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特開2022-187058ダイカストマシン及びダイカスト鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022187058
(43)【公開日】2022-12-19
(54)【発明の名称】ダイカストマシン及びダイカスト鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 17/32 20060101AFI20221212BHJP
【FI】
B22D17/32 B
B22D17/32 A
B22D17/32 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021094861
(22)【出願日】2021-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】釼 祐一郎
(57)【要約】
【課題】高速射出工程から増圧工程への切り替え応答性が高く、溶湯流動の安定化による鋳造品質の高品質化を達成できる、ダイカストマシン及びダイカスト鋳造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】プランジャを駆動する射出シリンダに油圧を供給する油圧駆動部を備え、油圧駆動部は、アキュムレータと、流路調整部と、速度調整用ガスボトルと、圧力調整用ガスボトルと、を備え、流路調整部は、プランジャの動作位置に基づいて、アキュムレータへ供給する加圧ガスの流路を調整して、速度調整用ガスボトルを用いた高速射出工程から圧力調整用ガスボトルを用いた増圧工程に切替える、ことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯が供給される射出スリーブ内を進退自在に動作するプランジャによって、金型キャビティ内へ溶湯を射出充填するダイカストマシンにおいて、
前記プランジャを駆動する射出シリンダに油圧を供給する油圧駆動部を備え、
前記油圧駆動部は、アキュムレータと、流路調整部と、速度調整用ガスボトルと、圧力調整用ガスボトルと、を備え、
前記流路調整部は、前記プランジャの動作位置に基づいて、前記アキュムレータへ供給する加圧ガスの流路を調整して、前記速度調整用ガスボトルから前記圧力調整用ガスボトルに切替える、ことを特徴とするダイカストマシン。
【請求項2】
前記アキュムレータは、油圧の作動油を貯蔵する作動油室と、加圧ガスを貯蔵するガス室と、前記作動油室と前記ガス室を気密に仕切り摺動可能な気密部材と、を備え、
前記速度調整用ガスボトルと前記ガス室は前記流路調整部を介して接続され、前記射出シリンダと前記作動油室は作動油の流れを調整する作動油調整部を介して接続される、請求項1記載のダイカストマシン。
【請求項3】
請求項1記載のダイカストマシンを使用するダイカスト鋳造法において、
前記射出スリーブ内の溶湯を低速で押圧する低速射出工程と、前記射出スリーブ内の溶湯を高速で押圧して前記金型キャビティ内に射出充填する高速射出工程と、前記射出スリーブ内の溶湯を高圧で押圧して前記金型キャビティ内に射出充填された溶湯を押圧する増圧工程と、を備え、
前記流路調整部は、前記プランジャの動作位置に基づいて、前記速度調整用ガスボトルと前記圧力調整用ガスボトルの流路を調整して、前記高速射出工程から前記増圧工程の切替えを行う、ことを特徴とするダイカスト鋳造方法。
【請求項4】
前記低速射出工程と前記高速射出工程は、前記速度調整用ガスボトルから前記アキュムレータに加圧ガスを供給して、前記アキュムレータから前記射出シリンダに供給する作動油の流れを調整する、請求項3記載のダイカスト鋳造方法。
【請求項5】
前記増圧工程は、前記圧力調整用ガスボトルから前記アキュムレータに加圧ガスを供給して、前記アキュムレータから前記射出シリンダに供給する作動油の流れを調整する、請求項3記載のダイカスト鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯が供給される射出スリーブ内を進退自在に動作するプランジャによって、金型キャビティ内へ溶湯を射出充填する、ダイカストマシン及びダイカスト鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金等の溶湯を用いたダイカストによるダイカスト鋳造方法は、以下の手順で行われる。先ず、射出スリーブ内に溶湯を供給する。次いで、射出スリーブ内に進退自在に配置されたプランジャの前進動作により、射出スリーブ内の溶湯を金型キャビティ内に射出充填する(射出充填工程)。その後、充填された溶湯の密度を高める増圧工程と、溶湯の冷却固化収縮を補う保圧力を作用させる保圧工程と、溶湯の冷却固化の冷却工程を経て、金型キャビティ内から鋳造品を取り出す。この一連の成形工程を計画された鋳造品の個数を得るまで繰り返す。
