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  • 特開-グラウトモルタル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186934
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】グラウトモルタル
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20221208BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20221208BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20221208BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20221208BHJP
   C04B 111/70 20060101ALN20221208BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B22/08 Z
C04B22/14 B
C04B22/10
C04B111:70
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171497
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2018142266の分割
【原出願日】2018-07-30
(71)【出願人】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】赤江 信哉
(57)【要約】
【課題】適度な流動性を保持しつつ、速硬性且つ強度発現性に優れるグラウトモルタルを提供すること。
【解決手段】セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる結合材と、細骨材と、消泡剤と、増粘剤と、水とを含み、セメントが、ポルトランドセメント、混合セメント、フィラーセメント及び環境調和型セメントからなる群から選択される少なくとも一種であり、消泡剤及び増粘剤の合計含有量が、結合材100質量部に対し、0.03~1.0質量部であり、増粘剤に対する消泡剤の質量比([消泡剤の質量]/[増粘剤の質量])が、0.5~9であり、水の含有量が、結合材100質量部に対し、22~40質量部であり、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に準じて、20℃環境下で測定したフロー値(0打)が、150~220mmである、グラウトモルタル。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる結合材と、細骨材と、消泡剤と、増粘剤と、水とを含み、
前記セメントが、ポルトランドセメント、混合セメント、フィラーセメント及び環境調和型セメントからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記消泡剤及び前記増粘剤の合計含有量が、前記結合材100質量部に対し、0.03~1.0質量部であり、
前記増粘剤に対する前記消泡剤の質量比([消泡剤の質量]/[増粘剤の質量])が、0.5~9であり、
前記水の含有量が、前記結合材100質量部に対し、22~40質量部であり、
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に準じて、20℃環境下で測定したフロー値(0打)が、150~220mmである、グラウトモルタル。
【請求項2】
前記細骨材の含有量が、前記結合材100質量部に対し、30~250質量部である、請求項1に記載のグラウトモルタル。
【請求項3】
アルカリ金属炭酸塩を更に含む、請求項1又は2に記載のグラウトモルタル。
【請求項4】
前記アルカリ金属炭酸塩が、炭酸リチウムである、請求項3に記載のグラウトモルタル。
【請求項5】
前記結合材の合計質量に対する前記セメントの質量割合が60~95質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載のグラウトモルタル。
【請求項6】
床版補修用又は床版補強用である、請求項1~5のいずれか一項に記載のグラウトモルタル。
【請求項7】
土木学会基準JSCE-G 505-2013「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に準じて、20℃環境下において、材齢28日における圧縮強度が76.5N/mm以上である、請求項1~6のいずれか一項に記載のグラウトモルタル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラウトモルタル組成物、グラウトモルタル、コンクリート構造体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物、建築構造物等の構築若しくは補修補強、又は機械の設置の際にはグラウトが用いられている。道路や鉄道等の構造物の部分的な補修工事のように工事できる時間が限られている場合、材料の施工後、速やかに強度発現する材料の使用が望まれている。また近年、グラウトは早期の強度発現性に加え、高強度化も求められてきている。
