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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186810
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】カルコゲナイドガラス材
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/32 20060101AFI20221208BHJP
   C03C 17/36 20060101ALI20221208BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C03C3/32
C03C17/36
G02B1/00
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022165365
(22)【出願日】2022-10-14
(62)【分割の表示】P 2017174793の分割
【原出願日】2017-09-12
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松下 佳雅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 史雄
(57)【要約】
【課題】耐候性に優れ、赤外線センサの光学素子として好適なカルコゲナイドガラス材を提供する。
【解決手段】モル%で、Te 20~99%を含有し、表面に反射防止膜が形成されていることを特徴とするカルコゲナイドガラス材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に反射防止膜が形成されている、カルコゲナイドガラス材であって、
前記反射防止膜が、低屈折率層と高屈折率層が交互に合計2層以上積層されることにより構成されており、
前記反射防止膜が、Geからなる層とYFからなる層が接して積層されている部分を含むことを特徴とするカルコゲナイドガラス材。
【請求項2】
前記反射防止膜において、前記低屈折率層の材質がYFであり、前記高屈折率層の材質がGeであることを特徴とする請求項1に記載のカルコゲナイドガラス材。
【請求項3】
前記反射防止膜が、前記低屈折率層と前記高屈折率層が交互に合計2~34層積層されていることにより構成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のカルコゲナイドガラス材。
【請求項4】
前記反射防止膜の、ガラス材側の第1層が、Geからなる層であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のカルコゲナイドガラス材。
【請求項5】
前記反射防止膜の、ガラス材側と反対の最外層が、YFからなる層であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のカルコゲナイドガラス材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のカルコゲナイドガラス材を用いることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
請求項6に記載の光学素子を用いることを特徴とする赤外線センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサ、赤外線カメラ等に使用されるカルコゲナイドガラス材に関する。
【背景技術】
【0002】
車載ナイトビジョンやセキュリティシステム等は、夜間の生体検知に用いられる赤外線センサを備えている。赤外線センサは、生体から発せられる波長約8~14μmの赤外線を感知するため、センサ部の前には当該波長範囲の赤外線を透過するフィルターやレンズ等の光学素子が設けられる。
【0003】
上記のような光学素子用の材料として、GeやZnSeが挙げられる。これらは結晶体であるため加工性に劣り、非球面レンズ等の複雑な形状に加工することが困難である。そのため量産しにくく、また赤外線センサの小型化も困難であるという問題がある。
【0004】
そこで、波長約8~14μmの赤外線を透過し、加工が比較的容易なガラス質の材料として、カルコゲナイドガラスが提案されている。(例えば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-161374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のガラスは、波長10μm以上で赤外線透過率が顕著に低下しているため、特に生体から発せられる赤外線に対する感度に劣り、赤外線センサが十分に機能しないおそれがある。さらに、前記ガラスは、耐候性が低いため変質し、赤外線透過率が低下するという問題がある。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、耐候性に優れ、赤外線センサの光学素子として好適なカルコゲナイドガラス材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、モル%で、Te 20~99%を含有し、表面に反射防止膜が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、必須成分としてTeを含有させているため、赤外線透過率に優れている。また、表面に反射防止膜が形成されているため、赤外光の反射を抑制することができ、赤外線透過率をより高めることができる。さらに、表面に反射防止膜が形成されていると、ガラスが空気中の水分や酸素と反応し変質することを抑制できるため、耐候性に優れている。
