IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-ポリアミド-セルロース樹脂組成物 図1
  • 特開-ポリアミド-セルロース樹脂組成物 図2
  • 特開-ポリアミド-セルロース樹脂組成物 図3
  • 特開-ポリアミド-セルロース樹脂組成物 図4
  • 特開-ポリアミド-セルロース樹脂組成物 図5
  • 特開-ポリアミド-セルロース樹脂組成物 図6
  • 特開-ポリアミド-セルロース樹脂組成物 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187003
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】ポリアミド-セルロース樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20221208BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 23/08 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20221208BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221208BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20221208BHJP
【FI】
C08L77/00
C08L1/00
C08L71/12
C08L23/08
C08L53/02
C08K7/02
C08L29/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】28
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173000
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2021553579の分割
【原出願日】2020-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2019193283
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020027298
(32)【優先日】2020-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020100889
(32)【優先日】2020-06-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020119904
(32)【優先日】2020-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【弁理士】
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】谷本 一洋
(72)【発明者】
【氏名】三好 貴章
(57)【要約】
【課題】低比重、高剛性、及び低線膨張係数が特に高度に両立された樹脂組成物、低比重、高剛性、低熱膨張係数、及び低吸水性が同時に達成された樹脂組成物、又は、低比重でありながら、高靭性及び低熱膨張性という相反する特性が高度に両立された樹脂組成物が提供される。
【解決手段】一態様においては、連続相を形成している第1のポリマー、分散相を形成している第2のポリマー、及びセルロースを含む樹脂組成物であって、第1のポリマーが、ポリアミドであり、第2のポリマーが、60℃以上の融点を有する結晶性樹脂及び60℃以上のガラス転移点を有する非結晶性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである、樹脂組成物が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続相を形成している第1のポリマー、分散相を形成している第2のポリマー、及びセルロースを含む樹脂組成物であって、
前記第1のポリマーが、ポリアミドであり、
前記第2のポリマーが、60℃以上の融点を有する結晶性樹脂及び60℃以上のガラス転移点を有する非結晶性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである、
樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、及びセルロースナノファイバーを含む樹脂組成物であって、
前記ポリアミドは連続相を形成しており、前記ポリフェニレンエーテルは分散相を形成している、樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリフェニレンエーテルの量が、前記ポリアミド100質量部に対し30質量部~150質量部である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
分散相に存在するポリマーの少なくとも一部が酸性官能基を有する、請求項2又は3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記ポリフェニレンエーテルが、前記ポリアミドの連続相中に、数平均粒子径3μm以下の分散粒子として存在している、請求項2~4のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ポリフェニレンエーテルが、前記ポリアミドの連続相中に分散粒子として存在しており、
前記分散粒子が、粒子径1μm以上の粒子の体積比率30体積%以下を有する、請求項2~5のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
エラストマーを更に含む、請求項2~6のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記ポリフェニレンエーテルの分散相の内部で、前記ポリフェニレンエーテルが連続相を形成し、前記エラストマーが分散相を形成している、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記エラストマーが、エチレン-αオレフィン共重合体、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及び芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物からなる群より選ばれる1種以上である、請求項7又は8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記エラストマーが、酸無水物変性されたエラストマーである、請求項7~9のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記エラストマーが、酸性官能基を有するエラストマーと酸性官能基を有さないエラストマーとの混合物である、請求項7~10のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記セルロースナノファイバーの50質量%超がポリアミド相中に存在する、請求項2~11のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記樹脂組成物をISO294-1に準拠して成形してなる多目的試験片の中央部において、小角X線散乱法によって決定されるセルロースナノファイバーの配向度が、0.45以下である、請求項2~12のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記セルロースナノファイバーの量が、樹脂組成物100質量%に対して0.1~30質量%である、請求項2~13のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記セルロースナノファイバーが、疎水化セルロースナノファイバーである、請求項2~14のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
疎水化セルロースナノファイバーがアセチル化セルロースナノファイバーである、請求項15に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
前記セルロースナノファイバーが、重量平均分子量(Mw)100000以上、及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)6以下を有する、請求項2~16のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項18】
前記セルロースナノファイバーが、アルカリ可溶多糖類平均含有率12質量%以下、及び結晶化度60%以上を有する、請求項2~17のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項19】
前記ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6I、ポリアミド6I、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1~18のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項20】
ISO307に準拠し、96質量%濃度硫酸中で測定したときの前記ポリアミドの粘度数(VN)が、200以下である、請求項1~19のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項21】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物を更に含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項22】
酸化防止剤を更に含む、請求項1~21のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項23】
着色剤を更に含む、請求項1~22のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項24】
20℃~100℃における熱膨張係数が50ppm/K以下である、請求項1~23のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項25】
ポリアミド、
芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその誘導体からなる群から選択される1種以上のエラストマー、及び
セルロース、
を含む樹脂組成物であって、
前記ポリアミドと前記エラストマーとが相分離しており、
前記セルロースの50質量%超がポリアミド相中に存在する、樹脂組成物。
【請求項26】
ポリアミド、
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物、及び
セルロース、
を含む、樹脂組成物。
【請求項27】
請求項1~26のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる成形体。
【請求項28】
請求項1~26のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドとセルロースとを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂は、軽く、加工特性に優れるため、自動車部材、電気・電子部材、事務機器ハウジング、精密部品等の多方面に広く使用されている。特に自動車業界においては、旧来より燃費向上のため金属部材から樹脂部材への代替が進んできた。近年、中国、欧州等を中心とした地域では急速に電気自動車への移行を推進し始めたため、電気自動車の開発が盛んに行われ始めている。そのため、電気自動車の航続距離の延伸のため、車両重量の軽量化が緊急課題となりつつある。自動車の軽量化には、金属部材から樹脂部材への代替が有効であり、特に容積の大きな外装部品の樹脂化は、軽量化への寄与が大きいことから自動車メーカーは取り組みを強化している。
【0003】
樹脂製外装部品としては、ポリプロピレン系材料が、バンパー等を中心に数多く採用されている。また、垂直部品であるフェンダーには、剛性、耐熱性等の点で、特許文献1に記載されるようなポリアミド/ポリフェニレンエーテル系アロイ材料の使用が検討されている。また、寸法精度の一層の向上を狙って、例えば特許文献2及び3では、無機フィラーを配合する検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2002/094936号
【特許文献2】国際公開第2006/077818号
【特許文献3】特開2006-199748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ポリプロピレン系材料では、室温剛性及び高温剛性が充分ではないため、垂直部品のうち、板状の部材(ドアパネル、フェンダー等)には不向きである。また、ポリアミド/ポリフェニレンエーテル系アロイ材料は、フェンダー等に使用可能な剛性を有し得るものの、該アロイ材料は熱膨張係数が高い(概ね、90ppm/K程度)という課題がある。
【0006】
自動車には、様々な走行環境下での走行が想定される。例えば、酷寒の地と砂漠とでは、部品表面温度差は100℃程度にもなる。該アロイ材料の熱膨張係数の場合、例えば長さが70cmの部品で計算すると約6mmも寸法変動することとなる。この場合、熱膨張による隣接部品との接触を回避するには、あらかじめ、数mmの隙間を用意する必要が生じることとなる。これはデザイン重視の乗用車にとっては大きな課題である。
【0007】
熱膨張係数を抑制するために、無機フィラーを配合する技術が考えられる。しかし、この技術で得られる材料は、高比重の無機フィラーの添加に起因して、部品を樹脂部材としたことによる軽量化効果が損なわれ、衝撃強度が低下し、製品に反り又は異方性が発生し、更には、物性の安定性に劣るといった新たな課題を有するため、広く採用されるには至っていないのが現状である。
【0008】
一方、自動車の水平部の部品(例えばボンネット、ルーフ等)は、大型であるため、更なる熱膨張性及び異方性の改善を必要としており、金属部材から樹脂部材への代替は進んでいないのが実情である。
【0009】
近年、フィラーとして、セルロースナノファイバー(CNF)等のセルロースを用いてなる強化樹脂の検討が行われている。セルロース強化ポリアミド、特にセルロースナノファイバー強化ポリアミドは、低比重、高剛性(特に高温での高剛性)、及び低熱膨張係数という利点を有するが、これら性能には更なる向上が求められている。また、セルロースナノファイバー強化ポリアミドは、低比重、高剛性、及び低熱膨張係数である一方、高吸水性であるという問題を有する。セルロース強化樹脂において吸水性が高いことは、吸水による、物性低下、寸法変化に伴う成形体の変形などの原因となり得る。すなわち、現時点において、低比重、高剛性、低熱膨張係数、及び低吸水性を同時に達成した材料は得られていないのが実情である。また、金属部材から樹脂部材への代替のためには、低比重でありながら、高靭性及び低熱膨張性という相反する特性が高度に両立された樹脂組成物も求められているところ、現時点において、このような樹脂組成物は得られていないのが実情である。
【0010】
本発明の一態様は、上記の課題を解決し、低比重、高剛性、及び低線膨張係数が特に高度に両立された樹脂組成物を提供することを目的とする。また本発明の別の態様は、低比重、高剛性、低熱膨張係数、及び低吸水性が同時に達成された樹脂組成物を提供することを目的とする。また本発明の別の態様は、低比重でありながら、若しくは低比重及び低物性異方性でありながら、高靭性及び低熱膨張性という相反する特性が高度に両立された樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は以下の態様を包含する。
≪第一の実施形態≫
[1] 連続相を形成している第1のポリマー、分散相を形成している第2のポリマー、及びセルロースを含む樹脂組成物であって、
前記第1のポリマーが、ポリアミドであり、
前記第2のポリマーが、60℃以上の融点を有する結晶性樹脂及び60℃以上のガラス転移点を有する非結晶性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである、
樹脂組成物。
[2] ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、及びセルロースナノファイバーを含む樹脂組成物であって、
前記ポリアミドは連続相を形成しており、前記ポリフェニレンエーテルは分散相を形成している、樹脂組成物。
[3] 前記ポリフェニレンエーテルの量が、前記ポリアミド100質量部に対し30質量部~150質量部である、上記態様2に記載の樹脂組成物。
[4] 分散相に存在するポリマーの少なくとも一部が酸性官能基を有する、上記態様2又は3に記載の樹脂組成物。
[5] 前記ポリフェニレンエーテルが、前記ポリアミドの連続相中に、数平均粒子径3μm以下の分散粒子として存在している、上記態様2~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記ポリフェニレンエーテルが、前記ポリアミドの連続相中に分散粒子として存在しており、
前記分散粒子が、粒子径1μm以上の粒子の体積比率30体積%以下を有する、上記態様2~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7] エラストマーを更に含む、上記態様2~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] 前記ポリフェニレンエーテルの分散相の内部で、前記ポリフェニレンエーテルが連続相を形成し、前記エラストマーが分散相を形成している、上記態様7に記載の樹脂組成物。
[9] 前記エラストマーが、エチレン-αオレフィン共重合体、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及び芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物からなる群より選ばれる1種以上である、上記態様7又は8に記載の樹脂組成物。
[10] 前記エラストマーが、酸無水物変性されたエラストマーである、上記態様7~9のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11] 前記エラストマーが、酸性官能基を有するエラストマーと酸性官能基を有さないエラストマーとの混合物である、上記態様7~10のいずれかに記載の樹脂組成物。
[12] 前記セルロースナノファイバーの50質量%超がポリアミド相中に存在する、上記態様2~11のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13] 前記樹脂組成物をISO294-1に準拠して成形してなる多目的試験片の中央部において、小角X線散乱法によって決定されるセルロースナノファイバーの配向度が、0.45以下である、上記態様2~12のいずれかに記載の樹脂組成物。
[14] 前記セルロースナノファイバーの量が、樹脂組成物100質量%に対して0.1~30質量%である、上記態様2~13のいずれかに記載の樹脂組成物。
[15] 前記セルロースナノファイバーが、疎水化セルロースナノファイバーである、上記態様2~14のいずれかに記載の樹脂組成物。
[16] 疎水化セルロースナノファイバーがアセチル化セルロースナノファイバーである、上記態様15に記載の樹脂組成物。
[17] 前記セルロースナノファイバーが、重量平均分子量(Mw)100000以上、及び重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)6以下を有する、上記態様2~16のいずれかに記載の樹脂組成物。
[18] 前記セルロースナノファイバーが、アルカリ可溶多糖類平均含有率12質量%以下、及び結晶化度60%以上を有する、上記態様2~17のいずれかに記載の樹脂組成物。
[19] 前記ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6I、ポリアミド6I、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上である、上記態様1~18のいずれかに記載の樹脂組成物。
[20] ISO307に準拠し、96質量%濃度硫酸中で測定したときの前記ポリアミドの粘度数(VN)が、200以下である、上記態様1~19のいずれかに記載の樹脂組成物。
[21] エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物を更に含む、上記態様1~20のいずれかに記載の樹脂組成物。
[22] 酸化防止剤を更に含む、上記態様1~21のいずれかに記載の樹脂組成物。
[23] 着色剤を更に含む、上記態様1~22のいずれかに記載の樹脂組成物。
[24] 20℃~100℃における熱膨張係数が50ppm/K以下である、上記態様1~23のいずれかに記載の樹脂組成物。
[25] 上記態様1~24のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形体。
[26] 上記態様1~24のいずれかに記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【0012】
≪第二の実施形態≫
[1] ポリアミド、
芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその誘導体からなる群から選択される1種以上のエラストマー、及び
セルロース、
を含む樹脂組成物であって、
前記ポリアミドと前記エラストマーとが相分離しており、
前記セルロースの50質量%超がポリアミド相中に存在する、樹脂組成物。
[2] ポリアミドが連続相を形成し、エラストマーが分散相を形成している、上記態様1に記載の樹脂組成物。
[3] ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6I、ポリアミド6I、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上である、上記態様1又は2に記載の樹脂組成物。
[4] ISO307に準拠し、96質量%濃度硫酸中で測定したときのポリアミドの粘度数(VN)が、200以下である、上記態様1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] エラストマーの量が、ポリアミド100質量部に対し1~50質量部である、上記態様1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記誘導体が、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体の酸変性物を含む、上記態様1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7] エラストマーが、酸性官能基を有するポリマーと酸性官能基を有さないポリマーとの混合物である、上記態様6に記載の樹脂組成物。
[8] エラストマーが、ポリアミド連続相中に分散粒子として存在しており、
該分散粒子が、数平均粒子径3μm以下を有する、上記態様1~7のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9] エラストマーが、ポリアミド連続相中に分散粒子として存在しており、
該分散粒子が、粒子径1μm以上の粒子の体積比率30体積%以下を有する、上記態様1~8のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10] セルロースの量が、樹脂組成物100質量%に対して0.1~30質量%である、上記態様1~9のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11] セルロースが、径50~1000nm、長さ(L)/径(D)比30以上のセルロースナノファイバー、径100nm以下、長さ(L)/径(D)比30未満のセルロースナノクリスタル、若しくは径1μm超~50μmのセルロースマイクロファイバー、又はこれらの2種以上の混合物である、上記態様1~10のいずれかに記載の樹脂組成物。
[12] セルロースマイクロファイバーの量が、樹脂組成物100質量%に対して0.1~20質量%である、上記態様11に記載の樹脂組成物。
[13] セルロースが、疎水化セルロースである、上記態様1~12のいずれかに記載の樹脂組成物。
[14] 疎水化セルロースがアセチル化セルロースである、上記態様1~13のいずれかに記載の樹脂組成物。
[15] 導電用炭素系フィラーを更に含む、上記態様1~14のいずれかに記載の樹脂組成物。
[16] 酸化防止剤を更に含む、上記態様1~15のいずれかに記載の樹脂組成物。
[17] 着色剤を更に含む、上記態様1~16のいずれかに記載の樹脂組成物。
[18] 20℃~100℃における熱膨張係数が60ppm/K以下である、上記態様1~17のいずれかに記載の樹脂組成物。
[19] 上記態様1~18のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形体。
[20] 上記態様1~18のいずれかに記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【0013】
≪第三の実施形態≫
[1] ポリアミド、
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物、及び
セルロース、
を含む、樹脂組成物。
[2] 前記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物の量が、ポリアミド100質量部に対し、1~100質量部である、上記態様1に記載の樹脂組成物。
[3] 前記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物の量が、セルロース100質量部に対し、50~5000質量部である、上記態様1又は2に記載の樹脂組成物。
[4] 前記セルロースの量が、樹脂組成物100質量%に対し、0.1~30質量%である、上記態様1~3のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記ポリアミドが連続相を形成している、上記態様1~4のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記ポリアミドが、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6I、ポリアミド6I、及びこれらの混合物からなる群より選ばれる1種以上である、上記態様1~5のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7] ISO307に準拠し、96質量%濃度硫酸中で測定したときの前記ポリアミドの粘度数(VN)が、200以下である、上記態様1~6のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] エラストマーを更に含む、上記態様1~7のいずれかに記載の樹脂組成物。
[9] 前記エラストマーが、エチレン-αオレフィン共重合体、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及び芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物からなる群より選ばれる1種以上である、上記態様8に記載の樹脂組成物。
[10] 前記エラストマーの量が、ポリアミド100質量部に対し、1~50質量部である、上記態様8又は9に記載の樹脂組成物。
[11] 前記エラストマーが、酸無水物変性されたエラストマーである、上記態様8~10のいずれかに記載の樹脂組成物。
[12] 前記エラストマーが、酸性官能基を有するポリマーと酸性官能基を有さないポリマーとの混合物である、上記態様8~11のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13] 前記エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物を構成する全モノマー単位100モル%に対し、ビニルアルコール単位の比率が60モル%以上である、上記態様1~12のいずれかに記載の樹脂組成物。
[14] 前記セルロースが、径50~1000nm、長さ(L)/径(D)比30以上のセルロースナノファイバー、径100nm以下、長さ(L)/径(D)比30未満のセルロースナノクリスタル、若しくは径1μm超~50μmのセルロースマイクロファイバー、又はこれらの2種以上の混合物である、上記態様1~13のいずれかに記載の樹脂組成物。