【0003】
例えば高強度グラウトとして、特許文献1には、セメント、非晶質アルミノ珪酸鉱物粉末2~20質量%、石膏類3~18質量%を含有し、水結合材比26~35%で使用することを特徴とする超高強度グラウト組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-136863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、施工場所・施工条件によっては、グラウトには、良好な強度発現性といった特徴に加え、速硬性や、斜面等でもダレや移動が起こらず、且つ施工しやすいモルタルに近い流動性が求められる。しかしながら、これらの特性を併せ持つ材料を調製することは困難だった。
【0006】
従って、本発明は、適度な流動性を保持しつつ、速硬性且つ強度発現性に優れるグラウトモルタル組成物及びグラウトモルタル、並びに該グラウトモルタルを用いたコンクリート構造体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、消泡剤及び増粘剤の含有量及び配合比率を調整することで、流動性を確保しつつ、速硬性及び強度発現性に優れるグラウトモルタル組成物が得られることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[9]で示される。
[1]セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる結合材と、細骨材と、消泡剤と、増粘剤とを含み、前記消泡剤及び前記増粘剤の合計含有量が、前記結合材100質量部に対し、0.03~1.0質量部であり、前記増粘剤に対する前記消泡剤の質量比([消泡剤の質量]/[増粘剤の質量])が、0.5~9である、グラウトモルタル組成物。
[2]前記細骨材の含有量が、前記結合材100質量部に対し、30~250質量部である、[1]に記載のグラウトモルタル組成物。
[3]アルカリ金属炭酸塩を更に含む、[1]又は[2]に記載のグラウトモルタル組成物。
[4]前記結合材の合計質量に対する前記セメントの質量割合が60~95質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載のグラウトモルタル組成物。
[5]床版補修用又は床版補強用である、[1]~[4]のいずれかに記載のグラウトモルタル組成物。
[6][1]~[5]のいずれかに記載のグラウトモルタル組成物と、水とを含み、前記水の含有量が、前記結合材100質量部に対し、22~40質量部である、グラウトモルタル。
[7]コンクリート床版上に、前記コンクリート床版側から、[6]に記載のグラウトモルタルの硬化体からなるグラウトモルタル層と、熱硬化性樹脂の硬化体からなる防水層と、アスファルト又はコンクリートからなる表層とがこの順に積層されている、コンクリート構造体。
[8]前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂又はウレタン樹脂である、[7]に記載のコンクリート構造体。
[9]コンクリート床版上に、[6]に記載のグラウトモルタルを打設してグラウトモルタル層を形成する工程と、前記グラウトモルタルの終結時間前に前記グラウトモルタル層上に熱硬化性樹脂を塗布、硬化させて、前記熱硬化性樹脂の硬化体からなる防水層を形成する工程と、前記防水層上にアスファルト又はコンクリートからなる表層を形成する工程とを備える、コンクリート構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、適度な流動性を保持しつつ、速硬性且つ強度発現性に優れるグラウトモルタル組成物及びグラウトモルタル、並びに該グラウトモルタルを用いたコンクリート構造体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のコンクリート構造体の一実施形態を模式的に示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0012】
[グラウトモルタル組成物]
本実施形態のグラウトモルタル組成物は、セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる結合材と、細骨材と、消泡剤と、増粘剤とを含む。
【0013】
本実施形態のグラウトモルタル組成物において、結合材とは、セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類の三成分からなるものである。
【0014】
セメントは、種々のものを使用することができ、例えば、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらのポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ又はシリカを混合した各種混合セメント、石灰石粉末等の高炉徐冷スラグ微粉末を混合したフィラーセメント、各種の産業廃棄物を主原料として製造される環境調和型セメント(エコセメント)等が挙げられる。セメントは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。流動性を確保しやすいという観点から、セメントは、普通ポルトランドセメントであることが好ましい。
