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特開2022-187017担体材料に導電性構造体を製造する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187017
(43)【公開日】2022-12-15
(54)【発明の名称】担体材料に導電性構造体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 20/08 20060101AFI20221208BHJP
【FI】
C23C20/08
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022173332
(22)【出願日】2022-10-28
(62)【分割の表示】P 2019553862の分割
【原出願日】2018-03-26
(31)【優先権主張番号】102017106913.5
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】504098118
【氏名又は名称】ケミッシュ ファブリーク ブーデンハイム カーゲー
【氏名又は名称原語表記】CHEMISCHE FABRIK BUDENHEIM KG
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】フュンドリッヒ、スベン
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア マティネズ、ディビッド
(72)【発明者】
【氏名】フッテラー、トーマス
(72)【発明者】
【氏名】リテルシェイト、クリスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィッセムボルスキー、リーディガー
(72)【発明者】
【氏名】フローレス、ヨルゲ
(57)【要約】
【課題】重金属錯体の使用を回避または少なくとも低減し、既知の方法よりも毒学的生態学的な理由の懸念が少なく、加工ツールへの堆積がわずかであるか生じず、比較的簡素で費用効率の高い、非導電性担体材料上に導電性金属構造体、好ましくは導電路構造体を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明は、非導電性担体にレーザー光線を用いて導電性構造体、好ましくは導電路構造体を製造する方法(LDS法)において、微細に分配または溶解された少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物および少なくとも1つの安定剤を内部に含む非導電性担体材料を供し、担体材料のある領域にレーザー光線を照射して、照射された領域に導電性構造体を生成することを特徴とする方法に関する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性構造体を製造するための少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物および安定剤の組み合わせの使用であって、
前記少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物が、一般式Cu2(OH)PO4で表される水酸化銅リン酸塩であり、
前記少なくとも1つの安定剤がルイス酸であり、ここでルイス酸は非プロトン移動電子不足化合物として定義されることを特徴とする少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物および安定剤の組み合わせの使用。
【請求項2】
その表面に導電性構造体をもつ担体材料であって、微細に分配された少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物および少なくとも1つの安定剤を内部に含み、
前記少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物が、一般式Cu2(OH)PO4で表される水酸化銅リン酸塩であり、
前記少なくとも1つの安定剤がルイス酸であり、ここでルイス酸は非プロトン移動電子不足化合物として定義されることを特徴とする担体材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非導電性担体材料にレーザー光線を用いて導電性金属構造体、好ましくは導電路構造体を製造する方法、並びに、そのような方法における少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物および安定剤の組み合わせの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
表面に微細構造金属化を施す数多くの様々な方法が文献より知られている。そのような方法は、例えば、射出成形回路担体や成形回路部品(MID)を製造する際に用いられる。導電性金属構造体、特に導電路構造体を担体材料に適用する際には、加算的技術と減算的技術との区別がある。加算的技術の場合、導電性金属、一般的には銅を、導電路やはんだパッド等の必要な点にのみ適用する。しかしながら、減算的技術の場合、担体材料の表面全体を導電性金属で被覆し、それからエッチレジストを塗布する。エッチレジストは、この場合、例えばスクリーン印刷により既に構造的に塗布されているか、完全に塗布してその後例えばレーザー光線を用いた照射により構造的に除去される。エッチレジストで被覆されていない部分の下部で緩んだ導電性金属がエッチングされて、所望の導電路構造体が残る。既知の加算的技術の場合、金属化する予定ではない全ての領域をスクリーン印刷やフォトマスキングで最初に被覆し、それから被覆されていない領域に接着・活性化層を塗布し、外部から電流を付与することなく銅めっきを実施する。
