(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186669
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】溶融性/注型性爆発性組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C06B 25/04 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
C06B25/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022090814
(22)【出願日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】FR2105849
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】511148123
【氏名又は名称】タレス
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】テディ ジルー
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ クーロン
(72)【発明者】
【氏名】ステファヌ ビュロ
(57)【要約】
【課題】溶融性/注型性爆発性組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、溶融性/注型性爆発性組成物(10)であって、少なくとも2つの成分:
溶融性爆発物(12)と;
溶融性爆発物(12)の溶融温度において可溶性の鈍感剤(23)と、
を含むこと、
及び、
鈍感剤(23)が、溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の10%以下の非ゼロ質量比で存在し;
溶融性爆発物(12)が、溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の20%を超え100%未満の質量比で存在し、溶融性/注型性爆発性組成物(10)の成分の質量比の合計が100%であることを特徴とする、溶融性/注型性爆発性組成物(10)に関する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融性/注型性爆発性組成物(10)であって、少なくとも2つの成分:
好ましくはニトロ化芳香環、より好ましくは2,4,6-トリニトロトルエンである溶融性爆発物(12)と;
前記溶融性爆発物(12)の溶融温度において可溶性の鈍感剤(23)と
を含むこと、
及び、
前記鈍感剤(23)が、前記溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の10%以下、好ましくは前記溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の2%~6%、より好ましくは前記溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の3%~5%の、非ゼロ質量比で存在し;
前記溶融性爆発物(12)が、前記溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の20%を超え100%未満、好ましくは前記溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の30%を超え100%未満、好ましくは前記溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の40%を超え100%未満、より好ましくは前記溶融性/注型性爆発性組成物(10)の全質量の50%を超え100%未満の質量比で存在し、前記溶融性/注型性爆発性組成物(10)の前記成分の質量比の合計が100%であること
を特徴とする、溶融性/注型性爆発性組成物(10)。
【請求項2】
前記鈍感剤(23)が、前記溶融性爆発物(12)の溶融温度よりも高い溶融温度を有する、請求項1に記載の溶融性/注型性爆発性組成物(10)。
【請求項3】
前記鈍感剤(23)が1.0を超え、好ましくは1.2を超える密度を有する、請求項1又は2に記載の溶融性/注型性爆発性組成物(10)。
【請求項4】
前記鈍感剤(23)が、ベンゼン、ナフタレン、及びアントラセンの中の1つの誘導体である、請求項1~3のいずれか一項に記載の溶融性/注型性爆発性組成物(10)。
【請求項5】
前記鈍感剤(23)が、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及びスルホニル基からの1つ以上の基で官能化されるベンゼン、ナフタレン、及びアントラセンの中の1つのベンゼン系誘導体である、請求項1~4のいずれか一項に記載の溶融性/注型性爆発性組成物(10)。
