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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022186992
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】細胞拡大培養方法及び治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20221208BHJP
   A61K 35/19 20150101ALI20221208BHJP
   A61K 35/44 20150101ALI20221208BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 31/737 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 38/39 20060101ALI20221208BHJP
   A61K 31/727 20060101ALI20221208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/19 Z
A61K35/44
A61P29/00
A61P25/02 101
A61P25/04
A61K31/737
A61K38/18
A61K38/19
A61K38/39
A61K31/727
A61P43/00 105
A61P43/00 111
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022172508
(22)【出願日】2022-10-27
(62)【分割の表示】P 2021203331の分割
【原出願日】2016-09-08
(31)【優先権主張番号】2015903658
(32)【優先日】2015-09-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(71)【出願人】
【識別番号】518197432
【氏名又は名称】レジニアス リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】バラルカ・バネルジー
(72)【発明者】
【氏名】シャーロット・モーガン
(72)【発明者】
【氏名】グラハム・ヴィージー
(72)【発明者】
【氏名】ニコール・ハナー・パッカー
(57)【要約】
【課題】本発明は、MSC、及びMSCに基づく生成物を生成する改良された方法、特に、MSCの大規模生成に適用する場合の公知の方法の制限のうちの1つ又は複数を軽減する方法、例えば、多数回用量の同種細胞の生成に対する必要性に対処する。本発明は、MSCが分泌したサイトカインと成長因子とを含む組成物を生成する改良された方法、及びそのような組成物に対する必要性に対処し、この改良された方法又は組成物は、使用性、保存時の組成物の安定性、又は治療能などの公知の方法及び組成物のうちの1つ又は複数の制限を軽減することができる。本発明は、炎症状態を処置するための(その疼痛を軽減することを含む)改良された又は代替の方法及び薬剤に対する必要性に対処する。
【解決手段】本発明は、間葉系幹細胞(MSC)の生成のための方法、特に、ヒト及び他の動物における様々な疾患を処置する際の使用のための、同種MSCなどのMSCの大規模生成のための方法に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞と、
前記間葉系幹細胞の培養培地と、の混合物であって、
前記培養培地は、
コンドロイチン硫酸を構成成分とするプロテオグリカン及びコンドロイチン硫酸の少なくとも一方と、
血小板溶解物を含む培養培地中での培養物である間葉系幹細胞が分泌した成長因子及びサイトカインと、
を含む、炎症、及び/又は、疼痛の低減のための医薬組成物。
【請求項2】
間葉系幹細胞から培養培地に分泌された構成成分からなるセクレトームを含み、
コンドロイチン硫酸を構成成分とするプロテオグリカン及びコンドロイチン硫酸の少なくとも一方と、
前記成長因子及びサイトカインと、
は、前記セクレトームに含まれる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記培養培地は、前記血小板溶解物を含む培養培地中での間葉系幹細胞の培養から由来する高分子量複合糖質富化馴化培地である、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記高分子量複合糖質富化馴化培地は1.5cSt以上の粘度を有する、請求項3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記間葉系幹細胞は、脂肪由来の間葉系幹細胞である、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記間葉系幹細胞は、哺乳動物由来の間葉系幹細胞である、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記培養培地は、alphaMEM、又は、DMEMを含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記培養培地は、ヘパリンを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記間葉系幹細胞は、間質血管細胞群を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記血小板溶解物は、ヒト血小板溶解物である、請求項1から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞(MSC)の生成のための方法、特に、ヒト及び他の動物における様々な疾患を処置する際の使用のためのMSCの大規模生成のための方法に関する。特定の実施形態では、方法は、治療における使用のための同種MSCの効率的な大規模生成を可能とする。本発明は、MSCの大規模生成に適する好ましいドナー細胞の選択を可能とする方法にも関する。本発明は、本発明の方法によって調製される精製MSCにも関する。本発明は、MSCの培養物を調製するための方法における血小板溶解物の使用、及び細胞外マトリックス富化分泌物の調製にも関する。本発明は、安定性特性が改善された、培養されたMSCから分泌される1種又は複数の構成成分、例えば血管内皮細胞成長因子(VEGF)を含む組成物の調製のための方法にも関する。本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地を投与することによって、炎症状態を処置する(その疼痛を緩和することを含む)ための方法にも関する。本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地を投与することによって、神経障害性疼痛を処置するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト及び動物における様々な疾患を処置するために同種間葉系幹細胞(MSC)を使用することは、多くのグループにとって関心の対象である急速に拡大している領域である。現在、骨関節炎、心筋梗塞、脳卒中、並びに移植片対宿主病、クローン病、関節リウマチ及び糖尿病などの免疫系に明確に関与する他の疾患を含む様々な疾患の処置に対するMSCの使用を調査している、非常に多くの臨床治験が存在する。MSCは、組織工学の発展において、骨及び軟骨における欠損を処置するための並びに創傷治癒に役立つ細胞療法として、又は生体材料と組み合わせて使用されている。
【0003】
同種間葉系幹細胞の商業規模での生成のために、単一のドナーからの細胞が十分に拡大培養され、多数回用量を生成することができることが重要である。治療において使用するのに適するMSCの生成について公知の方法が存在するが、そのような方法のMSCの大規模生成への適用には制限がある。例えば、制限は、培養物を確立するために使用される異なる組織試料又は細胞試料間に増殖能の不一致があり、その結果、1つのドナー試料はより多くの細胞倍加能を有し、それによって、細胞のより大きな規模の調製に適するのに対し、別のドナー試料は能力が制限されており、不適である場合がある。現在、使用者が、初期段階でそのような試料間で区別することができる確実な手段は存在せず、許容される用量数が達成される前に、1つの試料から生じる細胞が老化し、徒労と資源の浪費を導く結果となる。
【0004】
ヒト及び動物における様々な疾患を処置するための同種間葉系幹細胞(MSC)の使用に加えて、様々な疾患を処置するためのMSC由来の分泌物の使用にも興味が拡大している。その内容が参照により本明細書に組み込まれる、「治療方法及び組成物(Therapeutic methods and compositions)」と題する本出願人の同時係属出願PCT国際公開第WO2013/040649号に記載されているように、分泌物は様々な形態をとってよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】PCT国際公開第WO2013/040649号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書に記載されている実施形態では、本発明は、MSC、及びMSCに基づく生成物を生成する改良された方法、特に、MSCの大規模生成に適用する場合の公知の方法の制限のうちの1つ又は複数を軽減する方法、例えば、多数回用量の同種細胞の生成に対する必要性に対処する。実施形態では、本発明は、MSCが分泌したサイトカインと成長因子とを含む組成物を生成する改良された方法、及びそのような組成物に対する必要性に対処し、この改良された方法又は組成物は、使用性、保存時の組成物の安定性、又は治療能などの公知の方法及び組成物のうちの1つ又は複数の制限を軽減することができる。
【0007】
実施形態では、本発明は、炎症状態を処置するための(その疼痛を軽減することを含む)改良された又は代替の方法及び薬剤に対する必要性に対処する。実施形態では、本発明は、神経障害性疼痛を処置するための改良された又は代替の方法及び薬剤に対する必要性に対処する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、単一のドナーから非常に多数回の用量のMSCの生成を可能とする方法を開発した。方法は、はじめに、ドナーから多量の脂肪組織を回収する工程を含む。次いで、吸引脂肪組織を消化させて、間質血管細胞群(SVF)を単離し、次いで、これを組織培養に置き、拡大培養する。
【0009】
本明細書に記載されているように、本発明者らは、血小板溶解物を含む培地中でのMSCの生成のための革新的な方法も開発した。本発明者らは、本明細書に記載されている条件下などで、血小板溶解物を含む培地中でMSCを成長させることは、組織培養培地中で細胞が高レベルの高分子量複合糖質を分泌するという驚くべき利点を有することを特定した。このことは、骨関節炎を含む炎症状態の処置、若しくはその疼痛の緩和、又は神経障害性疼痛の緩和に対する更なる治療的利点をもたらす高分子量複合糖質富化馴化培地の生成を可能とする。そのように作成された馴化培地は、血小板溶解物の非存在下におけるMSCの成長によって作成された馴化培地より高い粘度を有する。それによって、粘度は、培養物から細胞及び又は馴化培地を回収するのに適切な時間の指標としての役割を果たすことができる。本明細書で実証されるように、線維芽細胞成長因子(FGF)及び上皮細胞成長因子(EGF)を含有する培地において培養されたMSCもまた、粘性の馴化培地を生じた。
【0010】
本明細書に記載されているように、本発明者らは、大規模製造に適する細胞を選択するために、異なるドナーからの細胞若しくは組織試料、又は単一のドナーからの細胞若しくは組織試料をスクリーニングするための方法も開発した。
【0011】
本発明の一態様では、対象における炎症状態を処置するための方法であって、前記対象に、治療有効量の高分子量複合糖質富化馴化培地を投与する工程を含む、方法を提供する。
【0012】
一実施形態では、炎症状態は骨関節炎である。一実施形態では、方法は、治療有効量の拡大培養されたMSCを投与する工程を更に含む。一実施形態では、方法は、拡大培養されたMSCと高分子量複合糖質富化馴化培地とを含む組成物を投与する工程を含む。一実施形態では、高分子量複合糖質富化馴化培地は、血小板溶解物を含む培地中でMSCを培養することによって調製される。
【0013】
更なる態様では、本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地の調製のための血小板溶解物の使用を提供する。
【0014】
一実施形態では、血小板溶解物は、ヒト血小板溶解物である。
【0015】
更なる態様では、本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地の調製のための方法であって、血小板溶解物を含む培地中で間葉系幹細胞(MSC)を培養する工程を含む、方法を提供する。更なる態様では、本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地の調製のための方法であって、FGF及び又はEGFを含む培地中で間葉系幹細胞(MSC)を培養する工程を含む、方法を提供する。一実施形態では、細胞は、約80%超コンフルエンスまで培養される。一実施形態では、細胞は、コンフルエンスの1日後から10日後までの間培養される。一実施形態では、細胞は、コンフルエンスの1日後から6日後までの間培養される。一実施形態では、細胞は、コンフルエンスの約1日後まで、又はコンフルエンスの約2日後まで、又はコンフルエンスの約3日後まで、又はコンフルエンスの約4日後まで、又はコンフルエンスの約5日後まで、又はコンフルエンスの約6日後まで、又はコンフルエンスの約7日後まで、又はコンフルエンスの約8日後まで培養される。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約1.5センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約1.6センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約1.7センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約1.8センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約1.9センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約2センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約2.1センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約2.2センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、少なくとも約2.3センチストークの粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、1.5センチストーク超の粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、1.7センチストーク超の粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、2センチストーク超の粘度を有する。一実施形態では、馴化培地は、2.5センチストーク超の粘度を有する。
【0016】
