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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186605
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】積層板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/082 20060101AFI20221208BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20221208BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B32B15/082 B
B32B27/30 D
H05K1/03 630H
H05K1/03 630E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022078239
(22)【出願日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】P 2021093483
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000211156
【氏名又は名称】中興化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】柴田 晃宜
(72)【発明者】
【氏名】森 寿義
(72)【発明者】
【氏名】前山 隆興
(72)【発明者】
【氏名】水▲崎▼ 弘章
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA01B
4F100AA20A
4F100AA20B
4F100AB01D
4F100AB17D
4F100AB31D
4F100AG00A
4F100AK17A
4F100AK17B
4F100AK17C
4F100AK18B
4F100AL01B
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100CA23A
4F100CA23B
4F100DD07D
4F100DG12A
4F100DH01A
4F100EJ17
4F100EJ42
4F100EJ82
4F100GB41
4F100JK06D
(57)【要約】
【課題】熱膨張率が低く、金属箔層が剥離しにくい積層板を提供すること。
【解決手段】実施形態によると、積層板が提供される。積層板は、プリプレグと、第3フッ素樹脂含有層と、金属箔層とを備える。プリプレグは、ガラスクロスと、ガラスクロスに担持された第1フッ素樹脂含有層とを備え、表面及び裏面を有する。第3フッ素樹脂含有層は、プリプレグが有する表面及び裏面のうち少なくとも一方の面上に形成され、パーフルオロアルコキシアルカン樹脂を含む。第1フッ素樹脂含有層は無機フィラーを含む。金属箔層は、第3フッ素樹脂含有層に接する第1面と、第1面に対向する第2面とを有し、第1面の表面粗さは1μm以下である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び裏面を有するプリプレグと、
前記プリプレグが有する前記表面及び前記裏面のうち少なくとも一方の面上に形成され、パーフルオロアルコキシアルカン樹脂を含む第3フッ素樹脂含有層と、
前記第3フッ素樹脂含有層に接する金属箔層とを備え、
前記プリプレグは、ガラスクロスと、前記ガラスクロスに担持された第1フッ素樹脂含有層とを備え、
前記金属箔層は、前記第3フッ素樹脂含有層に接する第1面と、前記第1面に対向する第2面とを有し、前記第1面の表面粗さは1μm以下である積層板。
【請求項2】
表面及び裏面を有するプリプレグと、
前記プリプレグが有する前記表面及び前記裏面のうち少なくとも一方の面上に形成され、パーフルオロアルコキシアルカン樹脂を含む第3フッ素樹脂含有層と、
前記第3フッ素樹脂含有層に接する金属箔層とを備え、
前記プリプレグは、ガラスクロスと、前記ガラスクロスに担持された第1フッ素樹脂含有層と、前記第1フッ素樹脂含有層の少なくとも一方の面上に形成された第2フッ素樹脂含有層とを備え、
前記第2フッ素樹脂含有層は無機フィラーを含み、
前記金属箔層は、前記第3フッ素樹脂含有層に接する第1面と、前記第1面に対向する第2面とを有し、前記第1面の表面粗さは1μm以下である積層板。
【請求項3】
前記第1フッ素樹脂含有層は無機フィラーを含む請求項1又は2に記載の積層板。
【請求項4】
前記第2フッ素樹脂含有層はポリテトラフルオロエチレンを含む請求項2に記載の積層板。
【請求項5】
前記金属箔層は、銅箔である請求項1又は2に記載の積層板。
【請求項6】
前記金属箔層の剥離強度は1.0kN/m以上である請求項1又は2に記載の積層板。
【請求項7】
厚さが0.025mm-0.50mmの範囲内にある請求項1又は2に記載の積層板。
【請求項8】
前記第1フッ素樹脂含有層はパーフルオロエチレンプロペンコポリマを含む請求項1又は2に記載の積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報通信環境において多様化及び高度化が進む中、高周波帯域を使用した通信システムが注目を集めている。高周波帯域の中でも、いわゆるミリ波と呼ばれる30GHz以上の高周波は、伝送情報容量が非常に多いが、伝送損失が大きくなりやすいという特徴がある。そのため、ミリ波を伝送させた場合であっても伝送損失を低減することが可能なミリ波用低損失基板の需要が高まっている。
【0003】
フッ素樹脂は電気特性が非常に優れた材料であるため、フッ素樹脂を含む誘電体と、導体としての金属箔とを備えた積層板は、高周波帯域を利用した種々のアプリケーションに使用されている。こうした積層板においては、誘電体と導体との界面を電気信号が通過するため、当該界面が平滑であるほど伝送損失は小さくなる。
