(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186664
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】複合膜の製造方法、及び有機無機ハイブリッド膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20221208BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20221208BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C23C14/06 G
C03C17/30 Z
C08J7/00 307
C08J7/00 CFD
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090550
(22)【出願日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2021093958
(32)【優先日】2021-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2019年度、国立研究開発法人科学技術振興機構の研究成果最適展開支援プログラム、シーズ育成タイプ、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】中島耕平
(72)【発明者】
【氏名】橋本岳人
【テーマコード(参考)】
4F073
4G059
4K029
【Fターム(参考)】
4F073AA07
4F073BA24
4F073BB01
4F073CA49
4F073CA65
4F073HA03
4G059AA01
4G059AA08
4G059AC04
4G059AC16
4G059AC18
4G059AC22
4G059FA22
4G059FA28
4K029AA09
4K029AA24
4K029BA41
4K029BA42
4K029BC02
4K029BC08
4K029BD01
4K029CA05
4K029CA06
4K029DC05
4K029DC06
4K029DC09
4K029EA05
4K029FA07
4K029JA10
4K029KA03
(57)【要約】
【課題】
新規な複合膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】
複合膜の製造方法であって、スパッタリング装置を使用し、(A)標準状態で固体の物質のターゲットと(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質の気体を用い、(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A)ターゲットを装着する工程;(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を所定の圧力に減圧する工程;(3)スパッタガスと上記(B)気体との混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が所定の圧力となるように導入する工程;及び、(4)上記(A)ターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記複合膜を形成する工程;を含む、上記製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合膜の製造方法であって、
スパッタリング装置を使用し、
(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質のターゲットと
(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質の気体を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A)ターゲットを装着する工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を所定の圧力に減圧する工程;
(3)スパッタガスと上記(B)気体との混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が所定の圧力となるように導入する工程;及び、
(4)上記(A)ターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記複合膜を形成する工程;
を含む、上記製造方法。
【請求項2】
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記混合気体の混合比(上記スパッタガスの体積/上記(B)気体の体積)が、60/40~99.999/0.001である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
上記(B)気体が有機化合物の気体を含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
上記有機化合物の気体が、飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態で気体の化合物、及び不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態で気体の化合物からなる群から選択される1種以上の化合物の気体を含む、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
上記(A)ターゲットが無機物質のターゲットである請求項1~5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
上記無機物質のターゲットが、2.6~3.7eVのバンドギャップを有する無機物質を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
上記無機物質のターゲットが酸化セリウムを含む請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置であり;
上記混合気体の混合比(上記スパッタガスの体積/上記(B)気体の体積)が、60/40~99.999/0.001であり;
上記(B)気体が有機化合物の気体を含み;
上記有機化合物の気体が、飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態で気体の化合物、及び不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態で気体の化合物からなる群から選択される1種以上の化合物の気体を含み;
上記(A)ターゲットが無機物質のターゲットであり;
上記無機物質のターゲットが2.6~3.7eVのバンドギャップを有する無機物質を含み;
上記無機物質のターゲットが酸化セリウムを含む;
請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
上記(A)ターゲットが有機化合物のターゲットである請求項1~5の何れか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
上記有機化合物のターゲットがシリコン樹脂を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置であり;
上記混合気体の混合比(上記スパッタガスの体積/上記(B)気体の体積)が、60/40~99.999/0.001であり;
上記(B)気体が有機化合物の気体を含み;
上記有機化合物の気体が、飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態で気体の化合物、及び不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態で気体の化合物からなる群から選択される1種以上の化合物の気体を含み;
上記(A)ターゲットが有機化合物のターゲットであり;
上記有機化合物のターゲットがシリコン樹脂を含む、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合膜の製造方法、及び有機無機ハイブリッド膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のウィンドウや風防等、建築物の窓や扉等、及び画像表示装置の保護板やディスプレイ面板等には、化学的安定性に優れ、かつ透明性、剛性、耐傷付性、及び耐候性などの要求特性に合致することから、無機ガラスを基材とする物品が使用されてきた。一方、無機ガラスには、耐衝撃性が低く割れ易い、加工性が低い、ハンドリングが難しい、比重が高く重い、物品の曲面化やフレキシブル化の要求に応えることが難しいなどの問題がある。そのため、ガラスに替わる材料が盛んに研究されており、ポリカーボネート系樹脂やアクリル系樹脂などの透明樹脂のシート又は板にハードコートを積層した透明樹脂積層体が提案されている(例えば、特許文献1、2)が、その耐候性、及び防汚性、特に耐候性は、紫外線に曝される環境下で使用される用途には不十分である。
【0003】
そこで、本出願人は、透明樹脂積層体の表面に、セリウム酸化物と有機弗素化合物との有機無機ハイブリッド膜を形成することを提案し、該有機無機ハイブリッド膜の製造方法として2極スパッタリングを行うことのできるスパッタリング装置を使用し、有機材料のターゲットと無機材料のターゲットを用いて製造する方法、及び有機材料と無機材料との混合物のターゲットを用いて製造する方法を提案した(特許文献3)。しかし、ロール・トゥ・ロールの方法で生産性良く有機無機ハイブリッド膜を形成しようとする場合、2極スパッタリング装置は、その仕様が複雑となり、その結果、装置の取扱、セッティングがシビアなものとなって、工業的に品質(膜厚や組成の均一性など)の安定した有機無機ハイブリッド膜を形成するのが難しくなるという不都合のあること;並びに、有機材料と無機材料とではターゲットの製造に適した方法、及び条件が大きく異なり、有機材料と無機材料との混合物のターゲットは工業的に作成が難しいという不都合のあることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-043101号公報
【特許文献2】特開2014-040017号公報
【特許文献3】特開2019-123872号公報
【特許文献4】特開2001-100008号公報
【特許文献5】特公平03-014043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、新規な複合膜の製造方法を提供することにある。本発明の更なる課題は、新規な有機無機ハイブリッド膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意研究した結果、特定の製造方法により、上記課題を達成できることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の諸態様は以下の通りである。
[1].
複合膜の製造方法であって、
スパッタリング装置を使用し、
(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質のターゲットと
(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質の気体を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A)ターゲットを装着する工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を所定の圧力に減圧する工程;
(3)スパッタガスと上記(B)気体との混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が所定の圧力となるように導入する工程;及び、
(4)上記(A)ターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記複合膜を形成する工程;
を含む、上記製造方法。
[2].
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置である[1]項に記載の製造方法。
[3].
上記混合気体の混合比(上記スパッタガスの体積/上記(B)気体の体積)が、60/40~99.999/0.001である、[1]項又は[2]項に記載の製造方法。
[4].
上記(B)気体が有機化合物の気体を含む[1]~[3]項の何れか1項に記載の製造方法。
[5].
上記有機化合物の気体が、飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物、及び不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物からなる群から選択される1種以上の化合物の気体を含む、[4]項に記載の製造方法。
[6].
上記(A)ターゲットが無機物質のターゲットである[1]~[5]項の何れか1項に記載の製造方法。
[7].
上記無機物質のターゲットが2.6~3.7eVのバンドギャップを有する無機物質を含む、[6]項に記載の製造方法。
[8].
上記無機物質のターゲットが酸化セリウムを含む[6]項又は[7]項に記載の製造方法。
[9].
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置であり;
上記混合気体の混合比(上記スパッタガスの体積/上記(B)気体の体積)が、60/40~99.999/0.001であり;
上記(B)気体が有機化合物の気体を含み;
上記有機化合物の気体が、飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物、及び不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物からなる群から選択される1種以上の化合物の気体を含み;
上記(A)ターゲットが無機物質のターゲットであり;
上記無機物質のターゲットが2.6~3.7eVのバンドギャップを有する無機物質を含み;
上記無機物質のターゲットが酸化セリウムを含む;[1]項に記載の製造方法。
[10].
