(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186724
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】電磁波減衰フィルム
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20221208BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20221208BHJP
B32B 7/025 20190101ALI20221208BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01Q17/00
B32B7/025
C08J5/18 CEX
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022155637
(22)【出願日】2022-09-29
(62)【分割の表示】P 2021165145の分割
【原出願日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2020191772
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 敦子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 慎平
(57)【要約】
【課題】ミリ波帯域の周波数の電波を減衰することができ、かつ、薄い電磁波減衰フィルムで耐候性、耐熱性等、耐環境性に優れた電磁波減衰フィルムを提供する。
【解決手段】本発明は、前面および背面を有する誘電体基材と、前面に配置された薄膜導電層と、背面に配置された平板インダクタまたは貼合層とを備えた電磁波減衰フィルムである。前記薄膜導電層上に樹脂材料からなるトップコート層を設けてもよい。
薄膜導電層は、複数の金属プレートを含み、金属プレートの厚さをT、表皮深さをd、としたときに周波数57GHz~90GHz帯域で下記式を満たことを特徴とする電磁波減衰フィルムである。
-2.5 ≦ ln(T/d) ≦ -1.0
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面および背面を有する誘電体基材と、
前記前面に配置された薄膜導電層と、
前記背面に配置された平板インダクタと、
を備え、
前記薄膜導電層は、複数の金属プレートを含み、
金属プレートは、離散して配置され、
前記金属プレートの厚さをT、表皮深さをd、としたときに下記式(1)を満たす、
周波数57GHz~90GHz帯域で用いる電磁波減衰フィルム。
-2.5 ≦ ln(T/d) ≦ -1.0 …(1)
【請求項2】
前面および背面を有する誘電体基材と、
前記前面に配置された薄膜導電層と、
前記背面に配置された平板インダクタと、
を備え、
前記誘電体基材は、前記前面に、相対的に低い凹の部分の第一領域と、相対的に高い第二領域とからなる凹凸を有し、
前記薄膜導電層は、前記第一領域に配置された複数の金属プレートを含み、かつ前記第二領域の上面に形成され、
前記第一領域は、離散して配置され、
前記第二領域は、複数の前記第一領域間に配置されている、
周波数57GHz~90GHz帯域で用いる電磁波減衰フィルム。
【請求項3】
前面および背面を有する誘電体基材と、
前記前面に配置された薄膜導電層と、
前記背面に配置された貼合層と、
を備え、
前記薄膜導電層は、複数の金属プレートを含み、
金属プレートは、離散して配置され、
前記金属プレートの厚さをT、表皮深さをd、としたときに下記式(1)を満たす、
周波数57GHz~90GHz帯域で用いる電磁波減衰フィルム。
-2.5 ≦ ln(T/d) ≦ -1.0 …(1)
【請求項4】
前面および背面を有する誘電体基材と、
前記前面に配置された薄膜導電層と、
前記背面に配置された貼合層と、
を備え、
前記誘電体基材は、前記前面に、相対的に低い凹の部分の第一領域と、相対的に高い第二領域とからなる凹凸を有し、
前記薄膜導電層は、前記第一領域に配置された複数の金属プレートを含み、かつ前記第二領域の上面に形成され、
前記第一領域は、離散して配置され、
前記第二領域は、複数の前記第一領域間に配置されている、
周波数57GHz~90GHz帯域で用いる電磁波減衰フィルム。
【請求項5】
前記薄膜導電層および前記平板インダクタは、前記誘電体基材の厚さ方向に離間している、請求項1または2に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項6】
前記薄膜導電層上にトップコート層を備えていることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項7】
前記トップコート層が、電磁波が伝搬する空気層とインピーダンス整合がとられていることを特徴とする、請求項6に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項8】
前記トップコート層はシクロヘキシル(メタ)アクリレートをモノマー成分として含有するアクリル系樹脂組成物を主成分とすることを特徴とする、請求項7に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項9】
前記トップコート層はアクリル系樹脂組成物中に紫外線吸収剤、紫外線散乱剤を含有することを特徴とする、請求項8に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項10】
前記金属プレートが、銀、銅、アルミニウムのいずれからなる、請求項1から9のいずれか一つに記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項11】
同形同大の複数の前記金属プレートが所定範囲の値の距離を空けて配置されている、請求項1から10のいずれか一項に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項12】
前記薄膜導電層は、前記前面側から入射した電磁波を捕捉可能に構成されている、請求項1から11のいずれか一項に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項13】
前記金属プレートは、対向する一対の辺を有する、請求項1から12のいずれか一項に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項14】
前記金属プレートの、対向する一対の辺の長さは、0.25mm以上、4mm以下である、請求項13に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項15】
前記誘電体基材の厚さは、減衰中心波長に対して十分薄い、請求項1から14のいずれか一項に記載の電磁波減衰フィルム。
【請求項16】
前記誘電体基材の厚さは、減衰中心波長の1/10未満である、請求項1から15のいずれか一項に記載の電磁波減衰フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、入射波を捕捉し、反射波を減衰することが可能な電磁波減衰フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話などの移動体通信、無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などにおいて、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つ電波が使われている。
【0003】
このような電波を吸収する電波吸収シートとして、特許文献1には、ゴム状電波吸収シートと段ボールなどの紙状シート材とを積層した積層体シートが提案されている。
さらに、より高い周波数帯域の電波を吸収できるようにすることを目的として、特許文献2には、偏平状の軟磁性粒子の長手方向をシートの面方向に揃えることで、20GHz以上の周波数帯域の電波を吸収可能な電波吸収シートが提案されている。
【0004】
また、イプシロン酸化鉄(ε-Fe2O3)結晶を磁性相に持つ粒子の充填構造を有する電波吸収体が、25~100GHzの範囲で電波吸収性能を発揮することが知られている(特許文献3参照)。
【0005】
特許文献4には、プラスチックフィルムと、その少なくとも一面に設けた単層又は多層の金属薄膜とを有し、金属薄膜に多数の実質的に平行で断続的な線状痕が不規則な幅及び間隔で複数方向に形成された電磁波吸収体に好適な線状痕付き金属薄膜-プラスチック複合フィルムが提案されている。
特許文献5には、個々の共振周波数を有する複数のパッチ導体を所定の周期パターンで配列した共振層と、共振層で共振した電波を多重反射させる誘電体層と、誘電体層から入射した電波を該誘電体層側へ反射する反射導体層を備えた電波吸収構造が開示されている。
【0006】
そして、上記のような電磁波吸収シートは電子デバイス内の他、建築物の内装などに用いられる。また、その電磁波吸収材料としては特許文献6に記載されているように、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ゴム系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アルキド系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂等のアクリレ-ト共重合体変性樹脂が用いられる。また、特許文献7に記載されているようなポリアミドイミドや合成ゴムなどのゴム系材料等も用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-233834号公報
【特許文献2】特開2015-198163号公報
【特許文献3】特開2008-060484号公報
【特許文献4】国際公開第2010/093027号
【特許文献5】特開2020-009829号公報
【特許文献6】特許第2612592号
【特許文献7】特開2006-86422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、送受信するデータの大容量化、高速通信化、多地点同時接続化を可能とするために、30GHz以上のミリ波帯域を使用する無線通信の実用化が進み、それを可能にするミリ波対応デバイスの開発が進んでいる。また、極めて狭い指向性を活用する車載レーダー機器の利用が進められている。