【0004】
しかしながら、フッ素樹脂は他材料との接着性が低い。それ故、例えば、伝送損失を低減させる目的で、金属箔においてフッ素樹脂との接触面の平滑性を高めると、フッ素樹脂と金属箔との接着が困難になるという問題があった。また、フッ素樹脂の熱膨張率は低くないため、フッ素樹脂が用いられた積層板の寸法安定性には改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/104297号
【特許文献2】国際公開第2018/043683号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされ、熱膨張率が低く、金属箔層が剥離しにくい積層板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、積層板が提供される。積層板は、プリプレグと、第3フッ素樹脂含有層と、金属箔層とを備える。プリプレグは、ガラスクロスと、ガラスクロスに担持された第1フッ素樹脂含有層とを備え、表面及び裏面を有する。第3フッ素樹脂含有層は、プリプレグが有する表面及び裏面のうち少なくとも一方の面上に形成され、パーフルオロアルコキシアルカン樹脂を含む。第1フッ素樹脂含有層は無機フィラーを含む。金属箔層は、第3フッ素樹脂含有層に接する第1面と、第1面に対向する第2面とを有し、第1面の表面粗さは1μm以下である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、熱膨張率が低く、金属箔層が剥離しにくい積層板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る積層板の一例を概略的に示す断面図。
図2】実施形態に係る積層板の他の例を概略的に示す断面図。
図3】実施形態に係る積層板の他の例を概略的に示す断面図。
図4】含浸コーティング工程に係る製造ラインの一例を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
プリント配線基板などの積層板を高周波に対応させるためには、伝送損失の低減化が重要である。伝送損失のファクターは、主に、導体損失、表面粗さに起因した損失、及び、誘電体損失の3種類に分けられる。これら全てのファクターについて伝送損失を抑えることが望ましい。
【0011】
実施形態に係る積層板によると、上記3種類のファクターの中でも、特に表面粗さに起因した損失を低減することができる。表面粗さに起因した損失とは、具体的には、導体である金属箔層の表面(第2面)及び裏面(第1面)のうち、誘電体としてのフッ素樹脂含有層と接着する裏面(第1面)の表面粗さに起因した損失を指す。つまり、表面粗さに起因した損失は、金属箔層の第1面の表面粗さに応じて変化する。なお、本願明細書及び特許請求の範囲における表面粗さとは、JIS C 6515-1998に準拠して測定される「最大高さRz」を意味する。
【0012】
フッ素樹脂は、比誘電率が低い上に誘電正接も低いという優れた電気特性を有する反面、他の材料との接着性に劣る。それ故、従来、金属箔層として第1面の表面粗さが比較的大きい金属箔を使用することによって、アンカー効果を利用して金属箔層とフッ素樹脂含有層との優れた接着性を確保することが行われている。例えば、金属箔の凹凸(表面粗さ)が5μm以上である場合には、アンカー効果を利用してフッ素樹脂との接着性を確保しやすい。しかしながら、第1面の表面粗さが大きい金属箔を使用すると、表面粗さ損失が大きいため、十分な低損失特性を達成することが困難である。
【0013】
実施形態に係る積層板が備える金属箔層は、フッ素樹脂含有層と接する第1面の表面粗さが1μm以下である。それ故、表面粗さ損失を大きく低減することができる。従来、表面粗さが1μm以下である金属箔とフッ素樹脂とを接着させる場合、接着面の凹凸が小さいことから、通常のフッ素樹脂を使用する場合にはアンカー効果が発現しにくく、十分な剥離強度を得ることが困難であった。しかしながら、実施形態に係る積層板は、金属箔層と接するフッ素樹脂含有層がパーフルオロアルコキシアルカン(PFA)樹脂を含むため、これに積層される金属箔層の第1面の表面粗さが1μm以下であっても優れた剥離強度を達成することができる。
【0014】
一方、積層板が備える誘電体にフッ素樹脂が含まれる場合、寸法安定性に改善の余地がある。具体的には、フッ素樹脂は、ベークライト及びエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と比較して熱膨張率が大きいため、積層板に熱が加わるとフッ素樹脂含有層が膨張して金属箔層又はパターニングされた回路が切れることがある。例えば、パターニングされた回路を備えるプリント基板を実際の使用に供する場合、当該基板には環境温度がかかるため、線膨張に伴う誘電体の膨張収縮が発生する。厚み方向への誘電体の膨張が大きいと、スルーホール加工を導通させている、内面の銅めっきが破断してしまう可能性がある。また、横方向への誘電体の膨張が大きいと、パターン位置が設計値から変化するため、設計性能が得られない場合がある。
【0015】
また、フッ素樹脂は、ベークライト及びエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と比較して熱伝導率が低い。25℃の環境におけるこれら物質の熱伝導率は、例えば以下の通りである。即ち、ベークライトの熱伝導率は0.43W/m・K~0.67W/m・K程度であり、エポキシ樹脂の熱伝導率は約0.35W/m・Kであるのに対して、代表的なフッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の熱伝導率は0.25W/m・Kである。従って、フッ素樹脂が用いられた基板に対して熱対策を施すことは、他の樹脂を使用した基板に対して熱対策を施すことと比較して、相対的に重要な位置付けであると言える。