【0015】
セメントの質量割合は、結合材の合計質量に対し、60~95質量%であることが好ましく、60~90質量%であることがより好ましく、70~85質量%であることが最も好ましい。
【0016】
カルシウムアルミネート類としては、CaOをC、AlをA、NaOをN、及びFeをFとして表したとき、CA、CA、C12、CA、又はCA等と表示される鉱物組成を有するカルシウムアルミネート、CAF等と表示されるカルシウムアルミノフェライト、カルシウムアルミネートにハロゲンが固溶又は置換したC・CaFやC11・CaF等と表示されるカルシウムフロロアルミネートを含むカルシウムハロアルミネート、CNAやC等と表示されるカルシウムナトリウムアルミネート、カルシウムリチウムアルミネート、アルミナセメント、並びにC・CaSO等と表示されるカルシウムサルホアルミネートを総称するものである。カルシウムアルミネート類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0017】
カルシウムアルミネート類としては、反応活性がより優れるという観点から、CaO/Alのモル比が1.0~1.8である熱処理物を急冷したカルシウムアルミネートが好ましい。CaO/Alのモル比が上記範囲内である場合、より優れた流動性及び強度発現性が得られやすい。
【0018】
カルシウムアルミネート類は、十分な速硬性を付与させやすいという観点から、ガラス化率が10%以上のものが好ましい。ガラス化率は、下記の式から算出される。
ガラス化率(%)=(1-(MC/MS))×100
質量がMSであるカルシウムアルミネート類において、このカルシウムアルミネート類に含まれる各鉱物の質量を粉末X線回折により内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量(MC)を算出し、残部を純ガラス相と見なす。
【0019】
カルシウムアルミネート類の粉末度は、初期強度発現性をより向上させるという観点から、ブレーン比表面積で3000cm/g以上であることが好ましく、5000cm/g以上であることがより好ましい。カルシウムアルミネート類の粉末度は、ブレーン比表面積で5000~8000cm/gであることが好ましい。
【0020】
カルシウムアルミネート類の質量割合は、速硬性を更に向上させるという観点から、結合材の合計質量に対し、5~30質量%であることが好ましく、6~25質量%であることがより好ましく、7~15質量%であることが最も好ましい。
【0021】
石膏類としては、例えば、無水石膏、半水石膏、二水石膏等が挙げられる。石膏類としては、強度発現性をより向上させるという観点から、無水石膏が好ましい。石膏類は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0022】
石膏類の質量割合は、長期強度発現性をより向上させるという観点から、結合材の合計質量に対し、2~15質量%であることが好ましく、3~12質量%であることがより好ましく、5~10質量%であることが最も好ましい。
【0023】
細骨材としては、例えば、川砂、珪砂、砕砂、寒水石、石灰石砂、スラグ骨材等が挙げられる。細骨材は、これらの中から、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度に調整した珪砂、石灰石砂等を用いることが好ましい。細骨材は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。細骨材は、通常用いられる粒径5mm以下のもの(5mmふるい通過分)を使用するのが好ましい。
【0024】
細骨材の粒度は特に限定されるものではなく、必要とする細骨材の粒度の範囲内で調整することができる。細骨材は、JIS A 1102:2014「骨材のふるい分け試験方法」により規定される粗粒率からその粒度を考慮することができる。モルタルとした時により良好な流動性が得られやすく、ブリーディングを抑制しやすいという観点から、細骨材の粗粒率は、1~4であることが好ましく、1.5~3.8であることがより好ましく、2~3.5であることが最も好ましい。
【0025】
細骨材の含有量は、結合材100質量部に対し、30~250質量部であることが好ましく、35~180質量部であることがより好ましく、45~150質量部であることが更により好ましく、55~140質量部であることが最も好ましい。細骨材の含有量が上記範囲内であれば、より良好な流動性を確保しつつ、短時間での強度発現性がより一層優れたものとなる。
【0026】
消泡剤は、一般のコンクリートに使用される消泡剤であれば特に限定されず、例えば、鉱油系消泡剤、エステル系消泡剤、アミン系消泡剤、アミド系消泡剤、ポリエーテル系消泡剤、シリコン系消泡剤等が挙げられる。これらの中でも、より優れた消泡効果を発揮するという観点から、ポリエーテル系消泡剤が好ましい。消泡剤の形態は、液体であってもよく、粉体であってもよいが、プレミックスとする場合には粉体であることが好ましい。
【0027】
消泡剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.02~0.6質量部であることが好ましく、0.03~0.5質量部であることがより好ましく、0.04~0.35質量部であることが最も好ましい。消泡剤の含有量が上記範囲内であれば、連結した空気を更に低減することができ、空気連結から生じる強度低下を防止しやすい。
