IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士電機株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人京都大学の特許一覧

特開2022-186575検知装置,検知方法およびプログラム
<>
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図1
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図2
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図3
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図4A
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図4B
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図5
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図6A
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図6B
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図6C
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図6D
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図6E
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図6F
  • 特開-検知装置,検知方法およびプログラム 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186575
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】検知装置,検知方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01M 99/00 20110101AFI20221208BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20221208BHJP
   G01V 1/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
G01H17/00 Z
G01V1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021176968
(22)【出願日】2021-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2021094796
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 慎治
(72)【発明者】
【氏名】矢尾 博信
(72)【発明者】
【氏名】篠田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】金 哲佑
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
2G105
【Fターム(参考)】
2G024AD34
2G024BA12
2G024BA27
2G024CA13
2G024FA01
2G024FA04
2G024FA06
2G024FA11
2G064AA05
2G064AB01
2G064AB02
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064CC41
2G064CC43
2G064DD02
2G105AA01
2G105BB01
2G105DD02
2G105EE02
2G105LL03
(57)【要約】
【課題】固有振動数の推定精度を維持しつつ,適用範囲の広い検知装置を提供する。
【解決手段】対象構造物からの計測データを取得するデータ取得部と,計測データに基づいて対象構造物の振動特性を解析して,対象構造物の健全性に関する診断指標を算出する指標算出部と,診断指標に基づいて対象構造物の健全性を診断する診断部と,健全性の診断結果を出力する出力部とを備える検知装置を提供する。検知装置を用いて,対象構造物の健全性を検知するための検知方法であって,対象構造物からの計測データを取得する段階と,計測データに基づいて対象構造物の振動特性を解析して,対象構造物の健全性に関する診断指標を算出する段階と,診断指標に基づいて対象構造物の健全性を診断する段階と,健全性の診断結果を出力する段階とを備える検知方法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象構造物からの計測データを取得するデータ取得部と,
前記計測データに基づいて前記対象構造物の振動特性を解析して,前記対象構造物の健全性に関する診断指標を算出する指標算出部と,
前記診断指標に基づいて前記対象構造物の健全性を診断する診断部と,
前記健全性の診断結果を出力する出力部と
を備える検知装置。
【請求項2】
前記出力部は,前記計測データ,前記診断指標または前記診断結果の少なくとも1つを出力する
請求項1に記載の検知装置。
【請求項3】
前記計測データ,前記診断指標または前記診断結果の少なくとも1つを記憶する記憶部を備える
請求項1または2に記載の検知装置。
【請求項4】
前記診断指標は,前記対象構造物の計測データに基づく固有振動数および前記固有振動数の統計的分布を含む
請求項1から3のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項5】
前記診断指標は,前記対象構造物の計測データに基づく固有振動数および前記固有振動数の統計的分布から同定した確率密度関数に基づく警報発令確率指標値を含む
請求項1から3のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項6】
前記指標算出部は,高速ベイズFFTによって,前記固有振動数の前記統計的分布を算出する
請求項4または5に記載の検知装置。
【請求項7】
前記データ取得部は,前記対象構造物に予め定められた振動が発生した後の自由減衰振動データを取得する
