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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186586
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】二輪自動車用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 9/09 20060101AFI20221208BHJP
   B60C 9/08 20060101ALI20221208BHJP
   B60C 15/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B60C9/09
B60C9/08 B
B60C15/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022022192
(22)【出願日】2022-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021094566
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】松浦 幸大
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB06
3D131BC13
3D131CA03
3D131DA04
3D131DA09
3D131DA12
3D131DA17
(57)【要約】
【課題】優れたハンドリング性能が実現された二輪自動車用タイヤの提供。
【解決手段】この二輪自動車用タイヤ2は、一対のビード10及びこれらのビード10に架け渡されたカーカス12を備える。前記カーカス12は、並列された複数の第一コード36を備える第一プライ12aと、前記第一プライ12aの外側に積層され並列された複数の第二コード40を備える第二プライ12bとを備えている。前記第一コード36は赤道面CLに対して傾斜しており、この第一コード36が赤道面CLに対してなす角度θ1は実質的に90°である。前記第二コード40は赤道面CLに対して傾斜しており、この第二コード40が赤道面CLに対してなす角度θ2は65°以上85°以下である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード及びこれらのビードに架け渡されたカーカスを備えており、
前記カーカスが、並列された複数の第一コードを備える第一プライと、前記第一プライの外側に積層され並列された複数の第二コードを備える第二プライとを備えており、
前記第一コードが赤道面に対して傾斜しており、この第一コードが赤道面に対してなす角度θ1が実質的に90°であり、
前記第二コードが赤道面に対して傾斜しており、この第二コードが赤道面に対してなす角度θ2が65°以上85°以下である、二輪自動車用タイヤ。
【請求項2】
前記角度θ2が70°以上80°以下である、請求項1に記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項3】
前記第二プライが前記ビードの周りで折り返され、これにより折返し部が形成されている、請求項1又は2に記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項4】
前記第一プライが前記ビードの周りで折り返され、これにより折返し部が形成されている、請求項3に記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項5】
路面と接触するトレッド面を有するトレッドをさらに備え、
半径方向において、前記第一プライの折返し部の外側端及び前記第二プライの折返し部の外側端が、いずれも前記トレッド面の端よりも内側に位置している、請求項4に記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項6】
半径方向において、前記第二プライの折返し部の外側端が、前記第一プライの折返し部の外側端より外側に位置している、請求項4又は5に記載の二輪自動車用タイヤ。
【請求項7】
半径方向において、前記第一プライの折返し部の高さのこのタイヤの断面高さに対する比が0.10以上0.35以下であり、前記第二プライの折返し部の高さのこのタイヤの断面高さに対する比が0.15以上0.40以下である、請求項4から6のいずれかに記載の二輪自動車用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、二輪自動車用タイヤを開示する。
