(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186753
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ロタキサン化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 323/00 20060101AFI20221208BHJP
C07C 271/28 20060101ALI20221208BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221208BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C07D323/00 CSP
C07C271/28
C08L101/00
C08L9/00
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022161917
(22)【出願日】2022-10-06
(62)【分割の表示】P 2018225133の分割
【原出願日】2018-11-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [公開事由1]日本化学会第98春季年会予稿集での公開 発行者名:公益社団法人 日本化学会 刊行物名:日本化学会第98春季年会予稿集 発行日:平成30年3月6日 [公開事由2]日本化学会第98春季年会での公開 集会名:日本化学会第98春季年会 公開日:平成30年3月22日 [公開事由3]第67回高分子学会年次大会予稿集での公開 発行者名:公益社団法人 高分子学会 刊行物名:第67回高分子学会年次大会予稿集 発行日:平成30年5月8日 [公開事由4]第67回高分子学会年次大会での公開 集会名:第67回高分子学会年次大会 公開日:平成30年5月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中畑 祥子
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
(57)【要約】
【課題】加硫剤として機能するロタキサン化合物を提供すること。
【解決手段】1個以上の環状分子と、該環状分子の内孔部を貫通する軸分子であって、該環状分子が脱離しないように配置されるキャップ構造を有する軸分子とを含むロタキサン化合物であって、環状分子および軸分子が、メルカプトおよびスルフィドからなる群より選択される1以上の基を有するロタキサン化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1個以上の環状分子と、該環状分子の内孔部を貫通する軸分子であって、該環状分子が脱離しないように配置されるキャップ構造およびリンカーを有する軸分子とを含み、
前記環状分子および前記軸分子が、それぞれメルカプトおよびスルフィドからなる群より選択される1以上の基を有するロタキサン化合物であって、
下記式(2):
[式中、環Aは、クラウンエーテル環状分子を表し;環Aは、メルカプトおよびスルフィドからなる群より選択される1以上の基を有し;各Rは、同一または異なって、水素原子またはスペーサーを介していてもよいメルカプト、スルフィド、または置換基を表し;隣接する炭素原子に置換する2つのRが、それらが結合する炭素原子と一緒になってベンゼン環を形成していてもよく;nは、2~9の整数を表し;mは1、または2以上の繰り返し数を表し;軸分子Bは、キャップ構造B
1およびB
2並びにリンカーを有し;B
1およびB
2のうち1以上が、メルカプトおよびスルフィドからなる群より選択される1以上の基を有し;リンカーは、m個の2級アンモニウム(-N
+H
2-)部を有し;2級アンモニウム部は、アミド、ウレア、またはカルバメートへ変換されていてもよく;B
1およびB
2は、同一または異なって、置換基を有する単環基を表し;X
-は、2級アンモニウム塩のカウンターアニオンを表す。]で表されるロタキサン化合物。
【請求項2】
B1およびB2が、同一または異なって、置換されている単環の芳香族基、または置換されている単環の複素芳香族環である、請求項1記載のロタキサン化合物。
【請求項3】
B1およびB2が、同一または異なって、1個以上の炭素数1~6のアルキルで置換されている単環のアリールである、請求項1記載のロタキサン化合物。
【請求項4】
前記リンカーの鎖長が5~100個の原子から構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のロタキサン化合物。
【請求項5】
mが1または2である、請求項1~4のいずれか一項に記載のロタキサン化合物。
【請求項6】
炭素-炭素不飽和結合を有するポリマーと、請求項1~5のいずれか一項に記載のロタキサン化合物とを含むポリマー組成物。
【請求項7】
前記ポリマーがジエン系ゴムである請求項6記載のポリマー組成物。
【請求項8】
請求項1~5のいずれか一項に記載のロタキサン化合物を含有する加硫剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫剤として機能するロタキサン化合物、および該ロタキサン化合物を含有するゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴムの架橋は硫黄で行われている。一般的にゴム製品には高い耐久性が必要とされているが、硫黄のように共有結合で繋がれた架橋部位は、材料に力がかかった際に応力が集中しやすく、破壊の起点となりやすい。また、タイヤ用のゴム材料には低燃費性能が要求されるが、材料の応力集中は低燃費性能を悪化させる原因となってしまう。
【0003】