【0009】
デバイスの筐体内における電磁波の乱反射などによる干渉はデバイスの誤作動を引き起こす。したがって、電磁波ノイズを抑制することは電磁波利用技術の一つとして重要である。
電磁波ノイズ抑制の一つの方法として、上述したような電磁波吸収シートの利用が考えられるが、現時点では、20GHzから数十GHz程度の周波数に対応するものがほとんどであり、ミリ波帯に対応していない。
ミリ波帯域の電磁波を吸収する電磁波吸収シートは存在するものの、現在実用化されて
いるものは、吸収性能を維持するため、シートが厚い。したがって、高集積化が進むデバ
イスの筐体内に組み込んで電磁波ノイズを抑制することが困難である。
【0010】
上記事情に鑑み、ミリ波帯域の周波数の電磁波を減衰することができ、かつ、薄い電磁波減衰フィルムを提供することを目的とする。さらには、電子デバイス内、建築物の内装などに設置される電磁波吸収体は、長期間継続的に使用されるものであるため、耐候性、耐熱性等の耐環境性に優れた電磁波減衰フィルムの提供も目的とする。尚、本発明の電磁波減衰フィルムは、電磁場を定常的に局在させることが可能なフィルムと考えられる。つまり、本発明の電磁波減衰フィルムは、電磁場の捕捉が可能なフィルムと考えられる。電磁場の「捕捉」とは、電界及び磁界が定常的に局在される状態とできる。また捕捉された電磁場は、一部が熱に変換されることで吸収され、一部は再放出される。すなわち、捕捉された電磁場のエネルギーは、熱のエネルギーと、再放出される電磁波のエネルギーに変換される。この再放出は、一般に指向性が低いと考えられるため、鏡面反射方向への電磁波は低減され、反射波が減衰すると考えられる。そのため電磁波の反射波は、入射した電磁波が熱に変換することによる吸収や再放出による散乱により、減衰できる。このような従来とは異なるメカニズムにより電磁波を減衰するため、従来不可能とされていた波長に対して1/4以下の薄い構造での減衰を可能としている。さらに本願の実施形態によれば、信じがたいことに、波長の10-2オーダーの厚みで電磁波を減衰可能なフィルムを得られる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前面および背面を有する誘電体基材と、前面に配置された薄膜導電層と、背面に配置された平板インダクタまたは貼合層とを備えた電磁波減衰フィルムである。前記薄膜導電層上に樹脂材料からなるトップコート層を設けてもよい。
薄膜導電層は、複数の金属プレートを含み、金属プレートの厚さをT、表皮深さをd、としたときに周波数57GHz~90GHz帯域で下記式を満たすことを特徴とする電磁波減衰フィルムである。
-2.5 ≦ ln(T/d) ≦ -1.0
【0012】
本発明に係る他の電磁波減衰フィルムは周波数57GHz~90GHz帯域で用いられ、前面および背面を有する誘電体基材と、前面に配置された薄膜導電層と、背面に配置された平板インダクタまたは貼合層とを備える。誘電体基材は、前面に、相対的に低い凹の部分の第一領域と、相対的に高い第二領域とからなる凹凸を有する。薄膜導電層は、第一領域に配置された複数の金属プレートを含む。第一領域は、離散して配置され、第二領域は、複数の前記第一領域間に配置されている。薄膜導電層上には樹脂材料からなるトップコート層を形成してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、ミリ波帯域の周波数の電波を減衰することができ、かつ、薄い電磁波減衰フィルムを提供できる。また耐候性に優れた電磁波減衰フィルムを提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る電磁波減衰フィルムを示す模式平面図である。
【
図2】
図1のI-I線における断面の一部を示す模式図である。
【
図3】トップコート層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す模式図である。
【
図4】サポートケージが無い場合の電界強度のシミュレーション結果を示す画像であり、(b)は(a)の部分拡大図である。
【
図5】サポートケージがある場合の電界強度のシミュレーション結果を示す画像であり、(b)は(a)の部分拡大図である。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る電磁波減衰フィルムを示す模式平面図である。
【
図7】
図6のII-II線における断面の一部を示す模式図である。
【
図8】トップコート層を設けた場合の
図6のII-II線における断面の一部を示す模式図である。
【
図9】金属プレートの厚さの変化による電磁波の減衰性のシミュレーション結果を示すグラフである。
【
図10】実施例1Aの57GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図11】実施例1Aの66GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図12】実施例1Aの71GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図13】実施例1Aの81GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図14】実施例1Aの86GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図15】実施例1Aの90GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図16】実施例1Bの81GHzにおける金属面積の割合に応じた電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図17】実施例1Cにおいて金属プレートが長方形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図18】実施例1Cにおいて金属プレートが六角形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図19】実施例1Cにおいて金属プレートが凸形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図20】実施例1Cにおいて金属プレートが三角形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図21】実施例1Cにおいて金属プレートが十字形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図22】実施例1Aにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図23】実施例2における電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図24】実施例1Aでトップコート層を設けた場合における電磁波減衰特性を示すグラフである。
【
図25】金属プレートの寸法と減衰される電磁波の波長との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
電磁波減衰フィルム1は、誘電体基材(誘電体層)10と、誘電体基材10の前面10aに形成された薄膜導電層30と、誘電体基材の背面10bに形成された平板インダクタ50とを備えている。薄膜導電層は、薄い導電体の層である。薄膜導電層は、複数の金属プレートを含む。また、薄膜導電層は、サポートケージ(後述)を含んでもよい。平板インダクタは、導電性を有し、外部の磁束により平板インダクタ内部の表面近傍に電流を生じる。また、その電流に伴い、磁場を平板インダクタ外部の表面近傍に発生させる機能を有する。平板インダクタの形状は、平板(Slab)とできる。誘電体基材は、薄膜導電層と平板インダクタに挟持されている絶縁性の基材である。言い換えると、薄膜導電層と、平板インダクタは、誘電体基材を挟んで誘電体基材の厚さ方向に離間している。尚、前面は、電磁波を入射させる側の面とできる。背面は、誘電体基材の前面と反対側の面である。誘電体基材10は、相対的に前面が低い第一領域121と、第一領域の周囲に相対的に前面が高い第二領域122とを有してもよい。第二領域122上に位置する薄膜導電層を、サポートケージと称する。言い換えると、薄膜導電層は、第二領域122上にサポートケージを含む。
また、電磁波減衰フィルムで減衰される電磁波が単一の極小値となる周波数fを有する場合、この周波数fを、減衰中心周波数fとする。また、電磁波減衰フィルムで減衰される電磁波が複数の極小値を有する場合は、最も減衰の大きい極小値から-3dBとなる複数の周波数の平均値の周波数を減衰中心周波数とする。減衰中心波長は、誘電体基材中の光速を後述の減衰中心周波数fで除したものとできる。
また、電磁波減衰フィルム1は、空気とのインピーダンス整合を図り、シートの耐候性を高めるためのトップコート層200とを備えていてもよい。
【0016】
図1は、本発明の第一実施形態に係る電磁波減衰フィルム1を示す模式平面図である。
図2は、
図1のI-I線における断面の一部を示す模式図である。
【0017】
誘電体基材10は、誘電体で形成され、導電性の材料で挟まれることによりコンデンサを形成できる。誘電体基材10は、絶縁性の材料とできる。
誘電体基材10を構成する材料の代表例は合成樹脂である。合成樹脂の種類は、絶縁性とともに十分な強度、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されない。この合成樹脂は熱可塑樹脂とできる。合成樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン等が挙げられる。これらの材料を単体で用いてもよいし、2種類以上混合させても、積層体としてもよい。また、誘電体基材10は、導電性粒子、絶縁性粒子、磁性粒子、または、その混合を含有してもよい。
【0018】