一実施形態では、MSCは、脂肪組織由来MSCである。一実施形態では、血小板溶解物は、ヒト血小板溶解物である。一実施形態では、培地は、約5%から約10%v/vの血小板溶解物を含む。一実施形態では、富化培地は、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン及びムチンのうちの1つ又は複数を含む。一実施形態では、富化培地は、ケラタン硫酸、コンドロイチン硫酸又はアグリカンを含む。一実施形態では、方法は、培地から細胞を除去する工程を更に含む。
【0017】
一実施形態では、培養細胞由来の分泌物を含む馴化培地は、血小板溶解物の非存在下でMSCを培養することによって調製されたMSC分泌成長因子又はサイトカインと比較して、安定性が改善された1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインを含む。一実施形態では、培養細胞由来の分泌物を含む馴化培地は、FGF及びEGFの非存在下でMSCを培養することによって調製されたMSC分泌成長因子又はサイトカインと比較して、安定性が改善された1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインを含む。一実施形態では、1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインは、IFN-γ、IL-8、IL-9、IL-12、IL-15、TNF-α、IL-10、MCP-1、RANTES、GM-CSF、IP-10、PDGF-bb、VEGF、IL-6からなる群から選択される。一実施形態では、1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインはVEGFである。
【0018】
一実施形態では、安定性の改善は、室温で1カ月後に少なくとも60%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で1カ月後に少なくとも70%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で1カ月後に少なくとも80%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で1カ月後に少なくとも90%の活性が保持されることを含む。
【0019】
一実施形態では、安定性の改善は、室温で3カ月後に少なくとも60%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で3カ月後に少なくとも70%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で3カ月後に少なくとも80%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で3カ月後に少なくとも90%の活性が保持されることを含む。
【0020】
一実施形態では、安定性の改善は、室温で6カ月後に少なくとも60%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で6カ月後に少なくとも70%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で6カ月後に少なくとも80%の活性が保持されることを含む。一実施形態では、安定性の改善は、室温で6カ月後に少なくとも90%の活性が保持されることを含む。
【0021】
更なる態様では、本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地を含む組成物を提供する。一実施形態では、高分子量複合糖質富化馴化培地を含む組成物は、血小板溶解物の非存在下で又はFGF及びEGFの非存在下でMSCを培養することによって調製されたMSC分泌成長因子又はサイトカインと比較して、安定性が改善された1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインを含む。一実施形態では、1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインは、IFN-γ、IL-8、IL-9、IL-12、IL-15、TNF-α、IL-10、MCP-1、RANTES、GM-CSF、IP-10、PDGF-bb、VEGF、IL-6からなる群から選択される。一実施形態では、1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインは、VEGFである。一実施形態では、前記組成物中の1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインは、前記高分子量複合糖質富化馴化培地の非存在下で1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインを含む組成物と比較して安定性が改善されている。
【0022】
一実施形態では、組成物は、血小板溶解物を含む培地中でMSCを培養することによって調製される。一実施形態では、組成物は、FGF及び/又はEGFを含む培地中でMSCを培養することによって調製される。
【0023】
更なる態様では、本発明は、安定な1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインを含む組成物を調製するための方法であって、前記安定性が、室温で1カ月後に少なくとも60%の活性を保持することを含み、方法が、1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインを培養培地に分泌させるために十分な時間、血小板溶解物を含む前記培養培地中で間葉系幹細胞(MSC)を培養する工程を含む、方法を提供する。一実施形態では、血小板溶解物は、5%v/vから10%v/vの濃度である。一実施形態では、血小板溶解物は、10%v/vの濃度である。更なる態様では、本発明は、1種又は複数の安定なMSC分泌成長因子又はサイトカインを含む組成物を調製するための方法であって、前記安定性が、室温で1カ月後に少なくとも60%の活性を保持することを含み、方法が、1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインを培養培地に分泌させるために十分な時間、FGF及び/又はEGFを含む前記培養培地中で間葉系幹細胞(MSC)を培養する工程を含む、方法を提供する。一実施形態では、FGF及び/又はEGFは、10ng/mlから30ng/mlの間の濃度である。一実施形態では、FGFは、20ng/mlの濃度である。一実施形態では、EGFは、20ng/mlの濃度である。一実施形態では、1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインは、IFN-γ、IL-8、IL-9、IL-12、IL-15、TNF-α、IL-10、MCP-1、RANTES、GM-CSF、IP-10、PDGF-bb、VEGF、IL-6からなる群から選択される。一実施形態では、1種又は複数のMSC分泌成長因子又はサイトカインは、VEGFである。一実施形態では、MSCは、ヒトの脂肪由来MSCである。
【0024】
一実施形態では、前記方法は、血小板溶解物を含む培地中で、約80%超コンフルエンスの細胞密度まで、MSCを培養する工程を含む。一実施形態では、前記方法は、血小板溶解物を含む培地中で、約85%超コンフルエンスの細胞密度まで、MSCを培養する工程を含む。一実施形態では、前記方法は、血小板溶解物を含む培地中で、約90%超コンフルエンスの細胞密度まで、MSCを培養する工程を含む。一実施形態では、前記方法は、血小板溶解物を含む培地中で、約95%超コンフルエンスの細胞密度まで、MSCを培養する工程を含む。一実施形態では、前記方法は、血小板溶解物を含む培地中で、約100%超コンフルエンスの細胞密度まで、MSCを培養する工程を含む。一実施形態では、前記培養する工程は、少なくとも約1.5センチストーク(cSt)の粘度を有する馴化培地の調製を可能とするのに十分な時間行われる。一実施形態では、前記培養する工程は、少なくとも約1.6センチストークの粘度を有する馴化培地の調製を可能とするのに十分な時間行われる。一実施形態では、前記培養する工程は、少なくとも約1.7センチストークの粘度を有する馴化培地の調製を可能とするのに十分な時間行われる。
【0025】
一実施形態では、方法は、前記培養から馴化培地を採取する工程を更に含む。一実施形態では、方法は、前記培養から馴化培地及び拡大培養されたMSCを採取する工程を更に含む。
【0026】
一実施形態では、前記安定性は、任意選択で、室温で1カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも70%の活性が保持されること、室温で1カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも80%の活性が保持されること、室温で1カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも90%の活性が保持されること、室温で3カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも70%の活性が保持されること、室温で3カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも80%の活性が保持されること、室温で3カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも90%の活性が保持されること、室温で6カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも60%の活性が保持されること、室温で6カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも70%の活性が保持されること、室温で6カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも80%の活性が保持されること、又は室温で6カ月後に前記1種若しくは複数のMSC分泌成長因子若しくはサイトカインの少なくとも90%の活性が保持されることを含む。
【0027】
更なる態様では、本発明は、拡大培養されたMSCと高分子量複合糖質富化馴化培地とを含む組成物を提供する。
【0028】
一実施形態では、本発明による組成物は、医薬組成物である。一実施形態では、医薬組成物は、注射可能な組成物である。一実施形態では、医薬組成物は、対象の皮膚、歯肉、又は粘膜などの局所適用用組成物である。一実施形態では、医薬組成物は、クリーム、ゲル、液体又はローションである。一実施形態では、医薬組成物は、局所適用用ゲル又はクリームに製剤化された高分子量複合糖質富化馴化培地を含む。一実施形態では、組成物は、界面活性剤を含まない。
【0029】
拡大培養されたMSCと高分子量複合糖質富化馴化培地とを含む組成物の一実施形態では、細胞は、前記組成物を含有する容器内に付着していない。
【0030】
更なる態様では、本発明は、(i)高分子量複合糖質富化馴化培地、又は(ii)拡大培養されたMSC及び高分子量複合糖質富化馴化培地と、薬学的に許容される担体、賦形剤又はアジュバントとを含む医薬組成物を提供する。
【0031】
更なる態様では、本発明は、培養されたMSCの大規模生成における使用のための適合性に関してMSCの試料をスクリーニングする方法であって、(i)血小板溶解物又はFCSを含む培養培地中で前記試料の細胞を1、2、又は3回継代培養する工程と、(ii)工程(i)の後に、同種血清を含む培養培地中で前記細胞又はそのアリコートを培養する工程とを含み、同種血清を含む前記培養培地における細胞増殖の継続が、大規模な数の培養されたMSCの生成における使用に適する試料を示す、方法を提供する。
【0032】
一実施形態では、培養されたMSCの大規模生成における使用のための適合性は、老化の前の少なくとも25回の集団倍加の能力を含む。一実施形態では、培養されたMSCの大規模生成における使用のための適合性は、老化の前の少なくとも30回の集団倍加の能力を含む。一実施形態では、培養されたMSCの大規模生成における使用のための適合性は、老化の前の少なくとも35回の集団倍加の能力を含む。一実施形態では、培養されたMSCの大規模生成における使用のための適合性は、老化の前の少なくとも40回の集団倍加の能力を含む。一実施形態では、培養されたMSCの大規模生成における使用のための適合性は、老化の前の少なくとも45回の集団倍加の能力を含む。
【0033】
一実施形態では、MSCの試料は、脂肪組織由来MSCの試料である。一実施形態では、MSCの試料は、ヒト、イヌ、ウマ及びネコのMSCから選択される。
【0034】
更なる態様では、本発明は、培養されたMSCの大規模生成における使用のための不適合性に関してMSCの試料をスクリーニングする方法であって、(i)血小板溶解物又はFCSを含む培養培地中で前記試料の細胞を1、2、又は3回継代培養する工程と、(ii)同種血清を含む培養培地中で、工程(i)からの前記細胞又はその一部を培養する工程とを含み、同種血清を含む前記培養培地中で細胞が増殖できないことが、大規模な数の培養されたMSCの生成における使用に不適合である試料を示す、方法を提供する。
【0035】
一実施形態では、細胞がコンフルエンスに到達できないことが、細胞が増殖できないことを示す。
【0036】
更なる態様では、本発明は、培養されたMSCの大規模生成のための方法であって、(i)MSCを含む細胞試料又は組織試料を得る工程と、(ii)血小板溶解物又はFCSを含む培養培地中で前記試料の少なくとも一部を1、2、又は3回継代培養して、培養された細胞集団を得る工程と、(iii)同種血清を含む培養培地中で、工程(ii)からの前記培養された細胞集団の一部を培養する工程と、同種血清を含む前記培養培地中で細胞増殖が継続するときに、(iv)血小板溶解物又はFCSを含む培養培地中で工程(i)又は工程(ii)からの前記培養された細胞集団の少なくとも一部を更に継代培養して、培養されたMSCの大規模生成をもたらす工程とを含む、方法を提供する。
【0037】
一実施形態では、細胞試料は、脂肪組織の間質血管細胞群を含む細胞懸濁液である。一実施形態では、細胞試料は、単離されたMSCを含む。一実施形態では、細胞試料は、拡大培養されたMSCを含む。一実施形態では、工程(i)から(iv)のうち少なくとも1つの細胞は、凍結された細胞である。一実施形態では、工程(iv)は、10回以上の更なる集団倍加の間、又は15回以上の更なる集団倍加の間、又は20回以上の更なる集団倍加の間、又は25回以上の更なる集団倍加の間、又は30回以上の更なる集団倍加の間、又は35回以上の更なる集団倍加の間、前記細胞集団を培養することを含む。一実施形態では、方法は、前記更なる継代培養後に拡大培養されたMSCを回収する工程と、任意選択で、前記回収された細胞を、MSCの治療用量を構成する個々の容器に分配する工程とを更に含む。一実施形態では、MSCの治療用量は、約200万から約1000万個の間のMSCを含む。一実施形態では、MSCの治療用量は、約500万個のMSCを含む。
【0038】
本発明の更なる態様では、拡大培養された脂肪組織由来間葉系幹細胞の精製集団の調製のための方法であって、
(i)対象から脂肪組織試料を得る工程と、
(ii)前記脂肪組織を少なくとも部分的に消化するのに適する条件下で、前記脂肪組織をインキュベートする工程であり、前記条件が、50mg/Lから500mg/Lの間の濃度のカルシウムを含む緩衝液中、且つ、0.2%wt/volから0.02%wt/volの間の濃度のコラゲナーゼの存在下でのインキュベーションを含む、工程と、
