(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186507
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】車両用駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60W 10/10 20120101AFI20221208BHJP
B60K 6/48 20071001ALI20221208BHJP
B60K 6/442 20071001ALI20221208BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20221208BHJP
B60K 6/547 20071001ALI20221208BHJP
B60K 6/50 20071001ALI20221208BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20221208BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20221208BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221208BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20221208BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20221208BHJP
B60W 20/30 20160101ALI20221208BHJP
B60W 20/13 20160101ALI20221208BHJP
B60K 17/356 20060101ALI20221208BHJP
B60K 17/35 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B60W10/10 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/442
B60K6/52
B60K6/547
B60K6/50
B60W10/06 900
B60W10/26 900
B60W10/08 900
B60W20/00 900
B60W20/10
B60W20/30
B60W20/13
B60K17/356 B
B60K17/35 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094772
(22)【出願日】2021-06-04
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】田端 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥田 弘一
(72)【発明者】
【氏名】今村 達也
(72)【発明者】
【氏名】葉畑 陽平
(72)【発明者】
【氏名】高以良 幸司
【テーマコード(参考)】
3D043
3D202
【Fターム(参考)】
3D043AA05
3D043AB17
3D043EA05
3D043EA17
3D043EA23
3D043EB03
3D043EB07
3D043EB13
3D043EF09
3D043EF18
3D043EF21
3D202AA02
3D202AA08
3D202BB02
3D202BB19
3D202BB30
3D202BB53
3D202CC19
3D202CC20
3D202CC21
3D202CC22
3D202CC24
3D202CC31
3D202CC35
3D202CC57
3D202DD31
3D202DD45
3D202FF01
3D202FF07
3D202FF12
3D202FF13
3D202FF14
(57)【要約】
【課題】前後輪のトルク分配比を制御するトルク分配装置を備える車両用駆動装置において、二輪駆動モードから四輪駆動モードへの切替が複雑になることを抑制しつつ、四輪駆動モードへの切替が可能になる車両用駆動装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置130は、二輪駆動モードであるEV走行モードから四輪駆動モードへ切り替えるに当たり、動力源分離四輪駆動モードが設定可能であるときにはトランスファ28を動力源分離四輪駆動モードに切り替えるため、前輪14を駆動するEV走行モードからの複雑な切り替えを抑えつつ、前輪14及び後輪16へのトルク分配比Rxを要求トルク分配比Rxdemに制御して前輪14及び後輪16を駆動する四輪駆動モードに切り替えることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1動力源と、前記第1動力源からの動力が入力され且つ前輪及び後輪の一方の車輪に動力を出力する第1出力軸と、前記前輪及び前記後輪の他方の車輪に動力を出力する第2出力軸と、前記第1出力軸に入力されたトルクの一部を前記第2出力軸に分配するトルク分配装置と、制御装置と、を備えた車両用駆動装置であって、
前記トルク分配装置は、第1回転電機と、断接装置と、前記第1回転電機が接続される第1回転要素、前記第1出力軸が前記断接装置によって断接可能に接続される第2回転要素、及び前記第2出力軸が接続される第3回転要素を有する差動装置と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の何れか2つを選択的に係合する、又は前記第2回転要素を固定部材に選択的に係合する少なくとも1つの係合装置と、を備え、
前記断接装置が接続状態とされ、且つ、前記係合装置が解放状態とされたときに、前記第1回転電機によって前記第1出力軸に入力されたトルクの前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を制御することのできる第1状態とされる一方、前記断接装置が切断状態とされ、且つ、前記係合装置が係合状態とされたときに、前記第1回転電機を第2動力源として前記他方の車輪を駆動することのできる第2状態とされ、
前記制御装置は、車両を駆動する駆動モードとして、前記トルク分配装置を前記第2状態として前記他方の車輪を駆動する二輪駆動モードと、前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を要求トルク分配比に制御して前記前輪及び前記後輪を駆動する四輪駆動モードと、を設定できるとともに、
前記四輪駆動モードとして、前記トルク分配装置を前記第1状態として前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を制御する第1モードと、前記トルク分配装置を前記第2状態として前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を制御する第2モードと、を設定できるように構成され、
前記二輪駆動モードから前記四輪駆動モードへと切り替えるに当たり、前記第2モードが設定可能であるときには、前記第2モードに切り替え、前記第2モードが設定可能でないときには、前記第1モードに切り替えるように構成されている
ことを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記第1動力源は、エンジンと第2回転電機とを備え、
前記制御装置は、前記第2モードにおいて、前記第1回転電機と前記第2回転電機との間で電力の授受がなされる電気パスにおける電気パス量を調整しながら前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を制御するように構成されている
ことを特徴とする請求項1の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記係合装置として、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の何れか2つを選択的に係合する第1係合装置と、前記第2回転要素を前記固定部材に選択的に係合する第2係合装置と、を備え、
前記制御装置は、前記第2モードにおいて、前記要求トルク分配比に基づいて前記第1係合装置及び前記第2係合装置を選択的に係合状態とするように構成されている
ことを特徴とする請求項1または2の車両用駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前後輪のトルク分配比を制御するトルク分配装置を備える車両用駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前後輪のトルクを分配するトルク分配装置として、回転電機と、その回転電機が接続される第1回転要素、第1出力軸が接続される第2回転要素、及び第2出力軸が接続される第3回転要素を有する差動装置と、を備え、回転電機によって第2出力軸に分配するトルクの分配率を制御可能にしたものが知られている。特許文献1に記載の車両用駆動装置がそれである。特許文献1には、上述した回転電機を第2動力源として用いて車両を二輪駆動させることについても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1において、回転電機を第2動力源として用いて車両を二輪駆動させる二輪駆動モードから、前輪及び後輪のトルク分配比を要求トルク分配比に制御して前輪及び後輪を駆動する四輪駆動モードへと切り替える場合、回転電機によって前輪及び後輪へのトルク分配比を制御する四輪駆動モードへと切り替えることになるが、この場合の切替が複雑になるという問題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、前後輪のトルク分配比を制御するトルク分配装置を備える車両用駆動装置において、二輪駆動モードから四輪駆動モードへの切替が複雑になることを抑制しつつ、四輪駆動モードへの切替が可能になる車両用駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)第1動力源と、前記第1動力源からの動力が入力され且つ前輪及び後輪の一方の車輪に動力を出力する第1出力軸と、前記前輪及び前記後輪の他方の車輪に動力を出力する第2出力軸と、前記第1出力軸に入力されたトルクの一部を前記第2出力軸に分配するトルク分配装置と、制御装置と、を備えた車両用駆動装置であって、(b)前記トルク分配装置は、第1回転電機と、断接装置と、前記第1回転電機が接続される第1回転要素、前記第1出力軸が前記断接装置によって断接可能に接続される第2回転要素、及び前記第2出力軸が接続される第3回転要素を有する差動装置と、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の何れか2つを選択的に係合する、又は前記第2回転要素を固定部材に選択的に係合する少なくとも1つの係合装置と、を備え、(c)前記断接装置が接続状態とされ、且つ、前記係合装置が解放状態とされたときに、前記第1回転電機によって前記第1出力軸に入力されたトルクの前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を制御することのできる第1状態とされる一方、前記断接装置が切断状態とされ、且つ、前記係合装置が係合状態とされたときに、前記第1回転電機を第2動力源として前記他方の車輪を駆動することのできる第2状態とされ、(d)前記制御装置は、車両を駆動する駆動モードとして、前記トルク分配装置を前記第2状態として前記他方の車輪を駆動する二輪駆動モードと、前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を要求トルク分配比に制御して前記前輪及び前記後輪を駆動する四輪駆動モードと、を設定できるとともに、(e)前記四輪駆動モードとして、前記トルク分配装置を前記第1状態として前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を制御する第1モードと、前記トルク分配装置を前記第2状態として前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を制御する第2モードと、を設定できるように構成され、(f)前記二輪駆動モードから前記四輪駆動モードへと切り替えるに当たり、前記第2モードが設定可能であるときには、前記第2モードに切り替え、前記第2モードが設定可能でないときには、前記第1モードに切り替えるように構成されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明の要旨とするところは、第1発明において、前記第1動力源は、エンジンと第2回転電機とを備え、(b)前記制御装置は、前記第2モードにおいて、前記第1回転電機と前記第2回転電機との間で電力の授受がなされる電気パスにおける電気パス量を調整しながら前記前輪及び前記後輪へのトルク分配比を制御するように構成されていることを特徴とする。