【背景技術】
【0002】
二輪自動車が旋回するときには、十分なキャンバースラストを得るために、ライダーは二輪自動車を傾斜させる。二輪自動車用のタイヤには、この傾斜状態において安定して走向できる、優れた旋回安定性が求められる。二輪自動車が直進走行するときには、二輪自動車はほぼ直立している。二輪自動車用には、直進安定性も求められる。これらが実現され、操縦安定性が向上されたタイヤについての検討が、特開2008-302871公報に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-302871公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二輪自動車の高性能化に伴い、タイヤには、直進走行と旋回走行との間の移行を安定してスムーズに行うことができる、ハンドリング性能の向上が求められている。
【0005】
本発明者の意図するところは、優れたハンドリング性能が実現された二輪自動車用タイヤの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
好ましい二輪自動車用タイヤは、一対のビード及びこれらのビードに架け渡されたカーカスを備える。前記カーカスは、並列された複数の第一コードを備える第一プライと、前記第一プライの外側に積層され並列された複数の第二コードを備える第二プライとを備えている。前記第一コードは赤道面に対して傾斜しており、この第一コードが赤道面に対してなす角度θ1は実質的に90°である。前記第二コードは赤道面に対して傾斜しており、この第二コードが赤道面に対してなす角度θ2は65°以上85°以下である。
【発明の効果】
【0007】
この二輪自動車用タイヤでは、カーカスにおいて、第一プライの第一コードが赤道面に対してなす角度が実質的90°であり、第二プライの第一コードが赤道面に対してなす角度が65°以上85°以下である。この第一プライと第二プライとの組み合わせは、良好なハンドリング性能に効果的に寄与する。このタイヤでは、優れたハンドリング性能が実現されている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、一実施形態に係る空気入りタイヤの一部が示された断面図である。
図2図2は、図1のタイヤの一部が示された切り欠き断面図である。
図3図3は、図1のタイヤのカーカスが拡大されて示された、断面斜視図である。
図4図4は、カーカスの第一プライを形成するためのゴムシートが示された、断面図である。
図5図5(A)、(B)及び(C)は、タイヤの縦バネ定数の評価結果が示されたグラフである。
図6図6(A)、(B)及び(C)は、タイヤの撓み量の評価結果が示されたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0010】
図1には、空気入りタイヤ2が示されている。図1において、上下方向がタイヤ2の半径方向であり、左右方向がタイヤ2の軸方向であり、紙面との垂直方向がタイヤ2の周方向である。図1において、一点鎖線CLはタイヤ2の赤道面を表わす。このタイヤ2の形状は、トレッドパターンを除き、赤道面CLに対して対称である。
【0011】
このタイヤ2は、トレッド4、一対のサイドウォール6、一対のウイング8、一対のビード10、カーカス12、バンド14、インナーライナー16及び一対のチェーファー18を備えている。このタイヤ2は、チューブレスタイプである。このタイヤ2は、二輪自動車用である。このタイヤ2は、二輪自動車の前輪に装着される。
【0012】
図2は、図1のタイヤ2の一部が示された切り欠き断面図である。図2では、トレッド4の一部が剥がされ、カーカス12及びバンド14が露出した状態が示されている。後述するとおり、カーカス12及びバンド14は、それぞれコードを含む。図2では、これらのコードが露出している。
【0013】
トレッド4は、半径方向外向きに凸な形状を呈している。路面と接触しうるトレッド4の外面は、トレッド面20と称される。図2で示されるように、トレッド面20には溝22が刻まれている。この溝22により、トレッドパターンが形成されている。このタイヤ2が、トレッド面20に溝22が刻まれていないスリックタイヤであってもよい。トレッド4は、耐摩耗性、耐熱性及びグリップ性に優れた架橋ゴムからなる。
【0014】