上記(A)ターゲットが有機化合物のターゲットである[1]~[5]項の何れか1項に記載の製造方法。
[11].
上記有機化合物のターゲットが、シリコン樹脂を含む、[10]項に記載の製造方法。
[12].
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置であり;
上記混合気体の混合比(上記スパッタガスの体積/上記(B)気体の体積)が、60/40~99.999/0.001であり;
上記(B)気体が有機化合物の気体を含み;
上記有機化合物の気体が、飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物、及び不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物からなる群から選択される1種以上の化合物の気体を含み;
上記(A)ターゲットが有機化合物のターゲットであり;
上記有機化合物のターゲットがシリコン樹脂を含む、[1]項に記載の製造方法。
【0008】
本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法の諸態様は以下の通りである。
[1].
有機無機ハイブリッド膜の製造方法であって、
スパッタリング装置を使用し、
無機物質のターゲットと有機化合物の気体を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記無機物質のターゲットを装着する工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を所定の圧力に減圧する工程;
(3)スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が所定の圧力となるように導入する工程;及び、
(4)上記無機物質のターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記有機無機ハイブリッド膜を形成する工程;
を含む、上記製造方法。
[2].
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置である[1]項に記載の製造方法。
[3].
上記混合気体の混合比(上記スパッタガスの体積/上記有機化合物の気体の体積)が、60/40~99.999/0.001である、[1]項又は[2]項に記載の製造方法。
[4].
上記有機化合物の気体が、飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物、及び不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物からなる群から選択される1種以上の化合物の気体を含む、[1]~[3]項の何れか1項に記載の製造方法。
[5].
上記無機物質のターゲットが、2.6~3.7eVのバンドギャップを有する無機物質を含む、[1]~[4]項の何れか1項に記載の製造方法。
[6].
上記無機物質のターゲットが酸化セリウムを含む[1]~[5]項の何れか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合膜の製造方法は、ロール・トゥ・ロールの方法で生産性良く複合膜を形成しようとする場合、2極スパッタリング装置は、その仕様が複雑となり、その結果、装置の取扱、セッティングがシビアなものとなって、工業的に品質(膜厚や組成の均一性など)の安定した複合膜を形成するのが難しくなるという不都合が根本的に解決されている。そのため、複合膜の製造方法、特にロール・トゥ・ロールの方法で生産性良く複合膜を形成しようとする場合の製造方法として好適である。
【0010】
本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法は、ロール・トゥ・ロールの方法で生産性良く有機無機ハイブリッド膜を形成しようとする場合、2極スパッタリング装置は、その仕様が複雑となり、その結果、装置の取扱、セッティングがシビアなものとなって、工業的に品質(膜厚や組成の均一性など)の安定した有機無機ハイブリッド膜を形成するのが難しくなるという不都合;並びに、有機材料と無機材料とではターゲットの製造に適した方法、及び条件が大きく異なり、有機材料と無機材料との混合物のターゲットは工業的に作成が難しいという不都合が根本的に解決されている。そのため、有機無機ハイブリッド膜の製造方法、特にロール・トゥ・ロールの方法で生産性良く有機無機ハイブリッド膜を形成しようとする場合の製造方法として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「無機物質」の用語は、2種以上の無機物質を含む混合物をも含む用語として使用する。「有機化合物」の用語は、2種以上の有機化合物を含む混合物をも含む用語として使用する。「樹脂」の用語は、2種以上の樹脂を含む樹脂混合物や、樹脂以外の成分を含む樹脂組成物をも含む用語として使用する。
【0012】
本明細書において「フィルム」の用語は、「シート」と相互交換的に又は相互置換可能に使用する。本明細書において、「フィルム」及び「シート」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできるものに使用する。「板」の用語は、工業的にロール状に巻き取ることのできないものに使用する。また本明細書において、ある層と他の層とを順に積層することは、それらの層を直接積層すること、及び、それらの層の間にアンカーコートなどの別の層を1層以上介在させて積層することの両方を含む。
【0013】
本明細書において数値範囲に係る「以上」の用語は、ある数値又はある数値超の意味で使用する。例えば、20%以上は、20%又は20%超を意味する。数値範囲に係る「以下」の用語は、ある数値又はある数値未満の意味で使用する。例えば、20%以下は、20%又は20%未満を意味する。また数値範囲に係る「~」の記号は、ある数値、ある数値超かつ他のある数値未満、又は他のある数値の意味で使用する。ここで、他のある数値は、ある数値よりも大きい数値とする。例えば、10~90%は、10%、10%超かつ90%未満、又は90%を意味する。更に、数値範囲の上限と下限とは、任意に組み合わせることができるものとし、任意に組み合わせた実施形態が読み取れるものとする。例えば、ある特性の数値範囲に係る「通常10%以上、好ましくは20%以上である。一方、通常40%以下、好ましくは30%以下である。」や「通常10~40%、好ましくは20~30%である。」という記載から、そのある特性の数値範囲は、一実施形態において10~40%、20~30%、10~30%、又は20~40%であることが読み取れるものとする。
【0014】
実施例以外において、又は別段に指定されていない限り、本明細書及び特許請求の範囲において使用されるすべての数値は、「約」という用語により修飾されるものとして理解されるべきである。特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限しようとすることなく、各数値は、有効数字に照らして、及び通常の丸め手法を適用することにより解釈されるべきである。
【0015】
本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば、平行、直交、及び垂直などの用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。
【0016】
本明細書において、「複合膜」とは、2種類以上の物質のそれぞれに由来する原子を含む膜を意味する。本明細書において、「有機無機ハイブリッド膜」とは、無機物質に由来する原子、及び有機化合物に由来する原子を含む膜を意味する。
【0017】
本発明の複合膜の製造方法は、
スパッタリング装置を使用し、
(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質のターゲットと
(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質の気体を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A)ターゲットを装着する工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を所定の圧力に減圧する工程;
(3)スパッタガスと上記(B)気体との混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が所定の圧力となるように導入する工程;及び、
(4)上記(A)ターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記複合膜を形成する工程;
を含む。
【0018】
本発明の複合膜の製造方法により形成される複合膜は、上記(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質に由来する原子、及び上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質に由来する原子を含む。
【0019】
本発明の複合膜の製造方法により形成される複合膜は、典型的な一実施形態において、上記(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質に由来する原子、及び上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質に由来する原子を含み、かつ一方の物質(通常は上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質と考えられる)により変性された他方の物質(通常は上記(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質と考えられる)を含むものであってよい。
