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特開2022-186617半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる摺動部品。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186617
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】半芳香族ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる摺動部品。
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20221208BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20221208BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20221208BHJP
   C08J 5/16 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K7/14
C08G69/26
C08J5/16 CFG
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022083906
(22)【出願日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2021093327
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三井 淳一
(72)【発明者】
【氏名】馬場 博章
【テーマコード(参考)】
4F071
4J001
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA55
4F071AA84
4F071AA88
4F071AC09
4F071AF02
4F071AF17
4F071AF20
4F071AF22Y
4F071AH17
4F071BB05
4F071BC01
4F071BC12
4F071EA00
4J001DA01
4J001DB01
4J001EB37
4J001EC02
4J001EC03
4J001EC04
4J001EC05
4J001EC06
4J001EC09
4J001GA12
4J001GB02
4J001JA01
4J001JA02
4J001JA03
4J001JA04
4J001JA05
4J001JA07
4J001JB04
4J001JB21
4J001JB23
4J001JB24
4J001JB32
4J002CL031
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
4J002GC00
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】耐熱性、機械的特性に加えて、特に摺動性に優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とする芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド樹脂(A)87~99質量部と、脂肪族ポリアミド樹脂(B)1~10質量部と、繊維状強化材(C)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し40~100質量部含有し、JIS K 7210に従って、(A)の融点+25℃、1.2kgfの荷重で測定した際のメルトフローレートが15g/10分以下である半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とする芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド樹脂(A)87~99質量部と、脂肪族ポリアミド樹脂(B)1~10質量部と、繊維状強化材(C)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し40~100質量部含有し、
JIS K 7210に従って、((A)の融点+25℃)、1.2kgfの荷重で測定した際のメルトフローレートが20g/10分以下である半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
繊維状強化材(C)がガラス繊維である請求項1に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の脂肪族ジアミン成分が1,10-デカンジアミンである請求項1または2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
JIS K7218 A法に従って、相手材をS45C鋼、荷重を0.75MPa、滑り距離3kmの条件下で摩耗試験をおこなった際の比摩耗量が20mm/(kN・km)以下である請求項1または2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項6】
摺動部品である請求項5に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性、機械的特性に加えて、特に摺動性に優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド樹脂は、耐熱性、機械的特性、摺動性に優れていることから、ギア、ベアリング、カムの軸受け等の摺動部品として用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ナイロン10T(テレフタル酸、1,10-デカンジアミンからなるポリアミド樹脂)にフッ素樹脂等の摺動改良材を含有した半芳香族ポリアミド樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2には、ポリアミド9T(テレフタル酸、2-メチル-1,8-オクタンジアミンおよび1,9-ノナンジアミンからなるポリアミド)にフッ素樹脂やポリオレフィン等の各種充填材を含有した半芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる摺動部品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-064420号公報
