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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186674
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 29/06 20060101AFI20221208BHJP
   F04C 29/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
F04C29/06 E
F04C29/06 B
F04C29/00 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090939
(22)【出願日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2021093685
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】惠良 修二
【テーマコード(参考)】
3H129
【Fターム(参考)】
3H129AA04
3H129AA13
3H129AB03
3H129BB22
3H129CC06
3H129CC25
3H129CC29
(57)【要約】
【課題】圧縮された流体の圧力脈動に起因する振動及び騒音を抑制する圧縮機を提案する。
【解決手段】圧縮機は、圧縮機構を備える。圧縮機構は、ボス部を有するフロントヘッドと、フロントヘッドに取り付けられたマフラーカバーとを有する。フロントヘッドは、ボス部の外周面に、円錐側面の一部である第1接触面を有する。マフラーカバーは、ボス部が挿入される円形の第1開口が形成された第1面を有する。第1開口を形成する第1面の第1端部は、マフラーカバーがフロントヘッドに取り付けられた状態において第1接触面に接触する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構(30)を備えた圧縮機(10)であって、
前記圧縮機構は、
ボス部(42)を有するフロントヘッド(40)と、
前記フロントヘッドに取り付けられたマフラーカバー(70)とを有し、
前記フロントヘッドは、
前記ボス部の外周面に、円錐側面の一部である第1接触面(42a)を有し、
前記マフラーカバーは、
前記ボス部が挿入される円形の第1開口(71a)が形成された第1面(71)を有し、
前記第1開口を形成する前記第1面の第1端部は、
前記マフラーカバーが前記フロントヘッドに取り付けられた状態において前記第1接触面に接触する、
圧縮機。
【請求項2】
前記第1面は、
前記第1開口の周囲に形成された円錐側面の一部である第2接触面(71c)を有し、
前記第2接触面は、
前記マフラーカバーが前記フロントヘッドに取り付けられた状態において前記第1接触面に接触する、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記マフラーカバーは、
前記圧縮機構により圧縮された流体が通過する第2開口(71b)が2つ形成されており、
2つの前記第2開口は、
前記ボス部の延伸方向からみて、前記ボス部の軸心(42o)を中心とする所定の半径の円周上に、前記軸心を軸として180°の間隔を有する位置に形成されている、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記ボス部の前記軸心を含む平面において、
前記ボス部の前記軸心と前記第1接触面とがなす角度(a1)は、
前記ボス部の前記軸心と前記第2接触面とがなす角度(a2)よりも小さい、
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記第2接触面の幅(w)は、
前記マフラーカバーの板厚(t)よりも大きい、
請求項2に記載の圧縮機。
【請求項6】
前記ボス部の前記軸心を含む平面において、
前記ボス部の前記軸心と前記第1接触面とがなす角度は、
0°より大きく45°未満である、