[15] 前記セルロースマイクロファイバーの量が、樹脂組成物100質量%に対し、0.1~20質量%である、上記態様14に記載の樹脂組成物。
[16] 前記セルロースが、疎水化セルロースである、上記態様1~15のいずれかに記載の樹脂組成物。
[17] 前記疎水化セルロースが、アセチル化セルロースである、上記態様16に記載の樹脂組成物。
[18] ポリフェニレンエーテルを更に含む、上記態様1~17のいずれかに記載の樹脂組成物。
[19] 酸化防止剤を更に含む、上記態様1~18のいずれかに記載の樹脂組成物。
[20] 着色剤を更に含む、上記態様1~19のいずれかに記載の樹脂組成物。
[21] 20℃~100℃における線熱膨張係数が70ppm/K以下である、上記態様1~20のいずれかに記載の樹脂組成物。
[22] 引張破断歪が10%以上である、上記態様1~21のいずれかに記載の樹脂組成物。
[23] 上記態様1~22のいずれかに記載の樹脂組成物からなる成形体。
[24] 上記態様1~22のいずれかに記載の樹脂組成物からなる自動車外装部品。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、低比重、高剛性、及び低線膨張係数が特に高度に両立された樹脂組成物を提供可能であり、また本発明の別の態様によれば、低比重、高剛性、低熱膨張係数、及び低吸水性が同時に達成された樹脂組成物を提供可能であり、また本発明の別の態様によれば、低比重でありながら、若しくは低比重及び低物性異方性でありながら、高靭性及び低熱膨張性という相反する特性が高度に両立された樹脂組成物を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、セルロースナノファイバーの例を示す顕微鏡画像である。
図2図2は、セルロースナノクリスタルの例を示す顕微鏡画像である。
図3図3は、セルロースマイクロファイバーの例を示す顕微鏡画像である。
図4図4は、IRインデックス1730及びIRインデックス1030の算出法の説明図である。
図5図5は、セルロースの水酸基の平均置換度の算出法の説明図である。
図6図6は、実施例及び比較例においてフェンダー評価のために作製したフェンダーの形状を示す概略図である。
図7図7は、実施例及び比較例においてフェンダー評価のために試験片を取り出した位置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の例示の実施の形態(以下、「本実施形態」と略記する。)について説明するが、本発明はこれら実施形態に何ら限定されない。なお本開示の特性値は、特記がない限り、本開示の[実施例]の項に記載される方法又はこれと同等であることが当業者に理解される方法で測定される値である。
【0017】
≪樹脂組成物≫
本実施形態は、以下の第一~第三の実施形態を包含する。
第一の実施形態は、連続相を形成している第1のポリマー、分散相を形成している第2のポリマー(したがって第1のポリマーとは異なるポリマー)、及びセルロースを含む。一態様において、第1のポリマーはポリアミドであり、第2のポリマーは、60℃以上の融点を有する結晶性樹脂及び60℃以上のガラス転移点を有する非結晶性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである。このような樹脂組成物においては、低比重、高剛性、低熱膨張係数が特に高度に両立されていることができる。
【0018】
本開示で、結晶性樹脂とは、一態様において、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に結晶融解による吸熱ピークを有する樹脂である。
本開示で、非晶性樹脂とは、一態様において、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に結晶融解による吸熱ピークを有さない樹脂である。
本開示で、エラストマーとは、一態様において、室温(23℃)において弾性体である物質(具体的には天然又は合成の重合体物質)である。また、弾性体であるとは、一態様において、動的粘弾性測定で測定される23℃、10Hzでの貯蔵弾性率が1MPa以上100MPa以下であることを意味する。
【0019】
第一の実施形態の一態様において、樹脂組成物は、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル、及びセルロースナノファイバーを含む。樹脂組成物中で、ポリアミドとポリフェニレンエーテルとは相分離し、ポリアミドが連続相、ポリフェニレンエーテルが分散相をそれぞれ形成している。このような相構造によれば、ポリアミドが本来的に有する諸般の特性(特に、高耐熱性、低線膨張係数等)を損なうことなく、セルロースナノファイバー強化ポリアミドの欠点である高吸水性をポリフェニレンエーテルの吸水性低減効果で補い、更に、ポリフェニレンエーテルが有する高剛性(特に高温領域での高剛性)及び低比重という利点をも良好に発現させることができる。したがって、上記樹脂組成物は、低比重、高剛性、低熱膨張係数、及び低吸水性であることができる。
【0020】
一態様において、分散相に存在するポリマー(例えばポリフェニレンエーテル)の少なくとも一部は、酸性官能基を有する。分散相、例えばポリフェニレンエーテルの酸性変性基は、ポリアミドのアミノ末端と反応することで、連続相と分散相との相溶性を適度に向上させて、分散相の分散サイズを小さくするとともに連続相と分散相との界面剥離を抑制できる。このことは、連続相と分散相との併存による上記のような利点を一層良好に発現する点で有利である。そして、セルロース(例えばセルロースナノファイバー)は、本来的に、例えばポリフェニレンエーテルよりもポリアミドに対してより高い親和性を有することから、主としてポリアミド相中に存在することになる。これはセルロースとポリアミドとの間の水素結合によるものと考えられる。セルロース(特にセルロースナノファイバー)は、樹脂組成物の低線膨張係数及び高剛性(特に高温領域での高剛性)に寄与する。このように、第一の実施形態の樹脂組成物によれば、セルロース(特にセルロースナノファイバー)を用いながら、高剛性、低熱膨張係数、低比重、及び低吸水性が同時に達成された樹脂組成物が提供され得る。
【0021】
第二の実施形態は、ポリアミド、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその誘導体からなる群から選択される1種以上のエラストマー(以下、第二の実施形態のエラストマーともいう。)、及びセルロースを含む樹脂組成物を提供する。一態様において、ポリアミドとエラストマーとが相分離している。一態様において、セルロースの50質量%超がポリアミド相中に存在する。典型的な態様において、樹脂組成物はポリアミド相とエラストマー相との2相構造を有する。第二の実施形態の樹脂組成物が3相以上を有することは排除されないが、本開示では、第二の実施形態の典型的な態様である、ポリアミド相とエラストマー相との2相構造に係る樹脂組成物について主に説明する。第二の実施形態に係る樹脂組成物は高靭性及び低線膨張性を有し得る。一態様において、当該樹脂組成物は、大型成形体の製造にも対応可能な高い流動性を有することができ、更に、部分的な強度欠陥を実質的に含まない成形体を与えることができる。
【0022】
第二の実施態様の樹脂組成物の相形態は、ポリアミドが連続相を形成し、エラストマーが分散相を形成する形態、ポリアミドが分散相を形成し、エラストマーが連続相を形成する形態、及びポリアミド及びエラストマーの両者が連続相を形成する形態(すなわち共連続相構造)があり得るが、ポリアミドが連続相を形成し、エラストマーが分散相を形成する形態が、組成物としての耐熱性を良好に発現し、高剛性、低線膨張を達成する点で好ましい。
【0023】
一般的に、セルロースは、親水性を有しているため、ポリアミドとの親和性が高く、また少なくとも一部が酸変性されている(すなわち少なくとも一部が酸性官能基を有する)ポリマーに対しても親和性を有し得る。また、微細化されたセルロースは、粘性の高いエラストマー成分に絡めとられる場合があると考えられている。一方、後述するような疎水化処理されたセルロースは、親水性が低くされていることによって、樹脂組成物中での存在位置が混練条件によって変化することが知られている。
【0024】
第一の実施形態において樹脂組成物中のセルロース(特定の態様においてセルロースナノファイバー)のうちポリアミド相に存在するセルロース(特定の態様においてセルロースナノファイバー)の比率、及び、第二の実施形態において樹脂組成物中のセルロースのうちポリアミド相に存在するセルロースの比率、の各々について、当該比率の下限は、好ましくは50質量%超であり、より好ましくは60質量%であり、より好ましくは70質量%であり、さらに好ましくは75質量%であり、さらにより好ましくは80質量%であり、最も好ましくは100質量%(すなわち実質的にすべてのセルロースがポリアミド相に存在すること)である。上記比率が上述の範囲内である場合、第一の実施形態においては低熱膨張性と高剛性とのより高度な両立が可能であり、又は、第二の実施形態においては低熱膨張性、低異方性及び高靭性という相反する各種特性の両立が可能である。上記比率の上限は、樹脂組成物の製造容易性の点から、例えば99質量%、又は98質量%であってよい。
【0025】
第一の実施形態における樹脂組成物中のセルロース(特定の態様においてセルロースナノファイバー)及び第二の実施形態における樹脂組成物中のセルロースの各々について、その50質量%超がポリアミド相に存在することを確認する方法の例としては、例えば、樹脂組成物を透過型電子顕微鏡で撮影し、ポリアミド相中に存在するセルロースの面積と、他の相(例えば第一の実施形態のポリフェニレンエーテル又は第二の実施形態のエラストマー相)に存在するセルロースの面積とを確認することで確認できる。上記の方法は、例えば、ポリアミド相と当該他の相とでセルロースの存在比率が大きく異なり定量化が不要である場合に有用である。一方、定量化が必要な場合は、樹脂組成物を、約0.1~2μm厚みでスライスしフィルム状サンプルを得る。該サンプルを、他の相の成分(例えばポリフェニレンエーテル成分又はエラストマー成分)は溶解させるがポリアミドを溶解させない溶媒(例えばクロロホルム、トルエン等)中に浸漬し他の相を溶出させ、溶出液を濃縮した後、超遠心分離を実施し、他の相に存在するセルロースを分離し、その後、溶媒での洗浄を少なくとも3回程度繰り返し、乾燥し、他の相に存在するセルロース量を測定する。
【0026】
第三の実施形態は、ポリアミド、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物、及びセルロースを含む樹脂組成物を提供する。第三の実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースがポリアミド相に安定的に微分散していることによって、例えば大型成形体に成形された際にも低い線熱膨張係数を有し得る。また当該樹脂組成物は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物の寄与により高い引張破断歪(すなわち高靭性)を有し得る。
本実施形態に係る樹脂組成物は、上記のような優れた特性を有することによって、種々の成形体、特に種々の大型部品(例えば自動車外装部品等)の用途に好適に使用可能である。
【0027】
次に本実施形態において使用することのできる各成分について詳しく述べる。
【0028】
<第1のポリマー(ポリアミド)>
第一~第三の実施形態に用いるポリアミドとしては、二塩基酸とジアミンの重縮合物、環状ラクタム開環重合物、アミノカルボン酸の重縮合物、及び、これらのコポリマー、ブレンド物が挙げられる。より具体的には、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612などの脂肪族ポリアミド、ポリメタキシレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)などの芳香族ポリアミド樹脂、及び、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6I、ポリアミド6/6T、ポリアミド66/6T、ポリアミド6/66/6T、ポリアミド6/66/6I、ポリアミド9T、ポリアミド10Tなどの共重合体及びブレンド物を用いることができる。これらの中でも特に、ポリアミド6、ポリアミド10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6/6I、ポリアミド66/6I、ポリアミド6I、及びこれらの混合物が好ましく使用可能である。最も好ましくは、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6I、及びこれらの混合物である。
【0029】
第一~第三の実施形態において、ポリアミドの末端カルボキシル基濃度には特に制限はないが、下限値は、好ましくは、5μモル/g、又は10μモル/g、又は20μモル/g、又は25μモル/g、又は30μモル/gである。また、末端カルボキシル基濃度の上限値は、好ましくは、150μモル/g、又は100μモル/g、又は80μモル/gである。
【0030】
第一~第三の実施形態において、ポリアミドの末端アミノ基濃度には特に制限はないが、下限値は、好ましくは、20μモル/g、又は30μモル/gであり、上限値は、好ましくは、150μモル/g、又は100μモル/g、又は80μモル/gである。
【0031】
第一~第三の実施形態のポリアミドにおいて、全末端基に対するカルボキシル末端基比率([COOH]/[全末端基])は、0.20~0.95であることが好ましい。カルボキシル末端基比率の下限は、より好ましくは0.3であり、より好ましくは0.35であり、さらにより好ましくは0.40であり、最も好ましくは0.45である。またカルボキシル末端基比率の上限は、より好ましくは0.90であり、さらにより好ましくは0.85であり、最も好ましくは0.80である。上記カルボキシル末端基比率は、セルロースの樹脂組成物中への分散性の観点から0.20以上とすることが望ましく、得られる樹脂組成物の色調の観点から0.95以下とすることが望ましい。
【0032】
ポリアミドの末端基濃度の調整方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリアミドの重合時に所定の末端基濃度となるように、ジアミン化合物、モノアミン化合物、ジカルボン酸化合物、モノカルボン酸化合物、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル、モノアルコールなどの、末端基と反応する末端調整剤を重合液に添加する方法が挙げられる。
【0033】
末端アミノ基と反応する末端調整剤としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;及びこれらから任意に選ばれる複数の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸及び安息香酸からなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0034】
末端カルボキシル基と反応する末端調整剤としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン及びこれらの任意の混合物が挙げられる。これらの中でも、反応性、沸点、封止末端の安定性、価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン及びアニリンからなる群より選ばれる1種以上の末端調整剤が好ましい。
【0035】
これら、アミノ末端基及びカルボキシル末端基の濃度は、1H-NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値から求めるのが精度、簡便さの点で好ましい。それらの末端基の濃度を求める方法として、具体的に、特開平7-228775号公報に記載された方法が推奨される。この方法を用いる場合、測定溶媒としては、重トリフルオロ酢酸が有用である。また、1H-NMRの積算回数は、十分な分解能を有する機器で測定した際においても、少なくとも300スキャンは必要である。そのほか、特開2003-055549号公報に記載されているような滴定による測定方法によっても末端基の濃度を測定できる。ただし、混在する添加剤、潤滑剤等の影響をなるべく少なくするためには、1H-NMRによる定量がより好ましい。
【0036】
ポリアミドの重合度については、特に限定されないが、通常の射出成形加工性の面から、ISO307に準拠し、96質量%濃度硫酸中で測定したポリアミドの粘度数(VN)が、200以下であることが望ましい。より好ましい上限は180であり、さらに好ましくは150であり、さらにより好ましくは140であり、最も好ましくは、130である。上述の範囲内とすることにより、成形体の成形時の流動性を適度に維持し、成形歪を低減させることにより、実成形品での異方性を低く抑えることが可能となる。上記粘度数の下限は、特に限定されないが、良好な耐衝撃性を得る観点から、好ましくは50であり、より好ましくは60であり、より好ましくは65であり、最も好ましくは70である。
【0037】
本実施形態におけるポリアミドは、異なる複数種のポリアミドの混合物であってもよい。複数種のポリアミドの混合物である場合のポリアミドの各種特性値は当該複数種での平均値であってよい。
【0038】
ポリアミドの重合方法は特に限定されず、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、及び、これらを組み合わせた方法のいずれでもよい。これらの中では、重合コントロール性の観点から、溶融重合がより好ましく用いられる。
【0039】
また、ポリアミド樹脂の耐熱安定性を向上させる目的で、例えば特開平1-163262号公報に記載されるような公知の金属系安定剤を使用してもよい。金属系安定剤の中で特に好ましい例としては、CuI、CuCl2、酢酸銅、ステアリン酸セリウム等が挙げられる。また、ヨウ化カリウム、臭化カリウム等に代表されるアルカリ金属のハロゲン化塩も好適に使用することができる。これらは、もちろん併用添加しても構わない。上記の金属系安定剤及び/又はアルカリ金属のハロゲン化塩の好ましい配合量は、合計量としてポリアミド100質量部に対して、0.001~5質量部である。耐熱エージング性能の観点から上述の下限以上であることが好ましく、高靭性維持の観点から上述の上限以下であることが好ましい。
【0040】
さらに、上記の他に、ポリアミドに添加することが可能な公知の添加剤を、例えばポリアミド100質量部に対して10質量部未満の量で添加してもかまわない。
【0041】
第一~第三の実施形態において、樹脂組成物100質量%に対するポリアミドの比率は、ポリアミド相による高耐熱性、低線膨張係数等の利点を良好に得る観点から、好ましくは、30質量%以上、又は35質量%以上、又は40質量%以上であり、樹脂組成物中の他の成分による利点を良好に得る観点から、好ましくは、90質量%以下、又は80質量%以下、又は70質量%以下、又は60質量%以下である。
【0042】
<第2のポリマー>
一態様において、樹脂組成物は第1のポリマーとしてのポリアミドに加えて、第2のポリマーを含む。第2のポリマーは第1のポリマーとは異なるポリマーである。一態様において、第2のポリマーは、60℃以上の融点を有する結晶性樹脂及び60℃以上のガラス転移点を有する非結晶性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種のポリマーである。
【0043】
結晶性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート等の結晶性ポリエステル系樹脂、ポリオキシメチレン等の結晶性ポリアセタール樹脂、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物等が挙げられる。これらの中でも高靭性を達成する点でエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物が好ましい。結晶性樹脂は、例えば、第三の実施形態のエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物であってよい。
【0044】
結晶性樹脂の融点は、一態様において60℃以上であり、好ましくは、100℃以上、又は150℃以上、又は180℃以上であり、好ましくは、350℃以下、又は300℃以下、又は280℃以下である。本開示で、融点は、示差走査熱量分析装置(DSC)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に現れる吸熱ピークのピークトップ温度を意味する。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も低温側のピークのピークトップ温度を指す。
【0045】
非晶性樹脂としては、ポリメチレンペンテン、環状ポリオレフィン等の非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の非晶性ポリビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリフェニレンエーテルケトン系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられる。これらの中でも低比重、高剛性を達成する点でポリフェニレンエーテル系樹脂が好ましい。非晶性樹脂は、例えば、第一の実施形態のポリフェニレンエーテルであってよい。
【0046】
非晶性樹脂のガラス転移点は、一態様において60℃以上であり、好ましくは、100℃以上、又は150℃以上、又は180℃以上であり、好ましくは、350℃以下、又は300℃以下、又は280℃以下である。本開示で、ガラス転移点は、動的粘弾性測定装置を用いて、-100℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度を意味する。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も低温側のピークのピークトップ温度を指す。
【0047】
一態様において、第1のポリマーであるポリアミド100質量部に対する第2のポリマーの量は、ポリアミド以外の樹脂による利点を良好に得る観点から、好ましくは、1質量部以上、又は5質量部以上、又は10質量部以上であり、ポリアミド本来の利点を良好に得る観点から、一態様において100質量部以下であり、好ましくは、80質量部以下、又は60質量部以下、又は40質量部以下である。
【0048】
<第一の実施形態のポリフェニレンエーテル>
第一の実施形態の一態様において、樹脂組成物はポリフェニレンエーテルを含む。なお第二及び第三の実施形態において、樹脂組成物がポリフェニレンエーテルを更に含んでもよい。ポリフェニレンエーテルは、下記一般式(1):
【化1】
(式(1)中、R1、R2、R3、及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~7のアルキル基、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基又は少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てているハロ炭化水素オキシ基からなる群から選択される1価の基であり、nは20以上の整数である。)
で表される構造を有する。
【0049】
上記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、塩素原子、及び臭素原子が好ましい。
【0050】
上記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示される「アルキル基」は、炭素数が好ましくは1~6、より好ましくは1~3の、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を示すものとし、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル等が挙げられる。メチル及びエチルが好ましく、メチルがより好ましい。
【0051】
上記式(1)中、R1、R2、R3、及びR4で示されるアルキル基は、置換可能な位置にて、1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。このような置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、炭素数1~6のアルキル基(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、ヘキシル)、アリール基(例えば、フェニル、ナフチル)、アルケニル基(例えば、エテニル、1-プロペニル、2-プロペニル)、アルキニル基(例えば、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニル)、アラルキル基(例えば、ベンジル、フェネチル)、アルコキシ基(例えば、メトキシ、エトキシ)等が挙げられる。
【0052】
上記式(1)中のnは、20以上、又は100以上、又は200以上であってよく、2000以下、又は1000以下、又は400以下であってよい。
【0053】
ポリフェニレンエーテルとしては、特に限定されず、公知のものを用いてもよい。例えば、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-エチル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2-メチル-6-フェニル-1,4-フェニレンエーテル)、ポリ(2,6-ジクロロ-1,4-フェニレンエーテル)等が挙げられ、更に、2,6-ジメチルフェノールと他のフェノール類(例えば、2,3,6-トリメチルフェノール又は2-メチル-6-ブチルフェノール)等のポリフェニレンエーテル共重合体も用いることができる。上記の中でも、好ましくは、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)、2,6-ジメチルフェノールと2,3,6-トリメチルフェノールとの共重合体であり、より好ましくは、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)である。
これらのポリフェニレンエーテルは、単独で用いてよく、2種以上併用してもよい。
【0054】
ポリフェニレンエーテルの極限粘度[η]は、高剛性の樹脂組成物を得る観点から、好ましくは、0.1dl/g以上、又は0.2dl/g以上、又は0.3dl/g以上であり、樹脂組成物に良好な流動性を付与する観点から、好ましくは、1.0dl/g以下、又は0.7dl/g以下、又は0.6dl/g以下、又は0.5dl/g以下である。上記極限粘度は25℃のクロロホルム中で測定される値である。
【0055】
一態様において、ポリフェニレンエーテルは、分散相に存在し、その少なくとも一部は酸変性されていてよい。酸変性は、ポリフェニレンエーテルに変性剤(例えば、α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体等)を反応させることで実現できる。
【0056】
α,β-不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、フラン酸、ペンテン酸、ビニル酢酸、アンゲリカ酸等の一塩基酸、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、エンドシス-ビシクロ[2,2,1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸(ナジック酸)等)の二塩基酸、クエン酸、アコニット酸等の三塩基酸、等を例示できる。
【0057】
α,β-不飽和カルボン酸の誘導体としては、上記のようなα,β-不飽和カルボン酸の酸ハライド、アミド、イミド、酸無水物、エステル等を例示できる。例えば、塩化マレニル、アクリルアミド、マレイミド、N-フェニルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水ナジック酸、無水アコニック酸、(メタ)アクリル酸メチル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、シトラコン酸ジブチル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジグリシジルマレエート等を例示できる。中でも好ましい変性剤の例としては、マレイン酸、クエン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、無水マレイン酸が挙げられ、さらに好ましくは、クエン酸、無水マレイン酸である。