近年、ロタキサン架橋を鍵とするロタキサンネットワークポリマー(RCP)の研究が盛んに進められている。ロタキサンは、軸成分である鎖状分子と輪成分である環状分子とが共有結合を介することなく、空間的な結合で結ばれた超分子化合物であり、その各構成要素は結合長や結合角の制限を受けず、高い自由度と運動性を有しているため、特異な動的特性や物性を発現する。RCPは、架橋点にロタキサン構造を有する架橋高分子の総称であり、その可動型架橋点の構造に起因した高い柔軟性や弾力性を発現することが報告されている(非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Okumuraら, Advanced Materials (2001), Vol. 13, No. 7, pp. 485-487
【非特許文献2】Ito, Polymer Journal (2007), Vol. 39, No. 6, pp. 489-499
【非特許文献3】Koyamaら, Polymer Journal (2014), 46, pp. 315-322
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、RCPの多くは、多数の環状分子を包摂したポリロタキサンの環状分子同士を架橋したものであり、その汎用性や使用用途には制限があった。
【0006】
ロタキサンの基本単位に近い低分子量の機能性ロタキサン化合物を設計し、ロタキサン構造を架橋点とする材料の性質を精密に制御する技術が提供されれば、その有用性は極めて高い。
【0007】
本発明は、加硫剤として機能するロタキサン化合物、および該ロタキサン化合物を含有するゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、ロタキサン化合物の環状分子および軸分子にメルカプトまたはスルフィドを導入した新規ロタキサン化合物が、配合した組成物に特異な動的特性や物性を付与する有用な加硫剤となり得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は
〔1〕1個以上の環状分子と、該環状分子の内孔部を貫通する軸分子であって、該環状分子が脱離しないように配置されるキャップ構造を有する軸分子とを含むロタキサン化合物であって、環状分子および軸分子が、メルカプトおよびスルフィドからなる群より選択される1以上の基を有するロタキサン化合物、
〔2〕前記環状分子が、クラウンエーテル、シクロデキストリン、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、およびピラーアレーンからなる群より選択される少なくとも1つである〔1〕記載のロタキサン化合物、
〔3〕前記環状分子1分子に対して、軸分子1分子が貫通している、〔1〕または〔2〕記載のロタキサン化合物、
〔4〕炭素-炭素不飽和結合を有するポリマーと、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のロタキサン化合物とを含むポリマー組成物、
〔5〕前記ポリマーがジエン系ゴムである〔4〕記載のポリマー組成物、
〔6〕〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のロタキサン化合物を含有する加硫剤、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のロタキサン化合物は、環状分子および軸分子にメルカプトまたはスルフィドを有し、ジエン系ゴムと反応して架橋を形成するため、ゴム成分として特殊な変性ポリマーを使用することなく、また、加硫剤として硫黄を使用することなく架橋の形成が可能である。また、該ロタキサン化合物を配合したポリマー組成物は、ロタキサン環のスライドにより架橋点の応力が緩和され、材料強度や低燃費性等の向上が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において「化合物」とは、特に記載が無い限り、フリー体、塩、溶媒和物、またはイオン等の形態にあると解釈されることを排除されず、その形態は、技術常識に基づいて解釈され得る。塩を構成するアニオンとしては、例えば、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、およびテトラフルオロホウ酸イオン等が挙げられる。
【0012】
本明細書において「ゴム」とは、ベンゼン、メチルエチルケトン、エタノール・トルエン共沸混合物等の沸騰中の溶剤に本質的には不溶性(しかし、膨潤できる)の状態に改質できる原料ゴム、または既に改質されているエラストマー材料を意味する。
【0013】
本明細書において「ゴム化合物」とは、ゴムを構成する主成分である化合物を意味する。ゴム化合物の例は、シスー1,4-ポリイソプレン等のゴム炭化水素等が挙げられる。
【0014】
<ロタキサン化合物>
本実施形態に係るロタキサン化合物は、当業者が通常ロタキサンについて理解する通り、環状分子と軸分子が共有結合を介することなく、空間的な結合で結ばれた分子である。本実施形態に係るロタキサン化合物は、1個以上の環状分子と、該環状分子の内孔部を貫通する軸分子であって、該環状分子が脱離しないように配置されるキャップ構造を有する軸分子とからなり、環状分子および軸分子が、メルカプトおよびスルフィドからなる群より選択される1以上の基を有することを特徴とする。このことから、本実施形態に係るロタキサン化合物は、新規な加硫剤として利用することができる。なお、スルフィドには、ジスルフィドやテトラスルフィド等のポリスルフィドを含むものとする。
【0015】
本実施形態に係るロタキサン化合物は、少なくとも一つの不斉炭素原子を有する場合もあり得る。したがって、本実施形態に係るロタキサン化合物は、そのラセミ体のみならず、これらの化合物の光学活性体も包含する。さらに、本実施形態に係るロタキサン化合物が2個以上の不斉炭素原子を有する場合、立体異性を生じる場合がある。したがって、本実施形態に係るロタキサン化合物は、これらの化合物の立体異性体およびその混合物や単離されたものも包含する。
【0016】
本実施形態に係るロタキサン化合物は、互変異性体として存在する場合もあり得る。したがって、本実施形態に係るロタキサン化合物は、その化合物の互変異性体も包含する。
【0017】
また、本実施形態に係るロタキサン化合物のいずれか1つまたは2つ以上の1Hを2H(D)に変換した重水素変換体も本実施形態に係るロタキサン化合物に包含される。
【0018】