(iii)前記インキュベートされた脂肪組織を遠心分離して、間質血管細胞群(SVF)の細胞を得る工程と、
(iv)前記SVF細胞を、所望の播種濃度で、組織培養物に播種する工程と、
(v)前記培養物を、血清を補充した培地中、適切な条件下で、少なくとも85%のフラスココンフルエンスまでインキュベートする工程と、
(vi)前記培養物からMSCを回収する工程と、
(vii)前記回収されたMSC又はその後代を少なくとも10回の集団倍加の間、継代培養して、拡大培養されたMSCを得る工程と
を含む、方法が提供される。
【0039】
一実施形態では、コラゲナーゼ濃度は、0.05%wt/volである。一実施形態では、カルシウムは、300mg/Lから400mg/Lの間の濃度である。一実施形態では、カルシウムは、330mg/Lの濃度である。一実施形態では、前記条件は、オービタルローター上で混合することを含む。一実施形態では、播種濃度は、組織培養フラスコ1cm2当たり細胞約5,000から約15,000個の間である。一実施形態では、組織培養は、前記細胞を、マイクロキャリアビーズ又はディスク上で培養することを含む。一実施形態では、血清を補充した培地は、FCS又は血小板溶解物を含む。一実施形態では、FCSは、約5%から10%の間の濃度である。一実施形態では、血小板溶解物は、約5%から10%の間の濃度である。一実施形態では、血小板溶解物は、10%v/vの濃度である。一実施形態では、方法は、細胞が3回を超える継代培養に供される前に、前記細胞のアリコートを、同種血清を含む培養培地中で培養して、大規模な数の培養されたMSCの生成において継続して使用するのに適する細胞を特定することを更に含む。一実施形態では、方法は、回収されたMSC又はその後代を少なくとも25回の集団倍加の間、又は少なくとも30回の集団倍加の間、又は少なくとも35回の集団倍加の間、又は少なくとも40回の集団倍加の間、又は少なくとも45回の集団倍加の間、継代培養して、拡大培養されたMSCを得る工程を含む。
【0040】
略語
DMEM ダルベッコ改変イーグル培地。
SVC 間質血管細胞。
SVF 間質血管細胞群。
MSC 間葉系幹細胞。
FCS ウシ胎仔血清(fetal calf serum)(本明細書では、ウシ胎仔血清(fetal bovine serum)であるFBSとも略されることがある)。
ABC 炭酸水素アンモニウム緩衝液。
wt/vol 質量/体積。
(v/v)又はv/v 体積/体積。
VEGF 血管内皮細胞成長因子。
(cSt) センチストーク
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】ウシ胎仔血清中と血小板溶解物中で成長したMSCの培養培地の粘度の比較を示すグラフである。MSCを、10%のFCS(四角)又は10%の血小板溶解物(丸)のいずれかを補充したDMEM中で培養し、各培地の粘度をコンフルエンスの0、1、3、及び6日後に決定した。動粘度を実施例5に記載されているように決定し、センチストーク(cSt)で記載した。
図2】VEGFの安定性を示すグラフである。DMEMと5%の血小板溶解物中で10日間培養したヒトの脂肪由来MSCの培養物から回収した上清中のVEGFの量を、ELISAを使用して測定し、室温(およそ23℃)で、上清組成物の6カ月の保存にわたって、アッセイを様々な回数で行った。
図3】22℃で5カ月間の保存の後の、粘性(ライトシェーディング)及び非粘性(ダークシェーディング)馴化培地における14種の異なるサイトカインのパーセンテージ変化の比較を示すグラフである。-80℃で保存した出発材料に対するパーセント変化として値を記載する。
図4】80%未満又は80%超コンフルエンスの培養物由来の馴化培地の粘度の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
この明細書全体を通して、「1つの(a)」又は「1つの(one)」要素への言及は、文脈上他の意に決定されなければ、複数を除外するものではない。同様に、「一実施形態」への言及は、文脈上他の意に決定されなければ、その記載された実施形態の特徴を記載されている1つ又は複数の他の実施形態と組み合わせて適用することを除外するものではない。
【0043】
この明細書の文脈において、用語「含む(comprising)」は「含む(including)」を意味するが、必ずしも「含む(including)」のみを意味するものではない。更に、「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」などの「含む(comprising)」という語の変形は、対応する種々の意味を有する。したがって、用語「含む(comprising)」及びその変形は、排他的な意味よりもむしろ包括的な意味で使用され、その結果、整数Aを含む、又は整数A及びBを含むなどと記載されている組成物、方法などに、更なる整数又は要件が、任意選択で存在してもよい。
【0044】
この明細書の文脈において、用語「約」及び「およそ」は、当業者が所与の値と一体化する通常の許容範囲を示すものと理解される。
【0045】
この明細書の文脈において、パラメーターについて範囲が記述されている場合、そのパラメーターは、その範囲の記述された末端値を含む、記述された範囲内のすべての値を含むことが理解される。例えば、「5から10」の範囲は、値5、6、7、8、9、及び10並びに記述された範囲内の任意の下位範囲を含む、例えば、6から10、7から10、6から9、7から9などの下位範囲を含む、並びに記述された範囲の文脈において合理的な整数間の任意の値及び範囲、例えば、5.5、6.5、7.5、5.5から8.5及び6.5から9などを含むことが理解される。
【0046】
本明細書に含まれている文書、行為、材料、デバイス、物品などについての任意の議論は、単に、本発明に対する文脈を提供することを目的とする。これらの事象のいずれも又はすべては、先行技術基準の一部を形成するか、又はこの出願の優先日の前に、本発明に関連する技術分野における共通の一般的知識であったことの自認と考えられるべきではない。
【0047】
この明細書の文脈において、用語「多数の」及び「複数の」は、1つより多い任意の数を意味する。
【0048】
処置若しくは治療において、又はドナーから組織若しくは細胞を得ることにおいて、本発明の方法及び組成物を使用するための本明細書における言及は、ヒト及び非ヒト、例えば、獣医学への適用に適用可能であることが理解されることに留意されたい。したがって、他に示されている場合を除き、ドナー、患者、対象又は個体への言及は、ヒト又は非ヒト、例えば、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ、イヌ、霊長類、げっ歯類の分類のメンバー、特に、ヒツジ、ウシ、ウマ、ブタ、ネコ及びイヌなどのこれらの分類の家畜化された又は農業上のメンバーを含むがこれらに限定されない、社会的に、経済的に、農業上又は研究上重要な個体を意味する。
【0049】
本発明の様々な実施形態又は態様の例が本明細書に記載されている場合、これらは、通常、「など」若しくは「例えば」、又は「含む」を含む適当な用語によって前置きされる。例は、例示の又は理解する目的などの、可能性を含むものとして記載されており、文脈が他に示していなければ、限定として提供されるものではないことが理解される。
【0050】
本明細書で言及される医薬組成物は、治療用途を意図する場合など、医薬品と言及される場合もある。したがって、治療目的を意図する医薬組成物を調製するために記載された構成成分からなる組成物の使用を含むものとして、本発明が記載されている場合、その記載は、文脈が他に示していなければ、治療目的を意図する医薬品を調製するための使用も同様に意味することが理解される。
【0051】
この明細書の文脈において、特に、治療用途のために拡大培養されたMSCの使用の文脈において、「用量」は、個体に治療利益をもたらす目的で、個体に投与されてよい十分な数の拡大培養されたMSCのアリコートである。文脈に応じて、本明細書における「用量」への言及は、高分子量複合糖質富化馴化培地などの追加の治療構成要素を含んでもよく又は含まなくてもよい。「用量」における実際の細胞数は、典型的には、細胞約200万から約2000万個、好ましくは、細胞約400万から約1000万個の範囲、好ましくは、細胞約500万個である。「用量」は、1回又は2回以上の注射で投与されてもよいことが理解される。「用量」は、拡大培養されたMSCの適切な保存単位としても理解されうる。
【0052】
本明細書の文脈において、用語「処置すること」、「処置」、「治療」などは、炎症障害などの状態又は疾患の症状及び/又は根底にある原因の緩和を指す。ある特定の実施形態では、処置は、少なくとも一時的に、障害又は障害若しくは傷害の症状の進行を遅らせるか、遅延させるか若しくは停止させるか、又は障害若しくは傷害の進行を逆転させる。したがって、本発明の文脈において、「処置」という語又は「処置すること」などのその派生語は、治療適用に関連して使用される場合、処置される状態に伴う疼痛の緩和、処置される状態の重症度の緩和、処置される状態の1つ又は複数の症状の改善など、治療の態様のすべてを含む。「処置」という語又はその派生語の使用は、「処置される」対象が、前述の利益の任意の1つ又は複数を経験する場合があることを意味すると理解される。
【0053】
用語「予防すること」などは、疾患の「予防」の文脈において、疾患の症状の進行又は根底にある原因の妨害を指す。疾患の完全な予防が生じてもよく、その結果、処置された動物又は対象において、疾患は生じないことが理解される。同様に、この用語は、処置されないままの動物又は対象において観察される典型的な状態へと進行する疾患の減退など、部分的な予防も含むことが理解される。
【0054】
本明細書の記載が、本発明の実施形態の潜在的な利点又は本発明の実施形態によってもたらされる潜在的な改善を示す場合、すべての実施形態がその利点又は改善に合致することを求められるものではないことが理解される。
【0055】
許容される限りにおいて、本明細書で引用されるすべての参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0056】
本明細書に記載されている実施形態では、本発明は、治療方法における使用のためなど、拡大培養された間葉系幹細胞(MSC)の大規模調製のための改善された方法に関する。この方法により、単一のドナーの脂肪組織の調製物から、数百万治療用量のMSCの生成が可能となる。
【0057】
間葉系幹細胞(MSC)は、出生後の、多能性の、成体幹細胞である。間葉系幹細胞(MSC)は、身体の多くの組織に存在し、組織修復及び再生において重要な役割を果たす。治療目的として、MSCは、通常、骨髄、胎盤、臍帯血及び脂肪組織から回収される。多くの場合、細胞は、使用前に、組織培養によって拡大培養される。本発明は、拡大培養された細胞の大規模生成のための改善された方法を提供し、そのような大規模生成における使用に好ましい可能性を有するドナー細胞の選択のための方法を含む。
【0058】
脂肪組織
この発明の文脈において、間葉系幹細胞(MSC)は、好ましくは、脂肪組織に由来する。「由来する」は、本発明の方法又は組成物における使用のためのMSCが単離される組織型を意味する。MSCは、本発明の方法及び組成物の目的のために、組織から特異的に単離されてもよく、又はMSCは、本発明の方法又は組成物に関連しない手順において、組織供給源から前もって単離されていてもよい。
【0059】
脂肪組織は、ヒト脂肪組織、又はイヌ、ウマ、若しくはネコなどの哺乳動物の脂肪組織であってもよい。典型的には、脂肪組織の供給源は、MSCの意図されたレシピエントと同じ種のものとなる。脂肪組織は、「白色」脂肪組織、又は「褐色」脂肪組織を含んでもよい。
【0060】
豊富なMSCと共に、脂肪組織は、免疫細胞、血管平滑筋細胞、内皮細胞、及び周皮細胞も含み、これらは、MSCと一緒に、間質血管細胞群(SVF)と総称される。
【0061】
脂肪組織の採取及び処理
脂肪組織は、脂肪吸引法によって又は切除によって、ドナーから採取される。培養されたMSCの大規模製造を対象とする本発明の方法では、多量(約200グラムから2000グラム)の吸引脂肪組織が、製造することができる細胞数に影響を与えるため、出発材料として採取されるか、又は利用可能とされる。
【0062】
イヌから細胞を生成するために、典型的には、鎌状脂肪パッド、鼠径部脂肪パッド又は肩から、切除によって脂肪組織が採取される。ウマから細胞を生成するために、典型的には、尾基底部、胸部又は腹部から、切除によって脂肪組織が採取される。ヒトから細胞を生成するために、腹部、大腿又は臀部から、脂肪組織が採取される。
【0063】
はじめに、脂肪組織は、当技術分野で容易に利用可能な技術を使用して、脂肪組織を機械で分離することによって処理されうる。例えば、刃を用いて、若しくは鋏を用いて脂肪組織を切り刻むことによって、又は脂肪組織を単離された細胞若しくは脂肪組織の小片に破断するのに十分な孔径を有するスクリーン若しくはメッシュに、脂肪組織を通すことによって、又はこれらの技術の組合せによって、脂肪組織の機械による分離のための任意の適切な方法が使用されうる。好ましい方法では、機械による分離が使用される場合、脂肪組織は、消化の前に鋏で細かく切り刻まれる。
【0064】
以下のパラグラフに記載されるように、脂肪組織から抽出された細胞の数は細胞を生存させたまま最大化され、したがって、最適な脂肪組織の消化を使用して、SVF細胞収率及び生存能を最大化することができることを、驚くべきことに発見した。SVF細胞収率及び生存能を最大化することがオペレーターにとって重要である場合、そのような方法は好ましい。
【0065】
脂肪組織は、適当な緩衝液の存在下で、コラゲナーゼとのインキュベーションによって消化される。この消化において、コラゲナーゼは、約0.2%質量/体積(wt/vol)から約0.02%wt/volの間、例えば、約0.2%wt/vol、又は約0.15%wt/vol、又は約0.1%wt/vol、又は約0.9%wt/vol、又は約0.08%wt/vol、又は約0.07%wt/vol、又は約0.06%wt/vol、又は約0.05%wt/vol、又は約0.04%wt/vol、又は約0.03%wt/vol、又は約0.02%wt/volの最終濃度まで添加される。好ましい実施形態では、この消化工程におけるコラゲナーゼは、約0.05%wt/volの最終濃度まで添加される。
【0066】
本発明者らは、消化の間にカルシウムを含有する緩衝液の使用によっても、細胞収率及び生存能の改善が助長される。消化工程の間のカルシウムの濃度は、約50mg/Lから約500mg/L、例えば、約50mg/L、100mg/L、125mg/L、150mg/L、175mg/L、200mg/L、225mg/L、250mg/L、300mg/L、325mg/L、330mg/L、350mg/L、375mg/L、400mg/L、425mg/L、450mg/L、475mg/L、又は500mg/Lの範囲である。好ましい実施形態では、消化におけるカルシウムの濃度は、約330mg/Lである。好ましい実施形態では、緩衝液は、カルシウムを含有するリンゲル緩衝液又はカルシウムを含有するリン酸緩衝食塩水(PBS)である。
【0067】
適当な温度、例えば、約37℃で、適当な時間、例えば、約30から約120分間、コラゲナーゼの存在下で脂肪組織をインキュベートする。好ましい実施形態では、インキュベーションは、約90分間である。本発明者らは、細胞を放出する消化工程の間に、注意深く混合することによっても、細胞収率及び生存能の改善が助長され、これは、過剰な混合、又は激しすぎる混合が細胞の生存能に影響を与えるためであることを特定した。混合は、手で、例えば、インキュベーションの間、間を置いて、例えば、約15分毎に、材料を穏やかに反転させることによって行われてもよい。混合は、例えば、オービタルローター上で、約50rpmから約200rpmの範囲で混合するなど、機械的手段によって行われてもよい。好ましい実施形態では、混合は、手によるか、又はオービタルローター上で約100rpmで、のいずれかである。
