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特開2022-186937化学的炭素鎖延長反応による長鎖不飽和脂肪酸の合成
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  • 特開-化学的炭素鎖延長反応による長鎖不飽和脂肪酸の合成 図1
  • 特開-化学的炭素鎖延長反応による長鎖不飽和脂肪酸の合成 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186937
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】化学的炭素鎖延長反応による長鎖不飽和脂肪酸の合成
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/32 20060101AFI20221208BHJP
   C07C 69/587 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C07C67/32
C07C69/587
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022171550
(22)【出願日】2022-10-26
(62)【分割の表示】P 2021023471の分割
【原出願日】2016-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2015131053
(32)【優先日】2015-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】391007356
【氏名又は名称】備前化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 直道
(72)【発明者】
【氏名】三澤 嘉久
(72)【発明者】
【氏名】田畑 宏
(72)【発明者】
【氏名】清水 芳雄
(57)【要約】
【課題】不飽和脂肪酸の炭素鎖を化学的に延長する事によって異なる不飽和脂肪酸に変換する方法が報告されている。従来法の反応工程を短くし、より短時間で炭素鎖延長反応を完了することが本発明の課題である。
【解決手段】不飽和脂肪酸から得られる不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体への短経路変換反応と低級脂肪酸溶液中でそのマロン酸エステル誘導体を加熱還流させる4段階の工程を包含する、不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法が提供される。本発明の方法は、より短時間で炭素鎖延長反応を完了することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素鎖延長反応による不飽和脂肪酸の短経路化学合成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドコサペンタエン酸は魚油中に微量含まれるC22:5 n-3の希少不飽和脂肪酸の一つであり、その生理学・医学・栄養学的研究推進のため、高純度ドコサペンタエン酸の大量生産が強く期待されている(非特許文献1)。
【0003】
この点について下記のような事実が報告されている(非特許文献2)。
(1)ドコサペンタエン酸は多くの組織でイコサペンタエン酸から生成されると同時にその逆も起こっている。
(2)ドコサペンタエン酸はトリグリセリド値の低下に有効である。
(3)ドコサペンタエン酸は血小板で代謝され水酸化ドコサペンタエン酸を与える。この事実から、ドコサペンタエン酸が生体内で脂質メデイエーターの一つであるレゾルビンD4に変換され、これが免疫系を活性化し抗炎症作用を示すという事実が次々と明らかになっている。
(4)ドコサペンタエン酸は健康維持促進に有効である。
【0004】
非特許文献3は、以下の報告をしている。
(5)ドコサペンタエン酸のウサギの血小板凝集阻害作用はイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸よりも強く、血栓形成抑制効果が期待できる。
(6)内皮細胞遊走能においてもドコサペンタエン酸はイコサペンタエン酸よりも10倍高い。この事は創傷治癒において重要な効果である。
【0005】
非特許文献4は、以下の報告をしている。
(7)ドコサペンタエン酸の脂肪酸合成酵素とリンゴ酸合成酵素活性を低下させる作用がイコサペンタエン酸より強い。
(8)ドコサペンタエン酸は老化に伴う空間学習と同時刺激により二つの神経細胞間の情報伝達が持続的に向上する現象を調節しているという可能性がある。
【0006】
非特許文献5は、以下の報告をしている。
(9)ドコサペンタエン酸は血管新生抑制効果を示す。
【0007】
以上のようにドコサペンタエン酸は今後、代替医療分野や健康食品分野で重要な役割を果たし、それに伴い需要も高くなることから、本発明による高効率生産方法の開発は緊急課題である。近年、多価不飽和脂肪酸、特に魚油由来のイコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸の生体機能がますます注目されるに至り、医薬としての高純度イコサペンタエン酸を始めとして、それらの需要がさらに高まりつつある。また、脳神経機能改善作用を有するドコサヘキサエン酸など多価不飽和脂肪酸のサプリメントとしての需要も拡大ししつある。一方、多価不飽和脂肪酸資源も地球規模で減少の傾向にあり、その確保は重要な課題として世界的に模索されている。現在はそのほとんどが魚類を中心とする水産資源に依存しているが、藻類や植物によって生産する方法に関する研究が活発に行われる。例えばモンサント社はイコサペンタエン酸の前駆体となるステアリドン酸を遺伝子組み換え大豆によって生産する方法を確立し、すでにFDAから承認されている。