それぞれのサイドウォール6は、トレッド4の端の近辺から半径方向略内向きに延びている。サイドウォール6は、耐カット性及び耐候性に優れた架橋ゴムからなる。サイドウォール6は、カーカス12の損傷を防止する。
【0015】
それぞれのウイング8は、トレッド4とサイドウォール6との間に位置している。ウイング8は、トレッド4及びサイドウォール6のそれぞれと接合している。ウイング8は、接着性に優れた架橋ゴムからなる。
【0016】
それぞれのビード10は、サイドウォール6よりも半径方向内側に位置している。ビード10は、コア24と、エイペックス26とを備えている。コア24はリング状であり、巻回された非伸縮性ワイヤーを含む。ワイヤーの典型的な材質は、スチールである。エイペックス26は、コア24から半径方向外向きに延びている。エイペックス26は、半径方向外向きに先細りである。エイペックス26は、高硬度な架橋ゴムからなる。
【0017】
図1及び2で示されるように、カーカス12は、第一プライ12a及び第二プライ12bを備えている。トレッド4の内側において、第二プライ12bは、第一プライ12aの外側に積層されている。図1で示されるように、第一プライ12a及び第二プライ12bのそれぞれは、両側のビード10の間に架け渡されている。第一プライ12a及び第二プライ12bは、トレッド4及びサイドウォール6に沿って延びている。
【0018】
図1に示されるように、第一プライ12aは、コア24の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、第一プライ12aには、主部28と折返し部30とが形成されている。第二プライ12bは、コア24の周りにて、軸方向内側から外側に向かって折り返されている。この折り返しにより、第二プライ12bには、主部32と折返し部34とが形成されている。第二プライ12bの主部32は、第一プライ12aの主部28の外側に積層されている。第二プライ12bは、コア24の周りにて折り返されていなくてもよい。カーカス12が、3枚以上のプライから構成されてもよい。
【0019】
図1及び2で示されるように、バンド14は、トレッド4の半径方向内側に位置している。バンド14は、カーカス12の半径方向外側に積層されている。バンド14は、コードとトッピングゴムとからなる。コードは、螺旋状に巻かれている。このバンド14は、いわゆるジョイントレス構造を有する。コードは、実質的に周方向に延びている。周方向に対するコードの角度は、5°以下、さらには2°以下である。コードは、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維が例示される。
【0020】
インナーライナー16は、カーカス12の内側に位置している。インナーライナー16は、カーカス12の内面に接合されている。インナーライナー16は、空気遮蔽性に優れた架橋ゴムからなる。インナーライナー16の典型的な基材ゴムは、ブチルゴム又はハロゲン化ブチルゴムである。インナーライナー16は、タイヤ2の内圧を保持する。
【0021】
それぞれのチェーファー18は、ビード10の近傍に位置している。タイヤ2がリムに組み込まれると、このチェーファー18がリムと当接する。この当接により、ビード10の近傍が保護される。この実施形態では、チェーファー18は、布とこの布に含浸したゴムとからなる。チェーファー18が、架橋ゴムからなっていてもよい。
【0022】
図3には、第一プライ12a及び第二プライ12bの一部が、拡大されて示されている。この図では、分かり易いように、第一プライ12aと第二プライ12bとは、間隔を空けて示されている。実際には図1で示されるように、第一プライ12aと第二プライ12bとは、接している。図3において、矢印xはタイヤ2の周方向を表し、矢印yはタイヤ2の軸方向を表し、矢印zはタイヤ2の半径方向を表す。
【0023】
図3で示されるように、第一プライ12aは、並列された多数の第一コード36と、トッピングゴム38とからなる。第一コード36は、隣接する第一コード36と離間している。第一コード36とこれに隣接する第一コード36との間には、トッピングゴム38が存在している。それぞれの第一コード36は、赤道面CLに対して傾斜している。図3において、両矢印θ1は、第一コード36が赤道面CLに対してなす角度を表す。角度θ1は、実質的に90°である。詳細には、角度θ1は、87°以上90°以下である。第一コード36は、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維及びポリケトン繊維が例示される。