請求項1から6のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項8】
前記データ取得部は,前記対象構造物に予め定められた振動が発生していない常時微動振動データを取得する
請求項1から7のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項9】
前記出力部は,前記診断指標および前記診断指標の統計的分布を表示する
請求項1から8のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項10】
前記出力部は,前記診断指標,前記診断指標の統計的分布および前記統計的分布から同定した確率密度関数を表示する
請求項1から9のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項11】
前記対象構造物の振動特性を解析するための情報を取得する情報取得部を備える
請求項1から10のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項12】
前記データ取得部は,前記対象構造物から時系列の計測データを取得し,
前記指標算出部は,前記時系列の計測データに基づいて前記対象構造物の振動特性を解析して,前記対象構造物の健全性に関する診断指標を時系列で算出し,
前記診断部は,時系列で算出された前記診断指標に基づいて前記対象構造物の健全性を診断し,
前記出力部は,前記健全性の診断結果を時系列に出力する
請求項1から11のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項13】
前記出力部は,前記対象構造物の環境の状況を示す構造環境情報を更に表示する,
請求項1から12のいずれか一項に記載の検知装置。
【請求項14】
検知装置を用いて,対象構造物の健全性を検知するための検知方法であって,
対象構造物からの計測データを取得する段階と,
前記計測データに基づいて前記対象構造物の振動特性を解析して,前記対象構造物の健全性に関する診断指標を算出する段階と,
前記診断指標に基づいて前記対象構造物の健全性を診断する段階と,
前記健全性の診断結果を出力する段階と
を備える検知方法。
【請求項15】
請求項14に記載の検知方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,検知装置,検知方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,橋脚等の対象構造物の洗堀を検出する技術が知られている(例えば,特許文献1または2参照)。特許文献1では,対象橋脚の固有振動数を含む振動数の探索範囲を設定して,フーリエスペクトルの振幅が最大となる振動数を固有振動数とみなしている。特許文献2では,センサを構造物の天端の両端に設置して,センサにより検出された構造物の振動に基づいて地盤の振動を推定して,橋脚および地盤の振動の位相差に基づいて固有振動数を推定している。
特許文献1 特許第4698466号明細書
特許文献2 特開2017-166922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の手法では,固有振動数を高精度に特定するのは困難な場合があり,その適用範囲が限定的であった。また,特許文献2の手法では,構造物に設置するセンサの個数が増えるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の第1の態様においては,対象構造物からの計測データを取得するデータ取得部と,計測データに基づいて対象構造物の振動特性を解析して,対象構造物の健全性に関する診断指標を算出する指標算出部と,診断指標に基づいて対象構造物の健全性を診断する診断部と,健全性の診断結果を出力する出力部とを備える検知装置を提供する。
【0005】
出力部は,計測データ,診断指標または診断結果の少なくとも1つを出力してよい。
【0006】
検知装置は,計測データ,診断指標または診断結果の少なくとも1つを記憶する記憶部を備えてよい。
【0007】
診断指標は,対象構造物の計測データに基づく固有振動数および固有振動数の統計的分布を含んでよい。
【0008】
診断指標は,対象構造物の計測データに基づく固有振動数および固有振動数の統計的分布から同定した確率密度関数に基づく警報発令確率指標値を含んでよい。
【0009】
指標算出部は,高速ベイズFFTによって,固有振動数の統計的分布を算出してよい。
【0010】
データ取得部は,対象構造物に予め定められた振動が発生した後の自由減衰振動データを取得してよい。
【0011】
データ取得部は,対象構造物に予め定められた振動が発生していない常時微動振動データを取得してよい。
【0012】
出力部は,診断指標および診断指標の統計的分布を表示してよい。
【0013】
出力部は,診断指標,診断指標の統計的分布および統計的分布から同定した確率密度関数を表示してよい。
【0014】
検知装置は,対象構造物の振動特性を解析するための情報を取得する情報取得部を備えてよい。
【0015】
データ取得部は,対象構造物から時系列の計測データを取得してよい。指標算出部は,時系列の計測データに基づいて対象構造物の振動特性を解析して,対象構造物の健全性に関する診断指標を時系列で算出してよい。診断部は,時系列で算出された診断指標に基づいて対象構造物の健全性を診断してよい。出力部は,健全性の診断結果を時系列に出力してよい。
【0016】
出力部は,対象構造物の環境の状況を示す構造環境情報を更に表示してよい。
【0017】
本発明の第2の態様においては,検知装置を用いて,対象構造物の健全性を検知するための検知方法であって,対象構造物からの計測データを取得する段階と,計測データに基づいて対象構造物の振動特性を解析して,対象構造物の健全性に関する診断指標を算出する段階と,診断指標に基づいて対象構造物の健全性を診断する段階と,健全性の診断結果を出力する段階とを備える検知方法を提供する。
【0018】
本発明の第3の態様においては,本発明の第2の態様に係る検知方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供する。
【0019】
なお,上記の発明の概要は,本発明の特徴の全てを列挙したものではない。また,これらの特徴群のサブコンビネーションもまた,発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】検知装置100の構成の一例を示す。
図2】固有振動数の推定結果の統計的分布の表示例を示す。
図3】固有振動数の推定結果の統計的分布の表示例を示す。
