(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187054
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】低粘度水の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20060101AFI20221212BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20221212BHJP
C02F 1/42 20060101ALI20221212BHJP
C02F 1/20 20060101ALI20221212BHJP
C02F 1/44 20060101ALI20221212BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221212BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221212BHJP
【FI】
C02F1/00 Z
B01D61/02
C02F1/42 B
C02F1/20 A
C02F1/44 H
A61K47/02
A61P27/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094857
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】504193734
【氏名又は名称】皆川 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】皆川 光雄
【テーマコード(参考)】
4C076
4D006
4D025
4D037
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB24
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4C076FF12
4D006GA03
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4D025AA01
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4D037AA02
4D037AB18
4D037BA23
4D037BB06
4D037BB07
4D037CA03
4D037CA15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】低コストで効率的に微量溶存金属イオンを含有しない低粘度水を製造する方法を提供する。
【解決手段】以下の全ての工程を有する。
(2)水を減圧処理及び/又は加熱処理することで、溶存空気を除去して脱気水E1を得る溶存空気除去工程
(3)工程(2)で得た脱気水E1を、加圧装置31で加圧して脱気水の加圧水E2を得る加圧工程
(4)工程(3)で得た脱気水の加圧水E2を、以下の処理(a)又は(b)を行うことで衝突処理水E3を得る衝突処理工程
(a)脱気水の加圧水E2を、向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズルから互いに噴射させて衝突させる
(b)脱気水の加圧水E2を、加圧水噴射ノズルから静止している脱気水E1に噴射させて、脱気水の加圧水E2と脱気水E1とを衝突させる
(6)工程(4)で得た衝突処理水E3を、逆浸透膜61に通して低粘度水E4を得る逆浸透膜処理工程
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(2)、(3)、(4)及び(6)の全ての工程を有することを特徴とする低粘度水の製造方法。
(2)脱気槽中で、原料である水を減圧処理及び/又は加熱処理することによって、該水に含有されている溶存空気を除去して脱気水を得る溶存空気除去工程
(3)工程(2)の溶存空気除去工程を行うことによって得た脱気水を、加圧装置で加圧して脱気水の加圧水を得る加圧工程
(4)工程(3)の加圧工程を行うことによって得た脱気水の加圧水を、以下の処理(a)又は処理(b)を行うことによって衝突処理水を得る衝突処理工程
(a)該「脱気水の加圧水」を、向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズルから互いに噴射させて、該「脱気水の加圧水」同士を衝突させる
(b)該「脱気水の加圧水」を、加圧水噴射ノズルから「加圧されておらず静止している脱気水」に噴射させて、該「脱気水の加圧水」と該脱気水とを衝突させる
(6)工程(4)の衝突処理工程を行うことによって得た衝突処理水を、逆浸透膜に通して低粘度水を得る逆浸透膜処理工程
【請求項2】
更に、前記工程(2)の前に、以下の工程(1)を有する請求項1に記載の低粘度水の製造方法。
(1)原料である水をイオン交換器に流す工程
【請求項3】
更に、前記工程(6)の前に、以下の工程(5)を有する請求項1又は請求項2に記載の低粘度水の製造方法。
(5)工程(4)の衝突処理工程で得られた衝突処理水を冷却する工程
【請求項4】
前記工程(3)の加圧工程よりも前に、前記原料である水も前記脱気水も逆浸透膜に通さずに、前記工程(3)の加圧工程における水に微量溶存金属イオンを残存させておく請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法。
【請求項5】
前記工程(4)の衝突処理工程において、前記工程(3)の加圧工程で加圧された加圧水にかかっている圧力が、100気圧以上10000気圧以下である請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法。
【請求項6】
前記工程(4)の衝突処理工程において、前記「脱気水の加圧水」を加圧水噴射ノズルから噴射させる際の噴射速度が、30m/s以上3000m/s以下である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法。
【請求項7】
前記加圧水噴射ノズルの先端の内径が、0.03mm以上0.40mm以下である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法。
【請求項8】
前記工程(6)の逆浸透膜処理工程において使用する前記逆浸透膜に存在する孔の平均直径が、0.4nm以上4nm以下である請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法。
【請求項9】
前記低粘度水が、微量溶存金属イオンを含有していない低粘度水である請求項1ないし請求項8の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法。
【請求項10】
前記低粘度水が、薬剤用、飲料用、化粧品用、洗浄用、又は、塗料用である請求項1ないし請求項9の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法。
【請求項11】
前記低粘度水が、薬剤用であって、注射剤の溶媒、液体経口剤の溶媒、又は、点眼剤の溶媒である請求項1ないし請求項10の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法を使用することを特徴とする水の酸性化方法。
【請求項13】
請求項1ないし請求項11の何れかの請求項に記載の低粘度水の製造方法を使用することを特徴とする水の低粘度化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低粘度水の製造方法に関し、更に詳しくは、少なくとも、溶存空気除去工程と加圧工程と衝突処理工程と逆浸透膜処理工程とを有する低粘度水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水に対して化学的処理ではなく物理的処理を施す方法としては、例えば、以下が知られている。
超音波を照射して水を振動させる方法。
遠赤外線を照射して水分子を伸縮・変角振動で活性化する方法。
水の電気分解を利用する方法。
水に種々のパターンの衝撃圧力を加える方法(特許文献1)。
低周波電流を流したパイプ中に水を通過させる方法(特許文献2)。
水に磁場を印加する方法(特許文献3)。
水と金属粒子が存在する系に可視光を照射して、金属粒子のプラズモン共鳴を利用する方法(特許文献4)。
加圧水を層内の静止水に連続的に高速で衝突させる方法(特許文献5)。
【0003】