【0024】
なお、角度θ1が90゜からずれている場合において、角度θ1は、赤道面CLと第一コード36とがなす角のうち、鋭角となる角で計測される。このとき、第一コード36が、タイヤ2の周方向の一方に向うにつれて、軸方向のいずれの外側に向うように傾いていても、角度θ1の値は正の値とされる。換言すれば、角度θ1は、赤道面CLと第一コード36とがなす角度の絶対値である。
【0025】
図3で示されるように、第二プライ12bは、並列された多数の第二コード40と、トッピングゴム42とからなる。第二コード40は、隣接する第二コード40と離間している。第二コード40とこれに隣接する第二コード40との間には、トッピングゴム42が存在している。それぞれの第二コード40は、赤道面CLに対して傾斜している。図3において、両矢印θ2は、第二コード40が赤道面CLに対してなす角度を表す。角度θ2は、65°以上85°以下である。第二コード40は、有機繊維からなる。好ましい有機繊維として、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維及びポリケトン繊維が例示される。
【0026】
なお、角度θ2は、赤道面CLと第二コード40とがなす角のうち、鋭角となる角で計測される。第二コード40が、タイヤ2の周方向の一方に向うにつれて、軸方向のいずれの外側に向うように傾いていても、角度θ2の値は正の値とされる。換言すれば、角度θ2は、赤道面CLと第二コード40とがなす角度の絶対値である。
【0027】
このタイヤ2の製造では、第一プライ12aのための長尺の第一ゴムシート44及び第二プライ12bのための長尺の第二ゴムシートが準備される。図4は、第一ゴムシート44が示された断面図である。第一ゴムシート44は、並列する複数の第一コード36と、トッピングゴム38とを含んでいる。それぞれの第一コード36は、概してトッピングゴム38に覆われている。第一コード36は、第一ゴムシート44の長手方向に対して実質的に90°傾斜している。図4には、第一コード36が延びる方向に垂直な断面が示されている。換言すれば、図4は、第一ゴムシート44の長手方向に沿った断面図である。
【0028】
図4において、両矢印T1は第一ゴムシート44の厚さを表し、両矢印P1は第一コード36のピッチを表す。厚さT1は、0.5mm以上2.0mm以下が好ましい。ピッチP1は、0.8mm以上2.0mm以下が好ましい。
【0029】
図示されないが、第二ゴムシートは、並列する複数の第二コード40と、トッピングゴム42とを含んでいる。それぞれの第二コード40は、概してトッピングゴム42に覆われている。第二コード40は、第二ゴムシートの長手方向に対して65°から85°傾斜している。
【0030】
第二ゴムシートの厚さT2は、0.5mm以上2.0mm以下が好ましい。第二コード40のピッチP2は、0.8mm以上2.0mm以下が好ましい。
【0031】
このタイヤ2の製造では、第一ゴムシート44が、成形装置のドラムに巻かれる。第一ゴムシート44の長手方向が、ドラムの周方向となるように、第一ゴムシート44がドラムの外周に巻かれる。第一コード36が延びる方向がドラムの周方向となす角度は、実質的に90°となる。この第一ゴムシート44の外側に、第二ゴムシートが巻かれる。第二ゴムシートの長手方向がドラムの周方向となるように、第二ゴムシートが第一ゴムシート44の外側に巻かれる。第二コード40が延びる方向がドラムの周方向となす角度は、65°以上85°以下となる。
【0032】
第一ゴムシート44をドラムに巻く前に、タイヤ2の他の構成要素を形成するためのシートが、ドラムに巻かれていてもよい。例えば、第一ゴムシート44をドラムに巻く前に、インナーライナー用のシートがドラムに巻かれていてもよい。この場合第一ゴムシート44は、インナーライナー用のシートの外側に巻かれる。
【0033】
第一ゴムシート44及び第二ゴムシートが、複数の他のゴム部材とアッセンブリーされて、ローカバー(未加硫タイヤ)が得られる。このローカバーが、モールドに投入される。ローカバーは、モールド内で加圧される。この加圧により、ローカバーは変形する。この変形は、シェーピングと称される。ローカバーは、モールド内でさらに加圧され、かつ加熱される。加圧及び加熱により、ローカバーのゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こし、タイヤ2が得られる。第一ゴムシート44から、第一プライ12aが形成される。第二ゴムシートから、第二プライ12bが形成される。