【0008】
第3発明の要旨とするところは、第1発明又は第2発明において、(a)前記係合装置として、前記第1回転要素、前記第2回転要素、及び前記第3回転要素の何れか2つを選択的に係合する第1係合装置と、前記第2回転要素を前記固定部材に選択的に係合する第2係合装置と、を備え、(b)前記制御装置は、前記第2モードにおいて、前記要求トルク分配比に基づいて前記第1係合装置及び前記第2係合装置を選択的に係合状態とするように構成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、二輪駆動モードから四輪駆動モードへ切り替えるに当たり、第2モードが設定可能であるときにはトルク分配装置が第2状態とされる第2モードに切り替えられるため、他方の車輪を駆動する二輪駆動モードからの複雑な切り替えを抑えつつ、前輪及び後輪へのトルク分配比を要求トルク分配比に制御して前輪及び後輪を駆動する四輪駆動モードに切り替えることができる。
【0010】
第2発明によれば、第2回転電機で発電された電力を、電気パスを経由して第1回転電機に供給することで第1回転電機に供給される電力を確保できるため、四輪駆動モードに切り替えるに当たり、第2モードを設定可能な状態を維持することができる。
【0011】
第3発明によれば、第2モードにおいて、要求トルク分配比に基づいて第1係合装置及び第2係合装置を選択的に係合状態とするように構成されているため、差動装置を2速の変速機として動作させることで第1回転電機の運転領域を拡げることができ、第2モードを設定可能な走行領域を拡げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明が適用される車両用駆動装置の概略構成を説明する図であると共に、車両用駆動装置における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
【
図2】
図1のハイブリッド用トランスミッションの概略構成を説明する図である。
【
図3】
図2の自動変速機の変速作動とそれに用いられる係合装置の作動の組み合わせとの関係を説明する作動係合表である。
【
図4】
図1のトランスファの概略構成を説明する図である。
【
図5】
図4のトランスファにおける各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
【
図6】
図4のトランスファにおいて成立させられる各モードとトランスファにおける各係合装置の制御状態との関係を説明する作動係合表である。
【
図7】自動変速機の変速制御に用いるATギヤ段変速マップと、走行モードの切替制御に用いる走行モード切替マップとの一例を示す図であって、それぞれの関係を示す図でもある。
【
図8】車両用駆動装置において、エンジン運転点を無段変速機のように変更できることを説明する図である。
【
図9】電子制御装置の制御作動の要部を説明する為のフローチャートであり、EV走行モードで走行中に四輪駆動モードに切り替えるときの制御作動を説明する為のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例0014】
図1は、本発明が適用される、車両8が備える車両用駆動装置10の概略構成を説明する図であると共に、車両用駆動装置10における各種制御の為の制御機能及び制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両用駆動装置10は、動力源として機能する、エンジン12(図中の「ENG」参照)、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFを備えている。車両8は、ハイブリッド車両である。又、車両用駆動装置10は、左右一対の前輪14と、左右一対の後輪16と、動力伝達装置18と、を備えている。動力伝達装置18は、エンジン12等からの駆動力を前輪14及び後輪16へそれぞれ伝達する車両用動力伝達装置である。エンジン12、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFについては、特に区別しない場合は単に動力源PUという。特に、後述するトルクコンバータ48や自動変速機50へ動力を出力する、エンジン12及びTM用回転機MGMは、第1動力源PU1である。又、後述するトランスファ28に備えられたTF用回転機MGFは、第1動力源PU1に替えて或いは加えて動力源として用いられる第2動力源PU2である。尚、前輪14が本発明の他方の車輪に対応し、後輪16が本発明の一方の車輪に対応し、TF用回転機MGFが本発明の第1回転電機に対応し、TM用回転機MGMが本発明の第2回転電機に対応している。
【0015】
車両8は、車両用駆動装置10によって後輪16へ伝達される駆動力の一部を前輪14に分配することが可能な四輪駆動車両である。車両用駆動装置10は、前輪14のみに駆動力を伝達する前輪駆動に加え、後輪16のみに駆動力を伝達する後輪駆動も可能である。
【0016】
エンジン12は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の公知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置130によって、車両用駆動装置10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置20が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTeが制御される。
【0017】
TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、電力から機械的な動力を発生させる発動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、車両用駆動装置10に備えられたインバータ22を介して、車両用駆動装置10に備えられたバッテリ24に接続されている。TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFは、各々、後述する電子制御装置130によってインバータ22が制御されることにより、TM用回転機MGMの出力トルクであるMGMトルクTmgm及びTF用回転機MGFの出力トルクであるMGFトルクTmgfが制御される。バッテリ24は、TM用回転機MGM及びTF用回転機MGFの各々に対して電力を授受する蓄電装置である。前記電力は、特に区別しない場合には電気エネルギーも同意である。前記動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力も同意である。
【0018】
動力伝達装置18は、ハイブリッド用トランスミッション26(図中の「HV用T/M」参照)と、トルク分配装置としてのトランスファ28(図中の「T/F」参照)と、フロントプロペラシャフト30と、リヤプロペラシャフト32と、フロントディファレンシャル34(図中の「FDiff」参照)と、リヤディファレンシャル36(図中の「RDiff」参照)と、左右一対のフロントドライブシャフト38と、左右一対のリヤドライブシャフト40と、を備えている。動力伝達装置18において、ハイブリッド用トランスミッション26を介して伝達された第1動力源PU1からの駆動力が、トランスファ28から、リヤプロペラシャフト32、リヤディファレンシャル36、リヤドライブシャフト40等を順次介して後輪16へ伝達される。又、動力伝達装置18において、トランスファ28に伝達された第1動力源PU1からの駆動力の一部が前輪14側へ分配されると、その分配された駆動力が、フロントプロペラシャフト30、フロントディファレンシャル34、フロントドライブシャフト38等を順次介して前輪14へ伝達される。
【0019】
ハイブリッド用トランスミッション26は、非回転部材であるトランスミッションケース42を備えている。トランスファ28は、トランスミッションケース42に連結されたトランスファケース44を備えている。TM用回転機MGMは、トランスミッションケース42内に設けられている。TF用回転機MGFは、トランスファケース44内に設けられている。
【0020】
図2は、ハイブリッド用トランスミッション26の概略構成を説明する図である。
図2において、ハイブリッド用トランスミッション26は、トランスミッションケース42内において共通の回転軸線CL1上に配設された、回転機連結軸46、トルクコンバータ48、及び自動変速機50などを備えている。トルクコンバータ48及び自動変速機50は、回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、
図2では回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。回転軸線CL1は、エンジン12のクランク軸、そのクランク軸に連結された回転機連結軸46、自動変速機50の入力回転部材である変速機入力軸52、自動変速機50の出力回転部材である変速機出力軸54などの軸心である。
【0021】
回転機連結軸46は、エンジン12とトルクコンバータ48とを連結する回転軸である。TM用回転機MGMは、回転機連結軸46に動力伝達可能に連結されている。トルクコンバータ48は、回転機連結軸46と連結されたポンプ翼車48a、及び変速機入力軸52と連結されたタービン翼車48bを備えている。ポンプ翼車48aはトルクコンバータ48の入力部材であり、タービン翼車48bはトルクコンバータ48の出力部材である。回転機連結軸46は、トルクコンバータ48の入力回転部材でもある。変速機入力軸52は、タービン翼車48bによって回転駆動されるタービン軸と一体的に形成されたトルクコンバータ48の出力回転部材でもある。トルクコンバータ48は、第1動力源PU1からの駆動力を流体を介して変速機入力軸52へ伝達する流体式伝動装置である。トルクコンバータ48は、ポンプ翼車48aとタービン翼車48bとを連結するロックアップクラッチLUを備えている。ロックアップクラッチLUは、トルクコンバータ48の入出力回転部材を連結する直結クラッチである。
【0022】
自動変速機50は、トルクコンバータ48とトランスファ28との間の動力伝達経路に介在させられている。変速機出力軸54は、トランスファ28と連結されている。自動変速機50は、第1動力源PU1からの駆動力をトランスファ28へ伝達する機械式伝動装置である。このように、トルクコンバータ48及び自動変速機50は、各々、第1動力源PU1からの駆動力をトランスファ28へ伝達する。
【0023】
自動変速機50は、例えば第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の複数組の遊星歯車装置と、ワンウェイクラッチF1を含む、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、ブレーキB2の複数の係合装置とを備えている、公知の遊星歯車式の自動変速機である。以下、クラッチC1、クラッチC2、ブレーキB1、及びブレーキB2については、特に区別しない場合は単に係合装置CBという。
【0024】
係合装置CBは、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される、公知の油圧式の摩擦係合装置である。係合装置CBは、各々、車両用駆動装置10に備えられた油圧制御回路60(