【0020】
以下、本発明の複合膜の製造方法を、本発明の複合膜の製造方法であって、有機無機ハイブリッド膜の製造方法である場合を主に例として挙げて説明する。有機無機ハイブリッド膜以外の複合膜を製造する場合には、「有機無機ハイブリッド膜」とあるのは「複合膜」と、「無機化合物のターゲット」とあるのは「(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質のターゲット」と、「有機化合物の気体」とあるのは「(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質の気体」と適宜読み替えて、本発明の複合膜の製造方法を実施すればよいことは言うまでもない。
【0021】
1.スパッタリング装置:
本発明の複合膜の製造方法は、スパッタリング装置を使用する。また、本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法は、スパッタリング装置を使用する。該スパッタリング装置としては、特に制限されず、公知のスパッタリング装置を使用することができる。上記スパッタリング装置としては、有機無機ハイブリッド膜を生産性良く形成する観点から、フィルムロールからフィルム基材を繰り出し、該フィルム基材の面の上に有機無機ハイブリッド膜を形成した後、フィルムロールとして巻き取る機構を有するスパッタリング装置(以下、「ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置」と言うことがある)が好ましい。
【0022】
図1はロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置の一例を示す概念図である。以下、
図1を適宜参照しながらロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置について説明する。
図1の装置は、スパッタ室1内に、繰り出しロール2、移送ロール3、スパッタロール4、移送ロール3’、及び巻き取りロール5を有し、これらにより、フィルムロール12からフィルム基材10を繰り出し、フィルム基材10の面の上に有機無機ハイブリッド膜(図示せず)を形成した後、フィルム基材10の面の上に該有機無機ハイブリッド膜(図示せず)を有する積層体11をフィルムロール12’として巻き取ることができるようになっている。
【0023】
ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置としては、2個以上のスパッタロールを有する装置を使用してもよい。2個以上のターゲット設置冶具を容易に設置できるようになり、これにより2個以上のターゲットを使用して成膜速度を高め、ライン速度(生産性)を高めることができるようになる。また1個目のスパッタロールにおいて、フィルム基材の面の上にアンカー膜(フィルム基材と有機無機ハイブリッド膜との層間密着強度を高めるためのアンカーとして機能する膜)を形成した後、2個目以後のスパッタロールにおいて、該アンカー膜の面の上に有機無機ハイブリッド膜を形成することにより、1回のパスで、上記フィルム基材、上記アンカー膜、及び上記有機無機ハイブリッド膜を有する積層体を得ることができるようになる。
【0024】
スパッタ室1はスパッタガス導入口6を有し、気体をスパッタガス導入口6からスパッタ室1内に導入することができるようになっている。
【0025】
スパッタ室1は排気口7を有し、排気装置(図示せず)を使用して排気口7から排気し、所定の圧力に保つことができるようになっている。上記排気装置としては、上記所定の圧力を保つことのできる能力を有するものであれば、特に制限されない。上記排気装置としては、例えば、油回転ポンプなどの容積移送式真空ポンプ、ターボ分子ポンプなどの運動量輸送式真空ポンプ、クライオポンプなどの気体溜め込み式真空ポンプ、及びこれらの組み合わせなどをあげることができる。
【0026】
図1の装置は、2個のターゲット設置冶具8、8’を有し、各1個(合計2個)のターゲット9、9’を装着することができるようになっている。そして、ターゲット設置冶具8、8’に装着されたターゲット9、9’には、成膜条件を適宜調整することができるようにするため、それぞれ別のインピーダンス整合装置(図示せず)、高周波電源(図示せず)が接続されており、ターゲット9、9’への投入電力を個別に制御することができるようになっている。またターゲット設置冶具8、8’の内部には、水などの媒体の流路が設けられており、ターゲット9、9’の温度を所定の温度に制御できるようになっている。
【0027】
ターゲット設置冶具8、8’に装着されたターゲット9、9’はスパッタロール4に対向配置されている。ターゲット9とスパッタロール4との距離(ターゲット9’とスパッタロール4との距離)は、特に制限されないが、通常1~20cm、好ましくは3~15cm、より好ましくは5~12cm程度であってよい。
【0028】
2.(A)標準状態で固体の物質のターゲット:
本発明の複合膜の製造方法は、(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質のターゲットを用いる。即ち、本発明の複合膜の製造方法により生産される複合膜は、上記(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質に由来する原子を含む。
【0029】
上記(A)物質は標準状態(温度25℃、圧力100KPa)において安定的に固体の状態を保つことのできる物質であること、好ましくは標準状態(温度25℃、圧力100KPa)、及び上記複合膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に固体の状態を保つことのできる物質であること以外は特に制限されない。
【0030】
上記(A)物質は、無機物質であってもよく、有機化合物であってもよい。
【0031】
上記(A)物質は、好ましい実施形態の1つにおいて、シリコン樹脂であってよい。該シリコン樹脂は、シロキサン結合 (Si-O-Si)を主骨格とする高分子化合物である。上記シリコン樹脂としては、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジエチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、及びポリジフェニルシロキサン、並びにこれらの変性体などをあげることができる。上記シリコン樹脂としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0032】
上記(A)物質は標準状態(温度25℃、圧力100KPa)において安定的に固体の状態を保つことのできる物質、好ましくは標準状態(温度25℃、圧力100KPa)、及び上記複合膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に固体の状態を保つことのできる物質の中から、上記複合膜に付与しようとする特性、機能を勘案して適宜選択することができる。
【0033】
上記(A)物質は、取扱性の観点から、公知の方法により成形し、成形体をターゲットとして用いることが好ましい。上記(A)物質が無機物質の場合、該方法としては、焼結などの方法をあげることができる。上記(A)物質が有機化合物の場合、該方法としては、射出成形、注型固化などの方法をあげることができる。上記(A)物質のターゲットの形状は、使用するスパッタリング装置の仕様を勘案し、上記複合膜の膜厚が均一になるようにする観点から適宜選択することができる。
【0034】
2-1.無機物質のターゲット:
本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法は、無機物質のターゲットを用いる。即ち、本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法により生産される有機無機ハイブリッド膜は、上記無機物質に由来する原子を含む。
【0035】
上記無機物質は標準状態(温度25℃、圧力100KPa)において安定的に固体の状態を保つことのできる無機物質であること、好ましくは標準状態(温度25℃、圧力100KPa)、及び上記有機無機ハイブリッド膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に固体の状態を保つことのできる無機物質であること以外は特に制限されない。
【0036】
上記無機物質は標準状態(温度25℃、圧力100KPa)において安定的に固体の状態を保つことのできる無機物質、好ましくは標準状態(温度25℃、圧力100KPa)、及び上記有機無機ハイブリッド膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に固体の状態を保つことのできる無機物質の中から、上記有機無機ハイブリッド膜に付与しようとする特性、機能を勘案して適宜選択することができる。
【0037】
上記有機無機ハイブリッド膜に低い紫外線透過率を付与しようとする場合に用いる上記無機物質としては、有機化合物の炭素・炭素結合のエネルギー(3.82eV)以上のエネルギーを有する紫外線の透過率を十分に低くする観点、更には波長380nmの紫外線(エネルギーは3.26eV)の透過率も十分に低くする観点から、バンドギャップが通常3.7eV以下、好ましくは3.6eV以下、より好ましくは3.5eV以下、更に好ましくは3.4eV以下、より更に好ましくは3.3eV以下、最も好ましくは3.25eV以下である無機物質をあげることができる。
【0038】