【0003】
ここで、射出充填工程は、射出スリーブ内の溶湯を低速で押圧し、射出スリーブ内の空気やガスの排出と、射出スリーブ内の溶湯の充填率を高める低速射出工程と、射出スリーブ内の溶湯を高速で押圧して、金型キャビティ内へ溶湯を高速で射出充填する高速射出工程とに分けられる。また、増圧工程は、射出スリーブ内の溶湯を高圧で押圧して、金型キャビティ内の溶湯の圧力を高めて、金型キャビティ内を溶湯で完全に満たして、溶湯の充填密度を高める役割を担う。この高速射出工程から増圧工程への切り替えに際して、応答性が悪い場合は、溶湯の流動が一時停止する、または溶湯の流動の流速が大きく変化する、あるいは溶湯流動への加圧作用が遅れる等によって、湯ジワ、湯廻り不良、鋳バリ、鋳巣等の溶湯流動に起因する鋳造不良が生じる。
【0004】
そこで、高速射出工程から増圧工程への切り替え応答性の高い射出装置が提案されている。ここで、金型キャビティのゲート部を通過する溶湯の流速に換算して、例えば低速射出工程では1m/秒前後の遅い射出速度とし、例えば高速射出工程では10m/秒を超える速い射出速度とすることができる射出装置が使われる。そのため、低速から高速まで対応可能で、かつ前記の切替え応答性の高い射出装置が望まれる。
【0005】
例えば、特許文献1に示すような、射出スリーブ内のプランジャに連結されている駆動部(射出シリンダ)と、射出シリンダに作動液(作動油)を供給可能な速度アキュムレータと、プランジャに伝達される駆動力を生じる増圧アキュムレータを備えた射出装置が提案されている。高速射出工程における速度アキュムレータの必要圧力を算出することで、高速射出工程から増圧工程への切り替え応答性を高め、サージ圧を低減して鋳バリ等の鋳造不良が改善できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-136618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1に示す手段の速度アキュムレータと増圧アキュムレータは、それぞれ異なる経路で作動油を射出シリンダに供給するように配置されている。そのため、速度アキュムレータから増圧アキュムレータへの作動油の供給の切り替えに際しては、少なくとも2つの経路の切り替え操作を要する。つまり、この2つの経路の切り替えによって、駆動部への作動油の供給は、必ず一瞬停止する、あるいは、圧力差によって作動油が瞬間的に逆流する等の現象により、駆動部の動作が波打って、射出充填中の溶湯の流動が大きく乱れ、湯ジワ、湯廻り不良、鋳バリ、鋳巣等の溶湯流動の乱れに起因する鋳造不良を改善することは困難である。また、油圧で使用する作動油は圧力変動の極めて小さい非圧縮性流体に近いと言われており、作動油の供給の一時的な停止や乱れは、そのまま駆動部の動作や溶湯流動の乱れとなる。特に、高速射出工程においては、その乱れは顕著に表れる。従って、高速射出工程から増圧工程への切り替えに際しては、作動油の供給を切り替える手段は好ましくないと考えられる。
【0008】
そこで本発明は、高速射出工程から増圧工程への切り替え応答性が高く、溶湯流動の安定化による鋳造品質の高品質化を達成できる、ダイカストマシン及びダイカスト鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のダイカストマシンは、溶湯が供給される射出スリーブ内を進退自在に動作するプランジャによって、金型キャビティ内へ溶湯を射出充填するダイカストマシンにおいて、前記プランジャを駆動する射出シリンダに油圧を供給する油圧駆動部を備え、前記油圧駆動部は、アキュムレータと、流路調整部と、速度調整用ガスボトルと、圧力調整用ガスボトルと、を備え、前記流路調整部は、前記プランジャの動作位置に基づいて、前記アキュムレータへ供給する加圧ガスの流路を調整して、前記速度調整用ガスボトルから前記圧力調整用ガスボトルに切替える、ことを特徴とする。
【0010】