【0058】
ポリフェニレンエーテルの酸変性度は、ポリアミド相中にポリフェニレンエーテルを比較的小さい分散サイズにて分散させてポリアミドとポリフェニレンエーテルとの併用による利点を良好に得る観点から、好ましくは、0.01%以上、又は0.1%以上、又は0.2%以上、又は0.25%以上であり、ポリフェニレンエーテルの使用による高剛性及び低吸水性という利点を良好に得る観点から、好ましくは、10%以下、又は5%以下、又は2%以下、又は1%以下、又は0.7%以下、又は0.6%以下である。本開示のポリフェニレンエーテルは、酸変性度が異なる2種以上のポリマーの混合物であってもよい。この場合、樹脂組成物中のポリフェニレンエーテル全体での酸変性度が上記範囲であることが好ましい。上記酸変性度は、赤外分光測定から算出される付加率である。酸性官能基が無水マレイン酸に由来する場合、ポリフェニレンエーテルと無水マレイン酸の混合物を用いて、マレイン酸由来の1790cm-1のピークについてあらかじめ検量線を作成した後、無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテルの1790cm-1のピーク強度から付加率を計算する。
【0059】
ポリフェニレンエーテルの酸変性方法としては、流動状態(例えば、溶融、又は溶媒への分散若しくは溶解により)のポリフェニレンエーテルに変性剤を反応させる方法、変性剤の共存下、ポリフェニレンエーテルのガラス転移点以下の温度で、粉体状のポリフェニレンエーテルに変性剤を反応させる方法などを例示できる。流動状態のポリフェニレンエーテルに変性剤を反応させる方法の例としては、ポリフェニレンエーテルと変性剤とを、ロールミル、バンバリーミキサー、押出機等で、250℃~350℃で5秒間~30分間溶融混練する方法、ポリフェニレンエーテルを有機溶媒(例えば、トルエン、キシレン、デカリン、テトラリン等)に溶解させた後、変性剤を添加して加熱する方法を例示できる。また、粉体状のポリフェニレンエーテルに変性剤を反応させる方法の例としては、高速攪拌可能な攪拌装置にポリフェニレンエーテルと変性剤を所定量投入し、高速攪拌させたそのせん断発熱、及び/又はジャケットからの伝熱により、内容物温度を160℃~200℃の状態に、少なくとも30秒以上維持する方法などが挙げられる。
【0060】
反応は、ラジカル開始剤の存在下で行っても良い。ラジカル開始剤としては、有機過酸化物(ベンゾイルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、tert-ブチルクミルパーオキシド、クメンハイドロパーオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3等)、アゾ化合物(アゾビスイソブチルニトリル、ジメチルアゾイソブチレート等)が挙げられる。ラジカル開始剤の使用量は、ポリフェニレンエーテル100質量部に対して、例えば0.01質量部~10質量部であってよい。
【0061】
一態様において、ポリフェニレンエーテルは、酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルと酸性官能基を有さないポリフェニレンエーテルとの混合物であってよい。酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルと酸性官能基を有さないポリフェニレンエーテルとの混合割合は、両者の合計を100質量%としたとき、酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルが、樹脂組成物の高剛性及び低吸水性という利点を良好に得る観点、及びセルロースナノファイバーとの親和性を高める観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上、最も好ましくは40質量%以上である。上限は特に限定されず、実質的にすべてのポリフェニレンエーテルが酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルであってもよいが、溶融時の流動性に課題を生じさせない観点から、80質量%以下が望ましい。
【0062】
ポリフェニレンエーテルを含む相は、樹脂組成物中で粒子状の分散相(分散粒子)を形成してよい。この場合、分散粒子径は、数平均粒子径として、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下、最も好ましくは1μm以下である。下限は、特に限定されないが、例えば0.01μmである。高靭性及び物性安定性の観点から、上述の範囲内とすることが好ましい。
【0063】
ポリフェニレンエーテルを含む相は、分散粒子径の均一性が高いことが好ましい。この観点から、ポリフェニレンエーテルの分散粒子全体に占める粒子径1μm以上の分散粒子の体積比率が30体積%以下であることが好ましい。上限は、より好ましくは25体積%であり、さらに好ましくは20体積%であり、さらにより好ましくは15体積%であり、最も好ましくは10体積%である。体積基準での分散粒子径分布では、ごく少数であっても、粗大粒子が存在すると、粒子径1μm以上の分散粒子の体積比率は一気に大きく表現される。上記体積比率が上記範囲内である場合、分散粒子径の均一性が高く好ましい。上記体積比率は、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば2体積%以上、又は5体積%以上であってもよい。
【0064】
ポリフェニレンエーテルを含む相の分散粒子径の均一性を高める手法としては、樹脂組成物の配合成分を押出混練することで樹脂組成物を製造し、かつ押出混練時のスクリュー回転数を高めて配合成分に高いせん断歪を与えることでポリフェニレンエーテルを微分散させる方法、例えばシールリングのような、狭小クリアランスが均一に存在するスクリューパーツを配して配合成分に伸張流動歪を与える手法、溶融ポリマーに特殊な狭小のスリットを通過させ、該スリット部で伸張流動歪を与える方法等が挙げられ、これらのいずれの方法でも構わないが、高いせん断を与える手法では、加工時にポリマー温度が顕著に上昇するため、伸張流動歪を用いた手法がより好ましい。
【0065】
分散形態を観察する方法としては、成形体、ペレット等の形状である樹脂組成物を超薄切片として切削し、リンタングステン酸などでポリアミド相を染色した後、透過型電子顕微鏡で観察する方法、成形体、ペレット等の形状である樹脂組成物の表面を均一に面出しした後、ポリフェニレンエーテルのみを選択的に溶解する溶媒に浸漬し、ポリフェニレンエーテルを抽出し、走査型電子顕微鏡で観察する方法等が挙げられる。得られた画像を画像解析装置で二値化し、分散相の分散粒子(少なくとも無作為に選んだ500個)の径を円相当径として計算し、それぞれの粒子径をカウントすることで、分散粒子の数平均粒子径及び所定粒子径(例えば上記の粒子径1μm以上)の粒子の体積比率とを計算することができる。
【0066】
第一の実施形態において、樹脂組成物100質量%に対するポリフェニレンエーテルの比率は、ポリフェニレンエーテル相による高剛性、低比重及び低吸水性という利点を良好に得る観点から、好ましくは、10質量%以上、又は20質量%以上、又は30質量%以上であり、樹脂組成物中の他の成分による利点を良好に得る観点から、好ましくは、60質量%以下、又は50質量%以下、又は40質量%以下である。
【0067】
また、ポリアミド100質量部に対するポリフェニレンエーテルの量は、ポリフェニレンエーテル相による前述の利点を良好に得る観点から、好ましくは、30質量部以上、又は40質量部以上、又は50質量部以上であり、ポリアミド相中にポリフェニレンエーテル相を分散相として存在させることが容易である点で、好ましくは、150質量部以下、又は120質量部以下、又は100質量部以下である。
【0068】
<第一の実施形態のエラストマー>
第一の実施形態において、樹脂組成物は、第1及び第2のポリマーに加え、エラストマー相を有してよく、一態様において、ポリアミド相及びポリフェニレンエーテル相に加え、エラストマー相を有してよい。エラストマー相を構成するエラストマーは、室温(23℃)において弾性体である物質(具体的には天然又は合成の重合体物質)である。エラストマー相が更に存在する場合、樹脂組成物の靭性、及び伸び(特に低温環境下での伸び)が良好になり好ましい。
【0069】
第一の実施形態の一態様において、樹脂組成物はポリアミド相(連続相)とポリフェニレンエーテル相(分散相)とを有するところ、エラストマーを更に用いる場合、当該エラストマーは、本来的に、ポリアミドよりもポリフェニレンエーテルに対して、より高い親和性を有していることから、ポリフェニレンエーテル相中にエラストマー相が存在するように(すなわち、ポリフェニレンエーテル相が連続相、エラストマー相が分散相となるように)エラストマー相を分布させることができる。すなわち、エラストマーを更に含む樹脂組成物においては、ポリアミド相中にポリフェニレン相が比較的小さいサイズで分散しているとともに、ポリフェニレン相中にエラストマー相が更に分散している。このような分散形態を得るには、例えばポリアミドと、酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルと、酸性官能基を有さないエラストマーを用いることが挙げられる。
【0070】
またポリアミド相中にエラストマー相が分散し、エラストマー相内に更に第1のポリマーの相又はポリフェニレンエーテル相を分布させることもできる。このような分散形態を得るには、例えばポリアミドと、酸性官能基を有さないポリフェニレンエーテルと、酸性官能基を有するエラストマーを用いることが挙げられる。
【0071】
またポリアミド相中に、第2のポリマーの相又はポリフェニレンエーテル相と、エラストマー相とをそれぞれ単独で分布させることもできる。このような分散形態を得るには、例えばポリアミドと、酸性官能基を有する第2のポリマー又は酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルと、酸性官能基を有するエラストマーを用いることが挙げられる。
【0072】
なお、エラストマー相が更に存在する場合においても、ポリフェニレンエーテル相の分散サイズの好適例は前述と同様であってよい。また、エラストマー相は、ポリフェニレンエーテル相中に分散粒子として存在してもよいし、ポリアミド相中に分散粒子として存在してもよい。この場合の好ましい分散粒子径は、数平均粒子径として、好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下、最も好ましくは1μm以下である。下限は、特に限定されないが、例えば0.01μmである。良好な靭性及び伸びを発揮させる観点から、上述の範囲内とすることが好ましい。
【0073】
エラストマーにおいては、分散粒子径の均一性が高いことが好ましい。この観点から、エラストマーの分散粒子全体に占める粒子径3μm以上の分散粒子の体積比率が30体積%以下であることが好ましい。上限は、より好ましくは25体積%であり、さらに好ましくは20体積%であり、さらにより好ましくは15体積%であり、最も好ましくは10体積%である。上記体積比率は、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば2体積%以上、又は5体積%以上であってもよい。エラストマーの分散粒子径の均一性を高める手法としては、樹脂組成物の配合成分を押出混練することで樹脂組成物を製造し、かつ押出混練時のスクリュー回転数を高めて配合成分に高いせん断歪を与えることでエラストマーを微分散させる方法が挙げられる。
【0074】
エラストマーの具体例としては、天然ゴム、共役ジエン化合物重合体、芳香族化合物-共役ジエン共重合体、芳香族化合物-共役ジエン共重合体の水素添加物、ポリオレフィン、ポリエステル系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、コアシェル構造を有するエラストマー等が挙げられる。一態様において、エラストマーは、ポリアミドとは異種のポリマーである(すなわち、ポリアミドエラストマーではない)。これらの中でも、後述の酸性官能基の変性反応の容易性の観点から、芳香族化合物-共役ジエン共重合体及びその水素添加物、ポリオレフィン、並びに、コアシェル構造を有するエラストマーが好ましい。上記芳香族化合物-共役ジエン共重合体及びその水素添加物としては、芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体及びその水素添加物がより好ましく、上記ポリオレフィンとしては、エチレンとα-オレフィンとの共重合体がより好ましい。
【0075】
一態様において、エラストマーは、エチレン-αオレフィン共重合体、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体、及び芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのブロック共重合体の水素添加物からなる群より選ばれる1種以上である。
【0076】
本開示で、芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体とは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)から構成されるブロック共重合体である。各ブロックの結合形式がAB型、ABA型、ABAB型のいずれかであるブロック共重合体が、衝撃強度発現の観点から好ましく、より好ましくは、ABA型、又はABAB型である。
【0077】
また、ブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物ユニットと共役ジエン化合物ユニットとの質量比は、10/90~70/30であることが望ましい。より好ましくは、15/85~55/45であり、最も好ましくは20/80~45/55である。更に、これらは芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との質量比が異なるものを2種以上ブレンドしても構わない。芳香族ビニル化合物の具体例としてはスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもスチレンが特に好ましい。
【0078】
共役ジエン化合物の具体例としては、ブタジエン、イソプレン、ピペリレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられ、これらから選ばれた1種以上の化合物が用いられるが、中でもブタジエン、イソプレン及びこれらの組み合わせが好ましく、特に、ブタジエンが好ましい。ブロック共重合体の共役ジエン化合物としてブタジエンを使用する場合は、ポリブタジエンブロック部分のミクロ構造としては、ソフトセグメントの結晶化抑制の観点から、1,2-ビニル含量、又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量が、モル基準で、5~80%が好ましく、さらには10~50%が好ましく、15~40%が最も好ましい。
【0079】
芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体とは、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロックと共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロックから構成されるブロック共重合体であり、実質的に水素添加処理を施していないブロック共重合体をいう。芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体の水素添加物とは、上述の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体を水素添加処理することにより、ジエン化合物を主体とする重合体ブロックの脂肪族二重結合を0%超~100%の範囲で制御したものをいう。該ブロック共重合体の水素添加物の水素添加率は、加工時の熱劣化抑制の観点から、好ましくは50%以上であり、より好ましくは80%以上、最も好ましくは98%以上であり、低温靭性の観点からは、好ましくは50%以下であり、より好ましくは20%以下、最も好ましくは0%(すなわち芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体)である。
【0080】
また、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のブロック共重合体及びその水素添加物のそれぞれの分子量としては、衝撃強度と流動性の両立の観点から、数平均分子量(Mn)が、10,000~500,000のものが好ましく、40,000~250,000のものが最も好ましい。本開示で、数平均分子量とは、特記がない限り、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ装置で、クロロホルムを溶媒とし、40℃の測定温度で、ポリスチレンスタンダードで換算して測定した値である。
【0081】
これら芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物のブロック共重合体は、結合形式の異なるもの、分子量の異なるもの、芳香族ビニル化合物種の異なるもの、共役ジエン化合物種の異なるもの、1,2-ビニル含量又は1,2-ビニル含量と3,4-ビニル含量との合計量の異なるもの、芳香族ビニル化合物成分含有量の異なるもの、水素添加率の異なるもの等を2種以上を混合して用いても構わない。水素添加率が異なるものの混合物における、当該混合物の好ましい水素添加率は、上述の通りである。
【0082】
また、ポリオレフィンとしては、耐衝撃性発現の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体が好適に使用可能である。エチレン単位と共重合できるモノマーとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、4-メチルペンテン-1、ヘキセン-1、ヘプテン-1、オクテン-1、ノネン-1、デセン-1、ウンデセン-1、ドデセン-1、トリデセン-1、テトラデセン-1、ペンタデセン-1、ヘキサデセン-1、ヘプタデセン-1、オクタデセン-1、ノナデセン-1、又はエイコセン-1、イソブチレンなどの脂肪族置換ビニルモノマー、及び、スチレン、置換スチレンなどの芳香族系ビニルモノマー、酢酸ビニル、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル、グリシジルアクリル酸エステル、グリシジルメタアクリル酸エステル、ヒドロキシエチルメタアクリル酸エステルなどのエステル系ビニルモノマー、アクリルアミド、アリルアミン、ビニル-p-アミノベンゼン、アクリロニトリルなどの窒素含有ビニルモノマー、ブタジエン、シクロペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、イソプレンなどのジエンなどを挙げることができる。
【0083】
好ましくはエチレンと炭素数3~20のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、更に好ましくはエチレンと炭素数3~16のα-オレフィン1種以上とのコポリマーであり、最も好ましくはエチレンと炭素数3~12のα-オレフィン1種以上とのコポリマーである。また、エチレン-α-オレフィン共重合体の分子量としては、耐衝撃性発現の観点から、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ測定装置で、1,2,4-トリクロロベンゼンを溶媒とし、140℃、ポリスチレンスタンダードで測定した数平均分子量(Mn)が10,000以上であることが好ましく、より好ましくは10,000~100,000であり、更に好ましくは20,000~60,000である。また、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量:Mw/Mn)は、流動性と耐衝撃性両立の観点から、3以下が好ましく、さらには1.8~2.7がより好ましい。
【0084】
また、エチレン-α-オレフィン共重合体の好ましいエチレン単位の含有率は、加工時の取り扱い性の観点から、エチレン-α-オレフィン共重合体全量に対し30~95質量%である。
【0085】
これら好ましいエチレン-α-オレフィン共重合体は、例えば、特公平4-12283号公報、特開昭60-35006号公報、特開昭60-35007号公報、特開昭60-35008号公報、特開平5-155930号公報、特開平3-163088号公報、米国特許第5272236号明細書等に記載されている製造方法で製造可能である。
【0086】
本開示で、コアシェル構造を有するエラストマーとしては、粒子状のゴムであるコアと、当該コアの外部に形成された、ガラス質のグラフト層であるシェルとを持つコア-シェル型のエラストマーが挙げられる。コアとしてのゴムの成分としては、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン・アクリル複合系ゴム等が好適に使用可能である。また、シェルとしては、スチレン樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリル樹脂等のガラス状高分子が、好適である。これらの中でもポリアミドとの相溶性の観点から、ブタジエンゴムのコアと、アクリル系樹脂のシェルとを有するコアシェル構造を有するエラストマーが好適に使用できる。
【0087】
一態様においては、エラストマーの少なくとも一部が酸性官能基を有している。本開示で、エラストマーが酸性官能基を有しているとは、エラストマーの分子骨格中に、酸性官能基が化学結合を介して付加していることを意味する。また本開示で、酸性官能基とは、塩基性官能基などと反応可能な官能基を意味し、具体例としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボキシレート基、スルホ基、酸無水物基等が挙げられる。
【0088】
エラストマー中の酸性官能基の付加量は、酸性官能基を有する第2のポリマー又は酸性官能基を有するポリフェニレンエーテルとの相溶性の観点から、エラストマー100質量%基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。なお、酸性官能基の数は、あらかじめ酸性物質を混合した検量線用サンプルを赤外吸収スペクトル測定装置により測定し、酸の特性吸収帯を用いて作成しておいた検量線を元に、当該試料を測定することで得られる値である。
【0089】
酸性官能基を有するエラストマーとしては、アクリル酸等を共重合成分として用いて形成した層をシェルとして有するコアシェル構造を有するエラストマー、アクリル酸等をモノマーとして含むエチレン-αオレフィン共重合体、ポリオレフィン、芳香族化合物-共役ジエン共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエン共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸又はその誘導体をグラフトさせた変性物であるエラストマー等が挙げられる。
【0090】
好ましい態様において、エラストマーは、酸無水物変性されたエラストマーである。
【0091】
これらの中では、ポリオレフィン、芳香族化合物-共役ジエン共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエン共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸又はその誘導体をグラフトさせた変性物がより好ましく、中でも特にエチレン-α-オレフィンの共重合体、又は芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体をグラフトさせた変性物が特に好ましい。
【0092】
α,β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、及び無水フマル酸が挙げられ、これらの中で無水マレイン酸が特に好ましい。
【0093】
一態様において、エラストマーは、酸性官能基を有するエラストマーと酸性官能基を有さないエラストマーとの混合物であってよい。酸性官能基を有するエラストマーと酸性官能基を有さないエラストマーとの混合割合は、両者の合計を100質量%としたとき、酸性官能基を有するエラストマーが、樹脂組成物の高靭性及び物性安定性を良好に維持する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上、最も好ましくは40質量%以上である。上限は特に限定されず、実質的にすべてのエラストマーが酸性官能基を有するエラストマーであってもよいが、流動性に課題を生じさせない観点から、80質量%以下が望ましい。
【0094】
第一の実施形態において、エラストマー相が更に存在する場合、樹脂組成物100質量%に対するエラストマーの比率は、樹脂組成物の靭性及び伸びを良好に向上させる観点から、好ましくは、3質量%以上、又は5質量%以上、又は8質量%以上であり、樹脂組成物の剛性を高くするとともに熱膨張係数を低くする観点から、好ましくは、40質量%以下、又は30質量%以下、又は10質量%以下である。
【0095】
前記エラストマー相が更に存在する場合、ポリアミドと第2のポリマー又はポリフェニレンエーテルとの合計100質量部に対するエラストマーの量は、樹脂組成物の靭性及び伸びを良好に向上させる観点から、好ましくは、1質量部以上、又は2質量部以上、又は3質量部以上、又は4質量部以上、又は5質量部以上であり、樹脂組成物の剛性を高くするとともに熱膨張係数を低くする観点から、好ましくは、50質量部以下、又は40質量部以下、又は35質量部以下、又は30質量部以下、又は25質量部以下である。
【0096】
前記エラストマー相が更に存在する場合、第2のポリマー又はポリフェニレンエーテル100質量部に対するエラストマーの量は、樹脂組成物の靭性及び伸びを良好に向上させる観点から、好ましくは、10質量部以上、又は15質量部以上、又は20質量部以上であり、第2のポリマーの相又はポリフェニレンエーテル相中にエラストマー相を分散相として存在させることが容易である点で、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は70質量部以下、又は50質量部以下、又は40質量部以下である。
【0097】
<第二の実施形態のエラストマー>
第二の実施形態において、樹脂組成物は、芳香族化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体(すなわち、芳香族ビニル化合物を主体とする重合体ブロック(A)と共役ジエン化合物を主体とする重合体ブロック(B)から構成されるブロック共重合体)及び/又はその誘導体であるエラストマー(すなわち、室温(23℃)において弾性体である物質(具体的には天然又は合成の重合体物質))を含む。各ブロックの結合形式がAB型、ABA型、ABAB型のいずれかであるブロック共重合体が、衝撃強度発現の観点から好ましく、より好ましくは、ABA型、又はABAB型である。また、芳香族化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体の誘導体とは、当該ブロック共重合体の主要な構造を保持しつつ変性、水素添加等による構造の相違が生じているポリマーを意味し、一態様においては、芳香族化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体の変性物(例えば、酸変性物等)及び/又は水素添加物である。
【0098】
ブロック共重合体の構造、並びにブロック共重合体中の芳香族ビニル化合物ユニットと共役ジエン化合物ユニットとの構造及びこれらの質量比の好適例は、第一の実施形態においてブロック共重合体に関して説明したのと同様であってよい。
【0099】
第二の実施形態に係る樹脂組成物において、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及び/又はその誘導体であるエラストマーは、当該樹脂組成物に高い靭性とともに低い熱膨張率を付与できることが予想外にも見出された。理論に拘束されることを望まないが、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその誘導体においては、分子中の二重結合によって分子同士が架橋し得ることから、分子運動性が低くなると考えられる。ポリアミドとエラストマーとの組み合わせを含む樹脂組成物において、エラストマーは、ドメインを形成して靭性向上に寄与する一方で、ポリアミドと比べて熱膨張し易いことから樹脂組成物の熱膨張性を増大させる一因となる。しかし、第二の実施形態のエラストマーによれば、上記のようなエラストマー分子の架橋に起因して樹脂組成物の熱膨張性を低く抑えることができると考えられる。このように、第二の実施形態のエラストマーを含む樹脂組成物は、高靭性及び低熱膨張性という相反する特性を予想外にも高度に併せ持つことができる。