請求項1又は2に記載の圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開平05-133377号公報)は、圧縮要素において圧縮された流体が吐出される空間(シェル空間)が、フロントヘッド(上部枠体)とマフラーカバー(マフラー)とにより形成された圧縮機を開示している。特許文献1の圧縮機では、マフラーカバーに形成される流体の吐出口の位置を調整して圧縮要素から吐出される流体の圧力脈動を相殺させることにより、圧力脈動に起因するケーシングの振動及び騒音の低減が図られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の圧縮機が備えるマフラーカバーには、フロントヘッドが有するボス部を挿入するための開口が形成されている。マフラーカバーをフロントヘッドに取り付けた状態で、この開口とボス部との間には僅かではあるが隙間が生じることから、当該隙間からシリンダで圧縮された流体が流出して、十分に振動及び騒音の低減効果が得られないという問題がある。
【0004】
本開示は、圧縮機構から流出する圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音を抑制する圧縮機を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1観点の圧縮機は、圧縮機構を備える。圧縮機構は、ボス部を有するフロントヘッドと、フロントヘッドに取り付けられたマフラーカバーとを有する。フロントヘッドは、ボス部の外周面に、円錐側面の一部である第1接触面を有する。マフラーカバーは、ボス部が挿入される円形の第1開口が形成された第1面を有する。第1開口を形成する第1面の第1端部は、マフラーカバーがフロントヘッドに取り付けられた状態において第1接触面に接触する。
【0006】
本圧縮機によれば、ボス部と第1開口との間が第1接触面と第1面の第1端部との接触によりシールされて、ボス部と第1開口との間から冷媒が流出することが抑制される。この結果、本圧縮機によれば、圧縮機構から流出する圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が抑制される。
【0007】
第2観点の圧縮機は、第1観点の圧縮機であって、第1面が、第1開口の周囲に形成された円錐側面の一部である第2接触面を有する。第2接触面は、マフラーカバーがフロントヘッドに取り付けられた状態において第1接触面に接触する。
【0008】
本圧縮機によれば、ボス部と第1開口との間が第1接触面と第2接触面との接触によりシールされて、ボス部と第1開口との間から冷媒が流出することが抑制される。この結果、本圧縮機によれば、圧縮機構から流出する圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が抑制される。
【0009】
第3観点の圧縮機は、第1観点又は第2観点の圧縮機であって、マフラーカバーが、圧縮機構により圧縮された流体が通過する第2開口が2つ形成されている。2つの第2開口は、ボス部の延伸方向からみて、ボス部の軸心を中心とする所定の半径の円周上に、軸心を軸として180°の間隔を有する位置に形成されている。
【0010】
本圧縮機によれば、第2開口から排出される冷媒が対称音源となり、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【0011】
第4観点の圧縮機は、第2観点又は第3観点の圧縮機であって、ボス部の軸心を含む平面において、ボス部の軸心と第1接触面とがなす角度は、ボス部の軸心と第2接触面とがなす角度よりも小さい。
【0012】
本圧縮機によれば、マフラーカバーに下方に向かう荷重が加わった際には、第2接触面が弾性変形することにより第1接触面と面接触して、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【0013】
第5観点の圧縮機は、第2観点から第4観点の圧縮機のいずれかであって、第2接触面の幅は、マフラーカバーの板厚よりも大きい。
【0014】
本圧縮機によれば、第1接触面又は第2接触面の寸法に多少のばらつきがあっても、第2接触面の弾性変形によりシール性を確保することができ、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【0015】
第6観点の圧縮機は、第1観点から第5観点の圧縮機のいずれかであって、ボス部の軸心を含む平面において、ボス部の軸心と第1接触面とがなす角度は、0°より大きく45°未満である。
【0016】
本圧縮機によれば、第1接触面よりも下方におけるボス部の外周径が大きくなりすぎてマフラーカバーとフロントヘッドとにより形成される空間の容積が減ることが抑制されるため、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る圧縮機10の概略縦断面図である。