図4A】固有振動数の推定分布の一例を示す。
図4B】固有振動数の時刻歴および固有振動数に対応したヒストグラムを示す。
図5】固有振動数の推定結果,モード外力,S/N比,および水位の時刻歴変動を示したグラフである。
図6A】検知装置100を用いた検知方法の動作フローチャートの一例を示す。
図6B図6AにおけるステップS110の推定処理の一例を示す。
図6C図6AにおけるステップS120の診断処理の一例を示す。
図6D】平常時の固有振動数推定結果の統計的分布および同定した確率密度関数の一例を示す。
図6E】増水時の固有振動数推定結果の統計的分布および同定した確率密度関数の一例を示す。
図6F】警報発令確率指標値および水位の時刻歴グラフの一例を示す。
図7】本発明の複数の態様が全体的又は部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下,発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが,以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また,実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0022】
図1は,検知装置100の構成の一例を示す。検知装置100は,データ取得部10と,情報取得部20と,指標算出部30と,診断部40と,出力部50と,記憶部60とを備える。
【0023】
データ取得部10は,対象構造物150からの計測データを取得する。本例のデータ取得部10は,対象構造物150に設置されたセンサ110から対象構造物150の計測データを取得する。対象構造物150の計測データを取得することにより,対象構造物150の振動特性を取得できる。例えば,計測データは,加速度センサから取得した加速度データである。また,計測データは,加速度データに限られず,速度データまたは変位データ等の任意のデータであってよい。
【0024】
センサ110は,対象構造物150に設置される。検知装置100は,1または複数のセンサ110を対象構造物150に設置してもよい。センサ110は,ネットワーク等を介して,計測した計測データを検知装置100へ伝送する。本例のセンサ110は,対象構造物150の天端152に取り付けられている。天端152は,対象構造物150の最も高い部分である。なお,センサ110は,対象構造物150の側面などの他の部分に設置されてもよい。
【0025】
対象構造物150は,鉄道または道路の橋梁における橋脚である。検知装置100は,対象構造物150からの計測データを解析して,対象構造物150の健全性を診断する。対象構造物150の健全性は,対象構造物150に発生する洗堀が倒壊などに至る危険域にまで達しているか否かを示す洗堀可能性であってよい。洗堀とは,対象構造物150の周囲の土が雨風または波によって削り取られることをいう。なお,本明細書において,対象構造物150の洗堀可能性について説明する場合であっても,例えば,コンクリート構造物の損傷または鉄骨の座屈などの洗堀以外の構造的健全性の評価にも適用可能である。
【0026】
情報取得部20は,対象構造物150の振動特性を解析するための情報を取得する。また,情報取得部20は,対象構造物150の健全性の診断に必要な情報を取得してもよい。例えば,情報取得部20は,指標算出部30または診断部40で使用するパラメータなどの情報を取得する。情報取得部20は,キーボードまたはマウスなどの入力手段によって入力された情報を取得してもよい。情報取得部20は,有線LANまたは無線LAN等の通信手段によって外部と通信可能であってよい。
【0027】
指標算出部30は,計測データに基づいて対象構造物150の振動特性を解析して,対象構造物150の健全性に関する診断指標を算出する。一例において,指標算出部30は,計測データに基づいて,対象構造物150の振動特性を推定する。振動特性は,対象構造物150の固有振動数,減衰定数または振動モードの少なくとも1つであってよい。例えば,指標算出部30は,後述する高速ベイズFFTによって,固有振動数の統計的分布を算出してよい。高速ベイズFFTは,ベイズ推定に基づくベイズ実動モード同定法の一例である。
【0028】
また,指標算出部30は,データ取得部10で取得した計測データ,および情報取得部20で取得された各種情報に基づいて,対象構造物150の健全性に関する診断指標を算出してよい。
【0029】
診断指標は,振動特性に基づいて,健全性を診断するための指標である。例えば,診断指標は,対象構造物150の固有振動数と,過去の統計データに基づく閾値とを比較したものであってもよい。診断指標は,振動特性の統計的分布を含んでよい。また,診断指標は,対象構造物の振動特性の統計的分布から同定した確率密度関数に基づく警報発令確率指標値を含んでよい。警報発令確率指標値については後述する。診断指標は,診断部40において,対象構造物150の健全性を診断できるものであれば,これに限定されない。
【0030】
診断部40は,診断指標に基づいて対象構造物150の健全性を診断する。例えば,診断部40は,診断指標を予め定められた診断閾値と比較して,健全性を診断する。診断部40は,健全性の診断結果を出力部50に送信する。具体的な健全性の診断方法については後述する。
【0031】
出力部50は,健全性の診断結果を出力する。出力部50は,ディスプレイ,伝搬装置,プリンタなどを含んでよい。出力部50は,データ取得部10が取得した計測データ,情報取得部20により取得された各種情報,対象構造物150の振動特性,指標算出部30により算出された診断指標,または診断部40により得られた診断結果の少なくとも1つを出力する。出力部50による出力方法は,表示,伝送または印刷などの方法であってよい。
【0032】
出力部50は,診断指標および診断指標の統計的分布を表示する。例えば,出力部50は,診断指標および診断指標の統計的分布を同時にユーザに表示する。診断指標および診断指標の統計的分布を表示することによって,不確かさに関する情報に基づいて健全性を診断できる。
【0033】
記憶部60は,データ取得部10が取得した計測データ,情報取得部20により取得された各種情報,指標算出部30が算出した診断指標または診断部40による診断結果を記憶する。本例の記憶部60は,対象構造物150の計測データ,診断指標または健全性の診断結果の少なくとも1つを記憶する。例えば,記憶部60は,ハードディスク,BD,DVD,CD-R,MO,フロッピーまたはメモリを含む。
【0034】