上記有機無機ハイブリッド膜に高い可視光線透過率を付与しようとする場合に用いる上記無機物質としては、波長490nm以上の可視光線(波長490nmの可視光線のエネルギーは2.53eV)を十分に透過させる観点、更には波長400nm以上の可視光線(波長400nmの可視光線のエネルギーは3.10eV)を十分に透過させる観点から、バンドギャップが通常2.6eV以上、好ましくは2.7eV以上、より好ましくは2.8eV以上、更に好ましくは2.9eV以上、より更に好ましくは3.0eV以上、更に更に好ましくは3.1eV以上、最も好ましくは3.15eV以上である無機物質をあげることができる。
【0039】
ここで、バンドギャップは、無機物質の結晶バンド構造において、電子に占有された最も高いエネルギーバンドの頂上から、最も低い空のバンドの底までの間のエネルギー準位である。光子が、光子のエネルギーよりもバンドギャップの小さい物質に入射した場合、光子により電子が励起され、光子が反射される現象が高い確率で起こる。一方、光子が、光子のエネルギーよりもバンドギャップの大きい物質に入射した場合は、光子により電子が励起されることなく、光子が透過する現象が高い確率で起こる。理論に拘束される意図はないが、バンドギャップが紫外線のエネルギーよりも小さく、かつ可視光線のエネルギーよりも大きい無機物質を用いることにより、紫外線透過率の低く、かつ可視光線透過率の高い有機無機ハイブリッド膜を形成することができると考えられる。
【0040】
上記有機無機ハイブリッド膜に低い紫外線透過率、かつ高い可視光線透過率を付与しようとする場合に用いる上記無機物質としては、例えば、二酸化セリウム(3.2eV)、及び三酸化二セリウムなどの酸化セリウム、二酸化チタン(アナターゼ型3.2eV、ルチル型3.0eV)、窒化ガリウム(3.4eV)、酸化亜鉛(3.37eV)、硫化亜鉛(3.6eV)、及び炭化ケイ素(2.86eV)などをあげることができる。括弧内の数値はバンドギャップである。これらの中で、二酸化セリウム、及び三酸化二セリウムなどの酸化セリウム、並びにアナターゼ型二酸化チタンが好ましく、二酸化セリウムがより好ましい。
【0041】
上記無機物質としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0042】
上記無機物質は、取扱性の観点から、予め焼結などの公知の方法により成形し、焼結体などの成形体をターゲットとして用いることが好ましい。上記無機物質のターゲット(焼結体などの成形体)の形状は、使用するスパッタリング装置の仕様を勘案し、上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚が均一になるようにする観点から適宜選択することができる。
【0043】
上記スパッタリング装置としてロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用する場合、上記無機物質のターゲットの形状は、該ターゲットと対向配置されるスパッタロールの仕様(幅、直径)、上記ターゲットと上記スパッタロールとの距離、使用するフィルム基材の幅、及び該フィルム基材の面の上に有機無機ハイブリッド膜を有する積層体の有効幅(該積層体の製品としての幅)を勘案し、上記積層体の有効幅内において、上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚や組成が均一になるように、特に該膜厚や該組成の横方向の振れが生じないようにする観点、及び上記スパッタロールの汚染を抑制する観点から適宜選択することができる。
【0044】
上記スパッタリング装置としてロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用する場合、上記無機物質のターゲットの形状は直方体であってよい。該直方体の横の長さ(該直方体の縦横面において、スパッタロールと対向配置したとき、該スパッタロールの幅方向に対応する辺の長さ)は、上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚や組成の均一性を高めて上記積層体の有効幅を広くする観点から、通常、上記積層体の有効幅以上の長さ、好ましくは上記フィルム基材の幅以上の長さ、より好ましくは上記フィルム基材の幅+3cm以上の長さであってよい。
【0045】
ターゲットとスパッタロールとの間に、スパッタロールの汚染を抑制する観点から、スパッタロールの脇をマスクする形状の防着板を、スパッタロールの両方の脇のそれぞれに対向する位置に設けるのは、好ましい実施形態の1つである。ここで、「スパッタロールの脇」とは、スパッタロールにフィルム基材を抱かせたとき、該フィルム基材に覆われている部分の脇のスパッタロールが露出している部分を意味する。
図2は防着板を設けたロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置の1例を示す写真である。
図2の装置では、スパッタロール4の脇をマスクする形状の防着板13が、防着板取付冶具14により、スパッタロール4の脇と対向する位置に取り付けられている。そして、上記無機物質のターゲットは、防着板13、防着板取付冶具14、写真で示した側とは反対側の防着板、写真で示した側とは反対側の防着板取付冶具で構成される空間内に、スパッタロール4と対向するように設置されている。
【0046】
上記無機物質のターゲットの形状は、例えば、上記スパッタロールが幅70cm、直径40cm、上記ターゲットと上記スパッタロールとの距離8cm、上記フィルム基材の幅50cm、上記積層体の有効幅40cmである場合には、縦の長さが通常1~30cm、好ましくは5~20cm、横の長さが通常40~60cm、好ましくは53~58cm、及び高さが通常0.1~5cm、好ましくは0.2~2cm程度の直方体であってよい。
【0047】
3.(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質の気体:
本発明の複合膜の製造方法は、(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質の気体を用いる。即ち、本発明の複合膜の製造方法により生産される複合膜は、上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質に由来する原子を含む。
【0048】
本発明の複合膜の製造方法は、複合膜を形成する一方の物質としては気体を用い、ターゲットは用いない。そのため、ロール・トゥ・ロールの方法で生産性良く複合膜を形成しようとする場合における、2極スパッタリング装置は、その仕様が複雑となり、その結果、装置の取扱、セッティングがシビアなものとなって、工業的に品質(膜厚や組成の均一性など)の安定した複合膜を形成するのが難しくなるという不都合は、根本的に解決されている。
【0049】
上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質は、上記スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質であること、即ち、上記複合膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に気体の状態を保つことのできる物質であること以外は特に制限されない。上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質は、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の物質に限定されない。上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質は、加温(通常、上記フィルム基材の実使用可能な上限の温度以下)、又は/及び減圧により気体となる物質であってよい。上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質は、上記スパッタガスと上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質の気体とを混合し、両者の混合気体を調製する際の作業性の観点から、好ましくは標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の物質であってよい。
【0050】
上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質は、有機化合物であってもよく、無機物質であってもよい。
【0051】
上記(B)スパッタガスとの混合気体を調製可能な物質は、上記複合膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に気体の状態を保つことのできる物質の中から、上記複合膜に付与しようとする特性、機能を勘案して適宜選択することができる。
【0052】
3-1.有機化合物の気体:
本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法は、有機化合物の気体を用いる。即ち、本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法により生産される有機無機ハイブリッド膜は、上記有機化合物の気体に由来する原子を含む。
【0053】
本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法は、有機化合物としては気体を用い、有機化合物のターゲット(有機化合物のターゲットとしての成形体)は用いない。そのため、ロール・トゥ・ロールの方法で生産性良く有機無機ハイブリッド膜を形成しようとする場合における、2極スパッタリング装置は、その仕様が複雑となり、その結果、装置の取扱、セッティングがシビアなものとなって、工業的に品質(膜厚や組成の均一性など)の安定した有機無機ハイブリッド膜を形成するのが難しくなるという不都合;並びに、有機材料と無機材料とではターゲットの製造に適した方法、及び条件が大きく異なり、有機材料と無機材料との混合物のターゲットは工業的に作成が難しいという不都合は、何れも根本的に解決されている。
