(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186550
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】静電発電機の最適構成
(51)【国際特許分類】
H02N 1/08 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
H02N1/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094828
(22)【出願日】2021-06-05
(71)【出願人】
【識別番号】398055026
【氏名又は名称】酒井 捷夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198373
【弁理士】
【氏名又は名称】江畑 耕司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 捷夫
(57)【要約】 (修正有)
【課題】二次元シミュレーションの結果に基づいて作製され、非対称静電力を駆動力とする静電発電機を提供する。
【解決手段】移動する導電性の電荷搬送体11に電荷を充電する充電エレクトレットと、電荷搬送体により搬送された充電電荷を回収する回収電極10と、該充電エレクトレットと該回収電極との間に配置した駆動エレクトレットと、該駆動エレクトレットの上流側及び下流側において、該駆動エレクトレットとの間で加速電界及び減速電界を夫々形成する二つの接地電極を設け、該電荷搬送体に作用する加速静電力と減速静電力の差で、当該電荷搬送体を上流側から下流側へ駆動する。
【選択図】
図17
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する導電性の電荷搬送体に電荷を充電する充電エレクトレットと、電荷搬送体により搬送された充電電荷を回収する回収電極と、該充電エレクトレットと該回収電極との間に配置した駆動エレクトレットと、該駆動エレクトレットの上流側及び下流側において、該駆動エレクトレットとの間で加速電界及び減速電界を夫々形成する二つの接地電極を設け、該電荷搬送体に作用する加速静電力と減速静電力の差で、当該該電荷搬送体を上流側から下流側へ駆動する静電応用機器。
【請求項2】
請求項1において、前記充電エレクトレットの電位を、前記加速電界を移動する電荷搬送体を減速させない範囲とする静電応用機器。
【請求項3】
請求項1において、前記電荷搬送体の帯電電位の極性と、前記駆動エレクトレットの極性が同じである静電応用機器。
【請求項4】
請求項1において、減速電界を形成する前記駆動エレクトレットと下流側の前記接地電極の間隔を、加速電界を形成する前記駆動エレクトレットと上流側の前記接地電極との間隔よりも広くした静電応用機器。
【請求項5】
請求項4において、前記駆動エレクトレットと前記回収電極の間に減速電界を形成する前記接地電極を省いた静電応用機器。
【請求項6】
請求項1において、加速電界を形成する前記駆動エレクトレットと上流側の前記接地電極の間隔を、両者間で放電が起こらない範囲とした静電応用機器。
【請求項7】
請求項1において、前記駆動エレクトレットの幅を、前記電荷搬送体の幅より広く、その1.5倍よりも狭くした静電応用機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非対称静電力を駆動力とする電界駆動型静電力応用機器(発電機、モーター、加速器等)の最適構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球の環境問題を解決する有力な手段として太陽光発電が用いられているのは、
図1に示すように、太陽はその周辺に絶えることなくエネルギーを放出続けているからである。電子も、同様に、その周囲に常時エネルギーを放出続けており、量子電気力学により説明されている。