【0028】
増粘剤の種類は特に限定されず、例えば、セルロース系増粘剤、アクリル系増粘剤、グアーガム系増粘剤等が挙げられる。増粘剤としては、材料分離抵抗性に一層優れるという観点から、セルロース系増粘剤が好ましい。セルロース系増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。増粘剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0029】
増粘剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.01~0.4質量部であることが好ましく、0.01~0.2質量部であることがより好ましく、0.01~0.15質量部であることが最も好ましい。増粘剤の含有量が上記範囲内であれば、より適切な流動性を確保しやすい。
【0030】
消泡剤及び増粘剤の合計含有量は、結合材100質量部に対し、0.03~1.0質量部である。消泡剤及び増粘剤の合計含有量が上記範囲外であると、良好な流動性及び強度発現性を確保できない。より適切な流動性とより高い強度発現性が得られるという観点から、消泡剤及び増粘剤の合計含有量は、結合材100質量部に対し、0.04~0.7質量部であることが好ましく、0.05~0.4質量部であることがより好ましい。
【0031】
増粘剤に対する消泡剤の質量比([消泡剤の質量]/[増粘剤の質量])は、0.5~9である。増粘剤に対する消泡剤の質量比が上記範囲外であると、良好な流動性及び強度発現性を確保できない。より適切な流動性とより高い強度発現性が得られるという観点から、増粘剤に対する消泡剤の質量比は、0.7~7であることが好ましく、0.5~5であることがより好ましい。
【0032】
本実施形態のグラウトモルタル組成物は、過酸化物質を含んでもよい。過酸化物質としては、例えば、過炭酸ナトリウム、過炭酸カリウム、過炭酸アンモニウム等の過炭酸塩が挙げられる。過酸化物質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0033】
過酸化物質の含有量は、結合材100質量部に対し、0.03~0.2質量部であることが好ましく、0.05~0.15質量部であることがより好ましく、0.07~0.12質量部であることが最も好ましい。過酸化物質の含有量が上記範囲内であれば、十分な初期膨張硬化が得られやすく、強度発現性も低下しにくい。
【0034】
本実施形態のグラウトモルタル組成物は、アルカリ金属炭酸塩を含んでもよい。アルカリ金属炭酸塩は、アルカリ金属(水素原子を除く周期表第一族元素)の炭酸塩であれば特に限定されるものではない。アルカリ金属炭酸塩としては、強度発現性をより促進させるという観点から、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムが好ましい。アルカリ金属炭酸塩は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0035】
アルカリ金属炭酸塩の含有量は、結合材100質量部に対し、0.05~0.5質量部であることが好ましく、0.1~0.4質量部であることがより好ましく、0.15~0.3質量部であることが最も好ましい。アルカリ金属炭酸塩の含有量が上記範囲内であれば、適切な流動性が得られやすく、初期凝結が促進されやすい。
【0036】
本実施形態のグラウトモルタル組成物は、減水剤を含んでもよい。減水剤は、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤及び流動化剤を含む。このような減水剤としては、JIS A 6204:2011「コンクリート用化学混和剤」に規定される減水剤が挙げられる。減水剤としては、例えば、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、アクリル系減水剤等が挙げられる。これらの中では、ポリカルボン酸系減水剤が好ましい。減水剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0037】
減水剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.15~0.5質量部であることが好ましく、0.2~0.4質量部であることがより好ましく、0.2~0.3質量部であることが最も好ましい。減水剤の含有量が上記範囲内であれば、モルタルとした時に良好な流動性が得られやすく、硬化時において強度発現性も向上しやすい。
【0038】
本実施形態のグラウトモルタル組成物は、凝結遅延剤を含んでもよい。凝結遅延剤としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、リンゴ酸、酒石酸等の有機酸又はその塩;ホウ酸、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、リン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩等の無機塩;糖類が挙げられる。これらの中でも、クエン酸、クエン酸塩、酒石酸、酒石酸塩及びアルカリ金属炭酸塩が好ましい。凝結遅延剤は、粉体であってもよく、液状体(例えば、水溶液、エマルジョン、懸濁液の形態)であってもよい。凝結遅延剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を併せて用いてもよい。