【0054】
上記有機化合物は、上記有機無機ハイブリッド膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に気体の状態を保つことのできる有機化合物であること以外は特に制限されない。上記有機化合物は、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の有機化合物に限定されない。上記有機化合物は、加温(通常、上記フィルム基材の実使用可能な上限の温度以下)、又は/及び減圧により気体となる有機化合物であってよい。上記有機化合物は、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体とを混合し、両者の混合気体を調製する際の作業性の観点から、好ましくは標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の有機化合物であってよい。
【0055】
上記有機化合物は、上記有機無機ハイブリッド膜を形成する際の各工程における圧力、温度において、安定的に気体の状態を保つことのできる有機化合物の中から、上記有機無機ハイブリッド膜に付与しようとする特性、機能を勘案して適宜選択することができる。
【0056】
上記有機無機ハイブリッド膜に撥水機能、防汚性を付与しようとする場合に用いる上記有機化合物としては、例えば、有機弗素化合物をあげることができる。上記有機弗素化合物は、弗素・炭素結合を有する化合物であり、典型的には炭化水素などの有機化合物の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物である。上記有機弗素化合物は、好ましくは標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の有機化合物であってよい。
【0057】
上記有機弗素化合物としては、例えば、テトラフルオロメタン、トリフルオロメタン、ジフルオロメタン、フルオロメタン、及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンなどの飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物;並びに、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、弗化ビニリデン、弗化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、トリフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレン等のα-オレフィンの1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物などの不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって、標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物などをあげることができる。
【0058】
上記有機化合物としては、これらの1種又は2種以上の混合物を用いることができる。
【0059】
4.基材:
本発明の複合膜の製造方法は、基材の少なくとも一方の面の上に上記複合膜を形成する。上記基材は、該基材の少なくとも一方の面の上に上記複合膜を有する積層体又は成形体(以下、上記基材の少なくとも一方の面の上に上記複合膜を有する上記積層体又は上記成形体の意味で単に「上記積層体」ということがある。ここで、単に「上記積層体」というとき、上記基材の少なくとも一方の面の上に上記有機無機ハイブリッド膜を有する上記積層体又は上記成形体の意味も含んでいることに留意されたい)の用途に応じて適宜選択することができる。本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法は、基材の少なくとも一方の面の上に上記有機無機ハイブリッド膜を形成する。上記基材は、該基材の少なくとも一方の面の上に上記有機無機ハイブリッド膜を有する積層体又は成形体(以下、上記基材の少なくとも一方の面の上に上記有機無機ハイブリッド膜を有する上記積層体又は上記成形体の意味で単に「上記積層体」ということがある)の用途に応じて適宜選択することができる。
【0060】
上記基材の複合膜形成面は、平滑であってもよく、凹凸などの三次元形状を有するものであってもよい。ここで、「三次元形状」とは、凹凸などの非平面形状を少なくともその一部に含む形状を意味する。上記基材の上記有機無機ハイブリッド膜形成面は、平滑であってもよく、凹凸などの三次元形状を有するものであってもよい。上記基材は、典型的な実施形態の1つにおいて、フィルム、シート、又は板である。
【0061】
上記基材としては、例えば、ソーダライムガラス、硼珪酸ガラス、及び石英ガラスなどの無機ガラスフィルム、無機ガラスシート又は無機ガラス板をあげることができる。
【0062】
上記基材としては、例えば、トリアセチルセルロース等のセルロースエステル系樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;エチレンノルボルネン共重合体等の環状炭化水素系樹脂;ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、及びビニルシクロヘキサン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体等のアクリル系樹脂;芳香族ポリカーボネート系樹脂;ポリプロピレン、及び4-メチル-ペンテン-1等のポリオレフィン系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリマー型ウレタンアクリレート系樹脂;及びポリイミド系樹脂;などの樹脂フィルム、樹脂シート、又は樹脂板をあげることができる。これらの樹脂フィルムは無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムを包含する。またこれらの樹脂フィルムは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂フィルムを包含する。これらの樹脂シートは無延伸シート、一軸延伸シート、及び二軸延伸シートを包含する。またこれらの樹脂シートは、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂シートを包含する。これらの樹脂板は、これらの1種又は2種以上を、2層以上積層した積層樹脂板を包含する。
【0063】
上記基材としては、その少なくとも一方の面の上に、機能層を有するものを用いてもよい。上記複合膜の形成面は該機能層側の面であってもよく、上記機能層とは反対側の面であってもよい。上記基材としては、上記樹脂フィルム、上記樹脂シート、又は上記樹脂板の少なくとも一方の面の上に、機能層を有するものを用い、該機能層側の面、又は上記機能層とは反対側の面を上記有機無機ハイブリッド膜の形成面としてもよい。
【0064】
上記機能層としては、例えば、硬度向上機能、アンカー機能、低屈折率、高屈折率、赤外線遮蔽、赤外線反射、紫外線遮蔽、電磁波遮蔽、電磁波反射、視界制御(目隠し)、及び視野角制御などの機能を有するものをあげることができる。上記機能層は、塗料を用いて形成される塗膜(ハードコートを含む)であってもよく、スパッタリング法、真空蒸着法、及び化学気相成長法などのドライコーティング法で形成される膜であってもよい。
【0065】
上記基材として無機ガラスを用いる場合、無機ガラスフィルム、無機ガラスシート又は無機ガラス板の厚みは特に制限されず、所望により任意の厚みにすることができる。上記積層体の取扱性の観点からは、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。また無機ガラスの耐衝撃性の観点からは、通常0.8mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.5mm以上であってよい。上記積層体を使用された物品の軽量化の観点から、通常6mm以下、好ましくは4.5mm以下、より好ましくは3mm以下であってよい。
【0066】
上記基材として樹脂を用いる場合、樹脂フィルム、樹脂シート、又は樹脂板の厚みは、特に制限されず、所望により任意の厚みにすることができる。上記積層体の取扱性の観点からは、通常20μm以上、好ましくは50μm以上であってよい。上記積層体を高い剛性を必要としない用途に用いる場合には、経済性の観点から、通常250μm以下、好ましくは150μm以下であってよい。上記積層体を高い剛性を必要とする用途に用いる場合には、剛性を保持する観点から、通常300μm以上、好ましくは500μm以上、より好ましくは600μm以上であってよい。また上記積層体を使用された物品の薄型化の要求に応える観点から、通常1500μm以下、好ましくは1200μm以下、より好ましくは1000μm以下であってよい。
【0067】
上記基材は透明であってもよく、不透明であってもよく、着色透明であってもよく、着色不透明(隠蔽性を有するもの)であってもよい。上記積層体の用途を勘案し、適宜選択することができる。
【0068】