図1参照)から供給される調圧された係合装置CBの各油圧であるCB油圧PRcbによりそれぞれのトルク容量であるCBトルクTcbが変化させられることで、係合状態や解放状態などの作動状態つまり制御状態が切り替えられる。油圧制御回路60は、後述する電子制御装置130により制御される。
【0025】
自動変速機50は、第1遊星歯車装置56及び第2遊星歯車装置58の各回転要素が、直接的に或いは係合装置CBやワンウェイクラッチF1を介して間接的に、一部が互いに連結されたり、変速機入力軸52、トランスミッションケース42、或いは変速機出力軸54に連結されたりしている。第1遊星歯車装置56の各回転要素は、サンギヤS1、キャリアCA1、リングギヤR1であり、第2遊星歯車装置58の各回転要素は、サンギヤS2、キャリアCA2、リングギヤR2である。
【0026】
自動変速機50は、係合装置CBのうちの何れかの係合装置が係合されることによって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni/AT出力回転速度No)が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちの何れかのギヤ段が形成される有段変速機である。自動変速機50は、後述する電子制御装置130によって、ドライバー(=運転者)のアクセル操作量や車速V等に応じて形成されるギヤ段が切り替えられる。本実施例では、自動変速機50にて形成されるギヤ段をATギヤ段と称す。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸52の回転速度であって、自動変速機50の入力回転速度であり、タービン翼車48bによって回転駆動されるタービン軸の回転速度であるタービン回転速度Ntと同値である。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸54の回転速度であって、自動変速機50の出力回転速度である。
【0027】
自動変速機50は、例えば
図3の作動係合表に示すように、複数のATギヤ段として、AT1速ギヤ段(図中の「1st」)-AT4速ギヤ段(図中の「4th」)の4段の前進用のATギヤ段が形成される。AT1速ギヤ段の変速比γatが最も大きく、ハイ側のATギヤ段程、変速比γatが小さくなる。
図3の作動係合表は、各ATギヤ段と係合装置CBの各制御状態との関係をまとめたものである。
図3において、「○」は係合を、「△」はエンジンブレーキ時や自動変速機50のコーストダウンシフト時に係合を、空欄は解放を、それぞれ表している。自動変速機50のニュートラル状態(図中の「N」)は、自動変速機50が駆動力を伝達不能な状態であり、例えば係合装置CBが何れも解放状態とされて自動変速機50における動力伝達が遮断されることで実現される。又、自動変速機50は、車両8の後進走行時には、ニュートラル状態とされる(図中の「Rev」)。車両8の後進走行時には、例えばTF用回転機MGFから後進用の駆動力が出力される。
【0028】
図4は、トランスファ28の概略構成を説明する図である。トランスファ28は、車両8を駆動する駆動モードとして、前輪14が駆動される二輪駆動モード、及び、前輪14及び後輪16が駆動される四輪駆動モード、に選択的に切替可能に設けられている。
図4において、トランスファ28は、トランスファケース44内において共通の回転軸線CL1上に配設された、TF入力軸62、差動装置64、TF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、第1出力軸66、中間軸68、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2、及びドライブギヤ70などを備えている。差動装置64、TF用クラッチCF1、TF用ブレーキBF1、中間軸68、第1噛合クラッチD1、第2噛合クラッチD2、及びドライブギヤ70は、回転軸線CL1に対して略対称的に構成されており、
図4では回転軸線CL1に対して下半分が省略されている。尚、TF用クラッチCF1が本発明の係合装置及び第1係合装置に対応し、TF用ブレーキBF1が本発明の係合装置及び第2係合装置に対応し、第2噛合クラッチD2が、本発明の断接装置に対応している。
【0029】
又、トランスファ28は、トランスファケース44内において共通の回転軸線CL2上に配設された、第2出力軸72及びドリブンギヤ74などを備えている。ドリブンギヤ74は、回転軸線CL2に対して略対称的に構成されており、
図4では回転軸線CL2に対して上半分が省略されている。回転軸線CL2は、第2出力軸72、フロントプロペラシャフト30などの軸心である。
【0030】
又、トランスファ28は、トランスファケース44内において、TF用回転機MGF、回転機連結ギヤ対76、及びチェーン78などを備えている。回転機連結ギヤ対76は、TF用回転機MGFのロータ軸80と一体的に回転するTF用回転機連結ギヤ76aと、TF用回転機連結ギヤ76aと常時噛み合うTF用カウンタギヤ76bと、から構成されている。チェーン78は、ドライブギヤ70とドリブンギヤ74との間を連結する部材である。
【0031】
トランスファ28は、更に、トランスファケース44に固定された切替用アクチュエータ82を備えている(
図1参照)。切替用アクチュエータ82は、第1噛合クラッチD1と第2噛合クラッチD2とを各々作動させる為のアクチュエータである。
【0032】
TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1は、各々、油圧アクチュエータにより押圧される多板式或いは単板式の係合装置により構成される、公知の湿式の油圧式の摩擦係合装置である。TF用クラッチCF1は、油圧制御回路60から供給される調圧されたTF用クラッチCF1の油圧であるCF1油圧PRcf1によりTF用クラッチCF1のトルク容量であるCF1トルクTcf1が変化させられることで、制御状態が切り替えられる。TF用ブレーキBF1についてもTF用クラッチCF1と同様に、油圧制御回路60から供給されるBF1油圧PRbf1によりBF1トルクTbf1が変化させられることで、制御状態が切り替えられる。第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2は、各々、公知の噛合式クラッチつまりドグクラッチである。第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2は、各々、後述する電子制御装置130によって切替用アクチュエータ82が制御されることにより制御状態が切り替えられる。
【0033】
TF入力軸62は、変速機出力軸54に動力伝達可能に連結されている。第1出力軸66は、リヤプロペラシャフト32に動力伝達可能に連結されている。第2出力軸72は、フロントプロペラシャフト30に動力伝達可能に連結されている。ドリブンギヤ74は、第2出力軸72に相対回転不能に固定されている。TF用カウンタギヤ76bは、中間軸68に相対回転不能に固定されている。
【0034】
差動装置64は、シングルピニオン型の遊星歯車装置にて構成されており、サンギヤS、キャリアCA、及びリングギヤRを備えている。サンギヤSは、中間軸68に相対回転不能に固定されている。従って、サンギヤSには、回転機連結ギヤ対76を介してTF用回転機MGFが接続されている。キャリアCAは、ドライブギヤ70に連結されている。従って、キャリアCAには、ドライブギヤ70、チェーン78、及びドリブンギヤ74を介して第2出力軸72が接続されている。リングギヤRは、第2係合装置として機能するTF用ブレーキBF1を介して固定部材(非回転部材)であるトランスファケース44に選択的に接続される。サンギヤSとキャリアCAとは、第1係合装置として機能するTF用クラッチCF1を介して選択的に接続される。
【0035】
第1噛合クラッチD1は、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、第3噛合歯a3、及び第1スリーブd1sを備えている。第1噛合歯a1は、TF入力軸62に相対回転不能に固定されている。第2噛合歯a2は、第1出力軸66に相対回転不能に固定されている。第3噛合歯a3は、中間軸68に相対回転不能に固定されている。第1スリーブd1sは、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能に設けられている。第1スリーブd1sには、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対して相対回転不能に噛み合うことが可能な内周歯が形成されている。第1スリーブd1sは、切替用アクチュエータ82によって回転軸線CL1方向に移動させられることによって、第1噛合歯a1、第2噛合歯a2、及び第3噛合歯a3の各々に対する噛合い状態が形成させられたり、その噛合い状態が解除させられる。第1噛合クラッチD1の第1状態[1]は、第1スリーブd1sが第1噛合歯a1及び第2噛合歯a2に各々噛み合わされたことによって、第1噛合歯a1と第2噛合歯a2とが結合された状態を示している。第1噛合クラッチD1の第2状態[2]は、第1スリーブd1sが第1噛合歯a1及び第3噛合歯a3に各々噛み合わされたことによって、第1噛合歯a1と第3噛合歯a3とが結合された状態を示している。尚、
図4では、便宜上、第1スリーブd1sが各状態に合わせて複数図示されている。
【0036】
第2噛合クラッチD2は、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、第6噛合歯a6、及び第2スリーブd2sを備えている。第4噛合歯a4は、リングギヤRに連結されている。第5噛合歯a5は、キャリアCAに連結されている。第6噛合歯a6は、第1出力軸66に相対回転不能に固定されている。第2スリーブd2sは、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対して回転軸線CL1方向に相対移動可能に設けられている。第2スリーブd2sには、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対して相対回転不能に噛み合うことが可能な内周歯が形成されている。第2スリーブd2sは、切替用アクチュエータ82によって回転軸線CL1方向に移動させられることによって、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の各々に対する噛合い状態が形成させられたり、その噛合い状態が解除させられたりする。第2噛合クラッチD2の第1状態[1]は、第2スリーブd2sが第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の何れとも噛み合わされていないことで、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の何れの間も結合されていないニュートラル状態を示している。第2噛合クラッチD2の第2状態[2]は、第2スリーブd2sが第4噛合歯a4及び第6噛合歯a6と各々噛み合わされたことによって、第4噛合歯a4と第6噛合歯a6とが第2スリーブd2sを介して結合された状態を示している。第2噛合クラッチD2の第3状態[3]は、第2スリーブd2sが第5噛合歯a5及び第6噛合歯a6と各々噛み合わされたことによって、第5噛合歯a5と第6噛合歯a6とが第2スリーブd2sを介して結合された状態を示している。尚、
図4では、便宜上、第2スリーブd2sを各状態に合わせて複数図示している。
【0037】
図5は、トランスファ28における各回転要素の回転速度の相対的関係を表す共線図である。
図5において、トランスファ28を構成する差動装置64が有する3つの回転要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第1回転要素RE1に対応するサンギヤSの回転速度、第3回転要素RE3に対応するキャリアCAの回転速度、第2回転要素RE2に対応するリングギヤRの回転速度、をそれぞれ表す軸である。縦線Y1よりも左側に示した縦線Y0は、入出力回転要素REIOに対応する第1出力軸66の回転速度を表す軸である。
【0038】