【特許文献2】特開2002-363404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電気・電子機器分野や自動車のエンジンルーム内で用いられる摺動部品においては、さらに高度な摺動性が要求されるようになってきている。しかしながら、特許文献1、2の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は高度な摺動性は有しておらず、用途が限定されていた。
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、半芳香族ポリアミド樹脂に特定量の脂肪族ポリアミド樹脂を添加し、特定のメルトフローレートを有するものとすることにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、耐熱性、機械的特性に加えて、特に摺動性に優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)テレフタル酸を主成分とする芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とからなる半芳香族ポリアミド樹脂(A)87~99質量部と、脂肪族ポリアミド樹脂(B)1~10質量部と、繊維状強化材(C)を、(A)と(B)の合計100質量部に対し40~100質量部含有し、
JIS K 7210に従って、((A)の融点+25℃)、1.2kgfの荷重で測定した際のメルトフローレートが20g/10分以下である半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(2)繊維状強化材(C)がガラス繊維である請求項1に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(3)半芳香族ポリアミド樹脂(A)の脂肪族ジアミン成分が1,10-デカンジアミンである(1)または(2)に記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(4)JIS K7218 A法に従って、相手材をS45C鋼、荷重を0.75MPa、滑り距離3kmの条件下で摩耗試験をおこなった際の比摩耗量が20mm/(kN・km)以下である(1)~(3)いずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物。
(5)(1)~(4)いずれかに記載の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体。
(6)摺動部品である(5)に記載の成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐熱性、機械的特性に加えて、特に摺動性に優れた半芳香族ポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物からなる成形体は、摺動部品に好適に用いることでできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)と繊維状強化材(C)とを含有する。
【0011】
本発明に用いる半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、テレフタル酸を主成分とする芳香族ジカルボン酸成分と脂肪族ジアミン成分とを含有する。本発明において、「テレフタル酸を主成分とする」とは、芳香族ジカルボン酸成分において、テレフタル酸の含有量が70モル%以上であることを意味し、好ましくは90モル%以上であり、より好ましくは100モル%である。
【0012】
脂肪族ジアミン成分としては、例えば、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミン成分は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし併用してもよいが、耐熱性、機械的特性の観点から、単独で用いることが好ましい。
【0013】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)には、テレフタル酸以外のジカルボン酸成分や脂肪族ジアミン成分以外のジアミン成分を含有してもよい。テレフタル酸以外のジカルボン酸成分としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。脂肪族ジアミン成分以外のジアミン成分としては、例えば、シクロヘキサンジアミン等の脂環式ジアミン;キシリレンジアミン、ベンゼンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
【0014】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)には、必要に応じて、カプロラクタム、ラウロラクタム等のラクタム類;アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸等のω-アミノカルボン酸を含有してもよい。
【0015】
本発明において、半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、構成成分としてモノカルボン酸成分を含有することが好ましい。モノカルボン酸成分の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)を構成する全モノマー成分に対して、0.3~4.0モル%とすることが好ましく、0.3~3.0モル%とすることがより好ましく、0.3~2.5モル%とすることがさらに好ましく、0.8~2.5モル%とすることが特に好ましい。