しかしながら、上記の方法では、水分子同士の水素結合を切断し難かったり、水の集合体を解消し難かったり、水の正四面体構造に影響を与え難かったり、何れも低粘度水ができ難かった。
また、超音波照射、遠赤外線照射、電気分解方法等では、大規模設備を要し、ランニングコストが高くなる等の問題があった。
【0004】
更に、上記の方法では、得られた処理水中に微量溶存金属イオンを含有しており、該処理水の用途が極めて限定されるものであった。
【0005】
そこで、確実に安定的に、更には低コストで効率的に製造する水の処理技術が要望されているが、前記公知技術では不十分であり、更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05-345179号公報
【特許文献2】特開2001-096277号公報
【特許文献3】特開2003-117344号公報
【特許文献4】特開2015-016466号公報
【特許文献5】特許第5913670号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、低コストで効率的に微量溶存金属イオンを含有しない低粘度水を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、溶存空気を除去した脱気水を特定の条件で衝突させる衝突処理工程を行うことによって、低粘度水が好適に製造できることを見出した。
また、該衝突処理工程の後に逆浸透膜処理工程を行うことによって、種々の用途に使用され利用分野の極めて広い「微量溶存金属イオンが除去された低粘度水」が好適に製造できることを見出した。
【0009】
更に、該逆浸透膜処理工程を、工程(3)の加圧工程よりも前に行うと、すなわち、工程(3)の加圧工程よりも前に、処理の対象となる水から微量溶存金属イオンを完全に除去してしまうと、意外にも、加圧装置に負荷がかかり過ぎる等して該工程(3)の加圧工程が順調に進行せず、その結果、その後の工程(4)の衝突処理工程の実施が実質的に不可能になってしまうことをも見出して、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の工程(2)、(3)、(4)及び(6)の全ての工程を有することを特徴とする低粘度水の製造方法を提供するものである。
(2)脱気槽中で、原料である水を減圧処理及び/又は加熱処理することによって、該水に含有されている溶存空気を除去して脱気水を得る溶存空気除去工程
(3)工程(2)の溶存空気除去工程を行うことによって得た脱気水を、加圧装置で加圧して脱気水の加圧水を得る加圧工程
(4)工程(3)の加圧工程を行うことによって得た脱気水の加圧水を、以下の処理(a)又は処理(b)を行うことによって衝突処理水を得る衝突処理工程
(a)該「脱気水の加圧水」を、向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズルから互いに噴射させて、該「脱気水の加圧水」同士を衝突させる
(b)該「脱気水の加圧水」を、加圧水噴射ノズルから「加圧されておらず静止している脱気水」に噴射させて、該「脱気水の加圧水」と該脱気水とを衝突させる
(6)工程(4)の衝突処理工程を行うことによって得た衝突処理水を、逆浸透膜に通して低粘度水を得る逆浸透膜処理工程
【0011】
また、本発明は、更に、前記工程(2)の前に、以下の工程(1)を有する前記の低粘度水の製造方法を提供するものである。
(1)原料である水をイオン交換器に流す工程
【0012】
また、本発明は、更に、前記工程(6)の前に、以下の工程(5)を有する前記の低粘度水の製造方法を提供するものである。
(5)工程(4)の衝突処理工程で得られた衝突処理水を冷却する工程
【0013】
また、本発明は、前記工程(3)の加圧工程よりも前に、前記原料である水も前記脱気水も逆浸透膜に通さずに、前記工程(3)の加圧工程における水に微量溶存金属イオンを残存させておく前記の低粘度水の製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、前記低粘度水が、微量溶存金属イオンを含有していない低粘度水である前記の低粘度水の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、前記低粘度水が、薬剤用、飲料用、化粧品用、洗浄用、又は、塗料用である前記の低粘度水の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、前記低粘度水が、薬剤用であって、注射剤の溶媒、液体経口剤の溶媒、又は、点眼剤の溶媒である前記の低粘度水の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記の低粘度水の製造方法を使用することを特徴とする水の酸性化方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、前記の低粘度水の製造方法を使用することを特徴とする水の低粘度化方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の低粘度水の製造方法によれば、前記問題点や課題を解決し、測定温度を同一にして測定したとき、「原料である水」の粘度より粘度の小さい低粘度水を製造することができる。
すなわち、本発明によれば、溶存空気除去工程において処理の対象となる(原料である)水の中から空気を除くことによって得られた脱気水同士を、衝突処理工程において超高圧・超高速で衝突させることによって、低粘度水を製造することができる。
脱気水同士を超高圧・超高速で衝突させることによって、脱気していない水、すなわち溶存空気を除去していない水を衝突させた場合と比較して、衝突の効率を上昇させて、容易に水同士の凝集を解除させて、低粘度水を製造することができる。
【0020】
処理の対象となる水を逆浸透膜に通すことによって、該水から微量溶存金属イオンを除去できる。しかしながら、微量溶存金属イオンが残存していない低粘度水を得ることは難しく、従来技術では製造不可能であった。
しかも、逆浸透膜に通すことによって、水から微量溶存金属イオンを除去できるのみならず優れた低粘度水が好適に得られる。逆浸透膜通過が、水(の集合体)の構成・構造にも変化を与えている可能性がある。
【0021】
ただし、初期の工程で逆浸透膜に通してしまうと、具体的には、超高圧・超高速で衝突させるための「水の加圧工程(工程(3))」より前に、該微量溶存金属イオンを除去してしまうような処理を行うと、加圧装置の例えばピストンが順調に駆動せず、加圧が順調に進まず、結果として、衝突処理工程において超高圧・超高速で衝突させることが不可能となる。また、加圧装置が故障する場合がある。
【0022】
ここで、上記「微量溶存金属イオンを除去してしまうと」の意味は、「微量溶存金属イオンを除去する工程を行ってしまうと」の意味であり、該微量溶存金属イオンが、支配的に(最も重要な原因物質として)ピストンの順調駆動を妨げている場合・範囲にのみ本発明が限定されるものではない。例えば、具体的には、逆浸透膜に通すことで、水の集合体の構造や存在密度が変化すること、又は、その他の要因で、加圧工程(工程(3))が順調に進んだ可能性もあり、その場合も本発明に含まれる。
【0023】
本発明においては、工程(3)加圧工程及び工程(4)衝突処理工程より前には、処理対象となる水を逆浸透膜に通さず、むしろ該水に微量溶存金属イオンを残存させておくことによって、該加圧と該衝突を好適に進行させることができる。
そして、後期の工程で、すなわち、工程(4)衝突処理工程で得られた衝突処理水を逆浸透膜に通すことによって、微量溶存金属イオンを含有していない低粘度水を好適に得ることができる。
【0024】
なお、本発明において、工程(2)溶存空気除去工程の前に、「工程(1)原料である水をイオン交換器に流す工程」を行うことが好ましいが、該工程(1)におけるイオン交換樹脂では、微量の溶存金属イオンは除去できず、工程(4)で逆浸透膜に通すことで、初めて微量溶存金属イオンを除去する(除去できる)。
本発明においては、工程(1)でイオン交換器に流して得られる程度に金属イオンが除去された水を「微量溶存金属イオンが除去された水」とは定義せず、工程(4)で逆浸透膜に通して初めて得られる程度に(ほぼ完全に)金属イオンが除去された水を「微量溶存金属イオンが除去された水」と定義する。
【0025】
工程(3)加圧工程では、加圧装置によって水に1000気圧以上の圧力をかけることが好ましいが、このような超高圧をかける際に、工程(6)の逆浸透膜処理工程を行わないでおくと、例えば、加圧装置のピストンと水との間の摩擦が低減されて、工程(3)の加圧工程と、その後の工程(4)衝突処理工程が順調に進行する。