【0003】
その有利な特性から広く用いられている、導電路構造体を製造するより現代的な加算的方法は、レーザー直接構造化(laser direct structuring;LDS)である。この方法は、非導電性金属錯体や金属塩の塗布または導入を含み、これが、熱可塑性誘電体へのレーザー照射中に金属化核を放出し、その所望の構造体にレーザー光線を用いて照射することで金属核生成を開始させる。その後の化学金属化により、微細な接着性の導電路構造体が得られる。しかしながら、この目的のために従来技術に記載された金属錯体は、熱可塑性担体材料を製造する加工作業、例えば射出成形の押出における安定性が低いことが多く、加工ツールの金属表面への堆積に繋がる。主に重金属を含む錯体の使用はまた多くの場合、生態学的・毒学的懸念を伴う。使用される錯体は、使用される材料において望ましくない二次反応、例えばプラスチックの劣化等に繋がることがあり、また、それらは強い着色を有し、望ましく無い着色が担体材料に生じる。
【0004】
特許文献1は、例えば、非導電性有機重金属錯体、特にPd含有重金属錯体が非導電性担体材料のコーティングとして塗布される導電路構造体の製造方法に関する。この成分は、UV放射により重金属核が放出されて生成される導電路構造体の領域において分解し、その後化学還元的に金属化される。この方法のための担体材料はそれ自体が微細孔構造を有している必要があるか、重金属成分が担体材料上にバインダーの補助を受けて固定されている必要がある。この方法の利点は、UV照射の過程においてアブレーション粒子が生じないことであり、これが、照射後に追加の洗浄工程を必要としない理由である。しかしながら、その欠点は、重金属錯体の有機成分の熱的に限定された安定性、及び生態学的・毒学的理由から重金属の使用である。重金属錯体は、主に高極性溶媒の溶液として多孔質担体材料の表面にも塗布され、一般に10時間を超える長い乾燥処理を行うことになり、その後レーザー構造化が行われる。また、使用される溶媒は、Pd含有重金属錯体、例えばジメチルホルムアミドの場合、毒学的・生態学的観点から不利である。
【0005】
特許文献2は、誘電体を、接着剤を用いて導電性材料の活性化層で被覆し、マスクを使用せずにレーザー照射により構造化を得る、誘電体材料の選択的金属化の方法を開示している。その後、これを電解的に又は無電流的に金属化する。Pd又はCu核で被覆された導電性ポリマー、金属硫化物または金属多硫化物を、導電性材料として使用する。この方法の主な欠点は、導電性ポリマー等の導電性材料の比較的高いコスト及び重金属化合物の毒学的生態学的問題である。これらは、誘電体における望ましくない劣化および二次反応にも繋がる。また、この非常に複雑な方法は、KMnO4、H22、H2SO4、H3BO3といった扱いが複雑な化学物質を使用する例えば調整や、触媒固定、除去等の多くの調製工程を必要とする。
【0006】
特許文献3は、導電路構造体の近傍におけるレーザー構造化後でも担体材料の表面上で変化しないままでいられるD及びFブロックの重金属の非導電性の熱的に高い安定性を有する錯体を核形成成分として使用する方法を開示している。これらは、はんだ温度に晒された後や、金属化に用いられる酸性またはアルカリ性の金属化浴中でも安定している。この方法の主な欠点は、遷移金属化合物の高いコスト及びそれらの毒学的生態学的問題、並びに、加工作業過程における遷移金属化合物による考えうる二次反応である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第0917597号明細書
【特許文献2】欧州特許第1191127号明細書
【特許文献3】欧州特許第1274288号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術に対して改良され、且つ、特に重金属錯体の使用を回避または少なくとも低減し、既知の方法よりも毒学的生態学的な理由の懸念が少なく、加工ツールへの堆積がわずかであるか生じず、比較的簡素で費用効率の高い、非導電性担体材料上に導電性金属構造体、好ましくは導電路構造体を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、本発明によれば、非導電性担体材料にレーザー光線を用いて導電性構造体、好ましくは導電路構造体を製造する方法(LDS法)において、微細に分配または溶解された少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物および少なくとも1つの安定剤を内部に含む非導電性担体材料を供し、担体材料のある領域にレーザー光線を照射して、照射された領域に導電性構造体を生成し、少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物が、一般式Cu2(OH)PO4で表される水酸化銅リン酸塩、及び、一般式Fe3(PO42で表される結晶水を含まない鉄(II)オルトリン酸塩または一般式FeaMetb(POcdで表される結晶水を含まない鉄(II)金属オルトリン酸塩、鉄(II)金属ホスホン酸塩、鉄(II)金属ピロリン酸塩または鉄(II)金属メタリン酸塩または上述のリン酸塩の組み合わせからなる群から選択され、少なくとも1つの安定剤が、ブレンステッド酸およびルイス酸からなる群の化合物から選択され、ここで、ブレンステッド酸はプロトン移動化合物として定義され、ルイス酸は非プロトン移動電子不足化合物として定義されることを特徴とする方法によって実現される。