【0016】
モノカルボン酸の分子量は、140以上であることが好ましく、170以上であることがより好ましい。モノカルボン酸成分としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられ、中でも脂肪族モノカルボン酸が好ましい。分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸およびそれらの誘導体が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸が好ましい。分子量が140以上の脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチルシクロヘキサンカルボン酸、4-へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4-ラウリルシクロヘキサンカルボン酸およびそれらの誘導体が挙げられる。分子量が140以上の芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチル安息香酸、4-へキシル安息香酸、4-ラウリル安息香酸、アルキル安息香酸類、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。モノカルボン酸成分は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし併用してもよい。また、分子量が140以上のモノカルボン酸と分子量が140未満のモノカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明において、モノカルボン酸の分子量は、原料のモノカルボン酸の分子量を指す。
【0017】
本発明において、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の、96%硫酸中、25℃、濃度1g/dLで測定した場合の相対粘度は、機械的特性や摺動性の観点から、2.3以上であることが好ましく、2.5~3.5であることがより好ましく、2.5~3.1であることがさらに好ましい。半芳香族ポリアミド樹脂(A)の前記相対粘度が2.3未満である場合、高度な摺動性が得られない場合があり、一方、前記相対粘度が3.5を超える場合、溶融加工が困難となる場合がある。
【0018】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である観点から、加熱重合法が好ましく用いられる。加熱重合法としては、ジカルボン酸成分とジアミン成分とから反応物を得る工程(I)と、得られた反応物を重合する工程(II)とからなる方法が挙げられる。
【0019】
工程(I)としては、例えば、ジカルボン酸粉末を、予めジアミンの融点以上かつジカルボン酸の融点以下の温度に加熱し、この温度のジカルボン酸粉末に、ジカルボン酸の粉末の状態を保つように、実質的に水を含有させずに、ジアミンを添加する方法が挙げられる。または、別の方法としては、溶融状態のジアミンと固体のジカルボン酸とからなる懸濁液を攪拌混合し、混合液を得た後、最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂の融点未満の温度で、ジカルボン酸とジアミンの反応による塩の生成反応と、生成した塩の重合による低重合物の生成反応とをおこない、塩および低重合物の混合物を得る方法が挙げられる。この場合、反応をさせながら破砕をおこなってもよいし、反応後に一旦取り出してから破砕をおこなってもよい。工程(I)としては、反応物の形状の制御が容易な前者の方が好ましい。
【0020】
工程(II)としては、例えば、工程(I)で得られた反応物を、最終的に生成する半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点未満の温度で固相重合し、所定の分子量まで高分子量化させ、半芳香族ポリアミド樹脂(A)を得る方法が挙げられる。固相重合は、重合温度180~270℃、反応時間0.5~10時間で、窒素等の不活性ガス気流中でおこなうことが好ましい。
【0021】
工程(I)および工程(II)の反応装置は特に限定されず、公知の装置を用いればよい。工程(I)と工程(II)を同じ装置でおこなってもよいし、異なる装置でおこなってもよい。
【0022】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の製造において、重合の効率を高めるため重合触媒を用いたり、重合度の調整、熱分解や着色を抑制するため末端封止剤を用いたりしてもよい。
【0023】
重合触媒としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩が挙げられる。重合触媒の添加量としては、通常、半芳香族ポリアミド樹脂(A)を構成する全モノマーに対して、2モル%以下とすることが好ましい。
【0024】
半芳香族ポリアミド樹脂(A)の含有量は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、87~99質量部とすることが必要で、87~98質量部とすることが好ましく、90~95質量部とすることがさらに好ましい。前記含有量が87質量部未満の場合、99質量部を超える場合いずれの場合であっても、成形体としたときの比摩耗量が大きくなるので好ましくない。
【0025】
本発明においては、摺動性を向上させるため、脂肪族ポリアミド樹脂(B)を含有させることが必要である。脂肪族ポリアミド樹脂(B)は主鎖中に芳香族成分を含まない重合体であり、例えば、ポリε-カプラミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカメチレンアジパミド(ポリアミド116)、ポリウンデカナミド(ポリアミド11)、ポリドデカナミド(ポリアミド12)およびこれらのうち少なくとも2種類の異なったポリアミド成分を含むポリアミド共重合体、または、これらの混合物などが挙げられる。中でも、ポリアミド6、ポリアミド66が経済性の観点からより好ましい。