上記有機無機ハイブリッド膜に高い可視光線透過率を付与しようとする場合には、該有機無機ハイブリッド膜の可視光線透過率の高さを活用する観点から、上記基材の可視光線透過率は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上、更に好ましくは90%以上、最も好ましくは92%以上であってよい。この場合、上記基材の可視光線透過率は高いほど好ましい。ここで可視光線透過率は、透過スペクトルを波長400~780nmの区間について積分した面積の、波長400~780nmの全範囲において透過率が100%であると仮定した場合の透過スペクトルを波長400~780nmの区間について積分した面積に対する割合である。可視光線透過率は、例えば、JIS A5759:2008の6.4可視光線透過率試験に準拠し、島津製作所株式会社の分光光度計「SolidSpec-3700(商品名)」を使用して測定することができる。
【0069】
上記複合膜の厚みは、上記複合膜に付与しようとする特性、機能、及び上記積層体の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記複合膜の厚みは、耐クラック性の観点から、通常1μm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、最も好ましくは120nm以下であってよい。一方、上記複合膜により付与しようとする特性、機能を確実に得る観点から、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上、最も好ましくは40nm以上であってよい。
【0070】
上記有機無機ハイブリッド膜の厚みは、上記有機無機ハイブリッド膜に付与しようとする特性、機能、及び上記積層体の用途を勘案し、適宜選択することができる。上記有機無機ハイブリッド膜の厚みは、耐クラック性の観点から、通常1μm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、最も好ましくは120nm以下であってよい。一方、上記有機無機ハイブリッド膜により付与しようとする特性、機能を確実に得る観点から、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上、最も好ましくは40nm以上であってよい。
【0071】
5.第1の実施形態:
本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法であって、
図1に概念図を示すロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用する実施形態の一例を説明する。
【0072】
先ず、無機物質のターゲット9、9’をターゲット設置冶具8、8’にそれぞれ装着する。無機物質のターゲット9と無機物質のターゲット9’とは同一の無機物質のターゲットであってもよく、互いに異なる無機物質のターゲットであってもよい。無機物質のターゲット9と無機物質のターゲット9’とは、有機無機ハイブリッド膜の組成の均一性の観点から、好ましくは同一の無機物質のターゲットであってよい。
【0073】
次に、フィルム基材10を通紙する。即ち、繰り出しロール2にフィルム基材10のフィルムロール12を、巻き取りロール5に巻き取り管(図示せず)をセットし、フィルム基材10をフィルムロール12から繰り出し、移送ロール3を介してスパッタロール4に抱かせ、移送ロール3’を介して、巻き取りロール5にセットした上記巻き取り管で巻き取ることができるようにする。なお、フィルム基材10の通紙は、無機物質のターゲット9、9’をターゲット設置冶具8、8’にそれぞれ装着する前に行ってもよい。
【0074】
次に、スパッタ室1内を、排気装置により排気口7から排気して、成膜時のスパッタ室1内の所定の圧力以下に減圧する。上記所定の圧力は、通常10-5~10-2Pa程度、好ましくは10-4~6×10-3Pa程度であってよい。
【0075】
次に、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合気体を、スパッタガス導入口6からスパッタ室1内に、成膜時にスパッタ室1内が所定の圧力となるように導入する。このとき、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体をそれぞれ準備し、両者の気体流を合流、混合させながら導入してもよく、上記スパッタガスと上記有機化合物との上記混合気体を予め準備し、これを導入してもよい。また上記混合気体の導入量は固定したまま、排気口7の開度をフィードバック制御してスパッタ圧力を一定にしてもよい。
【0076】
上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比は、上記有機無機ハイブリッド膜の組成(上記無機物質に由来する原子数と上記有機化合物に由来する原子数との比)が所望の組成となるようにする観点、及びスパッタリング効率の観点から適宜決定することができる。上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比(上記スパッタガスの体積/上記有機化合物の気体の体積)は、上記有機化合物の種類にもよるが、通常60/40~99.999/0.001、好ましくは70/30~99.99/0.01、より好ましくは80/20~99.95/0.05、更に好ましくは90/10~99.9/0.1であってよい。
【0077】
上記スパッタガスは、スパッタリングに用い得るガスである限り特に限定されず、公知の何れのスパッタガスであってもよい。上記スパッタガスとしては、例えば、アルゴン、及びクリプトンなどの不活性ガス;並びに、これらと酸素、及び窒素などとの混合ガスなどをあげることができる。
【0078】
上記有機化合物として、加温(通常、上記フィルム基材の実使用可能な上限の温度以下)、又は/及び減圧により気体となる有機化合物を用いる場合には、予め所定の温度、圧力にして気体の状態にして用いることは言うまでもない。この場合、スパッタ室1内の温度も所定の温度にすることが好ましい。
【0079】
上記成膜時のスパッタ室1内の所定の圧力(スパッタ圧力)は、放電を安定化し、連続的な成膜ができるようにする観点から、通常0.05~5Pa、好ましくは0.1~1Paであってよい。
【0080】
続いて、無機物質のターゲット9、9’にそれぞれ所定の電力(通常、高周波数電力)を投入し、放電を行わせ、放電状態が安定したところで、フィルム基材10を所定のライン速度で走行させながら、フィルム基材10の面の上に有機無機ハイブリッド膜を形成する。このとき、ターゲット設置冶具8、8’には所定の流量で所定の温度の冷却水を流し、無機物質のターゲット9、9’の温度を所定の温度に制御する。
【0081】
理論に拘束される意図はないが、直接的に電力が投入されるのは無機物質のターゲットのみであるにも係らず、形成されるスパッタ膜が有機無機ハイブリッド膜となる理由は、無機物質のターゲットの近傍に存在する有機化合物の気体が、無機物質のターゲットに電力が投入されることにより生じる磁界に捕獲され、該磁界内に高密度に存在するスパッタガス、及びプラズマ化したスパッタガスと衝突して弾かれるためである、即ち、無機物質のターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、有機化合物の気体も付随してスパッタリングされるためであると考察している。
【0082】
上記有機無機ハイブリッド膜の組成(上記無機物質に由来する原子数と上記有機化合物に由来する原子数との比)は、無機物質のターゲット9、9’に投入する電力、及び上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比を調整することにより、所望の組成となるようにすることができる。なお、投入電力量、及び混合比と組成との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0083】
上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚は、無機物質のターゲット9、9’に投入する電力、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合気体の流量(成膜時のスパッタ室1内の圧力)、及びライン速度(フィルム基材10の走行速度)を調整することにより、所望の膜厚となるようにすることができる。なお、投入電力量、混合比、混合気体の流量、及びライン速度と膜厚との関係は、予備実験を行って求めることができる。またフィルム基材10を所定距離で往復させて、スパッタロール4の無機物質のターゲット9、9’ に対向する位置(即ち、上記有機無機ハイブリッド膜が形成される位置)を2回以上通過させてもよい。ライン速度(フィルム基材10の走行速度)を速めて、フィルム基材10が熱により撓む、フィルム基材10が撓むことにより上記有機無機ハイブリッド膜が割れるなどのトラブルを抑制することができる。また上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚を厚くしようとする場合においても、安定したライン速度を確保することが容易になる。
【0084】
上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚は、該有機無機ハイブリッド膜に付与しようとする機能、及び上記基材の少なくとも一方の面の上に上記有機無機ハイブリッド膜を有する上記積層体又は上記成形体の用途を勘案して適宜決定することができる。
【0085】
上記有機無機ハイブリッド膜に低い紫外線透過率を付与しようとする場合、上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚は、紫外線透過率を低くする観点から、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上、最も好ましくは40nm以上であってよい。一方、耐クラック性の観点から、通常1μm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、最も好ましくは120nm以下であってよい。