【0026】
本発明における工程(4)衝突処理工程では、
(a)「脱気水の加圧水」を、向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズルから互いに噴射させて、該「脱気水の加圧水」同士を衝突させてもよいし、
(b)「脱気水の加圧水」を、加圧水噴射ノズルから「加圧されておらず静止している脱気水」に噴射させて、該「脱気水の加圧水」と該脱気水とを衝突させてもよい。
【0027】
上記(a)では、衝突処理が衝突装置内で回分式(バッチ式)になるが、加圧水の衝突速度を2倍にできるので、衝突効率を上げられて、低粘度水を好適に得ることができる。
一方、(b)では、衝突速度は、加圧水の速度であるので、(a)よりは衝突効率を上げられないが、水の循環機能を有する槽内の水に衝突させられるので、連続式にできて処理速度を上げられて、低粘度水を好適に得ることができる。
【0028】
本発明は、「溶存空気が除かれた脱気水」に、超高圧に加圧した同様の「溶存空気が除かれた脱気水」を衝突させ、衝突のエネルギーにより水を変質させる方法であり、水は局部的には、超高圧(例えば1000気圧)で、かつ高温(例えば400℃以上)になっていると考えられ、超臨界、超臨界に近い状態、又は、亜臨界になっている可能性がある。
しかしながら、全部の水を超臨界状態にする方法のように、大掛かりな装置を必要とせずに同等(以上)の効果を奏し、更に、コスト面・安全面・生産性において優れている。
【0029】
脱気水を衝突させないと、衝突時の例えば上記条件下で、水中の空気(特に酸素)が膨張して、水同士の衝突効率を低下させる。上記条件では、水も気体又は超臨界状態になっているが、空気(特に酸素)の膨張は、水(すなわち水蒸気)の膨張より、衝突効率を低下させる。従って、上記理由等によって、工程(2)の溶存空気除去工程は必須である。
【0030】
水を超高圧・超高速で衝突させることや、衝突によって水を局部的に超高圧かつ高温にする際に、該水に対して予め逆浸透膜処理(工程(6))を行わず、微量溶存金属イオンを存在させておく、水の集合体の構造や存在密度を変化させないでおく、又は、水に対してその他の変化をさせないでおくことで、好適に、加圧、衝突、高速・高温、集合体解消、低粘度化等が引き起こされた可能性もある。
【0031】
本発明における低粘度水は、微量溶存金属イオンを含有していないので、薬剤用、飲料用、化粧品用、洗浄用、塗料用等、微量金属の存在を嫌う種々の用途に利用できる。
通常は(常識的には)、逆浸透膜に通して微量溶存金属イオンを除去してから、超高圧・超高速で、得られた超純水を衝突させようとするはずであるが、実際は、それは不可能であった。本発明によれば、微量溶存金属イオンを含有していない低粘度水が得られるので、初めて上記用途が開けた。
【0032】
薬剤用、化粧品用等では、有効成分等の溶解性や溶解速度が向上する;pH調整剤を加えなくてもpHを調整できる(特に酸性水が容易に調製できる);皮膚等に対する浸透性が向上する;皮膚等に対して保水性・湿潤性が持続する;(4)衝突処理工程において生じる高熱や高圧で、細菌、真菌、ウイルスを除く(殺菌やウイルスの分解をする)ことができている;(6)逆浸透膜処理工程において、孔を通過しない細菌、真菌、ウイルスを除くことができている;微量溶存金属イオンを含有していないので生体に良い;溶存酸素がないので有効成分の変質がない;等の効果がある。
【0033】
洗浄用としては、洗浄能力が向上する;電子部品の洗浄に好適となる;上記した機序で細菌、真菌、ウイルスが存在しない;その他の不純物が溶解・分散していない;等の効果がある。
【0034】
塗料用としては、水性エマルジョンにおいて、エマルジョン微粒子の表面を小さい水(分子)が囲うのでエマルジョンを安定化させられるが、一方、通常の水では構造が大きいので(集合体ができているので)、エマルジョン微粒子の表面を水が好適に囲えず、エマルジョンを安定化させられない;エマルジョン樹脂の凝集塊ができ難い;等の効果があり、水性エマルジョン塗料の分散性・安定性が向上する。
該塗料には、インクも含まれる。インク用としても、上記性質が向上する。
【0035】
上記薬剤用としては、点滴剤等の注射剤の溶媒、液体経口剤の溶媒、点眼剤(洗眼剤)の溶媒等が挙げられる。
かかる溶媒として、逆浸透膜に通して微量溶存金属イオンや菌を除去した水を使用することは既に知られている。しかしながら、本発明の「逆浸透膜を通す前に衝突処理工程を経て得られた『微量溶存金属イオンや菌やウイルスが存在しない低粘度水』」は、上記用途に、「薬剤用」として前記したような特異な良効果を更に発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の低粘度水の製造方法の概略フローを示す図である。
【
図2】本発明の低粘度水の製造方法に使用される装置(加圧水噴射ノズルを有する衝突装置が脱気槽の側面に存在する形態)の一例を示す概略断面図である。
【
図3】加圧装置(一方の加圧装置にピストンが1個ある形態)と衝突装置の一例を示す概略断面図である。
【
図4】加圧装置(一方の加圧装置に交互に作動するピストンが2個あって、途切れることなく加圧水を噴射できる形態)と衝突装置の一例を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の低粘度水の製造方法に使用される装置(加圧水噴射ノズルを有する衝突装置が脱気槽の窪み部分に存在し、2方向から噴射された「脱気水の加圧水」同士を衝突させる形態)の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
【0038】
<低粘度水>
液体の水は、通常、水分子(H2O)同士が水素結合等によって結合した分子集合体で存在する。すなわち、水を構成する平均原子間距離より長い距離に対応した波数に、X線又は中性子線の散乱ピークが現れる。このことは、水が例えば四面体構造等の何らかの分子集合体で存在していることを示唆している。
【0039】
本発明で、少なくとも、(2)溶存空気除去工程、(3)加圧工程、(4)衝突処理工程、及び、(6)逆浸透膜処理工程をこの順番に行うことによって、同温で比較したときに、原料として用いた通常の水より、その粘度を低くできた。
【0040】
本発明の製造方法で製造された低粘度水E4は、原料として用いた水(水道水であり、その粘度は20℃において1.0016[mPa・s]、その動粘度は20℃において1.0034[mm2/s])より、粘度又は動粘度が低下したものである。
【0041】
限定はされないが、該粘度は、通常は0.01%以上低下し、0.1%以上低下したものは容易に製造でき、0.5%以上低下したものも製造できる。工程の条件を強くする又は最適化することによって、1%以上低下したものも製造可能である。
【0042】
以下の作用・原理が適用される範囲には、本発明は限定されないが、上記の事実は、溶存空気を除去した脱気水を、超高圧(超高速)で互いに衝突させると、超高圧、高温(衝突によって発生する熱)、高運動エネルギー等によって、水の分子集合体の構造又は数(存在密度)等に変化がもたらされたと考えられる。
水中の空気(特に酸素)は、衝突時に膨張して衝突効率を低下させる。空気は水蒸気より衝突効率を低下させるので、溶存空気が除去された脱気水を衝突させること(工程(2)の溶存空気除去工程)によって、上記効果を発揮したと考えられる。
【0043】
また、衝突処理水E3を、逆浸透膜61に通すこと(工程(6)逆浸透膜処理工程)によっても、逆浸透膜61の孔の平均径が十分に小さいこと等から、水に上記した変化をもたらし、上記効果を更に発揮したと考えられる。
例えば、「水中の微量溶存金属イオンとそれに配位(弱結合)した水までを含めたもの」の大きさや、水の集合体の大きさは、逆浸透膜の孔の平均径より小さい。
【0044】
全工程終了後に最終的に得られた水に上記した変化が起こったことは、上記した粘度の変化の他に、粘度の温度依存性の変化、衝突条件による粘度の変化(調整)、表面張力の低下、電導度の変化、密度の変化、圧縮率の変化、比熱の変化、pHの低下、衝突条件によるpHの変化(調整)、超高圧水のビームを板(固体)に噴射したときの該板(固体)の切断効率の低下、水のOH振動の変化、X線又は中性子線の散乱ピークの変化、ガラス転移点の変化、無機塩又は有機物の溶解度の変化、ポリエチレングリコール等の水溶性物質に対する水の溶解度の変化、飽和蒸気圧の変化、味の変化、17O-NMRの測定値(緩和時間又はそのpH依存性)の変化、皮膚に対する作用の変化等によって確かめることができる。