(環状分子)
本実施形態に係るロタキサン化合物は、その構成分子として1個以上の環状分子を含有する。合成の容易さの観点からは、1~3個の環状分子に対して、軸分子1分子が貫通しているロタキサン化合物(すなわち、1~3個の環状分子を包摂するロタキサン化合物)が好ましい。さらに、ロタキサンの基本単位として、ロタキサン構造を架橋点とする材料の性質を精密に制御する観点からは、環状分子1分子に対して、軸分子1分子が貫通しているロタキサン化合物(すなわち[2]ロタキサン)が特に好ましい。
【0019】
環状分子の具体例としては、例えば、クラウンエーテル、シクロデキストリン、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、ピラーアレーン等が挙げられる。市販品も多く、多様な構造変換が報告されていること、そしてロタキサン合成において決められた数を包摂できること等、入手の容易さと利便性、反応性の観点からは、クラウンエーテルが好ましい。
【0020】
環状分子の環の大きさは、21~42員が好ましく、21~30員がより好ましく、24員が特に好ましい。
【0021】
環状分子は、1個以上の置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、例えば、アルキルチオ、メルカプト、アミノメチル、アミノ、ヒドロキシル、ヒドロキシメチル、カルボキシル、カルボキシメチル、ハロゲン、アルコキシ、アルコキシカルボニルアミノ(カルバメート)、カルバモイル、ビニル、アリル、エチニル、ホルミル、アクリレート、およびメタクリレート、エーテル等が挙げられる。エーテルの具体例としては、例えば、フェニル基、およびオキソ基からなる群より選択される1個以上の置換基を有していてもよいポリエーテル等が挙げられる。上記の置換基は、環状分子の環を構成する原子上に直接置換されていてもよいし、環を構成する原子上から伸びたスペーサーを介して結合していてもよい。スペーサーは、例えば、アルキレン鎖、-CO-O-、-O-CO-、-O-、-CO-、-CS-、-NH-、NR1-(式中、R1は、アルキル基等の置換基を表す。)、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、および飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0022】
環状分子の好ましい例としては、例えば、メルカプトおよびスルフィドからなる群より選択される1以上の基を有し、かつ、1個以上の前記の置換基を有していてもよく、かつ環構成酸素原子のうちの1~3個がNH、またはSに置き換えられていてもよい、21~42員のクラウンエーテルが挙げられる。
【0023】
当該環状分子の一態様は、下記式(1):
【化1】
[式中、各Rは、同一または異なって、水素原子またはスペーサーを介していてもよいメルカプト、スルフィド、または置換基を表し;nは、2~9の整数(好ましくは、2~5の整数)を表し;環構成酸素原子のうちの1~3個は、NHまたはSに置き換えられていてもよく;隣接する炭素原子に置換する2つのRが、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香族環(好ましくは、ベンゼン環)、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、または飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環を形成していてもよい。]で表されるクラウンエーテル環状分子である。
【0024】
上記の置換基の具体例としては、例えば、アミノメチル、アミノ、ヒドロキシル、ヒドロキシメチル、カルボキシル、カルボキシメチル、ハロゲン、アルコキシ、アルコキシカルボニルアミノ(カルバメート)、カルバモイル、ビニル、アリル、エチニル、ホルミル、アクリレート、およびメタクリレート、エーテル等が挙げられる。エーテルの具体例としては、例えば、フェニル基、およびオキソ基からなる群より選択される1個以上の置換基を有していてもよいポリエーテル等が挙げられる。
【0025】
上記のスペーサーは、例えば、アルキレン鎖、-CO-O-、-O-CO-、-O-、-CO-、-CS-、-NH-、NR1-(式中、R1は、アルキル基等の置換基を表す。)、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、および飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0026】
クラウンエーテルの具体例としては、例えば、1個以上の置換基をそれぞれ有していてもよい、ジベンゾ-24-クラウン-8、24-クラウン-8、ベンゾ-24-クラウン-8、ビス(ビナフチル)-28-クラウン-8、ビス(ビフェニル)-28-クラウン-8、ジシクロヘキシル-24-クラウン-8、およびベンゾ/ビナフチル-24-クラウン-8等が挙げられる。なかでも、1個以上の置換基をそれぞれ有していてもよい、ジベンゾ-24-クラウン-8、24-クラウン-8、ベンゾ-24-クラウン-8、およびジシクロヘキシル-24-クラウン-8が好ましく、1個以上の置換基をそれぞれ有していてもよいジベンゾ-24-クラウン-8がより好ましい。
【0027】
メルカプトまたはスルフィドは、環状分子の環を構成する原子上に直接置換されていてもよいし、環を構成する原子上から伸びた上記のスペーサーを介して結合していてもよい。
【0028】
(軸分子)
本実施形態に係るロタキサン化合物は、その構成分子として軸分子を含有する。該軸分子は、環状分子の内径よりも大きい外径を有する嵩高い基、すなわちキャップ構造を有する。キャップ構造の位置は、軸分子が環状分子から脱離しない限り特に限定されず、軸分子の末端に存在してもよいし、軸分子の中間に存在してもよい。
【0029】