【0034】
シェーピングにより、第一コード36及び第二コード40は伸張する。十分な伸張が達成されるとの観点から、第一コード36は、有機繊維の撚り線が好ましい。2本又は3本のヤーンが撚られた第一コード36が好ましい。同様の観点から、第二コード40は、有機繊維の撚り線が好ましい。2本又は3本のヤーンが撚られた第二コード40が好ましい。それぞれのコードにおいて、各ヤーンの繊度は、500dtex以上1000dtex以下が好ましい。
【0035】
以下、本実施形態の作用効果が説明される。
【0036】
この二輪輪自動車用タイヤで2では、カーカス12は、第一プライ12aと第一プライ12aの外側に積層された第二プライ12bとを備える。第一プライ12aでは、第一コード36が赤道面CLとなす角度θ1は、実質的に90°である。角度θ1を90°とすることで、第一プライ12aに負荷される捻り力を小さくでき、第一プライ12aと第二プライ12bとの間の剪断応力を小さくできる。また、角度θ1が90°の第一コード36では、製造時の加硫工程においてコード角度が変化し難い。第一コード36間の適切な間隔が維持される。さらにこのタイヤ2では、第二プライ12bの第二コード40が赤道面CLとなす角度θ2は、65°以上85°以下である。第一プライ12aの外側にこの第二プライ12bを積層することで、優れたタガ効果が得られる。これらにより、このタイヤ2では、縦バネ定数を抑えつつ、適度な撓みが実現される。これらは、ハンドリング性能を効果的に向上させる。このタイヤ2では、優れたハンドリング性能が実現されている。
【0037】
小さな縦バネ定数及び適度な撓みは、旋回性能に効果的に寄与する。このタイヤ2では、優れた旋回性能が実現されている。
【0038】
このタイヤ2では、第二プライ12bは、トレッド4の内側において、第一プライ12aよりも外側に位置する。第二プライ12bは、第一プライ12aよりトレッド面20に近い。第二プライ12bにおいて、第二コード40の赤道面CLとなす角度θ2は、65°以上85°以下である。このタイヤ2では、第二コード40は、タイヤ2の進行方向に向うにつれて、軸方向の一方の外側(進行方向に対して右側又は左側)に向うように、傾斜している。トレッド面20に近い第二コード40が傾斜していることから、この第二コード40は、第二コード40の傾斜する方向への旋回を容易にする。さらに、第一コード36は第二コード40よりもトレッド面20から離れており、かつ角度θ1は実質的に90°である。この第一コード36は、第二コード40の傾斜する方向への旋回性の妨げとなりにくい。このタイヤ2では、第二コード40が傾斜する方向への旋回性能がさらに向上している。例えば、右方向に曲がるコーナーが多いサーキットコースを走行する場合に、第二コード40が右側に傾斜した第二プライ12bを採用することで、より短いラップでコースを周回することができる。
【0039】
優れたハンドリング性能及び旋回性能を実現するとの観点から、角度θ2は、70°以上がより好ましく、72°以上がさらに好ましい。この観点から、角度θ2は、80°以下がより好ましく、78°以下がさらに好ましい。
【0040】
図示されないが、角度θ3は、第一コード36と第二コード40とがなす角度を表す。優れたハンドリング性能及び旋回性能を実現するとの観点から、角度θ3は5°以上が好ましく、10°以上がより好ましく、12°以上がさらに好ましい。この観点から角度θ3は、25°以下が好ましく、20°以下がより好ましく、18°以下がさらに好ましい。
【0041】
なお、角度θ3は、第一コード36と第二コード40とがなす角のうち、鋭角となる角で計測される。第二コード40が、タイヤ2の周方向の一方に向うにつれて、軸方向のいずれの外側に向うように傾いていても、角度θ3の値は正の値とされる。換言すれば、角度θ3は、第一コード36と第二コード40とがなす角度の絶対値である。
【0042】
前述のとおり、第二プライ12bは、ビード10の周りで折り返されているのが好ましい。第二プライ12bの折返し部34は、このタイヤ2のサイド部の適正な剛性に寄与する。また、第二プライ12bの主部32と折返し部34とが重なった位置においては、主部32での第二コード40の傾斜方向と、折返し部34での第二コード40の傾斜方向とは逆になっている。傾斜方向が逆である第二コード40が重なるために、多方向からの力に対して、適切な剛性が実現されている。これは、傾斜角度θ1及びθ2を上述の範囲とすることと併せて、優れたハンドリング性能及び旋回性の実現に寄与している。