【請求項6】
前記鈍感剤(23)が、ナフトール、好ましくはナフト-2-オールである、請求項1~5のいずれか一項に記載の溶融性/注型性爆発性組成物(10)。
【請求項7】
前記溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の60%以下、好ましくは前記溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の50%以下の質量比で存在する不活性粒子種及び/又は少なくとも1つのエネルギー粒子種からの少なくとも1つの成分をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の溶融性/注型性爆発性組成物(10)。
【請求項8】
中空体(51)によって境界が定められる軍需品(50)であって、前記中空体(51)に、請求項1~7のいずれか一項に記載の溶融性/注型性爆発性組成物(10)が少なくとも部分的に充填されることを特徴とする軍需品(50)。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか一項に記載の溶融性/注型性爆発性組成物を製造する方法であって:
前記溶融性爆発物(12)を溶融させるステップ(100)と;
前記溶融した溶融性爆発物(12)に前記鈍感剤(23)を加えるステップ(101)と;
前記鈍感剤(23)を前記溶融した溶融性爆発物(12)中に混合して(102)、均質化混合物を得るステップと、
を含む、方法。
【請求項10】
中空体(51)によって境界が定められる軍需品(50)の装薬方法であって:
請求項9に記載の溶融性/注型性爆発性組成物を製造する方法の前記ステップと、
前記軍需品(50)の前記中空体(51)内に前記均質化混合物を注型するステップ(103)と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融性/注型性爆発性組成物の分野にある。これは、溶融注型プロセスによる軍需品の装薬の分野において用いることができる。
【背景技術】
【0002】
溶融注型技術によって実装される溶融性/注型性マトリックスをベースとする既存の爆発性組成物は、混合段階中にこの溶融性媒体中に不規則に分散する異なる不溶性粒子種のため、本来不均一である。にもかかわらず、この実装プロセスの終了後、この装填は、ますます厳しくなる要求に適合させる必要がある。他方、溶融性/注型性爆発性組成物は、安全性能及び機能的性能特性(優先度(primability)、爆轟、脆弱性-MURAT(危険性が低下した軍需品を意味するフランス語のMunitions a Risques Attenuesの略語である)署名)を得るために、装填された物品はあらゆる点で均一であることが必要となる。そして他方で、これらは、軍事エネルギー物質の認可の特殊な制約に適合する必要がある。上記の性能特性に関する爆発性組成物の完全性によって、その操作上の使用の過程における信頼性に軍需品が対応できる必要があり、同時に、取り扱いの事故又は意図的な攻撃の場合の不意の発火の危険性を軽減でき、暴発が存在する場合に、人員及び発射台の付帯的損害を減少させることができることが必要である。
【0003】
したがって、軍需品の安全の信頼性及び性能特性をそれらのライフサイクル(製造、保管、輸送、使用、及び非武装化)全体にわたって増加させるために、軍需品の本体中で固化した後で、装薬の実現可能な最良の均一性が保証されることが重要である。これらの配合物は、ますます厳しくなる要求(物理化学的性質及び機械的性質の低い分散性、並びに時間経過によるこれらの性質の維持)にも適合する必要があり、これらは、フランスの場合、一般指示書(general instruction)のS-CAT 17500,edition 6,dated December 2019に記載されており、NATOメンバーの場合、STANAG.4170,edition 3,dated 2008に記載されている。これらの法定要求の遵守を維持するために、軍需品の装填の均一性に対する制御を高めることが必要である。
【0004】
したがって、これらの要求のすべてに適合するために、軍需品中の爆発性組成物の均一性の制御が重要である。この制御は、1つの構成要素を用いることによって、又は60%を超える粒子種の質量パーセント値で界面活性剤などの混合物を安定化させるための種々の添加剤を加えることよって、これまで行われてきた。
【0005】