【0026】
脂肪族ポリアミド樹脂(B)の含有量は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)と脂肪族ポリアミド樹脂(B)の合計100質量部に対して、1~13質量部とすることが必要で、2~13質量部とすることが好ましく、5~10質量部とすることがさらに好ましい。前記含有量が1質量部未満の場合、13質量部を超える場合いずれの場合であっても、成形体としたときの比摩耗量が大きくなるので好ましくない。また、前記含有量が13質量部を超えると、耐熱性が低下するので好ましくない。さらに、近年、自動車のエンジンルーム内および近傍に用いられる部品においては、耐薬品性、耐吸水性、耐塩化カルシム性が求められることがあるが、前記含有量が13質量部を超える場合、耐薬品性、耐吸水性、耐塩化カルシム性が低下し、耐吸水性が低下する結果、強度低下や、吸水による寸法変化が大きくなる場合がある。
【0027】
本発明の脂肪族ポリアミド樹脂(B)の相対粘度は、得られる半芳香族ポリアミド樹脂組成物の、JIS K 7210に従って、(半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点+25℃)、1.2kgfの荷重で測定した際のメルトフローレートが20g/10分以下であれば特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。成形加工が容易な半芳香族ポリアミド樹脂組成物を得る場合であれば、(B)の相対粘度は、1.9~4.0とすることが好ましく、2.0~3.5とすることがより好ましい。(B)の相対粘度が1.9未満の場合、成形品によっては靱性の不足し、機械的特性が低下する場合がある。また、一方、(B)の相対粘度が4.0を越える場合、成形加工が困難となり、外観も悪化する場合がある。
【0028】
本発明に用いる繊維状強化材(C)としては特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイトが挙げられる。中でも、摺動性の向上効果が大きく、入手しやすさの観点から、ガラス繊維、炭素繊維が好ましい。
【0029】
ガラス繊維、炭素繊維を用いる場合、熱可塑性樹脂中の繊維の分散性の向上を目的に、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤は、収束剤と併用してもよい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられる。中でも、熱可塑性樹脂(A)としてポリアミド樹脂を用いる場合、ポリアミドとガラス繊維または炭素繊維との密着効果が高いことから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0030】
繊維状強化材(C)の繊維長は、0.1~7mmであることが好ましく、0.2~6mmであることがより好ましい。(C)の繊維長が0.1mm未満である場合、補強効果に劣る場合がある。一方、(C)の繊維長が7mmを超える場合、(C)の繊維長が成形性に悪影響を及ぼす場合がある。また、繊維状強化材(C)の繊維径は3~20μmであることが好ましく、5~13μmであることがより好ましい。(C)の繊維径が3μm未満の場合、溶融混練時に折損しやすくなる場合がある。一方、(C)の繊維径が20μmを超える場合、補強効果に劣る場合がある。また、断面形状としては、円形、長方形、楕円、それ以外の異形断面であってもよいが、経済的な観点から、円形が好ましい。
【0031】
本発明に用いる樹脂組成物には、さらに酸化防止剤、熱安定剤、その他の添加剤を加えてもよい。
【0032】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が挙げられる。酸化防止剤は、上記のうち1種を単独で用いてもよいし併用してもよい。酸化防止剤の含有量は、半芳香族ポリアミド(A)100質量部に対し、0.01~5質量部とすることが好ましく、0.1~1.0質量部とすることがさらに好ましい。
【0033】
熱安定剤としては、例えば、第一銅、臭化第二銅、ヨウ化第一銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、硫酸銅、リン酸銅、ホウ酸銅、硝酸銅、ステアリン酸銅、キレート剤に配位した銅錯塩が挙げられる。中でも、銅化合物が好ましく、ハロゲン化銅がより好ましく、ヨウ化第一銅がさらに好ましい。熱安定剤は単独で用いてもよいし併用してもよい。銅化合物を用いる場合、その含有量は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して、0.01~3質量部とすることが好ましく、0.02~0.5質量部とすることがより好ましい。
【0034】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の、JIS K 7210に従って、(半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点+25℃)、1.2kgfの荷重で測定した際のメルトフローレートが20g/10分以下であることが必要で、15g/10分以下であることが好ましく、0.1~15g/10分以下であることがより好ましい。前記メルトフローレートが20g/10分を超える場合、高度な摺動性が得られないので好ましくない。
【0035】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の、JIS K7218 A法に従って、相手材をS45C鋼、荷重を0.75MPa、滑り距離3kmの条件下で摩耗試験をおこなった際の比摩耗量が20mm/(kN・km)以下であることが好ましく、15mm/(kN・km)以下であることがより好ましく、12mm/(kN・km)以下であることがさらに好ましい。
【0036】