図2図1において点線で囲んだA部の拡大図である。
図3】マフラーカバー70を上方から見た平面図である。
図4】第2実施形態に係る圧縮機10の概略縦断面図である。
図5図4において点線で囲んだB部の拡大図である。
図6】第2実施形態に係る圧縮機10が有するマフラーカバー70の断面図である。
図7】実施例及び比較例に係るモデルを用いた解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
(1)全体構成
図1は、第1実施形態に係る圧縮機10の概略縦断面図である。図2は、図1において点線で囲んだA部の拡大図である。圧縮機10は、シリンダの内部でピストンを偏心回転させて、シリンダの内部の空間の容積を変化させることにより流体を所定の圧力まで圧縮するロータリ式の圧縮機である。限定するものではないが、圧縮機10は、空気調和機やヒートポンプ式の給湯機などの冷凍サイクル装置において冷媒の圧縮に用いられる。圧縮機10は、密閉容器である略円筒形状のケーシング11と、ケーシング11内に収容された駆動機構20と、圧縮要素である圧縮機構30とを備えている。圧縮機10は、吸入管96から冷媒を吸入し、圧縮して高温高圧になった冷媒を吐出管25から、図示しない冷凍装置の熱交換器に向けて吐出する。
【0019】
なお、以下の説明において用いられる上、下の方向は、図1に矢印で示される方向である。
【0020】
(2)詳細構成
(2-1)駆動機構20
駆動機構20は、圧縮機構30を駆動する。駆動機構20は、ケーシング11の内部において、圧縮機構30の上部に収容される。駆動機構20は、駆動源であるモータ21と、モータ21に取り付けられた駆動軸であるシャフト22とを有する。モータ21及びシャフト22は、それぞれの軸心が回転軸Oに一致するように配置される。
【0021】
(2-1-1)モータ21
モータ21は、主として、ロータ23と、ステータ24とを有している。ロータ23は、円柱状の形状を有している。ロータ23には、互いの軸心が重なるようにシャフト22が固定されている。ロータ23は、積層された電磁鋼板と、ロータ本体に埋設された磁石とから成る。ステータ24は、円筒状の形状を有しており、ケーシング11の内周面に固定されている。ロータ23は、ステータ24の径方向内側に所定幅の空間(エアギャップ)を介して配置される。ステータ24は、積層された電磁鋼板と、ステータ本体に巻かれたコイルとを用いて形成される。コイルに電流が流れることによってステータ24に発生する電磁力により、ロータ23がシャフト22と共に回転する。
【0022】
(2-1-2)シャフト
シャフト22は、モータ21の回転を圧縮機構30に伝達する。シャフト22は、ロータ23の下方に、軸心から偏心したクランクピン22aを有する。クランクピン22aは、後述する圧縮機構30のピストン31に、ロータ23からの回転力を伝達可能な状態で挿入されている。シャフト22が回転することにより、クランクピン22aは軸心の回りで偏心回転をし、圧縮機構30のピストン31を軸心の回りで公転させる。この結果、モータ21の駆動力が、シャフト22を介して圧縮機構30に伝達される。
【0023】
(2-2)圧縮機構30
圧縮機構30は、吸入管96を介して冷媒を吸入して圧縮する。圧縮機構30は、ケーシング11の内部において、駆動機構20の下部に収容される。圧縮機構30は、ロータリ型の圧縮機構であり、主として、フロントヘッド40と、シリンダ50と、ピストン31と、リアヘッド60と、マフラーカバー70とを有する。圧縮機構30で圧縮された冷媒は、吐出孔(図示省略)から、後述するマフラー空間S2を経て、モータ21と圧縮機構30との間の空間へ吐出される。
【0024】
(2-2-1)シリンダ50
シリンダ50は、内部に収容されたピストン31と共に冷媒を圧縮する圧縮室S1を形成する。シリンダ50は、上下方向に直交するように配置された所定幅の板状の部材である。シリンダ50は、吸入通路51と、シリンダ室52とを有する。
【0025】
シリンダ室52は、シリンダ50の上下方向にわたって形成された、平面視において略円形の貫通孔を、下側からリアヘッド60により、上側からフロントヘッド40により塞ぐことにより形成される。
【0026】
吸入通路51は、シリンダ室52とシリンダ50の外部とを連通する冷媒の流路である。吸入通路51の一端はシリンダ室52に開口し、吸入通路51の他端はシリンダ室52の外面に開口している。吸入管96の先端部は、吸入通路51の他端に挿入される。シリンダ室52には、ピストン31が収容される。