【0016】
以下、実施形態に係る積層板を詳細に説明する。
【0017】
図1は、実施形態に係る積層板の一例を示す概略断面図である。積層板1は、プリプレグ5と、第3フッ素樹脂含有層6a及び6bと、金属箔層4a及び4bとを備える。積層板は、例えば、リジッド基板又はフレキシブルプリント基板の材料として用いられる、金属張積層板でありうる。
【0018】
プリプレグ5は、芯材としてのガラスクロス2と、ガラスクロス2の両面上に担持された第1フッ素樹脂含有層3a及び3bとを備える。プリプレグ5は、例えばシート状物であり、表面及び裏面を有する。第1フッ素樹脂含有層3a及び3bは、ガラスクロス2が有し得る開口部、織組織の隙間及びヤーン同士の隙間において互いに溶着していてもよい。プリプレグ5の表面及び裏面は、それぞれ、第1フッ素樹脂含有層3aの表面及び第1フッ素樹脂含有層3bの表面であり得る。第1フッ素樹脂含有層3a及び3bは、後述する無機フィラーを含んでいてもよい。
【0019】
第3フッ素樹脂含有層6a及び6bは、それぞれ、プリプレグ5の表面上及び裏面上に形成されている。プリプレグ5、並びに、第3フッ素樹脂含有層6a及び6bは、誘電体として機能し得る。第3フッ素樹脂含有層は、パーフルオロアルコキシアルカン樹脂を含んでいる。第3フッ素樹脂含有層6aは、金属箔層4aと接する面11を有する。第3フッ素樹脂含有層6bは、金属箔層4bと接する面12を有する。金属箔層4a及び4bは、導体として機能し得る。
【0020】
金属箔層4aは第3フッ素樹脂含有層6a上に形成されており、金属箔層4bは第3フッ素樹脂含有層6b上に形成されている。金属箔層4aは、第3フッ素樹脂含有層6aの面11と接する第1面と、当該第1面に対向する第2面とを有する。同様に、金属箔層4bは、第3フッ素樹脂含有層6bの面12と接する第1面と、当該第1面に対向する第2面とを有する。言い換えると、金属箔層4a及び4bが有する第1面は、第3フッ素樹脂含有層6a及び6bとの界面を構成している。金属箔層4a及び4bが有する第1面の表面粗さはいずれも1μm以下であるため、金属箔層と第3フッ素樹脂含有層との界面は平滑性が高い。それ故、伝送損失を低減させることができる。金属箔層は、剥離強度の観点から第3フッ素樹脂含有層にのみ接していることが望ましいが、プリプレグと接する部分を有していてもよい。
【0021】
なお、図1では、プリプレグ5の両面上に第3フッ素樹脂含有層及び金属箔層がこの順で形成されている場合を示しているが、第3フッ素樹脂含有層及び金属箔層は、プリプレグ5の表面及び裏面のうち一方の面上にのみ形成されていてもよい。
【0022】
図2は、実施形態に係る積層板の他の例を示す概略断面図である。図2に示す積層板は、プリプレグ5が更に第2フッ素樹脂含有層8を備えていることを除いて、図1に示す積層板と同様の構成を有している。
【0023】
図2に示す積層板が備えるプリプレグ5は、第1フッ素樹脂含有層3a及び3bのそれぞれの主面上に形成された、第2フッ素樹脂含有層8a及び8bを備えている。それ故、図2に示す積層板においては、プリプレグ5の表面及び裏面は、それぞれ、第2フッ素樹脂含有層8aの表面及び第2フッ素樹脂含有層8bの表面であり得る。また、図1に関して説明したのと同様に、第3フッ素樹脂含有層6a及び6bは、それぞれ、プリプレグ5の表面上及び裏面上に形成されている。
【0024】
図示していないが、誘電体の熱膨張率を低減するため、第2フッ素樹脂含有層8は無機フィラーを更に含み得る。無機フィラーはフッ素樹脂と比較して熱膨張率が小さいため、フッ素樹脂含有層に無機フィラーが添加されることによりプリプレグの熱膨張率が低減する。即ち、熱膨張率の低い積層板を得ることができる。第2フッ素樹脂含有層8が無機フィラーを更に含む場合、第1フッ素樹脂含有層3は無機フィラーを含まないことが好ましい。
【0025】
図3は、実施形態に係る積層板の他の例を示す概略断面図である。図3に示す積層板1は、金属箔層4aと金属箔層4bとの間にプリプレグ5を複数枚備えていることを除いて、図1に示す積層板1と同様の構成を有している。複数のプリプレグ5は、それらの主面が互いに接するように積層されている。図3では、積層板1がプリプレグ5を3枚以上備えている場合を模式的に示しているが、プリプレグ5の枚数は2枚であってもよい。或いは、図示していないが、複数枚のプリプレグ5の間に、更に第3フッ素樹脂含有層及び金属箔層が挟持されていてもよい。
【0026】
なお、図3では、ガラスクロス及び第1フッ素樹脂含有層を備えるプリプレグ(例えば図1に示すプリプレグ)を複数枚備える場合を示しているが、プリプレグの構成はこの場合に限られない。例えば、積層板1は、図2に示すプリプレグ5を複数枚備えていてもよい。
【0027】
積層板1の厚さは、例えば、0.025mm-0.50mmの範囲内にあり、好ましくは、0.1mm-0.3mmの範囲内にあることが好ましい。なお、積層板1の厚さとは、プリプレグ、第3フッ素樹脂含有層及び金属箔層の積層方向に沿った積層板の厚さを意味する。積層板1の厚さは、各層の厚さを調整するか、又は、積層するプリプレグ5の枚数を変更することにより調整することができる。
【0028】
プリプレグ5の厚さは、例えば、0.08mm~0.16mmの範囲内にあり、好ましくは0.10mm~0.14mmの範囲内にある。
【0029】
積層板1において、第3フッ素樹脂含有層と金属箔層との剥離強度は高い方が好ましく、例えば0.8kN/m以上であり、好ましくは1.0kN/m以上であり、より好ましくは1.2kN/m以上である。ここで、第3フッ素樹脂含有層と金属箔層との剥離強度は、JIS C 6481に準拠して測定することができる。
【0030】
(ガラスクロス)