図5の共線図を用いて表現すれば、トランスファ28において、入出力回転要素REIOは、第1噛合クラッチD1(第1状態[1]参照)を介してTF入力軸62に選択的に連結されると共に、リヤプロペラシャフト32に連結されている。TF入力軸62は、ハイブリッド用トランスミッション26を介して、エンジン12及びTM用回転機MGMを有する第1動力源PU1に動力伝達可能に連結されている。又、差動装置64において、第1回転要素RE1にはTF用回転機MGFが動力伝達可能に接続されていると共に、第1噛合クラッチD1(第2状態[2]参照)を介してTF入力軸62に選択的に連結されている。第3回転要素RE3には、第2出力軸72つまりフロントプロペラシャフト30が接続されていると共に、第2噛合クラッチD2(第3状態[3]参照)を介して第1出力軸66つまりリヤプロペラシャフト32が選択的に接続される。第2回転要素RE2には、第2噛合クラッチD2(第2状態[2]参照)を介して第1出力軸66が断接可能に接続されると共に、TF用ブレーキBF1を介して固定部材であるトランスファケース44に選択的に係合(接続)される。又、第1回転要素RE1と第3回転要素RE3とが、TF用クラッチCF1を介して選択的に係合(接続)される。差動装置64では、直線Lcdにより、第1回転要素RE1、第3回転要素RE3、及び第2回転要素RE2の相互の回転速度の関係が示される。第1出力軸66は、第1動力源PU1からの動力がトルクコンバータ48を介して入力され、且つ、後輪16に動力を出力する出力軸である。第2出力軸72は、前輪14に動力を出力する出力軸である。
【0039】
差動装置64において、TF用クラッチCF1の係合状態且つTF用ブレーキBF1の解放状態では、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3が一体的に回転させられる。一方で、差動装置64において、TF用クラッチCF1の解放状態且つTF用ブレーキBF1の係合状態では、第3回転要素RE3の回転速度が第1回転要素RE1の回転速度に対して減速させられる。従って、差動装置64は、TF用クラッチCF1が係合状態とされることによるハイギヤ段と、TF用ブレーキBF1が係合状態とされることによるローギヤ段と、が選択的に形成される2速の変速機として機能する。
【0040】
又、差動装置64は、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1が何れも解放状態とされると、差動作用を働かせることが可能である。従って、差動装置64は、センターディファレンシャルとして機能する。このとき、トランスファ28において、第1噛合クラッチD1が第1状態[1]であり且つ第2噛合クラッチD2が第2状態[2]であると、差動装置64は、第2回転要素RE2に入力された第1動力源PU1からの動力を、第1回転要素RE1に連結されたTF用回転機MGFの反力トルクにより第3回転要素RE3に分配することが可能な状態になる。すなわち、第1出力軸66に入力された第1動力源PU1のトルクを、TF用回転機MGFの反力トルクによって前輪14及び後輪16へ分配することのできる状態、言い換えれば、前輪14及び後輪16へ分配される第1動力源PU1のトルクの割合であるトルク分配比Rxを、TF用回転機MGFの反力トルクによって制御することのできる状態になる。この状態が、本発明の第1状態に対応する。尚、トルク分配比Rxは、前輪14及び後輪16に分配する動力源PUからのトルクの割合である。又、差動装置64は、TF用回転機MGFの反力トルクを作用させることに替えて、TF用クラッチCF1をスリップ状態として差動装置64の差動作用を制限することにより、第2回転要素RE2に入力された第1動力源PU1からの動力を第3回転要素RE3に分配することが可能である。このように、トランスファ28は、第1出力軸66に入力された第1動力源PU1からのトルクの一部を第2出力軸72に分配するトルク分配装置である。これにより、トランスファ28では、前輪14と後輪16とに駆動力を分配することが可能となる。尚、トランスファ28において第2噛合クラッチD2が第3状態[3]とされる場合には、差動装置64は、センターディファレンシャルとしての機能が働かないデフロック状態とされる。
【0041】
図6は、トランスファ28において成立させられる各モードとトランスファ28における各係合装置の制御状態との関係を説明する作動係合表である。
図6において、「○」は係合を、空欄は解放を、それぞれ表している。トランスファ28は、
図6の番号m1-番号m6の何れかを選択可能に構成されている。
図6において、番号m1-番号m2は二輪駆動モードであり、番号m3-番号m6は四輪駆動モードである。
【0042】
番号m1のEV(FF)ハイモード、及び、番号m2のEV(FF)ローモードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1のうちの何れか一方のみが係合状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされ且つ第2噛合クラッチD2が第1状態[1]とされることで実現させられる。EV(FF)ハイモード及びEV(FF)ローモードは、各々、例えば第1動力源PU1の運転を停止した状態でTF用回転機MGFのみを動力源として走行するモータ走行(=EV走行)が可能なEV走行モードである。第2噛合クラッチD2が第1状態[1]とされることによって、第4噛合歯a4、第5噛合歯a5、及び第6噛合歯a6の相互間の結合はニュートラル状態(図中「N」参照)とされるので、差動装置64は後輪16との間の動力伝達経路が切断状態とされる。この状態で、差動装置64においてTF用クラッチCF1の係合状態によるハイギヤ段又はTF用ブレーキBF1の係合状態によるローギヤ段が形成されたときに、第2動力源PU2であるTF用回転機MGFによって前輪14を駆動することのできる状態になる。この状態が、本発明の第2状態に対応する。従って、トランスファ28における二輪駆動モードは、トランスファ28を前記第2状態として前輪14を駆動させるEV走行モード(EV(FF)ハイモード、EV(FF)ローモード)にて実現させられる。EV走行モードでは、例えば第1噛合クラッチD1が第1状態[1]の場合、自動変速機50がニュートラル状態とされることで、エンジン12の引き摺りをなくすことができる。或いは、第1噛合クラッチD1を解放状態とすることが可能であるなら、EV走行モードでは、例えば第1噛合クラッチD1が解放状態とされることによって、自動変速機50の状態に拘わらず、自動変速機50やエンジン12の引き摺りをなくすことができる。
【0043】
又、EV(FF)ハイモード及びEV(FF)ローモードにおける各々のEV走行モードでは、例えば第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされることで第1動力源PU1からの駆動力を後輪16へ伝達することが可能であるので、少なくともエンジン12を動力源として走行するエンジン走行つまりハイブリッド走行(=HV走行)が可能である。このエンジン走行では、例えばパラレルハイブリッド走行による四輪駆動走行、或いは第1動力源PU1からの駆動力のみによる後輪駆動走行が可能である。或いは、EV走行モードにおいて、TF用回転機MGFからの駆動力が前輪14側に伝達されると共に、第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされてTM用回転機MGMからの駆動力が後輪16へ伝達される、回転電機のみによる四輪駆動走行も可能である。
【0044】
番号m3のH4_トルクスプリットモードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1が何れも解放状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされ、且つ第2噛合クラッチD2が第2状態[2]とされることで実現させられる。H4_トルクスプリットモードは、例えば差動装置64がハイギヤ段と同等の状態で、第1出力軸66に入力された第1動力源PU1の動力を、TF用回転機MGFの反力トルクによってサンギヤSにて受け持つことにより、前輪14及び後輪16のトルクの割合であるトルク分配比Rxを所望する任意の比率で制御することのできるモードである。トランスファ28におけるH4_トルクスプリットモードでは、TF用回転機MGFは力行させられる。
【0045】
番号m4のH4_LSDモードは、TF用ブレーキBF1が解放状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされ、且つ第2噛合クラッチD2が第2状態[2]とされた状態で、TF用クラッチCF1がスリップ状態に制御されることで実現させられる。H4_LSDモードは、H4_トルクスプリットモードにおけるTF用回転機MGFの反力トルクの作用に替えて、TF用クラッチCF1のスリップ状態による差動装置64の差動作用の制限により、TF用クラッチCF1のトルク容量に応じた所望する任意の比率で前輪14と後輪16とに駆動力を分配するモードである。
【0046】
番号m5のH4_Lockモードは、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1が何れも解放状態とされると共に第1噛合クラッチD1が第1状態[1]とされ、且つ第2噛合クラッチD2が第3状態[3]とされることで実現させられる。H4_Lockモードは、差動装置64がデフロック状態とされた状態で、第1出力軸66へ伝達された第1動力源PU1からの動力を前輪14と後輪16とに分配するモードである。
【0047】
番号m6のL4_Lockモードは、TF用クラッチCF1が解放状態とされ且つTF用ブレーキBF1が係合状態とされると共に、第1噛合クラッチD1が第2状態[2]とされ且つ第2噛合クラッチD2が第3状態[3]とされることで実現させられる。L4_Lockモードは、差動装置64がデフロック状態とされ且つローギヤ段とされた状態で、差動装置64のサンギヤSへ伝達された第1動力源PU1からの動力を前輪14と後輪16とに分配するモードである。
【0048】
図1に戻り、車両用駆動装置10は、機械式のオイルポンプであるMOP84、電動式のオイルポンプであるEOP86、ポンプ用モータ88等を備えている。MOP84は、回転機連結軸46に連結されており(
図2参照)、第1動力源PU1により回転駆動させられて動力伝達装置18にて用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ88は、EOP86を回転駆動する為のEOP86専用のモータである。EOP86は、ポンプ用モータ88により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP84やEOP86が吐出した作動油OILは、油圧制御回路60へ供給される。油圧制御回路60は、MOP84及びEOP86の少なくとも一方が吐出した作動油OILを元にして各々調圧した、CB油圧PRcb、CF1油圧PRcf1、BF1油圧PRbf1などを供給する。
【0049】
車両用駆動装置10は、動力源PU及びトランスファ28などを制御する制御装置を含むコントローラとしての電子制御装置130を備えている。
図1は、電子制御装置130の入出力系統を示す図であり、又、電子制御装置130による制御機能の要部を説明する機能ブロック図である。電子制御装置130は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両用駆動装置10の各種制御を実行する。電子制御装置130は、必要に応じてエンジン制御用、変速制御用等の各コンピュータを含んで構成される。
【0050】