【0068】
脂肪組織由来細胞懸濁液の調製は、遠心分離工程を含んでもよい。培地などの液体中に懸濁された単離された細胞又は脂肪組織の小さな凝集物若しくは小片の遠心分離は、およそ500gで10分間であるか、又は脂肪由来の非脂肪細胞の細胞を含む細胞ペレットを生じるのに十分な時間及び十分なG力であり、そのペレットの上には培地の層があり、その上に浮いているのは、順に、生存脂肪細胞を含む層であり、最上部に浮いているのは、破壊された脂肪細胞に由来する脂質の層である。遠心分離の後、脂質の層、脂肪細胞及び培地の層は、好ましくは、廃棄され、SVFと称される、MSCを含むペレット化した材料が保持される。ペレット化した細胞は、脂肪由来の非脂肪細胞の細胞又はSVFの細胞と称されることもある。
【0069】
組織培養
SVFの細胞は、組織培養に置かれる。SVFは、MSCを含む細胞型の混合集団を含有する。赤血球(RBC)は、典型的には、SVFにも存在し、細胞クラスターであってもよい。典型的には、RBCは、少数の夾雑物として存在し、RBCの大多数は、コラゲナーゼを用いる消化の前に、脂肪組織片を洗浄することによって除去される。典型的には、他の研究者らは、蛍光標識細胞分取(FACS)若しくは免疫磁気細胞分離(IMS)若しくは密度勾配遠心分離による部分的精製、又は赤血球の溶解若しくは除去、又は細胞クラスターの除去によるなどして、組織培養を実施する前に他の細胞型からMSCを精製する。本発明の方法において、組織培養の前に、SVFからMSCを更に精製する必要はない。本発明者らは、MSCを前もって精製する必要がないこと、及びMSCが、培養の前にSFVから更に精製されない場合に、培養の際にMSC収率及び生存能の改善が得られるという事実を、驚くべきことに特定した。理論に拘泥されることを望むものではないが、一部の公知の方法において行われる溶解によって赤血球を除去する工程に関して、本発明者らは、赤血球を溶解することがMSC収率及び生存能に負の影響を与えるのではないかと考える。
【0070】
SVFの細胞は、組織培養フラスコ1cm2当たり細胞約5,000から約15,000個の間のレベルで播種される。MSCは、SVFに存在する最も急速に成長する細胞であり、他の細胞型よりも成長してMSCの純粋集団を生じる。驚くべきことに、競合する夾雑物又は非MSC細胞の存在にもかかわらず、拡大培養へのこのアプローチにより、組織培養の前にMSCの出発集団を精製するよりも高い細胞収率が得られる。
【0071】
MSCを培養するための方法は、当技術分野で公知であり、例えば、コンフルエント付着性細胞培養などの付着性細胞培養を形成するために細胞を培養することを含む。細胞の培養中、又は培養後の任意の適当な時間に、例えば、付着性細胞培養(コンフルエント付着性細胞培養であってもよい)から、上清を回収し、任意選択で、上記上清から細胞を除去して、脂肪組織由来分泌物を含む組成物を形成する。細胞の培養のために、任意の適当な培地を使用してもよい。適当な培地としては、例えば、DMEM、RPMI及び最小必須培地が挙げられる。一実施形態では、細胞はDMEM中で培養される。
【0072】
細胞培養は、好ましくは、滅菌血清の存在下で行われる。培養における血清の濃度は、脂肪組織由来細胞の培養を促進する任意の適切な濃度、例えば、約1%体積/体積(v/v)から約30%v/vの範囲、例えば、約10%v/v、又は約15%v/v又は約20%v/vなどであってもよい。血清は、脂肪組織由来細胞の培養に適当な任意の血清、例えば、市販のウシ胎仔血清、又は当技術分野で公知の方法によるなどして、ウマにおいて調製された血清であってもよい。本発明の実施形態では、血清は、脂肪組織が得られた同じ個体から調製された自己由来であるか、同種である。典型的には、細胞は、5%のCO2を用いて37℃で培養される。
【0073】
本発明の実施形態では、血清は、異なる種に由来する。例えば、細胞は、イヌ、ウマ又はヒトのものであってもよく、それぞれ、イヌ、ウマ又はヒトのもの以外の血清を含有する培地で培養されてもよい。本発明の実施形態では、細胞は、ウシ胎仔血清を補充した培地で培養される。本発明の実施形態では、培地は、10%のFCSを含む。細胞は、最終継代培養などの後の継代培養において、FCSから同種の血清へと換えられ、最終産物からFCSを除去してもよい。
【0074】
培養されたMSCの大規模調製のための方法において、典型的には、細胞は、37℃のCO2インキュベーター中で4~21日間、培養培地及び血清中で、少なくとも85%フラスココンフルエンスまで成長させた(コンフルエンス決定の方法は、顕微鏡による)。
【0075】
本発明は、例えば、撹拌バイオリアクター中で、マイクロキャリア上で培養したMSCも提供する。MSCは、被覆されていなくてもよい、又はコラーゲンなどの特定のタンパク質で被覆されていてもよい、且つ表面上に特定の荷電分布を有するように処理されていてもよいマイクロキャリアビーズ(90~400um)上で培養することができる。マイクロキャリアは、スピナーフラスコ、マイクロバイオリアクター、撹拌タンク、ロッキングプラットフォーム又はマイクログラビティなどのいくつかの容器における細胞の成長のために使用することができる。細胞はまた、懸濁撹拌系として又は固定濾床として、バイオリアクター中で維持されてもよい、Fibra-Cel(登録商標)ディスク(New Brunswick Scientific、Edison、NJ)でも培養することができる。
【0076】
MSCなどの培養下の細胞は、培養培地に構成成分を分泌し、その結果、培養物から得られた液相は、細胞から分泌された構成成分を含有することになる。これらの分泌された構成成分は、本明細書において、セクレトームと総称される場合がある。細胞培養中に生じた液相は、本明細書において、分泌物と称されるか、又は、培養下の細胞が、脂肪組織由来非脂肪細胞の細胞である場合、脂肪組織由来非脂肪細胞の細胞からの分泌物と称されることがある。或いは、培養中に生じ、任意選択で培養から得られた液相は、本明細書において、馴化培地と称されることもある。
【0077】
血小板溶解物中で培養されたMSC及び高分子量複合糖質富化培地の生成
本発明の実施形態では、細胞は、血小板溶解物中で培養される。本明細書に記載されている方法において、血小板溶解物は、ヒト細胞の組織培養のための血清供給源として好ましい。血小板溶解物は、約1%体積/体積(v/v)から約20%v/vの濃度、例えば、約1%、又は約2%、又は約3%、又は約4%、又は約5%、又は約6%、又は約7%、又は約8%、又は約9%、又は約10%、又は約11%、又は約12%、又は約13%、又は約14%、又は約15%、又は約16%、又は約17%、又は約18%、又は約19%、又は約20%で、好ましくは約2%から約7.5%の範囲の濃度、例えば、約5%v/vで、又は、より好ましくは、約7.5%から15%の濃度範囲、例えば、約10%で使用される。
【0078】
血小板溶解物により、高い細胞収率の細胞が得られ、血小板溶解物を補充した培地中での細胞の成長により、本発明者らは、高レベルの細胞外マトリックス(ECM)構成成分を含有する馴化培地の生成を、驚くべきことに可能とした。本明細書で実証されるように、血小板溶解物中での細胞成長により、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン及びムチンを含んでもよい高濃度の細胞外マトリックス(ECM)構成成分が分泌される。
【0079】
本明細書の実施例に記載されているように、本発明者らは、上皮細胞成長因子(EGF)及び/又は塩基性線維芽細胞成長因子(FGF)を含有する培地において細胞を成長させることによって、同様の非常に粘性の高い馴化培地を実現することができることも示した。培養培地におけるEGFの濃度は、約10ng/mlから約30ng/mlの範囲、例えば、約20ng/mlであってもよい。培養培地におけるFGFの濃度は、約10ng/mlから約30ng/mlの範囲、例えば、約20ng/mlであってもよい。
【0080】
富化馴化培地は、通常、本明細書において、高分子量複合糖質富化培地又はECM構成成分を含む馴化培地と称される。動粘度についての予備調査結果により、粘性構成成分が、GAG、プロテオグリカン、アグリカン、バーシカン、ルミカン、ムチン又は他の高分子量分子若しくは分子の複合体であるという推論が裏付けられた。
【0081】
したがって、本発明は、高分子量複合糖質富化培地の生成のための方法も提供する。この培地は、骨関節炎を含む炎症状態の処置に対する更なる治療利益をもたらす。これは、血小板溶解物を補充した培地中でMSCを培養することによる高分子量複合糖質富化培地の生成は、本明細書に記載されている本発明の方法によって脂肪組織から得られたMSCを使用して、この発明を行った本発明者らによって最初に開発されたが、本発明者らは、富化培地を調製する際の使用のためのMSCは、本明細書に記載されている採取及び消化方法によって脂肪組織から得られるものだけに限定されないと考えていることに留意することに関係する。
【0082】
例えば、大規模MSC生成の組織培養のための脂肪組織由来SVFの調製において、SVFは、最初の組織培養工程の前にMSCを単離するために、更に分画化又は精製されないことが好ましいことが、本明細書に記載されている。血小板溶解物を補充した培地中でMSCを培養することによって高分子量複合糖質富化培地を調製する方法において、MSCは、その方法に従って調製されてもよく、又は組織培養で使用することができるMSCを提供する任意の他の適切な方法に従って調製されるか若しくは得られてもよい。
【0083】
例えば、好ましい大規模な方法は、最初の培養の前にSVFからMSCを精製しないが、血小板溶解物を補充した培地中でMSCを培養することによって高分子量複合糖質富化培地を調製する方法における使用のためのMSCは、SVFを最初に単離した後であって血小板溶解物を含む培地に置く前に、任意の適切な手段によって、更に精製されてもよい。
【0084】
更なる例として、高分子量複合糖質富化培地を調製する方法における使用のためのMSCは、前もって精製された細胞及び若しくは細胞培養によって拡大培養された培養物などの精製され且つ保存されたMSCであってもよく、又は凍結保存から取り出された細胞であってもよい。
【0085】
高分子量複合糖質富化培地を調製する方法における使用のためのMSCは、脂肪組織由来MSCに限定されないことにも留意されたい。したがって、高分子量複合糖質富化培地を調製する方法における使用のためのMSCは、任意の適当なMSCの供給源から、例えば、骨髄、歯髄、脂肪組織、臍帯組織、臍帯血及び循環血液から供給されてもよい。
【0086】
更に、本発明は、したがって、MSCと細胞外マトリックス(ECM)構成成分を含む馴化培地との組合せも提供し、このような培地は、本明細書において、高分子量複合糖質富化培地と称されてもよい。本発明者らは、細胞とECMを含む馴化培地とのこのような組合せの医薬組成物が、MSC単独又はMSC単独の培養由来の馴化培地の使用に対して更なる治療利益をもたらす場合があることを予想している。したがって、本発明の方法により、MSCとECM構成成分を含む馴化培地とを含む組成物であって、ECM構成成分を含む馴化培地が、組成物の細胞が拡大培養されるものであってよいか、又は組成物に含まれないMSCの拡大培養由来のものであってよい組成物が可能となる。これらのMSCが拡大培養される、MSCとECM構成成分を含む馴化培地とを含む組成物の使用によって、更なる利点がもたらされる場合がある。MSC若しくは高分子量複合糖質富化培地又はそれらの組合せは、医薬組成物の形態であってもよい。このような形態において、組成物は、典型的には、薬学的に許容される担体、賦形剤若しくはアジュバントを含んでもよく、又は、典型的には、少なくとも、意図される対象における治療用途に不適合な構成成分を含まない。医薬組成物は、注射による使用のための形態、又は局所適用による使用のための形態であってもよい。組成物がMSCを含む場合、組成物は、典型的には、注射に適する形態となる。組成物が局所適用用である場合、組成物は、典型的には、ゲル、クリーム、液体又はローション製剤を含むことになる。
【0087】
血小板溶解物は、任意の適当な供給源から得られてもよい。適切な市販の供給源は、Mill Creek Life Sciences社からのPLT Max(Rochester、Minnesota、USA)である。血小板溶解物は、MSCが培養されたのと同じか又は異なる種に由来してもよい。好ましい実施形態では、血小板溶解物は、MSCが培養されたのと同じ種に由来する。この文脈において、「由来する」血小板溶解物は、例えば、血液試料から血小板を単離した後、単離した血小板を溶解させることによって、血液試料から調製された血小板溶解物について記載する。血小板溶解物が由来する血液試料は、MSC、又はMSCが脂肪組織から調製される場合、MSCの調製のための脂肪組織と同じ個体に由来してもよい又は由来しなくてもよい。典型的には、血液試料は、MSC又は脂肪組織が得られるか又は得られたものと異なる個体に由来する。
【0088】
血小板溶解物は、当業者に公知の方法又はキットを使用して、新鮮な全血又は保存された全血から調製されてもよい。血小板溶解物は、単一のドナーに由来してもよく、又はプールされた血液若しくは細胞に由来してもよい。血小板溶解物は、採取の約5から7日後などの、期限切れの輸血用全血又は血小板から調製されてもよい。血小板溶解物は、MacoPharma社(France)からの血小板溶解キットなどの市販のキットを使用して、血液から調製されてもよい。一実施形態では、血小板溶解物は、シトレートなどの抗凝固剤の存在下で採取された血液から調製される。血液は、200gで約20分間など、適当な条件下で遠心分離された後、血小板(最上層)を採取し、次いで、これを凍結融解に供して細胞を溶解させる。典型的には、2、3、4、又はそれより多い回数などの複数回の凍結融解が行われる。溶解された血小板を、例えば、4000gで約10分間遠心分離して、ペレット化した細胞画分の廃棄を可能にする。血小板溶解物を、例えば、0.22ミクロンのフィルターなどの適切なマトリックスを通して濾過することによって滅菌し、使用するまで、-80℃などの適当な条件下で保存してもよい。
【0089】
本発明の方法において、細胞が血小板溶解物中で培養される場合、典型的には、凝固を防ぐために細胞培養培地にヘパリンも添加される。ヘパリンは、細胞培養培地中に、約0.6IU/mLから約5IU/mLの範囲で含まれてもよい。例えば、ヘパリンは、約0.6IU/mL、約0.8IU/mL、約1IU/mL、約1.5IU/mL、約2IU/mL、約2.5IU/mL、約3IU/mL、約2.5IU/mL、約4IU/mL、約4.5IU/mL、又は約5IU/mLの濃度で含まれてもよい。好ましい実施形態では、ヘパリンは、約2IU/mLで含まれる。
【0090】
本明細書の実施例に記載されているように、富化馴化培地は、FCSを補充した培地中(本明細書で例示される血小板溶解物、FGF及びEGFの非存在下で)MSCを培養することによって生じた馴化培地より高い粘度を有することが実証された。粘度は、MSCの細胞密度が増大するにしたがって増大することが示された。本発明の実施形態では、富化馴化培地は、少なくとも約1.5センチストーク、又は少なくとも約1.6センチストーク、又は少なくとも約1.7センチストークの粘度を有する。
【0091】