キャップ構造は、前記鎖状分子の前記環状分子からの脱離を防止できる程度に嵩高い基である限り、特に限定されず、例えば、それぞれ置換されていてもよい単環または多環の芳香族基、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環、またはこれらを有する非環式基(例えば、アルキル基)であることができる。例えば、置換基を有する単環基は、tert-ブチル基のような嵩高い置換基を1個以上有する単環であることができる。嵩高い基の具体例としては、例えば、1個以上の炭素数1~6のアルキルで置換されていてもよいアリール(例、3,5-ジ-tert-ブチルフェニル、3,5-ジメチルフェニル、2,6-ジメチルフェニル、3,5-ジニトロフェニル、4-tert-ブチルフェニル、2,4,6-トリメチルフェニル、tert-ブチル、トリチル、ナフチル、アントラセニル)等が挙げられる。
【0030】
軸分子におけるリンカーの鎖長は、前述したロタキサン化合物の運動性が失われない限り、特に限定されないが、例えば、その主鎖が、1~500個、好ましくは5~100個、より好ましくは10~50個の原子から構成されることができる。当該リンカーは、前述したロタキサン化合物の運動性が失われない限り、置換基を有していてもよい。置換基の具体例としては、例えば、アミノメチル、アミノ、ヒドロキシル、ヒドロキシメチル、カルボキシル、カルボキシメチル、ハロゲン、アルコキシ、アルコキシカルボニルアミノ(カルバメート)、カルバモイル、ビニル、アリル、エチニル、ホルミル、アクリレート、およびメタクリレート、エーテル等が挙げられる。エーテルの具体例としては、例えば、フェニル基、およびオキソ基からなる群より選択される1個以上の置換基を有していてもよいポリエーテル等が挙げられる。
【0031】
またリンカーは、例えば、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアクリレート、またはポリカーボネート等のポリマー、あるいはこれらをベースとするポリマーで構成されてもよい。
【0032】
リンカーは、1個以上のアンモニウム部(好ましくは二級アンモニウム(-N+H2-)部)を有することができる。当該部は、ロタキサン化合物の製造時に、前記環状分子が有する酸素原子との間の静電相互作用により、当該鎖状分子の原料が当該環状分子主環を貫通している位置関係を保持することに寄与できる。1個以上の二級アンモニウム部を有する本実施形態に係るロタキサン化合物は、カウンターアニオン(例えば、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、およびテトラフルオロホウ酸イオン等)を含有してもよい。
【0033】
リンカーは、例えば、1個以上の二級アンモニウム部を有し、かつ、アルキレン鎖、-CO-O-、-O-CO-、-O-、-CO-、-CS-、-NH-、NR1-(式中、R1は、アルキル基等の置換基を表す。)、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、および飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0034】
メルカプトまたはスルフィドは、リンカーまたはキャップ構造を構成する原子上に直接置換されていてもよいし、リンカーまたはキャップ構造を構成する原子上から伸びた上記のスペーサーを介して結合していてもよい。
【0035】
本実施形態に係るロタキサン化合物の好適な一態様は、下記式(2):
【化2】
[式中、環Aは、環構成酸素原子のうちの1~3個がNH、またはSに置き換えられていてもよいクラウンエーテル環状分子を表し;各Rは、同一または異なって、水素原子またはスペーサーを介していてもよいメルカプト、スルフィド、または置換基を表し;隣接する炭素原子に置換する2つのRが、それらが結合する炭素原子と一緒になって、芳香族環(好ましくは、ベンゼン環)、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、または飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環を形成していてもよく;nは、2~9の整数(好ましくは、2~5の整数)を表し;mは1、または2以上の繰り返し数を表し;軸分子Bは、m個の2級アンモニウム(-N
+H
2-)部を有し;B
1およびB
2は、同一または異なって、キャップ構造を表し;X
-は、2級アンモニウム塩のカウンターアニオンを表す。]で表される化合物である。
【0036】
X-で表されるカウンターアニオンの具体例としては、例えば、過塩素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、ヘキサフルオロリン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、およびテトラフルオロホウ酸イオン等が挙げられる。
【0037】
上記の置換基の具体例としては、例えば、アミノメチル、アミノ、ヒドロキシル、ヒドロキシメチル、カルボキシル、カルボキシメチル、ハロゲン、アルコキシ、アルコキシカルボニルアミノ(カルバメート)、カルバモイル、ビニル、アリル、エチニル、ホルミル、アクリレート、およびメタクリレート、エーテル等が挙げられる。エーテルの具体例としては、例えば、フェニル基、およびオキソ基からなる群より選択される1個以上の置換基を有していてもよいポリエーテル等が挙げられる。
【0038】
上記のスペーサーは、例えば、アルキレン鎖、-CO-O-、-O-CO-、-O-、-CO-、-CS-、-NH-、NR1-(式中、R1は、アルキル基等の置換基を表す。)、芳香族環、複素芳香族環、飽和もしくは部分不飽和の炭化水素環、および飽和もしくは部分不飽和のヘテロ環等からなる群より選択される構成単位を有することができる。
【0039】
また式(2)で表される化合物の1以上の2級アンモニウム(-N+H2-)部を、3級アンモニウム、アミド、ウレア、カルバメート等へ変換した化合物も、好ましい態様として挙げられる。
【0040】
<ロタキサン化合物の製造方法>
本実施形態に係るロタキサン化合物は、Threading-Capping法等の公知の方法や、文献記載の方法(例えば、オレオサイエンス 第5巻第5号、2005年、209頁)またはこれに準じた方法により、製造することができる。