本発明の実施形態において、誘電体基材の厚みは、電磁波の波長に対して十分薄くできる。誘電体基材が電磁波の波長に対して十分薄い場合、誘電体基材内に進行波が生じないことが知られている。「十分薄い」とは、波長の1/2未満とできる。波長の1/2未満では、進行波は導波しない。これは、電磁波のカットオフと言われる現象である。さらには、波長の1/10以下とできる。一般に電磁波の伝搬距離の差が波長の1/10以下の場合、実質的な位相差が生じない。つまり、金属プレートと平板インダクタとの距離が誘電体基材での波長の1/10以下である場合、金属プレートの再放出する電磁波と平板インダクタとの反射波は、その距離により実質的な位相差を生じない。導電体に挟持された十分に薄い誘電体基材内には、電磁波は導波しないと考えられており、通常、電磁波は、そのような薄さになると遮断(カットオフ)され、そのような誘電体基材に電界や磁界は局在しない。尚、本発明の実施形態でのこの波長は、減衰中心波長とできる。さらに、予想外に、誘電体基材が波長の1/100以下の場合でさえ、減衰が得られている。このような厚みは、最高精度の鏡面の凹凸と同レベルの厚みであり、電磁波のスケールに対して実質的に厚みのない構造で減衰が得られていることになる。
【0019】
発明者らは、種々の実験及びシミュレーションの結果、十分に薄い誘電体基材内でも電磁波による電界及び磁界の定在的な局在が起こることを見出した。誘電体基材10の厚さは、5μm以上、300μm以下とできる。さらには、誘電体基材10の厚さは、5μm以上、100μm以下とできる。これは、ミリ波帯の波長の1/2より薄く、さらにはミリ波帯の波長の1/10より薄い。そのため、電磁波減衰フィルムは、薄いフィルムでありながら、ミリ波帯域の電磁波を減衰させることが可能である。誘電体基材10の厚さは、一定または可変である。
【0020】
誘電体基材10は、単層または多層とできる。誘電体基材10の前面は凹凸を有してもよい。誘電体基材10は、キャリア11と、キャリア11上に、下地層12とを有してもよい。下地層12の前面は、凹凸を有してもよい。キャリア11は、押出フィルムとできる。押出フィルムは、無延伸フィルムまたは延伸フィルムとできる。下地層12は、成形層とアンカー層との2層で構成してもよい。さらに、下地層12と金属プレートおよび平板インダクタとの密着を向上させるため、接着層を設けてもよい。下地層12、成形層、アンカー層、接着層は、誘電体基材を構成する材料と同様のものを使用することが可能である。
【0021】
キャリア11は、誘電体基材10において背面10bを構成し、下地層12は、誘電体基材10において前面10aを構成する。前面10aが凹凸を有している場合、下地層12に凹凸構造を設けるとよい。すなわち、誘電体基材10の前面10aは、下地層12の凹凸に応じた凹凸を有し、誘電体基材10の背面10bは、概ね平坦である。
電磁波減衰フィルム1においては、前面10aの凹凸の態様により特性が変化する。この点については後述する。
【0022】
薄膜導電層30は、電磁波減衰フィルム1の平面視において、前面10aの全体または一部を覆っている。平板インダクタ50は、背面10bの全体または一部を覆っている。平板インダクタ50は、電磁波減衰フィルム1の性能を大きく損なわない限りにおいて、例えば、電磁波減衰フィルム1の周縁の一部等に、薄膜導電層30や平板インダクタ50に覆われていない部位が存在してもよい。
【0023】
薄膜導電層30および平板インダクタ50の材料は、導電性を有する限り特に限定されない。耐食性およびコストの観点からは、アルミニウム、銅、銀、金、白金、スズ、ニッケル、コバルト、クロム、モリブデン、鉄及びこれらの合金が好ましい。薄膜導電層30および平板インダクタ50は、例えば、誘電体基材10に真空蒸着を行うことにより形成できる。平板インダクタ50は、導電性の化合物としてもよい。さらに平板インダクタ50は、連続面でもよいし、メッシュ状、パッチ等のパターンを有していてもよい。
薄膜導電層30の厚さは、10nm以上、1000nm以下とできる。10nm未満であると、電磁波を減衰させる機能が低下する可能性がある。1000nmを超えると、生産性が落ちる可能性がある。
平板インダクタ50は鋳物、圧延金属板、金属箔、蒸着膜、スパッタ膜およびめっきとできる。圧延金属板の厚さは、0.1mm以上5mm以下とできる。金属箔の厚さは5μm以上100μm未満とできる。平板インダクタ50が蒸着膜、スパッタ膜およびメッキ膜の場合は、0.5μm以上、5mm未満とできる。平板インダクタ50の厚さは、0.5μm~5mmとできる。また、平板インダクタ50が鋳物の場合は、厚さは特定されないが、最大寸法が10mm以上のものとできる。また、平板インダクタ50の厚さは、減衰中心波長により求められる表皮深さ以上とできる。また、平板インダクタ50の厚さは、薄膜導電層30の厚さより厚くできる。
薄膜導電層30と平板インダクタ50の材質は、同じ金属種とすることができる。この同じ金属種は、同じ純金属か同じ金属の合金(例えば、双方ともアルミニウム合金)とするか、薄膜導電層30を純金属とし平板インダクタ50を薄膜導電層30の金属の合金としてもよい。また、薄膜導電層30と平板インダクタ50の材質は、異なる金属種としてもよい。
薄膜導電層30は、誘電体基材の反対側の面にトップコート層200を有してもよい。
図3は、トップコート層を設けた場合の
図1のI-I線における断面の一部を示す模式図である。 平板インダクタ50も、誘電体基材の反対側の面にトップコート層200を有してもよい。トップコート層200の厚さは、0.1μm以上、50μm以下とできる。さらには、1μm以上、5μm以下とできる。トップコート層200は単層または多層である。トップコート層200の材質は、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂の単体、混合体、複合体とできる。また、絶縁性粒子、磁性粒子、導電性粒子、または、その混合を含有してもよい。粒子は、無機粒子とできる。トップコート層200を設けることで、電波が伝搬する空気とインピーダンスが整合し、薄膜導電層に対し、電波が効果的に減衰することが可能となる。また、薄膜導電層30、平板インダクタ50に、耐食性、耐薬品性、耐熱性、耐摩擦性、耐衝撃性等を付与することが出来る。例えば、架橋したアクリル樹脂、架橋したエポキシ樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーン樹脂等を用いることにより、耐溶剤性を向上させた上で、耐熱性を向上させることが可能となる。また、ウレタン樹脂等を用いることで耐衝撃性を、シリコーン樹脂を用いることで耐摩擦性を向上させることが可能となる。
【0024】
誘電体基材10は、相対的に前面が低い第一領域121と、相対的に前面が高い第二領域122を有してもよい。第一領域121の平面視形状は、正方形、六角形、十字、その他の多角形、円形、楕円とできる。この正方形、六角形、十字、その他の多角形の角は丸い形状とできる。
第一領域121は、離散して配置されている。第一領域121は、所定のピッチで二次元マトリクス状に配置されている。第二領域122は、電磁波減衰フィルム1の平面視において第一領域121を取り囲んでいる。第一領域121上の薄膜導電層30に金属プレートを含む。つまり、第一領域121上に金属プレートを備える。言い換えると、金属プレートは、第一領域121上に位置する。金属プレートの平面視形状は、正方形、六角形、十字、その他の多角形、円形、楕円とできる。この正方形、六角形、十字、その他の多角形の角は丸い形状とできる。第二領域122は、第一領域121の上述した態様により、平面視において網目状や格子状に形成されている。
第一領域121および第二領域122の薄膜導電層30と接する面は、概ね背面と平行である。さらに、一部または全面に粗面を有してもよい。後述するが、第一領域121および第二領域122の薄膜導電層30と接する面を一部または全面を粗面とすることで、薄膜導電層30の電気抵抗を調整できる。
【0025】
図2に示すように、薄膜導電層30は、第一領域121および第二領域122の上面に形成されている。その一方で、第一領域121よりも上方に延びる第二領域122の側面122aには薄膜導電層30は存在せず、誘電体基材10が露出している。これにより、第一領域121の薄膜導電層30と、第二領域122の薄膜導電層30とは、電気的に絶縁状態とできる。電気的に絶縁状態とできれば、側面122aの一部が薄膜導電層30で覆われていてもよい。
各第一領域の金属プレートは、第一領域121の平面視形状に沿った形状とできる。すなわち、第一領域121の平面視形状と同じか、相似形とできる。また、誘電体基材10は、複数の平面視形状が同形同大の複数の金属プレートを含んでもよい。さらに、第一領域121は互いに平行な状態を保って離散させることができ、前面における配置密度は概ね均一とできる。
【0026】
電磁波減衰フィルム1は、上述した構成によって、特定の波長において、特有のメカニズムを発現すると考えらえる。
【0027】
本発明の電磁波減衰フィルムに入射する電磁波は下記のようにふるまう。具体的には、入射波により発生する電磁場及び電流は、下記のようになると考えられる。
【0028】
まず、金属プレートを透過した入射波の磁束の変動は、ファラデーの法則により、平板インダクタ50に平板インダクタ50の入射面に水平な交流電流を誘導する。この交流電流は平板インダクタ50に隣接する誘電体基材に変動する磁場を、アンペールの法則により、発生させる。また、変動する磁場は、透磁率を係数として変動する磁束となる。
【0029】
変動する磁束により発生する電場は、通常、ヘンリーの法則により磁束を抑制するような向きの電流を誘導する。しかし、本願の構成の場合、予期に反して、逆に電流を増強する向きに働く。これにより、金属プレートには、入射波で誘導された以上の電流が流れる。つまり、金属プレートの面積は、平板インダクタ50の面積より狭いが、平板インダクタ50と同程度の電流を生じさせることができる。
【0030】
この金属プレートに生じる電流の向きは、平板インダクタ50と逆向きとなる。金属プレートと平板インダクタ50に流れる双方に反対向きの電流と、その間に流れる変位電流とにより閉回路を形成できる。金属プレートと平板インダクタ50の間のみでの閉回路となり、電磁波減衰フィルムの外部の空間に電磁波減衰フィルムに水平な電束が発生しない場合には、反射波が発生しえない。また、平板インダクタ50による反射波と、金属プレートの電流により再放出する電磁波は、位相がπずれているため、相互に打ち消し合う。
【0031】