【0086】
上記有機無機ハイブリッド膜を形成後、温度50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、かつフィルム基材10の耐熱性を勘案した温度以下において、作業性や生産性の観点から、好ましくは150℃以下の温度において、アニール処理することは好ましい。上記有機無機ハイブリッド膜の特性を安定化することができる。
【0087】
6.第2の実施形態:
本発明の有機無機ハイブリッド膜の製造方法であって、
図3に概念図を示すバッチ方式のスパッタリング装置を使用する実施形態の一例を説明する。
【0088】
先ず、無機物質のターゲット16、16’をターゲット設置冶具15、15’にそれぞれ装着する。無機物質のターゲット16と無機物質のターゲット16’とは同一の無機物質のターゲットであってもよく、互いに異なる無機物質のターゲットであってもよい。無機物質のターゲット16と無機物質のターゲット16’とは、有機無機ハイブリッド膜の組成の均一性の観点から、好ましくは同一の無機物質のターゲットであってよい。
【0089】
次に、スパッタテーブル18に基材19を取り付け、所定の回転速度で回転させる。スパッタテーブル18の上記所定の回転速度は、通常1~1000回転/分、好ましくは2~50回転/分であってよい。また上記有機無機ハイブリッド膜の成膜中、一定の回転速度であってもよく、所望により、回転速度を変化させてもよい。
【0090】
次に、スパッタ室20内を、排気装置により排気口21から排気して、成膜時のスパッタ室20内の所定の圧力以下にする。上記所定の圧力は、通常10-5~10-2Pa程度、好ましくは10-4~5×10-3Pa程度であってよい。
【0091】
次に、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合気体を、スパッタガス導入口22からスパッタ室20内に、成膜時にスパッタ室20内が所定の圧力となるように導入する。このとき、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体をそれぞれ準備し、両者の気体流を合流、混合させながら導入してもよく、上記スパッタガスと上記有機化合物との上記混合気体を予め準備し、これを導入してもよい。また上記混合気体の導入量は固定したまま、排気口21の開度をフィードバック制御してスパッタ圧力を一定にしてもよい。
【0092】
上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比は、上記有機無機ハイブリッド膜の組成(上記無機物質に由来する原子数と上記有機化合物に由来する原子数との比)が所望の組成となるようにする観点、及びスパッタリング効率の観点から適宜決定することができる。上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比(上記スパッタガスの体積/上記有機化合物の気体の体積)は、上記有機化合物の種類にもよるが、通常60/40~99.999/0.1、好ましくは70/30~99.99/0.01、より好ましくは80/20~99.95/0.05、更に好ましくは90/10~99.9/0.1であってよい。
【0093】
上記スパッタガスは、スパッタリングに用い得るガスである限り特に限定されず、公知の何れのスパッタガスであってもよい。上記スパッタガスとしては、例えば、アルゴン、及びクリプトンなどの不活性ガス;並びに、これらと酸素、及び窒素などとの混合ガスなどをあげることができる。
【0094】
上記有機化合物として、加温(通常、上記基材の実使用可能な上限の温度以下)、又は/及び減圧により気体となる有機化合物を用いる場合には、予め所定の温度、圧力にして気体の状態にして用いることは言うまでもない。この場合、スパッタ室20内の温度も所定の温度にすることが好ましい。
【0095】
上記成膜時のスパッタ室12内の所定の圧力(スパッタ圧力)は、放電を安定化し、連続的な成膜ができるようにする観点から、通常0.05~5Pa、好ましくは0.1~1Paであってよい。
【0096】
続いて、無機物質のターゲット16、16’にそれぞれ所定の電力(通常、高周波数電力)を投入し、放電を行わせ、放電状態が安定したところでシャッター17、17’を開き、各ターゲットをスパッタリングし、基材19の面の上に有機無機ハイブリッド膜を成膜する。このとき、ターゲット設置冶具15、15’には所定の流量で所定の温度の冷却水を流し、無機物質のターゲット16、16’の温度を所定の温度に制御する。また放電状態が安定するまでシャッター17、17’を閉じておくことにより、プリスパッタ(ターゲット16、16’表面の汚れや水などの汚染物を除去する(電力を投入することにより飛ばす)操作)の際に、基材19の面の上に上記汚染物が付着しないようにすることができる。
【0097】
上記有機無機ハイブリッド膜の組成(上記無機物質に由来する原子数と上記有機化合物に由来する原子数との比)は、無機物質のターゲット16、16’に投入する電力、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比、及び上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合気体の流量(成膜時のスパッタ室20内の圧力)を調整することにより、所望の組成となるようにすることができる。なお、投入電力量、混合比、及び混合気体の流量と組成との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0098】
上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚は、無機物質のターゲット16、16’に投入する電力、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合気体の流量(成膜時のスパッタ室20内の圧力)、及び成膜を行う時間を調整することにより、所望の膜厚となるようにすることができる。なお、投入電力量、混合比、混合気体の流量、及び成膜を行う時間と膜厚との関係は、予備実験を行って求めることができる。
【0099】
上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚は、該有機無機ハイブリッド膜に付与しようとする機能、及び上記基材の少なくとも一方の面の上に上記有機無機ハイブリッド膜を有する上記積層体又は上記成形体の用途を勘案して適宜決定することができる。
【0100】
上記有機無機ハイブリッド膜に低い紫外線透過率を付与しようとする場合、上記有機無機ハイブリッド膜の膜厚は、紫外線透過率を低くする観点から、通常1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上、最も好ましくは40nm以上であってよい。一方、耐クラック性の観点から、通常1μm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、最も好ましくは120nm以下であってよい。
【0101】
上記有機無機ハイブリッド膜を形成後、温度50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、かつ基材19の耐熱性を勘案した温度以下において、作業性や生産性の観点から、好ましくは150℃以下の温度において、アニール処理することは好ましい。上記有機無機ハイブリッド膜の特性を安定化することができる。
【0102】
有機無機ハイブリッド膜中において、原材料として用いた無機物質、有機化合物が、どのような化合物を形成しているかは、エックス線光電子分光法(以下、「XPS分析」と略すことがある。)により確認することができる。XPS分析は、例えば、XPS分析装置を使用し、エックス線としてアルミニウムのKα線、又はマグネシウムのKα線を用いて行うことができる。XPS分析については、下記の参考文献などを参照することができる。
参考文献:M.P.Seah and W.A.Derch,Surface and Interface Analysis 1,2(1979)
【実施例0103】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0104】
測定方法
(イ)スパッタ膜厚:
スパッタ膜厚は予備実験により求めた。先ず、予め基材に耐熱性・低アウトガス性の粘着テープ(日東電工株式会社製「カプトンテープ P-221(商品名)」)を部分的に貼り付けておき、スパッタリング後にそれを剥離して膜厚分の段差を形成した。株式会社ミツトヨ製の小型表面粗さ測定機「SJ-411(商品名)」を用いて測定速度:0.5mm/s、測定距離:1.5mmで段差部の形状プロファイルを測定し、そこから読み取った段差をスパッタ膜厚とした。
【0105】
(ロ)スパッタ膜のエックス線光電子分光法による分析(XPS分析)
XPS分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社の「K-Alpha(商品名)」)を使用し、エックス線として単色化したアルミニウムのKα線を使用し、照射径400μm、電子取り出し角度90度、パスエネルギー200eV、測定範囲-10~1350eV、エネルギーステップ1.000eV、1ステップの時間10ms、及び測定回数10回の条件でワイドスキャンスペクトルを測定した。また弗素原子1s軌道(F1s)に帰属するエネルギー領域について電子取り出し角度90度、パスエネルギー50eV、測定範囲678~698eV、エネルギーステップ0.100eV、1ステップの時間50ms、及び測定回数10回の条件でF1sナロースキャンスペクトルを測定した。