【0043】
前述のとおり、第一プライ12aは、ビード10の周りで折り返されているのが好ましい。第一プライ12aの折返し部30は、このタイヤ2のサイド部の適正な剛性に寄与する。これは、傾斜角度θ1及びθ2を上述の範囲とすることと併せて、優れたハンドリング性能及び旋回性の実現に寄与している。
【0044】
前述のとおり、第二プライ12bの主部32と折返し部34とが重なった部分において、傾斜方向が逆である第二コード40同士が重なっている。第二コード40の傾斜角度θ2は65°以上85°以下であるため、傾斜方向が逆である第二コード40同士がなす角度θ4は、10°以上50°以下である。優れたハンドリング性能及び旋回性能を実現するとの観点から、角度θ4と角度θ3との差(θ4-θ3)は、5°以上が好ましく、10°以上がより好ましく、12°以上がさらに好ましい。この観点から、差(θ4-θ3)は、25°以下が好ましく、20°以下がより好ましく、18°以下がさらに好ましい。
【0045】
図1で示されるように、半径方向において、第一プライ12aの折返し部30の外側端及び第二プライ12bの折返し部34の外側端は、いずれもトレッド面20の端よりも内側に位置するのが好ましい。このようにすることで、第一プライ12aの折返し部30及び第二プライ12bの折返し部34は、いずれも上記第二コード40が傾斜する方向への旋回性の妨げとなりにくい。このタイヤ2では、第二コード40が傾斜する方向への旋回性能がさらに向上している。このタイヤ2では、サイド部の適切な剛性を実現しつつ、優れた旋回性が実現されている。
【0046】
図1において、両矢印D1は、トレッド面20の端と第一プライ12aの折返し部30の外側端との半径方向距離を表す。距離D1は5mm以上が好ましい。距離D1を5mm以上とすることで、この第一プライ12aの折返し部30は、旋回性の妨げとなりにくい。この観点から、距離D1は8mm以上がより好ましく、10mm以上がさらに好ましい。距離D1は25mm以下が好ましい。距離D1を25mm以下とすることで、この第一プライ12aの折返し部30はサイド部の適切な剛性に寄与する。この観点から、距離D1は22mm以下がより好ましく、20mm以下がさらに好ましい。
【0047】
図1において、両矢印D2は、トレッド面20の端と第二プライ12bの折返し部34の外側端との半径方向距離を表す。距離D2は1mm以上が好ましい。距離D2を1mm以上とすることで、この第二プライ12bの折返し部34は、旋回性の妨げとなりにくい。この観点から、距離D2は3mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。距離D2は15mm以下が好ましい。距離D2を15mm以下とすることで、この第二プライ12bの折返し部34はサイド部の適切な剛性に寄与する。この観点から、距離D2は12mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。
【0048】
図1で示されるように、半径方向において、第二プライ12bの折返し部34の外側端は、第一プライ12aの折返し部30の外側端よりも外側に位置しているのが好ましい。第二プライ12bの折返し部34は第一プライ12aの折返し部30よりタイヤ2の内側に位置するので、第二プライ12bの折返し部34を半径方向外側方向に長く延ばしても、旋回性の妨げになりにくい。一方、第二プライ12bの折返し部34を半径方向外側方向に長く延ばすことで、第二プライ12bの主部32と折返し部34との重なり部分の幅を長くすることができる。傾斜方向が逆である第二コード40の重なり部分が長くなり、多方向からの力に対して、適切な剛性がより効果的に実現できる。
【0049】
図1において、両矢印Lは、第一プライ12aの折返し部30の外側端と第二プライ12bの折返し部34の外側端との半径方向距離を表す。良好な旋回性及び適切な剛性を実現するとの観点から、距離Lは1mm以上が好ましく、3mm以上がより好ましく、5mm以上がさらに好ましい。この観点から、距離Lは15mm以下が好ましく、12mm以下がより好ましく、10mm以下がさらに好ましい。
【0050】
図1において、直線BBLはこのタイヤ2のビードベースラインを表す。両矢印Hは、このタイヤの断面高さを表す。断面高さHは、赤道においてビードベースラインBBLから計測した、このタイヤの半径方向高さである。両矢印HP1は、ビードベースラインBBLから計測した第一プライ12aの折返し部30の半径方向高さを表す。両矢印HP2は、ビードベースラインBBLから計測した第二プライ12bの折返し部34の半径方向高さを表す。