電子制御装置130には、車両用駆動装置10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ90、MGM回転速度センサ92、タービン回転速度センサ94、AT出力回転速度センサ96、車速センサ98、MGF回転速度センサ100、アクセル開度センサ102、スロットル弁開度センサ104、ブレーキペダルセンサ106、シフトポジションセンサ108、加速度センサ110、ヨーレートセンサ112、ステアリングセンサ114、バッテリセンサ116、油温センサ118、デフロック選択スイッチ120、ローギヤ選択スイッチ122など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、TM用回転機MGMの回転速度であるMGM回転速度Nmgm、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、AT出力回転速度No、車速Vに対応する第1出力軸66の回転速度であるTF出力回転速度Nof、TF用回転機MGFの回転速度であるMGF回転速度Nmgf、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth、ホイールブレーキを作動させる為のブレーキペダルが運転者によって操作されている状態を示す信号であるブレーキオン信号Bon、車両8に備えられたシフトレバーの操作位置を示すシフト操作ポジションPOSsh、車両8の前後加速度Gx及び左右加速度Gy、車両8の鉛直軸まわりの回転角速度であるヨーレートRyaw、車両8に備えられたステアリングホイールの操舵角度θsw及び操舵方向Dsw、バッテリ24のバッテリ温度THbatやバッテリ充放電電流Ibatやバッテリ電圧Vbat、作動油OILの温度である作動油温THoil、運転者によってH4_Lockモード又はL4_Lockモードが選択されたことを示す信号であるロックモードオン信号LOCKon、運転者によって差動装置64のローギヤ段が選択されたことを示す信号であるローギヤオン信号LOWonなど)が、それぞれ供給される。
【0051】
デフロック選択スイッチ120、ローギヤ選択スイッチ122は、例えば運転席の近傍に設けられている。デフロック選択スイッチ120は、トランスファ28において差動装置64をデフロック状態とするときに運転者によりオン状態へ操作されるスイッチである。ローギヤ選択スイッチ122は、トランスファ28において「H4_Lock」モードが成立させられているときに差動装置64をローギヤ段とするときに運転者によりオン状態へ操作されるスイッチである。
【0052】
電子制御装置130からは、車両8に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置20、インバータ22、油圧制御回路60、切替用アクチュエータ82、ポンプ用モータ88、ホイールブレーキ装置124、情報報知装置126など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御する為のエンジン制御指令信号Se、TM用回転機MGMを制御する為のMGM制御指令信号Smgm、TF用回転機MGFを制御する為のMGF制御指令信号Smgf、自動変速機50の制御に関わる係合装置CBの制御状態を制御する為の油圧制御指令信号Sat、トランスファ28の制御に関わるTF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1の各々の制御状態を制御する為の油圧制御指令信号Scbf、トランスファ28の制御に関わる第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2を各々作動させる為のトランスファ制御指令信号Stf、EOP86を制御する為のEOP制御指令信号Seop、ホイールブレーキによる制動力を制御する為のブレーキ制御指令信号Sb、運転者に各種情報の報知を行う為の情報報知制御指令信号Sinfなど)が、それぞれ出力される。
【0053】
電子制御装置130は、車両用駆動装置10における各種制御を実現する為に、AT変速制御手段すなわちAT変速制御部132、ハイブリッド制御手段すなわちハイブリッド制御部134、及び駆動状態制御手段すなわち駆動状態制御部136を機能的に備えている。
【0054】
AT変速制御部132は、例えば
図7に示すようなATギヤ段変速マップを用いて自動変速機50の変速判断を行い、必要に応じて自動変速機50の変速制御を実行する為の油圧制御指令信号Satを油圧制御回路60へ出力する。前記ATギヤ段変速マップは、予め実験的に或いは設計的に求められて記憶された関係すなわち予め定められた関係である。前記ATギヤ段変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機50の変速が判断される為の変速線を有する所定の関係である。前記ATギヤ段変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。前記ATギヤ段変速マップにおける各変速線は、実線に示すようなアップシフトが判断される為のアップシフト線、及び破線に示すようなダウンシフトが判断される為のダウンシフト線である。
【0055】
ハイブリッド制御部134は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御手段すなわちエンジン制御部134aとしての機能と、インバータ22を介してTM用回転機MGM及びTF用回転機MGFの作動を制御する回転機制御手段すなわち回転機制御部134bとしての機能とを含んでおり、それらの制御機能によりエンジン12、TM用回転機MGM、及びTF用回転機MGFによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0056】
ハイブリッド制御部134は、予め定められた関係である例えば駆動要求量マップにアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両8に対する駆動要求量を算出する。前記駆動要求量は、例えば駆動輪(前輪14、後輪16)における要求駆動トルクTrdem[Nm]である。前記駆動要求量としては、駆動輪における要求駆動力Frdem[N]、駆動輪における要求駆動パワーPrdem[W]、変速機出力軸54における要求AT出力トルク等を用いることもできる。要求駆動トルクTrdemは、見方を換えれば指令出力時の車速Vにおける要求駆動パワーPrdemである。前記駆動要求量の算出では、車速Vに替えてTF出力回転速度Nofなどを用いても良い。
【0057】
ハイブリッド制御部134は、伝達損失、補機負荷、自動変速機50の変速比γat、バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Wout等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン制御指令信号Se、MGM制御指令信号Smgm、及びMGF制御指令信号Smgfを出力する。エンジン制御指令信号Seは、例えば指令出力時のエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジンパワーPeの要求値である要求エンジンパワーPedemを実現する為の指令値である。エンジンパワーPeは、エンジン12の出力[W]すなわちパワーである。MGM制御指令信号Smgmは、例えば指令出力時のMGM回転速度NmgmにおけるMGMトルクTmgmを出力するTM用回転機MGMの消費電力Wcmgm又は発電電力Wgmgmの指令値である。MGF制御指令信号Smgfは、例えば指令出力時のMGF回転速度NmgfにおけるMGFトルクTmgfを出力するTF用回転機MGFの消費電力Wcmgf又は発電電力Wgmgfの指令値である。
【0058】
バッテリ24の充電可能電力Winは、バッテリ24の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ24の入力制限を示している。バッテリ24の放電可能電力Woutは、バッテリ24の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ24の出力制限を示している。バッテリ24の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ24の充電状態値SOC[%]に基づいて電子制御装置130により算出される。バッテリ24の充電状態値SOCは、バッテリ24の充電量に相当する充電状態を示す値であり、例えばバッテリ充放電電流Ibat及びバッテリ電圧Vbatなどに基づいて電子制御装置130により算出される。
【0059】
ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値よりも小さなモータ走行領域にある場合には、EV走行モードを成立させる一方で、要求駆動パワーPrdemが予め定められた閾値以上となるエンジン走行領域にある場合には、エンジン走行が可能なHV走行モードを成立させる。
図7の一点鎖線Aは、エンジン走行領域とモータ走行領域との境界線である。この
図7の一点鎖線Aに示すような境界線を有する予め定められた関係は、車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標で構成された走行領域切替マップの一例である。尚、
図7では、便宜上、この走行領域切替マップをATギヤ段変速マップと共に示している。
【0060】
ハイブリッド制御部134は、要求駆動パワーPrdemがモータ走行領域にあるときであっても、バッテリ24の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合などには、HV走行モードを成立させる。見方を換えれば、バッテリ24の充電状態値SOCが前記エンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12の暖機が必要な場合は、前記走行領域切替マップにおけるモータ走行領域が無くなる。前記エンジン始動閾値は、エンジン12を自動的に始動してバッテリ24を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判断する為の予め定められた閾値である。
【0061】
駆動状態制御部136は、例えば車速V、アクセル開度θacc、前後加速度Gx及び左右加速度Gy、ヨーレートRyaw、操舵角度θsw及び操舵方向Dsw、前後輪の車輪スリップ率などの走行状態に基づいて、トランスファ28における各モード(
図6参照)のうちの何れのモードを成立させるかを判断し、その判断したモードを成立させる為の各種制御指令信号を出力する。前記各種制御指令信号は、例えばTF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1に対する油圧制御指令信号Scbf、第1噛合クラッチD1及び第2噛合クラッチD2に対するトランスファ制御指令信号Stfである。
【0062】
駆動状態制御部136は、EV走行モードでは、例えば比較的低車速領域においてTF用ブレーキBF1を係合状態とすると共にTF用クラッチCF1を解放状態として差動装置64においてローギヤ段を形成する一方で、比較的高車速領域においてTF用ブレーキBF1を解放状態とすると共にTF用クラッチCF1を係合状態として差動装置64においてハイギヤ段を形成する。つまり、駆動状態制御部136は、EV走行モードでは、例えば比較的低車速領域において「EV(FF)ロー」モードを成立させる一方で、比較的高車速領域において「EV(FF)ハイ」モードを成立させる。
【0063】
駆動状態制御部136は、走行状態に基づいて切り替えられるH4_トルクスプリットモードやH4_LSDモードでは、例えば車速センサ98、アクセル開度センサ102、加速度センサ110、ヨーレートセンサ112、ステアリングセンサ114などの各種センサによる各種信号に基づいて車両8の走行状態を判断し、その判断した走行状態に応じたトルク分配比Rxの目標値である要求トルク分配比Rxdemを設定する。トルク分配比Rxは、例えば動力源PUから前輪14及び後輪16に伝達される総駆動トルクTrに対する後輪16に伝達される後輪側駆動トルクTrrの割合、すなわち後輪側トルク分配率Xrで表すことができる。又は、トルク分配比Rxは、例えば動力源PUから前輪14及び後輪16に伝達される総駆動トルクTrに対する前輪14に伝達される前輪側駆動トルクTrfの割合、すなわち前輪側トルク分配率Xf(=1-Xr)で表すことができる。これより、後輪16に伝達される後輪側駆動トルクTrrは、総駆動トルクTrと後輪側トルク分配率Xrとの積(=Tr×Xr)で算出することができ、前輪14に伝達される前輪側駆動トルクTrfは、総駆動トルクTrと前輪側トルク分配率Xfとの積(=Tr×Xf)で算出することができる。以下、トルク分配比Rxとして後輪側トルク分配率Xrを用いて説明する。