また、多価不飽和脂肪酸の化学的延長反応や微生物生産不飽和化酵素を用いる方法も報告されている。ただ、一般に多価不飽和脂肪酸に対して炭素鎖延長反応を大スケールで同時に行う事は困難であり、実験室レベルを超えて実用的生産レベルで実施可能な段階ではない。酵素を用いない化学的炭素鎖延長反応による多価不飽和脂肪酸の合成法が報告されている。例えば非特許文献6はパラトルエンスルホニルメチルイソシアネート分子中の一個のメチレンプロトンを塩基で引き抜き、生成したカルボアニオンを飽和脂肪酸メチルエステル臭化物と反応させて炭素長鎖を有するイソシアネートを合成し、ナトリウムヒドリドのような強い塩基を用いてメチレン鎖のもう一つのプロトンも同様に不飽和鎖で置き換えている。最後にリチウム/アンモニア/エタノールおよびメタノール/塩酸を作用させる
事によって脱トルエンスルホニル反応と脱イソニトリル反応を行って目的とする多価不飽和脂肪酸メチルエステルを合成している。しかしながら、これらの方法の欠点は総収率が低く、また、高価な試薬や激しい反応性を有し取扱いにくい試薬を用いなければならない点である。
【0008】
他方、馬場らはドコサヘキサエン酸エチルエステルを出発原料として、リチウムアルミニウムヒドリド還元によってアルコールとし、これをパラトルエンスルホン酸エステルに変換した後、置換反応によってヨウ素化物に変換し、さらにこのものに塩基存在下、ジエチルマロン酸を作用させてマロネートエステルとし、エステルのアルカリ加水分解、脱炭酸とメチルエステル化を経てドコサヘキサエン酸メチルエステルより2炭素原子分多いテトラコサヘキサエン酸メチルエステルの合成に成功している(非特許文献7および非特許文献8)。
【0009】
この反応過程はリノール酸やアラキドン酸の炭素鎖延長反応にも応用された。しかし、多段階の反応ステップを含み必ずしも大規模生産に向けた実用的な方法とは言えない。
【0010】
2011年に伊藤等が発表した方法は、ドコサペンタエン酸エチルエステルから4段階で炭素数の2個多いテトラコサヘキサエン酸を合成している(非特許文献9)。しかし、この方法はダイバール-Hという空気に対して非常に不安定な爆発性試薬を用いていて、-78℃という低温で反応が行われるため、合成工程のスケールアップが難しい事が予想される。
【0011】
1970年代の文献(非特許文献10及び11)によると、脂肪アルコールをメタンスルホン酸エステルに変換し、これにマロン酸ジエチルを導入する方法が報告されている。この方法を採用することによって、ヨウ化物を中間体として合成する必要が無く、全工程から一つのステップを省略する事ができる。ただ、この1970年代の文献で実施されている反応例ではキシレンやブタノール等の高沸点溶媒を用いて圧力がかかる閉鎖系で加熱反応を行っている。このような反応条件は熱に不安定なEPA、DPAやDHAの炭素鎖延長には適してい
ない。本特許ではキシレンやブタノールの代わりに炭素アニオンを活性化する極性非プロトン性溶媒であるジメルチルホルムアミドまたはジメチルスルオキシドを用いる事により、より効率的に反応性の高いマロン酸アニオンを合成する事ができ、これを用いる事によって、EPA、DPAやDHAから得られるアルコールのメタンスルホン酸エステルからでも容易
にマロン酸エステル誘導体を合成する事ができる。このステップを採用する事により、より短縮された4工程でEPA EEからDPA EEを合成する事が可能になる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】P.D.Nichols,J.Petrie,and S.Singh,Long-chain omega-3 oils-An update on sustainable sources.Nutrients,2010,2,572-585.
【非特許文献2】W.W.Christie,“Resolvins and protections”-Chemistry and Biology,AOCS Lipid Libray,Feb.27th,2013.
【非特許文献3】T.Kanayasu-Toyoda,I.Morita,and S.Murota,Docosapentaenoic acid(22:5,n-3),an elongation metabolite of eicosapentaenoic acid(20:5,n-3),is a potent stimulator of endothelial cell migration on pretreatment in vitro.Prostaglandins,Leucotrienes&EFA’s,1996,54,319-325.
【非特許文献4】G.Kaur,D.Cameron-Smith,M.Garg,A.J.Sinclair,Docosapentaenoic acid(22:5n-3):A review of its biological effects.Progress in Lipid Research,2011,50,28-34.