【0003】
現在、太陽の放出エネルギーは有効に利用されているが、電子の放出エネルギーは、ほとんど利用されていない。又、電子のエネルギーと機械的エネルギーを組み合わせた静電発電機は発明されているが、ほとんど使用されていない。太陽光発電のように、電子の放出エネルギーのみで発電する静電発電機が望まれている。
(静電発電機)
【0004】
静電発電は、通常、電位の低いところで電荷を集めて電荷搬送体に載せ、これを電位の高いところまで搬送して降ろすことで行われる。
そのとき、電位の高いところに向かう電荷搬送体には、これを押し戻す方向に静電力が働く。この静電力に抗して電荷搬送体を高いところまで持ち上げるためには、より強い力が必要であり、バンデグラフ静電発電機では、この力を電気モータで得ている。
しかしながら、このとき、モータで消費される電気エネルギーは、発生する電気エネルギーより大きいので、発電機ではなく高電位発生器である。
(新型静電発電機)
【0005】
これに対して、出願人は、
図3に示すように、電子が発生するエネルギーのみで継続的に発電できる新型の静電発電機を考案した。電荷搬送体を搬送する力(駆動力ともいう)は、いわゆる非対称静電力である。
ここで、非対称静電力とは、電界の方向が反転する前後において、帯電した非球形の導体に作用する各静電力の差(絶対値)であって、該導体を電界の方向に駆動する力をいう。又、非球形とは、例えば、横置きした箱等、進行方向前後で非対称な縦断面を有する立体形状を言う。
(非対称静電力)
【0006】
従来、電界中に置かれた電荷(q)に作用する静電力は、全て
図2に示すクーロンの法則(F = qE)を用いて計算されている。
同図において、参照番号1は高圧電極、参照番号2は接地された第一対向電極、参照番号3は点電荷、参照番号4は点電荷に作用する静電力のベクトル、参照番号5は電界(電気力線)、及び参照番号6は、接地された第二対向電極を示している。
つまり、
図2の中央左側において、例えば、電界の強さが10
6 V/mで、点電荷の電荷量が10
-7Cの時、点電荷に作用する静電力は0.100Nになる。
一方、
図2の中央右側のように、電界の方向が反転した時、該点電荷に作用する静電力の方向も反転するが、その大きさ(絶対値)は0.100Nであり、変わらない。又、かかるクーロンの法則は、点電荷又は点電荷とみなせる球形の帯電体にしか適用できない。
(二次元差分法)
【0007】
従い、電界中に置かれ、帯電した非球形の導体に作用する静電力は、クーロンの法則ではその計算ができないが、二次元差分法を使えば計算できる。
具体的には、
図3に示すように、参照番号7で示す帯電した導体の形状を横向きの樋型とし、その帯電量と電界の強さは
図2と各同じとした。
その結果、電界が反転すると、帯電した非球形の導体に作用する静電力の絶対値は、0.083Nから0.038Nへと大きく変わったことを確認した。つまり、非対称静電力の存在を確認した。その際、導体に作用する静電力が相対的に大きくなる
図3の中央左側部分の電界を「順電界」、該静電力が小さくなる右側部分の電界を「逆電界」と定義した。
この現象は、実験でも確認され(非特許文献[3])、理論的にも証明された(非特許文献[4])
(電界駆動型静電発電機)
【0008】
出願人は、かかる非対称静電力を駆動力とする電界駆動型静電発電機を提案した。(特許文献[1]、[2]、[3]、[4])(非特許文献[1]、[2])
【0009】
非対称静電力を、電荷搬送体の駆動力とする電界駆動型静電発電機では、電位0Vで、電荷搬送体を静電誘導によって帯電させ、該電荷搬送体を、先ず、順電界中において強い静電力で十分加速させたのち、逆電界に入れる。
該逆電界では、該電荷搬送体に働く進行逆方向の静電力は弱く、且つ当該逆電界において、該電荷搬送体の電位が、プラスの電位から0Vに戻ったとき、該電荷搬送体に余剰の運動エネルギーが残っている。
その結果、当該電荷搬送体は更に高い電位迄上ることができる。なお、実際の装置で、この時働く静電力のシミュレーション結果は後述する。