本発明のダイカストマシンにおいて、前記アキュムレータは、油圧の作動油を貯蔵する作動油室と、加圧ガスを貯蔵するガス室と、前記作動油室と前記ガス室を気密に仕切り摺動可能な気密部材と、を備え、前記速度調整用ガスボトルと前記ガス室は前記流路調整部を介して接続され、前記射出シリンダと前記作動油室は作動油の流れを調整する作動油調整部を介して接続される、ことが好ましい。
【0011】
本発明のダイカスト鋳造方法は、前記射出スリーブ内の溶湯を低速で押圧する低速射出工程と、前記射出スリーブ内の溶湯を高速で押圧して前記金型キャビティ内に射出充填する高速射出工程と、前記射出スリーブ内の溶湯を高圧で押圧して前記金型キャビティ内に射出充填された溶湯を押圧する増圧工程と、を備え、前記流路調整部は、前記プランジャの動作位置に基づいて、前記速度調整用ガスボトルと前記圧力調整用ガスボトルの流路を調整して、前記高速射出工程から前記増圧工程の切替えを行う、ことを特徴とする。
【0012】
本発明のダイカスト鋳造方法において、前記低速射出工程と前記高速射出工程は、前記速度調整用ガスボトルから前記アキュムレータに加圧ガスを供給して、前記アキュムレータから前記射出シリンダに供給する作動油の流れを調整する、ことが好ましい。
【0013】
また、本発明のダイカスト鋳造方法において、前記増圧工程は、前記圧力調整用ガスボトルから前記アキュムレータに加圧ガスを供給して、前記アキュムレータから前記射出シリンダに供給する作動油の流れを調整する、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高速射出工程から増圧工程への切り替え応答性の高く、溶湯流動の安定化による鋳造品質の高品質化を達成できる、ダイカストマシン及びダイカスト鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係るダイカストマシンの概念図である。
図2図1に示すダイカストマシンを用いたダイカスト鋳造方法のフロー図である。
図3】従来のダイカストマシンの概念図である。
図4】従来のダイカストマシンを用いたダイカスト鋳造方法のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組合せの全てが、各請求項に係る発明の解決手段に必須であるとは限らない。また、本実施形態においては、各構成要素の尺度や寸法が誇張されて示されている場合や、一部の構成要素が省略されている場合がある。
【0017】
[ダイカストマシン]
本実施形態に係るダイカストマシンについて、図1を用いて説明する。図1はダイカストマシンの概念図を示す。なお、以下の説明では、本実施形態に係るダイカストマシンとして、横型のダイカストマシンをベースとしたが、これに限定されるものではない。
図1に示すダイカストマシン100は、鋳造金型10と、射出部20と、射出シリンダ30と、油圧駆動部40と、油圧駆動部40の動作を制御して金型キャビティ13内への溶湯の射出充填を行う射出制御部50と、を備える。
【0018】
鋳造金型10は、固定金型11と可動金型12が図示しない型締装置に取り付けられ、固定金型11と可動金型12とが型締されることで形成される金型キャビティ13を備える。金型キャビティ13は、ゲート14を介して射出装置20と連結し、射出装置20から金型キャビティ13内へ溶湯を射出充填することで鋳造品を成形する。
【0019】
射出部20は、円筒状の射出スリーブ21と、射出スリーブ21内を進退可能に配置されるプランジャ22と、プランジャ22と射出シリンダ30を連結するロッド23と、を備える。図示しない溶湯供給装置等を用いて、注湯口24から射出スリーブ21内に溶湯が供給される。また、射出スリーブ21及びプランジャ22には、必要に応じて、冷却水等の冷却媒体が流れる流路を含む図示しない冷却機構が設けられている。また、プランジャ22の摩耗損傷の防止や摺動状態の安定化及び溶湯残渣物の付着抑制等のため、射出スリーブ21とプランジャ22との摺動面に潤滑剤を塗布することが好ましい。また、射出スリーブ21に図示しない真空吸引経路等を設けて、射出スリーブ21及び金型キャビティ13内の真空吸引と溶湯の射出充填を組み合わせる形態としても良い。
【0020】