【0100】
また、エラストマーが酸変性物を含む場合には、上記のような分子同士の架橋の形成が、セルロースと酸性官能基との反応の抑制にも寄与する。この場合、セルロースにエラストマーが付着することによる樹脂組成物の熱膨張率の増大(すなわち、セルロースを主としてポリアミド相中に存在させることが難しくなることによる熱膨張率低減作用の低下)が生じ難いという利点も得られる。
【0101】
芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその誘導体の各々の数平均分子量(Mn)としては、衝撃強度と流動性の両立の観点から、10,000~500,000が好ましく、40,000~250,000がより好ましい。
【0102】
一態様において、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体の誘導体は、当該ブロック共重合体の酸変性物を含む。一態様においては、ブロック共重合体の分子骨格中に、本開示の酸性官能基が化学結合を介して付加している。
【0103】
酸変性物としては、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体又はその水素添加物に、過酸化物の存在下又は非存在下で、α,β-不飽和ジカルボン酸又はその誘導体をグラフトさせた変性物等が挙げられる。好ましい態様において、酸変性物は、酸無水物変性物である。α,β-不飽和ジカルボン酸及びその誘導体の具体例としては、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、及び無水フマル酸が挙げられ、これらの中で無水マレイン酸が特に好ましい。
【0104】
エラストマーは、酸性官能基を有するポリマーと酸性官能基を有さないポリマーとの混合物であってよく、又は、酸性官能基を有するポリマーで構成されていてよい。酸性官能基を有するポリマー(酸変性物)と酸性官能基を有さないポリマー(非酸変性物)との両者の合計を100質量%としたとき、酸変性物の比率は、第二の実施形態のエラストマーによる靭性向上効果を良好に得る観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらにより好ましくは30質量%以上、最も好ましくは40質量%以上である。酸変性物の比率の上限は特に限定されず、第二の実施形態のエラストマーが実質的に酸変性物のみで構成されてもよいが、樹脂組成物の流動性に課題を生じさせない観点から、80質量%以下が望ましい。
【0105】
酸変性物中の酸性官能基の量は、ポリアミドとの相溶性の観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは2質量%以下である。なお、酸性官能基の数は、あらかじめ酸性物質を混合した検量線用サンプルを赤外吸収スペクトル測定装置により測定し、酸の特性吸収帯を用いて作成しておいた検量線を元に、当該試料を測定することで得られる値である。
【0106】
一態様においては、第二の実施形態のエラストマー総量100質量%に対する酸性官能基の量が、酸変性物中の酸性官能基の量として上記で例示した範囲にあることが好ましい。
【0107】
樹脂組成物中、ポリアミド100質量部に対するエラストマーの量は、好ましくは1~50質量部の範囲内である。上限は、より好ましくは40質量部、より好ましくは35質量部、さらにより好ましくは30質量部、最も好ましくは25質量部である。樹脂組成物の剛性及び耐熱性を良好に維持するためには上述の上限以下とすることが望ましい。また、下限は、より好ましくは2質量部であり、さらに好ましくは3質量部であり、さらにより好ましくは4質量部、最も好ましくは5質量部である。樹脂組成物の靭性及び物性安定性を高めるためには、上述の下限以上であることが好ましい。
【0108】
エラストマー相が樹脂組成物中で粒子状の分散相(分散粒子)を形成している場合の分散粒子径は、高靭性及び物性安定性の観点から、第一の実施形態のエラストマー相と同様の範囲内とすることが好ましい。
【0109】
エラストマーは、分散粒子径の均一性が高いことが好ましい。この観点から、エラストマーの分散粒子全体に占める粒子径1μm以上の分散粒子の体積比率が30体積%以下であることが好ましい。上限は、より好ましくは25体積%であり、さらに好ましくは20体積%であり、さらにより好ましくは15体積%であり、最も好ましくは10体積%である。体積基準での分散粒子径分布では、ごく少数であっても、粗大粒子が存在すると、粒子径1μm以上の分散粒子の体積比率は一気に大きく表現される。上記体積比率が上記範囲内である場合、分散粒子径の均一性が高く好ましい。上記体積比率は、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば2体積%以上、又は5体積%以上であってもよい。
【0110】
エラストマーの分散粒子径の均一性を高める手法としては、樹脂組成物の配合成分を押出混練することで樹脂組成物を製造し、かつ押出混練時のスクリュー回転数を高めて配合成分に高いせん断歪を与えることでエラストマーを微分散させる方法が挙げられる。
【0111】
分散形態を観察する方法としては、成形体、ペレット等の形状である樹脂組成物を超薄切片として切削し、リンタングステン酸などでポリアミド相を染色した後、透過型電子顕微鏡で観察する方法、成形体、ペレット等の形状である樹脂組成物の表面を均一に面出しした後、エラストマーのみを選択的に溶解する溶媒に浸漬し、エラストマーを抽出し、走査型電子顕微鏡で観察する方法等が挙げられる。得られた画像を画像解析装置で二値化し、分散相の分散粒子(少なくとも無作為に選んだ500個)の径を円相当径として計算し、それぞれの粒子径をカウントすることで、分散粒子の数平均粒子径及び所定粒子径(例えば上記の粒子径1μm以上)の粒子の体積比率とを計算することができる。
【0112】
第二の実施形態において、樹脂組成物は、本発明の利点を損なわない範囲で、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及び/又はその誘導体以外のエラストマー成分を更に含んでよい。
【0113】
<第三の実施形態のエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物>
第三の実施形態において、樹脂組成物はエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物を含む。また、第一及び第二の実施形態において、樹脂組成物がエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物を更に含んでもよい。エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物は、自身が強度及び寸法安定性に優れる他、水酸基を有しポリアミド及びセルロースとの親和性に優れる点等の寄与により、ポリアミドとセルロースとを含む樹脂組成物に対して、高い破断歪(すなわち優れた靭性)を付与し得る。また、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物は、セルロースによってもたらされる利点、すなわち、低比重であるとともに、樹脂組成物の線熱膨張係数及び物性異方性の低減効果に優れるという利点を損なわない点でも有利である。したがって、第三の実施形態の樹脂組成物は、高靭性及び低熱膨張性という相反する特性の高度な両立という特異な利点を有し得る。
【0114】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物は、エチレンとビニルエステルとを共重合して得た共重合体にアルカリ性塩を添加して当該共重合体をケン化することで得られる化合物であり、エチレン単位及びビニルアルコール単位を含む。エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物は、ケン化がされていない部位として、ビニルエステル単位を含み得るが、典型的な態様において、ビニルエステル単位を実質的に含まない。
【0115】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物を構成する全モノマー単位100モル%中、ビニルアルコール単位(具体的には、ビニルエステル単位のケン化によって生じた構造単位)の比率は、樹脂組成物の破断歪の向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、60モル%以上、又は65モル%以上、又は70モル%以上、又は74モル%以上、又は76モル%以上であり、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物中にエチレン単位も好適量含有させる観点から、好ましくは、95モル%以下、又は90モル%以下、又は80モル%以下である。
【0116】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物を構成する全モノマー単位100モル%中、エチレン単位の比率は、樹脂組成物の製造時の加工性、吸水性等の観点から、好ましくは、5モル%以上、又は10モル%以上、又は20モル%以上であり、樹脂組成物の破断歪の向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、40モル%以下、又は35モル%以下、又は30モル%以下、又は26モル%以下、又は24モル%以下である。
【0117】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物中の全モノマー単位100モル%中、ビニルエステル単位(具体的には、エチレンとビニルエステルとの共重合後のケン化の際にケン化がされなかった単位)の比率は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物による利点を良好に得る観点から、好ましくは、20モル%以下、又は10モル%以下、又は5モル%以下、又は1モル%以下である。当該比率は、理想的には0モル%であるが、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物の製造容易性の観点から、例えば、0.01モル%以上、又は0.1モル%以上、又は0.5モル%以上であってもよい。
【0118】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物のケン化度は、樹脂組成物の破断歪を良好にする観点から、好ましくは、90モル%以上、又は95モル%以上、又は99モル%以上である。ケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物の製造容易性の観点から、例えば、99.99モル%以下、又は99.9モル%以下、又は99.5モル%以下であってよい。ケン化度は、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物中の、ビニルアルコール単位の数を、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の合計数で除した値として求められる。
【0119】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物中の各構造単位の量は、核磁気共鳴(NMR)法で確認できる。
【0120】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物は、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン単位、ビニルアルコール単位及びビニルエステル単位に加え、追加の構造単位を含んでもよい。追加の構造単位としては:プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類;2-プロペン-1-オール、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、5-ヘキセン-1,2-ジオール等のヒドロキシ基含有α-オレフィン類;これらのアシル化物又はエステル化物;等が挙げられる。当該エステル化物としては、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、特に、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン等が挙げられる。また、2-メチレンプロパン-1,3-ジオール、3-メチレンペンタン-1,5-ジオール等のヒドロキシアルキルビニリデン類;1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシアルキルビニリデンジアセテート類;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類又はその塩、炭素数1~18のモノ又はジアルキルエステル類;アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン又はその酸塩又はその4級塩等のアクリルアミド類;メタクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸又はその塩;メタクリルアミドプロピルジメチルアミン、その酸塩又はその4級塩等のメタクリルアミド類;N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類;アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類;炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル類;トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類;酢酸アリル、塩化アリル、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルエチレンカーボネート、グリセリンモノアリルエーテル等を例示できる。エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物を構成する全モノマー単位100モル%中、追加の構造単位のモル比率は、好ましくは、20モル%以下、又は15モル%以下、又は10モル%以下である。当該モル比率は、例えば、1モル%以上、又は3モル%以上、又は5モル%以上であってよい。
【0121】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物の製造方法は限定されず、エチレンモノマーとビニルエステルモノマーとを公知の重合方法(例えば溶液重合法)でラジカル重合した後、公知のケン化方法でケン化してよい。
【0122】
ビニルエステルモノマーとしては、脂肪族ビニルエステル及び芳香族ビニルエステルを例示できる。ビニルエステルの具体的な好適例としては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、安息香酸ビニル等を例示できる。
【0123】
ケン化には、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルカリ性塩を使用できる。
【0124】
エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物は、市販品であってもよい。市販品としては、ソアノール V2504(エチレン比率25モル%)、ソアノールDT2904(エチレン比率29モル%)、ソアノール DC3212(エチレン比率32モル%)(以上、(株)三菱ケミカルホールディングスから入手可能)、エバール M100B(エチレン比率24モル%)、エバール L104B(エチレン比率27モル%)、エバール C109B(エチレン比率=35モル%)(以上、(株)クラレから入手可能)等が挙げられる。
【0125】
樹脂組成物において、ポリアミド100質量部に対するエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物の量は、破断歪向上効果を良好に得る観点から、好ましくは、1質量部以上、又は5質量部以上、又は10質量部以上、又は20質量部以上、又は30質量部以上であり、靭性の観点から、好ましくは、100質量部以下、又は80質量部以下、又は60質量部以下、又は50質量部以下、又は40質量部以下である。
【0126】
樹脂組成物の相形態は、ポリアミドが連続相を形成し、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物が分散相を形成する形態、ポリアミドが分散相を形成し、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物が連続相を形成する形態、及びポリアミドとエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物との両者が連続相を形成する形態(すなわち共連続相構造)があり得るが、ポリアミドが連続相を形成し、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物が分散相を形成する形態が、組成物としての耐熱性を良好に発現し、高靭性を達成する点で好ましい。
【0127】
樹脂組成物において、セルロース100質量部に対するエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物の量は、破断歪向上効果を良好に得る観点から、好ましくは50質量部以上、又は100質量部以上、又は200質量部以上、又は300質量部以上であり、成形加工性及びコストの観点から、好ましくは5000質量部以下、又は1000質量部以下、又は700質量部以下、又は500質量部以下である。
【0128】
<第三の実施形態のエラストマー>
第三の実施形態において、樹脂組成物は、エラストマーを更に含んでよい。樹脂組成物がエラストマーを含む場合、樹脂組成物の相形態は、ポリアミドが連続相を形成し、エラストマーが分散相を形成する形態、ポリアミドが分散相を形成し、エラストマーが連続相を形成する形態、及びポリアミドとエラストマーとの両者が連続相を形成する形態(すなわち共連続相構造)があり得るが、ポリアミドが連続相を形成し、エラストマーが分散相を形成する形態が、組成物としての耐熱性を良好に発現し、高剛性、低線膨張を達成する点で好ましい。
【0129】
セルロースのうち、エラストマー相以外の相に存在するセルロースの比率の下限は、低熱膨張性、低異方性、高靭性という相反する特性を同時にかつ高度に達成する観点から、好ましくは、50質量%超、又は60質量%以上、又は70質量%以上、又は75質量%以上、又は80質量%以上、又は100質量%(すなわち実質的にすべてのセルロースがポリアミド相に存在すること)である。上記比率は、樹脂組成物の製造容易性の点から、例えば99質量%以下、又は98質量%以下であってもよい。
【0130】
セルロースの50質量%超がエラストマー相以外の相に存在することを確認する方法の例としては、例えば、エラストマー相以外の相とエラストマー相とでセルロースの存在比率が大きく異なる場合は、定量化するまでもなく、樹脂組成物を透過型電子顕微鏡で撮影し、エラストマー相以外の相中に存在するセルロースの量と、エラストマー相に存在するセルロースの量とを確認することで容易に確認できる。定量化が必要な場合は、樹脂組成物を、約0.1~2μm厚みでスライスしフィルム状サンプルを得る。該サンプルを、エラストマー成分は溶解させるがエラストマー相以外の成分を溶解させない溶媒(例えばクロロホルム、トルエン等)中に浸漬しエラストマー相を溶出させ、溶出液を濃縮した後、超遠心分離を実施し、エラストマー相に存在するセルロースを分離し、その後、溶媒での洗浄を少なくとも3回程度繰り返し、乾燥し、エラストマー相に存在するセルロース量を測定する。
【0131】
また、樹脂組成物の相形態を観察する方法としては、成形体、ペレット等の形状である樹脂組成物を超薄切片として切削し、リンタングステン酸などでポリアミド相を染色した後、透過型電子顕微鏡で観察する方法、成形体、ペレット等の形状である樹脂組成物の表面を均一に面出しした後、エラストマーのみを選択的に溶解する溶媒に浸漬し、エラストマーを抽出し、走査型電子顕微鏡で観察する方法、等が挙げられる。分散相(例えば後述の分散粒子)のサイズは、得られた画像を画像解析装置で二値化し、少なくとも無作為に選んだ500個の径を円相当径として計算し、それぞれの粒子径をカウントすることで求めることができる。
【0132】
エラストマーは、樹脂組成物の靭性の一層の向上に寄与する。エラストマーの分子構造、各種特性(分子量等)及び使用態様(配合量等)の好適例は、第一及び第二の実施形態のエラストマーとして例示したのと同様であってよく、第一の実施形態で例示した芳香族化合物-共役ジエン共重合体及びその水素添加物、ポリオレフィン、及び、コアシェル構造を有するエラストマーが好ましい。芳香族化合物-共役ジエン共重合体及びその水素添加物としては、第一の実施形態で例示した芳香族化合物-共役ジエンブロック共重合体及びその水素添加物がより好ましく、ポリオレフィンとしては、エチレンとα-オレフィンとの共重合体がより好ましい。
【0133】
エラストマーは、その少なくとも一部に酸性官能基を有することが好ましい。酸性官能基を有するエラストマーの具体例は、第一及び第二の実施形態で例示したのと同様であってよい。エラストマー中の酸性官能基の付加量は、ポリアミドとの相溶性の観点から、第一及び第二の実施形態で例示したのと同様であってよい。
【0134】
例えば、樹脂組成物中、ポリアミド100質量部に対するエラストマーの量は、樹脂組成物の靭性及び物性安定性を良好にする観点から、好ましくは、1質量部以上、又は2質量部以上、又は3質量部以上、又は4質量部以上、又は5質量部以上であり、樹脂組成物の剛性及び耐熱性を良好にする観点から、好ましくは、50質量部以下、又は40質量部以下、又は35質量部以下、又は30質量部以下、又は25質量部以下である。
【0135】
エラストマーは、樹脂組成物中で粒子状の分散相(分散粒子)を形成していてよい。この場合の分散粒子径は、エラストマーによる樹脂組成物の靭性及び物性安定性の向上効果を良好に得る観点、及び樹脂組成物の製造容易性の観点から、第一及び第二の実施形態のエラストマーと同様であってよい。
【0136】
エラストマーの分散粒子径の均一性が高いことが、樹脂組成物に対する特性向上効果を良好に得る点で好ましい。エラストマーの分散粒子全体に占める粒子径1μm以上の分散粒子の好ましい体積比率及びその調整方法は、第二の実施形態のエラストマーと同様であってよい。
【0137】
芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその水素添加物は、分子中の二重結合によって分子同士が架橋し得ることから、分子運動性が低くなると考えられる。ポリアミドとエラストマーとの組み合わせを含む樹脂組成物において、エラストマーは、ドメインを形成して靭性向上に寄与する一方で、ポリアミドと比べて熱膨張し易いことから樹脂組成物の熱膨張性を増大させる一因となる。しかし、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体及びその水素添加物は、エラストマー分子の架橋に起因して樹脂組成物の熱膨張性を低く抑えることができると考えられる。このようなエラストマーは、高靭性及び低線熱膨張性の両立において有利である。
【0138】
また、エラストマーが酸変性物を含む場合には、上記のような分子同士の架橋の形成が、セルロースと酸性官能基との反応の抑制にも寄与する。この場合、セルロースにエラストマーが付着することによる樹脂組成物の線熱膨張率の増大(すなわち、セルロースを主としてポリアミド相中に存在させることが難しくなることによる熱膨張率低減作用の低下)が生じ難いという利点も得られる。
【0139】
<セルロース>
[第一の実施形態のセルロース]
第一の実施形態において、樹脂組成物はセルロースを含む。セルロースは、一態様において繊維状セルロースを含み、一態様において繊維状セルロースである。セルロースは、一態様においてセルロースナノファイバーを含み、一態様においてセルロースナノファイバーである。セルロースの原料としては、天然セルロース及び再生セルロースが挙げられる。天然セルロースとしては、木材種(広葉樹又は針葉樹)から得られる木材パルプ、非木材種(竹、麻系繊維、バガス、ケナフ、リンター等)から得られる非木材パルプ、及びこれらの精製パルプ(精製リンター等)等が使用できる。非木材パルプとしては、コットンリンターパルプを含むコットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、ワラ由来パルプ等を使用できる。コットン由来パルプ、麻由来パルプ、バガス由来パルプ、ケナフ由来パルプ、竹由来パルプ、及びワラ由来パルプは各々、コットンリント、コットンリンター、麻系のアバカ(例えば、エクアドル産又はフィリピン産のもの)、ザイサル、バガス、ケナフ、竹、ワラ等の原料から、蒸解処理による脱リグニン等の精製工程、漂白工程等を経て得られる精製パルプを原料とするセルロースを挙げることができる。
【0140】
例えば、セルロースナノファイバーは、上述のパルプを100℃以上の熱水等で処理し、ヘミセルロース部分を加水分解して脆弱化したのち、高圧ホモジナイザー、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の粉砕法により解繊して得ることができる。セルロースナノファイバーの径は、一態様において、2~1000nmであり、好ましくは4nm以上、又は5nm以上、又は10nm以上、又は15nm以上、又は20nm以上、又は50nm以上、又は100nm以上であり、好ましくは500nm以下、又は450nm以下、又は400nm以下、又は350nm以下、又は300nm以下、又は250nm以下、又は200nm以下である。
【0141】
第一の実施形態において、セルロースの各々の長さ、径、及びL/D比は、セルロースの水分散液を水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert-ブタノール等)で0.01~0.1質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本の繊維状物質が観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本の繊維状物質の長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。セルロースについて、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出する。
【0142】
なお、後述の樹脂組成物中のセルロースの長さ、径、及びL/D比は、固体である樹脂組成物を測定サンプルとして、上述の測定方法により測定することで確認することができる。又は、樹脂組成物中のセルロースの長さ、径、及びL/D比は、樹脂組成物の樹脂成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に樹脂組成物中の樹脂成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、水溶性溶媒(例えば、水、エタノール、tert-ブタノール等)で置換し、0.01~0.1質量%分散液を調製し、高剪断ホモジナイザー(例えばIKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)で再分散する。再分散液をマイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとして上述の測定方法により測定することで確認することができる。この際、測定するセルロースは無作為に選んだ100本以上での測定を行う。
【0143】
セルロースの結晶化度は、好ましくは55%以上である。結晶化度がこの範囲にあると、セルロース自体の力学物性(強度、寸法安定性)が高いため、セルロースを樹脂に分散した際に、樹脂組成物の強度、寸法安定性が高い傾向にある。より好ましい結晶化度の下限は、60%であり、さらにより好ましくは70%であり、最も好ましくは80%である。セルロースの結晶化度についても上限は特に限定されず、高い方が好ましいが、生産上の観点から好ましい上限は99%である。
【0144】