上記の原理により、電磁波減衰フィルムによる反射波は減衰する。エネルギーの観点からは、下記のように、複数のメカニズムが相乗的に作用していると考えられる。
【0032】
第一のメカニズムは、後に磁界密度のシミュレーションにより示すように、入射波による進行しない周期的に振動する電磁場の発生である。まず、誘電体基材10の背面にある
平板インダクタ50により、平板インダクタ50の接線方向に磁束が入射波に誘導される。誘導された磁束により、第一領域121上の薄膜導電層30(すなわち、金属プレート)の対向する一対の辺から伸張する方向に、平板インダクタ50に対して垂直な方向に電場が発生する。次に、電磁波が平板インダクタに入射すると、変動する磁束により平板インダクタの表面近傍に近接するように電流が誘導される。平板インダクタ内に誘導された電流により、平板インダクタの表面近傍に近接する誘電体基材10に磁場が発生する。この電場と金属プレートと平板インダクタ50の電流は、金属プレートと平板インダクタ50との間に平板インダクタ50により誘導される磁束と同じ向きの磁場を発生させる。ここで、金属プレートの形状は、プレート状であり、その材質は金属である。誘電体基材内に発生した電界は、入射波の周期と同じ周期で変動している。磁界の周期的な変動は、薄膜導電層30と平板インダクタ50との間の電界を周期的に変動させる。その結果、薄膜導電層30と平板インダクタ50との間に進行しない周期的に変動する電磁場が発生する。後に電流密度のシミュレーションにより示すように、周期的に変動する電磁場中の磁場により金属プレートに交流電流が誘導される。また、周期的に変動する電場は金属プレートに周期的に変動する電位を発生させる。電磁場は進行せずその場に留まり、誘導された交流電流は電力損失し、結果として電磁場のエネルギーが熱に変換され、電磁波を吸収する。また、金属プレートに誘導された交流電流は、金属プレートの誘電体基材10と接している面とは反対側の面から電磁波を再放出すると考えられる。
つまり、電磁波減衰フィルムで捕捉された電磁波のエネルギーは、一部は、熱のエネルギーに変換され、残りは再放出すると考えらえる。また、マクスウェル方程式等で表される古典的な電磁気の理論によれば、誘導される交流電流の周波数は入射波と同じ周波数となるため、再放出される電磁波の周波数は、入射波の周波数と同じとなる。その結果、入射波と同じ周波数の電磁波が再放出される。また、振動する電磁場を量子として考えた場合、量子がエネルギーを失い、よりエネルギーの低い長波長の電磁波が再放出されることも考えられる。また、再放出は、入射した電磁波による誘導放出と自然放出があると考えられる。誘導放出は、入射波の反射方向、すなわち鏡面反射方向に入射波が反射する反射波とコヒーレントな電磁波が放出されると考えられる。自然放出は時間とともに減衰すると考えられる。また、自然放出の空間分布は、電磁波減衰フィルムが回折構造、干渉構造、屈折構造を有していない場合は、ランバート反射に近いと考えられる。
減衰中心波長は、
図2に示す第一領域121上に形成された薄膜導電層30の面方向における寸法W1(
図7参照。以下、「幅W1」と称することがある。)と相関する。すなわち、第一のメカニズムにより好適に減衰される電磁波の波長は、寸法W1を変更することにより変更でき、電磁波減衰フィルム1においては、電磁波の減衰を自由度高くかつ簡便に設定できる。したがって、容易に15GHz以上、150GHz以下の帯域における直線偏波の電磁波を捕捉可能な構成とすることができる。
【0033】
進行しない電磁場の周期的な変動は、金属プレートの平面視形状における向かい合う辺の間で発生すると考えられる。したがって、第一のメカニズムが発生するためには、一定の長さの辺が向かい合うことが好ましい。このことと、発明者らによる検討結果を踏まえ、薄膜導電層における幅W1が0.25mm以上の区画を金属プレートとすることができる。ある金属プレートにおいて、複数のW1を取りうる場合は、そのうち最大の値をその金属プレートにおけるW1と定義できる。W1を0.25mm~4mm程度の範囲内とすることにより、15GHz以上、150GHz以下の帯域の電磁波を減衰することが可能となる。減衰する電磁波の周波数と金属プレートの幅の関係性は、
図25に示すように、それぞれを対数としたグラフ上で、直線として表せる。つまり、減衰する電磁波の周波数は、金属プレートの幅のべき乗関数となる。その関数のべきは、近似的に-1であり、ほぼ反比例となる。
薄膜導電層に含まれる複数の金属プレートは、寸法W1の異なるものが複数種類配置されてもよい。この場合、それぞれの電磁波の減衰ピークが重ね合わされ、減衰できる電磁波を広帯域化できる。
【0034】
第二のメカニズムは、薄膜導電層30と平板インダクタ50とによる電磁場の閉じ込めである。電磁波減衰フィルム1においては、第一領域121において、誘電体基材10が薄膜導電層30と平板インダクタ50とに挟まれている。このため、電磁波により電磁波減衰フィルム1の誘電体基材10に生じた電場は、金属プレートの電荷、電流によって金属プレートを含む薄膜導電層30と平板インダクタ50との間の誘電体基材10内に閉じ込められる。すなわち、金属プレートは、電磁場を抑制し、誘電体基材10に電磁場を閉じ込める。つまり、金属プレートは、チョークとして機能できる。言い換えれば、金属プレートは、チョークとして機能するチョークプレートとできる。
また、磁束は、この閉じ込められた電場の周期的な変動によっても、第一領域内に誘導されると考えられる。これにより、第一領域内に振動する電磁場が集積し、電磁場のエネルギー密度が高まる。一般的に、エネルギー密度が高いほど減衰しやすいため、このメカニズムにより電磁波は効率よく減衰される。また、第二のメカニズムでは、誘電体基材10の誘電正接が高いほど、誘電体基材内に蓄積された電磁場のエネルギー損失が大きくなる。また、誘電体基材に集積した磁場は、金属プレートに大きな電流を伴い、誘電体基材に集積した電場は大きな電位差を生じる。大きな電流と大きな電位差によりその積である電力損失を大きくすることができる。電力損失として、電磁波のエネルギーを消費し、その結果、電磁波が減衰する。
【0035】
第三のメカニズムは、対向する薄膜導電層30と平板インダクタ50とその間の誘電体基材10によるコンデンサを含む電気回路での電力損失によるものである。電磁波減衰フィルム1においては、第一領域121、第二領域122のいずれにおいても、誘電体基材10が薄膜導電層30と平板インダクタ50とに挟まれている。このため、第一領域121、第二領域122、および誘電体基材10はコンデンサとして機能する。したがって、電磁波減衰フィルム1の誘電体基材10に入射した電磁波は、コンデンサを含む電気回路により減衰される。
コンデンサの静電容量が大きいほど多くの電荷を蓄積することで蓄えられるエネルギーが増加するため、静電容量が大きいほど高エネルギーに対応しうる。
静電容量は誘電体基材10の厚さに反比例するため、この観点からは、誘電体基材10の厚さは薄いほうがより好ましい。また、薄膜導電層30と平板インダクタ50との距離は誘電体基材10の厚さで定まるため、薄膜導電層30と平板インダクタ50との間の電気抵抗は、誘電体基材10の厚さに比例する。誘電体基材10の抵抗が小さいと誘電体基材10でのリーク電流は増大し、薄膜導電層30と平板インダクタ50とのコンデンサを含む電気回路に流れる電流は増加する。このため、リーク電流による電力損失を増大しやすく、電力損失により電磁波のエネルギーを吸収しやすい。また、本発明の実施形態の電磁波減衰フィルム1では、金属プレートが配置された箇所の誘電体基材10の厚さを変更しても減衰する電磁場の波長はシフトしないため、コンデンサを含む電気回路の特性に合わせて、誘電体基材10の厚さを設計可能である。
【0036】
以上説明したように、電磁波減衰フィルム1に入射した電磁波は、第一のメカニズムにより平板インダクタの表面近傍に近接する誘電体基材10に電磁場を発生させ、第二のメカニズムにより電磁波により生じた電磁場が閉じ込められることで、捕捉される。このように、電磁波減衰フィルム1は、電磁波を捕捉可能である。捕捉された電磁波は、第二のメカニズムによる電界損失と電力損失、第三のメカニズムの電気回路による電力損失により減衰される。また、トップコート層200を設けることで、電波が伝搬する空気とインピーダンスが整合し、薄膜導電層に対し、電波が効果的に減衰する事が可能となる。減衰される電磁波の波長は、
図25に示すように、金属プレートの寸法W1を変更することにより変更できる。より詳しくは、反射波が極小になる周波数、すなわち減衰が極大となる周波数は、
図25のように、金属プレートのサイズの累乗に極めて高い近似性を示す。そのため、電磁波減衰フィルム1においては、電磁波減衰特性を自由度高くかつ簡便に設定できる。したがって、15GHz以上、150GHz以下の帯域における直線偏波、円偏波または、楕円偏波の電波を捕捉するように設定することも容易である。
図25のシミュレーションにおいて、金属プレートは正方形であり、W1は一辺の長さである。
【0037】
第一実施形態の電磁波減衰フィルム1の誘電体基材は、第一領域121および第二領域122を有し、第二領域122の側面122aの少なくとも一部が薄膜導電層30に覆われずに、露出している。その結果、電磁波減衰フィルムの平面視面積を増加させずに電磁波が入射可能な部位を容易に増加させることができ、効率よく電磁波を捕捉し減衰することができる。
【0038】
第一実施形態の電磁波減衰フィルム1において、サポートケージとなる第二領域122上の薄膜導電層30は、主に第二のメカニズムおよび第三のメカニズムを増強することにより、電磁波の減衰性を向上する。
さらに、発明者らの検討では、金属プレートの周縁部で電界が強くなっており、周縁部に近いサポートケージでも電位を生じていると考えられる。
【0039】
図4にサポートケージが無い場合の電界強度のシミュレーション結果を、
図5にサポートケージがある場合の電界強度のシミュレーション結果をそれぞれ示す。
図4および
図5では、(a)における金属プレートの周縁部を、(b)で拡大して示しており、金属プレートに符号Aを、サポートケージに符号Bをそれぞれ付している。
図4(b)と
図5(b)とを比較すると、
図5(b)において金属プレートの周縁部における電界強度がより強くなっていることがわかる。すなわち、サポートケージに生じる上述の電位は、第一のメカニズムにおける電力損失をより大きくすることに寄与すると考えられる。