本発明において、半芳香族ポリアミド樹脂(A)、脂肪族ポリアミド樹脂(B)、繊維状強化材(C)、および必要に応じてその他の添加剤等を配合して、本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を製造する方法は特に限定されないが、溶融混練法が好ましい。溶融混練法としては、例えば、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)が溶融し分解しない領域から選ばれ、通常、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点をTmとして、(Tm-20℃)~(Tm+50℃)である。
【0037】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の加工方法としては、溶融混合物をストランド状に押出しペレット形状にする方法、溶融混合物をホットカットやアンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法、シート状に押出しカッティングする方法、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法が挙げられる。
【0038】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物の成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられ、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。射出成形機は特に限定されないが、例えば、スクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融された半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の融点をTmとして、Tm以上とすることが好ましく、(Tm+50℃)未満とすることがより好ましい。なお、半芳香族ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、用いる半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットは十分に乾燥されたものを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形法に用いる半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、半芳香族ポリアミド樹脂組成物100質量部に対して、0.3質量部未満とすることが好ましく、0.1質量部未満とすることがより好ましい。
【0039】
本発明の半芳香族ポリアミド樹脂組成物を成形してなる成形体は、耐熱性、機械的特性に加えて、摺動性に特に優れているため、オートマチックトランスミッション(AT)やマニュアルトランスミッション(MT)、無段変速機(CVT)、電気・電子機器等に使用される動力機器の軸受け、各種ギア、カム、ベアリング、メカニカルシールの端面材、バルブの弁座、Vリング、ロッドパッキン、ピストンリング、圧縮機の回転軸・回転スリーブ、ピストン、インペラー、ベーン、ローター、オイルシール、ファスナー、各種スイッチ、各種ボタン、ボビン、ブッシュ、プラチェーン等として好適に用いることができる。
【実施例0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0041】
1.測定方法
半芳香族ポリアミド樹脂および半芳香族ポリアミド樹脂組成物の物性測定は以下の方法によりおこなった。
(1)融点
十分に乾燥した半芳香族ポリアミド(A)のペレット10mgを、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC-7を用いて、窒素雰囲気下、下記の条件で測定した。
昇温速度20℃/分で350℃まで昇温(1st scan)→350℃で5分間保持→降温速度20℃/分で25℃まで降温→25℃で5分間保持→再び昇温速度20℃/分で昇温(2nd scan)
2nd scanの吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。
融点が高いほど、耐熱性に優れている。
融点は、300℃以上であることが好ましく、310℃以上であることがより好ましい。
【0042】
(2)相対粘度
十分に乾燥した半芳香族ポリアミド樹脂のペレットを、96質量%硫酸に溶解させ、樹脂成分の濃度が1g/dLとなるように調製した。25℃の条件で、ウベローデ型粘度計を用いて相対粘度を測定した。
なお、樹脂以外の繊維状補強材成分を含有した樹脂組成物を測定する場合は、あらかじめ、G-3ガラスフィルターにより繊維状補強材を濾別した後測定した。
【0043】
(3)機械的特性
十分に乾燥した樹脂組成物のペレットを、射出成形機S2000i-100B型(ファナック社製)を用いて、用いた半芳香族ポリアミド樹脂の融点をTmとして、シリンダー温度(Tm+25℃)、金型温度(Tm-185℃)の条件で射出成形し、試験片(ダンベル片)を作製した。得られた試験片を用いて、ISO178に準拠して曲げ強度や曲げ弾性率を測定した。
曲げ強度や曲げ弾性率が高いほど、機械的特性に優れている。
曲げ強度は、150MPa以上であることが好ましく、200MPa以上であることがより好ましい。
曲げ弾性率は、4.0GPa以上であることが好ましく、10.0GPa以上であることがより好ましい。
【0044】
(4)メルトフローレート(MFR)
半芳香族ポリアミド樹脂組成物を用いて、JIS K 7210に従って、用いた半芳香族ポリアミド樹脂の融点をTmとして、(Tm+25℃)、1.2kgfの荷重で測定した。
【0045】
(5)比摩耗量
(3)と同様に射出成形をおこなって、40mm×40mm×3mmの成形片を作製した。得られた成形片を用いて、JIS K7218 A法に従って、鈴木式摩擦摩耗試験機(東洋ボールドウィン社製EFM-III-E型)により、相手材をS45C鋼、荷重を0.75MPa、速度0.5m/s、滑り距離3kmの条件下で摩耗試験をおこなった。成形片の摩耗試験前の質量と摩耗試験後の質量との差から、比摩耗量を求めた。