ここで、プランジャ22の動作に関し、金型キャビティ13に近い方向を前方F、前方F方向への動作を前進動作、金型キャビティ13から遠い方向を後方B、後方B方向への動作を後退動作と定義する。プランジャ22の前進動作により、注湯口24から供給された射出スリーブ21内の溶湯は、ゲート14を経由して金型キャビティ13内に射出充填される。プランジャ22が後退動作し、注湯口24より後方B側にプランジャ22が待機している間に、射出スリー部21内に溶湯が供給される。また、図示しない位置センサ等によりプランジャ22の動作位置が計測され、計測結果は射出制御部50に送信されて、溶湯の射出充填の制御に利用される。なお、ロッド23の動作位置を計測することでプランジャ22の動作位置としても良い。
【0021】
射出シリンダ30は、円筒状のシリンダ容器31内で進退自在に摺動する、一体化されたシリンダロッド32とシリンダヘッド34と、を備える。シリンダロッド32の先端部は、連結部33によりロッド23と脱着可能に連結され、射出シリンダ30によりプランジャ22の前後進動作を行う。射出シリンダ30は油圧駆動式であり、シリンダ容器31のシリンダヘッド34側の空間部(ヘッド側油圧室34aという)と、シリンダロッド32側の空間部(ロッド側油圧室32aという)の作動油の流れを制御することで、プランジャ22の前進動作時の前進速度(射出速度という)と前進圧力(射出圧力という)、後退動作時の後退速度を制御することができる。詳しくは、後述するダイカスト鋳造方法で説明する。また、シリンダロッド32、またはシリンダヘッド34、あるいは連結部33の動作位置を、図示しない位置センサ等で計測して、プランジャ22の動作位置としても良い。
【0022】
油圧駆動部40は、1つのアキュムレータ41に対して、速度調整用ガスボトル(441、442)と圧力調整用ガスボトル46が、流路調整部43を介して並列に配置されることを特徴とする。さらに、プランジャ22の動作位置に基づいて、流路調整部43を操作して、速度調整用ガスボトル(441、442)と圧力調整用ガスボトル46の流路を切り替えることを特徴とする。この切替え操作によって、射出充填における高速射出工程と増圧工程の油圧制御の切り替えとする。
【0023】
アキュムレータ41は、油圧の作動油を貯蔵する作動油室41aと、加圧ガスを貯蔵するガス室41bと、作動油室41aとガス室41bを気密に仕切り摺動可能な気密部材41cと、が密閉容器41d内に配置される。作動油室41aと射出シリンダ30のヘッド側油圧室34aは、油圧の作動油の流れを調整する作動油調整部42を介して接続される。また、ガス室41bと速度調整用ガスボトル(441、442)及び圧力調整ガスボトル46は、流路調整部43を介して接続される。速度調整用ガスボトル(441、442)と流路調整部43との間に、ガスの流れを調整する速度調整用ガス調整部(451、452)を備え、圧力調整用ガスボトル46と流路切換え弁43との間に、圧力調整用ガス調整部47を備える。なお、図1において、速度調整用ガスボトルは2つとし、圧力調整用ガスボトルは1つとしたが、これに限定されることなく、それぞれのガスボトルの個数は適宜設定されても良い。また、気密部材を備えたアキュムレータとしたが、これに限定されることなく、例えば、作動油室とガス室とを風船を用いて気密に仕切り摺動可能としたアキュムレータであっても良い。
【0024】
[ダイカスト鋳造方法]
次に、図1に示すダイカストマシンを使用したダイカスト鋳造方法について、図2を用いて説明する。図2は、ダイカスト鋳造方法の鋳造成形工程を示すフロー図であり、プランジャ22は所定の位置に待機し、射出スリーブ21内には溶湯が供給され、固定金型11と可動金型12は型締されて金型キャビティ13が形成されている状態から、鋳造成形が開始するとして説明する。
【0025】
先ず、射出制御部50は、アキュムレータ41を用いた加圧ガス制御を開始させる。流路調整部43を操作して、加圧ガスの流路を中立位置からV位置に切替え、速度調整用ガスボトル(441、442)からガス室41bに加圧ガスが供給される。この時、速度調整用ガス調整部(451、452)で、加圧ガスの流れを調整する。ガス室41bへの加圧ガスの供給により、気密部材41cは押圧され移動する。気密部材41cの移動に伴い、作動油室41aから射出シリンダ30のヘッド側油圧室34aへ作動油が供給され、シリンダヘッド34が押圧され、シリンダロッド32とロッド23を介してプランジャ22は前方F方向へ前進動作を開始し、射出スリーブ21内の溶湯を押圧し、射出充填工程が開始される。ここで、射出充填工程は、射出スリーブ21内の溶湯を低速で押圧し、射出スリーブ21内の空気やガスの排出と、射出スリーブ21内の溶湯の充填率を高める低速射出工程と、射出スリーブ21内の溶湯を高速で押圧して、金型キャビティ13内に溶湯を高速で射出充填する高速射出工程とに分けられる。