【0010】
図4は、かかる電界駆動型静電発電機の基本ユニットの正面図である。
図中、参照番号8は電荷注入電極を、参照番号9は電荷搬送体駆動用高電位源(高電圧が印加された電極、高電位のエレクトレット、高電位の強誘電体、以下同様)を、参照番号11は電荷搬送体を、参照番号10は電荷回収電極を、参照番号12は電荷回収電極10に接続された回収部コンデンサーを、参照番号13、15は、これら両電極8及び10並びに高電位源(強誘電体も含むエレクトレット、以下同様)を支持する上下一対の絶縁性支持体を示している。
尚、参照番号4及び5は、
図2及び
図3と同じく、電荷搬送体11に加わる静電力と電界(電気力線)を示している。
【0011】
ここで、エレクトレット9は、例えば、0.1mC/m2 の表面電荷密度を有し、その電位は、例えば、+2000Vである。一方、電荷注入電極8の電位は0Vで、電荷回収電極10の電位は、例えば、-200Vである。
この結果、電荷注入電極8とエレクトレット9の間には、負極性に帯電される前記電荷搬送体11に対して、順電界が形成される。
一方、エレクトレット9と回収電界10の間には、同電荷搬送体11に対して、逆電界が形成される。
【0012】
上記の通り、電荷搬送体11は、横向きにした樋型であるから、その縦断面横方向中央における、電界の方向又は電荷搬送体11の移動方向に直角な垂線に対し、左右非対称形であり、よって、移動方向に前後非対称形状を有する。
該電荷搬送体11は、軽い導体、例えばアルミで形成されていて、図示しない絶縁性の電荷搬送体保持体14に保持されている。その結果、電気的にフロートである。
【0013】
該電荷搬送体11は、非対称な静電力4で駆動されて、
図3中、左から右に移動して、上下一対の電荷注入電極8、駆動手段たる高電位源9、及び上下一対の電荷回収電極10を順次通り抜ける。
該電荷搬送体11が、上下一対の電荷注入電極8を抜ける時、即ち、電荷注入電極8に設けられた、
図3、4、5で示すアルミフォイル又は導電糸等の材料からなる導電性端子(以下、誘導電荷注入端子という)23’が、電荷搬送体11に接触した時、静電誘導によって、例えば負極性の電荷が該電荷搬送体11に注入される。
又、該電荷搬送体11が上下一対の電荷回収電極10に奥深く入ったとき、
図3で示すように、該電荷回収電極10に設けられた搬送電荷回収用の導電性端子(以下、電荷回収端子という)24が接触して、該電荷搬送体11が有する前記注入電荷は回収される。
【0014】
即ち、順電界中においては、強い静電力によって電荷搬送体11を加速運動させ、電荷搬送体11が逆電界に入り、減速運動になっても、それが受ける逆方向の静電力は弱いので、十分な速度を持って電荷回収電極10に到達する。
(充電式帯電)
【0015】
しかしながら、静電誘導によって電荷搬送体11に充電される電荷量は十分でなく、これを大幅に増やすために、出願人は、所定の電位を有する充電電界形成電位源(電位を有する電極又はエレクトレット)18と電荷搬送体11を近接させ、両者間で一時的にコンデンサーを形成し、電荷搬送体11を接地したときに、当該コンデンサーに流れ込む電荷で当該電荷搬送体11を充電する、即ち帯電する新しい充電方法を提案した(非特許文献[5])。以下、該充電方法を、充電式帯電方法という。
【0016】
図5は、かかる充電式帯電方法で電荷搬送体へ電荷を注入する電界駆動型静電発電機における電荷注入部分の拡大図である。
同図において、参照番号18は低電圧が印加された充電電界形成電極、参照番号9は高電圧が印加された駆動電極、参照番号11は電荷搬送体、参照番号23’は接地された充電端子を示している。
この充電電界形成電極18は、それ自体に低電圧が印加され、高電圧が印加された駆動電極9とで加速電界を形成する。
即ち、該充電電界形成電極18と駆動電極9間には、順電界を形成し、その方向に作用する非対称静電力で電荷搬送体11を加速する加速電界が形成される.