【非特許文献5】森田(東京医科歯科大学)ら、日本新脈管作動物質学会誌「血管」2002,25,5.
【非特許文献6】D.W.Johnson,A synthesis of unsaturated very long chain fatty acids.Chem.Phys.Lipids,1990,56,65-71
【非特許文献7】N.Baba,Md.K.Alam,Y.Mori,S.S.Haider,M.Tanaka,S.Nakajima and N.Baba,A first synthesis of a phosphatidylcholine bearing docosahexaenoic and tetracosahexaenoic acids.J.Chem.Soc.Perkin Trans.1,2001,221-223
【非特許文献8】S.S.Haider,M.Tanaka,Md K.Alam,S.Nakajima,N.Baba,and S.Shimizu,Synthesis of phosphatidylcholine having a very long chain polyunsaturated fatty acid.Chem. Lett.,1998,17,5-176
【非特許文献9】T.Itoh,A.Tomiyasu,and K.Yamamoto,Efficient synthesis of the very-long-chain n-3 fatty acids, tetracosahexaenoic acid(C24:6n-3)and tricosahexaenoic acid(C23:6n-3).Lipids,2011,46,45-46
【非特許文献10】Howard Sprecher,The synthesis of 1-14C-arachidonate and 3-14C-docosa-7,10,13,16-tetraenoate,Lipids,889-894,Vol.6.1970
【非特許文献11】F.Spener and H.K.Mangold,Reactions of aliphatic methanesulfonates VII. Chain elongation by two methylene groups,Chem.Phys.Lipids,Vol.11,215-218,1973
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
不飽和脂肪酸の炭素鎖を化学的に延長する事によって異なる不飽和脂肪酸に変換する方法が報告されている。その一つはマロン酸エステル合成法を用いる工程である。マロン酸エステル誘導体を中間体とする従来法の反応工程を少なくし、より短時間で炭素鎖延長反応を完了する事が本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は従来の炭素鎖延長に必要な反応の種類を少なくし、反応工程全体を格段に短くしたものである。本発明者は従来の工程においてマロン酸エステル誘導体から一段階で目的とする2炭素延長不飽和脂肪酸エステルを合成する新規方法を完成した(PCT/JP2015/000130)。この方法では、パラトルエンスルホン酸エステル誘導体とヨウ化物誘導体を中間体として経る事により、不飽和アルコールからのマロン酸エステル誘導体の合成が行われている。これに対して本発明では、ヨウ化物誘導体を経ず、また、パラトルエンスルホン酸エステルの代替として、より合成し易く安定なメタンスルホン酸エステルを中間体とし、マロン酸エステル誘導体の短経路合成を行う事によって、不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素2個分延長した不飽和脂肪酸エステルが得られる事を見出し、本発明を完成させた。
【0015】
本発明の一つの局面では、不飽和脂肪酸エチルエステルを還元して一級不飽和アルコールに変換する工程、このアルコールをメタンスルホン酸エステルに変換する工程、このメタンスルホン酸エステルをマロン酸エステル誘導体に変換する工程およびこのマロン酸エステル誘導体を炭素鎖が延長された目的とする不飽和脂肪酸エステルに変換する工程を包含する方法によって、不飽和脂肪酸の炭素鎖延長反応を行う。
【0016】
本発明の一つの局面では、不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体と、低級脂肪酸とを反応させる工程を用いることによって、不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法が提供される。
【0017】
本発明に従い、不飽和脂肪酸またはそのエステルから炭素数2個分多い別の不飽和脂肪酸を合成する。本発明の方法によりイコサペンタエン酸エチルエステル(n-3)よりドコサペンタエン酸エチルエステル(n-3)を化学合成することができた。本発明の方法により、リノール酸(C18:2 n-6)よりイコサジエン酸(C20:2 n-6)、α-リノレン酸(C18:3 n-3)よりイコサトリエン酸(C20:3 n-3)、γ-リノレン酸(C18:3 n-6)よりジホモ-γ-リノレン酸(C20:3 n-6)、イコサトリエン酸(C20:3 n-3)よりドコサトリエン酸(C22:3 n-3)、ジホモ-γ-リノレン酸(C20:3 n-6)よりドコサトリエン酸(C22:3 n-6)、ステアリドン酸(C18:4 n-3)よりイコサテトラエン酸(C20:4 n-3)、アラキドン酸(C20:4 n-6)よりドコサテトラエン酸(C22:4 n-6)、イコサペンタエン酸(C20:5 n-3)よりドコサペンタエン酸(C22:5 n-3)、ドコサヘキサエン酸(C22:6 n-3)よりテトラコサヘキサエン酸(C24:6 n-3)をそれぞれ得る事ができた。