(一般式中、aは1~5の数であり、bは0超5以下の数であり、cは2.5~5の数であり、dは0.5~3の数であり、Metは、Li、Na、K、Pb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、遷移金属(Dブロック)、特にSc、Y、La、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Cu、Zn、Co、Ni、Ag、Au、第3、第4、第5メイングループの金属および半金属、特にB、Al、Ga、In、Si、Sn、Sb、Bi及びランタノイドからなる群から選択される1つ以上の金属を表す)
【0010】
レーザー照射を用いて生成される導電性構造体は、単体金属、導電性金属酸化物、導電性カーボン、導電性カーボン化合物またはそれらの組み合わせとすることができる。
【発明の効果】
【0011】
驚くべきことに、本発明に係る安定剤を少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物と組み合わせて用いることによって、レーザー曝露で導電性構造体を生成するのに特に好適な反応条件が実現されることが見出された。また、安定剤が、加工の過程において加工装置(押出スクリュー、射出成形ケース等)上の金属堆積に繋がりうる熱的および機械的効果による分解反応を防止または少なくとも抑制できることが判明した。
【0012】
ブレンステッド酸という用語は、本発明の意味において、プロトンドナーとして作用し、第2の反応相手であるいわゆるブレンステッド塩基にプロトンを移動させることができる化合物を指す。この場合、ブレンステッド酸は、反応相手よりも小さいpKs値を有する化合物として定義される。本発明に係る文脈において、ブレンステッド酸のpKs値は、14である水のpKs値よりも小さい。
【0013】
ルイス酸という用語は、本発明の意味において、求電子性の電子対受容体として作用して、第2の反応相手であるいわゆるルイス塩基から付加物を形成する電子対を部分的に又は完全に受容する化合物を指す。本発明の意味において、ルイス酸は、i)B(CH33、BF3、AlCl3、FeCl2等の不完全な電子のオクテット、ii)化学錯体における中心原子として金属カチオン、iii)偏極した複数の結合をもつ分子、iv)例えばSiCl4やPF5等の不飽和配位をもつハロゲン化物、v)他の電子対受容体、例えば縮合リン酸塩をもつ化合物を含む。
【0014】
担体材料は、本発明の意味において、微細に分配または溶解された本発明に係る方法の金属リン酸塩化合物および安定剤の組み合わせを含みうる任意の有機または無機材料を含んでもよい。金属リン酸塩化合物および安定剤は、本発明の一実施形態において、担体材料中に均質に分配させることができる。これは、溶融、押出、押出プレス等の従来の加工方法の助力で均質な分配が非常に容易に実施できるため、製造という点において有利である。本発明の更なる実施形態の一つにおいて、金属リン酸塩化合物および安定剤は、担体材料の所定の領域において、他の領域より高濃度となっている。一実施形態において、金属リン酸塩化合物および安定剤は、金属構造体が生成される担体材料の表面において、好ましくは10μm~5mm、更に好ましくは50μm~3mm、特に好ましくは100μm~1mmのある浸透深さまで、より深くに位置する領域よりも高濃度となっている。担体材料の表面近傍の領域における目標とする濃縮は、導電性構造体を生成するために正確にその位置に金属リン酸塩化合物が必要となるため、材料特性の改良および導電路構造体の改良に繋がる。また、担体材料の内部のより深い領域における導電性材料の生成が抑制されるか完全に防止され、その結果、担体材料の構造的完全性に不利に影響する程度を低減できる。
【0015】
使用される本発明に係る方法の無機金属リン酸塩化合物は、加工作業時、及び導電路構造体を加工する際に用いられるはんだ温度に晒されても安定性を維持するように耐温度性を有し、これは、この文脈において、それらは温度が増大したときでも導電性を有さず分解しないことを意味する。それらは、導電性構造体の製造プロセス中さらにはその後も、担体材料中および導電路の近傍において変化しない。これらの化合物を除去する追加の方法工程は不要である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態において、使用される少なくとも1つの金属リン酸塩化合物は、一般式FeaMetb(POcdの結晶水を含まない鉄(II)オルトリン酸塩および/又は一般式FeaMetb(POcdの結晶水を含まない鉄(II)金属オルトリン酸塩、鉄(II)金属ホスホン酸塩、鉄(II)金属ピロリン酸塩または鉄(II)金属メタリン酸塩であるか、それを含む。これらの鉄化合物は、既知のLDS法においてこれまで使用されてきた金属化合物に対して多くの利点を提供する。それらは、より経済的且つ費用効率よく製造することができ、本発明に係る方法に応じて、導電性構造体、特に回路基板をもつ担体材料の製造コストに有利に影響する。更に、それらは、NIR範囲において高いレベルで吸収するのに対し、電磁照射の可視光範囲においてはごく弱いレベルで吸収する。その結果、担体材料の色は大きく影響を受けることがなく、同時に、NIR範囲のレーザー光線によって効率的に活性化させることができる。NIR範囲における高い吸収能力は、本発明に係る化合物の結晶構造により生じると考えられる。照射するレーザー光線の特に高い利用度が、使用される金属リン酸塩化合物の塊に対して実現される。これらの特性によって、担体材料に加えられるこれらの(そして他の)凝集体の割合を低く維持して、それに伴って生じる担体材料の材料特性に対する不利な影響を出来るだけ低く抑えるようにできる。