【0041】
メルカプト基およびスルフィド基は、例えば、環状分子または軸分子に導入したアルケニル基を起点として導入することができる。具体的には、例えば、環状分子または軸分子に導入したアルケニル基に、アルキルチオールまたはアルキルジチオールを付加させることにより、環状分子または軸分子にメルカプト基およびスルフィド基を導入することができる。
【0042】
本実施形態に係るロタキサン化合物およびその中間体は、有機合成化学で常用される精製法、例えば、中和、ろ過、抽出、洗浄、乾燥、濃縮、再結晶、各種クロマトグラフィー等に付して単離精製することができる。また、各中間体においては、特に精製することなく次の反応に供することも可能である。
【0043】
光学活性な出発原料や中間体を用いることにより、あるいは最終品のラセミ体を光学分割することにより、本実施形態に係るロタキサン化合物の光学活性体を製造することができる。光学分割の方法としては、光学活性カラムを用いた物理的な分離方法、分別結晶化法等の化学的な分離方法が挙げられる。本実施形態に係るロタキサン化合物のジアステレオマーは、例えば、分別結晶化法によって製造される。
【0044】
<ポリマー組成物>
本実施形態に係るロタキサン化合物を加硫剤として用い、ポリマー組成物を製造することができる。該ロタキサン化合物を配合したポリマー組成物は、伸縮性、応力緩和性、耐摩耗性等の向上が期待できる。
【0045】
ポリマー組成物の用途としては、例えば、タイヤ用材料、光学材料、医療用材料、生体材料、コンタクトレンズ、塗布剤、及び接着剤など;並びに環境関連材料、生活用品、土木建築材料、電池関連材料、食品、健康用品、スポーツ用品及びその材料、衣料・ファッション用材料、繊維、玩具・エンターテイメント用材料、芸術関連材料、自動車関連材料等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0046】
本実施形態に係るポリマー組成物に含有されるポリマーとしては、メルカプトおよび/またはスルフィドと反応して架橋構造を形成するポリマーであれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体等の炭素-炭素不飽和結合を有するポリマーが挙げられる。
【0047】
ポリマーがゴム化合物である場合の具体例としては、例えば、炭素-炭素二重結合(C=C)を有する化合物であるジエン系化合物;EPDM(エチレン-プロピレン-ジエン共重合ゴム)化合物;ポリノルボルネン化合物;および分子内にニトリル基および炭素-炭素二重結合を有する化合物であるNBR(ニトリルゴム)化合物等が挙げられる。
【0048】
ジエン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)およびポリイソプレンゴム(IR)を含むイソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられる。
【0049】
NRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、例えば1~100質量%、5~95質量%、10~90質量%、1~20質量%、5~30質量%、10~40質量%、20~50質量%、30~60質量%、40~70質量%、50~80質量%、60~90質量%、70~100質量%、または80~100質量%の範囲が挙げられる。
【0050】
BRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、例えば1~100質量%、5~95質量%、10~90質量%、1~20質量%、5~30質量%、10~40質量%、20~50質量%、30~60質量%、40~70質量%、50~80質量%、60~90質量%、70~100質量%、または80~100質量%の範囲が挙げられる。
【0051】
SBRを含有する場合のゴム成分中の含有量は、例えば1~100質量%、5~95質量%、10~90質量%、1~20質量%、5~30質量%、10~40質量%、20~50質量%、30~60質量%、40~70質量%、50~80質量%、60~90質量%、70~100質量%、または80~100質量%の範囲が挙げられる。
【0052】
ゴムの用途としては、タイヤ、ホース、ベルト、パッキン、電線被膜、防振ゴム、建築用ゴム、ローラー、履物、シール部品、医療材料、自動車関連部品、生活用品、スポーツ用品、電池等が挙げられる。
【0053】
ポリマーが水溶性ポリマーである場合の具体例としては、例えば、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ポリアミン、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアミド、ポリペプチド等が挙げられる。
【0054】
水溶性ポリマーの用途としては、例えば、医薬品、医療材料、化粧品、トイレタリー用品、食品、塗料、接着剤、インキ、土木建築、用廃水処理等の水処理、エレクトロニクス、電池等が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係るロタキサン化合物を加硫剤として用いたポリマー組成物は、低燃費性能、耐摩耗性能、および破壊強度に優れることから、タイヤ部材として好適に使用される。
【0056】
本実施形態に係るロタキサン化合物の使用量は、ロタキサン化合物の分子量により適宜変更することができるが、不飽和結合を有するポリマー100質量部に対して、例えば、1~200質量部、2~160質量部、5~140質量部、10~120質量部、20~100質量部の範囲とすることができる。
【0057】