【0010】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、モル%で、Te 40~95%を含有することが好ましい。
【0011】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、さらに、モル%で、Ge 0~40%を含有することが好ましい。
【0012】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、さらに、モル%で、Ga 0~30%を含有することが好ましい。
【0013】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、反射防止膜が、低屈折率層と高屈折率層が交互に合計2層以上積層されていることが好ましい。
【0014】
本発明の光学素子は、上記のカルコゲナイドガラス材を用いることを特徴とする。
【0015】
本発明の赤外線センサは、上記の光学素子を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐候性に優れ、赤外線センサの光学素子として好適なカルコゲナイドガラス材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、表面に反射防止膜が形成されている。上述した通り、表面に反射防止膜が形成されていると、赤外線透過率、耐候性を向上させることができる。
【0018】
まず、反射防止膜について説明する。
【0019】
反射防止膜は、低屈折率層と高屈折率層が交互に合計2層以上、2~34層、特に4~12層積層されていることが好ましい。積層数が少なすぎると赤外光を透過しにくくなる。一方、積層数が多すぎると成膜に要する工程が多くなり高コスト化の要因となる傾向がある。なお、低屈折率層及び高屈折率層の組合わせに制限は無く、高屈折率層の屈折率が低屈折率層の屈折率より相対的に大きければよい。
【0020】
屈折率層の1層当りの厚みは、0.01~10μm、0.02~5μm、特に0.03~2μmが好ましい。1層当たりの厚みが小さすぎると赤外光を透過しにくくなる。一方、厚みが大きすぎると、反射防止膜とカルコゲナイドガラス材の界面にかかる応力が大きくなり、膜の密着性、ガラス材の機械的強度が低下しやすくなる。
【0021】
屈折率層の材質は、金属酸化物(Y、Al、SiO、SiO、MgO、TiO、TiO、Ti、CeO、Bi、HfO)、水素化炭素、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、Ge、Si、ZnS、ZnSe、As、AsSe、PbF、テルル化金属、フッ化金属が好ましい。なお、耐候性、機械的強度をより向上させるためには、金属酸化物、水素化炭素、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)を最外層にすることが好ましい。また、密着性をより向上するためには、金属酸化物を中間層にすることが好ましい。なお、屈折率層の材質は、樹脂でもよく、例えばオレフィン系樹脂等を用いることができる。
【0022】
次に、本発明のカルコゲナイドガラス材の組成について説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味する。
【0023】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、Teを必須成分として含有する。カルコゲン元素であるTeはガラス骨格を形成し、赤外線透過率を高める成分である。Teの含有量は、20~99%であり、40~95%、50~85%、60~85%、特に70~80%であることが好ましい。Teの含有量が少なすぎると、ガラス化しにくくなり、赤外線透過率が低下しやすくなる。一方、Teの含有量が多すぎるとガラスの熱安定性が低下しやすく、Te系の結晶が析出しやすくなる。ちなみに、他のカルコゲン元素Se、Sは、Teより赤外線透過率を向上させにくく、赤外透過限界波長が短くなりやすい。
【0024】
上記成分以外にも、以下に示す種々の成分を含有させることができる。
【0025】
Geは赤外線透過率を低下させることなく、ガラス化範囲を広げ、ガラスの熱安定性を高める成分である。Geの含有量は、0~40%、1~35%、5~30%、7~25%、特に10~20%であることが好ましい。Geの含有量が多すぎると、Ge系の結晶が析出しやすくなるとともに、原料コストが高くなる傾向がある。
【0026】
Gaは赤外線透過率を低下させることなく、ガラス化範囲を広げ、ガラスの熱安定性を高める成分である。Gaの含有量は、0~30%、1~30%、3~25%、4~20%、特に5~15%であることが好ましい。Gaの含有量が多すぎると、Ga系の結晶が析出しやすくなるとともに、原料コストが高くなる傾向がある。
【0027】
Agはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱安定性を高める成分である。Agの含有量は0~20%、特に1~10%であることが好ましい。Agの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0028】
Alはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱安定性を高める成分である。Alの含有量は0~20%、特に0~10%であることが好ましい。Alの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0029】
Snはガラス化範囲を広げ、ガラスの熱安定性を高める成分である。Snの含有量は0~20%、特に0~10%であることが好ましい。Snの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0030】
次に、本発明のカルコゲナイドガラス材の製造方法について説明する。
【0031】
上記のガラス組成となるように、原料を混合し、原料バッチを得る。次に、石英ガラスアンプルを加熱しながら真空排気した後、原料バッチを入れ、真空排気を行いながら酸素バーナーで石英ガラスアンプルを封管する。
【0032】
原料としては、元素原料(Te、Ge、Ga等)を用いてもよく、化合物原料(GeTe、GeTe2、Ga2Te3等)を用いても良い。また、これらを併用することも可能である。
【0033】
次に、封管された石英ガラスアンプルを溶融炉内で10~80℃/時間の速度で650~1000℃まで昇温後、6~12時間保持する。保持時間中、必要に応じて、石英ガラスアンプルの上下を反転し、溶融物を攪拌する。
【0034】
その後、石英ガラスアンプルを溶融炉から取り出し、室温まで急冷することによりガラス母材を得る。
【0035】
続いて、得られたガラス母材を所定形状(円盤状、レンズ状等)に加工する。
【0036】
所定形状に加工したガラス母材の片面又は両面に、反射防止膜を形成させカルコゲナイドガラス材を得る。反射防止膜の形成方法としては、真空蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等が挙げられる。
【0037】
なお、ガラス母材に反射防止膜を形成した後、ガラス母材を所定形状に加工しても構わない。ただし、加工工程において反射防止膜の剥離が生じやすくなるため、特段の事情がない限り、ガラス母材を所定形状に加工した後に、反射防止膜を形成することが好ましい。
【0038】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、厚み2mmでの波長8~14μmにおける平均赤外線透過率が80%以上、85%以上、特に90%以上であることが好ましい。平均赤外線透過率が低すぎると、赤外線センサ用として使用した場合に十分に機能しないおそれがある。
【0039】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、赤外線透過率、耐候性に優れるため、赤外線センサのセンサ部を保護するためのカバー部材や、赤外線センサ部に赤外光を集光させるためのレンズ等の光学素子として好適である。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
表1及び2は、本発明の実施例(試料No.1~10)及び比較例(試料No.11、12)を示している。
【0042】
【表1】
【0043】
【表2】
【0044】
表1及び2に示すガラス組成になるように原料を調合し、原料バッチを得た。次に、純水で洗浄した石英ガラスアンプルを加熱しながら真空排気した後、原料バッチを入れ、真空排気を行いながら酸素バーナーで石英ガラスアンプルを封管した。封管された石英ガラスアンプルを溶融炉内で10~80℃/時間の速度で650~1000℃まで昇温後、6~12時間保持した。保持時間中、2時間ごとに石英ガラスアンプルの上下を反転し、溶融物を攪拌した。その後、石英ガラスアンプルを溶融炉から取り出し、室温まで急冷することによりガラス母材を得た。
【0045】
得られたガラス母材を切削、研磨することにより、直径15mm、厚み2mmの円盤状に加工した後、両面を光学研磨した。光学研磨後のガラス母材に、真空蒸着法にて表1及び2に示す構成の反射防止膜を全面に形成し、カルコゲナイドガラス材を得た。なお、反射防止膜に関しては、表1及び2に記載の通り、ガラス材側から第1層、第2層、第3層、第4層、第5層、第6層、第7層、第8層、第9層、第10層、第11層、第12層、第13層の順に成膜を行った。
【0046】
得られた試料について、平均赤外線透過率、耐候性を測定または評価した。結果を表1、2に示す。
【0047】
波長8~14μmにおける平均赤外線透過率は、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)にて測定した。
【0048】
耐候性は次のようにして評価した。得られた試料を60℃-90Rh%の恒温恒湿層内に500時間保持した。保持後の試料の波長8~14μmにおける平均赤外線透過率をFT-IRにて測定した。保持前後で平均赤外線透過率が変化しなかったものを「○」、変化したものを「×」とした。
【0049】
表1、2から明らかなように、実施例1~10の試料は、平均赤外線透過率が94%以上と高く、耐候性にも優れていた。一方、比較例1は、反射防止膜が形成されていないため、平均赤外線透過率が52%と低く、耐候性にも劣っていた。比較例2は、Teを含有していないため平均赤外線透過率が68%と低かった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のカルコゲナイドガラス材は、赤外線センサのセンサ部を保護するためのカバー
部材や、赤外線センサ部に赤外光を集光させるためのレンズ等の光学素子として好適である。