【0106】
使用した原材料
(A)標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で固体の物質のターゲット:
(A-1)USTRON株式会社の二酸化セリウムを焼結して得た直径76.2mm、厚み3mmの円盤形状のターゲット。純度4N。
(A-2)USTRON株式会社の二酸化セリウムを焼結して得た縦127mm、横380mm、厚み3mmの直方体形状のターゲット。純度4N。
(A-3)ポリジメチルシロキサン(弗素原子を含まないシリコン樹脂)の直径76.2mm、厚み3mmの円盤形状のターゲット。
【0107】
(B)有機化合物の気体:
(B-1)テトラフルオロメタン(純度99.999%以上のグレード)。
【0108】
(C)基材:
(C-1)松浪硝子工業株式会社の平滑なソーダ石灰ガラス板(品名:マイクロスライドガラス、水縁磨品、厚み:1.0mm、寸法:40×40mm)。
(C-2)東レ株式会社の厚み125μmの両面易接着二軸延伸ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム「ルミラー(商品名)」。
【0109】
例1
バッチ方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-1)と上記(B-1)を用いて、上記(C-1)の一方の面の上に有機無機ハイブリッド膜を形成した。先ず、上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記(A-1)を装着した。次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室内を、圧力3.0×10
-3Paに減圧した。次に、スパッタガスとしてのアルゴンガス(純度99.999%以上のグレード)の気体流(体積流量23.4sccm)と上記(B-1)の気体流(体積流量2.6sccm)とを合流、混合させながら上記スパッタ室内に導入し、該スパッタ室内の圧力が0.8Paとなるように排気配管部のシャッター開度を調整した。続いて、上記(A-1)に投入電力200W(単位面積当たりの投入電力量4.4W/cm
2)の条件で電力を投入し、スパッタリングを行い、上記(C-1)の一方の面の上にスパッタ膜を形成した。このとき成膜時間は30分間であり、該スパッタ膜の厚みは165nmとなる成膜条件であった。上記スパッタ膜についてXPS分析を行った。分析結果を
図4、5に示す。
図4のF1sナロースキャンスペクトルには、685.7eVにF-Ce結合に由来するピークが現れていることから、テトラフルオロメタンに由来する弗素原子が、二酸化セリウムを変性して三弗化セリウムを生じたことが分かった。また
図5のワイドスキャンスペクトルから算出した弗素とセリウムとの原子数比(F/Ce)は3.7であった。これらの結果から、上記スパッタ膜は、有機無機ハイブリッド膜であること、即ち、本発明の方法により有機無機ハイブリッド膜を形成できることが分かった。
【0110】
本明細書において、体積流量の単位「sccm」は、標準状態(温度0℃、1気圧)で規格化した1分間に流れる気体の体積(単位:cc)である。
【0111】
例2
スパッタガスとしてのアルゴンガスの気体流(体積流量20.8sccm)と上記(B-1)の気体流(体積流量5.2sccm)とを合流、混合させながら上記スパッタ室内に導入したこと以外は、例1と同様にスパッタ膜を形成した。このとき成膜時間は30分間であり、該スパッタ膜の厚みは200nmとなる成膜条件であった。上記スパッタ膜についてXPS分析を行った。分析結果を
図6、7に示す。
図6のF1sナロースキャンスペクトルには、例1と同様に、685.0eVにF-Ce結合に由来するピークが現れていることから、テトラフルオロメタンに由来する弗素原子が、二酸化セリウムを変性して三弗化セリウムを生じたことが分かった。また
図7のワイドスキャンスペクトルから算出した弗素とセリウムとの原子数比(F/Ce)は7.4であった。これら結果から、上記スパッタ膜(有機無機ハイブリッド膜)の組成は、上記スパッタガスと上記有機化合物の気体との混合比により調節できることが確認された。
【0112】
例3
図1に概念図を示すロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置を使用し、上記(A-2)と上記(B-1)を用いて、上記(C-2)の一方の面の上に有機無機ハイブリッド膜を形成した。
(1)先ず、上記(C-2)を該スパッタリング装置に通紙した後、上記(A-2)(ターゲット9)をターゲット設置冶具8に装着した。なお、ターゲット設置冶具8’は使用しなかった。即ち、使用した上記(A-2)は1個である。
(2)次に、上記スパッタリング装置のスパッタ室内1を、圧力5.0×10
-3Paに減圧した。
(3)次に、スパッタガスとしてのアルゴンガス(純度99.999%以上のグレード)の気体流(体積流量190sccm)と上記(B-1)の気体流(体積流量10sccm)とを合流、混合させながら上記スパッタ室内1に導入し、該スパッタ室内1の圧力が0.4Paとなるように排気口7のシャッター開度を調整した。
(4)続いて、上記(C-2)をライン速度1.0m/分の速度で引巻取りしながら、上記(A-2)(ターゲット9)に投入電力1500W(単位面積当たりの投入電力量3.1W/cm
2)の条件で電力を投入し、スパッタリングを行い、上記(C-2)の一方の面の上にスパッタ膜を形成した。またこのとき上記(C-2)を所定距離で往復させて、スパッタロール4の上記(A-2)(ターゲット9)に対向する位置を9回通過するようにした。
上記スパッタ膜の厚みが50nmとなる成膜条件であった。上記スパッタ膜についてXPS分析を行った。分析結果を
図8、9に示す。
図8のF1sナロースキャンスペクトルには、682.5eVにF-Ce結合に由来するピークが現れていることから、テトラフルオロメタンに由来する弗素原子が、二酸化セリウムを変性して三弗化セリウムを生じたことが分かった。また
図9のワイドスキャンスペクトルから算出した弗素とセリウムとの原子数比(F/Ce)は3.6であった。これらの結果から、有機無機ハイブリッド膜が形成されたことを確認した。
【0113】
例4
上記アルゴンガスの気体流の流量を体積流量199sccmに、上記(B-1)の気体流の流量を1sccmに変更したこと以外は、例3と同様にしてスパッタ膜を形成した。上記スパッタ膜の厚みが50nmとなる成膜条件であった。上記スパッタ膜についてXPS分析を行った。分析結果を
図10、11に示す。
図10のF1sナロースキャンスペクトルには、681.5eVにF-Ce結合に由来するピークが現れていることから、テトラフルオロメタンに由来する弗素原子が、二酸化セリウムを変性して三弗化セリウムを生じたことが分かった。また
図11のワイドスキャンスペクトルから算出した弗素とセリウムとの原子数比(F/Ce)は1.7であった。これらの結果から、有機無機ハイブリッド膜が形成されたことを確認した。
【0114】
本発明が具体的に説明されたが、これらは本発明を例示的に説明したものに過ぎない。当業者であれば、本発明の本質的な特徴から外れない範囲内で、様々な変形が可能である。当業者であれば、例えば、以下のような製造方法とすることができるであろう。このとき、明細書中の「無機化合物のターゲット」とあるのは「有機化合物のターゲット」と、「有機無機ハイブリッド膜」とあるのは「複合膜」と適宜読み替えて、本発明を実施すればよいことは言うまでもない。このような製造方法は、例えば、有機化合物のターゲットとしてのシリコン樹脂のターゲットと、有機化合物の気体としての有機弗素化合物の気体を用いることにより、シリコン樹脂に弗素原子が導入された複合膜ないし変性膜を形成する際に有用であろう。
[1].
複合膜の製造方法であって、
スパッタリング装置を使用し、
第1の有機化合物のターゲットと第2の有機化合物の気体を用い、
(1)上記スパッタリング装置のターゲット設置冶具に上記第1の有機化合物のターゲットを装着する工程;
(2)上記スパッタリング装置のスパッタ室内を所定の圧力に減圧する工程;
(3)スパッタガスと上記第2の有機化合物の気体との混合気体を、上記スパッタリング装置のスパッタ室内に、該スパッタ室内が所定の圧力となるように導入する工程;及び、
(4)上記第1の有機化合物のターゲットに電力を投入し、スパッタリングすることにより、基材の面の上に上記複合膜を形成する工程;
を含む、上記製造方法。
[2].
上記スパッタリング装置が、ロール・トゥ・ロール方式のスパッタリング装置である[1]項に記載の製造方法。
[3].
上記混合気体の混合比(上記スパッタガスの体積/上記第2の有機化合物の気体の体積)が、60/40~99.999/0.001である、[1]項又は[2]項に記載の製造方法。
[4].
上記第2の有機化合物の気体が、飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物、及び不飽和炭化水素の1個又は2個以上の水素原子が弗素原子に置換された構造を有する化合物であって標準状態(温度25℃、圧力100KPa)で気体の化合物からなる群から選択される1種以上の化合物の気体を含む、[1]~[3]の何れか1項に記載の製造方法。
[5].
上記有機化合物のターゲットが、シリコン樹脂を含む、[1]~[4]の何れか1項に記載の製造方法。
【0115】
例5
上記(A-1)の替りに上記(A-3)を用いたこと以外は、例1と同様にスパッタ膜を形成した。このとき成膜時間は30分間であり、該スパッタ膜の厚みは200nmとなる成膜条件であった。上記スパッタ膜をFT-IRの正反射法で分析し、C-F結合に由来するピークが現れていることから、テトラフルオロメタンに由来する弗素原子がシリコン樹脂を変性していること、即ち、複合膜が形成されたことを確認した。