当業者は、粘度が、本明細書の実施例で行われた動粘度を測定することによる以外に、粘性率を測定することによってなど、代替の手段によって測定されうることを認識している。したがって、本発明の実施形態では、粘度が本発明の記述的特徴である場合、本明細書において、代替単位、例えば、粘度を粘性率で測定する場合に生じる場合のあるセンチポワズ(cP)で記載された粘度を有すると述べられているが、本発明の記述された特徴を含む組成物は、粘度が、センチストークの単位で測定され又は記述されている場合、少なくとも約1.5センチストーク、若しくは少なくとも約1.6センチストーク、若しくは少なくとも約1.7センチストーク、又は本明細書で定義されている他の値であるならば、依然としてこの発明の範囲内にあることになることが理解される。
【0092】
本明細書の実施例で実証されるように、本発明の富化馴化培地は、血管内皮細胞成長因子(VEGF)並びに多数の他のサイトカイン及び成長因子によって例示される、分泌された細胞構成成分の安定性の改善をもたらす。実施例において、安定性の改善は、室温で長期間にわたって保存する間のVEGF並びに他のサイトカイン及び成長因子の安定性を決定することによって特徴付けられる。室温でのVEGFなどの分泌物の半減期が数時間であると教示する文献からの予想とは対照的に、室温で(およそ23℃であった)6カ月の期間富化馴化培地を保存しても、ELISAを使用して測定した場合、VEGFの明らかな損失は生じなかった。この結果は、多数の異なるサイトカイン及び成長因子が、室温で5カ月の期間にわたって保存された場合に、粘性のない材料より粘性のある材料においてより安定であったことも示している。
【0093】
ドナーのスクリーニング
本発明者らは、単一のドナーから細胞を拡大培養することによって得ることができる拡大培養されたMSCの用量数が、異なるドナーからの細胞との間で大きく異なることを特定した。一部のドナーからの細胞は、限られた数の細胞倍加の後、成長を停止するが、他のドナーからの細胞は、細胞倍加の数がより大きくても成長を続ける。本発明者らは、所与の、個々のドナー動物の異なる場所から得られた細胞を拡大培養することによって得ることができる用量数には変動があることも特定した。これらの差に対する理由は理解されておらず、比較的早い段階で、特定の、個々のドナー又はドナーの特定の場所から得られた細胞である、特定の細胞の拡大培養から、どれくらいの用量が生成されるかを予測するために、細胞を分析する現在利用できる十分な方法は存在しない。このことは、異なるドナー又は場所からの細胞が、成長及び拡大培養された後、それらが所望の数の細胞倍加に到達しなければ処分されることを意味する。結果として、適切な予測法が存在しないことにより、例えば、治療目的のために、MSCの大規模調製のために必要とされる費用の増加と時間の増加を導くことになる。
【0094】
本発明者らは、ドナーの細胞が多数の細胞を製造するために適しているか迅速に特定するために、異なるドナー又は場所から細胞をスクリーニングするための方法を開発し、ここにそれを記載する。
【0095】
本発明者らは、ドナーの細胞が多数の細胞を製造するために適しているか迅速に特定するために、異なるドナー又は場所から細胞をスクリーニングするための方法であって、細胞が培養されている組織培養培地を、血小板溶解物又はFBSを補充した培地から同種血清を補充した培地へと交換することを含む、方法を開発し、ここにそれを記載する。簡略化した用語として、このスクリーニング法は、本明細書において、「血清スイッチ」法と称する場合がある。多数の細胞の生成に適していないドナーからの細胞は、この血清の交換に十分に対応しない。これらは、複製を停止し、コンフルエンスに到達できない。
【0096】
組織培養培地を交換することに基づくスクリーニング法において、典型的には、細胞は、1、2、又は3回の継代培養の間、好ましくは2回の継代培養の間、血小板溶解物又はFBS中で培養され、次いで、血小板溶解物又はFBSを同種血清に交換する。本発明のこの態様において使用される同種血清の濃度は、典型的には、約10%v/vから約20%v/vである。大規模製造に適する細胞は、同種血清中で成長し続け、コンフルエンスに到達する。ドナーの細胞試料の大多数は、同種血清中で成長し続けず、コンフルエンスに到達できない。
【0097】
このスクリーニング法の実施形態では、ドナー試料からの細胞の一部を、初期の継代培養、例えば、2回の継代培養後に、「試験」試料として取得し、これとこの子孫が試験後に廃棄される場合があるため、犠牲試験試料と称されてもよい。細胞の試験試料は、記載された「血清スイッチ」に供される。細胞が、成長し続け、コンフルエンスに到達するという点で、同種血清を補充した培地への交換に対応する場合、使用者は、「試験」細胞が取り出された試料に戻り、好ましい成長培地、典型的には、FBS又は血小板溶解物を含有する培地中で、これらの細胞又はその一部の大規模培養を続ける。本明細書の他の箇所に記載されているように、ヒトMSCを培養するのに好ましい培地は、血小板溶解物を補充した培地である。
【0098】
したがって、本明細書に記載されているドナー細胞又はドナー試料のスクリーニング法は、使用者が、MSCの大規模生成に適するか又はそれを促すドナー細胞又は試料とあまり適さないものとの間で識別することを可能とする。この方式では、意図される使用に適さないか又はあまり適さない細胞又は試料は、これらの細胞を使用するために多大な努力がなされる前に廃棄することができる。適切な材料を選択するこの方法は、使用者が、所望のMSCの大規模生成を生じるのに十分な集団倍加の間、培養される能力を有する細胞及び試料に努力を集中させることを可能とする。予想されるMSCの非常に大規模な生成を生じるために、典型的には、細胞は、老化の前に約10回より多い集団倍加、より好ましくは、老化の前に約15回より多い集団倍加、又は老化の前に約20回より多い集団倍加、又は老化の前に約25回より多い集団倍加、又は老化の前に約30回より多い集団倍加、又は老化の前に約35回より多い集団倍加が可能である必要がある。ドナー試料から生じる細胞株が、約10回未満の集団倍加の後に老化する場合、ましてや約8回又は7回未満の集団倍加の後の老化の場合、典型的には、その細胞株は、MSCの大規模生成に適さない。本明細書に記載されているように、「血清スイッチ」法は、オペレーターが、比較的早い段階で、すなわち、約2、3、4又は5回以上の継代培養を必要とせずに、細胞試料が、MSCの非常に大規模な生成に適しているか、又は適さないかを特定することを可能とする。適切な細胞試料と不適切な細胞試料との間を識別するこの能力は、MSCの非常に大規模な生成の効率に対して有利である。
【0099】
血小板溶解物中で成長したMSCは高濃度のECM構成成分を分泌する
本発明の方法を開発する際に、本発明者らは、驚くべきことに、MSCが血小板溶解物中で成長する場合、組織培養培地は、細胞が増殖するにつれて粘性になることを特定した。粘性の培地の分析により、高分子量複合糖質が培地中に大量に存在することが実証された(本明細書の実施例4及び5を参照のこと)。複合糖質は、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン及び/又はムチンを含んでもよい。複合糖質の増加は、培地の粘度の増大と同時に起こる。更に、培地の分析により、GAG、プロテオグリカン、ムチン又は他の高分子量分子若しくは分子の複合体が培地の粘度の原因であり、存在する主要なプロテオグリカンは、アグリカン、バーシカン、ルミカン又はバイグリカンである場合があることが特定された。
【0100】
本発明者らは、MSCが、EGF及び又はFGFを含む培養培地中で成長する場合、細胞がコンフルエントになると、粘性の馴化培地も得られることも特定した。
【0101】
したがって、本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地の調製のための方法であって、血小板溶解物を含む成長培地中でMSCを拡大培養することを含む、方法も提供する。血小板溶解物を含む培地中でのMSCの成長又は拡大培養のための方法が、本明細書に記載されている。一実施形態では、培養培地はDMEMである。一実施形態では、血小板溶解物は、ヒトの血小板溶解物である。一実施形態では、MSCは、骨髄由来MSC、又は歯髄由来MSC、又は骨髄由来MSC、又は臍帯組織由来MSC、又は臍帯血由来MSC、又は循環血液由来MSC、又は脂肪組織由来MSCである。一実施形態では、MSCは、脂肪組織由来MSCである。一実施形態では、MSCは、ヒト脂肪組織由来MSCである。
【0102】
本明細書の実施例で示されるように、培地の粘度は、MSCが増殖するにつれて増大する。本発明者らは、このことが、所定回数の継代培養内で、細胞が増殖するにつれて、すなわち、MSCが培養フラスコ内でより密度の高い集団となるにつれて起こることを観察した。
【0103】
したがって、オペレーターが、例えば、培養におけるMSCが増殖可能となる程度を制御することによって、馴化培地が高分子量複合糖質で富化される程度に対する制御の度合いを発揮することが可能となる。例えば、あまり富化されない培地が望まれる場合、細胞の成長(増殖)を止める原因となり、すなわち、培養における細胞が、約70%コンフルエンス未満まで増殖した場合に、培地はオペレーターによって回収された。更なる例として、より富化された又は粘性の培地が所望の場合、細胞の成長(増殖)を、約80%コンフルエンス超、又は約85%コンフルエンス超、又は約90%コンフルエンス超、又は約95%コンフルエンス超、又は約100%コンフルエンス以上まで続けることが可能となり、その結果、培地は、ECM構成成分でより濃縮される。
【0104】
したがって、本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地及び拡大培養されたMSCの調製のための方法であって、血小板溶解物を含む成長培地中でMSCを拡大培養することを含む、方法を提供する。したがって、本発明は、高分子量複合糖質富化馴化培地と拡大培養されたMSCとを含む組合せ又は組成物を提供する。
【0105】
組成物とも称される場合があるこの組合せは、本明細書において、炎症性疾患、炎症性障害又は炎症状態など、障害又は状態とも称される場合がある疾患の処置における治療目的のために使用されうる。この組成物は、そのような状態の処置のための医薬品の製造のために使用されてもよい。
【0106】
このような組合せは、細胞成長の経過の間、組織培養フラスコなどの容器中に存在することになることも明らかである。MSCと高分子量複合糖質富化馴化培地との組合せは、MSCの成長に適する条件下で、適切な期間のインキュベーション後、容器から細胞及び培地を回収することによって調製されてもよい。
【0107】
MSCと高分子量複合糖質富化馴化培地との組合せは、適切な容器中で、単離されたMSCと、MSCを実質的に含まない高分子量複合糖質富化馴化培地とを組み合わせることによっても調製されうる。この方式では、組合せは、細胞が生じた(拡大培養された)ものとは異なる高分子量複合糖質富化馴化培地中に細胞を含む。この方式において、MSCと高分子量複合糖質富化馴化培地との組合せを調製することによって、オペレーターは、培地の体積当たり所望の細胞数を有する組合せを調製することができる。この方式において、例えば、これらの同じ細胞が生じた培地では、MSCのみから構成される組合せで典型的に達成されるより高い細胞密度、又はより多い培地の体積当たりの細胞数を有する組合せが生成されうる。同様に、これらの同じ細胞が生じた培地では、MSCのみから構成される組合せで典型的に達成されるより低い細胞密度、又はより少ない培地の体積当たりの細胞数を有する組合せが生成されうる。培地の体積当たりの細胞数を制御する能力は、例えば、治療利益を、培地に対する細胞の比を選択して一用量を対象に投与することによって達成することができる状況において、有利である場合がある。単離されたMSCは、高分子量複合糖質富化馴化培地とMSCとの組合せに添加されてもよく、又はMSCを実質的に含まない高分子量複合糖質富化馴化培地に添加されてもよい。
【0108】
血小板溶解物又はEGF及び/若しくはFGFを含む培養培地におけるMSCの培養により、通常、本明細書において、高分子量複合糖質富化馴化培地と称される高分子量複合糖質を含有する粘性の馴化培地が提供されること、並びにこの材料が、本明細書に記載の有益な特徴を有することを、ここで、本発明者らが特定したことは、オペレーターによって、バイオリアクターからなど、培養から細胞又は馴化培地を回収するのに適当な段階で評価するか、又は適当な段階の評価を補助するのにも使用されうる。例えば、本明細書の実施例において実証されるように、約1.5cSt以上の粘度を有する馴化培地が高分子量複合糖質で富化され、VEGFなどのMSCから分泌される成分の安定性の改善をもたらす。実施例では、富化された材料は、炎症状態及び神経障害性疼痛などの疾患の処置において有益であることも実証される。実施例においても実証されるように、約1.5cSt以上の粘度は、典型的には、血小板溶解物の存在下で、約80%コンフルエンス超で成長したMSCの培養において達成される。したがって、本明細書において、この結果によって、バイオリアクター又は他の培養ベッセル若しくは容器におけるような培養において、特に、オペレーターによって所望されるか又は要求される培地又は細胞の属性に応じて、細胞及び/又は馴化培地を回収するのに適当な段階の指標として、細胞密度を容易に又は実行可能に決定することができない培養条件において、オペレーターが、培地の粘度を使用することが可能となる。このことは、例えば、所定の時間に培養の液相の試料の粘度を決定し、決定された粘度に基づいて、オペレーターの要求に応じて、細胞若しくは培地を回収する、又は培養を続けることによって達成されうる。
【0109】
典型的な実施形態では、高分子量複合糖質富化馴化培地と拡大培養されたMSCとを含む組成物は、互いに対しネイティブであり、組成物中の細胞が、組成物中に共に存在する高分子量複合糖質富化馴化培地中で成長した細胞であることを意味する。
【0110】
一実施形態では、方法は、培養培地からMSCを分離することを更に含む。本発明の方法において、細胞は、当業者に公知の方法によって培養培地から分離又は回収されてもよい。実施形態では、したがって、本発明は、MSCを実質的に含まない高分子量複合糖質富化馴化培地の調製について提供する。この文脈において、高分子量複合糖質富化馴化培地の調製物は、MSCを含まないか、又は細胞培養物から付着細胞を回収するか若しくは除去するための通常の工程の後に残っている場合のある残余夾雑物のMSCのみを含む場合に、MSCを「実質的に含まない」と考えられる。この培地は、MSC含量が、治療において使用された場合に治療効果を有さないと期待されるレベルである場合に、MSCを「実質的に含まない」と考えられる場合がある。
【0111】
回収された高分子量複合糖質富化馴化培地は、例えば、夾雑物材料の存在を除去又は低減させるために、1つ又は複数の更なる処理工程に供される場合がある。この文脈において、夾雑物材料は、細胞断片又はデブリなどの培地の任意の望ましくない構成成分であってもよい。高分子量複合糖質富化馴化培地が治療用途を意図する場合、夾雑物は、培地の薬学的使用に不適合である任意の構成成分、例えば、レシピエント動物に対して毒性である可能性があるか、又は培地の治療効率を低減させる可能性があるか、又は培地の保存能を低下させる可能性のある構成成分も含む。この文脈において、更なる処理の例として、遠心分離又は培地の濾過が挙げられてもよい。
【0112】
MSCを有するか又は有さない、回収された高分子量複合糖質富化馴化培地は、任意の適当な条件下で保存されてもよい。典型的には、保存は、-20℃、-10℃又は-80℃で凍結される。或いは、保存は、4℃であってもよい。
【0113】