【0017】
安定剤として用いられる本発明に係るブレンステッド酸および/又はルイス酸は、便宜上、加工作業時およびはんだ温度に晒された後に安定性を維持し且つ使用されるこれら及び他の条件下で分解しないように、耐温度性を有するそのような酸から選択される。
【0018】
ブレンステッド酸は、本発明に係る安定剤として適切で好ましく、リンの酸化段階が+V、+IV、+III、+II又は+Iのリンのオキソ酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、ケイ酸、脂肪族および芳香族カルボン酸および前述の酸の塩を含む。リンのオキソ酸およびそれらの塩は、好ましくは、リン酸、二リン酸、ポリリン酸、次二リン酸、ホスホン酸、二ホスホン酸、次二ホスホン酸、ホスフィン酸および前述の酸の塩から選択される。脂肪族および芳香族カルボン酸およびそれらの塩は、好ましくは、酢酸、ギ酸、シュウ酸、フタル酸、スルホン酸、安息香酸および前述の酸の塩から選択される。担体材料と容易に混合でき、安定剤を担体材料に導入する間分解せず、材料特性に影響しない又はわずかしか影響しない酸が有利である。
【0019】
ルイス酸は、本発明に係る安定剤として適切で好ましく、硫酸ナトリウムアルミニウム(SAS)、リン酸モノカルシウム一水和物(MCPM)、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)、リン酸ナトリウムアルミニウム(SALP)、リン酸カルシウム・マグネシウム・アルミニウム、ポリリン酸カルシウム、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、ポリリン酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ホウ酸、アルキルボラン、アルミニウムアルキル、鉄(II)塩およびそれらの混合物を含む。ルイス酸は、加工・構造化プロセス中に水を分離したり放出したりしないため、ブレンステッド酸に対して利点を有する。水は、担体材料の発泡、割れ形成、アブレーションや金属リン酸塩化合物の酸化反応に繋がりうる。
【0020】
本発明の一実施形態において、安定剤は、少なくとも1つのブレンステッド酸および少なくとも1つのルイス酸の組み合わせを含む。そのような組み合わせは、導電性構造体の生成に有利な条件、及び、種々利用可能なブレンステッド酸の概して非常に高い安定性による、加工工程において非常に容易に実現しうる金属リン酸塩化合物の安定性の向上という利点を有する。同時に、少なくとも1つのルイス酸を添加することによって、レーザー構造化の結果にマイナスに影響しうる、放出されうる水を回収できる。
【0021】
本発明に係る方法は、従来技術に係る既知の方法に対して、追加の化学還元的または電解的な金属の堆積を行わなくても良好な導電性構造体が得られるという利点を提供する。導電性構造体をもつ担体材料の製造は、極めて簡素化でき、より高い費用効率で実施できる。また、個々の導電路の構造体を、錯体担体材料上に非常に迅速に、経済的に製造することができる。本発明に係る方法は、スクリーン印刷用マスクやフォトマスク等のマスクが必要なく、必要に応じて追加の金属化工程を省略できるため、非常に柔軟な生産可能性および生成される導電路構造体の変更が可能となる。レジスト材料の使用を無しで済ますことができるため、追加の化学物質や加工工程を大幅に経済化できる。管理が複雑で難しいエッチング工程およびストリップ工程は必要ない。本発明に係るレーザー構造化の不良発生率は、他の方法と比較して低いため、大きなコストの節約ができる。
【0022】
本発明に係る方法の更なる実施形態において、金属が、レーザー光線により生成された導電性構造体上に化学還元的に又は電解的に分離される。これにより、構造体の導電性が更に増大する。化学還元的な金属化を、金属浴、好ましくは銅浴、ニッケル浴、銀浴または金浴、特に好ましくは銅浴においてウェット化学的に有利に実行できる。この目的のための対応する技術および方法は、本技術分野の当業者に知られている。化学還元的な金属化は、この方法では、離間した導電路領域間の電流ブリッジとして働くしばしば必要とされる補助的な導体が必要ではなく、電解的な金属化の場合とは異なり、その後例えばレーザー処理による更なる加工工程において除去する必要がないため、電解的な金属化に対して有利である。
【0023】
その上に導電性構造体が生成された担体材料は、例えば、電気回路用の回路基板としての使用に適している。導電性構造体は、例えばモバイル無線装置における電磁照射用のアンテナとして使用可能なアンテナ構造体として設計することもできる。いずれの場合も、生成された導電性構造体を、追加の化学還元的または電解的な金属堆積と共に又は無しで使用できる。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、非導電性担体材料は、少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物を、非導電性担体材料および添加材料の質量の合計で構成される組成の合計質量に対して0.01重量%~45重量%の量で、好ましくは0.1重量%~20重量%の量で、特に好ましくは1重量%~10重量%の量で含む。割合が低過ぎると、金属リン酸塩化合物の密度が低くなり過ぎることが確実となり、不完全に形成された導電路が発達しうるが、金属リン酸塩化合物の割合が高過ぎると、非導電性担体材料の材料特性が損なわれうる。
【0025】
