IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テイ・エス テック株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-乗物用シート 図1
  • 特開-乗物用シート 図2
  • 特開-乗物用シート 図3
  • 特開-乗物用シート 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186936
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】乗物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/58 20060101AFI20221208BHJP
   B60N 2/56 20060101ALI20221208BHJP
   A47C 7/74 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
B60N2/58
B60N2/56
A47C7/74 C
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171540
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2021051685の分割
【原出願日】2017-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088580
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 敦
(74)【代理人】
【識別番号】100195453
【弁理士】
【氏名又は名称】福士 智恵子
(74)【代理人】
【識別番号】100205501
【弁理士】
【氏名又は名称】角渕 由英
(72)【発明者】
【氏名】三好 貴子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 淳一
(57)【要約】
【課題】送風装置によって生じる風を通過させるために孔が設けられた表皮について、孔周りの強度を適切に確保する。
【解決手段】シート本体において乗員と対向する部分をなす表皮(1)と、シート本体に取り付けられた送風装置と、を有する車両用シートにおいて、表皮(1)は、表皮(1)の厚み方向において乗員と対向する側に設けられたトップ層(3)と、トップ層(3)とは反対側の位置に設けられた基布層(5)と、を備え、トップ層(3)及び基布層(5)の双方には、送風装置によって生じる風が通過可能な孔(3a、5a)が複数備えられ、基布層(5)において孔(5a)の縁に位置する部分は、ウレタン樹脂が含浸された繊維を編むことで構成された生地からなる。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員が着座可能なシート本体と、該シート本体において乗員と対向する部分をなす表皮と、前記シート本体に取り付けられた送風装置と、を有し、
前記表皮は、前記表皮の厚み方向において乗員と対向する側に設けられたトップ層と、該トップ層とは反対側の位置に設けられた基布層と、を備え、
前記トップ層及び前記基布層の双方には、前記送風装置によって生じる風が通過可能な孔が複数備えられ、
前記基布層において前記孔の縁に位置する部分は、ウレタン樹脂が含浸された繊維を編むことで構成された生地からなることを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記基布層は、複数種類の繊維を編むことで構成されたトリコット編みの生地からなり、
前記基布層を構成する前記複数種類の繊維の各々には、ウレタン樹脂が含浸されていることを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記トップ層は、ポリ塩化ビニル製の合成皮革からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記基布層は、前記厚み方向において前記トップ層から最も離れた位置に設けられた基布層底部を有し、
該基布層底部を構成する繊維は、起毛された状態にあることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の乗物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物用シートに係り、特に、シート本体に取り付けられた送風装置によって生じる風が通過可能な孔が表皮に複数形成された乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