保存は、対象の処置において、治療用量での使用に適するように、個別のアリコート又はバイアルにおいてであってもよい。更なる例では、培地は、既製注射形態で保存されてもよく、その結果、オペレーターは、治療用途の前に、その材料を保存から取り出し、所望の温度に解凍又は加温する必要があるだけである。代替形態では、保存は、例えば、使用の前に、更なる希釈又は分配を必要とする場合のある、又は、例えば、研究目的により適している場合のある「バルク」保存であってもよい。
【0114】
本発明は、例えば、撹拌バイオリアクターにおいて、マイクロキャリア上で培養されたMSCも提供する。MSCは、被覆されていなくてもよく、又はコラーゲンなどの特定のタンパク質で被覆されていてもよく、且つ、表面に特定の電荷分布を有するよう処理されていてもよいマイクロキャリアビーズ(90~400um)上で培養することができる。マイクロキャリアは、スピナーフラスコなどのいくつかの容器、マイクロバイオリアクター、撹拌タンク、ロッキングプラットフォーム又はマイクログラビティにおける細胞の成長のために使用されてもよい。細胞はまた、懸濁撹拌系として又は固定濾床として、バイオリアクター中で維持されてもよい、fibra-celディスク上で培養されてもよい。
【0115】
組成物及び医薬組成物
本発明の方法は、組成物、特に医薬組成物の調製を含む。一実施形態では、組成物は、MSCを実質的に含まない高分子量複合糖質富化馴化培地を含んでもよい。一実施形態では、組成物は、本発明の方法によって調製された拡大培養されたMSCを含んでもよい。一実施形態では、組成物は、高分子量複合糖質富化馴化培地とMSCとを含んでもよい。一実施形態では、組成物は、MSCと高分子量複合糖質富化馴化培地との組合せなど、任意の前述の組合せであってもよい。本発明の組成物は、医薬組成物の調製のために使用されてもよい。組成物は、1種又は複数の薬学的に許容される担体、希釈物、賦形剤又はアジュバントを含んでもよい。
【0116】
医薬組成物などの本発明の組成物は、凍結溶液として使用者に供給されてもよい。例えば、高分子量複合糖質富化馴化培地、拡大培養されたMSC、又はこれらの組合せを、使用が求められるまで、およそ-20℃で保存することができる。或いは、高分子量複合糖質富化馴化培地、拡大培養されたMSC、又はこれらの組合せを、使用が求められるまで、より低い温度で、例えば、-70℃から-90℃の冷凍庫内で、又は気相中若しくは液相中のいずれかの液体窒素保存で保存してもよい。細胞を含む組成物は、典型的には、液体窒素中で保存される。好ましい実施形態では、高分子量複合糖質富化馴化培地、又は拡大培養されたMSC、又は高分子量複合糖質富化馴化培地と拡大培養されたMSCとの組合せを含む組成物は、液体窒素保存の液相中で保存される。好ましい実施形態では、脂肪組織由来の拡大培養されたMSC細胞を含む組成物は、高分子量複合糖質富化馴化培地と組み合わせて保存される。或いは、医薬組成物などの本発明の細胞を含まない組成物は、フリーズドライ調製物として使用者に供給されてもよい。例えば、高分子量複合糖質富化馴化培地は、使用が求められるまで、凍結乾燥されて、およそ4℃、-20℃又は室温で保存されてもよい。
【0117】
医師、臨床医、獣医、専門家、助手、又は農業経営者による使用において、組成物は、典型的には、解凍後可能な限り早く、対象又は動物に投与される。或いは、医薬組成物は、解凍と投与の間の短時間、例えば、氷上で又は冷却装置内で又は冷却パック内で保存されてもよい。この文脈において、短期間は、典型的には、数時間以内、例えば、約半時間以内、又は約1時間以内、又は約2時間以内である。凍結保護物質は、典型的には、細胞に対して毒性であり、解凍された場合の生存能の損失の原因となりうるため、組成物は、特に生細胞を含む場合、典型的には、解凍後可能な限り早く、レシピエント動物に注射される。
【0118】
本発明の医薬組成物は、「既製」形態で供給されうる。そのような実施形態では、使用者は、典型的には、組成物が投与される前に、投与に対して許容される温度に解凍することのみ要求される。そのような実施形態では、組成物は、予め測定された用量、例えば、所定のレシピエント対象又は動物に適する、予め測定されたか又は予め決定された用量、例えば、大型犬と比較した小型犬、又は成体動物と比較した若年動物など、レシピエント種を基準として、又はレシピエント個体を基準として、予め決定された用量で供給されてもよい。或いは又は更に、予め測定された用量は、処置されるか又は予防されることを意図される疾患又は状態に基づいていてもよい。組成物の既製形態は、シリンジなど、注射可能デバイスと共に、又はそのデバイス内で供給される組成物を含んでもよい。注射可能デバイスは、個々のレシピエントに単回投与を送達することができるか、又は多数のレシピエントに単回若しくは多数回の投与を送達することができる。注射可能デバイスは、例えば、異なる用量の範囲の送達を可能にするために、調整可能であってもよい。
【0119】
医薬組成物が高分子量複合糖質富化馴化培地と拡大培養されたMSCとの組合せを含む実施形態では、組成物は、1つの組合せとして、又は使用者によって組み合わせるための個別の組成物として、使用者に供給されてもよい。この文脈における「使用者」への言及は、治療組成物をレシピエント対象又は動物に実際に投与する個体を意味し、その投与を引き受けるチーム又はグループの一員も意味する。例えば、使用者は、臨床医、医者、獣医、農業経営者、看護師、獣医看護師、技術員、又は農業労働者など本発明の方法の適用を補助する任意の個体であってもよい。
【0120】
本明細書に記載されているように、高分子量複合糖質富化馴化培地は、例えば、培地が室温で保存されている場合に、培養されたMSCから分泌されるVEGF及び他の分子などの構成成分の有利な安定性を実証する。結果として、本発明は、任意選択で、凍結することなく又は冷凍することなく保存されうる組成物も提供する。典型的には、凍結することなく又は冷凍することなく保存された組成物は、高分子量複合糖質富化馴化培地を含むが、MSCは含まない。
【0121】
したがって、高分子量複合糖質富化馴化培地を含む医薬組成物は、室温での、典型的には、約20℃から25℃の範囲での保存に適する既製組成物として提供されてもよい。一実施形態では、組成物は、局所適用のための、例えば、そのような適用の必要な対象の皮膚に対する組成物であってもよい。局所適用用組成物は、例えば、液体、ゲル、クリーム又はローションの形態を含む、任意の適当な形態であってもよい。室温で保存することができる局所適用用組成物の形態で提供される場合、本発明は、例えば、冷凍され又は凍結されて最適に保存される注射用組成物又は組成物と比較して、対象による使用の容易性、例えば自己投与の容易性をもたらす。
【0122】
高分子量複合糖質富化馴化培地を含む医薬組成物は、局所適用のための治療上活性な成分(複数可)の製剤化に適するような、任意の適当な担体材料を用いて製剤化されうる。本明細書の例では、界面活性剤を含有しない担体材料の使用により、界面活性剤を含有する担体材料の使用より高レベルのVEGFの検出が可能となる。理論に拘泥されることを望むものではないが、本発明者らは、これは、界面活性剤によるVEGFの結合によるものであり、それによって、組成物中で検出可能なVEGFが低減されると考える。本発明者らは、担体材料又は組成物の製剤化において含まれるなどして、医薬組成物中に界面活性剤が存在すると、同様に、医薬組成物中の治療上利用可能なVEGFが低減される場合があり、その結果、界面活性剤を含有しない組成物は、界面活性剤を含有する組成物と比較して優れた治療生成物を提供することができると考える。この説明はVEGFに関して提供されるが、この原理は、高分子量複合糖質富化馴化培地中の他の成長因子及びサイトカインに適用されることが期待される。一実施形態では、担体材料は界面活性剤を含まない。一実施形態では、医薬組成物は界面活性剤を含まない。一実施形態では、担体材料は、食塩水及び任意選択でプロピレングリコールを含む。一実施形態では、担体材料は、Solugel又はそれに類似する製剤である。一実施形態では、担体材料又は医薬組成物は、1種又は複数の増粘剤、例えば、化粧用又は医薬用増粘剤、例えば、ヒドロキシルエチルセルロースを含む。
【0123】
キット
本発明は、(a)(i)高分子量複合糖質富化馴化培地、(ii)拡大培養されたMSCを含む組成物、及び(iii)(i)と(ii)との組合せからなる群から選択される医薬組成物、及び(b)炎症障害の処置、又は炎症障害に伴う疼痛の緩和における前記キットの使用のための説明書を含むキットも提供する。
【0124】
一実施形態では、キットは、1種又は複数の凍結された組成物を含む。一実施形態では、キットは、組み合わせた組成物の投与前に、高分子量複合糖質富化馴化培地を含む組成物と拡大培養されたMSCを含む組成物とを組み合わせるための説明書を含む。一実施形態では、キットは、1つ又は複数のシリンジなど、1つ又は複数の注射デバイスを更に含む。一実施形態では、注射デバイスは、キットの組成物を含有する。
【0125】
本発明の組成物は、MSCによる又はプロテオグリカン富化馴化培地による処置を促す、健康状態の処置又は予防に使用されてもよい。例えば、本明細書で実証されるように、高分子量複合糖質富化馴化培地を含む組成物は、骨関節炎を有する患者に投与され、患者は許容される結果を報告した。したがって、本発明の組成物は、前記処置を必要とする対象において、炎症障害の又は骨関節炎の処置又は予防に対して使用されてもよい。本発明の組成物は、前記緩和を必要とする対象において、炎症障害の又は骨関節炎の疼痛の緩和のために使用されてもよい。実施例においても実証されるように、本発明の組成物は、テニス肘、腱損傷、凍瘡、腱鞘炎、ゴルファーの手首、滑液包炎、筋肉又はふくらはぎの裂傷を処置するために投与された場合にも、患者にとっても有益であった。対象は、任意の動物であってもよい。一実施形態では、対象は、ネコ、イヌ及びウマからなる群から選択される。一実施形態では、対象はヒトである。
【0126】
炎症障害
医薬組成物は、対象における炎症障害の処置のために及び/又は炎症障害に伴う疼痛を緩和するために投与されてもよい。
【0127】
炎症は、傷害又は医学的、化学的、若しくは生物学的薬剤によって引き起こされる異常な刺激に対する反応として生じる場合がある。炎症反応には、局所反応及び生じる形態変化、感染生物などの有害物質の破壊又は除去、回復及び治癒を導く反応が含まれてもよい。障害に関して使用される場合、用語「炎症」は、不適当であるか又は通常の方式で解決できない炎症によって引き起こされ、炎症から生じ、又は炎症を生じる病理過程を指す。炎症障害は、全身的であってもよく、又は特定の組織若しくは器官に対して局所的であってもよい。
【0128】
炎症は、それらに限定されないが、以下に挙げられる多くの障害において生じることが知られている:全身炎症反応(SIRS);アルツハイマー病(並びに慢性神経炎症、グリアの活性化;ミクログリアの増加;老人斑の形成を含む関連する状態及び症状);筋萎縮性側索硬化症(ALS),関節炎(並びに急性関節炎、抗原誘導関節炎、慢性リンパ球性甲状腺炎に伴う関節炎、コラーゲン誘導関節炎、若年性関節炎、関節リウマチ、骨関節炎、予後及び連鎖状球菌誘導関節炎、脊椎関節症及び痛風関節炎を含むがこれらに限定されない関連する状態及び症状)、喘息(並びに気管支喘息;慢性閉塞性気道疾患、慢性閉塞性肺疾患、若年性喘息及び職業性喘息を含む関連する状態及び症状);心血管疾患(並びにアテローム性動脈硬化症、自己免疫性心筋炎、慢性心臓低酸素症(chronic cardiac hypoxia)、うっ血性心不全、冠動脈疾患、心筋症並びに大動脈平滑筋細胞の活性化、心臓細胞アポトーシス及び心臓細胞機能の免疫調節を含む心臓細胞機能障害を含む関連する状態並びに症状);糖尿病(並びに自己免疫性糖尿病、インスリン依存性(I型)糖尿病、糖尿病性歯周炎、糖尿病性網膜症、及び糖尿病性腎症を含む関連する状態及び症状);胃腸炎(並びにセリアック病、関連する骨減少症、慢性大腸炎、クローン病、炎症性腸疾患及び潰瘍性大腸炎を含む関連する状態及び症状);胃潰瘍;肝臓の炎症、例えば、ウイルス性肝炎及び他の種類の肝炎、コレステロール胆石及び肝線維症、HIV感染症(並びに変性反応、神経変性反応、及びHIV関連ホジキン病を含む関連する状態及び症状)、川崎症候群(並びに皮膚粘膜リンパ節症候群、頸リンパ節症、冠状動脈病変、浮腫、発熱、白血球の増加、軽度の貧血、皮膚剥離、皮疹、結膜発赤、血小板増加症を含む関連する疾患及び状態);腎症(並びに糖尿病性腎症、末期腎疾患、急性糸球体腎炎及び慢性糸球体腎炎、急性間質性腎炎及び慢性間質性腎炎、ループス腎炎、グッドパスチャー症候群、血液透析生存及び腎虚血性再灌流傷害を含む関連する疾患及び状態);神経変性疾患又は神経病理状態(並びに急性神経変性、老化及び神経変性疾患におけるIL-1の誘導、IL-1に誘導される視床下部神経細胞の可塑性及び慢性ストレス応答性亢進、脊髄症を含む関連する疾患及び状態);眼障害(並びに糖尿病性網膜症、グ
レーブス眼症、並びに角膜潰瘍、及びブドウ膜炎を含む角膜損傷又は感染に伴う炎症を含む関連する疾患及び状態)、骨粗鬆症(並びに歯槽骨、大腿骨、橈骨、椎骨又は手根骨の骨量減少又は骨折の発生、閉経後の骨量減少、骨量、骨折の発生又は骨量減少速度を含む関連する疾患及び状態);中耳炎(成人又は小児の);膵炎又は膵臓腺房炎;歯周病(並びに成人性、早発性及び糖尿病性を含む関連する疾患及び状態);慢性肺疾患、慢性副鼻腔炎、ヒアリン膜症、低酸素症及びSIDSにおける肺疾患を含む肺疾患;移植冠血管又は他の移植血管の再狭窄;関節リウマチ、リウマチ性アショフ体、リウマチ性疾患及びリウマチ性心筋炎を含むリウマチ;慢性リンパ球性甲状腺炎を含む甲状腺炎;慢性前立腺炎、慢性骨盤痛症候群及び尿路結石症を含む尿路感染症;自己免疫疾患を含む免疫性障害、例えば、円形脱毛症、自己免疫性心筋炎、グレーブス病、グレーブス眼症、硬化性苔癬、多発性硬化症、乾癬、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症、甲状腺疾患(例えば、甲状腺腫及びリンパ性甲状腺腫(橋本甲状腺炎、リンパ節様甲状腺腫))、肺傷害(急性出血性肺傷害、グッドパスチャー症候群、急性虚血性再灌流)、職業性汚染物質及び環境汚染物質によって引き起こされる心筋機能障害(例えば、有毒油症候群、ケイ肺症に対する感受性)、放射線外傷、及び創傷治癒反応の効率(例えば、やけど(bum)又は熱傷、慢性創傷、手術創及び脊髄傷害)、敗血症、急性相反応(例えば、熱性反応)、全身性炎症反応、急性呼吸窮迫反応、急性全身性炎症反応、創傷治癒、付着、免疫性炎症反応、神経内分泌反応、発熱発生及び抵抗性、急性相反応、ストレス応答、疾患感受性、反復運動ストレス、テニス肘、並びに疼痛管理及び反応。
【0129】
特定の実施形態では、炎症障害は、関節に関連する炎症障害、角膜炎、皮膚炎症又は創傷治癒から選択される。
【0130】
特定の実施形態では、関節に関連する炎症障害は、骨関節炎などの関節炎である。
【0131】
特定の実施形態では、本発明の組成物は、テニス肘の処置のため、又は腱損傷の処置のため、又は凍瘡の処置のため、又は、例えば、足の腱鞘炎の処置のため、ゴルファーの手首の処置のため、又は、例えば、転子滑液包炎などの滑液包炎の処置のため、又はアキレス腱炎の処置のため、又はふくらはぎの裂傷などの筋肉の裂傷の処置のためのものである。
【0132】
神経障害性疼痛
医薬組成物は、対象における神経障害性疼痛の処置のために投与されてもよい。本発明者は、本発明の組成物が、神経障害性疼痛の一部の形態のように識別可能な臨床的原因の存在しない疼痛を有する対象の処置において有用であることを特定した。神経障害性疼痛は、末梢レベル、中枢レベル、又はその両方の神経系の機能不全又は疾患による疼痛によって特徴付けられる痛みを伴う障害の群を指す。これは、経時的に、数や強度の変動する多くの症状及び徴候を有する複合的存在である。神経障害性疼痛の3つの共通構成要素は、持続性の神経痛様疼痛、発作の自然発症(paroxysmal spontaneous attack)、及び過敏症である。