【0040】
電磁波減衰フィルム1においては、第三のメカニズムの果たす役割も重要である。誘電体基材10に電界が生じると、金属プレートの下方に電磁場が閉じ込められる。すなわち、エネルギー密度の高い電磁場が金属プレートの下方に生じる。閉じ込められた電磁場は、第二のメカニズムによる電力損失と、第三のメカニズムの誘電損失とにより減衰されると考えられる。
【0041】
発明者らの検討では、金属プレートを構成する金属のアドミタンス(電気抵抗の逆数)により、第一のメカニズムによる減衰が変化することが分かった。アドミタンス(siemens/m)が1000万以上で、良好な電磁波の減衰が得られた。常伝導体で最もアドミタンスが高い物質として銀が知られており、そのアドミタンスは61~66×106であることから、アドミタンスの上限値はおよそ7000万となる。アドミタンスが500万以上、7000万以下の金属を用いることができる。金属プレートを構成する金属は、強磁性体、常磁性体、反磁性体、反強磁性体とできる。強磁性体の金属の実例は、ニッケル、コバルト、鉄またはその合金である。常磁性体の金属の実例は、アルミニウム、スズ(βスズ)またはその合金である。反磁性の金属の実例は、金、銀、銅、スズ(αスズ)、亜鉛またはその合金である。反磁性の合金の実例は、銅と亜鉛の合金である真鍮である。反強磁性の金属の実例は、クロムである。これらの金属の金属プレートにより良好な電磁波の減衰が示された。
一方で、本発明において、金属プレートの表面は酸化、窒化または酸窒化していてもよい。金属プレートの表面の酸化金属、窒化金属は、表面処理で形成できる。表面処理は薬品を用いた化学処理、熱処理または、その双方とできる。また、金属プレート内に酸化金属膜が存在してもよいし、金属と金属酸化物とが混合している層があってもよい。このような構成では、金属プレートの抵抗値が上昇し、電圧降下が高まることで電力損失が大きくなり、電磁波の減衰性を向上することができる。
また、金属プレート30Aは、異なる材質の膜を積層した多層膜とすることができる。積層する膜の材質は、導電体または絶縁体とできる。
【0042】
電磁波減衰フィルム1の製造手順の一例について説明する。
まず、誘電体基材10を形成する。キャリア11上に凹凸部を形成する樹脂を層状に配置し、表面に第一領域および第二領域を形成すると、下地層12を有する誘電体基材10が完成する。下地層12を形成する樹脂は感光性樹脂とできる。この場合は、フォトリソグラフィを利用できる。感光性樹脂は、ネガレジストや、ポジレジストとできる。光硬化性樹脂で下地層12を形成することもできる。熱可塑性樹脂で下地層12を形成することもできる。この場合は、熱転写を利用できる。熱硬化性樹脂で下地層12を形成することもできる。樹脂は、溶剤に可溶な可溶性樹脂(油性インキ)でもよい。また、樹脂は、水溶性樹脂(水性インキ)でもよい。
【0043】
次に、誘電体基材10の前面10aおよび背面10bに、それぞれ薄膜導電層30および平板インダクタ50を形成する。薄膜導電層30および平板インダクタ50は、物理堆積で形成できる。物理堆積は蒸着やスパッタリングとできる。薄膜導電層30と平板インダクタ50とはいずれが先に形成されてもよく、両者の材質が異なってもよい。また、平板インダクタ50は、鋳物、圧延金属板、金属箔、蒸着膜、スパッタ膜およびめっきのいずれかとすることができる。鋳物の材質は、鋳鉄またはアルミニウム合金とできる。圧延金属板の材質は、鋼材、ステンレス、アルミニウムまたは、アルミニウム合金とできる。めっきは、電解めっきまたは無電解めっきとできる。めっきは、銅めっき、無電解ニッケルめっき、電解ニッケルめっき、亜鉛めっき、電解クロムめっき、またはこれらの積層とできる。
薄膜導電層30においては、金属プレートとそれ以外の部分とがつながっていないことが重要である。つながっていると上述した幅W1が変化してしまうため、電磁波の減衰性が想定と異なってしまう可能性がある。このため、第二領域の側面に形成された薄膜導電層30を除去する工程を追加してもよい。この工程には、レーザーエッチング等を利用できる。
【0044】
トップコート層200を設ける場合においては、塗布方法は、特に限定されず、フィルム製造に使用されている方法から適宜選択すればよい。塗布方法の例には、グラビアコート、リバースコート、グラビアリバースコート、ダイコート、フローコート等が上げられる。
【0045】
上述した製造手順においては、下地層12を形成した後にキャリア11を剥離してもよい。このようにすると、下地層12のみからなる単層の誘電体基材が形成される。
【0046】
製造手順の他の例として、誘電体基材に薄膜導電層30および平板インダクタ50を形成した後に、薄膜導電層30側に凹凸形状を形成してもよい。この場合は、版を用いた転写が好適である。熱転写を行う場合は、薄膜導電層30に版を押し当てて加熱する。
この製造手順では、版に押された薄膜導電層30が伸展して金属プレートとそれ以外の部分とがつながった状態となりやすい。これを解消する方法としては、上述のレーザーエッチングの他に、版形状の工夫が挙げられる。例えば、版において、第一領域を形成する凸部の周辺を鋭利に形成しておくと、版が薄膜導電層30に押し当てられた際に金属プレートの周縁が切断される。これにより、転写時に金属プレートとそれ以外の部分とがつながっていない状態を確保できる。
【0047】
本発明の第二実施形態について、
図6から
図9を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。第二実施形態においても、上述の第一、第二、第三のそれぞれのメカニズムは発現していると考えられる。
【0048】
図6および
図7に第二実施形態の電磁波減衰フィルム61を示す。
図6は、本発明の第二実施形態に係る電磁波減衰フィルムを示す模式平面図であり、
図7は、
図6のII-II線における断面の一部を示す模式図である。また
図8は、トップコート層を設けた場合の
図6のII-II線における断面の一部を示す模式図である。
電磁波減衰フィルム61は、誘電体基材62と、複数の金属プレート30Aと、平板インダクタ50とを備えている。金属プレート30Aの厚さは1000nm以下とできる。
【0049】
第二実施形態の誘電体基材62は、第一実施形態の誘電体基材と同様の材料および構成とすることができる。誘電体基材62は、キャリア11の上に下地層を設けた構成にしてもよいし、キャリア11のみで構成することも可能である。前面62aおよび背面62bのいずれも平坦面または粗面である。背面62bには平板インダクタ50が設けられているが、背面62bと平板インダクタ50との間に接着層が設けられてもよい。接着層および平板インダクタ50は、第一実施形態と同じ材質、同じ製法で形成できる。前面62a側には、複数の金属プレート30Aが、配置されている。金属プレート30Aは、堆積法により形成後、エッチングすることで形成できる。この堆積法は、物理堆積法または化学堆積法とできる。金属プレートの形成には、物理堆積法が適している。物理堆積法は、真空蒸着法はたはスパッタ法とできる。真空蒸着法は、生産性が高く好ましい。金属プレートの形状にマスク層をパターンで印刷し、その後、エッチングにより余分な薄膜導電層を除去することで金属プレートとすることができる。エッチングに用いるエッチング液は、水酸化ナトリウム溶液とできる。水酸化ナトリウム溶液の濃度は、0.001mol/L以上、1mol/L以下とできる。金属プレート30Aの金属は、第一実施形態と同じ金属とできる。金属プレートは、離散して配置されている。減衰中心周波数は、金属プレートの幅のべき乗関数として表せる。複数の金属プレート30Aは、同形同大とし、一定の間隔で配置されてもよい。言い換えると、2つ以上の同形同大の複数の金属プレート30Aが、一定の間隔を空けて配置されていてもよい。すなわち、前面62aは、全体が金属層に覆われておらず、金属プレート30Aが配置されていない部位において誘電体基材62が露出している。
【0050】
また、形、大きさ、またはその双方が異なる複数の金属プレート30Aのそれぞれの金属プレート30Aと同形同大の金属プレート30Aが複数配置されてもよい。言い換えると、形、大きさ、またはその双方が異なる金属プレートが複数配置され、また同じ形、大きさの金属プレートが複数配置されていてもよい。金属プレートの配置は一定の間隔、一定の向きとできる。また、間隔が異なり、また、向きも異なってもよい。さらに間隔が異なり、向きが同じであってもよい。また一部の間隔が一定であり、一部の向きが同じであってもよい。さらに、形状、大きさ、またはその双方が異なる複数の金属プレートを金属プレートセットとしてもよい。金属プレートセットを構成する金属プレートの配置間隔は、全てまたは一部が一定または、全て異なるものとできる。金属プレートセットを構成する金属プレートの向きは、全てまたは一部が一定または、全て異なるものとできる。形状、大きさ、またはその双方が異なる複数の金属プレートを有する金属プレートセットは、それぞれの金属プレートの減衰する周波数のスペクトルが異なり、複数の周波数帯を減衰したり、減衰する周波数を広帯域化したりすることができる。また、金属プレートの配置間隔が異なると、減衰する周波数のスペクトルも異なるものとできる。金属プレートセットの向きが異なると、減衰の偏波の依存性を異なるものとできる。金属プレートセットを構成する複数の金属プレートは、それぞれ減衰する周波数が異なり、その周波数の差が規則的でもよい。
金属プレートセットは、複数配置してもよい。ある金属プレートセットを構成する金属プレートの形状、大きさ、配置と同一形状、大きさ、配置、金属プレートから構成される金属プレートセットを複数配置してもよい。薄膜導電層に異なる複数の金属プレートを含むことにより、広帯域化、複数の周波数の電磁波を減衰すること、またはその双方が可能となる。
【0051】
金属プレートは、複数の金属セグメントに分割されていてもよい。言い換えると、金属プレートは、複数の金属セグメントからなっていてもよい。金属プレート内の複数の金属セグメントは、導通していてもよい。複数の金属セグメントは、配線で導通してもよい。配線は、インピーダンスを有してもよい。このインピーダンスは、金属セグメントと整合していてもよい。配線および金属プレート内の複数の金属セグメントは、一体として機能してもよい。複数の金属セグメントは、単独で存在している場合と異なる性質を有してもよい。具体的には、共振する周波数や、減衰性が単独で存在している場合と、金属プレート内を構成している場合で異なってもよい。また、金属プレートの断面形状は、平面形状、多面体形状または曲面形状とできる。多面体または曲面の場合、その底部と頂部との距離、すなわち高さは、50μm以下とできる。またその高さと金属プレートの対向する辺の間の距離との比は、1:100以上、1:10以下とできる。