【0064】
駆動状態制御部136は、H4_トルクスプリットモードでは、TF用回転機MGFによる反力トルクを生じさせるMGFトルクTmgfを調節することによって、後輪側トルク分配率Xrが目標値である要求後輪側トルク分配率XrdemとなるようにTF用回転機MGFを制御する為のMGF制御指令信号Smgfを出力する。MGFトルクTmgfが大きくされる程、後輪側トルク分配率Xrが小さくされる、すなわち前輪側トルク分配率Xfが大きくされる。駆動状態制御部136は、H4_LSDモードでは、TF用クラッチCF1のトルク容量を調節することによって後輪側トルク分配率Xrが要求後輪側トルク分配率XrdemとなるようにTF用クラッチCF1のスリップ状態を制御する為の油圧制御指令信号Scbfを出力する。TF用クラッチCF1のトルク容量が大きくされる程、後輪側トルク分配率Xrが小さくされる。
【0065】
駆動状態制御部136は、H4_トルクスプリットモードやH4_LSDモードにおいて、運転者によりデフロック選択スイッチ120がオン状態へ操作された場合に、H4_Lockモードを成立させる。駆動状態制御部136は、H4_Lockモードにおいて、車両8の停止時であって、運転者によりローギヤ選択スイッチ122がオン状態へ操作された場合に、L4_Lockモードを成立させる。
【0066】
ここで、車両用駆動装置10において、エンジン運転点PNTengを無段変速機のように変更できることを
図8を用いて説明する。エンジン運転点PNTengは、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとで表されるエンジン12の運転点つまり動作点である。
【0067】
図8において、二点鎖線で示される等パワー線Lpeは、各々、アクセル開度θacc等に応じて算出された要求駆動パワーPrdemを実現する為の要求エンジンパワーPedemの一例を示している。要求エンジンパワーPedemは、アクセル操作等の運転者操作によって要求されるエンジンパワーPeである。一方で、破線L01は、便宜上、エンジン回転速度Ne及びエンジントルクTeを変数とする二次元座標上に、トルクコンバータ48の速度比e(=Nt/Np)に応じてポンプ翼車48aに生じるトルクであるポンプトルクTpの一例を示したものである。ポンプ回転速度Npは、ポンプ翼車48aの回転速度であって、エンジン回転速度Neと同値である。ポンプトルクTpは、一定のタービン回転速度Ntの下では、破線L01のような、ハード要件で決まるエンジン回転速度Neとの関係が示される。そして、要求エンジンパワーPedemが例えば二点鎖線L02であるときには、エンジン運転点PNTengは、破線L01と二点鎖線L02とが重なる点である所謂カップリング点P01に自然と決められる。
【0068】
カップリング点P01に対して、例えばエンジンパワーPeの一部を用いてTM用回転機MGMを発電動作させることで、要求エンジンパワーPedemを変えないままで、エンジン運転点PNTengを例えば実線L03で示される燃費最適線Lfl上の燃費最適点P02に変更することができる。燃費最適線Lflは、エンジン12の燃費が最も良くなる、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとの関係を表す予め定められたエンジン12の動作曲線であって、エンジン12の燃費向上に最適なエンジン運転点PNTengとして予め定められた燃費最適点の連なりである。車両用駆動装置10では、エンジントルクTeとMGMトルクTmgmとの和がポンプトルクTpと釣り合うように、すなわち「Tp=Te+Tmgm(
図8のTmgmは負の値)」という関係が成立するように、MGMトルクTmgmが調節されることで、エンジン運転点PNTengをタービン回転速度Ntに拘束されることなく任意に変化させることが可能である。MGMトルクTmgmが負の値となる場合には、つまりTM用回転機MGMを発電動作させる場合には、TM用回転機MGMによって発電された電力は、基本的にはTF用回転機MGFに供給されてTF用回転機MGFによって機械的な動力に変換される。車両用駆動装置10は、エンジンパワーPeの動力伝達経路として、TM用回転機MGMとTF用回転機MGFとの間での電力授受により電気的に動力が伝達される電気経路である電気パスと、トルクコンバータ48を介して機械的に動力が伝達される機械経路である機械式パスと、を備えている。車両用駆動装置10では、TM用回転機MGMとTF用回転機MGFとを使って電気式無段変速機が形成される。
【0069】
ハイブリッド制御部134は、TM用回転機MGMとTF用回転機MGFとの間で電力の授受がなされる電気パスにおける電力の大きさである電気パス量Ppse[W]を調整することによってエンジン運転点PNTengを制御する。電気パス量Ppseは、例えばMGMトルクTmgmとMGM回転速度Nmgmとの積である。
【0070】
ハイブリッド制御部134は、エンジン運転点PNTengを目標運転点PNTtgtとする為の電気パス量Ppseである目標電気パス量Ppsetgtを求める。目標運転点PNTtgtは、例えば燃費最適点であり、要求エンジンパワーPedemが二点鎖線L02であるときには燃費最適点P02である(
図8参照)。目標電気パス量Ppsetgtは、エンジン運転点PNTengをカップリング点から燃費最適点に変更するときのMGMトルクTmgmと、燃費最適点におけるエンジン回転速度NeつまりMGM回転速度Nmgmと、の積である。ハイブリッド制御部134は、TM用回転機MGMからTF用回転機MGFへの電気パス量Ppseが目標電気パス量Ppsetgtとなるように、MGMトルクTmgmを制御すると共にTF用回転機MGFを駆動する。これにより、同じエンジンパワーPeでも、エンジン12の燃焼効率が良くなり、エンジン12の燃費を向上させることができる。
【0071】
ところで、二輪駆動モードであるEV走行モード(EV(FF)ハイモード、EV(FF)ローモード)で走行中は、TF用回転機MGFのみを動力源とし、前輪14を駆動させて走行させられるが、EV走行モードで走行中に走行状態に基づいて四輪駆動モードに切り替える条件が成立すると、前輪14及び後輪16に動力源PUのトルクが分配される四輪駆動モードに切り替えられる。走行状態に基づいてEV走行モードから四輪駆動モードに切り替えるに当たって、走行状態に応じた適切な四輪駆動モードが選択され、選択された四輪駆動モードに切り替えられる。尚、H4_Lockモード及びL4_Lockモードについては、運転者の操作によって選択される走行モードであるため、走行状態に基づいた四輪駆動モードへの切替からは除外するものとする。EV走行から走行状態に基づいた四輪駆動モードに切り替える当たって、四輪駆動モードとして、例えば
図6に示す第1モードとしてのH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードを設定することで、前輪14及び後輪16へのトルクを分配しつつ四輪駆動走行することができる。前記前輪14及び後輪16へのトルクを分配することは、トルク分配比Rxである後輪側トルク分配率Xrを目標値である要求後輪側トルク分配率Xrdemに制御することと同意である。或いは、TF用回転機MGFからのMGFトルクTmgfを前輪14側に伝達する状態(第2状態)として、第1動力源PU1(エンジン12、TM用回転機MGM)からのトルクを後輪16側に伝達することで、前輪14及び後輪16へのトルクを分配しつつ四輪駆動走行するモードを設定することもできる。以下、TF用回転機MGFからのMGFトルクTmgfを前輪14側に伝達する第2状態として、第1動力源PU1からのトルクを後輪16側に伝達して走行する四輪駆動モードを、動力源分離四輪駆動モードと称する。尚、H4_トルクスプリットモードが本発明の第1モードに対応し、動力源分離四輪駆動モードが本発明の第2モードに対応している。
【0072】
ここで、EV走行モードでは、TF用クラッチCF1又はTF用ブレーキBF1が係合されることで、差動装置64がローギヤ段及びハイギヤ段の2速の変速が可能な変速機として作動する。このEV走行モードからH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDに切り替えるに当たって、第2噛合クラッチD2を
図6に示す第1状態[1]から第2状態[2]に切り替える必要が生じる。しかしながら、第2噛合クラッチD2を第1状態[1]から第2状態[2]に切り替えるには、切替用アクチュエータ82を駆動させる必要があり、モードの切替が複雑になる虞がある。一方で、EV走行モードから動力源分離四輪駆動モードに切り替える場合には、第2噛合クラッチD2の状態を切り替える必要がないため、EV走行モードから動力源分離四輪駆動モードへの切替が複雑にならない。従って、EV走行モードで走行中に四輪駆動モードに切り替えるに当たって、動力源分離四輪駆動モードへの切替が望ましい。そこで、駆動状態制御部136は、EV走行モードで走行中に走行状態に基づいて四輪駆動モードへと切り替えるに当たり、第2モードとしての動力源分離四輪駆動モードが設定可能であるときには動力源分離四輪駆動モードに切り替え、動力源分離四輪駆動モードが設定可能でないときには、第1モードとしてのH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードに切り替える。以下、EV走行モードから四輪駆動モードへの切替について詳細に説明する。
【0073】
駆動状態制御部136は、EV走行で走行中に、例えば車速V、アクセル開度θacc、前後加速度Gx及び左右加速度Gy、ヨーレートRyaw、操舵角度θsw及び操舵方向Dsw、前後輪の車輪スリップ率などの走行状態に基づいて、四輪駆動モードへ切り替える切替条件が成立したか否かを判定する。駆動状態制御部136は、上記走行状態に基づいて予め規定されている四輪駆動モードへの切替条件が成立した場合、四輪駆動モードへの切替を判定する。
【0074】
駆動状態制御部136は、EV走行中に、走行状態に基づく四輪駆動モードへの切替条件が成立すると、動力源分離四輪駆動モードを設定可能であるか否かを判定する。駆動状態制御部136は、アクセル開度θacc及び車速V等に基づいて要求駆動トルクTrdemを算出し、さらに、車速V、前後加速度Gx及び左右加速度Gy、及びヨーレートRyaw等に基づいて、後輪側トルク分配率Xrの目標値である要求後輪側トルク分配率Xrdemを算出する。次いで、駆動状態制御部136は、要求駆動トルクTrdem及び要求後輪側トルク分配率Xrdemに基づいて、要求後輪側駆動トルクTrrdem(=Trdem×Xrdem)、及び要求前輪側駆動トルクTrfdem(=Trdem×(1-Xrdem))を算出する。次いで、駆動状態制御部136は、算出された要求前輪側駆動トルクTrfdemを、TF用回転機MGFによって出力可能であるか否かに基づいて、動力源分離四輪駆動モードを設定可能であるか否か判定する。
【0075】
駆動状態制御部136は、先ず、バッテリ24の状態から規定される放電可能電力Woutに基づいて、TF用回転機MGFから出力可能なMGFトルクTmgfを算出する。
【0076】
TF用回転機MGFから出力可能なMGFトルクTmgfは、バッテリ24の放電可能電力Woutによって制限される。具体的には、放電可能電力Woutが小さくなるほど、TF用回転機MGFから出力可能なMGFトルクTmgfは小さくなる。又、放電可能電力Woutは、バッテリ24の充電状態値SOC及びバッテリ温度THbatに応じて変化し、例えばバッテリ24の充電状態値SOCが小さくなるほど放電可能電力Woutが小さくなる。放電可能電力Woutの算出に当たって、例えば、充電状態値SOC及びバッテリ温度THbatから構成される、放電可能電力Woutを求めるための関係マップが予め設定され、その関係マップに、現在の充電状態値SOC及びバッテリ温度THbatを適用することで放電可能電力Woutが求められる。
【0077】