【0027】
(2-2-2)ピストン31
ピストン31は、シリンダ室52に収容される、平面視において円形の板材である。ピストン31は、シャフト22のクランクピン22aに装着されて一体化されている。シャフト22が回転するとピストン31は、上方から見て、回転軸Oを中心として、シリンダ室52を形成するシリンダ50の内周面に外周面の一部を接触させながら公転する。
【0028】
(2-2-3)フロントヘッド40
フロントヘッド40は、シリンダ50の上面を閉塞するフロントヘッド円板部41と、フロントヘッド円板部41の中央に形成された開口の周縁から上方向に伸びるフロントヘッドボス部42とを有する。フロントヘッド40は、ケーシング11に固定される。
【0029】
フロントヘッド円板部41には、吐出孔(図示省略)が形成されている。吐出孔からは、シリンダ50のシリンダ室52において容積が変化する圧縮室S1で圧縮された冷媒が、吐出される。フロントヘッド円板部41には、吐出孔の出口を開閉する吐出弁(図示省略)が設けられている。吐出弁は、圧縮室S1の圧力がマフラー空間S2の圧力よりも高くなったときに圧力差によって開き、吐出孔からマフラー空間S2への冷媒の吐出を許容する。
【0030】
フロントヘッドボス部42は、円筒状である。フロントヘッドボス部42は、内周にシャフト22が挿入され、シャフト22の軸受として機能する。フロントヘッドボス部42は、軸心42oが回転軸Oと一致するように形成される。
【0031】
フロントヘッド40は、フロントヘッドボス部42の外周面に、円錐側面の一部である第1接触面42aを有する。本実施形態では、第1接触面42aは、上方から下方に向かって径が拡がる円錐台の側面を形成する。フロントヘッドボス部42の軸心42oを含む平面における、軸心42oと第1接触面42aとがなす角度a1は、0°より大きく45°未満であることが好ましい。
【0032】
(2-2-4)リアヘッド60
リアヘッド60は、シリンダ50の下面を閉塞するリアヘッド円板部61と、リアヘッド円板部61の中央に形成された開口の周縁部から下方に伸びるリアヘッドボス部62とを有する。
【0033】
リアヘッドボス部62は、円筒状である。リアヘッドボス部62は、内周にシャフト22が挿入され、シャフト22の軸受として機能する。
【0034】
(2-2-5)マフラーカバー70
マフラーカバー70は、圧縮機構30から吐出される冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音を低減するためのマフラー空間S2を形成する部材である。図3は、マフラーカバー70を上方から見た平面図である。マフラーカバー70は、主として、上下方向に直交する面である上面71と、上面71の外周縁から下方に伸びる側面72とを有する。
【0035】
上面71には、第1マフラー開口71aと、2つの第2マフラー開口71bとが形成されている。マフラーカバー70は、限定するものではないが、板厚tが1mm程度の板金を用いて形成される。上面71は、第1面の一例である。
【0036】
第1マフラー開口71aは、フロントヘッドボス部42を貫通させるために形成された円形の開口である。第1マフラー開口71aは、マフラーカバー70がフロントヘッド40に取り付けられた状態において、第1マフラー開口71aを形成する上面71の第1端部71eが第1接触面42aに接触するように形成される。本実施形態では、図2に示されるように、第1マフラー開口71aは、第1マフラー開口71aの下方からフロントヘッドボス部42を挿入して、マフラーカバー70がフロントヘッド40の上面に取り付けられた状態において、第1端部71eの下端が第1接触面42aに接触(線接触)するように形成される。第1マフラー開口71aは、第1開口の一例である。
【0037】
第2マフラー開口71bは、マフラー空間S2からモータ21と圧縮機構30との間の空間へと冷媒を流入させるために形成された円形の開口である。2つのマフラー開口70bは、フロントヘッドボス部42の延伸方向からみて、フロントヘッドボス部42の軸心42oを中心とする所定の半径の円周上に、軸心42oを軸として180°の間隔を有する位置に形成されている(図3参照)。本実施形態では、2つの第2マフラー開口71bは、フロントヘッドボス部42の延伸方向からみて、フロントヘッドボス部42の軸心42oを中心とする所定の半径の円周上に中心が位置し、かつ、軸心42oを軸として互いの中心間が180°の間隔を有する位置に形成されている。第2マフラー開口71bは、第2開口の一例である。