歴史的には、軍需品は、ピクリン酸、次に第二次世界大戦後は2,4,6-トリニトロトルエン(TNT)をベースとして装填された。これらの装填は、1成分の装填であり、したがってこの均一性の問題にもともと対応していた。軍需品の最終及び脆弱性能に関連する理由のため、このTNTベースに添加剤を加えることによる多数の配合物が開発された。採用された最初の方針は、爆轟性能特性を非常に顕著に高めるために、RDX(又はシクロトリメチレン-トリニトロアミンであり、ヘキソーゲンの名称でも知られている)及びHMX(High Melting point eXplosive(高融点爆発物)の略語であり、シクロテトラメチレン-テトラニトロアミン又はオクトーゲンとも呼ばれる)などの歴史的な配合物に粒状爆発物を一体化させることであった(言及できるその一例は、コンポジションB 60/40-RDX/TNTである)。所望の性能特性を得るため、及び装填サイクル全体にわたって均一性を維持するために、異なる粒度分布を有する約60質量%の量の1つ以上の固体種が導入される。この量によって、液体混合物の粘度が大幅に増加して、相分離及び沈殿を制限することができ、これらの種の緻密さを変化させることもできる。この原理は、特定の空間内に最大限の粒子種を導入可能にする粒度分布をできるだけ正確に求めることである。この主な効果は、上記の種が互いに配列するのを防止することである。
【0006】
組成物の経時による均一性及び安定性を保証するために開発された最初の従来技術の解決策は、界面活性添加剤を用いることである。これらの分子は、親水性頭部と疎水性尾部とを有する能力を有し、TNTと鈍感剤との間の親和性を増加させることができ、これらは、偶発的な衝撃に対する爆発性組成物の感受性を低下させることを意図した物質である。特許の仏国特許第2750131号明細書及び仏国特許第2954308号明細書に言及される組成物を挙げることができ、これらではポリビニルピロリドンの種類の界面活性剤が用いられている。
【0007】
一方で、固化するまでの組成物の製造プロセス全体にわたって液相を安定化させるために1つ以上の界面活性剤を使用するには、発泡ミキサー及びローターステーターミキサーなどの特殊な工業装置の使用が必要となる。エマルジョンを形成するために化粧品産業において一般に用いられるこの種類の撹拌装置は、爆発物を含む混合物に用いることは困難である。その理由は、明らかに、これらのブレードによって非常に高い剪断応力が生じ、それによって加熱又は摩擦の後に燃焼事故が生じうるからである。他方、この分野で一般に用いられる界面活性剤は、化学、医薬、化粧品、及びagrofeedの産業用に開発されている。これらの目的は、「脂肪性」物質(低度に官能化された長いアルキル鎖)と水相との間に界面を形成することである。TNTをベースとする爆発性配合物の場合、化学親和力が小さい2つの「脂肪性」物質の間の不均一又はさらには非混和性の混合物の安定化がさらに問題となり、これは、界面活性剤の大部分は、無効となるか、わずかな効果となることを意味する。したがって、この種類の解決策は理想的ではない。
【0008】
従来技術の別の解決策の1つは、TNT又はDNAN(ジニトロアニソール)などのただ1つの成分の装薬を用いることを含む。この種類の装填は、1つの成分を含むので本来完全に均一となる。しかし、これらの成分の固有の性質では、新世代の軍需品(MURAT署名、高い終末弾道性能特性(例えば:装甲を貫通する攻撃など))に必要な性能要求に対応することができない。
【0009】
従来技術の別の解決策の1つは、固体成分のパーセント値を大幅に増加させることと(60質量%を超える)、最大の緻密さを実現するために、それぞれの固体添加剤の粒度分布を調整することとを含む。その理由は、この緻密さが実現されると、種々の粒子種は、それらが軍需品中に装填された場合に、沈降又は相分離が起こらないように機械的に束縛されるからである。にもかかわらず、この緻密さが実現されると、混合物は非常に粘稠になり、得られる組成物の注型性が制限される。次に、混合物の温度を上昇させ、又はさらには軍需品の本体中に減圧(約50mbarの真空)を発生させる必要が生じることが多い。温度上昇によって、軍需品の製造に使用されるネルギーが大幅に増加し、減圧下での装填作業の実施は、この技術分野の当業者によって使用される標準的な装置には適合していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】仏国特許第2750131号明細書
【特許文献2】仏国特許第2954308号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】S-CAT 17500,edition 6,dated December 2019
【非特許文献2】STANAG.4170,edition 3,dated 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、操作性能と、MURAT署名のための安全性能との両方に関して課されるますます厳しくなる要求に対応可能な、少ない数の成分を有する、溶融性/注型性爆発性組成物を提供することによって、上記問題の一部又はすべてを克服することを目的とする。本発明は、当技術分野における従来の装置に対して製造装置の変更が不要であるという利点も有する。さらに、本発明の組成物によって、組成物の固化後に得られる装薬の所望の性能特性は、組成物の製造方法に影響を与えることなく、その成分の比率を単純に適応させることによって調節することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このため、本発明の主題は、溶融性/注型性爆発性組成物であって:
溶融性爆発物であって、好ましくはニトロ化芳香環、及びより好ましくは2,4,6-トリニトロトルエンである溶融性爆発物と;
溶融性爆発物の溶融温度において可溶性の鈍感剤と、
の少なくとも2つの成分を含み、
鈍感剤は、溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の10%以下、好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の2%~6%の間、より好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の3%~5%の間の非ゼロ質量比で存在し;
溶融性爆発物は、溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の20%を超え100%未満、好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の30%を超え100%未満、好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の40%を超え100%未満、より好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の50%を超え100%未満の質量比で存在し、溶融性/注型性爆発性組成物の成分の質量比の合計が100%である、爆発性組成物である。
【0014】
鈍感剤は有利には、溶融性爆発物の溶融温度よりも高い溶融温度を有する。
【0015】
鈍感剤は、有利には1.0を超え、好ましくは1.2を超える密度を有する。
【0016】
本発明の一実施形態では、鈍感剤は、ベンゼン、ナフタレン、及びアントラセンの中の1つの誘導体であってよい。
【0017】
本発明の別の一実施形態では、鈍感剤は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及びスルホニル基からの1つ以上の基で官能化されるベンゼン、ナフタレン、及びアントラセンの中の1つのベンゼン系誘導体である。
【0018】
鈍感剤は、有利にはナフトール、好ましくはナフト-2-オールである。
【0019】
本発明の別の一実施形態では、本発明による溶融性/注型性爆発性組成物は、溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の60%以下、好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の50%以下の質量比で存在する、不活性粒子種及び/又は少なくとも1つのエネルギー粒子種からの少なくとも1つの成分をさらに含む。
【0020】
本発明は、中空体によって境界が定められる軍需品であって、この中空体に、この種類の溶融性/注型性爆発性組成物が少なくとも部分的に充填される軍需品にも関する。
【0021】
本発明は、この種類の溶融性/注型性爆発性組成物の製造方法であって:
溶融性爆発物を溶融させるステップと;
溶融した溶融性爆発物に鈍感剤を加えるステップと;
鈍感剤を溶融した溶融性爆発物中に混合して、均質化混合物を得るステップと、
を含む方法にも関する。
【0022】
本発明は、中空体によって境界が定められる軍需品の装薬方法であって:
溶融性/注型性爆発性組成物の製造方法のステップと;
均質化混合物を中空体内に注型するステップと
を含む方法にも関する。
【0023】
例として提供される一実施形態の詳細な説明を読めば、本発明がより十分に理解され、他の利点が明らかとなるであろうし、その説明は添付の図面によって例示される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】従来技術による溶融性/注型性爆発性組成物のエマルジョンの原理を概略的に示している。
【
図2】本発明による溶融性/注型性爆発性組成物の可溶化の原理を概略的に示している。
【
図3】本発明による溶融性/注型性爆発性組成物を含む軍需品を概略的に示している。
【
図4】本発明による溶融性/注型性爆発性組成物の製造方法のステップの流れ図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
明確にするため、種々の図中で、同じ要素には同じ参照記号が付けられる。より見やすくするため、及び理解を高めるために、要素は必ずしも縮尺通りに示されているわけではない。
【0026】