【0039】
凝結遅延剤の含有量は、結合材100質量部に対し、0.05~0.7質量部であることが好ましく、0.1~0.5質量部であることがより好ましく、0.2~0.4質量部であることが最も好ましい。凝結遅延剤の含有量が上記範囲内であれば、可使時間を更に確保しやすく、初期強度発現性が低下しにくい。
【0040】
本実施形態のグラウトモルタル組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲で各種混和剤(材)を配合してもよい。混和剤(材)としては、例えば、膨張剤、発泡剤、防水剤、防錆剤、収縮低減剤、保水剤、顔料、撥水剤、白華防止剤、繊維等が挙げられる。
【0041】
本実施形態のグラウトモルタル組成物は、通常用いられる混練器具により上記した各成分を混合することで調製でき、その器具は特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、ハンドミキサ、傾胴ミキサ、パン型ミキサ、二軸ミキサ等が挙げられる。
【0042】
[グラウトモルタル]
本実施形態のグラウトモルタル組成物は、水と混合してグラウトモルタルとして調製することができ、その水の含有量は用途に応じて適宜調整すればよい。水の含有量は、結合材100質量部に対し、22~40質量部であることが好ましく、23~37質量部であることがより好ましく、25~34質量部であることが最も好ましい。水の含有量が上記範囲内であれば、モルタルとした時により流動性を確保しやすく、硬化時において乾燥収縮を更に抑制し、強度発現性がより一層優れたものとなる。
【0043】
本実施形態のグラウトモルタルは、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に準じて、20℃環境下で測定したフロー値(0打)が、150~220mmであることが好ましく、155~210mmであることがより好ましく、160~200mmであることが最も好ましい。グラウトモルタルのフロー値(0打)が上記範囲内であれば、モルタルの調製がしやすく、傾斜等でもダレが生じにくい。
【0044】
本実施形態のグラウトモルタルの調製は、通常用いられる混練器具により上述した各成分を混合することで調製でき、その器具は特に限定されるものではない。混練器具としては、例えば、ハンドミキサ、傾胴ミキサ、パン型ミキサ、2軸ミキサ等が挙げられる。
【0045】
本実施形態のグラウトモルタル組成物及びグラウトモルタルは、適度な流動性を確保しつつ、速硬性及び強度発現性に優れるものとなる。そのため、このようなグラウトモルタル組成物及びグラウトモルタルは、例えば、コンクリート構造体、道路床版等の補修・補強材料として使用することができる。
【0046】
[コンクリート構造体]
本実施形態のコンクリート構造体について、図面を参照しながら詳細に説明する。図面の便宜上、図面の寸法比率は説明のものと必ずしも一致しない。
【0047】
図1は、本発明のコンクリート構造体の一実施形態を模式的に示す側面断面図である。
本実施形態に係るコンクリート構造体10は、コンクリート床版1上に、コンクリート床版1側から、グラウトモルタルの硬化体からなるグラウトモルタル層2と、熱硬化性樹脂の硬化体からなる防水層3と、アスファルト又はコンクリートからなる表層4とがこの順に積層されている。
【0048】
コンクリート床版1は、特に限定されるものではなく、コンクリート製床版、一部がポリマーセメント等で補修されたコンクリート床版等が挙げられる。
【0049】
グラウトモルタル層2は、上述した本実施形態のグラウトモルタルを硬化させたものである。グラウトモルタル層2の厚さは、コストに優れると共に、十分な補修・補強効果が得られるという観点から、5~50mmであることが好ましく、10~40mmであることがより好ましく、12~30mmであることが最も好ましい。
【0050】
防水層3は、熱硬化性樹脂を硬化させたものである。コンクリート構造体10では、グラウトモルタル層2上に防水層3が形成されているので、コンクリート床版1に対して水が浸入するのをより防止することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂は、防水性により優れるという観点から、エポキシ樹脂及びウレタン樹脂が好ましい。防水層の厚さは、十分に防水効果が得られる厚さであれば特に限定されるものではない。
【0051】
表層4は、アスファルト又はコンクリートからなるものである。表層4を形成するのに用いられるアスファルト及びコンクリートは特に限定されるものではなく、通常用いられるものであればよい。表層4の厚さは、床版層1を更に保護するという観点から、50~100mmであることが好ましく、60~80mmであることがより好ましい。
【0052】
なお、本実施形態のコンクリート構造体10は、コンクリート床版1側から、コンクリート床版1、グラウトモルタル層2、防水層3及び表層4がこの順に積層されていればよく、その他の層を排除するものではない。例えば、コンクリート構造体10は、防水層3と表層4の間に、ウレタン樹脂等から形成される第二の防水層を更に備えてもよい。