【0038】
マフラーカバー70は、フロントヘッドボス部42を第1マフラー開口71aに挿入させた状態でフロントヘッド円板部41に取り付けられている。マフラーカバー70は、フロントヘッド円板部41の上面及びフロントヘッドボス部42の外周面と共にマフラー空間S2を形成する。上述したように、マフラーカバー70がフロントヘッド円板部41の上面に取り付けられることにより、上面71の第1端部71eは、第1接触面42aと接触をする。
【0039】
(3)圧縮機の動作
ロータ23が回転するとクランクピン22aの偏心回転によって圧縮機構30のピストン31がシリンダ室52の内部を公転するため、圧縮室S1の容積が変化する。この結果、吸入通路51を通って圧縮室S1に冷媒が吸入される。吸入された冷媒はピストン31により圧縮され、吐出孔を介してマフラー空間S2に流出する。マフラー空間S2に流出した冷媒は、マフラーカバー70が有する2つの第2マフラー開口71bからモータ21と圧縮機構30との間の空間へ排出される。マフラー空間S2の外部へ排出された冷媒は、モータ21のロータ23とステータ24との間のエアギャップを通過して、吐出管25から吐出される。
【0040】
また、圧縮機10では、2つの第2マフラー開口71bが、フロントヘッドボス部42の延伸方向からみて、フロントヘッドボス部42の軸心42oを中心とする所定の半径の円周上に、軸心42oを軸として180°の間隔を有する位置に形成されているため、第2マフラー開口71bから排出される冷媒が対称音源となる。この結果、圧縮機構30から流出する冷媒の圧力脈動に起因する定在波の発生が抑制され、定在波を原因とした振動及び騒音の発生が抑制される。
【0041】
(4)特徴
(4-1)
圧縮機10は、圧縮機構30を備える。圧縮機構30は、フロントヘッドボス部42を有するフロントヘッド40と、フロントヘッド40に取り付けられたマフラーカバー70とを有する。フロントヘッド40は、フロントヘッドボス部42の外周面に、円錐側面の一部である第1接触面42aを有する。マフラーカバー70は、フロントヘッドボス部42が挿入される円形の第1マフラー開口71aが形成された上面71を有する。第1マフラー開口71aを形成する第1面71の第1端部71eは、マフラーカバー70がフロントヘッド40に取り付けられた状態において第1接触面42aに接触する。
【0042】
圧縮機10によれば、第1マフラー開口71aの下方からフロントヘッドボス部42を挿入することにより、第1接触面42aと第1端部71eとを線接触させることができる。これにより、フロントヘッドボス部42と第1マフラー開口71aとの間が第1接触面42aと第1端部71eの下端とによりシールされて、フロントヘッドボス部42と第1マフラー開口71aとの間から冷媒が流出することが抑制される。この結果、圧縮機10によれば、圧縮機構30から流出する圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が抑制される。
【0043】
特許文献1に示された従来技術に係る圧縮機では、フロントヘッドボス部とマフラーカバーのボス部との間の隙間(クリアランス)を減らして設計することにより、両部材の間からの冷媒の流出を防ぐことが試みられる。しかし、隙間を減らした場合には、組立性が低下するという問題が生じる。これに対して、圧縮機10では、円錐側面の一部である第1接触面42aと第1端部71eとを接触させるため、フロントヘッドボス部42の外径と第1マフラー開口71aの内径との間の隙間を小さく設計することなく、シール性を確保できる。このため、圧縮機10によれば、組立性の悪化を生じさせることなく、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が抑制される。
【0044】
これに加えて、圧縮機10では、フロントヘッドボス部42の第1接触面42aと第1マフラー開口71aとの間に隙間が生じることが抑制されるため、マフラーカバー70の水平方向における位置決めも、従来技術と比べて容易となる。
【0045】
(4-2)
マフラーカバー70は、圧縮機構30により圧縮された冷媒が通過する第2マフラー開口71bが2つ形成されている。2つの第2マフラー開口71bは、フロントヘッドボス部42の延伸方向からみて、フロントヘッドボス部42の軸心42oを中心とする所定の半径の円周上に、軸心42oを軸として180°の間隔を有する位置に形成されている。
【0046】