本例の検知装置100は,センサ110を利用して対象構造物150の洗堀を検出することにより,洗堀による対象構造物150の倒壊を未然に防止することができる。これにより,河川の増水などにより橋脚周辺の地盤が洗堀されて,対象構造物150の倒壊による災害を防ぐことができる。
【0035】
本例の検知装置100は,データ取得部10が取得した計測データに基づいて対象構造物150の振動特性を推定する。対象構造物150の振動特性の推定には,システム同定手法である確率的部分空間法またはベイズ理論に基づく手法を適用してよい。ベイズ推定においては,統計的モデルを構成するパラメータを確率分布として評価するので,推定値の不確かさに関する情報を観測値から直接的かつ定量的に推定できる。確率的部分空間法およびベイズ理論に基づく手法については後述する。
【0036】
本例の検知装置100は,橋脚に実際に衝撃を与えてその振動数を測定するような危険性を伴う衝撃振動試験を実施する必要がない。また,検知装置100は,不定期な衝撃振動試験を実施しなくてよいので,対象構造物150を常時モニタリングすることができる。
【0037】
一例において,データ取得部10は,対象構造物150に予め定められた振動が発生した後の自由減衰振動データを取得する。例えば,予め定められた振動は,対象構造物150が橋梁の場合,対象構造物150の橋に車両が通過することにより発生する振動である。検知装置100は,車両通行後の自由減衰振動データを用いることでノイズの影響を小さくした振動解析を実現できる。
【0038】
また,データ取得部10は,対象構造物150に予め定められた振動が発生していない常時微動振動データを取得してよい。例えば,データ取得部10は,対象構造物150の橋に車両が通過していない状態で常時微動振動データを取得する。検知装置100は,車両が通過していない常時微動データを用いることで健全時の振動特性を把握することができる。
【0039】
本例の検知装置100は,河川の増水時にも使用することができる。河川の増水時には洗堀の危険性が高まるが,増水時に車両通行を禁止していると,車両の通行による振動を用いた振動特性推定を用いることができなくなる。そのため,常時微動データを用いた振動特性解析を実施せざるを得ない状況では,常時微動データによる解析ではノイズなどの影響が大きく,固有振動数の推定精度が高くできない場合がある。このような場合であっても,本例の検知装置100は,推定値の不確かさを直接的に評価できる手法を適用するとともに,推定結果の統計的分布も示すことによって信頼性を向上することができる。
【0040】
したがって,検知装置100は,地盤の振動に周囲からのノイズが大きく加わる環境であっても,対象構造物150の健全性を診断することができる。よって,固有振動数の推定精度を維持しつつ,検知装置100の適用範囲を広げることができる。また,検知装置100を用いた洗堀の診断手法では,少ないセンサ数であっても健全性を診断することができる。
【0041】
図2は,固有振動数の推定結果の統計的分布の表示例を示す。縦軸は固有振動数[Hz]を示し,横軸は該当数[個]を示す。本例では,対象構造物150の固有振動数の統計的分布が表示されている。
【0042】
指標算出部30は,診断指標として,対象構造物150の計測データに基づく固有振動数および固有振動数の統計的分布を算出する。検知装置100は,固有振動数に加えて,固有振動数の統計的分布を表示することにより,固有振動数の確からしさをユーザに知らせることができる。また,指標算出部30は,診断指標として,固有振動数の推定結果の統計的分布に基づく警報発令確率指標値を算出してよい。警報発令確率指標値を算出することにより,診断指標がしきい値を下回って警報を発令する確率をユーザに知らせることができる。
【0043】
検知装置100は,例えば10分毎など一定期間の推定結果の統計的分布を表示することにより,推定値の確からしさも併せて表示することができる。一例において,検知装置100は,固有振動数の平均値および標準偏差を表示する。本例の検知装置100は,固有振動数の平均値および分散を表示している。本例の固有振動数の平均値は15.07であり,分散は0.42である。
【0044】
表1は,健全性を診断するための診断指標,カテゴリおよび判定方法の一例を示す。出力部50は,表1のような健全性を診断するために必要な情報を合わせてユーザに表示してもよい。
【表1】
【0045】
検知装置100は,健全時の固有振動数に対して評価指標を設定して,ある期間の固有振動数の推定値分布により判定することができる。健全時の固有振動数は,車両が通過していない常時微動データを用いて算出されてよい。xは,次式で示される。
x=固有振動数の推定値/健全時の固有振動数
【0046】
本例の検知装置100は,xの評価指標に応じて,カテゴリを4つに分けて,健全性を診断する。例えば,x≦0.70の場合にカテゴリA1に該当して,異常ありと判定する。異常ありの場合は,対象構造物150の補修または補強を行う。0.70<x≦0.85の場合にカテゴリA2に該当して,確認が必要であると判定する。0.85<x≦1.00の場合にカテゴリBに該当して,異常発生の可能性が低いと判定する。そして,1.00<xの場合にカテゴリSに該当して,対象構造物150が健全であると判定する。
【0047】
図3は,固有振動数の推定結果の統計的分布の表示例を示す。本例では,予め定められた評価指標に対応する位置を破線で示している。
【0048】
破線は,健全時の固有振動数が15.9Hzである場合に評価指標がx=0.85の場合を示している。表1を参照すると,破線よりも大きな固有振動数では,洗堀発生の可能性が低いカテゴリBまたはSであると判定できる。一方,破線で示された固有振動数以下の範囲では,洗堀発生の可能性が高いカテゴリA1またはA2であると判定できる。検知装置100は,推定した固有振動数とともに,固有振動数の統計的分布を表示することにより,洗堀発生の可能性を判定できる。本例のように,評価指標の範囲を示しておくことにより,推定された固有振動数に基づいて健全性を即座に診断することができる。
【0049】
図4Aは,固有振動数の推定分布の一例を示す。縦軸は固有振動数[Hz]を示し,横軸は取得したデータの年月日を示す。本例の検知装置100は,固有振動数の時系列変化を表示している。本例の固有振動数は,ベイズ推定に基づく高速ベイズFFTによるベイズ実動モード同定法を用いて推定されている。
【0050】
高速ベイズFFTによるベイズ実働モード同定法は,ベイズ理論に基づく周波数領域の微動データを用いた実稼働モード解析であるベイズ理論においては統計的モデルを構成するパラメータを確率分布として評価するため,推定値の不確かさに関する情報を観測値から直接的かつ定量的に推定することができる。推定結果を用いることで,モード応答ごとに観測誤差の影響を評価するシグナルノイズ比(S/N比)を算出することができる。