比摩耗量が少ないほど、摺動性に優れている。
【0046】
(6)耐塩化カルシウム性(耐薬品性)
(3)で得られた試験片を、60℃、90%RHの恒温恒湿槽内で平衡となるまで吸水させた。その後、1)飽和塩化カルシウム水溶液を染み込ませたガーゼを試験片に巻き付け、2)片持ち曲げ応力30MPaの荷重を加えて1時間放置し、3)ガーゼを取り除き、100℃のオーブンに1時間曝露し、4)室温で1時間冷却し、5)60℃、90%RHの恒温恒湿槽内で1時間曝露して再吸水させ、6)目視にてクラックの有無を確認した。この1)~6)のサイクルを、試験片表面にクラックが観察されるまで(最大40サイクル)繰り返し、クラックが観察されはじめたサイクル数を評価した。
耐塩化カルシウム性は、サイクル数が多いほど、耐塩化カルシウム性に優れている。耐塩化カルシウム性は、また、耐薬品性や耐吸水性の指標とすることができる。
耐塩化カルシウム性は、30サイクル以上であることが好ましく、40サイクルを超えることがより好ましい。
【0047】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
(1)ジカルボン酸成分
・テレフタル酸
(2)脂肪族ジアミン成分
・1,10-デカンジアミン
(3)モノカルボン酸成分
・ステアリン酸
【0048】
(4)半芳香族ポリアミド樹脂(A)
・半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)
芳香族ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)48.1kgと、モノカルボン酸成分としてステアリン酸(STA)1.5kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物93gとを、リボンブレンダー式の反応装置に投入し、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、脂肪族ジアミン成分として100℃に加温した1,10-デカンジアミン(DDA)50.4kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=49.3:49.8:0.9(原料モノマーの官能基の当量比率は、TPA:DDA:STA=49.5:50.0:0.5)であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、半芳香族ポリアミド樹脂の粉末を作製した。
その後、得られた半芳香族ポリアミド樹脂の粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)のペレットを得た。
【0049】
・半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)、(A-3)
樹脂組成を表1に記載の樹脂組成に変更する以外は、半芳香族ポリアミド樹脂(A-1)を製造する場合と同様の操作をおこなって半芳香族ポリアミド樹脂(A-2)、(A-3)を製造した。
【0050】
表1に、半芳香族ポリアミド樹脂(A)の樹脂組成およびその特性値を示す。
【0051】
【表1】
【0052】
(5)脂肪族ポリアミド樹脂(B)
・B-1:ポリアミド6 (A1030BRT、ユニチカ社製 相対粘度3.51)
・B-2:ポリアミド6 (A1030BRL、ユニチカ社製 相対粘度2.50)
【0053】
(5)繊維状強化材(C)
・C-1:ガラス繊維(日本電気硝子社製 T-262H、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm)
・C-2:ガラス繊維(巨石硝子社製 E8CS-10-568H、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm)
【0054】
実施例1
半芳香族ポリアミド樹脂(A―1)を99質量部と、脂肪族ポリアミド樹脂(B―1)を1質量部とをドライブレンドし、クボタ社製ロスインウェイト式連続定量供給装置CE-W-1型を用いて計量し、スクリュー径37mm、L/D40の同方向二軸押出機(東芝機械社製TEM37BS型)の主供給口に供給して、溶融混練をおこなった。途中、サイドフィーダーよりガラス繊維を100質量部供給し、さらに溶融混練をおこなった。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングして半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、330℃、スクリュー回転数250rpm、吐出量30kg/時間とした。
【0055】
実施例2~10、比較例1~5
表2のように樹脂組成を変更する以外は、実施例1と同様の操作をおこなって半芳香族ポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0056】
実施例1~10、比較例1~5で得られた半芳香族ポリアミド樹脂組成物の樹脂組成およびその特性値を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1~10の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、融点、曲げ強度、曲げ弾性率、耐塩化カルシウム性が高く、メルトフローレートが20g/10分以下であって、比摩耗量が小さい値を示した。
【0059】
比較例1の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、脂肪族ポリアミド樹脂を含有していなかったため、比摩耗量は大きな値を示した。
比較例2、3の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、脂肪族ポリアミド樹脂の含有量が多かったため、比摩耗量は大きな値を示し、耐塩化カルシウム性が劣っていた。
比較例4、5の半芳香族ポリアミド樹脂組成物は、メルトフローレートが高かったため、比摩耗量は大きな値を示した。