【0045】
本発明の低粘度水について、粘度低下の他にも、上記変化のうちの幾つかの変化が起こったことを、実際に実験で確認している。
特に、粘度の低下、衝突条件による粘度の変化(調整)、表面張力の低下、電導度の変化、pHの低下、衝突条件によるpHの変化(調整)、超高圧水のビームを板(固体)に噴射したときの該板(固体)の切断効率の低下、無機塩又は有機物の溶解度の変化、及び、皮膚に対する作用の変化(特に浸透性向上や保湿性持続等)については、「本発明の低粘度水」について常に観測された。すなわち、製造条件を本発明の範囲内で振ったときに、殆ど全ての製造条件で常に観測された。上記物性(変化)は、水の集合体の有無や多少に依存しているからだと推認される。
【0046】
<低粘度水の製造方法に使用される装置の構成>
本発明の低粘度水の製造方法について、概略フローを
図1に示す。
図1中、括弧で括った工程(1)及び工程(5)は、行うことが好ましいが必須ではない。
また、使用される低粘度水製造装置1、及び、それに含まれる各装置の構成・形態について、一例を
図2~
図5に示す。
【0047】
本発明の低粘度水の製造方法に使用される装置(以下、単に「装置」と略記する場合がある。)は、少なくとも、脱気槽21、加圧装置31、衝突装置41、加圧水噴射ノズル42、及び、逆浸透膜61を有している。
脱気槽21は、必須ではないが好ましくは撹拌翼22を有し、内部に投入した水を撹拌できるようになっており、処理の開始時には、脱気槽21内には通常の水が投入される。
【0048】
被処理物である水は、工程(4)の衝突処理工程において、(a)向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズル42から互いに噴射させて「脱気水の加圧水E2」同士を衝突させる場合には、
図3~5に示したように、衝突装置41内において加圧水噴射ノズル42が向かい合わせに設置されている。
一方、(b)「撹拌翼22等で緩やかに撹拌されていることはあっても、本発明の超高速での噴射と言う点からは殆ど静止している脱気水E1」に噴射させて、「脱気水の加圧水E2」と「脱気水E1」とを衝突させる場合には、
図2に示したように、衝突装置41において加圧水噴射ノズル42の先端が、静止水中に存在する。
【0049】
限定はされないが、上記(b)の場合の
図2及び上記(a)の場合の
図5のように、脱気水E1は、脱気槽21と加圧水噴射ノズル42とを加圧装置31を介して循環させ、原料である通常の水を低粘度水E4にする処理は、水を循環させつつ連続的に行わせることも好ましい。ただ、上記(a)の場合には、脱気水E1を得る工程(2)溶存空気除去工程は、別途脱気槽21を設けて行うことが特に好ましい(
図3、4において図示せず)。
【0050】
上記(a)の場合には、脱気槽21は、別途設置してもよいし(
図3及び
図4において図示せず)、
図5に示したように、衝突の対象となる静止水を入れておく槽と兼ねていてもよい。
図5では、循環水を入れておく槽が脱気槽21を兼ねており、衝突装置41が、脱気槽21の中(下部)に存在する。
一方、上記(b)の場合にも、脱気槽21は、衝突の対象となる静止水を入れておく槽と兼ねていてもよいし(
図2)、別途設置してもよいし(
図2において図示せず)。
【0051】
<低粘度水の製造方法>
本発明は、以下の工程(2)、(3)、(4)及び(6)の全ての工程を有することを特徴とする低粘度水の製造方法である。
(2)脱気槽21中で、原料である水を減圧処理及び/又は加熱処理することによって、該水に含有されている溶存空気を除去して脱気水を得る溶存空気除去工程
(3)工程(2)の溶存空気除去工程を行うことによって得た脱気水を、加圧装置で加圧して脱気水の加圧水を得る加圧工程
(4)工程(3)の加圧工程を行うことによって得た脱気水の加圧水を、以下の処理(a)又は処理(b)を行うことによって衝突処理水を得る衝突処理工程
(a)該「脱気水の加圧水」を、向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズルから互いに噴射させて、該「脱気水の加圧水」同士を衝突させる
(b)該「脱気水の加圧水」を、加圧水噴射ノズルから「加圧されておらず静止している脱気水」に噴射させて、該「脱気水の加圧水」と該脱気水とを衝突させる
(6)工程(4)の衝突処理工程を行うことによって得た衝突処理水を、逆浸透膜に通して低粘度水を得る逆浸透膜処理工程
【0052】
更に、前記工程(2)の前に、以下の工程(1)を有することが好ましい。
(1)原料である水をイオン交換器11に流す工程
【0053】
また、更に、前記工程(6)の前に、以下の工程(5)を有することが好ましい。
(5)工程(4)の衝突処理工程で得られた衝突処理水を冷却する工程
【0054】
<<工程(1)>>
工程(1)は、本発明の必須工程ではないが、原料である水、すなわち通常の水をイオン交換器に流す工程である。
ここで、「原料である水」、「通常の水」とは、本発明における低粘度水E4ではない水のことを言う。該水は、水道水や井戸水等でもよく特に限定されるわけではないが、水に存在する固形状の不純物(ごみ)等を除去した水であることが好ましい。
【0055】
工程(1)で使用するイオン交換器11のイオン交換樹脂としては、特に限定されず、スルホ基等を有する強酸性イオン交換樹脂、カルボキシル基等を有する弱酸性イオン交換樹脂、第四級アンモニウム基を有する強塩基性イオン交換樹脂、三級アミノ基等を有する弱塩基性イオン交換樹脂等の何れもが挙げられる。
原料である水の中に含まれる化学物質の種類によって選択することが好ましい。
【0056】
「工程(1)でイオン交換器に流した水」を使用して工程(2)(3)(4)(特に工程(3))を行っても、装置に支障をきたすことがない。
逆浸透膜61を通した水を使用して工程(2)(3)(4)(特に工程(3))を行った場合、加圧装置31に支障をきたす場合がある。
【0057】
<<工程(2)>>
工程(2)は、本発明の必須工程であり、脱気槽21中で、原料である水を減圧処理及び/又は加熱処理することによって、該水に含有されている溶存空気を除去して脱気水を得る溶存空気除去工程である。
【0058】
原料である水は、脱気槽21中で減圧処理することが好ましい。脱気槽21は、好ましくは真空ポンプ25に排気配管23等で接続させて、脱気槽21中の水から、窒素や酸素と言った空気を除くことが好ましい。その際、必要に応じて加熱処理を加えてもよい。また、脱気槽21と真空ポンプ25の間にフィルターを介在させて水滴(水蒸気)を除去することも真空ポンプ25の保護等のために好ましい。
【0059】
工程(2)を行わないと、衝突時には温度と圧力が非常に高くなるので、衝突時に水中の空気(特に酸素)が膨張して、水同士の衝突効率を低下させる。
水は気体又は超臨界状態になっている。以下の作用・原理の適用される範囲には限定はされないが、具体的には、衝突場所での空気(特に酸素)の存在(膨張)は、水(すなわち水蒸気)の存在(膨張)より、水の集合体の解除や水の低粘度化を阻害する。溶存空気が存在しない脱気水E1同士を超高速・超高圧で衝突させることによって、水分子同士の水素結合が切れ易くなる等の結果、水の集合体が解消される。
【0060】
前記したように、脱気槽21は、別途設けることもできるし(
図3、4では図示せず)、「(撹拌のみで)静止している水を入れておく槽」と兼ねることや(
図2)、衝突装置41を(好ましくはその下部に)具備した形態にすることもできる(
図5)。
図2と
図5では、衝突処理工程を連続的に繰り返すことによって、槽内の脱気水E1を循環させて脱気水E1同士の衝突機会(衝突回数)を増やす循環機構を有している。
図3~5では、工程(4)(a)向かい合わせに設置した加圧水噴射ノズル42から互いに噴射させて、「脱気水の加圧水E2」同士を衝突させるようになっており、
図2では、工程(4)(b)加圧水噴射ノズル42から「加圧されておらず静止している脱気水E1」に噴射させて、「脱気水の加圧水E2」と脱気水E1とを衝突させるようになっている。
【0061】
脱気槽21には撹拌翼22が具備されていることが好ましい。溶存空気除去工程で撹拌することで、脱気槽21中の水の温度や集合体構造を均一にできたり、突沸や泡の発生による液面上昇を抑制できたりして、溶存空気を好適に除去できるようになる。
【0062】