【0133】
神経障害性疼痛は、非常に活動不能にする、重篤且つ治りにくいものである可能性があり、個体の心痛と苦痛の原因となり、感覚異常と知覚異常を含む。感覚の部分的な損失又は複合的損失などの感覚消失も一般的に見られる。更に、慢性神経障害性疼痛に関連する著しい精神的且つ社会的結果が存在し、これらは生活の質の低減の原因となる。
【0134】
神経障害性疼痛は、一般診療において極めて一般的である。一部の形態では、神経障害性疼痛は、任意の識別可能な臨床的に原因となる状態と関連しない。一例として、本発明の組成物が、神経障害性疼痛であると考えられる慢性テニス肘の緩和に有効であることが、本明細書において実証される。一部の形態では、神経障害性疼痛は、識別可能な臨床的状態と関連する。三叉神経痛の罹患率は、100,000人の集団当たり2.1から4.7人であり、有痛性糖尿病性神経障害については、I型糖尿病及びII型糖尿病の11%から16%で起こり、帯状疱疹後神経痛は、100,000人の集団当たりおよそ34人で見られる。神経障害性疼痛の処置は容易ではない。神経障害性疼痛を有する患者は、非ステロイド性の抗炎症薬(NSAID)などの標準の鎮痛剤に常に反応するとは限らず、ある程度まで、神経障害性疼痛は、アピエートに抵抗性である。神経障害性疼痛の処置のために最もよく研究され、最も長く使用されている薬物は、抗うつ剤と抗痙攣薬であり、これらは両方とも重大な副作用を有する場合がある。
【0135】
本発明の組成物は、そのような疼痛の処置のために、任意の適当な部位で、対象に投与されてもよい。典型的には、投与は、適当な種類の注射を使用してもよく、局所投与によるものであってもよい。例えば、注射は、皮下、筋肉内、又は疼痛の部位又はその付近のアクセス可能な部位に直接であってもよい。この種類の疼痛は、対象の身体の多数の領域で、例えば、顎痛及び四肢又は肩の疼痛で現れる場合があるため、投与は、疼痛の1つの部位又はその付近にであってもよく、疼痛によって影響を受けた別の部位からは離れていてもよい。典型的には、患者において、複数の部位での疼痛が起こる場合、投与は、疼痛の最初に発生した部位又は主要な部位として特定される部位又はその付近にである。この処置の例証として、本明細書の実施例により、高分子量複合糖質富化馴化培地を含むクリーム又はゲルの局所投与によるゴルファーの手首及び慢性テニス肘の処置について示されている。局所的処置は、ゲル又はクリームを罹患した領域にこすりつけることを含んでもよく、或いは、クリーム又はゲルを、後で罹患した領域に適用される包帯又はパッチに適用することを含んでもよい。処置される対象は、本発明の組成物の単回投与を投与されてもよく、好ましくは、多数回投与を投与されてもよい。
【0136】
本発明は、ここで、以下の実施例に関して、例証のみによって、より詳細に説明される。実施例は、この発明の例証に役立つことを意図しており、この明細書全体にわたって、記載の開示の一般性を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例0137】
(実施例1)
異なるドナー由来のイヌ細胞のスクリーニング
脂肪組織の処理
鎌状脂肪組織の試料(10g)を、通常の去勢手術の間に、5匹の雌イヌから採取した。脂肪組織の5つの試料を別々に処理した。脂肪組織を食塩水ですすぎ、次いで、鋏を使用して細かく切り刻み、20mlのダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Sigma社)と混合した。コラゲナーゼ(Sigma社)を最終濃度0.05%wt/volまで添加し、試料を37℃で90分間インキュベートした。インキュベーションの間、15分毎に、試料を穏やかに手で反転させた。
【0138】
コラゲナーゼ処理の後、試料を、ステンレス鋼メッシュ(700μm孔径)を通して無菌濾過し、50mlの遠心管に移し、500gで15分間遠心分離した。
【0139】
浮いている細胞と上清を廃棄し、ペレット化した細胞をパスツールピペットで穏やかに混合し、15mlの遠心管に移した。
【0140】
次いで、細胞をDMEM中で洗浄し、コラゲナーゼを除去した。最終体積14mlまで、DMEMを各管に添加し、500gで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレット化した細胞を4mlのDMEMに穏やかに再懸濁させ、パスツールピペットで混合した。
【0141】
ウシ胎仔血清中での細胞の拡大培養
各ドナー由来の細胞懸濁液のアリコート(0.5ml)を、DMEMと10%のウシ胎仔血清を含有する組織培養フラスコに移し、コンフルエント細胞の単層が存在するまで(7から10日目)、CO2インキュベーター内で、37℃でインキュベートした。細胞を3mlのTrypLE Express(Invitrogen社)でストリッピングし、50mlの遠心管にデカントし、500×gで10分間遠心分離した。細胞を、DMEMと10%のウシ胎仔血清を含有する新しい組織培養フラスコに入れた。
【0142】
同種血清への細胞の移動
ウシ胎仔血清中で培養した細胞を、コンフルエントである場合にストリッピングし、DMEMと10%のイヌの同種血清を含有する新しいフラスコに入れ、7から14日間インキュベートした。顕微鏡を使用して、フラスコを検査し、細胞の培養密度を0%から100%の範囲でスコア化した。
【0143】
イヌ血清中での細胞増殖
以下の段落に記載されているように、6頭のドナーのうちの2頭由来の細胞は、イヌ血清に移すとすぐに増殖した。他の4頭のドナー由来の細胞は、イヌ血清中で成長しなかった。
【0144】
生成物の製造
6頭のドナーのそれぞれに由来する細胞を、10%FBSを含有する培地中で、2回の継代培養まで拡大培養し、その時点で、6系統すべての細胞が7.5~8.5回の集団倍加を起こしていた。3回の継代培養では、細胞を、10%のイヌの同種血清を含有する培地に播種し、いずれの培地交換も行わずに、コンフルエンスまで又は14日目まで成長させた。ドナーのうちの2頭(1及び2)の細胞はコンフルエンスまで成長したが、残りの4頭のドナーの細胞は、14日でコンフルエンスに達しなかったことが観察された。細胞を回収すると、ドナー1及び2由来の細胞は、更に2回の集団倍加を起こしていたことが観察された。しかし、一方で、他のドナー由来の細胞は、10%のイヌの同種血清を含有する培地中で1回の集団倍加も起こしていなかった。
【0145】
6頭すべてのドナー由来の細胞を、10%FBS培養培地中で、2回の継代培養から拡大培養した(イヌ血清に交換せずに)。細胞はコンフルエンスまで成長し、多数回継代培養したが、培養物は、依然として典型的なMSC形態を有することが観察され、増殖し、コンフルエンスに達することが観察された。ドナー1及び2由来の細胞は、典型的な方式で6回の継代培養まで増殖し、累積集団倍加は13~14回であったことが観察された。したがって、これらのドナー(1及び2)の細胞に由来する治療生成物は、5又は6回の継代培養細胞から製造することができ、13回超の倍加を受けていた。しかし、他のドナー由来の細胞は、5回の継代培養で増殖を停止した。細胞が増殖を停止し、10%のイヌの同種血清を含有する培地中で細胞が比較的上手く成長しなかったものと同じ細胞集団(ドナー)である、これら4頭のドナー由来の細胞の形態は、5回の継代培養において、視覚的にも劣っていた。したがって、これらのドナーから製造した任意の細胞治療生成物は、4回の継代培養におけるもののみであり、累積集団倍加が9~10回であった。
【0146】
したがって、細胞をFBS中で継代培養し、次いで、それらを同種血清に曝露することによって試験することを、バイアル当たりの物品のコストを低減させ、研究及び開発の時間も低減させる、細胞をより多数回の継代培養まで拡大培養する能力を予測するための方法として使用することができる。簡略化した用語として、このスクリーニング法及びその変形は、本明細書において、「血清スイッチ」法と称される場合がある。
【0147】
(実施例2)
血小板溶解物の生成
当技術分野で公知の方法に従って、血液を、抗凝固剤として使用されるシトレートを有する血液採取バッグに採取した。血液を遠心管に分注し、200gで20分間遠心分離した。血小板を含有する最上層を採取し、液体窒素から37℃の水浴へ4サイクルの凍結融解に供した。次いで、溶解された血小板を、トロンビンと塩化カルシウムを添加することによって血清変換し、次いで、4000gで10分間遠心分離し、ペレット化した細胞断片を廃棄した。
【0148】
次いで、血小板溶解物を滅菌濾過し(0.22ミクロン)、必要になるまで-80℃で保存した。
【0149】
(実施例3)
ヒト脂肪由来幹細胞の生成
脂肪組織の処理
脂肪吸引法を使用して、各患者の腹部及び/又は大腿から、およそ200グラムの脂肪組織を採取した。吸引脂肪組織を、採取の直後に、温めた(37℃)滅菌リンガー液(Baxter社)で洗浄し、次いで、滅菌コラゲナーゼを最終濃度0.05%wt/volまで添加して消化することによって処理した。試料を、オービタルミキサー上で100rpmで穏やかに混合しながら、37℃で20分間インキュベートし、800ミクロンのメッシュを通して濾過し、遠心管に移し、500gで15分間遠心分離した。
【0150】
浮いている細胞と上清を廃棄し、ペレット化した細胞をパスツールピペットで穏やかに混合し、15mlの遠心管に移した。
【0151】
次いで、細胞をDMEM中で洗浄し、コラゲナーゼを除去した。最終体積14mlまでDMEMを添加し、試料を500gで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレット化したSVF細胞を4mlのDMEMに穏やかに再懸濁させ、パスツールピペットで混合した。
【0152】
細胞の拡大培養
細胞懸濁液のアリコート(0.5ml)を、DMEMと5%のヒト血小板溶解物を含有する組織培養フラスコに移し、コンフルエント細胞の単層が存在するまで(7から10日目)、CO2インキュベーター内で、37℃でインキュベートした。細胞を3mlのTrypLE Express(Invitrogen社)でストリッピングし、50mlの遠心管にデカントし、500×gで10分間遠心分離した。細胞を、およそ8回倍加するまで更に継代培養した。次いで、継代培養した細胞をストリッピングし、遠心分離した。
【0153】
細胞の凍結保存
ペレット化した細胞試料をCryoStor CS10(Biolife Solutions社、USA)に再懸濁させ、2mlのアリコートで凍結バイアルに移し、凍結バイアルを、-80℃の冷凍庫で、1分当たりおよそ1℃の速度制御凍結デバイス中で24時間凍結させ、次いで、長期保存のために液体窒素デュワーに移した。
【0154】
(実施例4)
血小板溶解物中で成長したMSCは高濃度のECM構成成分を分泌する
馴化培地の生成
3回の継代培養後に、実施例3で成長した細胞由来の培地を採取し、粘度を分析した。細胞は、対照として、10%のウシ胎仔血清中でも成長させた。培養培地の粘度は、細胞がよりコンフルエントになるにつれて増大し(図1)、FCS中で成長した培養ではわずかに増大し、血小板溶解物中で成長した培養では実質的に増大した。
【0155】
粘性の馴化培地の分析
馴化培地の試料を、分析のために、Australian Proteome Analysis Facility(APAF)に送付した。分析については、実施例5において詳述されている。
【0156】
(実施例5)
細胞培養培地の粘度の漸増を調査するために:細胞外マトリックス構成成分及び又はムチンを含有する血小板溶解物中で成長した間葉系幹細胞由来の組織培養上清に対するエビデンス
研究は、5又は10%の血小板溶解物培養培地における脂肪由来幹細胞の成長が、経時的に、培養培地の粘度を増大させるという観察に基づく。以下の段落に記載されているように、2つの成果:培養培地の粘度の定量化及び粘度増大の原因の特定に取り組んだ。
【0157】
粘度測定
動粘度を測定するキャノン-フェンスケ型キャピラリー粘度計(Cannon-Fenske Routine capillary viscometer)(Cannon Instrument Company社、シリアル番号T209)を使用して、製造業者の説明書に従って、粘度を測定した。簡単に述べると、粘度計を、吸引によりおよそ5mlの試料(培養培地又は再懸濁させた沈殿物)で満たし、水浴で少なくとも10分間40℃まで平衡化した。温度に達した時点で、試料を吸引して、最初にマークした点まで引き上げ、最初にマークした点と2番目にマークした点の間を移動するメニスカスにかかる時間を測定した(流出時間)。次いで、流出時間に校正定数(0.009001cSt/秒)を掛けて、センチストーク(cSt)の動粘度を得た。粘度を6日間の細胞成長にわたってプロットした。粘度は、それぞれの決定において、ウシ胎仔血清培地での成長に対して増大した(図1)。
【0158】
培養培地における粘度の構成成分を、以下の段落に記載されているように調査した。
【0159】
アセトン及びトリクロロ酢酸を用いた沈殿
50mlのfalcon管において、5mL(1体積)の培養培地を、-30℃に冷やした20mL(4体積)のアセトンと混合した。混合物をボルテックスで撹拌し、次いで、-30℃で終夜沈殿させた。沈殿物(PT1)を、4℃にて、4600gで20分間遠心分離することによって採取した。上清(SN1)を除去し、管を逆さにして、ペレットが完全に乾燥するのを避けるように注意して、約2分間沈殿物の水を切った。PT1を、粘度測定と酵素消化のために、100mMの炭酸水素アンモニウム(pH7.8)中に再懸濁させた。
【0160】
アセトン沈殿(80%、-30℃)により、培養培地から粘度構成成分(これは、約0.2~0.3mg/mlの濃度のヒアルロン酸と同様の粘度を有すると見積もられ、高分子量であることを示す)を沈殿させた。
【0161】
アンペロメトリック電気化学検出法を用いる高速陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)による単糖分析
25%(v/v)のトリフルオロ酢酸(TFA)の保存液を調製した。50μLの試料に、150μLのMilliQ水と300μLの25%(v/v)TFAを添加した。試料を、振盪しながら、100℃で4時間インキュベートした。インキュベーションの後、試料を真空遠心分離によって乾燥させ、200μLの100μMの2-デオキシ-D-グルコース(内部標準)で再構築した。
【0162】
試料を、アンペロメトリック電気化学検出法を用いて、Dionex HPLC機器の、CarboPac PA1炭水化物カラムで分析した。中性の単糖類は、16mMのNaOHを用いて定組成溶出した。酸性の単糖類は、100mMのNaOH中の酢酸ナトリウムのグラジエント溶離を使用して溶出した。ピークの同定は、中性(フコース、ガラクトース、グルコース、マンノース)、アミノ(N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン)、及び酸性(N-アセチルノイラミン酸、グルクロン酸)単糖類の公知の標準物質と比較して、溶出時間によって決定した。
【0163】
アセトンにより沈殿した粘度構成成分の単糖分析により、細胞外マトリックス(ECM)の主要な構成成分としてのプロテオグリカンに連結するグリコサミノグリカン(GAG)の構成成分である単糖類、グルクロン酸、N-アセチルグルコサミン及び一部のガラクトースの存在が示された。組成分析から、これは、材料中のヒアルロン酸、ケラタン硫酸及び/又はコンドロイチン硫酸GAG及び/又はムチン及び/又は他の複合糖質のいずれかを示す。
【0164】