【0052】
第二実施形態の電磁波減衰フィルムにおける減衰性の設定は、第一実施形態と同様に金属プレートの幅W1を変更することにより行うことができ、15GHz以上、150GHz以下の帯域における直線偏波の電磁波を捕捉するように設定することも容易である。
また、プラスチックフィルムのキャリア11をそのまま誘電体基材62とすることができるため、第二実施形態の電磁波減衰フィルムは、第一実施形態に係る電磁波減衰フィルムよりも簡便に製造できる。
前面62aおよび背面62bの一部または全面に粗面を有したキャリアを誘電体基材62とすることもできる。前面62aの一部または全面を粗面とすることで、金属プレート30Aのアドミタンスを調整できる。
【0053】
特許文献5を含む従来技術においては、共振する導電体を表皮深さより厚くすることで共振層に十分な交流電流を発生させ、その交流電流の電力損失により電磁波を減衰すると考えられていた。しかし、発明者らは、金属プレート30Aの厚さが表皮深さ以下となると、むしろ電磁波の減衰が増加することを見出した。
【0054】
図9に、金属プレート30Aの厚さの変化による電磁波の減衰性のシミュレーション結果を示す。金属プレートの材質はアルミニウムとしている。また、入射波は正弦波の直線偏波とし、電磁波減衰フィルムに対して垂直に入射した。尚、シミュレーションでは、平板インダクタを完全導体とした。電磁波減衰フィルムとしての電磁波の減衰性は、平板インダクタのみの場合を基準としたモノスタティックRCSを指標としている。尚、電磁波の減衰性を示す縦軸はデシベル表記としている。モノスタティックRCS(Rader Cross-Section)は、モノスタティックレーダーでの対象の探知のしやすさを表す指標であり、下記式1により算出できる。尚、モノスタティックレーダーは、送信と受信を同一地点で行なうものである。
【0055】
【0056】
シミュレーションの結果、
図9に示すように、厚さが40nm以上、400nm以下で大きな電磁波の減衰が認められた。40nm未満では、逆に電磁波の減衰の減少が見られる。
なお、金属プレート30Aが導電層およびクラッドを備える場合、導電層とクラッドを合わせた金属プレート30Aの厚さが1000nm以下であれば、安定した成膜が可能である。
【0057】
図9に示される現象は、表皮深さと興味深い関係性が見られる。周波数41GHzにおけるアルミニウムの表皮深さは約400nmである。すなわち、金属プレートの厚さが材質の表皮深さ以下になると電磁波の減衰が増加している。また、表皮深さの1/e
2未満では、電磁波の減衰は減少している。これは、導電層が表皮深さより厚い場合には、十分な抵抗が得られず電力損失に必要な電圧降下が得られず、また電流が金属プレートの中央付近にのみ集中し電位差が生じている領域での電流が減少することが考えられる。他方、導電層の厚さが表皮深さ以下であっても、表皮深さの1/e
2未満では、電力損失のための十分な電流が得られないことが考えられる。尚、言うまでもなく、電力損失は電流と電圧の積として与えられる。すなわち、金属プレートの厚さTを表皮深さdで正規化した値の自然対数を用いて表した下記のLN関数の式2が満たされる範囲であれば、十分な電磁波の減衰が得られると言える。
-2 ≦ ln(T/d) ≦ 0 …(2)
また、金属プレートにアドミタンスが低い金属を用いた場合は、下記式3の範囲でも電磁波の減衰が得られる。また、金属プレートの面積が誘電体基材の前面に占める割合が大きい場合、下記式3の範囲でも、電磁波の減衰が得られる。この面積比が大きい場合とする、金属プレートの面積が誘電体基材の前面に占める割合は50%以上、90%以下とできる。
0 < ln(T/d) ≦ 1 …(3)
式1および2を踏まえると、下記式4の範囲において、電磁波の減衰を得ることができる。
-2 ≦ ln(T/d) ≦ 1 …(4)
なお、本発明の実施形態では、この表皮深さは、減衰中心周波数fを用いて算出できる。つまり、減衰中心周波数fを用いると、表皮深さdは、周知のとおり下記式5のように計算される。
【0058】
【0059】
また、シミュレーション結果では、金属プレートの厚さが表皮深さより薄い場合に、減衰が増加した。これは、金属プレートの誘電体基材の磁束の影響で生じる電流が誘電体基材の反対側の面側にも達し、その電流によって誘電性インダクタによる反射波を相殺する誘電性インダクタによる反射波と位相がπずれた電磁波が放出されるためと考えられる。また、金属プレートの厚さが表皮深さより薄くなるにつれて、金属プレートの電流が規制された結果、磁界が金属プレートの中心付近のみならず、金属プレート全域にわたって発生し、発生した磁界により誘導される電流も金属プレートの全域にわたって発生し、誘電性インダクタによる反射波を相殺する電磁波の放出が増加するため、反射波がより減衰すると考えられる。
また、金属プレートと誘電性インダクタの間の誘電体基材の電場は、金属プレートと誘電性インダクタを引き付ける。電場が周期的に変動している場合は、金属プレートに引き付ける力も周期的に変動する。そのため、金属プレートと誘電性インダクタの間の誘電体基材の電場は、金属プレートを振動させる。この振動のエネルギーは熱に変換されて損失する。このため、電磁場が金属プレートに作用する力学も電磁波の減衰に寄与すると考えられる。
また、電磁場の進行しない周期的な変動を、量子として捉えた場合には、運動量がゼロの状態として電磁場に束縛され量子が捕捉されている状態にあると考えることができる。加えて金属プレートの厚さが数百nmのレベルとなるため、金属プレート内のエネルギー準位に影響を及ぼす可能性も考えられる。
このように、本発明の実施形態での現象に対する解釈は、古典的電磁としての解釈に加えて、古典力学や量子力学としての解釈も可能である。
そのため、式4を解釈するにあり、当該範囲は合理的に定められているが、すべての物理現象を加味し厳格に算出された範囲ではない。したがって、対象となる製品が上記式の範囲に該当するかを判断する場合には、発現している物理現象を考慮し解釈することが適切だと言える。
なお、従来技術において、表皮深さ程度から表皮深さより薄い導体を使用する例は、通常みられない。そのため、本発明の実施形態は、ミリ波帯での電磁波との相互作用のメカニズムそのものが従来とは異なると考えられる。
【0060】
特定の周波数帯について、好ましい電磁波の減衰を示す金属プレートの厚さと表皮深さの関係については、後述する第二実施形態に係る実施例において詳細に説明する。
【0061】
本発明の各実施形態について、実施例を用いてさらに説明する。
(第一実施形態に係る実施例)
まず、ニッケル電鋳用のマスター版を用意した。シリコンウェハ表面にフォトリソグラフィによりレジストパターンを形成した。使用したフォトレジストはポジ型であり、フォトレジストの膜厚は10μmとした。形成したレジストパターンは、XY座標系において、一辺14cmの正方形領域内に、正方形開口を、X座標、Y座標共に一定周期の正方格子配列となる座標に配置したパターンであり、i線を露光した領域は前記正方形の内側領域である。
さらに、このマスター版を用いてニッケル電鋳を行い、表面に平面視正方形の凸部が規則的に配列されたパターンを有するニッケルモールドを得た。
【0062】
次に、ニッケルモールドのパターン面に紫外線硬化性樹脂を滴下し、片面に易接着処理を施したPETフィルムの易接着面を紫外線硬化性樹脂上に配置した。ローラーを用いて紫外線硬化性樹脂をパターン面上に均一に延ばし、透明なPETフィルム越しに紫外線を照射して紫外線硬化性樹脂を硬化した。
PETフィルムをニッケルモールドから離型し、紫外線硬化性樹脂からなる凹凸層とPETフィルムとからなる誘電体部を得た。
【0063】
誘電体基材の両面に真空蒸着法を用いて厚さ500nmのAl膜を成膜し、薄膜導電層及び平板インダクタを形成した。
以上が第一実施形態に係る実施例の製造手順である。この手順において、凹凸層表面の各パラメータを変化させた複数のニッケルモールドを作製し、実施例1および2の電磁波減衰フィルムを作製した。
各実施例に係る電磁波減衰フィルムは、いずれも厚さ60μm程度、重量0.02g程度であり、薄くかつ軽量であった。
【0064】
(第一実施形態に係る実施例にトップコート層を設けた変形例)
前記第一実施形態に係る実施例において、以下の手順で製造したトップコート層200を設け電磁波減衰フィルムを作成した。
メチルメタクリレートモノマー80質量部とシクロヘキシルメタクリレート20質量部の混合物からなるアクリル系樹脂組成物を主成分とし、ここに、そのアクリル系樹脂組成物の固形分を100質量部として、上記化学式Aに示す構造を有するヒドロキシフェニルトリアジン系の紫外線吸収剤((株)ADEKA製「アデカスタブLA-46」)を6質量部、上記化学式Aに示す構造とは別の組成のヒドロキシフェニルトリアジン系の紫外線吸収剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン479」)を6質量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン329」)を3質量部、ヒンダートアミン系ラジカル補足剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン292」)を5質量部添加し、さらに固形分調整用に酢酸エチル溶剤を添加した固形分量33質量部の主剤溶液と、固形分調整用に酢酸エチル溶剤を添加した固形分量75質量部ヘキサメチレンジイソシアネート型硬化剤溶液とを、主剤溶液と硬化剤溶液の比率が10:1(この時の主剤溶液中の水酸基数と硬化剤溶液中のイソシアネート基数の比率は1:2)となるように混合し、さらに溶剤成分として酢酸エチルを添加して固形分量を20質量部に調整した塗工液を、溶剤揮発後の厚さで6μmとなるように塗工し、トップコート層200を得た。作成した電磁波減衰フィルムは、厚さ70μm程度、重量0.02g程度であり、薄くかつ軽量であった。
【0065】
(第二実施形態に係る実施例)