植物由来のセルロースのミクロフィブリル同士の間、及びミクロフィブリル束同士の間には、ヘミセルロース等のアルカリ可溶多糖類、及びリグニン等の酸不溶成分が存在する。ヘミセルロースはマンナン、キシラン等の糖で構成される多糖類であり、セルロースと水素結合して、ミクロフィブリル間を結びつける役割を果たしている。またリグニンは芳香環を有する化合物であり、植物の細胞壁中ではヘミセルロースと共有結合していることが知られている。セルロース中のリグニン等の不純物の残存量が多いと、加工時の熱により変色をきたすことがあるため、押出加工時及び成形加工時の樹脂組成物の変色を抑制する観点からも、セルロースの結晶化度は上述の範囲内にすることが望ましい。
【0145】
ここでいう結晶化度は、セルロースがセルロースI型結晶(天然セルロース由来)である場合には、サンプルを広角X線回折により測定した際の回折パターン(2θ/deg.が10~30)からSegal法により、以下の式で求められる。
結晶化度(%)=([2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]-[2θ/deg.=18の非晶質に起因する回折強度])/[2θ/deg.=22.5の(200)面に起因する回折強度]×100
【0146】
また結晶化度は、セルロースがセルロースII型結晶(再生セルロース由来)である場合には、広角X線回折において、セルロースII型結晶の(110)面ピークに帰属される2θ=12.6°における絶対ピーク強度h0 とこの面間隔におけるベースラインからのピーク強度h1 とから、下記式によって求められる。
結晶化度(%) =h1 /h0 ×100
【0147】
セルロースの結晶形としては、I型、II型、III型、IV型などが知られており、その中でも特にI型及びII型は汎用されており、III型、IV型は実験室スケールでは得られているものの工業スケールでは汎用されていない。本開示のセルロースとしては、構造上の可動性が比較的高く、当該セルロースを樹脂に分散させることにより、線膨張係数がより低く、引っ張り、曲げ変形時の強度及び伸びがより優れた樹脂組成物が得られることから、セルロースI型結晶又はセルロースII型結晶を含有するセルロースが好ましく、セルロースI型結晶を含有し、かつ結晶化度が55%以上のセルロースがより好ましい。
【0148】
また、セルロースの重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは150以上であり、より好ましくは200以上、より好ましくは300以上、より好ましくは400以上であり、好ましくは3500以下、より好ましく3300以下、より好ましくは3200以下、より好ましくは3100以下、より好ましくは3000以下である。
【0149】
加工性と機械的特性発現との観点から、セルロースの重合度を上述の範囲内とすることが望ましい。加工性の観点から、重合度は高すぎない方が好ましく、機械的特性発現の観点からは低すぎないことが望まれる。
【0150】
セルロースの重合度は、「第十五改正日本薬局方解説書(廣川書店発行)」の確認試験(3)に記載の銅エチレンジアミン溶液による還元比粘度法に従って測定される平均重合度を意味する。
【0151】
一態様において、セルロースの重量平均分子量(Mw)は100000以上であり、より好ましくは200000以上である。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)は6以下であり、好ましくは5.4以下である。重量平均分子量が大きいほどセルロース分子の末端基の数は少ないことを意味する。また、重量平均分子量と数平均分子量との比(Mw/Mn)は分子量分布の幅を表すものであることから、Mw/Mnが小さいほどセルロース分子の末端の数は少ないことを意味する。セルロース分子の末端は熱分解の起点となるため、セルロース分子の重量平均分子量が大きいだけでなく、重量平均分子量が大きいと同時に分子量分布の幅が狭い場合に、特に高耐熱性のセルロース、及びセルロースと樹脂とを含む樹脂組成物が得られる。セルロースの重量平均分子量(Mw)は、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば600000以下、又は500000以下であってよい。重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)はセルロースの製造容易性の観点から、例えば1.5以上、又は2以上であってよい。Mwは、目的に応じたMwを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mw/Mnもまた、目的に応じたMw/Mnを有するセルロース原料を選択すること、セルロース原料に対して物理的処理及び/又は化学的処理を適度な範囲で適切に行うこと、等によって上記範囲に制御できる。Mwの制御、及びMw/Mnの制御の両者において、上記物理的処理としては、マイクロフリュイダイザー、ボールミル、ディスクミル等の乾式粉砕若しくは湿式粉砕、擂潰機、ホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超音波装置等による衝撃、剪断、ずり、摩擦等の機械的な力を加える物理的処理を例示でき、上記化学的処理としては、蒸解、漂白、酸処理、再生セルロース化等を例示できる。
【0152】
ここでいうセルロースの重量平均分子量及び数平均分子量とは、セルロースを塩化リチウムが添加されたN,N-ジメチルアセトアミドに溶解させたうえで、N,N-ジメチルアセトアミドを溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィによって求めた値である。
【0153】
セルロースの重合度(すなわち平均重合度)又は分子量を制御する方法としては、加水分解処理等が挙げられる。加水分解処理によって、セルロース内部の非晶質セルロースの解重合が進み、平均重合度が小さくなる。また同時に、加水分解処理により、上述の非晶質セルロースに加え、ヘミセルロース、リグニン等の不純物も取り除かれるため、繊維質内部が多孔質化する。それにより、後記の混練工程中等の、セルロースに機械的せん断力を与える工程において、セルロースが機械処理を受けやすくなり、セルロースが微細化されやすくなる。
【0154】
加水分解の方法は、特に制限されないが、酸加水分解、アルカリ加水分解、熱水分解、スチームエクスプロージョン、マイクロ波分解等が挙げられる。これらの方法は、単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。酸加水分解の方法では、例えば、繊維性植物からパルプとして得たα-セルロースをセルロース原料とし、これを水系媒体に分散させた状態で、プロトン酸、カルボン酸、ルイス酸、ヘテロポリ酸等を適量加え、攪拌しながら加温することにより、容易に平均重合度を制御できる。この際の温度、圧力、時間等の反応条件は、セルロース種、セルロース濃度、酸種、酸濃度等により異なるが、目的とする平均重合度が達成されるよう適宜調製されるものである。例えば、2質量%以下の鉱酸水溶液を使用し、100℃以上、加圧下で、10分間以上セルロースを処理するという条件が挙げられる。この条件のとき、酸等の触媒成分がセルロース内部まで浸透し、加水分解が促進され、使用する触媒成分量が少なくなり、その後の精製も容易になる。なお、加水分解時のセルロース原料の分散液は、水の他、本発明の効果を損なわない範囲において有機溶媒を少量含んでいてもよい。
【0155】
セルロースが含み得るアルカリ可溶多糖類は、ヘミセルロースのほか、β-セルロース及びγ-セルロースも包含する。アルカリ可溶多糖類とは、植物(例えば木材)を溶媒抽出及び塩素処理して得られるホロセルロースのうちのアルカリ可溶部として得られる成分(すなわちホロセルロースからα-セルロースを除いた成分)として当業者に理解される。アルカリ可溶多糖類は、水酸基を含む多糖であり耐熱性が悪く、熱がかかった場合に分解すること、熱エージング時に黄変を引き起こすこと、セルロースの強度低下の原因になること等の不都合を招来し得ることから、セルロース中のアルカリ可溶多糖類含有量は少ない方が好ましい。
【0156】
一態様において、セルロース中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、セルロースの良好な分散性を得る観点から、セルロース100質量%に対して、好ましくは、20質量%以下、又は18質量%以下、又は15質量%以下、又は12質量%以下、又は11質量%以下、又は8質量%以下である。上記含有率は、セルロースの製造容易性の観点から、1質量%以上、又は2質量%以上、又は3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。一態様において、セルロース原料中のアルカリ可溶多糖類平均含有率は、13質量%以下、又は12質量%以下、又は11質量%以下、又は8質量%以下であってよく、最も好ましくは0質量%であるが、セルロース原料の入手容易性の観点から、例えば3質量%以上、又は6質量%以上であってもよい。
【0157】
アルカリ可溶多糖類平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より求めることができ、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求められる。なおこの方法は当業界においてヘミセルロース量の測定方法として理解されている。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をアルカリ可溶多糖類平均含有率とする。
【0158】
一態様において、セルロース中の酸不溶成分平均含有率は、セルロースの耐熱性低下及びそれに伴う変色を回避する観点から、セルロース100質量%に対して、好ましくは、10質量%以下、又は5質量%以下、又は3質量%以下である。上記含有率は、セルロースの製造容易性の観点から、0.1質量%以上、又は0.2質量%以上、又は0.3質量%以上であってもよい。
【0159】
酸不溶成分平均含有率は、非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載のクラーソン法を用いた酸不溶成分の定量として行う。なおこの方法は当業界においてリグニン量の測定方法として理解されている。硫酸溶液中でサンプルを撹拌してセルロース及びヘミセルロース等を溶解させた後、ガラスファイバーろ紙で濾過し、得られた残渣が酸不溶成分に該当する。この酸不溶成分重量より酸不溶成分含有率を算出し、そして、3サンプルについて算出した酸不溶成分含有率の数平均を酸不溶成分平均含有率とする。
【0160】
セルロースは、化学処理(例えば酸化、又は修飾化剤を用いた化学修飾)がされていてもよい。一例として、Cellulose(1998)5,153-164に示されているような2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルラジカルによってセルロース繊維を酸化させた後に、洗浄、機械解繊を経ることにより得られる、微細化セルロース繊維を使用してもよい。
【0161】
第一の実施形態において、樹脂組成物100質量%に対するセルロースの比率(特にはセルロースナノファイバーの比率)は、セルロースによる低線膨張係数及び高剛性という利点を良好に得る観点から、好ましくは、0.1質量%以上、又は0.5質量%以上、又は1質量%以上、又は3質量%以上であり、樹脂組成物中の他の成分による利点を良好に得る観点から、好ましくは、30質量%以下、又は25質量%以下、又は20質量%以下、又は15質量%以下である。
【0162】
第一の実施形態において、ポリアミド100質量部に対するセルロースの比率(特にはセルロースナノファイバーの比率)は、セルロースによる低線膨張係数及び高剛性という利点を良好に得る観点から、好ましくは、1質量部以上、又は5質量部以上、又は10質量部以上、又は15質量部以上であり、ポリアミド相中にセルロースを良好に分散させる観点から、好ましくは、50質量部以下、又は40質量部以下、又は30質量部以下、又は20質量部以下である。
【0163】
<第二及び第三の実施形態のセルロース>
第二及び第三の実施形態に係る樹脂組成物は、セルロースを含む。セルロースは、繊維状セルロースを含んでよい。セルロースは、径50~1000nm、長さ(L)/径(D)比30以上のセルロースナノファイバー(CNF)、径100nm以下、長さ(L)/径(D)比30未満のセルロースナノクリスタル(CNC)若しくは径1μm超~50μmのセルロースマイクロファイバー(CMF)、又はこれらの混合物を含んでよく、CNF、CNC若しくはCMF、又はこれらの混合物であることが望ましい。これらのセルロースとしては、前述で例示したような、天然セルロース及び再生セルロースが挙げられる。
【0164】
セルロースナノファイバー(CNF)は、第一の実施形態で説明したような手順で得ることができる。一態様において、CNFの径は、50~1000nmである。CNFの径は、好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上であり、より好ましくは400nm以下、更に好ましくは200nm以下である。また、一態様において、CNFのL/Dは、30以上であり、好ましくは50以上、より好ましくは80以上、更に好ましくは100以上であり、好ましくは5000以下、より好ましくは4000以下、更に好ましくは3000以下である。
【0165】
図1は、セルロースナノファイバーの例を示す顕微鏡画像である。いずれのセルロースも繊維状の構造をなし、径が50~1000nmであり、L/Dが30以上であることが判る。
【0166】
セルロースナノクリスタル(CNC)とは、上述のパルプを原料とし、これを裁断後、塩酸、硫酸等の酸中で、セルロースの非晶部分を溶解した後に残留する結晶質のセルロースである。一態様において、CNCの径は、100nm以下であり、好ましくは80nm以下、より好ましくは70nm以下であり、好ましくは3nm以上、より好ましくは5nm以上、更に好ましくは10nm以上である。また、一態様において、CNCの長さ/径比率(L/D比)は30未満であり、20以下が好ましく、15以下がより好ましく、10以下が更に好ましい。一態様において、L/D比は、1以上であり、好ましくは2以上、より好ましくは4以上、更に好ましくは5以上である。
【0167】
図2は、セルロースナノクリスタル(セルロースナノウィスカー又は針状粒子状セルロースともいう。)の例を示す顕微鏡画像であり、図2(B)は図2(A)の部分拡大図である。いずれのセルロースも針状結晶粒子状の構造をなし、径が100nm以下で、L/Dが30未満であることが判る。
【0168】
また、セルロースマイクロファイバー(以下、CMFと称することがある)とは、CNFを製造する過程における解繊工程を少なくすることで得られる比較的大サイズの繊維状セルロースを指す。一態様において、CMFの径は、1μm超~50μmである。CMFの径は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは10μm以上であり、好ましくは45μm以下、より好ましくは40μm以下、更に好ましくは35μm以下である。CMFのL/Dは、好ましくは30以上、より好ましくは50以上、更に好ましくは70以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下、更に好ましくは500以下である。CMFは、通常CNFを製造するエネルギーの約半分程度のエネルギーで得られる。
【0169】
図3は、セルロースマイクロファイバーの顕微鏡写真である。いずれのセルロースも、径1μm超~50μmで、L/Dが30以上であることがわかる。
【0170】
樹脂組成物全体100質量%に対するセルロースの量は、好ましくは0.1~30質量%である。セルロースの量のより好ましい上限値は、25質量%、又は20質量%、又は15質量%である。セルロースの量のより好ましい下限値は、0.5質量%、又は1質量%、又は3質量%である。熱膨張係数を抑制し、良好な物性安定性を得る観点から、上述の範囲内が好ましい。
【0171】
第二及び第三の実施態様におけるセルロースの好ましい態様としては、物性安定性確保の観点から、CNFの単独使用、CMFの単独使用、CNFとCNCとの二種併用使用、CNFとCMFとの二種併用使用、CMFとCNCとの二種併用使用、CMFとCNFとCNCの三種併用使用が挙げられる。より好ましい態様としては、CMFの単独使用、CNFとCNCとの二種併用使用、CNFとCMFとの二種併用使用、CMFとCNCとの二種併用使用、CMFとCNFとCNCとの三種併用使用が挙げられる。
【0172】
CNFとCMFとの二種併用時では、セルロースの合計量を100質量%としたとき、CMFの好ましい比率は、50~99質量%である。上記比率の上限は、より好ましくは97質量%、さらに好ましくは95質量%、さらに好ましくは93質量%、最も好ましくは90質量%である。上記比率の下限は、より好ましくは55質量%、さらにより好ましくは60質量%、最も好ましくは70質量%である。
【0173】
また、CNFとCNCとの二種併用使用時、及び、CMFとCNCとの二種併用時は、セルロースの合計量を100質量%としたとき、CNCの好ましい比率は、50~99質量%である。上記比率の上限は、より好ましくは97質量%、さらに好ましくは95質量%、さらに好ましくは93質量%、最も好ましくは90質量%である。上記比率の下限は、より好ましくは55質量%、さらにより好ましくは60質量%、最も好ましくは70質量%である。
【0174】
また、CMFとCNFとCNCとの三種併用時は、セルロースの合計量を100質量%としたとき、CNCの好ましい比率は、50~99質量%である。上記比率の上限は、より好ましくは97質量%、さらに好ましくは95質量%、さらに好ましくは93質量%、最も好ましくは90質量%である。上記比率の下限は、より好ましくは55質量%、さらにより好ましくは60質量%、最も好ましくは65質量%である。さらに、CNC以外のセルロースの総量を100質量%としたとき、CMFの好ましい比率は50~99質量%である。上記比率の上限は、より好ましくは97質量%、さらに好ましくは95質量%、さらに好ましくは93質量%、最も好ましくは90質量%である。上記比率の下限は、より好ましくは55質量%、さらにより好ましくは60質量%、最も好ましくは70質量%である。
【0175】
樹脂組成物100質量%に対するCNFの量は、好ましくは0.1~20質量%である。CNFの量が上記範囲内にあることで、熱膨張性等の特性を向上させることが可能となる。上記量の下限は、より好ましくは1質量%であり、さらに好ましくは2質量%であり、さらにより好ましくは3質量%であり、最も好ましくは5質量%である。また上限は、より好ましくは18質量%であり、さらに好ましくは16質量%であり、さらに好ましくは14質量%であり、最も好ましくは12質量%である。
【0176】
また、樹脂組成物100質量%に対するCMFの量は、好ましくは0.1~20質量%である。CMFの量が上記範囲内にあることで、引張伸び、振動疲労特性等の特性を向上させることが可能となる。上記量の下限は、より好ましくは1質量%であり、さらに好ましくは2質量%であり、さらにより好ましくは3質量%であり、最も好ましくは5質量%である。また上限は、より好ましくは18質量%であり、さらに好ましくは16質量%であり、さらに好ましくは14質量%であり、最も好ましくは12質量%である。
【0177】
第二及び第三の実施形態において、CNC及びCNFの各々の長さ、径、及びL/D比は、CNC及びCNFの各々の水分散液を、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」)を用い、処理条件:回転数15,000rpm×5分間で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを測定サンプルとし、高分解能走査型顕微鏡(SEM)又は原子間力顕微鏡(AFM)で計測して求める。具体的には、少なくとも100本のセルロースが観測されるように倍率が調整された観察視野にて、無作為に選んだ100本のセルロースの長さ(L)及び径(D)を計測し、比(L/D)を算出する。比(L/D)が30未満のものをCNC、30以上のものをCNFと分類する。CNC及びCNFの各々について、長さ(L)の数平均値、径(D)の数平均値、及び比(L/D)の数平均値を算出して、CNC及びCNFの各々の長さ、径、及びL/D比とする。また、上記のセルロースの長さ及び径とは、上記100本のセルロースの数平均値である。
【0178】
CMFは、CNC及びCNFとはサイズスケールが異なり、電子顕微鏡はCMFの長さ、径、及びL/D比等を測定するには適していないため、CMFのサイズは別の手法で観察する。CMFが0.1質量%程度となるように調製された低濃度水分散液に、超音波洗浄機にて充分な振動を与え、若しくは、分散機(例えば、デスパミル 浅田鉄工(株)製)にて20分間分散処理を実施し、CMF間の絡み合いをほぐした後、該水分散液を光学顕微鏡でそのまま観察する。この際の計測・計算方法は、CNF,CNCのものと同じである。
【0179】
又は、樹脂組成物中のCMF、CNC及びCNFの各々の長さ、径、及びL/D比は、組成物のポリマー成分を溶解できる有機又は無機の溶媒に組成物中のポリマー成分を溶解させ、セルロースを分離し、前記溶媒で充分に洗浄した後、溶媒を純水に置換した水分散液を作製し、セルロース濃度を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、上述の方法により測定を行う。
【0180】
CNCの体積平均粒子径測定による平均径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、更に好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、好ましくは1000nm以下、より好ましくは700nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは300nm以下である。
CNFの体積平均粒子径測定による平均径は、好ましくは20nm以上、より好ましくは40nm以上、更に好ましくは50nm以上であり、好ましくは1000nm以下、より好ましくは700nm以下、更に好ましくは500nm以下である。
【0181】
体積平均粒子径は、レーザー回折/散乱法粒度分布計で、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径(体積平均粒子径)として求められる値である。具体的には、試料を固形分40質量%として、プラネタリーミキサー(例えば(株)品川工業所製、5DM-03-R、撹拌羽根はフック型)中において、126rpmで、室温常圧下で30分間混練し、次いで0.5質量%の濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(例えば日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」処理条件)を用い、回転数15,000rpm×5分間で分散させ、遠心分離機(例えば久保田商事(株)製、商品名「6800型遠心分離器」、ロータータイプRA-400型)を用い、処理条件:遠心力39200m2/sで10分間遠心した上澄みを採取し、さらに、この上澄みについて、116000m2/sで45分間遠心処理し、遠心後の上澄みを採取する。この上澄み液を用いて、レーザー回折/散乱法粒度分布計(例えば堀場製作所(株)製、商品名「LA-910」又は商品名「LA-950」、超音波処理1分、屈折率1.20)により得られた体積頻度粒度分布における積算50%粒子径(すなわち、粒子全体の体積に対して、積算体積が50%になるときの粒子の球形換算直径)を、体積平均粒子径とする。
【0182】
第二及び第三の実施形態において、セルロースの結晶化度、結晶形、重合度、重量平均分子量(Mw)、重量平均分子量と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)、アルカリ可溶多糖類平均含有率、酸不溶成分平均含有率、並びにこれらの測定方法及び調整方法は、第一の実施形態において例示したのと同様であってよい。
【0183】
<セルロースの疎水化>
第一~第三の実施形態におけるセルロースは疎水化剤により疎水化されたセルロース(本開示で、化学修飾セルロースともいう。)であってもよい。疎水化することにより、セルロース同士の水素結合が弱められ、微分散に寄与するようになるとともに、セルロースとして耐熱性が向上し、樹脂との混練による劣化を抑制することが可能となり、セルロースが物性欠陥の起点となりにくくなる効果がある。疎水化剤(本開示で、修飾化剤ともいう。)としては、セルロースの水酸基と反応する化合物を使用でき、エステル化剤、エーテル化剤、及びシリル化剤が挙げられる。特にエステル化剤が好ましい。好ましい態様において、疎水化は、エステル化剤を用いたアシル化である。エステル化剤としては、酸ハロゲン化物、酸無水物、及びカルボン酸ビニルエステルが好ましい。特に好ましい態様において、疎水化はアセチル化である。
【0184】
酸ハロゲン化物は、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1種であってよい。
1-C(=O)-X (1)
(式中、R1は炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~24のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基を表し、XはCl、Br又はIである。)
酸ハロゲン化物の具体例としては、塩化アセチル、臭化アセチル、ヨウ化アセチル、塩化プロピオニル、臭化プロピオニル、ヨウ化プロピオニル、塩化ブチリル、臭化ブチリル、ヨウ化ブチリル、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、ヨウ化ベンゾイル等が挙げられるが、これらに限定されない。中でも、酸塩化物は反応性と取り扱い性の点から好適に採用できる。尚、酸ハロゲン化物の反応においては、触媒として働くと同時に副生物である酸性物質を中和する目的で、アルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。アルカリ性化合物としては、具体的には:トリエチルアミン、トリメチルアミン等の3級アミン化合物;及びピリジン、ジメチルアミノピリジン等の含窒素芳香族化合物;が挙げられるが、これに限定されない。
【0185】
酸無水物としては、任意の適切な酸無水物類を用いることができる。例えば、
酢酸、プロピオン酸、(イソ)酪酸、吉草酸等の飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;(メタ)アクリル酸、オレイン酸等の不飽和脂肪族モノカルボン酸無水物;
シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸等の脂環族モノカルボン酸無水物;
安息香酸、4-メチル安息香酸等の芳香族モノカルボン酸無水物;
二塩基カルボン酸無水物として、例えば、無水コハク酸、アジピン酸等の無水飽和脂肪族ジカルボン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸等の無水不飽和脂肪族ジカルボン酸無水物、無水1-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、無水ヘキサヒドロフタル酸、無水メチルテトラヒドロフタル酸等の無水脂環族ジカルボン酸、及び、無水フタル酸、無水ナフタル酸等の無水芳香族ジカルボン酸無水物等;
3塩基以上の多塩基カルボン酸無水物類として、例えば、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の(無水)ポリカルボン酸等が挙げられる。
尚、酸無水物の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0186】
カルボン酸ビニルエステルとしては、下記式(1):
R-COO-CH=CH2 …式(1)
{式中、Rは、炭素数1~24のアルキル基、炭素数2~24のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~24のアリール基のいずれかである。}で表されるカルボン酸ビニルエステルが好ましい。カルボン酸ビニルエステルは、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミリスチン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニルアジピン酸ジビニル、メタクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、安息香酸ビニル、及び桂皮酸ビニルからなる群より選択された少なくとも1種であることがより好ましい。カルボン酸ビニルエステルによるエステル化反応のとき、触媒として、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩、1~3級アミン、4級アンモニウム塩、イミダゾール及びその誘導体、ピリジン及びその誘導体、並びにアルコキシドからなる群より選ばれる1種又は2種以上を添加しても良い。