乗物用シートの中には、シート本体に送風装置を取り付けて、シートに着座している乗員に対して風を送ることが可能なシートが存在する(例えば、特許文献1参照)。このような乗物用シートでは、送風装置によって生じる風がシート内を通って乗員の身体に達するようになる。このため、送風装置が取り付けられている乗物用シートでは、通常、シート構成部品である表皮に対して通気孔を穿設する。
【0003】
通気孔が形成された表皮の一例としては、特許文献2に記載の表皮が挙げられる。特許文献2に記載の表皮は、合成樹脂被覆層を有する繊維を含んで構成された基布を有する。そして、基布を構成する繊維が有する合成樹脂被覆層は、融点が120度~180度の合成樹脂からなる。このような構成により、特許文献2に記載の表皮は、表皮として十分な強度を確保すると共に、良好な通気孔の外観を呈するようになる。具体的には、通気孔周りにおいて繊維(糸)がほつれてしまうのを抑制することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-132350号公報
【特許文献2】特開2016-129994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2では、糸のほつれを抑制するために、芯となる繊維の周りに合成樹脂被覆層を形成し、当該繊維同士を部分的に融着させることになっている。このように特許文献2に記載の表皮は、繊維同士を融着させる分、製造に若干の手間を要することとなる。そのため、基布における糸のほつれを抑制することが可能な表皮については、特許文献2とは異なる構成によって実現することが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、送風装置によって生じる風を通過させるために孔が設けられた表皮について、孔周りの強度を適切に確保することが可能な乗物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題は、本発明の乗物用シートによれば、乗員が着座可能なシート本体と、該シート本体において乗員と対向する部分をなす表皮と、前記シート本体に取り付けられた送風装置と、を有し、前記表皮は、前記表皮の厚み方向において乗員と対向する側に設けられたトップ層と、該トップ層とは反対側の位置に設けられた基布層と、を備え、前記トップ層及び前記基布層の双方には、前記送風装置によって生じる風が通過可能な孔が複数備えられ、前記基布層において前記孔の縁に位置する部分は、ウレタン樹脂が含浸された繊維を編むことで構成された生地からなることにより解決される。
【0008】
上述のように構成された乗物用シートでは、表皮のトップ層及び基布層の双方に通気用の孔が複数形成されている。また、基布層において孔の縁に位置する部分は、ウレタン樹脂が含浸された繊維を編むことで構成された生地からなる。このようにウレタン樹脂が含浸された繊維を編んで構成された生地を用いることにより、孔周りでの繊維のほつれを抑制することが可能となる。
【0009】
また、上記の構成において、前記基布層は、複数種類の繊維を編むことで構成されたトリコット編みの生地からなり、前記基布層を構成する前記複数種類の繊維の各々には、ウレタン樹脂が含浸されていてもよい。
上記の構成であれば、基布層を構成する複数種類の繊維の各々にウレタン樹脂が含浸されているので、基布層の強度をより向上させることが可能となる。
【0010】
また、上記の構成において、前記トップ層は、ポリ塩化ビニル製の合成皮革からなるとしてもよい。
上記の構成であれば、基布層の強度を確保しつつ、表皮としての外観を良好にすることが可能となる。
【0011】
また、上記の構成において、前記基布層は、前記厚み方向において前記トップ層から最も離れた位置に設けられた基布層底部を有し、該基布層底部を構成する繊維は、起毛された状態にあると好適である。
上記の構成であれば、基布層底部を構成する繊維が起毛された状態にあり、繊維同士が絡み易くなる。これにより、孔周りでの繊維のほつれをより効果的に抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の乗物用シートによれば、表皮において基布層の孔周りの強度を確保し、孔周りでの繊維のほつれを抑制することが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、基布層を構成する複数種類の繊維の各々にウレタン樹脂が含浸されているので、基布層の強度をより向上させることが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、トップ層がポリ塩化ビニル製の合成皮革によって構成されているので、基布層の強度を確保しつつ、表皮としての外観を良好にすることが可能となる。