[57GHz~90GHz]
(実施例1A)
式4で述べた一般論に対し、ミリ波帯中の特定の周波数帯において、好ましい電磁波の減衰を示す金属プレートの厚さTと表皮深さdの関係式ln(T/d)の範囲を見出すことができたので以下に説明する。
57GHz~90GHzの帯域で実施したシミュレーションについて説明する。誘電体基材として、厚さ(H1)50μmのPETフィルム、その一方の面に薄膜導電層である金属プレートをX座標、Y座標共に一定の間隔で設定した。さらに誘電体基材のもう一方の面には、厚さ(T2)約2mmのアルミニウムの平板インダクタを設定し、シミュレーションを行った。
周波数57GHz、66GHz、71GHz、81GHz、86GHz、90GHzに対して各金属種ごとに電磁波の減衰とln(T1/d)の関係についてシミュレーションを行った。
【0066】
シミュレーションの結果を表1、表2および
図10から
図15で説明する。
図10は、実施例1Aの57GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
図11は、実施例1Aの66GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
図12は、実施例1Aの71GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
図13は、実施例1Aの81GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
図14は、実施例1Aの86GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
図15は、実施例1Aの90GHzにおける電磁波減衰特性を示すグラフである。
図10~15において、(a)はアドミタンスと表皮深さの値を示し、(b)は電磁波減衰フィルムの構成を示し、(c)~(e)はそれぞれ銀、銅、アルミニウムの減衰特性のグラフを示す。前記グラフは、金属プレートの厚さT1を表皮深さdで正規化した値の自然対数を横軸にとり、誘電体基材と同じ面積の金属プレートの反射量を100(リファレンス)としたときのパターニング金属プレートでの減衰量を縦軸にとり、両者の相関を図に表したものである。
【表1】
【表2】
【0067】
電磁波減衰フィルムの吸収量が10dB以上を良好な減衰量を示す目安とすると、表1及び
図10から
図15から明らかなように、周波数57GHz~90GHzの帯域において、-2.5 ≦ ln(T1/d) ≦ -1.0を満たすものが良好な減衰量を得られることが示された。
なお、10dB程度の良好な減衰特性は、実施例1Aで使用したパラメータの数値に限られるものでなく、ある程度の幅をもつ構成において実現し得ることは当然期待し得る。例えば金属プレートの幅W1として0.9mm~1.4mm、隣接する金属プレート間の距離W3として0.5mm~0.7mm、誘電体基材の厚さH1であれば5μm~300μm、平板インダクタの厚さT2であれば0.5μm~5mmの構成についても10dB程度の良好な減衰特性を期待し得る。
【0068】
(実施例1B)
実施例1Aと同様に、誘電体基材として、厚さ(H1)50μmのPETフィルム、その一方の面に薄膜導電層である金属プレートの総面積が誘電体基材のXY平面の総面積に占める割合を変えて設定した。さらに誘電体基材のもう一方の面には、厚さ(T2)約2mmのアルミニウムの平板インダクタを設定し、シミュレーションを行った。金属プレートは、金属種としてアルミニウムを用い、幅W1は1.0mm、厚さT1は80nmに設定し、金属プレート間の距離W3を調節することで金属面積の割合を変更した。
シミュレーションの結果を表3および
図16で説明する。
図16は、実施例1Bの81GHzにおける金属面積の割合に応じた電磁波減衰特性を示すグラフである。(a)は電磁波減衰フィルムの構成を示し、(b)は減衰特性を示す。
【表3】
電磁波減衰フィルムの吸収量が10dB以上を良好な減衰量を示す目安とすると、表3及び
図16から、実施例1Bにおいて、金属面積の割合が10~40%付近で良好な減衰量を得られることが示された。
【0069】
(実施例1C)
実施例1Aと同様に、誘電体基材として、厚さ(H1)50μmのPETフィルム、その一方の面に薄膜導電層である金属プレートを
図6と同様のパターン配列で配置し、その形状を正方形以外の形状に変え、さらに誘電体基材のもう一方の面には、厚さ(T2)約2mmのアルミニウムの平板インダクタを設定し、電磁波の減衰特性のシミュレーションを行った。金属プレートは、金属種としてアルミニウムを用い、厚さT1は80nmに設定した。
【0070】
[長方形状]
図17は、実施例1Cにおいて金属プレートが長方形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。(a)は金属プレートの形状でW7は長方形状の長辺の長さ、W8は短辺の長さを表す。(b)は本実施例において
図6のII-II線を通る配列パターン近傍の一部拡大図で、W4は長方形状の中心間の距離を表す。(c)はW7,W8とW4の寸法を表す。(d)は周波数を横軸にとった減衰特性を示す。
シミュレーション結果から、82.8GHz付近で吸収量が10dB以上の良好な減衰特性が表れた。
【0071】
[六角形状]
図18は、実施例1Cにおいて金属プレートが六角形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。(a)は金属プレートの形状でW9は六角形状の一辺の長さを表す。(b)は本実施例において
図6のII-II線を通る配列パターン近傍の一部拡大図で、W4は六角形状の中心間の距離を表す。(c)はW9とW4の寸法を表す。(d)は周波数を横軸にとった減衰特性を示す。
シミュレーション結果から、71.2GHz付近で吸収量が10dB以上の良好な減衰特性が表れた。
【0072】
[凸形状]
図19は、実施例1Cにおいて金属プレートが凸形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。(a)は金属プレートの形状を表す。W10は凸形状の内突起している上部の上辺の長さ、W11は凸形状の下部の下辺の長さ、W15は前記上部の側辺の長さ、W16は前記下部の側辺の長さを表す。凸形状は前記上部の上辺と前記下部の下辺の中点を結ぶ直線に対し左右対称である。また前記下部の下辺と、前記下部の左右の側辺と、前記上部の上辺に接し、凸形状を囲む長方形状の中心を、本凸形状の中心とする。(b)は本実施例において
図6のII-II線を通る配列パターン近傍の一部拡大図で、W4は凸形状の中心間の距離を表す。(c)はW10、W11、W15、W16とW4の寸法を表す。(d)は周波数を横軸にとった減衰特性を示す。
シミュレーション結果から、87GHz付近で吸収量が10dB以上の良好な減衰特性が表れた。
【0073】
[三角形状]
図20は、実施例1Cにおいて金属プレートが三角形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。(a)は金属プレートの形状でW12は正三角形状の一辺の長さを表す。(b)は本実施例において
図6のII-II線を通る配列パターン近傍の一部拡大図で、W4は三角形状の中心間の距離を表す。(c)はW12とW4の寸法を表す。(d)は周波数を横軸にとった減衰特性を示す。
シミュレーション結果から、80.8GHz付近で吸収量が10dB以上の良好な減衰特性が表れた。
【0074】
[十字形状]
図21は、実施例1Cにおいて金属プレートが十字形状の電磁波減衰特性を示すグラフである。(a)は金属プレートの形状を表す。十字形状は上下左右に対称で90度の回転に対しても対称である。W13は十字の外側の上下と左右で互いに対向する辺の長さ、W14は前記外側の上下と左右で互いに対向する辺に接して十字形状を囲む正方形の一辺の長さを表す。また当該正方形の中心を、本十字形状の中心とする。(b)は本実施例において
図6のII-II線を通る配列パターン近傍の一部拡大図で、W4は十字形状の中心間の距離を表す。(c)はW13、W14とW4の寸法を表す。(d)は周波数を横軸にとった減衰特性を示す。
シミュレーション結果から、90GHz付近で吸収量が10dB以上の良好な減衰特性が表れた。
【0075】
(実施例2)
誘電体基材として、厚さ50μm、一辺14cmの正方形PETフィルムを準備した。誘電体基材の一方の面全体に真空蒸着法を用いて厚さ100nmのアルミニウムの薄膜導電層を形成した。その後、マスクを用いて、X座標、Y座標共に一定の間で金属プレートが形成されるよう薄膜導電層をエッチングした。もう一方の面には、接着層を用いてアルミニウムの平板インダクタを貼り合せた。また、この構成でシミュレーションを行った。
以上が第二実施形態に係る実施例2の製造手順である。実施例2のパラメータは以下の通りである。
金属プレートの幅W1:1.025mm~0.9mmの範囲を0.083mm毎に16等分した長さの幅の16種類の金属プレートを、同じ0.1mm間隔で同じ向きで4×4のマトリクス状に配置し、金属プレートセットとした。この金属プレートセットを0.1mmの間隔で、同じ向きで複数配置した。またそれぞれの金属プレートセットはすべて同じものとした。つまり、それぞれの金属プレートセットを構成する金属プレートは、それぞれの金属プレートセット間で差異はない。
隣接する金属プレート間の距離W3:0.1mm
金属プレートの厚さT1:80nm
平板インダクタの厚さT2:約2mm
誘電体基材の厚さH1:50μm
また、実験結果による減衰のメカニズムの妥当性を検討するため、この構成を用いてシミュレーションを行った。
【0076】
平板インダクタを含まない各実施例に係る電磁波減衰フィルムは、いずれも厚さ60μm程度、重量0.02g程度であり、薄くかつ軽量であった。したがって、携帯電話や車載レーダー等の筐体内において、電磁波による放射ノイズの影響を抑えたい部品等に貼り付けることも容易である。
シミュレーションでは、実施例1A~C、2のいずれも、ミリ波帯の電磁波に対して良好な減衰を示した。また、実測では減衰率が得られ、本構成の有効性が確認された。シミュレーションでの各種パラメータやマクスウェル方程式に基づく減衰以外の影響と考えられる実験結果との差異はあるものの、同様の減衰の傾向が見られることから、本発明の実施形態でのメカニズムは妥当と考えられる。また、シミュレーションと実測では、減衰率の差異はあるが同様の傾向が得られ、減衰中心周波数を適宜設定可能であることが示された。