【0187】
アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等が挙げられる。 アルカリ金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ金属炭酸水素塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素セシウム等が挙げられる。
【0188】
1~3級アミンとは、1級アミン、2級アミン、及び3級アミンのことであり、具体例としては、エチレンジアミン、ジエチルアミン、プロリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサンジアミン、トリス(3-ジメチルアミノプロピル)アミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0189】
イミダゾール及びその誘導体としては、1-メチルイミダゾール、3-アミノプロピルイミダゾール、カルボニルジイミダゾール等が挙げられる。
【0190】
ピリジン及びその誘導体としては、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン等が挙げられる。
【0191】
アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウム-t-ブトキシド等が挙げられる。
【0192】
カルボン酸としては、下記式(1)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
R-COOH …(1)
(式中、Rは、炭素数1~16のアルキル基、炭素数2~16のアルケニル基、炭素数3~16のシクロアルキル基、又は炭素数6~16のアリール基を表す。)
【0193】
カルボン酸の具体例としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、シクロヘキサンカルボン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、メタクリル酸、クロトン酸、ピバリン酸、オクチル酸、安息香酸、及び桂皮酸からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0194】
これらカルボン酸の中でも、酢酸、プロピオン酸、及び酪酸からなる群から選択される少なくとも一種、特に酢酸が、反応効率の観点から好ましい。
尚、カルボン酸の反応においては、触媒として、硫酸、塩酸、燐酸等の酸性化合物、又はルイス酸、(例えば、MYnで表されるルイス酸化合物であって、MはB、As,Ge等の半金属元素、又はAl、Bi、In等の卑金属元素、又はTi、Zn、Cu等の遷移金属元素、又はランタノイド元素を表し、nはMの原子価に相当する整数であり、2又は3を表し、Yはハロゲン原子、OAc、OCOCF3、ClO4、SbF6、PF6又はOSO2CF3(OTf)を表す。)、又はトリエチルアミン、ピリジン等のアルカリ性化合物を1種又は2種以上添加してもよい。
【0195】
これらエステル化反応剤の中でも、特に、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、及び酢酸からなる群から選択された少なくとも一種、中でも無水酢酸及び酢酸ビニルが、反応効率の観点から好ましい。
【0196】
疎水化セルロースナノファイバーを得る場合、天然セルロース原料を微細化し繊維径を小さくする方法としては、特に制限はないが、解繊の処理条件(剪断場を与える方法、剪断場の大きさ等)をより高効率にすることが好ましい。特に、非プロトン性溶媒を含む解繊用溶液を、セルロース純度が85質量%以上のセルロース原料に含浸させることで、セルロースの膨潤が短時間で起こり、わずかな攪拌と剪断エネルギーを与えるだけでセルロースが微細化していく。そして、解繊直後にセルロース修飾化剤を加えることにより、疎水化セルロースナノファイバーを得ることができる。この方法が、生成効率及び精製効率(すなわち疎水化セルロースナノファイバーの高セルロース純度化)、並びに樹脂組成物の物理特性の観点から好ましい。
【0197】
非プロトン性溶媒は、例えば、アルキルスルホキシド類、アルキルアミド類、ピロリドン類などが挙げられる。これらの溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0198】
アルキルスルホキシド類としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのジC1-4アルキルスルホキシドなどが挙げられる。
【0199】
アルキルアミド類としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミドなどのN,N-ジC1-4アルキルホルムアミド;N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミドなどのN,N-ジC1-4アルキルアセトアミドなどが挙げられる。
【0200】
ピロリドン類としては、例えば、2-ピロリドン、3-ピロリドンなどのピロリドン;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのN-C1-4アルキルピロリドンなどが挙げられる。
【0201】
これらの非プロトン性溶媒は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非プロトン性溶媒(括弧内の数字はドナー数)のうち、DMSO(29.8)、DMF(26.6)、DMAc(27.8)、NMP(27.3)など、特に、DMSOを用いれば、熱分解開始温度が高い疎水化セルロースナノファイバーをより効率的に製造することができる。この作用機序は必ずしも明らかではないが、非プロトン性溶媒中での繊維原料の均質なミクロ膨潤に起因するものと推察される。
【0202】
セルロース原料が非プロトン性溶媒中で膨潤する際、非プロトン性溶媒が原料を構成するフィブリルに素早く浸透し膨潤することでミクロフィブリル同士が微解繊状態となる。この状態を作り出した後、化学修飾を行うことで微細繊維の全体で均質に疎水化が進行し、結果として高い耐熱性を獲得しているものと推察される。さらに、このミクロフィブリル化された化学修飾微細繊維は高い結晶化度を維持しており、樹脂と複合したときに高い機械特性と優れた寸法安定性(特に、線熱膨張率の著しい低下)を獲得することができる。
【0203】
疎水化セルロースナノファイバーを得る場合、微細化(解繊)及び疎水化処理されたセルロースナノファイバーは、遊星ボールミル及びビーズミルのような衝突剪断が加わる装置、ディスクリファイナー及びグラインダーのようなセルロースのフィブリル化を誘因する回転剪断場が加わる装置、或いは各種ニーダー及びプラネタリーミキサーのような混練、撹拌、及び分散の機能を高効率で実施可能な装置を用いることで得ることができる。
【0204】
セルロースの疎水化度(修飾度)は水酸基の平均置換度(セルロースの基本構成単位であるグルコース当たりの置換された水酸基の平均数、DSともいう)として表される。一態様において、化学修飾セルロースのDSは0.01以上2.0以下が好ましい。DSが0.01以上であれば、熱分解開始温度が高い化学修飾セルロースを含む樹脂組成物を得ることができる。一方、2.0以下であると、化学修飾セルロース中に未修飾のセルロース骨格が残存するため、セルロース由来の高い引張強度及び寸法安定性と化学修飾由来の高い熱分解開始温度を兼ね備えた化学修飾セルロースを含む樹脂組成物を得ることができる。DSはより好ましくは0.05以上、さらに好ましくは0.1以上、特に好ましくは0.2以上、最も好ましくは0.3以上であって、より好ましくは1.8以下、さらに好ましくは1.5以下、特に好ましくは1.2以下、最も好ましくは1.0以下である。
【0205】
疎水化セルロースの反射型赤外吸収スペクトルにおいて、疎水化修飾基の種類により吸収バンドのピーク位置は変化する。ピーク位置の変化から、そのピークが何の吸収バンドに基づくものかは確定でき、修飾基の同定ができる。また、修飾基由来のピークとセルロース骨格由来のピークのピーク強度比から修飾化率を算出することができる。
【0206】
修飾基がアシル基の場合、アシル置換度(DS)は、エステル化セルロースの反射型赤外吸収スペクトルから、アシル基由来のピークとセルロース骨格由来のピークとのピーク強度比に基づいて算出することができる。アシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピークは1730cm-1に出現し、セルロース骨格鎖に基づくC-Oの吸収バンドのピークは1030cm-1に出現する(図4及び5参照)。エステル化セルロースのDSは、後述するエステル化セルロースの固体NMR測定から得られるDSと、セルロース骨格鎖C-Oの吸収バンドのピーク強度に対するアシル基に基づくC=Oの吸収バンドのピーク強度の比率で定義される修飾化率(IRインデックス1030)との相関グラフを作製し、相関グラフから算出された検量線
置換度DS = 4.13 × IRインデックス(1030)
を使用することで求めることができる。
【0207】
なお、上記反射型赤外吸収スペクトルで適切な測定が困難である場合には、固体NMRを用いる。固体NMRによるエステル化セルロースのDSの算出方法は、凍結粉砕したエステル化セルロースについて13C固体NMR測定を行い、50ppmから110ppmの範囲に現れるセルロースのピラノース環由来の炭素C1-C6に帰属されるシグナルの合計面積強度(Inp)に対する修飾基由来の1つの炭素原子に帰属されるシグナルの面積強度(Inf)より下記式で求めることができる。
DS=(Inf)×6/(Inp)
たとえば、修飾基がアセチル基の場合、-CH3に帰属される23ppmのシグナルを用いれば良い。
【0208】
用いる13C固体NMR測定の条件は例えば以下の通りである。
装置 :Bruker Biospin Avance500WB
周波数 :125.77MHz
測定方法 :DD/MAS法
待ち時間 :75sec
NMR試料管 :4mmφ
積算回数 :640回(約14Hr)
MAS :14,500Hz
化学シフト基準:グリシン(外部基準:176.03ppm)
【0209】
<酸化防止剤>
第一~第三の実施形態において、樹脂組成物は酸化防止剤を更に含んでよい。酸化防止剤は、ポリアミドの融点以上の高温で樹脂組成物を溶融混練する際に各成分(例えば、ポリフェニレンエーテル、エラストマー、及び/又はエチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物)の熱劣化を抑制する点で有利である。酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤、ベンゾフェノン系酸化防止剤、トリアジン系酸化防止剤、サルチル酸エステル系酸化防止剤、及びp-フェニレンジアミン系酸化防止剤からなる群から選ばれる1種以上であってよい。例えば第三の実施形態においては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤が特に好ましい。
【0210】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,4-ビス〔(ラウリルチオ)メチル〕-o-クレゾール、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)、1,3,5-トリス(4-t-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)、2,4-ビス-(n-オクチルチオ)-6-(4-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ブチルアニリノ)-1,3,5-トリアジン、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,6-ジ-t-ブチル-4-ノニルフェノール、2,2’-イソブチリデン-ビス-(4,6-ジメチル-フェノール)、4,4’-ブチリデン-ビス-(2-t-ブチル-5-メチルフェノール)、2,2’-チオ-ビス-(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)、2,5-ジ-t-アミル-ヒドロキノン、2,2’チオジエチルビス-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,1,3-トリス-(2’-メチル-4’-ヒドロキシ-5’-t-ブチルフェニル)-ブタン、2,2’-メチレン-ビス-(6-(1-メチル-シクロヘキシル)-p-クレゾール)、2,4-ジメチル-6-(1-メチル-シクロヘキシル)-フェノール、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナムアミド)等が挙げられる。その他ヒンダードフェノール構造を有するオリゴマータイプ及びポリマータイプの化合物等も使用することが出来る。
【0211】
具体例としては、株式会社ADEKA製アデカスタブAO-20、AO-30、AO-40、AO50、AO60、AO80、AO320、ケミプロ株式会社製KEMINOX101、179、76、9425、株式会社BASF社製IRGANOX1010、1035、1076、1098、1135、1330、1726、1425WL、1520L、245、259、3114、5057、565、サンケミカル株式会社製サイアノックスCY-1790、CY-2777等が挙げられる。
【0212】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,6-ヘキサメチレンジアミン、2-メチル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)プロピオンアミド、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)(1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ポリ〔{6-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)イミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチル{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、ポリ〔(6-モルホリノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル){(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと1-(2-ヒドロキシエチル)-4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジンとの重縮合物、N,N’-4,7-テトラキス〔4,6-ビス{N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ}-1,3,5-トリアジン-2-イル〕-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン等が挙げられる。その他ヒンダードアミン構造を有するオリゴマータイプ及びポリマータイプの化合物等も使用することが出来る。
【0213】
具体例としては、株式会社ADEKA製アデカスタブLA-52、LA-57、LA-63P、LA-68、LA-72、LA-77Y、LA-77G、LA-81、LA-82、LA-87、LA-402F、LA-502XP、ケミプロ化成株式会社製KAMISTAB29、62、77、29、94、株式会社BASF製Tinuvin249、TINUVIN111FDL、123、144、292、5100、サンケミカル株式会社製サイアソーブUV-3346、UV-3529、UV-3853等が挙げられる。
【0214】
リン系酸化防止剤としては、トリス(イソデシル)フォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、フェニルイソオクチルフォスファイト、フェニルイソデシルフォスファイト、フェニルジ(トリデシル)フォスファイト、ジフェニルイソオクチルフォスファイト、ジフェニルイソデシルフォスファイト、ジフェニルトリデシルフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、4,4’イソプロピリデンジフェノールアルキルフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト、トリスジノニルフェニルフォスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、トリス(ビフェニル)フォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、ジ(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、フェニルビスフェノールAペンタエリスリトールジフォスファイト、テトラトリデシル4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)ジフォスファイト、ヘキサトリデシル1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタントリフォスファイト、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルフォスファイトジエチルエステル、ソジウムビス(4-t-ブチルフェニル)フォスファイト、ソジウム-2,2-メチレン-ビス(4,6-ジ-t-ブチルフェニル)-フォスファイト、1,3-ビス(ジフェノキシフォスフォニロキシ)-ベンゼン、亜リン酸エチルビス(2,4-ジtert-ブチル-6-メチルフェニル)等が挙げられる。その他フォスファイト構造を有するオリゴマータイプ及びポリマータイプの化合物等も使用することが出来る。
【0215】
具体例としては、株式会社ADEKA製アデカスタブPEP-36、PEP-8、HP-10、アデカスタブ2112、1178、1500、C、3013、TPP、株式会社BASF製IRGAFOS168、クラリアントケミカルズ株式会社製HostanoxP-EPQ等が挙げられる。
【0216】
イオウ系酸化防止剤としては、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4-ビス〔(オクチルチオ)メチル〕-o-クレゾール、2,4-ビス〔(ラウリルチオ)メチル〕-o-クレゾール、2,2-ビス{〔3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロポキシ〕メチル}プロパン-1,3-ジイルビス〔3-(ドデシルチオ)プロピオネート〕、2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。その他チオエーテル構造を有するオリゴマータイプ及びポリマータイプの化合物等も使用することが出来る。
【0217】
具体例としては、株式会社ADEKA製アデカスタブAO-412S、AO-503、ケミプロ化成株式会社製KEMINOXPLSなどが挙げられる。
【0218】
ベンゾトリアゾール系酸化防止剤としては、ベンゾトリアゾール構造を有するオリゴマータイプ及びポリマータイプの化合物等を使用することが出来る。
【0219】
具体例としては、株式会社ADEKA製アデカスタブLA-29、LA-31RG、LA- 32、LA-36、-412S、ケミプロ化成株式会社製KEMISORB71、73、74、79、279、株式会社BASF製TINUVIN PS、99-2、384-2、900、928、1130等が挙げられる。
【0220】
ベンゾフェノン系酸化防止剤としては、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、4-ドデシロキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクタデシロキシベンゾフェノン、2,2’ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5スルフォベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2’-カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。その他ベンゾフェノン構造を有するオリゴマータイプ及びポリマータイプの化合物等も使用することが出来る。
【0221】
具体例としては、株式会社ADEKA製アデカスタブ1413、ケミプロ化成株式会社製K EMISORB10、11、11S、12、111、サンケミカル株式会社製UV-12、UV-329等が挙げられる。
【0222】
トリアジン系酸化防止剤としては、2,4-ビス(アリル)-6-(2-ヒドロキシフェニル)1,3,5-トリアジン等が挙げられる。その他トリアジン構造を有するオリゴマータイプ及びポリマータイプの化合物等も使用することが出来る。
【0223】
具体例としては、株式会社ADEKA製アデカスタブLA-46、F70、ケミプロ化成株式会社製KEMISORB102、株式会社BASF製TINUVIN400、405、460、477、479、サンケミカル株式会社製サイアソーブUV-1164等が挙げられる。
【0224】
サルチル酸エステル系酸化防止剤としては、サリチル酸フェニル、サリチル酸p-オクチルフェニル、サリチル酸p-tertブチルフェニル等が挙げられる。その他サルチル酸エステル構造を有するオリゴマータイプ及びポリマータイプの化合物等も使用することが出来る。
【0225】
これらの酸化防止剤は、1種を単独で、又は必要に応じて任意の比率で2種以上混合して用いることができる。
【0226】
また酸化防止剤の含有量は、樹脂組成物の熱劣化を抑制する観点から、樹脂組成物100質量%中、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、0.1質量%以上が更に好ましい。また樹脂組成物の物性バランスの低下を抑制する観点からは10質量%以下が好ましく、5質量%以下が更に好ましく、2質量%以下が更に好ましい。
【0227】
<導電用炭素系フィラー>
第一~第三の実施形態において、樹脂組成物は導電用炭素系フィラーを更に含んでよい。これにより、導電性の樹脂組成物を得ることができる。好ましい導電用炭素系フィラーとしては、カーボンブラック、炭素繊維、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ等が挙げられる。なおこれらは着色剤としても機能する場合がある。これら導電用炭素系フィラーの形状は粒状、フレーク状及び繊維状フィラーのいずれでも構わない。好ましい導電用炭素系フィラーの具体例としては、導電用カーボンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)、炭素繊維、グラファイト等が好適に使用でき、これらの中で導電用カーボンブラック、CNTが最も好ましい。
【0228】
第一及び第二の実施形態において、導電用カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、好ましくは250ml/100g以上、より好ましくは300ml/100g以上、更に好ましくは350ml/100g以上である。本開示で、DBP吸収量とは、ASTM D2414に定められた方法で測定した値である。DBP吸収量の上限は特に限定されないが、入手容易性の観点から、例えば、400ml/100g以下であってよい。更に、導電用カーボンブラックとしては、BET表面積が200m2/g以上のものが好ましく、更には400m2/g以上のものがより好ましい。BET表面積の上限は特に限定されないが、入手容易性の観点から、例えば、2000m2/g以下であってよい。DBP吸収量が250ml/100g以上、及び/又はBET表面積が200m2/g以上の導電用カーボンブラックは、一般の着色用のカーボンブラック(通常、上述したDBP吸収量が250ml/100g未満であり、BET表面積200m2/g未満である)とは異なり、少量添加で良好な導電性を発現し得る。
【0229】
第三の実施形態において、導電用カーボンブラックのジブチルフタレート(DBP)吸収量は、好ましくは20ml/100g以上、より好ましくは30ml/100g以上、更に好ましくは50ml/100g以上である。DBP吸収量の上限は特に限定されないが、入手容易性の観点から、例えば、400ml/100g以下であってよい。更に、導電用カーボンブラックとしては、BET表面積が20m2/g以上のものが好ましく、更には40m2/g以上のものがより好ましい。BET表面積の上限は特に限定されないが、入手容易性の観点から、例えば、2000m2/g以下であってよい。
【0230】
第一~第三の実施形態において、市販品で入手可能な導電用カーボンブラックには、ケッチェンブラックEC-600JD等が挙げられる。
【0231】
カーボンナノチューブ(CNT)は、繊維径が100nm以下で、中空構造を有する炭素系繊維である。CNTは、チューブ壁が単層のカーボンで形成されている単層カーボンナノチューブ、及び多層のカーボンで形成されている多層ナノチューブのいずれも包含する。
【0232】
導電用炭素系フィラーは、公知の各種カップリング剤及び/又は収束剤で処理されることで樹脂との密着性及び/又は取り扱い性が向上されたものであってもよい。
【0233】
導電用炭素系フィラーの好ましい量は、樹脂組成物全体を100質量%としたとき、0.1~10質量%である。上限は、より好ましくは8質量%であり、さらにより好ましくは6質量%であり、最も好ましくは3質量%である。また下限は、より好ましくは0.3質量%であり、さらにより好ましくは0.5質量%であり、最も好ましくは0.8質量%である。樹脂組成物の安定した導電性と流動性とのバランスを維持するためには上述の範囲内とすることが望ましい。
【0234】
<凝集抑制剤>
第一~第三の実施形態において、樹脂組成物は凝集抑制剤を更に含んでよい。セルロースは、乾燥工程で凝集し、再分散しづらいという特性があるため、樹脂と溶融混練した際のセルロースの再分散性を高めるため凝集抑制剤を用いることが好ましい。再分散性を高めることで、得られる樹脂組成物の力学物性及びその安定性を向上させることができる。凝集抑制剤は、セルロース水分散液中に添加し、その後、せん断を加えながら乾燥して、セルロース粉体を得ることが望ましい。
【0235】
凝集抑制剤の好ましい量は、樹脂組成物中のセルロース100質量部に対し、2~100質量部である。下限は、より好ましくは4質量部、さらにより好ましくは5質量部、最も好ましくは6質量部である。また上限は、より好ましくは80質量部であり、さらにより好ましくは60質量部、最も好ましくは40質量部である。セルロースの樹脂中への分散性を高め、物性安定性を高めるためには上述の範囲内にすることが望ましい。
【0236】
凝集抑制剤は、界面活性剤、沸点100℃以上の有機化合物、及びセルロースを高度に分散可能な化学構造を有する樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0237】
界面活性剤としては、親水性の置換基を有する部位と疎水性の置換基を有する部位とが共有結合した化学構造を有していればよく、食用、工業用など様々な用途で利用されているものを用いることができる。例えば、以下のものを1種又は2種以上併用できる。
【0238】
界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性イオン系界面活性剤、及び陽イオン系界面活性剤のいずれも使用することができるが、セルロースとの親和性の点で、陰イオン系界面活性剤、及び非イオン系界面活性剤が好ましく、非イオン系界面活性剤がより好ましい。
【0239】
上述の中でも、セロースとの親和性の点で、親水基としてポリオキシエチレン鎖、カルボキシル基、又は水酸基を有する界面活性剤が好ましく、親水基としてポリオキシエチレン鎖を有するポリオキシエチレン系界面活性剤(ポリオキシエチレン誘導体)がより好ましく、非イオン系のポリオキシエチレン誘導体がさらに好ましい。ポリオキシエチレン誘導体のポリオキシエチレン鎖長としては、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、15以上が特に好ましい。鎖長は長ければ長いほど、セルロースとの親和性が高まるが、コーティング性とのバランスにおいて、上限としては60以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましく、30以下が特に好ましく、20以下が最も好ましい。