【0018】
本発明は例えば、以下を提供する:
(項目1)
不飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸エステルの還元によって生成された不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体と、低級脂肪酸とを反応させる工程を包含する、該不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法。
(項目2)
前記不飽和脂肪酸が、炭素数が16~24の不飽和脂肪酸である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記不飽和脂肪酸が、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、ドコサペンタエン酸、および、ドコサヘキサエン酸からなる群から選択される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記マロン酸エステル誘導体が、マロン酸ジエチル誘導体、マロン酸ジメチル誘導体、マロン酸ジイソプロピル誘導体、および、マロン酸ジブチル誘導体からなる群から選択される誘導体である、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体が、前記不飽和脂肪酸またはそのエステルの還元による不飽和アルコールの生成反応、および、該不飽和アルコールとスルホン酸誘導体との反応による不飽和アルコールのスルホン酸エステル誘導体の生成反応、および、該不飽和アルコールのスルホン酸エステル誘導体とマロン酸エステル類との反応による該不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体の生成反応によって生成される、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記スルホン酸誘導体が、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンあるいは炭素数がそれ以上のアルキル鎖あるいはアルキル鎖に不飽和結合を含むものにスルホン酸基が結合した酸のエステル、ならびに、ベンゼンおよびトルエンからなる群から選択される芳香環にスルホン酸基が結合した酸のエステルから選択される誘導体である、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記スルホン酸誘導体が、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、および、ベンゼンスルホン酸からなる群から選択される、項目5に記載の方法。
(項目8)
前記マロン酸エステル類が、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジイソプロピル、および、マロン酸ジブチルからなる群から選択される、項目5に記載の方法。
(項目9)
前記低級脂肪酸が、炭素数が2~7の脂肪酸である、項目1に記載の方法。
(項目10)
前記低級脂肪酸が、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸からなる群から選択される酸である、項目1に記載の方法。
(項目11)
項目1に記載の方法であって、窒素雰囲気下で加熱還流することによって行われる、方法。
(項目12)
前記不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体が、不飽和脂肪酸または不飽和脂肪酸エステルを還元して得られる不飽和アルコールのスルホン酸エステル誘導体を経由して生成される、項目1に記載の方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、魚油などに含まれる微量成分である希少不飽和脂肪酸を大量合成し、それらの未知の生物機能を調べる事ができる。さらに将来、魚油資源の枯渇が起こった場合に豊富に存在する植物油から有用不飽和脂肪酸を合成する方法として、その可能性が期待できる。本発明者らにより、イコサペンタエン酸からドコサペンタエン酸を効率よく合成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の炭素鎖延長反応過程の一般図を示す。
図2】本発明の代表的な炭素鎖延長反応過程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。また、本明細書において「wt%」は、「質量パーセント濃度」と互換可能に使用される。
【0022】
(用語の定義)
以下に本明細書において特に使用される用語の定義を列挙する。
【0023】