本発明の更に好ましい実施形態において、非導電性担体材料は、少なくとも1つの安定剤を、非導電性担体材料および添加材料の質量の合計で構成される組成の合計質量に対して0.01重量%~25重量%の量で、好ましくは0.1重量%~20重量%の量で、特に好ましくは1重量%~10重量%の量で含む。割合が低過ぎると、安定剤の密度が低くなり過ぎることが確実となり、レーザー構造化作業における導体構造の形成および加工作業における安定性に対する安定剤の有効性が低下しうるが、安定剤の割合が高過ぎると、非導電性担体材料の材料特性が損なわれうる。
【0026】
本発明の更なる実施形態において、非導電性担体材料は、金属リン酸塩、金属酸化物またはそれらの混合物から選択される少なくとも1つの相乗剤も含む。金属リン酸塩、金属酸化物またはそれらの混合物の金属原子は、好ましくは、Cu、Au、Ag、Pd、Pt、Fe、Zn、Sn、Ti、Alからなる群から選択される。驚くべきことに、相乗剤が、担体材料の表面上の金属錯体の分解プロセス及び金属堆積を補助することが見出された。本発明によれば、適切な相乗剤は、特に好ましくは、二リン酸銅、二リン酸三銅、ピロリン酸銅、リン酸錫、リン酸亜鉛、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫および酸化鉄からなる群から選択される。使用される相乗剤は、加工作業時およびはんだ温度に晒された後に安定性を維持し、実行されうる金属化で用いられる浴において分解しないように、便宜上、耐温度性に関して選択される。
【0027】
非導電性担体材料は、便宜上、少なくとも1つの相乗剤を、非導電性担体材料および添加材料の質量の合計で構成される組成の合計質量に対して0.01重量%~15重量%の量で、好ましくは0.1重量%~10重量%の量で、特に好ましくは1重量%~5重量%の量で含む。割合が低過ぎると、相乗剤の密度が低くなり過ぎることが確実となり、レーザー構造化作業における導体構造体の形成に対する相乗剤の有効性が低下しうるが、相乗剤の密度が高過ぎると、非導電性担体材料の材料特性が損なわれうる。
【0028】
当業者であれば、本発明の知識があれば、所定の担体材料に対して、簡単な試験を通じて、金属リン酸塩化合物、安定剤および場合により相乗剤の適切な量および適切な割合を決定でき、それらは、とりわけ、使用される担体材料、適用される方法条件および使用されるレーザーを考慮した所望の導電路構造化によって決まる。
【0029】
本発明に係る非導電性担体材料は、便宜上、熱可塑性プラスチック、熱硬化性プラスチック、エラストマー、ガラス、セラミック、天然または合成ワニス、天然または合成樹脂、シリコーン又はそれらの組み合わせ又は混合物からなる群から選択される。非導電性担体材料は、好ましくは、熱可塑性または熱硬化性ポリマーである。非導電性担体材料は、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリメタクリレート、ポリオキシメチレン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、アクリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルスチレンアクリレート(ASA)、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリスルホネート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ尿素、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ポリエーテルケトン、ポリ塩化ビニル、ポリラクチド、ポリシロキサン、フェノール樹脂、エポキシド樹脂、ポリ(イミド)、ビスマレイミド-トリアジン、熱可塑性ポリウレタン、上述のポリマーのコポリマー及び/又は混合物、例えばPC/ABSコポリマーからなる群から選択される。
【0030】
非導電性担体材料は、追加の添加物または凝集体、例えば、ケイ酸および/又はその誘導体、難燃剤、ガラス繊維、加工賦形剤、着色顔料等の充填材を含むことができるが、これらの凝集体は、それらが出来るだけ本発明に係る担体材料の材料特性および導電性構造体の製造に悪影響を及ぼさないように選択されるべきである。
【0031】
金属リン酸塩化合物、安定剤および場合により相乗剤、更に場合により凝集体のポリマー担体材料への導入は、有利には、いわゆるマスターバッチを介して行われる。マスターバッチは、本発明の意味において、最終用途よりも高い濃度で追加の材料を含む造粒物または粉末の形態のポリマーマトリックスである。本発明に係る担体材料の製造には、マスターバッチ又は様々なマスターバッチに、マスターバッチに含まれる追加の材料を含まない追加のポリマー材料を、最終生成品における追加の材料の所望の濃度に対応する量および割合で組み合わせる。マスターバッチは、高い加工性を確実にし加工・添加が非常に容易だという点で、ペースト、粉末または液体の形態の様々な材料の添加よりも有利である。
【0032】
非導電性担体材料がニスの場合、本発明によれば、例えば、一成分ニス(1Kニス)又は二成分ニス(2Kニス)が考えられる。一成分ニス(1Kニス)は、水溶液中の分散としての又は有機溶媒に溶解されたバインダーを含む。二成分ニス(2Kニス)の場合、バインダーは、樹脂および硬化剤からなる。それらは、別々に保管され、処理直前に互いに混合する。それらは、化学的に反応して硬化する(乾燥はしない)。一部の2Kニスは、溶媒を含まない。バインダーは、天然樹脂および油(油絵具)、植物成分(中国ニス、日本ニス、卵(卵テンペラ)、アラビアゴム(水彩絵具)、石灰(石灰絵具)、接着剤(接着絵具)、タール又は瀝青を含む。本発明によれば、適切なニスとしては、油ニス、セルロースナイトレートニス、ポリ酢酸ビニルで作られた分散等のアルキド樹脂ニス、ポリアクリル酸塩ニス及びポリメタクリレートニス等のアクリル樹脂ニス、シリコン樹脂ニス、エポキシ樹脂ニス及びポリウレタンニスが挙げられる。