駆動状態制御部136は、放電可能電力Woutを求めると、求められた放電可能電力Wout等に基づいてTF用回転機MGFから出力可能なMGFトルクTmgfを算出する。次いで、駆動状態制御部136は、TF用回転機MGFから出力可能なMGFトルクTmgf、及びTF用回転機MGFから前輪14までの機械的なギヤ比γfに基づいて、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrf(=Tmfg×γf)を算出し、算出された前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上であるか否かを判定する。駆動状態制御部136は、前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上である場合には、動力源分離四輪駆動モードを設定可能と判定する。
【0078】
一方で、駆動状態制御部136は、前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem未満である場合には、差動装置64を異なるギヤ段に変速した場合に、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上であるか否かを判定する。車両用駆動装置10では、差動装置64をハイギヤ段及びローギヤ段の2速に変速することができるため、差動装置64が異なるギヤ段に変速されると、TF用回転機MGFのMGF回転速度Nmgfが変化してMGFトルクTmgfが変化すると共に、TF用回転機MGFから前輪14までのギヤ比γfの値が変化することで、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfが変化する。駆動状態制御部136は、差動装置64を現在のギヤ段とは異なるギヤ段に変速した場合に前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfを算出し、算出された前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上であるか否かを判定する。駆動状態制御部136は、前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上である場合には、動力源分離四輪駆動モードを設定可能と判定する。
【0079】
差動装置64が変速された場合であっても、前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem未満である場合、駆動状態制御部136は、エンジン12を駆動させてTM用回転機MGMによる発電を行った場合において、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfを算出し、算出された前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上であるか否かを判定する。
【0080】
上述したように、車両用駆動装置10は、TM用回転機MGMによって発電された発電電力WgmgmをTF用回転機MGFに供給できる電気パスを備えている。従って、エンジン12が駆動した状態では、バッテリ24からの電力に加えて、TM用回転機MGMによって発電された発電電力WgmgmをTF用回転機MGFに供給することができる。駆動状態制御部136は、エンジン12を駆動させてTM用回転機MGMによる発電を行った場合における電気パス量PpsetgtからTF用回転機MGFに供給可能な電力(すなわち発電電力Wgmgm)を求め、更に、放電可能電力Woutに加えて発電電力WgmgmがTF用回転機MGFに供給される場合において、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfを算出する。駆動状態制御部136は、算出された前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上であるか否かを判定し、前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上である場合には、動力源分離四輪駆動モードを設定可能と判定する。
【0081】
一方で、TM用回転機MGMによって発電された発電電力WgmgmがTF用回転機MGFに供給される場合であっても前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem未満になり、且つ、差動装置64が異なるギヤ段に変速された場合であっても、前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem未満である場合、駆動状態制御部136は、動力源分離四輪駆動モードを設定可能でないと判定する。
【0082】
又、TF用回転機MGFのMGFトルクTmgfは、TF用回転機MGFの状態によっても制限される。例えば、TF用回転機MGFの温度が高くなり、TF用回転機MGFの出力が制限される温度閾値を超えると、TF用回転機MGFの温度が高くなるほどMGFトルクTmgfが制限される。駆動状態制御部136は、TF用回転機MGFの温度が予め規定されている温度閾値を超えている場合には、TF用回転機MGFの温度に応じたTF用回転機MGFの出力制限を考慮してMGFトルクTmgfを算出し、算出されたMGFトルクTmgfに基づいて、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfを再度算出する。次いで、駆動状態制御部136は、算出された前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上であるか否かを判定する。駆動状態制御部136は、TF用回転機MGFのMGFトルクTmgfが制限された状態であっても、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上である場合には、動力源分離四輪駆動モードを設定可能と判定する。一方で、TF用回転機MGFのMGFトルクTmgfが制限されることで、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem未満になった場合には、駆動状態制御部136は、動力源分離四輪駆動モードを設定できないものと判定する。尚、TF用回転機MGFの出力が制限される場合においても、差動装置64を変速した場合について、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上か否かが判定され、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上になる場合には、動力源分離四輪駆動モードを設定可能と判定される。
【0083】
駆動状態制御部136は、動力源分離四輪駆動モードが設定可能でないと判定された場合、四輪駆動モードとしてH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードに切り替える。H4_トルクスプリットモード及びH4_LSDモードでは、TF用回転機MGFのMGFトルクTmgf又はTF用クラッチCF1のトルク容量を制御することで、前後輪のトルクを適宜分配することができ、前後輪のトルクを要求前輪側駆動トルクTrfdem及び要求後輪側駆動トルクTrfdemにそれぞれ制御することができる。
【0084】
駆動状態制御部136は、動力源分離四輪駆動モードを設定可能と判定した場合、四輪駆動モードとして動力源分離四輪駆動モードに切り替える。駆動状態制御部136は、要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力するに当たって、差動装置64の変速が必要な場合には、差動装置64を異なるギヤ段に変速するための油圧制御指令信号Scbfを油圧制御回路60に出力し、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1の係合状態を切り替えて差動装置64を変速させる。すなわち、駆動状態制御部136は、動力源分離四輪駆動モードにおいて、要求後輪側トルク分配率Xrdemに基づく要求前輪側駆動トルクTrfdemが得られるように、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1の係合状態を選択的に切り替える。ハイブリッド制御部134は、差動装置64の変速が不要である場合、及び、差動装置64の変速が完了した場合には、前輪14から要求前輪側駆動トルクTrfdemが出力されるように、TF用回転機MGFを制御する。
【0085】
又、ハイブリッド制御部134は、TF用回転機MGFの制御に併せて、後輪16から要求後輪側駆動トルクTrrdemが出力されるように、第1動力源PU1を構成するエンジン12及びTM用回転機MGMを制御する。例えば、EV走行時にはエンジン12が停止中であって、後輪16から要求後輪側駆動トルクTrrdemを出力するためにエンジン12の駆動力が必要な場合、及び、前輪14から要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力するためにTM用回転機MGMの発電が必要な場合には、ハイブリッド制御部134はエンジン12を始動させる。エンジン12を駆動させてTM用回転機MGMによって発電された発電電力Wgmgmを使用する場合には、ハイブリッド制御部134は、TM用回転機MGMとTF用回転機MGFとの間で電力の授受がなされる電気パスにおける電気パス量Ppseを調整しながら、後輪側トルク分配率Xrが要求後輪側トルク分配率Xrdemとなるように、エンジン12、TM用回転機MGM、TF用回転機MGFをそれぞれ制御する。
【0086】
又、AT変速制御部132は、後輪16から要求後輪側駆動トルクTrrdemを出力するに当たって、適切なATギヤ段を選択する。自動変速機50にあっては、4速のATギヤ段に変速可能に構成されており、これらのATギヤ段のうち要求後輪側駆動トルクTrrdemを出力可能なATギヤ段を選択する。次いで、AT変速制御部132は、要求後輪側駆動トルクTrrdemを出力可能なATギヤ段のうち、走行中の総合効率ηtotalが最も高くなるATギヤ段を選択する。
【0087】
総合効率ηtotalは、自動変速機50の効率ηat及びTM用回転機MGMの効率ηmgmを考慮した総合的な効率(ηat×ηmgm)である。例えば、エンジン12が停止された状態では、ローギヤ側のATギヤ段であるほどエンジン12の連れ回る回転速度が高くなり、エンジン12の吸気弁及び排気弁を開弁状態にして燃焼室内の圧力を抜くデコンプを実施した場合であっても損失が増加する。従って、ローギヤ側のATギヤ段であるほど損失が増加する。又、自動変速機50の機械的な伝達効率は、変速機入力軸52と変速機出力軸54とが直結状態となるAT3速ギヤ段が最も高く、次いで、AT4速ギヤ段、AT2速ギヤ段、AT1速ギヤ段の順番で伝達効率が高くなる。自動変速機50の効率ηatは、エンジン12の連れ回り(引き摺り)による損失及び自動変速機50の伝達効率を総合的に考慮して決定される。自動変速機50の各ATギヤ段の効率ηatを求めるに当たって、例えば、車速Vをパラメータとする各ATギヤ段の自動変速機50の効率ηatを求めるAT効率マップが予め規定されており、このAT効率マップに現在の車速Vを適用することで、現在の車速VにおけるATギヤ段毎の効率ηatが決定される。前記AT効率マップは、エンジン12の引き摺りによる損失や自動変速機50の構造に基づく機械的な伝達効率等を考慮して求められる。尚、AT効率マップは、エンジン12の駆動時についても設定されてもよく、エンジン12が駆動される場合には、そのエンジン12の駆動時のAT効率マップが適用されて、ATギヤ段毎の効率ηatが求められもよい。
【0088】
TM用回転機MGMの効率ηmgmは、例えば、TM用回転機MGMの運転領域における効率ηmgmを規定する特性マップから求められる。前記特性マップは、TM用回転機MGMのMGM回転速度Nmgm及びMGMトルクTmgmをパラメータとする二次元マップで構成され、MGM回転速度Nmgm及びMGMトルクTmgmで規定されるTM用回転機MGMの運転領域における効率ηmgmが規定されている。AT変速制御部132は、前記特性マップに、各ATギヤ段に変速された場合のMGM回転速度Nmgm及びMGMトルクTmgmを適用することで、ATギヤ段毎の効率ηmgmを求める。
【0089】