本明細書において使用される用語「不飽和脂肪酸」とは、1つ以上の不飽和の炭素結合を持つ脂肪酸をいう。不飽和炭素結合とは炭素分子鎖における炭素同士の不飽和結合、すなわち炭素二重結合または三重結合のことである。天然に見られる不飽和脂肪酸は1つ以上の二重結合を有しており、脂肪中の飽和脂肪酸と置き換わることで、融点や流動性など脂肪の特性に変化を与えている。
【0024】
本発明において、不飽和脂肪酸は、好ましくは、多価不飽和脂肪酸である。本発明において使用する多価不飽和脂肪酸の炭素数は、好ましくは16~24、より好ましくは17~23、最も好ましくは18~22であるが、これらに限定されない。本発明において使用する多価不飽和脂肪酸は、好ましくは1個~7個、より好ましくは2個~6個の二重結合を含む。多価不飽和脂肪酸としては、例えば、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ステアリドン酸、イコサテトラエン酸、イコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸が挙げられるがこれらに限定されない。
【0025】
不飽和脂肪酸またはそのエステルを還元し、不飽和アルコールが生成される。この不飽和アルコールはスルホン酸誘導体と反応して、不飽和アルコールとスルホン酸誘導体とのエステル(スルホン酸エステル誘導体)のような不飽和アルコールの誘導体が生成される。
【0026】
さらに本発明において、不飽和アルコールの誘導体(例えば、不飽和アルコールのスルホン酸エステル誘導体)とマロン酸エステル類との反応から不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体が得られる。このようにして得られた不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体類と低級脂肪酸とを反応させて、マロン酸エステル誘導体類における不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法が提供される。この反応時には、抗酸化剤を使用しても、使用しなくてもよい。この反応は、好ましくは、窒素雰囲気下で行われる。
【0027】
上記の不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法において利用可能なマロン酸エステル類は、マロン酸のエステル誘導体であって分子中のアルコール部分に解離性の水素が無い物質をいい、例えば、マロン酸ジエチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジブチル等が挙げられるがこれらに限定されない。本明細書において使用される用語「不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル誘導体」は、代表的には、本発明の不飽和アルコールのスルホン酸エステル誘導体とマロン酸エステル類との反応によって得られる。
【0028】
本発明の不飽和アルコールのスルホン酸エステル誘導体は、例えば、不飽和アルコールとスルホン酸誘導体との反応によって生成される。本明細書において使用される用語「スルホン酸誘導体」としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンあるいは炭素数がそれ以上のアルキル鎖あるいはアルキル鎖に不飽和結合を含むものにスルホン酸基が結合した酸のエステル、ならびに、ベンゼンおよびトルエンからなる群から選択される芳香環にスルホン酸基が結合した酸のエステルが挙げられるがこれらに限定されない。スルホン酸誘導体としては、例えば、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、および、ベンゼンスルホン酸が挙げられるがこれらに限定されない。
【0029】
本発明の炭素鎖延長反応において使用する低級脂肪酸の炭素数は、好ましくは2~7、より好ましくは2~6、最も好ましくは2~5であるが、これらに限定されない。本発明において使用する低級脂肪酸としては、例えば、プロピオン酸、酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、および、イソ吉草酸が挙げられるがこれらに限定されない。
【0030】
本発明の不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル類誘導体類において不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法に使用するマロン酸エステル類誘導体類は、任意の周知の方法によって製造することができる。
【0031】
例えば、本発明においては、
(a)不飽和脂肪酸またはそのエステルを還元し、不飽和アルコールを生成する工程;
(b)該不飽和アルコールをスルホン酸誘導体(例えば、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、または、ベンゼンスルホン酸など)と反応させてスルホン酸誘導体とのエステル(例えば、メタンスルホン酸エステル、パラトルエンスルホン酸エステル、または、ベンゼンスルホン酸エステルなど)に変換する工程;
(c)該スルホン酸誘導体とのエステルをマロン酸エステル誘導体類に変換する工程;
を包含する方法によって、不飽和脂肪鎖のマロン酸エステル類誘導体を生成することができる。
【0032】
例えば、上記工程に続いて、さらに、本願発明に従って