【0051】
適当な観測データの集合Dが得られたとき,それらのデータが生起する統計的モデルの支配パラメータθを推定する問題を考える。ベイズ推定においてはパラメータθについて,確率密度を尺度として推定を行う。観測データDが得られる以前の情報から事前分布と呼ばれるパラメータθの確率分布を仮定し,その確率密度関数をp(θ)と表す。観測データDから推定されたパラメータθの確率分布は事後分布と呼ばれ,次のベイズの定理に基づき,条件付き確率密度関数p(θ|D)で表される。
【数1】
ここで,右辺の条件付き確率密度関数p(D|θ)は,尤度関数と呼ばれ,パラメータθにより構成される統計的モデルにおいて観測データDが得られた際のモデルの尤もらしさを表す関数である。ベイズ推定において,観測データDは既に観測された確定的な値として解釈されるので,(数1)式の右辺の分母の項はパラメータθを推定するうえでは無視できる。
【0052】
ベイズ実稼働モード解析手法では,構造物の加速度,速度および変位の計測値に高速フーリエ変換(FFT: Fast Fourier Transform)によるPSD(Power Spectral Density)曲線を観測データDとし,振動モードに関わる各種パラメータを統計的モデルの支配パラメータθとする。長期計測における加速度時系列のFFTデータのように数多くの観測値が得られる場合,尤度関数p(D|θ)は事後分布p(θ|D)に対して支配的となり,事前分布の項は無視できることが知られている。事前分布として無情報事前分布を適用することを仮定した場合,事後分布の確率密度関数は尤度関数に比例する。すなわち,次のような比例関係が成り立つ。
【数2】
【0053】
したがって,振動計測において観測されるデータDについて,尤度関数p(D|θ)を振動モードに関するパラメータθの適当な関数として定式化することで,θの事後分布を推定することができる。事後分布p(θ|D)を最大化するようなθは最確値(MPV: Most Probable Value)と呼ばれ,無情報事前分布を仮定した(数2)式のような場合においては尤度関数p(D|θ)を最大化するθと一致する。ここで、事後分布p(θ|D)のθは、モード振動数、モード減衰およびS/N比等で構成され、尤度関数p(D|θ)を最大化するθを算出することで固有振動数が推定される。このように尤度関数を最大化するようなθの推定値を算出する点推定の手法は最尤推定法として知られ,確率的部分空間法を含む多くの振動モード同定手法がこの推定問題の一つである最小二乗法を基礎としている。振動モード同定にベイズ推定のアプローチを導入する利点の一つは,振動特性の事後分布を評価することで最確値(MPV)の推定結果の不確かさの度合いについても推定することが可能となる点である。
【0054】
次に,確率的部分空間法で振動特性を同定する方法について説明する。対象構造物150を離散化した状態方程式で表現すると次式で示される。
【数3】
【0055】
ここで,
は構造物のm点の観測値を示しており,Cは状態変数x(k)から観測値y(k)を抽出する行列であり,
となる。また,係数マトリクス,外力ベクトルおよび観測マトリクスは,それぞれ次式で示される。
【0056】
橋梁などの振動データを用いたシステム同定を行う場合,河川の流水荷重などの環境作用があるので,システムの入力である外力を観測することは困難であることが多い。したがって,入力を未知として,出力の観測値のみを用いる実稼働モード解析(Operational Modal Analysis: OMA)手法を適用する。このとき外力はシステムに固有の外乱ノイズの時系列とみなされる。定常性および線形性の過程から,この外乱ノイズは定常な白色雑音とみなせる。さらに,システムから出力を観測する際の観測ノイズも同様に表現される。以上を定式化すると,次式が得られる。
【数4】
ここで,w(k)とv(k)はそれぞれシステムノイズと観測ノイズであり,ともに白色雑音の時系列である。つまり,任意の共分散行列Rについて,次式が成立する。
【数5】
【0057】
δpqはクロネッカーデルタ,E[]は数学的平均を表す。観測ノイズv(k)についても同様の過程がなされる。(数4)式における状態変数は非定常カルマンフィルタを用いて,観測ベクトルy(t)に基づく一期先予測で次式のように与えることができる。
【数6】
【0058】
ただし,ここでの
は状態変数x(k)の非定常カルマンフィルタによる推定値である。またKk-1は非定常のカルマンゲインで,予測がなされるたびにシステムに固有な情報に基づき更新されていく。この予測値と真の値との誤差の数学的平均が最小二乗法のアプローチを用いて最小化されることで,状態変数ベクトルのベクトル空間を代数的に推定することが可能となる。
【0059】
次式により定義されるOblique Matrix Oiについて考える。
【数7】
【0060】
ただし,
はMoore-Penroseの疑似逆行列を表すものとする。またYp, Ytはそれぞれ観測値の過去および未来の情報を持つブロックハンケル行列で,それぞれ次のように定義される。
【数8】
【数9】
【0061】
またシステム行列においてはシステムの入出力データから支配パラメータを一意に定めることができるという可観測性が仮定される。「可観測」とは,過去の応答から現在の状態を記述できるということである。離散化された状態方程式の可観測行列は,次式で示される。
【数10】
【0062】
rank(Tp)のとき,システムは可観測となる。ただし,ここでは出力ベクトルy(t)の自由度をm,力学系の自由度をnとし,m×p=2nが成立するものとする。すなわち,pは2n個の状態変数とm個の観測点との関係を示しており,2n個の状態変数と,p点の時間遅れを有するm個の観測点との対応を表している。したがって2n変数の状態方程式は,m個の観測変数のp次遅れた差分形式の方程式で表現できる。
【0063】
ここでYp, Yfのjが十分大きいとき,(数10)式で定義される可観測行列Tpを用いて,次のように表される。
【数11】
【0064】
はKalman Filterによる状態変数の推定値のベクトル
の時系列である。つまり行列Oiの行空間は行列
の行空間に一致する。この行列Oiに次式のような特異値分解を行うと,次式が得られる。
【数12】
【0065】