【0051】
高さHP1の、断面高さHに対する比(HP1/H)は、0.10以上が好ましい。比(HP1/H)を0.10以上とすることで、この第一プライ12aの折返し部30はサイド部の適切な剛性に寄与する。この観点から、比(HP1/H)は、0.15以上がより好ましく、0.20以上がさらに好ましい。比(HP1/H)は、0.35以下が好ましい。比(HP1/H)を0.35以下とすることで、この第一プライ12aの折返し部30は、旋回性の妨げとなりにくい。この観点から、比(HP1/H)は0.30以下がより好ましく、0.25以下がさらに好ましい。
【0052】
高さHP2の、断面高さHに対する比(HP2/H)は、0.15以上が好ましい。比(HP2/H)を0.15以上とすることで、この第二プライ12bの折返し部34はサイド部の適切な剛性に寄与する。この観点から、比(HP2/H)は、0.20以上がより好ましく、0.25以上がさらに好ましい。比(HP2/H)は、0.40以下が好ましい。比(HP2/H)を0.40以下とすることで、この第二プライ12bの折返し部34は、旋回性の妨げとなりにくい。この観点から、比(HP2/H)は0.35以下がより好ましく、0.30以下がさらに好ましい。
【0053】
タイヤ2の各部材の寸法及び角度は、タイヤ2が正規リムに組み込まれ、正規内圧となるようにタイヤ2に空気が充填された状態で測定される。測定時には、タイヤ2には荷重がかけられない。本明細書において正規リムとは、タイヤ2が依拠する規格において定められたリムを意味する。JATMA規格における「標準リム」、TRA規格における「Design Rim」、及びETRTO規格における「Measuring Rim」は、正規リムである。本明細書において正規内圧とは、タイヤ2が依拠する規格において定められた内圧を意味する。JATMA規格における「最高空気圧」、TRA規格における「TIRE LOAD LIMITSAT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に掲載された「最大値」、及びETRTO規格における「INFLATION PRESSURE」は、正規内圧である。
【実施例0054】
以下、実施例に係る二輪自動車用タイヤの効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本明細書に開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0055】
[実施例1]
図1に示された構造を備えた、実施例1の二輪自動車用タイヤを得た。このタイヤのサイズは、120/70R17とされた。このタイヤの角度θ1及びθ2が表1に示されている。
【0056】
[比較例1-5、実施例2-5]
角度θ1及びθ2を表1及び2のとおりとした他は実施例1と同様にして、比較例1-5及び実施例2-5のタイヤを得た。
【0057】
[縦バネ定数測定]
実施例1及び比較例1-3のタイヤについて、下記の条件にて縦バネ定数を測定した。
使用リムのサイズ:MT3.50×17
内圧:230kPa
荷重T:0.54kN、1.1kN、1.6kN
キャンパー角Ca:0~50°
キャンパー角Caを0°から50°まで変化させたときの縦バネ定数の測定結果が、図5に示されている。図5(A)が荷重Tが0.54kNのときの結果であり、図5(B)が荷重Tが1.1kNのときの結果であり、図5(C)が荷重Tが1.6kNのときの結果である。また、荷重Tが0.54kN、キャンパー角Caが20°のときの結果が、比較例1を100とした指数で、表1に示されている。縦バネ定数が小さいほど、ハンドリング性能及び旋回性能に優れる。縦バネ定数が小さいほど、好ましい。なお、図5(A)、図5(B)及び図5(C)の、縦軸のスケールは同じではない。従って、例えば図5(a)と図5(b)とは比較できない。これらは、それぞれのグラフ内において、実施例1及び比較例1-3を比較するためのものである。
【0058】
[撓み量測定]
実施例1及び比較例1-3のタイヤについて、下記の条件にて撓み量を測定した。撓み量は、荷重をかけないときのタイヤの断面高さと、荷重をかけたときのタイヤの断面高さとの差として計算された。
使用リムのサイズ:MT3.50×17
内圧:230kPa
荷重T:0.54kN、1.1kN、1.6kN