アセトン沈殿材料の粘度を、それぞれ別々に37℃で3日間、ケラタナーゼ(Kase)、ヒアルロニダーゼ(Hase)、コンドロイチナーゼABS(Csase)、エンド-β-ガラクトシダーゼ(EBG)を用いて酵素処理した後に分析した。対照培地は、100mMの炭酸水素アンモニウム中で、37℃で、3日間、酵素無しでインキュベートした。動粘度の結果により、酵素、ケラタナーゼ、ヒアルロニダーゼ及びコンドロイチナーゼによる粘度の低下が示され、酵素が沈殿内のそれぞれのGAGに作用したことを示した。この結果は、粘度構成成分がGAG、プロテオグリカン、ムチン又は他の高分子量分子若しくは分子の複合体であるという推論を裏付けた。
【0165】
コンドロイチン硫酸、アグリカン及びヒアルロン酸の標準溶液の、それぞれの酵素、コンドロイチナーゼ、ケラタナーゼ及びヒアルロニダーゼを用いた酵素消化は、Table 1(表1)に示すように実行された。
【0166】
【表1】
【0167】
GAG二糖消化生成物を、LC-MS又は直接MSのいずれかを使用して検出し、それらの組成を、アセトニトリル中の炭酸水素アンモニウムで溶出する多孔質黒鉛化炭素カラム及びThermo Velosイオントラップ質量分析計を用いる陰イオン質量分析を使用して分離した構成成分からMS2断片化によって確認した。
【0168】
細胞分泌物試料を、アルファMEM培地と10%の血小板溶解物(変換した血清)(Stemulate、Cook Regentec、Bloomington、IN、USA)及び2.DMEM培地と5%の血小板溶解物(PLTMax、Millcreek、Rochester、MN、USA)と2IU/mLのヘパリン中で成長した細胞から生成した。
【0169】
分泌されたプロテオグリカンの存在を特定するために、濃縮した細胞分泌物/培地試料を、真空下でPVDF膜上に固定し、GAG分解酵素であるケラタナーゼ(Kase)、ヒアルロニダーゼ(Hase)、コンドロイチナーゼABS(Csase)、エンド-β-ガラクトシダーゼ(EBG)で処理し、MSによって分析した。
【0170】
消化生成物の第二段階のMSスペクトルによって、質量(m/z 4602-及び3802-m/z)が、アグリカン標準物質の硫酸化コンドロイチン硫酸のフラグメンテーションスペクトルと合致することが確認され、したがって、馴化培地におけるコンドロイチン硫酸の存在が確認された。
【0171】
コンドロイチン硫酸は、アグリカンのGAG構成成分であり、バーシカンなどの他のプロテオグリカンのGAG構成成分でもある。コンドロイチン硫酸の存在により、そのようなプロテオグリカンの1つ又は混合物の存在が確認される。
【0172】
グリカンの質量分析データを、アセトン沈殿から得た沈殿から消化された糖について決定すると、コンドロイチン硫酸のレベルは期待されたより低かった。しかし、試料(50μl)を、Bio-Rad社のドットブロッティング装置を使用して、真空下で、PVDF膜にドットブロッティングし、アセトン沈殿の前後に、アルシアンブルー(0.1%の酢酸中0.1%のアルシアンブルー)を用いて染色し、染色強度を比較した場合、染色強度(深い青色の染色による呈色)は、アセトン沈殿前の細胞分泌物試料においてより高く(結果示さず)、すべての荷電した高分子(すなわち、プロテオグリカン)がアセトンによって沈殿したわけではないことが示唆された。
【0173】
プロテオミクス解析を、全細胞分泌物及びセファロースサイズ分画によって分離された高分子量タンパク質について実施した。トリプシンによって消化されたペプチドは、正極性モードで、いずれかの共鳴放射化-衝突誘起解離(CID)を用いるオンラインキャピラリー逆相(RP)(ProteCol C18、300μm ID、10cm、5μm粒径、300Å孔径)液体クロマトグラフィー(LC)質量分析(MS)を使用して分析した。カラムは、100%の溶媒A(0.1%(v/v)のギ酸)中で平衡化され、0%~30%の溶媒B(アセトニトリル中0.1%(v/v)のギ酸)の2工程グラジエントにより、その後30%~60%の溶媒Bによりペプチドを分離した。ペプチド混合物を15μlの脱イオン水中で再構築し、5μlをカラムに注入した。
【0174】
検出された細胞外マトリックスであるプロテオグリカンは、ルミカン、バーシカン及びバイグリカンであった。コンドロイチン硫酸は、バーシカン及びアグリカンのGAG鎖構成成分である。アグリカンは、プロテオミクス解析で検出されなかったが、プロテオミクス解析は、プロテオグリカンに関して最適ではなく、アグリカンの膨大な糖鎖がタンパク質構成成分の検出を阻害した可能性があった。
【0175】
アグリカン特異的抗体を有するELISAキットにより、両方の培地の種類(ヘパリンを含むもの及び含まないもの)に由来する馴化培地において、1~10回の継代培養にわたって、アグリカンのレベルが50~900pg/mLに変化することが確認された(結果示さず)。7人の異なる脂肪組織ドナーを試験し、7人のドナー全員由来の馴化培地からアグリカンを検出した。
【0176】
コンドロイチン硫酸が、馴化培地中に存在することを確認した。コンドロイチン硫酸は、プロテオグリカンであるバーシカンとアグリカンの両方の構成成分である。プロテオミクス解析により、バーシカン、ルミカン及びバイグリカンが検出されたが、アグリカンの存在は確認されず、プロテオミクス解析が、アグリカンの膨大な糖鎖によって阻害された可能性があった。アグリカンは、アグリカン抗体ELISAアッセイによって、両方の培地の種類の馴化培地において存在が確認され、対応するブランクの成長培地においては存在しなかった。
【0177】
(実施例6)
ヒト同種脂肪由来MSCの工業規模生産
ドナーの選択
実施例3に記載されているように、脂肪組織をヒトドナーから採取した。各ドナー由来の細胞は、実施例1に従ってスクリーニングした。「血清スイッチ」スクリーニング法における許容可能な性能などの適当な特性を示した細胞を、大規模拡大培養のために選択した。
【0178】
細胞の拡大培養
細胞を、実施例3に記載されているように、拡大培養及び継代培養した。10層組織培養ファクトリーを使用して細胞を継代培養した。細胞は、8回の継代培養まで継代培養を継続したが、細胞は減速せず、又は老化が観測されなかった。
【0179】
1人のドナーから生成されうるバイアルの計算値
Table 2(表2)は、500万個の細胞をそれぞれ含有する3億3200万個超のバイアルが、本発明の方法を使用して、1人のドナーから生成されうることを示す。
【0180】
【表2】
【0181】
(実施例7)
MSCの拡大培養のための代替組織培養培地
ヒト細胞を脂肪組織から単離し、実施例3に記載されているように培養した。2回の継代培養の後、培地をHigh Glucose DMEM、10%のウシ胎仔血清、20ng/mlの上皮細胞成長因子(EGF)、20ng/mlの塩基性線維芽細胞成長因子及び2%のB27 Supplement(Life Technologies社)で取り換えた。細胞がコンフルエントになると、馴化培地は粘性であった。
【0182】
(実施例8)
同種細胞と高分子量複合糖質富化馴化培地を用いる骨関節炎を有するヒト患者の処置
脂肪組織の処理
脂肪吸引法を使用して、患者の腹部及び又は大腿から、832グラムの脂肪組織を採取した。吸引脂肪組織を、採取の直後に、温めた(37℃)滅菌リンガー液(Baxter社)で洗浄し、次いで、滅菌コラゲナーゼを最終濃度0.05%wt/volまで添加して消化することによって処理した。試料を、オービタルミキサー上で100rpmで穏やかに混合しながら、37℃で20分間インキュベートし、800ミクロンのメッシュを通して濾過し、遠心管に移し、500gで15分間遠心分離した。浮いている細胞と上清を廃棄し、ペレット化した細胞をパスツールピペットで穏やかに混合し、15mlの遠心管に移した。
【0183】
次いで、細胞をDMEM中で洗浄し、コラゲナーゼを除去した。最終体積14mlまでDMEMを添加し、試料を500gで10分間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレット化したSVF細胞をプールし、8個の別々の凍結バッグに分割した。細胞を、バッグ当たり11.5~12.5mlの体積でCryostor 10中で凍結保存した。
【0184】
細胞の拡大培養
細胞のバッグを解凍し、Alpha MEMと10%のヒト血小板溶解物を含有するT175組織培養フラスコに播種した。血小板溶解物は、遠心分離の前に、トロンビンと塩化カルシウムを添加することによって処理し、フィブリノーゲンを除去した。細胞を、コンフルエント細胞の単層が存在するまで(7から10日目)、CO2インキュベーター内で、37℃でインキュベートした。細胞を、実施例3に記載されているように、4回継代培養した。次いで、継代培養した細胞をストリッピングし、遠心分離した。最終継代培養由来の馴化培地を採取し、細胞の凍結保存のために使用した。
【0185】
細胞の凍結保存
ペレット化した細胞試料を、1.8mLの馴化培地と0.2mLのbloodstor-100凍結保存液(Biolife Solutions社、USA)に再懸濁させ、2mLのアリコートで凍結バイアルに移し、凍結バイアルを、-80℃の冷凍庫で、1分当たりおよそ1℃の速度制御凍結デバイス中で24時間凍結させ、次いで、長期保存のために液体窒素デュワーに移した。
【0186】
患者の処置
膝のグレード3の骨関節炎を有する52歳の患者を、拡大培養した同種細胞と高分子量複合糖質富化馴化培地の単回関節内注射で処置した。細胞と馴化培地を含有するバイアルを、室温で解凍し、すぐに膝関節に注射した。注射液は、1.8mLの高分子量複合糖質富化馴化培地と0.2mLのbloodstor-100凍結保存液中の390万個の細胞からなった。
【0187】
注射の1週間後に、患者を検査し、疼痛の著しい低下を報告した。患者は、その結果に非常に喜び、もう一方の膝に注射することができるかどうか尋ねた。
【0188】
(実施例9)
分泌物の安定性
分泌物の調製
ヒト脂肪由来MSC(実施例8に記載されているように得た)を、alphaMEMと10%の血小板溶解物(交換された血清)(Stemulate、Cook Regentec、Bloomington、IN、USA)又はalphaMEMと10%のウシ胎仔血清のいずれかで、10層細胞ファクトリーフラスコ中で培養した。培地は交換せず、細胞が80から100%コンフルエントになるまで、細胞を4~7日間培養中に維持した。上清を回収して観察したところ、血小板溶解物培地由来のものは粘性であったが、ウシ胎仔血清培地由来のものは粘性ではなかった。濾過によって粘度が低下することが観察されたので、上清は濾過されなかった。
【0189】
ELISAによるVEGFの分析
血管内皮細胞成長因子(VEGF)を、ELISA(R&D Systems社、Minneapolis、MN、USA)を使用して測定した。
【0190】
Bioplexによる分泌物の分析
14種の異なるサイトカインと成長因子を、Bioplexシステム(Biorad社)を使用して測定した。
【0191】
安定性試験
分泌物の試料を、22℃で、試験管内に保存し、一定の間隔で試験した。試料は、対照として-80℃でも保存した。22℃で保存した試料を、-80℃の対照と比較した。
【0192】
結果
6カ月にわたって、ELISAによって測定した分泌物中のVEGFのレベルは、有意に減少しなかった(図2)。
【0193】
14種の異なるサイトカインと成長因子を、粘性の馴化培地と非粘性の馴化培地中で測定し、これを、5カ月間室温で保存した。開始時点のレベルと比較した、各サイトカイン又は成長因子のレベルの変化百分率を計算したところ、測定された種々のサイトカインと成長因子は、非粘性の馴化培地よりも粘性の馴化培地において、より安定であることが実証されている(図3)。
【0194】
重要性
驚くべきことに、VEGFのレベルは、数日より長期間、室温で、安定なままであった。文献の教示によれば、VEGFとこの例で分析された他の大多数などのサイトカインは、低温で凍結して保存されなければ安定ではない(Kisandら、Porterら)。
【0195】
(実施例10)
粘度の測定
脂肪由来細胞を、実施例8に記載されているように調製した。細胞を、alphaMEMと10%の血小板溶解物(交換された血清)(Stemulate、Cook Regentec、Bloomington、IN、USA)又はDMEMと10%のウシ胎仔血清のいずれかで培養した。細胞を、4又は5回の継代培養まで培養し、細胞が50%から100%コンフルエントになった際に、馴化培地を回収した。馴化培地の粘度を、キャノン-フェンスケU粘度計を使用して測定した。
【0196】
結果
およそ80%超コンフルエンスに到達したすべての培養物は、1.5cSt超の粘度を有した。一方、80%コンフルエンスの前に回収したすべての培養物は、1.5cSt未満の粘度を有した(図4)。
【0197】
(実施例11)
継代培養されたヒト脂肪由来付着細胞からの分泌物を含む組成物を用いたテニス肘の処置
実施例9に記載されているように、alphaMEMと10%の血小板溶解物中で細胞を成長させて、分泌物を、継代培養されたヒト脂肪由来付着細胞から生成した。
【0198】
分泌物を、10に対して1で、Solugel(Johnson&Johnson社)と混合し、局所適用用ゲルを生成した。2年間続いたテニス肘を有する72歳の女性を、1日に2回、ゲルを肘に適用することによって処置した。5日後、女性は、疼痛の著しい低下を報告し、処置前に彼女の肘の疼痛によって彼女がそのような活動を行うことが不可能であったボーリングをすることができた。
【0199】
77歳で、内側と外側のテニス肘を有する2人目の女性患者を、1日に2回、ゲルを適用して処置した。患者は、4から5日目に、楽になったことを報告した。2.5週間後、患者は、罹患した肘が「良くなった」ため、ゲルの使用を止めた。患者は、ゲルの適用を止めた3週間後に肘の感じ方に変化はなかったことを報告した。患者は、完全に治っていると報告している。この改善によって、患者は、身体能力を増加させることができ、このことは、分泌物の処置を開始する前に、疼痛によって、行うことができるボーリングが10エンドに制限されていたが、分泌物の処置後には、21エンド行うことができることによって証拠付けされている。
【0200】
(実施例12)
継代培養されたヒト脂肪由来付着細胞からの分泌物を含む組成物を用いた腱損傷の処置
多様な状態を有する以下の対象を、alphaMEMと10%の血小板溶解物中で細胞を成長させて、実施例10に記載されているように調製したSolugelと混合した継代培養されたヒト脂肪由来細胞からの分泌物を使用して処置した。すべての場合において、ゲルの適用は、罹患した領域の皮膚への局所適用であり、典型的には、1日に2回であった。
【0201】
凍瘡と足の腱鞘炎
凍瘡と足の腱鞘炎を有する75歳の女性。疼痛と炎症は、処置の4日後に消失した。
【0202】
ゴルファーの手首
ゴルファーの手首に対して処置された75歳の女性。疼痛と炎症は、処置の4日後に消失した。
【0203】
転子滑液包炎
転子滑液包炎。疼痛と炎症は、処置の4日後に消失した。
【0204】
アキレス腱炎
何年も問題となっていたアキレス腱炎を有する74歳の患者を、分泌物を含有するゲルで処置した。患者は、ゲルを3日間使用した後、不快感が消失したことを報告した。患者が、3週間、1日に2回、ゲルを適用し続けたところ、疼痛は戻らなかった。
【0205】
ふくらはぎの裂傷
最近ふくらはぎの裂傷を負った52歳の患者を、分泌物のゲルで処置した。患者は、適用すると、分泌物のゲルによって、メントールと同様の清爽感が得られ、次の朝には、処置を開始する前に患者に発症した足のこわばりが気にならなかったことを報告した。患者は、各晩、分泌物のゲルを再度適用し、傷が十分に治癒していることを報告した。患者は、処置の間、分泌物のゲルを一晩適用し忘れたことによって、翌朝、足の罹患領域のこわばりが増加したことを報告した。
(参考文献)
図1
図2
図3
図4