脱気槽21中で、原料である水を減圧処理及び/又は加熱処理するが、減圧処理は行うことが好ましい。減圧処理を行うときは、脱気槽21内の圧力を、該脱気槽21内において減圧処理される水の温度(T℃)における水の蒸気圧以上の圧力、かつ1気圧より低い圧力に設定することが好ましい。
該圧力であれば、脱気槽21中の水中の溶存空気を好適に除去できる。脱気槽21内の圧力が、水の温度T℃における水の飽和蒸気圧よりも低くなると、脱気槽21中で水が沸騰して、工程(2)が行い難くなる場合、加圧や衝突に好ましい水ができない場合等がある。また、
図2や
図5のように循環機構を有している場合には、水の循環に支障をきたす場合がある。
【0063】
運転中の脱気槽21中の水の温度T℃は、特に限定はないが、0℃以上60℃以下が好ましく、1℃以上40℃以下がより好ましく、2℃以上30℃以下が特に好ましく、4℃以上20℃以下が更に好ましい。
【0064】
脱気槽21内の圧力は、前記した通り、水の温度T℃における飽和蒸気圧以上であることが、沸騰をさせないために好ましいが、「温度T℃における水の蒸気圧」の1倍以上4倍以下が好ましく、1倍以上2倍以下がより好ましく、1倍より大きく1.5倍以下であることが更に好ましく、1.1倍以上1.2倍以下が特に好ましい。
すなわち具体的には、例えば、水の温度が4℃の場合は、0.8kPa(6Torr)以上3.4kPa以下が好ましく、0.8kPaより大きく1.2kPa以下が特に好ましい。また、例えば、水の温度が20℃の場合は、2.3kPa(18Torr)以上9.3kPa以下が好ましく、2.3kPaより大きく3.5kPa以下が特に好ましい。
【0065】
<<工程(3)>>
工程(3)は、本発明の必須工程であり、工程(2)の溶存空気除去工程を行うことによって得た脱気水E1を、加圧装置で加圧して脱気水の加圧水を得る加圧工程である。
図2と
図5に示したように、脱気槽21に脱気水採取口24を設け、脱気槽21中の脱気水E1を加圧装置31に導く(
図3と
図4では省略)。
【0066】
加圧装置31は、工程(4)において、十分な圧力を水にかけることができ、十分な速度を水に与えることができれば、特に限定はないが、一例として、
図3及び
図4に示すような、加圧室の構造がピストン33を備えたシリンダ32であるものが挙げられる。ピストン33を押圧運動させることにより、シリンダ32内で脱気水E1は加圧され、脱気水の加圧水E2として、加圧水噴射ノズル42から噴射される。
【0067】
加圧装置31は、
図3に示したように、左右それぞれ1個のシリンダ32を有しているものでもよいが、
図4に示したように2個(又は2個以上)のシリンダ32を有しているものであることが好ましい。
2個(又は2個以上)のシリンダ32を有していれば、交互にピストン33を押圧運動させ、加圧されている側のバルブを開け、加圧されていない側のバルブを閉めることによって、噴射を中断することなく、連続して常に脱気水の加圧水E2を加圧水噴射ノズル42から噴射させられるので好ましい。
【0068】
加圧装置31としては、市販品も使用できる。特に限定はないが、具体的には、株式会社スギノマシン製、超高圧水ポンプユニット HI-JET シリーズ、サーボモータ駆動式超高圧静水圧処理装置 サーボプレッシャ シリーズ;等が挙げられる。
【0069】
工程(4)の衝突処理工程において、工程(3)の加圧工程で加圧された加圧水E2にかかっている圧力(脱気水の加圧水E2の圧力)、すなわち、加圧水噴射ノズル42から噴射される際の水の圧力は、100気圧以上10000気圧以下が好ましく、300気圧以上8000気圧以下がより好ましく、1000気圧以上6000気圧以下が更に好ましく、2000気圧以上4000気圧以下が特に好ましい。
言い換えると、上記圧力は、10MPa以上1000MPa以下が好ましく、30MPa以上800MPa以下がより好ましく、100MPa以上600MPa以下が更に好ましく、200MPa以上400MPa以下が特に好ましい。
【0070】
脱気水の加圧水E2の圧力が上記範囲であると、衝突時の運動エネルギーが十分であるため、水の集合体の分解の効率がよく、また、加圧装置31、衝突装置41等に過大な負荷がかからないので、装置の故障が発生し難い。
また、該圧力は、開始直後は比較的小さな圧力に設定し、徐々に上げて定常状態にすることも好ましい。
【0071】
この工程(3)の加圧工程よりも前には、「工程(2)で用いる原料である水」も「工程(2)で溶存空気を除去してなる脱気水E1」も、逆浸透膜61に通さずに、前記工程(3)加圧工程における水に微量溶存金属イオンを残存させておくことが好ましい。
逆浸透膜61を通さないことによって、ピストン33が滑らかに(順調に)駆動し、加圧装置31に負荷がかからず、加圧効率が上がり、故障も少なくなる。
【0072】
上記効果を発揮する作用・原理については、明確ではなく、微量溶存金属イオンが水中に残存していることが直接影響して上記効果を発揮している可能性;逆浸透膜61を通すことによって、微量溶存金属イオンを水中から完全に除去するような操作をした場合であって、例えば、水の(集合体の)構造・集合体密度等を変化させたことが影響して上記効果を発揮している可能性;等が考えられる。
何れにしても、工程(3)の加圧工程に使用する水は、逆浸透膜61に通さずに、その結果として微量溶存金属イオンが残存しているような水であることが好ましい。
【0073】
なお、工程(1)において、原料である水をイオン交換器11に流して得られるような水では、工程(3)において上記効果を得ることができる。
このような水は、微量溶存金属イオンが残存しているか、又は、水(集合体)の構造・集合体密度等が変化していない可能性があるために、ピストン33が順調に駆動し、加圧装置31に負荷がかからない。
【0074】
<<工程(4)>>
工程(4)は、本発明の必須工程であり、工程(3)の加圧工程で得た「脱気水の加圧水」を、以下の処理(a)又は処理(b)を行うことによって衝突処理水を得る衝突処理工程である。
(a)該「脱気水の加圧水」を、向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズル42から互いに噴射させて、該「脱気水の加圧水」同士を衝突させる(例えば、
図3~5参照)
(b)該「脱気水の加圧水」を、加圧水噴射ノズル42から「加圧されておらず静止している脱気水E1」に噴射させて、該「脱気水の加圧水」と該脱気水E1とを衝突させる(例えば、
図2参照)
【0075】
加圧水噴射ノズル42の先端の内径は、特に限定はないが、十分な「脱気水の加圧水E2の速度」、すなわち十分な衝突速度を得るために、0.03mm以上0.40mm以下が好ましく、0.05mm以上0.30mm以下がより好ましく、0.10mm以上0.20mm以下が特に好ましい。
バッチ式(回分式)の場合は、同一水でバッチを繰り返すことも好ましく、その場合は、後の方のバッチほど、加圧水噴射ノズル42の先端の内径を徐々に小さくしていくことも好ましい。
【0076】
例えば
図3~5のように、加圧水噴射ノズル42の先端が対面している場合は、該ノズル先端間の距離は、0.1mm~5mmが好ましく、0.2mm~3mmがより好ましく、0.5mm~2mmが特に好ましい。
【0077】
加圧水噴射ノズル42から噴射された直後の脱気水の加圧水E2の速度は、特に限定はないが、30m/s以上3000m/s以下が好ましく、70m/s以上2000m/s以下がより好ましく、140m/s以上1500m/s以下が更に好ましく、200m/s以上800m/s以下が特に好ましい。なお、20℃1気圧における水中の音の縦波の速度は、約1500m/sである。
【0078】
速度の下限が上記以上であると、運動エネルギーが十分であるため、水の集合体が解消され易く、低粘度化の効率がよい。一方、上限が上記以下であると、加圧装置31や、加圧水噴射ノズル42を含む衝突装置41等に過大な負荷がかからないので、装置の故障が発生し難い。
【0079】
上記(a)の場合には、衝突時の「脱気水の加圧水E2」の相対速度は、上記した一方向からの「脱気水の加圧水E2」の速度の2倍となる。上記(b)の場合には、一方の「脱気水の加圧水E2」は静止しているので、衝突時の「脱気水の加圧水E2」の相対速度は、上記した一方向からの「脱気水の加圧水E2」の速度である。
工程(4)が上記(a)の場合には、実質的な相対的衝突速度を容易に速くできて(2倍にできて)衝突効率を上げられる。(b)の場合には、連続処理が容易になり、連続的に何度も衝突処理ができ、低粘度水E4の製造効率を上げられる。
【0080】
回分式(バッチ式)では、十分な回数(時間)、繰り返し衝突処理をした後、連続式では、十分な時間、水を循環させて繰り返し衝突処理をした後、