ここでW1, W2は適当な重み行列である。これらの重み行列はともに適当な大きさの単位行列として設定できる。特異値分解では行列U,Vはユニタリ行列であり,行列Sは対角成分に,絶対値の大きな順に特異値が配置される。つまり,行列を構成する行空間および列空間それぞれに対応する基底ベクトルが,行列の各成分への寄与率の大きい順に並ぶことになる。この性質を利用することでより低いランクの行列で元の行列を効果的に近似できる。
【0066】
(数12)式の特異値分解に基づいて状態変数の推定値の時系列
およびその一期先の時系列
を算出することができ,(数4)式で表される状態空間モデルの係数行列
は,次式により同定される。
【数13】
ただし,Yiについて次式を満たす。
【数14】
【0067】
検知装置100は,固有振動数の時系列変化に基づいて,対象構造物150の健全性を診断してもよい。また,検知装置100は,健全性の診断指標の範囲を同時に表示してもよい。検知装置100は,予め定められた期間における固有振動数の平均値または標準偏差を表示してもよい。
【0068】
図4Bは,固有振動数の時刻歴および固有振動数に対応したヒストグラムを示す。縦軸は固有振動数の推定値[Hz]を示し,横軸は時間を示す。本例の固有振動数の推定値の時刻歴は,予め定められた期間の平均値を示している。本例の検知装置100は,12カ月の時刻歴変動を示しているが,これに限定されない。
【0069】
例えば,9.0Hzが健全時の固有振動数であり,カテゴリBに相当する7.65Hzが診断閾値である。本例の検知装置100は,健全時の固有振動数および診断閾値を同時に表示することにより,健全性を診断して,固有振動数の推定値の信頼性を評価することができる。
【0070】
図5は,固有振動数の推定結果,モード外力のPSD,S/N比,および水位の時刻歴変動を示したグラフである。本例の検知装置100は,24時間の時刻歴変動を示しているが,これに限定されない。洗堀検知装置100は,モード外力のPSDおよび時系列データ観測誤差について推定する。洗堀検知装置100は,これらの推定結果を用いて,モード応答ごとに観測誤差の影響を評価するシグナルノイズ比(S/N比)を算出することができる。
【0071】
図5を参照すると,水位の上昇にともなってモード外力のPSDおよびS/N比が大きくなり固有振動数の推定値のばらつきが小さくなっている。このことは,対象構造物のモード応答に対応する信号が計測された加速度時系列に顕著に表れていることを示している。つまり,着目する振動数同定結果の信頼性が高いと評価することができる。このように,検知装置100は,固有振動数の推定値のばらつき,モード外力のPSD,S/N比の大きさを用いて,推定値の信頼性を評価することができる。
【0072】
また,検知装置100は,算出した診断指標を用いてデータをフィルタリングしてもよい。例えば,検知装置100は,モード外力のPSDおよびS/N比の少なくとも1つを用いて,固有振動数をフィルタリングする。これにより,より信頼性の高いデータに基づいて,推定値の信頼性を評価することができる。
【0073】
ここで,本例のデータ取得部10は,対象構造物150から時系列の計測データを取得する。指標算出部30は,時系列の計測データに基づいて対象構造物150の振動特性を解析して,対象構造物150の健全性に関する診断指標を時系列で算出する。診断部40は,時系列で算出された診断指標に基づいて対象構造物150の健全性を診断する。そして,出力部50は,健全性の診断結果を時系列に出力している。
【0074】
このように,本例の検知装置100は,時系列の計測データに基づいて,時系列の診断指標を出力することができる。即ち,本例の検知装置100は,診断の度に外部から衝撃を与えなくとも,振動データを取得することができる。
【0075】
以上の通り,検知装置100は,増水の発生状態および車両通過の有無等にかかわらず,対象構造物150健全性を診断することができる。したがって,固有振動数の推定精度を維持しつつ,検知装置100の適用範囲を広げることができる。また,検知装置100を用いた洗堀の診断手法では,少ないセンサ数を実現できる。
【0076】
図6Aは,検知装置100を用いた検知方法の動作フローチャートの一例を示す。ステップS100において,予め定められた振動が発生したか否かを判断する。予め定められた振動が発生していない場合,センサ110からのデータを常時微動振動データとして取得する(S102)。一方,予め定められた振動が発生している場合,予め定められた振動が収まったか否かを判断し(S104),収まっている場合にセンサ110からのデータを自由減衰振動データとして取得する(S106)。
【0077】
ステップS110において,センサ110が取得したデータに基づき,対象構造物150の振動特性の推定処理を実行する。推定処理の具体例については後述する。ステップS120において,対象構造物150の健全性の診断処理を実行する。診断処理の具体例については後述する。ステップS130において診断結果を出力する。
【0078】
例えば,検知装置100は,固有振動数に加えて,評価指標x,モード外力のPSDまたはS/N比の少なくとも1つの診断指標を出力してよい。さらに,検知装置100は,対象構造物150の環境の状況を示す構造環境情報を診断指標として出力してもよい。例えば,構造環境情報は,水位または雨量等の河川の状況を示す付加的な情報であってよい。診断指標およびその統計的分布を表示することで,推定値の不確かさを直接的に評価することを可能とし,信頼性を向上することができる。
【0079】
図6Bは,図6AにおけるステップS110の推定処理の一例を示す。ステップS112において,各データから固有振動数を算出する。ステップS114において,確率的部分空間法または高速ベイズFFTで固有振動数を推定し,統計的分布を算出する。
【0080】
図6Cは,図6AにおけるステップS120の診断処理の一例を示す。ステップS122において,固有振動数の推定値と健全時の固有振動数から評価指標を算出する。ステップS124において,算出した評価指標に基づいて対象構造物150の健全性を判定する。
【0081】
(警報発令確率指標値の説明)
ここで,警報発令確率指標値を用いて,洗堀発生の可能性を判定する方法について説明する。検知装置100は,固有振動数に対して評価指標を設定して,ある期間の固有振動数の推定結果に対する警報発令確率指標値を算出する。例えば、検知装置100は,健全時の固有振動数に対して評価指標を設定して,ある期間の固有振動数の推定結果に対する警報発令確率指標値を算出する。具体的には、検知装置100は、健全(平常)時に高速ベイズFFTで求めた固有振動数の確率特性を用いて確率密度関数の導出を行い、警報発令確率指標値を算出する。なお,本例では,対象構造物150が橋脚の場合について説明するが,対象構造物150はこれに限定されない。