キャンパー角Ca:0~50°
キャンパー角Caを0°から50°まで変化させたときの撓み量の測定結果が、図6に示されている。図6(A)が荷重Tが0.54kNのときの結果であり、図6(B)が荷重Tが1.1kNのときの結果であり、図6(C)が荷重Tが1.6kNのときの結果である。また、荷重Tが0.54kN、キャンパー角Caが20°のときの結果が、比較例1を100とした指数で、表1に示されている。撓み量が大きいほど、ハンドリング性能及び旋回性能に優れる。撓み量が大きいほど、好ましい。なお、図6(A)、図6(B)及び図6(C)の、縦軸のスケールは同じではない。従って、例えば図6(A)と図6(B)とは比較できない。これらは、それぞれのグラフ内において、実施例1及び比較例1-3を比較するためのものである。
【0059】
[ハンドリング性能]
上記タイヤを正規リム(リムサイズ=MT3.50×17)に組み込み、排気量が1000ccである二輪自動車の前輪に装着した。その内圧が200kPaとなるように、空気を充填した。二輪自動車の後輪には、従来のタイヤを装着した。この二輪自動車を、サーキットコースで走行させて、ライダーによる官能評価を行った。評価項目は、ハンドリング性能である。この結果が、A、B、C及びDの四段階で、表1-2に示されている。A、B、C及びDの順にハンドリング性能に優れる。A、B、C及びDの順に好ましい。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
図5-6及び表1-2に示されるように、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べてハンドリング性能に優れている。この評価結果から、本二輪自動車用タイヤの優位性は明らかである。
【0063】
[開示項目]
以下の項目は、好ましい実施形態の開示である。
【0064】
[項目1]
一対のビード及びこれらのビードに架け渡されたカーカスを備えており、
前記カーカスが、並列された複数の第一コードを備える第一プライと、前記第一プライの外側に積層され並列された複数の第二コードを備える第二プライとを備えており、
前記第一コードが赤道面に対して傾斜しており、この第一コードが赤道面に対してなす角度θ1が実質的に90°であり、
前記第二コードが赤道面に対して傾斜しており、この第二コードが赤道面に対してなす角度θ2が65°以上85°以下である、二輪自動車用タイヤ。
【0065】
[項目2]
前記角度θ2が70°以上80°以下である、項目1に記載の二輪自動車用タイヤ。
【0066】
[項目3]
前記第二プライが前記ビードの周りで折り返され、これにより折返し部が形成されている、請求項1又は2に記載の二輪自動車用タイヤ。
【0067】
[項目4]
前記第一プライが前記ビードの周りで折り返され、これにより折返し部が形成されている、項目3に記載の二輪自動車用タイヤ。
【0068】
[項目5]
路面と接触するトレッド面を有するトレッドをさらに備え、
半径方向において、前記第一プライの折返し部の外側端及び前記第二プライの折返し部の外側端が、いずれも前記トレッド面の端よりも内側に位置している、項目4に記載の二輪自動車用タイヤ。
【0069】
[項目6]
半径方向において、前記第二プライの折返し部の外側端が、前記第一プライの折返し部の外側端より外側に位置している、項目4又は5に記載の二輪自動車用タイヤ。
【0070】
[項目7]
半径方向において、前記第一プライの折返し部の高さのこのタイヤの断面高さに対する比が0.10以上0.35以下であり、前記第二プライの折返し部の高さのこのタイヤの断面高さに対する比が0.15以上0.40以下である、項目4から6のいずれかに記載の二輪自動車用タイヤ。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明されたタイヤは、種々の二輪自動車にも適用されうる。
【符号の説明】
【0072】
2・・・タイヤ
4・・・トレッド
6・・・サイドウォール
8・・・ウイング
10・・・ビード
12・・・カーカス
12a・・・第一プライ
12b・・・第二プライ
14・・・バンド
16・・・インナーライナー
18・・・チェーファー
20・・・トレッド面
22・・・溝
24・・・コア
26・・・エイペックス
28、32・・・主部
30、34・・・折返し部
36・・・第一コード
38、42・・・トッピングゴム
40・・・第二コード
44・・・第一ゴムシート
図1
図2
図3
図4
図5
図6