本発明の目的は、加えられる1つ以上の成分の溶解性に基づいてあらゆる種類の濃度で、単純で再現性のある方法で組成物の均一性を保証することである。さらに、本発明によって、溶融性/注型性爆発性組成物中の成分の数を制限することが可能である。界面活性剤などの加える成分数が増加する傾向にある周知の従来技術の組成物とは対照的に、本発明は、固相中の溶融性/注型性爆発性組成物の優れた均一性を保証しながら、使用段階における偶発的な衝撃に対する高度な非感受性及び良好な爆轟性能特性を保証する。
【0027】
図1は、従来技術による溶融性/注型性爆発性組成物の江丸所の原理を概略的に示している。溶融性/注型性爆発性組成物は、従来、溶融性爆発物、例えば2,4,6-トリニトロトルエン(一般にTNT)を含む。爆発性組成物の偶発的な衝撃に対する感度を低下させるために、この組成物に鈍感剤を加える必要がある。さらに、既存の組成物では、前述の説明のように、分子間のあるレベルの混合を保証するために、界面活性剤又は乳化剤が必要である。
【0028】
使用される鈍感剤は、主として、直鎖又は低度の分岐を有し、実質的な官能化度を有しない長鎖アルカンの混合物である。これらの分子は、弱いファンデルワールス相互作用のみを有し、TNTとの非常に小さい化学親和力を有する。TNTの溶融温度(TNTの純度に依存して約80.4℃)よりも高い温度の場合、これらは二相媒体を形成する。界面活性剤の使用は、TNTと従来の鈍感剤(パラフィンワックス)との間の化学親和力を改善するために重要である。この界面活性剤は、ワックスとの高い化学親和力を有する疎水性尾部と、TNTとのある程度の親和力を有するより親水性の頭部とにより選択される。特定の比率及び特定の作業条件の場合、経時によりある程度安定なエマルジョンを形成することができる。
【0029】
この種類の従来技術の組成物は、多数の成分を含むとともに、エマルジョンを形成する必要があるという利点を有する。エマルジョンは、2つの非混和性液体物質の不均一混合物であり、その一方(鈍感剤及び界面活性剤)は他方(液体TNT)の小さな液滴の形態で分散する。これら2つの液体は自発的には混合しない。巨視的に均一な外観は、撹拌、混合、及び任意選択の有効成分の添加の特殊な操作によってのみ得ることができる。しかし微視的には、エマルジョンは不均一なままである。
【0030】
この問題は、
図1中に概略的に示される。参照記号Aは、液体TNT12を表している。参照記号Bは、鈍感剤13及び界面活性剤14の液体TNT12への添加を表している。参照記号Cは、適切な撹拌を行って数分後、例えば10分後の均一な外観を有する液体TNT12及び鈍感剤14及び界面活性剤14の組み合わせを表している。前述の説明のように、この撹拌は非常に特殊であり、既存の製造装置の適合と、この種類のエマルジョン技術に関する人材の高い能力とが必要となる。さらに、この撹拌は、必要な撹拌の種類によって生じる実質的な剪断により危険を伴う場合があり、燃焼事故が生じる場合がある。最後に、参照記号Dに非常に概略的に見られるように、撹拌を停止してから数分又はさらには数時間後、液体TNT12及び鈍感剤14及び界面活性剤14の組み合わせは完全に均一ではない。
【0031】
図2は、本発明による溶融性/注型性爆発性組成物10の可溶化の原理を概略的に示している。参照記号A’は、液体TNT12を表している。参照記号B’は、本発明による液体TNT12への鈍感剤23の添加を表している。参照記号C’は、適切な撹拌を行って数分後、例えば10分後の液体TNT12及び鈍感剤23の組み合わせを示している。最後に、撹拌を停止してから数分後、本発明による液体TNT12及び鈍感剤23の組み合わせは完全に均一である。微視的レベルでの均一性が保証されることに加えて、液体TNT中への鈍感剤の混合が、さらなる問題を発生させることなく、既存の混合手段によって行われることを強調すべきである。
【0032】
以下の説明で明らかになるように、本発明は、溶融性爆発物と、溶融性爆発物との化学的親和力が非常に強い化学構造を有する鈍感剤とを含む溶融性/注型性爆発性組成物に関する。TNT分子は、ベンゼン環と2位、4位、及び6位のニトロ基とのために強いファンデルワールス相互作用を示す。TNTは、ニトロ基の酸素上に存在する非結合二重項のために強いルイス塩基でもある。溶液の混和性、したがって最大限の均一性を保証するために、本発明による鈍感剤の構造は、強いファンデルワールス相互作用とルイス酸機能とを特徴とする。
【0033】
本発明は、少なくとも2つの成分、すなわち溶融性爆発物12及び鈍感剤23を含み:
溶融性爆発物12が、好ましくはニトロ化芳香族、より好ましくはトリニトロトルエンであり;
鈍感剤23が、溶融性爆発物の溶融温度において可溶性である、
溶融性/注型性爆発性組成物10に関する。
【0034】
本発明によると、鈍感剤23は、溶融性/注型性爆発性組成物10の全質量の10%以下の非ゼロ質量比で存在する。
【0035】