充電電界形成電極18は、又、接地されつつ通過する電荷搬送体11との間で専用の電界を形成し、該電荷搬送体11に電荷を充電する。
【0017】
具体的には、
図5に示すように、上下一対の充電電界形成電極18と、電荷搬送体11の上下の水平板112は、夫々空気層を挟んで、上下一対のコンデンサーを形成している。そのため、電荷搬送体11が固定された充電端子23を介して接地されると、上記上下の水平板112に電荷が注入される。
(充電式ベンチモデル)
【0018】
該充電式帯電方法を使用した電界駆動型静電発電機の概略縦断面を
図6に、その概略横断面を
図7に示す。尚、図中、
図4及び
図5と同一の参照番号が付された部材は、
図4及び
図5と同一の部材を示す。
即ち、参照番号18は注入エレクトレット、参照番号9は駆動高圧エレクトレット、参照番号10は回収電極、参照番号14は電荷搬送体保持円板、参照番号16はステンレス製の回転軸(例えば、柱)、参照番号23は注入用端子、及び参照番号24は回収用端子である。参照番号17は、電荷搬送体保持円板14のセンターに固定され、固定回転軸16の周りを回転するベアリングである。
【0019】
注入エレクトレット18、駆動高圧エレクトレット9、及び回収電極10、及び電荷搬送体11は、
図6及び
図7に示されるように、垂直(紙面上下)に形成され、固定されている。そして、注入エレクトレット18、駆動高圧エレクトレット9、及び回収電極10は、各半径方向で内外一対の垂直板部分を有し、その間を、電荷搬送体11が、順次軸周りに回転して通り抜けるように構成されている。即ち、注入エレクトレット18、駆動高圧エレクトレット9、及び回収電極10は、各々2個あり、合計6個が、
図7に示されるように、60度間隔で配置されている。
又、電荷搬送体11も6個あり、電荷搬送体保持円板14に60度間隔で吊り下げられている。
【0020】
かかる構成において、電荷搬送体11は、先ず、注入エレクトレット18で帯電し、駆動高圧エレクトレット9を通り抜けて回収電極10に入り、電荷の大部分を回収電極10に放出する。電荷搬送体11は、回収電極10を抜けて更に回転し、次の注入エレクトレット18に入り、帯電と電荷放出を繰り返す。よって、非対称静電気力により電界駆動型の発電を行う。
【0021】
回収電極10のコンデンサーは、
図5に示すように、外部コンデンサー12と接続されていて、その表面電位が、表面電位計(シシド静電気株式会社製の表面電位計:FLATIRON-DZ 3)で測定することができる。
試作機で測定した回収コンデンサーの表面電位の変化は、
図8に示すとおりである。
つまり、その電位は、時間とともに、すなわち、帯電した電荷搬送体11が回収電極10を通過するごとに上昇しており、発電が行われていることが分かる。
【0022】
ここで、帯電した電荷搬送体が、電荷注入位置から電荷回収位置まで移動する際に、該電荷搬送体に作用する静電力を、二次元差分法でシミュレーションした。その結果を
図9に示す。
つまり、この間に、順電界中で電荷搬送体が受けるエネルギーは16.81μJであり、逆電界中で失うエネルギーは6.27μJであり、その差は、10.54μJもある。ゆえに、理論上、電荷搬送体円板は、常に連続回転し、発電を続けるはずである。
【0023】
しかしながら、試作機においては、電荷搬送体円板14の回転は、1分足らずで止まり、連続回転に至らない場合が多く、再現性が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
[特許文献1] 特開2009-232667号公報
[特許文献2] 特許第6136050号公報
[特許文献3] 特許第6286767号公報
[特許文献4] 特開2018-029425号公報
【非特許文献】
【0025】
[非特許文献1][Asymmetric Electrostatic Forces and a New Electrostatic Generator], Nova Science Publishers, New York, 2010
[非特許文献2]2017年米国静電気学会年次大会予稿集 A-3
[非特許文献3][Asymmetric Electrostatic Force], K. Sakai, Journal of Electromagnetic Analysis and Applications, 2014,6