【0026】
低速射出工程は、排出調整部35を操作して、射出シリンダ30のロッド側油圧室32aの作動油の排出量を調整することで射出速度が制御される(メータアウト制御)。なお、これとは別に、作動油調整部42を調整して、作動油室41aからヘッド側油圧室34aに供給される作動油の供給量を調整することで射出速度が制御される手段(メータイン制御)であっても良い。あるいは、メータアウト制御とメータイン制御を同時に行っても良い。なお、低速射出工程は、金型キャビティ13のゲート14を通過する溶湯の流速に換算して、例えば1m/秒前後の遅い射出速度が設定される。そのため、速度調整用ガス調整部(451、452)を操作して、2つの速度調整用ガスボトル(441、442)のうち、1つだけを用いて加圧ガスの供給を行うとしても良い。
【0027】
プランジャ22の動作位置Kが、予め設定した速度切替え位置K1に達したことを射出制御部50で検知すると(K=K1)、低速射出工程から高速射出工程に切り替わる。高速射出工程においても、低速射出工程と同様に、メータアウト制御で射出速度の制御を行う。当然であるが、メータイン制御、メータアウト制御とメータイン制御の同時使用、であっても良い。なお、高速射出工程は、例えば10m/秒を超える速い射出速度が設定されるので、速度調整用ガス調整部(451、452)を操作して、2つの速度調整用ガスボトル(441、442)を用いるのが好ましい。また、排出調整部35からの作動油の排出が間に合わない場合は、油圧回路調整部36からの作動油の排出制御(メータアウト制御)を組み合わせても良い。
【0028】
プランジャ22の動作位置Kが、予め設定した増圧切替え位置K2に達したことを射出制御部50で検知すると(K=K2)、高速射出工程から増圧工程に切り替わる。流路調整部43を操作して、加圧ガスの流路をV位置からP位置に切り替え、ガス室41bへの加圧ガスの供給が、速度調整用ガスボトル(441、442)から圧力調整用ガスボトル46に切り替わる。加圧ガスの供給中は、圧力調整用ガス調整部47は開放される。
【0029】
ここで、加圧ガスは、空気や窒素ガス等の気体を加圧したものであって、圧力によって体積は大きく変化する圧縮流体である。加圧ガスの圧縮率は、油圧の作動油に対して1万倍も大きい。そのため、流路調整部43を操作する際に、加圧ガスの供給が瞬間的に停止しても、ガス室41b内の加圧ガスの変動は極めて小さく、気密部材41cの押圧の変動は生じない。その結果、作動油室41aからヘッド側油圧室34aへ供給される作動油も変動することなく、射出シリンダ30は安定した前進動作を維持でき、高速射出工程から増圧工程への切り替えがスムーズに行われる。
【0030】
これに対して、比較として、従来のダイカストマシンとダイカスト鋳造方法について、図3図4を用いて説明する。図3は従来のダイカストマシン100Dの概念図を示し、図4は従来のダイカストマシン100Dを用いた鋳造成形のフロー図を示す。なお、図1及び図2と重複する箇所や、本発明の作用に関係ない箇所ついては説明を割愛し、異なる箇所について詳細に説明する。
【0031】
先ず、図3に示す従来のダイカストマシン100Dにおいて、図1と異なる箇所は、油圧駆動部60と射出制御部70である。油圧駆動部60は、速度調整用アキュムレータ61と圧力調整用アキュムレータ65の2つのアキュムレータを配置する。また、速度調整用アキュムレータ61と速度調整用ガスボトル(631、632)は、速度調整用ガス開閉弁(641、642)を介して接続され、圧力調整用アキュムレータ65と圧力調整用ガスボトル67は、圧力調整用ガス開閉弁68を介して接続される。さらに、速度調整用アキュムレータ61と射出シリンダ30のヘッド側油圧室34aは、速度調整用作動油開閉弁62を介して接続され、圧力調整用アキュムレータ65とヘッド側油圧室34aは、圧力調整用作動油開閉弁66を介して接続される。つまり、速度調整用アキュムレータ61と圧力調整用アキュムレータ65は、異なる経路で射出シリンダ30と接続しており、異なる経路で射出シリンダ30の動作を制御するようになっている。
【0032】