本発明によると、溶融性爆発物は、溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の20%を超え100%未満、好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の30%を超え100%未満、より好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の40%を超え100%未満、より好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の50%を超え100%未満の質量比で存在する。溶融性/注型性爆発性組成物10の成分の質量比の合計は100%である。30%未満の溶融性爆発物の質量比の場合、溶融性/注型性爆発性組成物10の全質量の5%~10%の間の質量比で鈍感剤が存在することが好ましいことに留意すべきである。これによって、最終的に固化する前に組成物の有効な注型性を保証するのに十分な比率の液相(組成物の固化の前)を組成物が維持することができる。
【0036】
言い換えると、本発明による組成物は、溶融性爆発物と、前述の特性を有する最大10質量%の鈍感剤とで構成される。この場合、溶融性爆発物と鈍感剤との質量比の合計が100%になるように、溶融性爆発物の質量比が調節される。本発明の一変形形態では、組成物は粒子種を含むこともできる。この場合、これらの比率は、溶融性爆発物、鈍感剤、及び粒子種の質量比の合計が100%になるように調節される。本発明による組成物は、界面活性剤も乳化剤も含まないことを再び強調すべきである。この理由は、鈍感剤の適切な選択によって、鈍感剤が液体形態の溶融性爆発物中に溶解することができ、従来の混合によって組成物の均一性が保証されるからである。可溶化した後、鈍感剤は液体溶融性爆発物中に十分に分散し、この分散体は、一般に軍需品の本体内で行われる材料の固化が起こるまで維持される。
【0037】
本発明による組成物によって、軍需品の本体内の装薬の固化後の均一性の要求に対する固有の対応が可能となる。
【0038】
溶融性/注型性爆発性組成物は、溶融性爆発物を含み、これを最初に溶融させる。次に鈍感剤を液体溶融性爆発物中に混入し、これを混合して、完全に均一な液体の組み合わせが形成される。この液体の組み合わせは、次に軍需品中への注型が意図され、そこで固化が行われる。
【0039】
溶融性爆発物は、好ましくはニトロ化芳香環、より好ましくはTNT(2,4,6-トリニトロトルエン)である。TNTは、良好な爆轟特性及び比較的低い衝撃感度を有する。TNTに特有の特徴の1つは、80℃付近の温度で溶融することであり、それによって、単純に重力の作用による金属ケーシング(軍需品の本体)の液体状態での装薬が可能となる。本発明の鈍感剤は、溶融性爆発物の溶融温度(例えばTNTの場合約80.4℃)において可溶性であるので、冷却段階後の容器中及び発射体中の不均一性の問題は非常に限定される。可溶化すると、鈍感剤は液体TNT中に十分に分散し、この分散は、物質が固化するまで維持される。どちらの液体形態である溶融性爆発物と鈍感剤との混合とともに、それらの化学構造によって保証される鈍感剤と溶融性爆発物との間の化学親和力によって、得られる混合物が分子レベルで結合することが保証される。したがって、本発明による組成物が固化した後、鈍感剤は好ましくは、溶融性爆発物によって形成される媒体中に十分に分散する。
【0040】
ニトロ化芳香族爆発物は、少なくとも1つの芳香環と1つのNO
2官能基とからなる基本構造を有する。ニトロ化芳香族爆発物の一例は、少なくとも3つのNO
2基と、例えばR、R’、及びR’’で示される3つの別の基とを含む少なくとも1つのベンゼン環からなる基本構造を有することができる。この種類の分子は、以下の構造:
【化1】
で概略的に表すことができる。
【0041】
構造がベンゼン環を含まず、その代わりにテトラゾール類、トリアジン類、トリアゾール類、又はピラゾール類であり、1つのみのNO2基を有することができる、多数のニトロ化芳香族爆発物が存在する。これらのニトロ化芳香族爆発物が、本発明による組成物の溶融性爆発物12であってよい。
【0042】
実験式C7H5N3O6、又はC6H2(NO2)3CH3を有する2,4,6-トリニトロトルエンの場合、Rは-CH3基であり、R’及びR’’は-H基である。TNT(2,4,6-トリニトロトルエン)の3つのトリニトロトルエン異性体、2,3,4-、2,3,5-、及び2,3,6-トリニトロトルエンも存在することに留意すべきである。反応副生成物として生成され、有利な性質がTNTよりもわずかに劣るので、使用されることは少ないが、これらのTNTのトリニトロトルエン異性体も、本発明の組成物中の溶融性爆発物成分として使用することができる。
【0043】
本発明による組成物において、溶融性爆発物は好ましくはTNTであるが、別の溶融性爆発物、例えば2,4-ジニトロアニソール(DNAN)、又はN-MeTNP(N-メチルトリニトロピラゾール)も適切である。基R、R’、及びR’’は、-H、-CH3、-NHCH3、-OH、-NH2、及びそれらの組み合わせの基から選択することができる。いずれの場合も、混和性分子の性質は、選択される溶融性爆発物に一致するように適合される。