【0082】
まず,健全(平常)時に推定された固有振動数の統計的分布(振動数のMPVの分布)に対して確率密度関数の導出を行う。例えば安定分布の確率密度曲線のパラメータ値を最尤推定法で同定する。安定分布の特性関数E(eitZ)は次式で与えられる。検知装置100は,尤度関数p(D|θ)を最大化するθを求めることで同定する固有振動数の最確値のサンプルからE(eitZ)を算出する。
安定分布の確率密度関数は,S(α,β,γ,d;Z)と表す。
【0083】
表2は,安定分布の確率密度関数で使用するパラメータを示している。1番目の形状パラメータαは確率密度関数の裾野の厚さを制御するパラメータであり特性指数と呼ばれている。形状パラメータαが小さくなると確率密度関数の裾野が厚くなる。2番目の形状パラメータβは分布の歪度を表している。β=0の場合,分布は対称的になる。β>0の場合,確率密度関数の右の裾が長い分布になる。β<0の場合,確率密度関数の左の裾が長い分布になる。スケールパラメータγは確率密度関数の広がりを制御するパラメータであり,規模指数と呼ばれる。位置パラメータdは確率密度関数の平均値を表している。Zは確率変数を表しており,tは特性関数の引数を表している。
【表2】
【0084】
図6Dは,健全(平常)時に推定された固有振動数の統計的分布(振動数のMPVの分布)から同定された安定分布の確率密度関数を示している。
【0085】
実線は,平常時において推定された橋脚の着目振動数の確率密度関数を示す。この確率密度関数が平常時において推定された橋脚の固有振動数の分布特性であると考え,累積確率密度関数Ψ(α,β,γ,d,X)を算出したうえで,橋脚の固有振動数の推定値がある値に低下したときの「警報発令確率指標値」とする。これにより,算出した警報発令確率指標値に基づいて洗掘発生による災害の危険性の有無を判断できる。
【0086】
例えば,健全時の固有振動数が9.39Hzである場合,固有振動数の推定値が7.98Hzに低下したときの警報発令確率指標値は0.0027となる。増水時の橋脚の固有振動数推定結果の平均値がXとなる場合の警報発令確率指標値は以下のように定義することが出来る。
Ψ=Ψ(α,β,γ,d,X)
【0087】
表3は健全度指標値と警報発令確率指標値との関係を示している。
【表3】
【0088】
警報発令確率指標値のしきい値を例えば0.01と設定し,増水時などの警報発令確率指標値が下がってこの値に達した場合に,洗堀発生による災害の危険性があると判断する。このしきい値は,表3で示す健全度判定区分の判定ランクBの限界値(7.98Hz,κ=0.85)よりも大きい値に相当する。したがって,第一種過誤(健全であるにも関わらず洗掘が発生していると判断されること)となる確率が高くなり,第二種過誤(洗掘が発生しているにも関わらず健全であると判断されること)となる確率が低くなるように設定されていることを示している。
【0089】
図6Eは,増水時に推定された固有振動数の統計的分布(振動数のMPVの分布)から同定された確率密度関数曲線を示している。このように平常時と増水時の橋脚の固有振動数の分布特性は異なっているため,増水時において異なる分布特性を考慮した警報発令確率指標値を算出することも可能である。増水時の確率密度関数をSF(αF,βF,γF,dF;Z)とすると,増水時の異なる分布特性を考慮した警報発令確率指標値は以下により算出される。
【0090】
図6Fは,警報発令確率指標値および水位[m]の時刻歴の表示の一例である。本例では,警報発令確率指標値のしきい値(例えば,0.01)を示している。この例では推定された固有振動数から得られた警報発令確率指標値がしきい値を下回ることはないので,対象橋脚が健全であるという結果が得られている。本例の検知装置100は,警報発令確率指標値をグラフ化することにより,警報発令の可能性を可視化することができる。
【0091】
なお、上述した実施形態では、高速ベイズFFTによって求めた固有振動数の確率特性を用いて警報発令確率指標値を算出する場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、高速ベイズFFT以外の方法で求めた固有振動数の確率特性を用いて警報発令確率指標値を算出してもよい。例えば、高速ベイズFFT以外に,確率的部分空間法(SSI: Stochastic Subspace Identification),多次元ARモデル(VAR),FDD (Frequency Domain Decomposition), ERA (Eigensystem Realization Algorithm),あるいは普通のFFT等で算出した固有振動数の確率特性を用いて確率密度関数の導出を行い、警報発令確率指標値を算出してもよい。例えば、検知装置100は,確率的部分空間法にて警報発令確率指標値を算出する場合、(数13)式のAとCとを用いてモードに関するパラメータ(例えば、モード形状および極(極から振動数と減衰定数を計算してよい。))を計算する。
【0092】
図7は,本発明の複数の態様が全体的又は部分的に具現化されてよいコンピュータ2200の例を示す。コンピュータ2200にインストールされたプログラムは,コンピュータ2200に,本発明の実施形態に係る装置に関連付けられる操作又は当該装置の1又は複数のセクションとして機能させることができ,又は当該操作又は当該1又は複数のセクションを実行させることができ,及び/又はコンピュータ2200に,本発明の実施形態に係るプロセス又は当該プロセスの段階を実行させることができる。そのようなプログラムは,コンピュータ2200に,本明細書に記載のフローチャート及びブロック図のブロックのうちのいくつか又はすべてに関連付けられた特定の操作を実行させるべく,CPU2212によって実行されてよい。
【0093】
本実施形態によるコンピュータ2200は,CPU2212,RAM2214,グラフィックコントローラ2216,及びディスプレイデバイス2218を含み,それらはホストコントローラ2210によって相互に接続されている。コンピュータ2200はまた,通信インタフェース2222,ハードディスクドライブ2224,DVD-ROMドライブ2226,及びICカードドライブのような入/出力ユニットを含み,それらは入/出力コントローラ2220を介してホストコントローラ2210に接続されている。コンピュータはまた,ROM2230及びキーボード2242のようなレガシの入/出力ユニットを含み,それらは入/出力チップ2240を介して入/出力コントローラ2220に接続されている。
【0094】