次に、図4を用いて従来のダイカストマシン100Dを用いたダイカスト鋳造成形を説明する。射出スリーブ21内には溶湯が供給され、金型キャビティ13が形成されている状態から鋳造成形が開始され、射出制御部70による加圧ガス制御が開始する。
【0033】
先ず、圧力調整用ガス開閉弁68と圧力調整用作動油開閉弁66を閉鎖して、圧力調整用アキュムレータ65と射出シリンダ30の接続を閉鎖する。その後、速度調整用ガス開閉弁(641、642)と速度調整用作動油開閉弁62を開放して、速度調整用アキュムレータ61と射出シリンダ30の接続を開放する。この2つの操作によって、速度調整用ガスボトル(631、632)から速度調整用アキュムレータ61のガス室61bに加圧ガスが供給され、ピストン61cを押圧して、作動油室61aから射出シリンダ30のヘッド側油圧室34aに作動油が供給されて、射出充填工程が開始する。図2と同様に、射出充填工程は、低速射出工程と高速射出工程が組み合わされる。低速射出工程と高速射出工程は、図2と同様に、メータアウト制御やメータイン制御、2つの速度調整用ガスボトル(631、632)の使い分け等を適宜組み合わせて射出速度制御される。また、低速射出工程と高速射出工程の切り替えも、プランジャ22の動作位置に基づいて制御することも、図2と同様である。
【0034】
プランジャ22の動作位置Kが、予め設定した増圧切替え位置K2に達したことを射出制御部70で検知すると(K=K2)、高速射出工程から増圧工程に切り替わる。先ず、速度調整用ガス開閉弁(641、642)と速度調整用作動油開閉弁62を閉鎖して、速度調整用アキュムレータ61と射出シリンダ30の接続を閉鎖する。その後、圧力調整用ガス開閉弁68と圧力調整用作動油開閉弁66を開放して、圧力調整用アキュムレータ65と射出シリンダ30の接続を開放する。この2つの操作によって、ヘッド側油圧室34aへの作動油の供給が一時停止する。ここで、油圧の作動油は、加圧ガスに用いる空気や窒素ガス等の気体と比べて、圧縮率が極めて小さい非圧縮流体に近いものと考えられる。そのため、作動油の供給の一時停止により、射出シリンダ30の動作は大きく乱れ、プランジャ22の前進動作が不安定となり、溶湯流動が大きく乱れることがある。それによって、溶湯流動の乱れに起因する湯ジワ、湯廻り不良、鋳バリ、鋳巣等の鋳造不良が発生する危険性がより高まる。
【0035】
また、作動油の供給が一時停止した後に、圧力調整用アキュムレータ65と射出シリンダ30の接続が急に開放されることによっても、射出シリンダ30の動作を大きく乱すことにもなる。圧力調整用ガスボトル67から圧力調整用アキュムレータ65のガス室65bに加圧ガスが供給され、ピストン65cを押圧して、作動油の供給が一時停止して作動油の圧力が低下したヘッド側油圧室34aに、作動油室65aから作動油が急激に供給される。その結果、プランジャ22は飛び出るように急加速し、射出スルー部21内の溶湯は急激に圧力が上昇し、鋳バリ等の重大な鋳造不良の原因となる。このように、従来技術においては、高速射出工程から増圧工程への切り替えに際して、油圧の変動が大きく、プランジャ22の動作は大きく乱れてしまう。
【0036】
図2の説明に戻る。増圧工程は、射出スリーブ21内の溶湯を高圧で押圧して、金型キャビティ13内の溶湯の圧力を高めて、金型キャビティ13内を溶湯で完全に満たして、溶湯の充填密度を高める役割を担う。溶湯の種類や溶融温度、金型キャビティ13の容積やゲート14を含む溶湯の流動長等によって、溶湯圧力に換算して例えば100MPa前後の圧力で調整される。圧力調整用ガスボトル46から流路調整部43を経由して、アキュムレータ41のガス室41bに加圧ガスが供給され、気密部材41cを押圧して、作動油室41aから射出シリンダ30のヘッド側油圧室34aに作動油が供給される。これによって、シリンダヘッド34、シリンダロッド32、ロッド23を経由して、プランジャ22に前進圧力が作用し、射出スリーブ21内の溶湯を高圧で押圧することができる。プランジャ22の前進圧力の制御は、低速射出工程あるいは高速射出工程と同様に、排出調整部35を操作してメータアウト制御とする。なお、油圧回路調整部36を操作するメータアウト制御であっても良く、この2つを組み合わせて行っても良い。また、作動油調整部42や圧力調整用ガス調整部47を操作するメータイン制御であっても良く、メータアウト制御とメータイン制御を組み合わせても良い。さらに、圧力調整用ガスボトル46からガス室41bに供給される加圧ガスの圧力を多段で制御して、増圧工程の圧力を多段で制御する手段であっても良く、射出シリンダ30のロッド側油圧室32aから排出される作動油をヘッド側油圧室34aに供給する、ランアラウンド回路と言われる構成を用いても良い。