積層板はガラスクロスを備えているため、面方向への線膨張を抑制することができる。また、剛性が高まるため、屈曲しても箔切れを抑制することができる。積層板がガラスクロスを備えていない場合には、リフローに耐えることが困難な可能性がある。
【0031】
ガラスクロスの厚さは、例えば、0.01mm-0.2mmの範囲内にあり、好ましくは0.02mm-0.09mmの範囲内にある。ガラスクロスは、開繊糸からなる開繊ガラスクロスであることが好ましい。
【0032】
上述の通り、積層板として優れた低損失特性を達成するためには、金属箔層に起因した導体損失、特に表面粗さ損失を低減することが重要である。しかしながら、より優れた低損失特性を達成するためには、ガラスクロスに起因した誘電体損失も低減することが望ましい。
【0033】
具体的には、ガラスクロスは、周波数1GHzの条件での比誘電率が5以下であり、且つ、誘電正接が0.002以下であることが好ましい。比誘電率及び誘電正接がこの数値範囲を満たしていると、誘電体損失を大きく低減することができる。比誘電率及び誘電正接は低いほど好ましい。ガラスクロスの比誘電率及び誘電正接を測定する際には、JIS R 1641:2007に準拠して測定することができる。
【0034】
ガラスクロスは開繊クロスであることが好ましい。開繊クロスは、ガラス糸のフィラメント間が開いた状態、例えば毛羽立った状態であるため、フッ素樹脂含有層がガラスクロス内部によく浸透する。但し、ガラス繊維ヤーンの表面には、大きな突起になりうる毛羽欠点、及び、糸抜けなどの欠陥が少ないことが好ましい。こうした大きな欠陥が少ないことにより金属箔層が損傷するのを抑制することができる。ガラスクロスの織組織は特に制限されず、例えば平織りである。
【0035】
ガラスクロスの単位面積当たりの質量は、例えば、10g/m2~200g/m2の範囲内にある。ガラスクロスの糸密度は、例えば30本/25mm~90本/25mmの範囲内にある。ガラスクロスの縦方向の糸密度と、横方向の糸密度とは異なっていてもよい。ガラス繊維ヤーン1本当たりのTEX番手は、例えば1g/1000m-100g/1000mの範囲内にある。
【0036】
(第1フッ素樹脂含有層)
第1フッ素樹脂含有層はガラスクロスの両面上に形成されている。第1フッ素樹脂含有層は、プリプレグの一部を構成しており、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、及び、パーフルオロエチレンプロペンコポリマ(FEP)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。第1フッ素樹脂含有層はPFA及びFEPからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。第3フッ素樹脂含有層が、溶融系フッ素樹脂としてPFAを含んでいるため、第1フッ素樹脂含有層がPFA及びFEPなどの溶融系フッ素樹脂を含む場合、第1フッ素樹脂含有層及び第3フッ素樹脂含有層が互いに融着しやすい効果がある。
【0037】
第1フッ素樹脂含有層の厚さ(片面の厚さ)は特に限定されないが、例えば、1μm~25μmの範囲内にあってもよく、1μm~10μmの範囲内にあってもよい。
【0038】
第1フッ素樹脂含有層は、無機フィラーを含んでいてもよいが、含んでいないことが好ましい。ガラスクロス上に担持される第1フッ素樹脂含有層が無機フィラーを含まないことにより、長期間に亘りガラスクロスとの接着性を維持し易い。なお、無機フィラーとしては、後述する第2フッ素樹脂含有層が含み得る無機フィラーを使用することができる。
【0039】
無機フィラーはフッ素樹脂と比較して熱伝導率が高い。それ故、第1フッ素樹脂含有層が無機フィラーを含む場合、プリプレグの熱伝導性が高いため、実施形態に係る積層板は高い熱伝導性を有している。また、この場合、プリプレグの熱膨張率を低減させることができる。
【0040】
第1フッ素樹脂含有層が含有する無機フィラーとしては、後述する第2フッ素樹脂含有層が含有するもののうち、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0041】
熱伝導性を高める観点から、第1フッ素樹脂含有層は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム及び酸化アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1種の無機フィラーを含むことが好ましい。
【0042】
(第2フッ素樹脂含有層)
第2フッ素樹脂含有層は、プリプレグの一部を構成し得る。第2フッ素樹脂含有層は省略することができる。第2フッ素樹脂含有層は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、及び、パーフルオロエチレンプロペンコポリマ(FEP)からなる群より選択される少なくとも1種を含む。第2フッ素樹脂含有層は、フッ素樹脂としてPTFEのみを含むことが好ましい。
【0043】
第2フッ素樹脂含有層は、無機フィラーを含む。それ故、プリプレグが第2フッ素樹脂含有層を備える場合、プリプレグの熱膨張率を低減させることができると共に、剛性などの機械的強度を高めることができる。第2フッ素樹脂含有層における無機フィラーの含有量は、例えば、40質量%~55質量%の範囲内にある。第2フッ素樹脂含有層における無機フィラーの含有量が過度に多いと、第2フッ素樹脂含有層が脆くなるため好ましくない。そのため、第2フッ素樹脂含有層を起因とした層間剥離が生じやすくなる。
【0044】