本実施形態に係るポリマー組成物に含有するフィラーとしては、シリカが好適に用いられる。シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等を使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。シリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、破断伸びの観点から、80m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましく、110m2/g以上がさらに好ましい。また、シリカのN2SAは、低燃費性能および加工性の観点から、250m2/g以下が好ましく、235m2/g以下がより好ましく、220m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0059】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1~150質量部、10~140質量部、20~130質量部、30~120質量部、40~110質量部、60~100質量部の範囲とすることができる。シリカの含有量は、低燃費性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して60質量部以上が好ましく、65質量部以上がより好ましく、70質量部以上がさらに好ましい。また、シリカの分散性の観点や加工性の観点からは、150質量部以下が好ましく、120質量部以下がより好ましく、110質量部以下がさらに好ましい。
【0060】
シリカを含有する場合は、シランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、エボニックデグサ社製のSi75、Si266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)、Si69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)などのスルフィド基を有するシランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、モメンティブ社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXTなどのメルカプト基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどのビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランなどのグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシランなどのニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、2-クロロエチルトリメトキシシラン、2-クロロエチルトリエトキシシランなどのクロロ系のシランカップリング剤;などが挙げられる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系がシリカとの結合力が強く、低発熱性において優れるという点から好ましい。
【0061】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカ分散性の観点から、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、コストの観点からは、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。
【0062】
また、シリカ以外に、さらにその他のフィラーを用いてもよい。そのようなフィラーとしては、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、タルク、クレー等が挙げられ、補強性の観点からはカーボンブラックが好適に用いられる。これらのフィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
カーボンブラックとしては、ゴム用として一般的なものを適宜利用することができる。具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。
【0064】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は60m2/g以上が好ましく、70m2/g以上がより好ましく、80m2/g以上がさらに好ましい。また、カーボンブラックのN2SAの上限は特に限定されないが、加工性の観点から180m2/g以下が好ましく、160m2/g以下がより好ましく、150m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定された値である。
【0065】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1~150質量部、2~130質量部、3~100質量部、3~50質量部、5~40質量部、5~30質量部の範囲とすることができる。カーボンブラックの含有量は、耐摩耗性能の観点から、ゴム成分100質量部に対して1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。また、カーボンブラックの含有量の上限は特に限定されないが、低燃費性能や加工性の観点から、100質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましい。
【0066】
フィラー全体のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1~200質量部、10~150質量部、30~130質量部、40~110質量部、50~105質量部の範囲とすることができる。フィラー全体のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐摩耗性能の観点から、20質量部以上が好ましく、40質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましく、80質量部以上が特に好ましい。また、シリカの分散性の観点や加工性の観点からは、150質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましく、130質量部以下がさらに好ましい。