【0037】
次に、射出制御部50で予め設定された経過時間T=T1を確認すると保圧工程に進む。保圧工程は、射出充填された金型キャビティ13内の溶湯の冷却固化に伴う凝固収縮を補う役割を担い、射出スリーブ21内の溶湯を押圧して保圧力を作用させる。あるいは、鋳造金型10に設けた図示しない加圧機構等を用いて保圧力を作用させても良い。また、2つの手段を組み合わせて保圧力を作用させても良い。射出スリーブ21内の溶湯を押圧する場合は、増圧工程と同じ手順で、押圧力を適宜調整して行う。
【0038】
その後は、経過時間T=T2で冷却工程に移行し、経過時間T=T3で加圧ガス制御を終了し、鋳造成形を終える。なお、射出スリーブ21内の溶湯が冷却固化した時点で、加圧ガス制御を先に終了しても良い。
鋳造成形の終了後は、次ショットの準備工程に進む。先ずは、鋳造金型10を型開して、金型キャビティ13内から冷却固化した鋳造品を取り出す。プランジャ22を後方Bの所定位置に後退させて、鋳造金型10及び射出スリーブ21及びプランジャ22の清掃と離型剤塗布等の段取りを行う。その後、鋳造金型10を型締して金型キャビティ13を形成する。その後、射出スリーブ21内に溶湯を供給して、次ショットの鋳造成形が開始される。なお、プランジャ22の後退動作により、射出シリンダ30のシリンダヘッド34は正規の位置に戻っている。
【0039】
次ショットの準備工程と並行して、アキュムレータ41への作動油の補充と、圧力調整用ガスボトル46と速度調整用ガスボトル(441、442)へ加圧ガスの補充を行う。先ず、作動油の補充は、例えば、作動油調整部42を操作して、油圧供給源37から作動油を作動油室41aへ供給する。作動油の補充によって、気密部材41cは移動し正規の位置に戻る。気密部材41cの移動によって、圧縮されるガス室41b内の加圧ガスは、各ガスボトルへの加圧ガスの補充に回しても良いが、図示しないブースター装置等を用いて加圧ガスの補充を行うことが好ましい。例えば、圧力調整用ガス調整部47を操作して、ブースター装置から圧力調整用ガスボトル46に加圧ガスを補充する。同様に、速度調整用調整部(451、452)を操作して、ブースター装置から速度調整用ガスボトル(441、442)へ加圧ガスを補充する。この作動油の補充と加圧ガスの補充は、次ショットの準備工程の範囲内で終えることが望ましい。
【0040】
このように、図1に示すダイカストマシン100の構成により、高速射出工程から増圧工程の切り替えにおいて、圧縮流体である加圧ガスの特性を利用して、油圧の変動が少なく、射出シリンダ30の安定動作によるプランジャ22の滑らかな前進動作を維持できる。また、高速射出工程から増圧工程の切り替え操作は、流路調整部43の1つの操作で実現できるので、切替え応答性の高いダイカストマシンを提供することができる。
さらに、図1に示すダイカストマシンを使用してダイカスト鋳造を行うことにより、高速射出工程から増圧工程の切り替えにおいて、溶湯は安定流動を示すので、湯ジワや湯廻り不良や鋳バリ等の溶湯流動に起因する鋳造不良を確実に防止でき、高品質な鋳造品を得るダイカスト鋳造法を提供することができる。
【0041】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は、上述した実施形態に記載された範囲には限定されない。上記の実施形態には多様な変更または改良を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 鋳造金型
11 固定金型
12 可動金型
13 金型キャビティ
14 ゲート
20 射出部
21 射出スリーブ
22 プランジャ
23 ロッド
24 注湯口
30 射出シリンダ
31 シリンダ容器
32 シリンダロッド
32a ロッド側油圧室
33 連結部
34 シリンダヘッド
34a ヘッド側油圧室
35 排出調整部
36 油圧回路調整部
37 油圧供給源
40 油圧駆動部
41 アキュムレータ
41a 作動油室
41b ガス室
41c 気密部材
41d 密閉容器
42 作動油調整部
43 流路調整部
441、442 速度調整用ガスボトル
451、452 速度調整用ガス調整部
46 圧力調整用ガスボトル
47 圧力調整用ガス調整部
50 射出制御部
100 ダイカストマシン
図1
図2
図3
図4