【0033】
本発明に係る方法を実行するためのレーザー光線は、200nm~12,000nmの範囲内の波長をもたせることができる。700nm~1500nmの範囲内の波長が好ましく、850nm~1200nmの範囲内の波長が特に好ましい。例えば、Nd:Yagレーザー、IRダイオードレーザー、VCSELレーザー及びエキシマレーザー等の近赤外線レーザーが好ましい。フォトリソグラフィで知られるようなエキシマレーザーの使用がこれに適している。適切なエキシマレーザーは、ArF、KrF、XeCl、XeF及びKrClレーザーである。エキシマレーザーの使用によって、輪郭の非常にはっきりした構造体の形成が可能となる。波長が248nmのKrFエキシマレーザーの使用が、特に担体材料が熱可塑性ポリマー材料である場合、特に有利である。レーザーによって、大きく加熱することなく、最大でもそのレーザーの作業領域における材料の溶解を最小限で済ませることができる。非常に高い境界の鋭さも実現できる。
【0034】
医療技術で知られるようなNd:YAGレーザーの使用がこれには有利である。波長が1064nm、946nm、532nm又は473nmのNd:YAGレーザーが特に適切であり、波長が1064nmのNd:YAGレーザーが、レーザー構造化を慎重に実行でき且つ担体材料の炭化や同様の劣化反応があまり生じないため、特に好ましい。
【0035】
本発明によれば、VCSELレーザー(垂直共振器面発光レーザー)も適切である。この場合、それらは半導体レーザーであり、特に、光がチップの2つの側部のうち一方から放出される従来のエッジエミッターとは異なり、半導体チップの平面に対して垂直に光が放射される垂直共振器面発光レーザーである。そのような垂直共振器面発光レーザーの利点は、一方で、低い製造コスト及び低い電力消費である。他方で、同時に低出力のその放射プロファイルが、エッジエミッターよりも良好である。VCSELは、シングルモードで利用可能であること及び調節可能な波長によって特徴付けられる。これによって、適切な波長、例えば本発明に応じて使用される金属リン酸塩化合物がレーザー照射の外乱の影響を特に低く維持できる高い吸収を有する波長を具体的に選択することができる。本発明によれば、非常に正確なレーザー構造化の結果が実現できる。
【0036】
本発明は、非導電性担体材料にレーザー光線を用いて導電性構造体、好ましくは導電路構造体を製造するための、本明細書に記載し定義したような、少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物および安定剤並びに場合により少なくとも1つの相乗剤の組み合わせの使用も含む。
【0037】
本発明は、その表面に導電性構造体、好ましくは導電路構造体をもつ担体材料であって、本明細書に記載し定義したような、その中に微細に分配または溶解された少なくとも1つの無機金属リン酸塩化合物および少なくとも1つの安定剤並びに場合により少なくとも1つの相乗剤を含む担体材料も含む。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1図1は、製造例1に沿って本発明に従って製造された結晶水を含まないFe227のX線ディフラクトグラムを示す。
図2図2は、製造例2に沿って本発明に従って製造された結晶水を含まないMg1.5Fe1.5(PO42及びFe3(PO42の相混合物のX線ディフラクトグラムを示す。
図3図3は、製造例3に沿って本発明に従って製造された結晶水を含まないFe3(PO42のX線ディフラクトグラムを示す。
図4図4は、製造例4に沿って本発明に従って製造された結晶水を含まないKFe(PO4)のX線ディフラクトグラムを示す。
図5図5は、製造例5に沿って本発明に従って製造された結晶水を含まないKFe0.90Zn0.10(PO4)のX線ディフラクトグラムを示す。
図6図6は、製造例6に沿って本発明に従って製造された結晶水を含まないKFe0.75Zn0.25(PO4)のX線ディフラクトグラムを示す。
図7図7は、製造例7に沿って本発明に従って製造された結晶水を含まないKFe0.75Mn0.25(PO4)のX線ディフラクトグラムを示す。
図8図8は、製造例8に沿って本発明に従って製造された結晶水を含まないBaFeP27のX線ディフラクトグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を、例示的な実施形態、並びに、本発明によれば金属リン酸塩化合物として適切な一般式Fe3(PO42で表される結晶水を含まない鉄(II)オルトリン酸塩および一般式FeaMetb(POcdで表される結晶水を含まない鉄(II)金属オルトリン酸塩、鉄(II)金属ホスホン酸塩、鉄(II)金属ピロリン酸塩または鉄(II)金属メタリン酸の製造例に基づき説明する。添付の図面は、製造例に応じて製造した金属リン酸塩化合物のX線回折図を示す。
【実施例0040】
X線回折法(XRD)
以下の実施例に従って製造した生成物に対して、D8 Advance A25型回折計(Bruker)及びCuKα放射線を用いてX線回折測定(XRD)を行う。
【0041】
ICDD(国際回折データセンター)(前身はJCPDS(粉末回折標準のための合同委員会))のデータベースから、対応する参照ディフラクトグラム(Powder Diffraction Files;PDF)に基づき、生成物およびそれらの結晶構造を特定した。製造した生成物のPDFカードが入手できなかった場合は、アイソタイプ化合物(=同じ構造種類の化合物)のPDFカードを用いた。