CPU2212は,ROM2230及びRAM2214内に格納されたプログラムに従い動作し,それにより各ユニットを制御する。グラフィックコントローラ2216は,RAM2214内に提供されるフレームバッファ等又はそれ自体の中にCPU2212によって生成されたイメージデータを取得し,イメージデータがディスプレイデバイス2218上に表示されるようにする。
【0095】
通信インタフェース2222は,ネットワークを介して他の電子デバイスと通信する。ハードディスクドライブ2224は,コンピュータ2200内のCPU2212によって使用されるプログラム及びデータを格納する。DVD-ROMドライブ2226は,プログラム又はデータをDVD-ROM2201から読み取り,ハードディスクドライブ2224にRAM2214を介してプログラム又はデータを提供する。ICカードドライブは,プログラム及びデータをICカードから読み取り,及び/又はプログラム及びデータをICカードに書き込む。
【0096】
ROM2230はその中に,アクティブ化時にコンピュータ2200によって実行されるブートプログラム等,及び/又はコンピュータ2200のハードウェアに依存するプログラムを格納する。入/出力チップ2240はまた,様々な入/出力ユニットをパラレルポート,シリアルポート,キーボードポート,マウスポート等を介して,入/出力コントローラ2220に接続してよい。
【0097】
プログラムが,DVD-ROM2201又はICカードのようなコンピュータ可読媒体によって提供される。プログラムは,コンピュータ可読媒体から読み取られ,コンピュータ可読媒体の例でもあるハードディスクドライブ2224,RAM2214,又はROM2230にインストールされ,CPU2212によって実行される。これらのプログラム内に記述される情報処理は,コンピュータ2200に読み取られ,プログラムと,上記様々なタイプのハードウェアリソースとの間の連携をもたらす。装置又は方法が,コンピュータ2200の使用に従い情報の操作又は処理を実現することによって構成されてよい。
【0098】
例えば,通信がコンピュータ2200及び外部デバイス間で実行される場合,CPU2212は,RAM2214にロードされた通信プログラムを実行し,通信プログラムに記述された処理に基づいて,通信インタフェース2222に対し,通信処理を命令してよい。通信インタフェース2222は,CPU2212の制御下,RAM2214,ハードディスクドライブ2224,DVD-ROM2201,又はICカードのような記録媒体内に提供される送信バッファ処理領域に格納された送信データを読み取り,読み取られた送信データをネットワークに送信し,又はネットワークから受信された受信データを記録媒体上に提供される受信バッファ処理領域等に書き込む。
【0099】
また,CPU2212は,ハードディスクドライブ2224,DVD-ROMドライブ2226(DVD-ROM2201),ICカード等のような外部記録媒体に格納されたファイル又はデータベースの全部又は必要な部分がRAM2214に読み取られるようにし,RAM2214上のデータに対し様々なタイプの処理を実行してよい。CPU2212は次に,処理されたデータを外部記録媒体にライトバックする。
【0100】
様々なタイプのプログラム,データ,テーブル,及びデータベースのような様々なタイプの情報が記録媒体に格納され,情報処理を受けてよい。CPU2212は,RAM2214から読み取られたデータに対し,本開示の随所に記載され,プログラムの命令シーケンスによって指定される様々なタイプの操作,情報処理,条件判断,条件分岐,無条件分岐,情報の検索/置換等を含む,様々なタイプの処理を実行してよく,結果をRAM2214に対しライトバックする。また,CPU2212は,記録媒体内のファイル,データベース等における情報を検索してよい。例えば,各々が第2の属性の属性値に関連付けられた第1の属性の属性値を有する複数のエントリが記録媒体内に格納される場合,CPU2212は,第1の属性の属性値が指定される,条件に一致するエントリを当該複数のエントリの中から検索し,当該エントリ内に格納された第2の属性の属性値を読み取り,それにより予め定められた条件を満たす第1の属性に関連付けられた第2の属性の属性値を取得してよい。
【0101】
上で説明したプログラム又はソフトウェアモジュールは,コンピュータ2200上又はコンピュータ2200近傍のコンピュータ可読媒体に格納されてよい。また,専用通信ネットワーク又はインターネットに接続されたサーバーシステム内に提供されるハードディスク又はRAMのような記録媒体が,コンピュータ可読媒体として使用可能であり,それによりプログラムを,ネットワークを介してコンピュータ2200に提供する。
【0102】
以上,本発明を実施の形態を用いて説明したが,本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に,多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが,特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0103】
特許請求の範囲,明細書,および図面中において示した装置,システム,プログラム,および方法における動作,手順,ステップ,および段階等の各処理の実行順序は,特段「より前に」,「先立って」等と明示しておらず,また,前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り,任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲,明細書,および図面中の動作フローに関して,便宜上「まず,」,「次に,」等を用いて説明したとしても,この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0104】
10・・・データ取得部,20・・・情報取得部,30・・・指標算出部,40・・・診断部,50・・・出力部,60・・・記憶部,100・・・検知装置,110・・・センサ,150・・・対象構造物,152・・・天端,2200・・・コンピュータ,2201・・・DVD-ROM,2210・・・ホストコントローラ,2212・・・CPU,2214・・・RAM,2216・・・グラフィックコントローラ,2218・・・ディスプレイデバイス,2220・・・入/出力コントローラ,2222・・・通信インタフェース,2224・・・ハードディスクドライブ,2226・・・DVD-ROMドライブ,2230・・・ROM,2240・・・入/出力チップ,2242・・・キーボード
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7