(d)該マロン酸エステル誘導体と低級脂肪酸とを反応させる工程
を行い、不飽和脂肪酸の炭素鎖を炭素数2個分延長する方法が提供される。
【0033】
上記工程(a)は、例えば、乾燥テトラヒドロフラン溶媒中、多価不飽和脂肪酸またはそのエステルをリチウムアルミニウムヒドリドで還元し、不飽和アルコールとすることによって行われる。なお、この反応において使用する溶媒としては、テトラヒドロフランの他、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテルを用いてもよい。また、この反応において使用するリチウムアルミニウムヒドリドに替えて、(2-メトキシエトキシ)アルミニウムヒドリドナトリウム[sodium bis(2-methoxyethoxy)alminium hydride]、リチウムホウ素ヒドリド[lithium borohydride]、ジイソブチルアルミニウムヒドリド[diisobutylalminum hydride,DIBAL]、アルミニウムヒドリド[aluminum hydride]、ナトリウムホウ素ヒドリド+塩化アルミニウム[sodium borohydride+aluminum chloride]、リチウムトリエチルホウ素ヒドリド[lithium triethylborohydride]、グリニャール試薬類[Grignardreagents]、ボラン[borane]、リチウムヒドロトリエチルボーレイト[lithium hydrotriethylborate]、トリアセトキシホウ素ヒドリド[sodium triacetoxyborohydride]、ナトリウムホウ素ヒドリド+エタンジチオール、ナトリウムトリメトキシヒドリド[sodium trimethoxyborohydride]、リチウムアミドトリヒドロボーレート[lithium amidotrihydroborate]が利用可能であるがこれらに限定されない。エステルからアルコールへの還元反応を行える限り、任意の溶媒を使用することができる。
【0034】
上記工程(b)では、不飽和アルコールをスルホン酸誘導体(例えば、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、または、ベンゼンスルホン酸など)と反応させてスルホン酸誘導体とのエステル(例えば、メタンスルホン酸エステル、パラトルエンスルホン酸エステル、または、ベンゼンスルホン酸エステル)に変換する。スルホン酸誘導体としては、上記のメタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、および、ベンゼンスルホン酸に加えて、エタン、プロパン、ブタン、ペンタンあるいは炭素数がそれ以上の脂肪鎖あるいはそれらの脂肪鎖に不飽和結合を含むものにスルホン酸基が結合した酸、あるいはベンゼンやトルエンのような芳香環にスルホン酸基が結合した酸が利用可能である。これら酸を用いることによって、これら酸のエステルという構造的特徴を持つ化合物が生成される。
【0035】
上記工程(c)は、例えば、マロン酸ジエチルに塩基を作用させてカルバニオンとしこれを前記不飽和アルコールのスルホン酸誘導体に作用させ、不飽和脂肪鎖を結合するマロン酸誘導体類(例えば、マロン酸ジエステル)に変換することによって、行われる。なお、マロン酸ジエチルの代わりにマロン酸ジメチル、マロン酸ジイソプロピル、マロン酸ジブチル、マロン酸ジイソブチル、マロン酸ジsec-ブチル等を用いることもできる。
【0036】
また、塩基としてはナトリウムヒドリド、リチウムヒドリド、カリウムヒドリド、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムアミド、リチウムアミド、カリウムアミドが挙げられるがこれらに限定されない。
【0037】
上記工程(d)では、例えば、マロン酸エステル誘導体をプロピオン酸などの低級脂肪酸の溶液とし、窒素雰囲気下、1~50時間加熱還流することによって目的とする炭素数が2個延長された脂肪酸エステルを得ることができる。なお、プロピオン酸の代わりに酢酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、ピバル酸、ヒドロアンゲリカ酸、イソ吉草酸を用いる事もできる。
【0038】
本発明はマロン酸エステル合成を基本とする炭素鎖延長反応を行い、その合成経路における各反応をより効率的な反応に置き換え、更に新たな反応を組み込むことによって、従来の反応を改善し、これまでに無い新たな炭素鎖延長反応経路を構築し、ドコサペンタエン酸またはそのエチルエステルを含む希少脂質を効率的に合成するものである。例えば、イコサペンタエン酸またはそのエステルを含む多価不飽和脂肪酸エチルエステルをリチウムアルムニウムヒドリドで還元して多価不飽和アルコールとし、これを、悪臭を有し取扱いにくいピリジンを用いない方法でメタンスルホン酸エステルあるいはパラトルエンスルホン酸エステル(もしくは、アルキルまたは不飽和結合を一つまたはそれ以上含むアルケニルあるいはベンゼンやトルエンのような芳香環にスルホン酸基が結合した酸のエステル)に変換した後、マロン酸ジエチルを作用させてマロン酸誘導体を合成し、この誘導体のプロピオン酸溶液を加熱する事によって目的とするドコサペンタエン酸またはそのエステルを含む希少脂質を製造する方法である(参考文献:R.T.Brown and M. F. Jones, Dealoxycarbonylation of representative β-keto-esters and β-diesters in alkanoic acids.J.Chem.Res.(S). 1984, 332-333、図1参照)。