図2と
図5に示したように、取出し口43から衝突処理水E3を取り出す(
図3と
図4では省略)。
【0081】
<<工程(5)>>
工程(5)は、本発明の必須工程ではないが、工程(4)の衝突処理工程で得られた衝突処理水を冷却する工程である。
【0082】
工程(4)において衝突時又は衝突直後の、水、水蒸気、超臨界水若しくは亜臨界水の温度は、例えば約400℃以上になっていると考えられるので、工程(4)の衝突処理工程で得られた衝突処理水E3の温度は、通常、常温より高くなっている。工程(5)は、次の工程(6)の逆浸透膜処理工程を安定して行うために行われる。
【0083】
冷却装置51、冷却方法等は、公知のものが使用できる。
工程(6)で常に安定した低粘度水E4を得るために、工程(5)において、衝突処理水E3を冷却して、常に一定温度にすることが好ましい。
【0084】
衝突処理水E3を一定温度にする場合には、該温度は、逆浸透膜61の性能を勘案して決めればよく、特に限定はないが、0℃以上80℃以下が好ましく、4℃以上60℃以下がより好ましく、10℃以上40℃以下が特に好ましい。
【0085】
<<工程(6)>>
工程(6)は、本発明の必須工程であり、工程(4)の衝突処理工程を行うことによって得た衝突処理水を、逆浸透膜に通して低粘度水を得る逆浸透膜処理工程である。
【0086】
逆浸透膜(reverse osmosis membrane)61は、RO膜とも呼ばれ、その種類は特に限定はなく、既存のものが使用できる。該逆浸透膜61の厚さや該逆浸透膜61の枚数等は、本発明の効果を奏し易い範囲に適宜決定できる。
【0087】
工程(6)の逆浸透膜処理工程において使用する逆浸透膜61に存在する孔の平均直径は、特に限定はないが、0.4nm以上4nm以下であることが好ましく、0.5nm以上3nm以下であることがより好ましく、0.7nm以上2nm以下であることが特に好ましい。
【0088】
工程(4)の後であり、工程(5)や工程(6)で使用される衝突処理水E3に含有される(微量)溶存金属イオンの代表であるナトリウムイオン(Na+)の直径は約0.13nmであり、水の分子1個の差し渡し長さは約0.38nmである。そして、ナトリウムイオン(Na+)の水和物や、水の集合体の大きさは、何れも、上記平均直径の数倍から数十倍の範囲であると考えられる。
そのため、逆浸透膜61を通した水は、微量溶存金属イオンや水の集合体を低減させる方向に働くと考えられる。微量溶存金属イオンの低減量は、水の集合体の構造や集合体密度を反映させる良いバロメーターともなっている。
【0089】
ただし、工程(6)の逆浸透膜処理工程だけでは、すなわち逆浸透膜61を通しただけでは、水の構造は十分に小さくならず(水の集合体を減少させることはできず)、そのためには、前記した(4)の衝突処理工程が必須である。
【0090】
工程(6)(の装置)は、回分式(バッチ式)でもよいし、連続式(クロスフロー式)でもよいし、それらの複合式でもよい。
また、回分式(バッチ式)や複合式の場合の回収率については特に限定はない。
また、処理圧力は、逆浸透膜61の種類にも依存し、好適に逆浸透膜処理工程が進行すれば、特に限定はないが、3気圧以上が好ましく、5気圧以上100気圧以下がより好ましく、10気圧以上70気圧以下が特に好ましい。
【0091】
本発明は、製造されるものが「微量溶存金属イオンを含有していない低粘度水E4」である「前記の低粘度水の製造方法」でもある。
本発明における低粘度水E4は、微量溶存金属イオンを含有していないので、以下に示すような広い用途に好適に使用でき、応用範囲が広いものである。
脱気水同士を衝突させて、その後、逆浸透膜61を通した水の(構造体の)特殊性のために、低粘度化等の前記した物性変化が生じ、そのために以下の用途等に好適に使用できるようになるが、それに加えて、微量溶存金属イオンを含有していないので、更に、物性と用途とのマッチング性が上がる。
【0092】
<<低粘度水の用途>>
本発明は、前記の「低粘度水の製造方法」で製造された低粘度水E4でもある。該低粘度水E4は、薬剤用、飲料用、化粧品用、洗浄用、又は、塗料用・インク用として有用であるので、それら用として好適に使用できる。
【0093】
該低粘度水E4は、同一温度で通常の水に比較して粘度が低下しているだけではなく、前記したような物性が変化している可能性がある。すなわち、例えば、表面張力、電導度、密度、圧縮率、比熱、pH、物質の溶解度、溶剤に対する溶解度、飽和蒸気圧、味、皮膚に対する作用等のうち、変化が確認されているものがある。
【0094】
そのような変化した物性を利用して、上記用途に好適に用いられる。
例えば、物質の溶解度が上がるので、有効成分が析出し難い(多く溶解された)水溶性薬剤、飲料、水性化粧品、水性塗料、水性インク;美味しい飲料水;汚れを落とし易い(物質の溶解度が上がった)洗浄水・洗顔水;洗眼水;分散媒が水の乳化重合(エマルジョン)塗料;等に好適に用いられる。
【0095】
中でも薬剤用として極めて有用であり、注射剤の溶媒、液体経口剤の溶媒、点眼剤の溶媒等として好適に用いられる。
注射剤としては、皮下注射、血管内注射、筋肉注射等の、水性注射剤や水懸濁性注射剤(固形注射剤)等が挙げられる。注射剤には、点滴注射剤、静脈注射剤等が含まれる。
また、点眼剤には、眼の洗浄剤(洗眼液)が含まれる。
【0096】
逆に、本発明の製造方法で製造した低粘度水E4を用いて、汎用の超高圧水ジェット切断機で、鉄板、コンクリート板、ガラス板及び木板の切断を試みたが、通常の水(水道水)を用いたときより、何れも切断効率悪かった(切断に長時間かかった)、又は、実質的には切断不可能であった。
従って、該低粘度水E4は、用途を選び、上記用途等に、選択的に、マッチング性良く、好適に用いられる。
【0097】
<<水の低粘度化方法>>
本発明は、前記の「低粘度水の製造方法」を使用することを特徴とする水の低粘度化方法でもある。
低粘度化は、前記した本発明の製造方法に従って行われる。
【0098】
<<水の酸性化方法>>
本発明の「低粘度水の製造方法」を使用すると、条件によってpHを弱アルカリ性から酸性まで調整が可能である。特に、pH調整剤を加えなくても水のpHを容易に下げられる、すなわち、酸性側に移動させることができる。従って、本発明は、前記の「低粘度水の製造方法」を使用することを特徴とする水の酸性化方法でもある。
【0099】
本発明によれば、約pH≒7の通常の水を、pH=3.5~4.4にまで下げられる(酸性度を上げられる)ことを実際に確認している。そして、pH=5~6の範囲の低粘度水は、容易に製造することができる。言い換えれば、本発明によれば、水素イオン(H+)、H3O+ 等を増加させることができる。
酸性化は、前記した本発明の製造方法に従って行われる。
【0100】
<<水の溶解度上昇方法、表面張力低下方法、皮膚浸透性上昇方法>>
本発明は、前記の「低粘度水の製造方法」を使用することを特徴とする、水の溶解度上昇方法でもあり、水の表面張力低下方法でもあり、水の皮膚浸透性上昇方法でもある。
溶解度上昇、表面張力低下、及び、皮膚浸透性上昇は、前記した本発明の製造方法に従って行われる。
【実施例0101】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0102】
実施例1
図1に示したフローに従って、低粘度水E4を製造した。
原料である水として、南アルプス市又は駒ケ根市の水道水を使用した。
イオン交換器11としては、中性樹脂タイプのものを使用し、カルシウムイオン、ナトリウムイオン等の軽金属イオン;鉄イオン等の重金属イオン;不純物;等を除いた。
【0103】
上記イオン交換器11の後であり、下記する加圧装置31の前に別途設けた体積250Lの脱気槽21に、イオン交換器11を通した水を、該脱気槽21の体積の75体積%だけ入れ、ロータリーポンプで真空に引いた。
ロータリーポンプの直前には、水蒸気を除くため、冷却トラップを設け、該脱気槽21の直後にはエアフィルターを介在させた。
【0104】
使用した脱気槽21には複数の回転翼があり、該回転翼は、常時、30~40rpmで回転させた。
原料である水の温度を20±5℃に維持し、脱気槽21中の圧力を5.0kPaに維持した。その状態で、1~2時間、溶存空気除去を行った。水の蒸発熱で水の温度が下がったときは、加熱して水を昇温した。
20℃における水の飽和蒸気圧は2.3kPaであるので、激しい沸騰が起きることはなく、水蒸気と溶存空気(溶存酸素と溶存窒素)が真空ポンプ25側に留出した。上記操作により、(原料である)水の中から溶存空気をほぼ完全に除去でき、脱気水E1を調製できた。