【0053】
[コンクリート構造体の製造方法]
本実施形態のコンクリート構造体の製造方法は、コンクリート床版1上に、上述したグラウトモルタルを打設してグラウトモルタル層2を形成する工程と、上記グラウトモルタル層2上に熱硬化性樹脂を塗布、硬化させて、熱硬化性樹脂の硬化体からなる防水層3を形成する工程と、防水層3上にアスファルト又はコンクリートからなる表層4を形成する工程とを備える。以下、各工程について説明する。
【0054】
コンクリート床版1上にグラウトモルタル層2を形成する工程では、コンクリート床版1とグラウトモルタル層2との接着性をより向上させるという観点から、事前に、コンクリート床版1の表面をウォータジェット、ショットブラスト、人力によるハツリ等の研掃することが好ましい。
【0055】
グラウトモルタル層2上に防水層3を形成する工程では、グラウトモルタルの終結時間前にグラウトモルタル層2上に熱硬化性樹脂を塗布してもよく、グラウトモルタルの終結時間後にグラウトモルタル層2上に熱硬化性樹脂を塗布してもよい。グラウトモルタル層2を構成するグラウトモルタルの硬化時のひび割れをより抑制し、防水性をより向上させるという観点から、グラウトモルタルの終結時間前に熱硬化性樹脂を塗布することが好ましい。本明細書において、「終結時間」とは、「JIS A 1147:2007コンクリートの凝結時間試験方法」に準じて測定されるものを指す。熱硬化性樹脂の塗布量は、1mあたり過不足なく塗布でき、より一層効果があるという観点から、250~750g/mであることが好ましく、350~650g/mであることがより好ましく、400~600g/mであることが最も好ましい。
【0056】
上述した熱硬化性樹脂に硬化剤、硬化促進剤、溶剤等の公知の添加剤を添加した熱硬化性樹脂組成物を防水層3の形成に用いてもよい。熱硬化性樹脂組成物の粘度は、塗布しやすく、施工性に更に優れるという観点から、200Pa・s以下であることが好ましく、100Pa・s以下であることがより好ましい。
【0057】
防水層3上に表層4を形成する工程では、防水層3上に、公知の方法に従ってアスファルトを敷き均すか又はコンクリートを打設して表層4を形成すればよい。
【0058】
本実施形態のコンクリート構造体は、コンクリート床版が上述したグラウトモルタルの硬化体で補修又は補強され、更に、グラウトモルタルの硬化体が防水層で防水処理されているため、耐久性が極めて高いものである。
【実施例0059】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでは
ない。
【0060】
実施例で用いる材料は以下のとおりである。
セメント:普通ポルトランドセメント(略号C)
カルシウムアルミネート類:アルミナセメント(CaO/Alのモル比:1.4、ガラス化率:40%、ブレーン比表面積:5000cm/g、略号CA)
石膏類:無水石膏(略号CS)
過酸化物質:過炭酸ナトリウム
アルカリ金属炭酸塩:炭酸リチウム
凝結遅延剤:クエン酸
減水剤:ポリカルボン酸系高性能減水剤
消泡剤:ポリエーテル系消泡剤(略号Pe)
増粘剤:水溶性セルロース(メチルセルロース、略号Ce)
細骨材:珪砂(粗粒率:2.70、略号S)
水:上水道(略号W)
【0061】
[グラウトモルタル組成物の配合設計]
各種材料を表1に示す量とし、セメント、カルシウムアルミネート類及び石膏類からなる結合材100質量部に対して、過炭酸ナトリウムを0.1質量部、炭酸リチウムを0.2質量部、クエン酸を0.3質量部、減水剤を0.25質量部として配合設計した。
【0062】
[グラウトモルタルの作製]
20℃環境下において、10Lの円筒容器に配合設計したグラウトモルタル組成物と水を添加し、ハンドミキサで120秒混練してグラウトモルタルを約3L作製した。
【0063】
【表1】
【0064】
[評価方法]
・コンシステンシー
JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」12.フロー試験に準じて、20℃環境下でグラウトモルタルのフロー値(0打)を測定し、これをコンシステンシーとして評価した。
・可使時間
JIS A 1147:2007「コンクリートの凝結試験方法」に準じて、グラウトモルタルの始発時間を測定した。始発時間を可使時間として評価し、始発時間で30分以上であるものを良好(○)、この範囲から外れるものを不良(×)と評価した。
・圧縮強度
土木学会基準JSCE-G 505-2013「円柱供試体を用いたモルタルまたはセメントペーストの圧縮強度試験方法」に準じて、20℃環境下において、材齢2時間及び材齢28日における圧縮強度を測定した。供試体の寸法は、直径50mm、高さ100mmとした。材齢28日の供試体については、材齢2時間で型枠を外すまで20℃の湿潤養生、その後直ちに20℃の水中に移し、試験直前まで20℃の水中養生とした。材齢2時間の供試体については、20℃で湿潤養生を行った。材齢2時間における圧縮強度が15N/mm以上であれば、速硬性に優れているといえる。
【0065】
【表2】
【符号の説明】
【0066】
1 コンクリート床版、2 グラウトモルタル層、3 防水層、4 表層、10 コンクリート構造体。
図1