[非特許文献4][Theory of Asymmetric Electrostatic Force], K. Sakai, Journal of Electromagnetic Analysis and Applications,2017,9
[非特許文献5]2019年米国静電気学会年次大会予稿集 A-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の目的は、電界駆動型の静電発電機において、電荷搬送体の安定した回転を長時間可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0027】
上記本発明の目的は、電界駆動型静電発電機の構成、すなわち、充電電位源、駆動高圧電位源、及び回収電極の夫々の幅と、それらの間隔、及びその電位を最適化することで達成した。
【発明の効果】
【0028】
電界駆動型静電発電機の充電電位源、駆動高圧電位源、回収電極の幅とそれらの間隔、及びその電位を特定したことで、電荷搬送体円板の回転再現性は約100%になった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】
図1は、太陽と電子のエネルギー放出を示す模式図である。
【
図2】
図2は、クーロンの法則を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、横向きで樋型の導体を用いた非対称静電力を説明する模式図である。
【
図4】
図4は、電界駆動型静電発電機の基本ユニットの縦断面図である。
【
図5】
図5は、電荷を充電方法で注入する本発明の電界駆動型静電発電機における電荷注入部分の拡大図である。
【
図6】
図6は、試作した電界駆動型静電発電機の概略縦断面図である。
【
図7】
図7は、試作した電界駆動型静電発電機の概略横断面図である。
【
図8】
図8は、電荷搬送体である円板の回転に伴って、回収電極コンデンサーの表面電位が上昇する実験結果を示すグラフある。
【
図9】
図9は、電荷搬送体の位置と作用する静電力をシミュレーションで求めた結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、電荷搬送体である円板の継続回転時間を測定する装置の概略横断面図である。
【
図11】
図11は、充電電圧を変えつつ、電荷搬送体である円板の継続回転時間を夫々測定した実験結果を示すグラフある。
【
図12】
図12は、負および正帯電した充電エレクトレットを使用し、駆動電圧を変化させて、回収電位を測定した結果を示すグラフである。
【
図13】
図13は、駆動電極と先の接地電極間の距離を変化させた時の、持続回転時間を測定した実験結果を示すグラフである。
【
図14】
図14は、駆動電極とその上流にある接地電極間の距離を変化させたときの、持続回転時間を測定した実験結果を示すグラフである。
【
図15】
図15は、駆動電極の幅毎に駆動電圧を変えつつ、電荷搬送体円板の継続回転時間を夫々測定した実験結果を示すグラフである。
【
図16】
図16は、駆動エレクトレットの幅を変えつつ、電荷搬送体に作用する静電力夫々を、二次元差分法によるシミュレーションで求めた結果を示すグラフである。
【
図17】
図17は、各部品の位置、形状、及び電位を最適化した電界駆動型静電発電機の概略横断面図である。
【
図18】
図18は、最適化した電界駆動型静電発電機で得られた電荷搬送体円板の回転に伴う回収電位の時間変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
出願人は、電荷に作用する静電力で電荷搬送体を駆動する静電発電機において、実験の再現性を100%にするという目的を、電界駆動型静電発電機の充電電位源、駆動高圧電位源、回収電極の夫々の幅と、それら間の間隔、及びその電位を特定することで達成した。
【実施例0031】
電荷に作用する静電力で電荷搬送体11を駆動する静電発電機において、
二次元差分法によるシミュレーションの結果では、電荷搬送体11を加速する順方向の静電力は、これを減速させる逆方向静電力の2倍以上もあり、空気抵抗を考慮しても、電荷搬送体たる円板14を常に継続して回転させられるはずである。にもかかわらず、継続回転に至る確率が低いのは、二次元差分法によるシミュレーションが示す静電力と、実際の静電力が異なっていることに起因している可能性がある。