【0042】
元素分析
製造した生成物のストイキオメトリを確認するために、Axios FAST分光計(PANalytical)を用いた蛍光X線分析(XRF)によって、元素分析を行った。
【0043】
製造例1‐結晶水を含まないFe227
下記材料からなる懸濁液を噴霧造粒した。
i) 35.5kg 鉄(III)酸化物-水酸化物[FeO(OH)又はFe23・1H2O]、
ii) 16.5kg 98%ホスホン酸[H3PO3]、
iii)26.5kg 75%リン酸[H3PO4]及び
溶媒: 220kg 水
こうして得られた造粒物を、700℃、フォーミングガス雰囲気(N2中に5体積%のH2を含有)下、平均滞留時間4時間でロータリーキルン内で温度処理した。ほぼ無色~わずかにピンク色の生成物が得られる。生成物のX線ディフラクトグラム(XRD)を、図1に示す。生成物は、PDFカード01-072-1516を用いて特定した。
【0044】
製造例2‐結晶水を含まないMg1.5Fe1.5(PO42及びFe3(PO42の相混合物
下記材料からなる懸濁液を噴霧造粒した。
i) 8.45kg 鉄(III)酸化物-水酸化物[FeO(OH)又はFe23・1H2O]、
ii) 7.95kg 98%ホスホン酸[H3PO3]、
iii)19.6kg 鉄(III)リン酸塩二水和物[FePO4・2H2O]、
iv) 8.43kg 炭酸マグネシウム[MgCO3]及び
溶媒: 160kg 水
こうして得られた造粒物を、750℃、フォーミングガス雰囲気(N2中に5体積%のH2を含有)下、平均滞留時間3時間でロータリーキルン内で温度処理した。ほぼ無色の生成物が得られる。生成物のX線ディフラクトグラム(XRD)を、図2に示す。生成物は、PDFカードを用いて、主相Mg1.5Fe1.5(PO42(PDFカード01-071-6793)及び副相Fe3(PO42(PDFカード00-49-1087)の相混合物として特定した。
【0045】
製造例3‐結晶水を含まないFe3(PO42
下記材料からなる懸濁液を噴霧造粒した。
i) 21.75kg 鉄(III)酸化物-水酸化物[FeO(OH)又はFe23・1H2O]、
ii) 12.15kg 98%ホスホン酸[H3PO3]、
iii)10.3kg 鉄(III)リン酸塩二水和物[FePO4・2H2O]及び
溶媒: 140kg 水
こうして得られた造粒物を、750℃、フォーミングガス雰囲気(N2中に5体積%のH2を含有)下、平均滞留時間90分でロータリーキルン内で温度処理した。ほぼ無色の生成物が得られる。生成物のX線ディフラクトグラム(XRD)を、図3に示す。生成物は、グラフトナイト構造に結晶化し、PDFカード00-49-1087を用いて特定された。生成物を、50重量%の生成物の粒径が3μm未満となるように粉砕した。粉砕物の粒径分布を図9に示す。
【0046】
製造例4‐結晶水を含まないKFe(PO4)の製造
下記材料からなる懸濁液を噴霧造粒した。
i) 11.80kg 鉄(III)酸化物-水酸化物[FeO(OH)又はFe23・1H2O]、
ii) 10.70kg 98%ホスホン酸[H3PO3]、
iii)24.8kg 鉄(III)リン酸塩二水和物[FePO4・2H2O]、
IV) 29.8kg 50%苛性アルカリ溶液[KOH]、
V) 1.0kg 75%リン酸[H3PO4]及び
溶媒: 110kg 水
こうして得られた造粒物を、650℃、フォーミングガス雰囲気(N2中に5体積%のH2を含有)下、平均滞留時間3時間でロータリーキルン内で温度処理した。淡い薄緑の生成物が得られる。生成物のX線ディフラクトグラム(XRD)を、図4に示す。生成物は、PDFカード01-076-4615を用いて特定した。
【0047】
製造例5‐結晶水を含まないKFe0.90Zn0.10(PO4
下記材料からなる懸濁液を噴霧造粒した。
i) 10.60kg 鉄(III)酸化物-水酸化物[FeO(OH)又はFe23・1H2O]、
ii) 9.65kg 98%ホスホン酸[H3PO3]、
iii)22.30kg 鉄(III)リン酸塩二水和物[FePO4・2H2O]、
IV) 2.15kg 酸化亜鉛[ZnO]、
IV) 29.8kg 50%苛性アルカリ溶液[KOH]、
V) 4.15kg 75%リン酸[H3PO4]及び
溶媒: 120kg 水
こうして得られた造粒物を、600℃、フォーミングガス雰囲気(N2中に5体積%のH2を含有)下、平均滞留時間2時間でロータリーキルン内で温度処理した。薄い灰色の生成物が得られる。生成物のX線ディフラクトグラム(XRD)を、図5に示す。生成物は、PDFカード01-076-4615に応じたKFe(PO4)構造に密接に関連しているように思われる新しい構造種類である。
【0048】
製造例6‐結晶水を含まないKFe0.75Zn0.25(PO4
下記材料からなる懸濁液を噴霧造粒した。
i) 8.85kg 鉄(III)酸化物-水酸化物[FeO(OH)又はFe23・1H2O]、
ii) 8.05kg 98%ホスホン酸[H3PO3]、
iii)18.60kg 鉄(III)リン酸塩二水和物[FePO4・2H2O]、
IV) 5.40kg 酸化亜鉛[ZnO]、
IV) 29.8kg 50%苛性アルカリ溶液[KOH]、
V) 9.30kg 75%リン酸[H3PO4]及び
溶媒: 120kg 水
こうして得られた造粒物を、600℃、フォーミングガス雰囲気(N2中に5体積%のH2を含有)下、平均滞留時間2時間でロータリーキルン内で温度処理した。薄い灰色の生成物が得られる。生成物のX線ディフラクトグラム(XRD)を、図6に示す。この生成物は、文献で知られていない。これは、アイソタイプ的に結晶化して、PDFカード01-081-1034に応じたKZn(PO4)を形成する。