【0067】
フィラー中におけるシリカの含有量は、低燃費性能の観点から、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。
【0068】
本実施形態に係るポリマー組成物がタイヤ用ゴム組成物である場合、上記のポリマーおよびフィラー以外にも、従来、タイヤ工業に使用される配合剤や添加剤、例えば、ワックス、オイル、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、加硫剤、加硫促進剤等を必要に応じて適宜含有することができる。
【0069】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、例えば、0.5~10質量部、0.5~5質量部、1~3質量部の範囲とすることができる。
【0070】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、例えば、5~100質量部、10~70質量部、10~50質量部の範囲とすることができる。
【0071】
老化防止剤としては特に限定されず、ゴム分野で使用されているものが使用可能であり、例えば、キノリン系、キノン系、フェノール系、フェニレンジアミン系老化防止剤等が挙げられる。
【0072】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、例えば、0.5~10質量部、0.5~5質量部、1~4質量部の範囲とすることができる。
【0073】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、例えば、0.2~10質量部、0.5~5質量部、1~3質量部の範囲とすることができる。
【0074】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、例えば、0.5~10質量部、0.5~5質量部、1~3質量部の範囲とすることができる。
【0075】
本実施形態に係るゴム組成物は、本実施形態に係るロタキサン化合物以外の加硫剤を含有してもよい。加硫剤としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0076】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.2質量部未満が好ましく、0.1質量部未満がより好ましく、0.05質量部未満がさらに好ましく、0質量部(すなわち硫黄を含有しないこと)が特に好ましい。
【0077】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、およびキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系加硫促進剤、チアゾール系加硫促進剤、およびグアニジン系加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤がより好ましい。また、スルフェンアミド系加硫促進剤と他の加硫促進剤(好ましくは、チアゾール系加硫促進剤および/またはグアニジン系加硫促進剤)との併用も好ましい態様して挙げることができる。
【0078】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、およびN-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0079】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0080】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジンが好ましい。
【0081】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は特に制限されず、例えば、0.1~5.0質量部、0.5~4.5質量部、0.5~4.0質量部の範囲とすることができる。
【0082】
本実施形態に係るポリマー組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、ポリマー組成物がゴム組成物である場合は、上記の各成分をオープンロール、バンバリーミキサー、密閉式混練機等のゴム混練装置を用いて混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。
【実施例0083】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0084】
以下、実施例および比較例において用いる各種薬品をまとめて示す。
SBR:JSR(株)製のSBR1500
BR:宇部興産(株)製のBR150B
シリカ:ローディア社製のZEOSIL 1165MP(N2SA:160m2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラック N339(N2SA:96m2/g)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン3C(N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’-ジフェニルグアニジン)
【0085】
(ロタキサン化合物の合成)
下記式にて示した方法および条件により、ロタキサン化合物(1-3)を合成した。
【化3】
【0086】
ロタキサン化合物(1-1)の合成
環状分子成分(1-r)(1.3g)のジクロロメタン(5.4mL)溶液に軸分子成分(1-a)(1.2g)を加え2時間撹拌した。続いて3,5-ジメチルフェニルイソシアネート(0.49g)、ジラウリン酸ジブチルスズ(0.30g)、を加えて室温で3日間撹拌した。反応液を濾過後、ろ液の溶媒を留去し、分取GPC(溶離液:クロロホルム)を用いて精製することにより、ロタキサン化合物(1-1)(1.3g)を得た。
ESI-MS: m/z calcd for C69H97N2O14Na [M-PF6]+: 1097.7, found: 1097.1.