【0039】
上記における最後のステップに対応する従来法は、マロン酸誘導体の加水分解によるジカルボン酸の合成、酸性条件における脱炭酸によるモノカルボン酸の合成およびそのカルボン酸のエチルエステル化という3段階を含み、その途中で不飽和部分の酸化分解が非常に起こりやすく、工程が煩雑であって全収率も低いという問題があった。本発明は、従来法の欠点を改善するものである。
【0040】
以下、例示のために本発明を詳細に説明する。なお、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって示されるのであり、以下の記載によって限定されることはない。
【0041】
本発明における合成過程で中心反応となるマロン酸エステル合成は、有機化合物を2炭素原子分増加したカルボン酸に変換したり、脂肪鎖の場合には2炭素原子分延長したカルボン酸またはそのエステルの合成に広く用いられる反応である。本発明はこの反応を含む一連の化学反応に改善を加えて実現したものである。
【0042】
本発明の合成反応をスキーム1(図1)に示す。各工程は、以下のとおりである:
(1)乾燥テトラヒドロフラン溶媒中、多価不飽和脂肪酸またはそのエステルをリチウムアルミニウムヒドリドで還元し、不飽和アルコールとする;
(2)このアルコールをマロン酸エステル誘導体類に変換するために、スルホン酸誘導体(例えば、メタンスルホン酸)との反応によりエステルに変換する;
(3)マロン酸誘導体(例えば、マロン酸ジエチル)に塩基を作用させてカルバニオンとしこれを(2)のスルホン酸誘導体のエステルに作用させて不飽和脂肪鎖を結合するマロン酸エステル誘導体類(例えば、マロン酸ジエステル)に変換する;そして、
(4)最後のステップとして、このジエステルをプロピオン酸などの低級脂肪酸の溶液とし、窒素雰囲気下、1~50時間加熱還流することによって目的とする炭素数が2個延長された不飽和脂肪酸エステルを得る。この最後のステップは、抗酸化剤を使用しても、使用しなくてもよい。
【0043】
本発明において原料となる多価不飽和脂肪酸またはそのアルコールエステル類は魚類・海藻類・微生物類・植物あるいは化学合成によって得られるものを尿素処理・硝酸銀処理・真空蒸留・SMBを含むカラムクロマトグラフィー、またはそれらの組み合わせによって得られるものである。合成の出発原料となる多価不飽和脂肪酸またはそのアルコールエステル類は純度の高いものが好ましいが、低くても合成の各段階で精製を行うので、特に問題はない。
【0044】
最初のステップは、例えば、リチウムアルミニウムヒドリドという還元試薬によるエステルから一級アルコールへの変換反応である。種々の還元試薬の中でエステルをアルコールに変換する試薬としてリチウムアルミニウムヒドリドが圧倒的に高い頻度で使われる。それは本試薬が高い反応性を有し、しかも炭素-炭素不飽和結合にほとんど影響を与えないことによる。このような性質からイコサペンタエン酸やドコサヘキサエン酸およびそれらのエステル類の一級アルコールへの化学的変換に問題なく使用できる。また、反応溶媒としてはジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等の解離基を持たないエーテル類であれば使用できる。反応終了後は、過剰の酢酸エチルを加えて未反応で残るリチウムアルミニウムヒドリドを完全に消費し、副生成物として生じるアルコキシドを、苛性ソーダ水溶液を加えて分解し、分離してくる水酸化物をろ過し、ろ液を濃縮するのみで容易に目的とする一級アルコールが得られる。また、必要に応じてカラムクロマトグラフィーで精製する事により、容易に高純度の目的物を得ることができ、このものは次の反応にそのまま使用する事ができる。
【0045】
本発明の目的を達成するためには形式的には不飽和アルコールの水酸基をエトキシカルボニルメチル基であるCHCOOEtに置き換えればよい事になるが、実際には以下に述べるステップが必要である。水酸基が結合する炭素原子に別の炭素を結合させるためには水酸基を脱離しなければならない。水酸基を脱離しやすくするためには、一般に水酸基をエステル(例えば、メタンスルホン酸エステル)に変換し、更にエステル部分にマロニル基を導入する。
【0046】
不飽和脂肪酸エステルから得られた一級アルコールにメタンスルホン酸塩化物を作用させてメタンスルホン酸エステルに変換する。
【0047】
マロン酸エステル誘導体にはマロン酸から由来するCOOEt基が存在するので、2炭素延長不飽和脂肪酸に誘導するには、これを除去しなければならない。
【0048】
その一般的除去法は、まずマロン酸ジエステル誘導体にアルカリを作用させて加水分解を行い、生成したジカルボン酸を酢酸中、加熱して脱炭酸を行う。得られたモノカルボン酸をエチルエステルに変換して最終目的物を得るという過程を経る。しかし、本発明では、このような煩雑性を避けるため、BrownとJonesが1884年に発表した方法を適用する事により長鎖脂質のマロン酸エステル誘導体から一気に目的とする2炭素延長不飽和脂肪酸エステルが得られる事を見出した。この方法により、長鎖脂質のマロン酸エステル誘導体のプロピオン酸溶液を加熱還流し、溶媒除去、カラム精製のみで目的物質を得る。なお、プロピオン酸はマロン酸エステル誘導体と反応しケテン中間体を経由する事によって脱アルコキシカルボニル基が促進される。