【0049】
製造例7‐結晶水を含まないKFe0.75Mn0.25(PO4
下記材料からなる懸濁液を噴霧造粒した。
i) 8.85kg 鉄(III)酸化物-水酸化物[FeO(OH)又はFe23・1H2O]、
ii) 8.05kg 98%ホスホン酸[H3PO3]、
iii)18.60kg 鉄(III)リン酸塩二水和物[FePO4・2H2O]、
IV) 8.85kg 炭酸マンガン水和物[MnCO3・H2O]、
IV) 29.8kg 50%苛性アルカリ溶液[KOH]、
V) 9.30kg 75%リン酸[H3PO4]及び
溶媒: 140kg 水
こうして得られた造粒物を、600℃、フォーミングガス雰囲気(N2中に5体積%のH2を含有)下、平均滞留時間2時間でロータリーキルン内で温度処理した。薄い灰色の生成物が得られる。生成物のX線ディフラクトグラム(XRD)を、図7に示す。この生成物は、文献で知られていない。これは、アイソタイプ的に結晶化して、PDFカード01-076-4615に応じたKFe(PO4)を形成する。
【0050】
製造例8‐結晶水を含まないBaFeP27
下記材料からなる懸濁液を噴霧造粒した。
i) 8.70kg 鉄(III)酸化物-水酸化物[FeO(OH)又はFe23・1H2O]、
ii) 8.20kg 98%ホスホン酸[H3PO3]、
iii)19.05kg 鉄(III)リン酸塩二水和物[FePO4・2H2O]、
IV) 63.09kg 水酸化バリウム八水和物[Ba(OH)2・8H2O]、
V) 26.15kg 75%リン酸[H3PO4]及び
溶媒: 250kg 水
こうして得られた造粒物を、800℃、フォーミングガス雰囲気(N2中に5体積%のH2を含有)下、平均滞留時間4時間でロータリーキルン内で温度処理した。薄い灰色の生成物が得られる。生成物のX線ディフラクトグラム(XRD)を、図8に示す。生成物は、アイソタイプ的に結晶化して、PDFカード01-084-1833に応じたBaCoP27を形成する。
【0051】
以下の実施例は、本発明に係る方法を説明するものである。
【0052】
実施例1
1kgの水酸化銅リン酸塩を100gの二酸化チタンと共に水を含むリアクターに入れ、1時間攪拌した。得られた調製品をろ過し、含水量が最大で0.5重量%となるまで約120℃で乾燥させた。得られた粉末を、1重量%のリン酸二水素二ナトリウムNa2227と共に乾燥混合した。5重量パーセントの混合物を、押出機(Coperion GmbH製ZSK18-type)を用いて、Sabic製PC/ABSコポリマー(LNP(登録商標)COLORCOMP(登録商標)Compound NX05467)に投入(worked)した。その後、そのプラスチックを、射出成形機を用いて加工して約2mmの厚さのプレートを形成した。それらのプレートに、波長1064nmのNd:YAGレーザー(Trumpf)を照射して構造体を生成した。導電路または導電路の前駆体として適切な、均一な金属分離(金属核)が生じた。
【0053】
実施例2
一般式Fe2Mg(PO42で表される鉄(II)マグネシウムリン酸塩を、1重量%のリン酸二水素二ナトリウムNa2227と共に乾燥混合した。5重量パーセントの混合物を、押出機(Coperion GmbH製ZSK18-type)を用いて、ポリアミド6.6(BASF製Ultramid(登録商標))に投入し、造粒物を製造した。その造粒物を更に加工して、3cm×4cm×3mmのプレートを形成した。それらのプレートに、波長1064nmのNd:YAGレーザー(Trumpf)を照射して、導電性構造体を生成した。
【0054】
実施例3(比較)
3重量パーセントの水酸化銅リン酸塩を、押出機(Coperion GmbH製ZSK18-type)を用いて、ポリアミド6.6(BASF製Ultramid(登録商標))に投入した。押出は、推奨温度範囲の上端である285℃で実行した。この場合、プラスチックの望ましくない変色があった。最初はわずかに緑色を帯びた化合物の色が茶色に変化した。また、押出機の軸上にわずかではあるが、望ましくない金属銅の分離が見つかった。
【0055】
実施例4
4重量パーセントの水酸化銅リン酸塩および2重量パーセントの硫酸ナトリウムアルミニウム(SAS)を、押出機(Coperion GmbH製ZSK18-type)を用いて、ポリアミド6.6(BASF製Ultramid(登録商標))に投入し、造粒物を製造した。押出は、推奨温度範囲の上端である285℃で実行した。その造粒物を更に加工して、3cm×4cm×3mmのプレートを形成した。プラスチックの望ましくない変色も押出機の軸上の金属銅の堆積もなかった。それらのプレートに、波長1064nmのNd:YAGレーザー(Trumpf)を照射して、構造体を生成した。導電路または導電路の前駆体として適切な導電性構造体の均一な形成が生じた。
【0056】
実施例5
40重量パーセントの鉄(II)オルトリン酸塩Fe3(PO42及び1重量パーセントの硫酸ナトリウムアルミニウム(SAS)を、押出機(Coperion GmbH製ZSK18-type)を用いて、LDPE(LyondellBasell製Lupolen(登録商標)1800 S)に投入し、造粒物を製造した。その造粒物を更に加工して、3cm×4cm×3mmのプレートを形成した。プラスチックのわずかな緑色の着色があったが、押出機の軸上への堆積はなかった。それらのプレートに、波長1064nmのNd:YAGレーザー(Trumpf)を照射して、構造体を製造した。導電路または導電路の前駆体として適切な、導電性構造体の均一な形成が生じた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8