使用可能な無機フィラーとしては、例えば、シリカ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナなどの酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、ドーソナイト、珪酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、セピオライト、イモゴライト、イットリア、酸化マグネシウム、フォルステライト、コージライト、ステアタイト、シリカ系バルーン及び低誘電ガラスなどを挙げることができる。
【0045】
無機フィラーの平均粒子径は、例えば0.0001mm~0.1mmの範囲内にあり、好ましくは0.0001mm~0.01mmの範囲内にあり、更に好ましくは0.0001mm~0.002mmの範囲内にある。
【0046】
第2フッ素樹脂含有層の厚さ(片面の厚さ)は、特に限定されないが、5μm~60μmの範囲内にあってもよく、5μm~50μmの範囲内にあってもよい。
【0047】
第2フッ素樹脂含有層の厚さが過度に小さいと、プリプレグと金属箔層とを接着させる効果が得られにくい傾向にある。第2フッ素樹脂含有層の厚さが過度に大きいと、積層体全体に占めるフッ素樹脂の質量が大きくなるため、十分な熱伝導性を得られない可能性がある。
【0048】
(第3フッ素樹脂含有層)
第3フッ素樹脂含有層は、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)樹脂を含む。第3フッ素樹脂含有層は、例えば、プリプレグと金属箔層との接着性を高める層として機能する。第3フッ素樹脂含有層は、線膨張係数や誘電率の調整の為に無機フィラーなどの他の成分を含んでいてもよい。金属箔層のピール強度を高めるには、第3フッ素樹脂含有層が含むPFAとして、接着性の変性PFAを使用することが有効である。第3フッ素樹脂含有層は、接着性の変性PFAのみからなっていてもよい。
【0049】
接着性の変性PFA樹脂は、他の材料との接着性に優れる変性PFA樹脂である。通常のPFA樹脂は、テトラフルオロエチレンとペルフルオロエーテルとの共重合体であるのに対して、接着性の変性PFA樹脂は、金属箔層との接着性向上をもたらす変性モノマー単位を更に含んでいる。
【0050】
フッ素樹脂が接着性の変性PFA樹脂を含有することにより、金属箔層との接着性が向上する理由は明らかになっていないが、変性モノマー単位が有する特定の官能基に起因して、金属箔層との接着性が向上している可能性がある。
【0051】
接着性の変性PFA樹脂は溶融成形可能である上、通常のPFA樹脂が備えるような、耐熱性、耐薬品性、耐候性、低摩擦性、非粘着性、撥水撥油性及び電気特性を備えている。接着性の変性PFA樹脂の電気特性とは、例えば、低い比誘電率及び誘電正接を指している。接着性の変性PFA樹脂の周波数1GHzの条件における比誘電率は、2.06以下であることが好ましく、誘電正接は0.002以下であることが好ましい。接着性の変性PFA樹脂の比誘電率及び誘電正接を測定する際には、JIS 2138:2007に準拠して測定することができる。接着性の変性PFA樹脂の比誘電率及び誘電正接が上記の数値範囲を満たすことにより、積層板は優れた低損失特性を有することができる。
【0052】
接着性の変性PFA樹脂のメルトフローレートは、好ましくは10g/10min-25g/10minの範囲内にある。接着性の変性PFA樹脂の引張強度は、例えば35MPa以上である。接着性の変性PFA樹脂の曲げ弾性率は、例えば600-680MPaの範囲内にある。接着性の変性PFA樹脂の融点は、例えば290℃-300℃である。
【0053】
接着性の変性PFA樹脂の例は、AGC株式会社製のFluon+ EA-2000である。
【0054】
第3フッ素樹脂含有層は、PFA以外の他のフッ素樹脂を更に含んでいてもよく、添加剤などを更に含んでいてもよい。他のフッ素樹脂は、例えば、溶融成形が可能なフッ素樹脂である。溶融成形が可能なフッ素樹脂とは、メルトフローレートが、例えば2g/10min-40g/10minの範囲内にあるフッ素樹脂である。第3フッ素樹脂含有層は、PFA樹脂を80質量%以上含むことが好ましい。
【0055】
他のフッ素樹脂は、例えば、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマ(ETFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマ(FEP)及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)からなる群より選ばれる少なくとも1種でありうる。
【0056】
第3フッ素樹脂含有層の厚さは、例えば、1μm~50μmの範囲内にあり、好ましくは1μm~5μmの範囲内にある。第3フッ素樹脂含有層の厚さが過度に小さいと、プリプレグと金属箔層とを接着させる効果が得られにくい傾向にある。第3フッ素樹脂含有層の厚さが過度に大きいと、加熱プレスの際に樹脂が流動してしまい、積層板としての厚さの不均一が生じたり、外観不良が生じたりする可能性がある。
【0057】
(金属箔層)
金属箔層は、金属箔からなる層である。金属箔の種類は特に限定されず、積層板の用途に応じて適宜選択すればよい。たとえば、電子機器に積層板を用いる場合、金属箔の材質としては、銅または銅合金、ステンレス鋼またはその合金、ニッケルまたはニッケル合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金が挙げられる。電子機器、電気機器に用いられる通常の積層板においては、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が多用されており、実施形態に係る積層板においても銅箔が好適である。
【0058】
金属箔層は、上述したように、第3フッ素樹脂含有層に接する第1面と、第1面に対向する第2面とを有する。第1面の表面粗さは1μm以下である。第1面の表面粗さは、金属箔層と第3フッ素樹脂含有層との剥離強度が所望の値を満たしている限り、より小さい方が好ましい。所望の値とは、積層板の用途に応じて要求される剥離強度の値を意味しており、例えば1.0kN/m以上であり、好ましくは1.2kN/m以上である。第2面の表面粗さは、特に限定されないが、例えばRzで1.8μm以下である。