【0044】
本発明の一変形形態では、鈍感剤は、好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の2%~6%の間、より好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の3%~5%の間の質量比で存在する。鈍感剤の比率が高いと、偶発的な衝撃に対する組成物の非感受性が高まり、溶融性爆発物の比率が高いと、爆発に関する軍需品の最終性能が良好になる。したがって、これら2つの成分の間の正しい比率を選択することが適切となる。組成物の全質量中2%~6%の質量比の鈍感剤によって、良好な爆轟特性を十分維持しながら良好なレベルの非感受性が得られる。組成物の全質量中3%~5%の質量比の鈍感剤によって、良好な爆轟特性が保証され、同時に、火気、摩擦、及び弾丸の衝突などの衝撃に対して良好なレベルの非感受性が保証される。
【0045】
したがって、本発明による組成物によって、そのような組成物の製造に必要な能力のために要求される工業的手段に影響を与えることなく、その成分の質量パーセント値を単純に適応させることによって、目標最終性能に対する新しい配合物の開発における大きな自由度が得られる。
【0046】
したがって、本発明による爆発性組成物は、鈍感剤としてワックスを有するTNT組成物の場合に必要な界面活性剤などの添加剤を使用に頼る必要がないことが非常に明らかである。本発明によって、予想される最終性能特性(最終的な有効性及びMURAT署名)を実現でき、同時に、添加剤及び安定剤が不要となり、配合物中の構成要素の数を限定することができる。本発明によって、一般指示書及びSTANAGによって生じる均一性の要求に微視的に対応することが可能となる。
【0047】
互いに組み合わせ可能な任意選択の特徴を有する本発明による爆発性組成物の別の変形形態を以下に説明する。
【0048】
鈍感剤は、有利には、溶融性爆発物の溶融温度よりも高い溶融温度を有する。鈍感剤が高融点であると、軍需品のライフサイクル中の装薬の浸出の問題を実質的に制限することができる。
【0049】
鈍感剤は、有利には、1.0を超え、好ましくは1.2を超える密度を有する。装薬の密度は、破片放出速度などの軍需品のある性能特性に直接関連し、したがって装薬の密度をできる限り高くすることが目的となる。
【0050】
本発明の一変形形態では、鈍感剤は、ベンゼン、ナフタレン、及びアントラセンからのベンゼン系誘導体であってよい。この鈍感剤の構造は、強いファンデルワールス相互作用及びルイス酸機能を示す。この構造によって、混和性が保証され、したがって溶液の最大限の均一性が保証される。
【0051】
本発明の別の一変形形態では、鈍感剤は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、及びスルホニル基からの1つ以上の基で官能化されたベンゼン、ナフタレン及びアントラセンからの誘導体であってよい。これらの種類の分子によって、液体媒体、溶融性爆発物、好ましくはTNTの中で少なくとも最大10質量%の鈍感剤を可溶化することができ、これによって、性能特性及び安全性に関して現在期待される要求のすべてに対応することができる。
【0052】
鈍感剤の性質の適切な選択により、溶融性爆発物と鈍感剤との間の分子レベルでの強い化学親和力によって、液相中の混合物の均一性が保証される。
【0053】
本発明の一実施形態では、鈍感剤は、ナフトール、好ましくはナフト-2-オールである。この鈍感剤は、装薬の均一性、及びReaCH規制(欧州の環境規制)との適合性の問題に対応する。さらに、その長期の供給が保証される。ナフト-2-オール鈍感剤は、TNTよりもはるかに高い融点、すなわち120℃の融点を有し、1.2の密度を有し、これは、同じ種類の鈍感化機能に一般に使用される不溶性ワックスの値(30~79℃の融点及び0.6~0.9の密度)よりもはるかに優れている。この鈍感剤は、軍需品のライフサイクル中の装薬の浸出の問題を制限し、最終性能を保証する。
【0054】
その異性体のナフト-1-オールも、本発明による組成物中の鈍感剤に適していることに留意することができる。
【0055】