また、本発明の乗物用シートによれば、基布層底部を構成する繊維が起毛された状態にあり、繊維同士が絡み易くなるため、孔周りでの繊維のほつれをより効果的に抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る乗物用シートの全体図である。
図2】乗物用シートのシート本体と送風装置とを示す図である。
図3】表皮の積層構造を示す模式拡大図である。
図4】本発明の一実施形態に係る表皮及び比較例に係る表皮について、それぞれの仕様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態(本実施形態)に係る乗物用シートについて説明する。なお、以下では、乗物用シートの一例として、車両に搭載されるシート(以下、車両用シートS)について、その構成を説明することとする。ちなみに、本発明の乗物用シートは、車両用シートに限定されるものではなく、車両以外の乗物(例えば、二輪車、あるいは船舶や航空機)に搭載されるシートとしても利用可能である。
【0015】
また、付言しておくと、以下に説明する実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得る。また、当然ながら、本発明にはその等価物が含まれる。
【0016】
車両用シートSは、図1及び図2に示すように、乗員が着座可能なシート本体Shと、シート本体Shに取り付けられた送風装置10とを有する。シート本体Shは、シートクッションS1、シートバックS2及びヘッドレストS3を備える。シートクッションS1及びシートバックS2は、フレームFにクッションパッドPを載せ、クッションパッドPの表面を表皮1によって覆うことで構成されている。表皮1は、シートクッションS1及びシートバックS2の各々を構成する部品であり、シート本体Shにおいて乗員と対向する部分、具体的には着座面をなしている。
【0017】
より詳しく説明すると、シートクッションS1において、表皮1の一部は、車両用シートSに着座している乗員の臀部を下方から支える面(すなわち、シートクッションS1の上面)を構成している。また、シートバックS2において、表皮1の一部は、車両用シートSに着座している乗員の背部を後方から支える面(すなわち、シートバックS2の前面)を構成している。
【0018】
送風装置10は、空調や換気のために設けられた機器であり、例えば、公知のブロアからなる。この送風装置10は、図2に示すように、シートクッションS1の下方位置に配置されている。
【0019】
また、シートクッションS1を構成するフレームF及びクッションパッドPのうち、送風装置10の上方に位置する箇所には貫通孔が形成されており、この貫通孔が風路11をなしている。なお、この風路11内には、筒状の板金材料からなるダクト(不図示)が配置されていてもよい。
【0020】
さらに、着座面をなす表皮1には、図3に示すように、表皮1を貫通する孔2が複数穿設されている。この孔2は、送風装置10によって生じる風が通過可能な孔であり、表皮1に対して公知のパーフォレーション処理(穿設処理)を施すことによって形成されたものである。
【0021】
そして、送風装置10をなすブロアが正回転すると、送風装置10からの風(気流)が風路11及び孔2を通じてシートクッションS1の着座面の上方まで送られ、シートクッションS1上に着座している乗員(厳密には、乗員の臀部)に当たるようになる。また、上記のブロアが逆回転すると、着座面付近の空気が風となって孔2及び風路11を通じて送風装置10に吸気されるようになる。
【0022】
なお、本実施形態では、シートクッションS1に送風装置10が取り付けられていることとしたが、これに限定されるものではなく、シートバックS2(より具体的には、シートバックS2の後方部)に送風装置10が取り付けられてもよい。
【0023】
次に、表皮1の構造について図3を参照しながら説明する。本実施形態に係る表皮1は、図3に示すように、積層構造となっており、具体的には三層構造となっている。表皮1を構成する層は、トップ層3、発泡層4及び基布層5である。
【0024】
トップ層3は、表皮1の厚み方向において表側(露出して乗員と対向する側)に位置するように設けられた層である。また、本実施形態において、トップ層3は、ポリ塩化ビニル(PVC)製の合成皮革からなる。発泡層4は、表皮1の厚み方向においてトップ層3と隣接する層であり、公知のワディング材からなる。なお、トップ層3と発泡層4との境界面には接着剤の塗布膜が形成されており、発泡層4の表面にトップ層3が貼り付けられている。
【0025】
基布層5は、表皮1の厚み方向において裏側(トップ層3とは反対側)に位置するように設けられた層である。この基布層5は、繊維を編むことで構成された生地からなり、より詳しくは、トリコット編みの生地からなる。