【0059】
金属箔の表面には、防錆層(クロメート等の酸化物皮膜)又は耐熱層が形成されていてもよい。また、第3フッ素樹脂含有層との剥離強度を高くするために、金属箔層の第1面にカップリング剤処理等を施してもよい。
【0060】
金属箔の厚さは、特に限定されず、積層板の用途に応じて、充分な機能が発揮できる厚さであればよい。金属箔層の厚さは、例えば、10μm~40μmの範囲内にある。
【0061】
<積層板の製造方法>
図面を参照しながら、実施形態に係る積層板の製造方法の一例を説明する。積層板は、例えば、下記の工程(1)~(5)を含む方法により製造することができる。
【0062】
(1)ガラスクロス上に第1フッ素含有層が形成されたプリプレグを作製する。プリプレグの作製は、例えば図4に示す含浸コーティング法により行うことができる。図4は、含浸コーティング法によりプリプレグを作製する工程を概略的に示す断面図である。
【0063】
図4中の符号30は、基材であるガラスクロス31を送り出す、送出しロールを示す。送出しロール30の下流側には、例えば、PTFE粒子及び/又はFEP粒子が分散した水性分散液32を満たした含浸槽33が配置されている。送出しロール30に巻かれたガラスクロス31は、ロール34aを経て含浸槽33の水性分散液32内に配置されたロール34b側に送られ、ガラスクロス31に水性分散液32が塗布される。含浸槽33の上方側には一対のドクターロール35が配置されている。ドクターロール35の上方側には、熱処理温度が夫々異なるように区切られた加熱炉7が配置されている。この加熱炉7は、下側から順に乾燥部7a,加熱処理部7b,焼成部7cの3つのブロックに区切られ、乾燥部7aから焼成部7cに向かって順次温度が高い状態の温度分布をもつように制御されている。加熱炉7の下流には、ロール34c、34d及び34eと、巻取りロール9が配置されている。
【0064】
上述の構成を有する装置を用いて、以下の手順で織布上に第1フッ素樹脂含有層を形成する。
【0065】
まず、送出しロール30に巻かれたガラスクロス31を、含浸槽33内に配置されたロール34b側に送り、ガラスクロス31に水性分散液32を塗布する。次に、一対のドクターロール35によりガラスクロス31の表面に塗布された余分の水性分散液32を掻きとる。続いて、水性分散液32が塗布されたガラスクロス31を加熱炉7の乾燥部7aに送り、塗布された水性分散液32を100℃以下の温度で乾燥して水性分散液32中の水分を蒸発させる。次に、ガラスクロス31を加熱処理部7bに送り、例えば305℃でゆっくり加熱処理して水性分散液32中の界面活性剤、添加剤、バインダー等を除去する。
【0066】
続く焼成部7cでは、焼成を行ってもよく、行わなくてもよい。焼成部7cでの焼成を行う場合、その焼成温度は、例えば、第1フッ素樹脂含有層の形成に使用するフッ素樹脂の融点以上の温度とする。焼成部7cを通過することで、PTFE及び/又はFEPがガラスクロスに対して溶着してプリプレグ5が作製される。プリプレグ5は、ロール34c、34d及び34eを経て、巻取りロール9に巻き取られる。
【0067】
以上の操作を複数回繰り返してもよい。即ち、巻取ったプリプレグに対して、再度水性分散液を塗布、乾燥及び焼成することを繰り返すことにより、複数層の第1フッ素樹脂含有層を形成することができる。これにより、プリプレグにおける第1フッ素樹脂含有層の厚さを調節することができる。こうして、ガラスクロス上に第1フッ素樹脂含有層が形成されたプリプレグが得られる。
【0068】
ここで、乾燥部7aでの「乾燥」は、塗布された水性分散液中の水分を100℃以下の温度で蒸発させる工程であることが好ましい。また、加熱処理部7bでの「加熱処理」は、塗布された水性分散液中の界面活性剤、添加剤、バインダー等の樹脂粒子以外の成分を所定の温度範囲で処理して除去する工程であることが好ましい。加熱処理の温度範囲は305℃以上340℃未満であることが好ましい。
【0069】
(2)上述の通り形成した第1フッ素樹脂含有層の両面上に、前述した含浸コーティング法によって、更に第2フッ素樹脂含有層を積層させることができる。但し、前述の通り、第2フッ素樹脂含有層の形成は省略してもよい。
【0070】
第2フッ素樹脂含有層形成用の水性分散液として、例えば、PTFE粒子と無機フィラーとを含む分散液を準備する。先に作製した、ガラスクロスの両面上に第1フッ素樹脂含有層が形成されたプリプレグに対して、準備した水性分散液を用いて更に含浸コーティングを施す。含浸コーティングは、複数回繰り返してもよい。こうして、第1フッ素樹脂含有層上に第2フッ素樹脂含有層を形成することができる。
【0071】
第2フッ素樹脂含有層は、下記に示す熱ラミネートにより形成してもよい。
まず、所定量の無機フィラーを含むPTFEフィルムを用意して、必要に応じてこれを裁断する。その後、第1フッ素樹脂含有層上にPTFEフィルムを置いてこれらを熱ラミネートに供する。こうして、PTFEフィルムを第2フッ素樹脂含有層として第1フッ素樹脂含有層上に積層させることができる。
【0072】
熱ラミネートは、例えば、ロールラミネータを用いて実施する。その際、例えば、ロール温度を360℃~420℃の範囲内、線圧を20N/cm~60N/cmの範囲内、且つ、ロールスピードを1m/min~4m/minの範囲内とする。
【0073】
