータMの回転量を算出し、算出処理を終了する。
【0025】
詳しくは、回転量算出部25は、ピーク抜け検出部24にて複数段階で検出したピークの抜けに応じて、検出した電流波形X1のピークの数を複数段階で補正して直流モータMの回転量を算出する。すなわち、回転量算出部25は、ピーク抜け検出部24にて1回だけピークの抜けが生じたと判定した場合には、ピークの数を1回分だけ補正し、ピーク抜け検出部24にてピークの抜けが2回続けて生じたと判定した場合には、ピークの数を2回分補正する。そして、回転量算出部25は、補正したピークの数に基づいて直流モータMの回転量を算出する。
【0026】
このように直流モータMの回転量が算出されることで算出処理が終了され、例えば、被駆動部15の位置が高精度に算出され、制御部21による被駆動部15の高精度な位置制御が可能となる。
【0027】
次に、上記実施形態の効果を以下に記載する。
(1)予測周期算出部23によって、起動時の電流波形X1に基づいて起動時の回転速度V2が算出され、算出した回転速度V2に基づいて電流波形X1のピークの予測周期Y1が算出される。また、ピーク抜け検出部24によって、予測周期算出部23にて算出された予測周期Y1に基づいて、検出した電流波形X1のピークの抜けが検出される。そして、回転量算出部25によって、ピーク抜け検出部24にて検出されたピークの抜けに応じて、検出した電流波形X1のピークの数が補正されて直流モータMの回転量が算出されるため、起動時の回転量を高精度に算出することができる。
【0028】
(2)ピーク抜け検出部24によって、予測周期Y1の少なくとも2倍と3倍に対応した周期閾値Z1,Z2が算出され、複数の周期閾値Z1,Z2と検出した電流波形X1のピークの周期Pとが比較されて電流波形のピークの抜けが複数段階で検出される。そして、回転量算出部25によって、ピーク抜け検出部24にて複数段階で検出されたピークの抜けに応じて、検出した電流波形X1のピークの数が複数段階で補正されて直流モータMの回転量が算出される。よって、例えば、ピークの抜けが2回続けて生じた場合でもピークの数が2回分補正されて回転量を高精度に算出することができる。
【0029】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態の予測周期算出部23は、電流波形X1のピークの予測周期Y1を他の演算等によって算出する構成としてもよい。
【0030】
・上記実施形態のピーク抜け検出部24は、検出した電流波形X1のピークの抜けを他の演算等によって検出する構成としてもよい。
例えば、上記実施形態のピーク抜け検出部24は、ピークの抜けを2段階で検出する構成としたが、予測周期Y1の4倍以上の周期閾値を算出してピークの抜けを3段階以上で検出する構成としてもよい。また、ピーク抜け検出部24は、ピークの抜けを1段階で検出する構成、すなわちピークの抜けが2回続けて生じても1回だけピークの抜けが生じたと判定する構成としてもよい。このようにすると、ピーク抜け検出部24及び回転量算出部25の演算量を低減することができる。
【0031】
・上記実施形態では特に言及していないが、起動時以外の直流モータMの回転量は、他の方法で検出または算出してもよい。すなわち、上記した起動時の回転量の算出方法は、起動時の速度変動時に適した回転量の算出方法であって、例えば、定常回転速度V1での駆動時は、回転量を簡素な他の方法で検出または算出してもよい。
【符号の説明】
【0032】
11…モータ制御装置、12…整流子セグメント、13…整流子、14…給電用ブラシ、15…被駆動部、21…制御部、22…電流計、23…予測周期算出部、24…ピーク抜け検出部、25…回転量算出部、S1~S4…ステップ、I1…突入電流、I2…定常電流、M…直流モータ、P…ピークの周期、V1…定常回転速度、V2…起動時の回転速度、X1…電流波形、X2…2次近似式、X3…特性マップ、Y1…予測周期、Y2,Y3…整数倍予測周期、Z1,Z2…周期閾値、Z3…下限閾値、Z4…上限閾値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6