【0026】
また、前述したように、表皮1にはパーフォレーション処理によって形成された孔2が穿設されている。つまり、表皮1を構成する各層(トップ層3、発泡層4及び基布層5)には、各層を貫通する孔3a、4a、5aが複数設けられていることになる。各層の孔は、当然ながら互いに連通しており、図3に示すように直線状に連なっている。そして、それぞれの孔3a、4a、5aには、送風装置10によって生じる風が通過可能である。
【0027】
一方、一般的に、繊維を編み込んでなる生地に孔を穿つと、その孔の周辺に位置する繊維がほつれ易くなってしまう。これに対し、表皮1中の基布層5をなす生地では、孔5a周辺での繊維のほつれを効果的に抑制することが可能である。以下、基布層5の構成について詳しく説明する。
【0028】
基布層5は、前述したようにトリコット編みの生地からなる。厳密に説明すると、基布層5は、複数種類の繊維を編み込むことで構成された生地からなる。なお、本実施形態に係る基布層5は、三種類の繊維を編んで構成された生地からなる。各種類の繊維の太さは、図4に示すように、50d/72f、75d/36f、75d/36fである。
【0029】
図4は、本実施形態に係る表皮1及び比較例に係る表皮のそれぞれの仕様を示す図であり、図中、本実施形態に係る表皮1を「本例」と表記している。また、比較例としては、三つの例を挙げており、図中、それぞれの例を「例1」、「例2」及び「例3」と表記している。
【0030】
また、基布層5を構成する三種類の繊維の各々は、ウレタン樹脂が含浸された繊維である。なお、本実施形態において、各繊維におけるウレタン樹脂の含浸量は、繊維の単位長あたり1~10gとなっている。
【0031】
そして、上記の繊維を編み込んで生地を構成し、その生地を基布層5として用いる。なお、本実施形態において、基布層5をなす生地の仕様について説明すると、目付が280g/m以下であり、密度が73C/36Wである。
【0032】
さらに、上記の繊維を編み込んで構成された生地中、基布層底部5bに相当する部分には、起毛処理が施されている。したがって、基布層底部5bを構成する繊維は、起毛された状態にあり、繊維同士が互いに絡み易くなっている。ここで、「基布層底部5b」とは、基布層5中、表皮1の厚み方向において最も裏側の位置(トップ層3から最も離れた位置)に設けられた部分である。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る表皮1の基布層5によれば、孔5aの縁に位置する部分を含めて基布層5全体が、ウレタン樹脂が含浸された繊維を編み込むことで構成された生地(厳密にはトリコット編みの生地)からなる。この結果、孔5a周辺の強度を確保し、孔5a周辺における繊維のほつれが効果的に抑制されるようになる。
【0034】
上記の効果を説明するために、本実施形態に係る表皮1の基布層5と、当該基布層5とは製造条件が異なる別の基布層(比較例の基布層)とを対比しながら説明する。なお、比較例としては三種類(例1、例2及び例3)の基布層を挙げることとし、各基布層の仕様(具体的には、繊維の編み方、繊維の種類及び太さ、生地の目付け及び密度、並びに、繊維におけるウレタン樹脂の含浸の有無)については、図4に示す通りである。
【0035】
本実施形態に係る表皮1の基布層5(以下、本例の基布層5)を構成する生地の繊維は、図4に示すように、例1及び例2の基布層を構成する生地の繊維よりも太くなっている。また、本例の基布層5を構成する生地の目付けは、図4に示すように、例1の基布層を構成する生地の目付けよりも大きくなっている。また、本例の基布層5を構成する生地の密度は、図4に示すように、例1及び例2の基布層を構成する生地の密度よりも大きくなっている。また、図4に示すように、本例の基布層5を構成する生地の繊維にはウレタン樹脂が含浸されているのに対し、例1~例3の基布層を構成する生地の繊維には、いずれもウレタン樹脂が含浸されていない。さらに、いずれの基布層にも孔が複数穿設されている。
【0036】
そして、図4に示すように、例1~例3の基布層では、孔周辺での繊維のほつれが生じているのに対し、本例の基布層5では、孔周辺での繊維のほつれが抑制されている。また、本例の基布層5では、前述したように、基布層底部5bを構成する繊維が起毛された状態にあって絡み易くなっている。このような状態も相俟って、本例の基布層5では、孔周辺での繊維のほつれが効果的に抑制されている。
【符号の説明】
【0037】
1 表皮
2 孔
3 トップ層
3a 孔
4 発泡層
4a 孔
5 基布層
5a 孔
5b 基布層底部
10 送風装置
11 風路
F フレーム
P クッションパッド
S 車両用シート(乗物用シート)
S1 シートクッション
S2 シートバック
S3 ヘッドレスト
Sh シート本体
図1
図2
図3
図4