(3)作製したプリプレグの両面上に、PFA樹脂を含む第3フッ素樹脂含有層を形成する。具体的には、例えば、図4を参照しながら説明したのと同様の方法でPFA樹脂を含む水性分散液をプリプレグ上に塗布した後、これを乾燥及び焼成に供して、プリプレグの表面上及び裏面上に第3フッ素樹脂含有層が形成された積層体を形成する。以下、この積層体を第1積層体とも呼ぶ。第3フッ素樹脂含有層はプリプレグの片面にのみ形成してもよい。PFA樹脂を含む水性分散液としては、例えば、AGC株式会社製のFluon+ EA-2000を樹脂粒子として含むディスパージョンを使用する。AGC株式会社製のFluon+ EA-2000は、上述した通り接着性の変性PFA樹脂である。
【0074】
(4)少なくとも一方の主面の表面粗さが1μm以下である金属箔を用意して、当該主面が第3フッ素樹脂含有層と接するように、金属箔を第1積層体上に積層して積層体を得る。以下、この積層体を第2積層体とも呼ぶ。金属箔は、第1積層体の一方の面上に積層されていてもよく、両面上に積層されていてもよい。
【0075】
工程(4)の後に、第2積層体が含む金属箔上に、金属箔を保護するための保護あて箔を積層させてもよい。保護あて箔としては、後述する熱圧プレスの際の加熱温度に耐え得るものであれば特に限定されず、耐熱性プラスチックフィルム(非熱可塑性ポリイミドフィルム等)、金属箔(銅箔、アルミニウム箔、SUS箔等)等が挙げられる。保護あて箔は、例えば、積層板を製造した後に、積層板を所望の大きさに切断する際に金属箔層を保護するために設けられる。積層板を所望の大きさに切断した後には、保護あて箔は金属箔層上から剥離され得る。
【0076】
(5)上記第2積層体に熱圧プレスを施して実施形態に係る積層板を得る。
一例として、工程(5)における熱圧プレスの詳細を説明する。積層板へのコンタミネーションを抑制するために、熱圧プレスはクリーンルーム内で実施されることが望ましい。
【0077】
熱圧プレスは、一対の熱盤から構成される熱圧プレス手段を有する真空プレス装置によって行われることが好ましい。或いは、熱圧プレスは、例えば、一対の金属ロールを供えた熱ロールラミネート装置によって連続的に実施されてもよい。
【0078】
真空プレス装置は、2つ以上の部材を加熱しながら圧着できる一対以上の熱盤を有している。真空プレス装置は、熱圧プレス手段において、真空状態で熱圧プレスを施すための機構を有している。これら以外の装置構成は特に限定されるものではない。
【0079】
熱圧プレス手段における加熱方式は、特に限定されるものではなく、たとえば、熱循環方式、熱風加熱方式、誘導加熱方式等、所定の温度で加熱し得る従来公知の方式を採用できる。
【0080】
熱圧プレス手段における加圧方式は、特に限定されるものではなく、たとえば、油圧方式、空気圧方式、ギャップ間圧力方式等、所定の圧力を加えることができる従来公知の方式を採用できる。
【0081】
熱圧プレスの際の加熱温度、プレス圧力(面圧)及び真空度の設定条件は、それぞれ、熱圧プレス処理の経過時間に応じて変化させることが可能である。例えば、熱圧プレス処理の経過時間に応じて加熱温度、プレス圧力及び真空度を段階的に高めた後、或る時点からは、経過時間に応じて加熱温度、プレス圧力及び真空度を段階的に低下させることができる。
【0082】
熱圧プレスは、例えば、60分-150分に亘って行うことができる。
【0083】
加熱温度は、例えば、常温以上400℃以下の範囲内で設定することができる。金属箔層をフッ素樹脂含有層上に接着させるためには、接着性の変性PFA樹脂の融点以上の温度、例えば350℃-370℃で加熱することが好ましい。
【0084】
プレス圧力は、例えば、5kg/cm2-50kg/cm2の範囲内で設定することができる。プレス圧力を印加しない設定も可能である。プレス圧力が不足すると、金属箔層の剥離強度が劣る傾向にある。プレス圧力が過度に高いと、積層板の寸法が変化してしまう可能性があるため好ましくない。
【0085】
真空度は、例えば、0.1Torr-800.0Torrの範囲内で設定することができる。真空度が過度に低いと、各材料の層間にエアーを巻き込み、層間剥離及び/又は金属箔(銅箔)酸化を引き起こす可能性がある。真空度が過度に高いと、各材料の滑り崩れにより層間剥離を引き起こす可能性がある。
【0086】
以上に説明した実施形態に係る製造方法によると、プリプレグが備える第1フッ素樹脂含有層は、フッ素樹脂のみならず無機フィラーを含んでいるため、熱膨張率の低い積層板を得ることができる。
【0087】
また、実施形態に係る積層板は、金属箔層をエッチングして形成されたパターン回路を備えたプリント基板でありうる。金属箔層の第1面の表面粗さが1μm以下であるため、金属箔層をパターンエッチングした場合に、金属箔残りが生じにくく、所望のパターン形状を精度良く得ることができる。それ故、ファインピッチパターンを成形する場合でも直線性に優れた線路を成形することができる。
【0088】
実施形態に係る積層板は、イメージセンサー、衝突防止用車載レーダー、並びに、IoT(Internet of Things)及び5Gなどのアプリケーションを主体とした大容量無線通信等の種々の装置に搭載され得る。
【0089】
[実施例]
以下に実施例を説明するが、実施形態は、以下に記載される実施例に限定されるものではない。
【0090】
(実施例1)
実施例1では、以下に示す手順で図1に示す積層構成を有する積層板を作製した。
【0091】
ガラスクロスとして、低誘電ガラスクロスNEガラス(日東紡績株式会社製)IPC規格1078を用意した。ガラスクロスは巻き芯に巻き付けられた状態であり、厚さは0.044mmであった。このガラスクロスについて、JIS R 1641:2007に準拠して、周波数1GHzの条件での比誘電率及び誘電正接を測定したところ、その値はそれぞれ4.8及び0.0015であった。
【0092】
ガラスクロス上に塗布する第1水性分散液として、PTFE樹脂粒子の固形分濃度が60重量%の水性分散液を用意し、これに50重量%の割合でシリカ粒子を添加して撹拌した。シリカ粒子の平均粒子径(D50)は5μmであった。次いで、第1水性分散液を含浸槽に注いで、含浸槽を第1水性分散液で満たした。そして、上述したように、図4を参照しながら説明した方法に従ってガラスクロスを送り出し、ガラスクロスの両面上に第1フッ素樹脂含有層を供えたプリプレグを作製した。