【0049】
以下に実施例等により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0050】
(実施例1)
2リットル容の反応フラスコに120mlの乾燥テトラヒドロフランを入れ、これに25.8g(0.68mol)のリチウムアルミニウムヒドリドを注意深く加えた。マグネティックスターラーで5分間攪拌した後、攪拌しながら、この懸濁液に300g(0.908mol)のイコサペンタエン酸エチルエステル(98.5%純度)の乾燥テトラヒドロフラン溶液(1000ml)を反応が激しくなり過ぎないようにゆっくりと滴下した。必要に応じて氷水で冷却した。室温で一夜攪拌後、更に4時間加熱還流を行った。反応フラスコを外側から氷水で0~5℃に冷却し、酢酸エチルを激しい反応が終わるまでゆっくり滴下して残存する未反応のリチウムアルミニウムヒドリドを消費した。続いて反応複合体を分解するために、2N水酸化ナトリウム水溶液を攪拌しながら滴下し、灰色の不溶物が反応液から分離してきたら滴下を中止した。この溶液をろ紙でろ過して不溶物を除き、ろ液を2N塩酸水溶液で2回(70ml × 2)洗浄した。続いて飽和重曹水で2回、飽和食塩水で2回洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過で硫酸マグネシウムを分離し、減圧下、ろ液を濃縮し、ヘキサン/酢酸エチル(98:2)混合溶媒を溶離液として、約800mlのシリカゲル(フジシリカゲルB40F)を用いてカラム精製を行った。収量は、138.2g(収率52.8%)であった。
【0051】
上記アルコール(19.0g,0.066mol)とトリエチルアミン(14.4g,0.141mol)をジクロロメタン(150ml)に溶解し、温度計と窒素ガス導入管を付した1リットル容の反応フラスコに入れ、窒素雰囲気下、1~5℃でマグネティックスターラーで攪拌しながらメタンスルホン酸塩化物(8.5g,0.0742mol)のジクロロメタン(83ml)溶液を徐々に添加した。なお、トリエチルアミンに代えて、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、ピリジン、トルイジン、N,N-ジメチルアミノピリジン等多くのアミンが使用可能である。また、ジクロロメタンに代えて、ジクロロエタン、クロロホルムなどの有機塩素化合物が使用可能である。添加し終われば、1℃前後で1時間攪拌した。反応終了後、1規定塩酸水溶液で酸性にし、分液ロートに移した。ジクロロメタン層を分離し無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧除去した残渣をそのまま次の反応に使用した。
【0052】
ナトリウムヒドリド(2.34g)を反応フラスコに入れ、ヘキサンで3回洗浄する事によりナトリウムヒドリドを保護している油を除去した。これに乾燥ジメチルホルムアミド(47ml)を加えた後、マロン酸ジエチル(7.39g、0.046mol)を滴下した。なお、ジメチルホルムアミドに代えて、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、やヘキサメチルリン酸トリアミドが使用可能である。この溶液を窒素雰囲気下110℃で4時間加熱攪拌した。冷却後、1規定塩酸水溶液で酸性にし、水(400ml)を使って分液ロートに移した。生成物であるマロン酸エステル誘導体をヘキサンで4回抽出し、このヘキサン溶液を2回水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。溶媒除去後、残渣を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。収量は9.32g(収率42.4%)であった。
【0053】
上記マロン酸エステル誘導体(21.1g、0.0490mol)のプロピオン酸(230ml)溶液を窒素雰囲気下、攪拌しながら48時間加熱還流した。反応混合物をヘキサン(200ml)で共洗いしながら分析ロートに移した。これに水(500ml)を加えて振盪し、分離した水層をヘキサン(150ml)で再度抽出した。全ヘキサン層を水で4回、飽和重曹水で一回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。ろ過濃縮後、残渣を中圧シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。収量は9.79g(収率 55.8%)であった。
【0054】
本発明によれば魚油等に含まれる非常に含有量の低い希少多価不飽和脂肪酸を炭素鎖延長反応によって生物や酵素に頼る事なく化学的に合成する事ができる。こうして希少多価不飽和脂肪酸を十分得る事ができれば、それらの物理化学的性質・生物化学的性質や生体機能を研究する貴重な材料となるばかりでなく、医薬としての開発にも功を奏すると期待される。
【0055】
特に好ましい実施形態および実施例に言及して本発明を記載しているが、本発明の主旨および範囲から逸脱することなく、本発明に種々の改変を行うことができることが当業者には認識される。
図1
図2