【0105】
図4に示すような、加圧装置31と衝突装置41を用いて、(3)加圧工程と(4)衝突処理工程を行った。
加圧装置31は、衝突装置41の左右に1個ずつあり、一方の加圧装置31には、交互に作動するピストンが2個あって、途切れることなく「脱気水の加圧水E2」を噴射できるようになっていた。
【0106】
(4)衝突処理工程では、処理(a)「脱気水の加圧水E2」を、向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズル42から互いに連続して噴射させて、「脱気水の加圧水E2」同士を衝突させた(
図4参照)。
衝突装置41に具備された加圧水噴射ノズル42の先端の内径は、0.20mmであり、左右の加圧水噴射ノズル42の先端の間隔は、1mmであった。すなわち、1mmの距離を介して、加圧水噴射ノズル42の先端同士を対面させた。
【0107】
加圧装置31を用いて、脱気水E1に、2400気圧、すなわち243MPaをかけ、衝突装置41に具備された左右2個の加圧水噴射ノズル42の先端から「脱気水の加圧水E2」を噴射させて、それらを衝突させた。
加圧水噴射ノズル42から噴射させた際の噴射速度は、左右両方共に300m/sであったので、左右を合計すると、相対的な衝突速度は600m/sであった。
【0108】
衝突箇所での温度は100℃を超えている可能性があるが、衝突装置41のチャンバーの温度は、全体として25℃に保った。
この状態で(3)加圧工程と(4)衝突処理工程を1時間行った後、装置内のバルブを閉じて装置を停止し、工程(4)までの処理を完了して衝突処理水E3を採取した。
【0109】
採取した衝突処理水E3を、汎用の冷却装置51で20℃まで冷却した。
その後、工程(6)で、該衝突処理水E3を逆浸透膜61に通して、低粘度水E4を10L得た。
逆浸透膜61とその装置及び逆浸透膜61を通す条件は以下であった。
【0110】
逆浸透膜装置:東レ株式会社製、「Toray RO(エレメント)」
圧力:5気圧
温度:25℃
流速:東レのカタログ値
孔の平均直径:1.0nm
【0111】
実施例2
実施例1において、工程(1)と工程(5)を行わなかった以外は、実施例1と同様にして低粘度水E4を製造した。
すなわち、(1)原料である水をイオン交換器11に流す工程を行わず、水道水をそのまま工程(2)に使用した。
また、工程(5)の衝突処理工程で得られた衝突処理水E3を、冷却装置51を用いて冷却することをせず、工程(4)の後の衝突処理水E3は、室温に静置することで25℃とした。
実施例1と同様に、特に問題なく、低粘度水E4を10L得た。
【0112】
実施例3
実施例2において、
図4に示す加圧装置31と衝突装置41に代えて、
図3に示す加圧装置31と衝突装置41を使用して、加圧工程と(4)衝突処理工程を行った以外は、実施例2と同様にして低粘度水E4を製造した。
すなわち、加圧装置31は、衝突装置41の左右に1個ずつあり、一方の加圧装置31には、ピストンが1個あって、「脱気水の加圧水E2」を噴射できるようになっていた。該噴射は、途切れることはあったが、左右の加圧水噴射ノズル42から同時に行った。
【0113】
加圧水噴射ノズル42の先端の内径、左右の加圧水噴射ノズル42の先端の間隔、脱気水E1にかけた圧力、加圧水噴射ノズル42から噴射させた際の噴射速度、衝突速度、衝突箇所での温度、衝突装置41のチャンバーの温度等は、実施例1と同様であった。
【0114】
実施例2と同様に、特に問題なく、低粘度水E4を7L得た。
【0115】
実施例4
実施例2において、
図4に示す加圧装置31と衝突装置41に代えて、
図5に示す脱気槽21、加圧装置31、衝突装置41を使用して処理を行った。
すなわち、脱気槽21と衝突装置41(のチャンバー)は、脱気槽21に下部で繋がっており、水は循環できるようになっていた。
【0116】
脱気槽21の回転翼の回転数、原料である水の温度、脱気槽21中の圧力、加圧水噴射ノズル42の先端の内径、左右の加圧水噴射ノズル42の先端の間隔、脱気水E1にかけた圧力、加圧水噴射ノズル42から噴射させた際の噴射速度、衝突速度、衝突箇所での温度、衝突装置41のチャンバーの温度等は、実施例2と同様であった。
【0117】
実施例2と同様に、特に問題なく、低粘度水E4を10L得た。
【0118】
実施例5
実施例2において、
図4に示す加圧装置31と衝突装置41に代えて、
図2に示す脱気槽21、加圧装置31、衝突装置41を使用して処理を行った。
すなわち、加圧水噴射ノズル42を有する衝突装置41が、脱気槽21の側面に存在する衝突装置41等を使用して処理を行った。
実施例1~4は、工程(4)(a)向かい合わせに設置した2個の加圧水噴射ノズル42から噴射させて、「脱気水の加圧水E2」同士を衝突させたが、実施例5では、工程(4)(b)加圧水噴射ノズル42から「加圧されておらず静止している脱気水E1」に噴射させて衝突させた。
【0119】
脱気槽21の回転翼の回転数、原料である水の温度、脱気槽21中の圧力、加圧水噴射ノズル42の先端の内径、左右の加圧水噴射ノズル42の先端の間隔、脱気水E1にかけた圧力、加圧水噴射ノズル42から噴射させた際の噴射速度、衝突箇所での温度、衝突装置41のチャンバーの温度等は、実施例2と同様であった。ただし、衝突速度は、一方が静止しているので、噴射速度と等しく、実施例1~4の半分の300m/sであった。
【0120】
実施例2と同様に、特に問題なく、低粘度水E4を10L得た。
【0121】
比較例1
実施例1において、工程(2)の溶存空気除去工程を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、工程(3)及び工程(4)を行おうとしたが、工程(4)で問題が生じた。
すなわち、水中の溶存空気(特に溶存酸素)が膨張することによって、衝突箇所は高温になっていることもあって、衝突箇所において体積膨張が著しく起こり、衝突の圧力がかからなくなり衝突効率が低下した。更に、長時間衝突を行ったところ、加圧水噴射ノズル42や衝突装置41のチャンバーが故障してしまった。その結果、低粘度水E4が得られなかった。
【0122】
比較例2
実施例1において、工程(6)すなわち「衝突処理を行うことによって得た衝突処理水E3を、逆浸透膜61に通して低粘度水E4を得る逆浸透膜処理工程」を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、低粘度水E4を得ようとした。
【0123】
しかし、水の集合体が好適に解消・除去されていないためか、十分に低粘度化された「低粘度水E4」が製造できなかった。
また、水道水中の殺菌剤、微生物等は除去されておらず、用途によっては使用できないか、又は、本発明の前記した効果を奏しないものであった。特に、薬剤用としては全く使用できないものであった。
【0124】
更に、ナトリウムイオン(Na+)、カルシウムイオン(Ca2+)、カリウムイオン(K+)、アルミニウムイオン(Al3+)、塩素イオン(Cl-)、重金属イオン等は、工程(1)を行うことで、減少させることはできているものの、これらのイオンを含め、微量の溶存金属イオンは残存していた。
そのため、用途によっては、本発明の前記した効果を奏しないものであった。特に、薬剤用としては使用できないものであった。
【0125】
評価例1
実施例1~5、比較例1、2において、原料として用いた水である水道水の粘度は、20℃において、1.0016[mPa・s](粘度)(=1.0034[mm2/s](動粘度))であった。
これに対して、実施例1~5の低粘度水E4の20℃における粘度は、何れもそれぞれ、0.01%~0.5%だけ低かった。
ここで、粘度と動粘度は、JIS Z 8803等に準拠して求めた。
【0126】
しかし、比較例2の処理水(工程(6)のみを行わなかった水)、及び、工程(4)の衝突処理工程を行わなかった水に関しては、それらの水の粘度は、原料として用いた水の粘度と有意差が観察されなかった。すなわち、水の温度コントロール(水温の微小変化)による該水の粘度の振れの範囲(誤差範囲)に入っていた。
【0127】
評価例2
ホウケイ酸ガラスの板の表面を中性洗剤で洗浄し、蒸留水で洗浄した後、シリカゲルの入ったデシケーター中で乾燥した。JIS R3257:1999「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に従い、接触角を測定した。すなわち、そのガラス板上に、実施例1~5で得られた低粘度水、実施例1~5で原料として用いた水、比較例2で得られた水(工程(6)のみを行わなかった水)、工程(4)衝突処理工程を行わなかった水、の接触角を測定した。