【0093】
次に、PFA樹脂粒子を含む第2水性分散液として、EA-2000の粒子を含む水性分散液(AGC株式会社製)を用意した。EA-2000は、実質的に接着性の変性PFA樹脂からなるフッ素樹脂粒子である。別途用意した含浸槽を第2水性分散液で満たした。図4を参照しながら説明した方法に従って、先に作製したプリプレグを当該含浸槽内に送り出し、乾燥及び焼成を経て、プリプレグの両面上に第3フッ素樹脂含有層を形成した。プリプレグの両面上に第3フッ素樹脂含有層が形成された積層体を、ここでは第1積層体とも呼ぶ。
【0094】
その後、金属箔として、片面(第1面)の表面粗さRzが1μmの銅箔を2枚用意した。銅箔1枚の厚さは0.012mmであった。銅箔の第1面が第3フッ素樹脂含有層に接触するようにして、第1積層体の両面上に銅箔を積層して、第2積層体を得た。
【0095】
得られた第2積層体をアルミニウム箔で被覆した状態でクリーンルームに搬入した。その後、第2積層体に対して200分間に亘り熱圧プレスを実施して積層板を完成させた。得られた積層板の厚さは195μmであり、誘電体の厚さは127μmであった。誘電体の厚さとは、プリプレグと、第3フッ素樹脂含有層との合計厚さを意味する。また、積層板が含むガラスクロスの厚さは43μmであった。
【0096】
実施例1に係る積層板の伝送損失を、マイクロストリップライン法により評価したところ、伝送損失は、周波数60GHzの条件で-0.062dBであった。
【0097】
(実施例2)
実施例2では、以下に示す手順で図2に示す積層構成を有する積層板を作製した。
実施例1で用いたものと同じガラスクロスを用意し、第3水性分散液として、PTFE樹脂粒子の固形分濃度が60重量%の水性分散液を用意した。この分散液は無機フィラーを含んでいなかった。次いで、第3水性分散液を含浸槽に注いで、含浸槽を第3水性分散液で満たした。そして、図4を参照しながら説明した方法に従ってガラスクロスを送り出し、ガラスクロスの両面上に第1フッ素樹脂含有層を担持させた。
【0098】
第1フッ素樹脂含有層上に塗布する第4水性分散液として、PTFE樹脂粒子の固形分濃度が60重量%の水性分散液を用意し、これに50重量%の割合でシリカ粒子を添加して撹拌した。シリカ粒子の平均粒子径(D50)は5μmであった。次いで、第4水性分散液を含浸槽に注いで、含浸槽を第4水性分散液で満たした。そして、上述したように、図4を参照しながら説明した方法に従ってプリプレグを送り出し、乾燥及び焼成を経て、プリプレグの両面上に第2フッ素樹脂含有層を形成した。
【0099】
得られたプリプレグの両面上に、実施例1と同様の方法で第3フッ素樹脂含有層を形成した。プリプレグの両面上に第3フッ素樹脂含有層が形成された積層体を、ここでは第1積層体とも呼ぶ。
【0100】
金属箔として、実施例1で使用したのと同じ銅箔を2枚用意し、それぞれの銅箔の第1面が第3フッ素樹脂含有層に接触するようにして、第1積層体の両面上に銅箔を積層して、第2積層体を得た。
【0101】
その後、得られた第2積層体をアルミニウム箔で被覆した状態でクリーンルームに搬入した。その後、第2積層体に対して200分間に亘り熱圧プレスを実施して積層板を完成させた。熱圧プレスにおける温度は360℃、プレス圧力は2.0MPa、真空度は0.1torrであった。得られた積層板の厚さは163μmであり、誘電体の厚さは127μmであった。誘電体の厚さとは、プリプレグと、第3フッ素樹脂含有層との合計厚さを意味する。また、積層板が含むガラスクロスの厚さは43μmであった。
【0102】
実施例2に係る積層板の伝送損失を、マイクロストリップライン法により評価したところ、伝送損失は、周波数60GHzの条件で-0.033dBであった。
【0103】
(比較例1)
第3フッ素樹脂含有層の形成を省略したことを除いて、実施例2で説明したのと同様の方法で積層板を作製した。得られた積層板の厚さは0.120mmであった。
【0104】
(比較例2)
第2フッ素樹脂含有層がシリカを含んでいなかったことを除いて、実施例2で説明したのと同様の方法で積層板を作製した。得られた積層板の厚さは0.190mmであった。
【0105】
<線膨張係数の測定>
各例にて作製した積層板の線膨張係数を、JIS C 6481に準拠して測定した。測定温度範囲は65℃~150℃とした。
【0106】
<金属箔(銅箔)の剥離強度測定>
各例にて作製した積層板が備える2枚の銅箔のうちの一方について、JIS C 6481に準拠して剥離強度を測定した。
【0107】
各例に係る線膨張係数及び剥離強度の測定結果を下記表1にまとめる。
【0108】
【表1】
【0109】
実施例1及び2と、比較例1とを比較すると、第3フッ素樹脂含有層を有する実施例1及び2の剥離強度は、これを有しない比較例1の剥離強度と比較して顕著に優れていることが分かる。また、比較例2に係る積層板において第2フッ素樹脂含有層は無機フィラーを含んでいなかった。それ故、比較例2に係る線膨張係数は、面内方向(X軸及びY軸方向)並びにZ軸方向のいずれにおいても実施例1及び2の積層板と比較して劣っていた。加えて、比較例2に係る積層板の金属箔層の剥離強度も実施例1及び2と比較して劣っていた。
【0110】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0111】
1…積層板、2…ガラスクロス、3、3a、3b…第1フッ素樹脂含有層、4a、4b…金属箔層、5…プリプレグ、6a、6b…第3フッ素樹脂含有層、7…加熱炉、8a、8b…第2フッ素樹脂含有層、9…巻取りロール、11、12…面、30…送出しロール、31…ガラスクロス、32…水性分散液、33…含浸槽、34…ロール、35…ドクターロール。
図1
図2
図3
図4