これにより、第2マフラー開口71bから排出される冷媒が対称音源となり、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【0047】
<第2実施形態>
(1)全体構成
図4は、第2実施形態に係る圧縮機10の概略縦断面図である。図5は、図4において点線で囲んだB部の拡大図である。図6は、第2実施形態に係る圧縮機10が有するマフラーカバー70の断面図である。第1実施形態に係る圧縮機10と第2実施形態に係る圧縮機10との相違点は、マフラーカバー70の形状である。以下では、第1実施形態と第2実施形態との相違点を中心に説明する。第1実施形態と第2実施形態との間で同じ又は対応する特徴には同一の参照符号を付して、適宜説明を省略する。
【0048】
(2)詳細構成
(2-1)マフラーカバー70
第2実施形態に係る圧縮機10では、マフラーカバー70の上面71は、第1マフラー開口71aの周囲に形成された円錐側面の一部である第2接触面71cを有する。
本実施形態では、第2接触面71cは、上方から下方に向かって径が拡がる円錐台の側面を形成する。第2接触面71cは、第1マフラー開口71aの下方からフロントヘッドボス部42を挿入して、マフラーカバー70がフロントヘッド40の上面に取り付けられた状態において、フロントヘッド40の第1接触面42aに接触(面接触)するように形成される。第1実施形態と同様に、マフラーカバー70がフロントヘッド40の上面に取り付けられた状態において、第1端部71eも第1接触面42aに接触する。
【0049】
第2接触面71cは、フロントヘッドボス部42の軸心42oを含む平面において、軸心42oとなす角度a2が、角度a1より大きくなるように形成されることが好ましい。言い換えると、角度a1は、角度a2よりも小さいことが好ましい。また、第2接触面71cの幅Wは、マフラーカバー70の板厚tよりも大きいことが好ましい。
【0050】
(3)特徴
(3-1)
第2実施形態に係る圧縮機10は、上面71が、第1マフラー開口71aの周囲に形成された円錐側面の一部である第2接触面71cを有する。第2接触面71cは、マフラーカバー70がフロントヘッド40に取り付けられた状態において第1接触面42aに接触する。
【0051】
第2実施形態に係る圧縮機10によれば、第1接触面42a及び第2接触面71cがどちらも円錐側面の一部であるため、第1マフラー開口71aの下方からフロントヘッドボス部42を挿入することにより、第1端部71eに加えて第1接触面42aと第2接触面71cとを面接触させることができる。これにより、フロントヘッドボス部42と第1マフラー開口71aとの間が第1接触面42aと第2接触面71cとによりシールされて、フロントヘッドボス部42と第1マフラー開口71aとの間から冷媒が流出することが抑制される。この結果、第2実施形態に係る圧縮機10によれば、圧縮機構30から流出する圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【0052】
また、第1接触面42aと第2接触面71cとを面接触させるため、第1接触面42a又は第2接触面71cの寸法に多少のばらつきがあっても、第2接触面71cの弾性変形によりシール性を確保することができる。
【0053】
(3-2)
フロントヘッドボス部42の軸心42oを含む平面において、フロントヘッドボス部42の軸心42oと第1接触面42aとがなす角度a1は、フロントヘッドボス部42の軸心42oと第2接触面71cとがなす角度a2よりも小さい。
【0054】
これにより、第1マフラー開口71aの下方からフロントヘッドボス部42を挿入した場合に、第2接触面71cの第1端部71e近傍が、他の部分よりも先に第1接触面42aに接触する。このため、マフラーカバー70に下方に向かう荷重が加わった際には、第2接触面71cが弾性変形をすることで、第1端部71e近傍よりも下方の領域をさらに面接触させることができる。この結果、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【0055】
(3-3)
第2接触面71cの幅wは、マフラーカバー70の板厚tよりも大きい。
【0056】
これにより、第1接触面42aと第2接触面71cとが面接触できる面積を確保しながら、適度に第2接触面71cを弾性変形させることができる。このため、第1接触面42a又は第2接触面71cの寸法に多少のばらつきがあっても、第2接触面71cの弾性変形によりシール性を確保することができ、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【0057】