AT変速制御部132は、要求後輪側駆動トルクTrrdemを出力可能なATギヤ段毎に、自動変速機50の効率ηat及びTM用回転機MGMの効率ηmgmを求めると、ATギヤ段毎の総合効率ηtotal(ηat×ηmgm)を算出する。次いで、AT変速制御部132は、算出されたATギヤ段毎の総合効率ηtotalのうち最も効率の高いATギヤ段を選択し、自動変速機50が選択されたギヤ段に変速されるように油圧制御回路60に油圧制御指令信号Satを出力する。ハイブリッド制御部134は、自動変速機50の変速が完了すると、エンジン12及びTM用回転機MGMを制御して、後輪16から要求後輪側駆動トルクTrrdemを出力させる。
【0090】
図9は、電子制御装置130の制御作動の要部を説明する為のフローチャートであり、EV走行モードで走行中に四輪駆動モードに切り替えるときの制御作動を説明する為のフローチャートである。このフローチャートは、EV走行モードで走行中において繰り返し実行される。
【0091】
先ず、駆動状態制御部136の制御機能に対応するステップ(以下、ステップを省略)S10において、EV走行モードで走行中であるか否かが判定される。S10の判定が否定される場合、本ルーチンが終了させられる。S10の判定が肯定される場合、駆動状態制御部136の制御機能に対応するS20において、走行状態に基づいて四輪駆動モードに切り替える切替条件が成立したか否かが判定される。S20の判定が否定される場合、ハイブリッド制御部134及び駆動状態制御部136の制御機能に対応するS120において、EV走行(二輪駆動)が継続して実行される。S20の判定が肯定される場合、駆動状態制御部136の制御機能に対応するS30において、後輪側トルク分配率Xrが算出される。
【0092】
次いで、駆動状態制御部136の制御機能に対応するS40において、S30で算出された後輪側トルク分配率Xr及び要求駆動トルクTrdemから前輪14の要求前輪側駆動トルクTrfdem(=Trdem×(1-Xr))が算出され、バッテリ24の充電状態値SOC等に基づいてTF用回転機MGFによって前輪14から要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力できるか否かが判定される。すなわち、前輪14から出力可能な前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdem以上であるか否かが判定される。このとき、差動装置64のギヤ段を異なるギヤ段に変速した場合についても要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力できるか否かが判定される。又、バッテリ24からの電力のみでは要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力できない場合には、エンジン12を駆動させてTM用回転機MGMによる発電を行ったときの発電電力WgmgmがTF用回転機MGFに供給される場合において、前輪14から要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力できるか否かが判定される。
【0093】
S40の判定が否定される場合には、動力源分離四輪駆動モードを設定可能でないと判断され、駆動状態制御部136の制御機能に対応するS110において、H4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードの何れかが選択され、選択された四輪駆動モードに切り替えられる。S40の判定が肯定される場合、駆動状態制御部136の制御機能に対応するS50において、TF用回転機MGFの出力が制限されているかが判定され、TF用回転機MGFの出力が制限されている場合には、TF用回転機MGFの出力が制限された状態において、前輪14から要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力できるか否かが判定される。S50の判定が否定される場合、動力源分離四輪駆動モードを設定可能でないと判断され、S110においてH4_トルクスプリットモード又はH4_LSDモードが選択される。S50の判定が肯定される場合、動力源分離四輪駆動モードを設定可能であると判断され、駆動状態制御部136の制御機能に対応するS60において、動力源分離四輪駆動モードが選択される。
【0094】
駆動状態制御部136に対応するS70では、前輪14から要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力するに当たって差動装置64の変速が必要であるか否かが判定される。S70の判定が肯定された場合、駆動状態制御部136及びハイブリッド制御部134の制御機能に対応するS80において、差動装置64が異なるギヤ段に変速された後、前輪14の前輪側駆動トルクTrfが要求前輪側駆動トルクTrfdemとなるように、TF用回転機MGFからMGFトルクTmgfが出力される。S70の判定が否定された場合、又は、S80が実行された後、AT変速制御部132の制御機能に対応するS90おいて、後輪16から要求後輪側駆動トルクTrrdemを出力可能な自動変速機50のATギヤ段のうち総合効率ηtotalの最も高くなるATギヤ段が選択され、自動変速機50が選択されたATギヤ段に変速される。次いで、ハイブリッド制御部134の制御機能に対応するS100では、後輪16から出力される後輪側駆動トルクTrrが要求後輪側駆動トルクTrrdemとなるように、TM用回転機MGMからMGMトルクTmgmが出力される。
【0095】
上述のように、本実施例によれば、二輪駆動モードであるEV走行モードから四輪駆動モードへ切り替えるに当たり、動力源分離四輪駆動モードが設定可能であるときにはトランスファ28が動力源分離四輪駆動モードに切り替えられるため、前輪14を駆動するEV走行モードからの複雑な切り替えを抑えつつ、前輪14及び後輪16へのトルク分配比Rxを要求トルク分配比Rxdemに制御して前輪14及び後輪16を駆動する四輪駆動モードに切り替えることができる。
【0096】
又、本実施例によれば、TM用回転機MGMで発電された発電電力Wgmgmを、電気パスを経由してTF用回転機MGFに供給することでTF用回転機MGFに供給される電力を確保できるため、四輪駆動モードに切り替えるに当たり、動力源分離四輪駆動モードを設定可能な状態を維持することができる。又、動力源分離四輪駆動モードにおいて、TF用クラッチCF1及びTF用ブレーキBF1を選択的に係合状態とするように構成されているため、差動装置64を2速の変速機として動作させることでTF用回転機MGFの運転領域を拡げることができ、動力源分離四輪駆動モードを設定可能な走行領域を拡げることができる。
【0097】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0098】
例えば、前述の実施例では、バッテリ24の充電状態値SOC及びバッテリ温度THbatから算出されるバッテリ24の放電可能電力Wout、エンジン12の駆動時におけるTM用回転機MGMの発電による発電電力Wgmgm、差動装置64のギヤ段等に基づいて、TF用回転機MGFによって前輪14の要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力できるか否かを判定した後、TF用回転機MGFに出力制限があるか否かを判定し、TF用回転機MGFに出力制限がある場合には、その出力制限がある状態において、TF用回転機MGFによって前輪14から要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力できるか否かが判定されるものであったが、必ずしもこの態様に限定されない。例えば、予めTF用回転機MGFに出力制限があるか否かを判定し、TF用回転機MGFに出力制限がある場合には、TF用回転機MGFの出力制限を考慮した状態で、バッテリ24の充電状態値SOC及びバッテリ温度THbat、TM用回転機MGMの発電による発電電力Wgmgm等に基づいて、前輪14から要求後輪側駆動トルクTrrdemを出力可能であるか否かを判定するものであっても構わない。
【0099】
又、前述の実施例では、トルク分配比Rxを後輪側トルク分配率Xrとして前輪側駆動トルクTrf及び後輪側駆動トルクTrrが算出されるものであったが、トルク分配比Rxを前輪側トルク分配率Xfとして前輪側駆動トルクTrf及び後輪側駆動トルクTrrを算出することもできる。或いは、前輪側トルク分配率Xf及び後輪側トルク分配率Xrの両方を用いて、前輪側駆動トルクTrf及び後輪側駆動トルクTrrを算出するものであっても構わない。
【0100】
又、前述の実施例では、エンジン12とトルクコンバータ48との間が、回転機連結軸46を介して連結されるものであったが、エンジン12とトルクコンバータ48との間に断接クラッチが介挿され、EV走行時にはその断接クラッチが遮断されることで、エンジン12の引き摺りをなくすように構成されるものであっても構わない。
【0101】
又、前述の実施例では、TF用回転機MGFによって前輪14が駆動され、エンジン12及びTM用回転機MGMの少なくとも一方によって後輪16が駆動されるように構成されるものであったが、必ずしもこの態様に限定されない。具体的には、TF用回転機MGFによって後輪16が駆動され、エンジン12及びTM用回転機MGMの少なくとも一方によって前輪14が駆動されるように構成されるものであっても構わない。
【0102】
又、前述の実施例では、差動装置64がEV走行モードにおいて2速のギヤ段に変速可能に構成されるものであったが、必ずしも2速のギヤ段に限定されない。例えば、1速又は3速以上のギヤ段に変速可能に構成されるものであっても構わない。
【0103】
又、前述の実施例では、第1動力源PU1が、エンジン12及びTM用回転機MGMを備えて構成され、エンジン12及びTM用回転機MGMの動力がトルクコンバータ48を介して自動変速機50側に伝達されるものであったが、第1動力源PU1の構成は必ずしもこれに限定されない。例えば、第1動力源PU1が、エンジン12のみ又はTM用回転機MGMのみから構成されるものであっても構わない。この場合には、TF用回転機MGFによって要求前輪側駆動トルクTrfdemを出力できるか否かを判定するに当たって、TM用回転機MGMの発電については考慮されなくなる。
【0104】
又、前述の実施例において、TF用クラッチCF1は、差動装置64の第1回転要素RE1と第3回転要素RE3とを選択的に接続するクラッチであっても良いし、差動装置64の第2回転要素RE2と第3回転要素RE3とを選択的に接続するクラッチであっても良い。要は、TF用クラッチCF1は、第1回転要素RE1、第2回転要素RE2、及び第3回転要素RE3のうちの何れか2つを選択的に接続するクラッチであれば良い。
【0105】
又、前述の実施例では、自動変速機50は、第1遊星歯車装置56、第2遊星歯車装置58、クラッチC1-C2、ブレーキB1-B2、ワンウェイクラッチF1を含んで構成され、クラッチC1-C2、ブレーキB1-B2の係合状態が切り替えられることによって4速のATギヤ段に変速可能に構成されるものであったが、必ずしもこの態様に限定されない。すなわち、自動変速機を構成する、遊星歯車装置の個数、クラッチの個数、及びブレーキの個数は特に限定されず、連結構成及びギヤ段の数についても特に限定されない。要は、複数のギヤ段に変速可能な変速機であれば、本発明を適宜適用することができる。又、変速比が連続的に変更される無段変速機であっても本発明を適用することができる。例えば、自動変速機として、公知のDCT(Dual Clutch Transmission)、公知のベルト式無段変速機などであっても良い。
【0106】
又、前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ48が用いられたが、この態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ48に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。
【0107】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。