例えば、上記シミュレーションでは、充電電極18、駆動電極9、及び回収電極10を一直線に並べているが、実際の装置たる電界駆動型静電発電機では、これら3電極を円周上に配置している。
そこで、以下、実験で、電荷搬送体円板14に加わる静電力を実測する。
【0032】
尚、電荷搬送体円板14を駆動する微小なトルクの測定は、電荷搬送体円板14の回転持続時間の測定で代用する。
先ず、電荷搬送体円板14を10秒間エアーフローで強制回転させたのちの、自由回転時間を測定する。無電界中での継続時間よりも長時間回転続ければ、電荷搬送体円板14には加速する静電力が加わっていることになり、逆に継続回転時間が短くなれば、減速する静電力が加わっていることになる。加速静電力が十分強ければ、電荷搬送体円板14は、止まることなく何時までも回転続ける。
【0033】
電荷搬送体円板14の継続回転時間を測定する装置の横断面を
図10に示す。
電荷搬送体円板14に吊り下げられて回転する電荷搬送体11を挟むように、
互いに対向する一対の充電電極18と、その上流で、互いに対向する一対の回収電極10が立設され該回収電極10から約180度回転した位置に、互いに対向する一対の駆動電極9が立設される。
駆動電極9の上流に、新たに、互いに対向する一対の第一接地電極20、又駆動電極9の下流に、互いに対向する一対の第二接地電極21が立設され追加される。
この配置で、充電電極18を通過した時に帯電された電荷搬送体11に対し、接地電極20と駆動電極9間では、順方向故に静電加速力が、駆動電極9と接地電極21の間で、逆方向故に静電減速力が作用する。
【0034】
ここで、第一接地電極20と駆動電極9の半径方向内側の各電極間の間隔d1は15mm、内側の駆動電極9の幅w1は10mm、駆動電極9と接地電極21の半径方向内側の各電極間の間隔d2は15mmを標準とする。内側の充電電極8の幅(w2)は10mm、内側の回収電極の幅(w3)は15mmである。
【0035】
かかる構成において、先ず、駆動電極の電圧を0Vとして、すなわち、帯電された電荷搬送体11が、充電電極18を出て、回収電極10に至る区間の電界をゼロにして、この間で電荷搬送体11に静電力が作用しないようにした。そして、充電電圧を変えつつ、電荷搬送体円板14の継続回転時間を測定した。
電荷搬送体11の帯電量は充電電圧に正比例するが、経路上に電界がないので、これに加わる静電力はなく、その結果、充電電圧にかかわらず、エアーフロ―による継続回転時間は一定になるはずである。
【0036】
充電電極幅が15mmと5mmで、各充電電圧を変えたときの、平均継続回転時間を
図11に示す。
図示のとおり、充電電圧0kVから-2.0kVまでは、ほぼ一定で、19秒前後である。しかし、-2.5kVからは短くなり、-3.0kVでは10秒まで下がった。
【0037】
他方、
図9に示すシミュレーションは、充電電圧-3.0kVで行っているが、充電電極内で働く静電力は、プラスであり、加速静電力である。
このとき、帯電された電荷搬送体11には、その上下方向に強い静電引力が働いているが、逆方向で打ち消しあうので、電荷搬送体11には実質作用していない。
【0038】
しかしながら、電荷搬送体11がエアーフローで動かされるときは、この垂直方向に働いていた静電引力は、エアーフローの影響で、瞬間的に、少し斜めになって、その水平成分が電荷搬送体11を引き戻そうとすると思われる。
従い、帯電電荷量は多いほど発電量が多くなるが、上記サイズの装置では、減速静電力を減らして連続回転を実現するためには、充電電圧は-2kV以下にとどめるとよい。
このように、正帯電した電荷搬送体11と負電位の駆動電極9間で放電が発生したが、電荷搬送体11の帯電極性が、駆動電極9の電位と同じく負であれば、放電は発生しにくいと思われる。
そこで、PET(ポリエチレン・テレフタレート)シートを、テフロン(登録商標)フイルムでこすり、+1.9kVに摩擦帯電して、充電電極に張り付け、充電エレクトレット18とした。
としても、これらが異極性同士では、駆動電圧3kVから放電が発生したのに対して、これらが同極性同士では、駆動電圧が4.5kVまで放電が発生せず、不放電範囲が1.5kVも広がるので、より高電位を回収できる。
つまり、後述するように、改良された本実施例の装置では、駆動電圧が4.0kVで電荷搬送体円板14は連続回転できるのに対し、駆動電圧が2.5kVでは、まったく連続回転出来ない。故に、充電極性と駆動極性は互いに異ならせるとよい。