(3-4)
フロントヘッドボス部42の軸心42oを含む平面において、フロントヘッドボス部42の軸心42oと第1接触面42aとがなす角度a1は、0°より大きく45°未満である。
【0058】
これにより、第1接触面42aよりも下方におけるフロントヘッドボス部42の外周径が大きくなりすぎてマフラー空間S2の容積が減ることが抑制されるため、圧縮された冷媒の圧力脈動に起因する振動及び騒音の発生が効果的に抑制される。
【実施例0059】
実施例に係る圧縮機のモデル及び比較例に係る圧縮機のモデルを作成して、放射音の解析を行った。
【0060】
実施例として、図4に示された、第2実施形態に係る圧縮機10のモデルを用いた。比較例として、第1接触面42a及び第2接触面71cを有さない点のみが圧縮機10と異なる圧縮機のモデルを用いた。比較例に係る圧縮機のモデルでは、マフラーカバーをフロントヘッドボス部に対して偏った状態で配置した。フロントヘッドボス部とマフラーカバーとの間の隙間は0.6mmとした。
【0061】
上述のモデルを用いて所定の速度で流体(冷媒)が吸入・吐出された際の、ケーシング11の表面から所定距離における放射音(Sound Pressure Level[dB])の解析を行った。図7は、実施例及び比較例に係るモデルを用いた解析結果を示すグラフである。
【0062】
図7に示されるように、圧縮機10を用いて、フロントヘッドボス部42と第1マフラー開口71aとの間をシールすることにより、広い周波数範囲で騒音レベルを低減できることが確認された。
【0063】
以上、本開示の実施形態を説明したが、特許請求の範囲に記載された本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【符号の説明】
【0064】
10 圧縮機
11 ケーシング
20 駆動機構
30 圧縮機構
40 フロントヘッド
42 フロントヘッドボス部(ボス部)
42a 第1接触面
42o 軸心
70 マフラーカバー
71 上面(第1面)
71a 第1マフラー開口(第1開口)
71b 第2マフラー開口(第2開口)
71c 第2接触面
a1 フロントヘッドボス部の軸心と第1接触面とがなす角
a2 フロントヘッドボス部の軸心と第2接触面とがなす角
w 第2接触面の幅
t マフラーカバーの板厚
【先行技術文献】
【特許文献】
【0065】
【特許文献1】特開平05-133377号公報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【手続補正書】
【提出日】2022-10-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機構(30)を備えた圧縮機(10)であって、
前記圧縮機構は、
ボス部(42)を有するフロントヘッド(40)と、
前記フロントヘッドに取り付けられたマフラーカバー(70)とを有し、
前記フロントヘッドは、
前記ボス部の外周面に、円錐側面の一部である第1接触面(42a)を有し、
前記マフラーカバーは、
前記ボス部が挿入される円形の第1開口(71a)が形成された第1面(71)を有し、
前記第1開口を形成する前記第1面の第1端部は、
前記マフラーカバーが前記フロントヘッドに取り付けられた状態において前記第1接触面に接触
前記第1面は、
前記第1開口の周囲に形成された円錐側面の一部である第2接触面(71c)を有し、
前記第2接触面は、
前記マフラーカバーが前記フロントヘッドに取り付けられた状態において前記第1接触面に接触する、
圧縮機。
【請求項2】
前記マフラーカバーは、
前記圧縮機構により圧縮された流体が通過する第2開口(71b)が2つ形成されており、
2つの前記第2開口は、
前記ボス部の延伸方向からみて、前記ボス部の軸心(42o)を中心とする所定の半径の円周上に、前記軸心を軸として180°の間隔を有する位置に形成されている、
請求項1に記載の圧縮機。
【請求項3】
前記ボス部の軸心を含む平面において、
前記ボス部の前記軸心と前記第1接触面とがなす角度(a1)は、
前記ボス部の前記軸心と前記第2接触面とがなす角度(a2)よりも小さい、
請求項に記載の圧縮機。
【請求項4】
前記第2接触面の幅(w)は、
前記マフラーカバーの板厚(t)よりも大きい、
請求項に記載の圧縮機。
【請求項5】
前記ボス部の軸心を含む平面において、
前記ボス部の前記軸心と前記第1接触面とがなす角度は、
0°より大きく45°未満である、
請求項1に記載の圧縮機。