【0240】
上述の界面活性剤でも、特に、疎水基としては、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、スチレン化フェニル型、硬化ひまし油型が、樹脂との親和性が高いため、好適に使用できる。好ましいアルキル鎖長(アルキルフェニルの場合はフェニル基を除いた炭素数)としては、炭素鎖が5以上であることが好ましく、10以上がより好ましく、12以上がさらに好ましく、16以上が特に好ましい。樹脂がポリオレフィンの場合、炭素数が多いほど、樹脂との親和性が高まるため上限はないが、ハンドリング性の観点から、上限は30以下が好ましく、25以下がより好ましい。
【0241】
これらの疎水基の中でも、環状構造を有するもの、又は嵩高く多官能構造を有するものが好ましい。環状構造を有するものとしては、アルキルフェニルエーテル型、ロジンエステル型、ビスフェノールA型、βナフチル型、及びスチレン化フェニル型が好ましく、多官能構造を有するものとしては、硬化ひまし油型が好ましい。これらの中でも、特にロジンエステル型、及び硬化ひまし油型がより好ましい。
【0242】
また、非界面活性剤系の分散媒体として、沸点100℃以上の有機化合物が有効であることがある。このような有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン構造を有する有機化合物、等が挙げられる。また、樹脂の種類に依存するが、例えば樹脂がポリオレフィンである場合には、流動パラフィン、デカリンなどの高沸点有機溶媒が有効である。また、樹脂がナイロン及びポリアセテートのような極性樹脂の場合には、セルロースを製造する際に使用できる非プロトン性溶媒と同様の溶媒、例えば、ジメチルスルホキシドを使用することが有効な場合がある。
【0243】
<着色剤>
第一~第三の実施形態において、樹脂組成物は着色剤を更に含んでよい。中でも、有機着色剤は、樹脂組成物の靭性を向上させる効果を有する点で有利である。有機着色剤としては、アジン系化合物(ニグロシン等)、アニリンブラック、シアニン系化合物(フタロシアニン、ナフタロシアニン等)、ポルフィリン、ペリレン、クオテリレン、金属錯体、アゾ染料、アントラキノン、スクエア酸誘導体、インモニウム染料等等を例示でき、ニグロシンが特に好ましい。ニグロシンは、黒色のアジン系縮合混合物として当業者に知られている成分であり、例えばC.I.SOLVENT BLACK 5、C.I.SOLVENT BLACK 7等としてColour Indexに記載されるものが知られている。ニグロシンの具体例としては、トリフェナジンオキサジン、フェナジンアジン等を例示できる。ニグロシンの市販品として、ヌビアンブラックPA-9801、ヌビアンブラックPA-9800、ヌビアンブラックPA-0800(以上、オリヱント化学工業(株)より入手可能)等を例示できる。ニグロシンは、単に着色剤として機能するのみでなく、樹脂組成物の製造時、特に溶融混練後の冷却時にポリアミドの結晶化を遅延させる効果を有するため、樹脂組成物の靭性を向上させるとともに欠陥発生を抑制して樹脂組成物の靭性のばらつきを低減させ得る。
【0244】
樹脂組成物100質量%中のニグロシンの含有率は、ニグロシンの使用による上記の効果を良好に得る観点から、好ましくは、0.001質量%以上、又は0.01質量%以上、又は0.03質量%以上であり、寸法安定性の観点から、好ましくは、1質量%以下、又は0.5質量%以下、又は0.3質量%以下である。
【0245】
<その他の成分>
第一~第三の実施形態において、樹脂組成物は、その他の成分として、例えば、セルロース以外の高耐熱性の有機ポリマーからなる微細繊維フィラー成分(例えば、アラミド繊維のフィブリル化繊維又は微細繊維);相溶化剤;可塑剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;ゼオライト、セラミックス、タルク、シリカ、金属酸化物、金属粉末等の無機化合物;香料;顔料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;紫外線分散剤;消臭剤等の添加剤を含んでよい。上記のその他の成分の樹脂組成物中の含有割合は、本発明の所望の効果が損なわれない範囲で適宜選択される。
【0246】
≪樹脂組成物の製造≫
第一~第三の実施形態の樹脂組成物の製法として特に制限はないが、具体例としては以下の様な方法が挙げられる。単軸又は二軸押出機を用いて、第1のポリマー(すなわちポリアミド)、第2のポリマー(例えばポリフェニレンエーテル)、セルロース(例えばセルロースナノファイバー)、及び任意のエラストマーの混合物(第一の実施形態)、ポリアミド、エラストマー、及びセルロースの混合物(第二の実施形態)、又はポリアミド、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物、及びセルロース、並びに任意にエラストマーの混合物(第三の実施形態)を溶融混練し、ストランド状に押出し、水浴中で冷却固化させ、ペレット状成形体として得る方法、単軸又は二軸押出機を用いて、同様に溶融混練し、棒状又は筒状に押出し冷却して押出成形体として得る方法、単軸又は二軸押出機を用いて溶融混練し、Tダイより押出しシート、又はフィルム状の成形体を得る方法等が挙げられる。
【0247】
≪樹脂組成物の形状≫
第一~第三の実施形態の樹脂組成物は、種々の形状での提供が可能である。具体的には、樹脂ペレット状、シート状、繊維状、板状、棒状等が挙げられるが、樹脂ペレット形状が、後加工の容易性や運搬の容易性からより好ましい。この際の好ましいペレット形状としては、丸型、楕円型、円柱型などが挙げられ、これらは押出加工時のカット方式により異なる。アンダーウォーターカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは、丸型になることが多く、ホットカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは丸型又は楕円型になることが多く、ストランドカットと呼ばれるカット方法で切断されたペレットは円柱状になることが多い。丸型ペレットの場合、その好ましい大きさは、ペレット直径として1mm以上、3mm以下である。また、円柱状ペレットの場合の好ましい直径は、1mm以上3mm以下であり、好ましい長さは、2mm以上10mm以下である。上記の直径及び長さは、押出時の運転安定性の観点から、下限以上とすることが望ましく、後加工での成形機への噛み込み性の観点から、上限以下とすることが望ましい。
【0248】
第一~第三の実施形態の樹脂組成物は、種々の樹脂成形体として利用が可能である。樹脂成形体の製造方法に関しては特に制限はなく、いずれの製造方法でも構わないが、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、インフレーション成形法、発泡成形法などが使用可能である。これらの中では射出成形法がデザイン性及びコストの観点より、最も好ましい。
【0249】
≪樹脂組成物の特性≫
第一~第三の実施形態の樹脂組成物においては、得られる成形体の強度欠陥の解消の観点から、引張破断強度の変動係数CVを、10%以下とすることが好ましい。ここでいう変動係数とは、標準偏差(σ)を算術平均(μ)で除して100を乗じた百分率であらわされるもので、相対的なばらつきを表す単位のない数である。
CV=(σ/μ)×100
ここで、μとσとは、下式により与えられる。
【0250】
【数1】
ここで、xiは、n個のデータ x1、x2、x3・・・・xnのうちの引張破断強度の単一の個データである。
【0251】
引張破断強度の変動係数CVを算出する際のサンプル数(n)は、その欠陥を見つけやすくするため、少なくとも10以上であることが望ましい。より望ましくは15以上である。
【0252】
より好ましい変動係数の上限は、9%であり、さらに好ましくは8%、より好ましくは7%、更により好ましくは6%、最も好ましくは5%である。下限はゼロが好ましいが、製造容易性の観点からは好ましくは0.1%である。
【0253】
従来の樹脂成形品の部分的な強度欠陥は、フィラー等の不均一分散、空隙(ボイド)の形成等が原因と考えられる。この強度欠陥の形成しやすさを評価する指標としては、複数の試験片の引張試験を実施し、破断強度のバラツキの有無・数を確認する方法が挙げられる。
【0254】
たとえば、自動車のボディ、ドアパネル、バンパー等の構造部品の成形体中に、フィラーの不均一分散部分、ボイド等が存在することにより、成形体に瞬間的に大きな応力がかかった際、若しくは振動の様に小さい応力ではあるが応力が繰り返しかかった際に、応力が集中し、成形体が破壊される事態に至る。これは製品の信頼性低下をもたらす。
【0255】
この実製品で起こる構造欠陥を試験段階で予見することは、従来まで困難であり、例えば、製品中の欠陥部を顕微鏡等で確認するような手法が用いられていた。しかしながら顕微鏡での観察等は、極めて微視的な観察であり、試験片全体、製品全体を網羅的に評価できるものではなかった。
【0256】
本発明者らは、種々の検討を進める中で、引張破断強度の変動係数と、製品の構造欠陥の割合に相関関係があることを見出した。
【0257】
より詳細に説明すると、例えば内部構造が均質で、ボイド等もない材料であれば、複数のサンプルの引張破断試験を行った際にも、破断に至る際の応力は、当該複数のサンプル間でほぼ同値であり、その変動係数は非常に小さい。しかしながら内部に不均一部、ボイド等を有する材料は、あるサンプルにおいて破断に至る応力がその他のサンプルの応力と大きな差異を有する。このような、他のサンプルの応力と異なる応力を示すサンプルの多さの程度を、変動係数という尺度を用いることで明確にすることができる。
【0258】
例を挙げると、例えば、降伏強度を有さない材料の場合は、内部に欠陥を有するサンプルは、その他のサンプルに比して、より低い強度で破断に至る。また、降伏強度を有する材料の場合は、降伏に至ったのち、ネッキングに至る途中で破断に至ることが多く、内部に欠陥を有するサンプルは、その他のサンプルに比して、より高い強度で破断に至る傾向を示す。このように挙動の違いはあるが、引張破断強度の変動係数という尺度により、実製品の強度欠陥の発生可能性を予期しえる。
【0259】
引張破断強度の変動係数には、組成物中におけるセルロースの分散状態及び分散位置が大きく影響を与えていると考えられる。また、例えば第二の実施形態のポリアミド/エラストマー系アロイの場合、エラストマー相、及びエラストマーとポリアミドとの界面層が物性安定化に重要な部位である。例えば、セルロースが分散相と連続相との界面、又は分散相中に局在化していると、その局在化部分が応力集中点となり、物性安定性が低下する。すなわち、セルロースを、安定的にポリアミド相に分散させることは、物性の安定性に有利である。
【0260】
第一~第三の実施形態において、セルロースを安定的にポリアミド相に分散させる手法としては種々挙げられる。例えば第一の実施形態においては、ポリアミドと、ポリフェニレンエーテル及び任意のエラストマーの合計との組成比を適正にする方法、ポリフェニレンエーテル及び任意のエラストマーの酸性官能基の量を最適化する方法、ポリアミドの末端基濃度を適正にする方法、セルロースの混練時の添加順序を最適化する方法、最適な界面活性剤等を添加することによりポリフェニレンエーテルとセルロースとの親和性を弱め若しくはポリアミドとの親和性を高める方法、ポリアミドとセルロースとを予め溶融混合しマスターバッチとする方法、押出機加工時のスクリュー配置を最適化する方法、加工時の温度コントロールによる樹脂粘度を最適化する方法など、様々なアプローチが挙げられる。また、例えば第二の実施形態においては、ポリアミドとエラストマーとの組成比を適正にする方法、エラストマーの酸性官能基の量を最適化する方法、ポリアミドの末端基濃度を適正にする方法、セルロースの混練時の添加順序を最適化する方法、最適な界面活性剤等を添加することによりエラストマーとセルロースとの親和性を弱め若しくはポリアミドとの親和性を高める方法、ポリアミドとセルロースとを予め溶融混合しマスターバッチとする方法、押出機加工時のスクリュー配置を最適化する方法、加工時の温度コントロールによる樹脂粘度を最適化する方法など、様々なアプローチが挙げられる。
【0261】
また上記以外にも、セルロースの耐熱性を向上させ、樹脂との混練時の熱劣化による構造欠陥の起点となることを防止することで、物性の安定性が増すこととなる。
【0262】
セルロースを、安定的にポリアミド相に分散させるためには、これらのアプローチのいずれを採用してもよい。引張破断強度の変動係数CVを10%以下とすることは、得られる成形体の強度欠陥の解消に高く寄与することができ、成形体の強度に対する信頼性が大幅に向上するという効果を与える。
【0263】
第一~第三の実施形態の樹脂組成物においては、引張降伏強度が、熱可塑性樹脂単独に比して飛躍的に改善する傾向がある。樹脂組成物の引張降伏強度の、熱可塑性樹脂単独の引張降伏強度を1.0としたときの比率は、1.1倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.15倍以上、さらにより好ましくは1.2倍以上、最も好ましくは1.3倍以上である。上記比率の上限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5.0倍であることが好ましく、より好ましくは4.0倍である。
【0264】
第一~第三の実施形態の樹脂組成物は、セルロースを含むため、比重を増すことなく、低熱膨張性を示すことが可能となる。具体的には、樹脂組成物の温度範囲20℃~100℃における熱膨張係数は、好ましくは70ppm/K以下であり、より好ましくは60ppm/K以下であり、より好ましくは50ppm/K以下であり、より好ましくは45ppm/K以下であり、さらにより好ましくは40ppm/K以下であり、最も好ましくは35ppm/K以下である。熱膨張係数の下限は特に制限されないが、製造容易性の観点から、例えば、5ppm/Kであることが好ましく、より好ましくは10ppm/Kである。
【0265】
第一~第三の実施形態の樹脂組成物においては、セルロースがポリアミド相に安定的に微分散していることができ、大型成形体における線膨張係数のバラツキが小さいという特徴をも有し得る。具体的には、大型成形体の異なる部位から採取した試験片を用いて測定した線膨張係数のバラツキが非常に低いという特徴を示すことができる。
【0266】
セルロースの樹脂組成物中での分散が不均一で、部位による線膨張係数の違いが大きい場合、温度変化により、成形体に歪み又は反りが生じるといった不具合を生じやすい。しかもこの不具合は熱膨張の違いにより生じ、温度の上下により可逆的に発生する故障モードである。そのため、室温状態でのチェックでは認識できないという潜在的危険性を有する故障モードとなりうるものである。
【0267】
線膨張係数のバラツキの大小は、部位の異なる部分より得た測定サンプルの線膨張係数の変動係数を用いて表すことが可能である。ここでいう変動係数とは、上述の引張破断強度の変動係数の項で説明したものと計算方法は同じである。
【0268】
第一~第三の実施形態の樹脂組成物における線膨張係数の変動係数は、15%以下であることが好ましい。変動係数の上限は、より好ましくは13%、さらに好ましくは11%、更により好ましくは10%、更により好ましくは9%、最も好ましくは8%である。下限はゼロが好ましいが、製造容易性の観点からは好ましくは0.1%である。
【0269】
線膨張係数の変動係数を算出する際のサンプル数(n)は、データの誤差等による影響を少なくするため、少なくとも10以上であることが望ましい。
【0270】
<引張破断歪>
第一の実施形態において、樹脂組成物の引張破断歪は、好ましくは10%以上、又は20%以上、又は30%以上、又は40%以上、又は50%以上である。このような樹脂組成物は、靭性に優れ好ましい。樹脂組成物の引張破断歪は高い方が好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、500%以下、又は200%以下、又は100%以下であってもよい。上記引張破断歪は、長さ70mm、幅10mm、厚さ2mmの短冊試験片について、引張試験機を用い、温度23℃、相対湿度50%の環境下にてチャック間距離40mm、引張速度5mm/分で引張試験を実施したときの破断時の歪として得られる値である。
【0271】
第二及び第三の実施形態において、樹脂組成物の引張破断歪は、好ましくは10%以上、又は20%以上、又は30%以上、又は40%以上、又は50%以上である。このような樹脂組成物は、靭性に優れ好ましい。樹脂組成物の引張破断歪は高い方が好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、500%以下、又は200%以下、又は100%以下であってもよい。上記引張破断歪は、ISO 37 type 3の試験片について、引張試験機を用い、温度23℃,相対湿度50%の環境下にて引張速度5mm/分で引張試験を実施したときの、破断時の歪のデータ5点の算術平均として得られる値である。
【0272】
第一~第三の実施形態に係る樹脂組成物は、物性異方性が小さいという利点を有することができる。樹脂組成物をISO294-1に準拠して成形してなる多目的試験片の中央部において、小角X線散乱法によって決定されるセルロースの配向度(特にセルロースナノファイバーの配向度)は、物性異方性が小さい点で、好ましくは、0.45以下、又は0.40以下、又は0.35以下、又は0.30以下、又は0.25以下、又は0.20以下である。上記配向度は小さい程好ましいが、樹脂組成物の製造容易性の観点から、例えば、0.01以上、又は0.05以上、又は0.10以上であってよい。
【実施例0273】
以下、本発明のより具体的な態様を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されない。
【0274】
-例I(第一の実施形態)-
≪使用材料≫
<ポリアミド>
(1)ポリアミド6(PA6)
カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.7
ISO307に準拠して、96質量%濃度硫酸中で測定したポリアミドの粘度数(VN)=95
(2)ポリアミド66(PA66)
カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.6
ISO307に準拠して、96質量%濃度硫酸中で測定したポリアミドの粘度数(VN)=118
(3)ポリアミド610(PA610)
カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.5
ISO307に準拠して、96質量%濃度硫酸中で測定したポリアミドの粘度数(VN)=115
(4)ポリアミド12(PA12)
カルボキシル末端基比率が、([COOH]/[全末端基])=0.6
ISO307に準拠して、96質量%濃度硫酸中で測定したポリアミドの粘度数(VN)=98
【0275】
<ポリフェニレンエーテル(非晶性樹脂)>
(1)ポリフェニレンエーテル(以下単に、PPE)
ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)
極限粘度[η]:0.40dl/g、ガラス転移点:210℃
(2)無水マレイン酸変性ポリフェニレンエーテル(以下単に、m-PPE)
PPE100質量部に対して、ラジカル開始剤0.1質量部および無水マレイン酸1.5質量部を添加し、二軸押出機を用いてシリンダー温度320℃で溶融混練して作製した。なお、m-PPEの無水マレイン酸の付加率は0.5%、ガラス転移点は210℃であった。
【0276】
<エラストマー>
(1)無水マレイン酸変性スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体(以下単に、m-SEBS)
結合スチレン含有量が20質量%であるスチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体、タフテックH1052(旭化成株式会社)に対して、ラジカル開始剤0.15質量部及び無水マレイン酸1.4質量部を添加し、二軸押出機を用いてシリンダー温度230℃で溶融混練して調製した。なお、m-SEBSの無水マレイン酸の付加率は0.9%、MFR(230℃、2.16kgf)は8g/10分、ガラス転移点は-48℃であった。
(2)無水マレイン酸変性エチレン-オクテン共重合体(以下単に、m-EOR)
フサボンド MN-493D(ダウデュポン)
MFR(190℃、2.16kgf)=1.2g/10分
オクテン含有量=28質量%
融点=55℃(DSC法:昇温速度10℃/分)
ガラス転移点=-55℃
(3)スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体(以下単に、SEBS)
タイポール 6151(TSRC 台橡股▲フン▼有限公司)
スチレン含有量=33質量%
重量平均分子量=27万
ガラス転移点=-48℃
【0277】
(4)スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(以下単に、SBS1)
アサプレン T-437(旭化成株式会社)
スチレン含有量=30質量%
MFR(200℃、5kgf)=2g/10分
ガラス転移点=-75℃
(5)スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(以下単に、SBS2)
タフプレン A(旭化成株式会社)
スチレン含有量=40質量%
MFR(200℃、5kgf)=13g/10分
ガラス転移点=-75℃
(6)スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(以下単に、SBS3)
タフプレン T-438(旭化成株式会社)
スチレン含有量=35質量%
MFR(200℃、5kgf)=25g/10分
ガラス転移点=-75℃
【0278】
<酸化防止剤>
イルガノックス1010(BASFジャパン株式会社)
【0279】
<疎水化CNF>
(解繊工程)
リンターパルプを原料とし、一軸撹拌機(アイメックス社製 DKV-1 φ125mmディゾルバー)を用いジメチルスルホキサイド(DMSO)中で500rpmにて1時間、常温で攪拌した。続いて、ホースポンプでビーズミル(アイメックス社製 NVM-1.5)にフィードし、DMSOのみで120分間循環運転させ、解繊スラリーを得た。
【0280】
(解繊・アセチル化工程)
そして、解繊スラリー100質量部に対し、酢酸ビニル11質量部、炭酸水素ナトリウム1.63質量部をビーズミル装置内へ加えた後、60分間さらに循環運転を行い、疎水化CNFスラリーを得た。
【0281】
循環運転の際、ビーズミルの回転数は2500rpm、周速12m/sとした。ビーズはジルコニア製、φ2.0mmを用い、充填率は70%とした(このときのビーズミルのスリット隙間は0.6mm)。また、循環運転の際は、摩擦による発熱を吸収するためにチラーによりスラリー温度を40℃に温度管理した。
【0282】
得られた疎水化CNFスラリーに、純水を解繊スラリー100質量部に対し、192質量部加えて十分に撹拌した後、脱水機に入れて濃縮した。得られたウェットケーキを再度、同量の純水に分散、撹拌、濃縮する洗浄操作を合計5回繰り返した。
【0283】
得られた、疎水化CNF(ウェットケーキ、又は多孔質シートの形態)の特性を評価したところ、アシル置換度DS(アセチル化度)が0.9、結晶化度が75%、平均繊維径が65nm、L/Dが30以上(約450)、Mwが340,000、Mw/Mn比が5.4、アルカリ可溶多糖類平均含有率が3.4質量%であった。
【0284】
得られた疎水化CNFの水分散体(固形分率:10質量%)にPEG20000を、疎水化CNF100質量部に対し、5質量部添加したのち、公転・自転方式の攪拌機(プライミクス社製 ハイビスミックス2P-1)を用いて約40℃で真空乾燥させることにより、疎水化CNF粉体を得た。
【0285】
≪評価方法≫
<ポリマーの評価>
[融点]
ポリマーペレットについて、示差走査熱量分析装置(PERKINELMER社製DSC8500)を用いて、23℃から10℃/分の昇温速度で昇温していった際に、現れる吸熱ピークのピークトップ温度を測定した。吸熱ピークが2つ以上現れる場合は、最も低温側のピークのピークトップ温度を融点とした。
【0286】
[ガラス転移点]
ポリマーをISO294-1に準拠して成形して得た板状の多目的試験片の中央部について、動的粘弾性測定装置(TA Instruments社製 ARES G2)を用いて、-100℃から2℃/分の昇温速度で昇温しながら、印加周波数10Hzで測定の条件で測定した際に、貯蔵弾性率が大きく低下し、損失弾性率が最大となるピークのピークトップの温度を測定した。損失弾性率のピークが2つ以上現れる場合は、最も低温側のピークのピークトップ温度をガラス転移点とした。
【0287】
<CNFの評価>
[多孔質シートの作製]
まず、ウェットケーキをtert-ブタノール中に添加し、さらにミキサー等で凝集物が無い状態まで分散処理を行った。CNF固形分重量0.5gに対し、濃度が0.5質量%となるように調整した。得られたtert-ブタノール分散液100gをろ紙上で濾過し、150℃にて乾燥させた後、ろ紙を剥離してシートを得た。このシートの透気抵抗度がシート目付10g/m2あたり100sec/100ml以下のものを多孔質シートとし、測定サンプルとして使用した。
23℃、50%RHの環境で1日静置したサンプルの目付W(g/m2)を測定した後、王研式透気抵抗試験機(旭精工(株)製、型式EG01)を用いて透気抵抗度R(sec/100ml)を測定した。この時、下記式に従い、10g/m2目付あたりの値を算出した。
目付10g/m2あたり透気抵抗度(sec/100ml)=R/W×10
【0288】
[アシル置換度(DS)]
多孔質シートの5か所のATR-IR法による赤外分光スペクトルを、フーリエ変換赤外分光光度計(JASCO社製 FT/IR-6200)で測定した。赤外分光スペクトル測定は以下の条件で行った。
積算回数:64回、
波数分解能:4cm-1
測定波数範囲:4000~600cm-1
ATR結晶:ダイヤモンド、
入射角度:45°
得られたIRスペクトルよりIRインデックスを、下記式(1):
IRインデックス= H1730/H1030・・・(1)
に従って算出した。式中、H1730及びH1030は1730cm-1、1030cm-1(セルロース骨格鎖C-O伸縮振動の吸収バンド)における吸光度である。ただし、それぞれ1900cm-1と1500cm-1を結ぶ線と800cm-1と1500cm-1を結ぶ線をベースラインとして、このベースラインを吸光度0とした時の吸光度を意味する。
そして、各測定場所の平均置換度をIRインデックスより下記式(2)に従って算出し、その平均値をDSとした。
DS=4.13×IRインデックス・・・(2)
【0289】
[結晶化度]
多孔質シートのX線回折測定を行い、下記式より結晶化度を算出した。
結晶化度(%)=[I(200)-I(amorphous)]/I(200)×100
(200):セルロースI型結晶における200面(2θ=22.5°)による回折ピーク強度
(amorphous):セルロースI型結晶におけるアモルファスによるハローピーク強度であって、200面の回折角度より4.5°低角度側(2θ=18.0°)のピーク強度
(X線回折測定条件)
装置 MiniFlex(株式会社リガク製)
操作軸 2θ/θ
線源 CuKα
測定方法 連続式
電圧 40kV
電流 15mA
開始角度 2θ=5°
終了角度 2θ=30°
サンプリング幅 0.020°
スキャン速度 2.0°/min
サンプル:試料ホルダー上に多孔質シートを貼り付け
【0290】
[平均繊維径、L/D]
ウェットケーキをtert-ブタノールで0.01質量%まで希釈し、高剪断ホモジナイザー(IKA製、商品名「ウルトラタラックスT18」)を用い、処理条件:回転数25,000rpm×5分間で分散させ、マイカ上にキャストし、風乾したものを、高分解能走査型顕微鏡で測定した。測定は、少なくとも100本のセルロース繊維が観測されるように倍率を調整して行い、無作為に選んだ100本のセルロース繊維の長さ(L)、長径(D)及びこれらの比を求め、100本のセルロース繊維の加算平均を算出した。
【0291】
[重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及びMw/Mn比]