すでに記載のように、本発明による溶融性/注型性爆発性組成物は、溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の60%以下、好ましくは溶融性/注型性爆発性組成物の全質量の50%以下の質量比で存在する、不活性粒子種及び/又は少なくとも1つのエネルギー粒子種からの少なくとも1つの成分をさらに含むことができる。不活性粒子種は、過塩素酸塩などの酸化性生成物、及び/又はアルミニウム又はタングステンなどの還元性生成物を種々の質量パーセント値で含むことができる。エネルギー粒子種は、ONTA(3-ニトロ-1,2,4-トリアゾール-5-オン、又はオキシニトロトリアゾール)、RDX、HMX、及び高エネルギー密度物質(HEDM)などの高エネルギー物質(HEM)、並びにチタン炭素及びニッケル炭素などの火工品組成物を含むことができる。これらのエネルギー粒子種を組成物に加えることで、組成物の爆轟性能が向上する。粒子種の質量比によって、溶融性/注型性爆発性組成物10の成分の質量比の合計が100%となるように、溶融性爆発物及び鈍感剤の質量比が適合される。
【0056】
したがって、乳化剤や、混合物の結合に寄与する作用の他の添加剤を含まないという点で、本発明の爆発性組成物は、文献の仏国特許第2954308号明細書に開示される組成物とは異なることが分かる。本発明では、液体溶融性爆発物と、適切な性質を示す鈍感剤との2つの種の単純な混合によって、均一性が保証される。
【0057】
図3は、本発明による溶融性/注型性爆発性組成物10を含む軍需品50の概略図である。軍需品50は、中空体51によって境界が定められ、中空体51には、本発明による溶融性/注型性爆発性組成物10が少なくとも部分的に充填される。
【0058】
図4は、本発明による溶融性/注型性爆発性組成物10の製造方法におけるステップの流れ図を示している。本発明による溶融性/注型性爆発性組成物10の製造方法は:
溶融性爆発物12を溶融させるステップ(ステップ100)と;
溶融した溶融性爆発物12に鈍感剤23を加えるステップ(ステップ101)と;
鈍感剤23を溶融した溶融性爆発物12中に混合して、均質化混合物を得るステップ(ステップ102)と、
を含む。
【0059】
溶融した溶融性爆発物12に鈍感剤23を加えるステップ101は、好ましくは直接行われ、これは、周囲温度で固体形態の鈍感剤23を液体溶融性爆発物12に加えることを意味する。しかし、すでに液体形態である鈍感剤23を溶融した(液体)溶融性爆発物12に加えることを考慮することもできる。この後者の場合、鈍感剤はステップ101の前のステップで溶融させる。
【0060】
本発明は、中空体51によって境界が定められる軍需品50の装薬方法であって:
前述の溶融性/注型性爆発性組成物の製造方法のステップと;
軍需品50の中空体51内に上記均質化混合物を注型するステップ(ステップ103)と、
を含む、方法にも関する。
【0061】
本発明が関連するこの方法は、溶融注型による軍需品の装薬方法である。軍需品の機能において、本発明は、火砲、海軍及び航空機の軍需品、爆弾、地雷、擲弾、並びに弾頭部の分野に用いることができる。
【0062】
装薬におけるこの解決策の実施によって、溶融注型プロセスに属する現行のすべての工業装置及び手段を維持することができ、当業者が有しない能力に頼る必要がない。
【0063】
したがってこの解決策は、エマルジョンの化学に特有な能力、及び/又は特殊な製造装置が使用されないので、当業者による溶融注型プロセスの標準的な装置に適合し、容易に移行可能である。
【0064】
結果として、本発明による溶融性/注型性爆発性組成物は多数の利点を示す。液体溶融性爆発物に対して可溶性の鈍感剤は、溶融性爆発物との化学親和力によって、不均一性の問題に本質的に対応する。生成物の分散は最適であり、時間が経過しても維持される。本発明によって提供される解決策によって、装薬の濃度に関する不均一性について観察される範囲が大きく縮小される。従来の組成物は、±2%の不均一性範囲を示すが、本発明による組成物は、±0.5%の不均一性範囲を有する。さらに、本発明によって提案される解決策は、既存の実施方法に直接移行させることができ、複雑なエマルジョン分野のさらなる能力は不要である。本発明による組成物は、これまで溶融性爆発物(TNT)及び鈍感剤(ワックス)をベースとする組成物に必然的に関連してきた界面活性剤などの添加剤の添加に頼る必要がない。本発明によって、関与する製造方法を変更する必要なしに、組成物中の鈍感剤のパーセント値を適応させることによって軍需品の性能特性を制御することができる。
【0065】
当業者に開示された教示を考慮すれば、以上に記載の実施形態の種々の修正が可能であることは、当業者にはより一般的に明らかとなるであろう。以下の請求項において、使用される用語は、本明細書に記載の実施形態に請求項が限定されると解釈されるべきではなく、それらの表現によって対象とされることが請求項に意図され、当業者の一般知識に基づいて当業者によって予測できるようにすべての均等物がそれらの中に含まれると解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0066】
10 溶融性/注型性爆発性組成物
12 液体TNT
13 鈍感剤
14 界面活性剤
23 鈍感剤
50 軍需品
51 中空体
100 ステップ
101 ステップ
102 ステップ
103 ステップ
【外国語明細書】