【0128】
その結果、実施例1~5で得られた低粘度水の接触角は、上記したその他の水の接触角に比べて、1/6以下となった。実施例1~5の低粘度水E4は、表面張力も有意に減少した。なお、後述する実施例12でも表面張力を測定した。
【0129】
実施例6
実施例1、2において、
図4に示したような加圧装置31に、800気圧、すなわち81MPaをかけ、衝突装置41に具備された左右2個の加圧水噴射ノズル42の先端から「脱気水の加圧水E2」を噴射させて、それらを衝突させた。それ以外の操作は、それぞれ実施例1、2と同様にして、低粘度水E4を製造した。
加圧水噴射ノズル42から噴射させた際の噴射速度は、左右両方共に100m/sであったので、左右を合計すると、相対的な衝突速度は200m/sであった。
【0130】
評価例1と同様に評価すると、低粘度水E4の粘度は、原料として用いた水道水の20℃での粘度より、0.1%だけ低かった。この実施例6の低粘度水E4の粘度減少率は、実施例1や実施例2のそれより低かったが、実施例1、2の低粘度水E4と同様に、本発明の前記効果を奏し、好適に種々の用途に使用できた。
【0131】
実施例7
実施例2において、加圧装置31に90気圧、すなわち9.1MPaをかけ、衝突装置41に具備された左右2個の加圧水噴射ノズル42の先端から「脱気水の加圧水E2」を噴射させて、それらを衝突させた。
加圧水噴射ノズル42から噴射させた際の噴射速度は、左右両方共に20m/sであったので、左右を合計すると、相対的な衝突速度は40m/sであった。
【0132】
評価例1と同様に評価すると、低粘度水E4の粘度は、原料として用いた水道水の20℃での粘度より、0.02%低かった。この実施例7の低粘度水E4の粘度減少率は、実施例2のそれより低かったが、実施例2の低粘度水E4と同様に、本発明の前記効果を奏し、好適に種々の用途に使用できた。しかしながら、若干、本発明の前記効果を奏し難かった。
【0133】
比較例3
実施例2において、工程(5)の後に工程(6)を行わず、その代わりに、(2)脱気工程の前に逆浸透膜処理を行った。言い換えると、「(1)原料である水をイオン交換器に流す工程」に代えて、原料である水(南アルプス市の水道水)を逆浸透膜61に流した。すなわち、逆浸透膜61を通過させた水を、その後の工程(2)溶存空気除去工程、工程(3)加圧工程に使用し、次いで(4)衝突処理工程に進もうとした。
【0134】
しかし、加圧工程における
図4に示すピストンが故障してしまった。
実施例1~7では、微量溶存金属イオンの残存が、加圧工程でのピストンの「シリンダ32との滑り」を良くしている可能性が示唆された。一方、比較例3の逆浸透膜61を通過させた水では、微量溶存金属イオンが残存していないので、加圧工程のピストンの滑りが悪くなった可能性が高い。
【0135】
比較例4
実施例2において、工程(5)の後に工程(6)を行わず、その代わりに、(2)溶存空気除去工程の後であり、(3)加圧工程の前に、逆浸透膜処理を行った。すなわち、逆浸透膜61を通過させた水を、その後の(3)加圧工程に使用し、次いで(4)衝突処理工程に進もうとした。
【0136】
しかし、加圧工程における
図4に示すピストンが故障してしまった。
故障の原因、及び、逆浸透膜処理の有無に関する作用・原理としては、上記比較例3に記載したのと同様のことが示唆された。
【0137】
実施例8
実施例1~7で得られた低粘度水E4を点滴静脈注射の溶媒として使用したところ、「蒸留水」や、「水道水をイオン交換膜に通して次いで逆浸透膜61に通しただけの水」や、「水道水を逆浸透膜61に通しただけの水」を点滴静脈注射剤の溶媒として使用した場合と比較して、点滴有効成分の溶解性と溶解速度に優れていた。
【0138】
また、水のpHコントロールができているので製剤が容易となり、菌やウイルスの存在の恐れがなかった。最適の逆浸透膜に通しさえすれば、ある程度の菌等の除去はできるが、その前に(4)衝突処理工程を行うことによって、該工程(4)中に生じる高温と高圧で、更に抗菌と抗ウイルスが達成できた。
【0139】
実施例9
実施例1~7で得られた低粘度水E4を洗眼剤(目の洗浄剤)の溶媒として使用したところ、「蒸留水」や、「水道水をイオン交換膜に通して次いで逆浸透膜61に通しただけの水」や、「水道水を逆浸透膜61に通しただけの水」を洗眼剤(目の洗浄剤)の溶媒として使用した場合と比較して、有効成分の溶解性と溶解速度に優れていた。
溶媒である水のpHコントロールができているので製剤が容易となった。
また、上記した機序により、洗眼剤(目の洗浄剤)として、菌やウイルスの存在の恐れが全くなかった。
【0140】
実施例10
実施例1~7で得られた低粘度水E4を化粧水の溶媒として使用したところ、「蒸留水」や、「水道水をイオン交換膜に通して次いで逆浸透膜61に通しただけの水」や、「水道水を逆浸透膜61に通しただけの水」を化粧水の溶媒として使用した場合と比較して、皮膚に対する浸透性、皮膚の保水性等に優れた化粧水ができた。
また、有効成分の溶解性、pHコントロール、抗菌・抗ウイルス性が向上していた。
【0141】
実施例11
実施例1~7で得られた低粘度水E4と、「水道水をイオン交換膜に通して、次いで逆浸透膜61を通した水」との味を比較した(味の差を求めた)。
その結果、実施例1~7で得られた低粘度水E4の方が甘いと答えた人が多かった。このことより、本発明における低粘度水E4は飲食品の用途に有用であることが分かった。
【0142】
実施例12
ホウケイ酸ガラスの板の表面を中性洗剤で洗浄し、蒸留水で洗浄した後、シリカゲルの入ったデシケーター中で乾燥した。JIS R3257:1999「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に従い、接触角を測定した。
【0143】
その結果、「蒸留水」や、「水道水をイオン交換膜に通して次いで逆浸透膜61に通しただけの水」や、「水道水を逆浸透膜61に通しただけの水」は、接触角が60°~90°の範囲であったのに対し、実施例1~7で得られた低粘度水E4の接触角は、何れも2°~10°の範囲であった。
【0144】
「脱気水の加圧水E2」(同士)の衝突によって、水の物性が変化しており、そのことは、水の(集合体)の構成・形態に変化が起こっていることを示唆している。
【0145】
実施例13
「蒸留水」や、「水道水をイオン交換膜に通して次いで逆浸透膜61に通しただけの水」や、「水道水を逆浸透膜61に通しただけの水」のpHを15℃で測定したところ、pH=6.0~7.5の範囲に広がっていた。すなわち、pH=7近傍の「通常の水」は、ばらつきが大きかった。
一方、実施例1~7で得られた低粘度水E4のpHは、何れもpH=5.5~5.8の範囲に入っており、水の酸性化が見られた。しかも、pHの範囲にばらつきがなくなった。
【0146】
「脱気水の加圧水E2」(同士)の衝突によって、水の物性が変化しており、そのことは、水の(集合体)の構成・形態に変化が起こっていることを示唆している。
【0147】
参考例1
実施例1~7で得られた低粘度水E4を用いて、汎用の超高圧水ジェット切断機で、厚さ1cmの鉄板の切断を試みたが、通常の水(水道水)を用いたときより、何れも切断効率悪かった(切断に長時間かかった)、又は、実質的には切断できなかった。
この切断効率は、水を逆浸透膜61に通すことで(工程(6)を行うことで)悪化し、更に、脱気水の加圧水E2を衝突させることで(工程(4)を行うことで)極めて悪化した。
一方、原料として用いた通常の水(水道水)を使用した場合は、同じ汎用の超高圧水ジェット切断機で、同一のジェット圧力・速度・直径で、上記鉄板は正常に切断できた。
【0148】
該切断には、水の集合体の存在が重要であること、該集合体は、脱気水の加圧水E2の衝突や逆浸透膜61への通過によって、減少、解消、変質する(させられる)ことが示唆された。
また、本発明によって製造された低粘度水E4は、その用途を選ぶこと、上記した用途に特異的にその効果を発揮することも分かった。
本発明の低粘度水の製造方法を用いて得られた低粘度水は、通常の水と異なって、粘度が低下し、表面張力が小さくなり、pHが低下し、電導度や味が変化するので、かかる低粘度水は、化学(工学)、分散科学、環境工学、食品科学、医学、農学、化粧品科学等の分野に広く利用されるものである。
更に、本発明の低粘度水の製造方法を用いて得られた低粘度水は、微量溶存金属イオンを含有していないので、上記分野に好適に広く利用されるものである。