実施例1A、2それぞれのシミュレーション結果および実測結果におけるモノスタティックRCS減衰特性を、それぞれ
図22および
図23示す。実施例1Aには、金属プレートの幅W1が1.0mm、隣接する金属プレート間の距離W3が0.5mm、金属プレートの厚さT1が100nmのアルミニウムを用いた。なお、実測の手順は以下の通りである。
同一寸法の金属板を2枚用意し、一方に各実施例の電磁波減衰フィルムを、全体を覆うように貼り付けた。電波暗室内で、電磁波減衰フィルムを貼り付けた金属板と、貼り付けない金属板とにそれぞれ電波を照射し、反射した電波の量をネットワークアナライザ(KEYSIGHT社製 Model E5071C)を用いて計測した。電磁波減衰フィルムを貼り付けない金属板の反射量を100(リファレンス)としてモノスタティックRCS減衰量を評価した。
【0077】
(第二実施形態に係る実施例1Aにトップコート層を設けた変形例)
前記第二実施形態に係る実施例1Aにおいて、アルミニウムを用い、金属プレートの厚さT1を80nmとしたものに、以下の手順で製造したトップコート層200を設け電磁波減衰フィルムを作成した。
メチルメタクリレートモノマー80質量部とシクロヘキシルメタクリレート20質量部の混合物からなるアクリル系樹脂組成物を主成分とし、ここに、そのアクリル系樹脂組成物の固形分を100質量部として、上記化学式Aに示す構造を有するヒドロキシフェニルトリアジン系の紫外線吸収剤((株)ADEKA製「アデカスタブLA-46」)を6質量部、上記化学式Aに示す構造とは別の組成のヒドロキシフェニルトリアジン系の紫外線吸収剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン479」)を6質量部、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン329」)を3質量部、ヒンダートアミン系ラジカル補足剤(チバスペシャルティケミカルズ(株)製「チヌビン292」)を5質量部添加し、さらに固形分調整用に酢酸エチル溶剤を添加した固形分量33質量部の主剤溶液と、固形分調整用に酢酸エチル溶剤を添加した固形分量75質量部ヘキサメチレンジイソシアネート型硬化剤溶液とを、主剤溶液と硬化剤溶液の比率が10:1(この時の主剤溶液中の水酸基数と硬化剤溶液中のイソシアネート基数の比率は1:2)となるように混合し、さらに溶剤成分として酢酸エチルを添加して固形分量を20質量部に調整した塗工液を、溶剤揮発後の厚さで6μmとなるように塗工し、トップコート層200を得た。トップコート層膜厚は6μmであった。
【0078】
(比較例1)
トップコート層を設けず、電磁波減衰フィルムを実施例1Aに準じて作成した。
また、前記変形例及び比較例1で得た電磁波減衰フィルムをステンレス板に粘着剤を介し圧着し、サンシャインウエザーメータにて屋外暴露10年間相当の暴露を行ったのち、電磁波減衰フィルムの表面を綿布にて払拭してトップコート層、電磁波減衰層の残存状態、モノスタティックRCS減衰特性変化を調べた。
その結果、変形例の構成ではトップコート層、電磁波減衰層ともに劣化がなく、トップコート層の形成により、インピーダンスが整合されモノスタティックRCS減衰特性が向上していることが
図24のように確認できた。
【0079】
以上、本発明の各実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせなども含まれる。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が2以上適宜組み合わされてもよい。
【0080】
第一実施形態においては、周波数帯域や金属プレートの金属種など第二実施形態で用いられた態様を適宜用いることができる。
【0081】
第一実施形態においては、第二領域の金属層が省略され、金属プレートのみが形成されてもよい。
【0082】
本発明において、平板インダクタの態様は、背面の全面に形成するものに限られない。例えば、前面と同様に複数の金属プレートを配置してもよいし、格子状にしてもよい。
【0083】
本発明において、金属プレートの形状は正方形に限られず、円形(楕円を含む)、正方形以外の多角形、角部が丸められた各種多角形、不定形など、さまざまに設定できる。
前面の投影面積に占める金属プレートの総面積は、20%以上であることが好ましい。
このようにすると、効率良く電磁波を減衰することができる。
【0084】
本発明に係る電磁波減衰フィルムは、複数枚を積層して使用することができる。積層する複数枚の構造パラメータを異ならせることで、より詳細に減衰性を調節することが可能となる。
【0085】
第一実施形態において、第一領域と第二領域との高低が逆転してもよい。この場合、金属プレートが相対的に高い位置にあり、サポートケージが相対的に低い位置にある。
【0086】
本発明に係る電磁波減衰フィルムにおいて、背面に平板インダクタを備えない構成がありうる。例えば、背面を接合する対象が金属であれば、平板インダクタを備えなくても接合対象の金属面により第二および第三のメカニズムが問題なく発揮される。このような場合は、背面に対象物に接合可能な粘着層等の貼合層を備えればよい。
【0087】
本発明に係る電磁波減衰フィルムにおいて、構造周期や金属プレートの寸法等のパラメータは、すべての部位で完全に一致していることを必須としない。例えば、製造過程における公差の範囲(概ね上下5%程度)内で上記パラメータが変化している場合も、本発明においては、「同形同大」に含まれる。また「所定範囲の値」は、規則性のある値の範囲とできる。この規則性は、ガウシアン分布、二項分布、一定区画内で等頻度となるランダム分布または疑似ランダム分布、製造過程における公差の範囲とできる。
【0088】
サポートケージは、隙間を空けて配置された複数の導電性セグメントで構成されてもよい。この場合の隙間は、捕捉したい電磁波の波長の1/10以下とできる。複数の導電性セグメントでサポートケージを構成できる。言い換えると、サポートケージは、複数の導電性セグメントからなってもよい。
【0089】
本発明に関わる電磁波減衰フィルムにおいて、支持基材に剥離層を設けたのちに、第一実施形態および第2実施形態の電磁波減衰フィルムを設け、さらに接着剤・粘着剤等を設けて、転写箔としてもよい。
具体的には、支持基材の上に剥離層を塗布乾燥させた上に、下地層を設ける。第一実施形態の構成とする場合は、下地層に凹凸を付与し、薄膜導電層を蒸着にて設ける。その後、第二領域の側面に形成された薄膜導電層を除去し、誘電体基材となる層を設ける。誘電体基材の上に、平板インダクタ、接着剤の順に積層することで転写箔とすることができる。第二実施形態の構成とする場合には、下地層に薄膜導電層を設け、金属プレートの形状にマスク層をパターンで印刷する。その後、エッチングにより余分な薄膜導電層を除去することで金属プレートとすることができる。さらに、誘電体基材、平板インダクタ、接着剤の順に積層することで転写箔とすることができる。金属筐体等に転写する場合は、平板インダクタの層を省いても構わない。
転写箔とすることで、さらなる薄膜化をすることが可能となり、さらに追従性を向上させることが可能となり、複雑な形状にも転写することが可能であり、本発明の電磁波減衰フィルムの適用範囲を広くすることが可能となる。
【0090】
上述した実施形態および変更によれば、以下に記載の付記を導くことが可能である。
[付記1]
前面および背面を有する誘電体基材と、
前記前面に配置された薄膜導電層と、
前記背面に配置された平板インダクタまたは貼合層と、
を備え、
前記薄膜導電層は、複数の金属プレートを含み、
前記金属プレートの厚さTが、1000nm以下である、
電磁波減衰フィルム。
[付記2]
前面および背面を有する誘電体基材と、
前記前面に配置された薄膜導電層と、
前記背面に配置された平板インダクタまたは貼合層と、
を備え、
前記薄膜導電層は、複数の金属プレートを含み、
前記金属プレートの厚さをT、表皮深さをd、としたときに下記式(2)を満たす、
電磁波減衰フィルム。
-2 ≦ ln(T/d) ≦ 0 …(2)
[付記3]
前面および背面を有する誘電体基材と、
前記前面に配置された薄膜導電層と、
前記背面に配置された平板インダクタまたは貼合層と、
を備え、
前記薄膜導電層は、複数の金属プレートを含み、
前記誘電体層は、前記前面に、相対的に低い凹の部分の第一領域と、相対的に高い第二
領域とからなる凹凸を有し、
前記第一領域は、離散して配置され、
前記第二領域は、複数の前記第一領域間に配置され、
前記金属プレートは、前記第一領域に配置され、
前記金属プレートの厚さをT、表皮深さをd、としたときに下記式(2)を満たす、
電磁波減衰フィルム。
-2 ≦ ln(T/d) ≦ 0 …(2)
[付記4]
前面および背面を有する誘電体基材と、
前記前面に配置された薄膜導電層と、
前記背面に配置された平板インダクタまたは貼合層と、
を備え、
前記誘電体層は、前記前面に、相対的に低い凹の部分の第一領域と、相対的に高い第二
領域とからなる凹凸を有し、
前記薄膜導電層は、前記第一領域に配置された複数の金属プレートと、前記第一領域に
配置されたサポートケージとを含み、
前記第一領域は、離散して配置され、
前記第二領域は、複数の前記第一領域間に配置されている、
電磁波減衰フィルム。
【0091】
上記実施例では、電磁波の減衰について検討しているが、特定の電磁波を減衰する導体は、電波を受信するアンテナとなることが知られている。したがって、上述した実施形態は、受信アンテナとしても使用できる。また、上述した実施形態では、2次元の系に運動量がゼロの量子が捉えられることから、金属プレートの量子状態でデータの演算や記録を行う素子として用いることも可能と考えられる。
【0092】
上述のように、本発明の実施形態は、電磁波との相互作用のメカニズムが従来技術と異なるため、同等のメカニズムを発現する製品は、本発明の実施形態を実質的に用いたものであると捉えるべきである。
【符号の説明】
【0093】
1、61 電磁波減衰フィルム
10、62 誘電体基材
10a、62a 前面
10b、62b 背面
30 薄膜導電層
30A 金属プレート
50 平板インダクタ
200 トップコート層
121 第一領域
122 第二領域