多孔質シートを0.88g秤量し、ハサミで小片に切り刻んだ後、軽く攪拌したうえで、純水20mLを加え1日放置した。次に遠心分離によって水と固形分を分離した。続いてアセトン20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。次に遠心分離によってアセトンと固形分を分離した。続いてN,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。再度、遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離したのち、N,N-ジメチルアセトアミド20mLを加え、軽く攪拌したうえで1日放置した。遠心分離によってN,N-ジメチルアセトアミドと固形分を分離し、固形分に塩化リチウムが8質量パーセントになるように調液したN,N-ジメチルアセトアミド溶液を19.2g加え、スターラーで攪拌し、目視で溶解するのを確認した。セルロースを溶解させた溶液を0.45μmフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミエーションクロマトグラフィ用の試料として供した。用いた装置と測定条件は下記である。
装置 :東ソー社 HLC-8120
カラム:TSKgel SuperAWM-H(6.0mmI.D.×15cm)×2本
検出器:RI検出器
溶離液:N,N-ジメチルアセトアミド(塩化リチウム0.2%)
流速:0.6mL/分
検量線:プルラン換算
【0292】
[アルカリ可溶多糖類平均含有率]
アルカリ可溶多糖類含有率はCNFについて非特許文献(木質科学実験マニュアル、日本木材学会編、92~97頁、2000年)に記載の手法より、ホロセルロース含有率(Wise法)からαセルロース含有率を差し引くことで求めた。1つのサンプルにつき3回アルカリ可溶多糖類含有率を算出し、算出したアルカリ可溶多糖類含有率の数平均をCNFのアルカリ可溶多糖類平均含有率とした。
【0293】
<フェンダーの評価>
[フェンダー成形]
得られたペレットを用いて、最大型締圧力4000トンの射出成形機のシリンダー温度を260℃に設定し、図6及び7の概略図に示す形状を有するフェンダーを成形可能な所定の金型(キャビティー容積:約1400cm3、平均厚み:2mm、投影面積:約7000cm2、ゲート数:5点ゲート、ホットランナー:なお、図6中で、成形体のランナー位置を明確にするためにランナー(ホットランナー)の相対的な位置1を図示した。)を用い、金型温度を80℃に設定し、フェンダーを成形した。
【0294】
[CNFのポリアミド相比率]
図7を参照し、フェンダーの(9)の位置から切り出したサンプルを透過型電子顕微鏡で観察し、ポリアミド相中に存在するセルロースの量を示す面積(CNFp)と、その他の相に存在するセルロースの量を示す面積(CNFo)を確認した。この際、ポリアミド相及び他の相をそれぞれ適宜、公知の染色剤で染色し、セルロースが明瞭に確認できるようにした。
CNFのポリアミド相比率は以下の計算式によって計算した。
CNFのポリアミド相比率=CNFp/(CNFp+CNFo)
【0295】
[吸水率]
図7を参照し、フェンダーの(10)の位置からおおよそ10mm角に切り出し縦10mm、横10mm、厚さ2mmの小平板試験片を採取した。吸水前の試験片の重量(Wb)を測定した。試験片を80℃の温水に17時間含侵後、恒温恒湿槽にて80℃57RH%条件下に100時間暴露し、さらにその後23℃50RH%の恒温恒湿室にて24時間放置、吸水後の試験片の重量(Wa)を測定した。吸水率は以下の計算式によって計算した。
吸水率=(Wa-Wb)/Wb×100
【0296】
[線膨張係数]
図7を参照し、フェンダーの(1)の位置から樹脂の流れ方向に10mm、樹脂の流れ方向の垂直方向に5mm、厚さ2mmの短冊試験片を採取した。測定温度範囲-10℃~120℃で、ISO11359-2に準拠して、成形時の樹脂の流動方向に関しての膨張率を測定し、20℃~100℃の間での膨張係数を算出した。この際、測定に先立ち、120℃環境下で5時間静置してアニーリングを実施した。
【0297】
[線膨張異方性]
上記線膨張係数について、測定温度範囲-10℃~120℃で、ISO11359-2に準拠して、成形時の樹脂の流動方向の垂直方向に関しての膨張率を測定し、20℃~100℃の間での膨張係数を算出した。この際、測定に先立ち、120℃環境下で5時間静置してアニーリングを実施した。
線膨張異方性は以下の式で算出した。
線膨張異方性=成形時の樹脂の流動方向の線膨張係数/成形時の樹脂の流動方向と垂直方向の線膨張係数
【0298】
[引張破断歪]
図7を参照し、フェンダーの(2)の位置から樹脂の流れ方向に70mm、樹脂の流れ方向の垂直方向に10mm、厚さ2mmの短冊試験片を採取した。引張試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAG-IS)を用い、チャック間距離40mm、引張速度5mm/分、23℃50RH%で引張試験を行い、破断時の歪を引張破断歪とした。
【0299】
[セルロースの配向度]
樹脂組成物をISO294-1に準拠して成形して得た板状の多目的試験片の中央部に、板面に対して垂直にX線を入射し、小角X線散乱法によってセルロースの配向度を求めた。具体的には、小角X線散乱測定によって得られた2次元散乱パターンに対して円環平均することで1次元散乱プロファイルを得て、バックグラウンド補正を行った後、0.05<q<0.07 nm-1の範囲の散乱強度の方位角依存性を得た。このとき、q=4πsinθ/λ(λ:X線の波長,2θ:散乱角)である。この結果に基づき、以下の通り配向度<P2>を算出した。
【0300】
直交する3つの軸を考え、セルロースの繊維軸方向と当該3つの軸の各々とのなす角度をα、β、γとすると次式が成り立つ。
【数2】
【0301】
多目的試験片の成形時の流動方向とセルロース繊維軸とのなす角をαとし、セルロースは流動方向回りに対称であるとすると、次式が成り立つ。
【数3】
【0302】
セルロース表面からの散乱はαと直交するβ方向に現れることから、<cos2β>は以下の式により算出できる。
【数4】
【0303】
従って、セルロース繊維軸の配向度<P2>は以下の式で表される。
【数5】
【0304】
この際、流動方向に完全配向している場合は<P2>は1となり、無配向の場合は0となる。
【0305】
(小角X線散乱測定条件)
装置:リガク製 NANOPIX
X線波長:0.154nm
光学系:ポイントコリメーション(1st:0.55mmφ、2nd:Open、guard:0.35mmφ)
検出器:HyPix-6000(2次元半導体検出器)
カメラ長:1312mm
露光時間:15分/1試料
試料セル周りの環境:大気
試験片配置:多目的試験片成形時の樹脂組成物流動方向が左右方向となるよう配置
X線入射方向:多目的試験片の板面に対して垂直方向
【0306】
≪コンポジットの製造≫
[押出機デザイン]
シリンダーブロック数が13個ある、L/Dが52の二軸押出機(東芝機械(株)製のTEM SXシリーズ押出機)を用い、シリンダー5にサイドフィード口を設置して該位置より原料供給を可能とし、またシリンダー12で減圧吸引するためのベントポートを設置して揮発成分及び共存空気を除去できるようにした。
【0307】
スクリュー構成としては、シリンダー1~2を搬送スクリューとし、シリンダー3~4にかけて2個の時計回りニーディングディスク(送りタイプニーディングディスク:以下、RKD)と、引き続いての1個のニュートラルニーディングディスク(無搬送タイプニーディングディスク:以下、NKD)と引き続いての反時計回りスクリューを配して予備混合ゾーンとし、サイドフィードゾーンであるシリンダー5を搬送スクリューとし、シリンダー6~7にかけて1個のRKDと2個のNKD、引き続いての1個の反時計回りスクリューを配して、溶融混練ゾーンとした。シリンダー8~9までを搬送スクリューとし、シリンダー10に1個のRKDと、引き続いての1個のNKDと引き続いての反時計回りスクリューを配して混練ゾーンとした。シリンダー11~13は搬送スクリューとし、脱揮ゾーンとした。
【0308】
[実施例1-1]
シリンダー1を水冷、シリンダー3を300℃、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1より、m-PPE 34.3質量部(pbw)と、疎水化CNF 14.3質量部(うちPEG 20000が4.3質量部)との混合物をフィードして混練し、ストランド状に押出した。ストランドをストランドカッターで切断し、m-PPE/疎水化CNFマスターバッチペレットを得た。
シリンダー1を水冷、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1より、PA6 51.4質量部と、m-PPE/疎水化CNFマスターバッチ 48.6質量部との混合物をフィードして混練し、ストランド状に押出した。ストランドをストランドカッターで切断し、疎水化CNFコンポジットペレットを得た。得られたコンポジットの組成を表1に示す。
【0309】
[実施例1-2]
シリンダー1を水冷、シリンダー3を300℃、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1よりm-PPE 34.3質量部をフィードし、さらにシリンダ-5のサイドフィード口よりPA6 51.4質量部、と疎水化CNF 14.3質量部との混合物をフィードして混練し、疎水化CNFコンポジットペレットを得た。
【0310】
[実施例1-3]
シリンダー1を水冷、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1より、PA6 51.4質量部と、疎水化CNF 14.3質量部との混合物をフィードして混練し、ストランド状に押出した。ストランドをストランドカッターで切断し、PA/疎水化CNFマスターバッチペレットを得た。
シリンダー1を水冷、シリンダー3を300℃、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1より、m-PPE 34.3質量部と、PA/疎水化CNFマスターバッチ 65.7質量部との混合物をフィードして混練し、ストランド状に押出した。ストランドをストランドカッターで切断し、疎水化CNFコンポジットペレットを得た。得られたコンポジットの組成を表1に示す。
【0311】
[実施例1-4]
シリンダー1を水冷、シリンダー3を300℃、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1より、PA6 51.4質量部と、m-PPE 34.3質量部と、疎水化CNF 14.3質量部との混合物をフィードして混練し、ストランド状に押出した。ストランドをストランドカッターで切断し、疎水化CNFコンポジットペレットを得た。
【0312】
[比較例1-1]
疎水化CNFを用いず、表1に示す組成になるように各材料の混練を行った以外は実施例1-4と同様にしてペレットを得た。
【0313】
[比較例1-2]
シリンダー3を250℃に設定し、m-PPEを用いず、組成が表1になるように混練を行った以外は実施例1-4と同様にしてペレットを得た。
【0314】
[参考例1-1]
シリンダー3を250℃に設定し、組成が表1になるように混練を行った以外は実施例1-4と同様にしてペレットを得た。得られたコンポジットの組成を表2に示す。
【0315】
[実施例1-5]
シリンダー1を水冷、シリンダー3を300℃、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1よりm-PPE 40質量部と、SEBS 10質量部との混合物をフィードし、さらにシリンダ-5のサイドフィード口よりPA6 50質量部をフィードして混練し、樹脂ペレットを得た。
シリンダー1を水冷、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1より、樹脂ペレット 87.5質量部と、疎水化CNF 14.3質量部との混合物をフィードして混練し、ストランド状に押出した。ストランドをストランドカッターで切断し、疎水化CNFコンポジットペレットを得た。得られたコンポジットの組成を表2に示す。
【0316】
[実施例1-6]
シリンダー1よりPPE 30質量部と、m-PPE 10質量部と、SEBS 10質量部との混合物をフィードした以外は実施例1-5と同様にして疎水化CNFコンポジットペレットを得た。
【0317】
[実施例1-7,1-8]
表2に示す組成になるように各材料の混練を行った以外は実施例1-5と同様にして疎水化CNFコンポジットペレットを得た。
【0318】
[実施例1-9]
シリンダー1よりm-PPE 40質量部と、SEBS 10質量部との混合物をフィードし、さらにシリンダ-5のサイドフィード口よりPA6 45質量部と、m-EOR 5質量部との混合物をフィードして混練した以外は実施例1-5と同様にして疎水化CNFコンポジットペレットを得た。
【0319】
[実施例1-10]
シリンダー1を水冷、シリンダー3を300℃、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1よりPA6 50質量部と、m-PPE 40質量部と、SBS1 10質量部と、酸化防止剤 0.2質量部との混合物をフィードして混練し、樹脂ペレットを得た。
シリンダー1を水冷、その他のシリンダーを250℃に設定した押出機のシリンダー1より、樹脂ペレット 87.5質量部と、疎水化CNF 14.3質量部との混合物をフィードして混練し、ストランド状に押出した。ストランドをストランドカッターで切断し、疎水化CNFコンポジットペレットを得た。
【0320】
[実施例1-11~1-20]
表2及び3に示す組成になるように各材料の混練を行った以外は実施例1-10と同様にして疎水化CNFコンポジットペレットを得た。
【0321】
【表1】
【0322】
【表2】
【0323】
【表3】
【0324】
-例II(第二の実施形態)-
≪使用材料≫
<ポリアミド>
末端カルボキシ基リッチポリアミド6(以下、単にPA6と称す。)
UBEナイロン 1013B(宇部興産株式会社)
アミノ基末端基比率が、([NH2]/([NH2]+[COOH]))=0.4
96質量%濃度硫酸中で測定したポリアミドの粘度数(VN)=95
【0325】
<エラストマー>
[酸性官能基を有するエラストマー]
タフプレン T912(旭化成株式会社) (以下、単にm-SBSと称す。)
無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体
結合スチレン含有量=40質量%
無水マレイン酸付加率=0.2質量%
ガラス転移点=-75℃
【0326】
フサボンド MN-493D(ダウデュポン) (以下、単にm-EORと称す。)
無水マレイン酸変性エチレン-オクテン共重合体
MFR(190℃、2.16kgf)=1.2g/10分
オクテン含有量=28質量%
融点=55℃(DSC法:昇温速度10℃/分)
ガラス転移点=-55℃
無水マレイン酸付加率=1.0質量%
【0327】
[酸性官能基を有さないエラストマー]
アサプレン T-411(旭化成株式会社) (以下、単にSBSと称す。)
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体
結合スチレン含有量=30質量%
ガラス転移点=-75℃
【0328】
<酸化防止剤>
イルガノックス1010(BASFジャパン株式会社)を用いた。
<着色剤>
有機着色剤:NUBIANBLACK PA9801(オリヱント化学工業株式会社)
無機着色剤:カーボンブラック#52(株式会社三菱ケミカルホールディングス)
【0329】
<セルロース>
例I(第一の実施形態)で調製したのと同じ疎水化CNF粉体を用いた。なお疎水化CNF(ウェットケーキ)の特性を評価したところ、径が65nm、L/Dが30以上(約450)、重量平均分子量(Mw)が340,000、アセチル化度が0.9であった。
【0330】
≪評価方法≫
[疎水化CNFの長さ、径、L/D]
ウェットケーキを、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを、原子間力顕微鏡(AFM)で計測された際に得られる粒子像の長さ(L)と径(D)とした場合の比(L/D)を求め、100個~150個の粒子の平均値として算出した。
【0331】
[連続相の確認]
得られたペレットをクロロホルム中に浸漬し、形状の変化の有無を確認した。今回実施した実施例、比較例とも、特に変化が起きなかったため、ポリアミドが連続相を形成していると判断した。
【0332】
[セルロースのポリアミド相比率]
得られた組成物を、ウルトラミクロトームを用いて、1μm厚みでスライスしフィルム状サンプルを得た後、クロロホルムに浸漬し、エラストマー相を溶出し、該溶出液を濃縮、超遠心分離し、セルロースを分離した後、該セルロースをクロロホルムで洗浄し超遠心分離を3回繰り返した。最終的に残ったセルロースを乾燥し、エラストマー相に存在するセルロース量とした。この得られた量を仕込み量から減じ、仕込みセルロース量で除した比率をパーセンテージとして表し、セルロースのポリアミド相比率とした。
【0333】
[エラストマー分散粒子の、数平均粒子径、及び粒子径1μm以上の分散粒子の体積比率]
得られた組成物を、透過型電子顕微鏡で撮影した。エラストマー分散相の500個の分散粒子について、径(すなわち分散粒子径)の数平均値、及び、粒子径1μm以上の分散粒子の体積比率を計算した。
【0334】
[熱膨張性(熱膨張係数)]
試験片(ISO 37 type 3)の中央部から、精密カットソーにて長さ10mm、幅4mm、厚み2mmのサンプルを切り出し、ISO11359-2に準拠して、測定温度範囲-10℃~120℃で、成形時の樹脂の流動方向(MD方向、サンプルの長さ方向)に関しての膨張率を測定し、20℃~100℃の間での熱膨張係数(以下、CTEMDと称す)を算出した。この際、測定に先立ち、120℃環境下で5時間静置してアニーリングを実施した。
【0335】
[靭性 引張破断歪]
試験片(ISO 37 type 3)について、引張試験機(株式会社島津製作所製オートグラフAG-IS)を用いて、温度23℃,相対湿度50%の環境下で引張速度5mm/minで引張試験を実施し、引張破断時の歪のデータ5点を算術平均し靭性の指標とした。
【0336】
≪押出条件≫
[押出機デザイン]
シリンダーブロック数が13個ある、L/Dが52の二軸押出機(東芝機械(株)製のTEM SXシリーズ押出機)のシリンダー1を水冷、シリンダー2~4を150℃、シリンダー5~ダイスを250℃に設定した。シリンダー12で減圧吸引するためのベントポートを設置し、揮発成分や共存空気を除去できるようにした。
【0337】
スクリュー構成としては、シリンダー1~2を搬送スクリューとし、シリンダー3に3個の時計回りニーディングディスク(送りタイプニーディングディスク:以下、単にRKDと呼ぶことがある。)を配し予備混合ゾーンとし、シリンダー4を搬送スクリューとし、シリンダー5~6にかけて1個のRKDと2個のニュートラルニーディングディスク(無搬送タイプニーディングディスク:以下、単にNKDと呼ぶことがある。)、引き続いての1個の反時計回りスクリューを配して、溶融混練ゾーンとした。サイドフィードゾーンであるシリンダー7~シリンダー9までを搬送スクリューとし、シリンダー10に2個のRKDと、引き続いての3個のNKDと引き続いての反時計回りスクリューを配して混練ゾーンとした。シリンダー11~13は搬送スクリューとし、脱揮ゾーンとした。また、ダイスには、3mm径の穴を2個有するダイスを取り付けた。
【0338】
≪樹脂組成物の製造≫
[実施例2-1~2-6、比較例2-1~2-2]
押出機デザインの押出機を用いて、表4に記載の割合で混合し、スクリュー回転数300rpmで溶融混練し、ペレットとして得た後、各種評価を実施した。結果を表4に記載した。
なお、表の質量部記載の欄が仕込み処方であり、中段の質量%の欄が組成、下段が物性を表している。
【0339】
表に示す結果から、芳香族ビニル化合物-共役ジエン化合物ブロック共重合体又はその誘導体であるエラストマーを用いた各実施例では、高い破断歪(すなわち良好な靭性)及び低い熱膨張係数を示したのに対し、エラストマーとしてエチレン-オクテン共重合体を用いた比較例2-1では熱膨張係数が劣り、エラストマーを用いなかった比較例2-2では破断歪が劣っていた。更に、着色剤を用いた実施例2-4、2-5、2-6と着色剤を用いていない実施例2-1を比較すると、実施例2-4、2-5、2-6において破断歪がより高い結果であった。
【0340】
【表4】
【0341】
-例III(第三の実施形態)-
≪使用材料≫
<ポリアミド>
PA6:UBEナイロン 1013B(宇部興産株式会社)
末端カルボキシ基リッチポリアミド6
アミノ基末端基比率が、([NH2]/([NH2]+[COOH]))=0.4
96質量%濃度硫酸中で測定したポリアミドの粘度数(VN)=95
【0342】
<エラストマー>
[酸性官能基を有するエラストマー]
m-EOR:フサボンド MN-493D(ダウデュポン)
無水マレイン酸変性エチレン-オクテン共重合体
MFR(190℃、2.16kgf)=1.2g/10分
オクテン含有量=28質量%
融点=55℃(DSC法:昇温速度10℃/分)
ガラス転移点=-55℃
無水マレイン酸付加率=1.0質量%
【0343】
m-SBS:タフプレン T912(旭化成株式会社)
無水マレイン酸変性スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体
結合スチレン含有量=40質量%
無水マレイン酸付加率=0.2質量%
ガラス転移点=-75℃
【0344】
[酸性官能基を有さないエラストマー]
SBS:アサプレン T-411(旭化成株式会社)
スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体
結合スチレン含有量=30質量%
ガラス転移点=-75℃
【0345】
<エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物>
EVOH-1:ソアノール V2504(株式会社三菱ケミカルホールディングス)
エチレン組成=25モル%、ビニルアルコール組成=75モル%、融点=195℃、ガラス転移点=63℃
EVOH-2:エバール M100B(株式会社クラレ)
エチレン組成=24モル%、ビニルアルコール組成=76モル%、融点=195℃、ガラス転移点=60℃
EVOH-3:エバール L104B(株式会社クラレ)
エチレン組成=27モル%、ビニルアルコール組成=73モル%、融点=190℃、ガラス転移点=63℃
EVOH-4:ソアノール DT2904(株式会社三菱ケミカルホールディングス)
エチレン組成=29モル%、ビニルアルコール組成=71モル%、融点=188℃、ガラス転移点=62℃
EVOH-5:ソアノール DC3212(株式会社三菱ケミカルホールディングス)
エチレン組成=32モル%、ビニルアルコール組成=68モル%、融点=183℃、ガラス転移点=61℃
EVOH-6:エバール C109B(株式会社クラレ)
エチレン組成=35モル%、ビニルアルコール組成=65モル%、融点=177℃、ガラス転移点=58℃
【0346】
<その他の成分>
酸化防止剤:イルガノックス1010(BASFジャパン株式会社)
有機着色剤:NUBIANBLACK PA9801(オリヱント化学工業株式会社)
無機着色剤:カーボンブラック#CB960(株式会社三菱ケミカルホールディングス)
【0347】
<セルロースナノファイバー>
[調製例1]セルロースナノファイバー(以下、CNFと称する)
リンターパルプを裁断後、オートクレーブを用いて、120℃以上の熱水中で3時間加熱し、ヘミセルロース部分を除去した精製パルプを、圧搾し、純水中に固形分率が1.5質量%になるように、叩解処理により高度に短繊維化及びフィブリル化させた後、そのままの濃度で高圧ホモジナイザー(操作圧:85MPaにて10回処理)により解繊することにより解繊セルロースを得た。ここで、叩解処理においては、ディスクリファイナーを用い、カット機能の高い叩解刃(以下カット刃と称す)で4時間処理した後に解繊機能の高い叩解刃(以下解繊刃と称す)を用いてさらに1.5時間叩解を実施した。
得られたCNFの特性を評価したところ、径が90nm、L/Dは30以上(約300)であった。
【0348】
得られたCNFの水分散体にPEG20000をCNF100質量部に対し、5質量部添加したのち、公転・自転方式の攪拌機(プライミクス社製 ハイビスミックス2P-1)を用いて約40℃で真空乾燥させることにより、CNF粉体を得た。
【0349】
[調製例2]アセチル化セルロースナノファイバー(以下、アセチル化CNFと称する)
例I及びII(第一及び第二の実施形態)で調製したのと同じ疎水化CNF粉体を用いた。なおアセチル化CNF(ウェットケーキ)の特性を評価したところ、径が65nm、L/Dが30以上(約450)、重量平均分子量(Mw)が340,000、アセチル化度が0.9であった。
【0350】
[調製例3]アセチル化セルロースマイクロファイバー(以下、アセチル化CMFと称する)
調製例1の高圧ホモジナイザーの処理を2回にした以外は調製例1と同様に実施し、解繊スラリーを得た。得られた解繊スラリーを調製例2の解繊・アセチル化工程と同様に処理した。
得られたアセチル化CMFの特性を評価したところ、径が12μm、L/Dが30以上(約200)であった。
【0351】
得られたアセチル化CMFの水分散体(固形分率:10質量%)にPEG20000を、アセチル化CMF100質量部に対し、5質量部添加したのち、公転・自転方式の攪拌機(プライミクス社製 ハイビスミックス2P-1)を用いて約40℃で真空乾燥させることにより、アセチル化CMF粉体を得た。
【0352】
≪評価方法≫
[重量平均分子量(Mw)及びアセチル化度]
多孔質シートに代えて粉体を用いた他は例I(第一の実施形態)と同様の手順で測定した。
【0353】
[CNF、アセチル化CNF、アセチル化CMFの長さ、径、L/D]
ウェットケーキを、1質量%濃度で純水懸濁液とし、高剪断ホモジナイザー(日本精機(株)製、商品名「エクセルオートホモジナイザーED-7」、処理条件:回転数15,000rpm×5分間)で分散させた水分散体を、0.1~0.5質量%まで純水で希釈し、マイカ上にキャストし、風乾したものを、原子間力顕微鏡(AFM)で計測された際に得られる粒子像の長さ(L)と径(D)とした場合の比(L/D)を求め、100個~150個の粒子の平均値として算出した。
【0354】
[連続相の確認]
例II(第二の実施形態)と同様の手順で確認した。今回実施した実施例、比較例とも、特に変化が起きなかったため、ポリアミドが連続相を形成していると判断した。
【0355】
[線熱膨張係数]
例II(第二の実施形態)と同様の手順で測定した。
【0356】
[引張破断歪]
例II(第二の実施形態)と同様の手順で引張試験を実施し、引張破断時の歪のデータ5点を得た。靭性の指標として5点の破断歪の数平均値を、靭性のばらつきの指標として5点中の最大値と最小値との差である破断歪範囲を用いた。
【0357】
≪押出条件≫
[押出機デザイン]
例II(第二の実施形態)と同様の押出機デザインを用いた。
【0358】
≪樹脂組成物の製造≫
[実施例3-1~3-16、比較例3-1~3-3]
押出機デザインの押出機を用いて、表5及び6に記載の割合で混合し、スクリュー回転数300rpmで溶融混練し、ペレットとして得た後、各種評価を実施した。結果を表5及び6に記載した。
なお、表の質量部記載の欄が仕込み処方であり、中段の質量%の欄が組成、下段が物性を表している。
【0359】
表に示す結果から、ポリアミド、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物、及びセルロースナノファイバーを含む各実施例では、高い破断歪(すなわち良好な靭性)及び低い線熱膨張係数を示したのに対し、エチレン-ビニルエステル系共重合体ケン化物若しくはポリアミドを含まない各比較例では破断歪が劣っていた。また、アセチル化CNFを用いた実施例3-5とCNFを用いた実施例3-12とを比較すると、アセチル化CNFを用いた実施例3-5がより靭性のばらつきが小さい結果であった。更に、着色剤を用いた実施例3-13、3-14、3-15と着色剤を用いていない実施例3-5とを比較すると、実施例3-13、3-14、3-15がより靭性のばらつきが小さい結果であった。
【0360】
【表5】
【0361】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0362】
本実施形態に係る樹脂組成物は、大型部品用途に特に好適な優れた特性を有し得る。すなわち、第一の実施形態の樹脂組成物は、低比重、高剛性、低熱膨張係数、及び低吸水性であり得るため、種々の大型部品用途に好適に使用可能である。また第二及び第三の実施形態の樹脂組成物は、高靭性及び低熱膨張性という、相反する特性を高度に両立し、実用に耐えうる充分な物性安定性を有し得ることから、例えば、広範な温度領域に亘って高い物性を示すことが求められる用途(大型部品である自動車の外装材料用途の分野等)で好適に利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7