【0087】
ロタキサン化合物(1-3)の合成
化合物(1-1)(0.34g)のテトラヒドロフラン(2.7mL)溶液に、無水酢酸(0.14mL)、トリエチルアミン(0.27mL)を加え、50℃で12時間撹拌した。溶媒を留去し、ロタキサン化合物(1-2)(0.24g)を得た。得られたロタキサン化合物(1-2)の一部(50mg)に、トルエン(2.6mL)、1,10-デカンジチオール(45mg)、アゾビスイソブチロニトリル(56mg)を加え、60℃で18時間時間撹拌した。反応液を濾過後、ろ液の溶媒を留去し、分取GPC(溶離液:クロロホルム)を用いて精製することにより、ロタキサン化合物(1-3)(40mg)を得た。
1H-NMR (500Hz, CDCl3, 298K): δ(ppm) 8.36 (d, 1H, J=10Hz), 7.19-6.49 (m, 12H), 4.48-0.91(m, 128H);
13C-NMR (125Hz, CDCl3, 298K): δ(ppm) 170.9, 170.5, 155.3, 155.2, 154.1, 148.4, 148.0, 140.0, 138.0, 133.8, 131.9, 131.5, 130.9, 128.3, 126.4, 123.3, 120.7, 120.0, 115.9, 111.7, 111.5, 72.8, 72.1, 72.0, 69.9, 69.7, 68.1, 68.0, 67.9, 64.8, 51.3, 47.8, 47.4, 46.0, 39.1, 34.0, 33.4, 32.4, 32.2, 32.1, 32.0, 30.1, 29.7, 29.6, 29.5, 29.4, 29.2, 29.1, 29.0, 28.9, 28.4, 28.3, 27.6, 27.1, 26.9, 26.8, 25.8, 25.7, 25.6, 25.5, 24.7, 21.9, 21.5, 21.3, 16.4, 16.3;
ESI-MS: m/z calcd for C89H142N2O14S2 [M+H]+: 1551.9, found: 1552.3.
【0088】
(実施例および比較例)
表1に示す配合処方に従い、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、ロタキサン化合物、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150℃で5分間混練りし、混練物を得た。次に、得られた混練物に、ロタキサン化合物、硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、100℃の条件下で5分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。さらに、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で20分間プレス加硫し、試験用加硫ゴム組成物(加硫ゴムシート)を得た。
【0089】
<低燃費性能>
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度50℃、初期歪み10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で各試験用加硫ゴムシートの損失正接(tanδ)を測定し、tanδの逆数の値について比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど転がり抵抗が小さく(発熱しにくく、エネルギーロスが低く)、低燃費性に優れることを示す。
(低燃費性能指数)=(比較例1のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0090】
<耐摩耗性能>
LAT試験機(Laboratory Abrasion and Skid Tester)を用い、荷重50N、速度20km/h、スリップアングル5°の条件にて、各試験用加硫ゴム組成物の容積損失量を測定し、容積損失量の逆数の値について比較例1を100として指数表示した。指数が大きいほど耐摩耗性能に優れることを示す。
(耐摩耗性能指数)=(比較例1の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0091】
<破壊強度>
JIS K 6251:2010「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-引張特性の求め方」に準じて、各試験用加硫ゴムシートからなる3号ダンベル型試験片を用いて、23℃の条件下にて引張試験を実施し、破断強度TB(MPa)、破断時伸びEB(%)を測定した。結果は、比較例1を100として指数表示した。数値が大きいほど破壊強度に優れることを示す。
(破断強度指数)=(各配合のTB)/(比較例1のTB)×100
(破断伸び指数)=(各配合のEB)/(比較例1のEB)×100
【0092】
【0093】
表1の結果より、本発明所定のロタキサン化合物を配合したゴム組成物は、低燃費性能、耐摩耗性能、および破壊強度が改善していることがわかる。